(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018244
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】変位量表示器
(51)【国際特許分類】
G01D 7/00 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
G01D7/00 302F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122215
(22)【出願日】2021-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】392001472
【氏名又は名称】ライン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】大藪 恵司
【テーマコード(参考)】
2F041
【Fターム(参考)】
2F041NA00
(57)【要約】
【課題】測定対象の変位量の変化に応じて、変位量の表示器に表示される数値等の安定を図る。
【解決手段】
変位量表示器10は、測定対象8の変位量をデジタル表示する表示器13と、変位量に変化があるときには変化に応じて表示器13のデジタル表示を更新する更新モードと、 変位量の変化が止まったとされる際には表示器13のデジタル表示を更新しない停止モードと、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、
前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、
前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードと
を備えたことを特徴とする変位量表示器。
【請求項2】
予め定められた期間にて前記変位量の変化が予め定められた値よりも小さい場合に、前記更新モードから前記停止モードに移行することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器。
【請求項3】
前記停止モードにて前記変位量の変化が予め定められた更新移行値を超えた際に前記更新モードへ移行することを特徴とする請求項1または2記載の変位量表示器。
【請求項4】
前記停止モードから前記更新モードへ移行した際には、当該停止モードの際の前記測定対象の変位量の変化に関わらず、当該更新モードへ移行した際の当該測定対象の変位量をデジタル表示することを特徴とする請求項3記載の変位量表示器。
【請求項5】
電源遮断が前記更新モードのときになされたのか前記停止モードのときになされたのかを識別する電源遮断モード情報を記録することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器。
【請求項6】
前記更新モードで電源遮断となったときと、前記停止モードで電源遮断となったときとで、電源遮断に対する措置が異なることを特徴とする請求項1記載の変位量表示器。
【請求項7】
前記更新モードで電源遮断となったときにはエラー表示を行い、前記停止モードで電源遮断となったときには当該エラー表示を行わないことを特徴とする請求項6記載の変位量表示器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位量表示器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、プレス機械のダイハイト調整に際して、測定対象位置が現在値にある時のアブソリュート型位置検出装置の検出出力と、オフセットが0の場合でかつ測定対象位置が現在値にある時のアブソリュート型位置検出装置の検出出力との比較結果の大小に応じて異なるオフセット値を演算し、この後、アブソリュート型位置検出器の出力から比較結果に応じたオフセット値を減算し、この減算結果が正のときはこの減算結果をアブソリュート型位置検出器の出力に対応する位置検出値として採用し、減算結果が負であるときは減算結果にアブソリュート型位置検出器の分解能を加算し、この加算値をアブソリュート型位置検出器の出力に対応する位置検出値として採用している。これによって、無造作に位置検出器を取付ける事ができかつ原点合わせのための調整値の測定を任意の機械的位置でなし得る技術が開示されている。
