(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182384
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】保護シート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231219BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20231219BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20231219BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231219BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231219BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20231219BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/78 M
H01L21/78 Q
C09J7/40
C09J7/38
C09J201/00
B32B7/06
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095956
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慧
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
4F100AK21A
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(57)【要約】
【課題】 水を含む液体と接触させることによって保護対象物である基板の表面から比較的簡便に除去される保護層を備え、しかもバックグラインド工程における基板の研削加工のためにも使用できる保護シートを提供することを課題としている。
【解決手段】 保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層と、
前記保護層の一方の面と対向するように配置された基材層と、
前記保護層及び前記基材層の間に配置され、且つ前記保護層及び前記基材層に対して両側の各面でそれぞれ剥離可能に粘着している粘着層と、
前記保護層の他方の面に重なるはく離ライナーと、を備え、
前記保護層は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む、保護シートなどを提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層と、
前記保護層の一方の面と対向するように配置された基材層と、
前記保護層及び前記基材層の間に配置され、且つ前記保護層及び前記基材層に対して両側の各面でそれぞれ剥離可能に粘着している粘着層と、
前記保護層の他方の面に重なるはく離ライナーと、を備え、
前記保護層は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む、保護シート。
【請求項2】
前記保護層は、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によって酸又は塩基を生じる化合物をさらに含む、請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記粘着層は、硬化処理によって架橋反応する架橋性高分子化合物を含む、請求項1又は2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記親水性ポリマーの前記親水基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ピロリドン基、及びポリオキシエチレン基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体集積回路などの電子部品装置を製造するために使用される保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造において、例えば保護対象物の表面の少なくとも一部を保護するために使用される保護シートが知られている。この種の保護シートの保護対象物は、例えば、半導体ウエハなどの基板である。この種の保護シートは、半導体装置の製造工程中に、基板の表面の少なくとも一部に貼り付けられて使用される。
【0003】
一般的に、半導体装置を製造する方法は、高集積の電子回路によって円板状のベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。後工程では、基材シート及び粘着剤シートを有するダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシートとを使用する他、例えば、上記保護シートを使用する。
【0004】
詳しくは、後工程は、円板状の半導体ウエハの回路面にバックグラインドテープを重ね合わせ、半導体ウエハとバックグラインドテープとが積層された状態で、半導体ウエハが所定の厚さになるまで半導体ウエハにおける回路構成要素が配置されていない面に対して研削加工を施すバックグラインド工程と、
研削加工が施された半導体ウエハの面(回路構成要素が配置されていない面)をダイシングテープ上のダイボンドシートに重ね合わせて、ダイボンドシートを介して半導体ウエハをダイシングテープに固定するマウント工程と、
半導体ウエハを小片化することによって多数の半導体チップ(ダイ)を得るダイシング工程と、
半導体ウエハの放射方向にダイシングテープを引き伸ばして、隣り合う半導体チップ(ダイ)の間隔を広げるエキスパンド工程と、
ダイボンドシートとダイシングテープとの間で剥離してダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップを取り出すピックアップ工程と、
ダイボンドシートが貼り付いた状態の半導体チップをダイボンドシートを介して被着体に接着させるダイボンド工程と、
被着体に接着したダイボンドシートを熱硬化処理するキュアリング工程と、を有する。半導体装置は、例えばこれらの工程を経て製造される。
【0005】
上述した保護シートとしては、例えば、上記の後工程においてバックグラインド工程又はダイシング工程などにおいて半導体ウエハを仮固定する仮固定シートの用途で使用され、その後、水によって除去されるものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1に記載の保護シートは、けん化度が55mol%以下のオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有する樹脂組成物を有し、必要に応じて樹脂組成物の片面又は両面に剥離材をさらに有し得る。特許文献1に記載の保護シートの樹脂組成物は、水溶性を有することから、半導体ウエハなどの基板の表面の一部を保護した後に、比較的低温の水によって容易に除去され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載の樹脂組成物で形成された保護層と剥離材とを備えたテープを基板に貼り付けて、例えばバックグラインド工程におけるバックグラインドテープの代わりに使用すると、研削加工時に加わる力によって、例えば剥離材と保護層との間で剥離するおそれがある。一方、上記のごとき剥離を抑制するためには、例えば、基板に貼り付けられた上記保護層に対して、別途バックグラインドテープを重ね合わせた状態で研削加工を実施する必要がある。
このように、特許文献1に記載された保護シートの樹脂組成物で形成された保護層は、比較的低温の水によって、保護対象物である基板の表面から除去され得るものの、バックグラインド工程の研削加工時にバックグラインドテープの用途で使用することが困難である。
【0009】
これに対して、水を含む液体と接触させることによって比較的簡便に除去される保護層を備えるだけでなく、バックグラインド工程の研削加工のためにも使用できる保護シートについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0010】
そこで、本発明は、水を含む液体と接触させることによって保護対象物である基板の表面から比較的簡便に除去される保護層を備え、しかもバックグラインド工程における基板の研削加工のためにも使用できる保護シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に係る保護シートは、
保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層と、
前記保護層の一方の面と対向するように配置された基材層と、
前記保護層及び前記基材層の間に配置され、且つ前記保護層及び前記基材層に対して両側の各面でそれぞれ剥離可能に粘着している粘着層と、
前記保護層の他方の面に重なるはく離ライナーと、を備え、
前記保護層は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る保護シートは、水を含む液体と接触させることによって保護対象物である基板の表面から比較的簡便に除去される保護層を備え、しかもバックグラインド工程における基板の研削加工のためにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施形態の保護シートの一例を厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図1B】本実施形態の保護シートの他の例を厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図2A】本実施形態の保護シートのはく離ライナーを取り除いた状態の一例を表した模式断面図。
【
図2B】電子部品装置の製造方法における湿潤工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2C】電子部品装置の製造方法における保護工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2D】電子部品装置の製造方法における保護工程後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2E】電子部品装置の製造方法における基板への研削加工の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2F】電子部品装置の製造方法における基板への研削加工後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2G】電子部品装置の製造方法における粘着層への硬化処理の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2H】電子部品装置の製造方法における剥離工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2I】電子部品装置の製造方法における剥離工程後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2J】電子部品装置の製造方法における保護層への親水化処理の様子の一例を表す模式断面図。
【
図2K】電子部品装置の製造方法における除去工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3A】半導体装置の製造方法における保護工程後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3B】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへの研削加工の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3C】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへの研削加工後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3D】半導体装置の製造方法におけるマウント工程後の様子の一例を表す断面図。
【
図3E】半導体装置の製造方法における粘着層への硬化処理の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3F】半導体装置の製造方法における粘着層への硬化処理の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図3G】半導体装置の製造方法における剥離工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3H】半導体装置の製造方法における剥離工程後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3I】半導体装置の製造方法におけるブレードダイシング加工工程の途中の様子の一例を表す断面図。
【
図3J】半導体装置の製造方法における保護層への親水化処理の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3K】半導体装置の製造方法における除去工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3L】半導体装置の製造方法におけるピックアップ工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図3M】半導体装置の製造方法における接合工程後の様子の一例を表す模式断面図。
