(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182405
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】バイオセンサの電極用コーティング剤およびバイオセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20231219BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N27/327 353B
G01N27/327 353F
G01N27/327 353A
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095995
(22)【出願日】2022-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.sit.ac.jp/forum/pdf/titles.pdf,(第19回 埼玉工業大学 若手研究フォーラム2021の発表題目一覧),令和3年7月30日掲載 〔刊行物等〕 第19回埼玉工業大学 若手研究フォーラム2021研究発表論文集,第46~47頁,埼玉工業大学 先端科学研究所,令和3年8月11日発行 〔刊行物等〕 第19回埼玉工業大学 若手研究フォーラム2021(WEB発表併用),埼玉工業大学 先端科学研究所 主催,令和3年8月11日開催 〔刊行物等〕 http://conference.wdc-jp.com/jsac/nenkai/70/program/program_flash.html,(日本分析化学会第70年会の講演プログラム速報版),令和3年7月26日掲載 〔刊行物等〕 https://iap-jp.org/jsac/nenkai/program/contents/abstract/program_download.php?no=Y1017,(日本分析化学会第70年会の講演要旨集),令和3年9月8日掲載 〔刊行物等〕 日本分析化学会第70年会(WEB開催),令和3年9月22日開催 〔刊行物等〕 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsac82touron/proceedings/list,(日本分析化学会 第82回分析化学討論会のWeb版講演要旨集),令和4年5月2日掲載 〔刊行物等〕 日本分析化学会 第82回分析化学討論会,令和4年5月14日開催
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515230372
【氏名又は名称】学校法人智香寺学園埼玉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 千穂
(72)【発明者】
【氏名】高村 直宏
(72)【発明者】
【氏名】竹田 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 修
(57)【要約】
【課題】妨害物質による影響を抑えて測定対象物質の正確な測定を可能にするバイオセンサの電極用コーティング剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るバイオセンサの電極用コーティング剤は、水系媒体と、前記水系媒体中に分散したアニオン性水系ウレタン樹脂を含む。該コーティング剤は、前記水系媒体中に分散したノニオン性水系ウレタン樹脂をさらに含んでもよい。該コーティング剤は、前記水系媒体中に分散したカチオン性水系ウレタン樹脂をさらに含み、前記カチオン性水系ウレタン樹脂のカチオン性基の数(Nc)に対する前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数(Na)の比(Na/Nc)が0.8以上でもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体と、前記水系媒体中に分散したアニオン性水系ウレタン樹脂を含む、バイオセンサの電極用コーティング剤。
【請求項2】
前記水系媒体中に分散したノニオン性水系ウレタン樹脂をさらに含む、請求項1に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
【請求項3】
前記水系媒体中に分散したカチオン性水系ウレタン樹脂をさらに含み、前記カチオン性水系ウレタン樹脂のカチオン性基の数(Nc)に対する前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数(Na)の比(Na/Nc)が0.8以上である、請求項1に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
【請求項4】
前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数が0.05mmol/g以上5.0mmol/g以下である、請求項1に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
【請求項5】
前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電極用コーティング剤によりコーティングされた電極を備えるバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサの電極にコーティングされるコーティング剤、およびそれを用いてコーティングされた電極を備えるバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、酵素や抗体などの生体分子を検知素子として、その優れた分子認識能力を利用して測定対象物質を選択的に計測するセンサである。電気化学的原理を用いたバイオセンサにおいては、電極上に担持された検知素子である生体分子が、測定対象物質を分子認識することにより生じる電気的信号を電極により検出し、これにより測定対象物質の計測がなされる。
【0003】
