(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182327
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231219BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231219BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231219BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20231219BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231219BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/449
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095861
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】池沼 達也
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021AA02
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH03
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】セパレータのシャットダウンタイミングのばらつきを抑制すること。
【解決手段】正極板と負極板がセパレータを介して積層され回された電極体を備えた非水電解液二次電池であって、電極体の内側セパレータ120bの厚さTh
INを、外側セパレータ120aの厚さTh
OUTより厚くして、電極体内側のセパレータの単位面積[cm
2]当たりの熱容量[J/K]を大きくした。また、内側セパレータ120bと外側のセパレータ120aとは、いずれも比較的融点の低い第1の樹脂からなる第1の層を比較的融点が高い第2の樹脂からなる一対の第2の層で挟むように構成され、第1の層に対する第2の層の比率が電極体の内側セパレータ120bの方が大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板がセパレータを介して積層された電極体を備えた非水電解液二次電池であって、
前記電極体の内側のセパレータの厚さThINを、前記電極体の外側のセパレータの厚さThOUTより厚くして、電極体内側のセパレータの単位面積[cm2]当たりの熱容量[J/K]を大きくしたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記電極体の内側のセパレータの厚さThINと前記電極体の外側のセパレータの厚さThOUTとは、過充電の状態の前記電極体の内側のセパレータの温度と外側のセパレータの温度差を緩和する熱容量の差となるように設定されたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記電極体の積層数を外側/内側/外側において1/2/1で分割し、
前記電極体の内側のセパレータの厚さをThINとし、前記電極体の外側のセパレータの厚さをThOUTとし、総積層数をLNとし、係数をαとしたとき、前記電極体の内側のセパレータの厚さThINを厚さThIN=厚さThOUT×(1+係数α×総積層数LN)で求めることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記電極体の内側のセパレータと前記電極体の外側のセパレータとは、いずれも比較的融点の低い第1の樹脂からなる第1の層を比較的融点が高い第2の樹脂からなる一対の第2の層で挟むように構成され、前記第1の層に対する前記第2の層の比率が前記電極体の内側のセパレータの方が大きいことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記第1の樹脂がポリエチレン(PE)であり、前記第2の樹脂がポロプロピレン(PP)であることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記電極体の内側のセパレータの温度と前記電極体の外側のセパレータの温度差に応じて前記電極体の内側のセパレータのシャットダウンタイミングと前記電極体の外側のセパレータのシャットダウンタイミングが近接するように前記第1の層に対する前記第2の層の比率が設定されていることを特徴とする請求項5に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に係り、詳しくはセパレータのシャットダウンタイミングのばらつきが少ない非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池では、電気自動車などの電源として利用するため、多数のセル電池を直列・並列に接続し、高電圧・高電流を供給するようになっている。そのため、多数のセル電池をコンパクトに積載するため、電極板を多数積層した積層型の電池が用いられている。さらに、冷却効率を高めたり、極板同士を密着させたりするため、薄型の積層型電極体のセル電池が用いられることが多くなった。
