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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182283
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】核酸コンストラクト及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20231219BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 39/04 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/21
A61K39/04
A61P31/04
A61P37/04
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095802
(22)【出願日】2022-06-14
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、創薬支援推進事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」、「組み換えBCG(rBCG)技術を利用したCOVID-19ワクチン開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 壮吉
(72)【発明者】
【氏名】竹石 惇樹
(72)【発明者】
【氏名】長田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】デサク ニョーマン トリャ スワメイテイテリィア デヴィ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】垣花 太一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】白井 剛
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA36X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA09
4C085CC07
4C085DD62
4C085EE01
(57)【要約】
【課題】BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与できる核酸コンストラクト、並びに、前記核酸コンストラクトを用いた、発現ベクター、組換えBCG菌、及びBCGワクチン組成物を提供する。
【解決手段】核酸コンストラクトは、MPB70タンパク質をコードする核酸(A)と、抗原タンパク質をコードする核酸を挿入するためのクローニングサイト(B)と、をこの順に含む。発現ベクターは、前記核酸コンストラクトを含む。組換えBCG菌は、前記核酸コンストラクトが染色体上に組み込まれている、又は、前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入されている。BCGワクチン組成物は、組換えBCG菌を有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MPB70タンパク質をコードする核酸(A)と、
抗原タンパク質をコードする核酸を挿入するためのクローニングサイト(B)と、
をこの順に含む、核酸コンストラクト。
【請求項2】
前記MPB70タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の核酸コンストラクト。
【請求項3】
前記核酸(A)の上流に、
配列番号2で表される塩基配列からなるMPB70のプロモーターが作動可能に連結している、請求項1又は2に記載の核酸コンストラクト。
【請求項4】
前記プロモーターの下流であって、且つ、前記核酸(A)の上流に、
配列番号3で表される塩基配列からなる分泌シグナルペプチドをコードする核酸が作動可能に連結している、請求項3に記載の核酸コンストラクト。
【請求項5】
前記クローニングサイト(B)の下流に、
Mycobacterium kansasiiのα抗原のターミネーターが作動可能に連結している、請求項1又は2に記載の核酸コンストラクト。
【請求項6】
前記クローニングサイト(B)に、前記抗原タンパク質をコードする核酸が挿入されている、請求項1又は2に記載の核酸コンストラクト。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の核酸コンストラクトを含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸コンストラクトが染色体上に組み込まれている、又は、前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入されている、組換えBCG菌。
【請求項9】
請求項8に記載の組換えBCG菌を有効成分として含有する、BCGワクチン組成物。
【請求項10】
請求項6に記載の核酸コンストラクトをBCG菌の染色体に組み込む工程1A、又は、
前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターでBCG菌を形質転換する工程1Bと、
前記BCG菌を培養する工程2と、
をこの順に含む、BCGワクチン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸コンストラクト及びその使用に関する。具体的には、本発明は、核酸コンストラクト、並びに、該核酸コンストラクトを利用した、発現ベクター、組換えBCG菌、BCGワクチン組成物、及びBCGワクチン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Mycobacterium tuberculosis var BCG(Bacille de Calmette et Guerin)(以下、「BCG菌」と称する)は、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)から作製された弱毒性の細菌であり、結核ワクチンとして利用されている。
【0003】
現在では、BCG菌を含む抗酸菌の分子生物学的な研究が進み、BCG菌に外来遺伝子を導入して、組換えBCG菌を作出することで、通常のBCG菌にはない有益な特性を付与することが検討されている。例えば、特許文献1には、ファゴリソソーム脱出ペプチド又はポリペプチドをコードする核酸を導入したBCG菌を用いた、より有効な結核ワクチンが開示されている。
