(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182464
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】水硬性組成物、及び水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20231219BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20231219BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20231219BHJP
B09B 3/25 20220101ALI20231219BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B22/14 B
C04B18/16
B09B3/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096085
(22)【出願日】2022-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発「セメント系廃材を活用したCO2固定プロセス及び副産物の建設分野への利用技術の研究」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】西岡 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】片村 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】川尻 聡
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 邦生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】杉本 南
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】奈良 知幸
(72)【発明者】
【氏名】景山 勇輝
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA33
4D004AB05
4D004BA02
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4D004CC01
4D004DA09
4G112MB23
4G112PA30
4G112PB11
(57)【要約】
【課題】コンクリート塊から得られた再生骨材を含む場合においても、高強度の硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物、及び、高強度の硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である水硬性組成物及び水硬性組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との乾式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、
前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、
前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である水硬性組成物。
【請求項2】
炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との湿式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、
前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、
前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である水硬性組成物。
【請求項3】
前記改質再生骨材は、改質再生細骨材である請求項1又は請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材と、濃度5%以上の炭酸ガスと、を反応させて、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含む改質再生骨材を得る第1工程、及び、
水硬性結合材と、前記水硬性結合材100質量部に対して、0.5質量部~10質量部の石膏と、前記第1工程で得られた改質再生骨材と、水と、を混合する第2工程を有する水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水硬性組成物、及び、水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの主原料であるポルトランドセメントは、製造時に焼成を行うため、多くの炭素ガスを発生するという問題があり、コンクリートなどの水硬性組成物のトータルの炭素ガスの発生抑制が望まれている。この一つの対応方法として、解体コンクリート塊などを水硬性組成物原料として有効利用することが試みられている。
建造物等のコンクリートを解体して得られる解体コンクリートは処理困難な廃棄物であり、解体コンクリートのリサイクル方法が課題となっている。
【0003】
現状では、解体コンクリートを破砕して、再生骨材を得ることが試みられてはいるが、粒径が5mmを超える粗骨材は効率的に取り出すことは可能である一方、5mm以下の細骨材を取り出すには過度なエネルギーが必要で効率的ではないこと、骨材を取り出した後の残渣の有効利用方法がない等の課題がある。このため、解体コンクリートのリサイクルの普及には至っておらず、リサイクル用途としては、大部分が、埋め戻し材、路盤材等の低価格材料として利用されているにすぎない。
再生骨材に着目すれば、表面にセメント由来成分が多く含まれる再生骨材は、当該再生骨材を含む水硬性組成物により得られる硬化体の品質に影響を及ぼすことがある。このため、できるだけセメント由来成分を少なくした再生骨材の製造が目標とされている。
しかし、再生骨材の回収に際し、セメント由来成分を少なくするためには、多くのエネルギーを要するため、再生骨材回収の本来の目的である省エネルギー化、炭酸ガス排出量の低下が困難になるという問題がある。
炭酸ガス排出量の低下を目的とした方法の一つとして、コンクリート塊由来成分に炭酸ガスを吸着させる方法が挙げられ、種々の検討がなされている。
【0004】
微粉末と分離した再生骨材の改質方法として、コンクリート廃棄物を破砕及び篩い分けして得た、水酸化カルシウムの含有量が多い骨材を炭酸ガスと接触させ、炭酸ガスを骨材に吸着させることで、セメント由来成分に起因する再生骨材の吸水率改良を図る再生骨材の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
