(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182297
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/16 20060101AFI20231219BHJP
F16F 15/123 20060101ALI20231219BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20231219BHJP
F16F 15/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F16F15/16 H
F16F15/123 D
F16F15/134 A
F16F15/10 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095825
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遊間 康平
(57)【要約】
【課題】ダンパ装置の減衰性能を確保する。
【解決手段】ダンパ装置は、第1突起部が形成されて且つグリースが収容されるダンパ室を備え、エンジンのクランク軸に連結される第1回転部材を有する。前記ダンパ装置は、前記ダンパ室に収容される第2突起部を備え、変速機構の入力軸に連結される第2回転部材を有する。前記ダンパ装置は、前記ダンパ室内の前記第1突起部と前記第2突起部との間に配置され、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転によって伸縮するスプリングユニットを有する。前記ダンパ装置は、前記グリースの粘度を増加させる添加剤が充填される充填室を備え、前記ダンパ室に収容される添加剤供給機構を有する。前記添加剤供給機構は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転角度が閾値を上回る場合に、前記充填室から前記ダンパ室に前記添加剤を供給する供給状態に作動する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機構との間に設けられるダンパ装置であって、
第1突起部が形成されて且つグリースが収容されるダンパ室を備え、前記エンジンのクランク軸に連結される第1回転部材と、
前記ダンパ室に収容される第2突起部を備え、前記変速機構の入力軸に連結される第2回転部材と、
前記ダンパ室内の前記第1突起部と前記第2突起部との間に配置され、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転によって伸縮するスプリングユニットと、
前記グリースの粘度を増加させる添加剤が充填される充填室を備え、前記ダンパ室に収容される添加剤供給機構と、
を有し、
前記添加剤供給機構は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転角度が閾値を上回る場合に、前記充填室から前記ダンパ室に前記添加剤を供給する供給状態に作動する、
ダンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記添加剤供給機構は、前記充填室を区画するシリンダと、前記シリンダに収容されるピストンと、前記ピストンに連結されるロッドと、を備えており、
前記添加剤供給機構は、前記スプリングユニットに前記ロッドが押されることによって前記供給状態に作動する、
ダンパ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記スプリングユニットは、コイルスプリングを備えており、
前記添加剤供給機構は、前記コイルスプリングの内側に配置されている、
ダンパ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記スプリングユニットは、互いに直列に配置される第1コイルスプリングおよび第2コイルスプリングを備えており、
前記第1コイルスプリングのバネ定数は、前記第2コイルスプリングのバネ定数よりも大きく、
前記添加剤供給機構は、前記第1コイルスプリングの内側に配置されている、
ダンパ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記スプリングユニットの第1端部には、前記第1突起部および前記第2突起部に対向する第1スプリングシートが設けられており、
前記スプリングユニットの第2端部には、前記第1突起部および前記第2突起部に対向する第2スプリングシートが設けられている、
ダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと変速機構との間に設けられるダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと変速機構との間には、スプリングを備えたダンパ装置が設けられている。また、ダンパ装置に対して減衰力を与える観点から、ダンパ装置にはグリースが注入されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダンパ装置の減衰力はグリースの撹拌抵抗によって得られるため、経年劣化によってグリースの粘度が低下した場合には、ダンパ装置の減衰性能が低下してしまう虞がある。このため、ダンパ装置の減衰性能を確保することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、ダンパ装置の減衰性能を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態のダンパ装置は、エンジンと変速機構との間に設けられるダンパ装置であって、第1突起部が形成されて且つグリースが収容されるダンパ室を備え、前記エンジンのクランク軸に連結される第1回転部材と、前記ダンパ室に収容される第2突起部を備え、前記変速機構の入力軸に連結される第2回転部材と、前記ダンパ室内の前記第1突起部と前記第2突起部との間に配置され、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転によって伸縮するスプリングユニットと、前記グリースの粘度を増加させる添加剤が充填される充填室を備え、前記ダンパ室に収容される添加剤供給機構と、を有し、前記添加剤供給機構は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転角度が閾値を上回る場合に、前記充填室から前記ダンパ室に前記添加剤を供給する供給状態に作動する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、添加剤供給機構は、第1回転部材と第2回転部材との相対回転角度が閾値を上回る場合に、充填室からダンパ室に添加剤を供給する供給状態に作動する。これにより、グリースの粘度を増加させることができ、ダンパ装置の減衰性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】エンジンとトランスミッションとの接続部位を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態であるダンパ装置を示す図である。
【
図4】
図3のA-A線に沿うダンパ装置の断面図である。
【
図5】ダンパ装置のドライブ状態およびコースト状態を示す図である。
【
図6】ダンパ装置の作動特性の一例を示す図である。
【
図10】ダンパ装置の減衰特性の一例を示す図である。
【
図11】本発明の他実施形態であるダンパ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両]
図1は車両10の一例を示す図である。
図1に示すように、車両10にはパワートレイン11が搭載されており、このパワートレイン11はエンジン12とこれに連結されるトランスミッション13とを有している。また、パワートレイン11の出力軸14には、プロペラ軸15およびデファレンシャル機構16を介して車輪17が連結されている。図示するパワートレイン11は、後輪駆動用のパワートレインであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や全輪駆動用のパワートレインであっても良い。
【0011】
[エンジンとトランスミッションとの接続部位]
図2はエンジン12とトランスミッション13との接続部位を示す図である。
図2に示すように、内燃機関であるエンジン12にはクランク軸20が設けられており、トランスミッション13の手動変速機構(変速機構)21には変速入力軸(入力軸)22が設けられている。また、エンジン12と手動変速機構21との間には、ダンパ装置23および入力クラッチ24が設けられている。このように、エンジン12と手動変速機構21との間に設けられるダンパ装置23は、クランク軸20に連結される第1フライホイール(第1回転部材)30と、入力クラッチ24を介して変速入力軸22に連結される第2フライホイール(第2回転部材)40と、を有している。なお、図示するダンパ装置23は、デュアルマスフライホイールとも呼ばれている。
【0012】
