(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182436
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】酸化剤廃液の還元処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20230101AFI20231219BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096043
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 泰三
(72)【発明者】
【氏名】塩野 孝人
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA12
4D050AB46
4D050BA07
4D050BD02
4D050BD08
4D050CA13
(57)【要約】
【課題】還元処理中に酸性ガスの発生を抑制することが可能な酸化剤廃液の還元処理方法を提供する。
【解決手段】還元処理方法では、酸化剤廃液に還元剤を投入する前に、該酸化剤廃液のpH値を調整するためのアルカリpH調整剤が酸化剤廃液に投入される。アルカリpH調整剤は、酸化剤と還元剤の還元反応の際に生成される酸を中和して、酸化剤廃液の液性をアルカリ性に維持し、これにより、酸性ガスの発生を抑制する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤廃液に含まれる酸化剤を還元剤で還元処理する酸化剤廃液の還元処理方法であって、
前記酸化剤廃液に前記還元剤を投入する前に、前記酸化剤廃液のpH値を調整するためのアルカリpH調整剤を前記酸化剤廃液に投入し、
前記アルカリpH調整剤は、前記酸化剤と前記還元剤の還元反応の際に生成される酸を中和して、前記酸化剤廃液の液性をアルカリ性に維持し、これにより、酸性ガスの発生を抑制することを特徴とする酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項2】
前記還元処理中に前記酸化剤廃液の酸化還元電位値を測定し、
前記酸化還元電位値が急激に減少する時点を、前記還元反応の終点と決定することを特徴とする請求項1に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項3】
前記酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムであり、
前記還元剤はチオ硫酸ナトリウムであり、
前記アルカリpH調整剤は水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する前記水酸化ナトリウムの物質量の比が0.09以上となるように、前記水酸化ナトリウムが前記酸化剤廃液に投入されることを特徴とする請求項3に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項5】
前記酸化剤は、膜ろ過設備のろ過膜を洗浄するために使用された酸化剤であることを特徴とする請求項1に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項6】
前記酸化剤廃液は、廃液槽に投入され、
前記廃液槽には、前記酸化剤廃液、前記アルカリpH調整剤、および前記還元剤の混合液を撹拌するための散気管が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【請求項7】
前記還元処理後の酸化剤廃液のpH値を測定し、
前記還元処理後の酸化剤廃液のpH値が排水基準を満たすように、酸pH調整剤が前記還元処理後の酸化剤廃液に投入されることを特徴とする請求項1に記載の酸化剤廃液の還元処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を含有する廃液に還元剤を投入して処理する還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の浄水処理では、砂ろ過法が懸濁物質を含有する被処理水の固液分離方法として使用されてきた。近年では、より高度な固液分離を期待して、精密ろ過膜(MF膜)または限外ろ過膜(UF膜)を用いた低圧膜ろ過法の導入が進んでいる。
【0003】
一方で、膜ろ過法における課題の一つとして、原水中の有機物、およびアルミニウムなどの凝集剤由来成分による膜閉塞が進行し、所定の膜ろ過流速が維持できなくなることが挙げられる。深刻な膜閉塞を起こさないようするため、年に数回程度、膜の薬品洗浄が実施される。膜の薬品洗浄では、一般的に、膜の有機汚染に対する洗浄薬品である高濃度の酸化剤溶液(例えば、1000mg/L以上の濃度を有する次亜塩素酸ナトリウム溶液)が用いられる。酸化剤溶液による膜の薬品洗浄では、数時間から1日程度の間、被洗浄物である膜を酸化剤溶液に浸漬させる。
