(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182331
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231219BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095867
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】浅井 亨太
(72)【発明者】
【氏名】難波 明博
(72)【発明者】
【氏名】石塚 典男
(72)【発明者】
【氏名】徳山 健
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770JA09X
5H770JA11W
5H770PA12
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA11
5H770QA22
(57)【要約】
【課題】
パワーモジュールの両面冷却によって冷却性能を向上し、かつ、封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制する。
【解決手段】
電力変換装置(100)は、直流電力を交流電力に変換する複数のパワーモジュール(201)と、複数のパワーモジュール(201)に直流電力を伝達する直流配線(22)と、複数のパワーモジュール(201)を配置し、直流配線(22)を実装した回路基板(30)と、複数のパワーモジュール(201)と回路基板(30)とを覆って封止したモールド樹脂(23)と、を備え、モールド樹脂(23)は、複数のパワーモジュール(201)の周囲にシール面部(231、232)を有し、シール面部(231、232)の厚さは、複数のパワーモジュール(201)を封止する領域の厚さより薄い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換する複数のパワーモジュールと、
複数の前記パワーモジュールに直流電力を伝達する直流配線と、
複数の前記パワーモジュールを配置し、前記直流配線を実装した回路基板と、
複数の前記パワーモジュールと前記回路基板とを覆って封止したモールド樹脂と、
を備え、
前記モールド樹脂は、複数の前記パワーモジュールの周囲にシール面部を有し、
前記シール面部の厚さは、複数の前記パワーモジュールを封止する領域の厚さより薄い
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記シール面部は、前記回路基板上部に形成された第1シール面部と、前記第1シール面部とは前記回路基板に対して反対側に形成された第2シール面部と、を有し、
前記第1シール面部及び前記第2シール面部は、前記回路基板に対して同じ厚みで形成されている
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
複数の前記パワーモジュールは、上アーム回路を構成する第1パワーモジュールと、下アーム回路を構成する第2パワーモジュールと、で構成された1相分の回路を3相分有し、
複数の前記パワーモジュールは、前記直流配線の伸びる方向から見た場合に、並列に配置されている
電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置であって、
各パワーモジュールの間には、前記モールド樹脂にスリットが形成されている
電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記回路基板の上下に、前記回路基板との間にて流路を形成する流路形成体をそれぞれ備え、複数の前記パワーモジュールの上下それぞれを冷媒により冷却する
電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置であって、
前記シール面部の周縁部に前記流路形成体を挟持した流路形成体挟持部を有する
電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記モールド樹脂の前記シール面部は、光沢表面であり、
前記モールド樹脂の前記シール面部以外の表面は、梨地表面である
電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記直流配線は、2つの前記パワーモジュールで構成された1相分の回路に流入する電流が流れる正極電源端子導体と、2つの前記パワーモジュールで構成された1相分の回路から流出する電流が流れる負極電源端子導体と、を有し、
前記正極電源端子導体及び前記負極電源端子導体は、積層されている
電力変換装置。
【請求項9】
請求項5に記載の電力変換装置であって、
前記直流配線には、前記流路形成体の外部に正極端子及び負極端子を有するコンデンサが搭載され、
前記正極端子及び前記負極端子は、複数の前記パワーモジュールから見た場合に、並列に配置されている
電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記モールド樹脂は、複数の前記パワーモジュールと前記回路基板とを前記回路基板の上下にて覆って封止する
電力変換装置。
【請求項11】
請求項2に記載の電力変換装置であって、
前記第1シール面部及び前記第2シール面部は、前記回路基板に対して厚み方向で重なる同じ形状で形成されている