ダンパ装置23の第1フライホイール30は、クランク軸20に連結されるホイールハブ31と、ホイールハブ31に固定される第1ディスク32と、第1ディスク32に固定される環状カバー33と、を有している。第1フライホイール30には、第1ディスク32および環状カバー33によってダンパ室34が区画されている。また、第1ディスク32には、ダンパ室34内に突出する一対の突起部(第1突起部)35a,35bが形成されている。さらに、ダンパ装置23の第2フライホイール40は、ホイールハブ31に軸受41を介して支持される中空軸42と、中空軸42に固定される第2ディスク43と、中空軸42に固定される円盤状の締結プレート44と、を有している。第2ディスク43には、径方向外側に延びるとともにダンパ室34に収容される一対の突起片(第2突起部)45a,45bが形成されている。
【0013】
第1フライホイール30のダンパ室34には、複数のコイルスプリングからなる一対のスプリングユニット50,60が収容されている。また、第1フライホイール30のダンパ室34には、スプリングユニット50,60等を潤滑するためのグリースX1が注入されている。後述するように、第1フライホイール30の突起部35a,35bと、第2フライホイール40の突起片45a,45bとは、一対のスプリングユニット50,60を介して互いに連結されている。つまり、加速走行時には、第1フライホイール30から第2フライホイール40に対し、スプリングユニット50,60を介してトルクが伝達される。一方、減速走行時には、第2フライホイール40から第1フライホイール30に対し、スプリングユニット50,60を介してトルクが伝達される。また、第1フライホイール30には、図示しないスタータモータのピニオンが噛み合うリングギア36が固定されている。
【0014】
入力クラッチ24は、ダンパ装置23の締結プレート44に連結されるクラッチカバー70と、変速入力軸22に連結されるクラッチディスク71と、を有している。クラッチカバー70の内側には、ダイヤフラム型のクラッチスプリング72と、環状のプレッシャプレート73と、が組み込まれている。また、クラッチスプリング72の中央部には、レリーズベアリング74が配置されている。さらに、ミッションケース75には、レリーズフォーク76が傾動可能に設けられるとともに、レリーズフォーク76を作動させるレリーズシリンダ77が設けられている。なお、運転者によって図示しないクラッチペダルが踏み込まれると、レリーズフォーク76によってレリーズベアリング74がクラッチスプリング72に向けて押し込まれ、入力クラッチ24は解放状態に制御される。一方、運転者によるクラッチペダルの踏み込みが解除されると、クラッチスプリング72によってレリーズベアリング74が押し戻され、入力クラッチ24は締結状態に制御される。
【0015】
[ダンパ装置]
ダンパ装置23の構造について詳細に説明する。
図3は本発明の一実施形態であるダンパ装置23を示す図であり、
図4は
図3のA-A線に沿うダンパ装置23の断面図である。
図3に示すように、第1フライホイール30の環状カバー33と第2フライホイール40の中空軸42との間にはオイルシール78が組み付けられており、第1フライホイール30のホイールハブ31と第2フライホイール40の中空軸42との間にはオイルシール79が組み付けられている。前述したように、第1フライホイール30のダンパ室34にはグリースが収容されることから、ダンパ室34はオイルシール78,79によって密閉されている。
【0016】
図3および
図4に示すように、第1フライホイール30には、180°位相をずらして一対の突起部35a,35bが形成されており、第2フライホイール40には、180°位相をずらして一対の突起片45a,45bが形成されている。ダンパ装置23の無負荷状態においては、突起部35aと突起片45aとが互いに対向しており、突起部35bと突起片45bとが互いに対向している。また、第1フライホイール30のダンパ室34には、円弧状に延びる一対のスプリングユニット50,60が収容されている。ダンパ装置23の周方向において、スプリングユニット50の第1端部51は、突起部35bおよび突起片45bに対向しており、スプリングユニット50の第2端部52は、突起部35aおよび突起片45aに対向している。また、スプリングユニット60の第1端部61は、突起部35aおよび突起片45aに対向しており、スプリングユニット60の第2端部62は、突起部35bおよび突起片45bに対向している。つまり、双方のスプリングユニット50,60は、ダンパ室34内における突起部35a,35bと突起片45a,45bとの間に配置されている。
【0017】
