(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182245
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】熱処理装置及び熱処理装置を制御するプログラム
(51)【国際特許分類】
C21D 1/34 20060101AFI20231219BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20231219BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20231219BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20231219BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20231219BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C21D1/34 K
C21D1/00 B
F27D19/00 Z
F27D21/00 G
C21D11/00 102
C21D1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095740
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
【テーマコード(参考)】
4K034
4K038
4K056
【Fターム(参考)】
4K034AA01
4K034CA04
4K034DA06
4K034DB02
4K034EA01
4K038BA02
4K038CA01
4K038CA02
4K038DA01
4K038EA01
4K038FA02
4K056AA09
4K056BB06
4K056CA01
4K056FA04
4K056FA12
(57)【要約】
【課題】ワークの質量に依存せず、炉に収容されているワークの表面温度を高精度で算出できる熱処理装置及び熱処理装置を制御するプログラムを提供する。
【解決手段】熱処理装置1は、炉壁11と炉壁11によって囲まれた空間16を加熱する複数のヒータ12とを有する炉10と、空間16における位置p1に設けられ位置p1の温度を測定する第一温度測定部13と、空間16における位置p1とは異なる位置p2に設けられ位置p2の温度を測定する第二温度測定部14と、第一温度測定部13に対する空間16内の構成要素の立体角、第二温度測定部14に対する当該構成要素の立体角、並びに第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果に従ってワークの表面温度Twを算出するワーク表面温度算出部23と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁と前記炉壁によって囲まれた空間を加熱する複数のヒータとを有する炉を備え、前記空間に収容されたワークに対して熱処理を行う熱処理装置であって、
前記空間における第一位置に設けられ、前記第一位置の温度を測定する第一温度測定部と、
前記空間における前記第一位置とは異なる第二位置に設けられ、前記第二位置の温度を測定する第二温度測定部と、
前記第一温度測定部に対する前記空間内の構成要素の立体角、及び前記第二温度測定部に対する前記構成要素の立体角、並びに前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の各温度測定結果に従って前記ワークの表面温度を算出するワーク表面温度算出部と、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記構成要素は、複数の前記ヒータ、前記ワーク及び前記炉壁を含み、
前記炉壁、前記ワーク、複数の前記ヒータ、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の位置並びに形状に関する炉内情報が記憶されている記憶部と、
前記炉内情報に従って、前記第一温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ算出する第一立体角算出部と、
前記炉内情報に従って、前記第二温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ算出する第二立体角算出部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記記憶部には、前記ワークの高さを示すパラメータである複数の高さパラメータが記憶されており、
前記ワーク表面温度算出部は、
前記第一立体角算出部及び前記第二立体角算出部の算出結果に従って、前記ワークの表面温度と、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の温度測定結果の差である温度差との対応関係である第一対応関係を前記高さパラメータ毎に算出し、
前記ワークの高さ、前記温度差及び前記第一対応関係に従って、前記ワークの表面温度を算出することを特徴とする請求項2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記記憶部には、前記ワークの温度を示すパラメータである複数のワーク表面温度パラメータ、及び前記ワークの高さを示すパラメータである複数の高さパラメータが記憶されており、
前記第一立体角算出部は、前記炉内情報に従って、前記第一温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ前記高さパラメータ毎に算出し、
前記第二立体角算出部は、前記炉内情報に従って、前記第二温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ前記高さパラメータ毎に算出し、
前記ワーク表面温度算出部は、
前記第一立体角算出部及び前記第二立体角算出部による前記高さパラメータ毎の算出結果に従って、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の各温度測定結果と、前記高さパラメータとの対応関係を示す第二対応関係を前記ワーク表面温度パラメータ毎に算出し、
前記ワーク表面温度算出部は、さらに前記第二対応関係に従って前記ワークの表面温度を算出することを特徴とする請求項2に記載の熱処理装置。