粉体成分としてγ-C2S及び製鋼スラグ粉末の少なくとも1種とセメントとを含むプレキャストコンクリート硬化体を炭酸ガス養生し、炭酸ガスを硬化体に吸着させる炭酸ガス吸着プレキャストコンクリートが提案されている(特許文献2参照)。
また、再生骨材の破砕値および/または二酸化炭素吸着量割合を指標にすることを特徴とする、二酸化炭素を吸着させることによる品質改善効果が期待できる再生骨材か否かを判定する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-238792号公報
【特許文献2】特開2011-168436号公報
【特許文献3】特開2015-189617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、コンクリート廃棄物から得られた骨材が水酸化カルシウムを含むことを前提としており、骨材表面の水酸化カルシウムを炭酸カルシウムに変換させる技術である。しかし、コンクリート塊を破砕して骨材を得る場合、骨材表面の水酸化カルシウムは空気中で炭酸化される場合があり、そのような場合には炭酸ガスと接触させても十分な炭酸化がなされず、十分な炭酸ガスの固定化が達成されないという問題がある。
特許文献2に記載のコンクリート混練物及びそれにより得られるプレキャストコンクリート硬化体は、材料に炭酸ガス吸着能を考慮した粉体を選択して用いてはいるが、硬化体に対し炭酸ガス養生を行うという方法では、硬化体の表面積が限られるため、炭酸ガスの吸着量の観点からは、なお改良の余地がある。
特許文献3に記載の再生骨材の判定方法は、再生骨材の品質評価には一定の効果があるが、積極的に再生骨材の品質を改良すること、炭酸ガス吸着量を向上させること、及び、再生骨材を使用した水硬性組成物及びその硬化体の品質を向上させること、のいずれに対する着目もない。
【0007】
本開示の一態様の課題は、コンクリート塊から得られた再生骨材を含む場合においても、乾燥収縮ひずみが抑制された硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物を提供することにある。
本開示の別の態様の課題は、コンクリート塊から得られた再生骨材を含む場合においても、乾燥収縮ひずみが抑制された硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段は、以下の態様を含む。
<1> 炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との乾式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である水硬性組成物。
【0009】
<2> 炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との湿式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である水硬性組成物。
【0010】
<3> 前記改質再生骨材は、改質再生細骨材である<1>又は<2>に記載の水硬性組成物。
【0011】
<4> 吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材と、濃度5%以上の炭酸ガスと、を反応させて、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含む改質再生骨材を得る第1工程、及び、水硬性結合材と、前記水硬性結合材100質量部に対して、0.5質量部~10質量部の石膏と、前記第1工程で得られた改質再生骨材と、水と、を混合する第2工程を有する水硬性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、コンクリート塊から得られた再生骨材を含む場合においても、乾燥収縮ひずみが抑制された硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物を提供することができる。
本開示の別の態様によれば、コンクリート塊から得られた再生骨材を含む場合においても、乾燥収縮ひずみが抑制された硬化体を得ることができ、炭酸ガスの削減に有用な水硬性組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の改質再生細骨材の製造方法及び改質再生細骨材について具体例を挙げて詳細に説明する。以下の記載に記載する説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、以下の記載は、一例を示すものであり、本開示は以下の記載に限定されない。
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、粗骨材は、5mmふるいを用いた分級した場合、85質量%以上が通過せず止まる骨材を指し、細骨材は、10mmふるいを全て通過し、5mm以下の粒子が85質量%以上含まれる骨材を指す。骨材のサイズについては、JIS A5022(2016年)「再生骨材コンクリートM」又は、JIS A5023(2016年)「再生骨材コンクリートL」の規定を援用する。
本開示においては、特に断らない限り、室温とは、特に温度制御を行わない雰囲気温度を指し、より具体的には20℃~30℃を包含する意味で用いられる。また、後述の湿式法等に用いられる水の常温とは、特に温度制御を行わない水の温度を示し、10℃~25℃を包含する意味で用いられる。
【0014】
<水硬性組成物>
本開示の水硬性組成物の一実施形態は、炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との乾式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である。
本開示の水硬性組成物の別の実施形態は、炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との湿式での反応生成物である改質再生骨材と、水硬性結合材と、石膏と、水と、を含み、前記改質再生骨材は、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含み、前記石膏の含有量は、前記水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である。
【0015】
(改質再生骨材)
本開示の水硬性組成物は、炭酸ガスと吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材との反応生成物であり、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含む改質再生骨材を含有する。前記炭酸ガスと再生骨材との反応は、乾式又は湿式のいずれにて行われてもよい。