【0003】
このような扁平状の電極体では、正極板と負極板とがセパレータを介して積層されている。セパレータは、正極板と負極板とが短絡を起こさないようにするとともに、電解質を交流させるために多孔質の樹脂材料からなる。このような非水電解液二次電池では、過充電などに起因して電極体の温度が上昇してしまうことがある。このような場合は、設定温度になると、セパレータが溶解することでイオンの交流を遮断し、電極間の反応を停止させる。
【0004】
たとえば特許文献1には、電池外層部には溶融温度の低いポリエチレン製(PE)セパレータを用い、電池内部には溶融温度の高いポリプロピレン製(PP)セパレータを用いる電池が記載されている。過充電等による発熱時には外部側セパレータからシャットダウン現象が生じる。そして外部側発電要素から過充電が停止して放電が開始され、その後内部側発電要素においても充電が停止して放電が開始される。電池外部側は冷却が効率よく行われるので、この領域の発熱を早期に停止し温度上昇を抑制しておくことにより、電池内部の放熱性をも向上させることができる。また電池全体で時間をかけて放電するので、放電時の温度上昇率を低減することができるとするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、過充電等による発熱時に外部側セパレータから先行してシャットダウン現象が生じる。この場合電池内部側の電極体に電流が集中し、かえって過充電が進行し過熱する場合があるという問題があった。
【0007】
また、従来からあるような電極体のセパレータを同一の構成とすると、先に内部側のセパレータがシャットダウンするが、この場合は電池外部側の電極体に電流が集中し、やはり過充電が進行し過熱する場合があるという問題があった。
【0008】
本発明の非水電解液二次電池が解決しようとする課題は、セパレータのシャットダウンタイミングのばらつきを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水電解液二次電池は、正極板と負極板がセパレータを介して積層された電極体を備えた非水電解液二次電池であって、前記電極体の内側のセパレータの厚さThINを、前記電極体の外側のセパレータの厚さThOUTより厚くして、電極体内側のセパレータの単位面積[cm2]当たりの熱容量[J/K]を大きくしたことを特徴とする。
【0010】
前記電極体の内側のセパレータの厚さThINと前記電極体の外側のセパレータの厚さThOUTとは、過充電の状態の前記電極体の内側のセパレータの温度と外側のセパレータの温度差を緩和する熱容量の差となるように設定することが望ましい。
【0011】
また、前記電極体の積層数を外側/内側/外側において1/2/1で分割し、前記電極体の内側のセパレータの厚さをThINとし、前記電極体の外側のセパレータの厚さをThOUTとし、総積層数をLNとし、係数をαとしたとき、前記電極体の内側のセパレータの厚さThINを、厚さThIN=厚さThOUT×(1+係数α×総積層数LN)で求めることができる。
【0012】
前記電極体の内側のセパレータと前記電極体の外側のセパレータとは、いずれも比較的融点の低い第1の樹脂からなる第1の層を比較的融点が高い第2の樹脂からなる一対の第2の層で挟むように構成され、前記第1の層に対する前記第2の層の比率が前記電極体の内側のセパレータの方が大きくすることができる。
【0013】
前記第1の樹脂がポリエチレン(PE)であり、前記第2の樹脂がポロプロピレン(PP)であってもよい。
前記電極体の内側のセパレータの温度と前記電極体の外側のセパレータの温度差に応じて前記電極体の内側のセパレータのシャットダウンタイミングと前記電極体の外側のセパレータのシャットダウンタイミングが近接するように前記第1の層に対する前記第2の層の比率が設定することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水電解液二次電池は、セパレータのシャットダウンタイミングのばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す斜視図である。
【