【請求項5】
炉壁と前記炉壁によって囲まれた空間を加熱する複数のヒータとを有する炉を備え、前記空間に収容されたワークに対して熱処理を行う熱処理装置を制御するプログラムであって、
前記空間における第一位置に対する構成要素の立体角、前記空間における前記第一位置とは異なる第二位置に対する前記構成要素の立体角、並びに前記第一位置及び前記第二位置の各温度に従って、前記ワークの表面温度を算出するステップを前記熱処理装置に実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉に収容されたワークに対して熱処理を行う熱処理装置及び熱処理装置を制御するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炉の内部にワークを収容し、収容したワークに対して熱処理を行う熱処理装置が知られている。
【0003】
これに関し、特許文献1には、ワークが収容されている処理室(炉)と、処理室内の複数領域の温度を測定する温度測定手段と、当該領域にそれぞれ配置された複数のヒータと、温度測定手段による測定結果、及び各領域におけるワークの充填質量に応じて各ヒータを個別に制御する温度調整手段とを備える熱処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ワークの充填質量がワークの表面温度の測定に関係しないにも関わらずワークの充填質量に応じてヒータを制御する。このため、ワークの充填質量が同一であっても、ワークの充填体積に応じてワークの表面温度に関する算出結果が異なってしまうという問題があった。この問題は、ワークを加熱するという目的において、質量が投入エネルギーに比例するという考え方に固執するために発生する。熱電対によるワークの表面温度の測定は、例えば、ヒータや炉を構成する炉壁、ワークを配置するための炉床などからの輻射熱とワークの表面からの輻射熱を測定するという事実が重要である。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワークの質量に依存せず、炉に収容されているワークの表面温度を高精度で算出できる熱処理装置及び熱処理装置を制御するプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱処理装置は、炉壁と前記炉壁によって囲まれた空間を加熱する複数のヒータとを有する炉を備え、前記空間に収容されたワークに対して熱処理を行う熱処理装置であって、前記空間における第一位置に設けられ、前記第一位置の温度を測定する第一温度測定部と、前記空間における前記第一位置とは異なる第二位置に設けられ、前記第二位置の温度を測定する第二温度測定部と、前記第一温度測定部に対する前記空間内の構成要素の立体角、及び前記第二温度測定部に対する前記構成要素の立体角、並びに前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の各温度測定結果に従って前記ワークの表面温度を算出するワーク表面温度算出部と、を備える。
【0008】
また、前記構成要素は、複数の前記ヒータ、前記ワーク及び前記炉壁を含み、本発明の熱処理装置は、前記炉壁、前記ワーク、複数の前記ヒータ、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の位置並びに形状に関する炉内情報が記憶されている記憶部と、前記炉内情報に従って、前記第一温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ算出する第一立体角算出部と、前記炉内情報に従って、前記第二温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ算出する第二立体角算出部と、をさらに備える。
【0009】
また、前記記憶部には、前記ワークの高さを示すパラメータである複数の高さパラメータが記憶されており、前記ワーク表面温度算出部は、前記第一立体角算出部及び前記第二立体角算出部の算出結果に従って、前記ワークの表面温度と、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の温度測定結果の差である温度差との対応関係である第一対応関係を前記高さパラメータ毎に算出し、前記ワークの高さ、前記温度差及び前記第一対応関係に従って、前記ワークの表面温度を算出する。
【0010】
また、前記記憶部には、前記ワークの温度を示すパラメータである複数のワーク表面温度パラメータ、及び前記ワークの高さを示すパラメータである複数の高さパラメータが記憶されており、前記第一立体角算出部は、前記炉内情報に従って、前記第一温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ前記高さパラメータ毎に算出し、前記第二立体角算出部は、前記炉内情報に従って、前記第二温度測定部に対する前記構成要素の前記立体角をそれぞれ前記高さパラメータ毎に算出し、前記ワーク表面温度算出部は、前記第一立体角算出部及び前記第二立体角算出部による前記高さパラメータ毎の算出結果に従って、前記第一温度測定部及び前記第二温度測定部の各温度測定結果と、前記高さパラメータとの対応関係を示す第二対応関係を前記ワーク表面温度パラメータ毎に算出し、前記ワーク表面温度算出部は、さらに前記第二対応関係に従って前記ワークの表面温度を算出する。
【0011】
また、本発明の熱処理装置を制御するプログラムは、炉壁と前記炉壁によって囲まれた空間を加熱する複数のヒータとを有する炉を備え、前記空間に収容されたワークに対して熱処理を行う熱処理装置を制御するプログラムであって、前記空間における第一位置に対する構成要素の立体角、前記空間における前記第一位置とは異なる第二位置に対する前記構成要素の立体角、並びに前記第一位置及び前記第二位置の各温度に従って、前記ワークの表面温度を算出するステップを前記熱処理装置に実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱処理装置及び熱処理装置を制御するプログラムは、ワークの質量に依存せず、炉に収容されているワークの表面温度を高精度で算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第一実施形態に係る熱処理装置の構成を示す図である。
