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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182366
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】揮発性溶質除去装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20231219BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20231219BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231219BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B01D61/00
B01D61/36
C02F1/44 D
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095921
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】須賀 友規
(72)【発明者】
【氏名】藤田 充
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA23
4D006GA25
4D006HA02
4D006HA18
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JA71
4D006JB06
4D006KA16
4D006KE02R
4D006KE30R
4D006MA01
4D006MA10
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB10
4D006MB20
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC26
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC65
4D006NA22
4D006NA23
4D006NA25
4D006NA26
4D006NA54
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB12
4D006PB25
4D006PB32
4D006PB52
4D006PB70
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】膜コンタクター用膜として中空糸膜を用いる揮発性溶質除去装置において、膜表面へのスケールの析出、及び圧力損失の双方が抑制された、揮発性溶質除去装置の運転方法を提供すること。
【解決手段】揮発性溶質及び不揮発性溶質の両方を含有する被処理水から膜コンタクター100を用いて揮発性溶質を除去するための、揮発性溶質除去装置1000の運転方法であって、膜コンタクター100に用いる膜が中空糸膜であり、被処理水を中空糸膜の内側に流通させて揮発性溶質の除去が行われ、中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を1,100以上とし、かつ、中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を3.5m/s以下とする、運転方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性溶質及び不揮発性溶質の両方を含有する被処理水から膜コンタクターを用いて揮発性溶質を除去するための、揮発性溶質除去装置の運転方法であって、
前記膜コンタクターに用いる膜が中空糸膜であり、前記被処理水を前記中空糸膜の内側に流通させて揮発性溶質の除去が行われ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を1,100以上とし、かつ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を3.5m/s以下とする、
運転方法。
【請求項2】
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を7,000以下とする、請求項1に記載の運転方法。
【請求項3】
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を2,300以下とする、請求項2に記載の運転方法。
【請求項4】
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を0.4m/s以上2.0m/s以下とする、請求項1に記載の運転方法。
【請求項5】
前記中空糸膜の外側に、前記揮発性溶質の吸収液を流通させて、前記被処理水と吸収液とを、前記中空糸膜を介して接触させ、前記吸収液中に前記揮発性溶質を移動させることにより、前記被処理水から前記揮発性溶質を除去する、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項6】
前記中空糸膜の外側を減圧にする、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項7】
前記中空糸膜が疎水性である、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項8】
前記揮発性溶質が、アンモニア、塩酸、炭酸、酢酸、アルコール類、及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項9】
前記揮発性溶質が、アンモニア、塩化水素酸、炭酸、酢酸、アルコール類、及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含み、かつ、
前記揮発性溶質が、アンモニアを含むときには、前記吸収液は酸の水溶液であり、
前記揮発性溶質が、塩化水素酸、炭酸、及び酢酸から選択される1種又は2種以上を含むときには、前記吸収液は塩基の水溶液であり、
前記揮発性溶質が、アルコール類及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含むときには、前記吸収液は水である、
請求項5に記載の運転方法。
【請求項10】
前記不揮発性溶質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、タンパク製剤、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、ビタミン、界面活性剤、抗体薬物複合体(ADC)、及び無機塩から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項11】
前記中空糸膜が、複数の中空糸膜によって構成される中空糸糸束を有する膜モジュール中の中空糸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜コンタクターによる揮発性溶質除去装置の運転方法に関する。詳しくは、膜コンタクターとして中空糸膜を用いる揮発性溶質除去装置において、被処理水に含有される不揮発性溶質に起因する膜コンタクター用膜表面へのスケールの析出の抑制と、圧損の抑制とが両立されるとともに、効率的な揮発性溶質除去を行うことができる、運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜コンタクターによる揮発性溶質除去法(以下、膜コンタクター法)は、揮発性溶質を含む処理水を膜に接触させ、揮発性溶質の膜の両面における蒸気圧差を駆動力として、被処理水中の揮発性溶質を、選択的に膜透過させて除去する方法である。揮発性溶質の膜の両面における蒸気圧差を得る方法としては、例えば、透過側に吸収液を配置して被処理水と吸収液との間に温度差又は濃度差を付ける方法、透過側を減圧状態にする方法等が挙げられる。また、揮発性溶質が反応性の溶質又は酸性若しくは塩基性の溶質である場合、揮発性溶質と反応する吸収液を用いることにより、揮発性溶質の蒸気圧を下げる方法も知られている。
膜コンタクター法は、ストリッピング法、減圧脱泡法等に比べると、膜を用いることにより気-液界面の面積が増大するため、処理速度の向上、装置のコンパクト化等が可能であることが利点である。
【0003】
膜コンタクター法で高濃度被処理水を取り扱う場合の問題として、膜表面におけるスケールの析出が挙げられる。スケールが析出して膜表面が覆われると、膜の細孔の詰まりを引き起こし、揮発性溶質の移動が妨げられ、除去性能が大幅に減少する。また、スケールにより膜表面が親水化されると、被処理水が透過側に侵入し易くなるため、膜コンタクターの分離性能の安定性が低下する。