前記改質再生骨材を、「特定改質再生骨材」と称することがある。
特定改質再生骨材は、反応時に再生骨材におけるセメント由来成分と炭酸ガスとが反応し、骨材に炭酸ガスが固定化され、且つ、再生骨材と炭酸ガスとの反応生成物である特定改質再生骨材は、炭酸カルシウムとに酸化ケイ素とを含み、このため、未反応の再生骨材に対し、吸水率が低下し、絶乾密度が向上している。
【0016】
特定改質再生骨材が本開示の効果に寄与する作用機構は明確ではないが、本発明者らは以下のように考えている。
特定改質再生骨材は、再生骨材と炭酸ガスとの反応生成物である。本発明者らは、再生骨材に付着しているセメント由来成分が高い炭酸ガス固定可能を有することに着目した。
特定改質再生骨材に含まれる炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素は、再生細骨材に含まれるセメント成分、詳細には、水酸化カルシウム及びケイ酸カルシウム水和物(以下、CSHとも称する)が炭酸化されて生成されると考えている。二酸化ケイ素は、水和物であるシリカゲルとして改質再生細骨材に含有されることがある。
【0017】
一般に、セメント硬化体中の水酸化カルシウムは、セメント成分の20質量%程度に過ぎず、再生骨材の表面に存在する水酸化カルシウムを炭酸化して炭酸カルシウムを得るのみでは、再生細骨材の改質は不十分である。一方、CSHは、セメント成分の50質量%程度を占める。
CSHには、様々な組成があるといわれており、一例として、以下の組成を示し、CSHに含まれるCaOが炭酸化される反応について説明する。
CSHの例:1.7CaO・SiO2・2.17H2O
上記CSHに含まれるCaOが炭酸化されることで、下記式で表されるように、炭酸カルシウムと、二酸化ケイ素とが生成する。
1.7CaO・SiO2・2.17H2O → (炭酸化:CO2) →1.7CaCO3+SiO2+2.17H2O
【0018】
生成された炭酸カルシウムは、再生骨材の表面のみならず、内部の微細な空隙においても生成され、さらに、生成される二酸化ケイ素も再生骨材の空隙に浸透することで、特定改質再生骨材は、改質前の再生骨材と比較し、吸水率がより小さくなり、絶乾密度が高くなる。このため、通常の再生骨材に比較して、本開示の水硬性組成物に用いられる特定改質再生骨材は、水硬性組成物に有用である。なお、酸化ケイ素は水和物であるシリカゲルの形態で改質再生骨材に含有されることがある。
改質再生骨材の製造方法の詳細については、後述する。
【0019】
コンクリート塊から得られる再生骨材は、周囲にはセメント由来成分が付着しており、セメント由来成分に起因して、再生骨材は、吸水率が、未使用の骨材に対して高くなる。例えば、JIS A5021(2020年)に規定される再生骨材の高品質品は、再生細骨材の吸水率は3.5%以下、再生粗骨材の吸水率は3.0%以下と定められているが、セメント由来成分を除去して吸水率を3.0%以下とするには、高いエネルギーが必要となるのは既述の通りである。
従って、特定改質再生骨材を水硬性組成物に添加した場合、公知の未改質の再生骨材を用いた場合に懸念される、骨材の吸水に起因する水硬性組成物により得られる硬化体の強度低下、乾燥時の硬化収縮等の問題が生じ難くなるという利点を有する。さらに重要な点としては、改質再生骨材の製造過程において、再生骨材にCO2を固定化して、安定な反応生成物とし、水硬性組成物等に利用することができることが挙げられる。
【0020】
特定改質再生骨材の密度がより向上し、吸水率がより低下するという観点からは、特定改質再生骨材に含まれる炭酸カルシウムの含有量は、特定改質再生骨材全質量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、3質量%~15質量%であることがより好ましい。また、特定改質再生細骨材の密度及び組織の緻密性による強度向上の観点からは、特定改質再生骨材に含まれる二酸化ケイ素の含有量は、特定改質再生細骨材全質量に対し、1質量%を超え15質量%以下であることが好ましく、1.5質量%~15質量%であることがより好ましく、2質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
特定改質再生骨材における炭酸カルシウムの含有量は、熱分析により確認することができる。
(炭酸カルシウムの定量)
本開示では、熱分析装置TG-DTA(リガク社製 Thermo plus EVO2 TG-DTA8122)を用いて、600℃~800℃の減量から炭酸カルシウムの含有量を算定している。
【0022】
特定改質再生骨材における二酸化ケイ素の含有量は、発光分光分析により確認することができる。なお、シリカゲルは二酸化ケイ素の水和物であるため、含有量は、Si元素基準にて測定した値となる。
(二酸化ケイ素の定量)
本開示では、CSHの炭酸化を、シリカゲル(SiO2gel)の含有量を測定することで確認する。
まず、改質再生細骨材を粉砕して試料を調製する。得られた試料を試薬特級の塩酸(濃度約35質量%)を容積比で1:4の割合で純水と混合したHCl(1+4)水溶液で溶解し、未溶解分を、さらに0.2N KOHで溶解し、得られた溶解液中のSiを誘導結合プラズマ(以下、ICP)発光分光分析装置で測定して、SiO2gelの含有量を確認する。
本開示では、ICP発光分光分析装置として、(株)日立ハイテクサイエンス、SPECTROBLUE(登録商標)EOPを用いて測定した値を採用している。
【0023】
本開示の水硬性組成物における特定改質再生骨材は、細骨材であってもよく、粗骨材であってもよい。なかでも、より多くのセメント由来成分が付着しており、炭酸ガスの固定効果がより大きくなるという観点から、特定改質再生骨材は、改質再生細骨材であることが好ましい。
【0024】
本開示の水硬性組成物における改質再生骨材の含有量には特に制限はなく、組成物の使用目的に応じて適宜選択すればよい。
【0025】
再生骨材の粒度は、JIS A1102(2014年)「ふるい分け試験方法」に準拠して測定することができる。得られた粒度から、再生骨材の粗粒率を、90%通過するふるい目の最小の呼び名から、最大粒径を求めることができる。粗粒率の値が小さいほど粒径の分布が小さいことを表す。
再生骨材の粗粒率とは、80mm、40mm、20mm、10mm、5mm、2.5mm、1.2mm、0.6mm、0.3mm、及び、0.15mmの各ふるいにとどまる骨材粒子の質量分率(%)の和を100で除した値である。
【0026】
水硬性組成物に含まれる細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材の全量が特定改質再生骨材であってもよく、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材の一部を特定再生細骨材に置き換えてもよい。
