(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182286
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】シリコンナノワイヤーの製造方法、シリコンナノワイヤー群、電池用電極
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20231219BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20231219BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C23C14/14 D
C23C14/34 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095806
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】内田 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】益本 幸泰
【テーマコード(参考)】
4G072
4K029
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB04
4G072GG01
4G072GG03
4G072GG05
4G072HH02
4G072LL03
4G072MM01
4G072RR01
4G072RR13
4G072RR25
4G072UU30
4K029AA24
4K029BA05
4K029BA15
4K029BA21
4K029BA35
4K029BB07
4K029BC03
4K029BD00
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC39
4K029EA03
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA13
5H050FA16
5H050GA24
5H050HA02
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】基板を加熱する必要がなく、1つの工程でシリコンナノワイヤーを製造することができる、シリコンナノワイヤーの製造方法、その製造方法で製造されたシリコンナノワイヤー群、およびシリコンナノワイヤー群を含む電池用電極を提供する。
【解決手段】シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体をターゲットとし、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材にスパッタリングを施して、前記基材上にシリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含むシリコンナノワイヤーを形成する、シリコンナノワイヤーの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体をターゲットとし、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材にスパッタリングを施して、前記基材上にシリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含むシリコンナノワイヤーを形成する、シリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記複合体における前記シリコンと前記スズおよび前記金の少なくとも一方の含有比が、元素比で、90:10~98:2である、請求項1に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
複数本のシリコンナノワイヤーが絡み合い、前記シリコンナノワイヤー同士の間に隙間が存在するシリコンナノワイヤー群であり、
前記シリコンナノワイヤーは、シリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、組成比で、90:10~98:2である、シリコンナノワイヤー群。
【請求項4】
請求項3に記載のシリコンナノワイヤー群を含む、電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンナノワイヤーの製造方法、その製造方法で製造されたシリコンナノワイヤー群、およびシリコンナノワイヤー群を含む電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極を構成する負極材料としては、例えば、グラファイト等の炭素材料が用いられている。また、電気自動車の普及を促進すること等を目的として、リチウムイオン二次電池の高容量化が求められている。しかしながら、炭素材料は、容量が小さいため、リチウムイオン二次電池の高容量化の達成には適した材料ではなかった。
【0003】
