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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182347
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20231219BHJP
   B60W 50/08 20200101ALI20231219BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20231219BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20231219BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B60W30/045
B60W50/08
B60W30/188
F02D29/02 Z
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095888
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】平角 京介
【テーマコード(参考)】
3D043
3D241
3G093
【Fターム(参考)】
3D043AA03
3D043AB17
3D043EA23
3D043EB03
3D043EB13
3D043EE08
3D043EF18
3D043EF21
3D241BA17
3D241BA60
3D241BB08
3D241BB27
3D241BC04
3D241CA04
3D241CB02
3D241CC02
3D241CC15
3D241CD11
3D241DA13B
3D241DA13Z
3D241DA35Z
3D241DA39Z
3D241DA52B
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB12B
3D241DB12Z
3D241DB28B
3D241DB28Z
3G093AA05
3G093BA01
3G093CB09
3G093DA06
3G093DB17
3G093EA01
(57)【要約】
【課題】車両の旋回時にタイヤが発生可能な横力を増大するアクセル操作をドライバに促すことが可能な運転支援装置を提供する。
【解決手段】アクセル操作に応じて走行用動力源10が発生する駆動力を、前輪駆動装置50及び後輪駆動装置60に伝達するとともにこれらの差回転を許容するトランスファ40と、差回転を拘束する拘束力を発生する差回転拘束装置42とを有する車両1に設けられる運転支援装置を、旋回状態であって車体のヨーレートγと横滑り角とが同符号となるヘッドアウト状態の検出に応じて、走行用動力源の出力による前輪の駆動力と、トランスファの内部循環トルクによる前輪の制動力の絶対値との差分が減少する目標アクセル操作量を設定する目標アクセル操作量設定部150と、目標アクセル操作量に関する情報をドライバに提示する情報提示部151とを備える構成とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによるアクセル操作に応じて走行用動力源が発生する駆動力を、前輪を駆動する前輪駆動装置及び後輪を駆動する後輪駆動装置に伝達するとともに、前記前輪駆動装置と前記後輪駆動装置との差回転を許容するトランスファと、前記差回転を拘束する拘束力を発生する差回転拘束装置とを有する車両に設けられる運転支援装置であって、
旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが同符号となるヘッドアウト状態を検出するヘッドアウト状態検出部と、
前記ヘッドアウト状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記前輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記前輪の制動力の絶対値との差分が減少する目標アクセル操作量を設定する目標アクセル操作量設定部と、
前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示する情報提示部と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが異符号となるヘッドイン状態を検出するヘッドイン状態検出部を備え、
前記目標アクセル操作量設定部は、前記ヘッドイン状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記後輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記後輪の制動力の絶対値との差分が減少する前記目標アクセル操作量を設定すること
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
ドライバによるアクセル操作に応じて走行用動力源が発生する駆動力を、前輪を駆動する前輪駆動装置及び後輪を駆動する後輪駆動装置に伝達するとともに、前記前輪駆動装置と前記後輪駆動装置との差回転を許容するトランスファと、前記差回転を拘束する拘束力を発生する差回転拘束装置とを有する車両に設けられる運転支援装置であって、
旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが異符号となるヘッドイン状態を検出するヘッドイン状態検出部と、
前記ヘッドイン状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記後輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記後輪の制動力の絶対値との差分が減少する目標アクセル操作量を設定する目標アクセル操作量設定部と、
前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示する情報提示部と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
前記情報提示部は、前記目標アクセル操作量と、実際のアクセル操作量の乖離に関する情報を前記ドライバに提示すること
