(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182541
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】FeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、磁気センサおよび磁気センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20231219BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20231219BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H01F10/14
H01F41/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090049
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022095408
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】大兼 幹彦
(72)【発明者】
【氏名】赤松 昇馬
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康夫
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
【テーマコード(参考)】
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
5E049AA01
5E049BA16
5E049CB01
5E049GC01
5F092AB01
5F092AC04
5F092AC12
5F092AD03
5F092AD25
5F092BB08
5F092BB17
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC07
5F092CA02
(57)【要約】
【課題】良好な軟磁気特性を有し、MTJ素子の自由層に使用可能なFeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を含む磁気センサおよび磁気センサの製造方法を提供する。
【解決手段】FeSiAl合金薄膜13は、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmである。磁気センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、固定層と自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、自由層はFeSiAl合金薄膜13を含んでいる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmであることを特徴とするFeSiAl合金薄膜。
【請求項2】
前記Alを9at%以上17at%以下、前記Siを8at%以上18at%以下で含むことを特徴とする請求項1記載のFeSiAl合金薄膜。
【請求項3】
前記Alを11at%以上16at%以下、前記Siを9at%以上16at%以下で含むことを特徴とする請求項1記載のFeSiAl合金薄膜。
【請求項4】
スパッタリングにより基板上に、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とするFeSiAl合金薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記Alを9at%以上17at%以下、前記Siを8at%以上18at%以下で含む前記薄膜を成膜することを特徴とする請求項4記載のFeSiAl合金薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記Alを11at%以上16at%以下、前記Siを9at%以上16at%以下で含む前記薄膜を成膜することを特徴とする請求項4記載のFeSiAl合金薄膜の製造方法。
【請求項7】
磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記固定層と前記自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、
前記自由層は請求項1乃至3のいずれか1項に記載のFeSiAl合金薄膜を含むことを
特徴とする磁気センサ。
【請求項8】
請求項7記載の磁気センサの製造方法であって、
スパッタリングにより基板上に、前記自由層と前記絶縁層と前記固定層とを、この順番またはこれとは反対の順番で形成した後、300℃以上350℃以下の温度で熱処理を行うことを
特徴とする磁気センサの製造方法。
【請求項9】
前記自由層を形成するとき、スパッタリングにより、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする請求項8記載の磁気センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、磁気センサおよび磁気センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度を示す磁気センサとして、磁気トンネル接合(MTJ)素子のトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用したTMRセンサがある。MTJ素子は、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、固定層と自由層との間に配置された絶縁層とを有しており、自由層の磁気異方性を制御することにより、磁気センサの特性を制御することができる。このような磁気センサは、心臓や脳などの生体から発生する微弱な磁場を検出することが可能であり、室温で動作する生体磁気計測装置に利用することができる。また、非接触での電流の測定も可能であり、消費電力も小さく、感度も高いため、例えば、電気自動車のバッテリーの蓄電残量検知などに効果的に利用することができる。さらに、コンクリート構造物中の鉄筋などの破断や劣化を検知するための、非破壊検査用磁気センサとしても利用できる。