【0004】
近年、膜を用いる技術についての、流体力学的な考察が精力的に進められている。
例えば、非特許文献1では、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の平膜を用いるDCMD(Direct Contact Membrane Distillation)法による膜蒸留システムを用いるモデル実験により、膜へのスケール析出と、被処理液のレイノルズ数との関係についての報告がなされた。
また、非特許文献2では、膜型人工肺のモデル膜を用いて、レベック(Leveque)理論による考察がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science 346 (2010) 263-269
【非特許文献2】Journal of chemical engineering of Japan, 18, (1985) 550-555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1の教示は、平膜状の膜蒸留用膜を用いる膜蒸留についての考察であり、非特許文献2の考察は、対称型の波状壁を有するモデル膜に関し、いずれも、中空糸膜を用いる揮発性溶質除去装置にそのまま妥当するものではない。
本発明の目的は、膜コンタクター用膜として中空糸膜を用いる揮発性溶質除去装置において、膜表面へのスケールの析出、及び圧力損失の双方が抑制された、揮発性溶質除去装置の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
《態様1》揮発性溶質及び不揮発性溶質の両方を含有する被処理水から膜コンタクターを用いて揮発性溶質を除去するための、揮発性溶質除去装置の運転方法であって、
前記膜コンタクターに用いる膜が中空糸膜であり、前記被処理水を前記中空糸膜の内側に流通させて揮発性溶質の除去が行われ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を1,100以上とし、かつ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を3.5m/s以下とする、
運転方法。
《態様2》前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を7,000以下とする、態様1に記載の運転方法。
《態様3》前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を2,300以下とする、態様2に記載の運転方法。
《態様4》前記中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を0.4m/s以上2.0m/s以下とする、態様1~3のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様5》前記中空糸膜の外側に、前記揮発性溶質の吸収液を流通させて、前記被処理水と吸収液とを、前記中空糸膜を介して接触させ、前記吸収液中に前記揮発性溶質を移動させることにより、前記被処理水から前記揮発性溶質を除去する、態様1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様6》前記中空糸膜の外側を減圧にする、態様1~4のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様7》前記中空糸膜が疎水性である、態様1~6のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様8》前記揮発性溶質が、アンモニア、塩化水素酸、炭酸、酢酸、アルコール類、及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含む、態様1~7のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様9》前記揮発性溶質が、アンモニア、塩化水素酸、炭酸、酢酸、アルコール類、及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含み、かつ、
前記揮発性溶質が、アンモニアを含むときには、前記吸収液は酸の水溶液であり、
前記揮発性溶質が、塩酸、炭酸、及び酢酸から選択される1種又は2種以上を含むときには、前記吸収液は塩基の水溶液であり、
前記揮発性溶質が、アルコール類及びアセトニトリルから選択される1種又は2種以上を含むときには、前記吸収液は水である、
態様5に記載の運転方法。
《態様10》前記不揮発性溶質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、タンパク製剤、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、ビタミン、界面活性剤、抗体薬物複合体(ADC)、及び無機塩から選択される1種又は2種以上を含む、態様1~9のいずれか一項に記載の運転方法。
《態様11》前記中空糸膜が、複数の中空糸膜によって構成される中空糸糸束を有する膜モジュール中の中空糸である、態様1~10のいずれか一項に記載の運転方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の揮発性溶質除去装置の運転方法によると、中空糸膜を用いる膜コンタクター法による揮発性溶質除去装置において、スケール原因物質を多量に含む被処理水からの揮発性溶質除去を行った場合であっても、膜表面へのスケールの析出、及び圧損の双方が抑制される。したがって、本発明の運転方法によると、揮発性溶質除去装置を、高い効率で長期間安定して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の方法に適用される膜コンタクター用膜モジュールの構造の一例を説明するための模式断面図である。
図2図2は、本発明の方法に適用される膜コンタクター用膜モジュールの構造の別の一例を説明するための模式断面図である。
図3図3は、本発明の方法が好ましく適用される揮発性溶質除去装置の構造の一例を説明するための概略図である。
図4図4は、本発明の方法が好ましく適用される揮発性溶質除去装置の構造の別の一例を説明するための概略図である。
図5図5は、実施例において、膜コンタクター用膜モジュールの圧損を測定するために用いた装置の構成を説明するための概略図である。
図6図6は、実施例1における、被処理水の線速と圧損との関係を示すグラフ、及びレイノルズ数と圧損との関係を示すグラフである。
図7図7は、実施例で用いた、中空糸膜表面に析出したスケールを洗い出すための洗浄装置の構造を示す概略図である。
図8図8は、実施例2における、被処理水の線速と圧損との関係を示すグラフ、及びレイノルズ数と圧損との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態を、非限定的な例として具体的に説明する。
本発明は、
不揮発性溶質及び揮発性溶質の両方を含有する被処理水から膜コンタクターを用いて揮発性溶質を除去するための、揮発性溶質除去装置の運転方法であって
前記膜コンタクターに用いる膜が中空糸膜であり、前記被処理水を前記中空糸膜の内側に流通させて揮発性溶質除去が行われ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数を1,100以上とし、かつ、
前記中空糸膜の内側を流通する被処理水の線速を3.5m/s以下とする、
運転方法に関する。
【0011】
《本発明の作用機構》
本発明の揮発性溶質除去装置の運転方法では、膜コンタクター用膜として中空糸膜を用い、被処理水を中空糸膜の内側に流通させて揮発性溶質除去を行うときに、中空糸膜の内側を流通する被処理水のレイノルズ数及び線速を、それぞれ上記の範囲に設定することにより、膜表面へのスケールの析出が抑制され、同時に、圧損も抑制される。
この効果が発現する理由は、以下のように推察される。
ただし、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0012】
〈スケール析出の抑制〉
本発明の被処理水は、スケール成分を多量に含んでいることが多い。その場合、被処理水中のスケール成分濃度が飽和溶解度以上になると、中空糸膜の表面上にスケール成分が析出する。
スケール成分の析出のし易さは、下記数式(1)で表される、スケール成分の濃度分極係数(CPC)によって求められる。
【0013】
【数1】