電力変換装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電力変換装置であって、
前記第1シール面部及び前記第2シール面部は、同じ体積で形成されている
電力変換装置。
【請求項13】
請求項3に記載の電力変換装置であって、
前記シール面部は、複数の前記パワーモジュールが並列に配置された方向の両側にて、前記回路基板からそれぞれはみ出ている
電力変換装置。
【請求項14】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
複数の前記パワーモジュールのそれぞれは、IGBTと、ダイオードと、前記IGBT及び前記ダイオードの下部に配置されたコレクタ導体板と、前記IGBT及び前記ダイオードの上部に配置されたエミッタ導体板と、によって構成され、
前記コレクタ導体板及び前記エミッタ導体板には、1以下の屈曲部が設けられ、
前記コレクタ導体板及び前記エミッタ導体板は、前記回路基板上部の前記直流配線に接続されている
電力変換装置。
【請求項15】
請求項14に記載の電力変換装置であって、
前記コレクタ導体板は、前記コレクタ導体板の前記回路基板上部に突出した部位から屈曲部無く直線状に延長されて前記回路基板上部の前記直流配線に接続されている
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特にハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータに交流電流を供給する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置では、出力の増大が求められている一方、製造性の向上も要求されている。電力変換装置のパワーモジュールが1相分の上アーム回路又は下アーム回路を1つのモジュールとして、かつ3相分設ける場合には、6個のモジュールを設ける必要がある。そのため、パワーモジュールの製造性の向上が重要になる。
【0003】
一方で、製造性の向上とともに冷却性能の向上も重要な課題であり、冷却性能が低い場合には、電力変換装置の出力増大の妨げとなってしまう。車載用の電力変換装置は、産業用などと比較すると温度変化の大きい環境で使用される。このため、高温の環境に置かれていながら高い信頼性を維持できる電力変換装置が要求されている。
【0004】
特許文献1に記載の電力変換装置は、金属ベースと、金属ベースの上面における周縁部を除く領域に配置された絶縁基板と、絶縁基板の上面に搭載された半導体素子と、金属ベースの上面における周縁部に接着剤により接着され、半導体素子の側面を囲繞する樹脂ケースと、樹脂ケース内に充填され、半導体素子を封止する封止樹脂と、を備える。金属ベースの上面における周縁部には、接着剤を充填する溝部が形成されている。このような構成によれば、樹脂ケースの厚みが薄い場合にも、封止樹脂の漏れと絶縁不良の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のパワーモジュール(半導体装置)では、半導体素子を封止する封止樹脂が金属ベースと樹脂ケースで覆われており、これらの剛性により封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制している。しかし、本構造では、パワーモジュールの下面を冷却面として採用する片面冷却であるため、パワーモジュールの上下両面を冷却する両面冷却に比べて冷却性能が低い課題がある。
【0007】
本発明の目的は、パワーモジュールの両面冷却によって冷却性能を向上し、かつ、封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による電力変換装置は、直流電力を交流電力に変換する複数のパワーモジュールと、複数の前記パワーモジュールに直流電力を伝達する直流配線と、複数の前記パワーモジュールを配置し、前記直流配線を実装した回路基板と、複数の前記パワーモジュールと前記回路基板とを覆って封止したモールド樹脂と、を備え、前記モールド樹脂は、複数の前記パワーモジュールの周囲にシール面部を有し、前記シール面部の厚さは、複数の前記パワーモジュールを封止する領域の厚さより薄い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電力変換装置によれば、パワーモジュールの両面冷却によって冷却性能を向上し、かつ、封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を示す概略平面図であって、流路形成体を省略して示した図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を示す概略平面図であって、モールド樹脂を省略して示した図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る第1パワーモジュールを示す概略上面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る第1パワーモジュールを示す概略斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る第1パワーモジュールを示す概略断