図4】電極体の内側のセパレータと外側のセパレータの位置を示す模式図である。
【
図5】電極体の内側と外側の構成を示す模式図である。
【
図6】電極体の外側のセパレータの構成を示す模式図である。
【
図7】電極体の内側のセパレータの構成を示す模式図である。
【
図8】本実施形態のセパレータの電圧と温度を示すグラフである。
【
図9】従来技術のセパレータの電圧と温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本実施形態の概要)
<本実施形態の原理>
従来技術で述べたように、特許文献1では、過充電等による発熱時に外部側セパレータから先行してシャットダウン現象が生じる。この場合電池内部側の電極体に電流が集中し、かえって過充電が進行し過熱する場合があるという問題があった。
【0017】
そこで本発明者らは、このような問題を解決するには、セパレータのシャットダウンタイミングのばらつきを抑制することにより解決することができることに着目した。
このような目的達成の為には、次の2つの方法がある。1つは電極体10(
図4参照)内での内外温度差ΔTmp[°C]を縮めることである。具体的には、
図5に示す内側INの内側セパレータ120bの厚さTh
IN[μm]を、外側OUTの外側セパレータの厚さTh
OUT[μm]よりも厚くする。このことで内側セパレータ120bの単位面積UA[cm
2]あたりの熱容量HC[J/K]を増やし、内外温度差ΔTmp[°C]を縮めることで実現できる。
【0018】
2つ目は内外温度差ΔTmp[°C]を許容し、内側セパレータ120bのシャットダウン温度STIN[°C]の方が、外側セパレータ120aのシャットダウン温度STOUT[°C]よりも温度が高いセパレータ120を使用する。このことでシャットダウンタイミングを近接させることができる。
【0019】
さらにこのような2つの方法を組み合わせることもできる。
以下、本発明を、リチウムイオン二次電池1の一実施形態を一例に
図1~9を参照して詳細に説明する。
【0020】
(本実施形態の具体的構成)
<リチウムイオン二次電池1の基本構成>
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の構成を簡単に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の斜視図である。
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11を封止する蓋体12を備える。電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11内には注液孔18から非水電解液17が注入される。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池1は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極外部端子14、正極外部端子16を備えている。
【0022】
<電極体10>
図2は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す斜視図である。
図3は、電極体10の積層体の分解斜視図である。
図2に示す電極体10は、
図3に示すように、負極板100と正極板110とセパレータ120が積層されて構成されている。負極板100は、負極基材101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極基材111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と、正極板110は、セパレータ120を介して重ねて積層された電極体10が構成される。
【0023】
負極板100の上部の一端に上方に突出して形成された負極接続部103は、負極板100の負極合材層102から電気を取り出す集電部として機能する。正極板110の上部の他端に上方に突出して形成された正極接続部113は、正極板110の正極合材層112から電気を取り出す集電部として機能する。
【0024】
<電極体10の端部構成>
図2の積層された電極体10の斜視図において、リチウムイオン二次電池1の長手方向と平行な方向を「幅方向W」とする。また、電極体10の面と直交する方向を「厚さ方向T」という。また、幅方向W及び厚さ方向Tと直交する方向を「長さ方向L」という。
【0025】
電極体10は幅方向Wと直交する厚さ方向Tからプレス機による扁平プレス工程で、扁平な形状に整形される。扁平プレス工程で電極間はセパレータ120を介して密着される。負極接続部103は圧縮され負極集電体13が溶接される。正極接続部113は圧縮され正極集電体15が溶接される。接続部と集電体との溶接方法としては、例えば超音波溶接や抵抗溶接、電気溶接がある。そして、蓋体12を貫通して負極集電体13には負極外部端子14が接続され、正極集電体15には正極外部端子16が接続される。そして、
