(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182429
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】パワーモジュール用基板
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231219BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096031
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 信樹
(72)【発明者】
【氏名】柳田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】増澤 高志
(72)【発明者】
【氏名】江積 匡彦
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA22
5H770BA02
5H770DA03
5H770JA10X
5H770JA11W
5H770PA11
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA04
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA11
5H770QA13
5H770QA22
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】ワイヤボンディング時にパワー半導体素子へ加わるダメージをより低減することができるパワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】パワーモジュール用基板は、絶縁板と、絶縁板の表面に配置された複数の表面パターンと、複数の表面パターンのうち一の表面パターンに接続されたパワー半導体素子と、パワー半導体素子の上面に配置された電極部と、複数の表面パターンのうち一の表面パターンとは異なる他の表面パターンと、電極部とを接続するボンディングワイヤと、を備える。電極部は、金属により形成され、上面に配置されたコンタクト層と、コンタクト層に積層された保護層と、金属により形成され、ボンディングワイヤに接続された状態で、保護層に積層された接続層と、を有する。保護層は、硬度がコンタクト層及び接続層よりも高い導電性セラミックを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板と、
前記絶縁板の表面に配置された複数の表面パターンと、
複数の前記表面パターンのうち一の表面パターンに接続されたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子の上面に配置された電極部と、
複数の前記表面パターンのうち前記一の表面パターンとは異なる他の表面パターンと、前記電極部とを接続するボンディングワイヤと、
を備え、
前記電極部は、
金属により形成され、前記上面に配置されたコンタクト層と、
前記コンタクト層に積層された保護層と、
金属により形成され、前記ボンディングワイヤに接続された状態で、前記保護層に積層された接続層と、
を有し、
前記保護層は、硬度が前記コンタクト層及び前記接続層よりも高い導電性セラミックを含むパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記保護層は、
Tiを含有する金属により形成され、前記コンタクト層に一体に積層された第一金属層と、
導電性セラミックにより形成され、前記第一金属層に一体に積層された本体層と、
Tiを含有する金属により形成され、前記本体層と前記接続層との間でこれら本体層及び接続層と一体に配置された第二金属層と、
を有する請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記保護層は、
導電性セラミックにより形成され、前記コンタクト層に一体に積層された第一保護層と、
Tiを含有する金属により形成され、前記第一保護層に一体に積層された金属層と、
導電性セラミックにより形成され、前記金属層と前記接続層との間でこれら金属層及び接続層と一体に配置された第二保護層と、
を有する請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
前記コンタクト層は、0.05~0.5μmの厚さで形成されており、
前記保護層は、0.5~2μmの厚さで形成されている請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項5】
前記コンタクト層は、0.05~0.5μmの厚さで形成されており、
前記第一金属層及び前記第二金属層は、0.1~0.5μmの厚さで形成され、
前記本体層は、0.5~2μmの厚さで形成されている請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項6】
前記第一保護層及び前記第二保護層は、0.5~2μmの厚さで形成されており、
前記金属層は、0.1~0.5μmの厚さで形成されている請求項3に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項7】
前記導電性セラミックは、TiB2、ZrB2、HfB2、TiSi2及びWSi2の何れか一つによって形成されている請求項1から6の何れか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項8】