【0004】
ここで、膜の薬品洗浄に使用された後の高濃度の酸化剤溶液の廃液(以下、「酸化剤廃液」と称することがある)は、産業廃棄物処分されるか、または廃液処理を施した後で下水放流される。廃液処理方法としては、活性炭添加による触媒反応を用いる方法や、還元剤の添加による還元反応を用いる方法などが知られている。なお、活性炭による酸化剤廃液の処理方法を実施するには、専用の設備が必要となり、処理コストの増大につながるため、酸化剤廃液の処理としては、還元剤による還元処理が一般的に行われている。
【0005】
還元反応の終点、すなわち酸化剤廃液の還元処理の終点を把握する方法では、一般に、残留酸化剤濃度を測定可能な濃度計(例えば、塩素濃度計)が用いられる。しかしながら、この種の濃度計では高濃度の残留酸化物濃度の測定が困難なことがあり、さらに、連続的に残留酸化物濃度をモニタリングすることが難しい。
【0006】
そこで、特許文献1では、塩素(酸化物)の還元工程時に酸化還元電位値(ORP値)の測定を行い、ORP値の変化から残留塩素濃度を判定して、還元処理の終点と、還元剤の流入量とを管理している。
【0007】
特許文献2では、残留塩素濃度をpH値とORP値で管理している。この残留塩素濃度の管理方法では、所定のpH範囲におけるORP値の基準を設け、pH値を所定の範囲内に調整しつつ、ORP値が基準値を超えているときには還元剤を注入させる一方で、基準値以下となったときには還元処理を自動的に終了させる。
【0008】
特許文献3は、残留塩素除去システムの制御方法として、被処理水のORP値及びpH値に基づいてORP値の補正を行い、補正したORP値により還元剤の供給量を制御する演算制御方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-33800号公報
【特許文献2】特開2009-189933号公報
【特許文献3】特開2020-175346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酸化剤廃液に含まれる酸化剤を還元剤を用いて還元処理すると、酸化剤廃液から酸性ガスが発生することがある。例えば、次亜塩素酸ナトリウム溶液の廃液にチオ硫酸ナトリウムを投入して、次亜塩素酸ナトリウムを還元処理すると、廃液から塩素ガスが発生する。酸性ガスは一般に有害であり、環境保全および作業員の安全確保のためには、酸性ガスの発生を抑制する必要がある。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1乃至3に記載されるような従来の還元処理方法では、ORP値を利用した還元処理の制御について考慮されているだけであり、還元処理中の酸性ガスの発生を抑制する方法については何ら検討されていない。
【0012】
そこで、本発明は、還元処理中に酸性ガスの発生を抑制することが可能な酸化剤廃液の還元処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、酸化剤廃液に含まれる酸化剤を還元剤で還元処理する酸化剤廃液の還元処理方法であって、前記酸化剤廃液に前記還元剤を投入する前に、前記酸化剤廃液のpH値を調整するためのアルカリpH調整剤を前記酸化剤廃液に投入し、前記アルカリpH調整剤は、前記酸化剤と前記還元剤の還元反応の際に生成される酸を中和して、前記酸化剤廃液の液性をアルカリ性に維持し、これにより、酸性ガスの発生を抑制することを特徴とする酸化剤廃液の還元処理方法が提供される。
【0014】
一態様では、前記還元処理中に前記酸化剤廃液の酸化還元電位値を測定し、前記酸化還元電位値が急激に減少する時点を、前記還元反応の終点と決定する。
一態様では、前記酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムであり、前記還元剤はチオ硫酸ナトリウムであり、前記アルカリpH調整剤は水酸化ナトリウムである。
一態様では、前記次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する前記水酸化ナトリウムの物質量の比が0.09以上となるように、前記水酸化ナトリウムが前記酸化剤廃液に投入される。
【0015】
一態様では、前記酸化剤は、膜ろ過設備のろ過膜を洗浄するために使用された酸化剤である。
一態様では、前記酸化剤廃液は、廃液槽に投入され、前記廃液槽には、前記酸化剤廃液、前記アルカリpH調整剤、および前記還元剤の混合液を撹拌するための散気管が設けられている。
