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特開2023-182474分析支援装置、分析支援方法および分析支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182474
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】分析支援装置、分析支援方法および分析支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20231219BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N30/02 Z
G01N30/86 D
G01N30/86 G
G01N30/86 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096098
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 智裕
(57)【要約】
【課題】測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することを課題とする。
【解決手段】分析支援装置は、分析装置に与えられる複数の分析条件データAPと、複数の分析条件データAPに基づいて分析装置で得られた複数の測定データMDを用いて、回帰分析により測定品質指標データMQの分布を推定する推定部203と、測定品質指標データMQの分布をディスプレイ104に出力する分析支援情報出力部204とを備える。分析条件データAPは、第1の因子を含む。推定部203は、第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データMQの分布を推定する。分析支援情報出力部204は、それぞれの分布をディスプレイ104に出力する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定部と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する分析支援情報出力部と、
を備え、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定部は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定し、
前記分析支援情報出力部は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する、分析支援装置。
【請求項2】
前記分析支援情報出力部は、前記それぞれの分布を前記表示装置に並列表示させる、請求項1に記載の分析支援装置。
【請求項3】
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布は、デザインスペースを含む、請求項1または請求項2に記載の分析支援装置。
【請求項4】
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布において、表示軸である因子のスケールとして同じスケールが使用される、請求項1または請求項2に記載の分析支援装置。
【請求項5】
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布は、1つの表示画面内に配置される、請求項1または請求項2に記載の分析支援装置。
【請求項6】
前記第1の因子として、連続した値で表現できない因子が用いられる、請求項1または請求項2に記載の分析支援装置。
【請求項7】
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する出力工程と、
を含み、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定工程は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定する工程を含み、
前記出力工程は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する工程を含む、分析支援方法。
【請求項8】
コンピュータに分析支援方法を実行させる分析支援プログラムであって、
前記分析支援方法は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する出力工程と、
を含み、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定工程は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定する工程を含み、
前記出力工程は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する工程を含む、分析支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置から得られる測定データを扱う分析支援装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料の成分を分析する分析装置がある。分析装置に設定される分析条件によって、試料の分析結果に変化が生じる。分析条件は複数の因子を含み、複数の因子の値に応じて、その応答である分析結果が変化する。デザインスペースは、この因子と応答との関係を視覚的に描画したものである。デザインスペースは、測定結果の品質を確保することのできる因子の範囲を検討するために活用される。
【0003】
