IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用無段変速機の制御装置 図1
  • 特開-車両用無段変速機の制御装置 図2
  • 特開-車両用無段変速機の制御装置 図3
  • 特開-車両用無段変速機の制御装置 図4
  • 特開-車両用無段変速機の制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182397
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】車両用無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20231219BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20231219BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/02
F16H61/662
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095982
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】牛膓 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小形 卯京
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB04
3J552PA51
3J552PB03
3J552TA02
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA43W
3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VC03W
3J552VD01W
3J552VE05W
(57)【要約】
【課題】無段変速機の回転数センサに故障などの不具合が生じている場合に、無段変速機のレシオ(変速比)が過剰にロー側(低速側)のレシオに変速されることを防止する。
【解決手段】無段変速機(26)のドライブプーリ(26a)にかかる油圧を供給する油圧供給装置(46)と、油圧供給装置(46)による油圧の供給を制御する制御装置(90)と、を備える車両用無段変速機の制御装置は、回転数センサ(72)の検出値に基づいて算出される無段変速機(26)の実変速比が目標変速比となるように油圧のフィードバック制御を行い、実変速比が所定変速比以下である場合には、実変速比が所定変速比より大きい場合と比較して前記フィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリと、回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリと、前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリとの間に巻き掛けられた動力伝達部材と、を備え、前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリのプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリの回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリに伝達する無段変速機と、
前記ドライブプーリ又は前記ドリブンプーリの回転数を検出する回転数センサと、
前記ドライブプーリにかかる油圧を供給する油圧供給装置と、
前記油圧供給装置による油圧の供給を制御する制御装置と、を備える車両用無段変速機の制御装置であって、
前記制御装置は、前記回転数センサの検出値に基づいて算出される前記無段変速機の実変速比が目標変速比となるように前記油圧のフィードバック制御を行い、
前記実変速比が所定変速比以下である場合には、前記実変速比が前記所定変速比より大きい場合と比較して前記フィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行う
ことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記所定変速比は、前記無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比か又はそれよりも小さい変速比である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記目標変速比を得るための目標変速マップを有し、
前記目標変速マップ上の目標変速比が、制御上使用しない変速比の領域内であって、かつ前記無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比よりも大きい変速比の場合に前記変速比フィードバックゲイン低減制御を行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車両の運転者によって操作されるアクセル操作子と、前記アクセル操作子の操作によるアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、を備え、
前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域は、前記アクセル開度と前記車速(V)とに基づいて設定される
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域は、前記アクセル開度が実質的に全閉状態のときの変速比以下の領域である
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記車両に搭載したロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備え、
前記車両が所定車速以下でかつ前記ロックアップクラッチがオフのときは、前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域は、前記ロックアップクラッチがオンの状態での前記アクセル開度と前記車速に基づく前記目標変速マップ上の値で設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項7】
前記所定変速比は、無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比である
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項8】
前記所定変速比は、無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比である