前記ボンディングワイヤは、複数が前記他の表面パターンと前記接続層とを接続している請求項1から6の何れか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パワーモジュール用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、パワー半導体素子の表面電極が複数の異なる金属層で構成されたパワー半導体装置が開示されている。複数の金属層からなる層構造は、Al層、このAl層上に形成されビッカース硬度が200~350HvのCu層、及びこのCu層上に形成されビッカース硬度が70~150HvのCu層から形成されている。この様な層構造とすることで、Cuワイヤでボンディングする場合にパワー半導体素子へ加わるダメージが低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、パワー半導体素子の分野では、付加価値向上のためにパワー半導体素子の高電圧化・大電流化・高周波化・高速スイッチング化の機運が高まっている。それに伴って、例えば、パワー半導体素子の電極にワイヤボンディングで接続されるボンディングワイヤの数が増加する場合がある。そのため、ワイヤボンディング時にパワー半導体素子へ加わるダメージをより低減する技術が要求される。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、ワイヤボンディング時にパワー半導体素子へ加わるダメージをより低減することができるパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るパワーモジュール用基板は、絶縁板と、前記絶縁板の表面に配置された複数の表面パターンと、複数の前記表面パターンのうち一の表面パターンに接続されたパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子の上面に配置された電極部と、複数の前記表面パターンのうち前記一の表面パターンとは異なる他の表面パターンと、前記電極部とを接続するボンディングワイヤと、を備え、前記電極部は、金属により形成され、前記上面に配置されたコンタクト層と、前記コンタクト層に積層された保護層と、金属により形成され、前記ボンディングワイヤに接続された状態で、前記保護層に積層された接続層と、を有し、前記保護層は、硬度が前記コンタクト層及び前記接続層よりも高い導電性セラミックを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ワイヤボンディング時にパワー半導体素子へ加わるダメージをより低減することができるパワーモジュール用基板を提供することができるパワーモジュール用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る電力変換装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係るパワーモジュールを
図1に示すII-II線方向から見た時の図である。
【
図3】
図2で示したIII-III線方向の断面図である。
【
図4】
図3の要部を拡大した図であり、電極部の層構造を示す図である。
【
図5】本開示の第二実施形態に係るパワーモジュールの断面図における要部を拡大した際の電極部の層構造を示す図であり、
図4で示した部分に対応した図である。
【
図6】本開示の第三実施形態に係るパワーモジュールの断面図における要部を拡大した際の電極部の層構造を示す図であり、
図4で示した部分に対応した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本開示によるパワーモジュール用基板を備える電力変換装置を実施するための形態を説明する。
【0010】
<第一実施形態>
電力変換装置は、直流電力を三相交流電力等に変換する装置である。本実施形態の電力変換装置には、例えば、発電所等の系統で用いられるインバータや、電気自動車等の電動機(モータ)の駆動に用いられるインバータ等が挙げられる。
【0011】
図1に示すように、電力変換装置100は、ケーシング1と、外部入力導体2と、コンデンサ3と、電力変換部4と、冷却器5とを備えている。なお、
図1中では、ケーシング1及び冷却器5は、二点鎖線で示されている。
【0012】
[ケーシング]
ケーシング1は、電力変換装置100の外殻を成している。本実施形態におけるケーシング1は、アルミニウム(Al)等の金属または合成樹脂等により形成されている。本実施形態におけるケーシング1は、アルミニウムによって形成されており、直方体状を成している。ケーシング1の外面は、互いに背合わせとなるように配置されている二つの側面を有している。
【0013】
以下、説明の便宜上、これら二つの側面のうち、一方側を向く側面を「入力側側面1a」と称し、他方側を向く側面を「出力側側面1b」と称する。入力側側面1aからは、直流電力を入力するための外部入力導体2が引き出されている。
【0014】
[外部入力導体]
外部入力導体2は、電力変換装置100の外部の電力系統や、バッテリ等の直流電源から供給された直流電力をコンデンサ3へ供給する一対の電気導体(バスバー)である。本実施形態における外部入力導体2は、銅(Cu)等を含む金属により形成されている。外部入力導体2の一端は、コンデンサ3に接続されており、外部入力導体2の他端は、例えば、ケーシング1の入力側側面1aと交差する方向に延びている。
【0015】
[コンデンサ]
コンデンサ3は、外部入力導体2から入力された電荷を蓄えるとともに、電力変換に伴う電圧変動を抑えるための平滑コンデンサである。コンデンサ3を経由することでリプルが抑えられて平滑化された直流電圧は、電力変換部4へ供給(印加)される。
【0016】
[電力変換部]
電力変換部4は、コンデンサ3から入力された電圧を変換する。電力変換部4は、ケーシング1に収容されている。本実施形態における電力変換部4は、三相交流電力を出力するために、U相、V相、及びW相用の出力をそれぞれ担当する三つのパワーモジュール10を有している。したがって、本実施形態における電力変換装置100は、三つのパワーモジュール10を備える三相インバータである。
【0017】
[パワーモジュール]
パワーモジュール10は、入力された電力を変換して出力する装置である。
図2及び
図3に示すように、パワーモジュール10は、ベースプレート11と、パワーモジュール用基板12と、主端子部13と、出力端子部14と、補強部15と、封止部16とを備えている。
【0018】
(ベースプレート)
ベースプレート11は、平板状を成す部材である。ベースプレート11は、第一面11aと、この第一面11aの裏側に位置する第二面11bとを有している。即ち、ベースプレート11の第一面11aと第二面11bとは互いに平行を成した状態で背合わせになっている。ベースプレート11の第二面11bは、接合材等(図示省略)を介して、冷却器5に固定されている。本実施形態におけるベースプレート11には、例えば銅が採用される。なお、ベースプレート11には、アルミニウム等の金属が採用されてもよい。
【0019】
(パワーモジュール用基板)
パワーモジュール用基板12は、絶縁板20と、表面パターン21と、パワー半導体素子22と、電極部23と、ボンディングワイヤ27と、裏面パターン28とを有している。
