(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182443
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】正極活物質粒子、ナトリウムイオン二次電池、及び、正極活物質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20231219BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231219BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231219BHJP
C01G 45/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/054
H01M4/36 C
C01G53/00 A
C01G45/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096056
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】由淵 想
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL13
5H029AL15
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029DJ16
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ13
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050CB19
5H050CB29
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】P2型正極活物質粒子の可逆容量を増大させる。
【解決手段】本開示の正極活物質粒子は、P2型構造を有し、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含み、且つ、球状である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子であって、
P2型構造を有し、
構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含み、
球状である、
正極活物質粒子。
【請求項2】
粒子表面が、複数の結晶子によって構成される、
請求項1に記載の正極活物質粒子。
【請求項3】
前記結晶子の直径が、1μm未満である、
請求項2に記載の正極活物質粒子。
【請求項4】
構成元素として、Na、Mn、Ni、Co及びOを含む、
請求項1に記載の正極活物質粒子。
【請求項5】
構成元素として、Na、Mn、Fe及びOを含む、
請求項1に記載の正極活物質粒子。
【請求項6】
NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、且つ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有する、
請求項1に記載の正極活物質粒子。
【請求項7】
ナトリウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極が、請求項1~6のいずれか1項に記載の正極活物質粒子を含む、
ナトリウムイオン二次電池。
【請求項8】
正極活物質粒子の製造方法であって、
前駆体粒子を得ること、
前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること、及び
前記被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含み、
前記前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属を含む塩であり、
前記前駆体粒子は、球状であり、
前記被覆粒子は、前記前駆体粒子の表面の40面積%以上が前記Na塩で被覆されて得られるものであり、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子は、球状である、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、正極活物質粒子、ナトリウムイオン二次電池、及び、正極活物質粒子の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質としてP2型構造を有するものが知られている。例えば、特許文献1には、P2型構造を有する正極活物質として、NaxFeyMn1-yO2(xは1未満であり、yは1/3以上2/3未満である)で表される複合金属酸化物が開示されている。特許文献2には、P2型構造を有する正極活物質として、Na2/3[Ni1/3Mn2/3]O2で表されるナトリウム層状化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-201588号公報
【特許文献2】特開2017-045600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
P2型構造を有する正極活物質には、可逆容量が低いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
(態様1)
正極活物質粒子であって、
P2型構造を有し、
構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含み、
球状である、
正極活物質粒子。
(態様2)
粒子表面が、複数の結晶子によって構成される、態様1の正極活物質粒子。
(態様3)
前記結晶子の直径が、1μm未満である、態様2の正極活物質粒子。
(態様4)
構成元素として、Na、Mn、Ni、Co及びOを含む、態様1~3のいずれかの正極活物質粒子。
(態様5)
構成元素として、Na、Mn、Fe及びOを含む、態様1~3のいずれかの正極活物質粒子。
(態様6)
NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、且つ、0≦p+q+r≦0.15であり、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である)で示される化学組成を有する、態様1~5のいずれかの正極活物質粒子。