各スプリングユニット50,60は、3つのコイルスプリング81,82,83および4つのスプリングシート84,85,86,87によって構成されている。スプリングシート84とスプリングシート85との間にはコイルスプリング(第1コイルスプリング)81が配置されている。また、スプリングシート85とスプリングシート86との間にはコイルスプリング(第2コイルスプリング)82が配置されており、スプリングシート86とスプリングシート87との間にはコイルスプリング83が配置されている。つまり、スプリングユニット50,60の第1端部51,61にはスプリングシート(第1スプリングシート)84が設けられており、スプリングユニット50,60の第2端部52,62にはスプリングシート(第2スプリングシート)87が設けられている。また、コイルスプリング81のバネ定数は、コイルスプリング82,83のバネ定数よりも、大きく設計されている。
【0018】
第1フライホイール30のダンパ室34には、シリンダ92およびピストン93からなる供給機構90が収容されている。
図4の拡大部分に示すように、供給機構(添加剤供給機構)90は、スプリングシート84とスプリングシート85との間に配置されるとともに、コイルスプリング81の内側に配置されている。また、供給機構90は、充填室91を区画するシリンダ92と、シリンダ92に収容されるピストン93と、ピストン93に連結されるロッド94と、を有している。シリンダ92はスプリングシート84に取り付けられており、シリンダ92内にはピストン93を付勢するリターンスプリング95が設けられている。また、シリンダ92の側面には供給ポート96が形成されるとともに、シリンダ92内の充填室91にはグリースの粘度を増加させる添加剤X2が充填されている。
【0019】
充填室91に充填される添加剤X2としては、グリースの粘度を増加させるものであれば如何なる添加剤を用いても良い。例えば、充填室91内の添加剤X2として、酸化還元反応を起こすための酸化抑制剤を用いても良い。また、充填室91内の添加剤X2として、ダンパ室34内のグリースと同じグリースを用いても良く、ダンパ室34内のグリースよりも高粘度のグリースを用いても良い。また、充填室91内の添加剤X2として、グリースを構成する石けん系や非石けん系の増ちょう剤を用いても良い。なお、ダンパ室34内に充填されるグリースは、基油、増ちょう剤および添加剤によって構成される。
【0020】
[ダンパ装置の捩り動作]
図5はダンパ装置23のドライブ状態およびコースト状態を示す図である。また、
図6はダンパ装置23の作動特性の一例を示す図である。
図6にはダンパ装置23の伝達トルクおよび捩り角度との関係が示されている。また、ダンパ装置23の捩り角度とは、第1フライホイール30と第2フライホイール40との相対回転角度を意味している。なお、ダンパ装置23がトルクを伝達する際には、第1フライホイール30と第2フライホイール40とが所定角度で相対回転しつつ、双方のフライホイール30,40が一体となって回転することは言うまでもない。
【0021】
図5においては、第1フライホイール30と第2フライホイール40との相対位置を明確にするため、第1フライホイール30には目印として仮想点P1が付されており、第2フライホイール40には目印として仮想点P2が付されている。
図5に示される中立位置Nは、ダンパ装置23の捩り角度が0°であるときに仮想点P1,P2が重なる位置である。また、
図5に示される上限位置Pduは、ダンパ装置23の捩り角度がドライブ側の上限角度に達したときに仮想点P1が重なる位置である。さらに、
図5に示される上限位置Pcuは、ダンパ装置23の捩り角度がコースト側の上限角度に達したときに仮想点P1が重なる位置である。
【0022】
前述したように、第1フライホイール30はクランク軸20に連結されており、第2フライホイール40は入力クラッチ24を介して変速入力軸22に連結されている。このため、加速走行において第1フライホイール30から第2フライホイール40にトルクが伝達される際には、第1フライホイール30が第2フライホイール40に対してドライブ側に相対回転する。つまり、
図5に矢印α1で示すように、第1フライホイール30が第2フライホイール40に対してドライブ側に所定角度で回転することになる。このとき、第2フライホイール40の突起片45a,45bはスプリングシート84に接触しており、第1フライホイール30の突起部35a,35bはスプリングシート87に接触している。
【0023】
このため、ダンパ装置23に作用する伝達トルクの大きさに応じて、コイルスプリング81,82,83は圧縮されるとともに、スプリングシート84,85,86,87は互いに接近する。また、
図5に示すように、第1フライホイール30がドライブ側の上限位置Pduまで回転し、ダンパ装置23の捩り角度が上限角度Duに到達すると、スプリングシート84,85,86,87が互いに接触してフライホイール30,40の相対回転が制限される。つまり、
