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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182285
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】マーキング装置
(51)【国際特許分類】
   B25H 7/04 20060101AFI20231219BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B25H7/04 Z
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095805
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】安江 明哲
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174DA31
(57)【要約】
【課題】角部においても途切れのない鮮明なマーキングを施すことができるマーキング装置を提供すること。
【解決手段】被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とをマーキング対象物とし、前記締結部材に被せられる筐体と、筐体に支軸30を介して連結され、支軸30を揺動中心として前記締結部材に向かって揺動可能なマーキング部材とを備えたマーキング装置であって、前記マーキング対象物同士の境界においてマークが付される部分である被マーク角部MC1を始点とし、前記揺動中心を終点とするベクトルを第1ベクトルV1とし、被マーク角部MC1を始点とし、前記締結部材の中心軸Cに対して直交するとともに前記締結部材から離れる方向に向かうベクトルを第2ベクトルV2としたとき、第1ベクトルV1と第2ベクトルV2とのなす角度が、90度以上180度未満である構成とする。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とをマーキング対象物とし、
前記締結部材に被せられる筐体と、筐体に支軸を介して連結され、前記支軸を揺動中心として前記締結部材に向かって揺動可能なマーキング部材とを備えたマーキング装置であって、
前記マーキング対象物同士の境界においてマークが付される部分である被マーク角部を始点とし、前記揺動中心を終点とするベクトルを第1ベクトルとし、
前記被マーク角部を始点とし、前記締結部材の中心軸に対して直交するとともに前記締結部材から離れる方向に向かうベクトルを第2ベクトルとしたとき、
第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度が、90度以上180度未満であることを特徴とするマーキング装置。
【請求項2】
前記マーキング部材は筐体外部に突出する突出部を有し、前記突出部が押し込まれることにより、前記被マーク部にマークが付される請求項1に記載のマーキング装置。
【請求項3】
筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたノック体と、前記マーキング部材の動作を規制可能な規制部とを備え、
前記規制部は、マーキング装置の非使用時には前記マーキング部材の回動を規制し、
マーキング装置の使用時に前記ノック体が前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより、前記規制部の前記マーキング部材に対する規制が解除される請求項2に記載のマーキング装置。
【請求項4】
筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたホルダーを備え、
前記ホルダーには前記マーキング部材を押圧可能な押圧部が設けられており、
マーキング装置の使用時に、前記ホルダーが前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより前記押圧部材が前記マーキング部材を押圧し、前記被マーク部にマークを付すことが可能な請求項1に記載のマーキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等の被締結部材を、ボルト、ナット及びワッシャー等の締結部材を用いて接合する際に、一次締めの後に締結部材及び被締結部材にマークを施すために使用するマーキング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨工事において鋼材等の被締結部材をボルト、ナット及びワッシャー等の締結部材で接合する場合、これらの締結部材の締め付けは、一次締め、マーキング、本締めの順序で行われる。具体的には、まず所定のトルク値でナットを回転させて一次締めを行い、一次締めがなされた締結部材及び被締結部材(以下「マーキング対象物」と総称する。)に対して一連の線状のマークを施す。続いて本締めを行い、一次締め後にマーキング対象物に施した線状のマークの位置ずれ角度を検査することにより、ボルト、ナットの供回りの有無を判定することができる。
【0003】
マーキングは、一般的にペン等を用いて手作業で施されることが多いが、多数のマーキング対象物に対して一つずつ手書きする作業は負担が大きい。また、高所等の危険箇所や無理な姿勢を強いられる箇所等においては、手書きでは的確なマーキングや作業者の安全確保が困難である。そこで、ボルト等に対してマーキングを行うことができるマーキング装置が提案されている。