【0020】
(絶縁板)
絶縁板20は、平板状を成している。絶縁板20は、表面20aと、この表面20aの裏側に位置する裏面20bとを有している。絶縁板20における表面20aと裏面20bとは互いに平行を成した状態で背合わせになっている。
【0021】
本実施形態における絶縁板20は、例えばセラミック等の絶縁材料により形成されている。なお、絶縁板20を形成する絶縁材料としては、セラミック以外にも、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスコンポジット、ガラスエポキシ、ガラスポリイミド、フッ素樹脂等を採用することができる。
【0022】
(表面パターン)
表面パターン21は、絶縁板20の表面20aに形成された平面状に広がる銅箔(Cu)等のパターンである。表面パターン21は、例えば、絶縁板20の表面20aに接合等で固定された後、エッチング等がなされることにより形成される。
【0023】
表面パターン21は、絶縁板20の表面20a上に複数配置されている。これら複数の表面パターン21は、絶縁板20が広がる方向で隙間を介して互いに隣接配置されている。本実施形態では、三つの表面パターン21が絶縁板20の表面20a上に配置されている場合を一例として説明する。以下、説明の便宜上、これら三つの表面パターン21を第一表面パターン21a、第二表面パターン21b、及び第三表面パターン21cと称する。
【0024】
第一表面パターン21a及び第二表面パターン21bは、コンデンサ3と直流電力の入出力をやり取りするためのパターンであり、表面パターン21に形成されるPN間のループにおける入口部分もしくは出口部分に相当する。
【0025】
本実施形態における第一表面パターン21a及び第二表面パターン21bには、コンデンサ3に繋がる主端子部13が接続されている。第三表面パターン21cには、パワー半導体素子22によって変換された交流電流を電力変換装置100の外部に設けられた負荷(図示省略)へ出力するための出力端子部14が接続されている。
【0026】
(パワー半導体素子)
パワー半導体素子22は、電圧や電流をオンオフするスイッチング動作により電力を変換する回路素子である。パワー半導体素子22は、例えば、IGBTやMOSFET等のスイッチング素子である。パワー半導体素子22は、例えばSi系の単結晶や、Si系の単結晶よりも硬度が高いSiC系の単結晶によって形成されている。
【0027】
本実施形態では、一例として、パワー半導体にMOSFETを適用した場合を示しており、四つのパワー半導体素子22がパワーモジュール用基板12の表面パターン21に接続されている。なお、パワー半導体素子22にIGBTを使用する場合は、IGBTとは逆方向へ電流を流すダイオードを並列配置する必要がある。
【0028】
本実施形態における四つのパワー半導体素子22は、二つの第一パワー半導体素子22aと、二つの第二パワー半導体素子22bとによって構成されている。第一パワー半導体素子22aは、第一表面パターン21aに接続されている。第二パワー半導体素子22bは、第三表面パターン21cに接続されている。
【0029】
パワー半導体素子22がMOSFETの場合、パワー半導体素子22は、ドレインに相当する入力用端子(図示省略)が形成された下面22d(
図3参照)と、ソースに相当する出力用端子(図示省略)が形成された上面22uと、パワー半導体素子22のスイッチングを制御するための制御信号入力用端子に相当するゲート(図示省略)とを有している。
【0030】
パワー半導体素子22の下面22dは、表面パターン21に接合材Sを介して電気的に接続されている。第一パワー半導体素子22aの下面22dは、第一表面パターン21aに接続されている。第二パワー半導体素子22bの下面22dは、第三表面パターン21cに接続されている。なお、本明細書中における接合材Sには、例えば、半田や焼結材(金属等の粉末)等を採用することができる。
【0031】
パワー半導体素子22には、パワーモジュール用基板12の外部に設けられたゲート駆動用基板等(図示省略)によって生成された制御信号が上記ゲートを通じて入力される。パワー半導体素子22は、この制御信号に従ってスイッチングを行う。なお、パワー半導体素子22がIGBTの場合、パワー半導体素子22は、コレクタに相当する下面22dと、エミッタに相当する上面22uと、制御信号入力用端子に相当するゲートとを有する。
【0032】
(電極部)
電極部23は、パワー半導体素子22の上面22uに配置されている。電極部23は、パワー半導体素子22における電極部分に相当する。本実施形態における電極部23は、三層構造を成している。
図4に示すように、電極部23は、コンタクト層24と、保護層25と、接続層26とを有している。
【0033】
コンタクト層24は、上面22uに配置されており、上面22uに形成された出力用端子と一体の状態でこの出力用端子に接続されている。コンタクト層24は、金属によって形成されている。本実施形態におけるコンタクト層24を形成する金属には、Ni、Al、及びCrの何れか一つを採用することができる。コンタクト層24の厚さL1は、0.05~0.5μmとされている。コンタクト層24は、例えばスパッタリング法によってパワー半導体素子22の上面22u上に形成される。
【0034】
保護層25は、コンタクト層24に積層されている導電性材料である。即ち、保護層25は、コンタクト層24と一体の状態でこのコンタクト層24上に形成されている。保護層25は、導電性セラミックによって形成されている。本実施形態における保護層25を形成する導電性セラミックには、TiB2(二ホウ化チタン)、ZrB2(二ホウ化ジルコニウム)、HfB2(二ホウ化ハフニウム)、TiSi2(二ケイ化チタン)、及びWSi2(二ケイ化タングステン)の何れか一つを採用することができる。保護層25の厚さL2は、0.5~2μmとされている。保護層25は、例えばスパッタリング法によってコンタクト層24上に形成される。
【0035】
接続層26は、保護層25に積層されている。即ち、接続層26は、保護層25と一体の状態でこの保護層25上に形成されている。接続層26は、金属によって形成されている。本実施形態における接続層26を形成する金属には、銅、又は銅を含む合金等を採用することができる。接続層26の厚さL3は、10~20μmとされている。接続層26は、例えばスパッタリング法によって保護層25上に形成される。