また、特許文献2では、表示値の最下位桁のフリッカー現象を除去して読取容易な安定表示を達成するために、第1のデータレジスタと第2のデータレジスタに同一の初期値をプリセットし、次にエンコーダ等から入力された入力値を第1のデータレジスタに記憶させるとともに両データレジスタの表示桁に記憶されている値D1,D2とを比較してその比較結果に基づいて予め決められた複数の中から特定のオフセット値Cを選択している。そして、このオフセット値Cを第2のデータレジスタの記憶値に加算し、この加算値の表示桁の値(D2)をデジタル表示器に表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-60545号公報
【特許文献2】特許第2528468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば物体の位置を表示するカウンタなど、対象物の変位量の現状を表示するために変位量表示器が用いられる。この変位量表示器の利用方法の一例として、例えばプレス機械において、「スライド」と呼ばれる部位の変位を表示する際に、この変位量表示器が用いられる。プレス機械では、金型(ダイ:Die)を取り付けて種々の加工が行われるが、この金型には様々な大きさがある。この金型の高さ(ダイハイト:Die Height)の違いを吸収するための部位が「スライド」と呼ばれる部位である。このプレス機械を用いた加工現場では、プレス機械が最も閉まった「下死点」となったときに、ちょうど金型が閉まる位置に「スライド」の位置を調整する。
【0005】
プレス機械のオペレータは、金型を取り付けるときに「スライド」を金型の高さに応じた位置に移動させる。その際、「スライド」の位置は、所謂「ダイハイトカウンタ」として用いられる変位量表示器で表示されており、オペレータは、この変位量表示器で表示される表示値を見ながら「スライド」の移動作業を行っている。
【0006】
ところで、この「スライド」と「ダイハイトカウンタ」とは、機械的に接続されており、「スライド」の位置が移動される際に、「ダイハイトカウンタ」の入力軸も回転させられる構造となっている。プレス機械において、「スライド」は金型が取り付けられる最重要箇所であることから、一度、その位置が固定されれば、その位置が意図せずに移動してしまうことはない。プレス機械のオペレータが「スライド」の位置を調整し、固定して、金型を取り付けて加工を行っている最中に、設定したはずの「スライド」の位置の表示が変わることは極めて不都合である。
【0007】
しかしながら、「スライド」と「ダイハイトカウンタ」とを結ぶ機構は、必ずしも強固に接続されている訳ではない。「スライド」と「ダイハイトカウンタ」とは、例えばギアやフレキシブルワイヤ等で結ばれているが、そこにはガタつきやバックラッシュなどが存在する。これによって「ダイハイトカウンタ」の入力軸が回転してしまうことがある。また、加工に伴って生じる振動等によって、この「スライド」と、「スライド」と「ダイハイトカウンタ」とを結ぶリンク機構とのガタつきやバックラッシュなどが原因で、「ダイハイトカウンタ」の入力軸が回転してしまうことがある。これによって、設定したはずの「スライド」の位置について、その「ダイハイトカウンタ」の表示が変化してしまうことは大きな問題となる。
【0008】
ここで、先行技術文献にて提示した特許文献2の技術では、最終桁のフリッカー現象を除去することはできるが、例えば最終桁を超えてふらつきを取りたいような用途への適用は困難であり、例えば「ダイハイトカウンタ」等への適用に際して生じる上記課題には対応することはできない。
【0009】
本発明は、測定対象の変位量の変化に応じ、変位量の表示器に表示される数値等の安定を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードとを備えたことを特徴とする変位量表示器である。
請求項2に記載された発明は、予め定められた期間にて前記変位量の変化が予め定められた値よりも小さい場合に、前記更新モードから前記停止モードに移行することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器である。
請求項3に記載された発明は、前記停止モードにて前記変位量の変化が予め定められた更新移行値を超えた際に前記更新モードへ移行することを特徴とする請求項1または2記載の変位量表示器である。
請求項4に記載された発明は、前記停止モードから前記更新モードへ移行した際には、当該停止モードの際の前記測定対象の変位量の変化に関わらず、当該更新モードへ移行した際の当該測定対象の変位量をデジタル表示することを特徴とする請求項3記載の変位量表示器である。
請求項5に記載された発明は、電源遮断が前記更新モードのときになされたのか前記停止モードのときになされたのかを識別する電源遮断モード情報を記録することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器である。