図1に示すように扁平な電極体10は、蓋体12とともに電池ケース11に収容される。
【0026】
<セパレータ120>
図3に示すセパレータ120は、負極板100及び正極板110の間の絶縁体であるとともに非水電解液17を保持するためのシートである。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。正極板110と負極板100は、このセパレータ120に保持された非水電解液17を介してリチウムイオン(Li
+)に交換を行うことで充放電を行う。
【0027】
<外側セパレータ120aと内側セパレータ120b>
図4は、電極体10の外側の外側セパレータ120aと内側の内側セパレータ120bの位置を示す模式図である。
図4において左右方向が厚さ方向Tとなる。
図4では、負極板100及び正極板110を省略し、セパレータ120のみを示している。本実施形態の電極体10の積層数LNは64層であるが、
図4ではセパレータ120の積層数は簡略化して表示している。本実施形態のセパレータ120は、
図4に示すように電極体10の内側に配置される内側セパレータ120bと、電極体10の外側に配置される外側セパレータ120aとからなる。
【0028】
本実施形態では、
図4に示す電極体10の厚さ方向T(図において左右方向)において、均等に4分割して、電極体10の両端の外側に配置された部分を「外側」という。また、電極体10の中心に近い内側に配置された部分を「内側」という。
【0029】
ここで、本実施形態では
図3に示すように電極体10は、「セパレータ-負極板-セパレータ-正極板」の組み合わせからなる積層体が積層されているが、この組み合わせを「1層」という。すなわち、本実施形態では、
図4に示すように電極体10の積層数LN(ここでは64層)を外側/内側/外側において1/2/1で分割している。したがって、外側に16層、内側に32層、反対の外側に16層の積層体がある。なお、両端にはセパレータ120が必ず配置される。
【0030】
ここで、
図6は、電極体10の外側に配置される外側セパレータ120aの構成を示す模式図である。また、
図7は、電極体10の内側に配置される内側セパレータ120bの構成を示す模式図である。これらの構成は、実施例2又は3に相当する構成である。
【0031】
図6、
図7に示すように外側セパレータ120a、内側セパレータ120bは、いずれも中心に比較的融点の低い第1の樹脂(ここではポリエチレン(PE))の不織布からなる第1の層L
INを備える。またこの第1の層L
INを挟む比較的融点が高い第2の樹脂(ここではポロプロピレン(PP))の不織布からなる一対の第2の層L
OUTで挟むように3層で構成される。内側の第1の層L
INに対する外側の第2の層L
OUTの比率Rが内側セパレータ120bの方が大きくなるように構成されている。仮にPEの層が先に溶融しても、PPの層により正極板110と負極板100は短絡することはない。また、PE層が溶融すると、多孔質の不織布からなる第1の層L
INは空隙が封止されて、リチウムイオン(L
+)の移動は遮断される。したがって、シャットダウンにより電池の主反応は停止し、シャットダウンした部分に関してはそれ以上過充電となることはなく、過熱状態も抑制できる。なお、PPとPEは、組み合わせると融点は、PPとPEの融点の中間となる。このため、第1の層L
INと第2の層L
OUTの比率Rを変更することで、融点を制御することができる。そのため、外側セパレータ120aのシャットダウン温度ST
OUT[°C]と、内側セパレータ120bのシャットダウン温度ST
IN[°C]をそれぞれ設定することができる。
【0032】
<負極板100>
負極基材101の両面に負極合材層102が形成されて負極板100が構成されている。負極基材101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極基材101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極基材101上に負極合材層102が形成される。第1の実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0033】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材を負極基材101に塗布して乾燥することで作製される。
<正極板110>