【
図4A】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへのハーフカット加工工程の様子を表す模式断面図。
【
図4B】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへのハーフカット加工工程後の様子を表す模式断面図。
【
図4C】半導体装置の製造方法における保護工程後の様子を表す模式断面図。
【
図4D】半導体装置の製造方法における保護工程後の様子を表す模式断面図。
【
図4E】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへの研削加工の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4F】半導体装置の製造方法における半導体ウエハへの研削加工後の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4G】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4H】半導体装置の製造方法におけるマウント工程後の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4I】半導体装置の製造方法における剥離工程後の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4J】半導体装置の製造方法におけるエキスパンド工程の様子の一例を表す模式断面図。
【
図4K】半導体装置の製造方法における保護層への親水化処理の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図4L】半導体装置の製造方法における除去工程の様子の他の例を表す模式断面図。
【
図5A】ダイシングテープの一例を厚さ方向に切断した断面図。
【
図5B】ダイシングダイボンドフィルムの一例を厚さ方向に切断した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る保護シートの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面における各図は模式図であり、実物における縦横の長さ比と必ずしも同じではない。他の図面についても同様である。
【0015】
本実施形態の保護シート1は、
図1Aに示すように、
保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層と、
前記保護層の一方の面と対向するように配置された基材層と、
前記保護層及び前記基材層の間に配置され、且つ前記保護層及び前記基材層に対して両側の各面でそれぞれ剥離可能に粘着している粘着層と、
前記保護層の他方の面に重なるはく離ライナーと、を備え、
前記保護層は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む。
【0016】
より詳しくは、本実施形態の保護シート1は、
互いに対向するはく離ライナー17及び基材層15と、
前記はく離ライナー17及び前記基材層15の間で前記はく離ライナー17と接し且つ保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層11と、
前記はく離ライナー17及び前記基材層15の間で前記基材層15と接し且つ前記保護層11に対して剥離可能に粘着している粘着層13と、を備え、
前記基材層15と前記粘着層13との間の剥離力は、前記はく離ライナー17と前記保護層11との間の剥離力よりも大きく、
前記保護層11は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む。
【0017】
上記構成からなる保護シート1によれば、保護層11に重なるはく離ライナー17をはく離して、保護層11を基板の被保護面に重なり合わせることができる。これにより、被保護面を保護層11で覆って保護層11を保護することができる。また、基板として、半導体ウエハなどを採用し、保護層11と重なる基板の面とは反対側の面をバックグラインド加工により切削することができる。詳しくは、基材層15と粘着層13と保護層11との積層物を、いわゆるバックグラインドテープの代わりに使用し、保護層11で覆った基板の面とは反対側の基板の面をバックグラインド加工できる。換言すると、別途バックグラインドテープを使用しなくても、バックグラインド加工を実施できる。そして、バックグラインド加工時に外力が加わっても、粘着層13は、その粘着力によって基材層15及び保護層11と粘着した状態を保持できる。また、保護層11は、親水性ポリマーの親水基によって基板と良好に粘着し、基板と粘着した状態を保持できる。
その後、水を含む液体と保護層11とを接触させることによって、保護層11の少なくとも一部を溶解させることができる。これにより、基板などの保護対象物の被保護面を保護した後に、水を含む液体によって保護層11を比較的簡便に除去できる。よって、被保護面から保護層11を除去するために、保護層11に貼り付けて使用する剥離用テープを用いなくても、保護層11を除去できる。そのため、意図せず保護層11の一部が被保護面に残存してしまう現象(糊残り)を抑制できる。また、保護層11中の親水性ポリマーが親水基を有することから、被保護面付近で仮に帯電現象が起こっても、帯電による悪影響を抑制できる。
【0018】
本実施形態の保護シート1は、上記のように、はく離ライナー17と保護層11と粘着層13と基材層15とをこの順で積層した状態で備える。はく離ライナー17及び基材層15の間で、保護層11及び粘着層13の積層物を挟み込むように、各層が配置されている。
本実施形態の保護シート1において、保護層11は、粘着層13よりもはく離ライナー17により近い位置に配置されている。粘着層13は、保護層11よりも基材層15により近い位置に配置されている。はく離ライナー17と保護層11との間の剥離力は、基材層15と粘着層13との間の剥離力よりも小さい。本実施形態の保護シート1において、保護層11の表面から粘着層13を剥離除去するときに、基材層15と粘着層13との間の剥離力は、比較的強く、例えば、上記の保護層11と粘着層13との間の剥離力よりも大きい。また、例えば、粘着層13への硬化処理(後述)の前において、粘着層13自体が有する粘着力は、保護層11自体が有する粘着力よりも高くてもよい。
【0019】
[保護シートの基材層]
基材層15における粘着層13に接する面は、プライマー処理されていてもよい。基材層15は、樹脂フィルムであってもよい。樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム、又は、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0020】
[保護シートのはく離ライナー]
はく離ライナー17における保護層11に接する面は、離型処理されていてもよい。はく離ライナー17は、樹脂フィルムであってもよい。樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム、又は、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0021】
[保護シートの保護層]
保護層11は、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む。除去されるときの保護層11は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して基板の表面から除去されるように構成されている。
保護層11は、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によって酸又は塩基を生じる化合物(以下、イオン発生化合物とも称する)をさらに含んでもよい。保護層11がイオン発生化合物を含むことによって、加熱処理又は活性エネルギー線の照射処理の少なくとも一方(以下、親水化処理とも称する)が保護層11の親水性を高めることから、水を含む液体に対して、保護層11がより溶解しやすくなる。イオン発生化合物については、後に詳しく説明する。
【0022】
保護層11は、例えば、基板の保護される面(以下、被保護面とも称する)を一時的に保護するために使用される。保護層11を被保護面に重ねることによって、被保護面に重なった保護層11を除去するまで、被保護面に異物が付着することなどを防止できる。
【0023】
基板としては、例えば、半導体装置などの電子部品装置を構成する基板などが挙げられる。基板としては、例えば、半導体ウエハなどの回路基板、又は、疑似ウエハ等が挙げられる。
【0024】
保護層11は、例えば、半導体ウエハの厚さを薄くすべく半導体ウエハに研削加工を施すバックグラインド工程のときに、いわゆるバックグラインドテープの粘着部分のように作用して、半導体ウエハの被保護面(回路面)に粘着できる。
また、保護層11は、例えば、基板(半導体ウエハ)の被保護面(回路面)に貼り付けられた状態で基板(半導体ウエハ)と共に小片化され得る。このとき、小片化に伴って生じ得る破片などの異物が、被保護面(回路面)に付着することを防止できることから、半導体ウエハの被保護面(回路面)を保護できる。
【0025】
上記の保護層11は、面方向に引き伸ばされることによって、小片化されやすい物性を有してもよい。斯かる物性を有する保護層11は、後に述べるステルスダイシング装置を用いるステルス加工工程を経て電子部品装置を製造する場合に好適に使用される。同様に、DBGプロセス(後に詳述)を経て電子部品装置を製造する場合に好適に使用される。
なお、上記の保護層11は、ブレードダイシング加工工程(後に詳述)を経て電子部品装置を製造する場合にも好適に使用され得ることから、上記のごとき小片化されやすい物性を有さなくてもよい。
【0026】
上記の保護シート1において、保護層11の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。また、斯かる厚さは、40μm以下であってもよい。なお、保護層11が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0027】
上記の保護層11は、基板の被保護面に密着できる密着性を有する。上記保護層11の基板に対する密着性は、例えば基板としてのシリコンベアウエハから上記保護層11を剥離するときの剥離力によって示される。上記保護層11の25℃における剥離力は、10.0[N/10mm]以下であってもよく、8.0N/10mm]以下であってもよい。なお、上記の剥離力は、0.01[N/10mm]以上であってもよい。なお、上記の剥離力の数値は、加熱処理及び活性エネルギー線の照射処理のうち少なくとも一方(上記の親水化処理)を保護層11に施す前における値である。
【0028】
上記の剥離力は、以下の測定条件で測定される。
まず、上記保護層11における一方の面(シリコンベアウエハに貼り付けられる側の面)の剥離力を測定するために、以下のようにして測定用サンプルを作製する。具体的には、25℃において保護層11の上記一方の面とは反対側の面に、ハンドローラーを用いて裏打ちテープを貼り付ける。次に、10mm幅となるように測定用サンプルを加工し、保護層11における上記一方の面にベアウエハを貼り合わせる。貼り合わせは、90℃、10mm/秒の条件で実施する。そして、23℃の雰囲気下において、180°の剥離角度且つ300mm/minの剥離速度で、裏打ちテープとともに保護層11をベアウエハから剥離して剥離力を測定する。なお、測定装置として、例えば「オートグラフ(SHIMADZU社製)」を使用できる。
【0029】
本実施形態において、保護層11に含まれる上記親水性ポリマーの親水基は、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ピロリドン基、及びポリオキシエチレン基からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
上記の親水性ポリマーが、上記の親水基(特にヒドロキシ基)を分子中に有することにより、保護層11は、基板の被保護面に対してより十分に密着できる。
【0030】
例えば、保護層11は、主鎖と複数の側鎖とを分子中に有する親水性ポリマーを上記の親水性ポリマーとして含み、複数の側鎖のそれぞれは、エステル基又は親水基のいずれか一方を少なくとも有し、親水基がヒドロキシ基又はカルボキシ基であってもよい。
【0031】
上記の親水性ポリマーの主鎖は、例えばラジカル重合反応によって生じた共有結合鎖である。例えば、主鎖は、ビニルアセテート(酢酸ビニル)、アルキル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸アルキルエステル)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル)、(メタ)アクリル酸、又は、N-ビニルピロリドンなどが重合反応することによって生じた共有結合鎖である。
【0032】
上記の親水性ポリマーにおける複数の側鎖のそれぞれは、親水基及びエステル基のうち少なくとも一方を含んでもよい。例えば、上記の親水性ポリマーに含まれる多数の側鎖のうち、一部の側鎖が親水基を有し、他の一部がエステル基を有する。親水基は、例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方である。エステル基は、-C(=O)-O-で表される。側鎖は、主鎖から側鎖の末端へ向かって、-C(=O)-O-というエステル基の原子配列を有してもよく、-O-(C=O)-というエステル基の原子配列を有してもよい。