を特徴とする請求項1又は請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記情報提示部は、ステアリング装置の舵角が増加又は維持され、かつ、ドライバによるアクセル操作量が所定値以上である場合にのみ前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示すること
を特徴とする請求項1又は請求項3に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバに旋回時の目標アクセル操作量を提示する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回時における自動車の制御等に関する技術として、例えば特許文献1には、旋回走行中のアクセル操作によるアンダーステアやタックインを抑制するため、規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成し、この目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を各輪に与える車両姿勢制御装置が記載されている。
また、ヨーレート、ヨーレート偏差、車速、横加速度等の車両挙動の情報から、オーバーステア状態またはアンダーステア状態を判断することが記載されている。
特許文献2には、アクセルオフされているコースティング状態で、ステアリングホイールが操舵されたときに、トランスファクラッチの油圧(締結力)を引き下げることなく、駆動系のギヤから生じ得る異音の発生を防止するため、リダクションドライブギヤに係るトルクが略ゼロになる第1条件、リダクションドリブンギヤに係るトルクが略ゼロになる第2条件がともに成立している場合に、前後進切替機構を構成するリバースブレーキに油圧をかける全輪駆動車の制御装置が記載されている。
また、前後輪の差回転により、トランスファクラッチを介して前輪側と後輪側とでやり取りされる内部循環トルクに関して記載されている。
また、走行中のドライバに対する情報の提示に関する技術として、特許文献3には、道路状況を示す道路状況情報に基づいて、車両の推奨速度を算出するナビゲーション装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017- 61251号公報
【特許文献2】特開2019-166998号公報
【特許文献3】国際公開WO2012/114382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の旋回時に、前輪が後輪に対して旋回外側を通過するヘッドアウト状態においては、AWDトランスファの内部循環トルクにより、前輪に制動力が発生する。
一方、後輪が前輪に対して旋回外側を通過するヘッドイン状態においては、AWDトランスファの内部循環トルクにより、後輪に制動力が発生する。
このような内部循環トルクに起因する制動力は、タイヤが発生する横力を低下させるため、ヘッドイン状態、ヘッドアウト状態をさらに促進してしまうことになる。
【0005】
これに対し、運転スキルが高いドライバであれば、内部循環トルクによる制動力を打ち消すよう、アクセル操作によってタイヤに駆動力を与え、タイヤの横力を増大させ、安定した走行を行うことが可能である。
しかし、この場合の最適なアクセル操作量の判断は、一般的なドライバには難しい場合がある。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、車両の旋回時にタイヤが発生する横力を増大するアクセル操作をドライバに促すことが可能な運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る運転支援装置は、ドライバによるアクセル操作に応じて走行用動力源が発生する駆動力を、前輪を駆動する前輪駆動装置及び後輪を駆動する後輪駆動装置に伝達するとともに、前記前輪駆動装置と前記後輪駆動装置との差回転を許容するトランスファと、前記差回転を拘束する拘束力を発生する差回転拘束装置とを有する車両に設けられる運転支援装置であって、旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが同符号となるヘッドアウト状態を検出するヘッドアウト状態検出部と、前記ヘッドアウト状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記前輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記前輪の制動力の絶対値との差分が減少する目標アクセル操作量を設定する目標アクセル操作量設定部と、前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示する情報提示部とを備えることを特徴とする。
一般に、AWD(全輪駆動)用のトランスファを有する車両においては、前輪と後輪の回転速度差が発生した場合に、回転速度が速い側から遅い側へ、内部循環トルクが伝達される。
車体のヨーレートと横滑り角とが同符号となるヘッドアウト状態は、車両の進行方向に対して車両前方(車幅方向中心線に沿った前方側)が旋回外側を指向した車両姿勢であるが、この場合には前輪のほうが後輪に対して旋回半径が大きくなり、回転速度が速くなる。
この場合には、内部循環トルクによって前輪では制動力、後輪では駆動力が発生することになる。
本発明によれば、ヘッドアウト状態の発生時に、内部循環トルクによって前輪に発生する制動力の絶対値と、走行用動力源の出力による前輪の駆動力との差分が減少するよう、ドライバに目標アクセル操作量を提示することによって、前輪が路面に伝達する制駆動力の絶対値を減少させ、前輪のタイヤが発生可能な横力を増大させ、車両の回頭性を向上することが可能なアクセル操作を促すことができる。
この場合、目標アクセル操作量設定部は、ヘッドアウト状態の検出に応じて、走行用動力源の出力による前輪の駆動力と、トランスファの内部循環トルクによる前輪の制動力の絶対値とが等しくなるよう目標アクセル操作量を設定する構成とすることができる。
【0007】
