(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182381
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20231219BHJP
【FI】
C02F3/12 H
C02F3/12 M
C02F3/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095951
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 太一
(72)【発明者】
【氏名】油井 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 吉昭
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028AB00
4D028AB03
4D028AC09
4D028BB02
4D028BC01
4D028CA00
4D028CA06
4D028CB03
4D028CC00
4D028CC09
4D028CE01
(57)【要約】
【課題】有機性排水の好気性生物処理を行うときにおいて、例えば有機性排水である原水に対する栄養物質の最適な添加量の決定するなどして、好気性生物処理を安定して実行できるようにする。
【解決手段】排水処理装置は、硫黄化合物および窒素化合物の少なくとも一方を含む有機性排水に対して好気性生物処理を実行する反応槽10と、反応槽内の水から放出される気体から硫化水素などの腐食性ガスを除去する脱硫フィルター52と、腐食性ガスが除去された後の気体に含まれる二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度センサ31と、測定された二酸化炭素濃度に基づいて好気性生物処理を制御する制御装置40と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽において硫黄化合物および窒素化合物の少なくとも一方を含む有機性排水に対して好気性生物処理を実行する排水処理方法において、
前記反応槽内の水から放出される気体から前記腐食性ガスを除去し、
前記腐食性ガスを除去した後の前記気体における二酸化炭素濃度を測定し、
測定された前記二酸化炭素濃度に基づいて前記好気性生物処理を制御することを特徴とする、排水処理方法。
【請求項2】
前記好気性生物処理を実行するときの前記反応槽におけるBOD処理負荷が1.5kg/m3/dayを超える、請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記有機性排水に対する栄養物質の添加量を制御することにより、前記好気性生物処理を制御する、請求項1または2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記反応槽において流動床を形成して前記好気性生物処理を実行する、請求項1または2に記載の排水処理方法。
【請求項5】
複数の前記反応槽が直列に設けられる場合に、最前段の反応槽において前記腐食性ガスの除去と前記二酸化炭素濃度の測定とを行い、測定された前記二酸化炭素濃度に基づいて前記最前段の反応槽における前記好気性生物処理を制御する、請求項1または2に記載の排水処理方法。
【請求項6】
硫黄化合物および窒素化合物の少なくとも一方を含む有機性排水に対して好気性生物処理を実行する反応槽と、
前記反応槽内の水から放出される気体から腐食性ガスを除去する除去手段と、
前記腐食性ガスが除去された後の前記気体に含まれる二酸化炭素濃度を測定する測定手段と、
前記測定手段で測定された前記二酸化炭素濃度に基づいて前記好気性生物処理を制御する制御手段と、
を有する排水処理装置。
【請求項7】
前記反応槽におけるBOD処理負荷が1.5kg/m3/dayを超える条件で前記好気性生物処理を実行する、請求項6に記載の排水処理装置。
【請求項8】
前記有機性排水に栄養物質を添加する添加手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記二酸化炭素水素濃度に基づいて前記添加手段による前記栄養物質の添加量を制御する、請求項6または7に記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記反応槽は流動床型の反応槽である、請求項6または7に記載の排水処理装置。
【請求項10】
複数の前記反応槽が直列に設けられ、
前記除去手段及び前記測定手段は最前段の反応槽に対して設けられ、