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項9】
前記車両が走行している路面の摩擦係数が所定値以下の低摩擦係数路であるか否かを判定する低摩擦係数路判定手段を備え、
前記制御装置は、前記低摩擦係数路判定手段で前記車両が走行している路面が低摩擦係数路であるとの判定がされる場合、前記変速比フィードバックゲイン低減制御を行わない
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項10】
前記車両が走行している路面の摩擦係数が所定値以下の低摩擦係数路であるか否かを判定する低摩擦係数路判定手段を備え、
前記制御装置は、前記低摩擦係数路判定手段で前記車両が走行している路面が低摩擦係数路であるとの判定がされる場合、前記変速比フィードバックゲイン低減制御を行わない
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に金属チェーン又はベルトなどの動力伝達部材を巻き掛けて構成される車両用無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、駆動輪からの出力を変速機により変速して駆動輪に伝達するように構成されている。変速機としては、例えば特許文献1に示すように、プーリ幅可変の駆動側プーリおよび従動側プーリに無端状のベルトを巻き掛けて構成されたベルト機構を有した無段変速機がよく知られている。この変速機は、駆動側プーリおよび従動側プーリに供給される作動油の油圧を制御することによりプーリ幅を変更し、プーリへのベルトの巻き掛け半径を変更することにより、無段階的に変速比を変更制御できるようになっている。このような変速機を有した車両には、車両状態に応じて油圧を制御し、変速機の作動制御を行うための制御装置が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-45709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成の無段変速機の制御装置では、無段変速機の駆動側プーリおよび従動側プーリの回転数を検出する回転数センサの検出値に基づいて無段変速機に供給する油圧の制御を行うようになっている。しかしながら、万一、回転数センサが故障などの不具合によって正常な検出値を出力できなくなった場合、無段変速機の変速制御に支障をきたすおそれがあるため、回転数センサの故障を適切に判断する必要がある。
【0005】
従来は、無段変速機の回転数センサの故障を判断するための手法として、例えば、無段変速機の入力側に設けたトルクコンバータのタービンの回転数と出力側に設けたギヤなどの回転要素の回転数との差を検知して、当該差の値が正常値でない場合には、回転数センサの故障と判断するようにしている。しかしながら、この手法では、回転数センサの故障と判断するまでにある程度の時間を要するため、その間、故障している回転数センサの検出値に基づいて変速制御が行われることで、無段変速機の変速比が過剰なローレシオになるなど一時的に不適切な制御となるおそれがある。
【0006】
また、無段変速機の回転数センサの故障を判断するための他の手法として、無段変速機以外のギヤやシャフトなどの回転要素の回転数を検出する他の回転数センサの検出値を用いて無段変速機の変速制御を行うことも考えられるが、その場合、無段変速機と他の回転要素との間にクラッチなどが介在していると、当該クラッチの係合状態が不明である場合、他の回転数センサの検出値が無段変速機の現状の回転数を正確に反映していることが確実でないため、この手法は使えないおそれがある。
【0007】
さらに、回転数センサの万一の故障に備えて、別系統の回転数センサを更に設けておくことも考えられるが、そうすると、回転数センサの追加による車両のコストアップや重量増につながるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、比較的に簡単な構成及び制御で、万一、無段変速機の回転数センサに故障などの不具合が生じた場合でも無段変速機の変速比の適切な制御を維持することができる無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる車両用無段変速機の制御装置は、車両の駆動源(10)からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリ(26a)と、回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリ(26b)と、前記ドライブプーリ(26a)と前記ドリブンプーリ(26b)との間に巻き掛けられた動力伝達部材(26c)と、を備え、前記ドライブプーリ(26a)と前記ドリブンプーリ(26b)のプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリ(26a)の回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリ(26b)に伝達する無段変速機(26)と、前記ドライブプーリ(26a)又は前記ドリブンプーリ(26b)の回転数を検出する回転数センサ(72)と、前記ドライブプーリ(26a)にかかる油圧を供給する油圧供給装置(46)と、前記油圧供給装置(46)による油圧の供給を制御する制御装置(90)と、を備える車両用無段変速機の制御装置であって、前記制御装置(90)は、前記回転数センサ(72)の検出値に基づいて算出される前記無段変速機(26)の実変速比が目標変速比となるように前記油圧のフィードバック制御を行い、前記実変速比が所定変速比以下である場合には、前記実変速比が前記所定変速比より大きい場合と比較して前記フィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことを特徴とする。
【0010】
車両用無段変速機の制御装置では、実変速比が所定変速比以下である場合には、無段変速機のドライブプーリ又はドリブンプーリの回転数を検出する回転数センサに故障などの不具合が生じているおそれがあるところ、本発明によれば、そのような場合に、実変速比が所定変速比より大きい場合と比較してフィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことで、無段変速機のレシオ(変速比)が過剰にロー側(低速側)のレシオに変速されることを防止することができる。
【0011】
また、本発明にかかる車両用無段変速機の制御装置によれば、設置する回転数センサの数を増やしたり、複雑な制御を行ったりすることなく、回転数センサに故障などの不具合が生じていることを適切に判断して無段変速機のレシオ(変速比)が過剰にロー側(低速側)のレシオに変速されることを防止できるので、車両のコストアップを抑制しながら、万一、回転数センサに故障などの異常が生じた場合でも、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0012】