【0003】
従来、磁気センサに利用可能なMTJ素子として、例えば、自由層にNiFe合金を用いたもの(例えば、非特許文献1参照)や、CoFeB合金を用いたもの(例えば、非特許文献2参照)、CoFeSiB合金を用いたもの(例えば、非特許文献3参照)などが開発されている。
【0004】
ここで、磁気センサの感度は、MTJ素子の自由層の磁気抵抗比をTMR比、異方性磁場をHkとすると、TMR比/2Hkによって表すことができる。この式から、TMR比が大きく、異方性磁場Hkが小さいほど、感度が高くなることがわかる。また、結晶磁気異方性定数をK1、飽和磁化の大きさをMsとすると、異方性磁場Hkは、Hk=2×K1/Msで定義される。このように、異方性磁場Hkは結晶磁気異方性定数K1に比例することから、結晶磁気異方性定数K1を小さくしても、磁気センサの感度は高くなる。
【0005】
従来の磁気センサよりも感度を高めるために、自由層に使用する合金として、非特許文献1乃至3に記載のような合金とは異なり、これまで自由層に使用されていなかった合金にまで対象を広げることも効果的であると考えられる。これまで自由層に使用されていなかった合金として、例えば、6wt%~12wt%(10.9at%~19.5at%)のSiと、3wt%~10wt%(5.7at%~16.9at%)のAlと、残部のFeとを主成分とするFeSiAl合金(センダスト)がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
FeSiAl合金(センダスト)は、その中心組成(Fe85Al5.38Si9.62;数字はwt%、または、Fe73.7Al9.7Si16.6;数字はat%)で、透磁率が30000H/m以上となることが知られている(例えば、非特許文献4参照)。また、FeSiAl合金(センダスト)は、その中心組成でK1および飽和磁歪定数λsがゼロとなり、軟磁性特性を発現することや、その軟磁性特性が組成や製造時の熱処理温度に非常に敏感であることが知られている(例えば、非特許文献5参照)。
【0007】
また、FeAlSi合金の結晶構造は、bcc(A2、体心立方)の規則構造であるD03規則構造であり(例えば、非特許文献6参照)、そのD03規則構造の結晶化度が減少すると、B2(CsCl型)構造またはA2構造に変化し、軟磁性特性の劣化を引き起こすことが知られている(例えば、非特許文献6または7参照)。また、FeSiAl合金は、製造時の熱処理温度が高くなるほど、原子規則度が高くなることも知られている。ここで、bcc構造は、Δ1電子のコヒーレントトンネリングにより、大きいTMR比を有することが期待されている(例えば、非特許文献8参照)。
【0008】
なお、合金等の結晶について、所定の規則構造の規則性にどの程度従っているかを表す指標として、規則度Sが知られている(例えば、非特許文献9参照)。また、センダストを構成する各鉄基合金の結晶磁気異方性定数K1の値が報告されている(例えば、非特許文献10参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kosuke Fujiwara, Mikihiko Oogane, Saeko Yokota, Takuo Nishikawa, Hiroshi Naganuma, and Yasuo Ando, “Fabrication of magnetic tunnel junctions with a bottom synthetic antiferro-coupled free layers for high sensitive magnetic field sensor devices”, J. Appl. Phys., 2012, Vol. 111, 07C710
【非特許文献2】K. Ishikawa, M. Oogane, K. Fujiwara, J. Jono, M. Tsuchida, and Y. Ando, “Investigation of magnetic sensor properties of magnetic tunnel junctions with superparamagnetic free layer at low frequencies for biomedical imaging applications”, Jpn. J. Appl. Phys., 2016, Vol. 55, 123001
【非特許文献3】Daiki Kato, Mikihiko Oogane, Kosuke Fujiwara, Takuo Nishikawa, Hiroshi Naganuma, and Yasuo Ando, “Fabrication of Magnetic Tunnel Junctions with Amorphous CoFeSiB Ferromagnetic Electrode for Magnetic Field Sensor Devices”, Applied Physics Express, 2013, Vol. 6, 103004