(態様7)
ナトリウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極が、態様1~6のいずれかの正極活物質粒子を含む、
ナトリウムイオン二次電池。
(態様8)
正極活物質粒子の製造方法であって、
前駆体粒子を得ること、
前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること、及び
前記被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、を含み、
前記前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属を含む塩であり、
前記前駆体粒子は、球状であり、
前記被覆粒子は、前記前駆体粒子の表面の40面積%以上が前記Na塩で被覆されて得られるものであり、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子は、球状である、
製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示のP2型構造を有する正極活物質粒子は、大きな可逆容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】本開示の正極活物質粒子の外観形状の一例を示すSEM写真図である。
【
図1B】本開示の正極活物質粒子の外観形状の一例を示すSEM写真図である。
【
図2】従来のP2型正極活物質粒子の外観形状を示すSEM写真図である。
【
図3】ナトリウムイオン二次電池の構成を概略的に示している。
【
図4】本開示の正極活物質粒子の製造方法の流れの一例を示している。
【
図5A】実施例1に係るP2型正極活物質粒子のX線回折パターンである。
【
図5B】実施例2に係るP2型正極活物質粒子のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.正極活物質粒子
図1A及びBに一実施形態に係る正極活物質粒子を示す。一実施形態に係る正極活物質粒子は、
P2型構造を有し、
構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含み、且つ、
球状である。
【0009】
1.1 結晶構造
本開示の正極活物質粒子は、結晶構造として、少なくともP2型構造(空間群P63mcに属する)を含む。正極活物質粒子はP2型構造を有するとともに、P2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。P2型構造以外の結晶構造としては、例えば、P2型構造からNaを脱挿入した際に形成される各種結晶構造(P3型構造等)が挙げられる。正極活物質粒子は、主相としてP2型構造を有するものであってもよいし、主相としてP2型構造以外の結晶構造を有するものであってもよい。正極活物質粒子は、その充放電状態によって、主相となる結晶構造が変化し得る。
【0010】
本開示の正極活物質粒子は、1つの結晶子からなる単結晶であってもよいし、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。例えば、
図1A及びBに示されるように、正極活物質粒子は、その表面が複数の結晶子によって構成されていてもよい。言い換えれば、粒子表面は、複数の結晶子同士が連結した構造を有していてもよい。
【0011】
本開示の正極活物質粒子の表面が複数の結晶子によって構成される場合、粒子の表面に結晶粒界が存在することとなる。ここで、結晶粒界は、インターカレーションの入口及び出口となる場合がある。すなわち、正極活物質粒子が、複数の結晶子を有する場合、インターカレーションの出入り口が多くなって反応抵抗が低下する効果、ナトリウムイオンの移動距離が短くなって拡散抵抗が減少する効果、充放電時の膨張収縮量の絶対量が少なくなり、割れが発生し難くなる効果、などが期待できる。
【0012】
本開示の正極活物質粒子を構成する結晶子のサイズは、大きくても小さくてもよいが、結晶子のサイズが小さいほうが、結晶粒界が多くなり、上述の有利な効果が発揮され易い。例えば、正極活物質粒子を構成する結晶子の直径が、1μm未満であると、より高い性能が得られ易い。尚、「結晶子」や「結晶子の直径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によって正極活物質粒子の表面を観察することにより求めることができる。すなわち、正極活物質粒子の表面を観察し、結晶粒界によって囲まれる1つの閉じられた領域が観察された場合、当該領域を「結晶子」とみなす。当該結晶子について最大のフェレ径を求め、これを「結晶子の直径」とみなす。尚、仮に粒子が単結晶からなる場合、当該粒子そのものが一つの結晶子といえ、当該粒子の最大のフェレ径が「結晶子の直径」である。或いは、結晶子の直径は、EBSDやXRDによって求めることもできる。例えば、結晶子の直径は、XRDパターンの回折線の半値幅からシェラーの式に基づいて求めることができる。本開示の正極活物質粒子は、いずれかの方法により特定された結晶子の直径が1μm未満であると、より高い性能が得られ易い。
【0013】
本開示の正極活物質粒子を構成する結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。正極活物質粒子の表面は、複数の平面が連結された構造を有していてもよい。後述するように、正極活物質粒子を製造する際、一の結晶子と他の結晶子とが互いに連結するまで、粒子の表面において結晶子を成長させることで、平面状の第1面を有する結晶子が得られ易い。
【0014】
1.2 化学組成
本開示の正極活物質粒子は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含む。特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Oとを含む場合、中
でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、正極活物質粒子の性能が一層高くなり易い。或いは、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Feと、Oとを含む場合にも、正極活物質粒子の性能が一層高くなり易い。ただし、正極活物質粒子は、例えば、充電によってNaが放出されて、Naの存在量が0に近くなることもあり得る。
