(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182528
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】防曇層付き基板及び防曇層付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/02 20190101AFI20231219BHJP
C03C 17/32 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B32B7/02
C03C17/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070749
(22)【出願日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022095865
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】西畑 慎吾
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25C
4F100AK52B
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA23B
4F100GB07
4F100GB32
4F100JA05B
4F100JA05C
4F100JB05C
4F100JB12B
4F100JB12C
4F100JD15C
4F100JL07B
4F100JL07C
4G059AA01
4G059AC21
4G059EB05
4G059FA08
4G059FA21
4G059FA30
(57)【要約】
【課題】レンズ効果を抑えつつ防曇層の耐剥離性を向上する。
【解決手段】防曇層付き基板は、基板10と基板10の主面上に形成される防曇層12とを備える。防曇層12は、基板側に配置される下部20と、下部20の基板と反対側に配置される上部30とからなる。断面視において、上部30の基板と反対側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第1の点35と、下部20の基板側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第2の点25とを結ぶ側端辺50は、上部30と下部20との境界において、X軸との間の角度が変化する境界点54を含む。側端辺50のうち、境界点54と第2の点25とを結ぶ下部側端辺51は、側端辺50のうち第1の点35と境界点54とを結ぶ上部側端辺52よりもX軸正方向に突出する。境界点54は、第1の点35と第2の点25とを結ぶ仮想直線VLよりもX軸負方向に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともX軸方向に延伸する基板と、
前記基板の主面上に形成される防曇層と
を備え、
前記防曇層は、前記基板側に配置される下部と、前記下部の前記基板と反対側に配置される上部とからなり、
断面視において、前記上部の前記基板と反対側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第1の点と、前記下部の前記基板側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第2の点とを結ぶ第1側端辺は、前記上部と前記下部との境界において、X軸との間の角度が変化する第1境界点を含み、
前記第1側端辺のうち、前記第1境界点と前記第2の点とを結ぶ第1下部側端辺は、前記第1側端辺のうち、前記第1の点と前記第1境界点とを結ぶ第1上部側端辺よりもX軸正方向に突出し、
前記第1境界点は、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想直線よりも、X軸負方向に位置する
防曇層付き基板。
【請求項2】
断面視において、前記第2の点は前記第1境界点よりも、X軸正方向に50μm以上400μm以下突出する
請求項1に記載の防曇層付き基板。
【請求項3】
前記第1上部側端辺は、X軸と垂直である
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項4】
前記第1下部側端辺は、前記第1境界点と前記第2の点とを結ぶ仮想直線よりもX軸負方向に凹んだ湾曲形状を有する
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項5】
前記断面視において、前記防曇層の前記第1側端辺はステップ形状を有する
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項6】
平面視において、前記下部は波状の外縁を有する
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項7】
断面視において、前記上部の前記基板と反対側の端辺におけるX軸負方向側の端点である第3の点と、前記下部の前記基板側の端辺におけるX軸負方向側の端点である第4の点とを結ぶ第2側端辺は、前記上部と前記下部との境界において、X軸との間の角度が変化する第2境界点を含み、
前記第2側端辺のうち、前記第2境界点と前記第4の点とを結ぶ第2下部側端辺は、前記第2側端辺のうち、前記第3の点と前記第2境界点とを結ぶ第2上部側端辺よりもX軸負方向に突出し、
前記第2境界点は、前記第3の点と前記第4の点とを結ぶ仮想直線よりも、X軸正方向に位置する
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項8】
前記上部はフィラーを含有し、
前記下部は、前記フィラーを含有していない、又は前記上部よりも前記フィラーの含有率が低い
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項9】
前記上部は、第1硬化性樹脂を含む硬化性成分の硬化物であり、
前記下部は、第2硬化性樹脂を含む硬化性成分の硬化物であり、
前記第1硬化性樹脂と、前記第2硬化性樹脂とが、同一の反応性官能基を有する
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項10】
自動車用窓ガラスである
請求項1又は2に記載の防曇層付き基板。
【請求項11】
基材フィルム上に、吸水性又は親水性により防曇性能を示す第1層を形成し、
前記第1層上に、前記第1層のガラス転移温度以下のガラス転移温度を有する第2層を形成し、
前記形成により得られた積層体付き基材フィルムを、基板の表面と、前記積層体付き基材フィルムに含まれる前記第2層の前記第1層と反対側の表面とが接するように、前記基板に貼合し、
前記貼合により得られた積層体付き基板から前記基材フィルムのみを剥離させる
防曇層付き基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2層のガラス転移温度は、前記第1層のガラス転移温度よりも低い
請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記貼合により得られた積層体付き基板を、50℃~140℃の温度範囲で加熱することを含む
請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、
前記積層体付き基材フィルムに含まれる前記第2層の前記第1層と反対側の表面の表面粗さが0.05μm以上となるように、前記第2層の前記表面に粗面フィルムの表面形状を転写することと、
前記基板の表面と、転写された前記表面とが接するように、前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することと
を含む
請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、
前記基材フィルムの前記第1層と反対側に配置したゴム部材を介して前記積層体付き基材フィルムを前記基材フィルム側から加圧することで、前記積層体付き基材フィルムを前記基板に圧着させることを含む
請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、
前記基材フィルムの前記第1層と反対側に配置した多孔質部材を介して前記積層体付き基材フィルムを前記基材フィルム側から加圧することで、前記積層体付き基材フィルムを前記基板に圧着させることを含む