現在、次世代の高容量リチウムイオン二次電池に用いられる負極材料の開発が進められている。リチウムイオン二次電池の高容量化に寄与すると考えられる材料としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム、スズ等の14族元素が挙げられる。グラファイトは、リチウムと結合してLiC6となり、質量で規格化した容量が372mAh/gである。シリコンは、リチウムと結合してLi22Si5となり、質量で規格化した容量が4200mAh/gである。ゲルマニウムは、リチウムと結合してLi22Ge5となり、質量で規格化した容量が1670mAh/gである。スズは、リチウムと結合してLi22Sn5となり、質量で規格化した容量が993mAh/gである。従って、次世代の高容量リチウムイオン二次電池に用いられる負極材料としては、シリコンが有望であると考えられている。
【0004】
シリコンを負極材料として用いた場合、リチウムイオンを吸着すると負極が膨張し、リチウムイオンが脱離すると負極が収縮する。このような膨張、収縮を繰り返すと、負極に亀裂が生じて破壊し、負極が劣化するという課題があった。そこで、シリコンを負極材料として用いるためには、シリコンをナノサイズ化することや、ポーラス構造(多孔質構造)とすることが検討されている。
【0005】
ナノサイズであり、かつポーラス構造を有するシリコンとしては、例えば、シリコンナノワイヤーが挙げられる。
シリコンナノワイヤーの製造方法としては、例えば、非特許文献1~3に記載の方法が知られている。
非特許文献1に記載の方法では、次のようにして、シリコンナノワイヤーを製造することができる。固体基板上に、触媒となる合金液滴をドット状に滴下し、その合金液滴中に気相からシリコン原子を取り込み、液相合金を形成する。合金液滴はシリコン原子を急激に吸収できるため、合金液滴中のシリコン原子は短時間で過飽和となり、シリコン原子は液滴の底に沈殿する。固体基板と液相合金の境界でシリコン結晶の核が形成し、液相合金の根元からシリコン結晶がワイヤー状に軸方向に成長する。
【0006】
非特許文献2に記載の方法では、次のようにして、シリコンナノワイヤーを製造することができる。固体基板上に、DCスパッタで、厚さ2nm~20nmの金層を形成する。固体基板を700℃に加熱して、Ar/H2プラズマで、SiターゲットにRFマグネトロンスパッタリングを施して、シリコンナノワイヤーを形成する。
【0007】
非特許文献3に記載の方法では、次のようにして、シリコンナノワイヤーを製造することができる。固体基板上に、厚さ2nm~6nmのSn層を真空蒸着で形成する。固体基板を300℃に加熱し、水素プラズマ処理し、Sn層をナノサイズの液滴とする。固体基板を400℃に加熱して、SiH4/H2プラズマで、CVD(Chemical Vapor Deposition)を施して、シリコンナノワイヤーを形成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R.S.Wagner et al.,Appl.Phys.Lett.4,89(1964)
【非特許文献2】Yamada et al.,Applied Physics Express 8,066201(2015)
【非特許文献3】S. Misra et al.,J.Phys.Chem.C 117,17786-17790(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1のシリコンナノワイヤーの製造方法では、固体基板上にドット状の合金液滴を形成しなければならない上に、気相および液相合金を加熱する必要があった。
非特許文献2のシリコンナノワイヤーの製造方法では、固体基板上に金層を形成しなければならない上に、固体基板を700℃に加熱する必要があった。
非特許文献3のシリコンナノワイヤーの製造方法では、異なる3つの装置を用いた多段階プロセスが必要であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、基板を加熱する必要がなく、1つの工程でシリコンナノワイヤーを製造することができる、シリコンナノワイヤーの製造方法、その製造方法で製造されたシリコンナノワイヤー群、およびシリコンナノワイヤー群を含む電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を有する。
[1]シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体をターゲットとし、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材にスパッタリングを施して、前記基材上にシリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含むシリコンナノワイヤーを形成する、シリコンナノワイヤーの製造方法。
[2]前記複合体における前記シリコンと前記スズおよび前記金の少なくとも一方の含有比が、元素比で、90:10~98:2である、[1]に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
[3]複数本のシリコンナノワイヤーが絡み合い、前記シリコンナノワイヤー同士の間に隙間が存在するシリコンナノワイヤー群であり、
