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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182532
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20231219BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231219BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/013
C08K7/02
C08L25/04
C08L25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080429
(22)【出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022096060
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 希
(72)【発明者】
【氏名】望月 信介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC023
4J002BC053
4J002BC104
4J002BP003
4J002BP013
4J002CF061
4J002CH072
4J002DA037
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD097
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性、引張強度及び耐薬品性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリフェニレンエーテル樹脂と(C)スチレン系熱可塑性エラストマーと(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体とを含み、(A)~(D)成分の合計100質量部に対し、(A)、(B)、(C)および(D)成分の量が、それぞれ、40~90部、5~55部、3~20部、0.1~5部であり、(A)成分の相、(B)成分の相に存在する(C)成分の質量をそれぞれC、C、樹脂組成物中の(A)成分、(B)成分の質量をそれぞれ、A、Bとしたとき、C、C、AおよびBが所定の関係を満たし、(A)成分の相中に分散する(B)成分の相の平均粒径が0.1~5μmである、樹脂組成物。(A)成分と(C)成分を溶融混練物として含み得る、当該樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂と、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーと、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体と、
を含む樹脂組成物であって、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂、(C)スチレン系熱可塑性エラストマーおよび(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の合計100質量部に対し、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の量が、40~90質量部であり、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の量が、5~55質量部であり、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの量が、3~20質量部であり、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の量が、0.1~5質量部であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に存在する(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相中に存在する(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
前記樹脂組成物中の(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の質量をA
前記樹脂組成物中の(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の質量をBとしたとき、
/Cの質量比率とA/Bの質量比率の関係が、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.90
であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に分散する(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相の平均粒径が0.1~5μmである、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーが、水素添加ブロック共重合体及び当該水素添加ブロック共重合体の変性物からなる群より選択される1種以上であり、
前記水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されている、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーが、アミノ基または無水マレイン酸基で変性されたスチレン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記関係が、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.50
である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合体ブロックAの数平均分子量(Mn)が、5,000~28,000である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記重合体ブロックBの数平均分子量(Mn)が、20,000~150,000である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
水素添加前の前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマー中におけるビニル芳香族化合物単位の含有量が、30~50質量%である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーは、含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が25%以上60%以下である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加率が60%以上100%以下である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーは、GPC測定による標準ポリスチレン換算の水素添加後の分子量ピークが10,000~250,000である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加前の分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.50である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーは、変性されていない水素添加ブロック共重合体と変性された水素添加ブロック共重合体との質量比が1:9~9:1である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂および前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーを、それら2成分の溶融混練物として含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーが、アミノ基または無水マレイン酸基で変性されたスチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相の平均粒径は、0.5μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
さらに、(E)添加剤を含み、
前記(E)添加剤は、無機フィラー及び着色剤からなる群から選択される、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
前記(E)添加剤は、ガラス繊維及びカーボンブラックからなる群から選択される、請求項16に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、単に「PET」と称する場合がある)は、ガスバリア性および耐薬品性に優れているほか、耐油性および高い強度も有するため、ボトル容器をはじめとする食品包装容器および衣類向けの繊維用途に幅広く用いられている樹脂である。ところが、ポリエチレンテレフタレート単体では非常に脆く、ガラス繊維で補強する検討が従来行われているものの、十分な耐衝撃性を付与させることが難しいのが現状である。