バイオセンサにおけるコーティング剤としてポリウレタンを用いた技術が提案されている。例えば、特許文献1には、電気化学的グルコースセンサ用親水性ポリウレタン膜として、乾燥自重の10~50%の水を吸収し、グルコース拡散係数に対する酸素拡散係数の比が4000以下である親水性ポリウレタン組成物からなる膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液などの体液を検体とする場合、体液にはグルコースなどの測定対象物質だけでなく、アスコルビン酸や尿酸などの妨害物質が含まれることがあり、妨害物質により正確な測定が妨げられる。
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑みてなされたものであり、妨害物質による影響を抑えて測定対象物質の正確な測定を可能にするバイオセンサの電極用コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 水系媒体と、前記水系媒体中に分散したアニオン性水系ウレタン樹脂を含む、バイオセンサの電極用コーティング剤。
[2] 前記水系媒体中に分散したノニオン性水系ウレタン樹脂をさらに含む、[1]に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
[3] 前記水系媒体中に分散したカチオン性水系ウレタン樹脂をさらに含み、前記カチオン性水系ウレタン樹脂のカチオン性基の数(Nc)に対する前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数(Na)の比(Na/Nc)が0.8以上である、[1]または[2]に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
[4] 前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数が0.05mmol/g以上5.0mmol/g以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
[5] 前記アニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のバイオセンサの電極用コーティング剤。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の電極用コーティング剤によりコーティングされた電極を備えるバイオセンサ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、アニオン性水系ウレタン樹脂を含むコーティング剤からなるコーティング膜が妨害物質の透過を抑制することにより、妨害物質による影響を抑えて測定対象物質の正確な測定を可能にする。また、検知素子である生体分子を該コーティング剤により固定することができ、バイオセンサの安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図3】実施例2のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図4】実施例3のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図5】実施例4のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図6】比較例1のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図7】比較例2のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図8】比較例3のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図9】比較例4のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図10】実施例5のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図11】実施例6のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図12】実施例7のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図13】実施例8のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図14】実施例9のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るバイオセンサの電極用コーティング剤(以下、単にコーティング剤ということがある。)は、水系媒体と、該水系媒体中に分散したアニオン性水系ウレタン樹脂を含む。一実施形態において、コーティング剤は、アニオン性水系ウレタン樹脂とともに、水系媒体中に分散したノニオン性水系ウレタン樹脂および/またはカチオン性水系ウレタン樹脂を含んでもよい。
【0011】
水系媒体とは、水を含む媒体であり、本実施形態に係るコーティング剤の効果を損なわない範囲で、水とともに低級アルコール(例えば、炭素数1~3のアルコール)などの水溶性の有機溶剤を含んでもよい。酵素や抗体などのタンパク質上にコーティングされるコーティング剤においては、水系媒体は、水単独、または水を主成分とすることが好ましく、水系媒体100質量%に対する水の量は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0012】
アニオン性水系ウレタン樹脂は、アニオン性基を有する水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なアニオン性ウレタン樹脂である。コーティング剤がアニオン性水系ウレタン樹脂を含むことにより、妨害物質の透過を抑制することができ、また検知素子である生体分子を該コーティング剤により固定することができる。
【0013】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基など、およびこれらの塩が挙げられる。これらのアニオン性基は、いずれか1種または2種以上組み合わせてもよい。以下、「カルボキシル基」、「スルホン酸基」および「リン酸基」は、特に断らない限り、それらの塩も包含する概念(即ち、カルボキシル基および/またはその塩、スルホン酸基および/またはその塩、リン酸基および/またはその塩の意味)で用いる。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0014】