【0004】
また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)やサル免疫不全ウイルス(SIV)等の外来抗原を発現させた組換えBCG菌も報告されており、結核以外の感染症に対するワクチンへの応用も検討されている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-517013号公報
【特許文献2】特許第5145492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の組換えBCGワクチンは、標的となる感染症に対する免疫誘導能の点において必ずしも十分なものではない。また、組換えBCG菌は目的とする抗原を長期間安定して発現し続けることが求められる。さらに、抗原は菌体外へ分泌されることで、より強い免疫応答を惹起できる。しかしながら、多様な抗原に対応でき、且つ、持続的に抗原を大量に分泌できる系は未だ開発されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与できる核酸コンストラクト、並びに、前記核酸コンストラクトを用いた発現ベクター、組換えBCG菌、BCGワクチン組成物、及びBCGワクチン組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、日本等で臨床使用されているBCG Tokyo 172株が、他のサブストレインと比較して、高い免疫原性を有していながら安全性が高いことに着目した。まず、BCG Tokyo 172株の主要な亜集団であるBCG 1型のRNA seq解析を行った結果、MPB70遺伝子が対数増殖期に最も多く転写され、且つ、定常期にHspX遺伝子に次いで2番目に多く転写されることを明らかにした。このMPB70タンパク質をキャリアタンパク質として、外来抗原タンパク質との融合タンパク質をBCG菌で発現させることで、該融合タンパク質を菌体外に分泌でき、さらに、融合タンパク質を発現する組換えBCG菌をマウスに投与することで、長期間安定して免疫を誘導できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) MPB70タンパク質をコードする核酸(A)と、
抗原タンパク質をコードする核酸を挿入するためのクローニングサイト(B)と、
をこの順に含む、核酸コンストラクト。
(2) 前記MPB70タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、(1)に記載の核酸コンストラクト。
(3) 前記核酸(A)の上流に、
配列番号2で表される塩基配列からなるMPB70のプロモーターが作動可能に連結している、(1)又は(2)に記載の核酸コンストラクト。
(4) 前記プロモーターの下流であって、且つ、前記核酸(A)の上流に、
配列番号3で表される塩基配列からなる分泌シグナルペプチドをコードする核酸が作動可能に連結している、(3)に記載の核酸コンストラクト。
(5) 前記クローニングサイト(B)の下流に、
Mycobacterium kansasiiのα抗原のターミネーターが作動可能に連結している、(1)~(4)のいずれか一つに記載の核酸コンストラクト。
(6) 前記クローニングサイト(B)に、前記抗原タンパク質をコードする核酸が挿入されている、(1)~(5)のいずれか一つに記載の核酸コンストラクト。
(7) (1)~(5)のいずれか一つに記載の核酸コンストラクトを含む、発現ベクター。
(8) (6)に記載の核酸コンストラクトが染色体上に組み込まれている、又は、前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入されている、組換えBCG菌。
(9) (8)に記載の組換えBCG菌を有効成分として含有する、BCGワクチン組成物。
(10) (6)に記載の核酸コンストラクトをBCG菌の染色体に組み込む工程1A、又は、
前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターでBCG菌を形質転換する工程1Bと、
前記BCG菌を培養する工程2と、
をこの順に含む、BCGワクチン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の核酸コンストラクトによれば、BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1におけるウエスタンブロッティングの結果を示す画像である。
図2】実施例2におけるマウス血清中の抗体量の測定結果を示すグラフである。
図3】実施例2におけるマウス脾臓から単離された単核球が産生するIFN-γ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「塩基配列」とは、任意の長さのヌクレオチド配列を意味しており、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドであり、線状、環状、又は分岐状であり、一本鎖又は二本鎖である。
【0013】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」とは、アミノ酸残基のポリマーを意味し、互換的に使用される。また、1つ若しくは複数のアミノ酸が、天然に存在する対応アミノ酸の化学的類似体、又は修飾誘導体である、アミノ酸ポリマーを意味する。
【0014】
本明細書において、「核酸」とは、線状又は環状配座であり、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかである、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを意味し、ポリマーの長さに関して制限するものとして解釈されるものではない。また、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分において修飾されるヌクレオチド(例えば、ホスホロチエート骨格)を包含する。一般に、特定ヌクレオチドの類似体は、同一の塩基対合特異性を有し、例えば、Aの類似体は、Tと塩基対合する。
【0015】
≪核酸コンストラクト≫
本実施形態の核酸コンストラクトは、MPB70タンパク質をコードする核酸(A)と、抗原タンパク質をコードする核酸を挿入するためのクローニングサイト(B)と、をこの順に含む。