【0003】
これに対して、ポリエチレンテレフタレートにポリフェニレンエーテル、エラストマー、及び相溶化剤を添加したり(特許文献1)、ポリエチレンテレフタレートとは異なる構造のポリエステルエラストマーを共重合させたり(特許文献2)して、樹脂組成物の耐衝撃性を向上させる検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07-118516号公報
【特許文献2】特許第3982582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術を用いた場合、樹脂組成物にある程度の耐衝撃性を付与させることが可能になるが、ポリエチレンテレフタレートが本来持つ結晶性を損なう可能性があり、ポリエチレンテレフタレートが持つ引張強度および耐薬品性といった長所を維持することが困難となる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、耐衝撃性、引張強度、及び耐薬品性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂と、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーと、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体と、
を含む樹脂組成物であって、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂、(C)スチレン系熱可塑性エラストマーおよび(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の合計100質量部に対し、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の量が、40~90質量部であり、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の量が、5~55質量部であり、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの量が、3~20質量部であり、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の量が、0.1~5質量部であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に存在する(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相中に存在する(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
前記樹脂組成物中の(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の質量をA
前記樹脂組成物中の(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の質量をBとしたとき、
/Cの質量比率とA/Bの質量比率の関係が、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.90
であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に分散する(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相の平均粒径が0.1~5μmである、樹脂組成物。
[2]
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーが、水素添加ブロック共重合体及び当該水素添加ブロック共重合体の変性物からなる群より選択される1種以上であり、
前記水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されている、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記(C)スチレン系熱可塑性エラストマーが、アミノ基または無水マレイン酸基で変性されたスチレン系熱可塑性エラストマーを含む、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記関係が、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.50
である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐衝撃性、引張強度、及び耐薬品性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に例示説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
以下、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体および(E)その他の添加剤をそれぞれ、単に(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分という場合がある。また、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を単に「4成分」という場合がある。
【0011】
本明細書において、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されてなる水素添加ブロック共重合体及びその変性物を、単に「水添ブロック共重合体」という場合がある。また、変性していない水素添加ブロック共重合体を「未変性水素添加ブロック共重合体」、水素添加ブロック共重合体の変性物を「変性水素添加ブロック共重合体」という場合がある。
【0012】
本明細書において、共役ジエン化合物単位における1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計を「全ビニル結合」という場合がある。
【0013】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂と、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂と、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーと、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体と、
を含む樹脂組成物であって、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂、(c)スチレン系熱可塑性エラストマーおよび(d)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の合計100質量部に対し、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の量が、40~95質量部であり、
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の量が、5~60質量部であり、
(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの量が、3~20質量部であり、
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体の量が、0.1~5質量部であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に存在する(C)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相中に存在する(c)スチレン系熱可塑性エラストマーの質量をC
前記樹脂組成物中の(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の質量をA
前記樹脂組成物中の(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の質量をBとしたとき、
/Cの質量比率とA/Bの質量比率の関係が、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.90
であり、
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂の相中に分散する(B)ポリフェニレンエーテル樹脂の相の平均粒径が0.1~5μmである。
【0014】
以下、本実施形態の樹脂組成物の成分について記載する。
【0015】
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂
本発明で用いられる(A)成分は、テレフタル酸とエチレングリコールから主に構成される。
【0016】
(A)成分は、テレフタル酸以外の酸成分として、例えば、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸及びその酸無水物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0017】