【
図4】
図1に示す第一温度測定部から全方向に対してビームが発射されたと仮定した場合における炉の斜視図である。
【
図6】
図3に示す第一立体角算出部及び第二立体角算出部による算出結果の一例を示す図表である。
【
図7】
図3に示す第二テーブルの一例を示す図表である。
【
図8】
図3に示す第一テーブルの一例を示す図表である。
【
図9】ワーク表面温度と第一温度測定部及び第二温度測定部の測定結果との対応関係の一例を示すグラフである。
【
図10】
図1に示す熱処理装置における一連の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素及びステップに対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
<構成>
図1は、本発明の第一実施形態に係る熱処理装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、熱処理装置1は、炉10と、演算装置20と、制御装置30と、入出力装置40とを含んで主要部が構成される。また、
図2Aは
図1に示す炉10の斜視図である。なお、熱処理装置1は、例えばワーク50に対して浸炭処理を行う際に、浸炭処理における工程の1つである焼き入れ工程や焼き戻し工程などで用いられる。
【0016】
炉10は、ワーク50の収容及び取り出しが可能であり、収容されたワーク50を加熱する加熱炉である。炉10は、炉壁11と、複数のヒータ12と、第一温度測定部13と、第二温度測定部14と、炉床15とを含んで構成される。炉10は、制御装置30により炉壁11内の空間16の温度が制御される。また、炉10は、第一温度測定部13及び第二温度測定部14によって空間16の温度を測定し、当該温度測定結果を演算装置20に伝達する。
【0017】
炉壁11は、空間16を囲うように炉10に設けられている。炉壁11は、例えば、上面と、下面と、右側面と、左側面と、正面と、背面とを含んで構成される。なお、
図1中、炉壁11の上側、下側、右側、左側に位置する面を、それぞれ上面、下面、右側面、左側面と称し、紙面手前側、背面側の面をそれぞれ正面、背面と称す。炉壁11は、下面の外側に設けられている炉10を支持するための脚部と、正面に設けられているワーク50を炉10内に収容及び取り出しするための扉(図示せず)とを含んで構成される。また、炉壁11は、所定の値以下の熱伝導率を有しており、空間16と外部との間で熱が伝動しにくい素材で形成されている。
【0018】
ヒータ12は、ヒータ電源31の温度制御に従って空間16を加熱する。ヒータ12は、例えば、円柱状の形状であり、炉壁11の上面から炉壁11の下面に向かって垂直方向(Z軸方向)に延在するように、炉10内に複数設けられる。また、ヒータ12は、基部が炉壁11の上面に接続されており、ヒータ電源31の制御命令を受信できるように形成されている。なお、本例では、ヒータ12は、炉壁11の右側面に沿って6つ設けられているとともに、左側面に沿ってさらに6つ設けられている。
【0019】
第一温度測定部13及び第二温度測定部14は、例えば、一端に測定端子を有し、他端に出力端子を有する柱状の熱電対であり、空間16の温度を測定する。第一温度測定部13及び第二温度測定部14は、出力端子から温度測定結果を演算装置20に伝達する。また、第一温度測定部13は、測定端子が空間16における位置p1(第一位置)となり、かつ出力端子から測定端子までに至る方向が炉壁11の上面に対して略垂直となるように当該上面に設けられる。また、第二温度測定部14は、測定端子が空間16における位置p2(第二位置)となり、かつ出力端子から測定端子までに至る方向が炉壁11の上面に対して略垂直となるように当該上面に設けられる。
【0020】
位置p1及び位置p2は、少なくとも空間16における高さ(
図2A~
図2CにおけるZ軸方向の位置)が異なる。位置p1は、位置p2よりも高く位置している。なお、本例においては、位置p1及び位置p2は、空間16における水平位置(
図2A~
図2CにおけるX軸方向の位置)もまた異なる。
【0021】
炉床15は、ワーク50を載置するための治具である。炉床15は、例えば、炉壁11の下面の内側の上部の中央付近に離れて2つ設けられている。
【0022】
演算装置20は、炉10に収容されているワーク50の表面温度を算出するための装置である。演算装置20は、制御装置30の動作制御に従って、炉10から伝達される第一温度測定部13及び第二温度測定部14による空間16の温度に関する温度測定結果と、予め記憶している炉10の内部の構造物(炉壁11、複数のヒータ12、第一温度測定部13、第二温度測定部14及び炉床15)及びワーク50の位置及び形状に関する情報である炉内情報241(
図3参照)と、予め記憶している各種パラメータとに従って、ワーク50の表面温度を算出する。また、演算装置20は、制御装置30の動作制御によって、記憶している炉内情報241及び各種パラメータの情報を更新(追加、削除及び変更)し、記憶している炉内情報241及び各種パラメータの内容を制御装置30に伝達する。
【0023】
また、演算装置20は、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果と、算出したワーク50の表面温度と、当該算出の過程において導出された各データとを制御装置30に伝達する。
【0024】
制御装置30は、熱処理装置1全体を動作制御するための装置である。制御装置30は、入出力装置40から伝達される炉10に対する制御命令と、演算装置20から伝達される炉10に収容されているワーク50の温度の算出結果とに従って、ヒータ12毎の加熱の実行及び停止に関する制御命令をヒータ電源31に伝達する。また、制御装置30は、入出力装置40から伝達される演算装置20に対する算出命令に従って、炉10に収容されているワーク50の表面温度を算出するように演算装置20を制御する。さらに、制御装置30は、入出力装置40から伝達される演算装置20に対する設定命令に従って、演算装置20が記憶している炉内情報241及び各種パラメータの内容を更新するように演算装置20を動作制御する。
【0025】
また、制御装置30は、演算装置20から伝達された炉内情報241及び各種パラメータの情報と、演算装置20から伝達された炉10に収容されているワーク50の表面温度の算出結果と、当該算出の過程において導出された各データとを入出力装置40に伝達する。さらに、制御装置30は、炉10のヒータ12による加熱の実行状況について、入出力装置40に伝達する。