前記制御手段は前記最前段の反応槽における前記好気性生物処理を制御する、請求項6または7に記載の排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気性生物処理により有機性排水を処理する排水処理方法及び排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む排水すなわち有機性排水を環境中に放出する前に行う排水処理として、微生物を用いる生物処理が一般的に用いられている。生物処理では、微生物による有機物の分解活性を高く維持するために、水温、pHなどの環境条件を最適化するとともに、窒素やリン、微量金属などの栄養物質を添加する必要がある。生物処理の制御には、栄養物質の添加量を決定することも含まれる。生活排水が流入する公共下水道での排水に比べ、工場からの排水では栄養物質が不足しやすい。特に、化学工場や半導体製造工場からの排水では、生物処理に必要となる栄養物質の不足が顕著である。
【0003】
有機性排水である原水に対する栄養物質の添加量は、原水での有機物濃度に比例させることが推奨されている。原水における有機物濃度が生物化学的酸素要求量(BOD)で表されているとして、好気性微生物による排水処理すなわち好気性生物処理における栄養物質としての窒素(N)及びリン(P)の好ましい添加量は、質量基準で、例えば、BOD:N:P=100:5:1である。原水のBOD測定をオンラインであるいは短時間で行うことは難しいが、水中の全有機炭素(TOC)濃度の測定はオンラインで行うことができるので、原水におけるTOC濃度とBODとの相関を事前に取得しておき、オンラインのTOC濃度計によって原水のTOC濃度をモニタリングした上でこれをBOD値に変換し、得られたBOD値に基づいて窒素及びリンの添加量を制御することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
好気性微生物による排水処理を行う場合、一般に、反応槽内の水における溶存酸素(DO)濃度が3mg/L以上であるときは完全好気条件とされる。完全好気条件での生物処理では、有機性排水中の硫黄成分は硫酸イオン(SO4
2-)まで酸化される。好気性生物処理に対して嫌気性微生物を使用する生物処理を嫌気性生物処理というが、例えばメタン発酵などの嫌気性生物処理では、特許文献2に記載されるように、硫化水素などの腐食性のガスが発生することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-334285号公報
【特許文献2】特開2005-81264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オンラインで測定したTOC濃度に基づいて栄養物質の添加量を制御する方法では、オンラインTOC濃度計の配管の内部において、懸濁物質(SS)や油分の蓄積、バイオフィルムの形成などによって目詰まりが生じ、測定値が不安定になり、その結果、生物処理自体を安定して行えなくなる、という課題がある。高いBOD容積負荷の条件において好気性生物処理を行うときにも、同様に、処理が不安定になることがある。
【0007】
本発明の目的は、有機性排水の好気性生物処理を行うときにおいて、好気性生物処理を安定して実行できる排水処理方法及び排水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機性排水の好気性生物処理を行うときに、反応槽内の水から発生する二酸化炭素の濃度を測定し、測定された二酸化炭素濃度から、添加すべき栄養物質の量を決定できることを見出した。二酸化酸素濃度の測定は、気相中で実行されるので、TOC濃度の測定における懸濁物質や油分の蓄積、バイオフィルムの形成などといった問題の発生を回避することができる。また本発明者らは、反応槽内の水における溶存酸素(DO)濃度が3mg/L以上である完全好気条件下で、硫黄化合物を含む有機性排水の生物処理を行った場合、生物処理における有機物の容積負荷が大きいと、例えばBOD容積負荷で表して1.5kg/m3/dayを超えていると、嫌気処理での生成物であるはずの硫化水素が発生することがあることを見出した。硫化水素は、二酸化炭素濃度を測定するために用いられるセンサ類に害を与える。同様に有機性排水が窒素化合物を含む場合には、BOD容積負荷が大きいと、完全好気条件での生物処理であってもアンモニアなどが発生する可能性がある。センサ内の配線などに悪影響を及ぼすことがあるので、アンモニアも腐食性ガスとみなされる。
【0009】
したがって本発明の排水処理方法は、反応槽において硫黄化合物および窒素化合物の少なくとも一方を含む有機性排水に対して好気性生物処理を実行する排水処理方法において、反応槽内の水から放出される気体から腐食性ガスを除去し、腐食性ガスを除去した後の気体における二酸化炭素濃度を測定し、測定された二酸化炭素濃度に基づいて好気性生物処理を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の排水処理装置は、硫黄化合物および窒素化合物の少なくとも一方を含む有機性排水に対して好気性生物処理を実行する反応槽と、反応槽内の水から放出される気体から腐食性ガスを除去する除去手段と、腐食性ガスが除去された後の気体に含まれる二酸化炭素濃度を測定する測定手段と、測定手段で測定された二酸化炭素濃度に基づいて好気性生物処理を制御する制御手段と、を有する。