図6に矢印α2で示すように、ダンパ装置23がドライブ状態で作動する際には、ダンパ装置23に作用する伝達トルクの大きさに応じて、第1フライホイール30と第2フライホイール40との相対回転角度が0°と上限角度Duとの間で変化する。なお、図示する例では、コイルスプリング82,83はコイルスプリング81よりも低剛性であるため、ダンパ装置23の捩り角度が所定角度Daに到達すると、スプリングシート84,85よりも先に、スプリングシート85,86,87が互いに接触することになる。
【0024】
一方、減速走行において第2フライホイール40から第1フライホイール30にトルクが伝達される際には、第1フライホイール30が第2フライホイール40に対してコースト側に相対回転する。つまり、
図5に矢印β1で示すように、第1フライホイール30が第2フライホイール40に対してコースト側に所定角度で回転することになる。このとき、第2フライホイール40の突起片45a,45bはスプリングシート87に接触しており、第1フライホイール30の突起部35a,35bはスプリングシート84に接触している。
【0025】
このため、ダンパ装置23に作用する伝達トルクの大きさに応じて、コイルスプリング81,82,83は圧縮されるとともに、スプリングシート84,85,86,87は互いに接近する。また、
図5に示すように、第1フライホイール30がコースト側の上限位置Pcuまで回転し、ダンパ装置23の捩り角度が上限角度Cuに到達すると、スプリングシート84,85,86,87が互いに接触してフライホイール30,40の相対回転が制限される。つまり、
図6に矢印β2で示すように、ダンパ装置23がコースト状態で作動する際には、ダンパ装置23に作用する伝達トルクの大きさに応じて、第1フライホイール30と第2フライホイール40との相対回転角度が0°と上限角度Cuとの間で変化する。なお、図示する例では、コイルスプリング82,83はコイルスプリング81よりも低剛性であるため、ダンパ装置23の捩り角度が所定角度Caに到達すると、スプリングシート84,85よりも先に、スプリングシート85,86,87が互いに接触することになる。
【0026】
[添加剤の供給動作]
供給機構90による添加剤の供給動作について説明する。
図7,
図8,
図9はドライブ状態のダンパ装置23を示す図である。
図7、
図8、
図9の順に、ダンパ装置23の捩り角度が増加する状況が示されている。つまり、
図7には捩り角度D1で動作するダンパ装置23が示されており、
図8には捩り角度D2で動作するダンパ装置23が示されており、
図9には捩り角度D3で動作するダンパ装置23が示されている。なお、
図7,
図8,
図9に示した捩り角度D1,D2,D3と、
図6に示した捩り角度D1,D2,D3とは、互いに一致している。
【0027】
図7に示すように、第1フライホイール30が所定位置Pd1まで相対回転する場合、つまりダンパ装置23の捩り角度が「D1」である場合には、ロッド94とスプリングシート85との間に隙間Gが設けられている。この場合には、スプリングシート85によってロッド94が押し込まれることはなく、供給機構90はダンパ室34に添加剤を供給しない停止状態に保持される。続いて、
図8に示すように、第1フライホイール30が所定位置Pd2まで相対回転し、ダンパ装置23の捩り角度が「D2」に到達すると、ロッド94とスプリングシート85との隙間が解消され、ロッド94に対してスプリングシート85が接触し始める。
【0028】
その後、
図9に示すように、第1フライホイール30が所定位置Pd2を超えて相対回転し、ダンパ装置23の捩り角度が「D2」を上回ると、スプリングシート85によってロッド94が押し込まれる。つまり、
図9に示すように、ダンパ装置23の捩り角度が「D2」を上回る「D3」である場合には、矢印a1で示すように、充填室91を縮小させる方向にロッド94およびピストン93が押し込まれ、矢印a2で示すように、シリンダ92の充填室91から供給ポート96を通って添加剤X2が押し出される。つまり、圧縮されるスプリングユニット50,60によってロッド94が押され、供給機構90は添加剤X2を供給する供給状態に作動する。
【0029】
このように、ダンパ装置23の捩り角度が所定角度D2を上回る場合、つまり第1フライホイール30と第2フライホイール40との相対回転角度が所定角度(閾値)D2を上回る場合に、供給機構90はダンパ室34に添加剤を供給する供給状態に作動する。つまり、
図6に示すように、ダンパ装置23の捩り角度が、所定角度D2と上限角度Duとの間の範囲Xaに入ると、供給機構90からダンパ室34内のグリースに対して酸化抑制剤等の添加剤が供給される。これにより、添加剤によってグリースの粘度を回復させることができ、ダンパ装置23の減衰性能を確保することができる。
【0030】
