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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182359
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ビス緩締装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20231219BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B23P19/06 D
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095911
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】内海 省吾
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS06
3C707BS10
3C707DS01
3C707KS03
3C707KT01
(57)【要約】
【課題】 ロボットによるビス緩締作業において、ビス頭部の駆動部中心とビットの中心がズレた場合でも、ビス位置情報の再取得又は緩締作業の繰り返しを行うことなくビスの緩締作業を可能にして、ロボットを用いたビス外し作業時間を短縮しロボット導入における省人化又は作業効率向上が実現するビス緩締装置を提供する。
【解決手段】 ビット2をビス頭部1aの駆動部プラス溝1bに押し付ける動作と連動してビットをフローティング状態にすることで、ビット先端をビス頭部の駆動部プラス溝に倣わせることでビスとビットの中心ズレを吸収する機構を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビットがビスのビス頭部の駆動部に押し付けられて前記ビスの緩締を行うビス緩締装置であって、
前記ビットの同軸上に配置された円錐台形形状のビット保持カラーと、
前記ビット保持カラーの第1傾斜面の傾斜角と同じ円錐台形の傾斜角の第2傾斜面を持ち、前記ビットを前記ビットの回転軸の方向に移動可能かつ前記回転軸に対して揺動可能に保持するとともに、前記ビット保持カラーを前記ビットの前記回転軸の方向に移動可能かつ前記回転軸に対して揺動可能に内包するホルダーと、
前記ホルダーの前記第2傾斜面に前記ビット保持カラーの前記第1傾斜面を押し付けるバネとを備え、
前記ビットを前記ビス頭部の前記駆動部に着座させたときの押し付け力で前記バネを縮めることにより、前記ビット保持カラーと前記ホルダーとが離間し、前記ビットと前記ビット保持カラーとが前記ホルダーの内部でフローティング状態になることで前記ビットが前記ビス頭部の前記駆動部に倣い嵌るビス緩締装置。
【請求項2】
前記ビット保持カラーが前記ホルダー内でフローティング状態になったときの前記ビット保持カラーの前記第1傾斜面と前記ホルダーの前記第2傾斜面のクリアランスが、
ビス頭部駆動部の内接円直径<クリアランス<ビス頭部の前記駆動部の長さ
である請求項1に記載のビス緩締装置。
【請求項3】
前記ビット保持カラーと前記ホルダーが接合する前記円錐台形の母線と前記ビットの前記回転軸が成す傾斜角が、45°<傾斜角<60° である請求項1に記載のビス緩締装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締め込まれた状態のビスをロボットアームに持たせたビス緩め用工具を用いて緩めて取り外す作業、又は、ビスによる部品同士の締結作業において、ビス頭部の駆動部(例えばプラス溝)の中心と、ビス緩め用工具先端のビットの中心とが合致しない状態でビットがビスの頭部に着座した状態でも、ビットがビス駆動部のプラス溝に倣うように移動することでビットがビス駆動部に嵌り込み、緩締作業を行うビス緩締装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスを緩めて外すという作業は、組立て作業、又は解体作業において使用頻度の高い作業であり、作業の効率化、及び高速化のために、ロボットを用いた自動化が進んでいる。ロボットを用いてビスを緩める方法として、ロボットアームに電動ドライバ又はエアーインパクトドライバ等のビス緩め工具を保持させ、画像認識カメラで撮像した画像情報から位置情報を算出する。または、ビスの位置情報をティーチングすることで位置合わせを行い、ビスを緩め方向に回転させてビスを緩めるという方法が一般的である。