請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防曇層付き基板及び防曇層付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や自動車の窓ガラスにおいて、ガラス板の表面上に、曇りを防止する防曇膜を設ける場合がある。例えば特許文献1には、ウィンドシールドに貼り付けられる防曇シートが開示されている。上述の特許文献1には、防曇シートの断面形状を、防曇層側の辺が基材側の辺よりも短い台形状にすることで剥離を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上述の特許文献1に記載の防曇シートでは、防曇層の膜厚が端部にかけて薄くなることで防曇性能が低下し、湿潤環境での端部領域の光のぎらつき、いわゆるレンズ効果が生じるという問題があった。
【0005】
本開示の目的は、上述した課題に鑑み、レンズ効果を抑えつつ防曇層の耐剥離性を向上できる防曇層付き基板及び防曇層付き基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下[1]~[10]の構成を有する防曇層付き基板を提供する。
[1]少なくともX軸方向に延伸する基板と、
前記基板の主面上に形成される防曇層と
を備え、
前記防曇層は、前記基板側に配置される下部と、前記下部の前記基板と反対側に配置される上部とからなり、
断面視において、前記上部の前記基板と反対側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第1の点と、前記下部の前記基板側の端辺におけるX軸正方向側の端点である第2の点とを結ぶ第1側端辺は、前記上部と前記下部との境界において、X軸との間の角度が変化する第1境界点を含み、
前記第1側端辺のうち、前記第1境界点と前記第2の点とを結ぶ第1下部側端辺は、前記第1側端辺のうち、前記第1の点と前記第1境界点とを結ぶ第1上部側端辺よりもX軸正方向に突出し、
前記第1境界点は、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想直線よりも、X軸負方向に位置する
防曇層付き基板。
[2]断面視において、前記第2の点は前記第1境界点よりも、X軸正方向に50μm以上400μm以下突出する
[1]の防曇層付き基板。
[3]前記第1上部側端辺は、X軸と垂直である
[1]又は[2]の防曇層付き基板。
[4]前記第1下部側端辺は、前記第1境界点と前記第2の点とを結ぶ仮想直線よりもX軸負方向に凹んだ湾曲形状を有する
[1]から[3]のいずれかの防曇層付き基板。
[5]前記断面視において、前記防曇層の前記第1側端辺はステップ形状を有する
[1]から[3]のいずれかの防曇層付き基板。
[6]平面視において、前記下部は波状の外縁を有する
[1]から[5]のいずれかの防曇層付き基板。
[7]断面視において、前記上部の前記基板と反対側の端辺におけるX軸負方向側の端点である第3の点と、前記下部の前記基板側の端辺におけるX軸負方向側の端点である第4の点とを結ぶ第2側端辺は、前記上部と前記下部との境界において、X軸との間の角度が変化する第2境界点を含み、
前記第2側端辺のうち、前記第2境界点と前記第4の点とを結ぶ第2下部側端辺は、前記第2側端辺のうち、前記第3の点と前記第2境界点とを結ぶ第2上部側端辺よりもX軸負方向に突出し、
前記第2境界点は、前記第3の点と前記第4の点とを結ぶ仮想直線よりも、X軸正方向に位置する
[1]から[6]のいずれかの防曇層付き基板。
[8]前記上部はフィラーを含有し、
前記下部は、前記フィラーを含有していない、又は前記上部よりも前記フィラーの含有率が低い
[1]から[7]のいずれかの防曇層付き基板。
[9]前記上部は、第1硬化性樹脂を含む硬化性成分の硬化物であり、
前記下部は、第2硬化性樹脂を含む硬化性成分の硬化物であり、
前記第1硬化性樹脂と、前記第2硬化性樹脂とが、同一の反応性官能基を有する
[1]から[8]のいずれかの防曇層付き基板。
[10]自動車用窓ガラスである[1]から[9]のいずれかの防曇層付き基板。
【0007】
また本開示は、以下[11]~[15]の構成を有する防曇層付き基板の製造方法を提供する。
[11]基材フィルム上に、吸水性又は親水性により防曇性能を示す第1層を形成し、
前記第1層上に、前記第1層のガラス転移温度以下のガラス転移温度を有する第2層を形成し、
前記形成により得られた積層体付き基材フィルムを、基板の表面と、前記積層体付き基材フィルムに含まれる前記第2層の前記第1層と反対側の表面とが接するように、前記基板に貼合し、
前記貼合により得られた積層体付き基板から前記基材フィルムのみを剥離させる
防曇層付き基板の製造方法。
[12]前記第2層のガラス転移温度は、前記第1層のガラス転移温度よりも低い[11]の製造方法。
[13]前記貼合により得られた積層体付き基板を、50℃~140℃の温度範囲で加熱することを含む[11]又は[12]の製造方法。
[14]前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、
前記積層体付き基材フィルムに含まれる前記第2層の前記第1層と反対側の表面の表面粗さが0.05μm以上となるように、前記第2層の前記表面に粗面フィルムの表面形状を転写することと、
前記基板の表面と、転写された前記表面とが接するように、前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼り合わせることと
を含む[11]から[13]のいずれかの製造方法。
[15]前記積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、前記基材フィルムの前記第1層と反対側に配置したゴム部材を介して前記積層体付き基材フィルムを基材フィルム側から加圧することで、前記積層体付き基材フィルムを前記基板に圧着させることを含む[11]から[14]のいずれかの製造方法。
[16]積層体付き基材フィルムを前記基板に貼合することは、基材フィルムの前記第1層と反対側に配置した多孔質部材を介して積層体付き基材フィルムを基材フィルム側から加圧することで、積層体付き基材フィルムを前記基板に圧着させることを含む[11]から[15]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、レンズ効果を抑えつつ防曇層の耐剥離性を向上できる防曇層付き基板及び防曇層付き基板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態にかかる防曇層付き基板の模式断面図である。
【
図2】本実施形態にかかる側端部領域の拡大断面図である。
【
図3】本実施形態にかかる側端部領域の拡大断面図である。
【
図4】本実施形態にかかる下部側端辺の拡大断面図である。
【
図5】本実施形態にかかる側端部領域の拡大断面図である。
【
図6】本実施形態にかかる側端部領域の拡大断面図である。
【
図7】本実施形態の例4にかかる側端部領域の断面視の顕微鏡画像である。
【
図8】本実施形態の例4にかかる側端部領域の平面視の顕微鏡画像である。
【
図9】本実施形態の例4にかかる側端部領域の平面視の顕微鏡画像である。
【
図10】本実施形態にかかる防曇層付き基板の製造の流れの一例を示す図である。
【
図11】本実施形態にかかる防曇層付き基板の製造の流れの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。なお、各実施形態において、平行、水平、垂直などの方向には、本開示の効果を損なわない程度のずれが許容される。
【0011】
以下の実施形態において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向及びZ軸に平行な方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な平面、並びにZ軸方向及びX軸方向に平行な平面である。
【0012】
以下の実施形態において、Z軸正方向側を「上」と称し、Z軸負方向側を「下」と称する。またX軸正方向側を「右」と称し、X軸負方向側を「左」と称する。またY軸正方向側を「奥」と称し、Y軸負方向側を「手前」と称する。
【0013】
以下の実施形態において「平面図」はXY平面を指し、「平面視」はXY平面を見ることを指す。また以下の実施形態における「断面図」はZX平面を指し、「断面視」はZX平面を見ることを指す。
【0014】
以下の実施形態において、特に明記しない限り、「基板の主面」は、基板の側面を除く、面積の大きい面を指す。