{数式(1)中、Cm,fは膜表面の不揮発性溶質濃度(wt%)であり、Cb,fは被処理水全体の不揮発性溶質濃度(wt%)であり、Jは膜の水蒸気フラックス(kg/m・h)であり、ρは被処理水の溶液密度(kg/m)であり、kは不揮発性溶質が境膜中を拡散するときの物質移動係数(m/s)である。}
【0014】
数式(1)は、膜の水蒸気フラックスJが大きいほど、CPCが大きくなって、スケールが析出し易くなることを示している。また、物質移動係数kは下記数式(2)で表される。
k=D/δ (2)
{数式(2)中、Dは不揮発性溶質の拡散係数(m/s)であり、δは境膜の厚み(m)である。}
数式(2)を数式(1)に代入すると、境膜の厚みδが薄くなるほど、CPCが小さくなって、スケールが析出し難くなることが理解される。
更に、境膜厚みδは、下記数式(3)~(5)から計算することができる。
【0015】
【数2】
{上記数式(3)~(5)中、Dは不揮発性溶質の拡散係数(m/s)であり、kは不揮発性溶質が境膜中を拡散するときの物質移動係数(m/s)であり、dは水力直径(m)であり、dは中空糸膜の内径(m)であり、Shはシャーウッド数(無次元数)であり、Reはレイノルズ数であり、Scはシュミット数であり、lは流路長(m)であり、a、a、a、及びaは、それぞれ、実験によって求められる定数であり、μは被処理水の粘度(Pa・s)である。}
本発明においては、水力直径d(m)は、中空糸膜の内径d(m)に等しい。
【0016】
数式(3)~(5)から、境膜厚みδは、レイノルズ数Reに反比例することが理解される。したがって、レイノルズ数Reが大きいほど、境膜厚みδが薄くなり、CPCが小さくなって、スケールが析出し難くなることが理解される。
そして本発明においては、レイノルズ数Reを1,100以上とすることにより、水蒸気圧差が大きくなって膜の水蒸気フラックスJが大きいときでも、CPCが十分に小さくなり、したがって、揮発性溶質除去を安定的に行い得る程度に、スケールの析出が抑制されるのである。
特筆すべきは、上記数式には、中空糸膜の内径に等しい水力直径d、及び境膜厚みδの寄与が考慮されているので、本発明におけるレイノルズ数Reの規定は、使用する中空糸膜のサイズによらずに妥当することである。
【0017】
本発明におけるレイノルズ数Reは、上述の観点から1,100以上であり、1,500以上が好ましく、2,000以上又は2,300以上であってもよい。一方、レイノルズ数Reを過度に大きくする利点は希薄であり、レイノルズ数を無理に大きく設定しようとすると、揮発性溶質除去の効率又は安定性を行う場合が懸念される。このような観点から、本発明におけるレイノルズ数Reは、好ましくは7,000以下であり、より好ましくは6,000以下であり、更に好ましくは5,000以下であり、特に、4,000以下、3,000以下、2,300以下、又は2,000以下であってよもよい。
【0018】
〈圧力損失の抑制〉
一方、被処理水の圧力損失ΔP(Pa)は、下記数式(6)で求められる。
【数3】
{数式(6)中、fは摩擦係数であり、ρは被処理水の溶液密度(kg/m)でありνは被処理水の線速(m/s)であり、Lは中空糸膜の長さ(m)であり、dは中空糸膜の内径(m)である。}
中空糸膜が膜コンタクター用膜モジュールの形態にあり、中空糸膜の一部が接着樹脂層中に埋め込まれている場合、上記数式(6)中のLの中空糸膜の長さには、接着樹脂層中に埋め込まれている部分も含まれる。
摩擦係数fについては、流れが層流である場合の摩擦係数Fと、乱流である場合の摩擦係数Fとで異なり、これらを考慮すると、流れが層流である場合の被処理水の圧力損失ΔP(Pa)、及び乱流である場合の被処理水の圧力損失ΔP(Pa)は、それぞれ、下記数式(7)及び(8)で表される。
【数4】
{数式(7)及び(8)中の符号は、それぞれ、前出の数式中の同符号と同じ意味である。}
【0019】
数式(7)及び(8)から、流れが層流であるか乱流であるかによらず、被処理水の線速νが小さいほど、被処理水の圧力損失が小さくなることが理解される。
本発明においては、被処理水の線速νを3.5m/s以下とすることにより、揮発性溶質除去を高効率で行い得る程度に、圧力損失を小さくできるのである。
なお、一般的な流体力学の理論では、レイノルズ数Reが概ね2,300程度以下であれば流れは層流になり、レイノルズ数Reが概ね2,300程度を超えると流れは乱流になると考えられており、層流と乱流とを相違するモデルとして理論が構築されてきた。
しかしながら、本発明においては、流れが層流であるか乱流であるかによらず、被処理水の線速νを本発明所定の範囲内に設定することによって、被処理水の圧力損失を制御できるのである。
【0020】
本発明における被処理水の線速νは、上記の観点から、3.5m/s以下であり、好ましくは3.0m/s以下であり、より好ましくは2.5m/s以下であり、更に好ましくは2.0m/s以下であり、特に、1.6m/s以下、1.0m/s以下、又は0.8m/s以下であってもよい。
一方、揮発性溶質除去の効率を上げる観点から、被処理水の線速νは、好ましくは0.4m/s以上であり、より好ましくは0.5m/s以上であり、更に好ましくは0.7m/s以上であり、特に、1.0m/s以上であることが好ましい。
【0021】
《膜間差圧》
本発明の方法によると、圧力損失が抑制される。その結果、中空糸膜内外の膜間差圧を低くすることができ、被処理水が直接中空糸膜の膜壁を通過することが抑制されている。
本発明の方法によると、中空糸膜の被処理水入口における膜間差圧を、450kPa以下とすることができ、390kPa以下又は150kPa以下とすることも可能である。
【0022】
《水蒸気フラックス》
本発明の方法によって揮発性溶質除去を行うとき、スケール析出の抑制等の観点から、被処理液から中空糸膜を介して移動する水蒸気フラックスを、10kg/m・h以下とすることが好ましく、より好ましくは8kg/m・h以下であり、更に好ましくは4kg/m・h以下である。
水蒸気フラックスJは、下記数式(9)で示される。
【数5】
{数式(9)中、Wpは被処理水から蒸発して中空糸膜を移動した水の質量(kg)であり、Aは中空糸膜の有効面積(m)であり、Tは運転時間(h)である。}
【0023】
《揮発性溶質除去装置》
本発明における揮発性溶質除去装置で行われる揮発性溶質除去では、膜コンタクター用膜が中空糸膜である膜コンタクターを使用し、被処理水を中空糸膜の内側に流通させる。そして、好ましくは、以下のいずれかの方法によって、中空糸膜の内外で揮発性溶質の蒸気圧差を生じさせて、被処理液中の揮発性溶質の除去を行う。
中空糸膜の外側に、揮発性溶質の吸収液を流通させる方法。これにより、被処理水と吸収液とが中空糸膜を介して接触して、中空糸膜の内外で揮発性溶質の蒸気圧差を生じさせ、揮発性溶質を吸収液中に移動させることにより、被処理水から揮発性溶質が除去される。
中空糸膜の外側を減圧にする方法。これにより、中空糸膜の内外で揮発性溶質の蒸気圧差を生じさせ、揮発性溶質を中空糸膜の外側空間に移動させることにより、被処理水から揮発性溶質が除去される。
【0024】
〈膜コンタクター用膜〉
本発明における中空糸膜は、好ましくは疎水性の多孔質膜から構成される。
本発明で用いられる膜コンタクター用膜は、疎水性が高く、かつ多孔質の材料から構成される中空糸膜であってよい。この中空糸膜は、多孔質でありながら、液体状の水が膜壁の内部に侵入せず、膜壁内は揮発性溶質及び水の蒸気のうちの片方又は双方のみが通過できるものであることが好ましい。
【0025】
このような要件を満たすため、中空糸膜表面の水接触角は、膜のウェッティングを回避する観点から、90°以上であることが好ましく、90°超であることがより好ましく、100°以上であることが更に好ましく、特に、110°以上又は120°以上であってもよい。中空糸膜の水接触角には、本発明の奏する効果との関係では上限はないが、現実的には150°以下であってよい。中空糸膜は、少なくとも片側の表面、好ましくは両側の表面において、このような水接触角を示すことが好ましい。
本明細書における水接触角は、JIS R 3257準拠の液滴法により測定される値である。具体的には、2μLの純水を測定対象物表面に滴下し、測定対象物と液滴とが形成する角度を、投影画像から解析することで数値化する。
本発明で用いられる膜コンタクター用膜では、少なくとも片側表面のうちの実質的にすべての領域において、上記範囲の水接触角を示すことが好ましい。
【0026】
中空糸膜の疎水性は、中空糸膜の膜壁への水の液体侵入圧を測定することによっても見積もることができる。被処理水に対する液体侵入圧は、0.1MPa以上2.0MPa以下であることが好ましく、0.2MPa以上1.5MPa以下であることがより好ましい。
【0027】
中空糸膜の膜壁は多孔質であり、膜の一方の表面から他方の表面まで厚み方向に連通している細孔(連通孔)を有している。細孔は、膜材料(例えばポリマー)のネットワークの空隙であってよく、枝分かれしていても直通孔でもよい。細孔は、蒸気を通すが液体を通さないものであってよい。