アニオン性水系ウレタン樹脂において、アニオン性基の数は、特に限定されないが、0.05mmol/g以上5.0mmol/g以下であることが好ましい。アニオン性基の数が0.05mmol/g以上であることにより、妨害物質の透過を抑制する効果を高めることができる。アニオン性基の数は、より好ましくは0.1mmol/g以上であり、更に好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、3.0mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは1.0mmol/g以下である。
【0015】
本明細書において、アニオン性基の数は、アニオン性水系ウレタン樹脂の不揮発分あたりのアニオン性基の物質量(質量(g)あたりのmmol)である。ここで、不揮発分とは蒸発残分を意味し、固形分ともいう。アニオン性基の数は、アニオン性水系ウレタン樹脂製造時の活性水素原子およびアニオン性基を有する化合物の使用量から下記式の計算によって算出することができる。2種類以上の活性水素原子およびアニオン性基を有する化合物を用いる場合には下記式をそれぞれ計算し、合計値をアニオン性基の数とする。
【数1】
【0016】
アニオン性水系ウレタン樹脂としては、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートと、活性水素原子およびアニオン性基を有する化合物とを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、(1)2個以上の活性水素原子含有化合物、有機ポリイソシアネート、ならびに、活性水素原子およびアニオン性の塩形成基を有する化合物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに塩形成剤を添加し、水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、アニオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。あるいは、(2)2個以上の活性水素原子含有化合物、および、有機ポリイソシアネートから、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに、活性水素原子およびアニオン性基を有する化合物を反応させた後、水中に乳化させることにより、アニオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。
【0017】
上記2個以上の活性水素原子含有化合物とは、分子内に活性水素原子を2個以上有する化合物であり、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができる。例えば、分子末端または分子内に2個以上のヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するものが挙げられる。好ましいのは、分子末端に2個以上のヒドロキシル基を有する化合物である。
【0018】
2個以上の活性水素原子含有化合物の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、それらのオキシアルキレン誘導体又はそれらの多価アルコール及びオキシアルキレン誘導体と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、若しくは多価カルボン酸エステルからのエステル化物、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール、大豆油ポリオール、フッ素ポリオール、シリコンポリオール等のポリオール化合物やその変性体が挙げられる。該具体例としては、また、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン化合物、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン化合物、ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環族ポリアミン化合物、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジド化合物等の多価アミン化合物が挙げられる。なお、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。これらの活性水素原子含有化合物はいずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されず、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができ、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0020】
有機ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)ポリメリックMDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加MDI(H12MDI)、リジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナフタレンジイソシアネート、およびそれらのイソシアヌレート体、アダクト体、ビュレット体、アロフェネート体、カルボジイミド体などが挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
