(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182565
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】重合体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231219BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098052
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022095864
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大浦 慶
(72)【発明者】
【氏名】木村 一平
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AJ02Q
4J100AL04P
4J100AL05P
4J100AL08P
4J100BA06P
4J100CA03
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA25
4J100FA20
4J100JA43
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
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5H050CB02
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5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA28
5H050FA17
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】優れた接着性とサイクル特性を発現する重合体等を提供する。
【解決手段】
リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、
(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、
(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、
任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3と、
を有し、
前記M1、M2及びM3に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)が、9.8以上10.6以下である、重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、
(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、
(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、
任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3と、
を有し、
前記M1、M2及びM3に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)が、9.8以上10.6以下である、重合体。
【請求項2】
前記RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるChi3nの重量平均値(ave_Chi3n)が、1.2以上2.6以下である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるEState_VSA10の重量平均値(ave_EState_VSA10)が、4.6以上8.9以下である、請求項1に記載の重合体。
【請求項4】
前記M1が、式(1)で表される(メタ)アクリル系単官能モノマーM1’を含む、請求項1に記載の重合体。
【化1】
(式(1)中、R1は炭素数が6~18である有機基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項5】
前記M1が、ノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ドデシルアクリレート及びエトキシエトキシエチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の重合体。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、
(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、
(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、
任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3と、
を有し、
前記M1が、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記重合体の全単位中、前記U1の含有量が、90質量%以下であり、かつ、U2の含有量が、5質量%以上40質量%以下であり、かつ、U3の含有量が、0質量%以上20質量%以下である、重合体。
【請求項7】
前記M2が、アクリル酸、メタクリル酸及び2-アクリロイロキシエチル-コハク酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の重合体。
【請求項8】
前記重合体の全単位中、U1の含有量が、40質量%以上90質量%以下である、請求項6に記載の重合体。
【請求項9】
前記重合体が、粒子状重合体である、請求項1に記載の重合体。
【請求項10】
前記重合体が、粒子状重合体である、請求項6に記載の重合体。
【請求項11】
活物質と、
請求項1~10のいずれか1項に記載の重合体と、