【0011】
上述したように完全好気条件下で有機性排水の生物処理を行っても、反応槽における生物処理での有機物の容積負荷が大きいと、硫化水素やアンモニアといった腐食性ガスが発生する。本発明では、反応槽から発生する気体の含まれる二酸化炭素濃度を測定する前に、気体に含まれる腐食性ガスを除去する。これにより、二酸化炭素濃度を測定するためのセンサ類に悪影響が及ぶことを防ぐことができ、好気性生物処理を実行するときに二酸化炭素濃度に基づいて好気性生物処理を安定して制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機性排水での有機物の容積負荷が大きい場合においても好気性生物処理を安定して行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の一形態の排水処理装置を示す図である。
【
図2】別の実施形態の排水処理装置を示す図である。
【
図3】さらに別の実施形態の排水処理装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
本発明は、有機性排水である原水に対し好気性微生物を用いる生物処理(すなわち好気性生物処理)を行い、原水中の有機物質を分解除去する技術に関するものである。本発明が対象とする有機性排水は、好気性生物処理が適用可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、公共下水道での排水、食品工場、化学工場、半導体製造工場、液晶製造工場、紙パルプ工場などの各工場から排出される排水、さらには、これら以外の分野の事業所から排出される排水などを含んでいる。公共下水道での排水に比べ、民間工場からの排水では、生物処理に用いる微生物が有する分解活性を高く維持するために必要な栄養物質が不足しやすく、特に、化学工場や半導体製造工場、液晶製造工場からの排水では、栄養物質の不足が顕著である。本発明において好気性生物処理は、活性汚泥法、膜分離活性汚泥法(MBR)、流動床または固定床による生物膜法、あるいはグラニュール法などにより実行される。
【0016】
本発明に基づく排水処理方法は、好気性生物処理ができるだけ最適な条件で実行されるように好気性生物処理の制御を行なう。好気性生物処理の制御では、例えば、水温やpH、反応槽に吹き込まれる空気の量を制御することも可能であるが、特に、原水に対する栄養物質の添加量を制御することが好ましい。以下に説明する実施形態では、好気性生物処理の制御として、有機性排水である原水に対する栄養物質の添加量を制御することとするが、本発明においては栄養物質の添加量以外のパラメータを制御してもよい。
【0017】
原水に対する栄養物質の添加量を最適化するために、本実施形態では、原水のBODあるいはTOC濃度を直接測定するのではなく、反応槽内の水から放出される気体における二酸化炭素濃度を測定する。本実施形態では好気性生物処理を前提としており、好気性生物処理では、通常、送風用のブロアなどを用いて反応槽に対して酸素を含む気体、例えば空気を供給して反応槽内の水に対して散気処理あるいは曝気処理を行う。そこで、二酸化炭素濃度とともに、反応槽に供給される気体または反応槽から放出される気体の流量を測定することが好ましい。そして、二酸化炭素濃度の測定値に基づいて、あるいは、二酸化炭素濃度と気体の流量の測定値とに基づいて、原水への栄養物質の添加量を制御する。
【0018】
二酸化炭素濃度の測定値の気体の流量の測定値とに基づいて制御を行なう場合には、二酸化炭素濃度の測定値と流量の測定値から原水の有機物濃度を算出し、算出された有機物濃度に基づいて原水への栄養物質の添加量を制御してもよいし、濃度の測定値と流量の測定値とを乗算した値に基づいて原水への栄養物質の添加量を制御してもよい。さらに、反応槽内の水の水質(例えばpH)を測定し、二酸化炭素濃度の測定値と流量の測定値と水質の測定値とに基づいて原水への栄養物質の添加量を制御してもよい。気体の流量として、送風用のブロワから反応槽に供給される空気の流量を測定してもよいし、反応槽から放出される気体の全体の流量を測定してもよい。流動床を用いて好気処理を行う場合、担体を分離するために反応槽内にスクリーンを配置するとともに、スクリーンの洗浄にも空気を吹き込むが、このとき、散気のためのブロワの風量とスクリーン洗浄用の空気の風量とを合算したものを気体の流量としてもよい。
【0019】
図1は、本発明の実施の一形態の排水処理装置を示している。