【0016】
本実施形態の核酸コンストラクトは、上記構成を有することで、BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与することができる。
【0017】
<核酸(A)>
核酸(A)は、MPB70タンパク質をコードする核酸である。
【0018】
[MPB70タンパク質]
MPB70タンパク質は、Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)の主要な抗原性タンパク質の一つであり、BCG 1型において対数増殖期において最も多く転写され、定常期においても2番目に多く転写されるタンパク質である。すなわち、本実施形態の核酸コンストラクトでは、このMPB70タンパク質のBCG菌での発現量の多さを利用しており、MPB70タンパク質が融合された目的の抗原タンパク質をBCG菌で発現させることで、大量の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現させることができる。
【0019】
MPB70タンパク質のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号WP_003414644.1又はEuropean Nucleotide Archive(ENA)のアクセッション番号D38230.1に示されるアミノ酸配列の内、N末端から31番目から193番目までのアミノ酸配列(配列番号1)である。
【0020】
本明細書において、MPB70タンパク質には、全長タンパク質及びその断片の両方が含まれる。断片とは、MPB70タンパク質の任意の領域を含むポリペプチドであって、且つ、免疫原性を有するものである、なお、免疫原性の有無は、MPB70タンパク質に対する免疫を獲得している動物から採取した血液を用いた抗原抗体反応試験や、MPB70タンパク質を用いた対象動物への免疫試験等で評価することができる。
【0021】
また、MPB70タンパク質と同等の機能を有するタンパク質として、下記(a1)又は(a2)のアミノ酸配列を含む配列からなり、且つ、免疫原性を有するタンパク質を用いることもできる。
(a1)配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一性が80%以上100%未満、好ましくは85%以上100%未満、より好ましくは90%以上100%未満、さらにより好ましくは95%以上100%未満、さらに好ましくは97%以上100%未満、よりさらに好ましくは98%100%未満、特に好ましくは99%以上100%未満であるアミノ酸配列;
(a2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0022】
なお、本明細書において、アミノ酸配列の配列同一性は、対象のアミノ酸配列(対象アミノ酸配列)が、基準となるアミノ酸配列(基準アミノ酸配列)に対して一致している割合を示す値である。基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0023】
配列同一性(%)=一致したアミノ酸の数/対象アミノ酸配列の総アミノ酸数×100
【0024】
また、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1個以上32個以下が好ましく、1個以上24個以下がより好ましく、1個以上16個以下がさらにより好ましく、1個以上8個以下がさらに好ましく、1個以上4個以下がよりさらに好ましく、1個以上2個以下が特に好ましく、1個が最も好ましい。
【0025】
MPB70タンパク質をコードする核酸の塩基配列は、European Nucleotide Archive(ENA)アクセッション番号D38230.1に示される塩基配列のうち、5’末端から369番目から860番目までの塩基配列(配列番号5)である。
【0026】
MPB70タンパク質をコードする核酸としては、下記(a’1)~(a’3)のいずれかの塩基配列を含む配列からなり、且つ、免疫原性を有するタンパク質をコードする核酸を用いることもできる。
(a’1)配列番号5で表される塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である塩基配列;
(a’2)配列番号5で表される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換又は付加されている塩基配列;
(a’3)配列番号5で表される塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0027】
なお、本明細書において、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0028】
塩基配列の配列同一性(%)=一致した塩基の数/対象塩基配列の総塩基数×100
【0029】
また、欠失、置換、若しくは付加されてもよい塩基の数としては、1個以上98個以下が好ましく、1個以上73個以下がより好ましく、1個以上49個以下がさらにより好ましく、1個以上24個以下がさらに好ましく、1個以上14個以下がよりさらに好ましい。1個以上4個以下が特に好ましい。
【0030】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1質量% N-ラウロイルサルコシン、0.02質量%のSDS、2質量%の核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%ホルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55℃以上70℃以下で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0031】
