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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182477
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】高麗人参酢の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12J 1/00 20060101AFI20231219BHJP
   C12J 1/04 20060101ALI20231219BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231219BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20231219BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20231219BHJP
【FI】
C12J1/00 Z
C12J1/04
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/38 R
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096101
(22)【出願日】2022-06-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「FFC Favit PREMIUM」の紹介として、令和3年6月16日~令和4年5月26日において、WEBセミナーにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「FFC Favit PREMIUM」をWEBサイトにて、令和3年6月15日(先行販売)、令和3年7月1日(一般販売)より販売
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「FFC Favit PREMIUM」を以下のアドレスのサイトにて公開 http://filanso.jp/news2/2107_favit/(令和3年6月15日) http://www.filanso.jp/news2/2107_nyukai-cpn/index.html(令和3年6月15日) https://www.akatsuka.co.jp/brand/favit.html(令和3年7月1日) https://www.akatsuka.co.jp/brand/sp/favit_sp.html(令和3年7月1日)
(71)【出願人】
【識別番号】500109836
【氏名又は名称】株式会社 赤塚植物園
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】上田 隼平
(72)【発明者】
【氏名】澤山 道則
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 耕一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD08
4B018MD64
4B018MD85
4B018MD92
4B018ME02
4B018ME04
4B018ME06
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4B117LC04
4B117LG18
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4B117LK21
4B117LK26
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4B128BC05
4B128BL01
4B128BL22
4B128BL39
4B128BP02
4B128BP11
4B128BX10
(57)【要約】
【課題】ジンセノサイドRgの含有量を高めた高麗人参酢およびその製造方法、並びに高麗人参酢を含有する飲料を提供する。
【解決手段】高麗人参酢は、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物を酢酸発酵させたものであり、ジンセノサイドRgの含有量が、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であり、ジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの群からなる希少ジンセノサイドのうち、高麗人参酢に含まれる成分の合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物を酢酸発酵させた高麗人参酢であり、
ジンセノサイドRgの含有量が、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であることを特徴とする高麗人参酢。
【請求項2】
ジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの群からなる希少ジンセノサイドのうち、上記高麗人参酢に含まれる成分の合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の高麗人参酢。
【請求項3】
ジンセノサイドRbの含有量が、総ジンセノサイドに対して10質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高麗人参酢。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の高麗人参酢の製造方法であって、
容器に、少なくとも、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とを添加して酢酸発酵させることを特徴とする高麗人参酢の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の高麗人参酢を含有することを特徴とする飲料。
【請求項6】
高麗人参酢の原料の酢酸発酵においてジンセノサイドの代謝を促進する代謝促進方法であって、