水硬性組成物が、改質再生骨材以外の骨材を含む場合、本開示の製造方法において炭酸ガス固定量をより高めるという観点からは、骨材全量の50質量%以上が改質再生骨材であることが好ましい。一方で、改質再生骨材を用いた場合、再生骨材を用いた場合よりも水硬性硬化体の品質は向上するが、天然骨材を用いた場合より水硬性硬化体の品質が低下する場合がある。このため、水硬性硬化体の所望の品質と炭酸ガス固定量の双方を勘案して、適宜、改質再生骨材の含有割合を決めればよい。
【0027】
(石膏)
本開示の水硬性組成物は、石膏を含有する。石膏の含有量は、以下に詳述する水硬性結合材100質量部に対し、0.5質量部~10質量部とすることができ、1.0質量部~4質量部であることが好ましい。
また、石膏の含有量は、前記改質再生骨材100質量部に対して、0.5質量部~10質量部とすることができ、1.0質量部~5質量部であることが好ましい。
本開示の特定改質再生骨材を使用した水硬性組成物によれば、再生骨材を含まない水硬性組成物により得られる硬化体と圧縮強度が同等又はそれ以上の硬化体が得られる。さらに、水硬性結合材に対して、上記特定量の石膏を含有することで、水硬性組成物硬化体の圧縮強度の低下を最小限に抑え、且つ、硬化体のひび割れの原因となる乾燥収縮ひずみを低減することが可能となる。
【0028】
本開示の水硬性組成物に用いうる石膏には特に制限はなく、公知の石膏を用いることができる。石膏としては、二水石膏、無水石膏のいずれでもよく、これらの一種又は二種以上を用いることができる。石膏として、解体コンクリート塊に中に含まれるセメント由来のSO3成分から生成された再生石膏を、水硬性組成物に含まれる石膏の含有量としてカウントしてもよい。
なかでも、水硬性組成物により得られる水硬性組成物硬化体の乾燥収縮の抑制効果がより良好であるという観点からは、二水石膏及び無水石膏が好ましい。
【0029】
(水硬性結合材)
本開示の水硬性組成物は、セメント等の水硬性結合材を含む。本開示における水硬性結合材は、水と混合して硬化体を形成しうる、水硬性組成物に主成分として含まれる結合材を包含する意味で用いられる。
水硬性結合材としては、コンクリート、モルタル、グラウト等が挙げられ、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等でその一部が置換された混合セメント等も本開示における水硬性結合材に含まれる。
【0030】
以下、水硬性結合材として、コンクリート組成物に通常用いられるセメントの例を挙げて説明するが、本開示における水硬性結合材は、セメントには限定されない。
【0031】
水硬性結合材としてのセメントには、特に制限はなく、水硬性組成物の使用目的に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。
水硬性結合材の一態様であるポルトランドセメントとしては、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0032】
本開示の水硬性組成物における水硬性結合材の含有量は、初期硬化性、初期強度、長期強度、水硬性組成物硬化体の使用目的等を考慮して適宜選択される。通常、セメント等の水硬性結合材は、硬化体を構成する水硬性組成物中に、総量で270kg/m3~650kg/m3含有することが好ましく、320kg/m3~530kg/m3含有することがさらに好ましい。
【0033】
本開示における水硬性結合材の含有量とは、水硬性結合材としてポルトランドセメント等のセメントを用いた場合にはセメントの含有量を示し、セメントの一部を高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等で置き換えた混合セメントを用いた場合には、複数の水硬性結合材の総含有量を示す。
【0034】
(水)
本開示の水硬性組成物は、水を含有する。
水硬性組成物に用いられる水には特に制限はなく、水道水等を使用することができる。
水硬性組成物における水の含有量は、水硬性組成物の流動性及び水硬性組成物の硬化物である水硬性組成物硬化体の所望の特性に応じて適宜選択すればよい。
水/水硬性結合材の含有比率は、最終的に得られる水硬性組成物硬化体の圧縮強度として、18N/mm2以上の強度を発現する範囲とすることが好ましい。また、大気中の二酸化炭素との炭酸化反応を抑制し、水硬性組成物硬化体内に配置される鉄筋を腐食から保護するという観点から、水/水硬性結合材の含有比率は、質量換算で60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
水硬性組成物硬化体を形成するための水硬性組成物においては、水とセメントの含有比率のみならず、骨材の含有量、さらには、任意成分である混和剤、硬化促進材等の各種材料の含有量を適宜調整することで、硬化体の強度や物性を調整することもできる。
【0035】
(その他の成分)
本開示の水硬性組成物は、既述の水硬性結合材、水、改質再生骨材に加え、効果を損なわない限りにおいて、目的に応じてその他の成分をさらに含有することができる。
その他の成分としては、水硬性組成物に用いられる各種添加剤、例えば、混和剤、反応調整剤、減水剤、空気連行剤、消泡剤、硬化促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、増粘剤、防腐剤、防錆剤、速硬性混和材等が挙げられる。
【0036】
本開示の水硬性組成物は、水硬性結合材に対して、特定改質再生骨材及び石膏を含有するため、再生骨材を使用する場合に問題であった水硬性組成物硬化体の強度低下及び乾燥収縮が抑制され、高品質の硬化体を形成しうる。
さらに重要な点として、改質再生骨材の製造過程において、再生骨材にCO2を固定化して、安定な反応生成物とし、水硬性組成物等に利用することができることが挙げられる。
従って、本開示の水硬性組成物は、解体コンクリート塊などを有効利用することができ、多くの炭酸ガスを固定化させ得ることから、コンクリート廃材のリサイクルに有用である。
【0037】
<水硬性組成物の製造方法>
本開示の水硬性組成物の製造方法(以下、「本開示の製造方法」と称することがある)は、吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材と、濃度5%以上の炭酸ガスと、を反応させて、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含む改質再生骨材を得る第1工程、及び、水硬性結合材と、前記水硬性結合材100質量部に対して、0.5質量部~10質量部の石膏と、前記第1工程で得られた改質再生骨材と、水と、を混合する第2工程を有する。
【0038】
(第1工程)
第1工程は、吸水率が3.0%を超え10%以下の再生骨材と、濃度5%以上の炭酸ガスと、を反応させて、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素とを含む改質再生骨材を得る工程である。