図1に示す排水処理装置は、有機性排水である原水を貯えて好気条件にて原水の生物処理を行う流動床型の反応槽10を備えている。反応槽10からは、生物処理によって有機物が分解除去された処理水が排出する。反応槽10には、担体11が充填されており、反応槽10の底部には、酸素を供給するためにすなわちエアレーションのために反応槽10内に空気を吹き込む散気装置12が設けられている。反応槽10には、反応槽10に原水を供給する入口配管13が接続している。散気装置12には、散気装置12に空気を供給するための気体配管14が接続しており、気体配管14には、送気用のブロア15が設けられている。ここで使用できる担体11としては、例えば、プラスチック製担体、スポンジ状担体、ゲル状担体などが挙げられるが、これらの中では、コストや耐久性の観点から、スポンジ状担体を用いることが好ましい。反応槽10には担体11を撹拌する撹拌装置を設けてもよい。
【0020】
生物処理において微生物がその分解活性を高く維持し、増殖するためには、栄養物質が必要であり、原水において栄養物質が不足する場合には、反応槽10内または反応槽10の前段において原水に栄養物質を添加する必要がある。
図1に示す排水処理装置では、栄養物質の溶液(すなわち栄養液)を貯える栄養物質貯槽21が設けられており、栄養物質貯槽21と入口配管13とは栄養液配管22を介して接続している。栄養液配管22には、栄養液を給送するポンプ23が設けられている。したがってこの排水処理装置では、入口配管13を流れて反応槽10に供給される原水に対して栄養物質を添加することができ、ポンプ23を制御することにより原水に対する栄養物質の添加量を制御することができる。栄養物質は、大別すると、窒素やリンを含む栄養塩と、窒素やリンに比べて必要量の少ない微量元素とに分けられる。微量元素には、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ金属類、鉄、マンガン及び亜鉛などの金属類などが含まれる。窒素源としては、尿素やアンモニウム塩を用いることができる。リン源としては、リン酸やリン酸塩を用いることができる。
【0021】
図1に示す排水処理装置では、好気性生物処理により反応槽10内の水から放出される気体中の二酸化炭素濃度と、散気のために反応槽10に供給される空気の流量とに基づいて、栄養物質の添加量を制御する。そのため反応槽10には、反応槽10内の水から放出される気体中の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度センサ31が設けられており、ブロア15と散気装置12との間の位置において気体配管14にはそこを流れる空気の流量を測定する風量計32が設けられている。反応槽10が蓋16によって覆われているとして、二酸化炭素濃度センサ31は、反応槽10内の気相部や、この気相部に接続した配管内などに設置される。二酸化炭素濃度センサ31の結露を避ける必要があるため、配管内に設置する場合には、配管の保温などを図るとともに、二酸化炭素濃度センサ31の直前の位置に、ミストセパレータやエアドライヤーを設置してもよい。
【0022】
反応槽10が開放系である場合には、測定結果における外気による影響を軽減するために、反応槽10の上部の開放部を極力小さくした上で、筒状の配管などを水面下まで挿入し、その配管において水面上となる位置に二酸化炭素濃度センサ31を配置することができる。二酸化炭素濃度センサ31としては、例えば、光学式、電気化学式あるいは半導体式のものを用いることができるが、特に、非分散型赤外線吸収法(NDIR)によるセンサを用いることが好ましい。二酸化炭素濃度の測定は、マニュアル(手動)で行ってもオンラインで行ってもよい。
【0023】
後述の実施例及び比較例から明らかになるように、反応槽10内の水の溶存酸素(DO)濃度が3mg/L以上であって完全好気条件であっても、反応槽10における好気性生物処理のBOD容積負荷が大きいとき、例えば1.5kg/m
3/dayを超えるときは、原水に含まれる硫黄化合物に由来する硫化水素が発生することがある。また窒素化合物に由来するアンモニアなどが発生することがある。硫化水素やアンモニアは腐食性ガスであり、二酸化炭素濃度センサ31の内部を腐食させるおそれがある。二酸化炭素濃度センサ31が腐食性ガスによってダメージを受けると、安定した測定値を得ることが困難になり、栄養物質の添加量の制御を適切に行うことも困難になる。そこで
図1に示す排水処理装置では、反応槽10内の水から放出される気体の二酸化炭素濃度を二酸化酸素濃度センサ31によって測定する前に、その気体から腐食性ガスから除去する前処理を実行する。硫化水素を除去する一般的な方法として、酸化鉄に接触させて硫化鉄として除去する方法、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤に吸収させて除去する方法などがあるが、アルカリ剤による方法では二酸化炭素も吸収除去されてしまうため、本実施形態においては酸化鉄を用いる方法が好ましい。
【0024】