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る第2パワーモジュールを示す概略上面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係る第2パワーモジュールを示す概略斜視図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係る第2パワーモジュールを示す概略断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置を示す概略平面図であって、流路形成体を省略して示した図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る電力変換装置を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る電力変換装置を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定解釈されるものではなく、公知の他の構成要素を組み合わせて本発明の技術思想を実現してもよい。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。また、各図においてU方向が上方向であり、D方向が下方向であり、F方向が正面方向であり、B方向が背面方向であり、R方向が右方向であり、L方向が左方向である。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る電力変換装置100を示す概略平面図である。なお、
図1では、流路形成体25(
図2参照)の図示が省略されている。
図2は、本実施形態に係る電力変換装置100を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。
図3は、本実施形態に係る電力変換装置100を示す概略平面図である。なお、
図3では、モールド樹脂23(
図2参照)の図示が省略されている。
【0013】
電力変換装置100は、バッテリなどからの直流電力を電動機に供給する交流電力に変換するものである。電力変換装置100は、3相分の上アーム回路及び下アーム回路を構成する。電力変換装置100は、上アーム回路を構成する第1パワーモジュール201と、下アーム回路を構成する第2パワーモジュール202と、で構成された1相分の回路を3相分有する。
【0014】
電力変換装置100は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202に直流電力を伝達する直流配線22と、交流出力端子導体33と、電力変換装置100に印加される電圧を平滑化するコンデンサ40と、制御信号を伝達する制御回路50と、これら全てを搭載したプリント回路基板などの回路基板30と、を備える。
【0015】
電力変換装置100は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と回路基板30とをモールド樹脂23によって覆って封止している。つまり、モールド樹脂23は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と回路基板30とを回路基板30の上下にて覆って封止する。
これにより、複雑な形状のバスバーが不要となり、生産性が向上する。
【0016】
第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の全ては、直流配線22の
図3の左方向Lと右方向Rとに伸びる方向から見た場合に、6つ並列に配置されている。
【0017】
直流配線22は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202で構成された1相分の回路に流入する電流が流れる正極電源端子導体31と、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202で構成された1相分の回路から流出する電流が流れる負極電源端子導体32と、を有する。正極電源端子導体31及び負極電源端子導体32は、上方向Uから下方向Dに積層されている。
【0018】
第1パワーモジュール201は、正極電源端子311を有する正極電源端子導体31と、交流出力端子331を有する交流出力端子導体33と、に接続されている。一方で、第2パワーモジュール202は、負極電源端子321を有する負極電源端子導体32と、交流出力端子導体33と、に接続されている。
【0019】
これにより、バッテリからの電動機の駆動に必要な電気エネルギーは、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202に供給され、交流出力端子導体33に設けられた交流出力端子331から出力される交流電力を制御する。第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202が1相分の回路を形成し、この組を3相分備えて回路基板30に搭載される。これにより、複雑な形状のバスバーが不要となり、生産性が向上する。
【0020】
回路基板30は、銅材などにより構成された複数の導体層を備え、他の箇所がガラスエポキシ樹脂などの絶縁部材で構成されている。回路基板30の導体層を4層構造で構成する場合には、正極電源端子311が設けられた正極電源端子導体31は、回路基板30の上面と第3内層が主な電流経路となり、回路基板30の上面に接続された第1パワーモジュール201に接続されている。