【0015】
本開示の正極活物質粒子は、NaaMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2で示される化学組成を有するものであってもよい。ここで、0<a≦1.00、x+y+z=1、且つ、0≦p+q+r≦0.15である。また、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である。正極活物質粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造がさらに維持され易い。
【0016】
上記化学組成において、aは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、且つ、1.00以下、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。上記化学組成において、xは、0以上、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、且つ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。上記化学組成において、yは、0以上、0.10以上又は0.20以上であってもよく、且つ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。上記化学組成において、zは、0以上、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、且つ、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。Mは充放電に寄与しないものが多い。この点、p+q+rが0.15以下であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.10以下であってもよく、0であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0017】
1.3 粒子の形状
図1A及びBに示されるように、本開示の正極活物質粒子は、球状である。本願において「粒子が球状である」とは、粒子の円形度が0.80以上であることを意味する。正極活物質粒子の円形度は、0.81以上、0.82以上、0.83以上、0.84以上、0.85以上、0.86以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上又は0.90以上であってもよい。粒子の円形度は4πS/L
2で定義される。ここで、Sは粒子の正投影面積であり、Lは粒子の正投影像の周囲長である。正極活物質粒子の円形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)や光学顕微鏡によって粒子の外観を観察することにより求めることができる。正極活物質粒子が複数の粒子からなるものである場合、その円形度は、以下のようにして平均値として測定される。
【0018】
(1)まず、正極活物質粒子の粒度分布を測定する。具体的には、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値10%での粒子径(D10)と、積算値90%での粒子径(D90)とを求める。
(2)粒度分布を測定した正極活物質粒子の外観について、SEMやTEMや光学顕微鏡により画像観察を行い、当該画像に含まれる粒子のうち、(1)で求めたD10以上、且つ、D90以下の円相当直径(粒子の正投影面積と同じ面積を有する円の直径)を有するものを、任意に100個抽出する。
(3)抽出された100個の粒子について、各々、画像処理によって円形度を求め、その平均値を「正極活物質粒子の円形度」とみなす。
【0019】
本開示の正極活物質粒子は、中実の粒子であってよいし、中空の粒子であってもよいし、空隙を有する粒子であってもよい。
【0020】
1.4 粒子のサイズ
本開示の正極活物質粒子のサイズは特に限定されないが、サイズが小さいほうが有利である。例えば、本開示の正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、0.1μm以上10μm以下、1.0μm以上8.0μm以下、又は、2.0μm以上6.0μm以下であってもよい。尚、正極活物質粒子の平均粒子径(D50)とは、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50、メジアン径)である。
【0021】
1.5 効果(従来のP2型正極活物質粒子との対比)
図2に従来のP2型正極活物質粒子の外観形状を示す。P2型構造は、六方晶系であり、Naイオンの拡散係数が大きく、特定の方向に結晶成長し易い。特に、P2型構造を構成する遷移金属元素として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つが含まれる場合に、特定の方向へと板状に結晶成長し易い。そのため、従来においては、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子として、
図2に示されるような、結晶の成長方向が特定の方向に偏った、アスペクト比の大きな板状のものしか製造できなかった。また、P2型構造の板状成長は、原理原則であり、回避不可能と考えられていた。そのため、従来のP2型正極活物質粒子については、板状であることを前提として、その化学組成や結晶構造を制御することで、活物質としての性能を向上させていた。
【0022】
これに対し、本開示の正極活物質粒子は、P2型構造を有し、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素を含むとともに、球状である。ナトリウムイオン二次電池の正極に球状の正極活物質粒子が含まれる場合、球状でない正極活物質粒子(例えば、上述のような板状の粒子)が含まれる場合と比較して、結晶子の成長が抑制され易くなり、結晶子が小さくなり易いというメリットがある。すなわち、正極活物質粒子が球状である場合、結晶子サイズの低減によって反応抵抗が低下し、活物質内部の拡散抵抗が低下し易い。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極を構成する層内のナトリウムイオン伝導抵抗が低下するものと考えられる。結果として、レート特性が向上し、可逆容量が大きくなり易い。このような球状の正極活物質粒子は、本発明者による新たな方法により製造することができる。正極活物質粒子の製造方法については後述する。