正極基材111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極基材111は、実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極基材111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0034】
正極板110は、正極基材111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0035】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0036】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材111に塗布して乾燥することで作製される。
<非水電解液17>
非水電解液17は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等を用いることができる。またこれらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0037】
(実施例)
従来のリチウムイオン二次電池1の過充電末期では電極体10の表面と電極体10の最内層で内外温度差ΔTmpが15~25℃程度生じる。このような温度差による電極体10の内外のシャットダウンタイミングのズレを縮めるには下記のような方法を提案できる。
【0038】
(実施例1)
実施例1は、電極体10の内側セパレータ120bの厚さThINを、外側セパレータ120aの厚さThOUTより厚くする。これにより電極体10の内側セパレータ120bの単位面積[cm2]当たりの熱容量[J/K]を大きくしたことを特徴とするものである。なお、実施例1では、外側セパレータ120aと内側セパレータ120bの材質は共通のもので、その融点は同一である。セパレータの単位面積UA[cm2]あたりの熱容量HC[J/K]を厚さのみで調整している。この場合、電極体10の内側セパレータ120bの厚さThINと電極体10の外側セパレータ120aの厚さThOUTとは、以下のように設定する。すなわち過充電の状態の電極体10の内側セパレータ120bの温度TmpIN[°C]と外側セパレータ120aの温度TmpOUT[°C]との内外温度差ΔTmp[°C]を緩和する熱容量HC[J/K]の差となるように設定する。
【0039】
本実施例では具体的には、電極体10の積層数LNを外側/内側/外側において1/2/1で分割する。本実施形態では、電極体10の積層数LNが64層であるので、外側/内側/外側は、16層/32層/16層となる。内側セパレータ120bの厚さをThINとし、外側セパレータ120aの厚さをThOUTとし、総積層数をLNとし、係数をαとしたとき、前記電極体の内側のセパレータの厚さThINを以下の式1で求める。
【0040】
厚さThIN=厚さThOUT×(1+係数α×総積層数LN)…式1
<電極体内外温度差ΔTmp縮小によるシャットダウンタイミング合せ>
上述のとおりシャットダウンタイミングを縮める手段の1つとして電極体内外温度差ΔTmpを縮小することが挙げられる。具体的にはセパレータの厚さによる電極体10内外に熱容量HC[J/K]に差を付けて内外温度差ΔTmpを緩和することで実現可能になる。例えば、内外温度差ΔTmp=15℃(例えば最内周130℃、最外周145℃)を解消するためには、最外周に対し最内周の熱容量比は145/130であればよい。セパレータ120の厚さTh[μm]でこれを達成するには、外側セパレータ120aの厚さThOUT[μm]と内側セパレータ120bの厚さThIN[μm]の厚さ比ThIN/ThOUTが、1.7[倍]になるよう設計すればよい。なお、内外温度差ΔTmpを縮小すればよいので、必ずしも1.7[倍]とする必要はなく、内外温度差ΔTmpを緩和できればよい。
【0041】
電極体10の積層数LNによって内外温度差ΔTmpは変化するため、電極体10の積層数LNに基づいて内外温度差ΔTmpを縮めるための設計方法を、厚さThIN=厚さThOUT×(1+係数α×総積層数LN)…式1として一般化した。
【0042】
ここで、具体的には、積層数LNを外側/内側/外側を、1/2/1の比で分割した場合、内側セパレータ120bの厚さThIN[μm]は、外側セパレータ120aの厚さThOUT[μm]が下記の関係式になるよう設計することが望ましい。
【0043】
厚さThIN[μm]=厚さThOUT[μm]×(1+0.0055×総積層数LN)
例えば、総積層数LN=64層の場合は、厚さThIN[μm]は、厚さThOUT[μm]の1.35倍となる。なお、係数αは、この例に限定するものではなく本実施形態の発明を適用する電池により当業者が最適化することができることは言うまでもない。
【0044】
<実施例1の作用>