図1に示した例では、有機性排水である原水に硫黄化合物が含まれていて硫化水素が発生するおそれがあるとして、二酸化炭素濃度センサ31は、管状部材51の内部に配置され、管状部材51の一方の端部には脱硫フィルター52が設けられている。不図示のファンやエアポンプなどにより管状部材51内では図示矢印で示すように一方向で気体が流れており、脱硫フィルター52を通過して硫化水素が除去された気体が二酸化炭素濃度センサ31に供給されようになっている。図では管状部材51の他端も反応槽10の内部にあるが、蓋16を貫通するように管状部材51を設け、二酸化炭素濃度センサ31によって測定された気体が反応槽10の外部に排出されるようにしてもよい。脱硫フィルター52は、酸化鉄を用いて硫化水素を除去するフィルターであり、例えば、酸化鉄を含有した充填材が充填されている。充填材は、例えば、直径が4~12mmの粒状あるいは円柱状のものであってもよいし、多孔性のハニカム状に加工されたものであってもよい。処理性能の高さから、ハニカム状の充填材を用いることが好ましい。脱硫フィルター52における気体の空間速度(SV)は、例えば10~180h
-1程度とされる。
【0025】
次に、
図1に示す排水処理装置における栄養物質の添加量の制御について説明する。原水に栄養物質(栄養塩及び微量金属)を添加するときの添加量は、原水における有機物濃度、好ましくはBODに比例させることが推奨されている。例えば、好気処理における窒素(N)及びリン(P)の添加量を、質量基準で、BOD:N:P=100:5:1とすることが推奨されている。
図1に示す排水処理装置では、原水のBODをオンラインTOC濃度計などによって測定せずに、その代わり、好気性生物処理により反応槽10内の水から放出される気体中の二酸化炭素濃度と、散気のために反応槽10に供給される空気の流量(すなわち風量)とを測定する。そして、二酸化炭素濃度の測定値と空気の流量の測定値とから原水のBOD値を算出し、算出されたBOD値に基づいて栄養物質の添加量を決定する。そのためにまず、二酸化炭素濃度センサ31で測定された二酸化炭素濃度と風量計32で得られた風量の測定値との組み合わせを入力値(Xn)とし、入力値(Xn)に対応する原水のBOD濃度を出力値(Yn)とし、入力値と出力値との組み合わせを事前に一定数(例えは数十から百セット)取得した上で、モデル(あるいは関係式)を作成する。このとき、二酸化炭素濃度と風量の測定値との組み合わせを入力値(Xn)とする代わりに、二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値とを乗算して得られる値(すなわち乗算値)を入力値(Xn)としてもよい。乗算値による方法の場合、風量が一定であるのであれば、乗算値の代わりに二酸化炭素濃度の測定値だけを用いることもできる。
【0026】
ひとたびモデルが作成されれば、それ以降は、二酸化炭素濃度センサ31で測定した二酸化炭素濃度の測定値と風量計32で得られた風量の測定値との組み合わせをモデルに入力し、その結果としてモデルから出力されるBOD濃度値に基づいて、ポンプ23を駆動し、原水への栄養物質の添加の有無や添加量を制御する。このような制御を行なうために、排水処理装置は、作成されたモデルを保持し、二酸化炭素濃度センサ31で得られた二酸化炭素濃度値と風量計32で得られた測定値とをモデルに適用して原水のBOD濃度値を算出し、BOD濃度値に基づいてポンプ23を発停や流量を制御する制御装置40を備えている。なお、モデルの作成にBOD濃度を用いてはいるが、作成されたモデル自体は二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値とを入力として栄養物質の添加量を直接出力するものであると考えることができるから、ひとたびモデルを作成してしまえば、二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値とからBOD濃度値を明示的に算出することなく、栄養物質の最適添加量を決定することができる。
【0027】
次に、モデルの作成について説明する。入力値が入力されたときにそれに対応する原水のBOD濃度を出力値として出力するモデルは、例えば、各種の回帰分析を用いて作成することができる。特に、ニューラルネットワーク技術を用いて教師あり学習によってモデルを作成すると、栄養物質の添加量の制御の精度が向上する。二酸化炭素濃度センサ31で得られる二酸化炭素濃度は、反応槽10の構成や大きさ、反応槽10における気相部の大きさ、生物処理の種類などによって変動することもあり、また、散気のために反応槽10に供給される空気の風量も反応槽10の構成や大きさなどによって変化するから、モデルは反応槽10ごとに設定してもよい。さらに、原水の種類あるいは出所によっても原水のBODと測定される二酸化炭素濃度や風量との関係が変動する可能性があるから、原水の種類や出所ごとにモデルを用意し、そのようにして用意されたモデルの中から原水の種類や出所に応じて栄養物質の添加量の制御に用いるモデルを選択することもできる。
