IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 曙ブレーキ工業株式会社の特許一覧

特開2023-182435対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ
<>
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図1
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図2
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図3
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図4
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図5
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図6
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図7
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図8
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図9
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図10
  • 特開-対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182435
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/02 20060101AFI20231219BHJP
   F16D 55/228 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F16D65/02 B
F16D55/228
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096042
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真玉橋 朝海
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA41
3J058BA46
3J058BA68
3J058CC03
3J058CC25
3J058EA02
3J058EA06
3J058FA01
(57)【要約】
【課題】剛性の確保と軽量化との両立を図れる、対向ピストン型ディスクブレーキ用のキャリパを実現する。
【解決手段】回入側連結部7とセンターブリッジ9とに周方向に掛け渡すように回入側周方向ブリッジ10を設けるとともに、回出側連結部8とセンターブリッジ9とに周方向に掛け渡すように回出側周方向ブリッジ11を設ける。そして、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11を、2本の柱部19a、19b、22a、22bと肉抜き部20、23とを有するものとする。2本の柱部19a、19b、22a、22bは、軸方向に互いに離隔して配置され、かつ、それぞれが周方向に伸長しており、肉抜き部20、23は、軸方向に関して2本の柱部19a、19b、22a、22b同士の間部分に配置され、かつ、径方向両側に開口している。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナシリンダ部を有し、ロータの軸方向内側に配置されるインナボディと、
アウタシリンダ部を有し、前記ロータの軸方向外側に配置されるアウタボディと、
前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、前記インナボディの周方向両外側の端部と前記アウタボディの周方向両外側の端部とを軸方向に連結する、回入側連結部及び回出側連結部と、
前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、前記インナボディの周方向内側部と前記アウタボディの周方向内側部とを軸方向に連結する、センターブリッジと、
前記回入側連結部と前記回出側連結部とのうちの少なくとも一方の連結部と、前記センターブリッジとに、周方向に掛け渡された周方向ブリッジと、を備え、
前記周方向ブリッジは、2本の柱部と、肉抜き部と、を有しており、
前記2本の柱部は、軸方向に互いに離隔して配置され、かつ、それぞれが周方向に伸長しており、
前記肉抜き部は、軸方向に関して前記2本の柱部同士の間部分に配置され、かつ、径方向両側に開口している、
対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項2】
前記2本の柱部のうちの少なくとも一方の柱部は、前記ロータの中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項3】
前記2本の柱部は、周方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜している、請求項2に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項4】
前記2本の柱部は、軸方向に関して対称形状を有している、請求項3に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項5】
前記周方向ブリッジの軸方向中央部を周方向に通る中心線は、前記センターブリッジの軸方向中央部を周方向に通る中心線よりも軸方向外側に位置している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項6】
前記2本の柱部のそれぞれは、径方向外側が凸になるように湾曲している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項7】
