(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182482
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】無端ベルト及び無端ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 3/10 20060101AFI20231219BHJP
F16G 1/14 20060101ALI20231219BHJP
B29D 29/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F16G3/10 D
F16G1/14
B29D29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096123
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 広大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 佑紀
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA24
4F213AA29
4F213AA31
4F213AA45
4F213AC03
4F213AD16
4F213AG03
4F213AG16
4F213WA53
4F213WA55
4F213WA72
4F213WA92
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】無端ベルトにおける継手部の継手方向の屈曲性を損なうことなく、継手部の幅方向の強度をより向上することができる無端ベルト及び無端ベルトの製造方法を提供すること。
【解決手段】無端ベルトは、帯状の心体層12と、心体層12の少なくとも一方の面に積層される熱可塑性樹脂製の中間層14と、中間層14の表面に積層される表面層18と、互いに相補的な形状を有する第1端部及び第2端部が接合された継手部とを備えた無端ベルトであって、中間層14には、継手部にまたがって補強シート26が埋設され、補強シート26は、厚さ方向に貫通する空隙28を有し、経糸よりも引張強度が大きい緯糸262で織られた織布からなり、補強シート26の引張強度が、継手部の継手方向よりも継手部の幅方向の方が大きくなるように配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の心体層と、
前記心体層の少なくとも一方の面に積層される熱可塑性樹脂製の中間層と、
前記中間層の表面に積層される表面層と、
互いに相補的な形状を有する第1端部及び第2端部が接合される継手部とを備えた無端ベルトであって、
前記中間層には、前記継手部にまたがって補強シートが埋設され、
前記補強シートは、厚さ方向に貫通する空隙を有し、複数の経糸と、前記複数の経糸をまたぐ複数の緯糸とを少なくとも含む複数の糸で織られた織布からなり、
前記補強シートの引張強度が、前記継手部の継手方向よりも、前記継手部の継手方向をまたぐ前記継手部の幅方向の方が大きくなるように、前記補強シートが配置されている、無端ベルト。
【請求項2】
前記補強シートは、前記経糸よりも引張強度が大きい前記緯糸が、前記継手部の継手方向をまたぐ方向に配置されている、請求項1に記載の無端ベルト。
【請求項3】
前記補強シートは、前記複数の経糸が前記継手部の継手方向に配置され、前記経糸よりも引張強度が大きい前記緯糸が、前記継手部の幅方向に複数配置されている、請求項1又は2に記載の無端ベルト。
【請求項4】
帯状の心体層と、
前記心体層の少なくとも一方の面に積層される熱可塑性樹脂製の中間層と、
前記中間層の表面に積層される表面層と、
互いに相補的な形状を有する第1端部及び第2端部が接合される継手部とを備えた無端ベルトの製造方法であって、
前記心体層の帯状の両端部において、前記中間層に切り込みを入れて、前記中間層を心体層側中間部と表面層側中間部とに分離する工程と、
前記無端ベルトの両端部を互いに相補的な形状に加工して、前記第1端部及び前記第2端部を形成する工程と、
厚さ方向に貫通する空隙を有し、複数の経糸及び複数の緯糸で織られた織布からなる補強シートを、前記第1端部及び前記第2端部にまたがるようにして前記心体層側中間部の表面に配置する工程と、
前記補強シートを前記表面層側中間部及び前記表面層で覆い、前記表面層側中間部及び前記心体層側中間部を熱接着し、前記補強シートの空隙に熱可塑性樹脂を充填し、前記補強シートを前記中間層に埋設する工程と、を有し、