【0023】
2.正極
本開示の技術は、上記の正極活物質を含む正極としての側面も有する。すなわち、本開示の正極は、正極活物質粒子として、上記の本開示の正極活物質粒子を有する。
図3に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよい。この場合、正極活物質層11が上記の正極活物質粒子を含み得る。
【0024】
2.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質として少なくとも上記の正極活物質粒子を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11における正極活物質粒子、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質粒子の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層11であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0025】
2.1.1 正極活物質
正極活物質層11は、正極活物質粒子として、上記の本開示の正極活物質粒子のみを含むものであってよい。或いは、正極活物質層11は、上記の本開示の正極活物質粒子に加えて、これとは異なる種類の正極活物質(その他の正極活物質)を含んでいてもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質層11におけるその他の正極活物質の含有量は少量であってよい。例えば、正極活物質層11に含まれる正極活物質の全体を100質量%として、上記の本開示の正極活物質粒子の含有量が、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上であってもよい。
【0026】
2.1.2 電解質
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0027】
固体電解質は、ナトリウムイオン二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、Na3Zr2PSi2O12やNa2O-11Al2O3等の酸化物;NaBH4、NaB10H10、NaCB9H10、NaCB11H12、NaB12Cl12といった水素化物やホウ素化物;Na3PS4、Na3SbS4、Na2.88Sb0.88W0.12S4等の硫化物;NaPF6、NaBF4等のフッ化物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0028】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのナトリウムイオンを含み得る。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成はナトリウムイオン二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にナトリウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、NaPF6等が挙げられる。
【0029】
2.1.3 導電助剤
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0030】
2.1.4 バインダー
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0031】
2.2 正極集電体
図3に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0032】
2.3 その他
正極10は、上記構成に加えて、二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、正極活物質粒子として上記のP2型構造を有するものを用いること以外は、公知の方法により製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0033】
3.ナトリウムイオン二次電池
図3に示されるように、一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有する。ここで、正極10は、上記の本開示の正極活物質粒子を含む。上述の通り、本開示の正極活物質粒子は、大きな可逆容量を有する。この点、ナトリウムイオン二次電池100の正極に本開示の正極活物質粒子が含まれることで、二次電池100の性能が高まり易い。ナトリウムイオン二次電池100の正極10の構成については上述した通りである。
【0034】
3.1 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。ナトリウムイオン二次電池100が固体電池(固体電解質を含む電池であって、一部に液体電解質が併用されたものであってもよいし、液体電解質を含まない全固体電池であってもよい)である場合、電解質層20は、固体電解質を含み、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。この場合、電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。一方で、ナトリウムイオン二次電池100が電解液電池である場合、電解質層20は、電解液を含み、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0035】
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、ナトリウムイオン二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0036】
3.2 負極