を含む、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用電極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池等の電気化学的デバイスに用いられる電極を製造する方法としては、電極活物質にバインダーや増粘剤等を添加した液状の組成物を、集電体表面に塗布して乾燥することによって、当該集電体の上に電極層を形成させる方法が挙げられる。特に、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、黒鉛系材料、ケイ素系材料又はスズ系材料を使用することが従来提案されているが、これらの材料のいずれにおいても、充放電の際の膨張収縮が発生するため、電極層の変形や活物質の孤立が生じやすい。具体的には、活物質は、充電時に膨張し、放電時に収縮するため、活物質間において収縮時に離れる力が働き、活物質同士の結着及び導電ネットワークが切断される。このような現象に起因して、電池のサイクル寿命が低下する傾向にあり、従来技術においては、バインダー材料の性能の観点から種々の検討がなされている。例えば、特許文献1において、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの重合単位を0.1~15重量%含むバインダーと、所定の材料と、を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリーを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、活物質層内部の密着強度、及び活物質層と集電体との密着強度、すなわち電極の密着強度が向上し、さらに、合金系活物質の膨張収縮が炭素系活物質によって緩和されるとともに負極の内部抵抗が低減されるため、寿命劣化の少ない電池を得ることができるとされている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術は、接着性とサイクル特性の観点から未だ改善の余地があることが判明している。
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた接着性とサイクル特性を発現する重合体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、所定の組成を有する及び/又は所定のパラメータを満たす重合体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、
(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、
(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、
任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3と、
を有し、
前記M1、M2及びM3に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)が、9.8以上10.6以下である、重合体。
[2]
前記RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるChi3nの重量平均値(ave_Chi3n)が、1.2以上2.6以下である、[1]に記載の重合体。
[3]
前記RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるEState_VSA10の重量平均値(ave_EState_VSA10)が、4.6以上8.9以下である、[1]又は[2]に記載の重合体。
[4]
前記M1が、式(1)で表される(メタ)アクリル系単官能モノマーM1’を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
【化1】
(式(1)中、R1は炭素数が6~18である有機基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表す。)
[5]
前記M1が、ノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ドデシルアクリレート及びエトキシエトキシエチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
[6]
リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、
(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、
(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、
任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3と、
を有し、
前記M1が、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記重合体の全単位中、前記U1の含有量が、90質量%以下であり、かつ、U2の含有量が、5質量%以上40質量%以下であり、かつ、U3の含有量が、0質量%以上20質量%以下である、重合体。
[7]
前記M2が、アクリル酸、メタクリル酸及び2-アクリロイロキシエチル-コハク酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[6]に記載の重合体。
[8]
前記重合体の全単位中、U1の含有量が、40質量%以上90質量%以下である、[6]又は[7]に記載の重合体。
[10]
前記重合体が、粒子状重合体である、[1]~[9]のいずれかに記載の重合体。
[11]
活物質と、
[1]~[10]のいずれかに記載の重合体と、
を含む、リチウムイオン二次電池用電極。
[12]
[11]に記載のリチウムイオン二次電池用電極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた接着性とサイクル特性を発現する重合体等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」とは、「メタアクリル及びアクリル」並びに「メタアクリレート及びアクリレート」の双方を包含する意味で用いる。
【0010】
[重合体]
本実施形態の第1の態様に係る重合体(以下、「第1の重合体」ともいう。)は、リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、(メタ)アクリル系単官能モノマーM1(以下、単に「M1」ともいう。)に由来する単位U1と、(メタ)アクリル酸モノマーM2(以下、単に「M2」ともいう。)に由来する単位U2と、任意に、前記M1及びM2と共重合可能なモノマーM3(以下、単に「M3」ともいう。)に由来する単位U3と、を有し、前記M1、M2及びM3に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)が、9.8以上10.6以下である。第1の重合体は、上記のように構成されているため、優れた接着性とサイクル特性を発現することができる。
本実施形態の第2の態様に係る重合体(以下、「第2の重合体」ともいう。)は、リチウムイオン二次電池用バインダー用の重合体であって、(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1と、(メタ)アクリル酸モノマーM2に由来する単位U2と、を有し、前記M1が、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記重合体の全単位中、前記U1の含有量が、90質量%以下である。上記のように構成される第2の重合体も、優れた接着性とサイクル特性を発現することができる。