前記2本の柱部のそれぞれの周方向の一部は、前記ロータの中心軸を中心として前記センターブリッジの外周縁を通る仮想円よりも径方向外側に位置している、請求項6に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項8】
前記肉抜き部は、径方向視で略台形状である、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項9】
前記回入側連結部及び前記回出側連結部のそれぞれと、前記センターブリッジとに、1対の前記周方向ブリッジが周方向に掛け渡されている、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項10】
1対の前記周方向ブリッジは、周方向に関して対称形状を有している、請求項9に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向ピストン型ディスクブレーキ装置を構成するキャリパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や自動二輪車の制動を行うために、ディスクブレーキ装置が広く使用されている。ディスクブレーキ装置による制動時には、車輪とともに回転するロータの軸方向両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりロータの軸方向両側面に押し付ける。このようなディスクブレーキ装置として、従来から各種構造のものが知られているが、ロータの軸方向両側にピストンを備える対向ピストン型ディスクブレーキ装置は、安定した制動力を得られることから、近年使用例が増えている。
【0003】
対向ピストン型ディスクブレーキ装置は、たとえば特開2010-78055号公報(特許文献1)に記載されているように、車輪とともに回転するロータを径方向外側から覆うように配置され、車体に固定されるキャリパと、キャリパに対し軸方向の移動を可能に支持され、ロータの軸方向両側に配置される1対のパッドとを備える。
【0004】
キャリパは、ロータの軸方向内側に配置されるインナボディと、ロータの軸方向外側に配置されるアウタボディと、ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、インナボディの周方向両外側の端部とアウタボディの周方向両外側の端部とを連結する、回入側連結部及び回出側連結部と、ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、インナボディの周方向内側部とアウタボディの周方向内側部とを軸方向に連結する、センターブリッジとを有する。
【0005】
インナボディは、インナシリンダ部を有しており、該インナシリンダ部には、インナピストンが嵌装されている。インナシリンダ部は、ロータに対向するインナボディの軸方向外側面に開口している。アウタボディは、アウタシリンダ部を有しており、該アウタシリンダ部には、アウタピストンが嵌装されている。アウタシリンダ部は、ロータに対向するアウタボディの軸方向内側面に開口している。
【0006】
制動時には、インナシリンダ部及びアウタシリンダ部のそれぞれに、マスターシリンダからブレーキオイルが送り込まれる。これにより、インナシリンダ部に嵌装したインナピストンを軸方向に押し出し、インナボディに支持したパッドを、ロータの軸方向内側面に押し付ける。同様に、アウタシリンダ部に嵌装したアウタピストンを軸方向に押し出し、アウタボディに支持したパッドを、ロータの軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータが、1対のパッドにより軸方向両側から強く挟持され、車両の制動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-78055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
制動時には、インナ、アウタ両ピストンにより、1対のパッドをロータの軸方向両側面に押し付ける反作用として、インナ、アウタ両ボディに、軸方向に互いに離れる方向の力が加わる。このため、キャリパの剛性が十分でないと、これらインナ、アウタ両ボディが軸方向に互いに離れる方向に弾性変形し、所期の制動力が得られなくなる可能性がある。また、キャリパの剛性が十分でない場合には、制動時に、アウタボディがインナボディに対してロータの回転方向に変位するように弾性変形し、振動や騒音を発生させる可能性がある。
【0009】
一方、ディスクブレーキ装置は、車両のうちで懸架装置を構成するバネよりも路面側に設けられるため、いわゆるバネ下荷重となる。このため、車両の燃費性能や走行性能の向上を目的として、軽量化を図ることが求められている。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、剛性の確保と軽量化との両立を図れる、対向ピストン型ディスクブレーキ用のキャリパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパは、インナボディと、アウタボディと、回入側連結部及び回出側連結部と、センターブリッジと、周方向ブリッジとを備える。
前記インナボディは、インナシリンダ部を有し、ロータの軸方向内側に配置される。
前記アウタボディは、アウタシリンダ部を有し、前記ロータの軸方向外側に配置される。
前記回入側連結部及び前記回出側連結部は、前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、前記インナボディの周方向両外側の端部と前記アウタボディの周方向両外側の端部とを軸方向に連結する。
前記センターブリッジは、前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置され、前記インナボディの周方向内側部と前記アウタボディの周方向内側部とを軸方向に連結する。
前記周方向ブリッジは、前記回入側連結部と前記回出側連結部とのうちの少なくとも一方の連結部と、前記センターブリッジとに、周方向に掛け渡されている。