【非特許文献4】増本量、山本達治、「新合金「センダスト」及びFe-Si-Al系合金の磁気的並に電気的性質に就て」、日本金属学会誌、1937年、第1巻、第3号、p.127-135
【非特許文献5】高橋研、諏訪部繁和、成田隆之、脇山徳雄、「Fe-Si-Alスパッタ薄膜の磁気特性」、日本応用磁気学会誌、1986年、Vol.10、No.2、p.307-310
【非特許文献6】渡邊清、篠原猛、佐藤正樹、「センダストおよびアルパームのNMR測定」、日本金属学会誌、1993年、第57巻、第3号、p.320-324
【非特許文献7】高橋研、「最近の鉄系薄膜磁気ヘッド材料 -センダスト合金を例として-」、応用物理、1987年、第56巻、第10号、p.1289-1306
【非特許文献8】W. H. Butler, X.-G. Zhang, T. C. Schulthess, and J. M. MacLaren, “Spin-dependent tunneling conductance of Fe |MgO| Fe sandwiches”, Phys. Rev. B, 2001, 63, 054416
【非特許文献9】K. Kabara, M. Tsunoda, and S. Kokado, “Annealing effects on nitrogen site ordering and anisotropic magnetoresistance in pseudo-single-crystal γ’-Fe4N films”, Appl. Phys. Express, 2014, 7, 063003
【非特許文献10】T. Kamimori, M. Shida, M. Goto, and H. Fujiwara, “Investigation of ordering in Fe3- xCoxSi by Mossbauer spectroscopy and magnetocrystalline anisotropy”, J. Magn. Magn. Mater. 1986, 54, 927
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1乃至3に記載の合金は、MTJ素子の自由層の材料として使用されてきたが、磁気センサの感度をさらに高めることを目的として、これまで自由層に使用されていなかった合金で、従来の合金に匹敵する良好な軟磁気特性を有し、自由層に使用可能なものを見出すことが期待されている。
【0012】
なお、特許文献1および非特許文献4乃至8の記載から、FeAlSi合金が、大きいTMR比および小さい異方性磁場Hkの両方を達成可能であることが期待されるが、ナノメートルオーダー(100nm以下)の薄膜を製造することができなかったため、その磁気特性を調べることができず、自由層として使用可能であるかどうかの判断を行うことができなかった。
【0013】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、良好な軟磁気特性を有し、MTJ素子の自由層に使用可能なFeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を含む磁気センサおよび磁気センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、これまで製造できなかった、ナノメートルオーダー(100nm以下)の厚みを有するセンダストの薄膜の製造に初めて成功し、そのセンダスト薄膜の磁気特性を調べたところ、組成を調整することによって良好な軟磁気特性を有することを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmであることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法は、スパッタリングにより基板上に、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法により好適に製造することができる。本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、例えば、非特許文献1に記載のNiFe合金や非特許文献3に記載のCoFeSiB合金と比べて、同等程度またはより小さい異方性磁場Hkを有することができ、良好な軟磁気特性を有している。このため、MTJ素子の自由層に使用することにより、良好な感度を有する磁気センサを得ることができる。また、NiFe合金やCoFeB合金、CoFeSiB合金と比べて安価に製造することができる。
【0018】
本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、前記Alを9at%以上17at%以下、前記Siを8at%以上18at%以下で含むことが好ましく、前記Alを11at%以上16at%以下、前記Siを9at%以上16at%以下で含むことが特に好ましい。本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法は、前記Alを9at%以上17at%以下、前記Siを8at%以上18at%以下で含む前記薄膜を成膜することが好ましく、前記Alを11at%以上16at%以下、前記Siを9at%以上16at%以下で含む前記薄膜を成膜することが特に好ましい。これらの場合、異方性磁場Hkが特に小さくなるため、非常に良好な軟磁気特性を有している。また、本発明に係るFeSiAl合金薄膜および、本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法で成膜する薄膜は、Alを9at%以上12.5at%以下で含んでいてもよく、Alを10at%以上12.5at%以下で含んでいてもよい。また、Siを15at%以下で含んでいてもよい。また、Alを14at%以上で含んでいてもよく、Siを12.5at%以下または17at%以上で含んでいてもよい。