なお、本明細書において、特に断りがない限り、重合体に関する以降の説明は、第1の重合体及び第2の重合体の双方に係るものとする。また、「本実施形態の重合体」は第1の重合体及び第2の重合体を包含するものとして説明する。
【0011】
(ave_MAX_EStateIndex)
第1の重合体において、M1、M2及びM3に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)は、9.8以上10.6以下である。
ave_MAX_EStateIndexは、重合体を構成する単量体M1~M3の各々に対して算出される2次元の記述子「MAX_EStateIndex」の重量平均値として与えられるパラメータである。重量平均値とは、重合体を構成する単量体M1~M3の各々に対して得られた記述子を、重合体を構成する単量体の重量割合で表現した値を示し、以下に示す「重合平均値」は同様の意味を示す。例えば、重合体が、1種の単位U1(M1の記述子の値=a1)と1種の単位U2(M2の記述子の値=a2)と1種の単位U3(M3の記述子の値=a3)のみで構成され、その質量比がw1:w2:w3だったとすれば、重量平均値は、「(a1×w1+a2×w2+a3×w3)/(w1+w2+w3)」で与えられる。ここで、記述子(分子記述子;molecular descriptors)は、分子の特性などの特徴量を数字に変換したものである。ここでいう2次元の記述子は、トポロジカル記述子であり、トポロジカル・インデックス(topological index)、コネクティビティ・インデックス(connectivity index)とも呼ばれる。トポロジカル記述子は、化合物の分子構造をグラフ構造として捉え、そのグラフ構造に対する不変量として算出される値である。
本実施形態において、記述子の計算は、RDkit(Release 2020.09.1)により実行される。RDkitは、コンピュータで化合物情報を扱うケモインフォマティクス分野で用いられる代表的なオープンソースのライブラリであり、pythonで扱うことができる。本実施形態において、RDkitのバージョンは、「Release 2020.09.1」とし、これによって算出される数値を採用するものとする。RDkit(Release 2020.09.1)の具体的な操作方法としては、次のURL(https://github.com/rdkit/neo4j-rdkit/issues/11)を参照することもできる。
MAX_EStateIndexは、具体的には、計算対象となる化合物における原子の電子分布を表現する記述子ということができ、RDkit(Release 2020.09.1)においてはChem.EStateモジュールに実装されているため、これにより算出することができる。
より詳細には、MAX_EStateIndexは以下のようにして算出することができる。まずEstateとは分子中のある原子iに対して算出される、その原子の電子分布を表現する数値であり、以下S
iと表記する。Siは、下記式1により算出することができる。
【数1】
(ここでIiは原子種によって決まる、原子iの荒く近似された電気陰性度であり、ΔIiは下記式2で表される、原子i以外の原子jの影響を加味する摂動項である。)
【数2】
(ここでI
jはi以外の原子jの電気陰性度であり、r
ijは原子iと原子jの距離である。)
MAX_EStateIndexは分子内の各原子に対して上記のようにEstateを計算し、その最大値として算出されるパラメータである。
MAX_EStateIndexは、分子サイズが大きくなるほど値として大きくなる傾向にあり、また、分子鎖が直鎖であるものよりも分岐しているものの方がMAX_EStateIndexの値として大きくなる傾向にある。電子分布が広ければ、活物質等の電極構成成分との接触面積を十分に確保できる結果、接着性が向上する傾向にあると推測されるところ、重合体に対して算出されるave_MAX_EStateIndexがある程度大きければ重合体としての分子サイズを十分に確保できる一方、ave_MAX_EStateIndexが大き過ぎると、重合体分子として広がりのない(分岐が過度に少ない)構造が示唆されるものと考えられる。本発明者らは、上記のような観点から重合体を設計するべく検討を重ね、ave_MAX_EStateIndexの値が9.8以上10.6以下となるように設計された重合体であれば、優れた接着性及びサイクル特性を有することを見出した。
上記と同様の観点から、第1の重合体のave_MAX_EStateIndexは、9.8以上10.6以下である。
また、上記と同様の観点から、第2の重合体のave_MAX_EStateIndexは、9.8以上10.6以下であることが好ましい。
ave_MAX_EStateIndexは、例えば、重合体を構成する各単量体についてMAX_EStateIndexを算出した上、各単量体の配合比を調整すること等により上記範囲に調整することができる。
【0012】
(ave_Chi3n)
本実施形態の重合体において、当該重合体を構成する単量体に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるChi3nの重量平均値(ave_Chi3n)は、1.3以上2.6以下であることが好ましい。
Chi3nは、計算対象となる化合物における原子結合性を表現する記述子ということができ、すなわち、価電子の結合状態を表している。RDkit(Release 2020.09.1)においてはChem.EStateモジュールに実装されているため、これにより算出することができる。
より詳細には、Chi3nは以下のようにして算出することができる。
まず、ある頂点の原子価をδ
vとし、下記式3で計算する。
【数3】
(ここでZ
vは価電子数、hは結合している水素原子の個数、kは任意の自然数を意味する。つまり、δは分子の骨格を構成する或る原子が他の原子といくつ結合されているかを表す数であり、分子骨格中のk番目の原子のδを、δ
kと表記し、δ
kはk番目の骨格原子にいくつ結合があるのかを示す。δ
v
kは、骨格を構成するk番目の原子の、価数を考慮した結合数となる。h
kはk番目の原子に結合している水素原子数を意味し、式3の結果はk番目の原子に結合している水素以外の原子数に一致する。)
次いで、部分グラフ結合項cを求める。cは水素原子を除いた全てのフラグメントタイプから算出され、次数mを用いて、下記式4で算出される。ここで次数mは0から始まる正の整数であり、同時に着目する原子の個数を表す。換言すると、次数mは0から始まるグラフの次元である。すなわちm=0の場合は1原子に着目することを意味する。また、m=3の場合は4原子に着目することを意味する(4原子の配置を4つの頂点とみなすとき、これらを結んで得られる辺は3つとなる。)。
【数4】
さらに、m=3の場合のχを下記式5より算出することができる。
【数5】
(ここでAは水素原子を除く、原子の個数を意味する。)
Chi3nは、分子サイズが大きくなるほど値として大きくなる傾向にあり、また、分子鎖が直鎖であるものよりも分岐しているものの方がChi3nの値として大きくなる傾向にある。