【0026】
ヒータ電源31は、ヒータ12の加熱の実行及び停止を行うための電源である。ヒータ電源31は、制御装置30による動作制御に従って、各ヒータ12における加熱の実行及び停止を制御する。
【0027】
入出力装置40は、熱処理装置1の操作者が熱処理装置1に対して操作を行うための入力を受け付けるとともに、熱処理装置1に関する情報を操作者に対して表示する。具体的には、入出力装置40は、操作者による演算装置20に対する各種命令(ワーク50の表面温度の算出や炉内情報241及び各種パラメータの更新など)を受け付けて、当該命令を制御装置30に伝達する。また、入出力装置40は、操作者による炉10に対する各種命令(ヒータ12による加熱の実行及び停止など)を受け付けて、当該命令を制御装置30に伝達する。
【0028】
以上、熱処理装置1の構成について説明した。次に、炉10と炉10に収容されるワーク50の位置及び形状について詳しく説明する。
図2Bは、
図1に示す炉10の正面図である。また、
図2Cは、
図1に示す炉10の側面図である。
【0029】
図2B及び
図2Cに示すように、炉壁11の内壁は、空間16における水平方向(X軸方向)に幅IWの幅を有し、空間16における垂直方向(Y軸方向)に長さILの長さを有し、空間16における高さ方向(Z軸方向)に高さIHの高さを有する。
【0030】
第一温度測定部13は、測定端子が炉壁11の下面の内側から高さTCH1の高さに位置するように炉10内に設けられている。高さTCH1は、即ち位置p1の高さである。また、第二温度測定部14は、測定端子が炉壁11の下面の内側から高さTCH2の高さに位置するように炉10内に設けられている。高さTCH2は、即ち位置p2の高さである。また、第一温度測定部13及び第二温度測定部14は、空間16における水平方向(X軸方向)において、幅TCWだけ離れて、炉10内に設けられている。
【0031】
炉床15は、上面が炉壁11の下面の内側から高さBHの高さに位置するように炉10内に設けられている。また、炉床15は、空間16における水平方向(X軸方向)に幅HRWの幅を有し、空間16における垂直方向(Y軸方向)に長さHRLの長さを有し、空間16における高さ方向(Z軸方向)に高さHRHの高さを有する。さらに、2つの炉床15は、それぞれ空間16における水平方向(X軸方向)に互いに間隔HRIだけ離れて炉10内に設けられている。
【0032】
ワーク50は、空間16における水平方向(X軸方向)に幅WWの幅を有し、空間16における垂直方向(Y軸方向)に長さWLの長さを有し、空間16における高さ方向(Z軸方向)に高さWHの高さを有する。
【0033】
ヒータ12は、直径HDの幅を有し、空間16における高さ方向(Z軸方向)に長さHLの長さを有する。また、ヒータ12は、炉壁11の空間16における垂直方向(Y軸方向)に長さWLの長さを有し、空間16における高さ方向(Z軸方向)に高さWHの高さを有する。
【0034】
ヒータ12は、右側面に沿って設けられているヒータ12の中心軸と、左側面に設けられているヒータ12の中心軸とが、互いに空間16における水平方向(X軸方向)に幅HWだけ離れるように炉10内に設けられている。
【0035】
右側面に沿って設けられている6本のヒータ12のうち最も正面側(Y軸方向と反対側)に設けられているヒータ12は、炉壁11の正面の内側から中心軸に至るまでの距離が距離H0だけ離れるように炉10内に設けられている。また、右側面に沿って設けられている6本のヒータ12のうち最も背面側(Y軸方向側)に設けられているヒータ12は、炉壁11の背面の内側から中心軸に至るまでの距離が距離H0だけ離れるように炉10内に設けられている。また、右側面に沿って設けられている6本のヒータ12は、それぞれ中心軸が互いに距離HPだけ離れるように炉10内に設けられている。
【0036】
左側面に沿って設けられている6本のヒータ12のうち最も正面側(Y軸方向と反対側)に設けられているヒータ12は、炉壁11の正面の内側から中心軸に至るまでの距離が距離H0だけ離れるように炉10内に設けられている。また、左側面に沿って設けられている6本のヒータ12のうち最も背面側(Y軸方向側)に設けられているヒータ12は、炉壁11の背面の内側から中心軸に至るまでの距離が距離H0だけ離れるように炉10内に設けられている。また、左側面に沿って設けられている6本のヒータ12は、それぞれ中心軸が互いに距離HPだけ離れるように炉10内に設けられている。
【0037】
以上、炉10と炉10に収容されるワーク50の位置及び形状について詳しく説明した。次に、演算装置20の構成について詳しく説明する。
図3は、
図1に示す演算装置20の構成を示す図である。
図3に示すように、演算装置20は、例えば、第一立体角算出部21と、第二立体角算出部22と、ワーク表面温度算出部23と、記憶部24とを含んで主要部が構成される。
【0038】
記憶部24には、ワーク50の温度を算出するために必要な情報が記憶されている。具体的には、記憶部24には、例えば、炉内情報241と、高さパラメータ242と、ワーク表面温度パラメータ243と、ヒータ温度パラメータ244とが記憶されている。
【0039】
炉内情報241は、上述した炉10と炉10に収容されるワーク50の位置及び形状に関する情報である。
図2B、
図2C及び
図3を参照して、炉内情報241について説明する。
【0040】
炉内情報241は、例えば、炉壁11に関する情報として、炉壁11の幅とIW、炉壁11の長さILと、炉壁11の高さIHとを含む。また、炉内情報241は、ワーク50に関する情報として、ワーク50の幅WWと、ワーク50の長さWLと、ワーク50の高さWHとを含む。また、炉内情報241は、炉床15に関する情報として、炉床15の高さBHと、炉床15の長さHRWと、炉床15の高さHRHと、炉床15の間隔HRIとを含む。
【0041】
また、炉内情報241は、ヒータ12に関する情報として、ヒータ12のX軸方向の間隔HWと、ヒータ12のY軸方向の間隔HPと、ヒータ12の長さHLと、ヒータ12の直径HDと、正面に最も近いヒータ12における正面からの距離H0とを含む。また、炉内情報241は、第一温度測定部13及び第二温度測定部14に関する情報として、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の間隔TCWと、第一温度測定部13の高さTCH1と、第二温度測定部14の高さTCH2を含む。