高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とともに、紅参の抽出物を添加して酢酸発酵させることを特徴とするジンセノサイドの代謝促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高麗人参を原料とした高麗人参酢に関する。また、この高麗人参酢の製造方法、および、この高麗人参酢を含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食酢として、穀類、果実、野菜などの原料を酢酸発酵させた醸造酢が知られている。醸造酢としては、主に、米酢、米黒酢、大麦黒酢などの穀物酢や、りんご酢、ぶどう酢などの果実酢が知られている。近年では、口当たりの良さから健康飲料として様々な果実酢が市販されている。食酢に含まれる酢酸によって、疲労回復や、血糖値の低下、新陳代謝の向上といった効果が期待される。
【0003】
一方、古くから高麗人参は薬用として用いられており、現在でも健康食品などに用いられている。高麗人参は、オタネニンジンの和名をもつウコギ科の多年草で、日本では朝鮮人参とも呼ばれている。高麗人参の効能としては、滋養強壮などがよく知られているが、抗酸化作用、血圧調整作用、抗炎症作用など様々な薬理活性を示す。しかし、高麗人参を原料とした食酢は、現在のところ知られていない。
【0004】
ところで、高麗人参の主要成分は、サポニンの一種であるジンセノサイド(ginsenoside)である。ジンセノサイドは、グルコースなどの糖類が結合した配糖体であり、多種類のジンセノサイドが知られている。高麗人参の抽出物に含まれる主なジンセノサイド(一般ジンセノサイドともいう)としては、ジンセノサイドRb、ジンセノサイドRg、ジンセノサイドReなどが挙げられる。これらのジンセノサイドについては、ヒトの腸内細菌叢による代謝経路などが報告されている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、一般ジンセノサイドなどから脱グリコシル化によって誘導されるジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgは、希少ジンセノサイドとも呼ばれ、高麗人参の抽出物における希少ジンセノサイドの含有量は僅かである。
【0006】
一方、近年の研究により、希少ジンセノサイドは、様々な薬理活性を示すことが報告されている。特に、ジンセノサイドRgは、ジンセノサイドの中でも、優れた抗がん活性を示すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、ジンセノサイドRgは、アルツハイマー病の治療や予防に有用であることも報告されている(例えば、特許文献2参照)。そのため、希少ジンセノサイドの中でも特にジンセノサイドRgの含有量が高められた高麗人参由来の組成物を摂取することは、健康増進などの面から期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017-529350号公報
【特許文献2】特表2017-501975号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「和漢医薬学雑誌」,1994,Vol.11,p.241-245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ジンセノサイドRgの含有量を高めた高麗人参酢およびその製造方法、並びに高麗人参酢を含有する飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高麗人参酢は、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物を酢酸発酵させた高麗人参酢であり、ジンセノサイドRgの含有量が、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であることを特徴とする。本発明における「総ジンセノサイド」とは、本発明の高麗人参酢に含まれる多種のジンセノサイド(ジンセノサイドRgなども含む)の総量である。この総ジンセノサイドには、検出濃度が0.001mg/ml以下のジンセノサイドは含まれない。
【0011】
ジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの群からなる希少ジンセノサイドのうち、上記高麗人参酢に含まれる成分の合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
ジンセノサイドRbの含有量が、総ジンセノサイドに対して10質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
上記高麗人参酢の酸度が酢酸換算で4.0%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の高麗人参酢の製造方法は、上述した本発明の高麗人参酢を製造する方法であって、容器に、少なくとも、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とを添加して酢酸発酵させることを特徴とする。
【0015】
本発明の飲料は、上述した本発明の高麗人参酢を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の代謝促進方法は、高麗人参酢の原料の酢酸発酵においてジンセノサイドの代謝を促進する代謝促進方法であって、高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とともに、紅参の抽出物を添加して酢酸発酵させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高麗人参酢は、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物を酢酸発酵させた高麗人参酢であり、ジンセノサイドRgの含有量が、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であるので、高麗人参の抽出物中の含有量が少ない希少ジンセノサイドの一つであるジンセノサイドRgを容易に摂取しやすくなる。また、ジンセノサイドRgは、一般ジンセノサイドから誘導(低分子化)されるジンセノサイドであり、これらを多く含むことで体内への吸収率が高まると考えられる。そのため、本発明の高麗人参酢を例えば酸味調味料や飲料に用いることで、ジンセノサイドRgの薬理活性が期待される。