すなわち、ダンパ装置23の捩り角度が変化する際には、伸縮するスプリングユニット50,60によってダンパ室34内のグリースX1が撹拌されるため、グリースX1の撹拌抵抗によってダンパ装置23に減衰力が与えられている。このため、経年劣化によってグリースX1の粘度が低下した場合には、グリースX1の撹拌抵抗つまり減衰力が減少してダンパ装置23の減衰性能が低下することになる。そこで、ダンパ装置23の減衰性能低下に伴って捩り角度が過度に増加した場合、つまりダンパ装置23の捩り角度が所定角度D2を上回る場合には、供給機構90からグリースX1に対して添加剤X2を供給している。これにより、グリースX1の粘度を回復させることができ、ダンパ装置23を適切に機能させることができる。
【0031】
図10はダンパ装置23の減衰特性の一例を示す図である。
図10に示す状況とは、経年劣化によってグリースの粘度が低下することにより、ダンパ装置23の減衰特性が特性線L1から特性線L2に変化する状況である。この状況のもとで、ダンパ装置23に対して伝達トルクTdが作用すると、ダンパ装置23の捩り角度が「D4a」から「D4b」に増加することになる。しかしながら、前述したように、ダンパ装置23の捩り角度が所定角度D2を上回ると、供給機構90からグリースに対して添加剤が供給されるため、グリースの粘度を回復させることができる。つまり、
図10に矢印b1で示すように、ダンパ装置23の減衰特性を特性線L1に近づけることができるため、ダンパ装置23に伝達トルクTdが作用した場合であっても、矢印b2で示すように、ダンパ装置23の捩り角度の増加を抑制することができる。
【0032】
前述の説明では、ダンパ装置23のドライブ状態における供給機構90の作動について説明したが、ダンパ装置23のコースト状態においても供給機構90が同様に作動することは言うまでもない。つまり、
図6に示すように、コースト側にトルクを伝達するダンパ装置23の捩り角度が、所定角度(閾値)C2と上限角度Cuとの間の範囲Xbに入ると、
図9に示した状況と同様に、供給機構90は添加剤を放出する供給状態に作動する。これにより、グリースの粘度を添加剤によって回復させることができ、ダンパ装置23を適切に機能させることができる。
【0033】
また、
図4に示すように、ダンパ装置23に設けられる供給機構90は、コイルスプリング81の内側に配置されている。これにより、ダンパ室34内のスペースを有効活用することができるため、供給機構90を備えたダンパ装置23の大型化を防止することができる。さらに、ダンパ装置23に設けられるスプリングユニット50,60は、互いに直列に配置される高剛性のコイルスプリング81と低剛性のコイルスプリング82,83とを有している。そして、ダンパ装置23に設けられる供給機構90は、高剛性のコイルスプリング81の内側に配置されている。これにより、グリースが劣化してダンパ装置23の捩り角度が過度に増加するまで、供給機構90のロッド94がスプリングシート85によって押されることがなく、供給機構90を適切に機能させることができる。
【0034】
また、スプリングユニット50,60の第1端部51,61には、突起部35a,35bおよび突起片45a,45bに対向するスプリングシート84が設けられており、スプリングユニット50,60の第2端部52,62には、突起部35a,35bおよび突起片45a,45bに対向するスプリングシート87が設けられている。これにより、ダンパ装置23がドライブ状態に作動する場合には、スプリングユニット50,60の第1端部51,61に対して第2フライホイール40を適切に接触させることができ、スプリングユニット50,60の第2端部52,62に対して第1フライホイール30を適切に接触させることができる。一方、ダンパ装置23がコースト状態に作動する場合には、スプリングユニット50,60の第1端部51,61に対して第1フライホイール30を適切に接触させることができ、スプリングユニット50,60の第2端部52,62に対して第2フライホイール40を適切に接触させることができる。
【0035】
[他実施形態]
前述の説明では、3つのコイルスプリング81,82,83および4つのスプリングシート84,85,86,87からなるスプリングユニット50,60を用いているが、これに限られることはなく、コイルスプリングおよびスプリングシートの個数を変更しても良い。ここで、
図11は本発明の他実施形態であるダンパ装置100を示す図である。なお、
図11において、
図4に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図11に示すように、ダンパ装置100には円弧状に延びる一対のスプリングユニット101,102が設けられており、各スプリングユニット101,102はダンパ室34内の突起部35a,35bと突起片45a,45bとの間に配置されている。各スプリングユニット101,102は、1つのコイルスプリング103および2つのスプリングシート104,105によって構成されている。