【0004】
特許文献1には、「実施の形態例4」として、円柱体である筐体の内部において回動自在に軸支されたフェルト体を備えたマーキング治具が記載されている。このマーキング治具では、同文献の図16に示されるように、マーキング対象であるビス等に対してフェルト体の先端部が斜め上向きに移動して接触する。このため、ビスと座金、座金と台座との境界である角部に対してフェルト体が十分に押し付けられず、角部のマーキングが欠けたり薄くなったりする問題があった。特に、マーキング対象物が鋼板とボルト、ナット及びワッシャーなどの場合、各部材の境界となる角部が上下に階段状に連なるので、フェルト体による斜め下側からのマーキングでは角部のマークが欠けてしまうおそれが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-217662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、角部においても途切れのない鮮明なマーキングを施すことができるマーキング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とをマーキング対象物とし、前記締結部材に被せられる筐体と、筐体に支軸を介して連結され、前記支軸を揺動中心として前記締結部材に向かって揺動可能なマーキング部材とを備えたマーキング装置であって、前記マーキング対象物同士の境界においてマークが付される部分である被マーク角部を始点とし、前記揺動中心を終点とするベクトルを第1ベクトルとし、前記被マーク角部を始点とし、前記締結部材の中心軸に対して直交するとともに前記締結部材から離れる方向に向かうベクトルを第2ベクトルとしたとき、第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度が、90度以上180度未満であることを特徴とするマーキング装置とする。
【0008】
また、前記マーキング部材は筐体外部に突出する突出部を有し、前記突出部が押し込まれることにより、前記被マーク部にマークが付される構成とすることが好ましい。
【0009】
また、筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたノック体と、前記マーキング部材の動作を規制可能な規制部とを備え、前記規制部は、マーキング装置の非使用時には前記マーキング部材の回動を規制し、マーキング装置の使用時に前記ノック体が前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより、前記規制部の前記マーキング部材に対する規制が解除される構成とすることが好ましい。
【0010】
また、筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたホルダーを備え、前記ホルダーには前記マーキング部材を押圧可能な押圧部が設けられており、マーキング装置の使用時に、前記ホルダーが前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより前記押圧部材が前記マーキング部材を押圧し、前記被マーク部にマークを付すことが可能な構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、角部においても途切れのない鮮明なマーキングを施すことができるマーキング装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態のマーキング装置の斜視図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図1に示すマーキング装置を、マーキング対象物であるボルトに装着した状態を示す斜視図である。なお、この図では被締結物である2枚の板状部材のうちワッシャーと接する方の板状部材の一部を表し、他方の板状部材及びボルトの頭部は図示を省略している。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5図2に示すマーキング部材の拡大図である。
図6図4に示す状態のマーキング装置のノック体が押し下げられて、マーキング部材の揺動の規制が解除された状態を示す断面図である。
図7図6に示す状態のマーキング装置のマーキング部材が押し込まれて、印字体がマーキング対象物に押し付けられた状態を示す断面図である。
図8図4に示す状態のマーキング装置において、ボルトの軸部とナットの天面との境界かつマークが付される部分である第1の被マーク角部を始点とする第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を示した図である。なお、マーキング装置及びマーク対象物等を点線で表している。
図9図4に示す状態のマーキング装置において、ナットの底面とワッシャーの天面との境界かつマークが付される部分である第2の被マーク角部を始点とする第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を示した図である。なお、マーキング装置及びマーク対象物等を点線で表している。
図10図4に示す状態のマーキング装置において、ワッシャーの底面と被締結部材の表面との境界かつマークが付される部分である第3の被マーク角部を始点とする第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を示した図である。なお、マーキング装置及びマーク対象物等を点線で表している。