また、(A)成分は、エチレングリコール以外のアルコール成分として、例えば、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール等の脂環族ジオール;ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等の芳香族ジオール;4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0018】
テレフタル酸以外の酸成分およびエチレングリコール以外のアルコール成分の量は、適宜調節すればよく、(A)成分の特性を損なわない範囲で用いることが好ましい。テレフタル酸以外の酸成分の量は、(A)成分を構成する酸成分100モル%に対して、5モル%未満とすることが好ましい。エチレングリコール以外のアルコール成分の量は、(A)成分を構成するアルコール成分100モル%に対して、5モル%未満とすることが好ましい。テレフタル酸以外の酸成分の量およびエチレングリコール以外のアルコール成分の量が、5モル%未満であることにより、機械的特性、結晶性および流動性を維持することができる。
【0019】
また、(A)成分の、フェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))混合溶媒中30℃で測定した固有粘度は、0.05~1.20dl/gであることが好ましく、流動性と機械的特性のバランスを取る観点から、0.10~1.00dl/gであることがさらに好ましい。
【0020】
また、(A)成分の一部または全部に、使用済みのボトルまたはフィルムの端材を洗浄および粉砕したポリエチレンテレフタレートを用いることができる。
【0021】
(A)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(A)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、40~90質量部である。一実施形態では、(A)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、45質量部以上、50質量部以上、55質量部以上、60質量部以上、65質量部以上、70質量部以上、75質量部以上、80質量部以上または85質量部以上である。別の実施形態では、(A)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、90質量部以下、85質量部以下、80質量部以下、75質量部以下、70質量部以下、65質量部以下、60質量部以下、55質量部以下または50質量部以下である。
【0023】
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂
本発明で用いられる(B)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリフェニレンエーテルおよび変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0024】
(B)成分の還元粘度は、樹脂組成物の難燃性を更に向上させる観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、0.28dL/g以上であることが更に好ましく、また、0.60dL/g以下であることが好ましく、0.57dL/g以下であることが更に好ましく、0.55dL/g以下であることが特に好ましい。還元粘度は、重合時間または触媒量により制御することができる。
【0025】
還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃で、ウベローデ型粘度管で測定することができる。
【0026】
-ポリフェニレンエーテル-
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、下記式(1)で表される繰り返し単位構造からなる単独重合体、及び式(1)で表される繰り返し単位構造を有する共重合体からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【化1】

[式中、R31、R32、R33、及びR34は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~7の第1級のアルキル基、炭素原子数2~7の第2級のアルキル基、フェニル基、炭素原子数2~7のハロアルキル基、炭素原子数2~7のアミノアルキル基、炭素原子数2~7の炭化水素オキシ基、及び少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群より選ばれる一価の基である。]
【0027】
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等の単独重合体;2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール等の他のフェノール類との共重合物等の共重合体等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合物が好ましく、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が更に好ましい。
【0028】
ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、公知の方法を用いることができる。ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、例えば、第一銅塩とアミンとのコンプレックスを触媒として用いて、2,6-キシレノールを酸化重合することによって製造する、米国特許第3306874号明細書等に記載される方法等が挙げられる。
【0029】
-変性ポリフェニレンエーテル-
変性ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、ポリフェニレンエーテルに、スチレン系重合体、その誘導体またはその両方をグラフト化、付加またはグラフト化および付加させたもの等が挙げられる。グラフト化、付加またはグラフト化および付加による質量増加の割合は、特に限定されることなく、変性ポリフェニレンエーテル100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
変性ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下で、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態において、80~350℃で、ポリフェニレンエーテルと、スチレン系重合体、その誘導体またはスチレン系重合体およびその誘導体とを反応させる方法等が挙げられる。
【0031】
(B)成分が、ポリフェニレンエーテルと変性ポリフェニレンエーテルとの混合物である場合には、ポリフェニレンエーテルと変性ポリフェニレンエーテルとの混合割合は、特に限定されることなく、任意の割合としてよい。
【0032】
(B)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(B)成分の含有量は、4成分の合計100質量部に対し、5~55質量部である。一実施形態では、(B)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、35質量部以上、40質量部以上、45質量部以上または50質量部以上である。別の実施形態では、(B)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、55質量部以下、50質量部以下、45質量部以下、40質量部以下、35質量部以下、30質量部以下、25質量部以下、20質量部以下、15質量部以下または10質量部以下である。
【0034】
(C)スチレン系熱可塑性エラストマー
(C)成分として用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーは、本願で開示の組成物の耐衝撃性改良のために用いられる。
【0035】
(C)成分としては、例えば、SBS(ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン-ポリエチレン/ポリブチレン-ポリスチレン)、SBBS(ポリスチレン-ポリブタジエン/ポリブチレン-ポリスチレン)、及びSEPS(ポリスチレン-ポリエチレン/ポリプロピレン-ポリスチレン)、並びにこれらの変性物が挙げられる。これらのうち、本発明の樹脂組成物により効率的に耐衝撃性を付与し、他の機械物性を損なわないという観点から、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAを少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBを少なくとも1個とを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されてなる水素添加ブロック共重合体(代表例:SEBS、SBBS、SEPS)及び該水素添加ブロック共重合体の変性物からなる群より選択される1種以上が好ましく用いられる。
【0036】
(C)成分には重合体ブロックA及び重合体ブロックB以外のブロックが含まれていてもよいが、重合体ブロックA及び重合体ブロックBのみからなることが好ましく、1種の重合体ブロックAと1種の重合体ブロックBとのみからなることがより好ましい。
【0037】