また、MPB70タンパク質をコードする核酸の塩基配列は、導入される宿主(主に、BCG菌)における発現のためにコドン最適化されていてもよい。一般に、コドン最適化とは、ネイティブのアミノ酸配列を維持しつつ、ネイティブの配列の少なくとも1つのコドンを、導入される宿主の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって、導入される宿主における増強された発現のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種が、特定のアミノ酸の特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度における差異)は、mRNAの翻訳効率と相関する場合が多く、これは、翻訳されているコドンの特性及び特定のtRNAの利用可能性にとりわけ依存すると考えられている。細胞中の選択されたtRNAの優勢は、一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。従って、遺伝子は、コドン最適化に基づいて、所与の生物における最適な遺伝子発現のために個別化され得る。コドン使用頻度表は、例えば、www.kazusa.or.jp/codon/に掲載されている「Codon Usage Database」において容易に入手可能であり、これらの表を用いて、コドンを最適化することができる(Nakamura Y et al., “Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000”, Nucl Acids Res, vol.28, no.1, p292, 2000.)。特定の生物種における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムについても、例えば、Gene Forge(Aptagen社;Jacobus、PA)等において入手可能である。MPB70タンパク質をコードする核酸の塩基配列中の1つ又は複数のコドンは、導入対象となる宿主において、特定のアミノ酸について最も頻繁に使用されるコドンに対応する。
【0032】
<クローニングサイト(B)>
クローニングサイト(B)は、抗原タンパク質をコードする核酸を挿入するための領域である。クローニングサイトは、通常、プロモーターの下流に設けられている。このクローニングサイトは、特定の種類の制限酵素(又はその組合せ)によって、ユニークに切断されるサイトである。その特定の種類の制限酵素(又はその組合せ)で切断した箇所に、抗原タンパク質をコードする核酸を挿入することができる。
【0033】
クローニングサイトは、マルチクローニングサイト(MCS)としてもよい。MCSは、複数種類の制限酵素部位を有する核酸であり、標的タンパク質をコードする核酸をMCSに連結してベクターに挿入するために使用される。例えば、MCSは、NdeI、EcoRI、XbaI、HindIII、BglII、BamHI等の制限酵素部位(これらのうち1個以上)を有する。
【0034】
<プロモーター(C)>
本実施形態の核酸コンストラクトにおいて、上記核酸(A)の上流に、プロモーターが作動可能に連結していることが好ましい。
【0035】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、核酸の発現制御配列(例えば、プロモーター、一連の転写因子結合部位、特定の修飾構造等)と発現させたい核酸(本実施形態においては、抗原タンパク質をコードする核酸)との間の機能的連結を意味する。
【0036】
プロモーターとしては、BCG菌で、MPB70タンパク質及び抗原タンパク質を発現できるものであれば、特に限定されないが、例えば、SP2(Spratt et al.FEMS Microbiol.Lett.224:139-142(2003))、hsp60、hsp70、Antigen 85B、MPB70等のプロモーター等が挙げられる。中でも、MPBタンパク質及び抗原タンパク質の発現を向上させる観点から、配列番号2で表される塩基配列からなるMPB70のプロモーターが好ましく例示される。
【0037】
<分泌シグナルペプチドをコードする核酸(D)>
本実施形態の核酸コンストラクトにおいて、上記プロモーターの下流であって、且つ、上記核酸(A)の上流に、分泌シグナルペプチドをコードする核酸(D)が作動可能に連結していることが好ましい。
【0038】
分泌シグナルペプチドをコードする核酸(D)としては、核酸コンストラクトが導入される宿主において機能し得るものであれば特に限定されない。
分泌シグナルペプチドをコードする核酸としては、抗酸菌由来の分泌シグナルペプチドをコードする核酸が挙げられ、具体的には、blaF(Timm et al.Mol.Microbiol.12:491-504(1994))、blaC(McDonough et al.J.Bacteriol.187:7667-7679(2005))、Antigen85B(Matsuo et al.J.Bacteriol.170:3847-3854(1988))、MPB64(Yamaguchi et al.Infect.Immun.57:283-288(1989))、MPB70等の分泌シグナルペプチドをコードする核酸等が挙げられる。中でも、MPB70の分泌シグナルペプチドをコードする核酸である、配列番号3で表される塩基配列(European Nucleotide Archive(ENA)のアクセッション番号D38230.1に示されるに示される塩基配列のうち、5’末端から279番目から368番目まで)からなる核酸が好ましい。
【0039】
<ターミネーター(E)>
本実施形態の核酸コンストラクトにおいて、上記クローニングサイト(B)の下流に、ターミネーター(E)が作動可能に連結していることが好ましい。
【0040】
ターミネーター(E)とは、転写を止めてRNAポリメラーゼのターンオーバーを改善する目的で搭載されるものであれば特に限定されないが、例えばhsp60、Antigen 85B、M.kansasiiのα抗原等のターミネーターが挙げられる。中でも、M.kansasiiのα抗原のターミネーター(配列番号4;Genbankアクセッション番号X53897.1に示される塩基配列の内、5’末端から1202番目から1309番目まで)が好ましい。
【0041】
<その他の構成>
本実施形態の核酸コンストラクトは、上記核酸(A)及び上記クローニングサイト(B)に加えて、更に他の構成を有することができる。
【0042】
例えば、本実施形態の核酸コンストラクトは、その5’末端及び3’末端に、導入される宿主(主に、BCG菌)の染色体に組み込むための、ホモロジーアームを含んでもよい。ホモロジーアームは、宿主の染色体上の導入領域の配列に応じて適宜設計することができるが、例えば、後述する実施例に示すように、MPB70遺伝子のプロモーター(配列番号2)、分泌シグナルペプチドをコードする核酸(配列番号3)、及びMPB70遺伝子(配列番号5)からなる左ホモロジーアーム(5’末端側)、並びに、Rv2876をコードする核酸(配列番号9)及びRv2876のターミネーター(配列番号10)からなる右ホモロジーアーム(3’末端側)の組み合わせ等が好ましく例示される。
【0043】
