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  • 特開-損失解析装置及び損失解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182479
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】損失解析装置及び損失解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01M11/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096119
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100163876
【弁理士】
【氏名又は名称】上藤 哲嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100187045
【弁理士】
【氏名又は名称】梅澤 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】高須 涼太
(72)【発明者】
【氏名】村上 太一
【テーマコード(参考)】
2G086
【Fターム(参考)】
2G086CC02
2G086CC04
(57)【要約】
【課題】本開示では、SN比が小さいとき、又はイベント間隔が短いときに、イベントを再現性良く検出する損失解析装置及び損失解析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る損失解析装置は、被測定光ファイバのOTDR波形を取得するOTDR波形取得部と、前記OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、前記各イベントの開始点のレベル、前記各イベントの損失、及び前記各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数を前記OTDR波形に非線形フィッティングし、前記位置、前記レベル、前記損失及び前記反射減衰量を算出する算出部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光ファイバのOTDR波形を取得するOTDR波形取得部と、
前記OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、前記各イベントの開始点のレベル、前記各イベントの損失、及び前記各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数を前記OTDR波形に非線形フィッティングし、前記位置、前記レベル、前記損失及び前記反射減衰量を算出する算出部と、
を備える損失解析装置。
【請求項2】
被測定光ファイバのOTDR波形を取得するOTDR波形取得ステップと、
前記OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、前記各イベントの開始点のレベル、前記各イベントの損失、及び前記各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数を前記OTDR波形に非線形フィッティングし、前記位置、前記レベル、前記損失及び前記反射減衰量を算出する算出ステップと、
を備える損失解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イベントモデル関数を用いた損失解析装置及び損失解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定したOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)波形に基づいて、被測定光ファイバ内で発生したイベントを検出する方法が知られている(例えば特許文献1を参照。)。関連技術に係る装置では、被測定光ファイバのOTDR波形を測定し、測定したOTDR波形における変化点を抽出し、変化点でイベントが発生した場合の理想波形を生成する。その後、測定したOTDR波形と、理想波形との差分を抽出し、差分量がある場合には、当該差分量のある位置に未検出のイベントがあるとして、OTDR波形に含まれる全イベントを検出する。
【0003】
具体的には、関連技術に係る装置では、イベントの位置を計算するため、OTDR波形の傾きの変化点を検出する。また、関連技術に係る装置では、イベントの損失を計算するため、OTDR波形に対して最小二乗近似直線を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-167935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、関連技術では、SN比が悪いときに、イベントの開始点の位置の再現性が低いという課題があった。また、関連技術では、イベントが隣接しているときに、イベントのロス値の再現性が低いという課題があった。
【0006】
前記課題を解決するために、本開示は、SN比が小さいとき、又はイベント間隔が短いときに、イベントを再現性良く検出する損失解析装置及び損失解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の損失解析装置は、OTDR波形に対してイベントモデル関数を非線形フィッティングすることとした。
【0008】
具体的には、本開示に係る損失解析装置は、
被測定光ファイバのOTDR波形を取得するOTDR波形取得部と、
前記OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、前記各イベントの開始点のレベル、前記各イベントの損失、及び前記各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数を前記OTDR波形に非線形フィッティングし、前記位置、前記レベル、前記損失及び前記反射減衰量を算出する算出部と、
を備える。
【0009】
具体的には、本開示に係る損失解析方法は、
被測定光ファイバのOTDR波形を取得するOTDR波形取得ステップと、
前記OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、前記各イベントの開始点のレベル、前記各イベントの損失、及び前記各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数を前記OTDR波形に非線形フィッティングし、前記位置、前記レベル、前記損失及び前記反射減衰量を算出する算出ステップと、を備える。
【0010】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、SN比が小さいとき、又はイベント間隔が短いときに、イベントを再現性良く検出する損失解析装置及び損失解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る損失解析装置の概略構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態に係る損失解析装置の概略構成の一例を図1に示す。本実施形態に係る損失解析装置は、被測定光ファイバ20のOTDR波形を取得するOTDR波形取得部11と、OTDR波形に含まれる各イベントの開始点の位置、各イベントの開始点のレベル、各イベントの損失、及び各イベントの反射減衰量をパラメータとしたイベントモデル関数をOTDR波形に非線形フィッティングし、各イベントの開始点の位置、各イベントの開始点のレベル、各イベントの損失及び各イベントの反射減衰量を算出する算出部12と、を備える。以下、イベントの「損失」を「ロス値」として説明する。また、イベントのパラメータとは、イベントの開始点の位置[km]、イベントの開始点のレベル[dB]、イベントのロス値[dB]、及びイベントの反射減衰量[dB]のことをいう。