(C)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
--重合体ブロックA--
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとしては、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロック等が挙げられる。重合体ブロックAとしては、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、ビニル芳香族化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックが好ましい。
【0039】
重合体ブロックAにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、水素添加前の重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物単位を50質量%超含有することをいう。重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物単位を70質量%以上含有することが好ましい。
【0040】
ビニル芳香族化合物としては、特に限定されることなく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-tert-ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。ビニル芳香族化合物としては、スチレンが好ましい。
【0041】
共役ジエン化合物としては、後述の共役ジエン化合物が挙げられ、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
重合体ブロックAにおいて、重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物、共役ジエン化合物等の分布は、ランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組合せで構成されていてもよい。
【0043】
重合体ブロックAが(C)成分中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックAは、それぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0044】
重合体ブロックAの数平均分子量(Mn)は、一層優れた剛性、耐衝撃性および耐薬品性が得られる観点から、5,000~28,000であることが好ましく、5,000~25,000であることがより好ましく、10,000~25,000であることがさらに好ましい。
【0045】
--重合体ブロックB--
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとしては、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロック等が挙げられる。重合体ブロックBとしては、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、共役ジエン化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックが好ましい。
【0046】
重合体ブロックBにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、水素添加前の重合体ブロックB中に共役ジエン化合物単位を50質量%超含有することをいう。重合体ブロックBは、共役ジエン化合物単位を70質量%以上含有することが好ましい。
【0047】
共役ジエン化合物としては、特に限定されることなく、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0048】
ビニル芳香族化合物としては、上述のビニル芳香族化合物が挙げられ、スチレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
重合体ブロックBにおいて、重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物、ビニル芳香族化合物等の分布は、ランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組合せで構成されていてもよい。
【0050】
重合体ブロックBが(C)成分中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックBはそれぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0051】
重合体ブロックB中の共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する水素添加率としては、一層優れた剛性、耐薬品性、または耐衝撃性が得られるという観点から、50%以上100%以下であることが好ましく、60%以上100%以下であることがより好ましい。
【0052】
重合体ブロックB中の共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合は、一層優れた剛性、耐衝撃性、および耐薬品性が得られるという観点から、25%以上70%未満であることが好ましく、25~60%であることがより好ましい。
【0053】
本明細書において、1,2-ビニル結合量及び3,4-ビニル結合量の合計(全ビニル結合量)とは、水素添加前の共役ジエン化合物含有重合体ブロック中の共役ジエン化合物単位における、1,2-ビニル結合量と3,4-ビニル結合量との合計の、1,2-ビニル結合量と、3,4-ビニル結合量と、1,4-共役結合量との合計に対する割合を指す。全ビニル結合量は、赤外分光光度計を用いて測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出することができる。
【0054】
重合体ブロックBのMnは、一層優れた剛性、耐衝撃性、および耐薬品性が得られる観点から、20,000~150,000であることが好ましく、30,000~120,000であることがより好ましい。
【0055】
重合体ブロックBとしては、重合体ブロックB中に含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が、25%以上70%未満である単一の重合体ブロックであってもよいし、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が25%以上70%未満である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB1と、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が45%以上70%未満である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB2とを併せ持つ共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックであってもよい。
【0056】
重合体ブロックB1及び重合体ブロックB2を有するブロック共重合体の構造は、重合体ブロックAを「A」とし、重合体ブロックB1を「B1」とし、重合体ブロックB2を「B2」とすると、例えば、A-B2-B1-A、A-B2-B1等で示され、調整された各モノマー単位のフィードシーケンスに基づいて全ビニル結合量を制御した公知の重合方法によって得ることができる。
【0057】
--水素添加ブロック共重合体の構造--
(C)成分における水添ブロック共重合体の構造は、重合体ブロックAを「A」とし、重合体ブロックBを「B」とすると、例えば、A-B型、A-B-A型、B-A-B-A型、(A-B-)-X型(ここでnは1以上の整数、Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ等の多官能カップリング剤の反応残基又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。)、A-B-A-B-A型等の構造が挙げられる。
【0058】
また、ブロック構造について言及すると、重合体ブロックBが、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、又は共役ジエン化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックであり、重合体ブロックAが、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックであることが好ましい。
【0059】
(C)成分における水添ブロック共重合体の分子構造としては、特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0060】
--ビニル芳香族化合物単位の含有量--
水素添加前の(C)成分中におけるビニル芳香族化合物単位(ビニル芳香族化合物由来の水添ブロック共重合体構成単位)の含有量は、特に限定されることなく、樹脂組成物の耐熱性と引張強度の観点から、10~70質量%であることが好ましく、より好ましくは20~70質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%、特に好ましくは30~40質量%である。