請求項6に記載された発明は、前記更新モードで電源遮断となったときと、前記停止モードで電源遮断となったときとで、電源遮断に対する措置が異なることを特徴とする請求項1記載の変位量表示器である。
請求項7に記載された発明は、前記更新モードで電源遮断となったときにはエラー表示を行い、前記停止モードで電源遮断となったときには当該エラー表示を行わないことを特徴とする請求項6記載の変位量表示器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定対象の変位量の変化に応じ、変位量表示器に表示される数値等の安定を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態が適用される変位量表示器の構成を示す図である。
【
図2】本実施の形態が適用される演算処理モジュールの機能構成図である。
【
図3】表示制御部にて行われる表示値の算出方法を説明するための図である。
【
図5】演算処理モジュールによって実行される基本処理の概要を示すフローチャートである。
【
図6】演算処理モジュールによって実行される基本処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図7】電源遮断時の処理を示すフローチャートである。
【
図8】電源復旧時の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態が適用される変位量表示器10の構成を示す図である。
図1に示す変位量表示器10は、本実施の形態が適用される各種処理を実行する演算処理モジュール20を備える。また、例えばプレス機械のスライドなどの測定対象8の変位を伝達する入力軸11と、入力軸11を介して測定対象8の変位量を取得する角度検出器12とを備えている。また、演算処理モジュール20での処理結果を表示する表示部としての表示器13と、演算処理モジュール20での処理結果から、出力信号を外部機器へ出力する信号出力器14とを備えている。さらに、電源9からの電力状態を把握する電圧検出器15を備えている。また、取得した変位量や、モードフラグ、電源が遮断された際の状態等を記憶する不揮発性メモリ16と、ユーザとの間にて情報をやり取りするユーザインタフェース(I/F)17を備えている。
【0014】
測定対象8が、例えばプレス機械のスライドの場合、スライドの高さを調整するスライド調整ねじにモータが取り付けられ、このモータを駆動して調整ねじを回転させている。入力軸11は、モータからギア等を介し、例えばフレキシブルシャフトを接続してモータの回転を角度検出器12に伝達している。角度検出器12は、入力軸11を介して得られる測定対象8の1回転を分割し、デジタル変換した値を演算処理モジュール20に対して出力している。例えば1回転を1022分割し、アナログ値である回転角度をデジタル値に変換している。
【0015】
図2は、本実施の形態が適用される演算処理モジュール20の機能構成図である。
演算処理モジュール20は、角度検出器12にて検出された変位量を取得する変位量取得部21と、後述する更新モードと停止モードとの判定を行うモード判定部22と、変位量をデジタル表示値に変換し、この表示値を表示器13へ表示するための制御を行う表示制御部23とを備えている。また、判定されたモードが記録されたモードフラグを記憶するモードフラグ記憶部24と、取得された変位量を一時的に記憶する変位量記憶部25とを備えている。
【0016】
また、演算処理モジュール20は、電圧検出器15により検出された電圧を判定する電圧判定部31と、電源遮断や電源復旧を判定する電源遮断・復旧判定部32とを備えている。また、電源遮断時の処理を行う電源遮断処理部33と、電源復旧時の処理を行う電源復旧処理部34とを備えている。更に、電源復旧の際などに修正された変位量を計算する修正変位量計算部35と、電源断の際や電源復旧の際に行うエラー表示を制御するエラー表示制御部36とを備えている。また更に、ユーザからの加算・減算のキー操作や確定ボタンの操作などの情報を入力するキー・ボタン情報入力部37を備えている。
【0017】
図3は、表示制御部23にて行われる表示値の算出方法を説明するための図である。
図3に示す例では、横軸に入力値としての変位量(例えば、角度(°))、縦軸に出力値としての表示値(mm)を示している。表示値の表示桁は、例えば整数部分が3桁、小数部分が2桁の、000.00mmで、最小桁は0.01mmである。また、
図3に示す例では、最小分解能として、例えば変位量である入力軸11の回転が3.6°で、デジタル表示値は最小桁の0.01mmだけ変化する。
【0018】
ここで、例えば、変位量表示器10がプレス機械のスライドの位置を表示するダイハイトカウンタとして用いられる場合を考える。このスライドの位置が
図3に示す表示値(mm)として示されており、例えば、変位量が