前記シリコンナノワイヤーは、シリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、組成比で、90:10~98:2である、シリコンナノワイヤー群。
[4][3]に記載のシリコンナノワイヤー群を含む、電池用電極。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板を加熱する必要がなく、1つの工程でシリコンナノワイヤーを製造することができる、シリコンナノワイヤーの製造方法、その製造方法で製造されたシリコンナノワイヤー、およびシリコンナノワイヤー群を含む電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシリコンナノワイヤーの製造方法で用いられるプラズマスパッタリング装置を示す模式図である。
【
図2】実験例1で形成したシリコン薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図3】実験例1で形成したシリコン薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】実験例2で形成したシリコン薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図5】実験例2で形成したシリコン薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】実験例3で形成したSiSn薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7】実験例3で形成したSiSn薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図8】実験例4で形成したSiSn薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図9】実験例4で形成したSiSn薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図10】実験例5で形成したシリコン薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図11】実験例5で形成したシリコン薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図12】実験例6で形成したシリコンナノワイヤー群からなる薄膜の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図13】実験例6で形成したシリコンナノワイヤー群からなる薄膜の厚さ方向の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図14】実験例1,2,5で得られたシリコン薄膜について、ラマンスペクトルを測定した結果を示す図である。
【
図15】実験例3,4,6で得られたSiSn薄膜(シリコンナノワイヤー群からなる薄膜)について、ラマンスペクトルを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法、その製造方法で製造されたシリコンナノワイヤー群、およびシリコンナノワイヤー群を含む電池用電極の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[シリコンナノワイヤーの製造方法]
本発明の一実施形態に係るシリコンナノワイヤーの製造方法は、シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体をターゲットとし、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材にスパッタリングを施して、前記基材上にシリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含むシリコンナノワイヤーを形成する。
【0016】
以下、
図1を参照して、本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法を説明する。
図1は、本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法で用いられるプラズマスパッタリング装置を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態で用いられるプラズマスパッタリング装置1は、チャンバ2と、真空ポンプ3と、高周波電源4と、を備える。また、チャンバ2は、ターゲット100を収納して固定する第1チャンバ21と、第1チャンバ21の外側に配置されて、第1チャンバ21を収容し、ヘリウムガスを導入する第2チャンバ22と、第1チャンバ21および第2チャンバ22の外側に配置されて、第1チャンバ21および第2チャンバ22の一部を収容する第3チャンバ23と、を有する。
【0017】
第1チャンバ21は、プラズマスパッタリング装置1の高さ方向の下面21aにおいて、ターゲット100の一部を露出する開口部21bを有する。