上記観点から、ave_Chi3nは、1.8以上2.6以下であることが好ましく、より好ましくは1.8以上2.5以下である。
ave_Chi3nは、例えば、重合体を構成する各単量体についてChi3nを算出した上、各単量体の配合比を調整すること等により上記範囲に調整することができる。
【0013】
(ave_EState_VSA10)
本実施形態の重合体において、当該重合体を構成する単量体に対して、RDkit(Release 2020.09.1)により計算されるEState_VSA10の重量平均値(ave_EState_VSA10)は、4.6以上8.9以下であることが好ましい。
EState_VSA10は、計算対象となる化合物における表面積(ファンデルワールス表面積)を表現する記述子ということができ、RDkit(Release 2020.09.1)においてはChem.EStateモジュールに実装されているため、これにより算出することができる。
より詳細には、Estate_VSA10は以下のようにして算出することができる。すなわち、Estateについては前述のとおり、上記式1及び式2により算出することができる。Estate_VSA10は、分子内の各原子に対してEstateを計算し、その値が9.17以上15.00未満となる原子のファンデルワールス表面積の合計値として算出されるパラメータである。
EState_VSA10は、分子サイズが大きくなるほど値として大きくなる傾向にあり、また、分子鎖が直鎖であるものよりも分岐しているものの方がEState_VSA10の値として大きくなる傾向にある。
上記観点から、ave_EState_VSA10は、4.6以上8.9以下であることが好ましく、より好ましくは4.6以上8.6以下である。
ave_EState_VSA10は、例えば、重合体を構成する各単量体についてEState_VSA10を算出した上、各単量体の配合比を調整すること等により上記範囲に調整することができる。
【0014】
本実施形態における記述子(MAX_EStateIndex、Chi3n及びEState_VSA10)は、全て、文献「Electrotopological State Indices for Atom Types: A Novel Combination of Electronic, Topological, and Valence State Information」(J. Chem. Inf. Comput. Sci.1995,35, 1039.)を参考に計算を行って求められる数値である。
【0015】
(単位U1)
本実施形態の重合体は、(メタ)アクリル系単官能モノマーM1に由来する単位U1を有する。M1としては、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する構造を有する単量体であり、単官能かつカルボキシル基を有しない点において後述する(メタ)アクリル酸モノマーM2とは区別される。本明細書中、「単官能」とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を分子中に1つのみ有する化合物であることを意味する。
M1としては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル)、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N-ブトキシメチルアクリルアミド等が挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
M1としては、接着性及びサイクル特性の観点から、式(1)で表される(メタ)アクリル系単官能モノマーM1’(以下、単に「M1’」ともいう。)を含むことが好ましい。
【化2】
(式(1)中、R1は炭素数が6~18である有機基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0017】
式(1)におけるR1としては、特に限定されないが、例えば、炭素数が6~18のアルキル基又は炭素数が6~18のアルコキシ基等が挙げられる。
炭素数が6~18のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。
炭素数が6~18のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、エトキシエトキシエチル基、メトキシポリエチレングリコール基(単官能メトキシポリエチレングリコールアクリレート(市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製の「AM-90G」等)からアクリロイル基を除いた部分)、フェノキシジエチレングリコール基(フェノキシジエチレングリコールアクリレート(市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製の「AMP-20GY」等)からアクリロイル基を除いた部分)、エトキシ化-o-フェニルフェノール(エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製の「A-LEN-10」等)からアクリロイル基を除いた部分)等が挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
M1’としては、接着性及びサイクル特性の観点から、ノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ドデシルアクリレート及びエトキシエトキシエチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい
【0018】
第2の重合体において、M1は、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含む。このようなM1に由来する単位を含むことにより、第2の重合体は、優れた接着性及びサイクル特性を発現する。
【0019】
(単位U1の含有量)
第2の重合体において、接着性及びサイクル特性の観点から、単位U1の含有量は、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、90質量%以下である。第2の重合体においては、M1が、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含むものであり、かつ、単位U1の含有量を90質量%以下とすることにより、U2の含有量を5質量%以上とすることが可能であるため、材料の安定性を維持しつつ、優れた接着性及びサイクル特性を発現することができる。上記と同様の観点から、第2の重合体において、単位U1の含有量は、40質量%以上90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上85質量%以下である。
【0020】