中空糸膜の細孔の平均孔径は、0.02μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.03μm以上0.4μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.3μm以下であることが更に好ましい。平均孔径が0.02μm以上であると、水蒸気の透過抵抗が大きくなり過ぎず、被処理水から発生した水蒸気の透過が速くなる。平均孔径が0.5μm以下であると、膜のウェッティングの抑制効果が良好である。中空糸膜の細孔の平均孔径は、ASTM:F316-86に準拠して、ハーフドライ法で測定される値である。
また、蒸気透過性とウェッティング抑制との両立の観点から、中空糸膜の細孔の孔径分布は狭い方が好ましい。具体的には、平均孔径に対する最大孔径の比である孔径分布が、好ましくは1.2~2.5の範囲内、より好ましくは1.2~2.0の範囲内である。上記最大孔径は、バブルポイント法を用いて測定される値である。
【0028】
中空糸膜の空隙率は、高い蒸気透過性と、長期耐久性とを両立させる観点から、60%以上90%以下の範囲であることが好ましい。高い蒸気透過性を得るために、上記多孔質中空糸膜の空隙率は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題を発生させ難くする観点から、上記多孔質中空糸膜の空隙率は、90%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは70%以下である。
上記の空隙率は、中空糸膜を構成する材料の真比重と、見かけ比重とから算出される値である。
【0029】
上記中空糸膜の表面開口率は、効率的な揮発性溶質除去を行う観点から、中空糸膜の両側の表面について、それぞれ、好ましくは15%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは20%以上であり、膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題を発生させ難くする観点から、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。
上記の表面開口率は、膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像において、画像解析ソフトで孔部を検出することにより求められる値である。
【0030】
本発明における中空糸膜を構成する材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられ、これらから選ばれる1種マヤは2種以上の樹脂を含む材料が挙げられる。これらのうち、疎水性、機械的耐久性、及び熱的耐久性に優れる膜を、高い成膜性で製造できるとの観点からは、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、又はポリクロロトリフルオロエチレンが好ましい。
【0031】
中空糸膜の疎水性を向上させるため、中空糸膜の少なくとも一部に、疎水性ポリマーを付着させたうえで、本発明に適用してもよい。
疎水性ポリマーとして、具体的には、例えば、以下のものが挙げられる:
(ア)シロキサン結合を有するポリマー:ジメチルシリコーンゲル、メチルフェニルシリコーンゲル、有機官能基(アミノ基、フルオロアルキル基等)を有する反応性変性シリコーンゲル、シランカップリング剤と反応して架橋構造を形成するシリコーン系ポリマー等
(イ)フッ素原子含有ポリマー:側鎖にフッ素原子含有基を持つポリマー(フッ素原子含有基は、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等)
【0032】
本発明における中空糸膜の厚さは、蒸気透過性と膜の機械的強度との両立の観点から、10μm以上1,000μm以下であることが好ましく、20μm以上500μm以下であることがより好ましい。膜厚が1,000μm以下であれば、高い蒸気透過性を得ることができ、他方、膜厚が10μm以上であれば、膜が変形することなく使用することができる。
中空糸膜の外径は、300μm以上5,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは350μm以上4,000μm以下である。中空糸膜の内径は、200μm以上4,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは250μm以上3,000μm以下である。
【0033】
中空糸膜の長さ(有効長)は、揮発性溶質除去の効率を高める観点から、500mm以上であることが好ましく、1,000mm以上であることがより好ましい。一方、圧損を抑制する観点から、中空糸膜の長さは、中空糸膜の内径の4,000倍以下が好ましく、3,500倍以下がより好ましい。
なお、上記数式(6)~(8)において、圧力損失ΔP(Pa)を評価するときの中空糸膜の長さL(m)としては、中空糸膜の有効長ではなく全長を用いる。すなわち、中空糸膜を膜コンタクター用膜モジュールの形態で使用する場合、数式(6)~(8)における中空糸膜の長さL(m)としては、中空糸膜の有効長に、2つの接着樹脂層の厚さを加えた長さを採用する。
【0034】
〈膜コンタクター用膜モジュール〉
本発明では、中空糸膜を複数束ねた膜束を、適当なハウジング内に充填した膜コンタクター用膜モジュールの形態で使用してもよい。
膜コンタクター用膜モジュールは、例えば、円柱型又は多角柱型のハウジングに、中空糸膜の長手方向がハウジングの軸方向と一致するように、中空糸膜束を収納し、該中空糸膜束の両端が、適当な接着樹脂にてハウジング内に固定された構造であってよい。この場合、接着樹脂による中空糸糸束の固定を液密に行い、中空糸膜の内外の流路が混合されないようにすることが好ましい。
【0035】
ハウジングは、耐薬品性、耐圧性、耐熱性、耐衝撃性、耐候性等の観点から選定される。ハウジングを構成する材料の材質は、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、及びステンレス、真鍮、チタン等の金属から選択されることが好ましい。
接着樹脂は、機械的強度が強く、100℃における耐熱性を有することが望まれる。接着樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂、熱硬化性のウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の観点ではエポキシ樹脂が好ましい。ハンドリング性の観点ではウレタン樹脂が好ましい。
【0036】
図1に、本発明の方法が好ましく適用される膜コンタクター用膜モジュールの構造の一例を説明するための模式断面図を示す。
図1の膜コンタクター用膜モジュール(100)は、円柱形状のハウジング(10)内に複数の中空糸膜(20)から成る中空糸膜束が収納され、中空糸膜(20)の両端は、接着樹脂層(30)によってハウジング(10)に固定されている。ここで、中空糸膜(20)の両端は、閉塞されずに開口している。
膜コンタクター用膜モジュール(100)の内部は、中空糸膜によって、中空糸膜の中空部側の空間と、中空糸膜の外部空間側の空間とに分割されている。これら2つの空間は、揮発性溶質及び水の蒸気のうちの片方又は双方が中空糸膜の膜壁を通過して行き来することができる他は、流体的に遮断されている。
【0037】
ハウジング(10)は、円筒形形状の両端に、それぞれ、被処理水入口(11)及び被処理水出口(12)を有し、被処理水は、被処理水入口(11)から膜コンタクター用膜モジュール(100)の内部に入り、中空糸膜(20)の中空部を通過して、被処理水出口(12)から膜コンタクター用膜モジュール(100)の外部に排出されるように構成されている。
また、ハウジング(10)は、円筒形形状の側面に、吸収液入口(13)及び吸収液出口(14)を有し、吸収液は、吸収液入口(13)から膜コンタクター用膜モジュール(100)の内部に入り、中空糸膜(20)の外部を通過して、吸収液出口(14)から膜コンタクター用膜モジュール(100)の外部に排出されるように構成されている。
【0038】
この膜コンタクター用膜モジュール(100)を用いて、例えば、以下のようにして揮発性溶質除去を行うことができる。