【0003】
図13Aは、ビス1により板状部材3が固定部4に対して締結された状態からビット2をビス1の頭部1aの駆動部1bに差し込んでビス1を緩める作業の状態を示した図である。図13Aのように、ビット2の中心とビス1の中心が合致し、ビット2の先端がビス1の頭部1aの駆動部1bに深く嵌ることにより、ビット2は空回りすることなくビス1を緩めて取り外すことにより、板状部材3と固定部4の分離が可能となる。
【0004】
図13Bは、ビット2の中心とビス1の駆動部1bの中心が合致せずズレた状態を示す図である。このような中心ズレは、画像認識カメラにて撮像した画像情報からビス1駆動部1bの中心位置を算出し、その結果をロボット側の演算装置へ変換して受け渡す際に発生する計算の誤差、ロボットアームの停止位置のバラつき、それらが累積されることにより発生する。このように、ビス1の駆動部1bの中心とビット2の中心がズレた状態では、ビット2がビス1の駆動部1bに嵌らないためビス1を緩めることができない。また、図13Cのように、ビット2に対してビス1が傾斜した場合もビット2はビス1駆動部1bのプラス溝に嵌らないためビス1を緩めることができない。
【0005】
このように、ビス1の駆動部1bとビット2の中心ズレが発生した場合、画像認識によるビス位置の取得と演算処理を、ビス1の駆動部1bにビット2が嵌り込むまで繰り返し行い、ビス1の緩め作業を行うことになるため自動化における作業時間の短縮に対して課題となる。分解能の高い画像認識カメラを用い、ビス1の正面からだけではなく、左右上下の複数方向から撮像して画像情報を取得し高精度にビス1の駆動部1bの中心位置を算出することで、中心ズレは低減されるが、作業時間の長時間化、設備コスト増大に繋がるため生産現場への導入には課題がある。
【0006】
特許文献1に傾斜した部材に加工された雌ネジ穴に対してビス締めを行うための傾き吸収機構が記載されているが、ビス1の駆動部1bとビットの中心ズレを吸収する手段を持たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5―57540
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロボットアームを用いてビスの緩締作業を行う場合、対象物の傾斜を吸収してビス締めを自動化する手段には、上記特許文献1の手法を適用することで可能ではあるが、ビス1の駆動部1bの中心とビット2の中心がズレた状態から、両者の中心を合致させて、ビス1の緩締作業を行うためには、ビス1の位置情報の再取得と緩締作業の繰り返しが必要となり自動化における作業時間の短縮に対して課題が残る。
【0009】
そこで、本発明は、ビスの位置情報の再取得と緩締作業を繰り返さずに、ビス駆動部の中心とビットの中心を合致させて、ロボットを用いたビス外し作業時間を短縮しロボット導入における省人化又は作業効率向上が可能なビス緩締装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の一つの態様にかかるビス緩締装置は、ビットがビスのビス頭部の駆動部に押し付けられて前記ビスの緩締を行うビス緩締装置であって、
前記ビットの同軸上に配置された円錐台形形状のビット保持カラーと、
前記ビット保持カラーの第1傾斜面の傾斜角と同じ円錐台形の傾斜角の第2傾斜面を持ち、前記ビットを前記ビットの回転軸の方向に移動可能かつ前記回転軸に対して揺動可能に保持するとともに、前記ビット保持カラーを前記ビットの前記回転軸の方向に移動可能かつ前記回転軸に対して揺動可能に内包するホルダーと、
前記ホルダーの前記第2傾斜面に前記ビット保持カラーの前記第1傾斜面を押し付けるバネとを備え、
前記ビットを前記ビス頭部の前記駆動部に着座させたときの押し付け力で前記バネを縮めることにより、前記ビット保持カラーと前記ホルダーとが離間し、前記ビットと前記ビット保持カラーとが前記ホルダーの内部でフローティング状態になることで前記ビットが前記ビス頭部の前記駆動部に倣い嵌る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の前記態様にかかるビス緩締装置によれば、前記ビットと前記ビット保持カラーが前記ホルダー内部でフローティング状態になることで前記ビットが前記ビス頭部の駆動部に倣い嵌ることができる。この結果、ビス頭部の駆動部中心とビットの中心がズレた場合でも、ビス位置情報の再取得又は緩締作業の繰り返しを行うことなく、ビス駆動部の中心とビットの中心を合致させてビスの緩締作業が可能になり、例えばロボットを用いたビス外し作業時間を短縮しロボット導入における省人化又は作業効率向上が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置の図