特に本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記周方向ブリッジは、2本の柱部と、肉抜き部と、を有している。
前記2本の柱部は、軸方向に互いに離隔して配置され、かつ、それぞれが周方向に伸長している。
前記肉抜き部は、軸方向に関して前記2本の柱部同士の間部分に配置され、かつ、径方向両側に開口している。
【0012】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記2本の柱部のうちの少なくとも一方の柱部を、前記ロータの中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜させることができる。
【0013】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記2本の柱部を、周方向外側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜させることができる。
【0014】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記2本の柱部を、軸方向に関して対称形状を有するものとすることができる。
【0015】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記周方向ブリッジの軸方向中央部を周方向に通る中心線を、前記センターブリッジの軸方向中央部を周方向に通る中心線よりも軸方向外側に位置させることができる。
【0016】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記2本の柱部のそれぞれを、径方向外側が凸になるように湾曲させることができる。
この場合には、前記2本の柱部のそれぞれの周方向の一部を、前記ロータの中心軸を中心として前記センターブリッジの外周縁を通る仮想円よりも径方向外側に位置させることができる。
【0017】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記肉抜き部を、径方向視で略台形状とすることができる。
【0018】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記回入側連結部及び前記回出側連結部のそれぞれと、前記センターブリッジとに、1対の前記周方向ブリッジを周方向に掛け渡すことができる。
この場合には、1対の前記周方向ブリッジを、周方向に関して対称形状を有するものとすることができる。
【0019】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパでは、前記2本の柱部のそれぞれの軸方向厚さを、周方向の全長にわたり一定とすることができる。
あるいは、前記2本の柱部のそれぞれの軸方向厚さを、周方向位置に応じて変化させることもできる。
たとえば、前記2本の柱部のそれぞれの軸方向厚さを、周方向外側に向かうほど小さく(細く)することもできるし、周方向外側に向かうほど大きく(太く)することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパによれば、剛性の確保と軽量化との両立を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置を径方向外側から見た平面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置を径方向内側から見た底面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置を示す、斜視図である。
図4図4は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、軸方向外側から見た正面図である。
図5図5は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、軸方向内側から見た背面図である。
図6図6は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、回入側から見た端面図である。
図7図7は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、回出側から見た端面図である。
図8図8は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、径方向外側から見た平面図である。
図9図9は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して、径方向内側から見た底面図である。
図10図10は、実施の形態の第1例にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置からキャリパを取り出して示す斜視図である。
図11図11は、図8のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図11を用いて説明する。
【0023】
本例の対向ピストン型ディスクブレーキ装置1は、自動車用として用いられるもので、キャリパ2と、1対のパッド3(インナパッド及びアウタパッド)とを備えている。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲で、「軸方向」、「周方向」及び「径方向」とは、特に断らない限り、円板状のロータ4(図1参照)の軸方向、周方向及び径方向をいう。また、周方向内側とは、対向ピストン型ディスクブレーキ装置1の周方向中央側をいい、周方向外側とは、対向ピストン型ディスクブレーキ装置1の周方向両側をいう。また、回入側とは、周方向外側のうち、車両の前進時の状態で車輪とともに回転するロータ4が、キャリパ2の内側に入り込む側を言い、回出側とは、周方向外側のうち、ロータ4がキャリパ2の外側に抜け出す側をいう。
【0025】
〈キャリパ〉
キャリパ2は、ロータ4を径方向外側から覆うように配置され、1対のパッド3を、軸方向(図1図2図8及び図9の上下方向、図4及び図5の表裏方向、図6及び図7の左右方向)に移動可能に支持するものであり、アルミニウム合金などの軽合金や鉄系合金製の素材に、鍛造加工などを施すことにより一体に成形されている。