第2チャンバ22は、プラズマスパッタリング装置1の高さ方向の下面22aにおいて、第1チャンバ21の開口部21bと対向すると共に、第3チャンバ23と連通する開口部22bを有する。第1チャンバ21の下面21aと第2チャンバ22の下面22aは離間しており、第1チャンバ21の下面21aと第2チャンバ22の下面22aの間には第1空間αが形成されている。
第3チャンバ23は、第1チャンバ21におけるプラズマスパッタリング装置1の高さ方向の一端部(下部)21Aおよび第2チャンバ22におけるプラズマスパッタリング装置1の高さ方向の一端部(下部)22Aを収容する。すなわち、
図1に示すように、第2チャンバ22の下面22aと第3チャンバ23の内底面23aは離間しており、第2チャンバ22の下面22aと第3チャンバ23の内底面23aの間には第2空間βが形成されている。
第1チャンバ21、第2チャンバ22および第3チャンバ23は、密閉可能である。
【0018】
真空ポンプ3は、チャンバ2の底に接続されている。真空ポンプ3は、チャンバ2の底からヘリウムガスを排気している。
高周波電源4は、第1チャンバ21に接続されている。
【0019】
本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法では、例えば、下記の第1工程と、下記の第2工程と、下記の第3工程とをこの順に行う。
【0020】
「第1工程」
第1工程では、第1チャンバ21内において、第1チャンバ21の開口部21bと対向する位置に、ターゲット100を固定する。また、第3チャンバ23の内底面23aにおいて、第1チャンバ21の開口部21bおよび第2チャンバ22の開口部22bと対向する位置に、シリコンナノワイヤー200を形成する対象の基板110を載置する。
【0021】
第2チャンバ22の下面22aと基板110の主表面(
図1における上面)110aの距離dは、10mm以上30mm以下であることが好ましい。前記距離dが前記範囲内であれば、基板110の主表面110a上に、シリコンナノワイヤー200を形成することができる。
【0022】
ターゲット100は、シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体である。すなわち、ターゲット100は、シリコンおよびスズの2成分を含む場合、シリコンおよび金の2成分を含む場合、またはシリコン、スズおよび金の3成分を含む場合がある。ターゲット100におけるシリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、元素比で、90:10~98:2であることが好ましく、93:7~95:5であることがより好ましい。前記含有比が前記範囲内であれば、基板110の主表面110a上に、シリコンナノワイヤー200を形成することができる。
ターゲット100が、シリコン、スズおよび金の3成分を含む場合、スズと金の含有比が、元素比で、90:10~50:50であることが好ましい。
【0023】
「第2の工程」
第2の工程では、真空ポンプ3でチャンバ2内を真空排気する。
【0024】
「第3の工程」
第3の工程では、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材110にスパッタリングを施して、基板110の主表面110aにシリコンおよびスズを含むシリコンナノワイヤー200を形成する。詳細には、チャンバ2内にヘリウムガスを導入して、チャンバ2内に高周波電源4で電力を供給してヘリウムガスのプラズマPを生成し、ターゲット100に負のバイアスを印加する。プラズマPにより発生したイオン粒子をターゲット100に衝突させてスパッタ現象を起こし、ターゲット100を構成するシリコンおよびスズを含むシリコンナノワイヤー200を基板110の主表面110aに形成する。
【0025】
第3の工程において、高周波電源4でチャンバ2内に供給する電力は、周波数13.56MHzで、1インチの大きさのターゲット電極で、60W以上100W以下であることが好ましい。前記電力が前記範囲内であれば、基板110の主表面110a上に、シリコンナノワイヤー200を形成することができる。
【0026】
第3の工程において、チャンバ2内におけるヘリウムガスの圧力を80mTorr以上200mTorr以下とすることが好ましく、90mTorr以上110mTorr以下とすることがより好ましい。前記圧力が前記範囲内であれば、基板110の主表面110a上に、シリコンナノワイヤー200を形成することができる。
【0027】
第3の工程では、基板110を加熱しない。なお、チャンバ2内に生成したプラズマPにより、基板110の温度が上昇するが、本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法では、基板100を強制的に加熱しない。従って、第3の工程では、基板110の温度は300℃以下である。
【0028】
本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法によれば、シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む複合体をターゲット100とし、圧力が80mTorr以上200mTorr以下でヘリウムガスのプラズマで基材にスパッタリングを施して、基材110上にシリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含むシリコンナノワイヤー200を形成するため、基板110を加熱する必要がなく、1つの工程でシリコンナノワイヤーを製造することができる。