再生骨材の製造方法には特に制限はないが、例えば、破砕又は摩砕して得た粒径40mm以下のコンクリート塊を、再生粗骨材と再生細骨材に分級し、吸水率が3.0%を超え10%以下の再生粗骨材と再生細骨材とを得る方法が挙げられる。
本開示にて再生骨材の製造に使用されるコンクリート塊は、コンクリートを含む建造物、構造物等を解体した塊状の解体コンクリートである。
コンクリート塊は、当初のコンクリートの組成、建造物、構造物等の置かれた環境、経時期間等の影響により、さまざまな組成のものがあるが、ここで得られた再生骨材は、後述の第2工程で改質されるため、コンクリート塊の組成に拘わらず、低エネルギーで、再利用に好適な再生骨材を得ることができる。
【0039】
解体コンクリートに対し、破砕又は磨砕を行って再生骨材を得る方法には、特に制限はなく、公知の破砕装置又は磨砕装置を用いることができる。解体コンクリートを、まず、粗粉砕して、得られた粗粉砕物を、さらに破砕又は磨砕する、多段階の破砕等を実施してもよい。
解体コンクリートの粗粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、インペラーブレーカー等の公知の破砕機を用いることができる。
粗粉砕物に対し、さらに破砕等を実施する場合には、例えば、ブラストショット方式の破砕装置、インパクトクラッシャー、加熱を行わない機械擦りもみ方式等の磨砕装置等を用いることができる。
【0040】
解体コンクリート由来のコンクリート塊を粉砕又は磨砕して得られた粒径40mm以下のコンクリート塊は、再生骨材の原料となる。40mm以下再生骨材原料であるコンクリート塊に対し、さらに破砕又は磨砕を行って、その後、破砕物を粒径によって分級し、吸水率が3.0%を超え10%以下の再生粗骨材及び吸水率が3.0%を超え10%以下の再生細骨材を得る。
粗粉砕後、粒径40mm以下としたコンクリート塊に対し、さらに破砕等を行って、破砕されたコンクリート塊をさらに粉砕して、粒径が5mm以上の骨材を分級することで、再生粗骨材を得ることができる。
粒径40mm以下のコンクリート塊をさらに破砕する方法としては、ジョークラッシャーやインペラーブレーカー等の破砕機を用いて破砕する方法、加熱を行わない機械すりもみ方式を利用する方法、加熱すりもみ方式を利用する方法、ブラストショット法などが挙げられ、エネルギー消費量がより少ないという観点からは、破砕機による破砕、加熱を行わない機械すりもみ方式、ブラストショット法等が好ましい。
再生粗骨材の最大寸法には特に制限はないが、使用性の観点から、再生粗骨材の最大粒径は20mm以下であることが好ましい。
【0041】
再生粗骨材を分離した後には、粒径が5mm未満の再生細骨材と、コンクリート塊由来の微粉末との混合物が得られる。
再生粗骨材を分級した後に得られる粒径が5mm未満の細粒から微粉末を分離することで、再生細骨材を得ることができる。微粉末の分離は、公知の方法、例えば、ふるい分け、風力分級等の方法で行なうことができる。
【0042】
機械的な破砕等及び分級によって得られた再生骨材は、骨材表面にセメント由来の成分が残存しており、従って、得られた再生骨材の吸水率は、再生骨材に付着するセメント由来成分に起因して3.0%を超える。ここで、再生骨材の吸水率が高すぎると、再生骨材を使用した硬化体の強度発現や乾燥収縮、凍結融解抵抗性等において品質低下を生じる場合があるため、本開示では、吸水率の上限を10%以下としている。
【0043】
再生粗骨材及び再生細骨材の粒度及び粗粒率は、既述のように、JIS A1102(2014年)「ふるい分け試験方法」に準拠して測定することができる。
【0044】
得られた前記再生骨材と、濃度5%以上の炭酸ガスとを反応させて、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素を含有する改質再生骨材を得る。
【0045】
再生骨材と炭酸ガスとの反応は、乾式法であってもよく、湿式法であってもよい。
乾式法としては、再生骨材と炭酸ガスとの反応は、再生骨材を閉鎖空間内に配置し、5℃~200℃の温度雰囲気下、濃度5%以上の炭酸ガスと接触させる方法が挙げられる。また、湿式法としては、再生骨材を、水に浸漬し、水のpHが6~8に達するまで水に炭酸ガスを供給する方法が挙げられる。
炭酸ガスと再生骨材との乾式での反応生成物である改質再生骨材では、改質再生骨材中に反応生成物である炭酸カルシウムと二酸化ケイ素が含まれる。炭酸ガスと再生骨材との湿式での反応生成物である改質再生骨材では、反応生成物である炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の一部が処理水中に溶出し、必ずしも全量が改質再生骨材に含まれない場合があるが、炭酸ガスを固定化する効果、セメント成分の溶解による絶乾密度の向上、吸水率の低減といった効果が期待できる。さらに、水硬性組成物が石膏を含むことで、水硬性硬化体の品質向上が可能となる。
なお、処理水中に溶出した炭酸カルシウムは、別途、析出回収を行うことができる。析出回収は公知の方法で行うことができ、得られた炭酸カルシウムは、水硬性組成物の混和材など、種々の用途に使用することもできる。
【0046】
(再生骨材と炭酸ガスとの反応:乾式法)
再生骨材の改質を乾式法で行う場合、再生骨材を閉鎖空間内に静置して、前記閉鎖空間内を濃度5%以上の炭酸ガスで満たして接触させることで、改質再生骨材を得ることができる。
【0047】
接触させる気体中の炭酸ガス濃度は、5%以上であり、10%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。接触させる炭酸ガスは、100%炭酸ガスであってもよい。
炭酸化処理に使用する炭酸ガスは、炭酸ガスを含む排気ガスを適用してもよい。排気ガスとしては、加熱炉から排出される排気ガス、動力機関から排出される排気ガス等が挙げられ、濃度5%以上の炭酸ガスを含めば特に制限はない。また、工場などで分離回収された回収炭酸ガスを、反応用の炭酸ガスとして適用することもできる。
炭酸ガスを含む排気ガス、回収炭酸ガスなどを炭酸化処理に用いることで、排気ガス中の炭酸ガスの低減と、炭酸ガスの再生骨材への吸着による再生骨材の改質とを、同時に行うことができる。排気ガスの温度が100℃を超える高温である場合には、特に閉鎖空間を加熱しなくても、効率のよい炭酸化処理を行うことができ、消費エネルギーの低減及び排ガス中の炭酸ガスの低減を同時に達成できるという利点をも有する。
また、再生骨材の炭酸化を効率よく行う目的で、閉鎖空間を加圧状態として炭酸ガスを供給し、再生骨材に接触させてもよい。
【0048】
乾式処理における好ましい処理時間は、炭酸ガス濃度及び供給量との関連で適宜選択される。処理時間は、例えば、10%~50%濃度の炭酸ガスを用いた場合、1時間以上とすることができ、24時間以上が好ましく、2日間以上がより好ましく、5日以上がさらに好ましく、10日以上がさらに好ましい。処理時間に特に上限はないが、製造効率の観点からは、20日以下とすることができる。