一態様では、前記還元処理後の酸化剤廃液のpH値を測定し、前記還元処理後の酸化剤廃液のpH値が排水基準を満たすように、酸pH調整剤が前記還元処理後の酸化剤廃液に投入される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、還元剤を添加する前に酸化剤廃液に添加されたアルカリpH調整剤により、還元処理中に発生する酸の中和が行なわれ、酸化剤廃液の液性をアルカリ性に維持できる。その結果、還元処理中に、塩素ガスなどの酸性ガスの発生を抑制することができる。さらに、還元処理中におけるORP値が還元処理の終点までほとんど変化せず、その結果、ORP値が所定の値以下まで急激に減少した時点である還元反応の終点を容易かつ確実に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、還元処理装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る酸化剤廃液の還元処理方法を示すフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対する残留塩素濃度の変化を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対するpH値の変化を示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対するORP値の変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対するチオ硫酸ナトリウムの物質量の比と、次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する水酸化ナトリウムの物質量の比との間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、還元処理装置の一例を示す模式図である。
図1に示す還元処理装置は、用途を限定する意図はないが、精密ろ過膜(MF膜)または限外ろ過膜(UF膜)などの膜の洗浄に用いられた酸化剤溶液の廃液を還元処理する装置である。還元処理装置に投入される酸化剤溶液は、膜ろ過設備の配管及び浸漬槽などの構成要素の洗浄に用いられた酸化剤溶液であってもよい。膜の洗浄に用いられる酸化剤溶液の例としては、次亜塩素酸ナトリウム溶液が挙げられる。還元剤の例としては、チオ硫酸ナトリウムが挙げられる。以下では、主として、膜の洗浄に用いられる酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであり、還元剤がチオ硫酸ナトリウムである還元処理の例が説明される。さらに、酸化剤廃液の一例である次亜塩素酸ナトリウム溶液の廃液を「次亜塩素酸ナトリウム廃液」と称することがある。
【0019】
図1に示す還元処理装置は、次亜塩素酸ナトリウム廃液(酸化剤廃液)が流れる廃液供給ライン1と、廃液供給ライン1が連結され、次亜塩素酸ナトリウム廃液を貯留する廃液槽2と、廃液槽2に連結された排出ライン7と、廃液供給ライン1に連結されたアルカリpH調整剤ライン8と、を備える。アルカリpH調整剤ライン8は、廃液供給ライン1にアルカリ性を有するpH調整剤(以下、「アルカリpH調整剤」と称する。)を供給する。アルカリpH調整剤の例としては、水酸化ナトリウムが挙げられる。次亜塩素酸ナトリウム廃液とアルカリpH調整剤の混合液は、廃液供給ライン1を介して廃液槽2に供給される。後述する還元処理が完了すると、廃液槽2内の還元処理済み廃液が廃液槽2から排出ライン7を介して排出される。
【0020】
一実施形態では、アルカリpH調整剤ライン8を、廃液槽2に直接連結してもよい。この場合、アルカリpH調整剤は、廃液供給ライン1を通らずに、廃液槽2に直接供給され、廃液槽2内で次亜塩素酸ナトリウム廃液とアルカリpH調整剤の混合液が形成される。
【0021】
図示はしないが、廃液供給ライン1には、on/offバルブ、流量調整器(例えば、流量調整弁、またはマスフローコントローラ)などが配置されており、次亜塩素酸ナトリウム廃液を廃液槽2に供給するタイミング、および流量を制御可能に構成されている。同様に、アルカリpH調整剤ライン8には、図示しないon/offバルブ、流量調整器(例えば、流量調整弁、またはマスフローコントローラ)などが配置されており、アルカリpH調整剤を廃液槽2に供給するタイミング、および流量を制御可能に構成されている。
【0022】
さらに、還元処理装置は、廃液槽2に連結される還元剤供給ライン9を備えている。還元剤供給ライン9を介して廃液槽2に、後述する還元処理に用いられるチオ硫酸ナトリウム(還元剤)が供給される。還元剤供給ライン9には、図示しないon/offバルブ、流量調整器(例えば、流量調整弁、またはマスフローコントローラ)などが配置されており、チオ硫酸ナトリウムを廃液槽2に供給するタイミング、および流量を制御可能に構成されている。
【0023】