また、例えば、本実施形態の核酸コンストラクトは、上記クローニングサイト(B)の下流であって、上記ターミネーターの上流に、抗生物質耐性遺伝子を含んでもよい。抗生物質耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子(KmR)、ハイグロマイシン等が挙げられ、目的に応じて、適宜、抗生物質耐性遺伝子を選択することができる。
【0044】
本実施形態の核酸コンストラクトは、クローニングサイト(B)に抗原タンパク質をコードする核酸を組み込んで用いることができる。
【0045】
抗原タンパク質としては、宿主で発現可能なタンパク質であれば特に限定されず、あらゆるタンパク質を十分に発現させることができる。例えば、従来、効果的なワクチンを得ることが困難とされる病原微生物由来のタンパク質を発現させることができる。
【0046】
このような病原微生物としては、結核の原因菌である結核菌(M.tuberculosis)、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エボラ出血熱の原因ウイルスであるエボラ出血熱ウイルス、クリミア・コンゴ熱の原因ウイルスであるクリミア・コンゴウイルス、南米出血熱の原因ウイルスであるフニンウイルス、サビアウイルス、ガナリトウイルス、マチュポウイルス等のアレナウイルス科のウイルス、マールブルグ病の原因ウイルスであるマールブルグウイルス、マラリアの原因微生物であるマラリア原虫、及び、例えば、弱毒株等の上記の病原微生物の類縁微生物等が挙げられる。
【0047】
上述した病原微生物由来のタンパク質としては、例えば、上記の病原微生物が感染した場合に発現量の高いタンパク質、病原性の発揮に寄与するタンパク質、病原体の生存に必須であるタンパク質が挙げられる。より具体的には、結核菌のAg85Bタンパク質、結核菌と同じ抗酸菌であるM.kansasiiのAg85Bタンパク質、インフルエンザウイルスのヘマアグルチニン(HA;H1~H16型)及びノイラミニダーゼ(NA;N1~N9型)、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(該タンパク質をコードする核酸の塩基配列:配列番号8)、HIVのgp140タンパク質、エボラ出血熱ウイルスのエンベロープ糖タンパク質、マラリア原虫のマラリア抗原タンパク質(サーカムスポロゾイト(CS)タンパク質等)等が挙げられる。
【0048】
≪発現ベクター≫
本実施形態の発現ベクターは、上記核酸コンストラクトを含む。
【0049】
本実施形態の発現ベクターによれば、BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与することができる。
【0050】
本実施形態で用いられる発現ベクターとしては、BCG菌で発現が可能な公知の発現ベクター、例えば、pSO246、PNN2等を用いることができ、これらに限定されない。
【0051】
また、発現ベクターとしては、BCG菌及び哺乳動物細胞の双方で発現が可能な発現ベクターを用いることもできる。生体内に投与されたBCG菌は、マクロファージ等の食細胞に貪食され破壊される。そこで、BCG菌の破壊により放出された発現ベクターが、BCG菌及び哺乳動物細胞の双方で発現が可能なものであることで、マクロファージ等の細胞内においても抗原タンパク質の発現が継続される。この結果、より多くの抗原タンパク質が生体内に供給されることとなり、より効果的に免疫を確立することができる。
【0052】
発現ベクターには、通常の発現ベクターに存在する、複製起点(replication origin=ori)等が存在してもよい。複製起点としては、例えばSV40、Col El ori、pUC ori、2μ ori、pBR322 ori、Ori-M等が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
≪組換えBCG菌≫
本実施形態の組換えBCG菌は、前記核酸コンストラクトが染色体上に組み込まれている、又は、前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入されている。
【0054】
本実施形態の組換えBCG菌によれば、目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与することができる。
【0055】
本明細書において、「BCG菌」とは、ウシ型結核菌が継代培養されて人に対する毒性が弱められて抗原性だけが残った細菌のことであり、作製者の名前を取って名付けられたカルメット・ゲラン桿菌(Bacille de Calmette et Guerin)の略称である。核酸コンストラクトが導入されるBCG菌としては、例えば、BCG Tokyo株、該BCG Tokyo株の主要なサブポピュレーションであるBCG 1型、MPB70の発現量が多いことが報告されている(参考文献1:Wiker HG et al., “Heterogenous Expression of the Related MBP70 and MPB83 Proteins Distinguish Various Substrains of Mycobacterium bovis BCG and Mycobacterium tuberculosis H37Rv.”, Scandinavian Journal of Immunology, Vol. 43, Issue 4, pp. 374-380, 1996.)、BCG Russia株、BCG Sweden株、BCG Moreau株、BCG Birkhaug株等が挙げられる。
【0056】
核酸コンストラクトをBCG菌に導入する方法としては、抗酸菌への核酸の公知の導入方法を利用することができ、具体的には、電気穿孔法等で上記核酸コンストラクト又は核酸コンストラクトを含む発現ベクターを導入する方法を用いることができる。また、導入された核酸コンストラクトは、相同組換えを利用して部位特異的にBCG菌の染色体上に組み込むことができる。
【0057】
核酸コンストラクト又は核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入された組換えBCG菌を選択するためには、市販の抗酸菌培養用の7H10等の寒天培地にカナマイシンやハイグロマイシン等の薬剤を加えた寒天培地上で、約3週間37℃で培養することによって得られるコロニーをピックアップすることにより、組換えBCG菌を選択することができる。
【0058】