活性水素原子およびアニオン性基を有する化合物としては、活性水素原子と塩形成基を有する化合物として、例えば、グリコール酸、リンゴ酸、グリシン、アミノ安息香酸、アラニン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のヒドロキシ酸、アミノカルボン酸、多価ヒドロキシ酸類などのカルボキシル基を有する化合物、アミノエチルスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等のアミノスルホン酸、ヒドロキシスルホン酸類等のスルホン酸基を有する化合物が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。また、それに対応する塩形成剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの3級アミン化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0022】
鎖伸張剤としての多価アミン化合物としては、上記の脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物、脂環族ポリアミン化合物、ポリヒドラジド化合物などが挙げられる。
【0023】
ノニオン性水系ウレタン樹脂は、アニオン性基およびカチオン性基を有しない非電荷の水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なノニオン性ウレタン樹脂である。コーティング剤がノニオン性水系ウレタン樹脂を含むことにより、コーティング剤の成膜性を向上することができる。
【0024】
ノニオン性水系ウレタン樹脂としては、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートとを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、(1)2個以上の活性水素原子含有化合物、有機ポリイソシアネート、ならびにモノアルコールまたは多価アルコールのエチレンオキサイド単独もしくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーを水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、ノニオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。あるいは、(2)2個以上の活性水素原子含有化合物、および有機ポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーを界面活性剤を用いて水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、ノニオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。
【0025】
ここで、ノニオン性水系ウレタン樹脂の合成に用いられる、2個以上の活性水素原子含有化合物、有機ポリイソシアネート、および多価アミン化合物の詳細および具体例については、アニオン性水系ウレタン樹脂において上述したとおりである。
【0026】
カチオン性水系ウレタン樹脂は、カチオン性基を有する水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なカチオン性ウレタン樹脂である。コーティング剤がカチオン性水系ウレタン樹脂を含むことにより、コーティング剤の成膜性を向上することができ、皮膜形成温度を低くして、酵素などのタンパク質の変性による失活を抑えることができる。
【0027】
カチオン性基としては、第四級アンモニウム基などが挙げられる。カチオン性水系ウレタン樹脂において、カチオン性基の数は、特に限定されず、例えば、0.05mmol/g以上5mmol/g以下でもよい。カチオン性基の数は、より好ましくは0.1mmol/g以上であり、更に好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、3mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは1mmol/g以下である。
【0028】
本明細書において、カチオン性基の数は、カチオン性水系ウレタン樹脂の不揮発分あたりのカチオン性基の物質量(質量(g)あたりのmmol)である。カチオン性基の数は、カチオン性水系ウレタン樹脂製造時の活性水素原子およびカチオン性基を有する化合物の使用量から下記式の計算によって算出することができる。2種類以上の活性水素原子およびカチオン性基を有する化合物を用いる場合には下記式をそれぞれ計算し、合計値をカチオン性基の数とする。
【数2】
【0029】
カチオン性水系ウレタン樹脂としては、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートと、活性水素原子およびカチオン性基を有する化合物とを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、(1)2個以上の活性水素原子含有化合物、有機ポリイソシアネート、ならびに、活性水素原子およびカチオン性の塩形成基を有する化合物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに塩形成剤を添加し、水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、カチオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。あるいは、(2)2個以上の活性水素原子含有化合物、および、有機ポリイソシアネートから、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに、活性水素原子およびカチオン性基を有する化合物を反応させた後、水中に乳化させることにより、カチオン性水系ウレタン樹脂の水分散体が得られる。
【0030】
ここで、カチオン性水系ウレタン樹脂の合成に用いられる、2個以上の活性水素原子含有化合物、有機ポリイソシアネート、および多価アミン化合物の詳細および具体例については、アニオン性水系ウレタン樹脂において上述したとおりである。
【0031】