図11】第2の実施形態のマーキング装置の斜視図である。
図12図11のXII-XII断面図である。ただし、印面キャップを外した状態を表している。
図13図11に示すマーキング装置を、マーキング対象物であるボルトに装着した状態を示す縦断面図である。
図14図13に示すマーキング装置のマーキング部材が押し下げられ、印字体がマーキング対象物に押し付けられた状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に発明を実施するための形態を示す。
【0014】
(第1の実施形態)
図1乃至図2に示されるように、第1の実施形態のマーキング装置1Aは、全体が略円筒形状の筐体10Aと、筐体10Aに支軸30を介して連結され、支軸30を揺動中心として筐体10Aの内外方向に揺動可能なマーキング部材200Aとを備えている。本実施形態の筐体10Aは樹脂製である。材質はこれに限定されず樹脂以外のものであってもよいが、樹脂製であれば、その防塵・防水・耐久性から屋外での使用に適し、かつ、軽量で壊れにくいマーキング装置1Aとすることができる。
【0015】
マーキング装置1Aは、図3及び図4に示されるように、ボルト5、ナット6及びワッシャー7などの締結部材と、これら締結部材によって1次締めされた鋼材などの被締結部材8のうち締結部材側に位置する被締結部材81とをマーキング対象物とし、マーキング対象物の表面に連続した直線状のマークを付すために用いられる。なお、本実施形態の被締結部材8は、板状の被締結部材81と板状の被締結部材82との計2枚であるが、これに限定されず、被締結部材8は3つ以上の部材であってもよい。また、本実施形態では前記締結部材はボルト5、ナット6及びワッシャー7であるが、締結部材の構成はこれに限定されない。
【0016】
筐体10Aは、マーキング対象物である締結部材に被せられる。図2及び図4に示されるように、本実施形態の筐体10Aは、図中下側の端部に、前記締結部材を挿通可能な大きさを有する底面開口部12が開口している。筐体10Aは、底面開口部12側から前記締結部材に被せられる。筐体10Aの内部には、底面開口部12から図中上側に向かって、中空の空洞部11が形成されている。本実施形態では、空洞部11は一次締めされたボルト5、ナット6及びワッシャー7の外形に沿うような形状で、かつ、これらの締結部材の外形より僅かに大きい内径を有している。また、実施形態の空洞部11の中心軸C´は、その内部に収容されたボルト5の中心軸Cとほぼ一致する。このような空洞部11とすれば、前記締結部材の位置決めが容易である。なお、空洞部11の形状はこれに限定されず、ピンなどの位置決め部材が設けられていてもよい。
【0017】
空洞部11の壁面には、後述する印字体250の印字面251が面する位置に、スリット状の切欠部13が設けられている。切欠部13は、空洞部11の中心軸C´方向に延び、印字面251が通過することが可能な大きさで形成されている。
【0018】
マーキング部材200Aについて説明する。以下の説明においては、図2及び図5に示されるように、実施形態の空洞部11の中心軸C´に平行な方向をY軸方向とし、空洞部11の中心軸C´を中心とする半径方向をX軸方向とする。なお、図2は、マーキング部材200Aの揺動中心である支軸30の中心31と、マーキング対象物にマークを付す印字体250の厚さ方向の略中心とを通るX-Y平面で切断したときの断面図である。
【0019】
図2及び図5に示されるように、本実施形態のマーキング部材200Aは、全体として略への字状に形成されたアーム状の部材である。具体的には、マーキング部材200Aは、基端側で山形状に折曲された第1折曲部231と、第1折曲部231から先端側の端部までの略中央の位置において山形状に折曲された第2折曲部232とを備えている。この例のマーキング部材200Aは、基端側の端部に支軸30を挿通可能な軸受部211を備え、軸受部211から第1折曲部231までの間でX軸方向に直線状に延びる基端側直線部210と、第1折曲部231から第2折曲部232までの間で図中斜め下向きに延びる押込レバー部220Aと、第2折曲部232から先端側の端部までの間で図中略下向きに延びる印字体支持部240とを備えている。
【0020】
実施形態の印字体支持部240には、印字体250が固定されている。本実施形態の印字体250は、マーキング用インキを含浸させることが可能なフェルト製の印字体であって、マーキング対象物の表面形状に沿うように形成された印字面251を備え、マーキング対象物に接触することにより略直線状のマークを付着させることができるものである。印字体250に含浸させるインキは、屋外でのマーキングが可能なインキであれば特に限定されない。また、印字体250は、インキを供給可能なインキ吸蔵体を備えた構成としてもよい。印字体250の形状については後述する。
【0021】
実施形態の印字体250は、印字体250を挟持可能な凹部を備えた印字体受け部241に挟持され、固定ピン242によって印字体受け部241に固定され、この印字体受け部241が印字体支持部240に取り付けられている。印字体250の固定方法はこれに限定されず、他の構造であってもよい。
【0022】