図2】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置の構成を示す図
図3】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビットがビスに着座した図
図4】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビットをビスに押し付け初期状態の図
図5】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビット保持カラーがフローティング状態に遷移した図
図6A】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビットがビス頭部の駆動部に倣って嵌った状態の図
図6B】ビットとビスとが横方向に位置ずれしている場合の図6AのX-X断面図(ただし、理解しやすくするため、ビットは仮想線で示す。)
図6C】ビットとビスとが横方向と回転方向とに位置ずれしている場合の図6AのX-X断面図(ただし、理解しやすくするため、ビットは仮想線で示す。)
図7】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビットが傾斜したビス頭部の駆動部に倣って嵌った状態の図
図8】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビット保持カラーのクリアランス範囲を示す図
図9】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビットの押込み量とビット保持カラーとクリアランスの関係を示す図
図10A】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にて60°の傾斜角を持つビット保持カラーとクリアランスの関係を示す図
図10B】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にて80°の傾斜角を持つビット保持カラーとクリアランスの関係を示す図
図10C】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にて30°の傾斜角を持つビット保持カラーとクリアランスの関係を示す図
図11】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置にてビスを緩めている状態の図
図12A】本発明の実施の形態におけるビス緩締装置のツールオフセットの説明図
図12B図12Aのビス緩締装置を正面から見たときの、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置のツールオフセットの説明図
図13A】ビスによる部材締結状態の図
図13B】ビス頭部の駆動部中心とビットの中心がズレた状態の図
図13C】傾斜した締結部材にビットが着座した状態の図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50の図である。
【0015】
ビス緩締装置50の全体は、ロボットアーム13の先端に取り付けられたホルダー6に取り付けられている。ビス1を緩締するためにビット2を正逆回転させる手段又は装置の例として、エアーインパクトドライバ10を使用している。本発明の実施の形態では、圧縮空気を動力とする、エアーインパクトドライバ10を使用しているが、緩締の時に、ビット2の回転速度又はトルクを細かく微調整する必要がある場合は、サーボモータを動力源とする電動式ドライバを使用してもよい。エアーインパクトドライバ10の先端に差し込まれているビット2は、締緩するビス1の頭部1aの駆動部1b形状に合致した、例えばプラス溝形状のビット2が使用される。ビット2は使用中の折損、又は長時間の使用によるビス頭部1aと駆動部1bとの接触により摩耗するため、交換が容易、且つ、交換後のビット2先端のツールオフセットに再現性のある取付け方式であることが望ましい。ツールオフセットについては後述する。
【0016】
ビス緩締装置50は、ビット2がビス1のビス頭部1aの駆動部1bに押し付けられてビス1の緩締を行う装置であって、ビット保持カラー5と、ホルダー6と、バネ8とを備えている。