【0021】
一方で、負極電源端子321が設けられた負極電源端子導体32は、回路基板30の第2内層と下面が主な電流経路となるが、回路基板30の上面に接続された第2パワーモジュール202との接続部付近では、ビア301を介して第2パワーモジュール202に接続される。
【0022】
このように、正極電源端子導体31と負極電源端子導体32との積層構造により、それぞれの導体を流れる電流が対向し、磁束打ち消し効果によりインダクタンスを低減できる。
【0023】
交流出力端子導体33は、図示していないビアを介して各層に形成され、電動機に交流電力を出力する交流出力端子331を有する。これにより、導体の断面積が拡大され、インダクタンスを低減できる。
【0024】
直流配線22には、流路形成体25の外部に正極端子401及び負極端子402を有するコンデンサ40が搭載されている。正極端子401及び負極端子402は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202から見た場合に、並列に配置されている。コンデンサ40は、フィルムコンデンサなどで構成され、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と、正極電源端子311及び負極電源端子321と、の間に搭載されている。
【0025】
これにより、コンデンサ40から第1パワーモジュール201に流入する電流経路と、第2パワーモジュール202からコンデンサ40に流出する電流経路と、を均一にできインダクタンスを低減できる。
【0026】
制御回路50は、図示していない制御信号生成回路に接続され、ワイヤボンディングなどの制御信号配線51及び基板内制御信号配線52を介して第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202に接続され、それぞれ隣接して配置される。
【0027】
これにより、制御信号配線51のインダクタンスを低減し、素子駆動性能の低下を防ぐことで損失増加を防止する。
【0028】
第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202は、回路基板30内にあるパワーモジュール組込孔302に組み込まれ、モールド樹脂23で密閉する構造となる。
【0029】
電力変換装置100は、回路基板30の上下に、回路基板30との間にて流路を形成する流路形成体25をそれぞれ備え、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の上下それぞれを冷媒により冷却する。
【0030】
第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202は、上面に第1放熱面233を有し、下面に第2放熱面234を有する。第1放熱面233は、冷媒が接する面であり、モールド樹脂23及び導体板の上面により構成される。第2放熱面234は、冷媒が接する面であり、モールド樹脂23及び導体板の下面により構成される。第1放熱面233及び第2放熱面234には、放熱フィン24が配置されている。上側の流路形成体25は、第1放熱面233を覆うように配置されている。下側の流路形成体25は、第2放熱面234を覆うように配置されている。
【0031】
<第1パワーモジュール201>
図4は、本実施形態に係る第1パワーモジュール201を示す概略上面図である。
図5は、本実施形態に係る第1パワーモジュール201を示す概略斜視図である。
図6は、本実施形態に係る第1パワーモジュール201を示す概略断面図である。
【0032】
第1パワーモジュール201は、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置100における1相分の上アーム回路を構成する。第1パワーモジュール201は、IGBT10と、ダイオード11と、IGBT10及びダイオード11の下部に配置された第1コレクタ導体板211と、IGBT10及びダイオード11の上部に配置された第1エミッタ導体板221と、によって構成されている。
【0033】
第1コレクタ導体板211及び第1エミッタ導体板221には、1以下の屈曲部230が設けられている。第1コレクタ導体板211及び第1エミッタ導体板221は、回路基板30上部の直流配線22に接続されている。より詳しくは、第1コレクタ導体板211は、第1コレクタ導体板211の回路基板30上部に突出した部位から屈曲部無く直線状に延長されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。第1エミッタ導体板221は、第1エミッタ導体板221の回路基板30上部に突出した部位から左方向Lに伸びた後に1つの屈曲部230を介して下方向Dに屈曲されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。
【0034】
IGBT10は、板形状で主電極101と当該主電極101に流れる主電流を制御する制御電極102とを有する。IGBT10及びダイオード11は、第1コレクタ導体板211と第1エミッタ導体板221とによって両面からそれぞれ挟まれている。IGBT10及びダイオード11は、はんだなどの金属接合材12を介して第1コレクタ導体板211及び第1エミッタ導体板221に接続される。第1コレクタ導体板211及び第1エミッタ導体板221は、銅材で構成されている。