【0018】
本発明の高麗人参酢の製造方法は、容器に、少なくとも紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とを添加して酢酸発酵させるので、ジンセノサイドRgの含有量を高めた高麗人参酢を簡易な方法で製造できる。
【0019】
本発明の代謝促進方法は、高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とともに、紅参の抽出物を添加して酢酸発酵させるので、後述の実施例に示すように、高麗人参酢の原料の酢酸発酵においてジンセノサイドの代謝を促進することができ、その結果、ジンセノサイドRg(特に20(S)-Rg)の生成を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の高麗人参酢の製造方法の概略を示す図である。
図2】実施例1における希少ジンセノサイドの濃度変化などを示す図である。
図3】実施例1および参考例1における20(S)-Rgの濃度変化などを示す図である。
図4】実施例2における20(S)-Rgの濃度変化を示す図である。
図5】実施例3~4における20(S)-Rgの濃度変化を示す図である。
図6】実施例1~4および参考例1における20(S)-Rgの濃度変化を示す図である。
図7】PD系ジンセノサイドの代謝経路の概要を示す図である。
図8】PT系ジンセノサイドの代謝経路の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、これまでに高麗人参酢についての研究を行っている。今回、ジンセノサイドの種類や濃度をより豊富にした高麗人参酢について鋭意検討を行ったところ、原料である高麗人参の抽出物に紅参の抽出物を用いることで、酢酸発酵においてジンセノサイドの代謝を促進することができ、その結果、ジンセノサイドRgが高容量の高麗人参酢が得られることを見い出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0022】
本発明の高麗人参酢は、一般的な高麗人参およびその抽出物に比べて、希少ジンセノサイド(特にジンセノサイドRg)の含有量が高められている。また、上記高麗人参酢は、ジンセノサイドRg以外の希少ジンセノサイドとして、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの少なくともいずれかを含んでもよい。また、希少ジンセノサイド以外にも、他のジンセノサイド(例えば、ジンセノサイドRb、Rg、Re、Rc、Rdなど)を含んでもよい。これらの化学構造式は、後述の図7および図8に記載している。
【0023】
ジンセノサイドは、アグリコンの構造によって、主に、PD系(Protopanaxadiol系、ジオール系ともいう)と、PT系(Protopanaxatriol系、トリオール系ともいう)に分けられる。これらは、構造中の環の3位の炭素、6位の炭素、および20位の炭素位置にグリコシド結合によって結合される糖部分の位置や数によって分類される。PD系は、中枢神経に抑制的に働き、リラックスした状態に導くとされ、PT系は中枢神経に興奮的に作用し、活力を生み出すとされている。例えば、上記に列挙したジンセノサイドのうち、ジンセノサイドRg、F、Rb、Rc、RdはPD系ジンセノサイドに分類され、ジンセノサイドRh、Rg、Rg、ReはPT系ジンセノサイドに分類される。
【0024】
本発明の高麗人参酢において、ジンセノサイドRgの含有量は、総ジンセノサイドに対して50質量%以上である。ジンセノサイドRgは、ジンセノサイドRbの20位の炭素位置におけるグリコシド結合が分解されて水酸基に置換されたものである(図7参照)。上述したように、ジンセノサイドRgは、優れた抗がん活性を示すことが知られており、その他にも、神経保護活性、血小板凝集抑制活性、抗酸化活性、抗炎症活性、腎臓保護活性などの様々な薬理活性を示すことも報告されている。また、近年では、高麗人参を9回蒸して9回乾燥させて加工した黒高麗人参に特徴的に含まれる成分としても注目されている。しかしながら、後述の図7に示すように、ジンセノサイドRgは、ヒトの腸内細菌叢の代謝によって生成されず、一般的な高麗人参の加工品を摂取しても、体内に吸収されるものではない。そのため、ジンセノサイドRgの含有量が高められた高麗人参酢は、高麗人参の加工品として、特に有用である。
【0025】
上記総ジンセノサイドには、該高麗人参酢中の多種のジンセノサイドが含まれる。また、後述の実施例で示すように、高麗人参の酢酸発酵では、発酵の進行に伴ってジンセノサイドRgの含有量を高めることができ、高麗人参酢中のジンセノサイドRgの含有量は、総ジンセノサイドに対して60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。なお、ジンセノサイドRgの含有量の上限は、例えば98質量%である。
【0026】
なお、本発明における「ジンセノサイドRg」は、20(S)-Rgと、20位の炭素原子の立体異性体である20(R)-Rgとを含む概念である。
【0027】
上記高麗人参酢において、ジンセノサイドRgとしては、20(S)-Rgの方が20(R)-Rgよりも多く含まれることが好ましい。20(S)-Rgと20(R)-Rgの含有比は、例えば質量比で2:1~10:1であり、2:1~8:1であってもよい。また、上記高麗人参酢において、20(S)-Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であることが好ましい。
【0028】
上記高麗人参酢は、ジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの群からなる希少ジンセノサイドのうち、該高麗人参酢に含まれる成分の合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上であることが好ましく、総ジンセノサイドに対して80質量%以上であることがより好ましい。例えば、上記高麗人参酢が希少ジンセノサイドとして、ジンセノサイドRgおよびジンセノサイドRgを含む場合、これらの合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上であることが好ましい。
【0029】