【0015】
以下の実施形態において、主面を有する構造体は、厚みに応じて、「板」、「フィルム」および「シート」等と称する。以下の実施形態では、これらを明確には区別しない。したがって、以下の実施形態で言う「フィルム」に「シート」又は「板」が含まれる場合がある。また以下の実施形態で言う「板」に「シート」又は「フィルム」が含まれる場合がある。
【0016】
以下の実施形態において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0017】
まず本実施形態にかかる防曇層付き基板100について説明する。
図1は、本実施形態にかかる防曇層付き基板100の模式断面図である。防曇層付き基板100は、自動車等の車両用又は建築用の窓ガラスとして使用できる。一例として、防曇層付き基板100は、自動車用フロントガラスである。また防曇層付き基板100は、液晶パネル等の表示装置のガラスパネル、又はショーケースのガラス扉として使用できる。防曇層付き基板100は、基板10と防曇層12とを備える。
【0018】
(基板10)
基板10は、可視光が透過する透明な板状、シート状又はフィルム状の部材である。当該基板10としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂基板;無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルカリホウケイ酸ガラス又はアルミノシリケートガラスやこれらの合わせガラス、複層ガラス等のガラス基板や、透明セラミックス、サファイア等の無機基板が挙げられる。耐久性や防曇層との密着性の点から、中でもガラス基板が好ましい。
また、基板10は上記合わせガラス、複層ガラスなどのように2以上の基板を含む積層基板であってもよい。当該積層基板は、2つの基板間に接着剤層などを有していてもよい。
【0019】
基板10の可視光透過率は、例えば30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0020】
基板10の主面は、X軸方向及びY軸方向に延伸する。基板10の主面は、XY平面と平行な平板状であってもよいし、Z軸方向に湾曲した曲面形状であってもよい。また基板10の厚み方向は、Z軸方向である。以下では、基板10のZ軸正方向側、つまり上側の主面を第1主面1と呼ぶ。第1主面1は、下部20の下側の主面でもある。また基板10のZ軸負方向側、つまり下側の主面を第2主面2と呼ぶ。
【0021】
(防曇層12)
防曇層12は、基板10の第1主面1上に形成され、少なくとも基板10と反対側の表面が防曇性を有する層である。基板10と反対側の表面は、換言すると、空気界面である。つまり防曇層12の空気界面は防曇性を有するところ、防曇層12のその他の部分は防曇性を有してもよいし、有しなくてもよい。本実施形態において防曇層12は、当該防曇層12の空気界面を親水性とし、水の濡れ性を向上して防曇性を発揮するもの;前記防曇層12が空気界面に付着した水滴を吸収して防曇性を発揮するもの;などが挙げられる。
【0022】
平面視において、防曇層12は、基板10の第1主面1と同じか、基板10の第1主面1よりも小さい領域に形成される。防曇層12は、基板10側に配置される下部20と、下部20の、基板10と反対側に配置される上部30とからなる。尚、防曇層12から見て、基板10側は「下」であり、「基板10と反対側」は「上」である。
【0023】
(上部30)
上部30は、吸水性又は親水性樹脂を含むことが好ましい。なお本実施形態においては吸水性と親水性とは明確に区別されるべきものではなく、吸水性と親水性を兼ね備える樹脂を用いてもよい。
【0024】
<吸水性又は親水性樹脂>
本実施形態において吸水性樹脂は、当該樹脂を用いた上部30の吸水率が1%以上であるものをいう。吸水率は、JIS K 7209:2000(A法)に準拠して測定した値をいう。また、本実施形態において親水性樹脂は、当該樹脂を用いた上部30の表面に対しθ/2法で測定された水接触角が30°以下であるものをいう。上部30は上記少なくとも一方を満たす樹脂の中から適宜選択して形成することができる。
【0025】
吸水性又は親水性樹脂としては、親水性基や親水性連鎖(ポリオキシエチレン基など)を有する樹脂が挙げられる。前記親水性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホニル基、アミド基、アミノ基、第四級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基が挙げられる。
【0026】
吸水性又は親水性樹脂は線状重合体であっても非線状重合体であってもよいが、耐久性等の面から3次元網目構造を有する非線状重合体である硬化樹脂であることが好ましい。飽和吸水量や水分拡散係数を増大させる点では、吸水性又は親水性樹脂は、線状重合体である硬化樹脂を含むことが好ましい。ここで、前記硬化樹脂は硬化性成分の硬化物である。硬化性成分とは反応性基を有する化合物(モノマー、オリゴマー、ポリマーなど、以下、硬化性樹脂ともいう)と硬化剤との組み合わせをいう。
【0027】
吸水性又は親水性樹脂が硬化樹脂である場合、前記硬化性樹脂は第1硬化性樹脂とも称する。この場合、硬化性成分は、1個以上の反応性官能基を有する硬化性樹脂と、硬化剤との組み合わせが好ましい。硬化性樹脂は熱硬化性であっても光硬化性であってもよい。反応性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリル基などの重合性不飽和基を有する基;エポキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、メチロール基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基などが挙げられる。なかでも、エポキシ基、カルボキシル基および水酸基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。前記硬化剤は、硬化性樹脂が有する反応性官能基の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
上部30の親水性又は吸水性は、吸水性又は親水性樹脂中に含まれる上記親水性基や親水性連鎖の数により調整することができる。また、上部30の飽和吸水量および水分拡散係数は、吸水性又は親水性樹脂の種類や3次元網目構造による。3次元網目構造は、例えば、樹脂の架橋度にも依存する。ある単位量当たりの吸水性又は親水性樹脂に含まれる架橋点の数が多ければ、吸水性樹脂が緻密な3次元網目構造となり、保水のための空間が小さくなるため、飽和吸水量が小さくなると考えられる。また、水分拡散係数も小さくなると考えられる。一方、単位量当たりに含まれる架橋点が少なければ、保水のための空間が大きくなり、飽和吸水量が大きくなると考えられる。また、水分拡散係数も大きくなると考えられる。これらを考慮して、上部30の親水性又は吸水性を調整することができる。
【0029】
上部30は、吸水性又は親水性樹脂のみからなるものであってもよく、更に他の成分を含有するものであってもよい。他の成分としては、機械強度を向上するためのフィラー、親水性付与のための樹脂ではない親水性成分(イオン性液体:アミノシランなど)、親水性又は吸水性に乏しい樹脂、防汚性付与のための撥水性樹脂(フッ素基)、下部20や基板10との密着性を向上するためのカップリング剤、その他、レベリング剤、消泡剤、粘度調整剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤などが挙げられる。
【0030】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、無機フィラーが好ましい。無機フィラーは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ITO(酸化インジウムスズ)等が挙げられ、シリカが好ましい。尚、フィラーを含有することで、機械的強度を向上させ、耐剥離性及び耐摩耗性を向上させやすくなる。機械的強度を向上させ、耐剥離性及び耐摩耗性を向上させるためには、フィラーの量は、上部30全量に対して5~10質量%が好ましい。また、フィラーによりガラス転移温度を調整することができる。
【0031】
フィラーの平均粒子径は0.01~0.3μmが好ましく、0.01~0.1μmがより好ましい。平均粒子径は、電子顕微鏡などの断面画像により測定した場合の面積基準のメジアン径である。