活性水素原子およびカチオン性基を有する化合物としては、活性水素原子と塩形成基を有する化合物として、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミンなどのN-アルキルジアルカノールアミンなどが挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。また、それに対応する塩形成剤としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、メチルクロライド、ベンジルクロライドなどの有機酸類、ギ酸、塩酸、燐酸、硝酸などの無機酸類、反応性ハロゲン原子を有する化合物が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係るコーティング剤において、アニオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、特に限定されず、例えば、1~60質量%でもよく、1~10質量%でもよい。コーティング剤の不揮発分100質量%中に含まれるアニオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、例えば、20~100質量%でもよく、50~100質量%でもよい。
【0033】
コーティング剤がアニオン性水系ウレタン樹脂とともにノニオン性水系ウレタン樹脂を含む場合、ノニオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、特に限定されず、例えば、0.5~60質量%でもよく、1~10質量%でもよい。ノニオン性水系ウレタン樹脂を含む場合における、コーティング剤の不揮発分100質量%中に含まれるノニオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、例えば、1~50質量%でもよく、5~20質量%でもよい。
【0034】
アニオン性水系ウレタン樹脂とノニオン性水系ウレタン樹脂の配合比(不揮発分としての質量比)は、特に限定されず、ノニオン性水系ウレタン樹脂の質量(Mn)に対するアニオン性水系ウレタン樹脂の質量(Ma)の比(Ma/Mn)が0.3~10でもよい。妨害物質の透過抑制効果の観点からは、アニオン性水系ウレタン樹脂を主成分とすることが好ましく、比(Ma/Mn)は1.0~5.0であることが好ましく、より好ましくは1.5~4.0である。
【0035】
コーティング剤がアニオン性水系ウレタン樹脂とともにカチオン性水系ウレタン樹脂を含む場合、カチオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、例えば、0.3~60質量%でもよく、0.5~10質量%でもよい。カチオン性水系ウレタン樹脂を含む場合における、コーティング剤の不揮発分100質量%中に含まれるカチオン性水系ウレタン樹脂の含有量は、例えば、1~50質量%でもよく、5~20質量%でもよい。
【0036】
アニオン性水系ウレタン樹脂とカチオン性水系ウレタン樹脂との比率は次のように設定されることが好ましい。すなわち、カチオン性水系ウレタン樹脂のカチオン性基の数(Nc)に対するアニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数(Na)の比(Na/Nc)が0.8以上であることが好ましい。このような比で併用することにより、妨害物質の透過抑制効果を高めることができる。また、成膜に必要な温度を下げることができる。比(Na/Nc)は、より好ましくは0.8~50であり、更に好ましくは1.0~20.0であり、更に好ましくは1.5~10.0である。
【0037】
本実施形態に係るコーティング剤には、上記成分の他、例えば、レベリング剤、分散剤、架橋剤、造膜助剤、消泡剤、防腐剤などの添加剤を、本実施形態の目的を損なわない範囲で加えてもよい。
【0038】
本実施形態に係るコーティング剤は、バイオセンサの電極をコーティングするために用いられる。バイオセンサは、酵素や抗体などの生体分子を検知素子として、該生体分子の分子認識能力を利用して測定対象物質(目的物質)を選択的に計測するセンサである。電気化学的原理を用いたバイオセンサでは、電極上に担持された検知素子である生体分子が、測定対象物質を分子認識することにより生じる電気的信号(例えば酵素反応によって生じる電流)を電極により検出し、これにより測定対象物質の計測を行う。
【0039】
本実施形態に係るコーティング剤は、バイオセンサの電極において、検知素子としての生体分子を被覆するために用いられる。詳細には、例えば、電極上に担持された検知素子(生体分子)の上にコーティング剤をコーティングすることにより、検知素子上を被覆するコーティング膜を形成してもよい。あるいはまた、検知素子(生体分子)をコーティング剤とあらかじめ混合したものを電極上にコーティングすることにより、コーティング剤からなるウレタン樹脂で検知素子のまわりを被覆してなる層(ウレタン樹脂をマトリックスとして内部に検知素子が分散した層)を電極上に形成してもよい。これにより、例えば、血液などの体液を検体とする場合に、体液に含まれるアスコルビン酸や尿酸などの妨害物質の透過を抑制し、それらの検出を抑制することにより、妨害物質による影響を抑えることができる。
【0040】
測定対象物質としては、特に限定されず、例えば、体液を検体とする場合、体液中に存在するグルコース、乳酸、アセトン、イソプロパノール、エタノール、アセトアルデヒド、アンモニア、ノネナール、メチルメルカプタン、ニコチンなどが挙げられる。本明細書において、体液とは、動物の体内に存在する液体である血液、リンパ液、組織液などの狭義の体液だけでなく、唾液、汗、尿などの体外に分泌される分泌液も含む広義の体液である。
【0041】
検知素子としての生体分子は、測定対象物質に対して分子認識能力を持つ物質であり、例えば、酵素、抗体などのタンパク質が挙げられ、測定対象物質に応じて選択し使用される。
【0042】
妨害物質としては、例えば、体液を検体とする場合、測定対象物質とともに体液中に含まれて、測定を阻害する物質が挙げられ、例えば、アスコルビン酸、尿酸などが挙げられる。
【0043】
図1は、一実施形態に係るバイオセンサ10を模式的に示した断面図である。電気絶縁体からなる基板12上には、作用電極14、対電極16および参照電極18が設けられ、対電極16と参照電極18の間に作用電極14が配置されている。作用電極14上には、検知素子としての生体分子を含む検知素子層20が設けられている。そして、検知素子層20上に、上記コーティング剤からなるコーティング膜22が設けられ、検知素子層20の全体を被覆している。なお、図示しないが、コーティング膜22は、作用電極14、対電極16および参照電極18の全体を被覆するように設けてもよい。