また、上記高麗人参酢におけるジンセノサイドRgの含有量は、希少ジンセノサイドの合計量に対して、例えば50質量%以上であり、70質量%~95質量%であることが好ましく、80質量%~95質量%であることがより好ましい。
【0030】
高麗人参の抽出物に多く含まれる一般ジンセノサイドは、醸造によって脱グリコシル化されるため、高麗人参酢中の含有量は、抽出物中の含有量に比べて少なくなる。例えば、高麗人参酢において、ジンセノサイドRbの含有量は、総ジンセノサイドに対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。また、ジンセノサイドRgの含有量は、総ジンセノサイドに対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の高麗人参酢の酸度は、特に限定されないが、日本農林規格(JAS)の食酢品質表示基準に規定されている醸造酢に分類されるため、4.0%以上であることが好ましい。酸度は、醸造酢の日本農林規格に規定されている方法によって算出できる。また、酸度の上限は、特に限定されず、例えば15.0%に設定される。好ましい範囲として、酸度は酢酸換算で4.0%~8.0%に設定される。
【0032】
上記高麗人参酢の製造過程において、醸造酢由来の発酵物を種酢として用いる場合には、高麗人参酢中に、大麦、粟、きび、稗、小豆、米などの穀物由来の成分が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の高麗人参酢を製造する際には、原料として、少なくとも、紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌が用いられる。これらの原料を容器に添加することで、醸造前の高麗人参溶液(以下、原液という)が得られる。
【0034】
高麗人参の抽出物は、高麗人参を水、有機溶媒、水および有機溶媒などを用いて抽出することで得られる。高麗人参は、一般に、植物の根を栽培したもの(水参)、水参を常温で乾燥させたもの(白参)、蒸して乾燥したもの(紅参)の形態で流通している。上記高麗人参の抽出物は、少なくとも紅参の抽出物を含んでいればよい。例えば、高麗人参の抽出物として紅参の抽出物のみ(紅参の抽出物100%)を用いてもよく、紅参の抽出物と白参の抽出物を混合したものを用いてもよく、紅参の抽出物と水参の抽出物を混合したものを用いてもよい。
【0035】
上記高麗人参の抽出物として、紅参の抽出物と白参の抽出物の混合物を用いる場合、これらの混合比は特に限定されない。紅参の抽出物は、白参の抽出物に比べると高価であり、また後述の実施例で示すように、高麗人参の抽出物全体に占める紅参の抽出物の割合が増加しても、ジンセノサイドの代謝促進効果にはそれほど影響しないと考えられる。そのため、紅参の抽出物の配合量を白参の抽出物の配合量以下とすることで、コストを抑えつつ、紅参の抽出物によるジンセノサイドの代謝促進効果を発揮させることができる。例えば、体積比で、白参の抽出物:紅参の抽出物=1:1~10:1が好ましく、2:1~10:1がより好ましい。
【0036】
高麗人参の抽出に用いる有機溶媒は、特に、限定されず、エタノール、メタノール、ブタノール、エーテル、酢酸エチルなどを用いることができる。なお、紅参などに多く含まれるジンセノサイドRb、Rg、Re、Rc、Rdは水溶性であるため、抽出溶媒として、水およびエタノールの混合溶媒(例えば、10~50v/v%エタノール水溶液)を用いることが好ましい。
【0037】
抽出方法は、高麗人参に含まれる成分を抽出できる方法であればよく、撹拌や加圧などを適宜行ってもよい。抽出後、濃縮によって溶媒を除去して、ろ過を経て、抽出物として抽出エキスが取得される。なお、抽出物には、市販されている高麗人参の抽出物(例えば、食品原料用の高麗人参エキス)を用いてもよい。
【0038】
原料である醸造用アルコールには、例えば、99.5v/v%アルコール、95v/v%アルコール、焼酎、泡盛、スピリッツ類、清酒などを用いることができる。醸造用アルコールは、原液中のアルコール濃度が、例えば1%~15%、好ましくは1%~10%になるように添加される。
【0039】
酢酸発酵に用いる酢酸菌は、特に限定されず、例えば、アセトバクター(Acetobacter)属に属する酢酸菌を用いることができる。具体的には、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・アセトサム(Acetobacter acetosum)などを用いることができる。酢酸菌は、原液に対して所定量添加してもよく、菌膜として原液の液面に移植することで添加してもよい。
【0040】
また、いわゆる種酢を酢酸菌として用いてもよい。種酢としては、例えば、もろみまたはもろみから精製した精製アルコールに酢酸菌を添加、発酵して得た発酵液などを用いることができる。この発酵液には、醸造酢(日本農林規格の「食酢品質表示基準」に規定)の製造過程に生成されたものを用いてもよい。なお、醸造酢には、米酢、米黒酢、大麦黒酢などの穀物酢や、りんご酢、ぶどう酢などの果実酢などが含まれる。醸造酢由来の発酵液を種酢として用いる場合、該種酢は、原液中の酸度が、例えば0.20%~2.0%、好ましくは0.20%~1.5%になるように添加される。また、酢酸菌の添加と種酢の添加を併用してもよい。
【0041】
高麗人参酢の原料には、酢酸発酵で一般に用いられる添加物を用いてもよい。例えば、原料として酒粕を用いてもよい。酒粕は、日本酒などのもろみを圧搾した後に残る固形物である。酒粕は、ビタミンなどの栄養成分を豊富に含むため、酒粕を添加することで、健康増進に好適である。
【0042】
上述した各原料が添加された容器を加温するなどして酢酸発酵を行う。図1は、その工程の概略を示している。図1は、小スケール(数L程度)で高麗人参酢を醸造する場合を想定している。酢酸発酵の進行には、40℃前後の液温が必要になるが、小スケールの場合にはそのままでは温度管理が困難であることから、大スケールの発酵槽(数トン程度)で別の酢を醸造する際に合わせて高麗人参酢の醸造を行うことで効率化を図っている。
【0043】