例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフ)を用いた分析において、特定のカラムに対応したデザインスペースを作成することができる。このデザインスペースを参照することにより、そのカラムの分離度(応答)が、カラムオーブン温度(因子)や移動相流量(因子)の変動領域においてどのように変化するかを視覚的に理解することができる。このように、デザインスペースは、分離度などの測定品質指標の分布をユーザに視覚的に提供する。これにより、ユーザは、測定品質指標(例えば、カラムの分離度)の評価を効率的に行うことができる。下記特許文献1においては、コンピュータの画面にデザインスペースを表示させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-173628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デザインスペースを活用することで、上述したように、因子と応答との関係を視覚的に把握することができる。さらに、デザインスペースを有意義に活用することで、分析条件と測定結果の品質との関係について詳しい考察が可能となることが期待される。
【0006】
本発明の目的は、測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う分析支援装置は、分析装置に与えられる複数の分析条件データと、複数の分析条件データに基づいて分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定部と、測定品質指標データの分布を表示装置に出力する分析支援情報出力部とを備え、分析条件データは、第1の因子を含み、推定部は、第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データの分布を推定し、分析支援情報出力部は、それぞれの分布を表示装置に出力する。
【0008】
本発明の他の局面に従う分析支援方法は、分析装置に与えられる複数の分析条件データと、複数の分析条件データに基づいて分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、測定品質指標データの分布を表示装置に出力する出力工程とを含み、分析条件データは、第1の因子を含み、推定工程は、第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データの分布を推定する工程を含み、出力工程は、それぞれの分布を表示装置に出力する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る分析システムの全体図である。
図2】本実施の形態に係るコンピュータの構成図である。
図3】本実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
図4】実施の形態に係る分析支援方法を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る分析支援画面を示す図である。
図6】実施の形態に係る作成画面を示す図である。
図7】実施の形態に係る作成画面を示す図である。
図8】他の実施の形態に係る分析支援画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る分析支援装置、方法およびプログラムについて説明する。
【0012】
(1)分析システムの全体構成
図1は、本実施の形態に係る分析システム5の全体図である。分析システム5は、コンピュータ1および液体クロマトグラフ3を備える。コンピュータ1および液体クロマトグラフ3は、ネットワーク4を介して接続される。ネットワーク4は、例えばLAN(Local Area Network)である。
【0013】
コンピュータ1は、液体クロマトグラフ3に分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3における測定結果を取得し、測定結果を分析する機能などを備える。コンピュータ1には、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムがインストールされる。
【0014】
液体クロマトグラフ3は、ポンプユニット、オートサンプラユニット、カラムオーブンユニットおよび検出器ユニットなどを備える。液体クロマトグラフ3は、また、システムコントローラを備える。システムコントローラは、コンピュータ1からネットワーク4経由で受信した制御指示に従って、液体クロマトグラフ3を制御する。システムコントローラは、液体クロマトグラフ3の測定結果のデータを、ネットワーク4経由でコンピュータ1に送信する。
【0015】
(2)コンピュータ(分析支援装置)の構成
図2は、コンピュータ1の構成図である。コンピュータ1は、本実施の形態においてはパーソナルコンピュータが利用される。コンピュータ1は、CPU(Central Proccessing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、ディスプレイ104、操作部105、記憶装置106、通信インタフェース107、および、デバイスインタフェース108を備える。
【0016】
CPU101は、コンピュータ1の制御を行う。RAM102は、CPU101がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM103には、制御プログラムなどが記憶される。ディスプレイ104は、例えば液晶ディスプレイである。ディスプレイ104は、本発明の表示装置の例である。操作部105は、ユーザの操作を受け付けるデバイスであり、キーボード、マウスなどを含む。ディスプレイ104がタッチパネルディスプレイで構成され、ディスプレイ104が操作部105としての機能を備えていても良い。記憶装置106は、各種プログラムおよびデータを記憶する装置である。記憶装置106は、例えばハードディスクである。通信インタフェース107は、他のコンピュータおよびデバイスと通信を行うインタフェースである。通信インタフェース107は、ネットワーク4に接続される。デバイスインタフェース108は、各種の外部デバイスにアクセスするインタフェースである。CPU101は、デバイスインタフェース108に接続された外部デバイス装置を介して記憶媒体109にアクセスすることができる。