【0061】
--全ビニル結合量--
(C)成分中に含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合は、25%以上70%未満であることが好ましく、より好ましくは25%以上55%以下、さらに好ましくは25%以上60%以下である。1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が70%未満であると、樹脂組成物の耐衝撃性が改善される。60%以下であると、耐衝撃性が一層改善される。また、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が25%以上であると、(B)成分との相溶性が向上する。
【0062】
1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合を5~70%に制御する方法としては、特に限定されることなく、例えば、(C)成分の製造において、1,2-ビニル結合量調節剤を添加する方法や、重合温度を調整する方法が挙げられる。
【0063】
「共役ジエン化合物単位における二重結合に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計」とは、水添ブロック共重合体の水添前のブロック共重合体中の共役ジエン化合物単位における二重結合(エチレン性二重結合)に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計をいう。例えば、水添前のブロック共重合体を赤外分光光度計により測定し、ハンプトン法で算出することができる。また、水添後のブロック共重合体からNMRを用いて算出することもできる。
【0064】
--水素添加率--
(C)成分において、ブロック共重合体中のエチレン性二重結合(共役ジエン化合物単位における二重結合)に対する水素添加率としては、50%以上、100%以下であることが好ましく、60%以上、100%以下であることがより好ましい。水素添加率が50%以上、100%以下の範囲内であると、樹脂組成物の耐衝撃性が改善される。
【0065】
このような水素添加率を有する(C)成分は、例えば、ブロック共重合体のエチレン性二重結合の水素添加反応において、消費水素量を所望の水素添加率(例えば、50%以上100%以下)の範囲に制御することにより容易に得られる。
【0066】
水素添加率は、例えば、NMR測定により、重合体ブロックB中の残存した二重結合量を定量すること等によって求めることができる。
【0067】
(C)成分が、(C)成分中に含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2-ビニル結合及び3,4-ビニル結合の合計の割合が60%未満、及び(C)成分中のエチレン性二重結合に対する水素添加率が80%以上の場合に、樹脂組成物の加工時の熱安定性が改善されるのでより好ましい。
【0068】
--分子量ピーク--
(C)成分のGPC測定による標準ポリスチレン換算の水素添加後の分子量ピークは、剛性、耐衝撃性、および耐薬品性の観点から、10,000~250,000であることが好ましく、30,000~200,000であることがより好ましい。
【0069】
(C)成分の分子量ピークを10,000~250,000の範囲に制御する方法としては、特に限定されることなく、例えば、重合工程における触媒量を調整する方法が挙げられる。
【0070】
本明細書において、分子量ピークは、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー System21を用いて以下の条件で測定することができる。該測定において、カラムとして、昭和電工(株)製K-Gを1本、K-800RLを1本、さらにK-800Rを1本の順番で直列につないだカラムを用い、カラム温度を40℃とし、溶媒をクロロホルムとし、溶媒流量を10mL/分とし、サンプル濃度を、水添ブロック共重合体1g/クロロホルム溶液1Lとする。また、標準ポリスチレン(標準ポリスチレンの分子量は、3,650,000、2,170,000、1,090,000、681,000、204,000、52,000、30,200、13,800、3,360、1,300、550)を用いて検量線を作成する。さらに、検出部のUV(紫外線)の波長は、標準ポリスチレン及び水添ブロック共重合体共に254nmに設定して測定する。
【0071】
(C)成分の水素添加前の分子量分布(Mw/Mn)は、一層優れた剛性、耐衝撃性、および耐薬品性が得られる観点から、1.01~1.50であることが好ましく、1.03~1.40であることがより好ましい。
【0072】
--製造方法--
(C)成分における水添ブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されることなく、公知の製造方法を用いることができる。水添ブロック共重合体の製造方法としては、例えば、特開昭47-11486号公報、米国特許第3281383号明細書等に記載の方法が挙げられる。
【0073】
-変性水素添加ブロック共重合体-
(C)成分における水素添加ブロック共重合体の変性物としては、例えば、水素添加ブロック共重合体(特に、未変性水素添加ブロック共重合体)と、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)とをラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80~350℃で反応させることによって得られる変性水素添加ブロック共重合体(この場合、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体は、未変性水素添加ブロック共重合体に対して、0.01~10質量%の割合でグラフト化又は付加していることが好ましい)、有機リチウム化合物を開始剤として、少なくとも一種の共役ジエン単量体を含有する単量体を重合させる工程と、尿素誘導体を添加する工程により得られる、末端に特定構造のアミノ基を有する重合体、等が挙げられる。
【0074】
(C)成分として、未変性水素添加ブロック共重合体と変性水素添加ブロック共重合体とを併用する場合、未変性水素添加ブロック共重合体と、変性水素添加ブロック共重合体との混合割合は特に制限されずに決定できる。
【0075】
(C)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
(C)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、3~20質量部である。一実施形態では、(C)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、3質量部以上、4質量部以上、5質量部以上、6質量部以上、7質量部以上、8質量部以上、9質量部以上、10質量部以上、15質量部以上または18質量部以上である。別の実施形態では、(C)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、20質量部以下、18質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、9質量部以下、8質量部以下、7質量部以下、6質量部以下、5質量部以下または4質量部以下である。
【0077】
(D)グリシジル基を有するスチレン系共重合体
(D)成分は、(A)成分、(B)成分、又はこれら両者と相互作用し、(A)成分と(B)成分の相溶化剤として働く。
【0078】
特に、(D)成分を相溶化剤として用いることで、(A)成分と(B)成分とを混合する際の乳化剤として作用して、樹脂組成物の耐熱性及び耐衝撃性と引張強度とのバランスに優れた効果を与える。
【0079】
(D)成分は、(B)成分との混和性をより良好とする観点から、スチレンモノマー単位を65重量%以上含むことが好ましく、75~95重量%含むことがより好ましい。
【0080】
(D)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
本発明で用いられる(D)成分の好ましい含有量は、4成分の合計100質量部に対し、0.1~5質量部である。一実施形態では、(D)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、2.5質量部以上、3.0質量部以上、3.5質量部以上、4.0質量部以上または4.5質量部以上である。別の実施形態では、(D)成分の量は、4成分の合計100質量部に対し、5.0質量部以下、4.5質量部以下、4.0質量部以下、3.5質量部以下、3.0質量部以下、2.5質量部以下、2.0質量部以下、1.5質量部以下、1.0質量部以下、0.5質量部以下または0.3質量部以下である。
【0082】
(A)成分相中と(B)成分相中に存在する(C)成分の比率
(A)成分の相中に存在する(C)成分の質量をC、(B)成分の相中に存在する(C)成分の質量をC、樹脂組成物中の(A)成分の質量をA、樹脂組成物中の(B)成分の質量をBとしたとき、C/Cの質量比率とA/Bの質量比率の関係は、
樹脂組成物の耐衝撃性、および耐薬品性の観点から、
0.05≦[C/C]/[A/B]≦0.90
である。以下、[C/C]/[A/B]をRという場合がある。
【0083】
