(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182561
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】カットライン生成システム及びその方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20231219BHJP
B23K 26/042 20140101ALI20231219BHJP
【FI】
A61C7/08
B23K26/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097610
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022095830
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520154416
【氏名又は名称】ホワイトラインテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩之
(72)【発明者】
【氏名】大木 慎一
(72)【発明者】
【氏名】岡井 貴之
【テーマコード(参考)】
4C052
4E168
【Fターム(参考)】
4C052JJ10
4E168AD07
4E168CB19
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】多様な歯並びに対応することのできるカットライン生成システム及びその方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】カットライン生成システムは、歯列の3次元データを取得する取得部と、歯列における歯の歯冠の中心点35を設定する中心点設定部と、中心点35から、歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁34に複数設定された境界点37のそれぞれに対してベクトル38を設定するベクトル設定部と、ベクトル38の方向に基づいて、歯冠縁34から歯肉表面に所定距離進んだ位置に点39を設定するカットライン点設定部と、各点39を通る曲線を設定し、アライナーのカットライン40を生成するカットライン生成部とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列の3次元データを取得する取得部と、
前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する中心点設定部と、
前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定するベクトル設定部と、
前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定するカットライン点設定部と、
各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成するカットライン生成部と、
を備えるカットライン生成システム。
【請求項2】
前記歯列の咬合面をx軸及びy軸からなるxy平面とし、前記xy平面に直交する軸をz軸とし、
前記中心点設定部は、前記xy平面における前記歯の外接円の中心座標であって、前記歯の歯冠縁におけるz座標の平均座標を、前記歯に対応する前記中心点とする請求項1に記載のカットライン生成システム。
【請求項3】
前記カットライン点設定部は、歯肉表面上において、前記ベクトルのxy成分が示す方向に前記所定距離進んだ位置に前記カットライン点を設定する請求項2に記載のカットライン生成システム。
【請求項4】
前記カットライン点設定部は、臨在歯における前記外接円の交点を結ぶ直線を境界線として、前記境界線を越えない範囲で前記カットライン点を設定する請求項3に記載のカットライン生成システム。
【請求項5】
前記カットライン点設定部は、前記曲線における谷と谷を結ぶ線分を設定し、
前記線分における点から前記z軸に直交する方向における歯肉面上の交点を、前記カットライン点として更新する請求項2から4のいずれか1項に記載のカットライン生成システム。
【請求項6】
前記カットライン点設定部は、複数の前記歯に対して唇頬側と舌側の両方で、又は、舌側のみで、前記カットライン点を更新する請求項5に記載のカットライン生成システム。
【請求項7】
前記カットライン点設定部は、3本の歯が互いに隣り合う関係にある場合、互に隣り合う3本の歯における前記中心点を結んだ三角形の内部には前記カットライン点を生成しない請求項2から4のいずれか1項に記載のカットライン生成システム。
【請求項8】
前記カットライン点設定部は、前記歯列において歯の抜け部がある場合に、前記抜け部の両隣の歯のそれぞれの舌側の前記カットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定し、前記抜け部の両隣の歯のそれぞれの頬側の前記カットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定する請求項1から4のいずれか1項に記載のカットライン生成システム。
【請求項9】
前記カットライン生成部は、各前記カットライン点を通過する前記曲線上に補間点を内挿して点列を生成し、前記点列の各点において歯肉表面に対する法線ベクトルを設定する請求項1から4のいずれか1項に記載のカットライン生成システム。
【請求項10】
前記カットライン点設定部は、前記点列における奥歯の奥側の前記カットライン点の前記法線ベクトルが前記奥歯を通過する場合に、通過する前記法線ベクトルに対応する前記カットライン点を、前記法線ベクトルが前記奥歯を通過しないように歯面上へ移動させる請求項9に記載のカットライン生成システム。
【請求項11】
歯列の3次元データを取得する工程と、
前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する工程と、