【0033】
親水基を含む各側鎖において、親水基が、側鎖の末端部分に配されていてもよく、側鎖の中央部分に配されていてもよい。側鎖における親水基は、側鎖の末端部分に配されていることが好ましい。なお、側鎖の末端部分に配された親水基は、エステル基を介して主鎖と結合していてもよい。例えば、主鎖から側鎖の末端へ向けて、エステル基、アルキル基、親水基の順で各基が配置されていてもよい。
【0034】
エステル基を含む側鎖において、エステル基は、側鎖の中央部分に配置されていることが好ましい。好ましくは、側鎖において、炭素数1以上4以下のアルキル基がエステル基を介して主鎖と結合している。
【0035】
上記の親水性ポリマーとしては、例えば、ビニルアセテートの重合体におけるエステル結合の一部を加水分解して得られるポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スルホン酸基若しくはカルボキシ基を分子中に有する水溶性ポリエステルポリマー(PES)、又は、ポリエチレンオキシド(PEO)(例えば分子量5万以上)などが挙げられる。
【0036】
上記の親水性ポリマーは、例えば水溶性であってもよい。具体的には、上記の親水性ポリマーの薄膜(厚さ50μm以下)を40℃の水に浸漬するとすべて溶解するような水溶性を上記の親水性ポリマーが有してもよい。なお、上記の親水性ポリマーは、必ずしも水溶性である必要はないが、親水化処理(後に詳述)が施された後の保護層11は、上記のごとき薄膜が40℃の水ですべて溶解するような水溶性を有することが好ましい。
【0037】
上記の親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステルポリマー、及び、ポリエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0038】
上記の親水性ポリマーがポリビニルアルコール(PVA)である場合、上記の保護層11に親水化処理(後に詳述)を施す前において、ポリビニルアルコールのけん化度(モル%)は、20以上100以下であってもよい。
ポリビニルアルコールのけん化度(モル%)は、25以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度がより大きくなることによって、上記の保護層11が、親水化処理の後において、より高い親水性を有することとなる。従って、水を含む液体によって保護層11をより簡便に除去できる。
一方、基板に対する密着力をより向上できるという点で、ポリビニルアルコールのけん化度は、80以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましい。
【0039】
<けん化度の測定方法、測定条件>
上記のけん化度は、以下の分析条件で実施するプロトン磁気共鳴分光法(1H MNR)によって測定される。
なお、保護層11がPVA以外の成分を含む場合、測定チャートにおけるピークの重なりを避けるため、メタノール抽出等によってPVAの分離抽出処理を行った後、測定を実施する。
分析装置:FT-NMR
(例えばBrukerBiospin社製、「AVANCEIII-400」)
観測周波数:400MHz(1H)
測定溶媒:重水、または、重ジメチルスルホキシド(重DMSO)
測定温度:80℃
化学シフト基準:外部標準TSP-d4(0.00ppm)(重水測定時)
:測定溶媒(2.50ppm)(重DMSO測定時)
【0040】
<けん化度の算出>
ビニルアルコールユニット(VOH)のメチレン基由来ピーク(重水;2.0~1.1ppm、重DMSO;1.9~1.0ppm)と、酢酸ビニルユニット(VAc)のアセチル基由来ピーク(重水;2.1ppm付近、重DMSO;2.0ppm付近)とに基づいて、下記の算出式によってけん化度を算出する。なお、下記の算出式において、VOH(-CH
2-)は、ビニルアルコールユニット(VOH)のメチレン基由来ピークの強度であり、VAc(CH
3CO-)は、酢酸ビニルユニット(VAc)のアセチル基由来ピークの強度である。
【数1】
【0041】
上記のポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上である。また、上記平均重合度は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは800以下である。
ポリビニルアルコールの平均重合度が100以上であることによって、上記の保護層11をより形成しやすくなる。一方、ポリビニルアルコールの平均重合度が1000以下であることによって、ポリビニルアルコールの親水性がより高まり、水を含む液体に、上記の保護層11がより溶解しやすくなる。
【0042】
上記の平均重合度は、以下の測定方法及び測定条件によって求められる。
<平均重合度の測定方法、測定条件>
・分析装置:ゲル浸透クロマトグラフィー分析装置
(例えば、Agilent社製 装置名「1260Infinity」)
・カラム:TSKgel G6000PWXL及びTSKgel G3000PWXL(東ソー社製 直列接続)
・カラム温度:40℃
・溶離液:0.2Mの硝酸ナトリウム水溶液
・流速:0.8mL/min
・注入量:100μL
・検出器:示差屈折率計(RI)
・標準試料:PEG標準試料及びPVA標準試料
PEG標準試料を用いたGPC測定によって、被測定試料(PVA)、及び、平均重合度が既知のPVA標準試料の質量平均分子量Mwをそれぞれ算出する。PVA標準試料の平均重合度と、算出したPVA標準試料の質量平均分子量Mwとから検量線を作成する。この検量線を用いて、被測定試料(PVA)の質量平均分子量Mwから被測定試料(PVA)の平均重合度を求める。
【0043】
上記の水溶性ポリエステルポリマー(PES)は、例えば、少なくとも多価カルボン酸とポリオールとのエステル化反応生成物である。上記の水溶性ポリエステルポリマーは、アニオン親水基、カチオン親水基、又はノニオン親水基の少なくともいずれかを分子中にさらに有する。アニオン親水基としては、例えば、スルホン酸基(塩状態を含む)、カルボキシ基(塩状態を含む)などが挙げられる。カチオン基としては、例えば、アミン含有基が挙げられる。ノニオン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基が挙げられる。
【0044】
上記の水溶性ポリエステルポリマー(PES)の質量平均分子量Mwは、40,000(4万)以下であることが好ましい。質量平均分子量Mwが40,000以下であることにより、上記の水溶性ポリエステルポリマーは、十分に低い軟化点を有することができる。これにより、低温における保護層11の基板(半導体ウェハなど)に対する密着性がより良好になり得る。また、水を含む液体によって、基板の表面から保護層11をより簡便に除去できる。
【0045】
上記のポリエチレンオキシド(PEO)の質量平均分子量Mwは、1,000,000(100万)以下であることが好ましい。質量平均分子量Mwが1,000,000以下であることにより、上記のポリエチレンオキシド(PEO)は、十分に低い軟化点を有することができる。これにより、低温における保護層11の基板(半導体ウェハなど)に対する密着性がより良好になり得る。また、水を含む液体によって、基板の表面から保護層11をより短時間で効率良く除去できる。
【0046】
上述したように、保護層11は、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方(親水化処理)によって酸又は塩基を生じる上記のイオン発生化合物をさらに含んでもよい。
保護層11に対して、上記の親水化処理を施すことによって、上記のイオン発生化合物から酸又は塩基が発生する。これにより、保護層11の親水性が高まる。親水性が高まった保護層11の少なくとも一部は、水を含む液体と接触させることによって、液体に対してより容易に溶解し得る。よって、親水性が高まった保護層11の全部又は一部が、水を含む液体により溶解しやすくなり、被保護面から保護層11がより容易に離脱する。
このように、上記のイオン発生化合物を含む保護層11は、基板の被保護面を保護できるだけでなく、上記の親水化処理によって親水性が高まる物性を有し得ることから、被保護面を保護した後に、水を含む液体によって、被保護面からより簡便に除去される。
なお、加熱処理又は活性エネルギー線の照射処理といった親水化処理については、後に詳述する。
【0047】
本実施形態において、上記のイオン発生化合物は、例えば、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によって酸を生じる酸発生剤、又は、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によって塩基を生じる塩基発生剤である。上記のイオン発生化合物としては、例えば、光酸発生剤、光塩基発生剤、熱酸発生剤、又は、熱塩基発生剤が挙げられる。
【0048】
上記の保護層11は、水を含む液体によって除去されるときに、所定以上の親水性であればよい。例えば、上記のイオン発生化合物を含む保護層11は、上記のごとき親水化処理の後に所定以上の親水性を有していればよい。従って、上記親水化処理の前においては、上記の保護層11は、所定未満の親水性を有していてもよく、所定以上の親水性を有していてもよい。上記の保護層11が所定以上の親水性を有すると、通常、上記の保護層11の少なくとも一部は、水を含む液体に溶解する。
【0049】
保護層11の吸水率は、水を含む液体によって除去されるときに、2.0質量%以上であることが好ましい。これにより、保護層11が、水を含む液体にさらに溶解しやすくなる。上記吸水率は、例えば、親水性ポリマー中の親水基の含有割合を高めること、又は、保護層11におけるイオン発生化合物の含有量を増やすことによって、高めることができる。保護層11の吸水率は、例えば10.0質量%以下であってもよい。
【0050】
なお、保護層11が上記のイオン発生化合物を含む場合、上記の親水化処理を受ける前の保護層11の吸水率は、2.0質量%未満であってもよい。これにより、保護層11を除去する除去工程(後に詳述)よりも前に、保護層11が水に接触したとしても、意図せず保護層11が除去されることを抑制できる。従って、保護層11に対して上記の親水化処理が施される前までは、被保護面に十分に密着でき、しかも、上記の親水化処理後には、上述のように保護層11が被保護面から比較的簡便に除去される。
一方、上記の親水化処理を受ける前の保護層11の吸水率は、0.1質量%以上であってもよい。これにより、上記の親水化処理を受けた保護層11は、より高い親水性を有することができる。
【0051】
上記の保護層11の吸水率は、カールフィッシャー法の電量滴定法を用いた測定値から求められる。必要に応じて、上記の親水化処理を受けた後の保護層11を用いても吸水率の測定を行う。具体的には、温度23℃、湿度50RH%の環境下で定常状態となった試験サンプルを、水分気化装置によって150℃で3分間加熱しつつ、気化された水分について測定を行う。上記加熱後の試験サンプルの質量に対する、測定された水分量の割合から、上記吸水率を求める。
【0052】
上記のイオン発生化合物は、光酸発生剤若しくは熱酸発生剤などの酸発生剤、又は、光塩基発生剤若しくは熱塩基発生剤などの塩基発生剤であることが好ましい。なお、一化合物が、光酸発生剤及び熱酸発生剤の両方の機能を有する場合がある。換言すると、例えば、特定の酸発生剤が、加熱処理及び活性エネルギー線の照射処理のいずれでも酸を発生する場合がある。塩基発生剤も同様である。
上記のイオン発生化合物が光酸発生剤、光塩基発生剤、熱酸発生剤、又は、熱塩基発生剤であることにより、上記の保護層11では、加熱処理、又は、紫外線照射などの活性エネルギー線の照射処理によって、酸又は塩基がより十分に発生する。そのため、上記保護層11の親水性がより高められる。従って、水を含む液体によって、上記保護層11が被保護面からより簡便に除去される。
【0053】
酸発生剤としての光酸発生剤は、例えばカチオン重合のために一般的に用いられる光カチオン重合開始剤であり、酸発生剤としての熱酸発生剤は、例えばカチオン重合のために一般的に用いられる熱カチオン重合開始剤である。
塩基発生剤としての光塩基発生剤は、例えばアニオン重合のために一般的に用いられる光アニオン重合開始剤であり、塩基発生剤としての熱塩基発生剤は、例えばアニオン重合のために一般的に用いられる熱アニオン重合開始剤である。
上記の光酸発生剤、熱酸発生剤、光塩基発生剤、又は熱塩基発生剤としては、それぞれ市販されている製品を採用できる。
【0054】
光酸発生剤としては、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、又は、ジスルホニルジアゾメタン化合物等が挙げられる。
【0055】
一般的に使用されるオニウム塩化合物としては、例えば、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、オキシムスルホネート化合物、ジアゾニウム塩化合物等のオニウム塩化合物などが挙げられる。
【0056】