また、第1の重合体における単位U1の含有量としても、接着性及びサイクル特性の観点から、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以上85質量%以下である。
【0021】
(単位U2)
本実施形態の重合体は、(メタ)アクリル酸モノマーM2(以下、単に「M2」ともいう。)に由来する単位U2を有する。M2は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する構造を有する単量体であり、少なくとも1つのカルボキシル基を有する。
M2としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、ビニル安息香酸等が挙げられる。これらの単量体は塩であってもよい。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の中で、接着性及びサイクル特性の観点から、M2としては、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、メタクリル酸が好ましい。
【0022】
(単位U2の含有量)
第2の重合体において、接着性及びサイクル特性の観点から、単位U2の含有量は、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、5質量%以上40質量%以下である。U2の含有量を5質量%以上とすることにより、材料の安定性を維持しつつ、優れた接着性及びサイクル特性を発現することができる。U2の含有量を40質量%以下とすることにより、U1の含有量を確保でき、したがって優れた接着性及びサイクル特性を発現することができる。
上記と同様の観点から、第2の重合体において、単位U2の含有量は、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、11質量%以上40質量%以下である。もっとも、上記単位U2の含有量は、5質量%、10質量%、11質量%、20質量%、30質量%及び40質量%のいずれかとすることができ、これらの数値のいずれか2つの間の範囲内であってもよい。
また、本実施形態において、接着性及び貯蔵安定性の観点からは、第2の重合体において、単位U2の含有量が、11質量%以上20質量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0023】
また、第1の重合体における単位U2の含有量としても、接着性及びサイクル特性の観点から、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。もっとも、第1の重合体における上記単位U2の含有量としては、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%及び40質量%のいずれかとすることができ、これらの数値のいずれか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
(単位U3)
第1の重合体は、M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3を任意に有する。M3はM1及びM2に該当しないものであって、M1及びM2と共重合可能であれば特に限定されない。
M3としては、特に限定されないが、例えば、1,9-ノナンジオールジアクリレート等の(メタ)アクリル系多官能モノマー、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、及びアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系化合物等が挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第2の重合体としても、M1及びM2と共重合可能なモノマーM3に由来する単位U3を有するものであってもよく、その場合のM3としては、上述した中から1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(単位U3の含有量)
本実施形態において、接着性及びサイクル特性の観点から、単位U3の含有量は、重合体の全単位中(重合体の全構成単位100質量%に対して)、0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上14質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0026】
本実施形態において、接着性及びサイクル特性の観点から、重合体の全単位中、U1の含有量が、40質量%以上90質量%以下であり、かつ、U2の含有量が、5質量%以上40質量%以下であり、かつ、U3の含有量が、0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0027】
各単量体の含有量(すなわち、U1~U3の含有量)については、各単量体の仕込み比として特定することもできるが、例えば、下記のように重合体を分析して特定することもできる。
重合体を熱分解ガスクロマトグラフィーに供することにより、重合体のモノマー組成を同定することが可能である。次いで、pHを測定し、組成から中和度を見積もることにより、各単量体単位の塩含有量範囲を推定することができる。
【0028】
本実施形態の重合体のTgは、特に限定されないが、接着性の観点から、-60℃以上80℃以下であることが好ましい。Tgが80℃以下である場合、過度に硬くなり変形しづらくなることに起因して被接着物の表面にある凹凸への接触面積が低下することを防止できる傾向にある。また、Tgが-60℃以上である場合、単量体組成によっては、バインダーとしての強度が過度に低くなることを防止し、接着後も形状を維持しやすくなる傾向にある。
上記同様の観点から、本実施形態の重合体のTgは、より好ましくは-40℃以上40℃以下である。
Tgは、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
また、Tgは、例えば、重合体を構成する各単量体の種類や単位U1~U3の含有量等に基づいて上述した範囲に調整することができる。
【0029】
[重合体の形態]
本実施形態の重合体の形態は、特に限定されず、任意の形態をとることができる。任意の形態としては、例えば、液状重合体であってもよく、粒子状重合体であってもよい。本実施形態において、重合体の形態が粒子状重合体である場合、分子量が大きくなる傾向にあり、結果としてサイクル特性がより向上する傾向にある。
【0030】
[バインダー組成物]
本実施形態の重合体は、リチウムイオン二次電池用のバインダーとして用いられる。すなわち、本実施形態のバインダー組成物は、本実施形態の重合体を含む。本実施形態のバインダー組成物は、バインダー成分として本実施形態の重合体を含む限り特に限定されず、種々の任意成分を含むことができる。任意成分としては、特に限定されず、例えば、正極活物質や負極活物質であってもよい。