前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定する工程と、
前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する工程と、
各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成する工程と、
を有するカットライン生成方法。
【請求項12】
歯列の3次元データを取得する処理と、
前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する処理と、
前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定する処理と、
前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する処理と、
各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成する処理と、
をコンピュータに実行させるためのカットライン生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カットライン生成システム及びその方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば矯正歯科治療において、アライナーが用いられる(例えば特許文献1)。アライナーとはマウスピース状の装置である。アライナー矯正は、複数のアライナーを使用して、患者の矯正前の歯並びを徐々に整える治療方法である。例えばブラケットやワイヤーを使用した矯正治療と比較して、取り外しができ違和感が少ないことから、矯正方法としてアライナー矯正を用いることが増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アライナーは、レーザーカッター装置を用いてカットラインに沿って切断することで型から外される。カットラインは歯列に合わせて作成する必要があるが、歯列は人によって様々であるため、多様な歯列に対応してカットラインを生成することは困難であった。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、多様な歯並びに対応することのできるカットライン生成システム及びその方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様は、歯列の3次元データを取得する取得部と、前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する中心点設定部と、前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定するベクトル設定部と、前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定するカットライン点設定部と、各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成するカットライン生成部と、を備えるカットライン生成システムである。
【0007】
このような構成によれば、歯冠の中心点から歯冠縁の境界点のそれぞれに対してベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定するため、このカットライン点に基づいてアライナーのカットラインを生成することで様々な歯並びに対応したカットラインを生成することができる。
【0008】
上記の構成において、前記歯列の咬合面をx軸及びy軸からなるxy平面とし、前記xy平面に直交する軸をz軸とし、前記中心点設定部は、前記xy平面における前記歯の外接円の中心座標であって、前記歯の歯冠縁におけるz座標の平均座標を、前記歯に対応する前記中心点とすることとしてもよい。
【0009】
このような構成によれば、xy平面(咬合面)における歯の外接円の中心座標であって、歯の歯冠縁におけるz座標の平均座標により、歯冠に対して中心点を設定することができる。
【0010】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、歯肉表面上において、前記ベクトルのxy成分が示す方向に前記所定距離進んだ位置に前記カットライン点を設定することとしてもよい。
【0011】
このような構成によれば、ベクトルのxy成分が示す方向に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定することで、適切に歯肉表面上にカットラインを生成することができる。
【0012】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、臨在歯における前記外接円の交点を結ぶ直線を境界線として、前記境界線を越えない範囲で前記カットライン点を設定することとしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、境界線を設定し、境界線を超えない範囲でカットラインを設定することで、それぞれの歯に対応した適切な歯列全体のアライナーを作成することができる。
【0014】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、前記曲線における谷と谷を結ぶ線分を設定し、前記線分における点から前記z軸に直交する方向における歯肉面上の交点を、前記カットライン点として更新することとしてもよい。
【0015】
このような構成によれば、曲線における谷と谷を結ぶ線分を設定し、この線分における点からz軸に直交する方向における歯肉面上の交点を、カットライン点として更新することで、谷と谷の間の山部分のz座標を下げ、歯冠の表面や歯冠縁にカットラインが生成されることが抑制される。