また、この車両用無段変速機の制御装置では、前記所定変速比は、前記無段変速機(26)が構造上取り得る最も小さな変速比か又はそれよりも小さい変速比であってよい。なお、ここでいう無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比は、一例として、後述する実施形態における無段変速機(CVT)のOD端における変速比であってよい。
【0013】
この構成によれば、所定変速比は、無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比であることで、実変速比がこの所定変速比以下である場合には、回転数センサに故障などの不具合が発生している可能性が高い。したがって、回転数センサに故障などの不具合が生じていることを適切に判断して変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことができるので、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0014】
また、この車両用無段変速機の制御装置では、前記制御装置(90)は、前記目標変速比を得るための目標変速マップを有し、前記目標変速マップ上の目標変速比が、制御上使用しない変速比の領域内であって、かつ前記無段変速機(26)が構造上取り得る最も小さな変速比よりも大きい変速比の場合に前記変速比フィードバックゲイン低減制御を行うようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、目標変速マップ上の目標変速比が、制御上使用しない変速比の領域内であって、かつ無段変速機が構造上取り得る最も小さな変速比よりも小さい変速比の場合には、回転数センサに故障などの不具合が発生している可能性が高い。したがって、回転数センサに故障などの不具合が生じていることを適切に判断して変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことができるので、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0016】
また、この車両用無段変速機の制御装置では、前記車両の車速(V)を検出する車速検出手段(76)と、前記車両の運転者によって操作されるアクセル操作子(56)と、前記アクセル操作子(56)の操作によるアクセル開度(AP)を検出するアクセル開度検出手段(56a)と、を備え、前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域(S1,S2)は、前記アクセル開度(AP)と前記車速(V)とに基づいて設定されるようにしてもよい。
【0017】
また、前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域(S1,S2)は、前記アクセル開度(AP)が実質的に全閉状態のときの変速比以下の領域であってもよい。
【0018】
また、この車両用無段変速機の制御装置では、前記車両に搭載したロックアップクラッチ(24c)付きのトルクコンバータ(24)を備え、所定車速(V1)以下でかつ前記ロックアップクラッチ(24c)がオフのときは、前記目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域(S1)は、前記ロックアップクラッチ(24c)がオンの状態での前記アクセル開度(AP)と前記車速(V)に基づく前記目標変速マップ上の値で設定されているようにしてもよい。
【0019】
車両の車速が所定車速以下の低車速状態では、車両に搭載したトルクコンバータのロックアップクラッチがオフ状態となるため、それに起因して、無段変速機の入力回転数であるドライブプーリ回転数に一時的な回転数変化(変速比)が生じるおそれがある。そのため、所定車速以下でかつロックアップクラッチがオフのときは、ロックアップクラッチがオンの状態でのアクセル開度と車速に基づく目標変速マップで、制御上使用しない変速比の領域が設定されるようにすることで、トルクコンバータのロックアップクラッチがオフ状態となることに起因する一時的なドライブプーリの回転数変化の影響を受けずに、回転数センサに故障などの不具合が生じていることを適切に判断できる。
【0020】
また、この車両用無段変速機の制御装置では、前記車両が走行している路面の摩擦係数が所定値以下の低摩擦係数路であるか否かを判定する低摩擦係数路判定手段を備え、前記制御装置(90)は、前記低摩擦係数路判定手段で前記車両が走行している路面が低摩擦係数路であるとの判定がされる場合、前記変速比フィードバックゲイン低減制御を行わないようにしてもよい。
【0021】
車両が走行している路面が低摩擦係数路である場合には、車輪のスリップなどによって車輪速又は車速やそれらの加速度などの値に急激な変動が生じることがあり、それに起因して、回転数センサで検出される無段変速機の回転数に一時的な回転数変化(変速比)が生じるおそれがある。そのため、車両が走行している路面が低摩擦係数路である場合には、変速比フィードバックゲイン低減制御を行わないようにすることで、車両が走行している路面が低摩擦係数路であることに起因する一時的な無段変速機の回転数変化の影響を受けずに、回転数センサに故障などの不具合が生じていることを適切に判断できる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる車両用無段変速機の制御装置によれば、比較的に簡単な構成及び制御で、万一、無段変速機の回転数センサに故障などの不具合が生じた場合でも無段変速機の変速比の適切な制御を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態にかかる車両用無段変速機の制御装置を備えた車両の全体構成例を示す概略図である。
図2】油圧供給機構の油圧回路図である。
図3】CVT(無段変速機)の変速制御系を示すブロック図である。
図4】変速比フィードバックゲイン低減制御を実施しない場合と実施する場合の各値の経時変化を示すタイミングチャートである。
図5】変速比の目標値を得るための目標変速マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる車両用無段変速機の制御装置を備えた車両の全体構成例を示す概略図である。同図に示す車両は、駆動源としてのエンジン(内燃機関)10と、ロックアップクラッチ24c付きのトルクコンバータ24と、エンジン10の駆動力による回転を変速して出力する変速機構(無段変速機構)26と前後進切換装置28とを含む自動変速機1を備えている。前後進切換装置28には、エンジン10の駆動力の変速機構26への伝達を断接するために設けられた前進クラッチ28aが含まれる。また、車両は、上記のエンジン10、変速機構26、前後進切換装置28を制御するための制御装置であるエンジンコントローラ66及びシフトコントローラ90を備える。