本実施形態のマーキング部材200Aのおもな部位の長さの比率は、「基端側端部から第1折曲部231まで」:「第1折曲部231から第2折曲部232まで」:「第2折曲部232から先端側端部まで」が、およそ2:3:4となっている。また、第1折曲部231及び第2折曲部232の折曲角度はおよそ140度であるが、マーキング部材200Aの形状はこれに限定されない。
【0023】
図2に示されるように、本実施形態のマーキング部材200Aは、軸受部211に挿通された支軸30を介して筐体10Aに軸支され、支軸30を揺動中心として、筐体10Aの内外方向に揺動可能となっている。また、実施形態のマーキング部材200Aは、付勢部材212によって筐体10の径方向外側へ向かって付勢されている。実施形態の付勢部材212はねじりスプリングであり、支軸30に取り付けられている。
【0024】
本実施形態の支軸30は、筐体10Aの内部において空洞部11の天面側に、X軸及びY軸に垂直な方向(図2の紙面に垂直な方向)に沿うように取り付けられている。また、本実施形態の支軸30は、空洞部11の内壁面の延長線上に設けられており、支軸30と印字体250とが、空洞部11を挟んで対向するように配置されている。
【0025】
図2及び図4に示されるように、本実施形態のマーキング装置1Aでは、マーキング部材200Aの基端側直線部210が空洞部11の天面側において径方向にわたるように配置され、押込レバー部220Aが空洞部11の外側に位置する。本実施形態では、筐体10Aにレバー開口部14が形成されており、押込レバー部220Aの一部はレバー開口部14から筐体10Aの外側に露出している。マーキング装置1の操作者は、押込レバー部220Aの露出部分を手で押し込むことによりマーキングを行う。このような構成とすれば、マーキング時に操作者の押圧力によって印字面251にかかる荷重を自在に調整することができるため、インキ残量に応じて操作者が力加減を調整し適切な荷重とすることが可能となる。
【0026】
実施形態の押込レバー部220Aは、被操作部となる図中上側の面において、曲面部221と、突起部222とを備えている。曲面部221は緩やかに湾曲した曲面を有し、操作者がマーキング部材200Aを筐体10Aの内側に向けて押し込む際に操作者の手の指が置かれる部分となる。突起部222は曲面部221の表面に形成されており、操作者の手の滑り止めとなることができる。実施形態では3つの突起部222が設けられているが、滑り止めの形状及び数はこれに限定されない。
【0027】
また、図3に示されるように、本実施形態のレバー開口部14は押込レバー部220A及び印字体支持部240の一部が筐体10Aの外側に露出する大きさで形成されており、印字体支持部240の先端側において開口幅が狭くなっている。これにより、マーキング部材200Aの先端側が抜け止めされている。
【0028】
次に、印字体250について説明する。図4及び図5に示されるように、本実施形態の印字体250は、マーキング対象物に付される直線状のマークの幅に相当する厚さを有する板状の部材であり、印字体受け部241に形成された凹部に嵌め込まれ、マーキング対象物と接する印字面251が露出した状態で挟持されている。印字体受け部241によって挟持された印字体250は、空洞部11の切欠部13に面する位置に配置され、マーキング部材200Aの揺動動作によってマーキング対象物に近付く方向へ変位し、マーキング対象物に印字面251を接触させることができる。
【0029】
印字面251は、マーキング対象物の表面の凹凸形状に沿うような形状で形成され、マーキング対象物のX軸方向に延びる面及びY軸方向に延びる面の両方に密着することができる。また、本実施形態の印字面251は、マーキング対象物同士の境界においてマークが付される部分である被マーク角部に密着可能な凸状角部を備えている。
【0030】
具体的には、図4及び図5に示されるように、本実施形態の印字体250は、印字面251側が縦断面視において段階的にX方向の幅が減少する階段状を呈する。これにより、印字体250の印字面251側には複数の凸状角部が形成される。本実施形態では、図中上側から順に、第1の凸状角部252、第2の凸状角部253、第3の凸状角部254の計3つの凸状角部が設けられている。
【0031】
ところで、本実施形態のマーキング対象物には、ボルト5とナット6との境界における第1の被マーク角部MC1と、ナット6とワッシャー7との境界における第2の被マーク角部MC2と、ワッシャー7と被締結部材81との境界における第3の被マーク角部MC3との計3つの被マーク角部が存在する。本実施形態のマーキング装置1Aでは、後述するマーキング動作により第1の被マーク角部MC1に第1の凸状角部252が密着し、第2の被マーク角部MC2に第2の凸状角部253が密着し、第3の被マーク角部MC3に第3の凸状角部253が密着することができる。
【0032】
次に、マーキング装置1Aにおけるマーキング部材200Aの揺動を規制するロック機構について説明する。マーキング装置1Aにロック機構が設けられていると、意図しないマーキング部材200Aの動作を規制しインキ汚れの付着を抑制することができるので好ましい。
【0033】
図3及び図4に示されるように、本実施形態のマーキング装置1Aには、筐体10Aの図中上側に蓋状のノック体40が設けられている。実施形態のノック体40は、筐体10Aに対して弾性部材41を介して組付けられ、マーキング対象物である締結部材の先端から基端方向に向け移動自在となっている。実施形態の弾性部材41は圧縮コイルばねであるが、これらの構成に限定されるものではない。また、ノック体40には、マーキング部材200Aの揺動を規制可能な規制部42が設けられている。本実施形態では、マーキング部材200Aの基端側端部に、基端側直線部210と略直交する係合片213が形成されており、規制部42と係合片213とが係合可能となっている。