例えば、被処理水を、被処理水入口(11)から膜コンタクター用膜モジュール(100)の内部に入り、中空糸膜(20)の中空部を通過して、被処理水出口(12)から排出されるように流通させるとともに、吸収液を吸収液入口(13)から膜コンタクター用膜モジュール(100)内部に入り、中空糸膜(20)の外部を通過して、吸収液出口(14)から排出されるように流通させる。すると、蒸気圧の高い被処理水ら発生した蒸気は、中空糸膜(20)の膜壁を通過し、蒸気圧の低い吸収液に移動して、吸収液出口(14)から、吸収液とともに取り出されて、被処理水からの揮発性溶質除去が行われる。このとき、被処理水と吸収液とに温度差をつけ、蒸気圧差を大きくしてもよい。
【0039】
なお、図1の膜コンタクター用膜モジュール(100)では、被処理水と吸収液とが、中空糸膜の内外で対向流となるように構成されている。しかしながら、被処理水と吸収液とが、中空糸膜の内外で並流となるように構成してもよい。
【0040】
図2に、本発明の方法が好ましく適用される膜コンタクター用膜モジュールの構造の別の一例を説明するための模式断面図を示す。
図2の膜コンタクター用膜モジュール(101)は、
円柱形状のハウジング(10)内に複数の中空糸膜(20)から成る中空糸膜束が収納されていること、
中空糸膜(20)の両端が、接着樹脂層(30)によってハウジング(10)に固定されていること、
膜コンタクター用膜モジュール(100)の内部が、中空糸膜によって、中空糸膜の中空部側の空間と、中空糸膜の外部空間側の空間とに分割されていること、
ハウジング(10)が、円筒形形状の両端に、それぞれ、被処理水入口(11)及び被処理水出口(12)を有していること
については、図1の膜コンタクター用膜モジュール(100)と同様である。
【0041】
しかしながら、図2の膜コンタクター用膜モジュール(101)は、円筒形形状の側面に、吸収液入口及び吸収液出口の代わりに、揮発性溶質蒸気取出口(15)を有する点で、図1の膜コンタクター用膜モジュール(100)と相違する。
【0042】
図2の膜コンタクター用膜モジュール(101)では、この揮発性溶質蒸気取出口(15)に、必要に応じて凝集器を介して、例えば減圧ポンプと接続する。これにより、中空糸膜の外側領域が減圧状態になって、被処理液から揮発して中空糸膜を通過して中空糸膜外側に移動してきた揮発性溶質を取り出すことにより、被処理水からの揮発性溶質除去が行われる。
【0043】
本発明では、膜コンタクター用膜モジュールを用いて、例えば上記のようにして、被処理水から揮発性溶質が除去される。
【0044】
〈揮発性溶質除去装置の構成〉
本発明における揮発性溶質除去装置の構成について、以下、図を参照しつつ、説明する。
図3及び図4に、本発明の方法が好ましく適用される揮発性溶質除去装置の構造の例を説明するための概略図をそれぞれ示す。
【0045】
図3の揮発性溶質除去装置(1000)は、不揮発性溶質及び揮発性溶質を含有する被処理水から揮発性溶質を除去するための装置の一例である。
図3の揮発性溶質除去装置(1000)には、図1に示した膜コンタクター用膜モジュール(100)が組み込まれている。
揮発性溶質除去装置(1000)では、被処理水タンク(500)中に貯蔵された被処理水が、被処理水供給ポンプ(P1)によって、膜コンタクター用膜モジュール(100)に送られる。被処理水は、膜コンタクター用膜モジュール(100)中の中空糸膜の中空部を通過した後、被処理水タンク(500)に戻されて、循環する。被処理水は、膜コンタクター用膜モジュール(100)に導入される前に、熱交換器(HE)(例えばヒーター)によって加熱され、蒸気圧を高められることにより、揮発性溶質除去が容易化される。膜コンタクター用膜モジュール(100)の前後の配管には、温度計(TM)が備えられてよい。
【0046】
図3の揮発性溶質除去装置(1000)には、更に、吸収液タンク(200)が備えられている。吸収液タンク(200)中に貯蔵された吸収液は、吸収液供給ポンプ(P2)によって、膜コンタクター用膜モジュール(100)に送られる。吸収液は、膜コンタクター用膜モジュール(100)中の中空糸膜の外側を通過した後、吸収液タンク(200)に戻されて、循環する。吸収液は、膜コンタクター用膜モジュール(100)に導入される前に、熱交換器(HE)によって加熱又は冷却されてよい。これにより、揮発性溶質の蒸気圧が調節されて、揮発性溶質除去が容易化される。
膜コンタクター用膜モジュール(100)の前後の配管には、温度計(TM)が備えられてよい。
【0047】
図4の揮発性溶質除去装置(1001)は、不揮発性溶質及び揮発性溶質を含有する被処理水から揮発性溶質を除去するための装置の別の一例である。
図4の揮発性溶質除去装置(1001)には、図2に示した膜コンタクター用膜モジュール(101)が組み込まれている。膜コンタクター用膜モジュール(101)の中空糸膜外側の空間は、揮発性溶質蒸気取出口、及び凝集器(600)を介して、減圧ポンプ(V)と連結されている。
このような構成により、中空糸内部を流通する被処理水と中空糸外側との間に、揮発性溶質の蒸気圧差が生じるので、被処理液から揮発して中空糸膜を通過して中空糸膜外側に移動してきた揮発性溶質を取り出すことができる。これにより、被処理液から揮発性溶質を除去することができる。
【0048】
図3及び図4の揮発性溶質除去装置(1000、1001)は、必要に応じて、流量調整器、圧力調整器、保温構造等を更に備えていてよい。
【0049】
《被処理水》
本発明の方法は、被処理水から揮発性溶質を除去する方法である。
被処理水は、揮発性溶質及び不揮発性溶質、並びに溶媒を含む液体状の混合物である。被処理水は、典型的には溶液であるが、液体状である限り、乳化物、懸濁液等であってもよい。
【0050】
〈不揮発性溶質〉
被処理水に含まれる不揮発性溶質とは、揮発性溶質除去装置の稼働温度において、実質的に蒸気圧を有さず、かつ、分解しない物質をいう。
不揮発性溶質の典型例は、医薬品原料、化学品等、及び無機塩である。
医薬品原料、化学品等としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、界面活性剤、ビタミン類等が挙げられる。
【0051】
アミノ酸は、カルボキシル基及びアミノ基、並びにこれらを連結している部分から成る、アミノ酸骨格を1個有する化合物である。本明細書におけるアミノ酸は、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、及び非天然アミノ酸を包含する概念である。
必須アミノ酸としては、例えば、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。非必須アミノ酸としては、例えば、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0052】
非天然アミノ酸とは、分子内にアミノ酸骨格を有し、かつ天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指す。しかしながら、医薬品原料としての非天然アミノ酸としては、アミノ酸骨格に所望の標識化合物を結合させて得られるものが挙げられる。標識化合物としては、例えば、色素、蛍光物質、発光物質、酵素基質、補酵素、抗原性物質、タンパク質結合性物質等が挙げられる。
医薬品原料として好ましい非天然アミノ酸の例として、例えば、標識アミノ酸、機能化アミノ酸等が挙げられる。標識アミノ酸は、アミノ酸骨格と標識化合物とが結合した非天然アミノ酸であい、その具体例としては、例えば、側鎖に芳香環を含むアミノ酸骨格に、標識化合物が結合したアミノ酸等が挙げられる。機能化アミノ酸の例としては、例えば、光応答性アミノ酸、光スイッチアミノ酸、蛍光プローブアミノ酸、蛍光標識アミノ酸等が挙げられる。
【0053】
ペプチドは、2残基以上70残基未満のアミノ酸残基が結合した化合物を指し、鎖状であっても、環状であってもよい。ペプチドとしては、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、β-アラニル-L-ヒスチジンシクロスポリン、グルタチオン等が挙げられる。
タンパク質は、一般的には、アミノ酸残基が結合した化合物のうちのペプチドよりも長鎖のものを指す。本明細書におけるタンパク質としては、例えば、タンパク製剤として適用されるものが好ましい。
タンパク製剤としては、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
【0054】
糖としては、例えば、単糖類、二糖類、糖鎖(二糖類を除く)、糖鎖誘導体等が挙げられる。
単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、デオキシリボース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、マルトース、スクロース、ラクトース等が挙げられる。