【0025】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は、車両の運転席に配置されるアクセルペダル(アクセル操作子)56との機械的な接続が絶たれた電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16に接続され、DBW機構16で開閉される。
【0026】
スロットルバルブで調量された吸気は、インテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0027】
エンジン10のクランクシャフト22は、トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(入力軸)MSに接続される。これにより、クランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機構26に入力される。変速機構26は、無段変速機(Continuous Variable Transmission,以下「CVT」という)26からなる。
【0028】
CVT26はメインシャフトMS、より正確にはその外周側シャフトに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフト(出力軸)CS、より正確にはその外周側シャフトに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される無端可撓部材、例えば金属製のベルト26cからなる。
【0029】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26a1と、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26b1と、カウンタシャフトCSに相対回転不能で固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0030】
CVT26は、前後進切換装置28を介してエンジン10に接続される。前後進切換装置28は、車両の前進方向への走行を可能にする前進クラッチ(断接装置)28aと、後進方向への走行を可能にする後進ブレーキクラッチ28bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構28cからなる。CVT26は、エンジン10に前進クラッチ28aを介して接続される。
【0031】
プラネタリギヤ機構28cにおいて、サンギヤ28c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ28c2は前進クラッチ28aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。サンギヤ28c1とリングギヤ28c2の間には、ピニオン28c3が配置される。ピニオン28c3は、キャリア28c4でサンギヤ28c1に連結される。キャリア28c4は、後進ブレーキクラッチ28bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0032】
カウンタシャフトCSの回転は、ギヤを介してセカンダリシャフト(中間軸)SSから駆動輪12に伝えられる。即ち、カウンタシャフトCSの回転はギヤ30a,30bを介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、その回転はギヤ30cを介してディファレンシャル32から左右の駆動輪(右側のみ示す)12に伝えられる。
【0033】
前後進切換装置28において前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bの切換は、車両運転席に設けられたレンジセレクタ44を運転者が操作して例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで行われる。運転者のレンジセレクタ44の操作によるレンジ選択は、油圧供給機構46(後述)のマニュアルバルブに伝えられる。
【0034】
レンジセレクタ44を介して、例えばD,S,Lレンジが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ28aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ28aが締結される。
【0035】
前進クラッチ28aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動され、よって車両は前進方向に走行する。
【0036】
Rレンジが選択されると、前進クラッチ28aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキクラッチ28bが作動する。従ってキャリア28c4が固定されてリングギヤ28c2はサンギヤ28c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動され、車両は後進方向に走行する。
【0037】
PあるいはNレンジが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bが共に開放され、前後進切換装置28を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0038】
図2は、油圧供給機構46の油圧回路図である。同図に示すように、油圧供給機構46には、油圧ポンプ46aが設けられる。油圧ポンプ46aは、ギヤポンプからなり、エンジン10によって駆動され、リザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ46cに圧送する。PH制御バルブ46cの出力(PH圧(ライン圧))は、一方では油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続されると共に、他方では油路46gを介してCRバルブ46hに接続される。
【0039】
CRバルブ46hは、PH圧を減圧してCR圧(制御圧)を生成し、油路46iから第1、第2、第3の(電磁)リニアソレノイドバルブ46j,46k,46lに供給する。第1、第2のリニアソレノイドバルブ46j,46kは、そのソレノイドの励磁に応じて決定される出力圧を第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fに作用させ、よって油路46dから送られるPH圧の作動油を可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室26a21,26b21に供給し、それに応じてプーリ側圧を発生させる。