【0031】
(その他の任意成分)
本実施形態のバインダー組成物に含まれ得る任意成分は、イソチアゾリン系化合物を含んでいてもよい。その場合、本実施形態のバインダー組成物100質量%に対して、前記イソチアゾリン系化合物の含有量が、0.0001質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。上記範囲を満たす場合、せん断力に対するヒステリシスな粘度挙動を抑制でき、より安定した塗工性を発現できる傾向にある。イソチアゾリン系化合物としては、特に限定されず、種々公知のものを採用でき、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-t-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-メチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-エチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-プロピルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ヘキシルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-アリルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-(2-ブテニル)ベンゾイソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの中でも、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンが好ましい。
その他、本実施形態のバインダー組成物は、任意成分として消泡剤を含むことができる。
消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコーン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤が挙げられる。消泡剤を含む場合、より脱泡性に優れる傾向にある。
この場合において、任意成分の種類や配合割合等は特に限定されない。
【0032】
[重合体又はバインダー組成物の製造方法]
本実施形態の重合体又は二次電池用電極バインダー用組成物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、前述した単量体を含む系を準備し、常法により重合することで製造することができる。製造の際の、攪拌速度、重合温度、反応(重合)時間等の条件は、本実施形態の重合体又はバインダー組成物が得られる限り、特に限定されない。本実施形態において、各単量体や溶媒と良好な相溶性を有する、アゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤、光重合開始剤などを、使用する単量体や溶媒に合わせて適宜選択することができる。また、分子量Mwを上げるべく+40~+70℃程度の低温下で反応を実施することが好ましく、それに伴い、実用的に10時間半減期の短い重合開始剤を用いることが好ましい。
【0033】
[リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池]
本実施形態のバインダー組成物により、リチウムイオン二次電池用電極を製造することができ、当該リチウムイオン二次電池用電極を備えるリチウムイオン二次電池を作製することができる。換言すると、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を含み、当該リチウムイオン二次電池用電極は活物質と本実施形態の重合体とを含む。すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のバインダー組成物又は本実施形態の重合体を含むものとして特定することができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成は、特に限定されないが、典型的な構成部材としては、負極、負極集電体、正極、正極集電体、セパレータ及び電解液を挙げることができ、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、電極(負極及び正極)の少なくとも一方が本実施形態のバインダー組成物を用いて得られたものであればよい。各部材が本実施形態のバインダー組成物を含むことについては、活物質と本実施形態の重合体が電極に含まれているか否かにより特定することができる。
【0034】
バインダー組成物により負極を製造する場合、用いうる負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系活物質の他、ケイ素系活物質やスズ系活物質が挙げられる。
炭素系活物質としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛、炭素繊維、コークス、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、導電性高分子(ポリ-p-フェニレン等)等が挙げられる。
ケイ素系活物質としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、SiOx(0.01≦x<2)、ケイ素と遷移金属との合金等が挙げられる。
スズ系活物質としては、特に限定されないが、例えば、Sn、SnOx(0<x<2)スズと遷移金属との合金等が挙げられる。
【0035】
バインダー組成物により二次電池用正極を製造する場合、用いうる正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム含有複合酸化物や遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、遷移金属硫化物等が挙げられる。
リチウム含有複合酸化物としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiXCoYSnZO2、LiFePO4、LiXCoYSnZO2等が挙げられる。
遷移金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、MnO2、MoO3、V2O5、V6O13、Fe2O3、Fe3O4等が挙げられる。
遷移金属フッ化物としては、特に限定されないが、例えば、CuF2、NiF2等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2等が挙げられる。
【0036】