本明細書における糖鎖とは、二糖類を除く概念であり、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸等が挙げられる。糖鎖誘導体としては、例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸等の、糖類誘導体等が挙げられる。
【0055】
ワクチンとしては、例えば、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン、新型コロナワクチン等が;
核酸としては、例えば、オリゴヌクレオチド、RNA、アプタマー、デコイ等が;
抗生物質としては、例えば、ストレプトマイシン、バンコマイシン等が;
それぞれ挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類等が挙げられ、これらの誘導体、塩等も含む概念である。ビタミンB類には、例えば、ビタミンB6、ビタミンB12等が包含される。
界面活性剤としては、例えば、多糖類、リン脂質、ペプチド、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤;両性界面活性剤;ポリエチレングリコール等の非イオン界面活性剤が挙げられる。
無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0056】
不揮発性溶質の数平均分子量は、75,000以下であってよく、好ましくは50,000以下、より好ましくは10,000以下であり、6,000以下であることが特に好ましい。不揮発性溶質の分子量が過度に大きいと、被処理水の粘度が過度に高くなり、被処理水の流路における圧力損失の増大、中空糸膜表面における過濃縮による溶質の析出が起こり易くなる場合がある。
【0057】
〈揮発性溶質〉
被処理水に含まれる揮発性溶質とは、揮発性溶質除去装置の稼働温度において、有意の蒸気圧を示し、かつ、分解しない物質をいう。
揮発性溶質としては、例えば、揮発性の酸、揮発性の塩基、揮発性の極性化合物(酸及び塩基を除く)等が挙げられる。
揮発性の酸としては、例えば、塩化水素酸、炭酸、酢酸等が挙げられる。
揮発性の塩基としては、例えば、アンモニア等が挙げられる。
揮発性の極性化合物(酸及び塩基を除く)としては、例えば、アルコール類、アセトニトリル等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール等が挙げられる。
【0058】
〈溶媒〉
被処理水の溶媒は、水を含んでいてよい。水は、好ましくは疎水性の中空糸膜の表面に対する表面エネルギーが大きく、したがって、膜表面における液体と、揮発性溶質の蒸気との分離が効率的に行われるため、被処理水の溶媒に含まれることが好ましい。
被処理水の溶媒は、水、又は水及び水溶性有機溶媒から成る混合溶媒であってよく、典型的には水である。
【0059】
〈被処理水の態様〉
本発明が適用される被処理水としては、例えば、医薬品原体、化学品等を含む溶液;化学プロセス;脱硝装置の排水;食品;海水;ガス田、油田等から排出される随伴水等を挙げることができる。
本発明の方法を適用して、被処理水から揮発性溶質の除去を行うと、元の被処理水中の不揮発性溶質組成がほぼそのまま維持された処理水を、安定的に得ることができる。したがって、本発明の方法は、廃水処理等に適用できる他、医薬品、化学品製造の中間段階における、原料の精製工程等に有用である。
また、本発明の方法を適用して造水を行うと、被処理水に含まれる不揮発性溶質が、実質的にすべて除去された精製水が安定的に得られる。したがって、本発明の方法は、乾燥地域における飲用水、生活用水等の製造等にも有用である。
【0060】
本発明において、被処理水から揮発性溶質を除去するときの被処理水の温度は、例えば、0℃以上100℃以下であってよい。
膜コンタクターの中空糸膜の外側空間に吸収液を流通させて、揮発性溶質除去が行われる場合、被処理水の温度をさほど高くする必要はない。この場合の被処理水の温度は、例えば、0℃以上、10℃以上、20℃以上、又は30℃以上であってよく、例えば、60℃以下、50℃以下、又は40℃以下であってよい。
一方、膜コンタクターの中空糸膜の外側空間を減圧にして、揮発性溶質除去が行われる場合、被処理水の温度は高くてもよい。しかし被処理水の温度を高くすることは、この態様における必須の要件ではない。この場合の被処理水の温度は、例えば、0℃以上、10℃以上、20℃以上、30℃以上、又は40℃以上であってよく、例えば、100℃以下、90℃以下、80℃以下、70℃以下、又は60℃以下であってよい。
【0061】
《吸収液》
本発明における吸収液は、揮発性溶質除去装置において、中空糸膜の外側に、中空糸膜を介して被処理液と接するように流通されることにより、被処理液から揮発して中空糸膜を通過し、中空糸膜の外側に移動してきた揮発性溶質を取り込む性質を有する液である。
このような吸収液は、例えば、揮発性溶質の良溶媒、揮発性溶質と反応し得る物質を含む溶液等であってよい。
具体的には、例えば、揮発性溶質が揮発性の塩基(例えばアンモニア)を含むときには、前記吸収液は酸の水溶液であってよい。また、揮発性溶質が揮発性の酸(例えば、塩化水素酸、炭酸、酢酸等)を含むときには、前記吸収液は塩基の水溶液であってよい。更に、揮発性溶質が、揮発性の極性化合物(例えば、アルコール類、アセトニトリル等)を含むときには、吸収液は水であってよい。
【0062】
吸収液が中空糸膜の外側を流通するときの線速は、任意である。この吸収液の線速は、例えば、0.1m/s以上5.0m/s以下とすることができる。
吸収液は、被処理液の流通方向と同じ方向に流れる並行流であっても、被処理液の流通方向と逆の方向に流れる対向流であってもよい。
揮発性溶質除去が行われるときの吸収液の温度は、任意である。吸収液の温度は、例えば、0℃以上100℃以下であってよく、15℃以上60℃以下が好ましく、20℃以上50℃以下がより好ましい。
【0063】
《減圧》
中空糸膜の外側を減圧状態にして、揮発性溶質除去装置を運転する場合、中空糸膜の外側の圧力は、中空糸膜の内側(被処理水側)を流通する被処理水中の揮発性溶質の蒸気圧に対して、低ければよい。中空糸膜の外側の圧力は、前記揮発性溶質の蒸気圧の、例えば、90%以下であってよく、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下とすることが好ましい。
具体的には、例えば、中空糸膜の内側の圧力が1atmである場合、中空糸膜の外側の圧力は、0.9atm以下であってよく、0.8atm以下、0.7atm以下、0.6atm以下、又は0.5atm以下とすることが好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例の形式により、本発明の構成及び効果を具体的に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、中空糸膜の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0065】
(1)中空糸膜の外径、内径、及び膜厚
中空糸膜の外径、内径、及び膜厚は、顕微鏡観察により求めた。
具体的には、以下の方法に寄った。
中空糸膜を長手方向に垂直な方向にカミソリで薄く切断し、断面の顕微鏡像を撮影して、顕微鏡像を得た。得られた顕微鏡像を計測することにより、中空糸膜の外径及び内径を求めた。中空糸膜の膜厚は、得られた外径及び内径から、計算により求めた。
【0066】
(2)中空糸膜の平均孔径
中空糸膜の平均孔径は、ASTM:F316-86に記載されている平均孔径の測定方法(ハーフドライ法)により測定した。
中空糸膜を10cmの長さに切断したものを試料とし、液体としてエタノールを用い、温度25℃、昇圧速度0.01atm/秒の標準測定条件で行った。
平均孔径は、下記数式(10)により求めた:
平均孔径[μm]=2,860×(s/p) (10)
{数式(10)中、sは使用液体の表面張力(単位:dyne/cm)であり、pはハーフドライ空気圧力(単位:Pa)である。}
ここで、エタノールの25℃における表面張力sの値は、21.97dyne/cmとした。
【0067】
(3)中空糸膜の最大孔径
中空糸膜の最大孔径は、浸漬液としてエタノールを用いて、バブルポイント法により測定した。
中空糸膜を8cmの長さに切断して、片端を閉塞し、他端には圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。この状態で窒素ガスを供給して、中空糸膜内部を窒素に置換した後、ライン内を窒素で極僅かに加圧した状態で、中空糸膜をエタノール中に浸漬した。この窒素加圧は、エタノールをライン内に逆流させないための措置である。