【0017】
ビット保持カラー5は、ビット2の中間部の同軸上に係合して固定配置されて一体化された円錐台形形状の部材である。
【0018】
ホルダー6は、ビット2を、その直径よりも大きな内径を持ち、かつ、その回転軸C2の方向に移動可能かつ回転軸C2に対して揺動可能な貫通穴6c内に保持している。また、ホルダー6は、貫通穴6cの中間に、ビット保持カラー5の直径よりも大きな内径を持ち、かつ、ビット保持カラー5をビット2の回転軸C2の方向に移動可能かつ回転軸C2に対して揺動可能に保持する凹部6bを有してビット保持カラー5を内包している。凹部6b内には、ビット保持カラー5の第1傾斜面5aの傾斜角と同じ円錐台形の傾斜角の第2傾斜面6aを持ち、第1傾斜面5aと第2傾斜面6aとは互いに接離可能に対向して配置されている。よって、ビット2とビット保持カラー5とが貫通穴6cと凹部6b内でフローティング状態に保持可能となっている。
【0019】
バネ8は、ホルダー6の第2傾斜面6aにビット保持カラー5の第1傾斜面5aを押し付ける。具体的には、ビット保持カラー5の第1傾斜面5aは、複数のバネ8によりホルダー6から押し出された複数のピン7により、ホルダー6の第2傾斜面6aに押し付けられている。バネ8とピン7との数は、ビット2をビス1の頭部駆動部1bに倣わせて嵌め込むために必要な押し付け力に応じて決めればよいが、ビット2の回転軸に対して、対称に配置する必要がある。その理由は、ビット保持カラー5の第1傾斜面5aをホルダー6の第2傾斜面6aに押し付けるときに、ビット保持カラー5の回転軸とビット2の回転軸とが傾斜した状態で、ビット保持カラー5の第1傾斜面5aをホルダー6の第2傾斜面6aに押し付けられることを防ぐためである。
【0020】
ビット保持カラー5と一体化されたビット2の後端は、カップリング継手9を介して、エアーインパクトドライバ10と連結されている。
【0021】
カップリング継手9は、ビット2がビス1の頭部1aの駆動部1bに倣って嵌り込むときに、ビス1の回転軸C1に対してビット2の回転軸C2が傾斜した状態でも回転力をビット2からビス1に伝達することができるように、ゴム又は金属ばねのような弾性体が内部に組み込まれている。
【0022】
エアーインパクトドライバ10は、ビット2の回転軸方向と平行なホルダー6のガイドレール11に係合されており、ビット2の回転軸方向に移動することが可能である。
【0023】
ガイドレール11は、ホルダー6に取り付けられている。
【0024】
圧縮空気を動力源とするエアーシリンダ12は、ビット2を交換するときに使用され、エアーインパクトドライバ10の位置が後退しないようにエアーインパクトドライバ10の後端を押す。
【0025】
このような構成のビス緩締装置50によれば、ロボットアーム13などの押し付け装置又は人手で、ビス緩締装置50のビット2をビス1のビス頭部1aの駆動部1bに押し付けて、ビット2をビス頭部1aの駆動部1bに着座させる。このときの押し付け力でバネ8を縮めることにより、ビット保持カラー5とホルダー6とが離間し、ビット2とビット保持カラー5とがホルダー6の内部でフローティング状態になることでビット2がビス頭部1aの駆動部1bに倣い嵌るようにしている。以下、これについて詳しく説明する。
【0026】
ビス1の緩締作業は、ビス緩締装置50全体と共にビット2をビス1の頭部1aに押し付けることで、ビット2と同軸上に配置されたエアーインパクトドライバ10も、ガイドレール11に沿って後退するため、エアーシリンダ12のピストン12aは後退した状態である。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50とその周囲の構成を示す図である。
【0028】
図1にて説明したビス緩締装置50は、例えばロボットアーム13の先端に取り付けられる。ロボットアーム13は、ワーク24の正面、側面、及び上面に配置されたビス1の緩締を行うために、垂直多関節を有するロボットが使用されている。
【0029】