【0032】
上部30における、吸水性又は親水性樹脂の割合は、60~100質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。
【0033】
上部30は中でも、吸水性樹脂を含むことが好ましい。上部30が水分を吸収することで、長時間防曇性を維持することができる。更に長時間防曇性を維持する点から、上部30の飽和吸水量が200mg/cm3以上であることが好ましい。尚、飽和吸水量は、国際公開第2019/082695号に記載されている測定方法によるものである。また上部30は、JIS K 7209に規定された方法により温度0℃で測定される水分拡散係数が8×10-14m2/s以上であることが好ましい。また、上部30の厚みは2~50μmが好ましい。2μm以上であれば、十分な吸水性が確保され、長時間にわたり防曇性を維持できる。
【0034】
(下部20)
下部20は、基板10と上部30との間に配置される層である。下部20は、上部30と同じ成分からなってもよく、吸水性又は親水性が上部30より低くてもよい。例えば下部20の飽和吸水量は10mg/cm3以下が好ましい。また、下部20の表面に対しθ/2法で測定された水接触角が30°超過90°以下が好ましい。
【0035】
下部20は、上部30及び基板10との密着性の観点から、硬化樹脂を含むことが好ましい。ここで、硬化樹脂は、硬化性成分の硬化物であり、硬化性成分は、1個以上の反応性官能基を有する第2硬化性樹脂と、硬化剤との組合せをいう。下部20の含む硬化樹脂としては、前記親水性基及び親水性連鎖の割合が、上部30の含む吸水性又は親水性樹脂よりも低いものの中から適宜選択して用いることができる。反応性官能基及び硬化剤は、前記上部30と同様のものが挙げられる。
【0036】
第2硬化性樹脂は、第1硬化性樹脂と同一の反応性官能基を有する、もしくは第1硬化性樹脂と反応しうる反応性官能基を有することが好ましい。これにより、下部20を形成する第2硬化性樹脂の一部と、上部30を形成する第1硬化性樹脂の一部とが、硬化剤を介して架橋するため、上部30と下部20の密着性が格段に向上する。
【0037】
下部20は、第2硬化性樹脂を含む硬化性成分の硬化物のみからなるものであってもよく、更に他の成分を含有するものであってもよい。他の成分としては、機械強度を向上するためのフィラー、上部30や基板10との密着性を向上するためのカップリング剤、その他、レベリング剤、消泡剤、粘度調整剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤などが挙げられる。
【0038】
下部20は、上部30よりも、少なくとも右側の側端部領域40において右側に突出した構造を有する。本実施形態では、下部20は、右側の側端部領域40の突出に加えて、左側の側端部領域40’において左側に突出した構造を有するが、左側の側端部領域40’は突出していなくてもよい。下部20が上部30よりも左右の少なくとも一方において突出することで、基板10との接触面積が増加する。これにより防曇層12の耐剥離性が向上する。
【0039】
また下部20は、成膜後硬化前の段階では、損失正接(tanδ)が上部30よりも高くなるように設計されてもよい。成膜後硬化前の段階とは、防曇層12が後述する転写法を用いて形成される場合は、下部20を構成する液状組成物が基材フィルムに塗布し乾燥された段階である。したがって粘弾性の高い下部20が、基板10と上部30との密着性を高めることで、防曇層12の耐剥離性を向上できる。
【0040】
また下部20は、成膜後硬化前の段階では、上部30のガラス転移温度以下となるように設計されてもよく、上部30よりもガラス転移温度が低くなるように設計されてもよい。下部20と上部30との間のガラス転移温度の差は、5℃~200℃が好ましく、30℃~100℃がより好ましい。また下部20のガラス転移温度は、25℃~150℃が好ましく、30℃~110℃がより好ましい。
【0041】
ここで上部30がフィラーを含有する場合、下部20は、フィラーを含有していないか、上部30よりも低い含有率でフィラーを含有してよい。下部20のフィラーの含有率を上部30よりも低くすることで、下部20のガラス転移温度を上部30よりも低くすることができる。これにより、焼成時に上部30は硬く崩れにくくなる一方で、下部20は軟化し溶融しやすくなる。結果として、下部20が上部30よりも左右方向に突出した防曇層12が形成できる。
【0042】
尚、後述する転写法を用いて防曇層12を形成する場合は、基材フィルム上に上部30を構成する第1層及び下部20を構成する第2層が積層された積層体付き基材フィルムを形成し、積層体付き基材フィルムを基板10に貼合させる。例えば基材フィルムの第1層と反対側に配置したゴム部材または多孔質部材を介して積層体付き基材フィルムを基材フィルム側から加圧することで、積層体付き基材フィルムを基板10に圧着させることができる。
【0043】
基板への貼合の際に積層体付き基材フィルムの基材フィルム側に配するゴム部材としては特に限定されるものはなく、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム)、クロロプレンゴムなどが挙げられる。耐熱性からシリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム)が好ましい。
【0044】
基板への貼合の際に積層体付き基材フィルムの基材フィルム側に配する多孔質部材としては特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリウレタン系の多孔質材などが挙げられる。耐熱性、柔軟性から具体的にはLZ-2000(イノアックコーポレーション社)、ハイパーシートガスケット(日本ゴア社)、ATR-32(イノアックコーポレーション社)などが好ましい
【0045】
本図における面3は、下部20と上部30との間の境界面である。面3は、下部20の上側の主面でもあり、上部30の下側の主面でもある。また本図における面4は、上部30の上側の主面である。
【0046】
次に、防曇層12の側端部領域の形状について、
図2を用いて説明する。
図2は、
図1に示す防曇層付き基板100の右側の側端部領域40の拡大断面図である。ここで側端部領域40における防曇層12の断面形状は、上底辺34、右側の側端辺50、及び下底辺24によって画定される。
【0047】
上底辺34は、面4上に配置され、断面視における上部30の上側の端辺である。上底辺34は、右側の端点として第1の点35を含む。
【0048】
下底辺24は、第1主面1上に配置され、断面視における下部20の下側の端辺である。下底辺24は、右側の端点として第2の点25を含む。第2の点25は、境界点54よりも右側に突出した位置にある。境界点54は、側端辺50とX軸との間の角度θが変化する点である。特に境界点54に対する第2の点25の突出幅は、34μm~400μmが好ましく、50μm~400μmがより好ましく、50μm~100μmがさらに好ましい。上記突出幅を400μm以下にすることで、下部20の突出部分が平面視で目立ちにくくなる。また上記突出幅を100μm以下にすることで、下部20が平面視でさらに目立ちにくくなる。一方、上記突出幅を34μm以上にすることで、湿熱環境下での耐剥離性が向上する。また上記突出幅を50μm以上にすることで、湿熱環境下での耐剥離性及び耐摩耗性がさらに向上する。
【0049】
側端辺50は、第1側端辺とも称される。側端辺50は、防曇層12の右側端の側端辺である。具体的には、側端辺50は、防曇層12の右側端において、断面視で第1の点35と第2の点25とを結ぶ辺である。側端辺50は、上部30と下部20との境界において、右側の境界点54を含む。境界点54は、第1境界点とも称される。境界点54は、面3と側端辺50とが交差する点である。境界点54は、第1の点35と第2の点25とを結ぶ仮想直線VLよりも、左側に位置する。
【0050】
側端辺50は、上部側端辺52と下部側端辺51とから構成される。上部側端辺52は、第1上部側端辺とも称される。上部側端辺52は、防曇層12に含まれる上部30の右側端の辺である。具体的には、上部側端辺52は、側端辺50のうち、第1の点35と境界点54とを結ぶ辺である。
図2では上部側端辺52は、断面視においてX軸と垂直、つまりZ軸と平行である。「X軸と垂直」とは、上部側端辺52とX軸との間の角度が90°であることを指してもよいし、製造誤差±5°を考慮して85°~95°であることを指してもよい。これにより上部30は、厚みが左右方向でほぼ変化しないため、左右方向でほぼ一様の防曇性能を有する。したがっていわゆるレンズ効果と呼ばれる現象の発生を抑制できる。