【0015】
(OTDR波形取得ステップ)
OTDR波形取得部11は、被測定光ファイバ20からのOTDR波形を取得する。例えば、OTDR波形取得部11は、光パルスを被測定光ファイバ20の一端から入射し、光パルスを入射した被測定光ファイバ20の一端から出力される後方散乱光の強度の時間分布をOTDR波形として取得する。以下「光パルスを入射した被測定光ファイバ20の一端からの距離」を「距離」とする。
【0016】
(算出ステップ)
算出部12は、OTDR波形取得部11が取得したOTDR波形に対してイベントモデル関数を非線形フィッティングし、イベントの開始点の位置、イベントの開始点のレベル、イベントのロス値、及びイベントの反射減衰量を算出する。
【0017】
具体的には、算出部12は、イベントモデル関数yfitとして式(1)を用いてもよい。
【数1】
ここで、xは距離、ybsはバックスキャッタ関数、ylossはロス関数、yreflは反射関数、sはイベントの開始点の位置[km]、sはイベントの開始点のレベル[dB]、lはロス値[dB]、rは反射減衰量[dB]を表す。
【0018】
バックスキャッタ関数ybsは式(2)で定義してもよい。
【数2】
ここで、αdBはバックスキャッタの傾き[dB/km]であり、s′はs及び式(3)から求める。
【数3】
【0019】
ロス関数ylossは、式(4)で定義してもよい。
【数4】
ここで、l′はロス値l及び式(5)から求め、y′lossは式(6)から求める。
【数5】
【数6】
なお、τは時定数[km]、wはパルス幅[km]を表す。
【0020】
反射関数yreflは、式(7)及び(8)で定義してもよい。
【数7】
【数8】
はパルス立ち上がり距離[km]、bはバックスキャッタ係数[dB]を表す。
【0021】
算出部12は、OTDR波形に対して式(1)で表したイベントモデル関数yfitを非線形フィッティングする。本実施形態に係る非線形フィッティングとは、イベントモデル関数yfitを非線形関数とし、OTDR波形と、イベントモデル関数yfitとの間で最小二乗法を行うことをいう。例えば、算出部12は、非線形最小二乗近似アルゴリズムである信頼領域法(Trust Region Methods)を用いて非線形フィッティングを行う。算出部12は、この非線形フィッティングにより最適なイベントの開始点の位置s、イベントの開始点のレベルs、ロス値l、及び反射減衰量rを算出する。
【0022】
なお、イベントの開始点の位置sの初期値は、イベントが非反射イベントである場合は、OTDR波形から検出したイベント候補点からパルス幅のポイント数を差し引いた点とし、イベントが反射イベントである場合は、OTDR波形から検出したイベント候補の開始点から最大レベルの範囲内の最小レベルとしてもよい。ここで、イベント候補点とは、OTDR波形に微分法を用いて検出した傾きの絶対値のピーク点としてもよく、OTDR波形にウェーブレット変換を用いて検出したウェーブレット係数の絶対値のピーク点としてもよい。また、イベントの開始点のレベルsの初期値は、イベントの開始点の位置sのOTDR波形のレベル[dB]としてもよい。ロス値lの初期値は、イベントの開始点の位置sのレベルとイベント終了位置のレベルの比をdB換算した値としてもよい。反射減衰量rの初期値は、イベントの開始点の位置sのレベルと最大レベルの差を反射減衰量に換算した値としてもよい。
【0023】
また、フィッティング範囲は、フィッティング対象のイベント候補の開始点の位置からイベント候補の終了点の位置までの範囲をパルス幅の2倍広げた範囲としてもよい。
【0024】
本実施形態に係る損失解析装置は、イベントの開始点の位置sの初期値及びフィッティング範囲を設定するために、OTDR波形からイベント候補を検出するイベント検出部を備えてもよい。例えば、イベント検出部は、算出部12が非線形フィッティングを行う前に、OTDR波形取得部11が取得したOTDR波形に微分法を用いてイベント候補を検出してもよい。また、イベント検出部は、算出部12が非線形フィッティングを行う前に、OTDR波形取得部11が取得したOTDR波形にウェーブレット変換を用いてイベント候補点を検出してもよい。
【0025】
OTDR波形に複数のイベントが含まれる場合には、算出部12は、イベントモデル関数として式(1)の代わりに式(9)を用いる。
【数9】
nはイベント番号、Πは積乗、Σは積和を表す。イベント番号は、被測定光ファイバ20の入射端側のイベントから順に割り当ててもよい。また、イベント番号nであるイベントのロス値lは、最遠端のイベントを除き、式(10)及び(11)により求めてもよい。
【数10】
【数11】
【0026】
算出部12は、OTDR波形に含まれる2個のイベントが含まれる場合には、2個のイベントそれぞれのパラメータを同時に最適化してもよい。
【0027】
また、算出部12は、OTDR波形に3個以上のイベントが含まれる場合は、イベント毎にパラメータの最適化を行う。算出部12は、非線形フィッティングが未完了のイベントの中でロス値の初期値が大きいイベントから順に非線形フィッティングを行ってもよい。
【0028】
例えば、OTDR波形にイベント1からイベント3が含まれている場合について説明する。イベント毎のロス値の初期値が、イベント1、イベント2、イベント3の順で大きいとすると、非線形フィッティングが未完了のイベントの中でイベント1のロス値の初期値が最大となる。そこで、イベント2及びイベント3のパラメータは初期値で固定したままイベント1について非線形フィッティングを行う。これにより、イベント1について、開始点の位置sx,1、開始点のレベルsy,1、ロス値l、及び反射減衰量rを算出する。続いて、非線形フィッティングが未完了のイベントの中でイベント2のロス値の初期値が最大となる。イベント3のパラメータは初期値で固定し、イベント1のパラメータは算出した値で固定したままイベント2について非線形フィッティングを行う。これにより、イベント2について、開始点の位置sx,2、開始点のレベルsy,2、ロス値l、及び反射減衰量rを算出する。最後に、イベント1及びイベント2のパラメータを算出した値で固定したまま、非線形フィッティングが未完了のイベント3について非線形フィッティングを行う。これにより、イベント3について、開始点の位置sx,3、開始点のレベルsy,3、ロス値l、及び反射減衰量rを算出する。
【0029】
以上説明したように、本開示に係る損失解析装置及び損失解析方法は、OTDR波形にイベントモデル関数を非線形フィッティングすることにより、SN比が小さいとき、又はイベント間隔が短いときに、イベントを再現性良く検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本開示に係る損失解析装置及び損失解析方法は、光学測定器産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10:損失解析装置
11:OTDR波形取得部
12:算出部
20:被測定光ファイバ
図1