図3に示されるように、負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよい。
【0037】
3.2.1 負極活物質層
負極活物質層31は、少なくとも負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0038】
負極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の本開示の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、例えば、金属ナトリウム等の無機系の負極活物質を用いてもよいし、有機化合物からなる負極活物質を用いてもよい。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0039】
負極活物質の形状は、電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はナトリウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層31が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0040】
負極活物質層31に含まれ得る電解質としては、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0041】
3.2.2 負極集電体
図3に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点等から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0042】
3.3 その他の事項
ナトリウムイオン二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。ナトリウムイオン二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。ナトリウムイオン二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0043】
ナトリウムイオン二次電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、ナトリウムイオン二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、二次電池とする。尚、電解液電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。
【0044】
4.正極活物質粒子の製造方法
本開示の技術は、正極活物質粒子の製造方法としての側面も有する。
図4に示されるように、一実施形態に係る正極活物質粒子の製造方法は、
前駆体粒子を得ること(工程S1)、
前記前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得ること(工程S2)、及び、
前記被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること(工程S3)、を含む。
ここで、
前記前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素を含む塩であり、
前記前駆体粒子は、球状であり、
前記被覆粒子は、前記前駆体粒子の表面の70面積%以上が前記Na塩で被覆されて得られるものであり、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子は、球状である。
【0045】
4.1 工程S1
工程S1においては、前駆体粒子を得る。ここで、当該前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素を含む塩である。当該前駆体粒子は、例えば、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び水酸化物のうちの少なくとも1つであってもよい。具体的には、MeCO3(MeはMn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素である)で示される塩であってもよいし、MeSO4で示される塩であってもよいし、Me(NO3)2で示される塩であってもよいし、Me(CH3COO)2で示される塩であってもよいし、Me(OH)2で示される化合物であってもよい。また、前駆体粒子は、遷移金属元素Me以外に、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含んでいてもよい。
【0046】
また、当該前駆体粒子は、球状である。「球状」の定義については上述した通りである。前駆体粒子が球状であることで、最終的に得られる正極活物質粒子の形状も球状となり易い。球状の前駆体粒子のサイズは特に限定されるものではない。球状の前駆体粒子は、例えば、共沈法やゾルゲル法等の溶液法によって得ることができる。具体的には、共沈法の場合、MeSO4の水溶液と、Na2CO3の水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、沈殿物が得られる。当該沈殿物は、MeCO3で示される球状の前駆体粒子である。MeSO4の水溶液において、Mの硫酸塩等を溶解させることで、前駆体粒子としてMeとMとを含む炭酸塩を得てもよい。
【0047】
4.2 工程S2
工程S2においては、上記の前駆体粒子の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得る。ここで、当該被覆粒子は、上記の前駆体粒子の表面の40面積%以上がNa塩で被覆されて得られるものである。当該被覆粒子は、上記の前駆体粒子の表面の50面積%以上、60面積%以上又は70面積%がNa塩で被覆されて得られるものであってもよい。Na塩としては、例えば、炭酸塩や硝酸塩等が挙げられる。
【0048】