【0051】
上部側端辺52は、レンズ効果の抑制の観点から、直線状であることが好ましい。しかし上部側端辺52は、レンズ効果の抑制という効果を損なわない程度に、少なくとも一部が湾曲していてもよいし、左右方向の凹部及び凸部の少なくとも一方を有してもよい。
【0052】
下部側端辺51は、第1下部側端辺とも称される。下部側端辺51は、防曇層12に含まれる下部20の右側端の辺である。具体的には、下部側端辺51は、側端辺50のうち、境界点54と第2の点25とを結ぶ辺である。下部側端辺51は、上部側端辺52よりも右側に突出している。
【0053】
ここで境界点54は、側端辺50とX軸との間の角度θが変化する点である。本実施形態1では、側端辺50は、境界点54を境に屈曲している。さらに本実施形態1では、下部側端辺51とX軸との間の角度θ2が、上部側端辺52とX軸との間の角度θ1よりも小さい。これにより角度θ2と角度θ1とが同じか、角度θ2が角度θ1よりも大きい場合に比べて、上部30の左右方向での膜厚変化を抑えつつ、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を増やすことができる。したがって、レンズ効果の抑制と、湿熱環境下での耐剥離性の向上を好適に実現できる。また角度θ2が小さいことで、下部側端辺51の傾斜が緩やかになり摩擦物との接触抵抗が減少する。したがって、耐摩耗性の向上を好適に実現できる。
【0054】
尚、
図2では、防曇層付き基板100の右側の側端部領域40について説明したが、左側の側端部領域40’は、右側の側端部領域40と左右略対称の構造を有してよい。
【0055】
具体的には、左側の側端部領域40’において、上底辺34は、左側の端点として第3の点(不図示)を含む。そして下底辺24は、左側の端点として第4の点(不図示)を含む。
【0056】
左側の側端辺は、第2側端辺と称される。第2側端辺は、防曇層12の左側端において、断面視で第3の点と第4の点とを結ぶ辺である。第2側端辺は、上部30と下部20との境界において、左側の境界点(不図示)を含む。左側の境界点は、第2境界点と称される。第2境界点は、面3と第2側端辺とが交差する点である。第2境界点は、第3の点と第4の点とを結ぶ仮想直線よりも、右側に位置する。
【0057】
第4の点は、第2境界点よりも左側に突出した位置にある。特に第2境界点に対する第4の点の突出幅は、34μm~400μmが好ましく、50μm~400μmがより好ましく、50μm~100μmがさらに好ましい。上記突出幅を400μm以下にすることで、下部20の突出部分が平面視で目立ちにくくなる。また上記突出幅を100μm以下にすることで、下部20の突出部分が平面視でさらに目立ちにくくなる。一方、上記突出幅を34μm以上にすることで、湿熱環境下での耐剥離性が向上する。また上記突出幅を50μm以上にすることで、湿熱環境下での耐剥離性及び耐摩耗性がさらに向上する。
【0058】
第2側端辺は、上部側端辺と下部側端辺とから構成される。第2側端辺に含まれる上部側端辺は、第2上部側端辺と称され、第2側端辺に含まれる下部側端辺は、第2下部側端辺と称される。
【0059】
第2上部側端辺は、防曇層12に含まれる上部30の左側端の辺である。具体的には、第2上部側端辺は、第2側端辺のうち、第3の点と第2境界点とを結ぶ辺である。実施形態1において、第2上部側端辺は、断面視においてX軸と垂直、つまりZ軸と平行である。これにより上部30は、厚みが左右方向でほぼ変化しないため、左右方向でほぼ一様の防曇性能を有する。したがってレンズ効果の発生を抑制できる。
【0060】
第2上部側端辺は、レンズ効果の抑制の観点から、直線状であることが好ましい。しかし第2上部側端辺は、レンズ効果の抑制という効果を損なわない程度に、少なくとも一部が湾曲していてもよいし、左右方向の凹部及び凸部の少なくとも一方を有してもよい。
【0061】
第2下部側端辺は、防曇層12に含まれる下部20の左側端の辺である。具体的には、第2下部側端辺は、第2側端辺のうち、第2境界点と第4の点とを結ぶ辺である。第2下部側端辺は、第2上部側端辺よりも左側に突出している。
【0062】
ここで第2境界点は、第2側端辺とX軸との間の角度φが変化する点である。第2側端辺は、第2境界点を境に屈曲している。さらに、第2下部側端辺とX軸との間の角度φ4が、第2上部側端辺とX軸との間の角度φ3よりも小さい。
【0063】
上述の通り、左側の側端部領域40’が右側の側端部領域40と左右略対称の構造を有している場合、防曇層12のX軸方向の長さ(幅とも呼ぶ)は、下側に向かうほど単調増加する。本明細書において単調増加は、下側に向かうほど幅が増加することはもちろん、一部において、下側に向かっても幅の変化が無いことを含んでよい。また単調増加は、一部において幅が減少することを含んでもよい。
【0064】
尚、
図2では下部側端辺51は略直線であったが、湾曲していてもよい。
図3は、本実施形態にかかる側端部領域40の拡大断面図である。
図3の側端部領域40は、
図2の側端部領域40と基本的には同様の構造を有するが、下部側端辺51が湾曲形状を有する点で相違する。下部側端辺51は、右側に向かうほど第1主面1に漸近する。
【0065】
ここで
図4を用いて、下部側端辺51の湾曲形状についてさらに具体的に説明する。
図4は、本実施形態にかかる下部側端辺51の拡大断面図である。
図4に示す仮想直線VL2は、境界点54と第2の点25とを結ぶ仮想直線である。下部側端辺51は、仮想直線VL2よりも左側に凹むように湾曲する。尚、仮想直線VL2は、
図2の下部側端辺51に対応する。ここで
図4に示す角度θ
2は、仮想直線VL2とX軸との間の角度である。角度θ
2は、
図3に示す角度θ
1よりも小さい。
【0066】
図4に示す点P1は、下部側端辺51上の任意の点である。また点P2は、下部側端辺51上の、点P1から右側に微小距離Δx離れた位置に存在する点である。仮想直線VL3は、点P1と点P2とを結ぶ仮想直線である。
【0067】
ここで仮想直線VL3とX軸との間の角度θ21は、Δxが微小であるため、点P1における下部側端辺51とX軸との間の角度とみることができる。角度θ21は、点P1が下側に向かうほど減少する。
【0068】
このように下部側端辺51が右側に向かうほど第1主面1に漸近する構造をとることで、突出した部分の体積、つまり突出量が漸近構造でない場合と同じであっても境界点54に対する第2の点25の突出幅をより増やすことができる。また上記漸近構造により下部20の膜厚が抑えられて下部20が目立ち難いため、突出幅をより増やすことができる。したがって効率よく接触面積を増やし湿熱環境下での耐剥離性を向上することができる。また上記漸近構造により、下部側端辺51の傾斜が緩やかになり摩擦物との接触抵抗が減少する。したがって耐摩耗性を向上することができる。
【0069】
また、
図2では上部側端辺52は断面視においてX軸と垂直、つまりZ軸と平行であったが、Z軸から所定量傾いてもよい。
図5は、本実施形態にかかる側端部領域40の拡大断面図である。
【0070】
図5では、上部側端辺52とX軸との間の角度θ
1は、60°より大きく90°より小さい。尚、角度θ
1は、下部側端辺51とX軸との間の角度θ
2よりも大きいため、上部30の裾野が広がりすぎることが抑制できる。したがって
図5に示す構造によっても、上部30の左右方向での膜厚変化を抑えつつ、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を増やすことができる。したがって、レンズ効果を抑えつつ湿熱環境下での耐剥離性を向上できる。また
図5に示す構造によっても、角度θ
2が小さいため、下部側端辺51の傾斜が緩やかになり摩擦物との接触抵抗が減少する。したがって耐摩耗性を向上できる。
【0071】
また、側端部領域40は、断面視において、ステップ形状を有してもよい。一例としてステップ形状は、θ1≒90°かつθ2≒90°である形状であってよい。さらにステップ形状は、θ1≒θ2である形状であってよい。尚、「≒」は、±5°の誤差を含んでよい。
【0072】
図6は、本実施形態にかかる側端部領域40の拡大断面図である。下部側端辺51は、境界点54と第2の点25との間に、X軸との間の角度θ
2が変化する変曲点55を有する。変曲点55は、面3上にあるが、上部30と下部20との境界には位置していない。下部側端辺51は、変曲点55を境に、1次下部側端辺51Aと2次下部側端辺51Bとに分けられる。つまり