【0036】
ここで、保護層25を形成する導電性セラミックの硬度は、コンタクト層24及び接続層26を形成する金属の硬度よりも高い。具体的には、保護層25を形成する導電性セラミックは、これらコンタクト層24及び接続層26を形成する金属に対して10倍以上のビッカース硬度を有する。また、保護層25を形成する導電性セラミックの熱伝導率は、コンタクト層24及び接続層26を形成する金属の熱伝導率よりも低い。
【0037】
なお、TiB2のビッカース硬度は、例えば32~34GPaを示す。また、ZrB2のビッカース硬度は、例えば21~23GPaを示す。また、HfB2のビッカース硬度は、例えば27~29GPaを示す。また、TiSi2のビッカース硬度は、例えば9~11GPaを示す。また、WSi2のビッカース硬度は、例えば9~11GPaを示す。
【0038】
(ボンディングワイヤ)
図2から
図4に示すように、ボンディングワイヤ27は、表面パターン21と、パワー半導体素子22の上面22uに配置された電極部23とを接続する導線である。本実施形態におけるボンディングワイヤ27は、銅等を含む金属によって形成されており、例えば、200~400μmの径を有している。
【0039】
ボンディングワイヤ27の一端は、電極部23における接続層26に接続されている。ボンディングワイヤ27の他端は、表面パターン21に接続されている。本実施形態では、複数のボンディングワイヤ27が接続層26と表面パターン21とを接続している。
【0040】
具体的には、
図2に示すように、六つのボンディングワイヤ27が第一パワー半導体素子22aの上面22uに配置された電極部23の接続層26と、第三表面パターン21cとを接続している。また、
図2から
図4に示すように、六つのボンディングワイヤ27が第二パワー半導体素子22bの上面22uに配置された電極部23の接続層26と、第二表面パターン21bとを接続している。即ち、絶縁板20の表面20aに配置された表面パターン21同士は、ボンディングワイヤ27によって電気的に接続されている。
【0041】
ボンディングワイヤ27の一端及び他端は、超音波等を外部から当てるワイヤボンディングによって電極部23における接続層26、及び表面パターン21のそれぞれに一体に接続される。
【0042】
第一パワー半導体素子22aには、第一表面パターン21aを通じて直流電力が入力され、第二パワー半導体素子22bには、第二表面パターン21b、及びこの第二表面パターン21bと第二パワー半導体素子22bとを接続するボンディングワイヤ27を介して直流電力が入力される。第一パワー半導体素子22aと第二パワー半導体素子22bとがスイッチング動作を行うことにより、上記の直流電力が交流電力へ変換され、電極部23及びボンディングワイヤ27を通じて第三表面パターン21cへ出力される。
【0043】
(裏面パターン)
裏面パターン28は、絶縁板20の裏面20bに形成された平面状に広がる銅箔等のパターンである。当該裏面パターン28は、接合材Sを介してベースプレート11の第一面11aの中央に固定されている。裏面パターン28は、例えば、絶縁板20の裏面20bに接合等で固定された後、エッチング等がなされることにより形成される。
【0044】
(主端子部)
主端子部13は、コンデンサ3とパワーモジュール用基板12との間で直流電力をやり取りする電気導体(バスバー)である。主端子部13は、銅等を含む金属によって形成されている。主端子部13は、正極としてのP端子13pと、負極としてのN端子13nとを有している。
【0045】
これらP端子13p及びN端子13nは、空間距離(絶縁距離)としてのギャップGを介して並んで配置されている。P端子13pは、コンデンサ3における正極(図示省略)と、パワーモジュール用基板12における第一表面パターン21aとを接続している。N端子13nは、コンデンサ3における負極(図示省略)と、パワーモジュール用基板12における第二表面パターン21bとを接続している。
【0046】
(出力端子部)
出力端子部14は、パワー半導体素子22によって変換された後の交流電力を電力変換装置100の外部へ出力するための電気導体(バスバー)である。出力端子部14は、銅等を含む金属により形成されている。出力端子部14の一端は、パワーモジュール用基板12における第三表面パターン21cに接続されている。
図1に示すように、出力端子部14の他端は、例えば、ケーシング1の出力側側面1bよりも外側に延びている。出力端子部14の他端には、例えば、モータ等の負荷(交流回転電機)に繋がる電力出力用の配線(図示省略)が接続される。
【0047】
(補強部)
図2及び
図3に示すように、補強部15は、ベースプレート11の第一面11aに固定された状態で、主端子部13及び出力端子部14を機械的に補強する部材である。補強部15は、例えば、合成樹脂材料(絶縁材料)等により形成されている。本実施形態における補強部15を形成する材料には、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)を採用することができる。なお、PPS以外の合成樹脂材料を、補強部15に採用してもよい。補強部15は、ベースプレート11の第一面11aに、例えば接着剤等によって固定されている。
【0048】
補強部15は、主端子部13のP端子13p及びN端子13n、並びに出力端子部14を外側から覆った状態で、パワーモジュール用基板12を外側から囲っている。補強部15は、ベースプレート11の表面20aに沿う方向で、パワーモジュール用基板12を周囲から囲むケースを成している。したがって、補強部15は、ベースプレート11とともにパワーモジュール用基板12が収容される空間を画定している。本実施形態では、説明の便宜上、パワーモジュール用基板12が収容されるこの空間を「ポッティング空間Rp」と称する。
【0049】
(封止部)
封止部16は、ポッティング空間Rp内に配置されている封止部材である。図面中における封止部16は、紙面の都合上、ハッチングで示されている。ポッティング空間Rpには、外部から液状のポッティング材が充填され(ポッティング)、ポッティング空間Rp内で露出する部材を封止する。封止部16は、ポッティング空間Rp内に充填されたポッティング材に所定の温度及び時間がかけられ、このポッティング材が硬化することによって形成される。ポッティング材が硬化することによって形成された封止部16は、ポッティング空間Rp内における各部材間、及び各部材とパワーモジュール10外部の空間とを電気的に絶縁する。