なお、好ましい処理時間は、骨材の状態、必要な改質再生骨材の物性により適宜選択することができる。例えば、再生骨材に付着しているセメント成分の量が少ない場合、及び、再生骨材の表面及びその近傍に付着するセメント粉末のみを炭酸化処理する場合には、処理時間は、1時間~2時間で目的とする改質再生骨材を得ることができる。
なお、乾式処理における処理時間を5日以上とする場合には、炭酸化の進行をより効率的にするという観点から、閉鎖空間内に静置した再生骨材を、数時間~3日間に一度程度の頻度で撹拌することが好ましい。撹拌により、再生骨材と炭酸ガスとの接触がより均一に行われ、再生骨材の一部、又は、個々の再生骨材の一部領域が炭酸化されないといった未反応の領域をより少なくすることができる。
【0049】
(再生骨材と炭酸ガスとの反応:湿式法)
湿式法は、再生骨材を水に浸漬し、水のpHが6~8に達するまで水に炭酸ガスを供給する方法で行うことができる。
湿式法の具体例としては、再生骨材を配置した容器に水を満たすことで再生骨材を水に浸漬し、水に炭酸ガスを吹き込んでバブリングする方法が挙げられる。再生骨材を水に浸漬することで、浸漬液のpHは10~12程度となる場合がある。
浸漬に用いる水には特に制限はない。使用される水は、炭酸ガスと接触して塩を形成する不純物が少ないことが処理効率の観点から好ましく、水としては、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水等を用いることができる。
【0050】
湿式法を実施する場合に水中に供給する炭酸ガス濃度は5%以上とすることができ、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。炭酸ガス濃度の上限には特に制限はなく、炭酸ガス濃度は100%であってもよい。
炭酸ガス濃度は高い方が、再生骨材の炭酸化処理効率がより良好になる傾向がある。
供給する炭酸ガスは、乾式法と同様に、炭酸ガスを含む排気ガス、回収炭酸ガス等を用いてもよい。炭酸ガスの供給源として排気ガス等を用いる場合には、炭酸ガス濃度は排気ガスに含まれる炭酸ガス量に依存する。排気ガスを用いる場合においても、排気ガス中の炭酸ガス濃度は、5%以上であることが好ましい。
【0051】
再生骨材を浸漬した水内への炭酸ガスの供給量は、上記濃度の炭酸ガスの供給速度を1m3/hr~100m3/hrmの範囲で行うことができる。前記供給速度で炭酸ガスを吹き込むことにより、水に浸漬された再生骨材と炭酸ガスとの接触が十分に行われ、再生骨材の炭酸化が進行し、改質再生骨材が得られる
【0052】
再生骨材を浸漬した水中への炭酸ガスの供給量、及び、上記濃度の炭酸ガスの供給速度は、目的に応じて適宜選択することができる。炭酸ガスの供給量(総量)及び供給速度を最適化して炭酸ガスを吹き込むことにより、水に浸漬された再生骨材と炭酸ガスとの接触が効率よく行われ、再生骨材の炭酸化が進行する。
なお、炭酸ガスの水に対する溶解度は、水温が低い方が大きくなる。このため、水の温度は特に制御しなくてもよい。
なお、炭酸ガスの供給源として排気ガスを用いる場合、排気ガスの温度によっては、水の温度が上昇することがあるが、水温は100℃に達することはないため、再生骨材の炭酸化処理の進行に影響を与えることはないと考えられる。
【0053】
湿式処理における水の温度には特に制限はなく、常温で行うことができる。また、炭酸ガスの供給に排気ガスを用いた場合、排気ガスの温度及び供給量に起因して水の温度が、例えば、90℃程度に上昇する場合があるが、当該温度条件においても炭酸化処理を行うことができる。
【0054】
湿式処理の処理時間には特に制限はない。湿式処理時間としては、例えば、5分間~10時間とすることができ、30分間~6時間であることが好ましい。
再生骨材と炭酸ガスとの接触により、再生骨材に含まれるセメント由来成分の炭酸化が進行すると水のpHが低下する傾向にあるため、水のpHが6~8に達する時点を炭酸化処理の終点としてもよい。水のpHが6.5~7.0に達する時点まで湿式処理を行うことが好ましく、pHが6.5~6.8に達する時点まで湿式処理を行うことがより好ましい。水のpHが目的となる値、例えば、上記水のpHが6.5~7.0に達した時点からさらに30分間~90分間湿式処理を継続することがさらに好ましい。
また、pHが目的とする値となり、さらに30分間~90分間湿式処理を継続し、その後さらに1時間静置した後、水のpHの変化が0.2以下であることを確認して炭酸化処理の終点とすることがより好ましい。これは、再生細骨材の内部に取り込まれている水和物の反応も概ね終了していることを確認するためである。湿式法の場合は、析出物が改質再生骨材に残らないことがあるため、炭酸ガス固定量は、供給した炭酸ガスの濃度と量、及び、最終的に残ったガスの濃度とボリュームから計算によって求めることができる。あるいは、処理水から炭酸カルシウムを析出させて回収して、その質量から求めてもよい。
湿式処理における水のpHは、公知のpHメーターで測定することができる。
【0055】
前記第1工程によれば、コンクリート塊から得られた再生骨材を、炭酸ガスと反応させることで、絶乾密度が高く、吸水率が低い改質再生骨材を得ることができる。また、湿式法にて用いた水にはカルシウムイオンや微細な炭酸カルシウムが存在するため、次工程で一般的に行われている炭酸カルシウムの回収を行うこともできる。
【0056】
(得られた改質再生骨材の物性)
第1工程を行うことで、再生骨材の表面近傍に存在する水酸化カルシウムのみならず、再生骨材の微細な空隙に存在するCSHが炭酸化され、炭酸カルシウムが改質再生骨材の表面のみならず微細な内部の空隙に充填され、且つ、空隙には生成した二酸化ケイ素をも含むため、改質再生細骨材は、未処理の再生骨材に比較して吸水率がより低くなり、緻密性がより向上し、水硬性組成物に好適に使用し得る物性を有することになり、再生骨材の利用の促進が期待できる。
さらに、再生骨材の改質に伴い、多くの二酸化炭素が炭酸カルシウムの生成に寄与し、改質再生骨材に固定化されるため、固定化による二酸化炭素の削減に有用である。
【0057】
改質再生骨材の密度がより向上し、吸水率がより低下するという観点からは、改質再生骨材に含まれる炭酸カルシウムの含有量は、改質再生骨材全質量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0058】
(第2工程)
第2工程は、水硬性結合材と、前記水硬性結合材100質量部に対して、0.5質量部~10質量部の石膏と、前記第1工程で得られた改質再生骨材と、水と、を混合して、水硬性組成物を調製する工程である。
得られた水硬性組成物を型枠に投入し、硬化させることで、水硬性組成物硬化体を製造することができる。