図8は、本実施形態の外側セパレータ120a、内側セパレータ120bの時間[秒]と電圧[V]と温度[°C]を示すグラフである。
図9は、従来技術の外側セパレータ120a、内側セパレータ120bの時間[秒]と電圧[V]と温度[°C]を示すグラフである。横軸は、経過時間[秒]を示し、左の縦軸は電池電圧のグラフG1の電圧[V]を示す。また、右の縦軸は、内側セパレータ120bのTmp
IN[°C]を示すグラフG3、G3´、及び外側セパレータ120aの温度Tmp
OUT[°C]を示すグラフG3の温度[°C]を示す。
【0045】
図9に示すように、従来は、過充電が生じると、時間の経過とともに電池電圧V[V]が上昇する。このとき、電極体10自身も発熱し、外側セパレータ120a、内側セパレータ120bの温度[°C]も上昇する。このとき、外側セパレータ120aと内側セパレータ120bの構成は同一で、熱容量HC[J/K]も同一であった。このため、電極体10は、外側よりも内側の温度が高くなる。その結果、内側セパレータ120bの温度Tmp
IN[°C]は、外側セパレータ120aの温度Tmp
OUT[°C]よりも早く上昇する。
【0046】
外側セパレータ120aと内側セパレータ120bの構成は同一で、外側セパレータ120aのシャットダウン温度STOUT[°C]と、内側セパレータ120bのシャットダウン温度STIN[°C]も同一になっている。その結果、内側セパレータ120bの方が早くシャットダウン温度STIN[°C]に到達してしまう。そうすると、先にシャットダウンした内側セパレータ120bにより電極体10の内側部分はイオンや電子が流れず、イオンや電子は、電極体10の外側部分に集中して流れる。その結果、電極体10の外側部分はさらに過充電が進行して、外側セパレータ120aの温度も上昇する。
【0047】
実施例1に示すリチウムイオン二次電池1では、内側セパレータ120bの厚さThIN[μm]は、外側セパレータ120aの厚さThOUT[μm]より厚くなっている。このため、内側セパレータ120bの熱容量HC[J/K]は、外側セパレータ120aの熱容量HC[J/K]より大きくなっている。つまり、電極体10が発熱したとき、内側セパレータ120bは、外側セパレータ120aよりも温度が上昇しにくい。
【0048】
図9に示す内側セパレータ120bのTmp
IN[°C]を示すグラフG2と比べると、
図8に示す実施例1の内側セパレータ120bの温度Tmp
IN[°C]を示すグラフG2´は、上昇が少ない。その結果、実施例1の内側セパレータ120bの温度上昇を示すグラフG2´は、外側セパレータ120aのTmp
OUT[°C]を示すグラフG3とほぼ同一の曲線となっている。このため、電極体10が過充電により過熱した場合、内側セパレータ120bのTmp
IN[°C]と、外側セパレータ120aの温度Tmp
OUT[°C]は、同じように上昇する。そして、ほぼ同じタイミングで、シャットダウン温度ST[°C]に達するため、ほぼ同じタイミングでシャットダウンする。このため、電極体10の内側若しくは外側の一方に大きな電流が流れて、さらに過充電が進行することを抑制する。
【0049】
(実施例2)
図6は、電極体10の外側に配置される外側セパレータ120aの構成を示す模式図である。また、
図8は、電極体10の内側に配置される内側セパレータ120bの構成を示す模式図である。
【0050】
実施例1では、外側セパレータ120aの厚さTh
OUT[μm]と、内側セパレータ120bの厚さTh
IN[μm]が異なるが、その材質は共通のものであった。一方、実施例2は、電極体10の外側と内側で異なる構成としてシャットダウン温度ST[°C]の異なるセパレータ120の使用によるシャットダウンタイミングを合せる発明である。なお、説明のため参照する
図6及び
図7の外側セパレータ120aの厚さTh
OUT[μm]と、内側セパレータ120bの厚さTh
IN[μm]が異なる。但し、実施例2では、外側セパレータ120aの厚さTh
OUT[μm]と、内側セパレータ120bの厚さTh
IN[μm]が同じであることを条件とする。
【0051】
電極体10の内側セパレータ120bと外側セパレータ120aとは、いずれも比較的融点の低い第1の樹脂からなる第1の層LINを比較的融点が高い第2の樹脂からなる一対の第2の層LOUTで挟むように構成される。第1の層LINに対する第2の層LOUTの比率Rが内側セパレータ120bの方が大きく設定されている。
【0052】
本実施形態では、この第1の樹脂がポリエチレン(PE)であり、第2の樹脂がポロプロピレン(PP)である。