【0035】
<第2パワーモジュール202>
図7は、本実施形態に係る第2パワーモジュール202を示す概略上面図である。
図8は、本実施形態に係る第2パワーモジュール202を示す概略斜視図である。
図9は、本実施形態に係る第2パワーモジュール202を示す概略断面図である。
【0036】
第2パワーモジュール202は、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置100における1相分の下アーム回路を構成する。第2パワーモジュール202は、IGBT10と、ダイオード11と、IGBT10及びダイオード11の下部に配置された第2コレクタ導体板212と、IGBT10及びダイオード11の上部に配置された第2エミッタ導体板222と、によって構成されている。
【0037】
第2コレクタ導体板212及び第2エミッタ導体板222には、1以下の屈曲部230が設けられている。第2コレクタ導体板212及び第2エミッタ導体板222は、回路基板30上部の直流配線22に接続されている。より詳しくは、第2コレクタ導体板212は、第2コレクタ導体板212の回路基板30上部に突出した部位から屈曲部無く直線状に延長されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。第2エミッタ導体板222は、第2エミッタ導体板222の回路基板30上部に突出した部位から背面方向Bに伸びた後に1つの屈曲部230を介して下方向Dに屈曲されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。
【0038】
IGBT10及びダイオード11は、第2コレクタ導体板212と第2エミッタ導体板222とによって両面からそれぞれ挟まれている。IGBT10及びダイオード11は、はんだなどの金属接合材12を介して第2コレクタ導体板212及び第2エミッタ導体板222に接続される。第2コレクタ導体板212及び第2エミッタ導体板222は、銅材で構成されている。第2エミッタ導体板222は、第2エミッタ導体板222の回路基板30上部に突出した部位から水平方向に伸びた後に1つの屈曲部を介して下方向Dに屈曲されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。
【0039】
<モールド樹脂23の特徴>
図1~
図3に戻り、モールド樹脂23は、回路基板30の上側において、3つの第1パワーモジュール201及び3つの第2パワーモジュール202の全てを囲むように形成された第1シール面部231と、回路基板30の下側において、3つの第1パワーモジュール201及び3つの第2パワーモジュール202の全てを囲むように形成された第2シール面部232を有する。
【0040】
複数のパワーモジュール201、202の周囲に形成された第1シール面部231には、上側の流路形成体25のシール面部が当接される。複数のパワーモジュール201、202の周囲に形成された第2シール面部232には、下側の流路形成体25のシール面部が当接される。上側の流路形成体25のシール面部にはシール溝が形成され、このシール溝に上側の流路形成体25と第1シール面部231との間を封止するシール部材であるOリング26が配置されている。同様に、下側の流路形成体25のシール面部にはシール溝が形成され、このシール溝に下側の流路形成体25と第2シール面部232との間を封止するシール部材であるOリング26が配置されている。
【0041】
モールド樹脂の第1シール面部231及び第2シール面部232の厚さは、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を封止するモールド樹脂23の領域の厚さより薄い。また、第1シール面部231の厚さは、モールド樹脂23において第1放熱面233が形成される部位より薄く形成されている。第2シール面部232の厚さは、モールド樹脂23において第2放熱面234が形成される部位とほぼ等しい厚さに形成されている。
【0042】
第1シール面部231は、回路基板30上部に形成されている。第2シール面部232は、第1シール面部231とは回路基板30に対して反対側に形成されている。第1シール面部231の厚みH1及び第2シール面部232の厚みH2は、回路基板30に対して同じ厚み(H1=H2)で形成されている。
【0043】
第1シール面部231及び第2シール面部232は、回路基板30に対して厚み方向で重なる同じ形状で形成されている。このため、第1シール面部231及び第2シール面部232は、回路基板30に対して同じ厚みであるから、第1シール面部231及び第2シール面部232は、同じ体積で形成されている。
【0044】
第1シール面部231及び第2シール面部232は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の全てが6つ並列に配置された方向の両側(
図1の左方向L及び右方向R)にて、回路基板30からそれぞれはみ出ている。
【0045】