前記補強シートを配置する工程は、前記補強シートの引張強度が、前記継手部の継手方向よりも、前記継手部の継手方向をまたぐ前記継手部の幅方向の方が大きくなるように、前記補強シートを配置する、無端ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルト及び無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速伝動ベルトとしての無端ベルトは、一般的に、心体層を備える帯状ベルトを用いる。無端ベルトは、帯状ベルトの両端を、接着剤や熱接着を用いて一体に接着した継手部を有する。帯状ベルトの両端は、互いに相補的な形状、例えば、フィンガー形状である。無端ベルトの継手部は、心体層が切断された状態であるため、引張強度が小さい。したがって、無端ベルトは、継手部を起点として破断しやすいという問題があった。
【0003】
このため、従来、心体層と、熱可塑性樹脂を含む中間層と、表面帆布層とを積層した無端ベルトにおいて、厚さ方向に貫通した空隙を有する編布製の補強シートを、継手部の両端にまたがって、中間層内に埋設する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、熱接着を行うことにより、補強シートを中間層に埋設すると、空隙部分に中間層の熱可塑性樹脂が充填される。従って、無端ベルトの継手部の両端を強固に接続することができるという効果がある。ここで、補強シートには、継手部の継手方向(ベルト長手方向)にある程度の屈曲性を持たせなければ、駆動プーリの回転に滑らかに追従して無端ベルトを駆動できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、補強シートの継手方向の屈曲性を重視すると、継手部の継手方向に直交する幅方向(ベルト幅方向)の強度を十分に確保することができないという課題がある。
【0007】
本発明は、無端ベルトにおける継手部の継手方向の屈曲性を損なうことなく、継手部の幅方向の強度をより向上することができる無端ベルト及び無端ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無端ベルトは、帯状の心体層と、前記心体層の少なくとも一方の面に積層される熱可塑性樹脂製の中間層と、前記中間層の表面に積層される表面層と、互いに相補的な形状を有する第1端部及び第2端部が接合される継手部とを備えた無端ベルトであって、前記中間層には、前記継手部にまたがって補強シートが埋設され、前記補強シートは、厚さ方向に貫通する空隙を有し、複数の経糸と、前記複数の経糸をまたぐ複数の緯糸とを少なくとも含む複数の糸で織られた織布からなり、前記補強シートの引張強度が、前記継手部の継手方向よりも、前記継手部の継手方向をまたぐ前記継手部の幅方向の方が大きくなるように、前記補強シートが配置されている。
【0009】
本発明に係る無端ベルトの製造方法は、帯状の心体層と、前記心体層の少なくとも一方の面に積層される熱可塑性樹脂製の中間層と、前記中間層の表面に積層される表面層と、互いに相補的な形状を有する第1端部及び第2端部が接合される継手部とを備えた無端ベルトの製造方法であって、前記心体層の帯状の両端部において、前記中間層に切り込みを入れて、前記中間層を心体層側中間部と表面層側中間部とに分離する工程と、前記無端ベルトの両端部を互いに相補的な形状に加工して、前記第1端部及び前記第2端部を形成する工程と、厚さ方向に貫通する空隙を有し、複数の経糸及び複数の緯糸で織られた織布からなる補強シートを、前記第1端部及び前記第2端部にまたがるようにして前記心体層側中間部の表面に配置する工程と、前記補強シートを前記表面層側中間部及び前記表面層で覆い、前記表面層側中間部及び前記心体層側中間部を熱接着し、前記補強シートの空隙に熱可塑性樹脂を充填し、前記補強シートを前記中間層に埋設する工程と、を有し、前記補強シートを配置する工程は、前記補強シートの引張強度が、前記継手部の継手方向よりも、前記継手部の継手方向をまたぐ前記継手部の幅方向の方が大きくなるように、前記補強シートを配置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補強シートの引張強度が大きい方向を継手部の幅方向に配置させることで、継手部の継手方向の屈曲性を損なうことなく、継手部の幅方向の強度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1のaは実施形態に係る無端ベルトの平面図、
図1のbは実施形態に係る無端ベルトの
図1のaに示す1b-1b線における断面図である。
【
図2】
図2のaは実施形態に係る補強シートの平面図であり、