還元処理装置は、さらに、廃液槽2内に配置された散気管3と、散気管3に気体(例えば、空気)を供給するブロワ11と、図示しない気体供給源から散気管3まで延びる気体供給ライン12と、を備える。ブロワ11は、気体供給ライン12に配置される。ブロワ11によって昇圧された気体は、気体供給ライン12を通って散気管3に到達し、散気管3から廃液槽2内の廃液(すなわち、次亜塩素酸ナトリウム廃液とアルカリpH調整剤との混合液、または次亜塩素酸ナトリウム、アルカリpH調整剤、および還元剤の混合液)に放出される。散気管3から放出された気体によって、廃液槽2内の廃液が効率的に撹拌される。
図1に示す実施形態では、散気管3、ブロワ11、および気体供給ライン12が廃液槽2内の廃液を撹拌するための撹拌装置を構成する。一実施形態では、ブロワ11を省略してもよい。
【0024】
廃液槽2内の廃液を撹拌することが可能である限り、撹拌装置は、散気管3、ブロワ11、および気体供給ライン12の組み合わせに限られない。例えば、撹拌装置は、撹拌翼と、該撹拌翼を回転させる駆動機との組み合わせであってもよい。
【0025】
還元処理装置は、さらに、廃液のORP値を測定するためのORP測定器15を備えている。
図1に示すORP測定器15は、ORP電極4と、該ORP電極4が取得した測定値をORP値に変換する測定器本体5と、を備えている。本実施形態では、ORP測定器15のORP電極4は、廃液槽2内の廃液に浸漬されるが、廃液槽2内の廃液のORP値を測定できる限り、ORP測定器15の種類及び構成は任意である。
【0026】
還元処理装置の排出ライン7には、pH計6が配置されており、pH計6は、排出ライン7を流れる還元処理済みの廃液のpH値を測定する。さらに、排出ライン7には、酸pH調整剤ライン10が連結されている。酸pH調整剤ライン10は、pH計6の測定値に基づいて、排出ライン7を流れる還元処理済みの廃液に酸性を有するpH調整剤(以下、「酸pH調整剤」と称する)を供給するためのラインである。具体的には、酸pH調整剤は、還元処理済みの廃液のpH値が下水または河川に放出可能なpHの範囲に収まるように、pH計6の測定値に基づいて酸pH調整剤ライン10から排出ライン7に供給される。一実施形態では、酸pH調整剤ライン10を、還元処理が完了した廃液槽2に直接連結してもよい。
【0027】
さらに、一実施形態では、pH計6の測定値を用いて、酸性ガスが発生しているか否か、およびアルカリpH調整剤の投入量が十分か否かの判定を行ってもよい。後述するが、廃液槽2内のアルカリpH調整剤の量が十分でないなどの不具合に起因して、還元処理中に廃液槽2内の廃液の液性がアルカリ性から酸性に変わると、酸性ガスが発生する。そこで、排出ライン7を流れる廃液のpH値を測定することで、酸性ガスが発生しているか否か、およびアルカリpH調整剤の投入量が十分か否かの判定を行うことができる。
【0028】
次に、上述した還元処理装置を用いた次亜塩素酸ナトリウム廃液(酸化剤廃液)の還元処理方法について説明する。
【0029】
図2は、一実施形態に係る酸化剤廃液の還元処理方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、最初に、所定量の次亜塩素酸ナトリウム廃液(酸化剤廃液)が廃液供給ライン1を介して廃液槽2に投入される(S101)。次亜塩素酸ナトリウム廃液に含まれる次亜塩素酸ナトリウムが、還元剤によって還元処理される酸化剤である。次亜塩素酸ナトリウムは、例えば、1000mg/L以上の高濃度で次亜塩素酸ナトリウム廃液に含まれている。
【0030】
次いで、廃液槽2に、アルカリpH調整剤(水酸化ナトリウム)が投入される(S102)。散気管3から放出された気体によって、廃液槽2内の廃液(すなわち、次亜塩素酸ナトリウム廃液とアルカリpH調整剤との混合液)が撹拌され(S103)、これにより、アルカリpH調整剤は、次亜塩素酸ナトリウム廃液と効率よく混合される。本実施形態では、アルカリpH調整剤は、アルカリpH調整剤ライン8から廃液供給ライン1を介して廃液槽2に投入される。アルカリpH調整剤は、次亜塩素酸ナトリウム廃液と同時に廃液槽2に投入されてもよいし、次亜塩素酸ナトリウム廃液が廃液槽2に投入された後で、廃液槽2に投入されてもよい。さらに、上記したように、アルカリpH調整剤ライン8を廃液槽2に直接連結して、アルカリpH調整剤を廃液槽2に直接投入してもよい。
【0031】
このように、アルカリpH調整剤は、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入される前に、次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入される。この理由を以下に説明する。
【0032】
チオ硫酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムの還元処理における反応式は以下の式(1)に示す通りである。
4HClO+Na2S2O3+H2O →