【0026】
キャリパ2は、全体が舟型形状を有しており、軸方向視で略弓形状を有している。キャリパ2は、ロータ4を軸方向両側から挟むように配置されたインナボディ5及びアウタボディ6と、インナ、アウタ両ボディ5、6の周方向両外側の端部同士を軸方向に連結する、回入側連結部7及び回出側連結部8と、インナ、アウタ両ボディ5、6の周方向内側部同士を軸方向に連結するセンターブリッジ9と、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11とを備えている。本例では、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれが、特許請求の範囲に記載した周方向ブリッジに相当する。
【0027】
《インナボディ》
インナボディ5は、ロータ4の軸方向内側に配置されている。インナボディ5は、3つのインナシリンダ部12a、12b、12cと、2つの取付孔13a、13bとを備えている。
【0028】
3つのインナシリンダ部12a、12b、12cは、周方向に離隔して配置されている。インナシリンダ部12a、12b、12cのそれぞれは、有底円筒状に構成され、内部に略円柱状のシリンダ空間を有している。インナシリンダ部12a、12b、12cのそれぞれのシリンダ空間には、図示しないインナピストンが軸方向に関する変位を可能に嵌装されている。インナシリンダ部12a、12b、12cのそれぞれは、インナボディ5の周方向内側部に配置されており、ロータ4に対向するインナボディ5の軸方向外側面に開口している。
【0029】
図示の例では、3つのインナシリンダ部12a、12b、12cのそれぞれのシリンダ径を、互いに異ならせている。具体的には、3つのインナシリンダ部12a、12b、12cのシリンダ径は、回入側に配置されたインナシリンダ部12aのシリンダ径が最も小さく、回出側に配置されたインナシリンダ部12cのシリンダ径が最も大きい。
【0030】
2つの取付孔13a、13bは、3つのインナシリンダ部12a、12b、12cを周方向両側から挟むように、インナボディ5の周方向両外側部に配置されている。キャリパ2は、取付孔13a、13bを径方向外側から挿通した図示しないボルトを利用して、車体の懸架装置を構成するナックルに対し、直接固定するか又は図示しないアダプタを介して固定される。このため、本例のキャリパ2は、ラジアルマウント式のキャリパとなる。
【0031】
インナボディ5は、ロータ4の軸方向内側に配置されるインナ側のパッド3を軸方向に移動可能に支持する。このために、インナボディ5は、軸方向外側面の周方向両外側部に、それぞれ軸方向に張り出したインナ側張出部14を有する。
【0032】
《アウタボディ》
アウタボディ6は、ロータ4の軸方向外側に配置されている。アウタボディ6は、3つのアウタシリンダ部15a、15b、15cを備えている。
【0033】
3つのアウタシリンダ部15a、15b、15cは、周方向に離隔して配置されている。アウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれは、有底円筒状に構成され、内部に略円柱状のシリンダ空間を有している。アウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれのシリンダ空間には、図示しないアウタピストンが軸方向に関する変位を可能に嵌装されている。アウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれは、アウタボディ6の周方向内側部に配置されており、ロータ4に対向するアウタボディ6の軸方向内側面に開口している。
【0034】
図示の例では、3つのアウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれのシリンダ径を、互いに異ならせている。具体的には、3つのアウタシリンダ部15a、15b、15cのシリンダ径は、回入側に配置されたアウタシリンダ部15aのシリンダ径が最も小さく、回出側に配置されたアウタシリンダ部15cのシリンダ径が最も大きい。
【0035】
アウタシリンダ部15a、15b、15cは、インナシリンダ部12a、12b、12cと、それぞれ同軸に配置されている。
【0036】
アウタボディ6は、ロータ4の軸方向外側に配置されるパッド3を軸方向に移動可能に支持する。このために、アウタボディ6は、軸方向内側面の周方向両外側部に、それぞれ軸方向に張り出したアウタ側張出部16を有する。
【0037】
《回入側連結部及び回出側連結部》
回入側連結部7及び回出側連結部8は、ロータ4の外周縁よりも径方向外側に配置されている。回入側連結部7は、インナボディ5の回入側の端部とアウタボディ6の回入側の端部とを、軸方向に連結している。回出側連結部8は、インナボディ5の回出側の端部とアウタボディ6の回出側の端部とを、軸方向に連結している。回入側連結部7及び回出側連結部8は、円弧状に湾曲した部分円筒形状を有しており、ロータ4を径方向外方から覆う。回入側連結部7及び回出側連結部8のそれぞれの内周面には、ロータ4の外周縁部を進入させるために、周方向に伸長する凹形状のロータパス部17が備えられている。インナ、アウタ両ボディ5、6と回入側、回出側両連結部7、8とにより四周を囲まれた部分は、径方向に貫通する、平面視略矩形状の開口部18となっている。
【0038】
《センターブリッジ》
センターブリッジ9は、ロータ4の外周縁よりも径方向外側に配置されている。また、センターブリッジ9は、インナボディ5の周方向内側部のうちの周方向中央部と、アウタボディ6の周方向内側部のうちの周方向中央部とを、軸方向に連結している。センターブリッジ9は、略平板形状を有しており、ロータ4を径方向外方から覆う。センターブリッジ9は、開口部18を周方向に二分割している。なお、図示の例では、センターブリッジ9は、インナボディ5の周方向中央部とアウタボディ6の周方向中央部とを、軸方向に連結しているが、本発明を実施する場合には、センターブリッジは、周方向中央部から回入側又は回出側に外れた位置に配置されていても良い。