【0029】
従来、プラズマスパッタリン法を用いたシリコンナノワイヤーの製造方法では、シリコン材料をスパッタリングする前に、固体基板上に金属触媒となる金をナノスケールのドット状に配置し(前処理(1))、固体基板を700℃程度に加熱する(前処理(2))必要があった。これに対して、本実施形態のシリコンナノワイヤーの製造方法では、上記のように前処理(1)、(2)が不要であり、簡易的にシリコンナノワイヤーを製造できる。
【0030】
[シリコンナノワイヤー群]
本発明の一実施形態に係るシリコンナノワイヤー群は、本発明の一実施形態に係るシリコンナノワイヤーの製造方法で製造されたものである。
本実施形態のシリコンナノワイヤー群は、例えば、複数本のシリコンナノワイヤーが絡み合った形状をなしており、複数本のシリコンナノワイヤーの集合体である。言い換えれば、本実施形態のシリコンナノワイヤー群は、複数本のナノワイヤーが絡み合い、シリコンナノワイヤー同士の間に隙間が存在して、多孔質状をなしている。本実施形態において、シリコンナノワイヤーは、線形をなす結晶性の物質である。
【0031】
本実施形態のシリコンナノワイヤー群では、ナノワイヤーが、シリコン並びにスズおよび金の少なくとも一方を含む。すなわち、ナノワイヤーは、シリコンおよびスズの2成分を含む場合、シリコンおよび金の2成分を含む場合、またはシリコン、スズおよび金の3成分を含む場合がある。ナノワイヤーは、シリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、組成比で、90:10~98:2であり、シリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、組成比で、90:10~98:2であり、93:7~95:5であることが好ましい。
ナノワイヤーが、シリコン、スズおよび金の3成分を含む場合、スズと金の含有比が、組成比で、90:10~50:50であることが好ましい。
【0032】
シリコンナノワイヤー群におけるシリコンとスズの含有比は、高周波誘導結合プラズマ発光(ICP)分析装置、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光(SEM-EDX)分析装置によって測定することができる。
【0033】
本実施形態のシリコンナノワイヤー群は、膜密度が0.15g/cm3以上2.3g/cm3以下であることが好ましく、1.0g/cm3以上2.0g/cm3以下であることがより好ましい。膜密度が前記の範囲内であると、シリコンナノワイヤー群を、電池用電極に用いた場合に、充放電特性に優れる二次電池が得られる。
【0034】
本実施形態のシリコンナノワイヤー群は、複数本のシリコンナノワイヤーが絡み合い、前記ナノワイヤー同士の間に隙間が存在し、前記シリコンナノワイヤーは、シリコンとスズおよび金の少なくとも一方の含有比が、組成比で、90:10~98:2であり、ナノサイズであり、かつ多孔質状をなしているため、例えば、リチウムイオン二次電池の高容量化に寄与する負極材料として好適に用いることができる。
【0035】
本実施形態のシリコンナノワイヤー群は、太陽電池、マイクロデバイス、バイオセンサー等の用途に好適に用いることができる。
【0036】
[電池用電極]
本発明の一実施形態に係る電池用電極は、本発明の一実施形態に係るシリコンナノワイヤー群を含む。
【0037】
本実施形態の電池用電極は、集電体と、集電体上に存在する、本実施形態のシリコンナノワイヤー群を含む負極活物質層と、を有する。
【0038】
集電体は、金属材料からなる。金属材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられる。
負極活物質層は、さらに結着材を含んでもよい。
【0039】
本実施形態の電池用電極は、二次電池、太陽電池等の電極として好適に用いることができる。
【0040】
本実施形態の電池用電極は、本実施形態のシリコンナノワイヤー群を含むため、例えば、二次電池の負極として用いた場合に、従来の負極よりも二次電池の充放電特性を向上することができる。
【実施例0041】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0042】
[実験例1]
図1に示すものと同様のプラズマスパッタリング装置を用い、ターゲットとしてシリコンを用い、チャンバ内におけるアルゴンガスの圧力を15mTorrとして、基板の主表面にシリコン薄膜を形成した。
得られたシリコン薄膜を走査型電子顕微鏡(商品名:SU8010、日立ハイテク社製)で観察した。結果を
図2および
図3に示す。
図2に示す結果から、シリコン薄膜は平均粒子径が114nmのシリコン粒子で形成されていた。
図3に示す結果から、シリコン薄膜の厚さは1.61μmであった。シリコン粒子の平均粒子径およびシリコン薄膜の厚さは、走査型電子顕微鏡像から走査型電子顕微鏡装置付属ソフトを使用して測定した。