【0016】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、複数の前記歯に対して唇頬側と舌側の両方で、又は、舌側のみで、前記カットライン点を更新することとしてもよい。
【0017】
このような構成によれば、カットライン点の更新により、唇頬側と舌側の両方で、又は、舌側のみで、カットラインが平坦化されて、歯冠の表面や歯冠縁にカットラインが生成されることが抑制される。
【0018】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、3本の歯が互いに隣り合う関係にある場合、互に隣り合う3本の歯における前記中心点を結んだ三角形の内部には前記カットライン点を生成しないこととしてもよい。
【0019】
このような構成によれば、3本の歯が互いに隣り合う関係にある場合に、不適切な位置(三角形の内部)にカットライン点が生成されることが抑制される。
【0020】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、前記歯列において歯の抜け部がある場合に、前記抜け部の両隣の歯のそれぞれの舌側の前記カットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定し、前記抜け部の両隣の歯のそれぞれの頬側の前記カットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定することとしてもよい。
【0021】
このような構成によれば、抜け部がある場合には抜け部でアライナーが分割されてしまう可能性があるが、抜け部の舌側と頬側のそれぞれで抜け部の両隣の歯のカットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を設定するため、アライナーが分割されてしまうことが抑制される。
【0022】
上記の構成において、前記カットライン生成部は、各前記カットライン点を通過する前記曲線上に補間点を内挿して点列を生成し、前記点列の各点において歯肉表面に対する法線ベクトルを設定することとしてもよい。
【0023】
このような構成によれば、補間点を内挿して法線ベクトルを設定することで、レーザを照射する位置(各点)及び方向(法線ベクトル)が適切に設定される。
【0024】
上記の構成において、前記カットライン点設定部は、前記点列における奥歯の奥側の前記カットライン点の前記法線ベクトルが前記奥歯を通過する場合に、通過する前記法線ベクトルに対応する前記カットライン点を、前記法線ベクトルが前記奥歯を通過しないように歯面上へ移動させることとしてもよい。
【0025】
このような構成によれば、法線ベクトルが奥歯の奥側を通過する場合には、レーザを法線ベクトルの方向で照射する場合に歯冠の部分と干渉してしまう可能性があるが、線ベクトルが奥歯を通過しないように歯面上へ移動させることで、適切なカットラインを設定することができる。
【0026】
本開示の第2態様は、前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する工程と、前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定する工程と、前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する工程と、各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成する工程と、を有するカットライン生成方法である。
【0027】
本開示の第3態様は、歯列の3次元データを取得する処理と、前記歯列における歯の歯冠の中心点を設定する処理と、前記中心点から、前記歯の歯冠と歯肉の境界である歯冠縁に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定する処理と、前記ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する処理と、各前記カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットラインを生成する処理と、をコンピュータに実行させるためのカットライン生成プログラムである。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、多様な歯並びに対応することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本開示の一実施形態に係るカットライン生成システムが備える機能を示した機能ブロック図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る咬合面で歯列を2次元化した図の一例を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る歯列の斜視図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る歯列の斜視図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係るカットライン生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本開示の一実施形態に係るカットラインの一例を示す図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係るカットラインの一例を示す図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る隣在歯が三角形状を形成する場合の一例を示す図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る三角形状が組み合わさった場合の一例を示す図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る歯が歯肉の側面側へ突出している場合の一例を示す図である。