【0040】
従って、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪12に伝達するレシオ(変速比)を無段階に変化させることができる。
【0041】
CRバルブ46hの出力(CR圧)は、油路46mを介してCRシフトバルブ46nにも接続され、そこからマニュアルバルブ46oを介して前後進切換装置28の前進クラッチ28aのピストン室(FWD)28a1と後進ブレーキクラッチ28bのピストン室(RVS)28b1に接続される。
【0042】
マニュアルバルブ46oは、既述のように、運転者によって操作(選択)されたレンジセレクタ44の位置に応じてCRシフトバルブ46nの出力を前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28a1,28b1のいずれかに接続する。
【0043】
また、PH制御バルブ46cの出力は、油路46pを介してTCレギュレータバルブ46qに送られ、TCレギュレータバルブ46qの出力はLCコントロールバルブ46rを介してLCシフトバルブ46sに接続される。
【0044】
LCシフトバルブ46sの出力は、一方ではトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室24c1に接続されると共に、他方ではその背面側の室24c2に接続される。
【0045】
LCシフトバルブ46sを介して作動油がピストン室24c1に供給される一方、背面側の室24c2から排出されると、ロックアップクラッチ24cが係合(オン)され、背面側の室24c2に供給される一方、ピストン室24c1から排出されると、解放(オフ)される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量は、ピストン室24c1と背面側の室24c2に供給される作動油の量によって決定される。
【0046】
CRバルブ46hの出力は、油路46tを介してLCコントロールバルブ46rとLCシフトバルブ46sに接続されると共に、油路46tには、第4のリニアソレノイドバルブ46uが介挿される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量は、第4のリニアソレノイドバルブ46uのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0047】
図1の説明に戻ると、エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはエンジン回転数センサ(クランク角センサ)50が設けられている。エンジン回転数センサ50は、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。
【0048】
DBW機構16のアクチュエータには、スロットル開度センサ54が設けられている。スロットル開度センサ54は、アクチュエータの回転量を通じてスロットルバルブの開度THに比例した信号を出力する。また、アクセルペダル56の付近には、アクセル開度センサ56aが設けられている。アクセル開度センサ56aは、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
【0049】
エンジン回転数センサ50などの出力は、エンジンコントローラ(制御手段)66に送られる。エンジンコントローラ66は、マイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。また、エンジンコントローラ66は、エンジンの回転数(アイドル回転数)を制御する。
【0050】
メインシャフトMSには、NTセンサ(回転数センサ)70が設けられている。NTセンサ70は、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数NT(変速機入力軸回転数)、より具体的には、前進クラッチ28aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0051】
CVT26のドライブプーリ26aの近傍には、NDRセンサ(回転数センサ)72が設けられている。NDRセンサ72は、ドライブプーリ26aの回転数NDR、換言すれば前進クラッチ28aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力する。
【0052】
ドリブンプーリ26bの近傍には、NDNセンサ(回転数センサ)74が設けられている。NDNセンサ74は、ドリブンプーリ26bの回転数NDN、即ち、カウンタシャフトCSの回転数(変速機出力軸回転数)を示すパルス信号を出力する。セカンダリシャフトSSのギヤ30bの付近には、車速センサ(回転数センサ)76が設けられている。車速センサ76は、セカンダリシャフトSSの回転数を通じて車速Vを示すパルス信号を出力する。
【0053】
レンジセレクタ44の付近には、レンジセレクタスイッチ44aが設けられている。レンジセレクタスイッチ44aは、運転者によって選択されたR,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
【0054】
図2に示すように、油圧供給機構46におけるCVT26のドリブンプーリ26bに通じる油路には、油圧センサ82が配置されている。油圧センサ82は、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に供給される油圧に応じた信号を出力する。また、リザーバ46bには、油温センサ84が配置されている。油温センサ84は、油温(作動油ATFの温度TATF)に応じた信号を出力する。なお、油圧センサ82は、図2に想像線で示す如く、前進クラッチ28aのピストン室28a1とマニュアルバルブ46oの間の油路、あるいはトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cに通じる油路に配置してその部位の油圧を検出するようにしても良い。
【0055】
NTセンサ70などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、図1に示すシフトコントローラ(制御手段)90に送られる。シフトコントローラ90もマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ66と通信自在に構成される。シフトコントローラ90は、それら検出値に基づき、油圧供給機構46の第1、第4のオン・オフソレノイド46uなどの電磁ソレノイドを励磁・非励磁して前後進切換装置28とCVT26とトルクコンバータ24の動作を制御する。
