(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182470
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子用の負極及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231219BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231219BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231219BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20231219BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096094
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】河本 真理子
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA30
5E078BA53
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる非水電解質蓄電素子用の負極、及び充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、負極活物質を含む負極活物質層を備え、上記負極活物質がシリコン元素を含むシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有し、上記シリコン系粒子におけるシリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]が0.05以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極活物質層を備え、
上記負極活物質がシリコン元素を含むシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有し、
上記シリコン系粒子におけるシリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]が0.05以下である非水電解質蓄電素子用の負極。
【請求項2】
上記シリコン系粒子がシリコン単体粒子である請求項1に記載の負極。
【請求項3】
上記リン酸リチウムがシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在する請求項1又は請求項2に記載の負極。
【請求項4】
上記負極活物質のCuKα線を用いたエックス線回折図において、回折角2θが21°以上26°以下の範囲にピークが存在する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の負極。
【請求項5】
上記負極活物質層がさらに炭素材料を含有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極を有する非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用の負極及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間で電荷担体イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質蓄電素子の高容量化に向けて、負極活物質の体積当たりの高容量化が求められており、高容量の材料の検討が行われている。高容量の材料としては、シリコン系材料が高容量を発現する材料として着目されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シリコン系材料が含有するシリコン単体は、4000mAh/gの著しく大きい容量を発現する。しかしながら、上記シリコン単体は電荷担体イオンの吸蔵による膨張率が高く、満充電時には体積が4倍に膨張する。そのため、充放電に伴ってシリコン系材料が導電剤等の他の成分から孤立して充放電に寄与しなくなるおそれがある。また、シリコン系材料の膨張収縮の際に、非水電解質の分解等によりシリコン系材料の表面に形成される被膜が崩壊及び形成を繰り返すことによって、非水電解質の分解等の副反応量が、黒鉛などの炭素材料と比較して非常に大きい。その結果、充放電サイクルに伴って著しい容量低下を引き起こすおそれがある。
【0006】
この充放電サイクルに伴う容量低下に対しては、シリコン系材料と混合する炭素材料の検討や、アモルファスカーボンをシリコン系粒子の表面に被覆するなどの検討がされている。これらはシリコン系材料の孤立化を抑制することに対しては効果的であると考えられるが、非水電解質の分解等の副反応を抑制することに対しては十分な効果が得にくく、充放電サイクルに伴う容量低下に対して高い抑制効果を得ることが困難であると考えられる。
【0007】
本発明の目的は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる非水電解質蓄電素子用の負極及び充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、負極活物質を含む負極活物質層を備え、上記負極活物質がシリコン元素を含むシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有し、上記シリコン系粒子におけるシリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]が0.05以下である。
【0009】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
【0011】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】実施例及び比較例における負極活物質のエックス線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、負極活物質を含む負極活物質層を備え、上記負極活物質がシリコン元素を含むシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有し、上記シリコン系粒子におけるシリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]が0.05以下である。
【0014】
当該非水電解質蓄電素子用の負極(以下、単に「負極」ともいう。)を非水電解質蓄電素子に用いることで、シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。高容量であるが、充放電サイクルに伴う粒子表面の被膜の形成及び崩壊の繰り返しによる非水電解質の分解等の副反応量が大きいシリコン系粒子と、リン酸リチウムとを組み合わせることで、上記非水電解質の分解等の副反応が抑制される。従って、当該非水電解質蓄電素子用の負極は、シリコンを含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
