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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182343
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】水性分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20231219BHJP
   C09D 123/04 20060101ALI20231219BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L23/26
C09D123/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095882
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】志波 賢人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BB211
4J002BB212
4J002GH01
4J002HA06
4J038CB061
4J038CB071
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA27
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来の成分を原料とした酸変性ポリオレフィン樹脂を使用したものであるにもかかわらず、石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いた水性分散体と同等な物性を安定して保持する水性分散体を提供する。
【解決手段】酸成分、およびオレフィン成分としてバイオマス由来のエチレンを含む酸変性ポリオレフィン樹脂と、水性媒体とを含む、水性分散体である。酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸成分として、不飽和カルボン酸成分0.1~40質量%を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分、およびオレフィン成分としてバイオマス由来のエチレンを含む酸変性ポリオレフィン樹脂と、水性媒体とを含む、水性分散体。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸成分として、不飽和カルボン酸成分0.1~40質量%を含む、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル成分0.5~40質量%を含む、請求項1または2に記載の水性分散体。
【請求項4】
石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含む、請求項1または2に記載の水性分散体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の水性分散体から得られる、塗膜。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂に代表されるポリオレフィン樹脂は、従来、石油から得られるナフサを熱分解して得られるエチレン等を原料とし、これを重合して製造されるものであり、限りある貴重な化石資源である石油を消費する。さらに、廃棄の過程で化石資源中に封じ込められていた炭素が二酸化炭素となって空気中に放出され、地球温暖化の一因となっている。
【0003】
これに対し、バイオマスの起源である植物は、太陽エネルギーと二酸化炭素および水から、光合成により澱粉、セルロースやリグニンなどの植物バイオマスを作ることができる。したがって、こういったバイオマス由来の成分を原料として用いれば、化石資源の使用量を抑制することができ、使用後に焼却処理して二酸化炭素と水に分解されても、これらは再び光合成によって植物に取り込まれる。すなわち、これを構成する炭素源については循環系のライフサイクルを構築するものであり、究極のリサイクル素材とすることができる。よって、バイオマス由来成分を原料として用いた分、温室効果ガスとなる二酸化炭素の新たな発生を削減できることになる。
【0004】
従来から、ポリエチレンを含むポリオレフィン樹脂を水性分散化して得られた水性分散体について様々に検討されている(例えば、特許文献1)。こうした水性分散体において、バイオマス由来成分を含むポリオレフィン樹脂を用い、環境負荷を低減させた場合であっても、優れた物性はそのまま維持されることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3699935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バイオマス由来の成分を原料とした酸変性ポリオレフィン樹脂を使用しながら、石油系原料由来のポリオレフィン樹脂を用いた水性分散体と同等の物性を安定して保持する水性分散体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、オレフィン成分としてバイオマス由来のエチレンを含み、かつ酸成分で変性されたポリオレフィン樹脂を用いることにより、この目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0008】
(1)酸成分、およびポリオレフィン成分としてバイオマス由来のエチレンを含む酸変性ポリオレフィン樹脂と、水性媒体とを含む、水性分散体。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸成分として、不飽和カルボン酸成分0.1~40質量%を含む、(1)の水性分散体。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル成分0.5~40質量%を含む、(1)または(2)の水性分散体。
(4)石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含む、(1)~(3)の何れかの水性分散体。
(5)(1)~(4)の何れかの水性分散体から得られる、塗膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂として、バイオマス由来の成分を原料としたポリオレフィン樹脂を使用しているため、石油資源の枯渇の抑制に寄与することが大きく、また、焼却廃棄に際しても、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の大気中での増加を抑制することができる。
【0010】
また、バイオマス由来の成分を原料とした酸変性ポリオレフィン樹脂を使用したものであるにもかかわらず、石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いた水性分散体と同等な物性を安定して保持するものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、酸成分、およびオレフィン成分としてバイオマス由来のエチレン成分を含む酸変性ポリオレフィン樹脂(以下、「バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂」という場合がある)と、水性媒体とを含有する。
【0012】
本発明の水性分散体に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸成分とオレフィン成分とを含有する共重合体である。ポリオレフィン樹脂が酸変性されていることにより、分散性に優れ、水性分散体としての安定性に優れるものとなる。
【0013】