これにより、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の配置されていないモールド樹脂23周縁の第1シール面部231及び第2シール面部232においてモールド樹脂23の体積を均一にすることができる。このため、モールド樹脂23の常温硬化時の収縮量を均一にし、反りが抑制できる。この結果、第1シール面部231及び第2シール面部232の研磨プロセスを削減し、製造性が向上する。
【0046】
第1シール面部231及び第2シール面部232は、周縁部に流路形成体挟持部235を有する。モールド樹脂23は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を囲うように2つの流路形成体25により挟持される。また、制御信号配線51も、流路形成体25の内部に構成されている。ここで、コンデンサ40及び制御回路50は、流路形成体25の内部に含まれない。
【0047】
流路形成体挟持部235に用いるねじ等の挟持部品によって、Oリング26を有する2つの流路形成体25が回路基板30上下で締結されている。これにより、回路基板30に締結部を設ける場合と比較して流路形成体25の小型化が可能となる。また、回路基板30の導体層による段差に影響されず、気密性の高い流路を構成することが可能となる。
【0048】
モールド樹脂23の第1シール面部231及び第2シール面部232は、光沢表面で形成されている。これにより、第1シール面部231及び第2シール面部232とOリング26との密着性が増し、気密性が向上する。
【0049】
モールド樹脂23のシール面部以外の表面は、梨地表面で形成されている。これにより、モールド樹脂23の形成時に、形成金型からの取り外しが容易となる。
【0050】
回路基板30では、モールド樹脂23との接着面に導体層が配置されず、モールド樹脂23の周縁部には、基板内配線を介して導体が接続されている。これにより、モールド樹脂23形成時に樹脂の漏れを防ぎ、製造性が向上する。
【0051】
第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の上下面に放熱フィン24が形成される。これにより、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の半導体素子から放熱フィン24まで絶縁部材を介さずに放熱経路を形成できる。そして、油などの冷媒により第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の半導体素子から放熱フィン24が直接冷却されるため、熱抵抗の増加を抑制し、電力変換装置の出力増大を図ることが可能となる。
【0052】
コンデンサ40及び制御回路50は、流路形成体25の内部に含まれないため、冷媒の接触による電子部品の腐食を防止できる。一方で、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と、制御信号配線51と、は、流路形成体25の内部に構成される。しかし、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と、制御信号配線51と、は、モールド樹脂23により冷媒の接触による電気的影響を受けない。制御信号配線51は、回路基板30に設けられた基板内制御信号配線52を介して制御回路50に接続されている。
【0053】
<本実施形態の効果>
以上の通り、本実施形態においては、モールド樹脂23周縁の第1シール面部231及び第2シール面部232において、回路基板30上下のモールド樹脂23の体積を均一にしている。これにより、モールド樹脂23の常温硬化時の収縮量を均一にし、反りが抑制できる。この結果、第1シール面部231及び第2シール面部232の研磨プロセスを削減でき、電力変換装置100の製造性が向上する。さらに、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の上下面に放熱フィン24を有し、油などの冷媒によって第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の半導体素子から放熱フィン24が直接冷却されるため、冷却性能が向上する。
【0054】
<第2実施形態>
本実施形態では、上記実施形態と同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0055】
図10は、本実施形態に係る電力変換装置100を示す概略平面図である。なお、
図10では、流路形成体25の図示が省略されている。各パワーモジュール201、202の間には、モールド樹脂23の第1放熱面233及び第2放熱面234にスリット236が形成されている。これにより、モールド樹脂23の常温硬化時の反り抑制効果が高まり、電力変換装置100の製造性が向上する。
【0056】
<第3実施形態>
本実施形態では、上記実施形態と同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0057】
図11は、本実施形態に係る電力変換装置100を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。回路基板30から第1放熱面233及び第2放熱面234までのモールド樹脂23の厚みが同じに形成されている。このため、本実施形態では、第1パワーモジュール201の第1コレクタ導体板211の高さが第1実施形態よりも高くなっている。これにより、モールド樹脂23の常温硬化時の反り抑制効果が高まり、電力変換装置100の製造性が向上する。