第2工程で用いられる水硬性結合材、水、及び石膏は、既述の水硬性組成物において述べた水硬性結合材、水、及び石膏と同じものを用いることができ、好ましい例も同じである。
【0059】
第2工程は、公知の方法により実施することができる。
例えば、少なくとも既述の水硬性結合材、改質再生骨材、石膏、及び、所望により含有させる反応調整剤等のその他の成分を、ミキサで混練し、十分に混合した後、水、及び所望により用いられる混和剤を添加して、混合する方法が挙げられる。改質再生骨材は、改質再生細骨材であってもよく、改質再生粗骨材であってもよい。また、骨材として、砕石などの再生粗骨材以外の粗骨材、砕砂等の再生細骨材以外の細骨材を含んでいてもよい。
混合に用いられるミキサは、公知の装置を用いることができ、例えば、強制二軸ミキサ、軸なしミキサ、パン型ミキサ、傾胴式ミキサ等が挙げられる。
【0060】
水硬性組成物における改質再生骨材の含有量は、硬化体の用途、経済性、ハンドリング性等を考慮して適宜選択される。通常は、例えば、水硬性組成物がコンクリート組成物である場合には、コンクリート組成物100体積部対して、粗骨材の混入量は25体積部~45体積部の範囲であることが好ましく、細骨材の混入量は25体積部~50体積部の範囲であることが好ましい。
各成分を混入した後の水硬性組成物の混合時間は、通常、1分~3分間程度である。
このようにして、硬化体を形成するための水硬性組成物が調製される。
【0061】
第2工程を経て得られた水硬性組成物は、再生骨材を含んでいても、高強度の硬化体を形成することができ、再生骨材の問題点の一つである乾燥収縮ひずみが抑制される。
従って、本開示の水硬性組成物によれば、製造工程において、再生骨材が多くの炭酸ガスを固定化しうること、得られた水硬性組成物硬化体が高強度で乾燥収縮ひずみも抑制されることから、解体コンクリートのリサイクルが促進されることが期待でき、環境負荷も低減される。
【実施例0062】
以下、本開示の水硬性組成物及びその製造方法について、具体例を挙げて詳細に説明するが、以下の具体例は一例に過ぎず、本開示の主旨に従い、種々の変形例を実施することができる。
【0063】
<再生細骨材の製造>
建物の解体時に発生した解体コンクリートから、40mmアンダーに破砕したコンクリート塊を得た。
得られたコンクリート塊を、破砕装置で破砕し、ふるい分けを行って、8mmメッシュを追加したものを再生細骨材の原料とした。
【0064】
(比較細骨材)
得られた再生細骨材を比較例1の水硬性組成物に用いる再生細骨材(比較細骨材)とした。
既述の方法で測定した再生細骨材の粗粒率(F.M)は、2.48であった。
【0065】
(改質再生細骨材A:乾式法)
上記で得た再生細骨材をバット上に厚さ2cm程度になるよう広げ、炭酸ガス濃度10%、温度20±2℃、湿度60±5%RHに設定した密閉空間(容積0.7m3のチャンバー)内に静置した。2~3日ごとに質量測定及び均等になるようかき混ぜを行い,これを7日間処理し、改質再生細骨材Aを得た。
既述の方法で測定した改質再生細骨材Aの粗粒率は、2.46であった。
【0066】
(改質再生細骨材B:湿式法)
前記再生細骨材を、水温20℃に設定した炭酸ガス溶解槽内に投入した。1時間静置後に溶解槽内に濃度100%の炭酸ガスを吹き込み、溶解槽内のpHが6.8となるまで、1分間程度炭酸化を行った。炭酸化終了後、溶解槽内で1時間静置した後、細骨材を回収し、ろ布にて脱水を行い、改質再生細骨材Bを得た。
既述の方法で測定した改質再生細骨材Bの粗粒率は、2.45であった。
【0067】
(再生細骨材の評価)
1.吸水率及び絶乾密度
改質前の再生細骨材、改質再生細骨材A及び改質再生細骨材Bの絶乾密度及び吸水率をJIS A 1109(2020年)に準拠して測定した。
【0068】
2.細骨材中の炭酸カルシウム含有量
熱分析装置TG-DTA(リガク社製 Thermo plus EVO2 TG-DTA8122)を用いて、600℃~800℃の減量から炭酸カルシウムの含有量を算定した。
【0069】
3.細骨材中の二酸化ケイ素含有量
再生細骨材を粉砕して試料を調製し、得られた試料を試薬特級の塩酸(濃度約35質量%)を容積比で1:4の割合で純水と混合したHCl(1+4)水溶液で溶解し、未溶解分を、さらに0.2N KOHで溶解し、得られた溶解液中のSiをICP発光分光分析装置で測定して、SiO2gelの含有量を確認した。
ICP発光分光分析装置として、(株)日立ハイテクサイエンス、SPECTROBLUE(登録商標)EOPを用いた。
【0070】
各評価の結果を下記表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に明らかなように、再生細骨材と炭酸ガスとの反応生成物である改質再生細骨材A及び改質再生細骨材Bは、炭酸ガスとの反応を行わない再生細骨材に対し、絶乾密度が向上し、吸水率が低下し、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素の含有量が増加していることが確認された。
なお、湿式法において水中に溶出した炭酸カルシウムは、別途、晶析工程を経ることで炭酸ガスを固定化した資材として利用が可能となる。
【0073】
〔実施例1~実施例2、比較例1~比較例3及び対照例1〕
(モルタル組成物の調製)
以下の処方で、表2の含有量に従い、モルタル組成物を調製した。
モルタル組成物の調製に用いた水硬性結合材、石膏及び細骨材は、以下の通りである。
1.水硬性結合材
*ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3、比表面積3140cm2/g)
2.石膏
*二水石膏(密度:2.31g/cm3、比表面積1080cm2/g)
3.細骨材
細骨材は、上記で得た再生細骨材、改質再生細骨材A、及び改質再生細骨材Bを用いた。
また、対照例1用として、下記公知の細骨材を用いた。
*砕砂(表乾密度:2.62g/cm3、粗粒率:2.7)
【0074】
ポルトランドセメント、二水石膏、及び細骨材をソイルミキサで30秒乾撹拌し、その後、水を加え、2分間混練して、モルタル組成物を得た。
水/結合材比は質量換算で50.0%とした。ポルトランドセメント100質量部に対する細骨材の含有量は100質量部とした。二水石膏の含有量は、ポルトランドセメントの含有量に対し、4.3質量%とした。
また、改質再生細骨材Aを含み、二水石膏を含まない比較例2及び改質再生細骨材Aを含み、二水石膏を含まない比較例2、再生細骨材に代えて普通細骨材である砕砂を含む対照例1のモルタル組成物を同様にして調製した。
【0075】
得られたモルタル組成物を型枠(直径50mm×高さ100mm)内に投入し、硬化させた。
圧縮強度測定用の試験体については材齢1日で脱型後、試験材齢まで標準養生を行った。乾燥収縮試験体については材齢1日で脱型後、材齢1週まで標準養生を行った。材齢1週に基長を測定し、以後20℃60%RH恒温恒湿室で,乾燥材齢13週まで測定を実施した。