図2のbは実施形態に係る補強シートの断面図である。
【
図3】実施形態に係る無端ベルトの断面を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図4】実施形態に係る無端ベルトの製造方法を段階的に示す断面図であり、
図4のaは切り込みを入れる前、
図4のbは切り込みを入れた後である。
【
図5】実施形態に係る無端ベルトの製造方法を段階的に示す断面図であり、
図5のaは補強シートを設置した状態、
図5のbは分離部をかぶせた状態である。
【
図6】実施形態に係る無端ベルトの使用状態を示す模式図である。
【
図7】
図7のaは実施形態の変形となる補強シートの平面図であり、
図7のbは補強シートの断面図である。
【
図8】
図8のaは実施形態の変形となる補強シートの平面図であり、
図8のbは補強シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の詳細を説明する。
(全体構成)
図1には、本実施形態に係る無端ベルト10が示され、
図1のaは無端ベルトの平面図であり、
図1のbは無端ベルト10の厚さ方向の断面図である。なお、以下の説明では、
図1のa及び
図1のbに示すように、ベルト長手方向をx方向として「継手方向」と称し、ベルト長手方向を直交にまたがるベルト幅方向をy方向として「幅方向」と称し、z方向を「厚さ方向」と称する。
【0013】
この無端ベルト10は、帯状の心体層12の端部同士を継手部15で接合したものであり、心体層12、第1中間層14、第2中間層16、第1表面層18、及び第2表面層20を備える。無端ベルト10の厚さは、通常0.5mm~10.0mmであり、継手部15の継手方向に直交する幅は、通常10mm~5000mmである。
【0014】
心体層12は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、又はガラス繊維を経糸(たていと)、緯糸(よこいと)の原料として用いた帆布で形成される。
【0015】
第1中間層14は心体層12の一方の表面に積層され、第2中間層16は心体層12の他方の表面に積層される。第1中間層14及び第2中間層16は、熱可塑性樹脂で形成される。具体的には、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、又はポリオレフィン系エラストマーを用いることができる。
【0016】
第1表面層18は第1中間層14の表面に積層され、第2表面層20は第2中間層16の表面に積層されている。第1表面層18及び第2表面層20は、心体層12を保護する保護材として機能し、ゴム、樹脂、帆布、又は合成皮革で形成されている。
【0017】
具体的には、第1表面層18及び第2表面層20を構成するゴムとしては、例えば、ミラブルウレタン、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、又はクロロスルフォン化ポリエチレンを用いることができる。樹脂としては、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、又はポリオレフィン系エラストマーを用いることができる。帆布としては、例えば、ポリエステル繊維、又はナイロン繊維などの繊維を使用した帆布を用いることができる。尚、第2表面層20は、第1表面層18の材質と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0018】
無端ベルト10は、継手部15を有する。継手部15はフィンガー継手である。継手部15は、接合された状態の第1端部22と第2端部24とを有する。第1端部22は、帯状ベルト(図示しない)の継手方向の先端を含む。第2端部24は、帯状ベルト(図示しない)の継手方向の基端を含む。無端ベルト10は、第1端部22と第2端部24を接合して、無端状とされている。
【0019】
第1端部22及び第2端部24は、互いに相補的な複数の凹部19及び凸部21をそれぞれ有する。凹部19は、無端ベルト10の継手方向の内側に凹んだ二等辺三角形及び直角三角形である。凸部21は、継手方向の外側に突出した二等辺三角形である。第1端部22及び第2端部24は、複数の凹部19及び凸部21が形成された鋸刃形状である。凹部19及び凸部21の幅方向の長さは5mm~30mm、凹部19及び凸部21の継手方向の長さは5mm~250mmである。
【0020】