【0058】
<第4実施形態>
本実施形態では、上記実施形態と同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0059】
図12は、本実施形態に係る電力変換装置100を
図1のA-A線からの断面にて示す概略断面図である。IGBT10及びダイオード11から第1放熱面233及び第2放熱面234までのモールド樹脂23の厚みが均一に形成されている。これにより、モールド樹脂23の常温硬化時の反り抑制効果が高まり、電力変換装置100の製造性が向上する。
【0060】
<<相違点の効果>>
(A)
電力変換装置100は、直流電力を交流電力に変換する第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を備える。電力変換装置100は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202に直流電力を伝達する直流配線22を備える。電力変換装置100は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を配置し、直流配線22を実装した回路基板30を備える。電力変換装置100は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202と回路基板30とを覆って封止したモールド樹脂23を備える。モールド樹脂23は、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の周囲に第1シール面部231及び第2シール面部232を有する。第1シール面部231及び第2シール面部232の厚さは、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を封止する領域の厚さより薄い。
【0061】
この構成では、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の配置されていないモールド樹脂23の周縁の第1シール面部231及び第2シール面部232において回路基板30の上下でモールド樹脂23の体積を均一にすることで、モールド樹脂23の常温硬化時の収縮量を均一にし、反りを抑制することができる。この結果、第1シール面部231及び第2シール面部232の研磨プロセスを削減し、製造性が向上する。また、回路基板30の上下でモールド樹脂23に覆われるので、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202を両面冷却可能な構造とすることができる。したがって、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の両面冷却によって冷却性能を向上し、かつ、封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制することができる。
【0062】
(B)
シール面部231、232は、回路基板30上部に形成された第1シール面部231と、第1シール面部231とは回路基板30に対して反対側に形成された第2シール面部232と、を有する。第1シール面部231及び第2シール面部232は、回路基板30に対して同じ厚みで形成されている。
【0063】
この構成では、第1パワーモジュール201及び第2パワーモジュール202の配置されていないモールド樹脂23の周縁の第1シール面部231及び第2シール面部232においてモールド樹脂23の体積を均一にすることで、第1シール面部231及び第2シール面部232のモールド樹脂23の常温硬化時の収縮量を均一にし、反りを抑制することができる。
【0064】
(C)
複数のパワーモジュール201、202は、上アーム回路を構成する第1パワーモジュール201と、下アーム回路を構成する第2パワーモジュール202と、で構成された1相分の回路を3相分有する。複数のパワーモジュール201、202は、直流配線22の伸びる方向から見た場合に、並列に配置されている。
【0065】
この構成では、6つのパワーモジュール201、202が整列でき、モールド樹脂23のシール面部231、232を簡易な形状に構成することができる。
【0066】
(D)
各パワーモジュール201、202の間には、モールド樹脂23の第1放熱面233及び第2放熱面234にスリット236が形成されている。
【0067】
この構成では、6つのパワーモジュール201、202が整列でき、各パワーモジュール201、202の間の非接触状態を保持することができる。
【0068】
電力変換装置100は、回路基板30の上下に、回路基板30との間にて流路を形成する流路形成体25をそれぞれ備え、複数のパワーモジュール201、202の上下それぞれを冷媒により冷却する。
【0069】
この構成では、モールド樹脂23に覆われた回路基板30の上下に流路形成体25をそれぞれ備えるので、全部のパワーモジュール201、202を両面冷却可能な構造とすることができる。
【0070】
(E)
電力変換装置100は、シール面部231、232の周縁部に流路形成体25を挟持した流路形成体挟持部235を有する。
【0071】
この構成では、回路基板30に流路形成体25を締結する締結部を設ける場合と比較して流路形成体25を小型化することができる。