図3に示す停止位置spでスライド位置が調整して固定され、そのときの表示値が230.00であったものとする。
図3の拡大図に停止位置spが示されているが、停止位置spから、最小分解能の3.6°よりも小さい僅かの変位δだけ変位しただけで、表示値が230.01に変化してしまう。この僅かの変位δは、機械的な誤差やバックラッシュの他にも、センサの誤差、センサを駆動させる電源のふらつき、温度の変化、電磁波の影響などでも生じる。金型を取り付けて加工を行っている最中に、設定したはずのスライドの位置の表示が変化してしまうことは、好ましいことではない。
そこで、本実施の形態では、変位量に変化があるときはこの変化に応じて表示器13のデジタル表示を更新する「更新モード」に対し、変位量の変化が止まったとされる際には表示器13のデジタル表示を更新しない「停止モード」を設け、表示のちらつきを抑制している。
【0019】
なお、ここでは、予め定められた期間にて変位量が予め定められた値よりも小さい場合に「変位量の変化が止まった」と判断し、更新モードから停止モードへ移行させている。この「予め定められた期間」とは、変位量表示器10が用いられる装置やシステム、アプリケーションなどによって定まる期間であって、オペレータの作業によって位置が設定された、と考慮するのに好ましい期間として決定される。また、「予め定められた値」は、スライドの変化が、機械的な誤差や外乱などを考慮しても安定した状態と判断できる値として好ましい値が決定される。例えば、「予め定められた期間」である500ms(0.5秒)の間、「予め定められた値」としてスライドの変化量が最小桁である0.01mm未満の変化であった場合に、スライドの「移動」が「停止」したと判断し、更新モードから停止モードへ移行させる、等である。
【0020】
図4は、停止モードを説明するための図である。この
図4では、
図3に示す更新モードから移行した停止モードを示しており、変位量が停止位置spでスライド位置が調整されて固定され、そのときの表示値が230.00で停止モードに移行している。
【0021】
図4に示す例では、変位量が停止位置spで停止モードに入り、その後、変位量の変化が、予め定められた更新移行値を超えるまで、停止位置spでの表示値(
図4では230.00)が維持される。言い換えると、停止モードでは、停止モードの際の測定対象の変位量の変化に関わらず、停止位置spでの表示値が維持される。この更新移行値は、停止モードから、再び更新モードへ移行するまでの変位量の変化として予め定められた値であり、測定対象の特徴や測定の性質などによって好ましい値が定められる。
【0022】
ここで、「更新移行値」は、例えば外乱の影響や、表示値への表示によるユーザへの影響などを考慮して決定される。変位量表示器10の一例である一般的なダイハイトカウンタでは、リンク機構の精度が悪い場合であっても、停止した後に36°も動くことは考え難い。また、
図3および
図4に示す例では、変位量が3.6°で表示値が0.01mmのモデルであり、例えば更新移行値を±36°とすると、停止モードから更新モードへ移行した際に、一度に0.1だけ値が飛ぶこととなってしまう。これでは値の飛びが大き過ぎる。そこで、ここでは、外乱の変化と、表示値の飛びの程度と、を加味した上で、変位量の変化として、±36°の1/2である±18°を更新移行値として採用している。この結果、
図4に示す例では、230.00で停止モードに移行した後は、230.01~230.04、および229.99~229.96は表示されずに230.00が維持される。そして、停止モードから更新モードへ移行した際には、230.05から上の表示値、または229.95から下の表示値が表示される。すなわち、停止モードから更新モードへ移行した際には、停止モードの際の測定対象の変位量の変化に関わらず、その途中の表示値が飛ばされて、更新モードへ移行した際の測定対象の変位量に対応する表示値がデジタル表示される。
【0023】
なお、例えば、1mm動かすのに10回転する場合、すなわち10回転(360°×10回転)で1mmの移動であるとした場合には、最小分解能は36°で0.01mmの表示となる。例えば、更新移行値として0.01mmに相当する36°を採用した場合には、入力軸11がこの0.01mmに相当する量だけ回転すると、停止モードから更新モードへ移行して、数値の更新が開始される。このように、分解能の違いや、使用される態様の違いなどによって、停止モードから更新モードへ変わるための更新移行値が決定される。
【0024】
次に、演算処理モジュール20によって実行される処理を、
図2のブロック図、および
図5~
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
