(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182369
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】解析システム、解析方法及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20231219BHJP
G21D 3/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G21C17/00 240
G21C17/00 230
G21D3/04 B
G21D3/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095925
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 武史
(72)【発明者】
【氏名】中里 道
(72)【発明者】
【氏名】加内 雅之
(72)【発明者】
【氏名】浅野 耕司
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA12
2G075CA08
2G075EA03
2G075FB08
2G075FC05
2G075GA18
(57)【要約】
【課題】最小限界熱流束比を精度よく推定することができる解析システム、解析方法及び解析プログラムを提供する。
【解決手段】原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムにおいて、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定する演算部を備え、評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、演算部は、面積と、冷却材温度及び径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、面積と、冷却材温度及び径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、評価モデルから、異常時の最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムにおいて、
安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定する演算部を備え、
前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、
前記演算部は、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行する解析システム。
【請求項2】
前記評価モデルは、回帰式によって表され、
前記回帰式は、
DNBRの推定値=(a・Ftop+b)(c・FΔH+d)(e・Tin/Tin0+f)
DNBR:限界熱流束比
Ftop:面積
FΔH:径方向出力ピーク値
Tin:異常後の入口側における冷却材温度
Tin0:異常前の入口側における冷却材平均温度
a,b,c,d,e,f:定数
で表される請求項1に記載の解析システム。
【請求項3】
原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムが実行する解析方法であって、
前記解析システムは、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、
前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行する解析方法。
【請求項4】
原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムで実行される解析プログラムであって、
前記解析システムは、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、
前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、
前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行させる解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析システム、解析方法及び解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炉心設計として、炉心設計案に対する炉停止余裕、及び、熱的制限値の評価を行う原子炉炉心設計支援システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加圧水型原子炉の炉心設計では、安全評価の一つとして、主蒸気管破断事故が発生した場合の最小限界熱流束比(以下、限界熱流束比をDNBRと表記する)が制限値を満足するよう設計する必要がある。DNBR(Departure from Nucleate Boiling Ratio)とは、限界熱流束と実際の局所熱流束の比である。許認可申請書を対象とした解析(許認可解析)では、代表的な炉心に対して種々のパラメータを保守的に設定した条件のもと最小DNBRが制限値を満足することを提示する必要がある。
【0005】
ここで、特許文献1のような炉心設計において、例えば、評価結果として最小DNBRの推定値が取得される場合、最小DNBRの推定値の精度が低い、換言すれば、最小DNBRの推定値の確からしさが低いと、最小DNBRが厳しい炉心条件を設定するロジックを定めることができないため、許認可における説明性を確保できない。
【0006】
そこで、本開示は、最小限界熱流束比を精度よく推定することができる解析システム、解析方法及び解析プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の解析システムは、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムにおいて、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定する演算部を備え、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記演算部は、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行する。
【0008】