酸成分は、不飽和カルボン酸成分であることが好ましく、不飽和カルボン酸、または、その無水物により導入される。不飽和カルボン酸成分としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、塗膜にした際の接着性に優れる観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量は、特に限定されるものではないが、水性分散体としての安定性を向上させる理由から、0.1~40質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらに好ましく、2~4質量%であることが最も好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、安定性に優れた水性分散体を得ることが困難となることがある。また、40質量%を超えると、塗膜にした際のオレフィン樹脂の有する低吸水性、耐水性・耐溶剤性、密着性が失われる場合がある。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分としては、エチレン成分を含む。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂におけるオレフィン成分の含有量は、水性分散体の安定性を向上させる観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、塗膜にする際の造膜性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.5~40質量%であることが好ましく、1~35質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましく、5~25質量%であることが特に好ましく、10~25質量%であることが最も好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.5質量%未満であると含有させる効果に乏しい場合があり、40質量%を超えると、塗膜の耐溶剤性、密着性、耐熱性に劣る場合がある。
【0018】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するエチレン以外のオレフィン成分として、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、ノルボルネン類等のアルケン類、ブタジエンやイソプレン等のジエン類等を、含有してもよい。エチレン以外のオレフィン成分の含有量は、20質量%未満であることが好ましい。
【0019】
バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂の製造法について、以下に述べる。
まず主たる成分であるポリオレフィン樹脂を調製する。トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモなどから得られる澱粉や糖分などのバイオマス由来の成分(バイオマス資源)を微生物で発酵させてバイオエタノールを製造し、これを脱水反応させることでエチレンを製造し、さらに重合させることでポリエチレンを得ることができる。
【0020】
上記のポリオレフィン樹脂に対し、従来公知の方法に従って、上記の酸成分を共重合させる。共重合の形態は特に限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
本発明の水性分散体に含有されるポリオレフィン樹脂としては、バイオマス由来成分を重合して新たに得られたポリオレフィンを用いたもののみならず、バイオマス由来のポリオレフィンが含有されてなるリサイクルされたポリオレフィン樹脂を用いたものも包含する。
【0021】
酸変性される前の、バイオマス由来のポリオレフィン樹脂として、ブラスケム社「グリーン ポリエチレン」等を使用することができる。
酸変性される前のポリオレフィン樹脂は、バイオマス由来のポリオレフィン樹脂の割合(バイオマス度)が、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0022】
本発明の水性分散体は、石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を含有することにより、安定性をいっそう向上させることができる。本発明の水性分散体が、石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する場合、バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂と石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂との質量比は、(バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂)/(石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂)=99.5/0.5~40/60が好ましく、80/20~45/55であることがより好ましく、70/30~50/50であることがさらに好ましい。バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂の割合が上記範囲を外れて少ないと、環境負荷の観点から好ましくなく、上記範囲を超えて多いと安定性に劣る場合がある。
【0023】
本発明の水性分散体は、上記のバイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するものであり、酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体中に分散もしくは溶解されている。水性媒体とは、水を主成分とする液体である。
【0024】
本発明では、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に塩基性化合物および/または親水性有機溶剤を配合することが好ましい。
【0025】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、またはピリジン等が挙げられる。中でも、バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散性をよりいっそう向上させる点から、N,N-ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0026】
塩基性化合物の配合量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基等の酸成分に対して0.5~10倍当量であることが好ましく、0.8~7倍当量がより好ましく、0.9~5倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、10倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下したりすることがある。
【0027】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、またはトリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0028】
中でも、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルは、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化促進により効果的であり好ましい。
本発明では、これらの親水性有機溶剤を複数混合して使用してもよい。
【0029】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化をより促進させるために、疎水性有機溶剤をさらに添加してもよい。疎水性有機溶剤としては、20℃の水に対する溶解性が10g/L未満であり、上記と同じ理由で、沸点が150℃以下である有機溶剤が好ましい。このような疎水性有機溶剤としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル等のオレフィン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。これらの疎水性有機溶剤の添加量は、水性分散体に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。疎水性有機溶剤の添加量が15質量%を超えると、ゲル化等を引き起こすことがある。