ヨードニウム塩化合物としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフエート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセナート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムパーフルオロノルマルオクタンスルホネート、ベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムカンファースルホネート、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムカンファースルホネート、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(4-フルオロフェニル)ヨードニウムトリフラート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。
スルホニウム塩化合物としては、例えば、ジフェニル[4-(フェニルスルファニル)フェニル]スルホニウム=トリフルオロトリス(ペンタフルオロエチル)-λ5-ホスファヌイド、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロノルマルブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホネート、4,7-ジ-n-ブトキシ-1-ナフチルテトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムアダマンタンカルボキシレートトリフルオロエタンスルホン酸塩、トリフェニルスルホニウムp-トルエンスルホン酸塩、トリフェニルスルホニウムメタンスルホン酸塩、トリフェニルスルホニウムフェノールスルホン酸塩、トリフェニルスルホニウム硝酸塩、トリフェニルスルホニウムマレイン酸塩、ビス(トリフェニルスルホニウム)マレイン酸塩、トリフェニルスルホニウム塩酸塩、トリフェニルスルホニウム酢酸塩、トリフェニルスルホニウムトリフルオロ酢酸塩、トリフェニルスルホニウムサリチル酸塩、トリフェニルスルホニウム安息香酸塩、トリフェニルスルホニウム水酸化物等が挙げられる。
オキシムスルホネート化合物としては、例えば、(5-プロピルスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-オクチルスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(カンファースルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-p-トルエンスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-オクチルスルフォニルオキシイミノ)-(4-メトキシフェニル)アセトニトリル等が挙げられる。
ジアゾニウム塩化合物としては、例えば、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボラート等が挙げられる。
オニウム塩化合物の市販製品の例としては、例えば、オプトマーSP-150、オプトマーSP-170、オプトマーSP-171(いずれもADEKA社製)、UVE-1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、OMNICAT250、OMNICAT270(いずれもIGMResin社製)、IRGACURE290(BASF社製)、サンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L(いずれも三新化学工業社製)、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K(いずれもサンアプロ社製)等が挙げられる。
【0057】
光酸発生剤としてのスルホンイミド化合物としては、例えばN-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(ノナフルオロノルマルブタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(カンファースルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ナフタルイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-フルオロフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド等が挙げられる。
【0058】
光酸発生剤としてのジスルホニルジアゾメタン化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4-ジメチルベンゼンスルホニル)ジアゾメタン、及びメチルスルホニル-p-トルエンスルホニルジアゾメタン等が挙げられる。
【0059】
その他、光酸発生剤としては、例えば、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-[2-(フラン-2-イル)ビニル]-1,3,5-トリアジンなどが挙げられる。
【0060】
熱酸発生剤としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリアリールスルホキソニウム塩、ピリジニウム塩、キノリニウム塩、イソキノリニウム塩、スルホン酸エステル類、鉄アレーン錯体などが挙げられる。
【0061】
光塩基発生剤としては、例えば、4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン、(4-モルホリノベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、N-(2-ニトロベンジルオキシカルボニル)ピロリジン、1-(アントラキノン-2-イル)エチルイミダゾールカルボキシレート等の複素環基含有感放射線性塩基発生剤などが挙げられる。その他、2-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、[[(2,6-ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、ビス[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサン-1,6-ジアミン、トリフェニルメタノール、o-カルバモイルヒドロキシルアミド、o-カルバモイルオキシム、ヘキサアンミンコバルト(III)トリス(トリフェニルメチルボレート)、1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニジウムn-ブチルトリフェニルボラート、アセトフェノンO-ベンゾイルオキシム、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンなどが挙げられる。
【0062】
熱塩基発生剤としては、例えば、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エチルカルバメート、1,1-ジメチル-2-シアノエチルカルバメート、ベンゾイルシクロヘキシルカルバメートなどのカルバメート誘導体、尿素若しくはN,N-ジメチル-N’-メチル尿素などの尿素誘導体、1,4-ジヒドロニコチンアミドなどのジヒドロピリジン誘導体、有機シラン若しくは有機ボランの四級化アンモニウム塩などが挙げられる。
【0063】
上記の保護層11において、上記の親水性ポリマー100質量部に対する、上記イオン発生化合物の量は、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。これにより、保護層11は、上記の親水化処理が施された後に、より高い親水性を有することができる。
なお、上記の親水性ポリマー100質量部に対する、上記イオン発生化合物の量は、10質量部以下であってもよく、8質量部以下であってもよい。
【0064】
本実施形態の保護層11は、上述した配合成分の他に、例えば溶媒、界面活性剤などをさらに含んでもよい。溶媒としては、水又は有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、比較的揮発しやすい有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えばエタノール又はメタノールなどが挙げられる。
【0065】
[保護シートの粘着層]
粘着層13は、5μm以上40μm以下の厚さを有してもよい。粘着層13の形状および大きさは、通常、保護層11の形状および大きさと同じである。
【0066】
上記の粘着層13は、比較的大きい粘着力を有する。上記の粘着層13の粘着力は、例えば保護層11の粘着力よりも大きい。粘着層13の粘着力は、上述したシリコンベアウエハから保護層11を剥離するときの剥離力の測定方法と同様の方法によって測定される。
また、本実施形態において、基材層15と粘着層13との間の剥離力は、粘着層13と保護層11との間の剥離力、保護層11とはく離ライナー17との間の剥離力のいずれよりも大きい。
【0067】
本実施形態において、粘着層13は、例えば高分子化合物を含む。粘着層13に含まれ得る高分子化合物は、硬化処理によって架橋反応することができる架橋性高分子化合物であってもよい。粘着層13が架橋性高分子化合物を含む場合、粘着層13に対して硬化処理を施すことによって、粘着層13が硬化する。粘着層13が硬化することによって粘着層13の粘着力が低下する。よって、粘着力が粘着層13と保護層11との間でより容易に剥離することができる。硬化処理の詳細については、後に説明する。
一方、粘着層13は、硬化しないように設計されていてもよい。例えば、上記の架橋性高分子化合物を含む粘着層13に対して硬化処理を十分に施すことによって、さらなる硬化反応が進行しない(硬化処理によって硬化しない)粘着層13を作製できる。また、例えば、後述するアルキル(メタ)アクリレート単位をモノマー単位として分子中に有する非架橋性アクリル共重合体のみで粘着層13を形成することによって、硬化しない粘着層13を作製できる。
【0068】
粘着層13に含まれ得る高分子化合物は、例えば、少なくとも、アルキル(メタ)アクリレート単位をモノマー単位として分子中に有するアクリル共重合体であってもよい。斯かるアクリル共重合体は、架橋性アクリル共重合体であってもよく、非架橋性アクリル共重合体であってもよい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)の両方を包含する。「(メタ)アクリル酸」という表記も同様に、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を包含する。
【0069】
上記のアクリル共重合体は、架橋性アクリル共重合体又は非架橋性アクリル共重合体のいずれの場合であっても、分子中にモノマー単位として、少なくともアルキル(メタ)アクリレート単位を有することが好ましい。モノマー単位は、アクリル共重合体の主鎖を構成する単位である。換言すると、モノマー単位は、アクリル共重合体を重合するために使用したモノマーに由来するものである。上記のアクリル共重合体における各側鎖は、主鎖を構成する各モノマー単位に含まれる。
【0070】
上記のアルキル(メタ)アクリレート単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレート単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分を表す。
【0071】
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)は、直鎖状炭化水素であってもよく、分岐鎖状炭化水素であってもよく、環状構造を含んでいてもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単位におけるアルキル部分(炭化水素)の炭素数は、2以上22以下であってもよい。
【0072】
上記のアクリル共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位としてアルキル部分の炭素数が6以上22以下(例えば6以上12以下)のアルキル(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましい。また、アルキル部分が飽和炭化水素である飽和アルキル(メタ)アクリレート単位を含むことがより好ましい。
【0073】
上記のアクリル共重合体では、分子中の全モノマー単位のうちアルキル(メタ)アクリレート単位の占める割合(モル換算)が最も高いことが好ましい。例えば、全モノマー単位のうちアルキル(メタ)アクリレート単位がモル換算で50%以上90以下%占めてもよい。
【0074】
飽和アルキル(メタ)アクリレート単位は、ベンゼン環、並びに、エーテル結合(-CH2-O-CH2-)、-OH基、及び-COOH基などの極性基のいずれも分子中に含まないことが好ましい。飽和アルキル(メタ)アクリレート単位において、アルキル部分は、C及びH以外の原子を含まず、6以上10以下の炭素原子で構成された飽和直鎖状炭化水素、又は、飽和分岐鎖状炭化水素であってもよい。
【0075】
上記のアクリル共重合体は、アルキル部分の炭素数が6以上10以下の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位を上記のアルキル(メタ)アクリレート単位として含むことが好ましい。
【0076】
上記の飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位のアルキル部分(炭化水素部分)の構造は、飽和分岐鎖状アルキル構造であればよく、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造であり得る。