【
図11】本開示の一実施形態に係る歯が歯肉の側面側へ突出している場合の一例を示す図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る歯列において歯の抜け部がある場合の一例を示す図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係る歯列において歯の抜け部がある場合の一例を示す図である。
【
図14】本開示の一実施形態に係る奥歯奥側の歯肉が盛り上がっている場合の一例を示す図である。
【
図15】本開示の一実施形態に係る奥歯奥側の歯肉が盛り上がっている場合の一例を示す図である。
【
図16】本開示の一実施形態に係るカットライン生成システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本開示に係るカットライン生成システム及びその方法並びにプログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
(カットライン生成システムの構成)
図1は、カットライン生成システム20が備える機能を示した機能ブロック図である。
図1に示されるように、カットライン生成システム20は、取得部21と、中心点設定部22と、ベクトル設定部23と、カットライン点設定部24と、カットライン生成部25とを備えている。
【0032】
取得部21は、歯列の3次元データを取得する。3次元データは、アライナーを作成する対象の患者の歯列(歯並び)が示されたデータである。例えば、3次元データは、患者の口腔内のスキャニングデータである。3次元データには、上顎及び下顎のそれぞれの歯列が含まれている。
【0033】
取得されたデータは、後述の処理のために咬合面で2次元化される。
図2は、咬合面で歯列を2次元化した図の一例を示している。例えば、
図2では、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、及び第三大臼歯が標準的に並んでいる場合(標準歯列)を示している。
【0034】
そして、
図2のような咬合面において、歯列の咬合面をx軸及びy軸からなるxy平面とし、xy平面に直交する軸をz軸とする。
【0035】
中心点設定部22は、歯列における歯の歯冠の中心点35を設定する。中心点35とは、歯冠の内部に定義される基準点である。具体的には、中心点設定部22は、xy平面において、歯に対して外接円31を設定する。外接円31は、xy平面で見たときに歯が円内に入る最小直径の円である。
図2では、一例として外接円31を示している。外接円31は各歯に対して設定される。外接円31を設定すると、隣在歯における外接円31の交点を結ぶ直線を、
図2に示すように境界線33とする。隣在歯とは、互いに隣り合う歯である。
【0036】
そして、中心点設定部22は、各歯に対して中心点35を設定する。中心点35のxy座標は、外接円31の中心座標とする。中心点35のz座標は、歯の歯冠縁34に基づいて設定する。歯冠縁34とは、歯冠と歯肉の境界部分(接触部分)である。
図3は、下顎の歯列の一部の斜視図である。例えば歯冠縁34を点列として抽出し、歯冠縁34のz座標の平均座標を、中心点35のz座標とする。このように、xy平面における歯の外接円31の中心座標であって、歯の歯冠縁34におけるz座標の平均座標が、歯の中心座標となる。
【0037】
図4は、
図3の斜視図において、各歯の中心点35を示している。また、
図4では境界線33を示している。
図4では、各歯の中心点35を結んだ線36を示している。
【0038】
ベクトル設定部23は、中心点35から、歯冠縁34に複数設定された境界点のそれぞれに対してベクトルを設定する。歯冠縁34において、所定間隔(例えば0.5mm)で複数の境界点を設定する。そして、中心点35からそれぞれの境界点へのびるベクトルを設定する。
図4では、一例として、中心点35から境界点37へのベクトル38を示している。
図4のベクトル38のように各歯について境界点毎にベクトルが設定される。
【0039】
カットライン点設定部24は、ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁34から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する。具体的には、カットライン点設定部24は、歯肉表面上において、ベクトルのxy成分が示す方向に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する。例えば、
図2に示すような咬合面(xy平面)で見たときに、ベクトルの方向に歯冠縁34から歯肉へ所定距離進んだ位置にカットライン点を設定する。
図4の例では、ベクトル38に対応するカットライン点の一例を点39として示している。
【0040】
ある歯について、境界点のそれぞれに対してベクトルが設定されるため、各ベクトルについて同様にカットライン点が設定される。このような場合に、カットライン点設定部24は、境界線33(境界線33に対してz軸方向に延在する面)を越えない範囲でカットライン点を設定する。例えば、ある歯についてカットライン点を設定中に、カットライン点の設定位置(すなわちベクトルの方向に歯冠縁34から歯肉へ所定距離進んだ位置)が境界線33を超える場合には、該ある歯に対するカットライン点の設定処理を終了して、次の歯に処理を移行する。
【0041】
このように処理をすることによって、それぞれの歯に対して、複数のカットライン点が設定される。
【0042】
カットライン生成部25は、各カットライン点を通る曲線を設定し、アライナーのカットライン(カッティングライン)40を生成する。すなわち、カットライン生成部25によって、アライナーを型から外すためのカットライン40が生成される。
【0043】
具体的には、カットライン生成部25は、各カットライン点を通過する曲線上に、補間点を内挿する。補間点が内挿されたカットライン40を示す点列は、所定間隔(例えば0.5mm)となることが好ましい。