【0034】
本実施形態では、マーキング装置200Aの非使用時には、図4に示されるように、係合片213の図中左側側面に規制部42が接することにより、マーキング部材200Aの揺動がロックされている。この状態から、操作者がノック体40をボルト5の基端側に向かって押し込むと、図6に示されるように、ノック体40の変位に伴って規制部42がボルト5の基端側へ移動する。これにより係合片213の図中左方向への移動が可能となり、マーキング部材200Aのロックが解除される。図7に示されるように、操作者が、ノック体40を押し込んだままマーキング部材200Aの押込レバー部220Aを筐体10Aの内側へ向けて押し込むと、マーキング部材200Aがマーキング対象物に近付く方向へ揺動し、印字体250がマーキング対象物に接触してマークを付すことができる。
【0035】
マーキング対象物にマーキングした後、操作者が押込レバー部220Aへの押圧を解除すると、付勢部材212の付勢力によりマーキング部材200Aは図6に示す非使用時の状態に戻る。引き続いて操作者がノック体40への押圧を解除すると、ノック体40が弾性部材41によって図6に示す非使用時の状態に戻り、再びマーキング部材200Aの揺動がロックされた状態となる。
【0036】
上記したようなロック機構を備えたマーキング装置1Aとすれば、操作者はノック体40を掌で押しながら押込レバー部220Aを押し込むという一連の動作により、ロック解除とマーキングとをスムーズに行うことができる。これにより、ロック解除操作を行った手の位置を移動させずにマークを付す操作を行うことができ、操作性がよい。また、レバー部220A及びノック体40から手を離せば自動的にマーキング部材200Aがロックされるので、操作者がロック機構をロック解除状態からロック状態に戻す操作が不要となり利便性がよい。
【0037】
次に、マーキング部材200Aとマーキング対象物との位置関係について、図8を例に説明する。図8に示されるように、マーキング装置1Aが被せられたマーキング対象物の第1の被マーク角部MC1を始点とし、マーキング部材200Aの揺動中心である支軸30の中心31を終点とするベクトルを第1ベクトルV1とし、第1の被マーク角部MC1を始点とし、マーキング対象物であるボルト5の中心軸Cに対して直交するとともにボルト5から離れる方向に向かうベクトルを第2ベクトルV2としたとき、第1ベクトルV1と第2ベクトルV2とのなす角度θ1が90度以上180度未満のいわゆる鈍角となっている。なお、図8に示す例では角度θ1は約116度である。
【0038】
同様に、図9に示す例では、いずれも第2の被マーク角部MC2を始点とする第1ベクトルV1と第2ベクトルV2とのなす角度θ2は鈍角である。なお、この例の角度θ2は約116度である。また、図10に示す例でも同様に、いずれも第3の被マーク角部MC3を始点とする第1ベクトルV1と第2ベクトルV2とのなす角度θ3は鈍角である。なお、この例の角度θ3は約113度である。各被マーク角部において、第1ベクトルと第2ベクトルのなす角度は100度から150度であることが好ましく、110度から140度であることがさらに好ましい。
【0039】
このような構成とすることにより、図6及び図7に示されるように、マーキング操作に伴って変位する印字体250の各凸状角部は、対応する各被マーク角部に対して図中斜め上側から接し、各凸状角部と各被マーク角部とがしっかり密着する。よって、途切れのない鮮明なマークを施すことが可能なマーキング装置1とすることができる。マーキング装置1は、印字面251がマーキング対象物に対して図中斜め上側から近付くか、少なくとも真横から近付いて接する構成とすることが好ましい。
【0040】
なお、各被マーク角部における第1ベクトルV1と第2ベクトルV2とが鈍角をなすという位置関係は、印字体250がマーキング対象物に接触可能な位置にあるときの各凸状角部においても成り立つ。すなわち、本発明のマーキング装置1では、印字体250が少なくとも1つの凸状角部を有し、印字面251が空洞部11の内側に収容されたマーキング対象物に接することが可能な位置にあるときに、前記凸状角部を始点とし、マーキング部材200Aの揺動中心を終点とするベクトルと、この凸状角部を始点とし、空洞部11の中心軸C´に対して直交するとともに前記中心軸C´から離れる方向へ向かうベクトルとのなす角度が90度以上180度未満となる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態のマーキング装置1Bは、操作者がマーキング部材200Bを直接手で押し込むのではなく、筐体10Bに設けられたホルダー43を押し込むことによってマーキング部材200Bが押し込まれてマーキングが行われることを主な特徴とする。ここでは、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態と同様の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