【0044】
検知素子層20には、検知素子としての生体分子とともに、電子伝達物質(メディエータ)が含まれてもよい。
【0045】
コーティング膜の厚みは、特に限定されず、例えば1~1000μmでもよく、10~100μmでもよい。
【0046】
一実施形態に係るバイオセンサにおいて、検体として血液を用いて血液中のグルコースを検出する場合、検知素子としての生体分子としてはグルコースに作用する酸化酵素または脱水素酵素(すなわち、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼ)が用いられる。この場合、上記コーティング剤により形成されるコーティング膜は、グルコースを透過させる一方で、血液中に含まれる妨害物質であるアスコルビン酸および尿酸の透過を抑制することができる。そのため、妨害物質の検出を抑制しながら、目的物質であるグルコースを計測することができる。このようなバイオセンサは、糖尿病の検査に利用することができる。
【0047】
一実施形態に係るバイオセンサにおいて、検体として血液を用いて血液中の乳酸を検出する場合、検知素子としての生体分子としては乳酸に作用する酸化酵素または脱水素酵素(すなわち、ラクテートオキシダーゼまたはラクテートデヒドロゲナーゼ)が用いられる。この場合、上記コーティング剤により形成されるコーティング膜は、乳酸を透過させる一方で、血液中に含まれる妨害物質であるアスコルビン酸および尿素の透過を抑制することができる。そのため、妨害物質の検出を抑制しながら、目的物質である乳酸を計測することができる。このようなバイオセンサは、脂肪の燃焼などの運動効果の測定に利用することができる。
【実施例0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されない。
【0049】
実施例及び比較例において使用した水系ウレタン樹脂は以下のとおりである。
(アニオン性水系ウレタン樹脂)
・A-1:合成例1で得られた水分散体
・A-2:合成例2で得られた水分散体
・A-3:合成例3で得られた水分散体
・A-4:合成例4で得られた水分散体
(カチオン性水系ウレタン樹脂)
・C-1:合成例5で得られた水分散体
・C-2:合成例6で得られた水分散体
(ノニオン性水系ウレタン樹脂)
・N-1:スーパーフレックス500M(商品名)、第一工業製薬株式会社製、不揮発分=約45質量%の水分散体
【0050】
[水系ウレタン樹脂の合成]
(合成例1:アニオン性水系ウレタン樹脂A-1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリカーボネートポリオール(日本ポリウレタン工業(株)製「ニッポラン981」、活性水素原子数2)234質量部、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)11.7質量部、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)23.4質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート187質量部、メチルエチルケトン500質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.1質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミンを14.2質量部加えて中和後、水970質量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。その後、エチレンジアミンを8.2質量部添加してアミン伸長した。これを減圧、50℃の下、脱溶剤を行い、不揮発分約32質量%、不揮発分あたりのカルボキシル基数が0.37mmol/gのアニオン性水系ウレタン樹脂A-1の水分散体を得た。
【0051】
(合成例2:アニオン性水系ウレタン樹脂A-2)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリエステルポリオール(日立化成ポリマー(株)製「テスラック2508-70」、活性水素原子数2)437質量部、トリメチロールプロパン7.6質量部、ジメチロールプロピオン酸55質量部、イソホロンジイソシアネート158質量部、メチルエチルケトン284質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が0.8質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミンを24.8質量部加えて中和後、水1118質量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧、50℃の下、脱溶剤を行い、不揮発分35質量%、不揮発分あたりのカルボキシル基数が0.75mmol/gのアニオン性水系ウレタン樹脂A-2の水分散体を得た。
【0052】
(合成例3:アニオン性水系ウレタン樹脂A-3)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリエステルポリオール(日本ポリウレタン工業(株)製「ニッポラン4009」、活性水素原子数2)80.8質量部、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(株式会社ADEKA製「ポリエーテルBPX-11」、活性水素原子数2)162質量部、トリメチロールプロパン6.8質量部と、ジメチロールプロピオン酸16.2質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート135.8質量部、メチルエチルケトン321質量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基の含有量が1.5質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、鉱物油系化合物(共栄社化学(株)製「ラスミンKP-700」)20質量部を添加し、トリエチルアミン12質量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水1031質量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30質量%、不揮発分あたりのカルボキシル基数が0.29mmol/gのアニオン性水系ウレタン樹脂A-3の水分散体を得た。