【0017】
記憶装置106には、分析支援プログラムP1、分析条件データAP、測定データMD、測定品質指標データMQおよび分布データDDが記憶される。分析支援プログラムP1は、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムである。分析支援プログラムP1は、液体クロマトグラフ3に対して分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3から測定結果を取得し、測定結果を分析する機能などを備える。分析条件データAPは、液体クロマトグラフ3に設定する分析条件を記述したデータであり、複数の因子を含む。各因子にパラメータが設定されることにより、分析条件データAPが作成される。測定データMDは、液体クロマトグラフ3から取得した測定結果のデータである。
【0018】
測定品質指標データMQは、液体クロマトグラフ3から取得した測定結果の品質を評価するためのデータである。測定品質指標データMQは、例えば、最小分離度、分離ピーク数などである。分離度は、クロマトグラムにおいて特定されたピーク間の距離を評価する値である。クロマトグラムにおいては、複数の成分に対応した複数のピークが出現する。これら複数のピークから算出される複数の分離度の中で最小の値を最小分離度として測定品質指標とすることができる。最小分離度が所定の閾値を超えることにより、液体クロマトグラフ3における測定結果が有効であると判定することができる。分離ピーク数は、クロマトグラムにおいて特定されたピークの数である。ユーザが予め測定対象の試料に含まれる物質の数を把握している場合には、分離ピーク数は測定品質指標とすることができる。分離ピーク数が所定の閾値を超えることにより、液体クロマトグラフ3における測定結果が有効であると判定することができる。
【0019】
分布データDDは、実際に液体クロマトグラフ3に設定された分析条件データAPおよび実際に液体クロマトグラフ3において測定された測定データMDに基づいて推定された測定品質指標データMQの分布を示すデータである。分布データDDは、測定品質指標データMQの応答曲面を示す。
【0020】
図3は、コンピュータ1の機能ブロック図である。制御部200は、CPU101が、RAM102をワークエリアとして使用し、分析支援プログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部200は、分析管理部201、算出部202、推定部203および分析支援情報出力部204を備える。
【0021】
分析管理部201は、液体クロマトグラフ3の制御を行う。分析管理部201は、ユーザによる分析条件データAPの設定および分析処理の開始指示を受けて、液体クロマトグラフ3に対する分析処理の指示を行う。分析管理部201は、また、液体クロマトグラフ3から測定データMDを取得する。
【0022】
算出部202は、液体クロマトグラフ3における測定結果を示す測定データMDに基づいて、測定品質指標データMQを算出する。算出部202は、測定品質指標データMQとして、最小分離度や分離ピーク数を算出する。
【0023】
推定部203は、実際の測定に用いられた分析条件データAP、および、その分析条件データAPに基づいて実際に算出された測定品質指標データMQに基づいて、測定品質指標データMQの分布を示す分布データDDを推定する。分布データDDには、実際に分析されていない分析条件データに対する測定品質指標データMQの推定値が含まれる。推定部203は、分布データDDを推定するために回帰分析を行う。具体的には、実際に用いられる複数の分析条件データAP、および、実際に測定された測定データMDから算出された複数の測定品質指標データMQとの間の回帰式を取得する。そして、実際に用いられていない他の分析条件データに対して、回帰式を適用させることにより、それら他の分析条件データに対する測定品質指標データMQを推定する。
【0024】
本実施の形態においては、推定部203は、分析条件データAPに含まれる第1の因子の値が、第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データMQの分布を推定する。例えば、分析条件データAPに含まれる第1の因子がカラムの種類であるとする。この場合、推定部203は、分析条件データAPに含まれるカラムの種類がカラムA(第1の値)である場合とカラムB(第2の値)である場合のそれぞれの測定品質指標データMQの分布を推定する。
【0025】
分析支援情報出力部204は、分析条件データAP、推定部203において推定された測定品質指標データMQ、および、分布データDDなどを用いて、ディスプレイ104に対して分析支援のための情報を出力する。分析支援情報出力部204は、第1の因子の値が第1の値である場合の測定品質指標データMQの分布に基づいて表示情報を出力する。また、分析支援情報出力部204は、第1の因子の値が第2の値である場合の測定品質指標データMQの分布に基づいて表示情報を出力する。
【0026】
(3)分析支援方法