【0050】
本実施形態におけるポッティング材には、例えばシリコンゲルやエポキシ樹脂を用いることができる。なお、ポッティング材には、シリコンゲルやエポキシ樹脂以外の合成樹脂を採用してもよい。ポッティング空間Rp内における封止部16は、パワーモジュール用基板12、主端子部13、及び出力端子部14のそれぞれの表面を覆うように配置されている。
【0051】
[冷却器]
図1に示すように、冷却器5は、主として電力変換部4のパワーモジュール10を冷却する装置である。冷却器5は、ケーシング1に積層されるように設けられており、ケーシング1に固定され一体化されている。
図3に示すように、冷却器5は、基部51と、放熱フィン52とを有している。なお、
図3中では、基部51及び放熱フィン52は、点線で示されている。
【0052】
基部51は、板状を成している。基部51は、接合材Sを介して、パワーモジュール10におけるベースプレート11の第二面11bに接合される接合面51aと、この接合面51aとは反対側を向く放熱面51bとを有している。
【0053】
接合面51aと放熱面51bとは、互いに平行を成した状態で背合わせになっている。放熱フィン52は、基部51の放熱面51bに複数配置されている柱状を成す部材である。各放熱フィン52は、基部51を中心に、パワーモジュール10とは反対の側へ放熱面51bから突出している。
【0054】
冷却器5には、例えば、外部から水等の液冷媒Wが導入される。基部51の放熱面51bと、放熱フィン52は、この外部から導入された液冷媒Wと接触することで冷却される。液冷媒Wは、パワーモジュール10から基部51及び放熱フィン52へ伝導した熱と熱交換して温められると同時に、パワーモジュール10を冷却する。
【0055】
(作用効果)
超音波を用いたワイヤボンディングによってボンディングワイヤ27が電極部23に接続される際、この超音波に伴って発生する熱や圧力が電極部23からパワー半導体素子22へ向かう。
【0056】
上記実施形態の構成では、硬度がコンタクト層24及び接続層26を形成する金属よりも高い導電性セラミックで形成された保護層25が、これらコンタクト層24及び接続層26の間に介在している。これにより、超音波に伴って生じる圧力が電極部23の接続層26にかかった際、この圧力が保護層25によって吸収される。即ち、ワイヤボンディング時に圧力がコンタクト層24へ伝わることを保護層25が抑制する。
【0057】
また、保護層25の熱伝導率がコンタクト層24及び接続層26の熱伝導率よりも低いため、例えば、保護層25が金属によって形成される場合と比較して、接続層26からコンタクト層24への熱伝導をより抑制することができる。
【0058】
したがって、ワイヤボンディング時にパワー半導体素子22へ加わるダメージが低減される。その結果、パワー半導体素子22にクラックや亀裂等の異常が発生することを抑制することができる。
【0059】
また、上記構成では、コンタクト層24が0.05~0.5μmの厚さL1で形成され、保護層25が0.5~2μmの厚さL2で形成されている。これにより、パワー半導体素子22とボンディングワイヤ27との間における導電性を確保しつつ、各層で歪みや撓み等の変形が発生することを抑制することができる。
【0060】
<第二実施形態>
次に、本開示に係る電力変換装置100の第二実施形態について
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する第二実施形態では、上記の第一実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第二実施形態では、パワーモジュール用基板12における電極部23の構成が、第一実施形態で説明した電極部23の構成と異なっている。
【0061】
(電極部)
本実施形態における電極部23は、五層構造を成している。電極部23は、コンタクト層24と、三層に形成された保護層25aと、接続層26とを有している。保護層25aは、第一金属層251と、本体層252と、第二金属層253とを有している。
【0062】
第一金属層251は、コンタクト層24と一体の状態でこのコンタクト層24上に形成されている。第一金属層251は、Ti(チタン)を含有する金属により形成されている。第一金属層251の厚さL2aは、0.1~0.5μmとされている。第一金属層251は、例えばスパッタリング法によってコンタクト層24上に形成される。
【0063】
ここで、第一金属層251は、金属によって形成されているため、この第一金属層251とコンタクト層24の結合力が、第一金属層251を介在させない場合の本体層252とコンタクト層24の結合力よりも大きい。更に、第一金属層251は、Tiを含有する金属によって形成されているため、この第一金属層251と本体層252の結合力が、例えばTi以外の金属と本体層252の結合力よりも大きい。言い換えれば、第一金属層251と本体層252との組合せは、Ti以外の金属と本体層252との組合せよりも親和性が高い。
【0064】
本体層252は、第一金属層251に積層されている。即ち、本体層252は、第一金属層251と一体の状態でこの第一金属層251上に形成されている。本体層252は、導電性セラミックによって形成されている。本実施形態における本体層252を形成する導電性セラミックには、TiB2、ZrB2、HfB2、TiSi2、及びWSi2の何れか一つを採用することができる。本体層252の厚さL2bは、0.5~2μmとされている。本体層252は、例えばスパッタリング法によって第一金属層251上に形成される。
【0065】
第二金属層253は、本体層252に積層されている。即ち、第二金属層253は、本体層252と一体の状態でこの本体層252上に形成されている。第二金属層253は、Tiを含有する金属により形成されている。第二金属層253の厚さL2cは、0.1~0.5μmとされている。第二金属層253は、例えばスパッタリング法によって本体層252上に形成される。
【0066】
ここで、第二金属層253は、金属によって形成されているため、この第二金属層253と接続層26の結合力が、第二金属層253を介在させない場合の本体層252と接続層26の結合力よりも大きい。更に、第二金属層253は、Tiを含有する金属によって形成されているため、この第二金属層253と本体層252の結合力が、例えばTi以外の金属と本体層252の結合力よりも大きい。言い換えれば、第二金属層253と本体層252との組合せは、Ti以外の金属と本体層252との組合せよりも親和性が高い。