具体的には、図1に示すように、原液1が入れられた容器2を、2トンの発酵槽3に浮かべた状態で醸造する。発酵槽3では、別の酢の原液4が入れられており、この酢の発酵熱によって容器2内の液温を安定させることができる。容器2および発酵槽3の上部を覆う蓋材5には、自然に吸排気可能なもの(藁など)が用いられる。図1に示す発酵法は静置発酵法であり、酢酸菌の作用によって空気に触れる上部から少しずつ発酵が始まる。発酵後1~2日で原液1の液面に菌膜が形成され、発酵熱が発生し始める。発酵期間中、液温は30~45℃(例えば40℃前後)に維持される。そして、発酵して比重が重くなった酢は、容器2の下部に沈むことで自然の対流が生まれて、容器2の中を循環することで、発酵が進行していく。
【0044】
高麗人参酢の発酵期間は20~50日間程度が目安になる。高麗人参酢は、通常の醸造酢と比較して菌膜が生成されにくく、発酵が進行しにくい。そのため、通常の醸造酢よりも発酵に時間がかかる傾向があるが、原料の高麗人参として紅参を用いる(つまり高麗人参の抽出物が紅参の抽出物を含む)ことで、高麗人参の抽出物を酢酸発酵させる際の発酵が促進され、発酵期間の短縮を図ることができる。
【0045】
また、醸造の過程で高麗人参に含まれるジンセノサイドは代謝によって低分子化されていくが、醸造がある程度進むと、代謝がほぼ停止してしまう場合がある。そのような場合には、新鮮な菌膜を移植することで、ジンセノサイドの代謝を再開させることができる。酢酸発酵終了後、ろ過、殺菌などを経て高麗人参酢が得られる。なお、水に難溶性の希少ジンセノサイドが濾される可能性があることから、酢酸発酵後のろ過工程を省略してもよい。
【0046】
酢酸発酵の方法は、図1の方法に限定されるものではない。例えば、発酵期間中、液温を30~45℃(例えば40℃前後)に維持できる方法が好ましく、容器2を恒温槽につけて温度管理下で酢酸発酵を行ってもよく、また、容器2の外周に断熱材などを巻き付けて酢酸発酵を行ってもよい。なお、発酵方法としては、静置発酵法に限定されず、通気発酵法などの周知の発酵方法を採用できる。
【0047】
本発明の高麗人参酢は、酢酸を主成分とする酸味調味料として用いることができる。また、高麗人参酢は、健康効果を目的とする飲料の原料として用いることができる。
【0048】
本発明の飲料は、上述した本発明の高麗人参酢を含むものであり、上記高麗人参酢を飲料に混ぜ込んだものである。飲料に混ぜ込む際には、香料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、果汁、蜂蜜などを併せて含有させることができる。例えば、果汁や甘味料などを含有させることで飲みやすくなり、ジンセノサイドRgを手軽に摂取することができる。ジンセノサイドRgは、一般的な高麗人参の加工品を摂取しても、ヒトの腸内細菌叢によって生成されないことから、本発明の高麗人参酢を飲料に混ぜ込むことで、手軽に希少な成分を効率よく摂取できる。上記飲料は、健康増進を謳った、または表示した保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品)などとして使用可能である。
【0049】
本発明の代謝促進方法は、高麗人参酢の原料の酢酸発酵においてジンセノサイドの代謝を促進する代謝促進方法であって、高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌とともに、紅参の抽出物を添加して酢酸発酵させる方法である。高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く)としては、白参の抽出物や、水参の抽出物、これらを混合したものを用いることができる。原料における紅参の抽出物の配合量は、体積比で、高麗人参の抽出物(紅参の抽出物を除く):紅参の抽出物=1:1~10:1が好ましく、2:1~10:1がより好ましい。
【実施例0050】
実施例1
原料として、紅参抽出液(食品原料用;日本粉末薬品株式会社製、以下同じ)1L、変性アルコール6L、種酢(醸造酢由来の発酵物)0.25Lをプラスチック製容器に添加した。変性アルコールは、水と、95v/v%醸造用アルコールと、種酢(醸造酢由来の発酵物)と、酒粕を含み、アルコール濃度が約8%、酸度が1.5%~1.8%に調整されたアルコールである。なお、上記紅参抽出液は、オタネニンジンの根を蒸して後に乾燥したもの(紅参)を30v/v%エタノールで抽出したものである。
【0051】
上記の原料が添加された容器を、図1に示すように、別の発酵槽(2トン)に浮かべた状態で醸造した。原液に含まれる酢酸菌の作用により、醸造後1~2日で液面に菌膜が形成された。また、発酵熱によって液温が40℃前後まで上昇した。醸造の終了は、酸度などによって判断し、実施例1は合計で72日間醸造した。
【0052】
醸造開始後は、約1週間おきに原液をサンプリングして、液中のジンセノサイドを以下の条件で定量分析した。分析の結果、ジンセノサイドの代謝が前回と比較して緩やかになっていたり、ほぼ停止してしまっている場合には、新鮮な菌膜を移植することとした。実施例1では、醸造後29日目に新鮮な菌膜を移植した。醸造終了後、ろ過を行わずに殺菌して、高麗人参酢を得た。得られた高麗人参酢の酸度は4.8%であった。
【0053】
<ジンセノサイドの定量分析>
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(測定波長203nm)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC):Agilent 1100 Series(アジレント社製)
カラム:ZORBAX Eclipse XDB-C18(アジレント社製;カラム内径4.6mm、カラム長さ250mm、粒子径5μm)
カラム温度:30℃
移動相A:アセトニトリル(100%)
移動相B:超純水(100%)
流速:1.000ml/min
各移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表1に示すように変更
【0054】
【表1】
【0055】
得られたクロマトグラムにおいて各ジンセノサイドの検出時間は以下のとおりである。
ジンセノサイドReおよびRg:約18.2min
ジンセノサイドRb:約24.2min
ジンセノサイドRc:約24.9min
ジンセノサイドRg:約25.7min
ジンセノサイドRh:約26.2min
ジンセノサイドRd:約36.4min
ジンセノサイドF:約33.0min
ジンセノサイド20(S)-Rg:約35.5min
ジンセノサイド20(R)-Rg:約35.8min
なお、上記の分析条件では、ジンセノサイドReおよびRgがほぼ同じ時間帯に検出されたため、これらについては、下記の表2に示す条件で移動相Aおよび移動相Bを変化させた。