第1の態様の発明において、旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが異符号となるヘッドイン状態を検出するヘッドイン状態検出部を備え、前記目標アクセル操作量設定部は、前記ヘッドイン状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記後輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記後輪の制動力の絶対値との差分が減少する前記目標アクセル操作量を設定する構成とすることができる。
また、本発明の第2の態様に係る運転支援装置は、ドライバによるアクセル操作に応じて走行用動力源が発生する駆動力を、前輪を駆動する前輪駆動装置及び後輪を駆動する後輪駆動装置に伝達するとともに、前記前輪駆動装置と前記後輪駆動装置との差回転を許容するトランスファと、前記差回転を拘束する拘束力を発生する差回転拘束装置とを有する車両に設けられる運転支援装置であって、旋回状態であって車体のヨーレートと横滑り角とが異符号となるヘッドイン状態を検出するヘッドイン状態検出部と、前記ヘッドイン状態の検出に応じて、前記走行用動力源の出力による前記後輪の駆動力と、前記トランスファの内部循環トルクによる前記後輪の制動力の絶対値との差分が減少する目標アクセル操作量を設定する目標アクセル操作量設定部と、前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示する情報提示部とを備えることを特徴とする。
車体のヨーレートと横滑り角とが異符号となるヘッドイン状態は、車両の進行方向に対して車両前方が旋回内側を指向した車両姿勢であるが、この場合には後輪のほうが前輪に対して旋回半径が大きくなり、回転速度が速くなる。
この場合には、内部循環トルクによって前輪では駆動力、後輪では制動力が発生することになる。
これらの各発明によれば、ヘッドイン状態の発生時に、内部循環トルクによって後輪に発生する制動力の絶対値を、走行用動力源の出力による後輪の駆動力との差分が減少するよう、ドライバに目標アクセル操作量を提示することによって、後輪が路面に伝達する制駆動力の絶対値を減少させ、後輪のタイヤが発生可能な横力を増大させ、車両の安定性を向上し、車両がスピン状態に陥ることを防止可能なアクセル操作を促すことができる。
この場合、アクセル操作量設定部は、ヘッドイン状態の検出に応じて、走行用動力源の出力による後輪の駆動力と、トランスファの内部循環トルクによる後輪の制動力の絶対値とが等しくなるよう目標アクセル操作量を設定する構成とすることができる。
【0008】
上記各発明において、前記情報提示部は、前記目標アクセル操作量と、実際のアクセル操作量の乖離に関する情報を前記ドライバに提示する構成とすることができる。
これによれば、ドライバがアクセル操作量を増加すべきか減少すべきか、さらに、アクセル操作量の変化量を容易に把握することができ、上述した効果を促進することができる。
【0009】
上記各発明において、前記情報提示部は、ステアリング装置の舵角が増加又は維持され、かつ、ドライバによるアクセル操作量が所定値以上である場合にのみ前記目標アクセル操作量に関する情報を前記ドライバに提示する構成とすることができる。
これによれば、前輪と後輪との軌跡差が無いかあるいは微小な直進時や、ドライバが減速あるいは加速を重視するコーナーの進入時、脱出時に、目標アクセル操作量に関する情報の提示が行われ、ドライバの操作と感覚とがアンマッチとなってドライバに違和感を与えることを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、車両の旋回時にタイヤが発生する横力を増大するアクセル操作をドライバに促すことが可能な運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した運転支援装置の実施形態を有する車両の構成を模式的に示す図である。
図2】ヘッドアウト状態及びヘッドイン状態における内部循環トルクの状態を模式的に示す図である。
図3】実施形態の運転支援装置の動作を示すフローチャートである。
図4】車両がカーブ路を通過する際の状態推移の一例を示す図である。
図5】実施形態における目標スロットル開度に関する情報の画像表示の一例を示す図である。
図6】実施形態におけるヘッドアウト状態時の前輪及び後輪の制駆動力の状態を模式的に示す図である。
図7】実施形態におけるヘッドイン状態時の前輪及び後輪の制駆動力の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した運転支援装置の実施形態について説明する。
実施形態の運転支援装置は、例えば、全輪駆動(AWD)の4輪の乗用車等の自動車に設けられるものである。
図1は、実施形態の運転支援装置を有する車両の構成を模式的に示す図である。
【0013】
図1に示すように、車両1は、エンジン10、トルクコンバータ20、変速機構部30、AWDトランスファ40、フロントディファレンシャル50、リアディファレンシャル60、ブレーキ装置70等を備えて構成されている。
【0014】
エンジン10は、車両1の走行用動力源であって、例えばガソリンエンジン等の内燃機関である。
トルクコンバータ20は、エンジン10の出力を変速機構部30に伝達する流体継ぎ手であって、車速ゼロからの車両の発進を可能とする発進デバイスとしての機能を有する。
トルクコンバータ20は、入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチを備えている。
変速機構部30は、例えば、一対の可変プーリ及びチェーン、ベルト等からなるバリエータを有する無段変速機(CVT)や、複数列のプラネタリギアセットを有するステップAT等であって、トルクコンバータ20から入力されるエンジン10の出力の増減速を行うものである。
変速機構部30の出力は、AWDトランスファ40に伝達される。
【0015】
AWDトランスファ40は、変速機構部30から入力される駆動力を、フロントディファレンシャル50、及び、リアディファレンシャル60に配分して伝達する駆動力伝達装置である。
AWDトランスファ40は、センターディファレンシャル41、トランスファクラッチ42等を備えて構成されている。