【0067】
接続層26は、第二金属層253に積層されている。即ち、接続層26は、第二金属層253と一体の状態でこの第二金属層253上に形成されている。
【0068】
(作用効果)
第二実施形態の構成によれば、超音波に伴って生じる圧力が電極部23の接続層26にかかった際、この圧力が第二金属層253によって吸収される。即ち、ワイヤボンディング時に圧力が本体層252へ伝わることを第二金属層253が抑制する。また、本体層252からパワー半導体素子22に向かって伝わる圧力が第一金属層251によって吸収される。即ち、ワイヤボンディング時に圧力がコンタクト層24を介してパワー半導体素子22に伝わることを第一金属層251が抑制する。
【0069】
したがって、ワイヤボンディング時に、本体層252及びパワー半導体素子22へ加わるダメージをより低減することができる。その結果、電極部23で剥離や割れ等の異常が発生することを抑制することができるとともに、パワー半導体素子22にクラックや亀裂等の異常が発生することを抑制することができる。
【0070】
また、第二実施形態の構成では、第一金属層251及び第二金属層253が0.1~0.5μmの厚さL2a,L2cで形成され、本体層252が0.5~2μmの厚さL2bで形成されている。これにより、パワー半導体素子22とボンディングワイヤ27との間における導電性を確保しつつ、各層で歪みや撓み等の変形が発生することを抑制することができる。
【0071】
<第三実施形態>
次に、本開示に係る電力変換装置100の第三実施形態について
図6を参照して説明する。なお、以下に説明する第三実施形態では、上記の第一実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第三実施形態では、パワーモジュール用基板12における電極部23の構成が、第一実施形態で説明した電極部23の構成と異なっている。
【0072】
(電極部)
本実施形態における電極部23は、五層構造を成している。電極部23は、コンタクト層24と、三層に形成された保護層25bと、接続層26とを有している。保護層25bは、第一保護層254と、金属層255と、第二保護層256とを有している。
【0073】
第一保護層254は、コンタクト層24に積層されている導電性材料である。即ち、第一保護層254は、コンタクト層24と一体の状態でこのコンタクト層24上に形成されている。第一保護層254は、導電性セラミックによって形成されている。本実施形態における第一保護層254を形成する導電性セラミックには、TiB2、ZrB2、HfB2、TiSi2、及びWSi2の何れか一つを採用することができる。第一保護層254の厚さL2dは、0.5~2μmとされている。第一保護層254は、例えばスパッタリング法によってコンタクト層24上に形成される。
【0074】
金属層255は、第一保護層254に積層されている。即ち、金属層255は、第一保護層254と一体の状態でこの第一保護層254上に形成されている。金属層255は、Tiを含有する金属により形成されている。金属層255の厚さL2eは、0.1~0.5μmとされている。金属層255は、例えばスパッタリング法によって第一保護層254上に形成される。
【0075】
第二保護層256は、金属層255に積層されている導電性材料である。即ち、第二保護層256は、金属層255と一体の状態でこの金属層255上に形成されている。第二保護層256は、導電性セラミックによって形成されている。本実施形態における第二保護層256を形成する導電性セラミックには、TiB2、ZrB2、HfB2、TiSi2、及びWSi2の何れか一つを採用することができる。第二保護層256の厚さL2fは、0.5~2μmとされている。第二保護層256は、例えばスパッタリング法によって金属層255上に形成される。
【0076】
接続層26は、第二保護層256に積層されている。即ち、接続層26は、第二保護層256と一体の状態でこの第二保護層256上に形成されている。
【0077】
(作用効果)
第三実施形態の構成によれば、超音波に伴って生じる圧力が電極部23の接続層26にかかった際、この圧力が第二保護層256及び金属層255によって吸収される。即ち、ワイヤボンディング時に圧力が第一保護層254へ伝わることを第二保護層256及び金属層255が抑制する。
【0078】
また、導電性セラミックにより形成された第一保護層254及び第二保護層256がTiを含有する金属によって形成された金属層255を介在させた状態で積層されている。これにより、例えば、保護層25bが単層である場合と比較して、保護層25bで歪みや撓み等の変形が発生することを抑制しつつ、保護層25bの厚みをより増大させることができる。したがって、ワイヤボンディング時に、パワー半導体素子22へ加わるダメージをより低減することができる。
【0079】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は実施形態の構成に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内での構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0080】
以下、各実施形態で説明した作用効果の理解を容易にする評価実験(実施例1~3)の結果を
図7Aから
図9に一例として示す。
図7Aから
図9では、ワイヤボンディング時に用いる超音波の出力強度を10から100の範囲で八段階に変化させた際の、パワー半導体素子22の表面におけるクラックや亀裂(微小亀裂)の発生の有無を示す。超音波の出力強度における「10」は、予め規定された所定の出力強度を示している。なお、上記実施形態におけるパワーモジュール10の製造の際、超音波の出力強度には、例えば「30」が採用される。また、パワー半導体素子22の表面におけるクラックや亀裂の発生の有無は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によってこのパワー半導体素子22の表面が観察されるとともに、例えば限度見本等との比較に基づいて判定される。
【0081】