【0044】
そして、カットライン40を示す点列の各点には、歯肉表面に対する法線ベクトルが設定される。
図4では、カットライン(点列)40を帯状に示しており、各点を帯と歯肉表面の接触位置として示しており、法線ベクトルを帯の幅方向として示している。このようにカットライン40は、歯肉表面上における点列(各点座標)と、各点に対応する法線ベクトルの組み合わせとして設定される。
【0045】
このように、アライナーのカットライン40が生成される。このカットライン40を用いて、レーザーカッター装置を用いて型からアライナーが切断されて外される。点列はレーザーカッター装置の仕様に合わせて所定間隔で整列していること好ましい。そして、法線ベクトルの示す方向にレーザを照射することで、歯肉表面に対して垂直にレーザを照射して切断することが可能となる。
【0046】
具体的には、アライナーは、シート状の樹脂材料(シート材)を歯型模型に加熱しながら圧着させることによって形成される。そして、シート材をアライナーとして形成するため、シート材の余剰部分がカットライン40にそって切断される。このようにして、アライナーが形成される。
【0047】
(カットライン生成システムによる処理の流れ)
次に、上述のカットライン生成システム20によるカットライン生成処理の一例について
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係るカットライン生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
まず、歯列の3次元データを取得する(S101)。次に、咬合面に対して2次元化を行う(S102)。そして、各歯に対して外接円31及び境界線33を設定する(S103)。
【0049】
次に、各歯に対して中心点35を設定する(S104)。次に、各歯に対応して歯冠縁34に複数の境界点を設定する(S105)。次に、各歯において、中心点35から各境界点へのびるベクトルをそれぞれ設定する(S106)。
【0050】
次に、ベクトルの方向に基づいて、歯冠縁34から歯肉表面に所定距離進んだ位置を演算する(S107)。該位置が境界線を超えるか否かを判定する(S108)。該位置が境界線を超えない場合(S108のNO判定)には、該位置にカットライン点を設定する(S109)。該位置が境界線を超える場合(S108のYES判定)には、カットライン点は設定しない。なお、カットライン点の設定については各歯に対して並列処理しても良いし、歯毎に逐次処理することとしても良い。逐次処理する場合には、例えば、境界線を超えた場合に次の歯へ移行する。
【0051】
すべての歯に対してカットライン点の設定処理が完了したら、各カットライン点を通過する曲線を設定し、カットライン40を生成する(S110)。これにより、作成されるアライナーの全周に対応したカットライン40が生成される。カットライン40は、歯肉表面上における点列(各点座標)と、各点に対応する法線ベクトルの組み合わせとして設定される。
【0052】
(カットラインの補正処理)
上記のようにカットライン40を作成することで、
図6のようにカットライン40を作成することができる。このようなカットライン40では、歯冠と歯冠の間部分のカットライン40が、
図6の箇所41のように山なり(z軸方向に凸)となっている。このため、上記のカットライン作成の処理について補正処理を行うこととしても良い。
【0053】
図6のような曲線(カットライン40)が生成されると、カットライン点設定部24は、曲線における谷を設定する。谷とは、曲線において、z軸方向に極小値となる位置である。曲線において谷は複数設定され、例えば歯毎に谷がある。そして、谷と谷とを結ぶ直線の線分を設定する。
図6では一例として谷42と谷42を結ぶ線分43を示している。これにより、各谷の間が線分で繋がれる。
【0054】
そして、線分における点からz軸に直交する方向における歯肉面上の交点を探索する。具体的には、線分において所定間隔(例えば0.5mm)毎に点を設定する。そして、それぞれの点に対して、z軸に直交する方向にベクトルを設定した場合に歯肉面と交差する点を設定する。z軸に直交する方向については、具体的には、z軸に直交する方向であって、線分と垂直な方向である。このようにすることで、線分の各点に対応する歯肉面上の点(交点)が設定される。なお、z軸に直交する方向に交点が見つからない場合には、z軸方向に交点を探索することとしてもよい。
【0055】
そして、交点を新たなカットライン点として設定する。このようにしてカットライン点が更新される。更新したカットライン点が所定間隔の点列ではない場合には、点の内挿等を行い、所定間隔で整列させることとしても良い。
【0056】
更新されたカットライン点を用いることで、カットライン生成部25によって再度カットライン40が生成される。更新されたカットライン点に基づいてカットライン40を生成した場合の一例を
図7に示す。
図6と比較して、歯冠と歯冠の間部分の山なりのカットライン40が谷に近い位置で平坦化される。
図7に示すように、カットライン40が平坦化されることによって、カットライン40に基づいて作成されるアライナーが覆う歯の面積が
図6と比較して大きくなり、アライナーの補綴力が高まる。
【0057】
なお、上述したカットライン作成の処理における補正処理は、複数の歯に対して行われて、唇頬側と舌側の両方で、作成されるアライナーの全周にわたって、カットライン40が平坦化されるようにしてもよい。具体的には、ステップS110でカットライン40が生成された後、カットライン40のうち、
図6の箇所41のように山なり(z軸方向に凸)となっている複数の歯冠と歯冠の間の部分それぞれについて、全周にわたって上述した方法でカットライン点を更新する。これにより、カットライン40は、唇頬側と舌側の両方において全周でカットライン40が谷に近い位置で平坦化され、レーザーカッター装置によって作成されるアライナーの縁の全周も平坦化される。