【0056】
次に、CVT26の変速制御系を説明する。図3は、CVTの変速制御系を示すブロック図である。CVT26の変速比を制御するシフトコントローラ90は、同図に示すように、目標変速比決定部M1と、変速比フィードバックPID制御部M2と、変速比フィードバックゲイン低減制御実行判断部M3とを備える。
【0057】
目標変速比決定部M1は、NDRセンサ72で検出されたドライブプーリ26aの回転数(DRプーリ回転数)、NDNセンサ74で検出されたドリブンプーリ26bの回転数(DNプーリ回転数)、車速、アクセルペダル開度等に基づいてCVT26の目標変速比を算出する。減算器91は、目標変速比決定部M1で算出した目標変速比から、ドライブプーリ26aの回転数およびドリブンプーリ26bの回転数に基づいて算出した実変速比を減算することで、変速比の偏差を算出する。変速比フィードバックPID制御部M2は、減算器91から入力された変速比の偏差をPID処理し、当該偏差をゼロに収束させるためのPIDフィードバック制御量を算出する。その際に、変速比フィードバックゲイン低減制御実行判断部M3は、変速比フィードバックゲイン低減制御を実行する旨の判断をした場合に当該変速比フィードバックゲイン低減制御を実行することで、フィードバックゲイン(PIDゲイン)の値を持ち替えることができる。変速比フィードバックゲイン低減制御では、具多的には、実変速比が所定変速比より大きいか否かを判断し、実変速比が所定変速比より小さい場合には、実変速比が所定変速比より大きい場合よりもフィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する。変速比フィードバックPID制御部M2から出力されたPIDフィードバック制御量は、フィルタ94でノイズ成分を除去されて、油圧供給機構46へ油圧の制御値として与えられる。
【0058】
そして、本実施形態では、シフトコントローラ90は、NDRセンサ(回転数センサ)72に故障などの不具合が生じていると判断する場合、変速比フィードバックゲイン低減制御実行判断部M3による変速比フィードバックゲイン低減制御の実行判断がされる。図4は、変速比フィードバックゲイン低減制御を行う場合と行わない場合のエンジン回転数(NE)、ドライブプーリ回転数(NDR)、CVT26のレシオ(R)、フィードバック油圧(P)それぞれの変化を示すタイミングチャートである。同図のグラフに示す各値の変化では、変速比フィードバックゲイン低減制御を行わない場合(制御無)の値の変化を実線で示し、変速比フィードバックゲイン低減制御を行う場合(制御有)の値の変化を点線で示している。また、NDRセンサ72の検出値及び当該検出値に基づく計算値を一点鎖線で示している。
【0059】
まず、NDRセンサ72に故障などの不具合が発生している場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を行わない場合(従来手法による通常の変速制御を行う場合)について説明する。この場合は、時刻t1にNDRセンサ72に故障などの不具合が発生することで、NDRセンサ72で検出されるドライブプーリ回転数(NDR)の検出値が実回転数よりも低くなり、それにより、NDRセンサ72の検出値に基づいて算出したCVT26のレシオ(実レシオ)と目標レシオに差(差分)が生じる。そうすると、この実レシオと目標レシオの差分を埋めるために、フィードバック油圧を増加させ、CVT26のレシオをロー側のレシオ(大きな変速比)に変速させる制御が行われる。これにより、CVT26のレシオがロー側のレシオに変速することでエンジン10の回転数が上昇する。NDRセンサ72が故障しているため正常のドライブプーリ回転数が算出されず、そのままロー側のレシオへの変速がさらに続き、最終的にはCVT26が機械的(構造的)に取り得る最大のレシオ(最もロー側のレシオ:LOW端レシオ)になるまで変速し続ける。
【0060】
次に、NDRセンサ72が故障している場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を行う場合(本発明の手法による変速制御を行う場合)について説明する。この場合、時刻t1にNDRセンサ72に故障などの不具合が発生することで、NDRセンサ72で検出されるドライブプーリ回転数(NDR)の検出値が実回転数よりも低くなり、それにより、変速比フィードバックゲイン低減制御実行判断部M3が変速比フィードバックゲイン低減制御を実行する旨の判断がされる。これにより、変速比フィードバックゲイン低減制御によって変速比フィードバックゲインが低減する(フィードバックゲインの値がより低い値に持ち替えられる)ことで、フィードバック油圧の増加が抑制されて、CVT26のレシオを過剰にロー側のレシオに変速させる制御が行われることを回避できる。これにより、CVT26の実レシオが過度に上昇せずに済むので、ドライブプーリ回転数(実回転数)の過度の上昇を防止することができる。
【0061】
すなわち、NDRセンサ72の検出値が、CVT26が機械的(構造的)に取り得る最小のレシオ(図4に示すOD端レシオ)よりも更にOD側(小さい変速比)に遷移する場合には、NDRセンサ72に故障などの不具合が生じていると判断して、過度なロー側のレシオへの変速を抑制できるようにする。これにより、NDRセンサ72の故障が確定するまでの間、過度なロー側のレシオへの変速が行われることを防止できるので、その間に安全に車両を動かすことができるような車両挙動の制御が可能となる。
【0062】
ここで、シフトコントローラ90による変速比フィードバックゲイン低減制御の実行判断について説明する。図5は、CVT26の変速特性の例を示すグラフ(変速マップ)である。CVT26の変速比は、出力回転数(ドリブンプーリ26bの回転数)に対する入力回転数(ドライブプーリ26aの回転数)の比で与えられる。同図のグラフにおいて、横軸は、車両の車速V(CVT26の出力回転数に対応するパラメータ)を示す。また、縦軸は、CVT26の入力回転数(ドライブプーリ回転数NDR)の設定値ないし目標値(以下、単に「NDR設定値」という。)を示す。また、このグラフにおいて、最大変速比を示す傾きとしてロー(LOW)端のラインL1を示し、また、最小変速比を示す傾きとしてオーバードライブ(OD)端のラインL2を示す。ここでは説明の簡易化のため、アクセル開度AP1~AP4についての変速特性を図示する(尚、AP4>AP3>AP2>AP1とする)。また、同図のグラフに点線で示すラインL3(APOFF)は、運転者によるアクセルペダル56の操作がされていない状態(アクセルオフ、すなわちアクセル開度センサ56aで検出されるアクセル開度APが実質的にゼロ)のラインである。