図5は、演算処理モジュール20によって実行される基本処理の概要を示すフローチャートである。
図5に示すように、基本的な処理は「変位量の取得」、「モード判定」、「表示処理」の繰り返しである。本実施の形態が適用される変位量表示器10は、測定対象物の変位量に変化がある場合と、変化が止まったと判定される場合とで、異なった処理がなされることを特徴とする。そして、この測定量に変化がある状態なのか、変化が止まっている状態なのかの判定は、変位量取得部21で変位量が取得される都度、モード判定部22によるモード判定によって行われる。その判定結果はモードフラグ記憶部24に記憶されたモードフラグが、「更新」若しくは「停止」の二値データとして記録されている。表示処理においては、モードフラグ記憶部24に記憶されたモードフラグを参照することによって、表示制御部23により表示の更新がなされるか更新がなされないかの選択的な処理がなされる。
【0025】
図6は、演算処理モジュール20によって実行される基本処理の詳細を示すフローチャートである。
まず、演算処理モジュール20の変位量取得部21は、角度検出器12から得られた変位量を取得する(ステップ101)。変位量を取得した以降の処理は、前述の如く、モードフラグ記憶部24に記憶されたモードフラグが示すモードによって異なるが、まずはモードフラグが「更新」である場合、すなわち更新モードの場合の処理から説明する。
モード判定部22は、モードフラグ記憶部24に記憶されているモードフラグから、現在のモードを判定する(ステップ102)。モードフラグが「更新」である場合に(ステップ102で「更新」)、モード判定部22は、変位量取得部21にて得られる現在の変位量を一時記憶する(ステップ103)。より具体的には、変位量取得部21で取得された変位量は、変位量記憶部25に一定の期間だけ(例えば、500msの期間だけ)、一時的に記録される。
【0026】
また、その一時的な記憶と同時に、モード判定部22は、変位量の変化が、予め定められた期間、予め定められた値よりも小さいか否かを判定する(ステップ104)。より詳しくは、変位量記憶部25に記録されている過去の変位量の記録と比較され、一定期間内における変位量の変化が調べられる。この「予め定められた期間、予め定められた値よりも小さいか否か」は、前述のように、例えば、「500ms(0.5秒)の間、スライドの変化量が最小桁である0.01mm未満の変化か否か」などである。
この変位量の変化が予め定められた値よりも小さい(例えば0.01mm未満である)場合には(ステップ104でYES)、変位量の変化が止まったと判断され、更新モードから停止モードに移行する。その際にはその時点での変位量が変位量記憶部25に「停止位置」として記録され(ステップ105)、モードフラグ記憶部24のモードフラグは「更新」から「停止」に書き換えられる(ステップ106)。
上述の条件に合わない場合、すなわち、予め定められた期間、変位量の変化が予め定められた値よりも小さくない場合(例えば0.01mmより大きい場合)には(ステップ104でNO)、モードフラグ記憶部24のモードフラグは「更新」のまま維持され、更新モードが維持されて、ステップ109へ移行する。
【0027】
次に、モードフラグ記憶部24のモードフラグが「停止」(ステップ102で「停止」)である場合、すなわち停止モードにおける処理を説明する。
停止モードにて、モード判定部22は、変位量の変化が、予め定められた更新移行値を超えたかを判定する(ステップ107)。この「更新移行値」としては、前述のように、例えば「±18°」などの値である。より具体的には、変位量取得部21にて取得された変位量と変位量記憶部25に記録されている「停止位置」との差が、予め定められた更新移行値(例えば、±18°)を超えた場合(ステップ107でYES)には、測定対象の変位量に変化があったと判定し、停止モードから更新モードへ移行する。その際は、モードフラグ記憶部24のモードフラグは「停止」から「更新」に書き換えられ(ステップ108)、ステップ109へ移行する。
変位量取得部21で取得された変位量と変位量記憶部25に記録されている「停止位置」との差が、更新移行値を超えていない場合には(ステップ107でNO)、モードフラグ記憶部24のモードフラグは「停止」のまま維持され、停止モードは維持されてステップ109へ移行する。
【0028】
ステップ109以下の表示処理にて、表示器13で表示される値は、モードフラグ記憶部24のモードフラグが示すモードによって異なる。
まずはモード判定部22にて、モードフラグ記憶部24に記憶されたモードフラグが「更新」と判定された場合(ステップ109で「更新」)、すなわち更新モードである場合の表示処理から説明する。