なお、上記シリコン原子の質量は、シリコン元素を含む負極活物質をフッ酸及び硝酸の混酸に溶解したのちに、その混酸に含まれるシリコン原子の質量を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法をもちいて定量し、算出する。また、上記リン酸リチウムの質量は、上記シリコン元素を含む負極活物質表面の被膜などに含まれる水に可溶なリン元素を含む化合物をあらかじめ水で除去した後に、上記シリコン元素を含む負極活物質をフッ酸及び硝酸の混酸で溶解し、その混酸に含まれるリン酸リチウム由来のリン原子の質量を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法をもちいて定量し、算出する。
【0015】
上記負極活物質における上記シリコン系粒子は、SiOx(0<x≦2)で表記されるシリコン酸化物粒子、他の金属と合金化したシリコン合金粒子などでもよいが、シリコン単体粒子であることが好ましい。上記シリコン系粒子がシリコン単体粒子であることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率をより高めることができる。ここで、「シリコン単体粒子」は、主に珪石等の二酸化シリコンを還元し精製した比較的純度の高いシリコン単体を原料とするものであり、純度は特に限定されるものではないが、シリコン酸化物である二酸化シリコンや炭化物である炭化シリコンは除かれる。
【0016】
上記負極活物質において、上記リン酸リチウムがシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在することが好ましい。上記リン酸リチウムがシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在することで、充放電サイクルに伴う非水電解質の分解等の副反応に対する抑制効果を向上できるので、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率をより高めることができる。なお、シリコン系粒子へのリン酸リチウムの被覆の有無は、シリコン系粒子のエックス線回折測定において、リン酸リチウムに由来するピークの有無によって確認する。さらに詳細には、リン酸リチウムによるシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の被覆状態は、シリコン系粒子の透過型電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)を用いた、元素マッピング観察により確認する。
【0017】
当該非水電解質蓄電素子用の負極は、上記負極活物質のCuKα線を用いたエックス線回折図において、回折角2θが21°以上26°以下の範囲にピークが存在することが好ましい。上記ピークはリン酸リチウム由来のピークであり、上記負極活物質が結晶構造を有するリン酸リチウムを含むことで、負極活物質がシリコン系粒子と微細な粒子状のリン酸リチウムが複合化しているものといえる。微細な粒子状のリン酸リチウムが存在することによって、シリコン系粒子表面が保護されるので、充放電に伴う非水電解質の分解等の副反応が抑制される。
【0018】
当該非水電解質蓄電素子用の負極は、上記負極活物質層がさらに炭素材料を含有することが好ましい。負極活物質層がさらに炭素材料を含有することで、充放電に伴うシリコン系粒子の膨張収縮による孤立化に伴う容量低下を抑制することができる。
【0019】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極の構成、非水電解質蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び非水電解質蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0020】
<非水電解質蓄電素子用の負極>
本発明の一実施形態に係る負極は、負極基材と、上記負極基材の少なくとも一方の面に直接又は間接に積層される負極活物質層とを備える。負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。
【0021】
負極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0022】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0023】
中間層は、負極基材と負極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0024】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。負極活物質層を形成する負極合剤は、炭素材料を含むことが好ましい。また、負極合剤は、必要に応じてバインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0025】
[負極活物質]
当該負極の負極活物質は、シリコン元素を含むシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有する。「シリコン系粒子」とは、シリコン元素を含み、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる粒子をいう。シリコン系粒子としては、例えばシリコン単体、シリコン合金、シリコン化合物等からなる粒子が挙げられる。シリコン化合物としては、例えばシリコン酸化物が挙げられる。
【0026】
シリコン合金としては、例えば、SiがFe、Mn、Ni、Al、Ti、Coなどの金属と合金化した材料や、Fe-Si-B、Ni-Si-B、Co-Si-B、Li-Si等の半金属合金が挙げられる。
【0027】
シリコン酸化物としては、例えばSiOx(0<x≦2)で表されるものを用いることができる。また、シリコン酸化物は、B、C、N、P、F、Br、Iなどの典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Snなどの典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどの遷移金属元素を含んでもよい。
【0028】
上記負極活物質における上記シリコン系粒子がシリコン単体粒子であることが好ましい。上記シリコン系粒子がシリコン単体粒子であることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率をより高めることができる。なお、シリコン系粒子は、導電性を付与させるなどの目的のために、その表面がカーボン等の導電性物質でコート処理されていてもよい。
【0029】