2NaCl+2H2SO4+2HCl ・・・(1)
さらに、次亜塩素酸ナトリウムが1000mg/L以上含まれる高濃度の次亜塩素酸ナトリウム廃液は、500~600mV程度のORP値を有する。この次亜塩素酸ナトリウム廃液に、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムを添加すると、酸由来の水素イオンが生成され、ORP値が1000mV以上に上昇し、次いで、pH値が急激に低下して、酸性ガスである塩素ガスが発生する。なお、塩素ガスの発生の際に、ORP値は、400mV未満まで低下する。
【0033】
ここで、一般的に、次亜塩素酸ナトリウム廃液中の次亜塩素酸ナトリウムは、pH値によってその存在形態が異なっており、以下に記す形態をとる。
【化1】
【0034】
そこで、次亜塩素酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムとの間の還元反応によって生成する酸(式(1)参照)を、予め投入されたアルカリpH調整剤で中和することで、次亜塩素酸ナトリウム廃液の液性をアルカリ性に維持する。その結果、次亜塩素酸ナトリウムと水素イオン(H+)との反応によって発生する塩素ガス(酸性ガス)の発生を抑制することができる。
【0035】
さらに、発明者らが酸化剤廃液の還元処理について鋭意研究したところ、次亜塩素酸ナトリウム廃液にチオ硫酸ナトリウムを投入する前に、該次亜塩素酸ナトリウム廃液にアルカリpH調整剤を投入しておくことで、次亜塩素酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムとの間の還元反応時におけるORP値の変化も抑制することができることがわかった。すなわち、還元剤の投入前に、アルカリpH調整剤を酸化剤廃液に投入しておくことで、酸化剤の還元反応の終点までORP値が大きく変化しないようになることがわかった。この現象については後述するが、この現象によって、ORP値が所定の値(例えば、400mV)以下まで減少した時点である還元反応の終点を、ORP値の補正演算などの複雑な制御に頼らずに、簡単に確認することができる。
【0036】
廃液槽2に投入されるアルカリpH調整剤の量は、次亜塩素酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムとの間の還元反応によって生成する酸を十分に中和できるように決定される。より具体的には、アルカリpH調整剤の量は、次亜塩素酸ナトリウム廃液にチオ硫酸ナトリウムを投入しても、次亜塩素酸ナトリウム廃液とチオ硫酸ナトリウムの混合液の液性がアルカリ性を維持できるような量に決定される。このアルカリpH調整剤の量は、廃液槽2に投入される次亜塩素酸ナトリウム廃液に含まれる次亜塩素酸ナトリウムの量に基づいて理論的に算出されてもよいし、予め行われる実験および/またはシミュレーションによって決定されてもよい。
【0037】
さらに、次亜塩素酸ナトリウム廃液に含まれる次亜塩素酸ナトリウムの量は、例えば、膜の洗浄前の洗浄液における次亜塩素酸ナトリウムの濃度と、廃液槽2に投入される次亜塩素酸ナトリウム廃液の量に基づいて算出(推定)されてもよい。一実施形態では、廃液供給ライン1に濃度計(図示せず)を配置し、廃液供給ライン1内の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を計測してもよい。この場合、アルカリpH調整剤の量は、濃度計の測定値と、廃液槽2に投入される次亜塩素酸ナトリウム廃液の量に基づいて算出される。
【0038】
このように、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムを、酸化剤廃液である次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入する前に、アルカリpH調整剤である水酸化ナトリウムを次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入することで、酸性ガスである塩素ガスの発生を抑制することができる。その結果、周囲環境の汚染を防止し、作業員の安全を確保することができる。さらに、チオ硫酸ナトリウムを次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入して還元処理する際に、ORP値が還元処理の終点までほとんど変化せず、その結果、ORP値が急激に減少する時点である還元処理の終点を容易かつ確実に判断することができる。
【0039】