【0042】
高さパラメータ242は、ワーク表面温度Twを算出するにあたって必要となるワーク50の高さWHの値である。記憶部24には、少なくとも、炉10に収容され得る様々なワーク50の高さWHが高さパラメータ242として記憶されている。なお、記憶部24には、ワーク50の高さWHの最小値からワーク50の高さWHの最大値まで所定の間隔となるように複数の高さパラメータ242が記憶されていても良い。
【0043】
ワーク表面温度パラメータ243は、ワーク表面温度Twを算出するにあたって必要となるワーク50の表面温度であるワーク表面温度Twに関するパラメータである。記憶部24には、ワーク表面温度Twの最小値からワーク表面温度Twの最大値まで所定の間隔となるように複数のワーク表面温度パラメータ243が記憶されている。記憶部24に記憶されるワーク表面温度パラメータ243の数は、多い方がワーク表面温度Twの算出の精度が高くなる。なお、ワーク表面温度Twの最小値及び最大値は、炉10の性能によって決定される。
【0044】
ヒータ温度パラメータ244は、ワーク表面温度Twを算出するにあたって必要となるヒータ12の温度であるヒータ温度Thに関するパラメータである。記憶部24には、ヒータ温度Thの最小値からヒータ温度Thの最大値まで所定の間隔となるように複数のヒータ温度パラメータ244が記憶されている。記憶部24に記憶されるヒータ温度パラメータ244の数は、多い方がワーク表面温度Twの算出の精度が高くなる。なお、ヒータ温度Thの最小値及び最大値は、炉10の性能によって決定される。
【0045】
第一立体角算出部21は、記憶部24に記憶されている炉内情報241に従って、記憶部24に記憶されている高さパラメータ242毎に、第一温度測定部13に対する、炉壁11、ヒータ12、炉床15及びワーク50の立体角をそれぞれ算出する。第一立体角算出部21は、算出した各構成要素(炉壁11、複数のヒータ12、炉床15及びワーク50)に対する立体角を4πで除算することによって、寄与率に変換し、変換した第一温度測定部13を基点とした高さパラメータ242毎の寄与率をワーク表面温度算出部23の第二テーブル生成部231に出力する。なお、第一立体角算出部21は、第一温度測定部13を基点とした高さパラメータ242毎の寄与率を記憶部24に記憶しても良い。
【0046】
ここで、寄与率は、基点とする温度測定部(第一立体角算出部21の算出では第一温度測定部13)に周囲が熱輻射によって与える熱エネルギーの総量に対する、ある構成要素(炉壁11、複数のヒータ12、炉床15及びワーク50のうちいずれか)が当該温度測定部に与える熱エネルギーの割合である。なお、第一立体角算出部21は、第一温度測定部13に対するヒータ12の立体角を算出するにあたって、例えば、全て(本例では6本)のヒータ12を1グループとして、当該1グループに対する立体角を算出する。
【0047】
第二立体角算出部22は、記憶部24に記憶されている炉内情報241に従って、記憶部24に記憶されている高さパラメータ242毎に、第二温度測定部14に対する、ヒータ12、炉床15、ワーク50及び炉壁11の立体角をそれぞれ算出する。第二立体角算出部22は、算出した各構成要素(炉壁11、複数のヒータ12、炉床15及びワーク50)に対する立体角を4πで除算することによって寄与率に変換し、変換した第二温度測定部14を基点とした高さパラメータ242毎の寄与率をワーク表面温度算出部23の第二テーブル生成部231に出力する。なお、第二立体角算出部22は、第二温度測定部14に対するヒータ12の立体角を算出するにあたって、例えば、全て(本例では6本)のヒータ12を1グループとして、当該1グループに対する立体角を算出する。また、第二立体角算出部22は、第二温度測定部14を基点とした高さパラメータ242毎の寄与率を記憶部24に記憶しても良い。
【0048】
続いて、立体角の算出方法について説明する。
図4は、
図1に示す第一温度測定部13から全方向に対してビームが発射されたと仮定した場合における炉10の斜視図である。
【0049】
図4を参照して、まず、第一立体角算出部21は、第一温度測定部13の測定端子から全方向に対して均等にビームを発射した場合、発射した各ビームが最初に衝突する炉10内の構成要素が何であるかについてシミュレーションを行う。
【0050】
続いて、第一立体角算出部21は、構成要素(本例では、炉壁11、ヒータ12、炉床15及びワーク50)毎に衝突したビームの本数をカウントする。第一立体角算出部21は、発射したビームの本数に対する衝突したビームの本数の割合を構成要素毎に算出し、算出結果を対応する構成要素の第一温度測定部13を基点とした場合の立体角とする。さらに、第一立体角算出部21は、算出した構成要素毎の立体角を4πで除算することによって、各構成要素の寄与率を算出する。
【0051】
続いて、立体角及び寄与率の関係について説明する。
図5は、立体角の算出に関する説明図である。
図5に示すように、位置p1を中心とする半径Rの球面Sは、閉曲面S’の内側に位置している。微小曲面dS’は、閉曲面S’のうちの一部の曲面であり、略平とみなすことができる。立体角dΩは、位置p1を基点とした場合の微小曲面dS’に対する立体角である。ベクトルrは、長さrと、位置p1から微小曲面dS’の中心に向かう方向とを有するベクトルである。ベクトルnは、微小曲面dS’の法線ベクトルである。角度θは、ベクトルr及びnの間の角度である。微小曲面dSは、微小曲面dS’の外周上における最も位置p1に近い箇所を外周に含むように、微小曲面dS’をベクトルrに対して垂直な平面に対して斜影した場合の曲面である。
【0052】
ここで、微小曲面dSの面積は、dS=dS’cosθ[式1]と表される。式1に従って、立体角dΩは、dΩ=dS’cosθ/(R^2)[式2]と表される。式2を解くと、立体角dΩは、dΩ=(ベクトルr・ベクトルn)/(R^3)dS‘[式3]と表される。式3を解くと、閉曲面S’全体の立体角Ωは、Ω=4πと表される。したがって、閉曲面S’全体の立体角Ωは、曲面の形状によらず4πとなる。したがって、各構成要素における寄与率は、各構成要素における立体角を4πで除算することによって、算出できる。
【0053】