センターディファレンシャル41は、例えば、複合プラネタリギアセットを有して構成され、トルク配分比が例えば約35:65程度となるようにフロントディファレンシャル50及びリアディファレンシャル60へトルク配分を行う駆動力配分機構である。
また、センターディファレンシャル41は、例えば旋回時の前後輪軌跡差等に起因するフロントディファレンシャル50及びリアディファレンシャル60の差回転を吸収する差動機構としても機能する。
【0016】
トランスファクラッチ42は、センターディファレンシャル41の前後輪側出力部間の差動を拘束する差動制限機構(差回転拘束装置・LSD)である。
トランスファクラッチ42は、例えば、油圧又は電磁力によって駆動される湿式多板クラッチを備え、その締結力(クラッチ圧着力)すなわち差動制限トルク(差回転拘束力)は、後述するトランスミッション制御ユニット120によって制御されている。
AWDトランスファ40は、トランスファクラッチ42の締結力を変化させることにより、前輪側と後輪側との駆動力配分比を、例えば35:65から、50:50まで、無段階に調整することが可能となっている。
【0017】
フロントディファレンシャル50は、AWDトランスファ40から伝達される前輪側駆動力を、最終減速するとともに右前輪51及び左前輪52に伝達するものである。また、フロントディファレンシャル50は、右前輪51と左前輪52との差回転を吸収する差動機構として機能する。
フロントディファレンシャル50は、図示しないドライブシャフト等とともに、前輪駆動装置を構成する。
【0018】
リアディファレンシャル60は、AWDトランスファ40から図示しないプロペラシャフトを介して伝達される後輪側駆動力を、最終減速するとともに右後輪61及び左後輪62に伝達するものである。また、リアディファレンシャル60は、右後輪61と左後輪62との差回転を吸収する差動機構として機能する。
リアディファレンシャル60は、プロペラシャフト、図示しないドライブシャフト等とともに、後輪駆動装置を構成する。
【0019】
ブレーキ装置70は、ブレーキペダル71、マスタシリンダ72、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)73、ブレーキFR74、ブレーキFL75、ブレーキRR76、ブレーキRL77等を備えて構成されている。
ブレーキペダル71は、ドライバがブレーキ操作を行う入力部である。
マスタシリンダ72は、ブレーキペダル71に連結され、ブレーキペダル71の踏込み操作に応じて、ブレーキフルードを加圧するものである。マスタシリンダ72には、エンジン10の吸気管負圧を用いてブレーキペダル71からの入力を増幅する真空倍力装置が設けられている。
【0020】
ハイドロリックコントロールユニット73は、例えばアンチロックブレーキ制御、ヨーコントロール制御、自動ブレーキ制御等のため、各車輪のホイルシリンダへ供給されるブレーキフルードの液圧を個別に増減するものである。
ハイドロリックコントロールユニット73は、ブレーキフルードを加圧する電動ポンプ、及び、各ホイルシリンダの液圧を個別に調節する制御弁等を有して構成されている。
【0021】
ブレーキFR74、ブレーキFL75、ブレーキRR76、ブレーキRL77は、それぞれ右前輪51、左前輪52、右後輪61、左後輪62に設けられている。各ブレーキは、車輪とともに回転する円盤状のロータ、及び、ロータにパッドを加圧接触させるキャリパ等をそれぞれ備えている。キャリパは、ハイドロリックコントロールユニット73から供給されるブレーキフルードの液圧によってパッドを押圧するホイルシリンダを備えている。
【0022】
車両1は、さらに、エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、操舵制御ユニット130、挙動制御ユニット140、運転支援制御ユニット150等を有する
各ユニットは、例えばCPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有する。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して、あるいは、直接に、通信可能に接続されている。
【0023】
エンジン制御ユニット110は、エンジン10及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット110は、エンジン10の出力調整を行う機能を備えている。
エンジン制御ユニット110は、アクセルペダルセンサ111を用いて検出されるドライバのアクセル操作量に基づいて、ドライバ要求トルクを設定するとともに、エンジン10の実トルクがドライバ要求トルクと一致するよう、エンジン10のスロットル開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング、EGR率、過給圧などを制御する。
特に、スロットル開度は、エンジンの出力トルクに対して支配的であり、車両の走行用動力源の出力状態を示す指標として用いることができる。
【0024】
アクセルペダルセンサ111は、例えば、ドライバが足踏み操作によりアクセル操作を行うアクセルペダルに設けられ、アクセルペダルの操作量を検出する位置エンコーダを有する。
スロットルバルブにより出力調整を行うガソリンエンジンにおいては、通常は、アクセルペダルの操作量(アクセル操作量)は、スロットル開度と所定の相関を有し、事実上スロットル開度に換算可能である場合が多い。
【0025】
トランスミッション制御ユニット120は、変速機構部30における変速制御、前後進切換制御、トルクコンバータ20におけるロックアップクラッチの締結力(拘束力)制御などを行うものである。
また、トランスミッション制御ユニット120は、AWDトランスファ40のトランスファクラッチ42の締結力を変化させることにより、差回転拘束力を変化させ、前輪側と後輪側との駆動力配分比、内部循環トルクを制御する機能を有する。
【0026】
操舵制御ユニット130は、図示しない操舵装置に設けられる電動パワーステアリング(EPS)装置を制御するものである。
操舵制御ユニット130は、例えば、ドライバがステアリングホイールに入力する操舵トルクに応じて、アシスト力を発生する電動モータを制御する機能を有する。
操舵制御ユニット130には、操舵装置における舵角δを検出する舵角センサ131が接続されている。