図2に示すフローチャートに戻り、S103でアルカリpH調整剤と十分に混合された次亜塩素酸ナトリウム廃液に、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムが投入され(S104)、次亜塩素酸ナトリウムがチオ硫酸ナトリウムによって還元処理される。還元処理中も、散気管3から気体が放出される。これにより、チオ硫酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウム廃液と効率的に混合され、還元反応が促進される。上述したように、アルカリpH調整剤をチオ硫酸ナトリウムの投入前に次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入することで、塩素ガスの発生が抑制される。
【0040】
還元処理の終点は、ORP測定器15の測定結果に基づいて判断される(S105)。より具体的には、ORP測定器15の測定器本体5は、廃液槽2に配置されたORP電極4が取得した測定値(ORP値)を監視しており、ORP値が所定の値(例えば、350mV)よりも小さくなったとき(S105のNo)に、還元処理が終了したと決定して、チオ硫酸ナトリウムの廃液槽2への投入を停止させる(S106)。ORP値が所定の値以上である場合(S105のYes)は、ORP測定器15の測定器本体5は、チオ硫酸ナトリウムの廃液槽2への投入を継続させる。
【0041】
次亜塩素酸ナトリウムの還元処理が終了すると、還元処理済みの廃液が廃液槽2から排出ライン7を介して排出される(S107)。この際に、排出ライン7を流れる還元処理済みの廃液のpH値がpH計6によって測定され、還元処理済みの廃液のpH値が下水への排水基準によって定められた所定の値と比較される(S108)。還元処理済みの廃液のpH値が所定の値(例えば、9)以上であれば(S108のYes)、還元処理済みの廃液のpH値が所定の値よりも小さくなるように、酸pH調整剤が酸pH調整剤ライン10を介して排出ライン7あるいは廃液槽2に投入され(S109)、その後、下水放流される(S110)。還元処理済みの廃液のpH値が所定の値よりも小さければ(S108のNo)、還元処理済みの廃液はそのまま下水放流される(S110)。
【0042】
次に、酸化剤廃液に還元剤を投入する前に、アルカリpH調整剤を酸化剤廃液に投入した際に発生する効果について確認した検証実験について説明する。検証実験では、複数の1Lのビーカーのそれぞれに次亜塩素酸ナトリウム溶液を分取し、各ビーカー内の次亜塩素酸ナトリウム溶液の残留塩素濃度、pH値、およびORP値をそれぞれ測定した。残留塩素濃度の測定には、ジエチルパラフェニレンジアミン法(DPD法)を用いた。次いで、1mol/Lの濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液(アルカリpH調整剤)を、その量を0~50mLの範囲で変えて各ビーカーに添加し、それぞれのpH値およびORP値を再度測定した。
【0043】
次に、アルカリpH調整剤を添加済みの次亜塩素酸ナトリウム溶液に、100g/Lの濃度を有するチオ硫酸ナトリウム溶液を0.5~10mLの範囲で添加した。チオ硫酸ナトリウム溶液を、次亜塩素酸ナトリウム溶液に添加し始めた時点を、測定開始時点とする。測定開始時点より1分後に、各ビーカーから溶液のサンプリングを行い、残留塩素濃度、pH値、およびORP値を測定した。この時、残留塩素濃度が1.0mg/L以上である溶液には、測定開始時点より5分後に、再度、任意量のチオ硫酸ナトリウム溶液を添加して、同様の測定を行った。これら検証試験では、ビーカー内の溶液の残留塩素濃度が1.0mg/L未満となった時点を、還元反応の終点とした。
【0044】
以下に示す表1は、検証実験の結果を表す表である。具体的には、表1は、各ビーカーに入れられた次亜塩素酸ナトリウム溶液の次亜塩素酸ナトリウム濃度に対する各ビーカーに添加された水酸化ナトリウムの比率、および各ビーカーに入れられた次亜塩素酸ナトリウム溶液の次亜塩素酸ナトリウム濃度に対する各ビーカーに添加されたチオ硫酸ナトリウムの比率を示している。さらに、表1には、検証実験において、各ビーカーに入れられた次亜塩素酸ナトリウム溶液の還元処理前のpH値と、還元処理後のpH値とが示されている。
【0045】
【0046】
さらに、
図3A乃至
図3Cは、検証実験の結果を示すグラフである。より具体的には、
図3Aは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対する残留塩素濃度の変化を示すグラフであり、
図3Bは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対するpH値の変化を示すグラフであり、
図3Cは、チオ硫酸ナトリウムの注入量に対するORP値の変化を示すグラフである。
図3Aにおいて、縦軸は残留塩素濃度を表し、横軸はチオ硫酸ナトリウムの注入量を表す。
図3Bにおいて、縦軸はpH値を表し、横軸はチオ硫酸ナトリウムの注入量を表す。
図3Cにおいて、縦軸はORP値を表し、横軸はチオ硫酸ナトリウムの注入量を表す。
【0047】
なお、表1、および
図3A乃至