図6に示すように側端部領域40がステップ形状である場合、角度θ
2は、2次下部側端辺51BとX軸とのなす角度である。変曲点55は、仮想直線VLよりも右側に位置してよい。
【0073】
1次下部側端辺51Aは、境界点54と変曲点55とを結ぶ辺である。1次下部側端辺51AはX軸に平行である。「X軸と平行」とは、1次下部側端辺51AとX軸との間の角度が0°であることを指してもよいし、製造誤差±5°を考慮して-5°~5°であることを指してもよい。
【0074】
2次下部側端辺51Bは、変曲点55と第2の点25を結ぶ辺である。2次下部側端辺51Bは、X軸に垂直、つまりZ軸と平行である。
【0075】
図6に示す構造によっても、第2の点25が境界点54よりも右側に突出しているため、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を増やすことができる。したがって湿熱環境下での耐剥離性が向上できる。また第1の点35と境界点54のX軸方向の位置が近くなり、上部30の左右方向での膜厚変化が抑えられているため、レンズ効果を抑制しつつ、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を増やすという構造を好適に実現できる。また側端辺50がステップ形状を有することで摩擦物との接触抵抗が減少する。したがって耐摩耗性を向上できる。
【0076】
尚、下部20の膜厚を抑え目立ちにくくしつつ、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を好適に増やすためには、
図2及び
図3に示す側端部領域40が好ましく、特に
図3に示す側端部領域40がより好ましい。
【実施例0077】
発明者らは、上述した防曇層12の構造の、防曇性能、湿熱環境下で耐剥離性、及び耐摩耗性への影響を検証するために、以下の実施例を実施した。例1~例5、8、11、12が実施例、例6、7、9、10が比較例である。
【0078】
[評価項目と評価方法]
各例において、防曇層付き基板100として得られた積層体に対して、以下の評価項目について、以下の評価方法で評価した。
【0079】
(構造の評価)
<角度θ1と角度θ2の大きさ>
レーザー顕微鏡(オリンパス社製「OLS5100」)を用いて、積層体の断面観察を行い、無作為に選んだ10箇所の顕微鏡像を得た。次に無作為に選んだ10箇所のX軸正方向側の断面形状から、第1の点35、境界点54、及び第2の点25を特定した。そして第1の点35と境界点54とを結ぶ直線と、基板10の主面(X軸)との間の角度を測定し、測定した角度の平均を角度θ1として求めた。また境界点54と第2の点25とを結ぶ直線と、基板10の主面との間の角度を測定し、測定した角度の平均を角度θ2として求めた。
【0080】
<防曇層12の第2の点25の突出幅>
上述の無作為に選んだ10箇所のX軸正方向側の断面形状から、境界点54と第2の点25との間の、基板10の主面に平行な方向における距離を測定し、測定した距離の平均を突出幅として求めた。尚、第2の点25が境界点54よりもX軸正方向側に突出している場合、突出幅を正とした。
【0081】
<仮想直線を基準とする境界点の位置>
上述の無作為に選んだ10箇所のX軸正方向側の断面形状から、基板の主面に平行な方向の、第1の点35と第2の点25とを結ぶ仮想直線を基準として、境界点54の位置を求めた。そして境界点54が仮想直線VLよりもX軸正方向側にある箇所がX軸負方向側にある箇所よりも多い場合は、境界点の位置を「R」とした。一方で、境界点54が仮想直線VLよりもX軸正方向側にある箇所がX軸負方向側にある箇所よりも少ない場合は、境界点の位置を「L」とした。尚、境界点54が仮想直線VL上に位置するか、仮想直線VLよりもX軸正方向側にある箇所がX軸負方向側にある箇所と同数である場合は、境界点の位置を「C」とした。
【0082】
(性能の評価)
<曇りによる端部の目立ちやすさ>
防曇層付き試験片を、防曇層12が上を向くように設置して、防曇層12の表面から15cmの高さの位置からスチームアイロン(ツインバード社製「SA-4082W」)の蒸気を噴射した。蒸気噴射から5秒後に端部部分の目立ちやすさを目視によって評価した。この評価は曇り環境でのレンズ効果によるぎらつきを含めた評価である。曇りの有無及び端部の目立ちやすさの評価は、官能評価である。
A:曇りが確認できなかった。
B:曇りが見られたが、端部は目立たなかった。
C:曇りやぎらつきが見られた。
D:曇りやざらつきが見られ、端部は目立っていた。
【0083】
<湿熱環境下での耐剥離性>
65℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽(ESPEC社製「PL-4J」)中に24時間保持した後、防曇層12の剥離の有無を目視で確認した。
A:剥離が確認できなかった。
B:剥離が見られたが、目立たなかった。
C:剥離が見られ、やや目立っていた。
D:剥離が見られ、目立っていた。
【0084】
<耐摩耗性>
摩擦摩耗試験機(新東化学社、トライポギアTYPE:38)を用い、アセトンで浸漬させたクリーンワイパー(旭化成ベンコットM-3II)を10mm×10mmの測定子の先端に取り付け500gの荷重を加えながら積層体端部上を往復させ削り取る摩耗試験を行った。防曇層12が徐々に削り取られて膜厚を失った長さが端部から1mmに達した回数を記録した。
【0085】
[例1]
(液状組成物の調製工程)
<液状組成物LC1の調製>
撹拌機、温度計がセットされたプラスチック容器に1-プロパノール(東京化成工業社製)を310g、EX1610を23.2g、EP4100を35.6g、Al(acac)3を23.2g、GPTMSを187g、MEK-ST-40を122gになるように添加し、さらに2-ブタノン(特級、純正化学社製)を41g添加し0.1mol/Lの硝酸(容量分析用滴定液、関東化学社製)を169g添加して120分30℃の温浴バス中で攪拌し、防曇塗工用元液を得た。その後元液に両末端トリメトキシシラン剤(アルコキシ官能基6、分子量326.5)を65.2g、レベリング剤BYK-3560(商品名、BYK社製)を1g添加し防曇層用塗液を作成した。
使用した化学物質に関しては下記に示す。
・EX1610:デナコールEX-1610(商品名、ナガセケムテックス社製、脂肪族ポリグリシジルエーテル)
・EP4100:アデカレジンEP4100(商品名、アデカ社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
・Al(acac)3:アルミニウムトリスアセチルアセトネート(純正化学社製)
・GPTMS:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)
・SiO2粒子:MEK-ST-40(商品名、シリカ粒子分散物、日産化学工業社製、SiO2含有量40質量%)
【0086】
<液状組成物LC2の調製>
ガラス容器の中で2-ブタノンを150gいれ、ST6100を56.2g、MH-700Gを10g、1B2PZを0.65g、X-12-981Sを3g、VS-1057を7.5g、ARUFON 4040を20g、両末端トリメトキシシラン剤(アルコキシ官能基6、分子量326.5)を3gいれ、完全に溶解するまで攪拌し、接着性下地塗工溶液を作成した。
使用した化学物質に関しては下記に示す。
・ST6100:サントート6100(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル社製、固体エポキシモノマー)
・MH-700G(商品名、新日本理化社製、酸無水物含有化合物)
・1B2PZ(商品名、四国化成社製、イミダゾール系硬化剤)
・X-12-981S(商品名、信越化学工業社製、ポリマー型シラン)
・VS-1057(商品名、星光PMC社製、固形アクリル重合物)
・ARUFON 4040(商品名、東亞合成社製、固形アクリル酸系重合物)
【0087】
(第2層L2の転写工程)
バーコートにより、基材フィルム60(PETフィルムA4160コスモシャイン社)に液状組成物LC2を塗布した。そして塗布膜を乾燥させることで、基材フィルム60上に厚み10μmの第2層L2を形成した。次に、第2層L2の、基材フィルム60と反対側の表面、つまり空気と触れている側の表面が、基板10(ガラス基板)の第1主面1と接するように、第2層L2付き基材フィルム60を基板10に貼合した。貼合した積層体から基材フィルム60を剥離させることで、基板10上に第2層L2を形成した。
【0088】