上記シリコン系粒子におけるシリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]の下限としては、0.01が好ましく、0.02がより好ましい。一方、上記シリコン原子の質量[B]に対する上記リン酸リチウムの質量[A]の比[A/B]の上限としては、0.05であり、0.03が好ましい。上記[A/B]が上記下限以上又は上記上限以下であることで、非水電解質の分解等の副反応が抑制される。従って、当該非水電解質蓄電素子用の負極は、シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
【0030】
上記リン酸リチウムがシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在することが好ましい。上記リン酸リチウムがシリコン系粒子の一次粒子又は二次粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在することで、充放電サイクルに伴う非水電解質の分解等の副反応に対する抑制効果を向上できるので、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率をより高めることができる。
【0031】
負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上15μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。
【0032】
「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0033】
上記負極活物質は、本発明の効果を損なわない範囲で、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な他の負極活物質を含有していてもよい。そのような他の負極活物質の例としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料;リチウム、スズ等の金属;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;スズ酸化物等の金属酸化物;半金属酸化物;ポリリン酸化合物;リチウム合金等が挙げられる。リチウム合金には、リチウムと、アルミニウム、亜鉛、ビスマス、カドミウム、アンチモン、鉛、スズ、ガリウム、ゲルマニウム、またはインジウムとの合金を用いることができる。
【0034】
上記負極活物質におけるシリコン系粒子及びリン酸リチウムの含有率としては、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。上記シリコン系粒子及びリン酸リチウムの含有率が上記下限以上であることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率をより高めることができる。
【0035】
上記負極活物質層は、上記負極活物質のCuKα線を用いたエックス線回折図において、回折角2θが21°以上26°以下の範囲にピークが存在することが好ましい。上記負極活物質が結晶構造を有するリン酸リチウムを含むことで、負極活物質がシリコン系粒子と微細な粒子状のリン酸リチウムが複合化しているものといえる。微細な粒子状のリン酸リチウムが存在することによって、シリコン系粒子表面が保護されるので、充放電に伴う非水電解質の分解等の副反応が抑制される。
【0036】
エックス線回折測定は、以下の条件にて行う。気密性のエックス線回折測定用試料ホルダーを用い、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で負極活物質を充填する。エックス線回折装置(Rigaku社製「miniFlex II」)を用いて粉末エックス線回折測定を行う。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折エックス線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra2)にて検出する。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/分、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。
【0037】
上記負極活物質層における負極活物質の含有量としては、例えば40質量%以上95質量%以下とすることができる。
【0038】
[その他の任意の成分]
上記負極活物質層は、炭素材料を含有することが好ましい。上記負極活物質層がさらに炭素材料を含有することで、充放電に伴うシリコン系粒子の膨張収縮による孤立化に伴う容量低下を抑制することができる。炭素材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。炭素材料の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。炭素材料としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。なお、上記負極活物質層は、金属、導電性セラミックス等の他の導電剤を含有していてもよい。
【0039】
負極活物質層における炭素材料の含有量としては、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。炭素材料の含有量を上記の範囲とすることで、一定の電子伝導を確保でき、充放電に伴うシリコン系粒子の膨張収縮による孤立化に伴う容量低下を抑制することができる。
【0040】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子、アクリル樹脂、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0041】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0042】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0043】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0044】
負極活物質層におけるフィラーの含有量としては、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0045】
<非水電解質蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して重ねられた積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して重ねられた状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0046】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、上記負極が、上述した非水電解質蓄電素子用の負極である。当該非水電解質蓄電素子は、上述した非水電解質蓄電素子用の負極を備えるので、充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