本実施形態の組換えBCG菌において、抗原タンパク質の発現は、例えば、組換えBCG菌の培養上清又は菌体抽出液を試料として、抗原タンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロット解析や、免疫測定法(例えばELISA法)により検出することで確認することができる。
【0059】
本実施形態の組換えBCG菌は、後述するように、病原微生物に対する感染症に対するワクチンとして利用することができる。
【0060】
或いは、ヒトを含む対象動物の体内で分泌されているサイトカインを組換えBCG菌で発現させることで、該組換えBCG菌を投与した対象動物において免疫応答を修飾することができる。
【0061】
或いは、非ヒト動物の体内で発現している抗原タンパク質を組換えBCG菌で発現させることで、該組換えBCG菌を投与した非ヒト動物を自己免疫疾患モデルとして利用することができる。
【0062】
≪BCGワクチン組成物≫
本実施形態のBCGワクチン組成物は、上記組換えBCG菌を有効成分として含有する。
【0063】
なお、本明細書において、「有効成分として含有する」とは、治療的に有効量の組換えBCG菌を含有することを意味する。なお、ここでいう「治療的に有効な量」とは、望ましい治療措置に従って投与したときに、医師、臨床医、獣医、研究者、又は他の適切な専門家が求める生物学的、医学的効果若しくは応答を誘発する組換えBCG菌の量、又は、組換えBCG菌及び1種類以上の活性剤の組み合わせの量を意味する。好ましい治療的に有効な量は、病原微生物による感染症の症状を改善する量である。また、「治療的に有効な量」には、予防に有効な量、すなわち、疾患状態の予防に適する量が包含される。
【0064】
本実施形態のBCGワクチン組成物によれば、接種対象の体内において抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現することができ、ウイルスワクチンやコンポーネントワクチンよりも長期間、高い免疫応答を惹起することができる。
【0065】
また、本実施形態のBCGワクチン組成物は、抗原タンパク質の種類を変更することにより、多種多様な感染症に対するワクチンを容易に提供することができる。
【0066】
さらに、本実施形態のBCGワクチン組成物は、抗原タンパク質を発現させる宿主としてBCG菌を使用する。BCG菌はワクチンとして長年ヒトに接種されてきた実績があり、安全性も確立されているため、本実施形態のBCGワクチン組成物により、安全なワクチンを簡便に提供することができる。
【0067】
本実施形態のBCGワクチン組成物は、アジュバントや、医薬品として許容される担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。
【0068】
アジュバントとしては、ワクチンに通常用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、自然免疫受容体に対するリガンドや、環状ジグアニル酸一リン酸(c-di-GMP)等の環状ジヌクレオチド等が挙げられる。ここでいう「リガンド」とは、受容体に特異的に結合するものを意味し、特に、受容体に特異的に結合して、種々の生理作用を示す物質を用いることができる。このような物質を「アゴニスト」ともいう。
自然免疫受容体としては、例えば、トール様受容体(toll-like receptor;TLR)、RIG-I様受容体(RIG-I-like receptor;RLR)、NOD様受容体(NOD-like receptor;NLR)、C型レクチン受容体(C-type lectin receptor;CLR)等が挙げられる。
【0069】
TLRリガンドとしては、例えば、TLR-2、TLR-3、TLR-4、TLR-5、TLR-6、TLR-7、TLR-8及びTLR-9からなる群より選択される少なくとも1種のTLRと相互作用するものを適宜選択すればよい。
TLR-2リガンドとしては、例えば、Pam3CSK4等が挙げられる。
TLR-3リガンドとしては、例えば、ポリICLC、ポリイノシン:ポリシチジル酸(ポリI:C)等が挙げられる。
TLR-4リガンドとしては、例えば、R型リポ多糖、S型リポ多糖、パクリタキセル(Paclitaxel)、リピドA、モノホスホリルリピドA等が挙げられる。
TLR-5リガンドとしては、例えば、フラジェリン(Flagellin)等が挙げられる。
TLR-2及びTLR-6リガンドとしては、例えば、MALP-2等が挙げられる。
TLR-7及びTLR-8リガンドとしては、例えば、レシキモド(R848)、イミキモド(imiquimod、R837)、ガルジキモド(gardiquimod)、ロキソリビン(loxoribine)等が挙げられる。
TLR-9リガンドとしては、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド等が挙げられる。CpGオリゴデオキシヌクレオチドとしては、A-クラスTLR-9リガンドD35、B-クラスTLR-9リガンドK3等が挙げられる。
【0070】
医薬品として許容される担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エステル等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
本実施形態のBCGワクチン組成物は、皮内投与、経口投与、経鼻投与、経静脈投与等の公知の投与方法によって投与することができる。或いは、抗腫瘍効果を期して組換えBCGを投与する場合には、対象となる担腫臓器に直接注入してもよい。
【0072】
投与する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞等が挙げられる。中でも、哺乳動物が好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0073】
また、投与量は、投与対象により適宜調整すればよいが、例えばマウスの場合には、1頭あたり5.0×10コロニー形成単位(CFU)以上5.0×10CFU以下程度とすることができる。
【0074】
一実施形態において、本発明は、上記組換えBCG菌の有効量を、治療を必要とする患者又は患畜に投与することを含む、病原微生物による感染症の予防又は治療方法を提供する。
【0075】
一実施形態において、本発明は、病原微生物による感染症の予防又は治療のための、上記組換えBCG菌を提供する。
【0076】
また、一実施形態において、本発明は、BCGワクチン組成物を製造するための上記組換えBCG菌の使用を提供する。
【0077】