【0027】
挙動制御ユニット140は、ハイドロリックコントロールユニット73を制御し、ブレーキFR74、ブレーキFL75、ブレーキRR76、ブレーキRL77のホイルシリンダ液圧(制動力と相関する)を個別に制御する機能を備えている。
挙動制御ユニット140は、例えば、制動による車輪ロックの発生時に、当該車輪のホイルシリンダ液圧を周期的に減圧して回転を回復するアンチロックブレーキ制御や、オーバーステア挙動、アンダーステア挙動の発生時に左右車輪の制動力差を発生させて各挙動を抑制する方向のヨーモーメントを抑制する挙動制御などを行う機能を有する。
挙動制御ユニット140には、これらの制御を行うため、各車輪の回転速度を個別に検出する車速センサ141、及び、車体のヨーレートを検出するヨーレートセンサ142が接続されている。
【0028】
挙動制御ユニット140は、操舵制御ユニット130から舵角センサ131が検出した舵角に関する情報を取得し、車両の進行方向に対して車両前方(車体の左右中心軸方向における前側)が旋回外側を指向するヘッドアウト状態、及び、車両の進行方向に対して車両前方が旋回内側を指向するヘッドイン状態を検出する機能を有する。
挙動制御ユニット140は、本発明のヘッドアウト状態検出部、ヘッドイン状態検出部として機能する。
【0029】
実施形態のようなAWDの車両の場合、旋回等による前後輪の回転速度差(差回転)に応じて、AWDトランスファ40を介して前輪側と後輪側とでやり取りされるトルクである内部循環トルクが発生する。
図2は、ヘッドアウト状態及びヘッドイン状態における内部循環トルクの状態を模式的に示す図である。
図2(a)は、ヘッドアウト状態を示している。
ヘッドアウト状態は、車両の横滑り角(スリップアングル)βと、ヨーレートγとが同符号である状態である。
【0030】
車両の横滑り角β、ヨーレートγは、以下の式1、式2により表される。
【数1】
β:横滑り角
γ:ヨーレート
V:車速
δ:舵角
m:車両重量
l:ホイールベース
:重心から前輪車軸までの前後方向距離
:重心から後輪車軸までの前後方向距離
:前輪等価コーナリングパワー(CP)
:後輪等価コーナリングパワー(CP)

ここで、ヨーレート、車速、舵角は、ヨーレートセンサ142、車速センサ141、舵角センサ131により、リアルタイムで検出することが可能である。
また、車両重量m以下の各数値は、車両諸元に基づいて予め設定することが可能である。
【0031】
ヘッドアウト状態においては、右前輪51と右後輪61、左前輪52と左後輪62とをそれぞれ比較した場合、前輪の旋回半径が後輪の旋回半径に対して大きくなる(前輪が後輪に対して旋回外側を通る)ことから、前輪の回転速度が後輪の回転速度に対して大きくなる。
この場合、AWDトランスファ40を介して、前輪駆動装置から後輪駆動装置への内部循環トルクが発生する。
その結果、図2(a)に矢印で示すように、内部循環トルクにより、前輪には制動力が発生し、後輪には駆動力が発生することになる。
【0032】
図2(b)は、ヘッドイン状態を示している。
ヘッドイン状態は、車両の横滑り角βとヨーレートγとが異符号である状態である。
ヘッドイン状態においては、右前輪51と右後輪61、左前輪52と左後輪62とをそれぞれ比較した場合、後輪の旋回半径が前輪の旋回半径に対して大きくなる(後輪が前輪に対して旋回外側を通る)ことから、後輪の回転速度が前輪の回転速度に対して大きくなる。
この場合、AWDトランスファ40を介して、後輪駆動装置から前輪駆動装置への内部循環トルクが発生する。
その結果、図2(b)に矢印で示すように、内部循環トルクにより、前輪には駆動力が発生し、後輪には制動力が発生することになる。
【0033】
運転支援制御ユニット150は、各ユニット等から取得した情報をもとに、車両1のヘッドイン状態、ヘッドアウト状態に応じて前輪又は後輪のタイヤ横力を増大させる目標アクセル操作量を設定し、ドライバに提示する目標アクセル操作量設定部である。
運転支援制御ユニット150には、画像表示装置151が接続されている。
画像表示装置151は、車両1のドライバに画像情報を表示する情報提示部である。
画像表示装置151は、例えば、インストルメントパネルに設けられたLCD、有機ELディスプレイや、フロントウインドウガラスに画像を投影するヘッドアップディスプレイなどを有する構成とすることができる。
画像表示装置151における具体的な表示態様については、後に詳しく説明する。
【0034】
本実施形態では、ヘッドアウト状態においては、AWDトランスファ40の内部循環トルクにより発生する前輪の制動力を、エンジン10の出力トルクによる駆動力によって打ち消し、ヘッドイン状態においては、内部循環トルクにより発生する後輪の制動力を、エンジン10の出力トルクによって打ち消すよう、ドライバに対して目標アクセル操作量を提示する。
これにより、ヘッドアウト状態においては前輪のタイヤが発生可能な横力を増大し、ヘッドイン状態においては後輪のタイヤが発生可能な横力を増大している。
【0035】
内部循環トルクFによる制駆動力は、以下の式3により表される。
【数2】
:内部循環トルクによる制駆動力
p:差回転拘束率(トランスファクラッチ)
0→フリー、1→ロック
(μ):ドライビングスティフネス
ここで、トランスファクラッチ42の締結トルクによる制駆動力をFとしたときに、F<Fであれば、実際の内部循環トルクによる制駆動力はFとなる。
また、F≧Fである場合(トランスファクラッチ42にスリップが発生している場合)には、実際の内部循環トルクによる制駆動力はFpとなる。
【0036】
前輪の総駆動力Ff_total、後輪の総駆動力Fr_totalは、以下の式4、式5により表される。
【数3】
f_total:前輪の総駆動力
r_total:後輪の総駆動力
Fd:ドライバが加える駆動力
α:前後駆動力配分(AWDトランスファ)
【0037】
本実施形態では、車速や操舵操作に応じて、内部循環トルクを考慮した適切なアクセル開度をドライバに示すことで、運転スキルの高いドライバに近い運転を一般的なドライバであっても行えるよう運転支援を行う。
具体的には、ヘッドアウト状態の場合には、内部循環トルクで前輪にかかる制動力を駆動力で打ち消すため、以下の式6、式7(F<Fの場合)、式8、式9(F≧Fの場合)のようにドライバが加える目標駆動力Ftgtを設定する。