【0056】
【表2】
【0057】
得られたクロマトグラムにおいてジンセノサイドReおよびRgの検出時間は以下のとおりである。
ジンセノサイドRe:約3.4min
ジンセノサイドRg:約3.5min
【0058】
<検量線の作成>
以下には、ジンセノサイドRbの検量線の作成について記載するが、他のジンセノサイドについても、同様に検量線を作成した。ジンセノサイドRbの所定量(mg)を量り、超純水を所定量(ml)加えて標準原液を調整した。この標準原液を2倍希釈、4倍希釈して標準溶液を得た。標準原液および標準溶液をそれぞれ上記条件に付してHPLCにより分析を行った。得られたクロマトグラムのピーク面積を縦軸に、ジンセノサイドRbの濃度(mg/ml)を横軸にとって検量線を作成した。他のジンセノサイドの溶媒には適宜、超純水、メタノール、または50%メタノールを用いた。
【0059】
上記定量分析によって得られたクロマトグラムから各ジンセノサイドのピーク面積を求めて、作成した検量線より各ジンセノサイドの濃度(mg/ml)を求めた。結果を表3に示す。醸造期間内において、実際に検出されたジンセノサイドは、ジンセノサイドRe、Rg、Rb、Rc、Rd、Rg、20(S)-Rg、20(R)-Rgの8種であった。また、これらジンセノサイドを一般ジンセノサイド、希少ジンセノサイドに分けるとともに、それぞれPD系、PT系に分けて評価した。
【0060】
なお、今回の試験では、ジンセノサイドRh、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRb、ジンセノサイド20(S)-Rh、ジンセノサイドCK、ジンセノサイドF、およびPPTについては分析したが、原液中にも高麗人参酢中にも検出されなかった。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、原液中(醸造日数:0日)には、一般ジンセノサイド(Re、Rg、Rb、Rc、Rd)が、希少ジンセノサイド(Rg、Rg(20(S)-Rgおよび20(R)-Rg))に比べて、多量に含まれていた。また、今回測定したジンセノサイド8種のうち、ジンセノサイドRcが最も多く含まれ、次にジンセノサイドRbが多く含まれていた。
【0063】
表3の一般ジンセノサイドおよび希少ジンセノサイドの濃度変化と割合をそれぞれグラフ化したものを図2(a)、(b)に示す。図2(a)、(b)に示すように、醸造が進むにつれて、希少ジンセノサイドの割合が上昇するとともに、一般ジンセノサイドの割合は減少した。最終的には、希少ジンセノサイドの合計量は、総ジンセノサイドに対して82質量%程度になった。また、Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して63質量%程度であり、特に20(S)-Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して53質量%程度であった。
【0064】
続いて、各ジンセノサイドの濃度変化を図2(c)に示す。図2(c)に示すように、醸造開始時において最も多く含まれていたRcは、醸造が進むにつれて濃度が低下していった。また、ジンセノサイドRbも同様に濃度が低下した。一方、醸造開始時においてほとんど含まれていなかった20(S)-Rgは、発酵が進むにつれて濃度が大きく増加した。醸造開始時に比べると20(R)-Rgも増加したが、20(S)-Rgと比較すると低濃度であり、20(S)-Rgと20(R)-Rgの含有比は質量比で約5:1であった。なお、実施例1の高麗人参酢において、ジンセノサイドRg(20(S)-Rgおよび20(R)-Rg)の含有量は、希少ジンセノサイドに対して77質量%程度であった。
【0065】
次に、実施例1の比較対象として、上記紅参抽出液1Lの代わりに、白参抽出液(食品原料用;日本粉末薬品株式会社製、以下同じ)1Lを用いて、実施例1と同様にして高麗人参酢を醸造した(参考例1)。この参考例1では50日間醸造した。なお、白参抽出液は、乾燥オタネニンジン(白参)の根を25v/v%エタノールで抽出したものである。
【0066】
醸造後29日目に新鮮な菌膜を移植した。醸造開始後は、約1週間おきに原液をサンプリングして、液中のジンセノサイドを上記の条件で定量分析した。結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示すように、参考例1においても、醸造が進むにつれて、希少ジンセノサイドの割合が上昇するとともに、一般ジンセノサイドの割合は減少した。希少ジンセノサイドの中でも、特に20(S)-Rgが大きく増加し、醸造50日目で20(S)-Rgの濃度が最大値となった。
【0069】
ここで、実施例1と参考例1の結果を比較するべく、各試験例の20(S)-Rgの濃度変化をグラフ化したものを図3(a)、(b)に示す。図3(a)は、20(S)-Rgの濃度を棒グラフで表し、図3(b)は、20(S)-Rgの濃度と醸造日数を折れ線グラフで表すとともに、その近似式も表記した。その結果、参考例1の近似式は、y=0.0078x+0.0605であった。一方、実施例1の近似式は、y=0.0242x+0.0556であり、近似式の傾きは、実施例1が参考例1の3.10倍となった。つまり、紅参を原料に用いた方が、白参を原料に用いた場合と比較して、20(S)-Rgの生成速度が大幅に向上した。なお、図3(c)に示すように、希少ジンセノサイドの割合は、最終的にはいずれも80質量%以上であった。
【0070】
ここで、表3および表4に示す醸造前のジンセノサイドの総量の値より、紅参抽出液(実施例1)は白参抽出液(参考例1)に比べてジンセノサイドの含有量が多くなっている。ジンセノサイドはサポニンの一種であり、界面活性作用を示すことから、ジンセノサイドの含有量がより多い実施例1の方が、参考例1に比べて発酵時の泡立ちが多くなり、酢酸菌の増殖が阻害されることが予想された。しかしながら、この予想に反して、上記のとおり、実施例1の方がジンセノサイドの代謝速度が速い結果となった。このことから、紅参の抽出物にはジンセノサイドの代謝を促進する何らかの要素が含まれているものと推察される。
【0071】