≪BCGワクチン組成物の製造方法≫
本実施形態のBCGワクチン組成物の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と称する場合がある)は、以下の工程をこの順に含む。
核酸コンストラクトをBCG菌の染色体に組み込む工程1A;又は、
前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターでBCG菌を形質転換する工程1B;及び、
前記BCG菌を培養する工程2。
【0078】
本実施形態のBCGワクチン組成物によれば、接種対象の体内において抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現することができ、ウイルスワクチンやコンポーネントワクチンよりも長期間、高い免疫応答を惹起できるBCGワクチン組成物が得られる。
【0079】
本実施形態の製造方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0080】
<工程1A及び工程1B>
工程1Aでは、核酸コンストラクトをBCG菌の染色体に組み込む。
【0081】
工程1Bでは、核酸コンストラクトを含む発現ベクターでBCG菌を形質転換する。
【0082】
工程1A及び工程1Bで用いられるBCG菌としては、上記「組換えBCG菌」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0083】
上記核酸コンストラクト又は核酸コンストラクトを含む発現ベクターを導入する方法としては、電気穿孔法等が挙げられる。
【0084】
工程1Aでは、上記導入方法で菌体内に導入された核酸コンストラクトを、相同組換えを利用して部位特異的にBCG菌の染色体上に組み込む。核酸コンストラクトを組み込む染色体上の部位は、使用する菌株の種類に応じて適宜選択することができる。
【0085】
<工程2>
工程2では、核酸コンストラクト又は核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入されたBCG菌を培養する。
【0086】
工程2において、核酸コンストラクトに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応する抗生物質を含む培地を用いて組換えBCG菌を培養することで、核酸コンストラクト又は核酸コンストラクトを含む発現ベクターが導入された組換えBCG菌を選択することができる。具体的には、市販の抗酸菌培養用の7H10等の寒天培地にカナマイシンやハイグロマイシン等の薬剤を加えた寒天培地上で、約3週間37℃で培養することによって得られるコロニーをピックアップすることにより、組換えBCG菌を選択する。
【0087】
工程2で得られた組換えBCG菌は、そのまま液状担体に懸濁してワクチンとして用いてもよい。或いは、培地成分等を取り除くために、水等で数回洗浄した後、凍結乾燥等の公知の乾燥方法で乾燥体として保存することができる。或いは、組換えBCG菌又はその乾燥体を上述したアジュバントや添加剤と混合して製剤化することができる。
【実施例0088】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1]
(SARS-CoV-2のスパイクタンパク質分泌組換えBCG菌の作製)
MPB70タンパク質をキャリアタンパク質として用いた、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を分泌する組換えBCG菌を作製した。
【0090】
1.核酸コンストラクトの構築
BCG Tokyo(NCBI:txid561275)のMPB70遺伝子のプロモーター(配列番号2)、分泌シグナルペプチドをコードする核酸(配列番号3)、及びMPB70遺伝子(配列番号5)をこの順に配置し、MPB70遺伝子の3’末端に、リンカーとして、Gly-Ser-Ser(配列番号6)をコードする核酸(塩基配列:GGATCCAGC(配列番号7)を挟んで、外来抗原タンパク質として、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードする核酸(配列番号8)を付加した。次いで、末尾に、終止コドンと、Mycobacterium kansasiiのα抗原のターミネーター(配列番号4)を配置した。得られた核酸コンストラクトにおいて、MPB70遺伝子のプロモーター(配列番号2)、分泌シグナルペプチドをコードする核酸(配列番号3)、及びMPB70遺伝子(配列番号5)は、BCG 1型の染色体に組み込むための5’末端側のホモロジーアーム(左ホモロジーアーム)として働く。また、BCG 1型の染色体に組み込むための3’末端側のホモロジーアーム(右ホモロジーアーム)として、Rv2876をコードする核酸(配列番号9)及びRv2876のターミネーター(配列番号10)をこの順で配置した。構築した核酸コンストラクトの全長配列を配列番号11に示す。
【0091】
2.BCG 1型の形質転換
次いで、「1.」で構築した核酸コンストラクトをBCG 1型に、エレクトロポレーション法により導入し、形質転換した。次いで、ハイグロマイシン50μg/mLを含むMiddlebrook 7H10-OADC寒天培地(Becton Dickinson 262710)に接種して28日間程度培養した。得られたコロニーをSauton培地(Lアスパラギン一水和物4g/L、クエン酸ナトリウム二水和物2.8g/L、リン酸水素二カリウム0.5g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.5g/L、クエン酸鉄アンモニウム0.05g/L、及び6v/v%グリセロール含有)で28日間程度静置表層培養した。
【0092】
3.抗原タンパク質の発現の確認