【0043】
[実験例2]
チャンバ内におけるアルゴンガスの圧力を100mTorrとしたこと以外は実験例1と同様にして、基板の主表面にシリコン薄膜を形成した。
得られたシリコン薄膜を実験例1と同様にして観察した。結果を
図4および
図5に示す。
図4に示す結果から、シリコン薄膜は平均粒子径が57.6nmのシリコン粒子で形成されていた。
図5に示す結果から、シリコン薄膜の厚さは516nmであった。実験例1と同様にして、シリコン粒子の平均粒子径およびシリコン薄膜の厚さを測定した。
【0044】
[実験例3]
ターゲットとして、シリコンとスズを含み、シリコンとスズの含有比が、元素比で、94:6であるものを用いたこと以外は実験例1と同様にして、基板の主表面にSiSn薄膜を形成した。
得られたSiSn薄膜を実験例1と同様にして観察した。結果を
図6および
図7に示す。
図6に示す結果から、SiSn薄膜は平均粒子径が208nmのSiSn粒子で形成されていた。実験例1と同様にして、SiSn粒子の平均粒子径およびSiSn薄膜の厚さを測定した。また、得られたSiSn薄膜におけるシリコンとスズの含有比が、元素比で、89.1:10.9であった。SiSn薄膜におけるシリコンとスズの含有比の測定には、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光(SEM-EDX)分析装置(走査型電子顕微鏡 商品名:SU8010、日立ハイテク社製、検出器 商品名:EDX OCTANE SUPER、AMETEK社製)を用いた。
図7に示す結果から、SiSn薄膜の厚さは1.56μmであった。
【0045】
[実験例4]
チャンバ内におけるアルゴンガスの圧力を100mTorrとしたこと以外は実験例3と同様にして、基板の主表面にSiSn薄膜を形成した。
得られたSiSn薄膜を実験例1と同様にして観察した。結果を
図8および
図9に示す。
図8に示す結果から、SiSn薄膜は平均粒子径が202nmのシリコンナノワイヤー群で形成されていた。SiSn薄膜は、ポーラス構造を有していた。実験例1と同様にして、シリコンナノワイヤー群を構成するシリコンナノワイヤーの平均粒子径およびSiSn薄膜の厚さを測定した。また、得られたSiSn薄膜におけるシリコンとスズの含有比が、元素比で、91.6:8.4であった。実験例3と同様にして、シリコンとスズの含有比を測定した。
図9に示す結果から、SiSn薄膜の厚さは1.72μmであった。
【0046】
[実験例5]
図1に示すものと同様のプラズマスパッタリング装置を用い、ターゲットとしてシリコンを用い、チャンバ2内におけるヘリウムガスの圧力を100mTorrとして、基板の主表面にシリコン薄膜を形成した。
得られたシリコン薄膜を実験例1と同様にして観察した。結果を
図10および
図11に示す。
図10に示す膜表面の写真の結果から、シリコン薄膜は平均粒子径が60.0nmのシリコン粒子で形成されていた。実験例1と同様にして、シリコン粒子の平均粒子径を測定した。また、
図11に示す膜表面の写真の結果から、シリコン薄膜の厚さは3.50μmであった。実験例7と同様にして、シリコン薄膜の厚さを測定した。
【0047】
[実験例6]
ターゲットとして、シリコンとスズを含み、シリコンとスズの含有比が、元素比で、94:6であるものを用いたこと以外は実験例7と同様にして、基板の主表面にシリコンナノワイヤー群からなる薄膜を形成した。
得られたシリコンナノワイヤーからなる薄膜を実験例1と同様にして観察した。結果を
図12および
図13に示す。
図12に示す膜表面の写真の結果から、シリコンナノワイヤー群からなる薄膜は平均直径が287nmのシリコンナノワイヤーで形成されていた。実験例1と同様にして、シリコンナノワイヤーの平均粒子径を測定した。また、
図13に示す膜表面の写真の結果から、シリコンナノワイヤー群からなる薄膜の厚さは28.4μmであった。実験例1と同様にして、シリコンナノワイヤー群からなる薄膜の厚さを測定した。また、得られたシリコンナノワイヤー群におけるシリコンとスズの含有比が、元素比で、95.2:4.8であった。
【0048】
[実験例7]
実験例1,2,5で得られたシリコン薄膜について、ラマンスペクトルを測定した。ラマンスペクトルの測定には、ラマン分光装置(商品名:トリプルラマン分光装置 T64000、堀場製作所社製)を用いた。結果を
図14に示す。
図14に示す結果から、アルゴンプラズマでは、得られたシリコン薄膜はアモルファス構造であり、ヘリウムプラズマでは、得られたシリコン薄膜は結晶構造であることが分かった。
【0049】
[実験例8]
実験例3,4,6で得られたSiSn薄膜について、実験例8と同様にして、ラマンスペクトルを測定した。結果を
図15に示す。
図15に示す結果から、アルゴンプラズマでは、得られたSiSn薄膜はアモルファス構造であり、ヘリウムプラズマでは、得られたSiSn薄膜(シリコンナノワイヤー群からなる薄膜)は結晶構造であることが分かった。
本発明によって得られるシリコンナノワイヤーは、センサー、電子デバイス、電池等に利用可能な有力な材料であり、特にリチウムイオン二次電池陽負極材料として高い能力を有している。シリコンナノワイヤーを簡易的に製造するプロセスはこれまでに報告されていない。