更新モードにおいて表示器13に表示される値は最新の変位量であり、最新の変位量はモード判定部22を介して変位量記憶部25に記憶されている(ステップ103を参照)。表示制御部23は、変位量記憶部25に記憶されている最新の変位量を、
図3に示される如く表示器13の最小表示桁の分解能で表すデジタル表示値に変換し、表示制御部23を介して表示器13に表示する(ステップ110)。その後、ステップ101へ戻る。
【0029】
次に、モード判定部22にて、モードフラグ記憶部24に記憶されたモードフラグが「停止」と判定された場合(ステップ109で「停止」)、すなわち停止モードである場合の表示処理を説明する。
停止モードにおいて表示器13に表示される値は停止位置であり、停止位置は更新モードから停止モードに移行した際、モード判定部22を介して変位量記憶部25に記憶されている(ステップ105参照)。表示制御部23は、変位量記憶部25に記憶されている停止位置を、
図3に示される如く表示器13の最小表示桁の分解能で表すデジタル表示値に変換し、表示制御部23を介して表示器13に表示する(ステップ111)。その後、ステップ101へ戻る。
このように表示器13に表示される値は、更新モードにおいては、逐次最新の変位量に更新され、停止モードにおいては、更新モードから停止モードに移行した際の停止位置が更新されずに、同一の値が継続して表示され続ける。
【0030】
このように、本実施の形態が適用される表示処理では、変位量に変化があるときには、更新モードとして、その変化に応じてその変位を示す表示が更新される。例えば、スライド位置が調整中でスライドが移動しているときには、その位置を示す表示が更新され変化する。一方、変位量の変化が止まったと判断される際には、停止モードとして、その表示を更新させることなく、一定の表示を継続して表示する。例えば、スライドの移動が止められ、その位置が固定されたと判断された際には、その表示は更新されることなく、止められた時点での表示を継続して表示する。たとえ入力軸11が同部を駆動する機構のガタつき等によって少々回転してしまい、検出される変位量が変化し、従来の変位量表示器においては、その変化された変位量が表示されてしまう状態であっても、本発明による表示器においては、表示数値は更新することなく、従前の数値を表示し続けている。
別の表現を採用すれば、本実施の形態が適用される変位量表示器10は、対象物が変化しているのか、対象物の変化が止まっているかを自動的に判別して、表示器13の表示の更新および非更新を制御することを特徴としている。
【0031】
次に、電源遮断時の処理について、
図2および
図7を用いて説明する。
図7は、電源遮断時の処理を示すフローチャートである。電圧判定部31は、電圧検出器15により検出された電源9(
図1参照)の電圧を判定する(ステップ201)。電源遮断・復旧判定部32は、電圧判定部31により判定された電圧から、電源遮断が生じたか否かを判定する(ステップ202)。この電源遮断は、意図されたユーザ操作による電源遮断のみならず、例えば停電や、作業ミスなどにより電源を切るユーザ操作、接続不良などの予期せぬ電源遮断などで生じ得る。電源遮断が生じていなければ(ステップ202でNO)、ステップ201に戻って電圧を判定する。電源遮断が生じた際(ステップ202でYES)、電源遮断処理部33は、変位量等の、電源が復旧した際に必要となるデータ(情報)を不揮発性メモリ16に記憶する(ステップ203)。不揮発性メモリ16への変位量の記憶は、電源遮断の際に記憶される態様の他、測定対象8の都度の変化に応じて記憶される態様、更新モードから停止モードへ移行した際の停止位置を記憶する態様など、記憶する態様は適宜、選択され、好ましいタイミングの変位量が記憶される。
【0032】
また併せて、電源遮断が更新モードでなされたのか、停止モードでなされたのかを識別する「電源遮断モード情報」も不揮発性メモリ16に記録する。具体的には、電源遮断のときにモードフラグ記憶部24に記憶されているモードフラグが「更新」である場合(ステップ204で「更新」)、電源遮断処理部33は、不揮発性メモリ16に電源遮断モード情報として「更新中における電源遮断記録」を記録し(ステップ205)、電源遮断時の処理が終了する。電源遮断のときにモードフラグが「停止」である場合(ステップ204で「停止」)、「更新中における電源遮断記録」は記録されずに電源遮断時の処理が終了する。これにより、不揮発性メモリ16に「更新中における電源遮断記録」が記録されているときは、更新モードで電源遮断がなされたと識別され、「更新中における電源遮断記録」が記録されていないときは、電源遮断が停止モードでなされたことが識別できる。
【0033】
次に、電源復旧時の処理について、
図2および
図8を用いて説明する。