「2.」の菌体の培養上清及び菌体破砕液を用いて、50μg/laneとなるようにタンパクサンプルを調製し、SDS-PAGEを行った。タンパクをPVDFメンブレンに転写し、3v/v%ウシ血清アルブミンで1時間ブロック処理し、その後、PBS-Tween(塩化ナトリウム8g/L、リン酸水素二ナトリウム十二水2.9g/L、リン酸二水素カリウム0.2g/L、塩化カリウム0.2g/L、Tween20 0.1v/v%含有)にて5分3回洗浄した。PBS-Tweenで4,000倍希釈した抗SARS-CoV-2 RBD抗体(Sinobiological 40589-T62:SARS-CoV-2(2019-nCoV) spike RBD Antibody、Rabbitポリクローナル抗体、Antigen Affinity Purified)と共に4℃で一晩インキュベートした。次いで、PBS-Tweenで5分3回洗浄し、PBS-Tweenで10,000倍希釈した二次抗体(Jackson Immuno Research 711-035-152:Peroxidase conjugated Affinipure Donkey 抗Rabbit IgG(H+L))とともに室温で1時間インキュベートした。次いで、PBS-Tweenで5分5回洗浄し、Millipore WBKLS0500:HRP Immobilon(登録商標) Western chemiluminescent HRP substrateにて蛍光を測定した。結果を図1に示す。図1において、レーン1は組換えBCG菌の培養上清、レーン2は組換えBCG菌の菌体破砕液、レーン3は非組換えBCG菌の培養上清(陰性コントロール)、レーン4はBCG菌の菌体破砕液(陰性コントロール)、精製抗原(SARS-CoV-2 RBD;予想分子量36kDa)(陽性コントロール)である。
【0093】
図1に示すように、宿主であるBCG 1型の培養上清には見られない、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質とその分解産物として矛盾のない分子量の位置にバンドが見られた。
この結果から、BCG 1型におけるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の分泌が確認された。
【0094】
[実施例2]
(組換えBCG菌の免疫原性確認試験)
実施例1で作製した組換えBCG菌をマウスに免疫することで、該組換えBCG菌の免疫原性を確認した。
【0095】
1.マウスへの組換えBCG菌の免疫
マウス(BALB/c メス 1処理群当たり4匹)に6週齢の時点でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質RBD 10μg/匹となるように抗原含有溶液(50μg/mL 生理食塩水、8mg Alumアジュバント含有0.2mLを皮下注射により免疫した後、10週齢の時点で、実施例1で作製した組換えBCG菌2.3×10 CFUを懸濁した生理食塩水0.2mLを皮下注射により免疫した。対照群として、組換えBCG菌を免疫していないマウス群も準備した、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質RBDの免疫から6、8、及び10週間後にマウスから血液を採取し、血清を分離した。血清中のSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対する抗体量は、RBDを固相化したELISAで血清抗体の間接ELISAにより測定した。RBD発現形質転換HEK293培養細胞由来のRBD 200ngをELISAプレートに4℃で一晩固相化し、PBS-Tween(塩化ナトリウム8.77g/L、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.44g/L、リン酸水素二ナトリウム十二水2.58g/L、Tween 20 0.05v/v%、pH7.2)で5回洗浄した。その後、5w/v% スキムミルク溶液を用いて室温で1時間ブロッキング処理を行い、8,000倍希釈血清で37℃で1時間インキュベートした。その後、PBS-Tweenで5回洗浄し、10,000倍希釈二次抗体(Dako P0260:Anti-mouse Immunoglobulin/HRP)を用いて37℃で1時間インキュベートした。その後、PBS-Tweenで5回洗浄し、TMB基質(SeraCare 5120-0083:SureBlue Reserve TMB microwell Peroxidase substrate)を加え、室温で20分間インキュベートし、1N塩酸で反応を停止した。その後、反応液における450nm吸光度を測定した。各サンプルは3ウェルで平均±標準偏差を算出した。固相化しなかったウェルの吸光度を同時に測定しバックグランウドとした。結果を図2に示す。図2において、「RBD only」はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質RBDの免疫のみを行なったマウス群、「RBD→rBCG」はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質RBDの免疫の後に、実施例1で作製した組換えBCG菌を更に免疫したマウス群である。「RBD only」及び「RBD→rBCG」については以降同様の意味で用いられる。また、「saturated」は測定限界(上限)以上であることを意味する。
【0096】
図2に示すように、いずれの時点においても、組換えBCG菌投与群では、顕著に高い抗原抗体反応を示した。
【0097】
また、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質RBDの免疫から12週間後に安楽死させたマウスから脾臓を摘出し、ホモジナイズし、スクロース比重法で単核球を単離した。単核球2.5×10cellsをRBD 10μg/mL存在下で37℃、5v/v%CO雰囲気下にて7日間培養した。培養後、RPMI-1640培地中に放出されたIFN-γを定量的サンドイッチELISA(Biolegend 430804:ELISA MAXTM Deluxe Set Mouse IFN-γ)で測定した。陽性コントロール(ConA)としてconcanavalinA 10μg/mL添加培地、陰性コントロール(none)として無添加培地で培養したサンプルを測定した。結果を図3に示す。図3において、「none」は無添加培地で培養したサンプルを意味し、「ConA」はconcanavalinA 10μg/mL添加培地で培養したサンプルを意味し、「RBD」はRBD 10μg/mL添加培地で培養したサンプルを意味する。
【0098】
図3に示すように、BCG菌投与群でのみ、IFN-γの産生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本実施形態の核酸コンストラクトによれば、BCG菌において目的の抗原タンパク質を持続的且つ安定的に発現でき、抗原タンパク質に優れた免疫原性を付与することができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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