次に、本実施の形態に係るコンピュータ1(分析支援装置)において実行される分析支援方法について説明する。図4は、本実施の形態に係る分析支援方法を示すフローチャートである。図4で示す処理は、CPU101が分析支援プログラムP1を実行することにより、実現される処理である。図4に示す処理を開始する前に、予め、ユーザが操作部105を操作し、複数の分析条件データAPの設定を行う。具体的には、ユーザは、溶媒初期濃度、溶媒混合比、グラジエント初期値、グラジエント勾配、カラム温度などの因子のパラメータの組み合わせを、分析条件データAPとして設定する。例えば、溶媒濃度を少しずつ変化させたパラメータの組み合わせや、カラム温度を少しずつ変化させたパラメータの組み合わせなどを分析条件データAPとして設定する。また、因子として、カラムの種類が設定される。この後の説明において、分析条件データAPに含まれる第1の因子としてカラムの種類が設定される場合を例に説明する。また、カラムの種類に設定されるパラメータとして、カラムA(第1の値)およびカラムB(第2の値)が設定される場合を例に説明する。このようなユーザの設定操作を受けて、分析管理部201は、記憶装置106に複数の分析条件データAPを保存する。
【0027】
次に、図4に示すステップS101において、分析管理部201が、第1の因子として第1の値および第2の値を含む複数の分析条件データAPを液体クロマトグラフ3に設定する。具体的には、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3のシステムコントローラに対して、複数の分析条件データAPを設定する。これに応じて、液体クロマトグラフ3において、設定された複数の分析条件データAPに基づいて、同一の試料に対して複数回の分析処理が実行される。この実施の形態の例では、液体クロマトグラフ3において、カラムAを用いた複数回の分析処理と、カラムBを用いた複数回の分析処理とが実行される。
【0028】
次に、ステップS102において、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3から第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの複数の測定データMDを取得する。この実施の形態の例では、分析管理部201は、カラムAを用いた複数回の分析処理に基づく測定データMDと、カラムBを用いた複数回の分析処理に基づく測定データMDとを取得する。分析管理部201は、記憶装置106に、取得した複数の測定データMDを保存する。
【0029】
次に、算出部202が、ステップS102において記憶装置106に保存された複数の測定データMDを取得する。そして、ステップS103において、算出部202が、取得した複数の測定データMDから第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データMQを取得する。この実施の形態の例では、算出部202は、カラムAに対応した複数の測定データMDから複数の測定品質指標データMQを取得し、カラムBに対応した複数の測定データMDから複数の測定品質指標データMQを取得する。
【0030】
次に、ステップS104において、推定部203は、第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれについて、複数の分析条件データAPおよび複数の測定品質指標データMQに基づいて回帰分析を行う。これにより、推定部203は、分析条件と測定品質指標との間の回帰式を算出する。この実施の形態の例では、推定部203は、カラムAに対応した複数の測定データMDおよび複数の測定品質指標データMQに基づいて回帰分析を行い、および、カラムBに対応した複数の測定データMDおよび複数の測定品質指標データMQに基づいて回帰分析を行う。本実施の形態においては、回帰分析を行うときに、ベイズ推定を用いている。他に、回帰分析として最小二乗法を用いることも可能である。
【0031】
続いて、推定部203は、ステップS105において、回帰式に基づいて第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの測定品質指標データMQの分布を推定する。この実施の形態の例では、推定部203は、カラムAに対応した測定品質指標データMQの分布を推定し、第1分布データDD1を取得する。また、推定部203は、カラムBに対応した測定品質指標データMQの分布を推定し、第2分布データDD2を取得する。推定部203は、図2および図3に示すように、分布データDD1,DD2を記憶装置106に保存する。
【0032】
分析支援プログラムP1による以上のステップS101~S105がコンピュータ1において実行されることにより、実際に分析が実行された分析条件以外の分析条件についても、測定品質指標が推定される。この実施の形態の例では、第1の因子がカラムA(第1の値)である場合において、実際に分析が実行された分析条件以外の分析条件についても、測定品質指標が推定される。また、第1の因子がカラムB(第2の値)である場合において、実際に分析が実行された分析条件以外の分析条件についても、測定品質指標が推定される。
【0033】
次に、ステップS106において、分析支援情報出力部204が、複数のデザインスペースを比較可能な態様でディスプレイ104に出力する。この実施の形態の例では、分析支援情報出力部204が、第1の因子がカラムA(第1の値)である場合のデザインスペースと第1の因子がカラムB(第2の値)である場合のデザインスペースとを、比較可能な態様でディスプレイ104に出力する。つまり、分析支援情報出力部204が、第1分布データDD1に基づくデザインスペースと第2分布データDD2に基づくデザインスペースとを、比較可能な態様でディスプレイ104に出力する。
【0034】
(4)分析支援画面
図5は、分析支援情報出力部204がディスプレイ104に出力する分析支援画面210を示す図である。分析支援画面210には、カラムAに対応するヒートマップ211AおよびカラムBに対応するヒートマップ211Bが並列表示されている。分析支援情報出力部204は、第1分布データDD1に基づいてカラムAに関するヒートマップを出力し、および、第2分布データDD2に基づいてカラムBに関するヒートマップを出力する。ヒートマップは、デザインスペースとして利用される。デザインスペースとしてのヒートマップは、測定結果の品質を確保することのできる因子の範囲を検討するために活用される。