【0039】
センターブリッジ9の周方向幅は、軸方向にわたりほぼ一定である。センターブリッジ9の周方向幅は、周方向中間部に配置されたインナシリンダ部12b及びアウタシリンダ部15bのそれぞれのシリンダ径よりも大きい。また、センターブリッジ9の回入側の端部は、回入側のインナシリンダ部12a及び回入側のアウタシリンダ部15aのそれぞれの回出側の端部よりも回入側に位置している。また、センターブリッジ9の回出側の端部は、回出側のインナシリンダ部12c及び回出側のアウタシリンダ部15cのそれぞれの回入側の端部よりも回出側に位置している。
【0040】
センターブリッジ9の径方向厚さは、軸方向及び周方向にわたりほぼ一定である。センターブリッジ9の径方向外側面は、インナシリンダ部12b及びアウタシリンダ部15bのそれぞれの径方向外側の端部よりも径方向外側に位置している。
【0041】
《周方向ブリッジ》
回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれは、ロータ4の外周縁よりも径方向外側に配置されている。
【0042】
回入側周方向ブリッジ10は、回入側連結部7とセンターブリッジ9とに周方向に掛け渡されており、回入側連結部7とセンターブリッジ9とを周方向に連結している。具体的には、回入側周方向ブリッジ10の回入側の端部は、回入側連結部7の回出側の端部の径方向外側面に連結されており、回入側周方向ブリッジ10の回出側の端部は、センターブリッジ9の回入側側面に連結されている。回入側周方向ブリッジ10は、ロータ4の外周縁を径方向外側から覆うように周方向に配設されている。
【0043】
これに対し、回出側周方向ブリッジ11は、回出側連結部8とセンターブリッジ9とに周方向に掛け渡されており、回出側連結部8とセンターブリッジ9とを周方向に連結している。具体的には、回出側周方向ブリッジ11の回出側の端部は、回出側連結部8の回入側の端部の径方向外側面に連結されており、回出側周方向ブリッジ11の回入側の端部は、センターブリッジ9の回出側側面に連結されている。回出側周方向ブリッジ11は、ロータ4の外周縁を覆うように周方向に配設されている。
【0044】
回入側周方向ブリッジ10と回出側周方向ブリッジ11とは、周方向に関して対称形状を有している。具体的には、回入側周方向ブリッジ10は、径方向視で略台形状を有しており、軸方向幅が回入側に向かうほど小さくなる。これに対し、回出側周方向ブリッジ11は、径方向視で略台形状を有しており、軸方向幅が回出側に向かうほど小さくなる。
【0045】
回入側周方向ブリッジ10の軸方向中央部を周方向に通る中心線O10の軸方向位置と、回出側周方向ブリッジ11の軸方向中央部を周方向に通る中心線O11の軸方向位置とは、互いに同じである。また、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれの中心線O10、O11は、ロータ4の中心軸に直交する仮想平面上Pに配置されている。
【0046】
回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれの中心線O10、O11は、センターブリッジ9の軸方向中央部を周方向に通る中心線Oに対し、略平行に配置されている。ただし、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれの中心線O10、O11は、センターブリッジ9の軸方向中央部を周方向に通る中心線Oに対して、軸方向にすこしだけずれて配置されている。具体的には、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれの中心線O10、O11は、センターブリッジ9の軸方向中央部を周方向に通る中心線Oよりもわずかに軸方向外側に位置している。
【0047】
回入側周方向ブリッジ10は、2本の柱部19a、19bと、1つの肉抜き部20とを有している。
【0048】
2本の柱部19a、19bは、軸方向に互いに離隔して配置されており、かつ、それぞれが周方向に伸長している。
【0049】
2本の柱部19a、19bのうち、軸方向内側に配置された柱部19aの軸方向内側面は、回入側周方向ブリッジ10の軸方向内側面を構成しており、軸方向外側に配置された柱部19bの軸方向外側面は、回入側周方向ブリッジ10の軸方向外側面を構成している。また、2本の柱部19a、19bのそれぞれの径方向外側面は、回入側周方向ブリッジ10の径方向外側面を構成しており、2本の柱部19a、19bのそれぞれの径方向内側面は、回入側周方向ブリッジ10の径方向内側面を構成している。
【0050】
2本の柱部19a、19bのそれぞれの軸方向厚さは、周方向外側に向かうほど小さく(細く)なる。また、軸方向内側の柱部19aと軸方向外側の柱部19bとの、同じ周方向位置における軸方向厚さは、互いに同じである。さらに、2本の柱部19a、19bのそれぞれは、周方向の全長にわたり、径方向厚さがほぼ一定である。また、軸方向内側の柱部19aの径方向厚さと、軸方向外側の柱部19bの径方向厚さとは、互いに同じである。
【0051】
2本の柱部19a、19bのそれぞれは、前記仮想平面Pに対して傾斜している。具体的には、2本の柱部19a、19bのうち、軸方向内側に配置された柱部19aは、回入側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に、前記仮想平面Pに対して傾斜している。一方、軸方向外側に配置された柱部19bは、回入側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に、前記仮想平面Pに対して傾斜している。このため本例では、2本の柱部19a、19bは、回入側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜している。なお、本発明を実施する場合には、回入側周方向ブリッジを構成する柱部を屈曲形状として、前記仮想平面Pに対する傾斜角度及び/又は傾斜方向を、周方向位置により異ならせることもできる。
【0052】