なお、第二立体角算出部22による立体角の算出方法については、基点となる位置が異なることを除いて第一立体角算出部21の算出方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0054】
続いて、第一立体角算出部21及び第二立体角算出部22の算出結果について説明する。
図6は、
図3に示す第一立体角算出部21及び第二立体角算出部22による算出結果の一例を示す図表である。
図6に示すように、例えば、ワーク50の高さWHが750mmである場合における第一温度測定部13を基点としたワーク50の寄与率は、40.92%である。また、例えば、ワーク50の高さWHが400mmである場合における、第二温度測定部14を基点とした炉壁11の寄与率は54.18%である。
【0055】
図3に戻って、ワーク表面温度算出部23は、記憶部24に記憶されている炉内情報241と、炉10における第一温度測定部13及び第二温度測定部14による空間16の各温度測定結果と、第一立体角算出部21及び第二立体角算出部22の各算出結果とに従って、ワーク50の表面温度であるワーク表面温度Twを算出する。ワーク表面温度算出部23は、例えば、第二テーブル生成部231と、第一テーブル生成部232と、算出部233とを含んで構成される。
【0056】
第二テーブル生成部231は、第一立体角算出部21が算出した第一温度測定部13を基点とした場合の各構成要素の寄与率と、第二立体角算出部22が算出した第二温度測定部14を基点とした場合の各構成要素の寄与率とに従って、記憶部24に記憶されているワーク表面温度パラメータ243毎に、第一温度測定部13の温度測定結果及び高さパラメータ242の対応関係と、第二温度測定部14の温度測定結果及び高さパラメータ242の対応関係と含む第二対応関係を示す第二テーブル2310を生成する。第二テーブル生成部231は、生成した第二テーブル2310を第一テーブル生成部232に出力する。なお、第二テーブル生成部231は、第一立体角算出部21が算出した第一温度測定部13を基点とした場合の各構成要素の寄与率と、第二立体角算出部22が算出した第二温度測定部14を基点とした場合の各構成要素の寄与率とを記憶部24から取得しても良い。また、第二テーブル生成部231は、生成した第二テーブル2310を記憶部24に記憶しても良い。
【0057】
図7を参照して、第二テーブル生成部231による第二テーブル2310の生成方法について説明する。
図7は、
図3に示す第二テーブル2310の一例を示す図表である。
【0058】
第二テーブル生成部231は、記憶部24が記憶しているワーク表面温度パラメータ243及びヒータ温度パラメータ244に従って、算出する条件のワーク表面温度Tw、ヒータ12の温度であるヒータ温度Th及び炉壁11の温度である炉壁温度Tfを選択する。第二テーブル生成部231は、さらに、記憶部24が記憶している高さパラメータ242に従って、算出する条件の高さパラメータ242を選択する。
【0059】
第二テーブル生成部231は、選択したワーク表面温度Twに対して、選択した高さパラメータ242に対応する第一温度測定部13及び第二温度測定部14に対するワーク50の寄与率をそれぞれ乗算する。また、第二テーブル生成部231は、選択したヒータ温度Thに対して、選択した高さパラメータ242に対応する第一温度測定部13及び第二温度測定部14に対するヒータ12の寄与率をそれぞれ乗算する。さらに、第二テーブル生成部231は、選択した炉壁温度Tfに対して、選択した高さパラメータ242に対応する第一温度測定部13及び第二温度測定部14に対する炉壁11の寄与率をそれぞれ乗算する。
【0060】
第二テーブル生成部231は、第一温度測定部13に対応する各乗算結果を合計し、合計結果をワーク表面温度Tw、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfが選択した値である場合における第一温度測定部13の温度測定結果とする。続いて、第二テーブル生成部231は、第二温度測定部14に対応する各乗算結果を合計し、合計結果をワーク表面温度Tw、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfが選択した値である場合における第二温度測定部14の温度測定結果とする。さらに、第二テーブル生成部231は、第一温度測定部13に関する合計結果と第二温度測定部14に関する合計結果の差を算出し、算出した差をワーク表面温度Tw、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfが選択した値である場合における第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の温度差ΔTとする。
【0061】
第二テーブル生成部231は、高さパラメータ242毎に同様の計算を行う。第二テーブル生成部231は、計算した結果をまとめてテーブルデータとする。さらに、第二テーブル生成部231は、ワーク表面温度パラメータ243及びヒータ温度パラメータ244に従って、ワーク表面温度Tw、炉壁温度Tf及びヒータ温度Thの他の所定の組み合わせに対して、同様の計算を行うことによってテーブルデータを生成する。第二テーブル生成部231は、各テーブルデータの一群を第二テーブル2310とすることによって第二テーブル2310を生成し、生成した第二テーブル2310を第一テーブル生成部232に出力する。なお、本例では、炉壁温度Tfは、ヒータ温度Thから所定の温度(本例では5℃)を減じることによって算出される。したがって、炉壁温度Tfは、典型的には、ヒータ温度Thに従って一意に決定される。
【0062】
図3に戻って、第一テーブル生成部232は、第二テーブル生成部231が生成した第二テーブル2310に従って、記憶部24に記憶されている高さパラメータ242及びヒータ温度パラメータ244の組み合わせ毎に、第一温度測定部13の温度測定結果及びワーク表面温度パラメータ243と対応関係と、第二温度測定部14の温度測定結果及びワーク表面温度パラメータ243の対応関係とを含む第一対応関係を示す第一テーブル2320を生成する。第一テーブル生成部232は、生成した第一テーブル2320を算出部233に出力する。なお、第一テーブル生成部232は、第二テーブル2310を記憶部24から取得しても良い。また、第一テーブル生成部232は、生成した第一テーブル2320を記憶部24に記憶しても良い。