図8は、電源復旧時の処理を示すフローチャートである。
電圧判定部31は、電圧検出器15により検出された電源9の電圧を判定し(ステップ301)、電源遮断・復旧判定部32は、この電圧判定部31の判定により電源復旧か否かを判定する(ステップ302)。電源復旧ではない場合には(ステップ302でNO)、ステップ301に戻り電圧の判定を継続する。電源復旧である場合には(ステップ302でYES)、電源復旧処理部34は、不揮発性メモリ16に記憶された電源遮断の前の変位量を読み込む(ステップ303)。修正変位量計算部35は、変位量取得部21により取得され変位量記憶部25に記憶された電源復旧時の変位量を取得し、この最新の変位量と電源遮断の前の変位量とに基づいて、電源遮断中の変位量の変化を計算する(ステップ304)。
【0034】
修正変位量計算部35による変位量の修正計算では、電源が落ちた後の電源の再投入時には、例えば電源遮断中に180°以上は回転しなかった前提で電源遮断中の回転を計算する。修正変位量計算部35は、計算された電源遮断中の回転に基づいて、変位量記憶部25に記憶された変位量に修正を加え、その修正後の変位量を変位量記憶部25に最新の変位量として記憶する(ステップ305)。そして、変位量記憶部25に新たに記憶された修正後の変位量は、表示制御部23を介して、表示器13に表示される(ステップ306)。
【0035】
次に、電源復旧処理部34は、不揮発性メモリ16に、前述の「更新中における電源遮断記録」が記録されているか否かを調べる(ステップ307)。「更新中における電源遮断記録」が記録されていない場合(ステップ307でNO)、電源遮断は停止モードでなされたと識別し、特段のエラーメッセージを表示しないで電源復旧における処理を終了する。
【0036】
不揮発性メモリ16に、前述の「更新中における電源遮断記録」が記録されている場合(ステップ307でYES)、電源遮断は更新モードでなされたと識別される。更新モードにおいて電源が遮断された場合には、電源復旧時の修正後の変位量が間違っている可能性がある。なぜなら修正後の変位量は、電源遮断中に例えば180°以上は回転しなかった前提で計算されたが、更新モードにおいては、測定対象物の変位に変化がある状態、すなわち、測定対象物が動いている状態で電源が遮断されたため、慣性力等により前記前提以上の(180°以上の)回転も推測されるからである。そこで、エラー表示制御部36は、その値が間違っている可能性があることをユーザに知らせるために、表示制御部23を介して表示器13の表示を点滅させ、再設定を促す(ステップ308)。
【0037】
次いで、キー・ボタン情報入力部37は、ユーザインタフェース(I/F)17を介して、ユーザから加算・減算のキー操作がなされたか否かを判断する(ステップ309)。キー・ボタン情報入力部37が加算・減算のキー操作がなされていないと判断した場合には(ステップ309でNO)、後述するステップ312に進む。キー・ボタン情報入力部37が加算・減算のキー操作がなされたと判断した場合には(ステップ309でYES)、修正変位量計算部35は、変位量記憶部25に記憶された変位量に加算・減算を与え、その加算・減算後の値を修正後の変位量として変位量記憶部25に記憶する(ステップ310)。変位量記憶部25に新たに記憶された変位量は、表示制御部23を介して、表示器13に点滅表示させる(ステップ311)。そして、キー・ボタン情報入力部37は、確定ボタンの操作がなされたか否かを判断する(ステップ312)。確定ボタンの操作がなされていない場合には(ステップ312でNO)、ステップ309へ戻る。確定ボタンの操作がなされた場合には(ステップ312でYES)、点滅表示をしている値を再設定された変位量として確定して表示の点滅を止め(ステップ313)、電源復旧時における処理が終了する。
【0038】
このように、本実施の形態では、更新モードで電源が遮断されたときには、電源復旧後の値に狂いがある可能性があるので、エラー表示を行い、停止モードで電源が遮断されたときには、電源復旧後の値に狂いがある可能性が低いので、エラー表示を行わないように構成した。そして、その表示に間違いがない場合には、確定ボタン一つで復旧させ、その表示に狂いがあった場合には、加算ボタンまたは減算ボタンで表示値を増加・減少させて正しい値に修正させている。
【符号の説明】
【0039】
10…変位量表示器、12…角度検出器、13…表示器、15…電圧検出器、16…不揮発性メモリ、17…ユーザインタフェース(I/F)、20…演算処理モジュール、21…変位量取得部、22…モード判定部、23…表示制御部、24…モードフラグ記憶部、25…変位量記憶部、31…電圧判定部、32…電源遮断・復旧判定部、33…電源遮断処理部、34…電源復旧処理部、35…修正変位量計算部、36…エラー表示制御部、37…キー・ボタン情報入力部