軸方向内側に配置された柱部19aの前記仮想平面Pに対する傾斜角度と、軸方向外側に配置された柱部19bの前記仮想平面Pに対する傾斜角度とは、互いに同じであり、たとえば5度~25度の範囲に設定されている。図示の例では、前記仮想平面Pに対する柱部19a、19bのそれぞれの傾斜角度は、10度である。このため本例では、2本の柱部19a、19bは、軸方向に関して対称形状を有している。
【0053】
2本の柱部19a、19bのそれぞれは、径方向外側が凸になるように湾曲している。すなわち、2本の柱部19a、19bのそれぞれは、周方向中間部が、回入側の端部及び回出側の端部のそれぞれよりも径方向外側に張り出している。本例では、2本の柱部19a、19bのそれぞれの周方向中間部ないし回入側の端部が、ロータ4の中心軸を中心としてセンターブリッジ9の外周縁を通る仮想円Cよりも径方向外側に位置している。
【0054】
肉抜き部20は、軸方向に関して2本の柱部19a、19bの間部分に配置されており、かつ、径方向両側に開口している。肉抜き部20は、ロータ4の径方向外側に配置されている。
【0055】
本例では、肉抜き部20は、2本の柱部19a、19bの周方向中間部同士の間に備えられており、径方向視で略台形状を有している。
【0056】
2本の柱部19a、19bの回入側の端部同士の間には、径方向外側にのみ開口した回入側凹部21aが備えられている。回入側凹部21aは、径方向で略半楕円形状を有している。2本の柱部19a、19bの回出側の端部同士の間には、径方向外側にのみ開口した回出側凹部21bが備えられている。回出側凹部21bは、径方向で略台形状を有している。回入側凹部21aと肉抜き部20と回出側凹部21bとは、周方向に滑らかに接続されており、全体として径方向視で略三角形状の凹部を形成している。
【0057】
回出側周方向ブリッジ11は、2本の柱部22a、22bと、1つの肉抜き部23とを有している。
【0058】
2本の柱部22a、22bは、軸方向に互いに離隔して配置されており、かつ、それぞれが周方向に伸長している。
【0059】
2本の柱部22a、22bのうち、軸方向内側に配置された柱部22aの軸方向内側面は、回出側周方向ブリッジ11の軸方向内側面を構成しており、軸方向外側に配置された柱部22bの軸方向外側面は、回出側周方向ブリッジ11の軸方向外側面を構成している。また、2本の柱部22a、22bのそれぞれの径方向外側面は、回出側周方向ブリッジ11の径方向外側面を構成しており、2本の柱部22a、22bのそれぞれの径方向内側面は、回出側周方向ブリッジ11の径方向内側面を構成している。
【0060】
2本の柱部22a、22bのそれぞれは、周方向の全長にわたり、軸方向厚さがほぼ一定である。また、軸方向内側の柱部22aの軸方向厚さと、軸方向外側の柱部22bの軸方向厚さとは、互いに同じである。さらに、2本の柱部22a、22bのそれぞれは、周方向の全長にわたり、径方向厚さがほぼ一定である。また、軸方向内側の柱部22aの径方向厚さと、軸方向外側の柱部22bの径方向厚さとは、互いに同じである。
【0061】
2本の柱部22a、22bのそれぞれは、前記仮想平面Pに対して傾斜している。具体的には、2本の柱部22a、22bのうち、軸方向内側に配置された柱部22aは、回出側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に、前記仮想平面Pに対して傾斜している。一方、軸方向外側に配置された柱部22bは、回出側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に、前記仮想平面Pに対して傾斜している。このため本例では、2本の柱部22a、22bは、回出側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜している。なお、本発明を実施する場合には、回出側周方向ブリッジを構成する柱部を屈曲形状として、前記仮想平面Pに対する傾斜角度及び/又は傾斜方向を、周方向位置により異ならせることもできる。
【0062】
軸方向内側に配置された柱部22aの前記仮想平面Pに対する傾斜角度と、軸方向外側に配置された柱部22bの前記仮想平面Pに対する傾斜角度とは、互いに同じであり、たとえば5度~25度の範囲に設定されている。図示の例では、前記仮想平面Pに対する柱部22a、22bのそれぞれの傾斜角度は、10度である。このため本例では、2本の柱部22a、22bは、軸方向に関して対称形状を有している。
【0063】
2本の柱部22a、22bのそれぞれは、径方向外側が凸になるように湾曲している。すなわち、2本の柱部22a、22bのそれぞれは、周方向中間部が、回入側の端部及び回出側の端部のそれぞれよりも径方向外側に張り出している。本例では、2本の柱部22a、22bのそれぞれの周方向中間部ないし回出側の端部は、前記仮想円Cよりも径方向外側に位置している。
【0064】
肉抜き部23は、軸方向に関して2本の柱部22a、22bの間部分に配置されており、かつ、径方向両側に開口している。肉抜き部23は、ロータ4の径方向外側に配置されている。
【0065】
本例では、肉抜き部23は、2本の柱部22a、22bの周方向中間部同士の間に備えられており、径方向視で略台形状を有している。
【0066】
2本の柱部22a、22bの回出側の端部同士の間には、径方向外側にのみ開口した回出側凹部24bが備えられている。回出側凹部24bは、径方向で略半楕円形状を有している。2本の柱部22a、22bの回入側の端部同士の間には、径方向外側にのみ開口した回入側凹部24aが備えられている。回入側凹部24aは、径方向で略台形状を有している。回入側凹部24aと肉抜き部23と回出側凹部24bとは、周方向に滑らかに接続されており、全体として径方向視で略三角形状の凹部を形成している。
【0067】
〈パッド〉
1対のパッド3のそれぞれは、ライニング(摩擦材)25と、ライニング25の裏面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)26とから構成されている。
【0068】
本例では、ロータ4の軸方向内側に配置されたインナ側のパッド3(インナパッド)を、1対のインナ側張出部14同士の間に配置し、かつ、該インナ側のパッド3を構成する裏板26の周方向両外側の端部を、1対のインナ側張出部14に対し軸方向の移動を可能に係合させている。これにより、該インナ側のパッド3を、インナボディ5に対して軸方向に移動可能に支持している。