なお、実施例1の方がジンセノサイドの代謝速度が速くなった結果の他の要因としては、白参の抽出物にジンセノサイドの代謝を抑制する何らかの要素が含まれることも考え得る。しかし、これについては、白参の抽出物が約2倍の濃度で配合された2つの試験結果(後述の参考例2および参考例3)において、20(S)-Rgの生成速度の近似式の傾きがいずれも「0.013」であったことから、白参の抽出物にはジンセノサイドの代謝を抑制する要素は含まれていないものと推察された。
【0072】
実施例2
実施例1で用いた紅参抽出液1Lの代わりに、高麗人参の抽出物1L(白参抽出液0.5Lおよび紅参抽出液0.5L、体積比1:1)を用いて、実施例1と同様にして高麗人参酢を醸造した。この実施例2では44日間醸造し、醸造後34日目に新鮮な菌膜を移植した。醸造開始後は、約1週間おきに原液をサンプリングして、液中のジンセノサイドを上記の条件で定量分析した。結果を表5に示す。なお、得られた高麗人参酢の酸度は4.2%であった。
【0073】
【表5】
【0074】
表5に示すように、実施例2においても、醸造が進むにつれて、希少ジンセノサイドの割合が上昇するとともに、一般ジンセノサイドの割合は減少した。希少ジンセノサイドの中でも、特に20(S)-Rgが大きく増加し、醸造44日目で20(S)-Rgの濃度が0.896mg/mlと最大値となった。Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して85質量%程度であり、特に20(S)-Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して63質量%程度であった。
【0075】
図3(b)と同様に、図4に、20(S)-Rgの濃度と醸造日数を折れ線グラフで表すとともに、その近似式も表記した。その結果、実施例2の近似式は、y=0.0191x+0.052であった。この結果より、紅参の抽出物を白参の抽出物(体積比1:1)と混合した場合でも、20(S)-Rgの生成速度が大幅に向上した。なお、この傾き「0.0191」は、実施例1と参考例1の傾きの中間値(約0.016)よりも高い数値であった。
【0076】
実施例3
実施例1で用いた紅参抽出液1Lの代わりに、高麗人参の抽出物1L(白参抽出液0.75Lおよび紅参抽出液0.25L、体積比3:1)を用いて、実施例1と同様にして高麗人参酢を醸造した。この実施例3では46日間醸造し、醸造後32日目に新鮮な菌膜を移植した。醸造開始後は、約1週間おきに原液をサンプリングして、液中のジンセノサイドを上記の条件で定量分析した。結果を表6に示す。なお、得られた高麗人参酢の酸度は4.7%であった。
【0077】
【表6】
【0078】
実施例4
実施例1で用いた紅参抽出液1Lの代わりに、高麗人参の抽出物1L(白参抽出液0.875Lおよび紅参抽出液0.125L、体積比7:1)を用いて、実施例1と同様にして高麗人参酢を醸造した。この実施例4では46日間醸造し、醸造後32日目に新鮮な菌膜を移植した。醸造開始後は、約1週間おきに原液をサンプリングして、液中のジンセノサイドを上記の条件で定量分析した。結果を表7に示す。なお、得られた高麗人参酢の酸度は4.3%であった。
【0079】
【表7】
【0080】
表6および表7に示すように、実施例3および実施例4においても、Rgが高容量の高麗人参酢が得られ、実施例3では、Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して69質量%程度(特に20(S)-Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して59質量%程度)であり、実施例4では、Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して74質量%程度(特に20(S)-Rgの含有量は、総ジンセノサイドに対して63質量%程度)であった。
【0081】
実施例3では、20(S)-Rgの濃度は、醸造32日目で最大となり、その後はほとんど変化が見られなかった。また、実施例4では、20(S)-Rgの濃度は、醸造25日目で最大となり、その後は減少に転じた。そこで、これらの実施例では、20(S)-Rgの生成量が直線的に増加している醸造25日目までのデータを用いて、図3(b)と同様に、図5に折れ線グラフと近似式を表記した。その結果、実施例3の傾きは「0.0210」であり、実施例4の傾きは「0.0205」であった。
【0082】
図6は、実施例1~4および参考例1の結果をまとめて示す。これらの結果より、原料の高麗人参の抽出物に紅参抽出液を配合することで、20(S)-Rg(ひいてはRg)の生成速度が向上する一方で、高麗人参の抽出物1Lのうち紅参抽出液の含有量が0.125L~1Lの場合において、20(S)-Rgの生成速度は、概ね等しいことが分かった。すなわち、高麗人参の抽出物全体に占める紅参の抽出物の割合が増加しても、ジンセノサイドの代謝促進効果にはそれほど影響しないと示唆された。
【0083】
今回の醸造試験において、例えば実施例4では醸造25日目に20(S)-Rgの生成量は、最大値の0.519mg/mlとなった。一方で、参考例1では、醸造50日目に最大値の0.406mg/mlとなった。つまり、紅参抽出液を醸造液7.25Lあたり0.125L(約1.72%)配合することによって、醸造日数を50日から25日に半減することができ、更に20(S)-Rgの生成量を0.406mg/mlから0.519mg/mlの約1.28倍にすることができた。例えば、実施例3や実施例4のように、醸造日数が長くなることは、ジンセノサイドの代謝にとって必ずしも有利ではない場合もある。このようなことからも、早期(例えば醸造25日程度)に高麗人参酢の醸造を終了させることは、成分面やコスト面などにおいてメリットが大きいといえる。
【0084】
ここで、実施例1~4の高麗人参酢と、他の試験例として、白参の抽出物を用いて同様の手法で醸造した参考例2~4の高麗人参酢を、特定の項目で対比した表を下記の表8に示す。なお、参考例2~4は、以下の原料を用いて醸造した。
参考例2:白参抽出液1L、変性アルコール2L
参考例3:白参抽出液0.5L、変性アルコール2.5L
参考例4:白参抽出液1L、種酢(参考例2の高麗人参酢由来の発酵物(殺菌前))0.8L、95v/v%醸造用アルコール0.3L、水1.2L
【0085】
【表8】
【0086】