【0047】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記負極で例示した構成から選択することができる。
【0048】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0049】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0050】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0051】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の非水溶媒を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0053】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0054】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0055】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0056】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0057】
(負極)
上記負極は、上述したように、本発明の一実施形態に係る上記非水電解質蓄電素子用の負極が用いられる。負極の詳細は上述した通りである。
【0058】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0059】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0060】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0061】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0062】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0063】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0064】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもEC及びFECが好ましい。
【0065】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0066】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0067】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0068】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0069】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0070】
非水電解液は、非水溶媒及び電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0072】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0073】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質、ゲルポリマー電解質等が挙げられる。
【0074】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0075】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0076】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0077】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)を備える蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子1の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0078】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、負極として当該負極を用いること以外は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を重ねる又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0079】
負極を準備することは、例えば、シリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有する負極活物質を含有する負極活物質層を負極基材の少なくとも一方の面に沿って積層する。具体的には、例えば負極基材に負極合剤ペーストを塗工して乾燥することにより負極活物質層を積層する。
【0080】
上記負極活物質の製造方法は特に限定されない。シリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有する負極活物質の製造方法としては、例えば水にシリコン系粒子を分散させ、LiOH水溶液とH3PO4水溶液とを滴下してシリコン系粒子の表面に微細なLi3PO4を析出させた後に、この水溶液をろ過して得られた粒子を乾燥することによって得る方法等が挙げられる。なお、シリコン原子の質量に対するリン酸リチウムの質量の比は、水に分散させたシリコン単体粒子の質量と、水酸化リチウム水溶液及びリン酸水溶液の滴下量を変更することによって調整できる。
【0081】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0082】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0083】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0084】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0085】
[実施例1から実施例3及び比較例1]
(負極活物質の作製)
まず、水にシリコン単体粒子を分散させたのちに、水酸化リチウム水溶液とリン酸水溶液を滴下することにより、シリコン単体粒子の表面にリン酸リチウムを析出させた後に、この分散液をろ過して得られた粒子を乾燥することによって、シリコン単体粒子とリン酸リチウムの複合粒子を形成し、実施例1から実施例3に係る負極活物質を作製した。また、リン酸リチウムとの複合粒子を形成する前のシリコン単体粒子を、比較例1に係る負極活物質とした。実施例1から実施例3及び比較例1に係る負極活物質におけるシリコン原子の質量に対するリン酸リチウムの質量の比を表1に示す。なお、実施例1から実施例3に係る負極活物質におけるシリコン原子の質量に対するリン酸リチウムの質量の比は、水に分散させたシリコン単体粒子の質量と、水酸化リチウム水溶液及びリン酸水溶液の滴下量を変更することによって調整した。