【0030】
本発明において、水性分散体は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明は、不揮発性水性化助剤の使用を排除するものではないが、水性化助剤を用いずとも、ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に微細かつ安定的に分散することができる。
不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0031】
「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(ポリオレフィン樹脂の水性分散化時)に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は、ポリオレフィン樹脂成分に対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%未満であり、0質量%であることが最も好ましい。
【0032】
不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子等が挙げられる。
【0033】
本発明の水性分散体は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、他の重合体、架橋剤、その他の添加剤を含有してもよい。
【0034】
他の重合体としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ロジン等の粘着付与樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合して使用してもよい。
【0035】
架橋剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等が挙げられる。具体的には、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。これらの架橋剤は複数同時に使用してもよい。
【0036】
その他の添加剤としては、特に限定されるものではなく、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、耐候剤、難燃剤等の各種薬剤が挙げられる。
【0037】
本発明の水性分散体を得るための方法は特に限定されるものではなく、上記の各成分、すなわち、酸変性ポリオレフィン樹脂、水性媒体、必要に応じて塩基性化合物および/または有機溶剤、その他の任意の成分を密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法が採用できる。
【0038】
上記の製造方法を採用することで、酸変性ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に効率よく分散または溶解され、均一な液状である水性分散体を調製することができる。ここで、均一な液状であるとは、静置状態で外観上、沈殿、相分離といった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0039】
本発明の水性分散体を各種基材に塗布することで、塗膜とすることができる。
【0040】
各種基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂フィルム、アルミニウム箔などの金属箔、紙などが挙げられる。中でも、紙などのバイオマス由来の材料からなる基材であると、本発明の水性分散体からなる塗膜を積層した場合に、積層体全体としてもカーボンニュートラルとなるため、好ましい。
【実施例0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種測定、評価方法は、以下の通りである。
【0042】
(1)不飽和カルボン酸成分の含有量
ポリオレフィン樹脂に対する不飽和カルボン酸成分の含有量は、赤外吸収スペクトル分析(Perkin Elmer System-2000 フーリエ変換赤外分光光度計、分解能4cm-1)により求めた。
【0043】
(2)ポリオレフィン樹脂粒子の粒子径
日機装社製、Nanotrac Wave-UZ152粒度分布測定装置を用いて、数平均粒子径を測定した。
【0044】
(3)分散性
得られた水性分散体を、目視で観察し、次の基準で分散性を評価した。
〇:凝集物・未分散物が無い
×:凝集物・未分散物あり
【0045】
(4)安定性
得られた水性分散体を、40℃雰囲気下で10日間静置後、目視で観察し、次の基準で安定性を評価した。
◎:凝縮物の発生が全くなく、液粘度は変化していない
〇:凝縮物の発生がなく、液粘度はほぼ変化していない
×:凝集物の発生、もしくは、液粘度の変化あり
【0046】
(製造例1)酸変性ポリエチレン樹脂P-1
バイオマス由来低密度ポリエチレン(ブラスケム社SBC818、バイオマス度95%、融点108℃、密度0.92g/cm、MFR8g/10分)250gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下でキシレン500gに加熱溶解させた後、系内温度を120℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸20gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド11gをそれぞれ1時間かけて加え、その後2時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。
析出させた樹脂を、トリエチルアミンのアセトン溶液(質量比:トリエチルアミン/アセトン=1/4)で1回洗浄し、その後アセトンで洗浄することで未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリオレフィン樹脂P-1を得た。P-1の不飽和カルボン酸成分の含有量は、樹脂100質量部に対して、2.2質量部であった。
【0047】
(製造例2)酸変性ポリエチレン樹脂P-2
石油系原料由来低密度ポリエチレン(融点106℃、密度0.92g/cm、MFR7g/10分)を用いて、製造例1と同様の方法により、酸変性ポリオレフィン樹脂P-2を得た。P-1の不飽和カルボン酸成分の含有量は、樹脂100質量部に対して、2.1質量部であった。
【0048】
(実施例1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60gの酸変性ポリオレフィン樹脂P-1、72gTHF、8gのN,N-ジメチルエタノールアミン(DMEA)および160gの蒸留水を、ガラス容器内に仕込み加熱し、系内温度を120℃に保って60分間撹拌した。その後、空冷にて内温が40℃になるまで冷却した後、100g蒸留水を添加したのち、50℃減圧雰囲気下で100gの水性媒体を留去した。得られた水性媒体中におけるTHF残量は0.1質量%未満であった。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルターで加圧濾過し、水性分散体を得た。
作製した水性分散体の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0049】
(実施例2~4、比較例1)
酸変性ポリオレフィン樹脂として、表1に記載の通り、樹脂の種類や質量比を変更して用いた以外は実施例1と同様の方法にて、水性分散体を得た。
【0050】
実施例1~4で得られた本発明の水性分散体は分散性・安定性に優れ、かつ、バイオマス由来の酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するため環境負荷が少なく、カーボンニュートラルの趣旨に則したものであった。
一方、比較例1で得られた水性分散体は、従来の石油系原料由来の酸変性ポリオレフィン樹脂のみを用いたため、物性的には実施例1と同等であったが、環境負荷の低減効果を有さないものであった。