【0063】
図8を参照して、第一テーブル生成部232による第一テーブル2320の生成方法について説明する。
図8は、
図3に示す第一テーブル2320の一例を示す図表である。
【0064】
第一テーブル生成部232は、記憶部24が記憶している高さパラメータ242及びヒータ温度パラメータ244に従って、算出する条件のワーク50の高さWH、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfを選択する。第一テーブル生成部232は、さらに、記憶部24が記憶しているワーク表面温度パラメータ243に従って、算出する条件のワーク表面温度Twを選択する。
【0065】
第一テーブル生成部232は、第二テーブル2310を参照して、選択したワーク50の高さWH及びワーク表面温度Twに対応する第一温度測定部13に関する乗算結果及び温度測定結果と、選択したワーク50の高さWH及びワーク表面温度Twに対応する第一温度測定部13に関する乗算結果及び温度測定結果と、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の温度差ΔTとで、1つの行データを生成する。第一テーブル生成部232は、ワーク表面温度パラメータ243毎に行データを生成し、生成した行データ同士をまとめることによって、1のワーク50の高さWH、炉壁温度Tf及びヒータ温度Thにおけるテーブルデータを生成する。
【0066】
さらに、第一テーブル生成部232は、高さパラメータ242、炉壁温度Tf及びヒータ温度Th毎にテーブルデータを生成し、生成した複数のテーブルデータの一群を第一テーブル2320とすることによって第一テーブル2320を生成し、生成した第一テーブル2320を算出部233に出力する。なお、上述したように、炉壁温度Tfは、典型的にはヒータ温度Thによって一意に決定される。
【0067】
図3に戻って、算出部233は、炉10から伝達される第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果と、第一テーブル生成部232から出力される第一テーブル2320とに従って、ワーク表面温度Twを算出し、算出したワーク表面温度Twを制御装置30に出力する。
【0068】
図9を参照して、算出部233によるワーク表面温度Twの算出方法について説明する。
図9は、ワーク表面温度Twと第一温度測定部13及び第二温度測定部14の測定結果との対応関係の一例を示すグラフ2321である。
【0069】
算出部233は、まず、第一テーブル生成部232から出力される第一テーブル2320に従って、ワーク50の高さWH、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfの組み合わせ毎に、ワーク表面温度Twに対する第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の差である温度差ΔTの関係式:Tw=α×ΔT+β[式4]を導出する。すなわち、算出部233は、近似によって式4における係数α及びβを導出する。また、算出部233は、さらに、同様に近似によって、ワーク50の高さWH、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfの組み合わせ毎に、ワーク表面温度Twに対する第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の関係式を導出しても良い。なお、算出部233は、導出した関係式(式4)を記憶部24に記憶しても良い。
【0070】
続いて、算出部233は、炉10から伝達される第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の差を算出することによって温度差ΔTを算出する。算出部233は、算出した温度差ΔTを導出した関係式(式4)に代入することによって、ワーク表面温度Twを算出する。さらに、算出部233は、算出したワーク表面温度Twを制御装置30に出力する。なお、算出部233は、記憶部24から関係式(式4)を取得しても良い。
【0071】
<一連の処理の流れ>
以上、熱処理装置1の構成について説明した。次に、熱処理装置1の一連の処理の流れについて詳しく説明する。
図10は、
図1に示す熱処理装置1の一連の処理の流れを示すフローチャートである。
【0072】
(ステップSP10)
熱処理装置1は、熱処理装置1の操作者による入出力装置40に対する炉内情報241に関する入力を受け付け、受け付けた炉内情報241を記憶部24に記憶する。そして、処理は、ステップSP12の処理に移行する。
【0073】
(ステップSP12)
熱処理装置1は、第一立体角算出部21によって、記憶部24に記憶されている炉内情報241に従い第一温度測定部13に対する各構成要素(炉壁11、ヒータ12、炉床15及びワーク50)の立体角を高さパラメータ242毎に算出する。さらに、熱処理装置1は、算出した立体角を第一立体角算出部21によって4πで除算することによって、第一温度測定部13を基点とした場合の各構成要素の寄与率を高さパラメータ242毎に算出する。そして、処理は、ステップSP14の処理に移行する。
【0074】
(ステップSP14)
熱処理装置1は、第二立体角算出部22によって、記憶部24に記憶されている炉内情報241に従い第二温度測定部14に対する各構成要素(炉壁11、ヒータ12、炉床15及びワーク50)の立体角を高さパラメータ242毎に算出する。さらに、熱処理装置1は、算出した立体角を第二立体角算出部22によって4πで除算することによって、第二温度測定部14を基点とした場合の各構成要素の寄与率を高さパラメータ242毎に算出する。そして、処理は、ステップSP16の処理に移行する。
【0075】
(ステップSP16)
熱処理装置1は、第二テーブル生成部231によって、第一温度測定部13を基点とした場合の各構成要素の寄与率と、第二温度測定部14を基点とした場合の各構成要素の寄与率とに従って、ワーク表面温度パラメータ243毎に、第二テーブル2310を生成する。そして、処理は、ステップSP18の処理に移行する。
【0076】
(ステップSP18)
熱処理装置1は、第一テーブル生成部232によって、第二テーブル2310に従って、高さパラメータ242及びヒータ温度パラメータ244の組み合わせ毎に第一テーブル2320を生成する。そして、処理は、ステップSP20の処理に移行する。