表8に示すように、原料に紅参抽出液を用いた実施例1~4は、総ジンセノサイドに対する希少ジンセノサイドの含有割合はいずれも80質量%を超える結果であり、ジンセノサイドRgの含有割合は平均で72.8質量%であった。また、Rgの前駆体と予想されるジンセノサイドRbの総ジンセノサイドに対する含有割合は平均で4.7質量%であった。これに対して、原料に白参抽出液のみを用いた参考例2~4は、総ジンセノサイドに対する希少ジンセノサイドの含有割合の平均は76.6質量%であり、ジンセノサイドRgの含有割合は平均で52.0質量%であった。また、ジンセノサイドRbの総ジンセノサイドに対する含有割合は平均で9.8質量%であった。
【0087】
このように、原料に紅参抽出液を用いることで、ジンセノサイドの代謝を促進させ、総ジンセノサイドに対してジンセノサイドRgが高容量含まれる高麗人参酢、更には希少ジンセノサイドが高容量含まれる高麗人参酢を安定して製造することができる。また、醸造期間の短縮も可能である。
【0088】
以下では、上記実施例1~4の結果を踏まえて、ジンセノサイドの代謝経路について考察する。図7には、PD系ジンセノサイドの代謝経路の概略を示し、図8には、PT系ジンセノサイドの代謝経路の概略を示す。各図において、黒塗り矢印が高麗人参酢を製造する際に想定されるジンセノサイドの代謝経路であり、白抜き矢印が、ヒトの腸内細菌叢における代謝経路を示している。
【0089】
図7に示すように、PD系ジンセノサイドは、ヒトの腸内細菌叢において、ジンセノサイドRbから、ジンセノサイドRd、ジンセノサイドF、ジンセノサイドCK、ジンセノサイドPPDへと代謝される。ジンセノサイドRbは比較的高分子であるため、そのままの構造ではヒトは吸収できないとされている。それが代謝によって、低分子化されていくことで吸収性が向上すると考えられている。また、ジンセノサイドRcも、ヒトの腸内細菌叢によって、ジンセノサイドCKを経て、最終的にはジンセノサイドPPDへと代謝される。
【0090】
ここで、上記実施例1~4では、発酵が進むにつれて、ジンセノサイド20(S)-Rgが大幅に増加する結果になった。一般に、ヒトの腸内細菌叢では、ジンセノサイドRdまたはジンセノサイドRcから、ジンセノサイド20(S)-Rgに至る代謝は起こらないとされている。また、発酵が進むにつれて、ジンセノサイド20(R)-Rgも大幅に増加したことから、高麗人参の酢酸発酵では、ヒトの腸内細菌叢での代謝とは異なる代謝が起こっていることが示唆された。また、ジンセノサイド20(S)-Rgから誘導されるジンセノサイドRhは、今回検出されなかった。その結果、特にジンセノサイド20(S)-Rgが多く含まれる高麗人参酢が得られたと考えられる。
【0091】
続いて、図8に示すPT系ジンセノサイドにおいて、ジンセノサイドRgは、グルコースが2個結合したジンセノサイドで、そのままの構造でもヒトは吸収することができるとされている。ヒトの腸内細菌叢では、図8に示すように、ジンセノサイドRgから、ジンセノサイドRh、PPTへと代謝される。上記実施例1~4では、高麗人参の発酵において、ジンセノサイドRgは大幅に低下したが、ジンセノサイドRhおよびPPTは未検出であった。また、ジンセノサイドReも減少したが、ジンセノサイドRgも主に減少傾向が見られた。PT系ジンセノサイドが、酢酸発酵においてどのような代謝を受けているのかについて、詳細は不明であるが、ヒトの腸内細菌叢での代謝とは異なる代謝が起こっていることが示唆された。
【0092】
また、上記実施例1~4に示すように、高麗人参酢を醸造する過程において、酢酸菌が比較的高分子のジンセノサイドを代謝して低分子化することから、本発明の高麗人参酢は、ヒトが摂取したときに吸収されやすいジンセノサイドを多く含む高麗人参由来の組成物であるといえる。特に、この高麗人参酢は、様々な薬理活性を有し、ヒトの腸内細菌叢では生成されないジンセノサイド20(S)-Rgを多く含むことから、健康効果を目的とした酸味調味料や飲料として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の高麗人参酢は、ジンセノサイドRgを多く含むので、様々な薬理活性が発揮されることが期待され、健康増進に寄与できる。
【符号の説明】
【0094】
1 原液
2 容器
3 発酵槽
4 原液
5 蓋材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅参の抽出物を含む高麗人参の抽出物を酢酸発酵させた高麗人参酢の製造方法であり、
前記高麗人参酢は、ジンセノサイドRgの含有量が、総ジンセノサイドに対して50質量%以上であり、
前記製造方法は、容器に、紅参を含む高麗人参を10~50v/v%エタノール水溶液で抽出した抽出物と、水と、醸造用アルコールと、種酢とを添加して、原液中のアルコール濃度が1%~15%、原液中の酸度が0.20%~2.0%になるようにした原液を、30~45℃で20日以上、原液中のジンセノサイドRg の含有量が総ジンセノサイドに対して少なくとも50質量%以上になるまで静置発酵により酢酸発酵する醸造工程を有し、
前記醸造工程は、発酵期間中に原液の表面に新鮮な菌膜を移植する工程を含むことを特徴とする高麗人参酢の製造方法
【請求項2】
前記高麗人参酢において、ジンセノサイドRg、ジンセノサイドF、ジンセノサイドRh、およびジンセノサイドRgの群からなる希少ジンセノサイドのうち、上記高麗人参酢に含まれる成分の合計量が、総ジンセノサイドに対して70質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の高麗人参酢の製造方法
【請求項3】
前記高麗人参酢において、ジンセノサイドRbの含有量が、総ジンセノサイドに対して10質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高麗人参酢の製造方法
【請求項4】
高麗人参酢の原料酢酸発酵する醸造工程においてジンセノサイドの代謝を促進する代謝促進方法であって、
前記醸造工程は、容器に、高麗人参(紅参を除く)を10~50v/v%エタノール水溶液で抽出した抽出物と、水と、醸造用アルコールと、種酢とを添加して、原液中のアルコール濃度が1%~15%、原液中の酸度が0.20%~2.0%になるようにした原液を、30~45℃で20日以上、原液中のジンセノサイドRg の含有量が総ジンセノサイドに対して少なくとも50質量%以上になるまで静置発酵により酢酸発酵する工程であり、
前記原液に紅参の抽出物を添加することで、前記醸造工程の醸造開始から20日までの期間においてジンセノサイドの代謝を促進することを特徴とするジンセノサイドの代謝促進方法。