【手続補正書】
【提出日】2022-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小分解能により測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、
前記変位量に変化があるときには前記最小分解能による変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、
前記変位量の変化が止まったとされる際には前記最小分解能によっては前記表示部のデジタル表示を更新せず、当該最小分解能よりも大きな更新移行値による変化によって前記更新モードへ移行させ、当該更新移行値により当該デジタル表示を更新させる停止モードと
を備えたことを特徴とする変位量表示器。
【請求項2】
予め定められた期間にて前記変位量の変化が予め定められた値よりも小さい場合に、前記更新モードから前記停止モードに移行することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器。
【請求項3】
前記停止モードから前記更新モードへ移行した際には、当該停止モードの際の前記測定対象の変位量の変化に関わらず、当該更新モードへ移行した際の当該測定対象の変位量をデジタル表示することを特徴とする請求項1または2記載の変位量表示器。
【請求項4】
測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、
前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、
前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードと
を備え、
電源遮断が前記更新モードのときになされたのか前記停止モードのときになされたのかを識別する電源遮断モード情報を記録することを特徴とする変位量表示器。
【請求項5】
測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、
前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、
前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードと
を備え、
前記更新モードで電源遮断となったときにはエラー表示を行い、前記停止モードで電源遮断となったときには当該エラー表示を行わないことを特徴とする変位量表示器。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
請求項1に記載された発明は、最小分解能により測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、前記変位量に変化があるときには前記最小分解能による変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、前記変位量の変化が止まったとされる際には前記最小分解能によっては前記表示部のデジタル表示を更新せず、当該最小分解能よりも大きな更新移行値による変化によって前記更新モードへ移行させ、当該更新移行値により当該デジタル表示を更新させる停止モードとを備えたことを特徴とする変位量表示器である。
請求項2に記載された発明は、予め定められた期間にて前記変位量の変化が予め定められた値よりも小さい場合に、前記更新モードから前記停止モードに移行することを特徴とする請求項1記載の変位量表示器である。
請求項3に記載された発明は、前記停止モードから前記更新モードへ移行した際には、当該停止モードの際の前記測定対象の変位量の変化に関わらず、当該更新モードへ移行した際の当該測定対象の変位量をデジタル表示することを特徴とする請求項1または2記載の変位量表示器である。
請求項4に記載された発明は、測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードとを備え、電源遮断が前記更新モードのときになされたのか前記停止モードのときになされたのかを識別する電源遮断モード情報を記録することを特徴とする変位量表示器である。
請求項5に記載された発明は、測定対象の変位量をデジタル表示する表示部と、前記変位量に変化があるときには当該変化に応じて前記表示部のデジタル表示を更新する更新モードと、前記変位量の変化が止まったとされる際には前記表示部のデジタル表示を更新しない停止モードとを備え、前記更新モードで電源遮断となったときにはエラー表示を行い、前記停止モードで電源遮断となったときには当該エラー表示を行わないことを特徴とする変位量表示器である。