具体的には、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート単位としては、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートの各単位などが挙げられる。これらのなかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位が好ましい。
【0077】
上記のアクリル共重合体は、上述したアルキル(メタ)アクリレート単位として、1種を単独で含んでもよく、又は、2種以上を含んでもよい。
【0078】
上記のアクリル共重合体が架橋性アクリル共重合体である場合、斯かる架橋性アクリル共重合体は、例えば、分子中に、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とを少なくともモノマー単位として有する。
また、粘着層13は、硬化処理によって硬化するように、例えば、上記の架橋性アクリル共重合体と、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含んでもよい。
【0079】
架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、例えば、ウレタン化反応によってウレタン結合を形成できるヒドロキシ基、又は、ラジカル反応によって重合できる重合性基を有してもよい。より具体的には、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位は、未反応のヒドロキシ基、又は、重合性基としてのラジカル重合性炭素-炭素二重結合のいずれか一方を有してもよい。換言すると、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位の一部は、未反応のヒドロキシ基を有し、他の一部(その他全て)は、ヒドロキシ基を有さずラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有してもよい。
架橋性アクリル共重合体は、例えば、アルキル(メタ)アクリレート単位100モル部に対して、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位を15モル部以上60モル部以下含み、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のうちの50モル%以上95モル%以下がラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有してもよい。
【0080】
上記の架橋性アクリル共重合体は、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、例えば、炭素数4以下のアルキル部分にヒドロキシ基が結合したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有してもよい。粘着層13がイソシアネート化合物を含む場合、イソシアネート化合物のイソシアネート基と、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位のヒドロキシ基とが、容易に反応できる。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位を有する架橋性アクリル共重合体と、イソシアネート化合物とを粘着層13に共存させておくことによって、粘着層13を適度に硬化させることができる。そのため、アクリル共重合体をゲル化できる。よって、粘着層13は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0081】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位は、炭素数2以上4以下のアルキル部分にOH基が結合した、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2以上4以下のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。以下、本明細書において同様である。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0082】
ヒドロキシ基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレート単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各単位が挙げられる。なお、ヒドロキシ基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0083】
上記の架橋性アクリル共重合体は、上述したように、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位として、例えば、側鎖にラジカル重合性炭素-炭素二重結合(重合性不飽和二重結合)を有する重合性(メタ)アクリレート単位を含んでもよい。
【0084】
重合性(メタ)アクリレート単位は、具体的には、上述したヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位におけるヒドロキシ基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有する。
【0085】
上記の架橋性アクリル共重合体が、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含むことによって、粘着層13を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。例えば、紫外線等の活性エネルギー線の照射(硬化処理)によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、架橋性アクリル共重合体を互いに架橋反応させることができる。これによって、粘着層13の粘着力を低下させることができる。よって、保護層11と粘着層13との間でより容易に剥離できる。
なお、硬化処理としては、上記の活性エネルギー線の照射を採用できる。活性エネルギー性としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0086】
重合性(メタ)アクリレート単位は、アクリル共重合体の重合反応の後に、ウレタン化反応によって調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとの共重合の後に、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単位の一部におけるヒドロキシ基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、重合性(メタ)アクリレート単位を得ることができる。
【0087】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0088】
本実施形態において、上記のアクリル共重合体は、上述したモノマー単位以外のモノマー単位を含んでもよい。例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-ビニル-2-ピロリドン、又は、アクリロニトリルなどの各単位を含んでもよい。
【0089】
粘着層13に含まれるアクリル共重合体において、上記の各単位(各構成単位)は、1H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリル共重合体における上記単位のモル割合は、通常、アクリル共重合体を重合するときの配合量(仕込量)から算出される。
【0090】
本実施形態において、粘着層13がさらに含み得るイソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着層13における架橋性アクリル共重合体間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基を架橋性アクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させ、他方のイソシアネート基を別の架橋性アクリル共重合体のヒドロキシ基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
なお、イソシアネート化合物は、ウレタン化反応などを経て合成された化合物であってもよい。
【0091】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0092】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0093】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
本実施形態において、粘着層13に含まれ得る重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着層13が重合開始剤を含むことによって、粘着層13に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、架橋性アクリル共重合体間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合を含有する重合性(メタ)アクリレート単位を有する架橋性アクリル共重合体間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着層13を硬化させることができる。これにより、粘着層13の粘着力を低下させ、硬化した粘着層13と保護層11との間で容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0095】
粘着層13は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0096】
本実施形態の保護シート1では、例えば
図1Bに示すように、粘着層13が多層構造を有してもよい。例えば、保護シート1は、基材層15により近い第1粘着層13Aと、保護層11により近い第2粘着層13Bとを粘着層として有してもよい。
この種の多層構造の粘着層において、第2粘着層13Bは、第1粘着層13Aよりも、活性エネルギー線の透過率が低い。第2粘着層13Bは、例えば、活性エネルギー線を散乱させる散乱剤を含んでもよく、活性エネルギー線を吸収する吸収剤を含んでもよい。活性エネルギー線として紫外線が採用される場合、第2粘着層13Bは、紫外線散乱剤を含んでもよく、紫外線吸収剤を含んでもよい。
この種の多層構造の粘着層を有する保護シート1を使用することにより、基材層15側から活性エネルギー線を粘着層へ向けて照射したときに、活性エネルギー線が保護層11へ届くことが、主に第2粘着層13Bによって抑制される。従って、活性エネルギー線によって粘着層に対して硬化処理を施すことになる一方で、保護層11に対しては親水化処理を施すことが抑制される。従って、保護層11がイオン発生化合物を含み且つ粘着層が上記の架橋性アクリル共重合体等を含む場合に、保護層11の親水化を抑制しつつ、粘着層の硬化を進行させることができる。
なお、第1粘着層13Aと第2粘着層13Bとを有する保護シート1の使用例は、後に詳しく説明する。
【0097】
上記の保護シート1は、一般的な方法によって製造できる。
例えば、保護層11は、上述した親水性ポリマー、必要に応じて上述した光酸発生剤などのイオン発生化合物、及び、溶媒などを一般的な方法によって混合し、混合物をはく離ライナー17に塗布した後、混合物から溶媒を揮発させることによって作製されてもよい。
一方、粘着層13は、例えば上述したアクリル共重合体、重合開始剤、及び、溶媒などを一般的な方法によって混合し、混合物を基材層15に塗布した後、混合物から溶媒を揮発させることによって作製されてもよい。なお、上述したアクリル共重合体は、例えば一般的なラジカル重合反応によって重合できる。
【0098】
上記の保護シート1は、使用されるときに、例えばはく離ライナー17を保護層11から剥離して、保護層11を基板の少なくとも一方の面(保護対象物の被保護面)に貼り付けて使用される。その後、例えば、保護層11と粘着層13との間で剥離して、粘着層13及び基材層15を取り除く。さらに、基板(保護対象物)に重ねられた保護層11の少なくとも一部が、水を含む液体によって溶解されて、被保護面から保護層11が除去される。
【0099】
上記の保護シート1の具体例として、例えば、以下の第1例乃至第4例の各例が挙げられる。
[第1例の保護シート]
保護層11が、上記のイオン発生化合物を含まず、粘着層13の含有成分が硬化処理によって架橋反応しない。粘着層13は、例えば上記の非架橋性高分子化合物を含む。
[第2例の保護シート]
保護層11が、上記のイオン発生化合物を含み、粘着層13の含有成分が硬化処理によって架橋反応しない。粘着層13は、例えば上記の非架橋性高分子化合物を含む。
[第3例の保護シート]
保護層11が、上記のイオン発生化合物を含まず、粘着層13が、上記の架橋性高分子化合物を含み且つ含有成分が硬化処理によって架橋反応する。
[第4例の保護シート]
保護層11が、上記のイオン発生化合物を含み、粘着層13が、上記の架橋性高分子化合物を含み且つ含有成分が硬化処理によって架橋反応する。
【0100】
続いて、本実施形態の保護シート1の使用方法について説明する。具体的には、上記の保護シート1を使用して、電子部品装置を製造する方法を例に挙げて説明する。斯かる例において、保護対象物である基板は、電子部品装置を構成する基板である。