一実施形態では、Rは、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.10以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上、0.18以上、0.19以上、0.20以上、0.25以上、0.30以上、0.35以上、0.40以上、0.45以上、0.50以上、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、0.75以上、0.80以上または0.85以上である。別の実施形態では、Rは、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.45以下、0.40以下、0.35以下、0.30以下、0.25以下、0.20以下、0.19以下、0.18以下、0.17以下、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下、0.10以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下または0.06以下である。
【0084】
樹脂組成物を構成する各成分の特徴から、樹脂組成物は(A)成分が海、(B)成分が島となり、(C)成分が海島の双方に存在するモルフォロジーとなる。そして、(C)成分は(B)成分と相溶性を有しているので、一般に(C)成分の多くが(B)成分中に存在しやすくなる。そのため、Rmの値は0.05よりはるかに小さな値となってしまう。これに対して、本願発明は逆に(C)成分をより(A)成分中に存在させることを特徴としており、これにより0.05≦Rm≦0.90を満たすものである。
【0085】
を、0.05~0.90の範囲に調整する方法としては、例えば、下記(1)~(3)が挙げられる。
【0086】
(1)(A)成分と(B)成分を含む組成物を製造する際は、溶融混練機のtopから(B)成分を供給し、混練機のsideから(A)成分を供給することが一般的によく用いられている。これに対し、(A)成分を一定量、topからも供給することにより、驚くべきことに(C)成分の存在位置に影響を及ぼし、本発明の特徴である0.05≦Rm≦0.90を満たすことができる。これについては推測の域を出ないが、(A)成分を少量、topから供給し、かつsideから残りの(A)成分を供給することで、side供給した後に海島構造の逆転(相転移;B成分が海からA成分が海)が起き、その際に(C)成分の存在位置に影響が及ぼされたものと考えることができる。
【0087】
上記(1)の方法の場合、(D)成分も溶融混練機のtopから供給する方法が好ましい。反応性の高いグリシジル基を有する(D)成分と上述の一定量の(A)成分が反応することによって、修飾されたスチレン-ブタジエン共重合体と反応し得る(A)成分の末端基数を多くすることができ、(A)成分の相中に(C)成分が分散しやすくなる。すなわち、Cを増大させることができる。このような観点からもtopから供給する(A)成分の量は一定量以下であることが好ましい。溶融混練機のtopから供給する(A)成分の比率は、例えば、樹脂組成物全体に使用する(A)成分の50質量%以下である。より好ましくは30質量%以下であり、最も好ましくは10質量%以下である。
【0088】
(2)(C)成分として、官能基で修飾されていないスチレン-ブタジエン共重合体と、(A)成分の末端基と反応し得る官能基で修飾されたスチレン-ブタジエン共重合体を一定の割合で併用することにより0.05≦Rm≦0.90を満たすことができる。一般的に(B)成分とスチレン-ブタジエン共重合体の相溶性は(A)成分とスチレン-ブタジエン共重合体の相溶性と比較してかなり高いため、修飾されていない共重合体と修飾された共重合体を一定の割合で併用することで、(B)成分中にのみ(C)成分が分散することを抑制することができる。すなわち、Cを低下させることができる。この一定の割合は、例えば、官能基で修飾されていない共重合体:官能基で修飾された共重合体の質量比が、1:9~9:1、2:8~8:2、3:7~7:3、4:6~6:4または5:5の割合である。
【0089】
(3)(A)成分と、(C)成分として官能基で修飾されたスチレン-ブタジエン共重合体とを予め溶融混練してペレット化したものを用いる方法により0.05≦Rm≦0.90を満たすことができる。
【0090】
(3)の場合、予め溶融混練するペレット中に含まれる(A)成分と、(C)成分の比率は特に制限されず、所望のモルフォロジーを得る観点、及び最終的な樹脂組成物の耐衝撃性を維持する観点から、(A)成分:(C)成分(質量比)=98:2~60:40が好ましく、95:5~70:30であることがさらに好ましい。
【0091】
また、最終的な樹脂組成物を得る溶融混練において、予め溶融混練するペレットの混練機への供給方法も特に制限されず、所望のモルフォロジーを得る観点、及び最終的な樹脂組成物の耐衝撃性を維持する観点から、混練機のsideから添加することが好ましい。
【0092】
樹脂組成物中のC量とC量は、以下の方法に従い求める:凍結粉砕した試料500mgを10mLのトルエンに投入し、室温にて18時間放置後、20℃で1時間、3000rpmの回転数にて遠心分離させ、上澄みと沈殿物に分離する。得られた上澄みを真空乾燥させたものを「濃縮物1」とする。この濃縮物1を真空乾燥させて溶媒を全て揮発させる。そこにクロロホルム10mLを加えて室温で溶解させ、この画分を重クロロホルム中でH-NMRを測定し、(B)成分と(C)成分のそれぞれに対応するシグナルのピーク面積、及び「濃縮物1」の全重量から(B)成分の量と、トルエン可溶分の(C)成分の量Cを決定する。また、最初の遠心分離工程で沈殿物となった画分に、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP):クロロホルム=1:1(体積比)の第1の混合溶媒10mLを加え、室温にて18時間放置する。その後、20℃で1時間、3000rpmの回転数にて遠心分離させ、上澄みと沈殿物に分離する。得られた上澄みを真空乾燥させたものを「濃縮物2」とする。この濃縮物2を真空乾燥させて溶媒を全て揮発させる。それをHFIP:クロロホルム=1:3(体積比)の混合溶媒20mLに40℃で溶解させ、この画分を重HFIP:重クロロホルム=3:2(体積比)の混合溶媒中でH-NMRを測定し、(A)成分と(C)成分のそれぞれに対応するシグナルのピーク面積、及び「濃縮物2」の全重量から(A)成分の量と、第1の混合溶媒可溶分の(C)成分の量Cを決定する。このようにしてまず、樹脂組成物中の(A)成分の量、(B)成分の量、及び(C)成分の量(CとCの合計量)を求める。次に、同じ凍結粉砕した試料500mgを20mLのクロロホルムに投入し、室温にて6時間振盪処理する。得られた液を目開き0.45μmのディスポフィルターにてろ過する。抽出された溶液を風乾する。その溶液を60℃で12時間真空乾燥させる。真空乾燥後の残渣の量を(B)成分とC成分の合計量とする。予め求めておいた(B)成分の量をこの合計量から除くことでC量を得る。次いで、求めておいた(C)成分の量からそのC量を除くことでC量を得る。
【0093】
[(A)成分と(B)成分の分散形態]
樹脂組成物では、(A)成分の相中に(B)成分の相が粒子状に分散しており、(B)成分の相の平均粒径は0.1~5μmである。一実施形態では、(B)成分の相の平均粒径は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.5μm以上、0.9μm以上、1.0μm以上、1.1μm以上、1.2μm以上、1.3μm以上、1.4μm以上、1.5μm以上、1.6μm以上、1.7μm以上、1.8μm以上、1.9μm以上、2.0μm以上、2.5μm以上、3.0μm以上、3.5μm以上、4.0μm以上または4.5μm以上である。別の実施形態では、(B)成分の相の平均粒径は、5.0μm以下、4.8μm以下、4.5μm以下、4.0μm以下、3.5μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下、1.7μm以下、1.6μm以下、1.5μm以下、1.4μm以下、1.3μm以下、1.2μm以下、1.1μm以下、1.0μm以下、0.9μm以下、0.5μm以下である。
【0094】
本発明の樹脂組成物においては、耐薬品性および金属インサート成形時等の金属に対する接合性(接着強度)を高める観点から、(A)成分を含む相がマトリックス(連続相)を形成していることが好ましい。一方、(B)成分を含む相は、マトリックス中に分散相を形成していてもよい。分散相は、外観で粒子状であることが好ましく、その場合、分散相の平均粒径は、0.1~5.0μmであることが好ましく、0.2~4.0μmであることがより好ましい。
【0095】
分散相の平均粒径は、実施例に記載の手順により測定することができる。
【0096】
(E)その他の添加剤
本実施形態の樹脂組成物は、(E)その他の添加剤をさらに含んでいてもよい。(E)成分の添加量は、本発明の目的が達成できる範囲であれば特に制限されないが、樹脂組成物に高い機械物性を付与するという観点から、(A)~(D)4成分の合計100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、10~90質量部であることがさらに好ましい。
【0097】