また、ワーク24は、回転機構を有するワーク設置台25の上に固定されているため、ビスのある面をロボットアーム13に対して対向させるようにワーク24の向きを変えることで、左右側面及び背面のビス1の緩締を行うことが可能である。ビス1の緩締作業を実施するときには、ビス1の頭部駆動部1bの中心と、ビス緩締装置50のビット2の中心を合致させる必要がある。その方法は、ワーク24を90度ずつ回転させて、正面、左右側面、背面、及び上方からの平面を画像認識用カメラ26でそれぞれ撮像する。撮像した画像情報からビス1の座標を演算処理することで、ビス1の位置を割り出すことが可能である。例えば、ワーク24が、薄い板金部材で構成される筐体構造の場合、ビス1の取り外しが進むにつれて筐体としての剛性が低下して取外し時の衝撃又は振動により筐体の形状が変化して、ビス1の位置が画像認識用カメラ26で撮像したときの位置から変化することがある。このため、筐体の形状変化に合わせて、適宜、ビス位置確認撮像を実施することが望ましい。
【0030】
ビット2をビス1の頭部駆動部1bに倣わせて嵌め込む手順について説明する。
【0031】
図3は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット2がビス1の頭部駆動部1bに着座した図である。図2にて説明した、画像認識用カメラ26にてビス1の頭部駆動部1bの中心位置情報に従い、ロボットアーム13の先端に取り付けられたビス緩締装置50を移動させて、ビット2の先端をビス1の頭部駆動部1bに着座させる。このとき、図13Bで説明した、ビス1の駆動部1bの中心とビット2の中心が合致しない中心ズレの状態で着座している。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けた初期状態の図である。ロボットアーム13を前進させて、更に、ビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けると、その押し付け力によりバネ8が縮み始める。バネ8のバネ定数は、ビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けてビット2をビス1の頭部駆動部1bに倣わせて嵌め込むための押し付け力より、弱い力で縮むようなバネ定数を選定する必要がある。ビット2をビス1の頭部駆動部1bに倣わせて嵌め込む押し付け力は、ビス1の呼び径、ビス1の材質、又はビス1の頭部駆動部の大きさにより異なる。バネ8が縮むことにより、ビット保持カラー5の第1傾斜面5aとホルダー6の第2傾斜面6aとが離間し、両傾斜面間にクリアランス18が発生する。
【0033】
図5は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット保持カラー5がフローティング状態に遷移した図を示す。ここで、フローティング状態とは、ビット2の先端がビス1の頭部駆動部1bの溝に倣って横滑りするように、ビット2とビット保持カラー5とがホルダー6の貫通穴6cと凹部6b内でビット2の回転軸C2の方向に移動可能かつ回転軸C2に対して揺動可能な状態を意味する。図4で説明したように、ビット保持カラー5とホルダー6とが離間し始めた状態から、更にビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けることで、ビット保持カラー5とホルダー6とのクリアランス18は、ビット2の押込み量に比例して大きくなり、ビット2はビス1との着座点と、ピン7とビット保持カラー5の接触点で保持され、ホルダー6の内部でフローティング状態に遷移する。
【0034】
図6Aは、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット2がビス1の頭部駆動部1bに倣って嵌った状態の図である。図5の状態から、更にビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けると、ビット2とビット保持カラー5は、ホルダー6の内部でフローティング状態にあるため、ビット2の先端は、ビス1の頭部駆動部1bの溝に倣って横滑りを始めビス1の頭部駆動部1bの溝に嵌り込む状態になる。
【0035】
図6B図6Cとは、異なる場合のそれぞれの図6AのX-X断面図を示す。ただし、理解しやすくするため、ビット2は仮想線で示す。
【0036】
図6Aにて、ビット2の先端がビス1の頭部駆動部1bの溝に倣って横滑りすると記述したが、図6Bに示すように、ビット2の先端部のプラス形状と、ビス1の頭部駆動部1bのプラス溝が重なる状態で、ビット2をビス1の頭部駆動部1bに押し付けた場合は、ビット2の押し付け量を増やしていくことで、ビット2の先端は横滑りを始め、最終的には図6Aに示すようにビット2がビス1の頭部駆動部1bに嵌り込む状態になる。
【0037】