【0063】
例えば、ある車速Vにおいて(車速Vを一定として)アクセル開度APが変わった場合、シフトコントローラ90は、NDR設定値を該アクセル開度APに対応する値に変更し、CVT26の入力回転数NDRが該変更されたNDR設定値に追従するようにCVT26を制御する(変速比を変える)。また、例えば、あるアクセル開度APにおいて(アクセル開度APを一定として)車速Vが変わる場合、シフトコントローラ90は、NDR設定値を該車速Vに対応する値に変更し、CVT26の入力回転数NDRが該変更されたNDR設定値に追従するようにCVT26を制御する。
【0064】
車両の通常走行モードでは、CVT26は、図5に示す変速マップに従って制御される(走行中のアクセル開度APおよび車速Vに基づいてCVT26の変速比が変更される。)。ここでは説明の容易化のため、4つのアクセル開度AP1~AP4についての変速特性を図示したが、実際には更に多数の変速特性が予め用意され或いは演算処理により取得されうる。
【0065】
CVT26のレシオ(変速比)は、グラフにおけるLOW端レシオのラインL1とOD端レシオのラインL2との間で連続的に変化し、この範囲内で通常の運転(通常走行モード)を行うことができる。そして、ここでいうLOW端レシオ(ラインL1)は、CVT26がその構造上取りうる(機械的に設定が可能な)最大のレシオであり、OD端レシオ(ラインL2)は、CVT26がその構造上取りうる(機械的に設定が可能な)最小のレシオである。したがって、シフトコントローラ90による計算値や理論値では、CVT26のレシオがLOW端レシオよりも大きな値となる範囲(グラフにおけるラインL1よりも低車速側又は高回転数側の範囲)の値やOD端レシオよりも小さな値となる範囲(グラフにおけるラインL2よりも高車速側又は低回転数側の範囲)の値となる場合があるが、CVT26で実際に使用することが可能なレシオは、LOW端レシオのラインL1とOD端レシオのラインL2との間の範囲である。
【0066】
また、CVT26のレシオがOD端レシオよりも大きな値となる範囲(グラフにおけるラインL2の上側、すなわち低車速側又は高回転数側の領域)の値であっても、アクセル開度AP1のラインよりもレシオが小さな値となる範囲(グラフにおけるラインAP1の下側、すなわち高車速側かつ低回転側の領域)は、車両の挙動の安定性や安全性の観点から制御上使用しないレシオの領域である。すなわちこの領域S1(グラフの網掛け領域)は、シフトコントローラ90によるレシオの目標値や実レシオの値としては実質的に設定されることが無い範囲である。
【0067】
なお、図5のグラフでは、車速V1以下の低車速領域では、APOFFのラインL3がAP1のラインと一致しておらずAP1のラインよりもロー側に乖離していることで、車速V1未満の領域では、AP1上のレシオよりもラインL3(APOFF)上のレシオの方が大きなレシオ(ロー側のレシオ)となるように設定されている。その一方で、車速V1以上の領域では、APOFFのラインL3がAP1のラインと一致しており、目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域(S1)は、アクセル開度APが実質的に全閉状態のときの変速比以下の領域である。このように設定されている理由は、車速V1以下の低車速領域でのレシオをよりロー側に変速させておくことで、車両の停止時のロー保持性能(車両の停止時に油圧回路の油圧が下がってレシオがハイ側に移行してしまうことを防止できる性能をいう)や、再加速の際の応答性の向上を図ることを目的としたものである。
【0068】
また、図5のグラフ(目標変速マップ)において制御上使用しない変速比の領域(S1)は、所定車速V1以下でかつトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cがオフのときに対しては、ロックアップクラッチ24cがオンの状態でのアクセル開度APと車速Vに基づく目標変速マップ上の値で設定されている。
【0069】
そして、本実施形態では、シフトコントローラ90は、下記の条件1又は条件2のいずれかの条件が成立する場合に上記の変速比フィードバックゲイン低減制御を実施する。
【0070】
〔条件1〕
シフトコントローラ90は、NDRセンサ72の検出値に基づいて算出したCVT26のレシオがOD端レシオ(ラインL2)よりも小さなレシオ(領域S2内のレシオ)である(条件1)場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を実施する。
【0071】
〔条件2〕
シフトコントローラ90は、NDRセンサ72の検出値に基づいて算出したCVT26のレシオが領域S1内のレシオである(条件2)場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を実施する。すなわち、車速V1以上の領域では、CVT26のレシオがラインL3(APOFF)及びアクセル開度AP1以下のレシオである場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を実施し、車速V1以下の領域では、CVT26のレシオがアクセル開度AP1以下のレシオである場合に変速比フィードバックゲイン低減制御を実施する。
【0072】
また、本実施形態では、シフトコントローラ90は、上記条件1又は条件2のいずれかに該当する場合であっても、車両が走行している路面が低摩擦係数路(低μ路)であるとの判定がされる場合には、変速比フィードバックゲイン低減制御を行わない。ここでの車両が走行している路面が低摩擦係数路(低μ路)であるとの判定を行う低摩擦係数路判定部は、図示及び詳細な説明は省略するが、例えば、車両の駆動輪12の駆動力を検出する駆動力検出部と、駆動輪12のスリップ率を検出するスリップ率検出部と、駆動輪12の駆動力とスリップ率との相関関係に基いて路面のμを検出するμ検出部とで構成することができ、この低摩擦係数路判定部による低μ路判定処理では、例えば特開平8-300964号公報に示されるような公知の手法を用いて、当該車両の走行路が滑りやすい(摩擦係数μの低い)低μ路であるか否かに基づいて判断される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態の車両が備えるシフトコントローラ90は、NDRセンサ72の検出値に基づいて算出したCVT26のレシオ(実変速比)が所定変速比以下である場合には、当該実変速比が所定変速比より大きい場合と比較して油圧のフィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行う。
【0074】