前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa塩で被覆する方法としては、様々な方法が挙げられる。例えば、転動流動コーティング法やスプレードライ法が挙げられる。すなわち、Na塩を溶解したコーティング溶液を準備し、前駆体粒子の表面全体にコーティング溶液を接触させると同時に、或いは、接触させた後に、乾燥する。コーティングの条件(温度、時間、回数等)を調整することで、前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa塩で被覆することができる。本発明者の知見によると、Na塩の被覆率が小さいと、被覆粒子を焼成した場合に、被覆粒子の表面においてP2型結晶が異常成長し易く、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られない。Na塩の被覆率が大きい場合、被覆粒子を焼成した場合に、P2型結晶の結晶子を小さくすることができ、被覆粒子の形状が前駆体粒子の形状と対応する「球形」となり易い。被覆粒子におけるNa塩の被覆量は、P2型構造を得るために十分となるような量(十分な量のNaがドープされるような)であればよい。
【0049】
4.3 工程S3
工程S3においては、上記の被覆粒子を焼成して、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る。ここで、当該Na含有遷移金属酸化物粒子は、球状である。
【0050】
焼成温度は、P2型構造が生成し、且つ、Na含有遷移金属酸化物粒子が球状となるような温度であればよい。焼成温度が低過ぎると、Naドープが行われず、P2型構造も得られ難い。一方、焼成温度が高過ぎると、P2型構造ではなくO3型構造が生成し易い。焼成温度は、例えば、700℃以上1100℃以下であってもよく、800℃以上1000℃以下であってもよい。
【0051】
焼成時間は、Na含有遷移金属酸化物粒子が球状となるような時間であればよい。上述した通り、本開示の方法においては、被覆粒子におけるNa塩の被覆率が大きいため、当該被覆粒子を焼成した場合に、粒子の表面に結晶子の小さなP2型結晶を形成し易い。本開示の方法においては、一のP2型結晶子と他のP2型結晶子とを互いに連結させるようにして、粒子の表面に沿ってP2型結晶を成長させることで、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子を得ることができる。焼成時間が短過ぎると、Naドープが行われず、目的とするP2型構造が得られない。一方、焼成時間が長過ぎると、P2型構造が過剰に成長し、球状ではなく板状の粒子となる。本発明者が確認した限りでは、焼成時間が30分以上3時間以下である場合に、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子が得られ易い。尚、一般的には、焼成によって正極活物質を合成する場合、目的とする結晶相を得るために、焼成時間が長時間(例えば、5時間以上)である場合が多い。これに対し、本開示の方法では、焼成時間を3時間以下とすることで、P2型結晶の過剰な成長を抑えて、球状のNa含有遷移金属酸化物粒子を得ている。焼成後に得られるNa含有遷移金属酸化物粒子は、その表面に複数の結晶子が存在し、結晶子同士が連結した構造を有していてもよい。
【0052】
焼成雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気等の酸素含有雰囲気や不活性ガス雰囲気であってよい。
【0053】
5.ナトリウムイオン二次電池の可逆容量を増大する方法
本開示の技術は、ナトリウムイオン二次電池の可逆容量を増大する方法としての側面も有する。すなわち、本開示のナトリウムイオン二次電池の可逆容量を増大する方法は、ナトリウムイオン二次電池の正極において上記本開示の正極活物質粒子を使用することを特徴とする。
【0054】
6.ナトリウムイオン二次電池を有する車両
上述の通り、本開示の正極活物質粒子がナトリウムイオン二次電池の正極に含まれる場合、当該ナトリウムイオン二次電池の可逆容量の増大が期待できる。このように可逆容量の大きなナトリウムイオン二次電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、ナトリウムイオン二次電池を有する車両であって、前記ナトリウムイオン二次電池が、正極、電解質層及び負極を有し、前記正極が、本開示の正極活物質粒子を含むもの、としての側面も有する。
【実施例0055】
以上の通り、本開示の正極活物質粒子、ナトリウムイオン二次電池及び正極活物質粒子の製造方法の一実施形態について説明したが、本開示の正極活物質粒子、ナトリウムイオン二次電池及び正極活物質粒子の製造方法は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.実施例1
1.1 前駆体粒子の作製
(1)MnSO4・5H2O、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1溶液を得た。また、別の容器にNa2CO3を1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2溶液を得た。
(2)1000mLの純水をあらかじめ入れておいた反応容器(邪魔板あり)に、500mLの第1溶液と、500mLの第2溶液とを、各々、約4mL/minの速度で滴下した。
(3)滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1h撹拌し、生成物を得た。
(4)生成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離し、沈殿物を得た。
(5)沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて微粒子を取り除き、前駆体粒子を得た。前駆体粒子は、遷移金属(Mn、Ni及びCo)の炭酸塩であり、0.98の円形度を有する球状粒子であった。
【0057】
1.2 被覆粒子の作製
(1)Na塩であるNa2CO3と、上記の前駆体粒子とを、Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2の組成となるように秤量した。
(2)秤量したNa塩と前駆体とを、スプレードライによって混合した。具体的には、秤量したNa塩と前駆体とを溶媒(水)に添加し、Na塩が溶解し、且つ、前駆体が分散した分散液溶液についてスプレードライを行った。スプレードライの温度は200℃とし、噴霧圧力は0.3MPaとした。スプレードライにより、前駆体粒子の表面の77面積%がNa塩で被覆された被覆粒子を得た。