無端ベルト10の第1中間層14は、第1端部22と第2端部24の境界をまたぐ位置に、補強シート26を有する。補強シート26は、第1端部22の凹部19の基端23から、第2端部24の凹部19の基端25までの範囲よりも広い領域に配置されている。補強シート26の幅方向の長さは、無端ベルト10の幅方向の長さに対して+0mmから-1mm程度とされている。補強シート26の継手方向の長さは、凹部19又は凸部21の継手方向の長さよりも20mm程度大きく、継手部15の長さよりも30mm程度大きくされている。
【0021】
補強シート26は、
図2のa及び
図2のbに示すように、経糸261及び緯糸262を厚さ方向で交互に上下に交差させて織り込んだ平織の織布から構成される。経糸261及び緯糸262で囲まれる領域には、補強シート26の厚さ方向(z方向)を貫通する空隙28が複数形成されている。経糸261は、継手部15の継手方向(x方向)に沿って伸びるように配置される。緯糸262は、継手部15の継手方向をまたぐ継手部15の幅方向(y方向)に沿って伸びるように配置される。空隙28は、並走する経糸261間及び並走する緯糸262間で囲まれた矩形状の各領域にそれぞれ形成されている。尚、本実施形態では、経糸261及び緯糸262の密度を同じとした正方形状の領域が空隙28とされ、経糸261及び緯糸262が交わる位置に空隙28が形成されている。
【0022】
経糸261としては、屈曲性のよいポリエステル繊維、ナイロン繊維、綿等が用いられる。緯糸262としては、経糸261と同じ径であってもよく、異なる径であってもよいが、例えば、引張強度が大きいアラミド繊維、ガラス繊維等が用いられ、経糸261よりも引張強度が大きくなるように形成されている。このため、補強シート26は、継手部15の継手方向(x方向)の引張強度に対して、幅方向(y方向)の引張強度が大きくなるように、経糸261が伸びる方向を継手方向に配置し、引張強度が経糸261よりも大きい緯糸262が伸びる方向を幅方向に配置して、第1中間層14内に埋設される。なお、経糸261及び緯糸262は、単糸であってもよく、また、双糸のように複数の糸からなる構成であってもよい。
【0023】
第1中間層14は、
図3に示すように、補強シート26の第1表面層18側に配置される表面層側中間部27と、補強シート26の心体層12側に配置される心体層側中間部29とを備える。表面層側中間部27及び心体層側中間部29は、補強シート26の空隙28で第1中間層14を構成する熱可塑性樹脂によって接続される。つまり、補強シート26の空隙28には、第1中間層14の熱可塑性樹脂が充填され、補強シート26は、第1中間層14と一体化される。
【0024】
補強シート26は、厚さ方向からみた、単位面積当たりの空隙28の割合が35%以上70%以下である。空隙28の割合が70%以下であれば、補強シート26は十分な強度を有する。空隙28の割合が35%以上であれば、表面層側中間部27と、心体層側中間部29とが十分に一体化され、第1中間層14と補強シート26の剥離を抑制することができる。
【0025】
また、補強シート26は、第1中間層14に埋設された状態で、第1中間層14の厚さの50%程度の厚さとされる。補強シート26の厚さが第1中間層14の厚さの50%を大きく超える場合、補強シート26の屈曲性が損なわれ、無端ベルト10の駆動中に補強シート26が第1中間層14から脱落してしまう可能性がある。補強シート26の厚さが第1中間層14の厚さの50%を大きく下回る場合、補強材としての効果が損なわれ、無端ベルト10の強度を十分に向上することができない。
【0026】
(製造方法)
次に、前述した無端ベルト10の製造方法について説明する。
図4のaに示すように、接合前の第1端部22と第2端部24の第1中間層14に、それぞれ先端から継手方向に1か所切り込みを入れ、切り込み部32を形成する。
図4のaは、代表して第1端部22について示している。切り込み部32は、継手部15の継手方向に平行に形成する。切り込み部32の継手方向の長さは、後に形成する凹部19及び凸部21の長手方向の長さよりも長い。切り込み部32は、第1中間層14の厚さ方向の中心位置に形成するのが好ましい。切り込み部32を形成した後の第1中間層14は、第1表面層18と一体の表面層側中間部27と、心体層12と一体の心体層側中間部29とに分離される。
【0027】
切り込み部32を形成した後の第1端部22には、
図4のbに示すように、第1表面層18と表面層側中間部27とからなる分離部33を形成する。分離部33は、表面層側中間部27と心体層側中間部29が離れる方向に折り返すことができる。表面層側中間部27と心体層側中間部29が離れる方向は、第1表面層18の表面へ向かって、分離部33の先端を折り曲げる方向である。図示しないが、切り込み部32を形成した後の第2端部24にも、同様に、分離部33を形成する。
【0028】