tgt×α=F (式6)
tgt=F/α (式7)
tgt×α=F (式8)
tgt=F/α (式9)

tgt:ドライバが加える目標駆動力
α:AWDトランスファの駆動力配分(前輪への配分)
:トランスファクラッチ締結トルク
【0038】
また、ヘッドイン状態の場合には、内部循環トルクで後輪にかかる制動力を駆動力で打ち消すため、以下の式10、式11(F<Fの場合)、式12、式13(F≧Fの場合)のようにドライバが加える目標駆動力Ftgtを設定する。

tgt×(1-α)=F (式10)
tgt=F/(1-α) (式11)
tgt×(1-α)=F (式12)
tgt=F/(1-α) (式13)
【0039】
図3は、実施形態の運転支援装置の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:舵角・車速・トランスファクラッチ締結力取得>
運転支援制御ユニット150は、舵角センサ131、車速センサ141、トランスミッション制御ユニット120から、舵角δ、車速V、トランスファクラッチ42の締結トルクFに関する情報を取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0040】
<ステップS02:横滑り角・ヨーレート算出>
運転支援制御ユニット150は、上述した式1、式2を用いて、横滑り角β、ヨーレートγを算出する。
その後、ステップS03に進む。
【0041】
<ステップS03:舵角判断>
運転支援制御ユニット150は、舵角センサ131が検出した舵角δを所定の閾値と比較する。
舵角δが閾値以上である場合には、車両が旋回状態にあるものとして、ステップS04に進み、その他の場合は車両が直進状態にあるものとして一連の処理を終了(リターン)する。
【0042】
<ステップS04:舵角切り増し・保持判断>
運転支援制御ユニット150は、舵角センサ131が検出した舵角δが切り増しされているか(増加しているか)、あるいは、所定値以上で保持されているか否かを判別する。
舵角δが切り増しされている状態、あるいは、所定値以上で保持されている状態の場合は、ステップS05に進み、その他の場合(舵角が減少(切り戻し)している状態)の場合は、一連の処理を終了する。
【0043】
<ステップS05:アクセル操作量判断>
運転支援制御ユニット150は、アクセルペダルセンサ111が検出するアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)が所定の閾値以上であるか否かを判別する。
閾値は、例えば、通常カーブ路走行時にドライバのアクセル操作により発生し得るスロットルの中間(パーシャル)開度を考慮して設定することができる。
アクセル操作量が閾値以上である場合は、パーシャルスロットル状態であるとしてステップS06に進み、その他の場合はアクセルオフ状態であるとして一連の処理を終了する。
【0044】
<ステップS06:差回転から制駆動力F算出>
運転支援制御ユニット150は、上述した式3を用いて、前後輪の差回転による前後力(内部循環トルク)による制駆動力Fを算出する。
その後、ステップS07に進む。
【0045】
<ステップS07:内部循環トルク・トランスファクラッチ締結トルクによる制駆動力比較>
運転支援制御ユニット150は、ステップS06で算出した内部循環トルクによる制駆動力Fを、トランスファクラッチ42の締結トルクによる制駆動力Fpと比較する。
がF以下である場合はステップS08に進み、その他の場合はステップS09に進む。
【0046】
<ステップS08:内部循環トルクによる前後力=F
運転支援制御ユニット150は、目標スロットル開度の演算に用いる内部循環トルクによる制駆動力を、Fに設定する。
その後、ステップS10に進む。
【0047】
<ステップS09:内部循環トルクによる前後力=F
運転支援制御ユニット150は、目標スロットル開度の演算に用いる内部循環トルクによる制駆動力を、Fに設定する。
その後、ステップS10に進む。
【0048】
<ステップS10:横滑り角・ヨーレート符号判断>
運転支援制御ユニット150は、ステップS02で算出した横滑り角β、ヨーレートγが同符号であるか否かを判別する。
横滑り角β、ヨーレートγが同符号である場合は、車両がヘッドアウト状態にあるものとしてステップS11に進み、異符号である場合は、車両がヘッドイン状態にあるものとしてステップS12に進む。
【0049】
<ステップS11:前輪横力最大化スロットル開度算出>
運転支援制御ユニット150は、上述した式6乃至式9を用いて、前輪の横力を最大化する(前後力をゼロとする)ための目標駆動力Ftgtを設定する。
運転支援制御ユニット150は、目標駆動力Ftgtが得られるエンジン10の目標スロットル開度(目標アクセル操作量)を算出する。
その後、ステップS13に進む。
【0050】
<ステップS12:後輪横力最大化スロットル開度算出>
運転支援制御ユニット150は、上述した式10乃至式13を用いて、後輪の横力を最大化する(前後力をゼロとする)ための目標駆動力Ftgtを設定する。
運転支援制御ユニット150は、目標駆動力Ftgtが得られるエンジン10の目標スロットル開度(目標アクセル操作量)を算出する。
その後、ステップS13に進む。
【0051】
<ステップS13:アクセル操作量指示出力>
運転支援制御ユニット150は、画像表示装置151に、目標スロットル開度(目標アクセル操作量)に関する情報を、ドライバに提示するよう出力させる。
画像表示装置151における画像表示の具体例については、後に詳しく説明する。
その後、一連の処理を終了する。
【0052】
図4は、車両がカーブ路(コーナ)を通過する際の状態推移の一例を示す図である。
図4においては、一例として、車両1がU字状の左コーナーを通過する場合を示している。
先ず、直進状態でブレーキングを行いながらカーブ路に進入する領域(Z1)においては、前後輪の軌跡差がなく、本実施形態の演算手法においては、内部循環トルクが0と算出される。このとき、目標スロットル開度も0となる。
この状態では、目標スロットル開度に関する情報のドライバへの提示は行わない。
(ステップS03において舵角が閾値未満となり、処理が終了される。)
【0053】