本開示の解析方法は、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムが実行する解析方法であって、前記解析システムは、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行する。
【0009】
本開示の解析プログラムは、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システムで実行される解析プログラムであって、前記解析システムは、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積と、前記燃料集合体の冷却材入口側における冷却材温度及び前記燃料集合体における径方向出力ピーク値の少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを取得するステップと、前記面積と、前記冷却材温度及び前記径方向出力ピーク値の少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、最小限界熱流束比を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る発明の適用対象である原子炉の概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る解析システムの構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、燃料棒の軸方向出力分布を示す図である。
【
図4】
図4は、異常時における最小DNBRを算出する解析方法に関するフローチャートである。
【
図5】
図5は、従来の解析方法により算出した最小DNBRの推定値と、本実施形態の解析方法により算出した最小DNBRの推定値と、を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0013】
[本実施形態]
(原子炉の構成)
図1は、本実施形態に係る発明の適用対象である原子炉の概略図である。
【0014】
原子力発電プラントは、図示しないが、原子力格納容器内に配置される原子炉および蒸気発生器と、蒸気タービン発電設備とを有している。本実施形態に係る原子炉は、軽水を原子炉冷却材および中性子減速材として使用し、炉心全体にわたって沸騰しない高温高圧の状態とする。この高温高圧の軽水を蒸気発生器に送って熱交換により蒸気を発生させて、この蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。
【0015】
原子炉は燃料の核分裂により一次冷却材を加熱し、蒸気発生器は、この高温高圧の一次冷却材と二次冷却材との間で熱交換し、高圧の蒸気を生成する。蒸気タービン発電設備は、この蒸気により蒸気タービンを駆動することで発電を行う。一方、蒸気タービンを駆動した蒸気は復水器で冷却されて復水となり、蒸気発生器に戻される。
【0016】
図1に示すように、加圧水型原子炉10において、原子炉容器11は、原子炉容器本体12とその上部に装着される原子炉容器蓋13により構成されており、原子炉容器本体12に原子炉容器蓋13が複数のスタッドボルト及びナットにより開閉可能に固定されている。
【0017】
原子炉容器本体12は、鉛直方向の下方側の部分が閉塞された円筒形状をなし、鉛直方向の上方側の部分に一次冷却材としての軽水を供給する入口ノズル14と、軽水を排出する出口ノズル15が形成されている。原子炉容器本体12は、内部に炉心槽16が配置されており、この炉心槽16は、上部が原子炉容器本体12の内壁面に支持されている。
【0018】
炉心17は、炉心槽16における上部炉心18と下部炉心19により区画された領域に核燃料としての多数の燃料集合体20が配置されることで構成されている。燃料集合体20は、鉛直方向に沿う複数の燃料棒(図示略)が格子状に束ねられて構成されている。炉心17は、燃料集合体20内に多数の制御棒(図示略)が配置されており、この制御棒は、制御棒駆動装置21により炉心17に対して抜き差しすることで、原子炉出力を制御する。
【0019】
なお、本実施形態の解析対象となる炉心17は、上述のように加圧水型原子炉の炉心であるが、解析対象となる炉心17の構造は上述の説明に限られず任意であり、例えば沸騰水型原子炉の炉心であってもよい。
【0020】
(解析システム)
図2は、本実施形態に係る解析システムの構成例を示す模式図である。本実施形態の解析システム30は、評価モデルを用いて、主蒸気管破断事故等の異常時の最小DNBR(最小限界熱流束比)の推定値を計算する。
【0021】
ここで、DNBRとは、燃料被覆管から原子炉冷却材への熱伝達が低下し、被覆管温度が上昇し始める限界熱流束と、実際の局所出力の比を意味する。核沸騰領域にある場合は、被覆管温度は十分に低いが、限界熱流束に達すると核沸騰が維持できなくなり、加熱面が蒸気膜で覆われた膜沸騰への遷移が起こる。膜沸騰は伝熱効率が悪化するため、遷移点での熱流束を限界熱流束と呼び管理される。また、最小DNBRとは、炉心内で最も熱的に厳しい燃料棒のDNBRの最小値である。次に、解析システム30の構成について具体的に説明する。
【0022】
解析システム30は、演算部31と、記憶部32と、入力部33と、出力部34とを有している。なお、解析システム30は、単体の装置で構成してもよいし、演算装置及びデータサーバ等を組み合わせた複数の装置で構成してもよく、特に限定されない。
【0023】
演算部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含んでいる。演算部31は、各種プログラムを実行して、最小DNBRの推定値を計算するための各種処理を実行する。
【0024】
記憶部32は、半導体記憶デバイス及び磁気記憶デバイス等の任意の記憶デバイスである。この記憶部32には、各種処理を実行するための各種プログラム、及び各種処理に用いられる各種データが記憶されている。各種データとしては、例えば、取替炉心設計の設計案に係る燃料装荷パターンが挙げられる。燃料装荷パターンは、どのような状態の燃料集合体が装填されているかを指し、例えば、新燃料体数、燃料装荷位置、制御棒パターンなどの取替炉心の燃料体についての情報を含む。また、各種データとしては、燃料装荷パターンに対応する炉心解析の解析結果である。解析結果は、解析システム30の外部から取得してもよいし、解析システム30で解析してもよい。炉心解析の解析結果としては、制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の評価の際の燃料棒の軸方向出力分布、燃料集合体20の冷却材入口側(入口ノズル14側)における冷却材温度、及び燃料集合体20における径方向出力ピーク値等が含まれる。各種プログラムとしては、例えば、最小DNBRの推定値を計算するための解析プログラムPである。解析プログラムPには、下記する評価モデルが含まれている。