(第1層L1の貼合工程)
バーコートにより、基材フィルム61(PETフィルムA4160コスモシャイン社)に液状組成物LC1を塗布した。そして塗布膜を乾燥させることで、基材フィルム61上に厚み10μmの第1層L1を形成した。次に、第1層L1の、基材フィルム61と反対側の表面、つまり空気と触れている側の表面が、第2層L2の、基板10(ガラス基板)と反対側の表面、つまり空気と触れている側の表面と接するように、第1層L1付き基材フィルム61を、第2層L2付き基板10に貼合した。このとき第1層L1の端面の位置が、第2層L2の端面の位置よりも、第2層L2よりも引き込む方向に250μmずらして、第1層L1付き基材フィルム61を第2層L2付きガラス基板に貼合した。
【0089】
(加熱工程)
積層体付き基材フィルム61を貼合したガラス基板を、130℃90分加熱した。
【0090】
(離型工程)
加熱した積層体から基材フィルム61を剥離させた。これにより、基板10上に下部20が配置され、下部20上に上部30が配置された積層体が得られた。ずらし幅の詳細と構造の評価結果を表1に示す。また、性能の評価結果を表2に示す。
【0091】
[例2~例6、例11、例12]
例2~例5、例12においては、貼合時の、第2層L2に対する第1層L1のずらし幅以外は例1と同様にして、積層体を得た。ずらし幅の詳細と構造の評価結果を表1に示す。また、性能の評価結果を表2に示す。例6においては、ずらし幅0にて設置しつつマスキングテープを、得られた積層体のエッジに突き当てながら焼成し、焼成後そのマスキングテープを除いた。例11においては、第1層L1付き基材フィルムの貼合時にエッジ部分を斜め方向に切断してから第1層L1付き基材フィルム61を第2層L2付きガラス基板に貼合した。
【0092】
[例7]
ずらし幅0にて設置し、得られた積層体を焼成した後、積層体のエッジ部分をカミソリで斜め向きに切断した。構造の評価結果を表1に示す。また、性能の評価結果を表2に示す。
【0093】
[例8]
バーコートにより基板10(ガラス基板)上に液状組成物LC1を塗布した。そして塗布膜を乾燥させることで、基板10上に厚み10μmの第2層を形成した。第2層端部を65μm幅覆うようにマスキングテープを配置し、第2層上に液状組成物LC1を塗布、乾燥し10μmの第1層を形成しマスキングテープを除くことで第1層と第2層が同一成分の積層体を得た。
【0094】
[例9]
バーコートにより基板10(ガラス基板)上に液状組成物LC1を塗布した。そして塗布膜を乾燥させることで、基板10上に厚み20μmの第1層を形成した。
[例10]
バーコートにより基板10(ガラス基板)上に液状組成物LC1を塗布した。そして塗布膜を乾燥させることで、基板10上に厚み20μmの第1層を形成した。その後積層体のエッジ部分をカミソリで斜め向きに切断した。
【0095】
【0096】
【0097】
[構造の評価]
表1によれば、例1~例5、例8及び例12は、θ
1=90°、θ
2>0°、θ
1>θ
2、かつ境界点54の位置は仮想直線VLのX軸負方向側である。したがって例1~例5及び例8は、
図2又は
図3に示す構造に当てはまる。例1~例5、例8及び例12は、境界点54に対する第2の点25の突出幅が異なり、具体的には、400、100、69、50、34、65及び415μmである。
【0098】
例11はθ
1=65°、θ
2=11°、θ
1>θ
2、かつ境界点54の位置は仮想直線VLのX軸負方向側である。したがって例11は、
図5に示す構造に当てはまる。
【0099】
例6及び例9は、境界点54に対する第2の点25の突出幅が0μmであり、θ
1=θ
2=90°であり、境界点54の位置は仮想直線VLと略一致する。したがって
図2、
図3、
図5及び
図6のいずれにも当てはまらない。
【0100】
例7及び例10は、境界点54に対する第2の点25の突出幅が10μmであり、θ
1=θ
2=45°であり、境界点54の位置は仮想直線VL上にある。したがって
図2、
図3、
図5及び
図6のいずれにも当てはまらない。
【0101】
[性能の評価]
表2によれば、例1~例5、例8及び例11では、スチームアイロンの蒸気による曇りや端部のぎらつきは目立たなかったか、又は見られなかった。これらの例では、θ1が90°か90°に比較的近く、X軸方向における上部30の膜厚の変化が小さいため、レンズ効果が生じにくいからである。特に例2~例5、例8、及び例11では、スチームアイロンの蒸気による曇りや端部のぎらつきは見られなかった。例2~例5、例8及び例11では、境界点54に対する第2の点25の突出幅が100μm以下であり、下部20の突出部分に水滴が生じても曇りが目立ちにくいからである。
【0102】
例1~例5、例8及び例11では、湿熱環境下での耐剥離性が良又は優良であった。これらの例では、θ1>θ2、かつ境界点54の位置は仮想直線VLのX軸負方向側であり、上部30と下部20との接触面積に対し下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を増やすことができるからである。特に例1~例4及び例11では、湿熱環境下での耐剥離性は優良であった。例1~例4及び例11では、境界点54に対する第2の点25の突出幅が50μm以上であり、この場合、上部30と下部20との接触面積に対し下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を特に増やすことができるからである。
【0103】
例1~例5、例8及び例11では、耐摩耗性を示す回数が58回以上と良好であった。これらの例では、突出幅の増加によりθ2が小さくなり、下部側端辺51の傾斜が緩やかになることで、クリーンワイパーとの接触抵抗が低減するからである。特に例1~例4では、耐摩耗性を示す回数は555回以上であり、特に耐摩耗性に優れていた。例1~例4では、境界点54に対する第2の点25の突出幅が50μm以上であり、上述した効果が顕著となるからである。
【0104】
また、例8では、第1層は、第2層と同じ液状組成物LC1を使用して形成されており、剥離耐性及び耐摩耗性は良好であった。このことから、第1層と第2層に液状組成物LC1を用いても、本開示の効果は得られると考えられる。
【0105】
一方で、例12ではスチームアイロンの蒸気による曇りやぎらつきが見られ、目立っていた。例12では、境界点54に対する第2の点25の突出幅が415μmであり、上述した効果が弱くなったものと考えられる。なお、例12では、湿熱環境下での耐剥離性は良好であった。
【0106】
したがって曇りやレンズ効果を抑えつつ防曇層12の耐剥離性を向上するためには、境界点54に対する第2の点25の突出幅は、34μm~400μmが好ましく、50μm~400μmがより好ましく、50μm~100μmがさらに好ましい。
【0107】
また曇りやレンズ効果を抑えつつ防曇層12の耐摩耗性を向上するためには、境界点54に対する第2の点25の突出幅は、34μm~400μmが好ましく、50μm~400μmがより好ましく、50μm~100μmがさらに好ましい。
【0108】
例6では、スチームアイロンの蒸気による曇りやぎらつきは見られなかった。この例では、θ1≒90°であり、X軸方向で上部30の膜厚の変化が小さいため、レンズ効果が生じにくいからである。しかし例6では、湿熱環境下での耐剥離性はやや不良であった。例6では、境界点54の位置は仮想直線VL上にあるため、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積を充分に確保できないと考えられる。
【0109】
例7では、スチームアイロンの蒸気による曇りやぎらつきが見られ、目立っていた。この例では、θ1が90°から比較的離れており、X軸方向で上部30の膜厚に変化があるため、レンズ効果が生じたと考えられる。また例7では、湿熱環境下での耐剥離性は良であった。
【0110】
例9ではスチームアイロンの蒸気による曇りやぎらつきが見られなかったが、例10では曇りやぎらつきが見られ、目立っていた。また例9及び例10では、湿熱環境下での耐剥離性は不良であった。
【0111】
図7は、本実施形態の例4にかかる側端部領域40の断面視の顕微鏡画像である。
図8~
図9は、本実施形態の例4にかかる側端部領域40の平面視の顕微鏡画像である。
【0112】
図7に示すように、例4にかかる側端部領域40は、
図3の構造に対応し、下部側端辺51が左側に凹んで湾曲していた。
図7に示す上部30の厚みd1は11μmであり、下部20の厚みd2は9μmであった。また
図7及び