【0053】
(合成例4:アニオン性水系ウレタン樹脂A-4)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリエステルポリオール(日立化成ポリマー(株)製「テスラックTA-22-572」、1,4ブタンジオール/アジピン酸;OHV=45、活性水素原子数2)250.0質量部、ポリエーテルポリオール(第一工業製薬(株)製「ポリハードナーD-340W」、EO/PO付加物、OHV=33.0、活性水素原子数2)7.15質量部、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1.79質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体153.3質量部、メチルエチルケトン330質量部を添加し、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基の含有量が4.35質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を55℃まで冷却し、メチルエチルケトオキシム18.3質量部を添加し、55℃で20分間反応させた。このときの遊離イソシアネート基含有量は2.10質量%であった。更に、40℃まで冷却した後、35質量%タウリン酸Na水溶液88.1質量部を添加し、40℃で20分間反応させた。遊離イソシアネート基含有量(固形分換算)の消失を確認した後、水で希釈し、ホモジナイザーを使用しながら水1034質量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30質量%、不揮発分あたりのスルホン酸基数が0.13mmol/gのアニオン性水系ウレタン樹脂A-4の水分散体を得た。
【0054】
(合成例5:カチオン性水系ウレタン樹脂C-1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリエステルポリオール(日立化成ポリマー(株)製「テスラック2477」、1,6-へキサンジオール及びエチレングリコールとイソフタル酸及びアジピン酸とからなるポリオール。分子量1700)300質量部、トリメチロールプロパン10質量部と、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン48質量部、イソホロンジイソシアネート190質量部、メチルエチルケトン267質量部を加え、75℃で4時間反応させ、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。得られたウレタンプレポリマーにジメチル硫酸を38.1質量部添加し、55℃で60分間反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基の含有量が2.5質量%であるカチオン性ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に水1370質量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧、50℃の下、脱溶剤を行い、揮発分30質量%、不揮発分あたりの第四級アンモニウム基数0.60mmol/gのカチオン性水系ウレタン樹脂C-1の水分散体を得た。
【0055】
(合成例6:カチオン性水系ウレタン樹脂C-2)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリカーボネートポリオール(日本ポリウレタン工業(株)製「ニッポラン981」、分子量1000)228質量部、ポリエチレングリコール(第一工業製薬(株)製「PEG」、分子量600)13.7質量部、トリメチロールプロパン5.7質量部、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン27.4質量部、イソホロンジイソシアネート147質量部、メチルエチルケトン211質量部を加え、75℃で4時間反応させ、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。得られたウレタンプレポリマーにジメチル硫酸を27.6質量部添加し、55℃で60分間反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基の含有量が2.2質量%であるカチオン性ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。その後、水1060質量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧、50℃の下、脱溶剤を行い、不揮発分26質量%、不揮発分あたりの第四級アンモニウム基数0.48mmol/gのカチオン性水系ウレタン樹脂C-2の水分散体を得た。
【0056】
[実施例1~4,比較例1~4]
(検体の調製)
測定対象物質であるグルコース、妨害物質であるL-アスコルビン酸および尿酸を、下記表1の濃度になるようにpH7.0の0.1Mリン酸緩衝液に溶解し、検体1~6を作製した。
【表1】
【0057】
(バイオセンサ用電極の作製)
ケッチェンブラック水分散体(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「ライオンペーストW310A」、固形分17.5質量%)45.7質量部、カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製「セロゲンBSH-6」)2.0質量部、および、純水52.3質量部を混合してディスパーで分散して、水性カーボンインキを得た。得られた水性カーボンインキをスクリーン印刷機でPET製基板に塗工し、80℃で10分間乾燥させて、作用電極、対電極、参照電極からなる印刷電極を得た。得られた印刷電極の作用電極上に、0.5mg/mLグルコース脱水素酵素(富士フィルム和光純薬株式会社)と0.5mol/m31,2-ナフトキノンを1:1(質量比)にて混合した溶液を10μL滴下し、25℃で1時間乾燥させた。