【0025】
入力部33は、例えば、キーボード及びマウス等の入力デバイスである。出力部34は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示デバイスである。なお、入力部33及び出力部34は、タッチパネル等の入力操作が可能な入力表示デバイスとして一体化されたものであってもよい。
【0026】
ところで、制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の評価の際の炉心状態は、零出力、かつ、制御棒が一本固着した状態となる。他方、異常時の炉心状態は、低出力、かつ、制御棒が一本固着した状態を想定しており、軸方向出力分布は炉心の上側に歪んだ形状となる。そのため、制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の炉心状態と、異常時の炉心状態は類似した状態である。制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の燃料棒の軸方向出力分布の所定区間の面積Ftopと、異常時の最小DNBRとの間には、相関関係があることから、この相関関係を利用して、異常時の最小DNBRの推定値を算出するための評価モデルが生成される。このとき、評価モデルには、炉心状態をより精度よく評価するための入力パラメータを含んでいる。
【0027】
ここで、評価モデルについて説明する。評価モデルは、DNBRと、面積Ftopと、冷却材入口側の冷却材温度と、燃料集合体20における径方向出力ピーク値との相関関係から求められた回帰式である。回帰式は、(1)式で表される。
【0028】
DNBRの推定値=(a・Ftop+b)(c・FΔH+d)(e・Tin/Tin0+f)
・・・(1)
DNBR:限界熱流束比
Ftop:面積
FΔH:径方向出力ピーク値
Tin:異常後の入口側における冷却材温度
Tin0:異常前の入口側における冷却材平均温度
a,b,c,d,e,f:定数
【0029】
(1)式に示すように、評価モデルは、面積Ftopと、冷却材温度Tin、Tin0と、径方向出力ピーク値FΔHとを入力パラメータとし、DNBRの推定値を出力するモデルとなっている。(1)式の評価モデルは、定数a~fを可変させて、解析結果と一致するように、例えば、最小二乗法等の回帰分析によって生成される。つまり、評価モデルは、回帰式を解析結果にフィッテングさせるように定数を設定している。また、主成分回帰、Deming回帰、幾何平均回帰、Passing-Pablok回帰を用いて回帰式を求めてもよい。
【0030】
面積Ftopは、燃料棒の軸方向の所定区間における面積であり、解析結果として取得した制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の評価の際の燃料棒の軸方向出力分布に基づいて算出される。ここで、出力分布とは、原子炉の炉心内の熱出力の空間分布であり、軸方向出力分布とは、燃料棒の長軸方向における熱出力の分布を指す。
【0031】
出力分布の計算には、三次元炉心解析コードを用いる。なお、上記の解析コードは特に限定されず、何れの解析コードを用いてもよい。
【0032】
図3は、燃料棒の軸方向出力分布を示す図である。横軸が燃料棒の出力、縦軸が燃料棒の軸方向の高さを示している。ここで、
図3に示す燃料棒の軸方向出力分布の内、軸方向の所定区間にわたってハッチングが施された部分の面積をF
topとしている。言い換えると、面積F
topは、燃料棒の軸方向の鉛直方向の上側の端部である上端部100から、鉛直方向の下方側に所定区間離れた位置の中間部200までの区間における軸方向出力分布の面積である。
【0033】
面積Ftopは、以下の式(2)を用いて計算してよい。
【0034】
(面積Ftop)=(燃料棒の所定区間の平均出力)/(炉心平均出力)・・・(2)
【0035】
なお、燃料棒の軸方向出力分布の軸方向の所定区間の面積Ftopを求める際の所定区間は、軸方向に沿った鉛直方向の上端部100から、軸方向に沿った鉛直方向の下方側に燃料棒の軸方向の全長に対して1/4以上1/2以下の距離だけ離れた位置である中間部200までの、区間であってよい。
【0036】
冷却材入口側の冷却材温度及び径方向出力ピーク値は、解析結果として取得した制御棒クラスタ1本を除いた全ての制御棒が挿入され、高温停止状態とした条件の評価の際の値となっている。
【0037】
このような解析システム30において、演算部31は、面積Ftopを計算する面積算出処理と、最小DNBRを計算するための入力パラメータを取得するパラメータ取得処理と、最小DNBRを計算する最小DNBR算出処理とを実行している。
【0038】
面積算出処理は、評価される異常時の炉心状態の燃料棒の軸方向出力分布に基づいて、燃料棒の軸方向の所定区間の面積Ftopを計算する。面積Ftopは、評価モデルの生成時における面積Ftopの算出方法と同様である。
【0039】
パラメータ取得処理は、最小DNBRを計算するための入力パラメータを取得する。入力パラメータは、面積算出処理によって算出された面積Ftopと、解析結果として取得された、冷却材入口側の冷却材温度と、燃料集合体20における径方向出力ピーク値とである。冷却材温度及び径方向出力ピーク値は、評価される異常時の炉心状態における解析結果となっている。
【0040】
最小DNBR算出処理は、パラメータ取得処理において取得した入力パラメータを、(1)式の評価モデルに入力して、異常時の最小DNBRを計算する。
【0041】
なお、演算部31は、算出した最小DNBRに基づいて、安全評価を実施する。例えば、演算部31は、算出した最小DNBRが、予め規定された制限値以上であるか否かを判定することで、安全性の合否を判定してもよい。
【0042】
次に、
図4を参照して、解析システム30により、最小DNBRを算出する解析方法について説明する。この解析方法は、演算部31が解析プログラムPを実行することにより後述する各種ステップが実行される。先ず、解析方法において、演算部31は、面積算出処理を実行して、燃料装荷パターンに基づく異常時の炉心状態の燃料棒の軸方向出力分布を取得し、取得した燃料棒の軸方向出力分布に基づいて面積F
topを計算する(ステップS1)。
【0043】