【0035】
図5に示すように、ヒートマップは、2つの因子を軸として描かれた応答のマップである。表示軸として用いられるこれらの因子を軸因子と呼ぶ。これに対して、第1の因子が比較対象となる因子(ここではカラム)である。ヒートマップでは、応答の値に応じて、応答の分布が色分け表示される。図5の例では、カラムAおよびカラムBについて、それぞれ、最小分離度および評価値の2つの応答に対応した2つのヒートマップが描画されている。評価値は、測定品質を表す値であり、分離度などに基づいて算出される。最小分離度および評価値に関する2つのヒートマップは、いずれも、初期濃度(%)と移動相M1(%)の2つの軸因子を軸として描かれている。縦軸の軸因子である初期濃度(%)は、移動相M1の初期濃度である。横軸の軸因子である移動相M1(%)は、移動相M1の混合比率を示す。このヒートマップを参照することで、ユーザは、軸因子である初期濃度(%)と移動相M1(%)を変化させることにより、その応答(最小分離度または評価値)がどのように変化するかを視覚的に把握することができる。
【0036】
また、カラムAおよびカラムBに関するヒートマップ211Aおよび211Bが、1つの表示画面である分析支援画面210に配置されている。ユーザは、並列配置されたカラムAおよびカラムBのヒートマップ211A,211Bを参照することで、測定品質を分かりやすく比較することができる。ユーザは、デザインスペースを検討する上で、カラムの種類が与える影響を把握し易い。また、分析支援画面210において、表示軸である軸因子(初期濃度(%)および移動相M1(%))のスケールは、それぞれのヒートマップ211A,211Bで同じスケールが使用される。これにより、ユーザは、カラムAおよびカラムBのデザインスペースを比較することが容易である。
【0037】
図6は、デザインスペースを作成するための作成画面220を示す図である。つまり、図5で示した分析支援画面210を作成するための画面である。図6に示すように、作成画面220には、メソッドメニュー、変数設定メニューおよびカテゴリーメニューが配置されて。メソッドメニューは、回帰分析に使用する回帰手法を選択するメニューである。図の例では、ユーザは、最小二乗法とベイズ推定の2つの回帰手法を選択可能である。変数設定メニューは、分析支援画面210に表示させるヒートマップの軸因子を設定するメニューである。図の例では、ヒートマップの軸因子として、初期濃度(%)および移動相M1(%)が選択されている状態を示している。
【0038】
カテゴリーメニューは、分析支援画面210に表示させるヒートマップのカテゴリーを設定するメニューである。図の例では、カテゴリーとしてカラムAが選択されている。つまり、分析支援画面210には、カラムAに関するヒートマップが表示される設定となっている。言い換えると、分析条件データAPに含まれる複数の因子のうち、カテゴリーメニューにおいて、特定の因子(第1の因子)の値を固定し、その固定された値についてのデザインスペースが作成可能となっている。
【0039】
図7は、カテゴリーメニューにおいて、2つのカラムAおよびカラムBを選択している状態を示す。このように、2つのカラムAおよびカラムBを選択することにより、図5に示したように、カラムAおよびカラムBに対応した2つのヒートマップ211A,211Bが表示される。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態の分析支援装置であるコンピュータ1は、第1の因子(例えばカラムの種類)が第1の値(カラムA)である場合と第2の値(カラムB)である場合のそれぞれの測定品質指標データMQの分布を推定し、それぞれの分布をディスプレイ104に出力する。ディスプレイ104に表示されるそれぞれの分布は、デザインスペースとして利用される。ユーザは、特定の因子(第1の因子)について、異なる値を設定したときのデザインスペースを比較することができる。従来であれば、特定の因子について、特定の値を設定してデザインスペースを作成し、それらを別個記憶装置に保存するなどしていた。そして、個別に作成されたデザインスペースを比較することは煩雑な作業であって。本実施の形態であれば、特定の因子の値に対応した複数のデザインスペースが一括作成されるとともに比較表示されるので、ユーザは、容易に測定品質を検討することができる。第1の因子として、本実施の形態ではカラムが選択されたが、他にも移動相の組み合わせ、試料の前処理方法等が選択されてもよい。第1の因子は、軸因子とは異なり、連続した値で表現できない因子を用いることができる。
【0041】
(5)その他の実施の形態
上記実施の形態においては、分析支援画面210にカラムAおよびカラムBに対応した2つのヒートマップ211A,211Bを表示させる場合を例に説明した。これは一例であり、分析支援情報出力部204がディスプレイ104に出力するヒートマップの数は3つ以上であってもよい。図8は、カラムA、カラムBおよびカラムCに対応した3つのヒートマップ211A,211B,211Cが表示されている例を示す。
【0042】
上記実施の形態においては、本発明の分析装置として、液体クロマトグラフ3を例に説明した。本発明は、他にも、ガスクロマトグラフにも適用可能である。また、上記の実施の形態において、本実施の形態の分析支援装置であるコンピュータ1は、ネットワーク4を介して分析装置である液体クロマトグラフ3に接続される場合を例に説明した。他の実施の形態として、コンピュータ1が、分析装置に内蔵される構成であってもよい。
【0043】