【0076】
それぞれの測定方法は以下とした。
1.圧縮強度
JIS A 1108(2018年)「コンクリートの圧縮強度試験方法」
2.乾燥収縮
JIS A1129-2(2010年)「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法第2部 コンタクトゲージ法」
結果を下記表2に併記した。
【0077】
【0078】
表2に明らかなように、炭酸化処理を行って得た改質再生細骨材を含む実施例1及び実施例2のモルタル組成物により得られた硬化体は、いずれも、実用上問題のないレベルである30N/mm2以上であった。また、実施例1及び実施例2のモルタル組成物硬化体は、炭酸化処理を行わない再生細骨材を含む比較例1のモルタル組成物の硬化体に対し、同等の圧縮強度が確保されて、乾燥収縮は抑制されていることが分かる。
また、実施例1及び実施例2の圧縮強度及び乾燥収縮は、一般に広く使用されている普通細骨材である砕砂を含むモルタル組成物の硬化体である対照例1と比較しても、遜色のない値を示した。
実施例のモルタル組成物硬化体は、石膏を含むことで、若干の強度低下は見られるが、通常の水セメント比の調整といった配合割合で制御できる範囲であり、配合割合での制御ができないため、材料を変更することが必要となる、特殊な添加物の使用が必要となる等の問題を生じる乾燥収縮が改良されていることがわかる。
【0079】
<改質再生細骨材の製造>
東京都内の建物の解体時に発生した解体コンクリートから、40mmアンダーに破砕したコンクリート塊を得た。
得られたコンクリート塊を、破砕装置で破砕し、ふるい分けを行って、8mmメッシュを追加したものを細骨材の原料とした。(比較再生細骨材)
【0080】
(改質再生細骨材C:湿式法)
前記再生細骨材1kgを、容積0.02m3の透明塩化ビニル製反応槽内に配置し、反応槽内を約10℃の水道水で満たした。水のpHをpHメーターで測定したところ10~12であった。
ボトルの底面に達する管を用いて、反応槽内に100%濃度の炭酸ガスを吹き込んでバブリングした。水のpHが6.8に達した時点でバブリング処理を終了し、改質再生細骨材Bを得た。浸漬時間は、約1時間であった。
得られた改質再生細骨材Cを、上記比較例1に用いた再生細骨材と同様の方法にて評価したところ、粗粒率は、2.19あり、吸水率は、4.51%であり、絶乾密度は、2.41g/cm3であった。炭酸カルシウムの含有量は6.25%であり、二酸化ケイ素の含有量は1.9%であった。
これに対し、比較再生骨材は、粗粒率は、2.19であり、吸水率は、5.00%であり、絶乾密度は、2.38g/cm3であった。炭酸カルシウムの含有量は4.42%、二酸化ケイ素の含有量は1.1%であった。
湿式法にて得られた改質再生細骨材Cは、比較再生細骨材に対し、絶乾密度が大きくなり、吸水率は小さくなっていることが分かった。一方、粗粒率については、差異は確認されなかった。また、骨材に含まれる炭酸カルシウム量及び二酸化ケイ素の含有量は、より多くなることが確認された。
【0081】
〔実施例3、比較例4及び対照例2〕
(モルタル組成物硬化体の製造及び評価)
実施例1と同様の処方で、表3の含有量に従いモルタル組成物を調製し、実施例1と同様にしてモルタル組成物の硬化体を作製した。モルタル組成物に含まれる再生細骨材として、上記再生細骨材、改質再生細骨材C及び対照例1と同じ砕砂を用いた。
得られたモルタル組成物硬化体を、実施例1と同様の方法にて評価した。結果を表3に示した。
【0082】
【0083】
表3に明らかなように、実施例3のモルタル組成物硬化体では、石膏の添加により若干の圧縮強度低下が見られたが、モルタル組成物硬化体として要求される実用上問題のないレベルである30N/mm2の値を大きく上回っていた。また、比較例5との対比より、石膏を含有することにより、モルタル組成物硬化体の乾燥収縮が改善されることが分かった。
なお、実施例3に関しては、炭酸ガスと作用させることで、製造に用いた水の中には、微細な炭酸カルシウムが存在しており、炭酸ガスを固定化している点で、比較例4に対して有用となった。
【0084】
〔実施例4、比較例5及び対照例3〕
(コンクリート組成物硬化体の製造及び評価)
下記表4の含有量に従いコンクリート組成物を調製した。
コンクリート組成物の調製に用いた水硬性結合材、石膏、細骨材及び粗骨材は、以下の通りである。
1.水硬性結合材
*ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3、比表面積3140cm2/g)
2.石膏
*二水石膏(密度:●2.31g/cm3、比表面積1080cm2/g)
3.細骨材
細骨材は、上記で得た再生細骨材、改質再生細骨材Cを用いた。
また、対照例1用として、下記公知の細骨材を用いた。
*山砂(表乾密度:2.58g/cm3)、粗粒率:2.7)
4.粗骨材
*粗骨材(砕石:かさ容積:0.60m3/m3、Gmax:20mm、砕石5号と砕石6号とを、それぞれ、かさ容積0.3m3/m3で使用)
5号砕石:八王子産硬質砂岩砕石
(表乾密度:2.66 g/cm3,吸水率:0.66%、実積率:58.2%)
6号砕石:八王子産硬質砂岩砕石
(表乾密度:2.65 g/cm3,吸水率:0.98%、実積率:59.1%))
【0085】
上記成分を、強制二軸ミキサを用いて各バッチで練り混ぜた。
ポルトランドセメント、二水石膏、細骨材を強制二軸ミキサに投入後、15秒間空練りを行い、水と混和剤を加えた後、90秒間練混ぜた。その後、かき落としを行い、粗骨材を加えて60秒練混ぜた後に排出して、コンクリート組成物を得た。
調合は下記とし、水/結合材比は質量換算で50.0%、単位水量は、175kg/m3とした。
【0086】
【0087】
得られたコンクリート組成物を、圧縮強度に関しては、直径100mm、高さ200mmの型枠内に投入し、乾燥収縮に関しては、100mm×100mm×400mmの角柱の型枠内に投入し、硬化させ、材令1日で脱型した。
脱型後、圧縮強度試験は、20℃の水中で28日間養生した後に、コンクリート組成物硬化体の材齢28日の圧縮強度を測定した。
乾燥収縮試験は、材齢1で脱型後、材齢1週まで20℃水中養生を行い、温度20℃、湿度60%の環境下で、実施例1と同様の方法にてコンクリート組成物硬化体の乾燥収縮を測定した。
結果を表5に示した。
【0088】
【0089】
表5に明らかなように、改質再生細骨材C及び石膏を含む実施例4のコンクリート組成物硬化体は、炭酸化処理を行わない比較例6で得た再生細骨材を含むコンクリート組成物硬化体に対し、圧縮強度が向上し、さらに、乾燥収縮ひずみが抑制されており、収縮低減効果がみられた。
また、実施例4のコンクリート硬化体は、細骨材として公知の山砂を用いた対照例3のコンクリート硬化体に対しても、圧縮強度が向上していることが分かった。