コーナーの入口でブレーキをリリースし、アクセルオフ状態で舵角の付与、増加を行うターンイン時の領域(Z2)においては、ヘッドイン、ヘッドアウトとの程度に応じて内部循環トルクが算出される。
しかし、このような状態で目標スロットル開度に関する情報をドライバに提示した場合、緩減速を行いながらクリッピングポイントCPを目指すドライバに対してアクセルオン操作を促すことになり、ドライバの操作、感覚とアンマッチが生じてしまう。
この状態では、目標スロットル開度に関する情報のドライバへの提示は行わない。
(ステップS05においてアクセル操作量が閾値未満となり、処理が終了される。)
【0054】
コーナーの中盤でスロットル開度を中間開度(パーシャル)に維持し、旋回状態を維持する領域(Z3)においては、ヘッドイン、ヘッドアウトとの程度に応じて内部循環トルクが算出される。
このような領域では、実施形態による目標スロットル開度に関する情報のドライバへの提示が有効であり、ドライバの操作、感覚ともマッチする。
このため、実施形態による運転支援(目標スロットル開度(目標アクセル操作量)に関する情報の画像表示)は、このような領域において主に行うことができる。
【0055】
コーナーの終盤(出口)で立上り加速を開始する領域(Z4)においては、ヘッドイン、ヘッドアウトとの程度に応じて内部循環トルクが算出される。
しかし、このような領域では、ドライバはスロットル開度の増加により車両の加速を意図していることから、目標スロットル開度に関する情報をドライバに提示した場合、アクセルオン操作を制限してしまうことが懸念され、ドライバの操作、感覚とアンマッチが生じてしまう。
この状態では、目標スロットル開度に関する情報のドライバへの提示は行わない。
(ステップS04において、舵角戻しが判別され、処理が終了される。)
【0056】
コーナーから直進状態で脱出する領域(Z5)においては、前後輪の軌跡差がなく、本実施形態の演算手法においては、内部循環トルクが0と算出される。このとき、目標スロットル開度も0となる。
しかし、この状態では直進状態で車両が加速することが要求されるため、目標スロットル開度に関する情報を提示することは適当ではない。
この状態では、目標スロットル開度に関する情報のドライバへの提示は行わない。
(ステップS03において、舵角が閾値未満となり、処理が終了される。)
なお、領域Z4、Z5においては、目標スロットル開度に関する情報の提示に代えて、ドライバに対して加速(アクセルオン操作)を促すよう画像表示等を行う構成としてもよい。
【0057】
図5は、実施形態における目標スロットル開度に関する情報の画像表示の一例を示す図である。
図5に示すように、画像表示は、現在の実際のスロットル開度と、運転支援制御ユニット150が算出した目標スロットル開度(目標アクセル操作量に関する情報)とが、例えばグラフ状に表示される。
スロットル開度により出力調整を行うエンジン10を走行用動力源とする車両の場合、スロットル開度は、アクセル操作量に換算する(読み替える)ことが可能である。
【0058】
実際のスロットル開度は、アクセルペダルセンサ111によって検出されるアクセル操作量(アクセルペダルの踏込量)の増減に応じて増減する。
図5に示す例においては、実際のスロットル開度が目標スロットル開度を上回っている場合を示している。
画像表示は、目標スロットル開度と実際のスロットル開度との乖離に関する情報(目標アクセル操作量と、アクセル操作量の乖離に関する情報と読み換えることができる)を含むことになる。
この場合、ドライバは、アクセルペダルを戻す(アクセル操作量を小さくする)ことにより、実際のスロットル開度が目標スロットル開度に近づく(実際のアクセル操作量が目標アクセル操作量と一致する)ようアクセル操作を行う。
【0059】
以下、上述した運転支援制御の効果について説明する。
先ず、ヘッドアウト状態において、エンジン10が駆動トルクを発生させている状態(アクセルオン状態)について説明する。
この場合、典型的には、比較的摩擦係数(μ)が高い路面において、低速かつ旋回半径が小さい旋回であることなどが想定される。
また、比較的摩擦係数が低い路面においても、例えば低速かつ旋回半径が小さい場合などには、ヘッドアウト状態となる可能性がある。
この場合、車両の回頭性を向上することが求められる。
【0060】
図6は、実施形態におけるヘッドアウト状態時の前輪及び後輪の制駆動力の状態を模式的に示す図である。
図6(a)は、スロットル操作による駆動力と内部循環トルクによる制駆動力とを別個に示し、図6(b)は、これらが合成されたトータルの制駆動力を示している。(図7において同じ)
上述したように、ヘッドアウト状態においては、内部循環トルクによって前輪には制動力、後輪には駆動力が発生する。
一方、アクセル操作によってドライバが要求する駆動力は、AWDトランスファ40を介し、トランスミッション制御ユニット120により設定された配分で、前後輪に駆動力として伝達される。
【0061】
本実施形態においては、ドライバの要求する右前輪51、左前輪52の駆動力と、内部循環トルクによる右前輪51、左前輪52の制動力とが釣り合い、右前輪51、左前輪52の制駆動力(前後方向のタイヤ発生力)が0となるように目標スロットル開度が設定され、目標スロットル開度に応じたアクセル操作がドライバに促されるので、右前輪51、左前輪52のタイヤが発生可能な摩擦力を全て横力に使用することができる。
その結果、右前輪51、左前輪52が高いコーナリングフォースを発生可能な状態となり、車両の回頭性を向上することができる。
【0062】
次に、ヘッドイン状態において、エンジン10が駆動トルクを発生させている状態(アクセルオン状態)について説明する。
この場合、典型的には、比較的摩擦係数が低い路面において、高速かつ旋回半径が大きい旋回であることなどが想定される。
また、比較的摩擦係数が高い路面においても、例えば高速かつ旋回半径が大きい場合などには、ヘッドイン状態となる可能性がある。
この場合、車両がスピン状態に陥る可能性を低くすることが重要となる。
【0063】
図7は、実施形態におけるヘッドイン状態の前輪及び後輪の制駆動力の状態を模式的に示す図である。
上述したように、ヘッドイン状態においては、内部循環トルクによって前輪には駆動力、後輪には制動力が発生する。