【0101】
電子部品装置の製造方法によって製造される電子部品装置は、例えば、半導体チップを備える半導体集積回路などの半導体装置であってもよく、相補型MOS(CMOS)を有するシステムLSIを備える装置であってもよい。又は、機械要素部品、センサ、アクチュエータ、電子回路を1つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料基板などの上に微細加工技術によって集積化したデバイス(MEMS Micro Electro Mechanical Systems)などを備える装置であってもよい。製造される電子部品装置は、配線基板を備える装置であってもよい。
【0102】
例えば
図2B及び
図2Cに示すように、電子部品装置の製造方法において、基板Sの一方の面は、保護層11によって保護される。なお、被保護面Saには、回路構成要素(後に詳述)が配置されていてもよく、配置されていなくてもよい。換言すると、基板Sの被保護面Saは、例えば、回路が形成された回路面であってもよく、回路が形成されていない非回路面であってもよい。
【0103】
基板Sは、板状であればその材質は特に限定されない。基板としては、例えば、半導体ウエハ、CMOS又はMEMSなどのセンサ系ウエハを構成することとなる基板、疑似ウエハ、又は配線基板などが挙げられる。
【0104】
電子部品装置の製造方法の具体的一例は、
基板の一方の被保護面に、上述した保護シート1における保護層11と粘着層13と基材層15との積層物を重ねる(保護層11を重ねる)ことによって被保護面を保護する工程(保護工程)と、
前記積層物と重なり合った基板の一方の面とは反対側の他方の面を研削して基板を薄くする工程(バックグラインド工程)と、
前記粘着層13と前記保護層11との間で剥離して前記粘着層13及び前記基材層15を取り除く工程(剥離工程)と、
前記被保護面に重なった前記保護層11を、水を含む液体に接触させることによって除去する工程(除去工程)と、を含み、
前記保護層11は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む。
【0105】
上記一例の電子部品装置の製造方法では、例えば、上述した第1例乃至第4例のいずれかの保護シート1を使用する。
【0106】
上記一例の電子部品装置の製造方法では、まず、保護シート1のはく離ライナー17を取り除き、
図2Aに示すように、保護層11と粘着層13と上記の基材層15とが斯かる順で積層した積層物を用意する。
一方で、基板Sを用意し、必要に応じて、基板Sの被保護面Saに接する気体の湿度を高める工程(湿潤工程)を実施してもよい(
図2B参照)。湿潤工程を実施することによって、被保護面Saに対する、保護層11の密着性を高めることができる。
湿潤工程は、例えば、水蒸気を含む気体を被保護面に接触させること、霧状の水を被保護面に吹きかけること、水を被保護面に塗布することなどによって実施できる。
【0107】
上記の保護工程では、例えば
図2C及び
図2Dに示すように、基板Sの被保護面Saに保護シート1の保護層11を重ね合わせる。換言すると、基板Sの被保護面Saに保護層11が接するように保護シート1を重ねる。
【0108】
上記の保護工程では、回路配線、センサ部、及び電極部のうち少なくとも1種が回路構成要素として配置されている側の基板Sの表面に、保護層11を重ねる。上記の保護工程では、回路配線、センサ部、若しくは電極部を保護層11で覆うように、基板Sの一方の面に保護層11を重ねることが好ましい。回路構成要素としては、例えば、回路配線、電極部、又は、トランジスタ、ダイオード、若しくはセンサ部(受光センサ若しくは振動センサ等)などの素子が挙げられる。
【0109】
バックグラインド工程では、基板S、保護層11、粘着層13、及び基材層15が積層された状態で、基板Sにおける回路構成要素が配置されていない面に対して、研削加工を施す。詳しくは、
図2Eに示すように、基板Sが所定の厚さになるまで研削パッドKによる研削加工(バックグラインド加工)を施す。研削加工によって基板Sの厚さは、所定の厚さにまで薄くなる(
図2F参照)。
【0110】
上記一例の電子部品装置の製造方法において、必要に応じて、バックグラインド工程と続く剥離工程との間に、
図2Gに示すように、粘着層13に対して活性エネルギー線を照射する硬化処理工程を実施してもよい。上述した第3例又は第4例の保護シートを採用する場合、硬化処理工程を実施できる。
【0111】
剥離工程では、
図2Hに示すように、保護層11と粘着層13との間で剥離することによって、粘着層13及び基材層15を取り除く。
【0112】
必要に応じて、上記一例の電子部品装置の製造方法において、
図2Iに示すように、重なり合った基板S及び保護層11の積層物を面方向に間隔を空けるように分割して小片化することによって、基板が小片化したチップS’と保護層の小片11’とが重なり合った複数の積層物の小片を作製する工程(例えばダイシング工程)を実施してもよい。
【0113】
必要に応じて、上記一例の電子部品装置の製造方法の除去工程では、
図2Jに示すように、保護層11に対して加熱処理又は紫外線などの活性エネルギー線の照射処理などを施すことによって、保護層11に含まれるイオン発生化合物から酸又は塩基を生じさせて保護層11の親水性を高める親水化処理を実施してもよい。上述した第2例又は第4例の保護シートを採用する場合、親水化処理を実施できる。
【0114】
そして、除去工程では、
図2Kに示すように、水を含む液体によって、基板Sの被保護面に重なった保護層11を除去する。除去工程では、保護層11を除去するときに、水を含む液体に対して、保護層11の全部が溶解してもよく、保護層11の一部が溶解してもよい。
【0115】
以下、半導体集積回路を製造する半導体装置の製造方法を具体例として挙げて、斯かる製造方法について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0116】
半導体装置(電子部品装置)の製造方法において、例えば、回路面が形成された半導体ウエハWから半導体チップXを切り出し、切り出した半導体チップXを有する半導体装置を組み立てる。下記の半導体装置の製造方法では、保護シート1の保護層11と、ダイシングテープ20(
図5A参照)とを少なくとも使用して半導体装置を製造する。ダイシングテープ20は、基材シート21と粘着剤シート22とを有する。これらのシート及びテープは、半導体装置を製造するための補助用具として使用される。なお、ダイシングテープ20の粘着層13にダイボンドシート30が重なったダイシングダイボンドフィルム50を使用することもできる(
図5B参照)。ダイシングテープ20及びダイシングダイボンドフィルム50としては、それぞれ市販品を使用できる。
【0117】
一般的に、半導体装置の製造方法は、高集積の電子回路によってベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハWから半導体チップXを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
【0118】
後工程では、例えば、回路面が形成された基板としてのウエハ(半導体ウエハW)を小さい半導体チップX(ダイ)へ小片化し、その後、小片となった半導体チップXを被着体に接合すること等によって、半導体集積回路(半導体装置)を組み立てる。
【0119】
以下、半導体装置の製造方法の具体例について、第1例から第3例までそれぞれ詳しく説明する。
なお、第1例の製造方法の様子を示す図面には、「I」と記載している。同様に、第2例及び第3例については、図面中にそれぞれ「II」、「III」と記載している。
【0120】
「第1例の半導体装置の製造方法」
第1例の半導体装置の製造方法は、回路面が形成された半導体ウエハW(基板)から半導体チップXを切り出して、斯かる半導体チップXを有する半導体装置を組立てる組立工程を備える。
斯かる組立工程は、半導体ウエハWの少なくとも一方の面であって回路構成要素のいずれかが形成された回路面に、前記回路構成要素を保護するための保護層11を重ね合わせて回路面(被保護面)を保護する工程(保護工程)と、
半導体ウエハW、保護層11、粘着層13、及び基材層15が積層された状態で、半導体ウエハWにおける回路構成要素が配置されていない面に対して研削加工を施し、半導体ウエハWの厚さを薄くするバックグラインド工程と、
厚さが薄くなった半導体ウエハW、保護層11、粘着層13、及び基材層15の積層物を、半導体ウエハWとダイボンドシート30とが接するように、ダイボンドシート30に貼り付ける工程(マウント工程)と、
保護層11と粘着層13との間で剥離することによって、粘着層13及び基材層15を取り除く工程(剥離工程)と、
面方向に間隔を空けるように半導体ウエハW、保護層11及びダイボンドシート30の積層物を小片化することによって、半導体ウエハWが小片化した半導体チップXと保護層の小片11’とダイボンドシート30の小片30’とが重なり合った積層物の複数の小片を作製する工程と、
半導体チップXの回路面に重なった保護層の各小片11’と、水を含む液体とを接触させることによって、保護層の各小片11’を除去する工程(除去工程)と、
半導体チップXと被着体とを接合する工程と、を少なくとも含む。
【0121】
第1例の組立工程は、例えば、以下の各工程を有する。
具体的には、第1例の組立工程は、
半導体ウエハWの回路面に保護層11を貼り付けることによって回路面を保護する保護工程と、
上記のバックグラインド工程と、
片面に回路構成要素が形成された半導体ウエハWをダイシングダイボンドフィルム50(ダイシングテープ20に重なったダイボンドシート30)に貼り付けて、ダイシングダイボンドフィルム50に半導体ウエハWを固定するマウント工程と、
上記の剥離工程と、
ダイボンドシート30と半導体ウエハWと保護層11と粘着層13とを、ダイシングブレードTなどによって小片化し、半導体ウエハWを小片化した半導体チップX(ダイ)を作るブレードダイシング加工工程(上記の積層物の複数の小片を作製する工程)と、
半導体チップXに貼り付いた保護層の複数の小片11’を除去する除去工程(上記の除去する工程)と、
ダイシングテープ20とダイボンドシートの小片30’との間を剥離して、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXを取り出すピックアップ工程と、
取り出した半導体チップXを、ダイボンドシートの小片30’を介して被着体に接合させる接合工程(上記の接合する工程)と、を有する。
これらの工程を実施するときに、上述した保護層11、及び、ダイシングテープ20を有するダイシングダイボンドフィルム50が製造補助用具として使用される。
【0122】
半導体ウエハWは、複数の半導体チップXを得られるように構成されている。詳しくは、半導体ウエハWは、面に沿う複数の方向(例えば面に沿う方向であって互いに直交する方向)に間隔をそれぞれ空けるように分割されて小片化されることによって、複数の半導体チップXを作製できるように構成されている。また、半導体ウエハWは、回路構成要素の少なくとも1種が配置された回路面を一方の面に有する。
【0123】
近年の半導体産業においては、集積化技術のさらなる進展に伴って、より薄い半導体チップ(例えば20μm以上50μm以下の厚さ)が要望されている。半導体チップを厚さ方向の一方から見たときの形状は、例えば矩形状であり、一辺の長さは、例えば5mm以上20mm以下の所定長さである。
【0124】
保護工程では、例えば
図3Aに示すように、半導体ウエハWの上記一方の回路面に保護層11を重ね合わせる。保護工程では、例えば、保護層11を上記回路面に重ね合わせ、粘着層13及び基材層15を介して保護層11を半導体ウエハWに押し付けることによって、上記回路面に保護層11を貼り付ける。
半導体ウエハWの回路面に保護層11を重ね合わせることによって、保護層11が除去されるまで、回路面を保護層11によって保護できる。よって、保護層11で覆われた半導体ウエハWの回路面にゴミ等が付着することを防止できる。
【0125】
バックグラインド工程では、
図3Bに示すように、半導体ウエハWが所定の厚さになるまで研削パッドKによる研削加工(バックグラインド加工)を施す。研削加工によって半導体ウエハWの厚さは、所定の厚さまで薄くなる(
図3C参照)。
バックグラインド工程においては、半導体ウエハWに、保護層11、粘着層13、及び基材層15を貼り付けた状態で、半導体ウエハWに対して研削加工を施すことができる。研削加工時に加わる力は、半導体ウエハWを介して保護層11及び粘着層13に伝わるが、保護層11の粘着力、及び、保護層11の粘着力よりも大きい粘着層13の粘着力によって、半導体ウエハWと基材層15との間のいずれかの界面で剥離が起こることが抑制される。換言すると、本実施形態の保護シート1は、はく離ライナー17を取り除いた状態で、バックグラインド加工時に一般的に使用されるバックグライントテープの代わりに使用できる。さらに換言すると、一般的なバックグラインドテープを別途使用しなくても、本実施形態の保護シート1の一部を使用することによって、上記のごとき研削加工を実施できる。
【0126】
マウント工程では、
図3Dに示すように、ダイシングテープ20の粘着層13にダイシングリングRを取り付けつつ、ダイシングテープ20に重なったダイボンドシート30に対して、半導体ウエハWを貼り付ける。例えば、このようにして半導体ウエハWをダイシングダイボンドシートに固定する。
【0127】
マウント工程の後であって剥離工程の前では、必要に応じて、