NDRセンサ72の検出値に基づいて算出したCVT26のレシオ(実変速比)が所定変速比以下である場合には、CVT26のドライブプーリ26aの回転数を検出するNDRセンサ72に故障などの不具合が生じているおそれが高い。そのため、当該実変速比が所定変速比より大きい場合と比較してフィードバック制御における変速比のフィードバックゲインの値を小さな値に設定する変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことで、従来制御のようにCVT26のレシオ(変速比)が過剰にロー側(低速側)のレシオに変速されることを防止することができる。
【0075】
また、本実施形態のシフトコントローラ90での制御によれば、設置する回転数センサの数を増やしたり、複雑な制御を行ったりすることなく、NDRセンサ72の故障を適切に判断してCVT26のレシオ(変速比)が過剰にロー側(低速側)のレシオに変速されることを防止できるので、車両のコストアップを抑制しながら、NDRセンサ72に故障などの異常が生じた場合に、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0076】
そして、上記の所定変速比は、CVT26が構造上取り得る変速比か又はそれよりも小さい変速比であってよく、本実施形態では、CVT26が構造上取り得る最も小さな変速比(OD端変速比)である。
【0077】
この構成によれば、所定変速比は、CVT26が構造上取り得る最も小さな変速比(OD端変速比)であることで、実変速比がこの所定変速比以下である場合には、NDRセンサ72に故障などの不具合が発生している可能性が高い。したがって、NDRセンサ72に故障などの不具合が生じていることを適切に判断して変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことができるので、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態では、シフトコントローラ90は、CVT26の目標変速比を得るための目標変速マップを有し、この目標変速マップ上の目標変速比(NDRセンサ72の検出値に基づいて算出された目標変速比)が、制御上使用しない変速比の領域内であるか、又は、CVT26が構造上取り得る最も小さな変速比よりも大きい変速比である場合(領域S1)に上記の変速比フィードバックゲイン低減制御を行う。
【0079】
この構成によれば、目標変速マップ上の目標変速比が、制御上使用しない変速比の領域内であるか、又は、CVT26が構造上取り得る最も小さな変速比よりも大きい変速比の場合には、NDRセンサ72に故障などの不具合が発生している可能性が高い。したがって、NDRセンサ72に故障などの不具合が生じていることを適切に判断して変速比フィードバックゲイン低減制御を行うことができるので、車両を安全な場所に停止させるまでの間、車両の挙動の安定性を確保することが可能となる。
【0080】
また、本実施形態では、所定車速V1以上のとき、目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域である領域S1は、アクセル開度APが実質的に全閉(オフ)状態のときの変速比(ラインL3)以下の領域である。
【0081】
また、本実施形態では、目標変速マップにおいて制御上使用しない変速比の領域である領域S1は、所定車速V1以下でかつロックアップクラッチ24cがオフのときは、ロックアップクラッチ24cがオンの状態でのアクセル開度APと車速Vに基づく目標変速マップ上の値で設定されている。
【0082】
車両の車速Vが所定車速V1以下の低車速状態では、車両に搭載したトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cがオフ状態となるため、それに起因して、CVT26の入力回転数であるドライブプーリ回転数に一時的な回転数変化(変速比)が生じるおそれがある。そのため、所定車速V1以下でかつロックアップクラッチ24cがオフの時はロックアップクラッチ24cがオンの状態でのアクセル開度APと車速Vに基づいた変速マップで設定されるようにすることで、トルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cがオフ状態となることに起因する一時的なドライブプーリ回転数の変化の影響を受けずに、NDRセンサ72に故障などの不具合が生じていることを適切に判断できるようにしている。
【0083】
また、本実施形態では、シフトコントローラ90は、車両が走行している路面が低摩擦係数路であるとの判定がされる場合、上記の変速比フィードバックゲイン低減制御を行わないようにしている。
【0084】
車両が走行している路面が低摩擦係数路である場合には、駆動輪12のスリップなどによって車輪速又は車速やそれらの加速度などの値に急激な変動が生じることがあり、それに起因して、NDRセンサ72で検出されるCVT26の回転数に一時的な回転数変化(変速比)が生じるおそれがある。そのため、車両が走行している路面が低摩擦係数路である場合には、変速比フィードバックゲイン低減制御を行わないようにすることで、車両が走行している路面が低摩擦係数路であることに起因する一時的なCVT26の回転数変化の影響を受けずに、NDRセンサ72に故障などの不具合が生じていることを適切に判断できるようにしている。
【0085】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、故障判断の対象となる回転数センサがドライブプーリ26aの回転数を検出するNDRセンサ72である場合を示したが、これ以外にも、本発明における故障判断の対象となる回転数センサは、ドリブンプーリ26bの回転数を検出するNDNセンサ74であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 自動変速機
10 エンジン
12 駆動輪
16 DBW機構
20 インジェクタ
22 クランクシャフト
24 トルクコンバータ
24a ポンプ・インペラ
24b タービン・ランナ
24c ロックアップクラッチ
26 変速機構(CVT)
26a ドライブプーリ
26b ドリブンプーリ
26c ベルト(動力伝達部材)
28 前後進切換装置
32 ディファレンシャル
44 レンジセレクタ
44a レンジセレクタスイッチ
46 油圧供給機構
50 エンジン回転数センサ
54 スロットル開度センサ
56 アクセルペダル
56a アクセル開度センサ
66 エンジンコントローラ
70 NTセンサ(回転数センサ)
72 NDRセンサ(回転数センサ)
74 NDNセンサ(回転数センサ)
76 車速センサ
82 油圧センサ
84 油温センサ
90 シフトコントローラ
MS メインシャフト
CS カウンタシャフト
SS セカンダリシャフト
M1 目標変速比決定部
M2 変速比フィードバックPID制御部
M3 変速比フィードバックゲイン低減制御実行判断部
図1
図2
図3
図4
図5