一方、アクセル操作によってドライバが要求する駆動力は、AWDトランスファ40を介し、トランスミッション制御ユニット120により設定された配分で、前後輪に駆動力として伝達される。
【0064】
本実施形態においては、ドライバの要求する右後輪61、左後輪62の駆動力と、内部循環トルクによる右後輪61、左後輪62の制動力とが釣り合い、右後輪61、左後輪62の制駆動力(前後方向のタイヤ発生力)が0となるように目標スロットル開度が設定され、目標スロットル開度に応じたアクセル操作がドライバに促されるので、右後輪61、左後輪62のタイヤが発生可能な摩擦力を全て横力に使用することができる。
その結果、右後輪61、左後輪62が高いコーナリングフォースを発生可能な状態となり、車両の安定性を向上し、車両がスピン状態に陥ることを防止できる。
【0065】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ヘッドアウト状態の発生時に、AWDトランスファ40の内部循環トルクによって前輪に発生する制動力の絶対値と、エンジン10の出力による前輪の駆動力との差分が減少するよう、ドライバに目標スロットル開度(目標アクセル操作量)を提示することによって、前輪が路面に伝達する制駆動力の絶対値を減少させ、前輪のタイヤが発生可能な横力を増大させ、車両1の回頭性を向上することが可能なアクセル操作を促すことができる。
(2)ヘッドイン状態の発生時に、AWDトランスファ40の内部循環トルクによって後輪に発生する制動力の絶対値を、エンジン10の出力による後輪の駆動力との差分が減少するよう、ドライバに目標スロットル開度(目標アクセル操作量)を提示することによって、後輪が路面に伝達する制駆動力の絶対値を減少させ、後輪のタイヤが発生可能な横力を増大させ、車両1の安定性を向上し、車両1がスピン状態に陥ることを防止可能なアクセル操作を促すことができる。
(3)ドライバに提示される画像標示が実際のスロットル開度(実際のアクセル操作量)と目標スロットル開度(目標アクセル操作量)との乖離に関する情報を有することにより、ドライバがアクセル操作量を増加すべきか減少すべきか、さらに、アクセル操作量の変化量を容易に把握することができ、上述した効果を促進することができる。
(4)ステアリング装置の舵角δが増加又は維持され、かつ、ドライバによるアクセル操作量が所定値以上(パーシャルスロットル状態)である場合にのみ目標スロットル開度(目標アクセル操作量)に関する情報を画像表示することにより、前輪と後輪との軌跡差が無いかあるいは微小な直進時や、ドライバが減速あるいは加速を重視するコーナーの進入時、脱出時に目標スロットル開度に関する情報の提示が行われ、ドライバの操作と感覚とがアンマッチとなってドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0066】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両、及び、運転支援装置の構成は、上述した実施形態に限定されず。適宜変更することができる。
例えば、実施形態では一例としてエンジンを走行用動力源としているが、これに限らず、本発明はエンジン-電気ハイブリッド車両や、電動モータのみを走行用動力源とする車両にも適用することができる。
この場合、実施形態におけるスロットル開度に代えて、モータの出力トルクを、アクセル操作量に応じて走行用動力源が発生する駆動力を表す指標として用いることができる。
(2)実施形態ではセンターディファレンシャルとして例えばプラネタリギア式のものを用いているが、これに限らず、例えばベベルギヤ式などの他種のセンターディファレンシャルを用いてもよい。
また、前輪駆動装置、後輪駆動装置の一方が変速機構部の出力軸と直結され、他方にトランスファクラッチを介して駆動力が伝達されるAWDシステムとしてもよい。
(3)車両のスリップ率を求める手法や、拘束力を求める数式は、実施形態のものに限らず適宜変更することができる。
(4)実施形態においては、ヘッドアウト状態、ヘッドイン状態に応じてそれぞれ運転支援制御を介入させる構成としているが、これらの状態のいずれか一方に対してのみ制御を介入する簡易的な構成とすることもできる。
(5)実施形態において、ドライバに目標アクセル操作量に関する情報を提示する手法は一例であって、本発明はこれに限定されることなく適宜変更することができる。
例えば、画像標示の具体的態様は、実施形態の構成に限らず適宜変更することができる。
また、目標アクセル操作量に関する情報は、画像表示とともに、あるいは、画像表示に代えて、他の手法によりドライバに情報を提示してもよい。
例えば、音声などの聴覚や、アクセルペダルやシートなどドライバに接する部材の振動などの触覚によりドライバに情報を提示してもよい。
また、アクセルペダルが反力発生装置を有する場合には、目標アクセル操作量において、アクセルペダルの操作力が変化する(典型的には操作力が増大する)構成としてもよい。
また、画像表示等に代えて、例えばインジケータランプの点灯態様(色など)によって目標アクセル操作量に関する情報を提示してもよい。
(6)実施形態では、車両は、一例として自動変速機を有するが、本発明はこれに限らず、手動変速機を有する車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 車両 10 エンジン
20 トルクコンバータ 30 変速機構部
40 AWDトランスファ
41 センターディファレンシャル
42 トランスファクラッチ 50 フロントディファレンシャル
51 右前輪 52 左前輪
60 リアディファレンシャル 61 右後輪
62 左後輪 70 ブレーキ装置
71 ブレーキペダル 72 マスタシリンダ
73 ハイドロリックコントロールユニット
74 ブレーキFR 75 ブレーキFL
76 ブレーキRR 77 ブレーキRL
110 エンジン制御ユニット 111 アクセルペダルセンサ
120 トランスミッション制御ユニット
130 操舵制御ユニット 131 舵角センサ
140 挙動制御ユニット 141 車速センサ
142 ヨーレートセンサ
150 運転支援制御ユニット 151 画像表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7