図3Eに示すように、粘着層13に対して硬化処理を施すことができる。硬化処理の具体例は、活性エネルギー線(紫外線等)の照射処理である。紫外線等の活性エネルギー線の照射処理によって、例えば、上述した架橋性アクリル共重合体を互いに架橋反応させることができる。これによって、照射処理前よりも照射処理後に、粘着層13の粘着力を低下させることができる。そして、粘着層13及び基材層15を保護層11からより簡便に剥離させることができる。
活性エネルギー線として紫外線等を採用する場合、粘着層13に対する硬化処理を促進しつつ保護層11に対する親水化処理をあまり促進しないような波長の紫外線を選択することができる。これにより、保護層11の親水性が意図せず高まり過ぎることを抑制できる。
【0128】
なお、
図3Fに示すように、上述した2層構造の粘着層13を採用することによって、硬化処理における活性エネルギー線の照射が、意図せず保護層11を親水化させることを抑制できる。詳しくは、第1粘着層13Aから保護層11へ向かう方向で活性エネルギー線が照射されても、活性エネルギー線の散乱剤又は吸収材などを含む第2粘着層13Bによって、活性エネルギー線の透過が抑制される。よって、保護層11に到達する活性エネルギー線が少なくなる。これにより、保護層11が上記のイオン発生化合物を含む場合に、保護層11が活性エネルギー線によって親水化されることが抑制される。換言すると、活性エネルギー線の照射によって第1粘着層13A及び第2粘着層13Bに対して硬化処理を施しつつ、保護層11の意図しない親水化を抑制できる。
【0129】
剥離工程では、
図3G及び
図3Hに示すように、保護層11と粘着層13との間で剥離することによって、粘着層13及び基材層15を取り除く。
【0130】
ブレードダイシング加工工程では、例えば
図3I示すように、半導体ウエハWのダイシングを行う。ブレードダイシング加工工程の前に、ダイシングテープ20の粘着剤シート22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具HにダイシングリングRを固定してもよい。
詳しくは、半導体ウエハWをダイボンドシート30と共に所定のサイズに切断し、ダイボンドシートの小片30’付き半導体チップXを形成する。ブレードダイシング加工工程は、例えばダイシングブレードTを用いて、常法に従い行われる。ブレードダイシング加工工程では、例えばダイボンドシート30まで切り込みを実施するフルカットと呼ばれる切断方式を採用できる。ブレードダイシング加工工程で使用されるダイシング装置としては、特に限定されず、従来公知の装置を使用できる。
ブレードダイシング加工工程では、半導体ウエハWの切断に伴って破片などの異物が生じ得る。このとき、保護層11によって半導体ウエハWの被保護面が保護されているため、被保護面に異物が付着することを抑制できる。
【0131】
除去工程では、必要に応じて、
図3Jに示すように、保護層の各小片11’に対して、上述した親水化処理を施すことができる。親水化処理としては、活性エネルギー線の照射処理が採用される。上記イオン発生化合物を含む保護層の各小片11’に対して親水化処理を施すことによって、各小片11’中の上記イオン発生化合物から酸又は塩基を発生させて各小片11’の親水性を高めることができる。これにより、後に小片11’が、水を含む液体と接触したときに、小片11’が半導体チップXの表面からより簡便に除去される。
【0132】
除去工程における活性エネルギー線の照射処理では、例えば、10mW以上300mW以下の強度の紫外線を活性エネルギー線として採用し、付与するエネルギー量が50mJ以上1000mJ以下となるように保護層の複数の小片11’に紫外線を照射する。
【0133】
除去工程では、
図3Kに示すように、水を含む液体と保護層の複数の小片11’とを接触させて各小片11’の少なくとも一部を上記液体に溶解させることによって、半導体チップXの表面(被保護面)から保護層の各小片11’を除去する。
このようにして保護層の小片11’を除去することにより、保護層の複数の小片11’の全部を比較的簡便に除去でき、また、半導体チップXの表面に付着した異物の数を上記の液体によって比較的簡便に減らすことができる。また、保護層の小片11’が重なっていた各半導体チップXの表面(被保護面)を液体で洗浄することもできる。
【0134】
除去工程では、小片化された保護層(保護層の複数の小片11’)の全てを上記液体に溶解させることによって保護層の小片11’を除去してもよい。一方、保護層の小片11’の構成成分の一部を上記液体に溶解させ、半導体チップXとの付着力が弱くなった各小片11’を半導体チップXから剥離させることによって保護層の複数の小片11’を除去してもよい。
【0135】
水を含む液体は、水を含む液状物質であれば、特に限定されない。斯かる液体は、水を30質量%以上含んでもよく、50質量%以上含んでもよく、70質量%以上含んでもよく、80質量%以上含んでもよく、90質量%以上含んでもよい。
上記液体は、水の他に、水に溶解する成分を含んでもよい。斯かる成分としては、例えば、水溶性有機溶媒が挙げられる。斯かる水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのプロパノール、又は、t-ブタノールなどのブタノールといった、炭素数4以下の1価アルコールが挙げられる。
【0136】
第1例における除去工程では、撹拌されている上記液体のなかに保護層の小片11’を浸積して、保護層の小片11’に液体を接触させてもよい。又は、ノズル等から噴射された液体を、保護層の小片11’に接触させてもよい。上記液体の温度は、特に限定されず、例えば10℃以上90℃以下に設定されてもよい。
【0137】
ピックアップ工程では、
図3Lに示すように、半導体チップX及びダイボンドシートの小片30’をダイシングテープ20の粘着剤シート22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップXを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップX及びダイボンドシートの小片30’を吸着治具Jによって保持する。
【0138】
このようにピックアップ工程を行うときに、半導体チップXに貼り付いたダイボンドシートの小片30’が、ダイシングテープ20の粘着剤シート22から容易に剥離される必要がある。上述したダイシングテープ20は、このような性能を良好に発揮できるように設計されている。
例えば、ダイシングテープ20は、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤シート22が硬化して、粘着剤シート22の粘着力が低下するように構成されている。照射後に粘着剤シート22が硬化することによって、粘着剤シート22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤シート22から半導体チップX及びダイボンドシートの小片30’を比較的容易に剥離させることができる。このような構成のダイシングテープ20は、市販されている。
【0139】
接合工程では、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXを被着体Zに接合させる。換言すると、ダイボンドシートの小片30’を介して、半導体チップXを基板又は半導体チップXなどの被着体に接合させる。なお、接合工程では、
図3Mに示すように、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXを複数回積み重ねていくことがある。
なお、被着体Zとしては、例えば、インターポーザ、配線回路基板、又は、基板の小片(基板の小片を積み重ねて積層させる場合)などが挙げられる。
【0140】
第1例においては、接合工程を経た半導体チップXを保護するために、熱硬化性樹脂などによって半導体チップXを封止する(覆う)樹脂封止工程を実施してもよい。
【0141】
次に、第2例について詳しく説明する。なお、第2例について、第1例と同様の説明は繰り返さない。第2例において、特に言及しない限り、第1例と同様の操作が行われ得る。
【0142】
「第2例の半導体装置の製造方法」
第2例の半導体装置の製造方法は、主に、半導体ウエハWをハーフカット加工した後に半導体ウエハWの厚さを薄くする、いわゆるDBGプロセスを経て半導体ウエハWを小片化させる点において、第1例と異なる。第2例では、半導体ウエハWを割断処理によってチップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウエハWに溝を形成し、さらに半導体ウエハWを研削して厚さを薄くする。
【0143】
第2例の半導体装置の製造方法は、例えば、
半導体ウエハWを小片化して複数の半導体チップXを作製するための溝を半導体ウエハWの回路面に形成するハーフカット加工工程と、
半導体ウエハWの回路面に保護層11を貼り付けて回路面を保護し、半導体ウエハW、保護層11、粘着層13、及び基材層15を積層させる保護工程と、
保護層11、粘着層13、及び基材層15と重なった状態の半導体ウエハWの回路面とは反対側の面に対して研削処理を施して半導体ウエハWの厚さを薄くするバックグラインド工程と、
保護層11、粘着層13、及び基材層15とともに、厚さが薄くなった半導体ウエハWをダイシングテープ20に貼り付けて、ダイシングテープ20に半導体ウエハWを固定するマウント工程と、
粘着層13と保護層11との間で剥離して粘着層13及び基材層15とを取り除く剥離工程と、
ダイシングテープ20を引き延ばすことによって半導体ウエハW及び保護層11をともに小片化するエキスパンド工程と、
半導体チップXに貼り付いた保護層の複数の小片11’を除去する除去工程と、
半導体チップXが貼り付いたダイボンドシートの小片30’と、ダイシングテープ20の粘着剤シート22との間を剥離して半導体チップXを取り出すピックアップ工程と、
取り出した半導体チップXを被着体に接合させる接合工程と、を有する。
【0144】
第2例では、例えば
図4A及び
図4Bに示すように、半導体ウエハWの被保護面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープEを貼り付ける。具体的には、半導体ウエハWの回路面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープEを貼り付ける。ウエハ加工用テープEを貼り付けた状態で、半導体ウエハWを分割して小片化するための分割用の溝を形成する。溝は、厚さ方向に貫通しないように半導体ウエハWに形成される。
【0145】
溝が形成された半導体ウエハWの回路面に、保護シート1の保護層11を重ね合わせ、被保護面(回路面)を保護層11で保護する。このとき、
図4Cに示すように、保護層11、粘着層13、及び基材層15の積層物を半導体ウエハWの回路面に重ね合わせる。保護層11、粘着層13、及び基材層15を貼り付ける一方で、始めに貼り付けたウエハ加工用テープEを剥離する(
図4Dを参照)。保護シート1の保護層11、粘着層13、及び基材層15を貼り付けた状態で、半導体ウエハWにおける回路構成要素が配置されていない面に対して、研削加工を施す。例えば、半導体ウエハWが所定の厚さになるまで研削パッドKによる研削加工(バックグラインド加工)を施す(
図4E及び
図4Fを参照)。研削加工によって半導体ウエハWの厚さは、所定の厚さにまで薄くなる。
【0146】
そして、研削加工が施された半導体ウエハWの面(回路構成要素が配置されていない面)をダイシングテープ20上のダイボンドシート30に貼り付けて、マウント工程を実施する(
図4G及び
図4Hを参照)。このとき、
図4Hに示すように、半導体ウエハWの回路面には保護層11が貼り付いており、さらに、保護層11には粘着層13及び基材層15が貼り付いている。その後、剥離工程によって、保護層11と粘着層13との間で剥離して、粘着層13及び基材層15を取り除く(
図4Iを参照)。
【0147】
なお、粘着層13及び基材層15を取り除く前に、上述したように、粘着層13の粘着力を低下させるべく、活性エネルギー線等の照射によって、粘着層13に対して硬化処理を施すことが好ましい。
【0148】
続いて、半導体ウエハW及び保護層11を小片化するエキスパンド工程を実施する。エキスパンド工程では、
図4Jに示すように、ダイシングテープ20上のダイボンドシート30に半導体ウエハWを貼り付けた状態で、ダイシングテープ20の表面積を大きくするようにダイシングテープ20を面方向に引き伸ばす。これにより、半導体ウエハWと保護層11との積層物を分割して小片化し、小片化されて形成された互いに隣り合う半導体チップXの間隔を面方向に沿って広げる。詳しくは、エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングテープ20の下側から突き上げることによって、ダイシングテープ20を面方向に広げるように引き延ばす。これにより、特定の温度条件において半導体ウエハW及び保護層11を小片化する。上記温度条件は、例えば-20℃以上0℃以下である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(ここまで低温エキスパンド工程)。
このように低温でエキスパンド工程を行うときに、保護層11が割断されて小片化される必要がある。上述した保護層11は、このときに良好に割断されるように設計されている。
さらに、エキスパンド工程では、より高い温度条件下(例えば10℃以上25℃以下)において、ダイシングテープ20の表面積を広げるようにダイシングテープ20を再度引き延ばしてもよい。これにより、互いに隣り合う半導体チップXをダイシングテープ20の面方向に引き離して、さらにカーフ(間隔)を広げることができる(常温エキスパンド工程)。