【0058】
1.3 P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
(1)アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下で、被覆粒子の焼成を行い、焼成物を得た。焼成温度は900℃、焼成時間は1時間とした。
(2)ドライ雰囲気で、乳鉢を用いて焼成物を解砕し、正極活物質粒子として、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子(P2型粒子)を得た。
【0059】
1.4 正極活物質粒子の物性評価及び観察
図5Aに実施例1に係る正極活物質粒子のX線回折パターンを示す。
図5Aに示されるように、実施例1に係る正極活物質粒子は、空間群P63mcに属するP2型構造を有するものであった。また、元素分析を行ったところ、実施例1に係る正極活物質粒子は、Na
0.7Mn
0.5Ni
0.2Co
0.3O
2で示される化学組成を有することが確認された。
【0060】
図1Aに、実施例1に係る正極活物質粒子の外観についてのSEM写真を示す。画像解析の結果、実施例1に係る正極活物質粒子は、0.86の円形度を有する球状粒子であった。また、
図1Aに示されるように、実施例1に係る正極活物質粒子の表面は、複数の結晶子によって構成されており、当該結晶子の直径は、1μm未満であった。また、
図1Aに示されるように、当該結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有し、当該第1面が、平面状であった。さらに、実施例1に係る正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、3.6μmであった。
【0061】
2.実施例2
2.1 前駆体粒子の作製
(1)MnSO4・5H2O、FeSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1溶液を得た。また、別の容器にNa2CO3を1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2溶液を得た。
(2)1000mLの純水をあらかじめ入れておいた反応容器(邪魔板あり)に、500mLの第1溶液と、500mLの第2溶液とを、各々、約4mL/minの速度で滴下した。
(3)滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1h撹拌し、生成物を得た。
(4)生成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離し、沈殿物を得た。
(5)沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて微粒子を取り除き、前駆体粒子を得た。前駆体粒子は、遷移金属(Mn及びFe)の炭酸塩であり、0.87の円形度を有する球状粒子であった。
【0062】
2.2 被覆粒子の作製
(1)Na塩であるNa2CO3と、上記の前駆体粒子とを、Na0.7Mn0.5Fe0.5O2の組成となるように秤量した。
(2)秤量したNa塩と前駆体とを、スプレードライによって混合した。具体的には、秤量したNa塩と前駆体とを溶媒(水)に添加し、Na塩が溶解し、且つ、前駆体が分散した分散液溶液についてスプレードライを行った。スプレードライの温度は200℃とし、噴霧圧力は0.3MPaとした。スプレードライにより、前駆体粒子の表面の75面積%がNa塩で被覆された被覆粒子を得た。
【0063】
2.3 P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
(1)アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下で、被覆粒子の焼成を行い、焼成物を得た。焼成温度は900℃、焼成時間は1時間とした。
(2)ドライ雰囲気で、乳鉢を用いて焼成物を解砕し、正極活物質粒子として、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子(P2型粒子)を得た。
【0064】
2.4 正極活物質粒子の物性評価及び観察
図5Bに実施例2に係る正極活物質粒子のX線回折パターンを示す。
図5Bに示されるように、実施例2に係る正極活物質粒子は、空間群P63mcに属するP2型構造を有するものであった。また、元素分析を行ったところ、実施例2に係る正極活物質粒子は、Na
0.7Mn
0.5Fe
0.5O
2で示される化学組成を有することが確認された。
【0065】
図1Bに、実施例2に係る正極活物質粒子の外観についてのSEM写真を示す。画像解析の結果、実施例2に係る正極活物質粒子は、0.90の円形度を有する球状粒子であった。また、
図1Bに示されるように、実施例2に係る正極活物質粒子の表面は、複数の結晶子によって構成されており、当該結晶子の直径は、1μm未満であった。また、
図1Bに示されるように、当該結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有し、当該第1面が、平面状であった。さらに、実施例2に係る正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、4.8μmであった。
【0066】
3.比較例1
3.1 前駆体粒子の作製
実施例1と同様にして、球状の前駆体粒子を作製した。
【0067】
3.2 被覆粒子の作製
(1)Na塩としてのNa2CO3と、上記の前駆体粒子とを、Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2の組成となるように秤量した。
(2)秤量したNa塩と前駆体とを、乳鉢を用いて混合することにより、前駆体粒子の表面の28面積%がNa塩で被覆された被覆粒子を得た。
【0068】
3.3 P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
上記の被覆率が28面積%である被覆粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質粒子として、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子(P2型粒子)を得た。