電極体10内外でのシャットダウンタイミングを縮める方法の2つ目として、セパレータ120のシャットダウン温度ST[°C]の異なるセパレータ120を電極体10内外に使用する。例えばPE単層は130℃近く、PP単層は150℃近くにシャットダウン温度を持ち、これらを組み合わせたPP/PE/PPは140℃付近にシャットダウン温度を持つ。よって、これらを組み合わせることで内側セパレータ120bと外側セパレータ120aのシャットダウン温度ST[°C]を調整することができる。
【0053】
図6に示すように、外側セパレータ120aは、それぞれが外側に配置されたPPからなる一対の第2の層L
OUTは、その幅が、幅Th
PP1となっている。また、一対の第2の層L
OUTに挟まれたPEからなる第2の層L
OUTは、その幅が、幅Th
PE1となっている。このとき、第1の層L
INに対する第2の層L
OUTの比率Rは、R=Th
PP1×2/Th
PE1で算出される。
【0054】
図7は、内側セパレータ120bは、それぞれが外側に配置されたPPからなる一対の第2の層L
OUTは、その幅が、幅Th
PP2となっている。また、一対の第2の層L
OUTに挟まれたPEからなる第2の層L
OUTは、その幅が、幅Th
PE2となっている。このとき、第1の層L
INに対する第2の層L
OUTの比率Rは、R=Th
PP2×2/Th
PE2で算出される。
【0055】
ここで、
図6に示す外側セパレータ120aの比率Rは、
図7に示す内側セパレータ120bの比率Rよりも小さくなっている。すなわち、融点の低いPEに対して融点の高いPPの割合が多いため、外側セパレータ120aのシャットダウン温度ST
OUT[°C]は、内側セパレータ120bのシャットダウン温度ST
IN[°C]よりも、低く設定されている。
【0056】
図6に示す外側セパレータ120aも、
図7に示す内側セパレータ120bも、PP/PE/PPの組み合わせとなっている。
この場合、
図6に示す外側セパレータ120aをすべてPEからなるものとして、融点を低く設定しても良く、また
図7に示す内側セパレータ120bをすべてPPからなるものとして、融点を高く設定することもできる。
【0057】
本実施例でも設計も積層数LNによりセパレータ120のシャットダウン温度ST[°C]を調整する必要がある。積層数LNを外側/内側/外側と1/2/1の比で分割した際に、内側と外側の平均温度差は「総積層数LN×0.22[°C]」となる。これらを加味し、PE単層(130℃付近)、PP/PE/PP(130~150℃付近PP/PE/PP比を変えることで調整可能)、PP単層(150℃)を使い分けるとシャットダウン温度を調整可能になる。
【0058】
(実施例3)
実施例1では、セパレータ120の厚さThに着目して、シャットダウンタイミングが合うように調整している。また、実施例2では、セパレータ120の材質に着目してシャットダウンタイミングが合うように調整している。上記実施形態では、実施例1と実施例2を組み合わせたこの実施例3を説明している。
【0059】
当業者によれば、電極体10の内側セパレータ120bの温度TmpIN[°C]と、外側セパレータ120aの温度TmpOUT[°C]の温度差ΔTmp[°C]に応じてセパレータ120の厚さThと、材質を変更することができる。
【0060】
例えば実施例1では、内側セパレータ120b/外側セパレータ120aの厚さ比ThIN/ThOUTが1.7[倍]でないとシャットダウン温度を合わせることが出来なかった。一方、実施例3では、セパレータの材質を変更することでセパレータ120の厚さ比ThIN/ThOUTが1.3[倍]でも、シャットダウンタイミングのずれを抑制することができる。
【0061】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池では、セパレータ120のシャットダウンタイミングのばらつきを抑制することができるという効果がある。
【0062】
(2)実施例1のように、セパレータ120の厚さThを、過充電を想定して算出した厚さThとして、熱容量HC[J/K]を調整している。そのため、過熱時の温度上昇をほぼ同じに設定できるという効果がある。
【0063】
(3)電極体10の積層数LNを外側/内側/外側において1/2/1で分割し、内側セパレータ120bの厚さをThINとし、外側セパレータ120aの厚さをThOUTとし、総積層数をLNとし、係数をαとする。このとき、電極体10の内側セパレータ120bの厚さThINを、厚さThIN=厚さThOUT×(1+係数α×総積層数LN)で求めることができる。このため、簡易な計算で内側セパレータ120bの厚さThINと外側セパレータ120aの厚さThOUTとを設定することができるという効果がある。
【0064】