【0028】
図1に示した排水処理装置では、風量計32を気体配管14を設け、気体配管14を介して反応槽10に供給される空気の流量すなわち風量を測定しているが、反応槽10に供給される空気の流量を測定する代わりに、反応槽10から放出される気体の流量を測定するようにしてもよい。反応槽10から放出される気体の流量を測定する場合、反応槽10が蓋16によって完全に覆われているときは、外部への気体の排出のために反応槽10の内部に連通する配管に風量計32を設置すればよい。反応槽10が開放系である場合には、測定結果における外気による影響を軽減するために、反応槽10の上部の開放部を極力小さくした上で、筒状の配管などを水面下まで挿入し、その配管に風量計32を設置することができる。
【0029】
原水への栄養物質の添加量の制御のために、オンラインTOC濃度計を用いてオンラインで原水中の有機物濃度を測定することも考えられるが、オンラインTOC濃度計は、少量の試料水を測定装置に引き込むために細い配管を備えており、目詰まりが発生しやすく測定値が安定しない。これに対し二酸化炭素濃度センサ31は、水と接触することなく測定を行うので、測定値の安定性が非常に高い。また、気体流量の測定も安定して行うことができる。したがって
図1に示す排水処理装置では、原水における有機物濃度を直接測定することなく、原水に対する栄養物質の添加量の最適値を安定して求めることが可能になる。
【0030】
図2は、本発明の別の実施形態の排水処理装置を示している。
図2に示す排水処理装置は、
図1に示す排水処理装置において、反応槽10内の水の水質を測定する水質測定部33を設け、水質測定部33での測定結果も制御装置40に送られるようにしたものである。水質測定部33が測定する水質項目には少なくともpHが含まれており、pH以外にも水温などが測定されてもよい。
図2に示す排水処理装置で使用するモデルは、二酸化炭素濃度センサ31で測定された二酸化炭素濃度と風量計32で得られた風量の測定値と水質測定部33で測定された水質(特にpH)の測定値との組み合わせを入力(Xn)とし、入力値(Xn)に対応する原水のBOD濃度を出力値(Yn)とするものであって、上述したものと同様に作成されるものである。制御装置40は、二酸化炭素濃度センサ31で測定された二酸化炭素濃度と風量計32で得られた風量の測定値と水質測定部33で測定された水質(特にpH)の測定値とをモデルに適用して原水のBOD濃度値を算出し、BOD濃度値に基づいてポンプ23を制御する。
【0031】
よく知られているように水中において無機炭酸は、pHに応じてCO
2、HCO
3
-、CO
3
2-とその形態が変化する。そのため、原水中の有機物濃度が同じであっても、反応槽10内の水から放出される気体中の二酸化炭素濃度がpHに応じて変化する可能性がある。
図2に示す排水処理装置では、反応槽10内の水のpHも考慮して栄養物質の添加量を制御するから、原水のpHに関わりなく、栄養物質の添加量を最適化することができる。また水中における二酸化炭素の溶解度は水温に依存するが、二酸化炭素の溶解度が変化すれば反応槽10内の水から放出される気体における二酸化炭素濃度も変化する。そこで反応槽10において水温変動がある場合には、水質測定部33においてpHのほかに水温も測定し、二酸化炭素濃度、風量及びpHに加えて水温にも基いて栄養物質の添加量を制御することもできる。
【0032】
排水処理では、生物処理を行う反応槽の複数個を直列に接続し、前段の反応槽から排出される処理水を次段の反応槽に導いて各反応槽において生物処理を行うことにより、有機物が高度に除去された処理水を得ることがある。
図3は、
図1及び
図2に示すものと同様に好気性生物処理による排水処理を行う排水処理装置であって、反応槽10が複数個直列にすなわち多段に設けられている排水処理装置を示している。反応槽10が2段以上の多段で設けられている場合、最前段の反応槽10において、その反応槽から放出される気体中の二酸化炭素濃度を測定するとともにその反応槽に供給される空気の風量を測定し、二酸化炭素濃度と空気の風量とから原水のBOD濃度値を算出し、そのBOD濃度値に基づいて、その反応槽に供給される原水への栄養物質の添加量を制御することができる。この場合、最前段の反応槽10内の水のpHも測定し、二酸化炭素濃度と空気の風量とpHとに基づいて原水への栄養物質の添加量を制御することもできる。したがって
図3に示す排水処理装置では、二酸化炭素濃度センサ31、風量計32及び水質測定部33は最前段の反応槽10にのみ設けられており、栄養物質貯槽21からの栄養液は、最前段の反応槽10に接続する入口配管13内の原水に添加されるようになっている。二酸化炭素濃度センサ31は、
図1に示したものと同様に、一端に脱硫フィルター52が設けられている管状部材51の内部に設けられている。制御装置40は、二酸化炭素濃度センサ31、風量計32及び水質測定部33の測定値から原水のBOD濃度値を算出し、BOD濃度値に基づいて、栄養液を給送するポンプ23を制御する。