【0019】
本発明に係る磁気センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記固定層と前記自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、前記自由層は本発明に係るFeSiAl合金薄膜を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る磁気センサは、自由層がFeSiAl合金薄膜を含んでおり、これまでには無い、新たな構成の磁気センサである。本発明に係る磁気センサは、自由層が本発明に係るFeSiAl合金薄膜を含んでいるため、特に良好な感度を有している。
【0021】
本発明に係る磁気センサの製造方法は、本発明に係る磁気センサを製造するための方法であって、スパッタリングにより基板上に、前記自由層と前記絶縁層と前記固定層とを、この順番またはこれとは反対の順番で形成した後、300℃以上350℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る磁気センサの製造方法は、自由層にFeSiAl合金薄膜を含む、これまでには無い、新たな構成の磁気センサを得ることができる。本発明に係る磁気センサの製造方法は、本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法により自由層を形成することが好ましい。すなわち、前記自由層を形成するとき、スパッタリングにより、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。この場合、本発明に係るFeSiAl合金薄膜を含む自由層を形成することができる。このため、特に良好な感度を有する磁気センサを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、良好な軟磁気特性を有し、MTJ素子の自由層に使用可能なFeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を含む磁気センサおよび磁気センサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、磁気特性等を調べるための試料を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、各熱処理温度T
aでの(a)試料3のXRDスペクトル、(b) (111)面φスキャンパターン、(c)熱処理温度T
aに対するD0
3規則構造の規則度S
D03、および、B2構造の規則度S
B2を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、(a)試料1、(b)試料2、(c)試料4、(d)試料5のXRDスペクトルである。
【
図4】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、(a)試料1、(b)試料2、(c)試料4、(d)試料5の(111)面φスキャンパターンである。
【
図5】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料6の(111)面φスキャンパターンである。
【
図6】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときのAFM像である。
【
図7】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料3の(a)熱処理前(as depo.)、(b)熱処理温度T
aが300℃、(c)400℃、(d)450℃、(e)500℃、(f)600℃のときの磁化曲線(M-H曲線)である。
【
図8】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、(a)試料1の熱処理前(as depo.)、(b)熱処理温度T
aが300℃、(c)400℃、(d)500℃のとき、(e)試料2の熱処理前(as depo.)、(f)熱処理温度T
aが300℃、(g)400℃、(h)500℃のとき、(i)試料4の熱処理前(as depo.)、(j)熱処理温度T
aが300℃、(k)400℃、(l)500℃のとき、(m)試料5の熱処理前(as depo.)、(n)熱処理温度T
aが300℃、(o)400℃、(p)500℃のときの磁化曲線(M-H曲線)である。
【
図9】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料6の熱処理温度T
aが450℃のときの磁化曲線(M-H曲線)である。
【
図10】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料(Sample)1~5の異方性磁場H
kと熱処理温度T
aとの関係を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、シミュレーションによる試料(Sample)1~3のAl濃度と結晶磁気異方性定数K
1との関係(図中の実線)、および、試料1~3、6の測定データのうち、K
1が最も0に近いときのAl濃度を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施の形態の磁気センサの、磁気トンネル接合(MTJ)素子の試料を示す縦断面図である。
【
図13】
図12に示す磁気トンネル接合(MTJ)素子の、(a)各熱処理温度T
MTJでの磁気抵抗曲線、(b)TMR比と熱処理温度(T