【0069】
3.4 正極活物質粒子の物性評価及び観察
比較例1に係る正極活物質粒子についてX線回折パターンを確認したところ、実施例1に係る正極活物質粒子と同様に、空間群P63mcに属するP2型構造を有するものであった。また、元素分析を行ったところ、比較例1に係る正極活物質粒子は、実施例1に係る正極活物質粒子と同様に、Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2で示される化学組成を有することが確認された。
【0070】
図2に比較例1に係る正極活物質粒子の外観についてのSEM写真を示す。比較例1に係る正極活物質粒子は、2以上のアスペクト比を有する板状粒子であり、その円形度は0.63であった。また、
図2に示されるように、比較例1に係る正極活物質粒子は、一つの結晶子が板状に粗大に成長したものであり、一つの結晶子の直径は、数μm(1μm超)であった。
【0071】
4.比較例2
4.1 前駆体粒子の作製
実施例2と同様にして、球状の前駆体粒子を作製した。
【0072】
4.2 被覆粒子の作製
(1)Na塩としてのNa2CO3と、上記の前駆体粒子とを、Na0.7Mn0.5Fe0.5O2の組成となるようにドライ雰囲気下にて秤量した。
(2)秤量したNa塩と前駆体とを、乳鉢を用いて混合することにより、前駆体粒子の表面の22面積%がNa塩で被覆された被覆粒子を得た。
【0073】
4.3 P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
上記の被覆率が22面積%である被覆粒子を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、正極活物質粒子として、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子(P2型粒子)を得た。
【0074】
4.4 正極活物質粒子の物性評価及び観察
比較例2に係る正極活物質粒子についてX線回折パターンを確認したところ、実施例2に係る正極活物質粒子と同様に、空間群P63mcに属するP2型構造を有するものであった。また、元素分析を行ったところ、比較例2に係る正極活物質粒子は、実施例2に係る正極活物質粒子と同様に、Na0.7Mn0.5Fe0.5O2で示される化学組成を有することが確認された。
【0075】
また、比較例2に係る正極活物質粒子の外観をSEMで観察したところ、比較例2に係る正極活物質粒子は、2以上のアスペクト比を有する板状粒子であり、その円形度は0.68であった。また、比較例2に係る正極活物質粒子は、比較例1に係る正極活物質と同様に、一つの結晶子が板状に粗大に成長したものであり、一つの結晶子の直径は、数μm(1μm超)であった。
【0076】
5.評価用のセルの作製
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の各々の正極活物質粒子を用いてコインセルを作製した。コインセルの作製手順は以下の通りである。
(1)正極活物質粒子と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比で、正極活物質粒子:AB:PVdF=85:10:5となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドンに分散混合して、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーをアルミニウム箔上に塗工し、120℃で一晩真空乾燥させることで、正極活物質層と正極集電体との積層物である正極を得た。
(2)電解液として、ECとDECとを体積比で1:1にて混合した溶媒に、1Mの濃度となるようにNaPF6を溶解させたものを用いた。
(3)負極として金属ナトリウム箔を用意した。
(4)正極、電解液及び負極を用いて、コインセル(CR2032)を作製した。
【0077】
6.充放電特性評価
(1)実施例1及び比較例1の各々のコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、1.0-4.5Vの電圧範囲で、0.1Cで充放電し、可逆容量を測定した。結果を下記表1に示す。
(2)実施例2及び比較例2の各々のコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、1.0-4.3Vの電圧範囲で、0.1Cで充放電し、可逆容量を測定した。結果を下記表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示されるように、実施例1、2に係るコインセルは、比較例1、2に係るコインセルと比較して、大きな可逆容量を有するものであった。実施例1、2に係る正極活物質粒子は、上述した通り、球状であることから、比較例1、2に係る板状の正極活物質粒子よりも、結晶子の成長が抑制され、結晶子が小さくなって、反応抵抗が低下し、活物質内部の拡散抵抗が低下したものと考えられる。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極を構成する層内のイオン伝導抵抗が低下したものと考えられる。結果として、レート特性が向上し、可逆容量が大きくなったものと考えられる。この点、P2型正極活物質粒子を球状化することによる効果が確認できた。
【0080】
7.補足
上記の実施例では、特定の化学組成を有する正極活物質粒子を例示したが、本開示の正極活物質粒子の化学組成はこれに限定されるものではない。ただし、本発明者の知見によると、遷移金属としてMn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つを有する場合に、P2型構造が特定の方向に結晶成長して板状となって板状となり易い。本開示の技術によって解決される課題は、遷移金属としてMn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つを有する場合に特に顕著となるものといえる。
【0081】
8.まとめ
以上の実施例から、正極活物質粒子であって、(1)P2型構造を有し、(2)構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素と、Naと、Oとを含み、且つ、(3)球状であるものは、大きな可逆容量を有するものといえる。