【0069】
また、ロータ4の軸方向外側に配置されたアウタ側のパッド3(アウタパッド)を、1対のアウタ側張出部16同士の間に配置し、かつ、該アウタ側のパッド3を構成する裏板26の周方向両外側の端部を、1対のアウタ側張出部16に対し軸方向の移動を可能に係合させている。これにより、該アウタ側のパッド3を、アウタボディ6に対して軸方向に移動可能に支持している。
【0070】
なお、本発明を実施する場合、インナ、アウタ両ボディ5、6に対する1対のパッド3の支持構造については、上述した構造に限定されず、従来から知られた各種構造を採用することができる。
【0071】
本例の対向ピストン型ディスクブレーキ装置1は、1対のパッドクリップ27a、27bをさらに備える。
【0072】
〈パッドクリップ〉
1対のパッドクリップ27a、27bのうち、回入側に配置された一方のパッドクリップ27aは、基板部28aと1対の脚部29aとを有する。基板部28aは、回入側周方向ブリッジ10の径方向内側に配置されている。具体的には、基板部28aは、回入側周方向ブリッジ10の径方向内側面と1対のパッド3のそれぞれの径方向外側面との間部分に配置されている。基板部28aの回出側の端部には、係止部30aが備えられている。係止部30aは、センターブリッジ9の径方向内側面に係止されている。脚部29aのそれぞれは、基板部28aの回入側の端部から径方向内側に向けて伸長している。脚部29aのそれぞれは、1対のパッド3のそれぞれの裏板26の回入側の側面と、回入側に配置されたインナ側張出部14及びアウタ側張出部16のそれぞれの周方向側面との間に配置されている。
【0073】
1対のパッドクリップ27a、27bのうち、回入側に配置された他方のパッドクリップ27bは、基板部28bと1対の脚部29bとを有する。基板部28bは、回出側周方向ブリッジ11の径方向内側に配置されている。具体的には、基板部28bは、回出側周方向ブリッジ11の径方向内側面と1対のパッド3のそれぞれの径方向外側面との間部分に配置されている。基板部28bの回入側の端部には、係止部30bが備えられている。係止部30bは、センターブリッジ9の径方向内側面に係止されている。脚部29bのそれぞれは、基板部28bの回出側の端部から径方向内側に向けて伸長している。脚部29bのそれぞれは、1対のパッド3のそれぞれの裏板26の回出側の側面と、回出側に配置されたインナ側張出部14及びアウタ側張出部16のそれぞれの周方向側面との間に配置されている。
【0074】
以上のような本例の対向ピストン型ディスクブレーキ装置1の場合にも、制動時には、インナシリンダ部12a、12b、12c及びアウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれに、マスターシリンダからブレーキオイルが送り込まれる。これにより、インナシリンダ部12a、12b、12cのそれぞれに嵌装したインナピストンを軸方向に押し出し、インナボディ5に支持したインナ側のパッド3を、ロータ4の軸方向内側面に押し付ける。同様に、アウタシリンダ部15a、15b、15cのそれぞれに嵌装したアウタピストンを軸方向に押し出し、アウタボディ6に支持したアウタ側のパッド3を、ロータ4の軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータ4が、1対のパッド3により軸方向両側から強く挟持され、車両の制動が行われる。
【0075】
特に本例の場合には、対向ピストン型ディスクブレーキ装置1を構成するキャリパ2に関して、剛性の確保と軽量化との両立を高次元で図れる。
【0076】
[剛性を向上できる理由]
本例のキャリパ2では、回入側連結部7とセンターブリッジ9との間に回入側周方向ブリッジ10を周方向に掛け渡すように設けるとともに、回出側連結部8とセンターブリッジ9との間に回出側周方向ブリッジ11を周方向に掛け渡すように設けている。このため、キャリパ2の周方向に関する剛性を向上できる。したがって、制動時に、アウタボディ6がインナボディ5に対して、周方向(ロータ4の回転方向)に変位するように弾性変形することを抑制でき、振動や騒音が発生するのを抑制できる。
【0077】
また、本例では、回入側周方向ブリッジ10を構成する2本の柱部19a、19bを、回入側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜させている。さらに、回出側周方向ブリッジ11を構成する2本の柱部22a、22bを、回出側に向かうほど軸方向に関して互いに近づく方向に傾斜させている。このため、キャリパ2の軸方向に関する剛性を向上できる。したがって、制動時に、インナボディ5とアウタボディ6とが軸方向に互いに離れる方向に弾性変形するのを抑制できる。これにより、本例の対向ピストン型ディスクブレーキ装置1によれば、所期の制動力を得ることができる。
【0078】
さらに本例では、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれの中心線O10、O11を、センターブリッジ9の軸方向中央部を周方向に通る中心線Oよりもわずかに軸方向外側に位置させている。これにより、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれを、インナボディ5に備えられた取付孔13a、13bから軸方向に遠ざけて配置している。このため、アウタボディ6が、インナボディ5に対して、周方向に変位するように弾性変形するのを効果的に抑制できる。
【0079】
[軽量化を図れる理由]
本例のキャリパ2は、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれに、径方向両側に開口した肉抜き部20、23を設けている。別な言い方をすれば、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のうちで、キャリパ2の剛性の向上に十分に寄与しない部分に、肉抜き部20、23を設けている。このため、キャリパ2の剛性を確保しつつ、キャリパ2の軽量化を図ることができる。