図3Cにおいて、比較例1は、還元処理中の酸性ガスの発生を何ら考慮しない従来の還元処理方法に対応する例である。具体的には、比較例1は、アルカリpH調整剤である水酸化ナトリウム溶液をビーカーに添加しないで、次亜塩素酸ナトリウム溶液にチオ硫酸ナトリウム溶液を添加した例である。比較例2は、水酸化ナトリウム溶液をビーカーに添加したものの、還元処理中に酸性ガスが発生したと考えられる例である。
【0048】
比較例1では、チオ硫酸ナトリウムの注入量が2.5g/Lのときに、残留塩素濃度が大幅に減少し(表1および
図3A参照)、ビーカー内の溶液のpH値は11.7から2.5に急激に変化した(表1および
図3B参照)。さらに、チオ硫酸ナトリウムの注入量が2.5g/Lのときに、ORP値が540mVから1190mVに上昇した(
図3C参照)。比較例2でも、チオ硫酸ナトリウムの注入量が4.2g/Lのときに、残留塩素濃度およびpH値がそれぞれ大幅に減少した。これらの現象は、上記式(1)に示される反応にしたがって酸が発生したことに起因して次亜塩素酸ナトリウム溶液のpH値が低下し、pH値が低下したことに起因して塩素ガス(酸性ガス)が発生したために生じたものと考えられる。
【0049】
従来の還元処理方法のように、還元処理中に次亜塩素酸ナトリウム溶液(酸化剤廃液に相当する)の液性をアルカリ性に維持できない比較例1および比較例2の場合は、次亜塩素酸ナトリウム溶液のORP値が急激に変化するとともに、塩素ガスが発生してしまう。還元処理中の急激なORP値の変化は予見が困難であり、ORP値が大きく変化したときには、発生した塩素ガス(酸性ガス)が気中に放出されることになる。この場合は、周囲環境が酸性ガスにより汚染され、作業者が危険にさらされることになる。
【0050】
一方で、実施例1乃至4では、残留塩素濃度およびpH値はそれぞれ緩やかに減少していることが確認できた。また、ORP値は、チオ硫酸ナトリウムの注入量が増えるにしたがって緩やかに減少していくか、またはほぼ変化せずに、残留塩素濃度が0.2mg/L未満となる還元反応処理の終点で200mV程度まで急激に減少した(
図3Aおよび
図3C参照)。
【0051】
以上の検証実験の結果から、チオ硫酸ナトリウム(還元剤)を次亜塩素酸ナトリウム廃液(酸化剤廃液)に投入する前に、水酸化ナトリウム(アルカリpH調整剤)を次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入することで、還元反応の終点までORP値がほとんど変化せず、その結果、還元処理の終点を容易かつ確実に判断することができることがわかった。さらに、次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する水酸化ナトリウムの物質量の比(NaOH/NaClO)が0.09以上となるように、水酸化ナトリウムを次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入することで、塩素ガスを発生させずに、次亜塩素酸ナトリウムの還元処理を行うことができることがわかった。
【0052】
図4は、次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対するチオ硫酸ナトリウムの物質量の比と、次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する水酸化ナトリウムの物質量の比との間の関係を示すグラフである。
図4では、縦軸が次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対するチオ硫酸ナトリウムの物質量の比を表し、横軸が次亜塩素酸ナトリウムの物質量に対する水酸化ナトリウムの物質量の比を表す。
【0053】
図4から明らかなように、次亜塩素酸ナトリウム廃液に添加される水酸化ナトリウムの量が増えるにつれて、チオ硫酸ナトリウムの注入量が少なくなる。この現象の理由は、式(1)の反応式にしたがって生成される酸が水酸化ナトリウムによって中和されることで、次亜塩素酸ナトリウムの還元処理が加速されるためであると考えられる。したがって、次亜塩素酸ナトリウム廃液に添加されるアルカリpH調整剤の量は、次亜塩素酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムとの間の還元反応によって生成する酸をちょうど中和できる量を超えて次亜塩素酸ナトリウム廃液に投入されるのが好ましい。
【0054】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 廃液供給ライン
2 廃液槽
3 散気管
4 ORP電極
5 測定器本体
6 pH計
7 排出ライン
8 アルカリpH調整剤ライン
9 還元剤供給ライン
10 酸pH調整剤ライン
11 ブロワ
12 気体供給ライン
15 ORP測定器