[リチウムイオン二次電池用電極又はリチウムイオン二次電池の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極又はリチウムイオン二次電池の製造方法としては、特に限定されないが、本実施形態のバインダー組成物と、活物質と、任意に増粘剤等を混合した液状の組成物を集電体に塗布し、加熱し、乾燥することによって対応する電極を形成し、セパレータを介して正極及び負極を対向させ、電解液を注入して密封すること等が挙げられる。負極集電体としては、特に限定されないが、例えば、銅箔等が挙げられ、正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、アルミ箔等が挙げられる。電解液としては、特に限定されないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6等の電解質を有機溶媒に溶解したもの等が挙げられる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、カーボネート類、塩素化炭化水素類等が挙げられ、代表例としてはテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ブチロニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができ、1種類または2種類以上の混合物として使用される。
【0037】
塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースロールコーター、コンマバーコーター、グラビヤコーター、エア-ナイフコーター等任意のコーターヘッドを用いることができる。乾燥方法としても、特に限定されず、例えば、放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱機、遠赤外過熱機等が使用できる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、60℃~150℃で行うことができる。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
反応器に、イオン交換水100質量部を入れて、撹拌しながら70℃に昇温して保持した。ここへ、過硫酸ナトリウム(NPS)を0.5質量部、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.5質量部加えて撹拌を続けた。
次に、ドデシルアクリレート(DA)を40質量部、ノニルアクリレート(NAA)を120質量部、メタクリル酸(MAA)を10質量部、コハク酸モノ-2-アクリロイルオキシエチル(MAES)を20質量部、1,9-ノナンジオールジアクリレート(19ND)を10質量部、SDSを1.0質量部、イオン交換水200質量部を混合して撹拌することで乳化液を得た。得られた乳化液を反応器内に2時間かけて滴下し、内部温度を70℃に保ちながら撹拌を続けた。滴下終了後、さらに2時間、温度を70℃に保持して重合を完結させた。
重合終了後、固形分100質量部に対して、添加剤としてメチルイソチアゾリン0.05質量部を加えた後に、#200メッシュを用いて濾過を行った。最後に、水酸化ナトリウム水溶液とイオン交換水を加えて中和し、pH7、固形分30質量%に調整することで、重合体を含むバインダー組成物を得た。なお、上記の中和を実施する前のバインダー組成物の一部を、後述する貯蔵安定性評価に供した。
【0040】
[MAX_EStateIndex、Chi3n及びEState_VSA10等の算出]
重合体の製造に用いた単量体の化学構造式に基づいて、MAX_EStateIndex、Chi3n及びEState_VSA10を算出した。すなわち、各単量体をSMILES記法(SMILES線形表記法)に変換し、RDkit(Release 2020.09.1)により計算処理を行った。
その結果、実施例1で使用したDA、NAA、MAA、MAES及び19NDのMAX_EStateIndexは、それぞれ、10.7、10.6、9.6、10.8及び10.7と算出された。
また、実施例1で使用したDA、NAA、MAA、MAES及び19NDのChi3nは、それぞれ、2.9、2.2、0.4、1.3及び2.6と算出された。
さらに、実施例1で使用したDA、NAA、MAA、MAES及び19NDのEState_VSA10は、それぞれ、4.8、4.8、4.8、14.4及び9.6と算出された。
次いで、DA、NAA、MAA、MAES及び19NDの合計量に対する各単量体の質量比と各単量体のMAX_EStateIndex値から、実施例1で得られた重合体のMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)を算出した。すなわち、実施例1における重合体のave_MAX_EStateIndexは、(20×10.7+60×10.6+5×9.6+10×10.8+5×10.7)/100より10.6と算出された。
上記と同様に、Chi3nの重量平均値(ave_Chi3n)及びEState_VSA10の重量平均値(ave_EState_VSA10)を求めたところ、それぞれ、2.2及び6.0と算出された。
上記に倣い、各例で得られた各単量体のMAX_EStateIndex、Chi3n及びEState_VSA10の算出結果を表1に併せて示し、各例の単量体比に基づいてMAX_EStateIndexの重量平均値(ave_MAX_EStateIndex)、Chi3nの重量平均値(ave_Chi3n)及びEState_VSA10の重量平均値(ave_EState_VSA10)を算出した結果を下記表2に示す。
【0041】
【0042】
上記表1において、次のとおり各単量体を略記した。
DA:ドデシルアクリレート
IDAA:イソデシルアクリレート
NAA:ノニルアクリレート
CBA:アクリル酸-2-[2-(エチルオキシ)エチルオキシ]エチル
ST:スチレン
BD:ブタジエン
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MAES:2-アクリロイロキシエチル-コハク酸
19ND:1,9-ノナンジオールジアクリレート
【0043】
[Tg測定]
実施例1で得られた、重合体を含むバインダー組成物を、アルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。
乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、型番:DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。なお測定は、下記のプログラムにより行った。
(1段目加熱プログラム)
測定時の室温から毎分30℃の割合で昇温した。220℃に到達後1分間維持した。
(2段目降温プログラム)
220℃から毎分30℃の割合で降温した。-50℃に到達後1分間維持した。
(3段目昇温プログラム)
-50℃から毎分15℃の割合で220℃まで昇温した。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得した。