図11から図13に示されるように、第2の実施形態のマーキング装置1Bは、筐体10Bの図中上側にホルダー43が設けられている。実施形態のホルダー43は、筐体10Bに対して弾性部材44を介して組付けられ、マーキング対象物である締結部材の先端から基端方向に向け移動自在となっている。本実施形態の弾性部材44は圧縮コイルばねであり、ホルダー43は筐体10Bに被せられた蓋状の部材であるが、これらの構成に限定されない。
【0043】
実施形態のホルダー43は、マーキング部材200Bの押込レバー部220Bを押圧することが可能な押圧部45を備えている。図13及び図14に示されるように、実施形態の押圧部45は、筐体10Bに形成された図中上下方向に延びる長孔形状のガイド溝46に係合したピンであり、押込レバー部220Bの図中上側の面と接することが可能な位置に配置されている。押圧部45は、ホルダー43がボルト5の先端側から基端方向へ向けて押し込まれるのに伴って図中下側へ移動し、押込レバー部220Bを図中下向きに押し下げることができる。押し下げられたマーキング部材200Bは、支軸30を揺動中心として印字体250がマーキング対象物に近付く方向へ揺動し、マーキング対象物に接してマークを付すことができる。
【0044】
このような構成とすれば、操作者がマーキング装置1Bをマーキング対象物に被せてホルダー43を押し込むことによってマーキングができ、マーキング操作の手数を少なくすることができる。
【0045】
なお、この例では押圧部45及び押込レバー部220Bの全体がホルダー43の内側に位置しているが、これに限定されずホルダー43の外側に一部が露出する構造としてもよい。また、実施形態のマーキング装置1Bは、底面開口部12を覆う印面キャップ15を備えており、これにより意図しないインキ汚れの付着を抑制することができる。
【0046】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、第1の実施形態のマーキング装置1Aに印面キャップ15が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 マーキング装置
10 筐体
11 空洞部
13 切欠部
200 マーキング部材
220 押込レバー部
250 印字体
251 印字面
252 第1の凸状角部
253 第2の凸状角部
254 第3の凸状角部
30 支軸
40 ノック体
42 規制部
43 ホルダー
45 押圧部
5 ボルト
6 ナット
7 ワッシャー
8 被締結部材
MC1 第1の被マーク角部
MC2 第2の被マーク角部
MC3 第3の被マーク角部
C ボルトの中心軸
C´ 空洞部の中心軸
V1 第1ベクトル
V2 第2ベクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
また、前記マーキング部材は筐体外部に突出する突出部を有し、前記突出部が押し込まれることにより、前記マーキング対象物にマークが付される構成とすることが好ましい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたホルダーを備え、前記ホルダーには前記マーキング部材を押圧可能な押圧部が設けられており、マーキング装置の使用時に、前記ホルダーが前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより前記押圧部が前記マーキング部材を押圧し、前記マーキング対象物にマークを付すことが可能な構成とすることが好ましい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とをマーキング対象物とし、
前記締結部材に被せられる筐体と、筐体に支軸を介して連結され、前記支軸を揺動中心として前記締結部材に向かって揺動可能なマーキング部材とを備えたマーキング装置であって、
前記マーキング対象物同士の境界においてマークが付される部分である被マーク角部を始点とし、前記揺動中心を終点とするベクトルを第1ベクトルとし、
前記被マーク角部を始点とし、前記締結部材の中心軸に対して直交するとともに前記締結部材から離れる方向に向かうベクトルを第2ベクトルとしたとき、
第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度が、90度以上180度未満であることを特徴とするマーキング装置。
【請求項2】
前記マーキング部材は筐体外部に突出する突出部を有し、前記突出部が押し込まれることにより、前記マーキング対象物にマークが付される請求項1に記載のマーキング装置。
【請求項3】
筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたノック体と、前記マーキング部材の動作を規制可能な規制部とを備え、
前記規制部は、マーキング装置の非使用時には前記マーキング部材の回動を規制し、
マーキング装置の使用時に前記ノック体が前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより、前記規制部の前記マーキング部材に対する規制が解除される請求項2に記載のマーキング装置。
【請求項4】
筐体に弾性部材を介して組付けられ、前記締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたホルダーを備え、
前記ホルダーには前記マーキング部材を押圧可能な押圧部が設けられており、
マーキング装置の使用時に、前記ホルダーが前記締結部材に近付く方向へ押し込まれることにより前記押圧部が前記マーキング部材を押圧し、前記マーキング対象物にマークを付すことが可能な請求項1に記載のマーキング装置。