MTJ)との関係、(c)素子抵抗(RA;resistance area)値と熱処理温度(T
MTJ)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例および図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図13は、本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜および磁気センサを示している。
【0026】
本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜は、8at%より多く25at%以下のAlと、8at%以上25at%以下のSiとを含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmである。
【0027】
本発明の実施の形態の磁気センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、固定層と自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、自由層は本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜13を含んでいる。
【実施例0028】
本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜を製造し、その磁気特性等を調べた。
図1に示すように、DC/RFマグネトロンスパッタリングにより、MgO基板11の上に、厚さ20nmのMgO層12と、厚さ30nmのFeSiAl合金薄膜13と、厚さ5nmのTa層14とを、この順序で積層して試料(Sample)1~6を作製した。なお、MgO層12は、結晶方位が揃った、平坦な表面を有するFeSiAl合金薄膜13を、エピタキシャルに成長させるためのバッファー層である。各試料のFeSiAl合金薄膜13は、成膜後、磁場を印加せずに、300℃以上600℃以下の温度(T
a)で、1時間の熱処理を行った。各試料のFeSiAl合金薄膜13の組成を、表1に示す。なお、FeSiAl合金薄膜13の組成は、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma;ICP)分析により求めた。
【0029】
【0030】
試料1~6のFeSiAl合金薄膜13に対して、X線回折法による測定を行った。試料3の熱処理前(as depo.)、熱処理温度T
aが300℃、400℃、450℃、500℃、600℃のときの、XRDスペクトルおよび(111)面φスキャンパターンを、それぞれ
図2(a)および(b)に示す。また、試料3の熱処理温度T
aに対するD0
3規則構造の規則度S
D03、および、B2構造の規則度S
B2を、
図2(c)に示す。なお、各規則度S
D03、S
B2は、
図2(b)の各ピークの強度比を用いて、非特許文献9に記載の方法に従って計算している。
【0031】
また、試料1、2、4、5のFeSiAl合金薄膜13の熱処理前(as depo.)、熱処理温度T
aが300℃、400℃、500℃のときの、XRDスペクトルおよび(111)面φスキャンパターンを、それぞれ
図3(a)~(d)および
図4(a)~(d)に示す。また、試料6のFeSiAl合金薄膜13の熱処理前(as depo.)、熱処理温度T
aが300℃、400℃、450℃、500℃、600℃のときの(111)面φスキャンパターンを、
図5に示す。また、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときのFeSiAl合金薄膜13のAFM像を、
図6に示す。
【0032】
図2(a)および
図3(a)~(d)に示すように、試料1~5のFeSiAl合金薄膜13では、熱処理前(as depo.)および300℃以上600℃以下のいずれの熱処理温度でも、A2の構造を示す(004)ピークが認められ、FeSiAl合金薄膜13が結晶化していることが確認された。また、熱処理温度が400℃以上のとき、B2の構造を示す(002)ピークが認められた。また、
図2(b)、
図4(a)~(d)および
図5に示すように、試料1~6のFeSiAl合金薄膜13では、熱処理温度が400℃以上のとき、D0
3規則構造を示すピークが認められた。これらの結果から、FeSiAl合金薄膜13は、熱処理温度が300℃のときには、A2およびB2の構造が混在しており、熱処理温度T
aが400℃以上のときには、A2、B2、およびD0
3の構造が混在していると考えられる。
【0033】
また、
図2(c)に示すように、試料3のFeSiAl合金薄膜13では、D0
3構造の規則度S
D03は、熱処理温度の上昇と共に増加することが確認されたが、B2構造の規則度S
B2は、熱処理温度によってはほとんど変化しないことが確認された。
図2~
図5の結果から、FeSiAl合金薄膜13は、全体的には、熱処理温度の上昇により、結晶構造が規則的になり、バルクと同様の完全なD0
3規則構造に近づいていくものと考えられる。
【0034】
また、
図6に示すように、試料3のFeSiAl合金薄膜13では、400℃の熱処理温度のとき、平均表面粗さ(R
a)は、0.17nmであり、膜厚(30nm)と比較すると表面粗さは非常に小さいことが確認された。
【0035】
次に、振動試料型磁力計(VSM)により、試料1~6のFeSiAl合金薄膜13の磁化曲線(M-H曲線)を求めた。試料3のFeSiAl合金薄膜13の、熱処理前(as depo.)、熱処理温度T
aが300℃、400℃、450℃、500℃、600℃のときの磁化曲線を、それぞれ