【0080】
さらに、回入側周方向ブリッジ10を構成する2本の柱部19a、19bのうち、回入側の端部同士の間に径方向外側にのみ開口した回入側凹部21aを設けるとともに、回出側の端部同士の間に径方向外側にのみ開口した回出側凹部21bを設けている。また、回出側周方向ブリッジ11を構成する2本の柱部22a、22bのうち、回出側の端部同士の間に径方向外側にのみ開口した回出側凹部24bを設けるとともに、回入側の端部同士の間に径方向外側にのみ開口した回入側凹部24aを設けている。したがって、キャリパ2の軽量化をさらに図ることができる。
【0081】
この結果、本例のキャリパ2によれば、剛性の確保と軽量化との両立を高次元で図ることがでる。
【0082】
また、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11のそれぞれに、径方向両側に開口した肉抜き部20、23を備えているため、肉抜き部20、23により、ロータ4から放射される熱を径方向外側に逃がすことができる。このため、ロータ4の放熱性が回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11の存在によって低下することを防止でき、キャリパ2の冷却性を向上することができる。また、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11の硬度が、ロータ4から放射される熱によって低下することを抑制することもできる。
【0083】
また、本例では、回入側周方向ブリッジ10を構成する2本の柱部19a、19bを、径方向外側が凸になるように湾曲させているため、柱部19a、19bと1対のパッド3との径方向間部分に、パッドクリップ27aの設置スペースを確保することができる。また、回出側周方向ブリッジ11を構成する2本の柱部22a、22bを、径方向外側が凸になるように湾曲させているため、柱部22a、22bと1対のパッド3との径方向間部分に、パッドクリップ27bの設置スペースを確保することができる。したがって、回入側周方向ブリッジ10及び回出側周方向ブリッジ11を設けたことにより、パッドクリップ27a、27bが設置できなくなることを防止できる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0085】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジと回出側周方向ブリッジとの2本の周方向ブリッジを備えた構造について説明したが、本発明を実施する場合には、回入側周方向ブリッジ又は回出側周方向ブリッジの1本の周方向ブリッジのみを設けることができる。
【0086】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジと回出側周方向ブリッジとを、周方向に関して対称形状とした場合について説明したが、本発明を実施する場合には、周方向に関して非対称形状とすることもできる。
【0087】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジと回出側周方向ブリッジとの軸方向位置を、互いに一致させた場合について説明したが、本発明を実施する場合には、回入側周方向ブリッジと回出側周方向ブリッジとの軸方向位置を、互いに異ならせることもできる。
【0088】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジ及び回出側周方向ブリッジを構成する2本の柱部のそれぞれを、ロータの中心軸に直交する仮想平面に対して同じ角度だけ傾斜させた構造について説明した。ただし、本発明を実施する場合には、前記仮想平面に対する2本の柱部の傾斜角度を互いに異ならせることもできるし、前記仮想平面に対して1本の柱部のみを傾斜させることができる。さらには、前記仮想平面に対して2本の柱部を平行に配置することもできる。
【0089】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジ及び回出側周方向ブリッジを構成する2本の柱部のそれぞれを、径方向外側が凸になるように湾曲させた構造について説明した。ただし、本発明を実施する場合には、2本の柱部を直線形状とすることもできるし、1本の柱部のみ湾曲形状とすることもできる。
【0090】
実施の形態では、回入側周方向ブリッジ及び回出側周方向ブリッジを構成する2本の柱部に関して、径方向厚さを周方向の全長にわたり一定と、かつ、軸方向厚さを周方向位置に応じて変化させた場合について説明した。ただし、本発明を実施する場合には、径方向厚さを周方向位置に応じて変化させることもできるし、軸方向厚さを周方向の全長にわたり一定とすることもできる。
【0091】
本発明を実施する場合に、対向ピストン型ディスクブレーキ用キャリパは、たとえばアルミニウム合金などの材料により一体的に構成されたモノコック構造(一体構造)としても良いし、インナボディとアウタボディとをボルトにより連結した構造としても良い。また、インナシリンダ部及びアウタシリンダ部の数は、実施の形態で説明した3個に限定されず、1個又は2個でも良いし、4個以上としても良い。
【符号の説明】
【0092】
1 対向ピストン型ディスクブレーキ装置
2 キャリパ
3 パッド
4 ロータ
5 インナボディ
6 アウタボディ
7 回入側連結部
8 回出側連結部
9 センターブリッジ
10 回入側周方向ブリッジ
11 回出側周方向ブリッジ
12a、12b、12c インナシリンダ部
13a、13b 取付孔
14 インナ側張出部
15a、15b、15c アウタシリンダ部
16 アウタ側張出部
17 ロータパス部
18 開口部
19a、19b 柱部
20 肉抜き部
21a 回入側凹部
21b 回出側凹部
22a、22b 柱部
23 肉抜き部
24a 回入側凹部
24b 回出側凹部
25 ライニング
26 裏板
27a、27b パッドクリップ
28a、28b 基板部
29a、29b 脚部
30a、30b 係止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11