【0033】
反応槽10を2段以上直列に設けた場合、最前段の反応槽10において有機物の大半が分解除去されるので、2段目以降の反応槽10において除去しなければならない有機物は少なくなる。加えて、最前段の反応槽10で増殖した微生物が死滅し解体することで栄養物質が再溶出する。それらの理由により、2段目以降の反応槽10に供給される水に改めて栄養物質を添加しなくても、また、2段目以降の反応槽10における生物処理についての特段の制御を行なわなくても、2段目以降の反応槽10において生物処理を進行させることが可能になり、排水処理装置の全体としての処理性能を維持することができる。このため、2段目以降の反応槽については、二酸化炭素濃度、風量及びpHの測定を行わなくてもよい。
【実施例0034】
次に、実施例、比較例及び参考例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0035】
[実施例1、参考例1及び比較例1,2]
まず、実施例1、参考例1及び比較例1,2に共通の試験条件に付いて説明する。
図1に示すものと同様の好気性生物処理を行う反応槽を用意して排水処理装置を構成した。反応槽の上部は蓋で覆われている。反応槽には、疎水性ポリウレタン製のスポンジ担体を嵩体積として充填率が20%となるように充填した。有機性排水としてイソプロピルアルコール含有排水を用意した。排水のBOD濃度は180~330mg/L、窒素(N)濃度は10~26mg/L、リン(P)濃度は0.5mg/L以下、硫酸イオン(SO
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2-)濃度は60~360mg/Lであった。このような排水を反応槽に供給し、反応槽において散気を行うとともに栄養物質を添加し、排水の好気性生物処理を行った。栄養物質としてはリン酸と微量金属を用いた。このときの水温は約30℃であり、反応槽内の水のpHは6.5~7.0であり、溶存酸素濃度は3mg/L以上であって完全好気性条件を満たしていた。
【0036】
反応槽内の水から放出される気体の二酸化炭素濃度を測定するために、反応槽の気相部に連通する配管を設け、エアポンプによりこの配管から気体を引き抜き、引き抜かれた気体の二酸化炭素濃度を二酸化炭素濃度センサにより連続的に測定した。二酸化炭素濃度センサは、非分散型赤外線吸収法(NDIR)のものである。この反応槽に取付られた二酸化炭素濃度センサのことを制御用センサと呼ぶことにする。実施例1では、配管から引き抜かれた気体を、表面に酸化鉄を塗布したハニカム状の充填剤を充填したカラムに上向流で通気したのちに、その気体の二酸化炭素濃度を制御用センサで測定した。このカラムは、脱硫フィルターに相当するものである。一方、比較例1,2及び参考例1では、脱硫フィルターを設けずに、配管から引き抜かれた気体の二酸化炭素濃度をそのまま制御用センサで測定した。
【0037】
(実施例1)
反応槽における好気性生物処理のBOD容積負荷を4kg/m3/dayとして排水処理装置の連続運転を行い、脱硫フィルターによる前処理を行った上で制御用センサによる二酸化炭素濃度の連続測定を行った。運転開始から約3ヶ月が経過した時点で、反応槽内の水から発生した気体をサンプリングして、制御用センサとは異なる測定装置を用いてこの気体における二酸化炭素濃度(これ標準ガス濃度と呼ぶ)を測定し、そのときの制御用センサでの測定値と比較した。その結果、制御用センサによる測定値は標準ガス濃度の107%の値を示した。標準ガス濃度は、そのときの二酸化炭素濃度の実際の値に対応するものと考えられ、実施例1では、制御用センサにおける測定誤差は許容範囲内であった。
【0038】
(比較例1)
脱硫フィルターを設けずに制御用センサにより二酸化炭素濃度を測定すること以外は実施例1と同様にして、BOD容積負荷が4kg/m3/dayである条件で排水処理装置の連続運転を行い、二酸化炭素濃度の連続測定も行った。その結果、運転開始から約3ヶ月が経過した時点で制御用センサがセンサエラーとなり、二酸化炭素濃度を測定できない状態となった。またこのとき、反応槽から発生する気体の硫化水素濃度を測定したところ、0.7ppm以上であった。
【0039】
(比較例2)
BOD容積負荷を3kg/m3/dayとしたこと以外は比較例1と同様にして、排水処理装置の連続運転を行い、二酸化炭素濃度の連続測定も行った。その結果、運転開始から約3ヶ月が経過した時点で制御用センサによる二酸化炭素濃度の測定値は標準ガス濃度の約140%となり、大きな測定誤差がある状態となった。またこのとき、反応槽から発生する気体から硫化水素が検出された。
【0040】
(参考例1)
BOD容積負荷を1.5kg/m3/dayとしたこと以外は比較例1と同様にして、排水処理装置の連続運転を行い、二酸化炭素濃度の連続測定も行った。その結果、運転開始から約3ヶ月が経過した時点で制御用センサによる二酸化炭素濃度の測定値は標準ガス濃度の約105%となり、制御用センサにおける測定誤差は許容範囲内であった。