【0086】
(負極の作製)
次に、上記実施例1から実施例3及び比較例1に係る負極活物質を含有する負極を作製した。導電剤としてアセチレンブラックを用いた。バインダとしてポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)を用いた。負極活物質、導電剤及びバインダを40:40:20の固形分質量比で含有し、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。負極基材としての厚さ20μmの銅箔の片面に負極合剤ペーストを塗工し、乾燥し、プレスして、負極基材上に負極活物質層が形成された実施例1から実施例3及び比較例1の非水電解質蓄電素子用負極を作製した。
【0087】
(正極の作製)
α―NaFeO2型結晶構造を有するLiNi0.5Mn0.3Co0.2O2(NCM)を正極活物質として含有する正極を作製した。上記正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを作製した。正極活物質、導電剤及びバインダの混合比率は、固形分質量比で、92:4:4とした。正極基材としての厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に正極合剤ペーストを塗工し、乾燥し、プレスして、正極基材上に正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0088】
(非水電解質)
非水電解質は、フルオロエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比10:90で混合した溶媒に、1.0mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させて調製した。
【0089】
(セパレータ)
セパレータには、厚さ30μmのポリエチレン製の微多孔膜を用いた。
【0090】
(非水電解質蓄電素子の作製)
実施例1から実施例3及び比較例1の直径20mmに打ち抜いた負極と、直径26mmに打ち抜いたセパレータ及び直径17.8mmに打ち抜いた正極とを、ブロック状のSUS製セル容器内に正極、セパレータ,負極の順に重ねて電極体を形成した。次に、約0.3cm3の非水電解質を、電極体内に十分に浸透するように注入した。そして、SUS板と板バネとを重ねた後に、セル容器上部を蓋で密閉することで実施例1から実施例3及び比較例1の非水電解質蓄電素子とした。なお、作業はすべて露点-40oC程度の乾燥空気雰囲気中で実施した。
【0091】
[評価]
(エックス線回折測定)
上記実施例1から実施例3及び比較例1に係る負極活物質について、上述の方法でエックス線回折測定を行った。
図3に、実施例1から実施例3及び比較例1に係る負極活物質の2θが21°から26°の範囲におけるエックス線回折図を示す。
【0092】
(初期容量の測定試験)
実施例1から実施例3及び比較例1の非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内において充電電流0.1C、充電終止電圧4.25Vの条件で、充電合計時間が17時間となるまで、定電流定電圧(CCCV)充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.85Vで定電流(CC)放電を行った。このときの放電容量を「初期容量」とした。
【0093】
(25℃下の充放電サイクル後の容量維持率)
初期容量の測定試験後の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内において充電電流0.50C、充電終止電圧4.35Vの条件で、充電電流が0.05C以下になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.50C、放電終止電圧3.00Vで定電流(CC)放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。これらの充電及び放電の工程を1サイクルとして50サイクル実施し、充放電サイクルとした。50サイクル実施後に、上記初期容量の測定試験と同様の条件で放電容量を測定し、このときの放電容量を「50サイクル後の容量」とした。上記「初期容量」に対する「50サイクル後の容量」の割合を「充放電サイクル後の容量維持率(%)」として求めた。
【0094】
(50サイクル目までの積算不可逆容量)
上記充放電サイクルの1サイクル目から50サイクル目までの各サイクルにおける負極質量あたりの不可逆容量を50サイクル目まで積算し、負極活物質の質量で除することにより、「50サイクル目までの積算不可逆容量(mAh/g)」を求めた。
【0095】
負極活物質のエックス線回折図におけるリン酸リチウム由来のピークの有無、充放電サイクル後の容量維持率及び50サイクル目までの積算不可逆容量を以下の表1に示す。
【0096】
【0097】
表1に示されるように、負極活物質がシリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有する実施例1から実施例3は、リン酸リチウムを含有しない比較例1と比べて充放電サイクル後の容量維持率が高いことがわかる。また、50サイクル目までの積算不可逆容量については、実施例1から実施例3は、比較例1と比べて小さい値を示した。このことから、シリコン系粒子とリン酸リチウムとを含有することによって、非水電解質の分解等の副反応が抑制された可能性が考えられる。
【0098】
さらに、
図3に示されるように、実施例1から実施例3に係る負極活物質におけるエックス線回折図において、回折角2θが21°から26°までの範囲に、リン酸リチウムの特徴的な3つのピークが確認された。これらのピークは、リン酸リチウムの含有量の増加に伴って強くなる傾向を示した。当該負極の負極活物質は、リン酸リチウム由来のピークを有することから、結晶構造を有するリン酸リチウムの微細粒子が負極活物質に含まれるシリコン系粒子の外面の少なくとも一部を被覆するよう存在することを示唆する。この微細粒子がシリコン系粒子表面の保護効果を奏することにより、充放電の繰り返しに伴う非水電解質の分解等の副反応が抑制された結果、50サイクル目までの積算不可逆容量が小さく抑制されたものと考えられる。
【0099】
以上のことから、当該非水電解質蓄電素子用の負極は、シリコン元素を含む負極活物質を用いた場合において非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができることが示された。
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質蓄電素子、及びこれに備わる負極、負極活物質等に適用できる。