また、この評価実験では、ボンディングワイヤ27が銅によって形成され、300μmの径を有している。また、コンタクト層24がアルミニウムによって形成されるとともに0.1μmの厚さL1で形成されている。また、接続層26が銅によって形成されるとともに15μmの厚さL3で形成されている。なお、ここで示したボンディングワイヤ27の径、コンタクト層24の厚さL1、及び接続層26の厚さL3は、実質的な値を指すものであって、製造上のわずかな誤差や設計上の公差は許容される。
【0082】
「実施例1」
図7A中では、パワー半導体素子22がSi系の単結晶で形成された場合を示している。
図7A中の「本発明」における(i)~(v)の行は、第一実施形態で説明した構成でワイヤボンディングをした後の結果であり、
図7A中の「比較例」の行は、保護層25に導電性セラミックを用いない場合の構成でワイヤボンディングをした後の結果である。
図7A中の「本発明」における保護層25は、TiB
2、ZrB
2、HfB
2、TiSi
2、及びWSi
2のそれぞれによって形成されるとともに、何れの場合も1.0μmの厚さL2で形成されている。
図7A中の「比較例」では、保護層25がTa(タンタル)を含有する金属によって形成されるとともに1.0μmの厚さで形成されている。なお、ここで示した保護層25の厚さL2は、実質的な値を指すものであって、製造上のわずかな誤差や設計上の公差は許容される。
【0083】
図7B中では、パワー半導体素子22がSiC系の単結晶で形成された場合を示している。
図7B中の「本発明」の行は、第一実施形態で説明した構成でワイヤボンディングをした後の結果であり、
図7B中の「比較例」の行は、保護層25に導電性セラミックを用いない場合の構成でワイヤボンディングをした後の結果である。
図7B中の「本発明」における保護層25は、TiB
2によって形成されるとともに1.0μmの厚さL2で形成されている。
図7B中の「比較例」では、保護層25がTa(タンタル)を含有する金属によって形成されるとともに1.0μmの厚さで形成されている。なお、ここで示した保護層25の厚さL2は、実質的な値を指すものであって、製造上のわずかな誤差や設計上の公差は許容される。
【0084】
第一実施形態の構成が奏する作用効果を示した
図7A及び
図7Bより、「比較例」と比較して、パワー半導体素子22におけるクラック及び亀裂の発生が抑制されることが把握可能である。
【0085】
「実施例2」
図8中では、パワー半導体素子22がSi系の単結晶で形成された場合を示している。
図8中の「本発明」における(i)及び(iii)の行は、第二実施形態で説明した構成でワイヤボンディングした後の結果である。
図8中の「本発明」の(i)及び(iii)における第一金属層251及び第二金属層253は、Tiによって形成されるとともに、何れも0.2μmの厚さL2a,L2cで形成されている。
図8中の「本発明」の(i)における本体層252は、HfB2によって形成されるとともに1.0μmの厚さL2bで形成されている。
図8中の「本発明」の(iii)における本体層252は、TiSi2によって形成されるとともに1.0μmの厚さL2bで形成されている。なお、ここで示した第一金属層251の厚さL2a、第二金属層253の厚さL2c、及び本体層252の厚さL2bは、実質的な値を指すものであって、製造上のわずかな誤差や設計上の公差は許容される。
図8中の「本発明」における(ii)の行は、
図7A中の「本発明」における(iii)の行が示す結果である。
図8中の「本発明」における(iv)の行は、
図7A中の「本発明」における(iv)の行が示す結果である。この際、
図8中の「本体層」を、
図7A中の「保護層」に読み替えればよい。
【0086】
第二実施形態の構成が奏する作用効果を示した
図8より、「比較例」と比較して、パワー半導体素子22におけるクラック及び亀裂の発生が抑制されることが把握可能である。
【0087】
「実施例3」
図9中では、パワー半導体素子22がSi系の単結晶で形成された場合を示している。
図9中の「本発明」における(i)及び(iii)の行は、第三実施形態で説明した構成でワイヤボンディングした後の結果である。
図9中の「本発明」の(i)における第一保護層254及び第二保護層256は、TiB2によって形成されるとともに、何れも1.0μmの厚さL2d,L2fで形成されている。
図9中の「本発明」の(iii)における第一保護層254及び第二保護層256は、ZrB2によって形成されるとともに、何れも1.0μmの厚さL2d,L2fで形成されている。
図9中の「本発明」の(i)及び(iii)における金属層255は、Tiによって形成されるとともに0.2μmの厚さL2eで形成されている。なお、ここで示した第一保護層254の厚さL2d、第二保護層256の厚さL2f、及び金属層255の厚さL2eは、実質的な値を指すものであって、製造上のわずかな誤差や設計上の公差は許容される。
図9中の「本発明」における(ii)の行は、
図7A中の「本発明」における(i)の行が示す結果である。
図9中の「本発明」における(iv)の行は、
図7A中の「本発明」における(ii)の行が示す結果である。この際、
図9中の「第一保護層」を、
図7A中の「保護層」に読み替えればよい。
【0088】
第三実施形態の構成が奏する作用効果を示した
図9より、「比較例」と比較して、パワー半導体素子22におけるクラック及び亀裂の発生が抑制されることが把握可能である。
【0089】
また、実施形態では、電力変換装置100としてインバータを一例にして説明したが、電力変換装置100はインバータに限定されることはない。電力変換装置100は、例えば、コンバータや、インバータとコンバータとを組み合わせたもの等、パワー半導体素子22により電力変換を行う装置であってもよい。電力変換装置100がコンバータの場合は、外部の入力電源等(図示省略)から出力端子部14に交流電圧が入力されてパワー半導体素子22がこの交流電圧を直流電圧に変換し、パワー半導体素子22からの直流電圧が入力部から出力される構成であればよい。
【0090】
<付記>
実施形態に記載のパワーモジュール用基板は、例えば以下のように把握される。
【0091】
(1)第1の態様に係るパワーモジュール用基板12は、絶縁板20と、前記絶縁板20の表面20aに配置された複数の表面パターン21と、複数の前記表面パターン21のうち一の表面パターン21に接続されたパワー半導体素子22と、前記パワー半導体素子22の上面22uに配置された電極部23と、複数の前記表面パターン21のうち前記一の表面パターン21とは異なる他の表面パターン21と、前記電極部23とを接続するボンディングワイヤ27と、を備え、前記電極部23は、金属により形成され、前記上面22uに配置されたコンタクト層24と、前記コンタクト層24に積層された保護層25,25a,25bと、金属により形成され、前記ボンディングワイヤ27に接続された状態で、前記保護層25,25a,25bに積層された接続層26と、を有し、前記保護層25,25a,25bは、硬度が前記コンタクト層24及び前記接続層26よりも高い導電性セラミックを含む。