図6Cに示すように、ビット2の先端部のプラス形状と、ビス1の頭部駆動部1bのプラス溝の角度が異なり、ビット2を押し付けるだけではビット2の横滑りが発生しないような状態であっても、ビス1を緩めるためにビット2を回転させると、両者の角度が合致しプラス形状が重なった時点で、ビット2はビス1の頭部駆動部1bに倣いながら嵌り込む。
【0038】
図7は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット2が傾斜したビス頭部1aの駆動部1bに倣って嵌った状態の図である。ビット保持カラー5はビット2の回転軸C2に対して揺動方向に対しても移動することが可能なので、ビス1が傾斜した締結状態にあっても図6Aで記述したようにビット2の先端はビス1の頭部駆動部1bに倣って嵌り込むことが可能である。
【0039】
図8は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット保持カラー5とホルダー6とのクリアランス18の範囲を示す図である。ビス1の頭部駆動部1bは、図8に示すようなプラス形状をしている。ビット2がビス1の頭部1aに着座して駆動部1bに嵌るためには、ビス1の頭部駆動部(プラス溝)1bの長さ14の内側のハッチング領域52に着座する必要がある。この領域外に着座した場合は、ビット2をビス1に押し付けてもビット2がビス1の頭部駆動部1bに倣うことはないため、画像認識用カメラ26にて、再度、ビス1の位置情報を取得して中心合わせ動作を繰り返すことになる。このことから、ビット保持カラー5とホルダー6とのクリアランス18は、ビス1の頭部駆動部(プラス溝)1bの長さ14以下とする必要がある。
【0040】
また、ビス1のビス頭部駆動部(プラス溝)1bの内接円直径15の内側に着座したビット2がビス1の頭部駆動部1bに倣って嵌り込むためには、ビス1のビス頭部駆動部(プラス溝)1bの内接円直径15以上のクリアランス18が必要である。
【0041】
図9は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビット2の回転軸方向の押込み量17とビット2の回転軸方向と直交方向のクリアランス18との関係を示す図である。
【0042】
ビット2をビス1の頭部駆動部1bに着座させ、更にビット2を押し込むことでビット保持カラー5とホルダー6とが離間してクリアランス18が発生する。図9に示すようにビット保持カラー5の第1傾斜面5aとビット2の回転軸C2とが成す傾斜角16が45°の場合、ビット2の回転軸方向の押込み量17とビット2の回転軸方向と直交方向のクリアランス18の寸法は、同じ大きさになる。
【0043】
図10Aは、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にて60°の傾斜角16を持つビット保持カラー5とクリアランス18の関係を示す図であり、ビット2の回転軸方向の押込み量17とビット2の回転軸方向と直交方向のクリアランス18の寸法の関係は、クリアランス18=1.5×押込み量17となり、ビット2がビス1の頭部駆動部1bに着座した初期の段階で、ビット2がビス1頭部駆動部1bに倣うために必要なクリアランス18を確保することが可能である。ビット2がビス1頭部駆動部1bに着座して押込み量17が増えると、バネ8の反力も比例して増加するため、ビット2がビス1との着座点とバネ8に係合されたピン7との間で突っ張った状態になるとビット2がビス1頭部駆動部1bに倣うための横滑りが起こりにくくなるため、ビット2がビス1の頭部駆動部1bに着座して押込み動作を開始する初期の段階で、クリアランス18の寸法を押込み量17に対して大きく増加させることが望ましい。
【0044】
図10Bは、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にて80°の傾斜角16を持つビット保持カラー5とクリアランス18の関係を示す図であり、ビット2の回転軸方向の押込み量17とビット2の回転軸方向と直交方向のクリアランス18の寸法の関係は、クリアランス18=5.67×押込み量17となり、先述した図10Aの60°の傾斜角を持つビット保持カラー5よりも、更に押込みの初期段階で大きなクリアランス18を確保することが可能であるが、ビット保持カラー5とビット2の自重を支えてホルダー6に押し付けた状態を維持するためには、バネ8のバネ定数を大きくする必要がある。しかしながら、ビット2をビス1の頭部駆動部1bに着座させて、ビット保持カラー5をフローティング状態に遷移させるためには、ビット2の押し付け力よりバネ8の反力を弱くする必要があるため、押し付け力の設定によってはバネ8の反力が強くて、ビット2を押し付けてもフローティング状態に遷移しない状態が発生する可能性があるため、傾斜角16は、60°未満が望ましい。