【0037】
つまり、スプリングユニット101,102の第1端部111,121には、突起部35a,35bおよび突起片45a,45bに対向するスプリングシート(第1スプリングシート)104が設けられており、スプリングユニット101,102の第2端部112,122には、突起部35a,35bおよび突起片45a,45bに対向するスプリングシート(第2スプリングシート)105が設けられている。添加剤を放出する供給機構90は、スプリングシート104とスプリングシート105との間に配置されるとともに、コイルスプリング103の内側に配置されている。
【0038】
このように、ダンパ装置100を構成した場合であっても、ダンパ装置100の捩り角度が過度に増加した場合には、前述したダンパ装置23と同様に、供給状態に作動する供給機構90からダンパ室34内のグリースX1に対して酸化抑制剤等の添加剤X2を供給することができる。これにより、添加剤X2によってグリースX1の粘度を回復させることができ、ダンパ装置100の減衰性能を確保することができる。
【0039】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。前述の説明では、トランスミッション13に変速機構として手動変速機構21を設けているが、これに限られることはなく、変速機構として自動変速機構や無段変速機構を設けても良い。また、前述の説明では、エンジン12と変速機構との間に、ダンパ装置23および入力クラッチ24を設けているが、これに限られることはない。例えば、エンジン12と変速機構との間に、ダンパ装置23およびトルクコンバータを設けても良い。
【0040】
前述の説明では、ダンパ装置23,100に2つのスプリングユニット50,60,101,102を設けているが、これに限られることはない。例えば、ダンパ装置23,100に1つのスプリングユニットを設けても良く、ダンパ装置23,100に3つ以上のスプリングユニットを設けても良い。なお、ダンパ装置23,100に1つのスプリングユニットが設けられる場合には、第1フライホイール30には1つの突起部が形成され、第2フライホイール40には1つの突起片が形成される。また、ダンパ装置23,100に3つ以上のスプリングユニットが設けられる場合には、第1フライホイール30には3つ以上の突起部が形成され、第2フライホイール40には3つ以上の突起片が形成される。
【0041】
前述の説明では、ダンパ装置23,100に2つの供給機構90を設けているが、これに限られることはない。例えば、ダンパ装置23,100に1つの供給機構90を設けても良く、ダンパ装置23,100に3つ以上の供給機構90を設けても良い。また、図示する例では、供給機構90のシリンダ92やロッド94を円弧状に湾曲させているが、これに限られることはなく、供給機構90のシリンダ92やロッド94を直線状に伸ばしても良い。また、前述の説明では、供給機構90をシリンダ92およびピストン93等を用いて構成しているが、これに限られることはなく、ダンパ装置23の捩り角度に応じて添加剤が供給可能であれば、如何なる構造によって供給機構を構成しても良い。また、供給機構90からの不要な添加剤の流出を回避するため、シリンダ92の供給ポート96に対してリード弁や逆止弁等を設けても良い。つまり、ダンパ装置23の捩り角度が閾値を上回るまでは、シリンダ92の供給ポート96をリード弁や逆止弁等によって閉じても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 車両
12 エンジン
20 クランク軸
21 手動変速機構(変速機構)
22 変速入力軸(入力軸)
23 ダンパ装置
30 第1フライホイール(第1回転部材)
34 ダンパ室
35a,35b 突起部(第1突起部)
40 第2フライホイール(第2回転部材)
45a,45b 突起片(第2突起部)
50 スプリングユニット
51 第1端部
52 第2端部
60 スプリングユニット
61 第1端部
62 第2端部
81 コイルスプリング(第1コイルスプリング)
82 コイルスプリング(第2コイルスプリング)
84 スプリングシート(第1スプリングシート)
87 スプリングシート(第2スプリングシート)
90 供給機構(添加剤供給機構)
91 充填室
92 シリンダ
93 ピストン
94 ロッド
100 ダンパ装置
101 スプリングユニット
102 スプリングユニット
103 コイルスプリング
104 スプリングシート(第1スプリングシート)
105 スプリングシート(第2スプリングシート)
111 第1端部
112 第2端部
121 第1端部
122 第2端部
D2 所定角度(閾値)
C2 所定角度(閾値)
グリース X1
添加剤 X2