図7(a)~(f)に示す。また、試料1、2、4、5のFeSiAl合金薄膜13の熱処理前(as depo.)、熱処理温度T
aが300℃、400℃、500℃のときの、磁化曲線を、それぞれ
図8(a)~(p)に示す。なお、各磁化曲線のうち、異方性が小さいものについては、磁化曲線を拡大したものを挿入図に示している。また、試料6のFeSiAl合金薄膜13の熱処理温度T
aが450℃のときの磁化曲線を、
図9に示す。なお、各磁化曲線の2本の曲線は、それぞれ[100]方向に沿って測定した曲線、および、[110]方向に沿って測定した曲線である。
【0036】
図7乃至
図9に示すように、試料1~6のFeSiAl合金薄膜13では、熱処理前(as depo.)の磁化曲線が、相分離によると考えられる2段階挙動を示しているが、熱処理後の磁化曲線は、その2段階挙動が認められないことから、熱処理により均質化されたものと考えられる。また、熱処理温度の上昇と共に、試料1では300℃以上400℃以下の間、試料2および3では400℃以上500℃以下の間で、磁化容易軸が[100]方向から[110]方向に変化していることが確認された。これは、結晶磁気異方性定数K
1の符号が正から負に変化していることを示しており、符号が変化する温度付近で、K
1が0に近づいていることを示している。なお、試料4および5には、磁化容易軸の方向の変化は認められなかった。
【0037】
図7および
図8に示す磁化曲線から、試料(Sample)1~5のFeSiAl合金薄膜13の、各熱処理温度での異方性磁場H
kを求めた。その異方性磁場H
kと熱処理温度T
aとの関係を、
図10に示す。
図10には、非特許文献3のCoFeSiB系合金の異方性磁場H
kの値も示している。
【0038】
図10に示すように、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13の異方性磁場H
kは、熱処理温度T
aが350℃以上500℃以下で約5 Oe以下となり、400℃付近以上450℃付近以下で、1 Oe以下の最小値を示していることが確認された。この異方性磁場H
kの値は、NiFe系合金やCoFeSiB系合金の異方性磁場H
kの値と比べて同等程度または、それらの異方性磁場H
kの値よりも小さいことから、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13は良好な軟磁気特性を有しているといえる。また、異方性磁場H
kの最小値が1 Oe以下であることから、異方性磁場H
kが最小値を示すときには、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13の結晶磁気異方性定数K
1は、ほぼ0になっているものと考えられる。また、
図10には示していないが、試料6のFeSiAl合金薄膜13は、熱処理温度T
aが450℃付近で、異方性磁場H
kが1 Oe以下の最小値を示していることが確認されており、良好な軟磁気特性を有しているといえる。また、そのときの結晶磁気異方性定数K
1は、ほぼ0になっているものと考えられる。
【0039】
また、
図10に示すように、試料4および5のFeSiAl合金薄膜13の異方性磁場H
kは、10 Oe以下の小さい値を示すことはないが、熱処理温度T
aが350℃以上500℃以下のとき、やや値が小さくなることが確認された。このことから、試料4および5のFeSiAl合金薄膜13も、熱処理温度T
aが350℃以上500℃以下のとき、軟磁気特性が比較的良好になるといえる。
【0040】
次に、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13について、シミュレーションにより、Al濃度および規則度に対する結晶磁気異方性定数K1の依存性を調べた。シミュレーションでは、(1)式を用いてK1を求めた。ここで、wは組成比(at%)である。また、D03構造、B2構造、A2構造の体積分率は、それぞれSD03、SB2-SD03、100-SB2により計算されるものと仮定した。また、Feの組成は、ICP分析により求めた。(1)式に示すように、K1の総計は、各構造における各組成の体積分率と、非特許文献10に記載されている各鉄基合金のK1の値との積和として計算した。
【0041】
【0042】
試料(Sample)1~3のFeSiAl合金薄膜13のシミュレーション結果を、
図11に実線で示す。また、
図11には、バルクのセンダスト(Fe
73.7Al
9.7Si
6.6;数字はat%)でのシミュレーション結果も示す。また、
図11には、
図10に示す試料1~3のFeSiAl合金薄膜13の測定データのうち、K
1が最も0に近いとき(異方性磁場H
kが最小値を示すとき)の測定データ、および、試料6のFeSiAl合金薄膜13の測定データ(熱処理温度T
aが450℃付近のもの)も示す。なお、各測定データには、熱処理温度T
a、規則度S
D03、規則度S
B2も示している。
【0043】
図11に示すように、試料1~3の各測定データは、シミュレーション結果と良く合っていることが確認された。また、原子の規則度(S
D03)が低下していくのに従って、K
1~0の点が、Al濃度が高くなる組成に移行していくことが確認された。
図11に示すように、シミュレーション結果を考慮すると、Alを9at%以上17at%以下で含むことが好ましいことが確認された。また、測定データからは、Alを11at%以上16at%以下で含むことが好ましいことが確認された。また、各規則構造の体積バランスを考慮すると、Alを9at%以上17at%以下で含む場合には、Siを8at%以上18at%以下で含むことが好ましく、Alを11at%以上16at%以下で含む場合には、Siを9at%以上16at%以下で含むことが好ましいといえる。