【0058】
また、カットライン作成の処理において補正処理を行う場合、本発明は、全周を補正処理の対象とする場合に限定されず、全周のうち必要な部分を補正処理の対象としてその部分のみを平坦化するように補正してもよい。
【0059】
例えば、すべての歯のうち唇頬側については、補正処理を行わずに、唇頬側では、歯冠と歯冠の間部分のカットライン40が山なり(z軸方向に凸)のままとし、かつ、すべての歯の舌側に対して補正処理を行って、舌側では、カットライン40が平坦化されるようにしてもよい。アライナーが口内に装着されたとき、アライナーの舌側は、舌と当たりやすいため、アライナーの舌側の縁が平坦になることで、舌で受けるアライナーの感触を和らげることができる。また、すべての歯ではなく、一部の歯のみに上述した補正処理を行って、部分的にカットライン40が平坦化されるようにしてもよい。これにより、作成されるアライナーの縁が部分的に平坦になる。
【0060】
(歯列の状態に合わせたその他の処理)
上記の例は、
図2に示すように標準歯列に対する処理を説明したが、歯列の状態が標準歯列から大きく外れる場合には、カットライン点を設定する際に歯列の状態に合わせて以下のP1からP4のいずれかの処理を行うことが好ましい。
P1:臨在歯が三角形状を形成する場合
P2:歯肉の側面側へ突出した歯がある場合
P3:歯列に抜けがある場合
P4:奥歯奥側の歯肉が盛り上がっている場合
【0061】
まず、P1の処理について説明する。
歯が他の歯列の歯に対して頬側や舌側に出ている場合、隣在歯が三角形状を形成する場合がある。三角形状とは、歯の中心点35を結んだ線が三角形をなすことを意味する。
図8は、隣在歯が三角形状を形成する場合の一例を示す図である。このように、3本の歯が互いに隣り合う関係にある場合、互いに隣り合う3本の歯の中心点35を結ぶと三角形状となる。
【0062】
図8の例では、歯51、歯52、歯53の歯が互いに隣り合う関係にあり、中心点35を結ぶと三角形54となる。また、
図8の例では、歯55、歯56、歯57の歯が互いに隣り合う関係にあり、中心点35を結ぶと三角形58となる。このように、3本の歯が三角形状を構成する場合、三角形状の内部にカットライン40を作成すると不具合が生じる可能性がある。このため、互に隣り合う3本の歯における中心点35を結んだ三角形の内部にはカットライン点を生成しない。
図8では、三角形の内部にはカットライン点を作成しない場合の例を示しており、カットライン40となる。
【0063】
例えば舌側のカットライン40を作成する際に、他の歯(例えば歯51や歯52)の裏側に隠れてしまう歯(例えば歯53)は、カットライン作成処理の対象から外すことで、舌側のカットライン40をきれいに作成することができる。
【0064】
図9は、三角形状が組み合わさった場合の一例を示す図である。
図9では、三角形61と三角形62が組み合わされる場合を示している。
図9に示すように三角形状の組み合わせがある場合でも三角形の内部にはカットライン点を生成しない。
図9では、カットライン40が生成される。
【0065】
次に、P2の処理について説明する。
図10に示すように歯64が歯肉の側面側へ突出している場合、咬合面側から見ると、歯64に対して突出側の歯肉に対する歯冠縁34は見えない。なお、
図10と反対に舌側の側面側は歯が突出する場合も同様である。
【0066】
このような場合には、xy平面(咬合面)では歯冠縁34が見えないため、
図11に示すように歯を横(z軸に対して垂直な方向)から見てカットライン40を作成することとしてもよい。
【0067】
次に、P3の処理について説明する。
歯列において抜歯等による抜けがある場合、抜けの箇所を境界にアライナーが分割される可能性がある。
【0068】
このため、カットライン点設定部24は、歯列において歯の抜け部65がある場合に、抜け部65の両隣の歯のアライナーを互いに接続するようにカットライン点を構成する。具体的には、
図12及び
図13に示すように、抜け部65の両隣の歯のそれぞれの舌側のカットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定する。また、抜け部65の両隣の歯のそれぞれの頬側のカットライン点の点列を互いに繋ぐ点列を歯肉上に設定する。このように抜け部65において頬側と舌側のそれぞれにカットライン40の点列が設定されることで、
図13に示すように、抜け部65の両隣の歯のそれぞれのアライナーの分割が抑制される。
【0069】
例えば、抜け部65の両隣の歯のそれぞれの舌側(または頬側)のカットライン点の点列を互いに繋ぐ直線上の点列を設定し、設定した点列のうち歯肉から離れて浮いた状態にある点については歯肉表面上に引き寄せる。これにより、抜け部65における歯肉表面上にカットライン40の点列を設定できる。
【0070】
次に、P4の処理について説明する。
図14に示すように、奥歯67の奥側の歯肉が盛り上がっている場合、奥歯67の奥側の歯肉表面に設定されたカットライン40において、歯肉に対して垂直に、すなわち法線ベクトルの方向にレーザを照射しようとすると奥歯67と干渉する可能性がある。具体的には、点列における奥歯67の奥側のカットライン点の法線ベクトルが奥歯67を通過する場合に、このような歯とレーザとが干渉すると考えられる。このような場合には設定したカットライン40に対して所望方向(法線ベクトル)からレーザを照射することができない。
【0071】
このため、カットライン点設定部24は、カットライン点の法線ベクトルが歯を通過する場合に、歯を通過する法線ベクトルに対応するカットライン点を、法線ベクトルが奥歯67を通過しないように歯面上へ移動させる。すなわち、上記の処理では、カットライン点は歯冠縁34から歯肉方向に所定距離進んだ位置に設定していたが、歯肉が盛り上がると歯とレーザが干渉する可能性が出てきてしまうため、カットライン点を、