【0077】
(ステップSP20)
熱処理装置1は、算出部233によって、第一テーブル2320に従って、ワーク50の高さWH、ヒータ温度Th及び炉壁温度Tfの組み合わせ毎に、ワーク表面温度Twに対する第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の差である温度差ΔTの関係式:Tw=α×ΔT+β[式4]を導出する。そして、処理は、ステップSP22の処理に移行する。
【0078】
(ステップSP22)
熱処理装置1は、算出部233によって、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果と導出した式4とに従って、ワーク表面温度Twを算出する。さらに、熱処理装置1は、入出力装置40を介して熱処理装置1の操作者に算出したワーク表面温度Twを提示する。そして、
図10に示す一連の処理は、終了する。
【0079】
<効果>
以上、本実施形態では、熱処理装置1は、第一温度測定部13による位置p1の温度測定結果と、第二温度測定部14による位置p1とは異なる位置である位置p2の温度測定結果と、第一温度測定部13に対する空間16内の構成要素の立体角と、第二温度測定部14に対する当該構成要素の立体角とに従って、ワーク表面温度Twを算出する。したがって、熱処理装置1は、ワーク50の質量に依存せず、炉10に収容されているワーク50の表面温度であるワーク表面温度Twを高精度で算出できる。
【0080】
また、本実施形態では、熱処理装置1は、炉壁11、ワーク50、複数のヒータ12、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の位置及び形状に関し記憶部24に記憶されている炉内情報241に従って、第一温度測定部13及び第二温度測定部14に対する各立体角をそれぞれ算出する。したがって、熱処理装置1は、ワーク50の質量に依存せず、記憶部24に記憶されている炉内情報241に応じて、炉10に収容されているワーク50の表面温度であるワーク表面温度Twを高精度で算出できる。
【0081】
また、本実施形態では、熱処理装置1は、ワーク表面温度Twと、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果の差である温度差ΔTとの対応関係を示す第一対応関係を高さパラメータ242毎に算出する。さらに、熱処理装置1は、ワーク50の高さWH、温度差ΔT及び第一テーブル2320に従って、ワーク表面温度Twを算出する。したがって、熱処理装置1は、ワーク50の質量に依存せず、ワーク50の高さWHに応じて、ワーク表面温度Twを高精度で算出できる。
【0082】
また、本実施形態では、熱処理装置1は、第一立体角算出部21及び第二立体角算出部22による高さパラメータ242毎の立体角の算出結果に従って、高さパラメータ242と、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果との対応関係を示す第二対応関係をワーク表面温度パラメータ243毎に算出する。さらに、熱処理装置1は、第二対応関係に従って、第一対応関係を算出する。したがって、熱処理装置1は、ワーク50の質量に依存せず、高さパラメータ242毎の炉10内の各構成要素(炉壁11、ヒータ12、第一温度測定部13及び第二温度測定部14)の位置及び形状に応じて、ワーク表面温度Twを高精度で算出できる。
【0083】
<変形例>
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、上記の実施形態に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び後述する変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0084】
例えば、本実施形態では、熱処理装置1は、演算装置20によって、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果に従ってワーク表面温度Twの算出を行ったが、これに限られるものではない。熱処理装置1は、制御装置30がプロセッサ及びメモリを備えており、制御装置30のメモリに記憶されている熱処理装置1を制御するためのプログラム及びデータを読み出して実行することによって、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果に従って、ワーク表面温度Twの算出を行ってもよい。具体的には、熱処理装置1は、制御装置30のプロセッサによって、
図10に示す一連の処理を実行することによって、第一温度測定部13及び第二温度測定部14の温度測定結果に従って、ワーク表面温度Twを算出しても良い。
【0085】
また、熱処理装置1は、ワーク表面温度Twの算出にあたって、必ずしも演算装置20又は制御装置30によって算出する必要はなく、プロセッサ及びメモリを備えるコンピュータであれば、いずれのコンピュータによってワーク表面温度Twを算出しても良い。
【0086】
この構成によれば、熱処理装置1は、ワーク50の質量に依存せず、ワーク表面温度Twの算出のために制御装置30とは異なる演算装置20を用意することなくワーク表面温度Twを高精度で算出できる。
【0087】
また、本実施形態では、熱処理装置1は、第一テーブル2320及び第二テーブル2310を複数生成するが、これに限られるものではない。熱処理装置1は、高さパラメータ242毎の第一対応関係を含む1つの第一テーブル2320を生成しても良い。また、熱処理装置1は、ワーク表面温度パラメータ243毎の第二対応関係を含む1つの第二テーブル2310を生成しても良い。
【符号の説明】
【0088】
1…熱処理装置、10…炉、11…炉壁、12…ヒータ、13…第一温度測定部、14…第二温度測定部、15…炉床、16…空間、20…演算装置、21…第一立体角算出部、22…第二立体角算出部、23…ワーク表面温度算出部、24…記憶部、30…制御装置、40…入出力装置、50…ワーク、231…第二テーブル生成部、232…第一テーブル生成部、233…算出部、241…炉内情報、242…高さパラメータ、243…ワーク表面温度パラメータ、p1…位置(第一位置)、p2…位置(第二位置)、Tw…ワーク表面温度