次いで、中空糸膜をエタノール中に浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させていき、中空糸膜から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力P(kg/cm)を記録した。このPを、下記数式(11):
d=C1γ/P (11)
{数式(11)中、dは中空糸の最大孔径であり、C1は定数であり、γは浸漬液の表面張力であり、そしてPは圧力である。}に代入して、中空糸膜の最大孔径dを算出した。このとき、エタノールを浸漬液としたときのC1γの値は、0.632(kg/cm)とした。
【0068】
(4)中空糸膜の空隙率
中空糸状膜コンタクター用膜の空隙率(膜全体の平均空隙率)は、中空糸膜の質量と、中空糸膜を構成する材料の密度(真密度)とから算出した。
すなわち、中空糸膜を一定の長さに切り、その質量を測定し、下記数式(12):
【数6】
{上記数式(12)中、dは中空糸膜の原料ポリマーの真密度であり、πは円周率である。}により、中空糸の空隙率を求めた。
【0069】
(5)[中空糸膜の水接触角]
中空糸膜の水接触角を、JIS R 3257準拠の液滴法によって測定した。
温度23℃、相対湿度50%の環境下で、中空糸膜試料の外側表面に、純水2μLの液滴を滴下し、液滴と中空糸膜の外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、その数平均値を水接触角として採用した。
【0070】
《実施例1》
(1)膜コンタクター用中空糸膜の作製
平均一次粒径0.016μm、比表面積110m/gの疎水性シリカ(日本アエロジル(株)製、AEROSIL-R972)23質量部と、DOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシルフタル酸ジオクチル)31質量部と、DBP(フタル酸ジブチル)6質量部とを、ヘンシェルミキサーで混合し、これに重量平均分子量が310,000のポリフッ化ビニリデン(SOLVAY社製、Solef(登録商標)6010)40質量部を添加し、再度ヘンシェルミキサーで混合した。この混合物を2軸混練押し出し機で混合した後、ペレット化した。
得られたペレットを、押出口に中空糸成形用紡口を装着した2軸混練押出機中で、240℃において溶融混練して、溶融混錬物を得た。得られた溶融混錬物を中空糸成形用紡口の外側円環穴から押し出すとともに、窒素ガスを紡口の内側の円形穴から吐出させて、紡口から中空糸状の押出物を吐出させた。この中空糸状の押出物を、空走距離20cmにて水浴(40℃)中に導入し、20m/分の速度で巻き取った。
【0071】
巻き取った中空糸状押出物を、塩化メチレン中に浸漬して、中空糸状押出物中のDOP及びDBPを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、中空糸状押出物を50質量%エチルアルコール水溶液中に浸漬した後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃にて1時間浸漬して、中空糸状押出物中のシリカを抽出除去した。
その後、水洗し、乾燥することにより、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の中空糸膜を得た。この中空糸膜について、上述の方法により測定した各種物性は、以下のとおりであった。
内径:0.68mm
外径:1.25mm
膜厚:0.28mm
平均孔径:0.21μm
最大孔径:0.29μm
空隙率:72%
水接触角:103°(中空糸膜外側表面)
【0072】
(2)中空糸膜モジュールの作製
上記で得られたPVDF製の中空糸膜を用いて、図1に示した構造の中空糸膜モジュールを作製した。
長さ15cmに切出した中空糸膜35本を束ねて糸束とし、ハウジング内に収納した。接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により接着樹脂層を形成して、上記の膜束をハウジング内に接着固定した。
以上の操作により、中空糸膜の有孔長(接着樹脂層中に埋没していない部分の長さ)8cm、中空糸膜内表面の合計面積60cmの中空糸膜モジュールを作製した。
【0073】
(3)中空糸膜への疎水化ポリマーの付着(膜コンタクター用膜モジュールの作製)
シリンジを用いて、フロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤「FS1610」(ポリマー濃度1.0質量%)を、中空糸膜モジュールの被処理水入口から中空糸の中空部内に注入した。この注入操作は、中空糸膜の内側表面の全体が上記の撥水剤で濡れて、撥水剤が中空糸膜の外側に染み出るまで継続して行った。次いで、余分の撥水剤を中空糸膜モジュールから除去した後、中空糸膜の中空部に25℃の乾燥空気を流して周や乾燥することにより、中空糸膜の全体が疎水化された膜コンタクター用膜モジュールを作製した。
膜コンタクター用膜モジュールは、3個作製し、1個を圧損の測定用に、1個を揮発性溶質除去の実施様に、1個をモジュールの寿命の評価用に、それぞれ用いた。
【0074】
(4)膜コンタクター用膜モジュールの圧損測定
上記で得られた膜コンタクター用膜モジュールを用い、図5に示した装置を構成して、膜コンタクター用膜モジュールの圧損を測定した。
図5の装置は、吸収液入口及び吸収液出口を閉塞した膜コンタクター用膜モジュール(100)を用い、ポンプ(P)により、水タンク(300)中の水を、被処理水入口から入れて膜コンタクター用膜モジュール(100)の中空糸膜の中空部を通過させて被処理水出口から取り出し、水タンク(300)に戻して循環させることができる。ここで、膜コンタクター用膜モジュール(100)の入口側及び出口側には、それぞれ、圧力計(PM)が設置されており、各箇所の液圧を測定することができる。
【0075】
測定は、25℃にて行った。
図5の装置により、膜コンタクター用膜モジュールの中空糸の中空部に、線速を変量して水を流して、入口側及び出口側の液圧を調べ、その差を圧損として、各線速及び各レイノルズ数における圧損の値を求めた。ここで、レイノルズ数は、25℃における純水の密度997kg/m及び粘度0.00089Pa・sを用いて計算した。
結果を、図6に示す。図6には、流れが層流であるとき、及び乱流であるときの圧損の理論カーブを合わせて示す。
図6に見られるとおり、実施例1の膜コンタクター用膜モジュールの圧損は、レイノルズ数1,000以下では層流の理論カーブとよく一致し、レイノルズ数1,500以上では乱流の理論カーブとよく一致した。この結果は、レイノルズ数が概ね2,300以下では層流になるという、従来の定説と異なるものである。
【0076】
(5)揮発性溶質除去の実施
上記で得られた膜コンタクター用膜モジュールを、図3に示す揮発性溶質除去装置に組み込んで、揮発性溶質除去を実施した。
揮発性溶質を含む被処理水及び吸収液として、以下の構成の溶液を用いた。
被処理水:揮発性溶質としてのアンモニアを300ppm含む海水(液量:1,000g)
吸収液:10質量%濃度硫酸水溶液(液量:1,000g)
海水は、駿河湾の沖合2kmの地点で水深1mから採取した。また、アンモニアは、市販の30質量パーセント濃度のアンモニア水1gに海水999gを加えることにより、濃度300ppmに調整した。スケールのモデル化合物として、海水濃縮時の主要なスケール成分であるCaCOに着目して、計算を行った。
上記の被処理水を被処理水タンク(500)に充填した後、10mol/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pH10以上に調整した。
被処理水は、被処理水供給ポンプ(P1)を用いて750ml/分の流量で、膜コンタクター用膜モジュール(100)の中空糸膜内側を通るように循環させた。このとき、原料液の温度は、膜コンタクター用膜モジュール(100)の入側において50℃に維持されるように、温度調節器を用いて調整した。このときの中空糸膜内部を流れる被処理水の平均線速は0.98m/sであり、レイノルズ数は1,142であった。
【0077】
一方、吸収液タンク(200)には、吸収液1,000gを充填して、吸収液供給ポンプ(P2)を用いて300mL/minの流量で膜コンタクター用膜モジュール(100)の中空糸膜の外側に流した。このとき、吸収液の温度が、50℃に維持されるように、温度調節器を用いて調整した。吸収液は、図5に示すとおり、被処理水と対向する方向でモジュール内に流入させた。
揮発性溶質除去運転を約8時間継続した。このときの水蒸気フラックス、揮発性溶質フラックスを、表1に示す。
【0078】
膜コンタクターの水蒸気フラックスJ(kg/m・h)及び揮発性溶質フラックスJVS(g/m・h)は、下記数式(9)及び(13)~(15)を用いて求めた。