公知の工具を用いて第1端部22と第2端部24を加工し、複数の凹部19及び凸部21をそれぞれ形成する。凹部19及び凸部21を形成する継手方向の範囲は、切り込み部32が形成された領域より狭い。第1表面層18を上向きとし、第1端部22と第2端部24を、互いの凹部19と凸部21を組み合わせて、突き合わせる。
【0029】
図5のaに示すように、分離部33を折り返した状態で、第1端部22と第2端部24の境界をまたぐように、心体層側中間部29上に補強シート26を配置する。補強シート26は、凹部19及び凸部21が形成された範囲を超え、切り込み部32が形成された領域内に配置する。また、補強シート26は、経糸261が伸びる方向が、継手部15の継手方向となり、さらに、経糸261よりも引張強度の大きく、かつ当該経糸261と直交して配置された緯糸262が伸びる方向が、継手部15の幅方向となるように配置する。
【0030】
図5のbに示すように、補強シート26を分離部33で覆い、表面層側中間部27を補強シート26の表面に接触させる。分離部33同士の凹部19と凸部21を組み合わせて突き合わせる。この状態で第1端部22と第2端部24を中心に、少なくとも切り込み部32が形成された領域を、厚さ方向に加圧しながら熱接着する。加熱することによって、第1中間層14及び第2中間層16の熱可塑性樹脂が溶融し、第1端部22と第2端部24の先端同士が融着する。
【0031】
第1中間層14において、表面層側中間部27と心体層側中間部29の溶融した熱可塑性樹脂は、補強シート26の空隙28を通じて流動し、空隙28を介して互いに融着する。熱可塑性樹脂が冷却固化することによって、第1中間層14及び第2中間層16は、第1端部22と第2端部24同士の間で、一体となる。
【0032】
表面層側中間部27と心体層側中間部29は、補強シート26の空隙28を介して一体化される。この結果、第1中間層14は、第1端部22と第2端部24の境界をまたぐ位置で補強シート26を保持する。上記のようにして、第1中間層14に補強シート26が埋設された無端ベルト10を得ることができる。
【0033】
(作用及び効果)
無端ベルト10は、
図6に示すように、第2表面層20と駆動プーリ30の表面が接触するように、駆動プーリ30に巻装され、伝動ベルト又は搬送ベルトとして用いることができる。第1中間層14の表面層側中間部27及び心体層側中間部29は、補強シート26の空隙28を通じて一体であるので、第1中間層14が補強シート26とより強固に接合している。したがって無端ベルト10は、補強シート26と第1中間層14の剥離を抑制し、継手部15の強度をより向上することができる。厚さ方向からみた、単位面積当たりの空隙28の割合が35%以上70%以下であることによって、継手部15の強度をより確実に向上することができる。
【0034】
これに加えて、本実施形態に係る補強シート26は、複数の経糸261と、経糸261よりも引張強度が大きく、かつ経糸261をまたぐ複数の緯糸262とで織り込まれた平織の織布から構成されている。これにより、経糸261の伸びる方向及び緯糸262の伸びる方向における補強シート26の引張強度を異なるものとすることができる。従って、無端ベルト10では、補強シート26の引張強度が大きな方向を、継手部15の幅方向に配置することにより、継手部15の継手方向の屈曲性を損なうことなく、継手部15の幅方向の引張強度をより向上させることができる。特に、経糸261にポリエステル繊維、ナイロン繊維、綿等を用いることにより、無端ベルト10の継手部15における継手方向の屈曲性が損なわれることもない。
【0035】
(実施形態の変形)
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形をも含むものである。前述した実施形態では、継手部にまたがって補強シートが埋設される中間層と、当該中間層の表面に積層される表面層として、
図1のbに示す第1中間層14と第1表面層18を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図1のbに示す第2中間層16と第2表面層20を適用してもよい。
【0036】