上記実施の形態においては、分析支援プログラムP1は、記憶装置106に保存されている場合を例に説明した。他の実施の形態として、分析支援プログラムP1は、記憶媒体109に保存されて提供されてもよい。CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存された分析支援プログラムP1を、記憶装置106またはROM103に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存された分析支援プログラムP1を実行するようにしてもよい。あるいは、分析支援プログラムP1がネットワーク上のサーバに保存されている場合には、CPU101は、通信インタフェース107を介して分析支援プログラムP1をダウンロードする形態であってもよい。
【0044】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0045】
(第1項)
一態様に係る分析支援装置は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定部と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する分析支援情報出力部と、
を備え、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定部は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定し、
前記分析支援情報出力部は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する。
【0046】
測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することができる。
【0047】
(第2項)
第1項に記載の分析支援装置において、
前記分析支援情報出力部は、前記それぞれの分布を前記表示装置に並列表示させてもよい。
【0048】
分布が並列表示されるので、ユーザはそれぞれの分布を比較することが容易である。
【0049】
(第3項)
第1項または第2項に記載の分析支援装置において、
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布は、デザインスペースを含んでもよい。
【0050】
ユーザはそれぞれのデザインスペースを参照することにより、測定品質を確保することのできる因子の範囲を比較検討することができる。
【0051】
(第4項)
第1項または第2項に記載の分析支援装置において、
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布において、表示軸である因子のスケールとして同じスケールが使用されてもよい。
【0052】
それぞれの分布がスケールを合わせて表示されるので、ユーザは、それぞれの分布を比較検討することが容易である。
【0053】
(第5項)
第1項または第2項に記載の分析支援装置において、
前記表示装置に出力される前記それぞれの分布は、1つの表示画面内に配置されてもよい。
【0054】
それぞれの分布が1つの表示画面内に配置されるので、ユーザは、それぞれの分布を比較検討することが容易である。
【0055】
(第6項)
第1項または第2項に記載の分析支援装置において、
前記第1の因子として、連続した値で表現できない因子が用いられてもよい。
【0056】
部品の種類など連続した値で表現できない因子について比較することができる。
【0057】
(第7項)
他の態様に係る分析支援方法は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する出力工程と、
を含み、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定工程は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定する工程を含み、
前記出力工程は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する工程を含む。
【0058】
測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することができる。
【0059】
(第8項)
他の態様に係る分析支援プログラムは、
コンピュータに分析支援方法を実行させる分析支援プログラムであって、
前記分析支援方法は、
分析装置に与えられる複数の分析条件データと、前記複数の分析条件データに基づいて前記分析装置で得られた複数の測定データを用いて、回帰分析により測定品質指標データの分布を推定する推定工程と、
前記測定品質指標データの分布を表示装置に出力する出力工程と、
を含み、
前記分析条件データは、第1の因子を含み、
前記推定工程は、前記第1の因子が第1の値である場合と第2の値である場合のそれぞれの前記測定品質指標データの分布を推定する工程を含み、
前記出力工程は、前記それぞれの分布を前記表示装置に出力する工程を含む。
【0060】
測定品質指標の分布について有意義な情報をユーザに提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…コンピュータ(分析支援装置)、101…CPU、102…RAM、103…ROM、104…ディスプレイ、105…操作部、106…記憶装置、201…分析管理部、202…算出部、203…推定部、204…分析支援情報出力部、210…分析支援画面、211A,211B,211C…ヒートマップ、P1…分析支援プログラム、AP…分析条件データ、MD…測定データ、MQ…測定品質指標データ、DD…分布データ、DD1…第1分布データ、DD2…第2分布データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8