【0092】
これにより、ワイヤボンディング時に電極部23へ超音波が当てられ、超音波に伴う圧力が電極部23の接続層26にかかった際、電極部23における保護層25,25a,25bによってこの圧力が吸収される。また、保護層25,25a,25bが例えば金属によって形成される場合と比較して、接続層26からコンタクト層24への熱伝導を抑制することができる。
【0093】
(2)第2の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(1)のパワーモジュール用基板12であって、前記保護層25aは、Tiを含有する金属により形成され、前記コンタクト層24に一体に積層された第一金属層251と、導電性セラミックにより形成され、前記第一金属層251に一体に積層された本体層252と、Tiを含有する金属により形成され、前記本体層252と前記接続層26との間でこれら本体層252及び接続層26と一体に配置された第二金属層253と、を有してもよい。
【0094】
これにより、ワイヤボンディング時の超音波に伴って生じる圧力が保護層25aにおける第二金属層253によって吸収される。また、本体層252からパワー半導体素子22に向かって伝わる圧力が保護層25aにおける第一金属層251によって吸収される。
【0095】
(3)第3の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(1)のパワーモジュール用基板12であって、前記保護層25bは、導電性セラミックにより形成され、前記コンタクト層24に一体に積層された第一保護層254と、Tiを含有する金属により形成され、前記第一保護層254に一体に積層された金属層255と、導電性セラミックにより形成され、前記金属層255と前記接続層26との間でこれら金属層255及び接続層26と一体に配置された第二保護層256と、を有してもよい。
【0096】
これにより、ワイヤボンディング時の超音波に伴って生じる圧力が電極部23の接続層26にかかった際、この圧力が第二保護層256及び金属層255によって吸収される。また、例えば、保護層25bが単層である場合と比較して、保護層25bで歪みや撓み等の変形が発生することを抑制しつつ、保護層25bの厚みをより増大させることができる。
【0097】
(4)第4の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(1)のパワーモジュール用基板12であって、前記コンタクト層24は、0.05~0.5μmの厚さL1で形成されており、前記保護層25は、0.5~2μmの厚さL2で形成されていてもよい。
【0098】
これにより、パワー半導体素子22とボンディングワイヤ27との間における導電性を確保しつつ、コンタクト層24及び保護層25で歪みや撓み等の変形が発生することを抑制することができる。
【0099】
(5)第5の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(2)のパワーモジュール用基板12であって、前記コンタクト層24は、0.05~0.5μmの厚さL1で形成されており、前記第一金属層251及び前記第二金属層253は、0.1~0.5μmの厚さL2a,L2cで形成され、前記本体層252は、0.5~2μmの厚さL2bで形成されていてもよい。
【0100】
これにより、パワー半導体素子22とボンディングワイヤ27との間における導電性を確保しつつ、各層で歪み等の変形が発生することを抑制することができる。
【0101】
(6)第6の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(3)のパワーモジュール用基板12であって、前記第一保護層254及び前記第二保護層256は、0.5~2μmの厚さL2d,L2fで形成されており、前記金属層255は、0.1~0.5μmの厚さL2eで形成されていてもよい。
【0102】
これにより、パワー半導体素子22とボンディングワイヤ27との間における導電性を確保しつつ、各層で歪み等の変形が発生することを抑制することができる。
【0103】
(7)第7の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(1)から(6)の何れかのパワーモジュール用基板12であって、前記導電性セラミックは、TiB2、ZrB2、HfB2、TiSi2及びWSi2の何れか一つによって形成されていてもよい。
【0104】
これにより、上記の作用をより高精度に実現することができる。
【0105】
(8)第8の態様に係るパワーモジュール用基板12は、(1)から(7)の何れかのパワーモジュール用基板12であって、前記ボンディングワイヤ27は、複数が前記他の表面パターン21と前記接続層26とを接続していてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…ケーシング 1a…入力側側面 1b…出力側側面 2…外部入力導体 3…コンデンサ 4…電力変換部 5…冷却器 10…パワーモジュール 11…ベースプレート 11a…第一面 11b…第二面 12…パワーモジュール用基板 13…主端子部 13p…P端子 13n…N端子 14…出力端子部 15…補強部 16…封止部 20…絶縁板 20a…表面 20b…裏面 21…表面パターン 21a…第一表面パターン 21b…第二表面パターン 21c…第三表面パターン 22…パワー半導体素子 22a…第一パワー半導体素子 22b…第二パワー半導体素子 22d…下面 22u…上面 23…電極部 24…コンタクト層 25,25a,25b…保護層 26…接続層 27…ボンディングワイヤ 28…裏面パターン 51…基部 51a…接合面 51b…放熱面 52…放熱フィン 100…電力変換装置 251…第一金属層 252…本体層 253…第二金属層 254…第一保護層 255…金属層 256…第二保護層 G…ギャップ Rp…ポッティング空間 S…接合材 W…液冷媒