【0041】
参考例1及び比較例1,2から、反応槽内の水の溶存酸素濃度を3mg/L以上として完全好気性条件としてもBOD負荷容量が1.5kg/m3/dayを超えるときは、本来ならば嫌気条件でしか発生しないはずの硫化水素が反応槽から発生することが分かり、また、この硫化水素によって二酸化炭素濃度センサが悪影響を受けることも分かった。3ヶ月程度の連続運転、連続測定を行った場合に、二酸化炭素濃度センサが測定不能になったり、あるいは大きな測定誤差を示すようになったりした。これに対し、同様に硫化水素が発生する条件であっても脱硫フィルターにより硫化水素を除去してから二酸化炭素濃度を測定する実施例1では、長期にわたって連続運転、連続測定を行った場合であっても二酸化炭素濃度の測定値が安定した。したがって、脱硫フィルターを設けることにより、二酸化炭素濃度に基づいて栄養物質を添加する制御を長期にわたって最適化できることが分かった。
【0042】
[参考例2~7]
少なくとも二酸化炭素濃度を用いることにより、好気性生物処理の制御を行なうことができることについて検討した。まず、参考例2~7について共通の試験条件について説明する。容積が19Lである
図2に示す一段の反応槽を使用し、有機性排水である原水の好気処理による生物処理を行った。好気性微生物を疎水性ポリウレタン樹脂からなるスポンジ担体に担持し、このようなスポンジ担体を、反応槽の容積に対して嵩体積として20%で反応槽に充填した。反応槽における滞留時間を18時間とした。原水として、イソプロピルアルコール含有排水を使用した。原水におけるBOD濃度は約900mg/L(基準濃度とする)であり、原水中の窒素(N)濃度は2mg/L以下であり、リン(P)濃度は0.1mg以下であった。生物処理を行うときのBOD容積負荷は約1kg/m
3/日であり、水温は約20℃であり、反応槽内の水の溶存酸素濃度(DO)は2mg/L以上であり、反応槽内の水のpHは6.0~7.5であった。散気のために反応槽に対し、3~5L/分の流量で空気を供給した。
【0043】
BOD:N:Pが100:5:1となるように原水に対して栄養塩(窒素(N)及びリン(P))を十分に添加し、反応槽内の水から放出される二酸化炭素の濃度と、反応槽内の水のpHをモニタリングした。このようなモニタリングを、原水におけるBOD濃度を意図的に基準濃度の100%から30%と60%に変化させながら繰り返し実行した。なお、原水のBOD濃度を高い精度で算出できるということは、栄養塩添加制御の精度が高いことと同じ意味を有する。
【0044】
(参考例2)
二酸化炭素濃度から原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度と各BOD濃度とについて単回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.39であった。
【0045】
(参考例3)
二酸化炭素濃度と風量とから原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度と風量と各BOD濃度とについて重回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.82であった。
【0046】
(参考例4)
二酸化炭素濃度と風量とから原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値との乗算値を求め、この乗算値と各BOD濃度とについて単回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.83であった。
【0047】
(参考例5)
二酸化炭素濃度とpHとから原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度とpHと各BOD濃度とについて重回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.40であった。
【0048】
(参考例6)
二酸化炭素濃度と風量とpHから原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度、風量及びpHと各BOD濃度とについて重回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.89であった。
【0049】
(参考例7)
二酸化炭素濃度と風量とpHから原水のBOD濃度を算出することとして、二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値との乗算値を求め、この乗算値とpHと各BOD濃度とについて重回帰分析によって決定係数R2を算出したところ、0.96であった。