(E)その他の添加剤は、4成分以外の化合物である。(E)成分としては、例えば、(C)成分以外の熱可塑性エラストマー、ガラス繊維等の無機フィラー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(縮合リン酸エステル、ホスフィン酸塩、ポリリン酸アンモニウム系化合物、水酸化マグネシウム、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ホウ酸亜鉛等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候性改良剤、耐光性改良剤、造核剤、スリップ剤、カーボンブラック等の着色剤、離型剤等が挙げられる。特に、樹脂組成物の引張強度および耐熱性を向上させる目的でガラス繊維を、成形後の物性を短時間で安定化させる目的でカーボンブラックを添加することが好ましい。
【0098】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物は、4成分、及び必要に応じて、(E)成分を溶融混練することによって製造することができる。
【0099】
一般に当該4成分からなる樹脂組成物は、以下の工程(1)及び(2)を含む製造方法である。
(1):(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を溶融混練して混練物を得る工程。
(2):工程(1)で得られた混練物に対して、(A)成分を添加し溶融混練する工程。
【0100】
一方、本実施形態の樹脂組成物を得るための製造方法としては、(C)成分を工程(1)と(2)の両方で添加することが好ましい。また、工程(1)は、(B)成分の全量を溶融混練して混練物を得る工程であることが好ましい。
【0101】
又は、(A)成分の一部を工程(1)で添加することが好ましい。あるいは、(A)成分と(C)成分として官能基で修飾されたスチレン-ブタジエン共重合体とを予め溶融混練してペレット化したものを、工程(2)で添加することも好ましい方法である。
【0102】
これらの製造方法によって、本実施形態の耐衝撃性、引張強度及び耐薬品性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0103】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法において各成分の溶融混練を行うために好適に用いられる溶融混練機としては、特に限定されず、例えば、特開2021-008533号に記載のものなどが挙げられる。
【0104】
[成形体]
本実施形態の樹脂組成物から、成形体を得ることができる。
【0105】
成形体としては、特に限定されることなく、例えば、自動車部品、電気機器の内外装部品、その他の部品等が挙げられる。自動車部品としては、特に限定されることなく、例えば、バンパー、フェンダー、ドアーパネル、モール、エンブレム、エンジンフード、ホイールキャップ、ルーフ、スポイラー、エアロパーツ等の外装部品;インストゥルメントパネル、コンソールボックス、トリム等の内装部品;自動車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、電動アシスト自転車または車いす等に搭載される二次電池電槽部品;リチウムイオン二次電池部品等が挙げられる。また、電気機器の内外装部品としては、特に限定されることなく、例えば、コンピューター及びその周辺機器、ジャンクションボックス、コネクター、OA機器、テレビ、ビデオ、ディスクプレーヤー等のキャビネット、ビデオ、ディスクプレーヤー等のシャーシ、冷蔵庫、エアコン、液晶プロジェクター、スマートフォン、タブレットに用いられる部品等が挙げられる。その他の部品としては、金属導体又は光ファイバーに被覆を施すことによって得られる電線またはケーブル、固体メタノール電池用燃料ケース、燃料電池配水管、水冷用タンク、ボイラー外装ケース、インクジェットプリンターのインク周辺部品またはプリンターのシャーシ、家具(椅子等)、水配管および継ぎ手等が挙げられる。
【0106】
(成形体の製造方法)
成形体は、樹脂組成物を成形することによって製造することができる。
【0107】
成形体の製造方法としては、特に限定されることなく、例えば、射出成形、押出成形、押出異形成形、中空成形、圧縮成形等が挙げられ、本発明の効果をより効果的に得る観点から、射出成形が好ましい。
【実施例0108】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
実施例及び比較例の樹脂組成物及び成形体に用いた原材料を以下に示す。
-(A)成分-
(A-i)Diyou Fibre社製 Clear rPET Flakes 3A(飲料ペットボトル由来の再生ポリエチレンテレフタレート樹脂)、固有粘度0.72dl/g
(A-ii)新光合成繊維株式会社製 SHINPET 5511HF、固有粘度0.80dl/g
【0110】
-(B)成分-
(B-i):2,6-キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度(ηsp/c:0.42g/dLのクロロホルム溶液)0.51dL/gのポリフェニレンエーテル
(B-ii):2,6-キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液)0.42dL/gのポリフェニレンエーテル
【0111】
(B)成分の還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管で測定した。
【0112】
-(C)成分-
重合体ブロックAをポリスチレンからなるものとし、重合体ブロックBをポリブタジエンからなるものとして、未変性のブロック共重合体を合成した。得られたブロック共重合体の物性を以下に示す。
(C-i):官能基で修飾されていないスチレン-ブタジエン共重合体
水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:30質量%、水素添加後のブロック共重合体のMn:173,000、ポリスチレンブロックのMn:25,950、ポリブタジエンブロックのMn:121,110、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.08、水素添加前のポリブタジエンブロックにおける1,2-ビニル結合量(全ビニル結合量):30%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:99%。
【0113】
ビニル芳香族化合物の含有量は、紫外線分光光度計を用いて測定した。Mnは、GPC(移動層:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)を用いて求めた。分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(移動層:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)を用いて、公知の方法により求めた重量平均分子量(Mw)を、Mnで除することによって算出した。全ビニル結合量は、赤外分光光度計を用いて測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出した。水素添加率は、核磁気共鳴(NMR)によって測定した。混合比は、GPC測定時のピーク面積比により求めた。
【0114】
(C-ii):アミノ基で修飾されたスチレン-ブタジエン共重合体
以下の工程を経て得られたスチレン系熱可塑性エラストマー。
内容積が12Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を用いて、精製シクロヘキサン4600g、テトラヒドロフラン(THF)0.69g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.69g、スチレン132gを仕込み、100rpmで混合し重合開始温度を60℃に調整した。20重量%のn-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液(n-ブチルリチウム1.36g)を添加し、スチレンの重合を開始した。スチレンが完全に重合してから、1,3-ブタジエン544gを添加し、1,3-ブタジエンを完全に重合させ、スチレン124gを添加し、スチレンを完全に重合させた。次に、1,3-ジメチル-2-イミダゾリノンを0.12重量%含有する1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを3.15g添加し、15分後にメタノール0.74gを添加し重合反応を終了させた。得られた共重合体に水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして130重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。反応終了後にメタノール1gを添加し、共重合体を反応器より抜き出した。次に安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを共重合体の重量に対して0.3重量%添加した。更に、得られた共重合体ゴム溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、クラム状の部分水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴムを得て、乾燥処理を行った。なお、水添触媒は、窒素置換した反応容器に乾燥および精製したシクロヘキサン1Lを仕込み、ジクロロビス(η-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)チタニウム100mmolを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200mmolを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させて調製した。水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:32質量%、水素添加後のブロック共重合体のMn:66,000、ポリスチレンブロックのMn:10,560、ポリブタジエンブロックのMn:44,880、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.11、水素添加前のポリブタジエンブロックにおける1,2-ビニル結合量(全ビニル結合量):38%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:88%。