【0072】
(F)
モールド樹脂23のシール面部231、232は、光沢表面である。モールド樹脂23のシール面部231、232以外の表面は、梨地表面である。
【0073】
この構成では、シール面部231、232が光沢表面であることで、第1シール面部231及び第2シール面部232とOリング26などのシール部材との密着性が増し、気密性が向上する。シール面部231、232以外の表面が梨地表面であることで、モールド樹脂23の形成時に、形成金型からの取り外しが容易となる。
【0074】
(G)
直流配線22は、2つのパワーモジュール201、202で構成された1相分の回路に流入する電流が流れる正極電源端子導体31と、2つのパワーモジュール201、202で構成された1相分の回路から流出する電流が流れる負極電源端子導体32と、を有する。正極電源端子導体31及び負極電源端子導体32は、積層されている。
【0075】
この構成では、正極電源端子導体31及び負極電源端子導体32が積層構造であり、それぞれの導体層を流れる電流が対向して磁束打ち消し効果を発揮することによって、インダクタンスを低減することができる。
【0076】
(H)
直流配線22には、流路形成体25の外部に正極端子401及び負極端子402を有するコンデンサ40が搭載されている。正極端子401及び負極端子402は、複数のパワーモジュール201、202から見た場合に、並列に配置されている。
【0077】
この構成では、コンデンサ40から一方のパワーモジュール201に流入する電流経路と、対になる他方のパワーモジュール202からコンデンサ40に流出する電流経路と、を均一にすることができ、インダクタンスを低減することができる。
【0078】
(I)
モールド樹脂23は、複数のパワーモジュール201、202と回路基板30とを回路基板30の上下にて覆って封止する。
【0079】
この構成では、モールド樹脂23に覆われた回路基板30の上下に流路形成体25が配置でき、各パワーモジュール201、202の両面冷却によって冷却性能を向上することができる。また、回路基板30の上下がモールド樹脂23に覆われ、封止樹脂の常温硬化時に発生する反りを抑制することができる。
【0080】
(J)
第1シール面部231及び第2シール面部232は、回路基板30に対して厚み方向で重なる同じ形状で形成されている。
【0081】
この構成では、パワーモジュール201、202の配置されていないモールド樹脂23の周縁の第1シール面部231及び第2シール面部232においてモールド樹脂23の形状及び厚みを同じにして体積を均一にすることができる。
【0082】
(K)
第1シール面部231及び第2シール面部232は、同じ体積で形成されている。
【0083】
この構成では、第1シール面部231及び第2シール面部232が同じ体積であるので、第1シール面部231及び第2シール面部232のモールド樹脂23の常温硬化時の収縮量を均一にし、反りを抑制することができる。
【0084】
(L)
シール面部231、232は、複数のパワーモジュール201、202が並列に配置された方向の両側にて、回路基板30からそれぞれはみ出ている。
【0085】
この構成では、回路基板30からはみ出ているモールド樹脂23が回路基板30の上下で繋がり、モールド樹脂23を一体化することができる。
【0086】
(M)
複数のパワーモジュール201、202のそれぞれは、IGBT10と、ダイオード11と、IGBT10及びダイオード11の下部に配置されたコレクタ導体板211、212と、IGBT10及びダイオード11の上部に配置されたエミッタ導体板221、222と、によって構成されている。コレクタ導体板211、212及びエミッタ導体板221、222には、1以下の屈曲部230が設けられている。コレクタ導体板211、212及びエミッタ導体板221、222は、回路基板30上部の直流配線22に接続されている。
【0087】
この構成では、コレクタ導体板211、212及びエミッタ導体板221、222の屈曲部230が少なく、製造性が向上する。
【0088】
(N)
コレクタ導体板211、212は、コレクタ導体板211、212の回路基板30上部に突出した部位から屈曲部無く直線状に延長されて回路基板30上部の直流配線22に接続されている。
【0089】
この構成では、コレクタ導体板211、212の屈曲部が無く、製造性が向上する。
【符号の説明】
【0090】
10…IGBT、11…ダイオード、12…金属接合材、22…直流配線、23…モールド樹脂、24…放熱フィン、25…流路形成体、26…Oリング、30…回路基板、31…正極電源端子導体、32…負極電源端子導体、33…交流出力端子導体、40…コンデンサ、50…制御回路、51…制御信号配線、52…基板内制御信号配線、100…電力変換装置、101…主電極、102…制御電極、201…第1パワーモジュール、202…第2パワーモジュール、211…第1コレクタ導体板、212…第2コレクタ導体板、221…第1エミッタ導体板、222…第2エミッタ導体板、230…屈曲部、231…第1シール面、232…第2シール面、233…第1放熱面、234…第2放熱面、235…流路形成体挟持部、236…スリット、301…ビア、302…パワーモジュール組込孔、311…正極電源端子、321…負極電源端子、331…交流出力端子、401…正極端子、402…負極端子。