【数7】
数式(9)中、Wは透過した蒸気の重量(kg)であり、これは初期の被処理水重量W (kg)から一定時間経過前後の原料液重量W(kg)を引いた値に等しい(数式(13)。Aは膜コンタクター用膜の膜面積(m)、Tは運転時間(h)である。また、数式(14)中のWVSは、透過した揮発性溶質の重量(kg)であり、これは初期の被処理水重量W (kg)に初期の揮発性溶質濃度C (wt%)を掛けた値に、一定時間経過前後の被処理水重量W(kg)から一定時間経過前後の被処理水重量W(kg)に初期の揮発性溶質濃度C(wt%)を掛けた値を引いた値に等しい(数式(15))。
実施例1では、8時間運転における水蒸気フラックスは1.50kg/m・hであり、揮発性溶質(アンモニア)フラックスは3.58g/m・hであった。
【0079】
8時間の運転終了後、膜コンタクター用膜モジュールを取り出して、図7に示す装置に装着した。
塩酸タンク(400)中に、洗浄液としての0.1Mの塩酸50mLを充填し、ポンプ(P)により、100mL/minの流量にて、膜コンタクター用膜モジュール(100)の中空糸膜の中空部分に1分間流通させた。1分間の流通後、洗浄液をフレッシュな塩酸に交換して、再度1分間の流通を行った。同様の操作を、合計5回繰り返して行った。
流通後の洗浄液5回分を1つにまとめ、ICP-OES分析装置(日立ハイテクサイエンス(株)製、「SPS6100」)を用いて、液中のカルシウムイオン濃度を測定した。
【0080】
そして、得られた値を用いて、下記数式(16)及び(17)により、スケール(CaCO)析出量N(mg/m・h)を算出した。
【数8】
{数式(16)及び(17)中、mはスケール(CaCO)の析出量(g)であり、Wは洗浄液の総質量(g)であり、Cは洗浄液中のカチオン(Ca2+)の質量パーセント濃度(wt%)であり、Mはスケール(CaCO)の分子量(g/mol)であり、Mはカチオン(Ca2+)の式量(g/mol)であり、Aは中空糸膜内側の膜面積(m)であり、Tは運転時間である。}
また、上記で得られた数値、揮発性溶質除去装置の運転時に膜コンタクター用膜モジュールの中空糸膜の中空部を通過する被処理水の線速、並びに50℃における海水の密度1014kg/m及び粘度0.000594Pa・sから、レイノルズ数を計算した。
【0081】
上記の揮発性溶質除去運転の、被処理水の線速及びレイノルズ数の平均値、水蒸気フラックス、揮発性溶質フラックス、及び析出CaCO量を、表1にそれぞれ示す。
実施例1の膜コンタクター用膜モジュールを用いて、レイノルズ数1,142、及び被処理水の線速0.983m/sの条件下で揮発性溶質除去運転を行うと、析出CaCO量は0.78mg/m・hであり、スケールがほとんど析出しないことが検証された。
【0082】
(6)寿命の測定
膜コンタクター用膜モジュールの残りの1個を用いて、膜コンタクター用膜モジュールの寿命の評価を行った。
先ず、上述の揮発性溶質除去運転で得られた評価結果を用いて、中空糸の長さLが、内径の2,000倍である中空糸膜を使用したときの圧損を計算したところ、55.0kPaであった。この計算には、乱流のときの圧損に関する上記数式(8)を用いた。なお、この計算は、モジュールのスケールアップを想定したものである。
そして、被処理水入口の液圧を圧損計算値と同じ値になるように調節した他は、上記と同じ条件で、24時間の揮発性溶質除去運転を行い、揮発性溶質フラックスの初期値を測定した。24時間の運転後、原料液を交換し、中空糸膜の洗浄を行わず、同じ条件で24時間の膜蒸留運転を行った。この操作を繰り返し、運転時間が合計1,000時間になるまで、揮発性溶質除去運転を継続した。
【0083】
1,000時間運転後の揮発性溶質フラックスを測定し、初期値と比較して、以下の基準で評価した。
A:1,000時間運転後の揮発性溶質フラックスが初期値の70%以上であったとき
B:1,000時間運転後の揮発性溶質フラックスが初期値の50%以上70%未満であったとき
C:1,000時間運転後の揮発性溶質フラックスが初期値の50%未満であったとき
【0084】
実施例1では、1,000時間運転後の揮発性溶質フラックスが初期値の88%であり、極めて良好な結果であった。
【0085】
《実施例5~7、並びに比較例1、4、及び5》
被処理水の流量を表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様に膜コンタクター用膜モジュールを作製し、各種の評価を行った。
結果を、表1に示す。
なお、比較例5における寿命の評価時には、運転累積時間が250時間になったときに中空糸膜のウェッティングが起こり、被処理水が透過水側に混入し始めたため、その時点で運転を停止した。
【0086】
《実施例2及び比較例2》
中空糸膜の内径を1.02mm、外径を1.83mmに調整し、中空糸膜20本を束ねてモジュールにした他は、実施例1と同様にして膜コンタクター用膜モジュールを作製した。
【0087】
得られた膜コンタクター用膜モジュールの圧損を、実施例1の「(4)膜コンタクター用膜モジュールの圧損測定」と同様にして測定した。
結果を、図8に示す。図8には、流れが層流であるとき、及び乱流であるときの圧損の理論カーブを合わせて示す。
図8に見られるとおり、実施例2の膜コンタクター用膜モジュールの圧損は、レイノルズ数1,000以下では層流の理論カーブとよく一致し、レイノルズ数1,500以上では乱流の理論カーブとよく一致した。
【0088】
得られた膜コンタクター用膜モジュールを用い、被処理水の流量を被処理水の流量を表1に記載のとおりとした他は実施例1と同様にして揮発性溶質除去運転を行い、各種の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0089】
《実施例3》
実施例1と同様にして得られた膜コンタクター用膜モジュールを、図3に示す揮発性溶質除去装置に組み込んで、揮発性溶質除去を実施した。
揮発性溶質を含む被処理水及び吸収液として、それぞれ、以下の構成の溶液を用いた。
被処理水:揮発性溶質として酢酸300ppmを含む海水(液量:1,000g)
吸収液:10質量パーセント濃度の水酸化ナトリウム水溶液(液量:1,000g)
【0090】
海水は、駿河湾の沖合2kmの地点で水深1mから採取した。また、酢酸は、市販の100質量パーセント濃度の酢酸0.3gに海水999.7gを加えることにより、濃度300ppmに調整した。スケールのモデル化合物として、海水濃縮時の主要なスケール成分であるCaCOに着目して計算を行った。
上記の被処理水を被処理水タンク(500)に充填した後、5mol/L濃度の塩酸を滴下して、pH2以下に調製した。
上記被処理水及び吸収液を用いた他は、実施例1と同様に揮発性溶質除去の運転を実施して、各種の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0091】
《実施例4》
実施例1と同様にして得られた膜コンタクター用膜モジュールを、図3に示す揮発性溶質除去装置に組み込んで、揮発性溶質除去を実施した。
揮発性溶質を含む被処理水及び吸収液として、それぞれ、以下の構成の溶液を用いた。
被処理水:揮発性溶質としてエタノール3,000ppmを含む海水(液量:1,000g)
吸収液:純水(液量:1,000g)
【0092】
海水は、駿河湾の沖合2kmの地点で水深1mから採取した。また、エタノールは、市販のエタノール3.0gに海水997.0gを加えることにより、濃度3,000ppmに調整した。スケールのモデル化合物として、海水濃縮時の主要なスケール成分であるCaCOに着目して計算を行った。
上記被処理水及び吸収液を用いた他は、実施例1と同様に揮発性溶質除去の運転を実施して、各種の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0093】
《比較例3》
被処理水の流量を表1に記載のとおりとした他は、実施例3と同様に揮発性溶質除去の運転を実施して、各種の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【符号の説明】
【0096】
10 ハウジング
11 被処理水入口
12 被処理水出口
13 吸収液入口
15 揮発性溶質蒸気取出口
20 中空糸膜
30 接着樹脂層
100、101 膜コンタクター用膜モジュール
200 吸収液タンク
300 水タンク
400 塩酸タンク
500 被処理水タンク
600 凝集器
1000、1001 揮発性溶質除去装置
HE 熱交換器
P ポンプ
P1 被処理水供給ポンプ
P2 吸収液供給ポンプ
PM 圧力計
TM 温度計
V 減圧ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8