【0058】
(コーティング膜の作製)
実施例1~4および比較例2~4では、下記表2に記載のとおりの水系ウレタン樹脂の水分散体を用いて、不揮発分が5質量%になるように純水で希釈してコーティング剤を調製した。マイクロピペットでコーティング剤3μLを作用電極の酵素上に塗布し、表2に記載の条件で乾燥を行うことによりコーティング膜を作製した。比較例1では、コーティング膜を作製せず、酵素とメディエータ(1,2-ナフトキノン)を担持させた印刷電極を評価に用いた。
【0059】
(サイクリックボルタンメトリー測定)
コーティング膜を形成した電極を検体に浸漬させた。開始電圧を-0.3V、折り返し電圧を+0.8V、終了電圧を-0.3Vとし、0.01V/sの走査速度で一回目の測定を行った。一回目の測定後に電極をpH7.0の0.1Mリン酸緩衝液中で1週間浸漬させた後、一回目と同様の条件で二回目の測定を行った。
【0060】
サイクリックボルタンメトリー測定における、検体1~6の一回目および二回目の測定のそれぞれについて、酸化電流の変曲点の値を表2に示す。また、実施例1~4および比較例1~4についてのサイクリックボルタンメトリー測定におけるグルコース濃度と酸化電流の変曲点との関係を
図2~9に示す。
【0061】
【0062】
図6に示すように、コーティング膜を形成していない比較例1では、妨害物質ありの場合、妨害物質なしの場合に比べて酸化電流の変曲点が高く、妨害物質の影響が大きかった。また、一回目の測定と二回目の測定との違いが大きく、酵素が十分に固定されていなかった。
図7および
図8に示すように、比較例2,3ではコーティング剤を形成したことにより一回目の測定と二回目の測定との違いは小さく、酵素の剥がれは防止されたが、コーティング膜がカチオン性水系ウレタン樹脂からなるため、妨害物質の影響が大きかった。
図9に示すように、比較例4は、コーティング膜がノニオン性水系ウレタン樹脂で形成されたものであり、比較例2,3に比べて妨害物質の影響が低減されていた。
【0063】
図2~5に示すように、コーティング膜をアニオン性水系ウレタン樹脂で形成した実施例1~4では、グルコース濃度と酸化電流の変曲点が比例関係にあり、妨害物質の有無による違いはほとんど見られなかった。そのため、妨害物質であるアスコルビン酸および尿酸のコーティング膜に対する透過を抑制することができ、グルコースの正確な計測が可能であった。また、一回目の測定と二回目の測定との違いもわずかであり、酵素がしっかりと固定されていた。
【0064】
[実施例5,6]
水系ウレタン樹脂として、アニオン性水系ウレタン樹脂とノニオン性水系ウレタン樹脂を、下記表3の比率で混合し、不揮発分が5質量%になるよう純水で希釈してコーティング剤を調製した。マイクロピペットでコーティング剤3μLを作用電極の酵素上に塗布し、表3の条件で乾燥を行うことによりコーティング膜を作製した。検体の調製およびバイオセンサ用電極の作製は、実施例1と同様であり、コーティング膜を作製した電極について、実施例1と同様の方法でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。結果を表3および
図10,11に示す。
【0065】
【0066】
図10,11に示すように、コーティング膜をアニオン性水系ウレタン樹脂とノニオン性水系ウレタン樹脂で形成した実施例5,6では、グルコース濃度と酸化電流の変曲点が比例関係にあり、妨害物質の有無による違いはほとんど見られなかった。そのため、妨害物質であるアスコルビン酸および尿酸のコーティング膜に対する透過を抑制することができ、グルコースの正確な計測が可能であった。また、一回目の測定と二回目の測定との違いもわずかであり、酵素がしっかりと固定されていた。
【0067】
[実施例7~9]
水系ウレタン樹脂として、アニオン性水系ウレタン樹脂とカチオン性水系ウレタン樹脂を、下記表4の比率で混合し、不揮発分が5質量%になるよう純水で希釈してコーティング剤を調製した。マイクロピペットでコーティング剤3μLを作用電極の酵素上に塗布し、表4の条件で乾燥を行うことによりコーティング膜を作製した。検体の調製およびバイオセンサ用電極の作製は、実施例1と同様であり、コーティング膜を作製した電極について、実施例1と同様の方法でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。結果を表4および
図12~14に示す。
【0068】
実施例7~9、および上記の実施例2と比較例3のコーティング剤について、最低造膜温度を測定した。最低造膜温度は、膜厚100μmの塗膜を作成し、造膜温度(MFT)測定装置(ヨシミツ精機(株))で測定を行った。
【0069】
表4中の「アニオン性基/カチオン性基」は、カチオン性水系ウレタン樹脂のカチオン性基の数(Nc)に対するアニオン性水系ウレタン樹脂のアニオン性基の数(Na)の比(Na/Nc)である。
【0070】
【0071】
図12~14に示されるように、コーティング膜をアニオン性水系ウレタン樹脂とカチオン性水系ウレタン樹脂で形成した実施例7~9では、グルコース濃度と酸化電流の変曲点が比例関係にあり、妨害物質の有無による違いはほとんど見られなかった。そのため、妨害物質であるアスコルビン酸および尿酸のコーティング膜に対する透過を抑制することができ、グルコースの正確な計測が可能であった。また、一回目の測定と二回目の測定との違いもわずかであり、酵素がしっかりと固定されていた。また、実施例7~9では、アニオン性水系ウレタン樹脂単独の実施例2に比べて、最低造膜温度が低かった。
【0072】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0073】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0074】
10…バイオセンサ、12…基板、14…作用電極、16…対電極、
18…参照電極、20…検知素子層、22…コーティング膜