図15に示すように、引き戻す方向(歯冠縁34から歯冠方向)に移動させ、カットライン40を生成する。なお、引き戻す距離については予め設定されていても良いし、法線ベクトルが歯と干渉しないカットライン点の位置が演算されても良い。
【0072】
このように、標準歯列と異なる歯列の状態であっても、上記の処理によって演算処理することができる。
【0073】
(カットライン生成システムのハードウェア構成図)
図16は、本実施形態に係るカットライン生成システム20のハードウェア構成の一例を示した図である。
カットライン生成システム20は、例えば、コンピュータシステムである。カットライン生成システム20は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)11、主記憶装置(Main Memory)12、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)13、外部インターフェース14、通信インターフェース15などを備えている。これら各部は直接的にまたはバスを介して間接的に相互に接続されており互いに連携して各種処理を実行する。また、カットライン生成システム20は、入力デバイス、出力デバイス、スピーカ、マイク、カメラなどを備えていてもよい。入力デバイスの一例として、キーボード、タッチパッド、ポインティングデバイスなどが挙げられる。ポインティングデバイスの一例として、マウス、タッチパネル、ペンタブレット、トラックパッド、トラックボールなどが挙げられる。出力デバイスの一例として、ディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどが挙げられる。
【0074】
CPU11は、例えば、バスを介して接続された二次記憶装置13に格納されたOS(Operating System)により全体の制御を行うとともに、二次記憶装置13に格納された各種プログラムを実行することにより各種処理を実行する。CPU11は、1つ又は複数設けられており、互いに協働して処理を実現してもよい。
【0075】
主記憶装置12は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPU11の実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
【0076】
二次記憶装置13は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置13は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。二次記憶装置13の一例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)フラッシュメモリなどが挙げられる。二次記憶装置13は、例えば、Windows(登録商標)、iOS(登録商標)、Android(登録商標)等の情報処理装置全体の制御を行うためのOS、BIOS(Basic Input/Output System)、周辺機器類をハードウェア操作するための各種デバイスドライバ、各種アプリケーションソフトウェア、及び各種データやファイル等を格納する。また、二次記憶装置13には、各種処理を実現するためのプログラムや、各種処理を実現するために必要とされる各種データが格納されている。二次記憶装置13は、複数設けられていてもよく、各二次記憶装置13に上述したようなプログラムやデータが分割されて格納されていてもよい。
【0077】
外部インターフェース14は、外部機器と接続するためのインターフェースである。外部機器の一例として、外部モニタ、USBメモリ、外付けHDD、外付けカメラ等が挙げられる。なお、
図1に示した例では、外部インターフェースは、1つしか図示されていないが、複数の外部インターフェースを備えていてもよい。
【0078】
通信インターフェース15は、ネットワークに接続して他の装置と通信を行い、情報の送受信を行うためのインターフェースとして機能する。例えば、通信インターフェース15は、有線又は無線により他の装置と通信を行う。無線通信として、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi、移動通信システム(3G、4G、5G、6G、LTE等)、無線LANなどの回線を通じた通信が挙げられる。有線通信の一例として、有線LAN(Local Area Network)などの回線を通じた通信が挙げられる。
【0079】
各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置13などに記憶されており、このプログラムをCPU(プロセッサ)11が主記憶装置12に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置13に予めインストールされている形態や、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係るカットライン生成システム及びその方法並びにプログラムによれば、歯冠の中心点35から歯冠縁34の境界点のそれぞれに対してベクトルの方向に基づいて、歯冠縁34から歯肉表面に所定距離進んだ位置にカットライン点を設定するため、このカットライン点に基づいてアライナーのカットライン40を生成することで様々な歯並びに対応したカットライン40を生成することができる。
【0081】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0082】
11 :CPU
12 :主記憶装置
13 :二次記憶装置
14 :外部インターフェース
15 :通信インターフェース
20 :カットライン生成システム
21 :取得部
22 :中心点設定部
23 :ベクトル設定部
24 :カットライン点設定部
25 :カットライン生成部
31 :外接円
33 :境界線
34 :歯冠縁
35 :中心点
37 :境界点
38 :ベクトル
40 :カットライン
42 :谷
43 :線分
65 :抜け部
67 :奥歯