続いて、演算部31は、パラメータ取得処理を実行して、ステップS1において算出した面積Ftopと、解析結果として取得された冷却材入口側の冷却材温度及び燃料集合体20における径方向出力ピーク値とを取得する(ステップS2)。
【0044】
この後、演算部31は、最小DNBR算出処理を実行して、取得した入力パラメータを、評価モデルに入力して、最小DNBRを計算し(ステップS3)、解析方法における処理を終了する。
【0045】
次に、
図5を参照して、従来の評価結果と、本実施形態の評価結果について比較する。
図5は、その横軸が評価指標(すなわち、DNBRの推定値)となっており、その縦軸がDNBRの解析結果となっている。従来の評価指標では、入力パラメータが面積F
topのみの評価モデルとなっているのに対して、本実施形態の評価指標では、上記した(1)式の評価モデルとなっている。
【0046】
図5において、左側のグラフが従来の評価指標となっており、右側のグラフが本実施形態の評価指標となっている。また、従来及び本実施形態の評価指標では、冷却材温度を異ならせたときの条件に基づいて、複数の評価結果を取得したものとなっている。
図5の左側のグラフでは、評価結果、つまり、DNBRの推定値にばらつきが生じている。これに対して、
図5の右側のグラフでは、評価結果、つまり、DNBRの推定値のばらつきが抑制されている。以上から、本実施形態の評価モデルを用いることで、最小DNBRの推定値を精度よく推定できることが確認された。
【0047】
なお、本実施形態では、評価モデルに、入力パラメータとして、冷却材温度及び径方向出力ピーク値を含んでいたが、少なくとも一方の入力パラメータを含んでいればよい。
【0048】
以上のように、本実施形態に記載の解析システム30、解析方法及び解析プログラムPは、例えば、以下のように把握される。
【0049】
第1の態様に係る解析システム30は、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システム30において、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定する演算部31を備え、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体20の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積Ftopと、前記燃料集合体20の冷却材入口側における冷却材温度Tin、Tin0及び前記燃料集合体20における径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記演算部31は、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とを取得するステップS2と、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップS3と、を実行する。
【0050】
この構成によれば、面積Ftopと、冷却材温度Tin、Tin0及び径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とを含む入力パラメータを評価モデルに入力することで、精度の良い最小DNBRの推定値を算出することができる。
【0051】
第2の態様として、第1の態様に係る解析システム30において、前記評価モデルは、回帰式によって表され、
前記回帰式は、
DNBRの推定値=(a・Ftop+b)(c・FΔH+d)(e・Tin/Tin0+f)
DNBR:限界熱流束比
Ftop:面積
FΔH:径方向出力ピーク値
Tin:異常後の入口側における冷却材温度
Tin0:異常前の入口側における冷却材平均温度
a,b,c,d,e,f:定数
で表される。
【0052】
この構成によれば、回帰式となる評価モデルを用いて、精度の良い最小DNBRの推定値を算出することができる。
【0053】
第3の態様に係る解析方法は、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システム30が実行する解析方法であって、前記解析システム30は、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体20の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積Ftopと、前記燃料集合体20の冷却材入口側における冷却材温度Tin、Tin0及び前記燃料集合体20における径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とを取得するステップS2と、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップS3と、を実行する。
【0054】
この構成によれば、面積と、冷却材温度及び径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを含む入力パラメータを評価モデルに入力することで、精度の良い最小DNBRの推定値を算出することができる。
【0055】
第4の態様に係る解析プログラムPは、原子力施設に設けられる主蒸気管の異常時における安全評価の解析を行う解析システム30で実行される解析プログラムPであって、前記解析システム30は、安全評価のパラメータとなる最小限界熱流束比を、評価モデルを用いて推定し、前記評価モデルは、限界熱流束比と、炉心に装荷される燃料集合体20の燃料棒の軸方向出力分布における所定区間の面積Ftopと、前記燃料集合体20の冷却材入口側における冷却材温度Tin、Tin0及び前記燃料集合体20における径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方との相関関係を表すモデルとなっており、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とを取得するステップS2と、前記面積Ftopと、前記冷却材温度Tin、Tin0及び前記径方向出力ピーク値FΔHの少なくとも一方とに基づいて、前記評価モデルから、前記異常時の前記最小限界熱流束比を算出するステップS3と、を実行させる。
【0056】
この構成によれば、面積と、冷却材温度及び径方向出力ピーク値の少なくとも一方とを含む入力パラメータを評価モデルに入力することで、精度の良い最小DNBRの推定値を算出することができる。
【符号の説明】
【0057】
30 解析システム
31 演算部
32 記憶部
P 解析プログラム