また、前述した実施形態では、経糸よりも引張強度が大きい複数の緯糸を、継手部の継手方向をまたぐ方向に配置し、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シートとして、経糸261よりも引張強度が大きい複数の緯糸262を、継手部15の継手方向(x方向)を直交にまたぐ幅方向(y方向)に沿って配置し、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シート26を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、経糸261よりも引張強度が大きい複数の緯糸262を、継手部15の継手方向(x方向)を鋭角・鈍角で斜めからまたぐ方向(y方向)に配置し、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シートを適用してもよい。また、他の補強シートとしては、経糸261が継手部15の継手方向に沿って配置されていなくてもよく、経糸を継手方向から鋭角に傾けて配置し、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シートを適用してもよい。
【0037】
また、前述の実施形態では、複数の経糸と、当該経糸をまたぐ複数の緯糸とを少なくとも含む複数の糸で織られた織布で構成された補強シートとして、複数の経糸261と複数の緯糸262とで織られた平織の織布で構成された補強シート26を適用したが、本発明はこれに限らず、複数の経糸と複数の緯糸を含む複数の糸で種々の編み方で織られた織布で構成された補強シートを適用してもよい。例えば、
図7のa及び
図7のbに示すように、補強シート40を綾織の織布で構成してもよい。補強シート40の経糸401は、下側の面で緯糸402を2本またいだ後上側の面で緯糸402を2本またぐようにして通され、これを経糸401に直交する複数の緯糸402に対して繰り返す。また、緯糸402についても経糸401と同様に織り込むことにより、綾織の補強シート40を得ることができる。
【0038】
さらに、
図8のa及び
図8のbに示すように、補強シート42を繻子織の織布で構成してもよい。補強シート42の経糸421は、上側の面で緯糸422を4本またいだ後下側の面で緯糸422を1本またぐようにして通され、これを経糸421に直交する複数の緯糸422に対して繰り返す。また、緯糸422についても経糸421と同様に織り込むことにより、繻子織の補強シート42を得ることができる。
【0039】
このような、補強シート40,42であっても、前述した実施形態と同様に、経糸401、421よりも引張強度が大きい複数の緯糸402,422などを使用して継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シート40,42を実現でき、前述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0040】
前述の実施形態では、補強シート26の経糸261及び緯糸262の密度(本数)は継手方向及び幅方向において同じに形成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、緯糸の密度を経糸の密度よりも大きくして、継手部の幅方向の引張強度を一層向上させ、継手方向の屈曲性を一層向上させてもよい。このような構成においては、経糸261及び緯糸262の引張強度が同じであっても、緯糸の密度を経糸の密度よりも大きくすることで、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シートを実現でき、前述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0041】
前述の実施形態では、補強シート26の経糸261及び緯糸262の太さは同一径とされていたが、本発明はこれに限られない。例えば、経糸261の径に対して緯糸262の径を大きくした織布を補強シートとして用いてもよい。このような構成においては、経糸261及び緯糸262を同じ材質の糸材で形成しても、緯糸の径を経糸の径よりも大きくすることで、継手方向の引張強度よりも幅方向の引張強度を大きくした補強シートを実現でき、前述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0042】
前述の実施形態では、補強シート26は、経糸261及び緯糸262が互いに直交する方向に織られていたが、本発明はこれに限られない。例えば、経糸に対して緯糸が斜めに交差するように織り込んだ補強シートを用いてもよい。その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 無端ベルト
12 心体層
14 第1中間層(中間層)
15 継手部
18 第1表面層(表面層)
19 凹部
20 第2表面層
21 凸部
26、40、42 補強シート
27 表面層側中間部
28 空隙
29 心体層側中間部
32 切り込み部
261、401、421 経糸
262、402、422 緯糸