【0045】
図10Cは、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にて30°の傾斜角16を持つビット保持カラー5とクリアランス18の関係を示す図であり、ビット2の回転軸方向の押込み量17とビット2の回転軸方向と直交方向のクリアランス18の寸法の関係は、クリアランス18=0.58×押込み量17となり、押し込みの初期段階で、クリアランス18を大きく確保することができないため、ビット保持カラー5のフローティングによるビット2の嵌り込みを阻害する可能性がある。
【0046】
以上の説明から、ビット保持カラー5とホルダー6が隣接する円錐台形の母線(第1傾斜面5a又は第2傾斜面6a)とビット2の回転軸C2が成す傾斜角16は、45°<傾斜角<60°の範囲が望ましい。
【0047】
図11は、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50にてビス1を緩めている状態の図である。図11に示されるように、ビット2がビス1の頭部駆動部1bに、深く嵌り込んだ状態で、ビット2を緩め方向に回転させることで、ビス1を、固定部4から取り外すことが可能になる。
【0048】
図12A及び図12Bは、本発明の実施の形態におけるビス緩締装置50のツールオフセットの説明図である。ツールオフセットとは、ロボットアーム基準点22から、ツール基準点23(本発明の実施形態におけるビット2の先端)までの相対位置関係を表す値であり、ツールオフセット(Z方向)19と、ツールオフセット(X方向)20と、ツールオフセット(Y方向)21により規定されている。ツールオフセットは、ロボットの教示作業において基準となる値であり、ツールの交換又は形状変更によりその値が変化した場合は、再度、教示作業をやり直すことになる。ビット2の先端は、ビス1の緩締を繰り返すことで摩耗するため、定期的に新品に交換する必要がある。ビット2を交換するときは、ビット2を差し込んで固定している、カップリング継手9とエアーインパクトドライバ10の位置が固定されている必要があるため、エアーシリンダ12のピストン12aを前進させて、カップリング継手9とエアーインパクトドライバ10が、ビット交換時に後退しないように位置を固定する。ビット2の全長を、機械加工により精度良く管理することで、ビット2を交換してもツールオフセットの再現性が確保することが可能である。
【0049】
前記実施形態によれば、ビット2とビット保持カラー5がホルダー6の内部でフローティング状態になることでビット2がビス頭部1aの駆動部1bに倣い嵌ることができる。この結果、ビス頭部1aの駆動部中心とビット2の中心がズレた場合でも、ビス位置情報の再取得又は緩締作業の繰り返しを行うことなく、ビス駆動部1bの中心とビット2の中心を合致させてビス1の緩締作業が可能になり、例えばロボットを用いたビス外し作業時間を短縮しロボット導入における省人化又は作業効率向上が実現できる。
【0050】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の前記態様にかかるビス緩締装置は、例えば、家電リサイクル工場等における、回収した廃家電を解体する作業において、筐体のカバーを自動で解体する工程に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0052】
1 ビス
2 ビット
3 板状部材
4 固定部
5 ビット保持カラー
5a 第1傾斜面
6 ホルダー
6a 第2傾斜面
6b 凹部
6c 貫通穴
7 ピン
8 バネ
9 カップリング継手
10 エアーインパクトドライバ
11 ガイドレール
12 エアーシリンダ
12a ピストン
13 ロボットアーム
14 ビス頭部駆動部(プラス溝)の長さ
15 ビス頭部駆動部(プラス溝)の内接円直径
16 傾斜角
17 押込み量
18 クリアランス
19 ツールオフセット(Z方向)
20 ツールオフセット(X方向)
21 ツールオフセット(Y方向)
22 ロボットアーム基準点
23 ツール基準点
24 ワーク
25 ワーク設置台
26 画像認識用カメラ
50 ビス緩締装置
52 ハッチング領域
C1 ビスの回転軸
C2 ビットの回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C