エキスパンド工程では、半導体ウエハWと保護層11とが重なり合った状態で半導体ウエハWを小片化して半導体チップXを作製する。このとき、半導体ウエハWを割断することに伴って破片などの異物が生じ得るが、保護層11によって半導体チップXの回路面に異物が付着することを防止できる。
【0149】
その後、上述した方法と同様の方法によって、
図4Kに示すように、必要に応じて、上述した親水化処理を保護層の小片11’に対して施すことができる。
さらに、上述した方法と同様の方法によって、除去工程によって、半導体チップXに貼り付いた保護層の小片11’を除去することができる(
図4L参照)。また、上述した方法と同様の方法によって、半導体チップXを取り出すピックアップ工程、及び、半導体チップXを被着体に接合させる接合工程などを実施できる。
【0150】
本発明の保護シート、及び、該保護シートを使用した電子部品装置の製造方法は上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の保護シート又は製造方法などに限定されるものではない。
即ち、一般的な電子部品装置の製造方法において用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0151】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
保護対象物である基板の表面の少なくとも一部を保護するための保護層と、
前記保護層の一方の面と対向するように配置された基材層と、
前記保護層及び前記基材層の間に配置され、且つ前記保護層及び前記基材層に対して両側の各面でそれぞれ剥離可能に粘着している粘着層と、
前記保護層の他方の面に重なるはく離ライナーと、を備え、
前記保護層は、水を含む液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して前記基板の表面から除去されるべく、親水基を分子中に有する親水性ポリマーを含む、保護シート。
(2)
前記保護層は、加熱又は活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によって酸又は塩基を生じる化合物をさらに含む、上記(1)に記載の保護シート。
(3)
前記親水性ポリマーの前記親水基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ピロリドン基、及びポリオキシエチレン基からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)又は(2)に記載の保護シート。
(4)
前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステルポリマー、及び、ポリエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の保護シート。
(5)
前記粘着層は、互いに異なる複数種のアルキル(メタ)アクリレート単位をモノマー単位として分子中に有するか、又は、アルキル(メタ)アクリレート単位と該アルキル(メタ)アクリレート単位以外のモノマー単位とを分子中に有するアクリル共重合体を含む、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の保護シート。
(6)
前記粘着層は、硬化処理によって架橋反応する架橋性高分子化合物を含む、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の保護シート。
(7)
前記粘着層は、アルキル(メタ)アクリレート単位と、架橋性基含有(メタ)アクリレート単位とを少なくともモノマー単位として分子中に有する架橋性アクリル共重合体を、前記架橋性高分子化合物として含む、上記(6)に記載の保護シート。
【実施例0152】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
以下のようにして、保護シートを作製した。具体的には、溶媒を含む保護層作製用組成物をはく離ライナーの一方の面に塗布し、溶媒を揮発させることによって、保護層とはく離ライナーとを積層させた。一方で、溶媒を含む粘着層作製用組成物を基材層の一方の面に塗布し、溶媒を揮発させることによって、粘着層と基材層とを積層させた。さらに、はく離ライナーと基材層とで保護層及び粘着層を挟み込むように、保護層と粘着層とを貼り合わせた。このようにして、はく離ライナーと基材層との間に保護層及び粘着層を配置した保護シートを製造した。
(保護層の原材料)
・PVA-1:ポリビニルアルコール(市販品)
けん化度が65(モル%)であり、平均重合度が240
・PVA-2:ポリビニルアルコール(市販品)
けん化度が35(モル%)であり、平均重合度が200
・イオン発生化合物(光酸発生剤):スルホニウム塩タイプ(製品名「CIP-200K」 サンアプロ社製)
各実施例及び比較例について、詳しくは以下の通りである。
【0154】
[実施例1]
(保護層の作製)
ポリビニルアルコール(上記のPVA-1)を水に分散させた後、90℃に加温して溶解させて、PVA水溶液を調製した。
このPVA水溶液をはく離ライナー(PETフィルム 厚さ50μm)上に塗布した。はく離ライナーは、シリコーン離型処理が施された面を有し、この面上にアプリケータを用いて上記PVA水溶液を塗布した。さらに、110℃で2分間乾燥処理を行い、はく離ライナーの一方の面に重なった厚さ10μmの保護層を作製した。
(粘着層の作製)
まず、以下のアクリル共重合体の原料モノマーを用意した。
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):11質量部
・2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):89質量部
【0155】
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に上記の各原料を入れた。モノマーの合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部を熱重合開始剤として使用した。全モノマーの濃度が所定濃度(例えば36質量%)となるように酢酸エチルを反応溶媒として加えた。窒素気流中で62℃にて所定時間(例えば4時間)、さらに75℃にて所定時間(例えば2時間)の重合反応処理を行い、アクリル共重合体の中間体を得た。
上記のごとく調製したアクリル共重合体の中間体を含む液に、HEAの合計に対して、モル換算で80モル%となるように2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOIともいう)を13質量部加えた。また、アクリル共重合体100質量部に対して0.07質量%のジラウリン酸ジブチルスズを反応触媒として加えた。その後、空気気流中で50℃にて12時間、付加反応処理(ウレタン化反応処理)を行い、アクリル共重合体を得た。
次に、アクリル共重合体100質量部(固形分)に対して、下記の配合成分を加えて、粘着層作製用組成物を調製した。
・光重合開始剤:5質量部
(製品名「Omnirad127」、IGM社製)
・ポリイソシアネート化合物:0.8質量部
(製品名「タケネートD-101A」、三井化学社製)
上記のごとく調製した粘着層作製用組成物を、剥離用シート上に塗布し、120℃で2分間加熱乾燥し、厚さ30μmの粘着層を作製した。その後、剥離シート上に作製した粘着剤層の露出面と、基材層(PETフィルム 厚さ50μm)のプライマー処理面とを、ラミネーターを使用して室温において貼り合わせ、さらに、50℃で24時間静置して、粘着層と基材層との積層物を作製した。この段階における粘着層は、硬化処理によって硬化する(以下、「硬化性」と称する)。
その後、剥離シートを取り除いたうえで、ラミネートロールを用いて、40℃、10mm/sの条件で、粘着層と保護層とを貼り合わせた。
上記のごとく調製した硬化性の保護層に対して、積算光量が300mJ/cm2となるように紫外線を照射して、非硬化性の保護層を作製した。斯かる保護層は、硬化処理によって硬化が進行しないことから、表1において「非硬化性」という用語で示す。
【0156】
[実施例2]
(保護層の作製)
PVA-1に代えてPVA-2を用いて実施例1のごとく調製したPVA水溶液に、上記の光酸発生剤をPVAポリマー100質量部に対して3質量部の量となるように添加して混合した点以外は、実施例1の保護シートと同様にして保護シートを作製した。
(粘着層の作製)
実施例1の粘着層と同様にして粘着層を作製した。
【0157】
[実施例3]
(保護層の作製)
実施例1の保護層と同様にして粘着層を作製した。
(粘着層の作製)
実施例1の粘着層の作製方法と同様に粘着層を作製したが、紫外線照射による硬化処理を実施せず、硬化性の粘着層を作製した。
【0158】
[実施例4]
(保護層の作製)
PVA-1に代えてPVA-2を用いて実施例1のごとく調製したPVA水溶液に、上記の光酸発生剤をPVAポリマー100質量部に対して3質量部の量となるように添加して混合した点以外は、実施例1の保護シートと同様にして保護シートを作製した。
(粘着層の作製)
実施例1の粘着層の作製方法と同様に粘着層を作製したが、紫外線照射による硬化処理を実施せず、硬化性の粘着層を作製した。
【0159】
[比較例]
(保護層の作製)
実施例1の粘着層の作製方法と同様の方法によって作製した層を保護層としたが、上記の紫外線照射による硬化処理を施さず、硬化性とした点で、実施例1の粘着層と異なる。
斯かる保護層中のアクリル共重合体には、実質的にヒドロキシ基が残存しない。
(粘着層の作製)
実施例1の粘着層と同様にして粘着層を作製した。
【0160】
以下のようにして、模擬的な試験によって保護シートの性能を評価した。
【0161】
<マウント工程及び保護工程>
各実施例及び比較例で製造した保護シートからはく離ライナーを剥離して取り除き、保護層の一方面を露出させた。この露出面を、90℃に加温した状態で、シリコンベアウエハ(基板)の表面に、10mm/sの貼り合わせ速度で貼り合わせた。貼り合わせた後、円板状のシリコンベアウエハの周縁よりも外側にはみ出した保護シートの一部を取り除いた。このようにして、シリコンベアウエハと保護層と粘着層と基材層とがこの順で積層した状態とした。
<剥離工程>
必要に応じて粘着層に対して硬化処理を施した。具体的には、「硬化性」の粘着層に対しては、強度300mJの紫外線を7秒間照射して、硬化処理を施した。その後、保護層と粘着層との間で剥離して、粘着層及び基材層を取り除いた。
<除去工程>
必要に応じて保護層に対して親水化処理を施した。具体的には、光酸発生剤を含む保護層に対しては、強度300mJの紫外線を7秒間照射して、親水化処理を施し、保護層の親水性を高めた。
その後、保護層を除去するため、25℃の水に、シリコンベアウエハと保護層との積層物を30秒間浸積した。
【0162】
<紫外線照射の前後における保護層の吸水率>
三菱ケミカルアナリティック社製の水分測定装置(製品名「CA-07」)及び水分気化装置(製品名「VA-07」)を用いて、カールフィッシャー/電量滴定法により、保護層の吸水率を測定した。具体的には、約4mgで秤量した保護層の試験サンプルを、23℃且つ50RH%の定常状態に置いた。その後、水分気化装置によって150℃で3分間加熱して試験サンプルの水分を蒸発させつつ、気化した水分量を測定した。さらに、加熱後の試験サンプルの質量を測定した。
加熱後の試験サンプル(絶乾状態)の質量に対する、測定された水分量の割合から、吸水率を求めた。
【0163】
<評価:保護層の除去の簡便さ(紫外線照射による保護層の親水化処理後)>
上記のごとく除去工程を実施した後、保護層を除去するために用いた水を取り除いた。さらに、シリコンベアウエハの表面をフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で分析した。斯かる分析によって、残留有機物の有無を確認した。なお、保護層の除去の簡便さに関わる評価基準は、以下の通りである。
(良) 残留有機物がほぼ認められない(800~4000cm-1における極大吸収が0.05以下である)
(不良) 残留有機物が認められる(800~4000cm-1における極大吸収が0.05を超える)
【0164】
以上のようにして行った試験の評価結果を表1に示す。
【0165】
【0166】
上記の評価結果から把握されるように、保護シートによって、半導体チップ(ダイ)の被保護面に異物が付着することを抑制できたため、被保護面を保護できた。また、保護層を水によって比較的簡便に除去することができた。
また、硬化処理や親水化処理を実施する前においては、保護シートにおける保護層と粘着層との間の剥離力、及び、粘着層と基材層との間の剥離力は、比較的大きい。また、基板(シリコンウエハ)に対する保護層の密着性も比較的高い。そのため、バックグラインド加工時にせん断力等が加わっても、保護層と粘着層との間、及び、粘着層と基材層との間で、剥離は起こりにくいといえる。また、基板の被保護面から保護層が脱離することも起こりにくいといえる。従って、一般的なバックグラインドテープに代えて、実施例の保護シートを用いて、バックグラインド加工を実施できる。
【0167】
上記のごとき実施例の保護シートを用いて半導体装置を製造することによって、バックグラインドテープを用いる代わりに保護シートを用いて、半導体ウエハに対してバックグラインド加工を実施することができる。バックグラインドテープを別途使用し、バックグラインド加工の後に取り除く工程が不要になるため、半導体装置などを効率良く製造することができる。しかも、保護シートによって、半導体チップなどの基板を保護した後に、水を含む液体によって保護シートを比較的簡便に除去できる。よって、保護シートの一部が、保護していた基板の表面に残存することが起こりにくい。