図8に示す第2の点25の突出幅w1は、表1の通り69μmであった。
【0113】
図9に示すように、例4にかかる下部20は、平面視において波状の外縁sを有していた。これにより、下部20の表面と基板10の第1主面1との間の接触面積がさらに増加するため、湿熱環境下での耐剥離性が向上する。
【0114】
尚、実施形態1にかかる防曇層付き基板100は、以下のように製造することもできる。
図10は、実施形態1にかかる防曇層付き基板100の製造の流れの一例を示す図である。
図10(a)~(e)は、各工程を示している。
【0115】
[工程1:液状組成物の調製工程]
まず上部30を構成する液状組成物LC1を用意する。また下部20を構成する液状組成物LC2を用意する。
【0116】
[工程2:第1層L1及び第2層L2の成膜工程]
そして
図10(a)に示すように、上部30を構成する液状組成物LC1を基材フィルム60に塗布し、塗布膜を乾燥することで、基材フィルム60上に吸水性又は親水性の第1層L1を形成する。第1層L1は、吸水性又は親水性により防曇性能を示す。基材フィルム60としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルム、又は上記樹脂フィルムの表面にシリコーンコーティング等の離型処理を施したフィルム等が挙げられる。
【0117】
塗布方法としては、ダイコート法、スピンコート法、フローコート法、スプレーコートおよびロールコート法等が挙げられる。塗布工程は、塗布膜が雰囲気から水分を過剰に吸収し、残存水分が防曇膜の強度を低下させることを防止するために、相対湿度(RH)が低い雰囲気下で行うことが好ましい。相対湿度(RH)は、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。塗布膜を乾燥する工程は、風乾工程を含んでよい。風乾工程は、塗布工程と同様、相対湿度(RH)が低い雰囲気下で行うことが好ましい。
【0118】
そして
図10(a)に示すように、液状組成物LC2を第1層L1上に塗布し、塗布膜を乾燥することで、第1層L1上に、第1層L1よりもガラス転移温度が低い第2層L2を形成する。塗布方法及び乾燥方法については、第1層L1の成膜時と同様である。また、第1層L1上に、さらに第1層L1を形成してもよい。
【0119】
[工程3:打ち抜き工程]
次に
図10(b)に示すように、工程2で形成した積層体付き基材フィルムを、打ち抜き刃を用いて予め定められた形状に打ち抜く。例えば防曇層付き基板100の基板10が自動車のフロントガラスである場合、フロントガラスと同形状もしくはより小さい任意の形状に、積層体付き基材フィルムを打ち抜く。
【0120】
次に、工程3で打ち抜いた積層体付き基材フィルムに含まれる、基材フィルム60以外の層を、基板10に転写する。具体的には、以下の工程4~工程6を実施する。
【0121】
[工程4:貼合工程]
次に
図10(c)に示すように、工程3で打ち抜いた積層体付き基材フィルムを、基板10に貼合する。このとき基板10の表面と、積層体付き基材フィルムに含まれる第2層L2の、第1層L1と反対側の表面とが接するように、積層体付き基材フィルムを基板10に貼合する。尚、第2層L2の、第1層L1と反対側の表面とは、第2層L2の空気に触れる方の表面である。
【0122】
尚、工程4において、基材フィルム60の第1層L1と反対側の表面に、粘弾性の緩衝材を配置させ、貼合時に押し込み部材を介して積層体付き基材フィルムを基材フィルム60側から加圧することで、積層体付き基材フィルムを基板10に圧着させてもよい。緩衝材は、ゴム部材又は多孔質部材であってよい。緩衝材で積層体付き基材フィルムを圧着させることで、圧着時の応力集中を緩和させ、圧力を面内で均一化できる。
【0123】
[工程5:加熱工程]
次に
図10(d)に示すように、工程4において基板10に積層体付き基材フィルムが貼合された積層体付き基板を加熱する。また下部20を突出させるために、加熱温度は、液状組成物LC2のガラス転移温度以上であることが好ましい。上部30の突出を回避し、かつ上部30をX軸と垂直にするために、加熱温度は、液状組成物LC1のガラス転移温度と等しいか、又はガラス転移温度未満であることが好ましい。例えば加熱温度は、50℃~140℃の温度範囲内であることが好ましい。
【0124】
[工程6:離型工程]
次に
図10(e)に示すように、工程5において加熱した積層体付き基板から基材フィルム60のみを剥離させる。これにより、基板10上に下部20が配置され、下部20上に上部30が配置され、下部20が上部30よりも突出している積層体が得られる。
【0125】
尚、工程3の打ち抜き工程は、省略されてもよい。
【0126】
また、貼合前に第2層の表面を粗面化する工程を含んでもよい。これにより下部20と基板10との間の密着性が向上する。以下の
図11を用いて、第2層の表面を粗面化する工程を含む変形例を詳細に説明する。
【0127】
図11は、実施形態1にかかる防曇層付き基板100の製造の流れの変形例を示す図である。本変形例においては、
図11(b)~
図11(c)に示すように、工程3の前に第2層の表面を粗面化する工程3’を含む。尚、
図11(a)、
図11(d)、
図11(e)、
図11(f)、
図11(g)は、それぞれ上述した工程2、3、4、5、及び6に対応する。
【0128】
[工程3’:第2層の表面を粗面化する工程]
図11(b)に示すように、工程2で形成した積層体付き基材フィルムの第2層L2の表面に、粗面フィルム62を貼合する。粗面フィルム62は、PETフィルム等の樹脂フィルムである。粗面フィルム62は、表面が艶消し又はエンボス処理が施されており、その表面粗さが0.05μm以上であってよい。表面粗さは、例えば、JIS B 0601(2013)にしたがって算出される算術平均粗さである。
【0129】
そして
図11(c)に示すように、積層体付き基材フィルムに粗面フィルム62を貼合した積層体から、粗面フィルム62を剥離させる。これにより、第2層L2の、第1層L1と反対側の表面の表面粗さが、粗面フィルム62と同等の0.05μm以上となるように、第2層L2の表面に粗面フィルム62の表面形状を転写できる。
【0130】
その後、
図11(d)に示すように、転写後の積層体付き基材フィルムを予め定められた形状に打ち抜く(工程3)。
【0131】
そして
図11(e)に示すように基板10の表面と、転写された表面とが接するように、積層体付き基材フィルムを基板10に貼合する(工程4)。これにより第2層L2の表面と基板10との間に含まれる空隙が形成される。
【0132】
そして、
図11(f)に示すように、基板10に積層体付き基材フィルムが貼合された積層体付き基板を加熱する(工程5)。このとき発生する気泡が空隙を通って除去されるため、下部20と基板10との間の密着性が向上する。
【0133】
最後に、
図11(g)に示すように、工程5において加熱した積層体付き基板から基材フィルム60のみを剥離させる(工程6)。
【0134】
ここでも工程3の打ち抜き工程は、省略されてもよい。
【0135】
尚、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば上記実施形態では、防曇層付き基板100の製造において、積層体付き基材フィルムの貼合及び基材フィルムの剥離を含む、いわゆる転写法を用いていた。しかしこれに限らず、防曇層付き基板100はマスキング法により製造されてもよい。一例としてまず基板10の表面に対して、第2層L2を形成する領域以外をマスクする。その後、基板10のマスクされていない領域に液状組成物LC2を塗布して、基板10上に第2層L2を形成する。マスクを外して第2層L2を乾燥後、第2層L2の表面の少なくとも一部に対して、第1層L1を形成する領域以外をマスクする。このとき、L2はL1よりも突出するようにマスクを設ける。その後、基板10のマスクされていない領域に液状組成物LC1を塗布して、第2層L2上に第1層L1を形成する。マスクを外して第1層L1を乾燥後、積層体を加熱する。これによっても、本実施形態の防曇層付き基板100を得ることができる。
【0136】
尚、上部30及び下部20は同種の樹脂組成物であってもよい。この場合、下部20及び上部30は、上述の転写法又は上述のマスキング法を用いて形成されてもよいし、一体的に形成されてもよい。一体的に形成される場合は、本実施形態の防曇層12の形状をくりぬいたマスクを用いて、液状組成物LC1又は液状組成物LC2を塗布し、マスク除去後に乾燥及び加熱してよい。これによっても、本実施形態の防曇層付き基板100を得ることができる。