(4)実施例2のように、内側セパレータ120bと外側セパレータ120aを、いずれも比較的融点の低い第1の樹脂からなる第1の層LINを比較的融点が高い第2の樹脂からなる一対の第2の層LOUTで挟むように構成されている。第1の層LINはPEを用い、第2の層LOUTはPPを用いることで、これらの融点の中間の融点とすることができる。そして第1の層LINに対する第2の層LOUTの比率Rが内側セパレータ120bの方が大きくなるように設定している。このように一般的に入手できる異なる材料を用いることで、簡単に所望のシャットダウン温度ST[°C]とすることができる。そのため、対象となる電池の特性に合わせて、シャットダウン温度ST[°C]を変更して、シャッタダウンタイミングを一致させることができるという効果がある。
【0065】
(5)さらに、実施例1と実施例2の技術的思想を組合せば、さらに対象となる電池の特性に合わせてシャットダウンタイミングを一致させることができるという効果がある。
(別例)
○本実施形態では、電極体10を矩形の負極板100、正極板110、セパレータ120を積層した積層型の電極体10を例に本発明を説明した。本発明はこれに限定されず、長尺の負極板100、正極板110、セパレータ120を円柱形に捲回して積層したものでもよい。さらにこれを扁平にして、断面が競技トラックのように整形した捲回した電極体10にも適用できる。
【0066】
○本実施形態では、説明の単純化のため、総積層数LNを64層とし、外側両端を16層を「外側」として、内側32層を「内側」としているが、これに限らず、「外側」と「内側」の積層数LNが異なるようなものであってもよい。
【0067】
○また、「外側」と「内側」の間に「中間部」を設けて、セパレータ120の厚さThや第1の層に対する第2の層の比率Rを異なるものとしてもよい。
○もちろんさらに細分化してもよいことは言うまでもない。
【0068】
○実施形態では、セパレータ120の材質として、PP/PE/PPの三層構造や、PPまたはPEの単層構造のものを例示したが本発明は、これらに限定されない。例えばセパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を使用できる。またこれらを単独、又は組み合わせて使用することもできる。
【0069】
○本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、本発明の非水電解液二次電池の一例であり、図示したような板状の車載用のリチウムイオン二次電池1の形状に限定されるものではない。また、車載用に限定されるものでもなく、家庭や工場の定置用の電池にも適用できる。また、電池ケースもアルミニウム等の金属製に限らず樹脂やセラミック製のケースでもよい。
【0070】
○例示した数値範囲は、本実施形態における望ましい実施形態の例示であり、本発明はこれらの数値限定に限定されるものではなく、当業者により最適化されることはいうまでもない。電池の特性はもちろん、過充電の程度や環境温度によっても、シャットダウンタイミングは異なってくるが、本発明は、シャットダウンタイミングを完全に一致させることが目的ではない。その電池の使用態様に合わせて当業者がずれを抑制する条件を適宜設定し、それに合わせた数値範囲を最適化できることは言うまでもない。
【0071】
○本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、当業者により、その構成を付加し、削除し、又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
G1、G2、G2´、G3…グラフ
W…幅方向W
T…厚さ方向
L…長さ方向L
Th[μm]…セパレータの厚さ
ThIN[μm]…内側セパレータの厚さ
ThOUT[μm]…外側セパレータの厚さ
ThIN/ThOUT…厚さ比
UA[cm2]…セパレータの単位面積
HC[J/K]…熱容量
TmpIN[°C]…内側セパレータの温度
TmpOUT[°C]…外側セパレータの温度
ΔTmp[°C]…内外温度差
ST[°C]…シャットダウン温度
STIN[°C]…シャットダウン温度
STOUT[°C]…シャットダウン温度
LN…電極体の(総)積層数
α…係数
LIN…第1の層
ThPE1、ThPE2…(第1の層の)幅
LOUT…第2の層
ThPP1、ThPP2…(第2の層の)幅
R…第1の層に対する第2の層の比率
1…リチウムイオン二次電池
10…電極体
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極集電体
14…負極外部端子
15…正極集電体
16…正極外部端子
17…非水電解液
100…負極板
101…負極基材
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極基材
112…正極合材層
113…正極接続部
120…セパレータ
120a…外側セパレータ
120b…内側セパレータ