【0115】
-(D)成分-
スチレン系グリシジルメタクリレート(日油社製、「マープルーフG-1005S」、スチレンモノマー単位の含有量95質量%、エポキシ当量3300g/eq、Tg96℃、Mw100,000)
【0116】
-(E)成分-
(E-i)カーボンブラック (三菱化学製 三菱カーボンブラック#950)
(E-ii)ガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T-187、断面の直径13μm、繊維長3mm
【0117】
-その他の成分―
(A-i)成分と(C-ii)成分の溶融混練物α
(A-i)成分と(C-ii)成分とを、質量比63:5で混合したものを、バレル温度290℃に設定した二軸押出機(コペリオン社製、ZSK-25、L/D=35)を用い、(A-i)成分と(C-ii)成分の混合物を第1原料供給口からフィードし、スクリュー回転数300rpm、押出レート18kg/hの条件で溶融混練しペレット化した、溶融混練物。
【0118】
-樹脂組成物の物性の測定および評価方法-
(1)(A)成分相中に分散している(B)成分相の平均粒径
得られた樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度270℃に設定した小型射出成形機(商品名:SE75EV-A、住友重機械工業製)に供給し、金型温度120℃、射出圧力100MPa、射出時間5秒、冷却時間15秒の条件で成形し、評価用ISOダンベルを作製した。そのダンベルを用いて、試料をダイヤモンドソーで切り出しエポキシ樹脂で包埋後、四酸化ルテニウムにより電子染色した断面に導電処理したものを検鏡試料とした。
走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、商品名:SU8220)を用いて、加速電圧4kV、反射電子像を撮像するモードにて、倍率5,000倍の画像を得た。その画像を観察し、暗部として観察される(A)成分部分と、明部として観察される(B)成分部分を2値化による画像処理によって分けた。2値化の方法としては、取得した反射電子像を、画像解析ソフト(アメリカ国立衛生研究/imageJ)を用いて以下の手順で実施した。
(1)反射電子像を大津の手法を用いて2値化
(2)二値化した画像から、マトリックス((A)成分相)と分散相((B)成分相)とを特定し、特定した分散相((B)成分相)の短径と長径とを測定してその平均値を粒子径として算出し、画像中の任意の4000個の分散相について粒子径の平均値を求めることで分散相の平均粒径を算出した。
【0119】
(2)C/Cの値
得られた樹脂組成物のペレットを凍結粉砕し、この試料500mgを10mLのトルエンに投入し、室温にて18時間放置後、20℃で1時間、3000rpmの回転数にて遠心分離させ、上澄みと沈殿物に分離した。得られた上澄みを真空乾燥させたものを「濃縮物1」とした。この濃縮物1を真空乾燥させて溶媒を全て揮発させた。そこにクロロホルム10mLを加えて室温で溶解させ、この画分を重クロロホルム中でH-NMRを測定し、(B)成分と(C)成分のそれぞれに対応するシグナルのピーク面積、及び「濃縮物1」の全重量から(B)成分と、トルエン可溶分の(C)成分の量Cを決定した。また、最初の遠心分離工程で沈殿物となった画分に、HFIP:クロロホルム=1:1(体積比)の第1の混合溶媒10mLを加え、室温にて18時間放置した。その後、20℃で1時間、3000rpmの回転数にて遠心分離させ、上澄みと沈殿物に分離した。得られた上澄みを真空乾燥させたものを「濃縮物2」とした。この濃縮物2を真空乾燥させて溶媒を全て揮発させた。それをHFIP:クロロホルム=1:3(体積比)の混合溶媒20mLに40℃で溶解させ、この画分を重HFIP:重クロロホルム=3:2(体積比)の混合溶媒中でH-NMRを測定し、(A)成分と(C)成分のそれぞれに対応するシグナルのピーク面積、及び「濃縮物2」の全重量から(A)成分の量と、第1の混合溶媒可溶分の(C)成分の量Cを決定した。このようにしてまず、樹脂組成物中の(A)成分の量、(B)成分の量、及び(C)成分の量(CとCの合計量)を求めた。次に、同じ凍結粉砕した試料500mgを20mLのクロロホルムに投入し、室温にて6時間振盪処理した。得られた液を目開き0.45μmのディスポフィルターにてろ過した。抽出された溶液を風乾した。その溶液を60℃で12時間真空乾燥させた。真空乾燥後の残渣の量を(B)成分とC成分の合計量とした。予め求めておいた(B)成分の量をこの合計量から除くことでC量を決定した。次いで、求めておいた(C)成分の量からそのC量を除くことでC量を決定した。そして、CをCで除してC/Cの値を求めた。
【0120】
(3)引張強度
(1)(A)成分相中に分散する(B)成分相の平均粒径の測定に用いたものと同じ条件で射出成形したISOダンベルから、23℃、50RH%の条件下でISO 527に従い引張試験を実施し、引張最大強度(MPa)を測定した。
【0121】
(4)耐衝撃性
(1)(A)成分相中に分散する(B)成分相の平均粒径の測定に用いたものと同じ条件で射出成形したISOダンベルを、ISO 179に従い、23℃、50RH%の条件下でノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施し、し、シャルピー衝撃値(kJ/m)を測定した。
【0122】
(5)耐薬品性
得られた樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度270℃に設定した小型射出成形機(商品名:SE75EV-A、住友重機械工業製)に供給し、金型温度120℃、射出圧力100MPa、射出時間10秒、冷却時間15秒の条件で、150mm×150mm×3mmの平板に成形した。この平板から、75mm×12.7mm×3mmの試験片を切り出し、試験片を歪みが連続的に変化するように設計されたベンディングフォームにセットした。試験片の表面に石油ベンジン(タカビシ化学社製)を塗布し、23℃×50RH%の条件で48時間放置した。48時間後に試験片に歪みを与え、試験片の表面にクラックが発生したときのベンディングフォームの停止位置を測定して、クラックが発生しない限界の歪み量を示す臨界歪み量(%)を求めた。評価基準としては、臨界歪み量の数値が大きいほど、耐薬品性に優れていると判定した。
【0123】
(実施例1~16、比較例1~10)
【0124】
各実施例及び各比較例の樹脂組成物の製造に用いる溶融混練機として、上記二軸押出機を用いた。押出機のL/Dは、35とした。
【0125】
二軸押出機の構成は、原料が流れる方向について上流側に第1原料供給口、該第1原料供給口よりも下流に第1真空ベント、該第1真空ベントよりも下流に第2原料供給口、該第2原料供給口よりも下流に第3原料供給口、該第3原料供給口よりも下流に第2真空ベントを備えるものとした。
【0126】
二軸押出機のバレル設定温度は、第1原料供給口から第2原料供給口までを320℃、第2原料供給口よりも下流を290℃の設定とし、スクリュー回転数300rpm、押出レート18kg/hの条件で樹脂組成物のペレットを製造した。二軸押出機の構成を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
(A)成分~(E)成分及び溶融混練物αを表2および表3に示す通りに二軸押出機に供給し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0129】
各実施例及び各比較例について、上述の測定方法(1)~(5)により物性の測定と評価を行った。結果を表2および表3に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
a:(A)相が連続相ではない。b:測定不可
【0132】
表2および表3に示す通り、実施例の樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、耐衝撃性、引張強度、及び耐薬品性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、耐衝撃性、引張強度および耐薬品性に優れ、機構部品や構造体への適用が可能な射出成形用ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができる。本発明の樹脂組成物を含む成形体は、自動車部品、電気機器の内外装部品、その他の部品等として好適に用いられる。