得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。以降の実施例及び比較例についても同様にしてTgを測定した。
【0044】
[中和前のバインダー組成物の貯蔵安定性]
1Lのポリ瓶に、中和前のバインダー組成物を800g入れ、40℃の恒温槽に30日間放置した。30日経過後、ポリ瓶を上下逆さにし、ポリ瓶底部の沈殿物の有無を目視にて評価した。評価△以上を合格とした。
○:沈殿物がない
△:沈殿物はあるが、上下逆さを5回繰り返した後、沈殿物が消失する
×:沈殿物が消失しない
【0045】
[実施例2~16及び比較例2]
各例において、実施例1における単量体成分の種類及び単量体成分の配合量を表2に示すとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にして重合体を含むバインダー組成物を調製した。
【0046】
[比較例1]
耐圧反応器にイオン交換水150質量部、SDS0.5質量部を入れて、攪拌しながら80℃に昇温して保持した。
次に、イオン交換水10質量部にNPS0.5質量部を溶解させた開始剤溶液を添加した。
さらに、ブタジエン110質量部、スチレン82質量部、アクリル酸8質量部、t-ドデシルメルカプタン0.1質量部、イオン交換水100質量部、SDS0.5質量部を混合して撹拌することで乳化液を作製し、開始剤溶液に続けて耐圧反応器へ2時間かけて添加した。添加終了後、さらに2時間、温度を85℃に保持して重合を完結させた。
重合終了後、固形分100質量部に対して、添加剤としてメチルイソチアゾリン0.05質量部を加えた後に、#200メッシュを用いて濾過を行った。最後に水酸化ナトリウム水溶液とイオン交換水を加え、pH7、固形分質量40%に調整することで、重合体を含むバインダー組成物を得た。
【0047】
[比較例3]
反応器にアセトニトリル200質量部、イオン交換水100質量部、メタクリル酸(MAA)50質量部、及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.1質量部を入れた。液温を60℃まで昇温した後、重合開始剤としてV-65(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))を0.05質量部添加した。内温を60℃に維持しながら重合反応を継続し、開始剤の添加から8時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物の粉末20質量部を添加した。添加後、25℃で10時間撹拌を継続して、重合体を含むバインダー組成物を得た。かかるバインダー組成物の固形分は19.1%であり、pHは9.5であった。
【0048】
[比較例4]
反応器にアセトニトリル200質量部、イオン交換水100質量部、アクリル酸(AA)50質量部、及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.1質量部を入れた。液温を60℃まで昇温した後、重合開始剤としてV-65を0.05質量部添加した。内温を60℃に維持しながら重合反応を継続し、開始剤の添加から8時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物の粉末20質量部を添加した。添加後、25℃で10時間撹拌を継続して、重合体を含むバインダー組成物を得た。かかるバインダー組成物の固形分は19.1%であり、pHは8.9であった。
【0049】
<負極用塗工液の作製>
[実施例1~15及び比較例1~4]
得られたバインダー組成物の固形分2.0質量部に対して、更に増粘剤成分としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)を固形分として1.0質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを2.0質量部、さらに負極活物質として天然黒鉛95.0質量部を加え、そこへイオン交換水を固形分が70質量%となるように加え、機械的撹拌により10分間にわたり混錬を行った。さらに混錬を続けながらイオン交換水を加え、固形分が55質量%になるように調整することで負極用塗工液を得た。
【0050】
[実施例16]
得られたバインダー組成物の固形分3.0質量部に対して、更に増粘剤成分としてカルボキシメチルセルロース1.0固形分質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを2.0質量部、さらに負極活物質として天然黒鉛82.0質量部、SiOx(0.8<x<1.1)10.0質量部を加え、そこへイオン交換水を固形分が70%となるように加え、機械的撹拌により10分間にわたり混錬を行った。さらに混錬を続けながらイオン交換水を加え、固形分が55質量%になるように調整することで負極用塗工液を得た。
【0051】
<負極の作製>
上記負極用塗工液を用いて、乾燥後の厚みが60μmになるように銅箔の片面にダイコーターで塗布した後、塗膜を60℃で60分乾燥した。さらに120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形することで負極用電極を得た。
【0052】
<正極用塗工液の作製>
[実施例1~14,16及び比較例1~4]
バインダーとして、PVDF-HFP(ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン))樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解し、PVDF-HFP溶液とした。PVDF-HFP溶液の固形分4.0質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを2.0質量部、さらに正極活物質としてコバルト酸リチウム(LCO)を94質量部加え、機械的撹拌により10分間にわたり混錬を行った。さらに混錬を続けながらNMPを加え、固形分が60質量%になるように調整することで正極用塗工液を得た。
【0053】
[実施例15]
得られたリチウムイオン電池用バインダー樹脂の固形分4.0質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを2.0質量部、さらに正極活物質としてコバルト酸リチウム(LCO)を94質量部加え、機械的撹拌により10分間にわたり混錬を行った。さらに混錬を続けながらイオン交換水を加え、固形分が65質量%になるように調整することで正極用塗工液を得た。
【0054】
<正極の作製>
上記正極用塗工液を用いて、アルミニウム箔の片面にダイコーターで、負極電極に対して容量比が正極/負極=1.0/1.1となるように塗工目付を調整して塗布した後、塗膜を90℃で60分乾燥した。さらに120℃で30分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。
【0055】
(電極剥離強度)
実施例1~14,16及び比較例1~4で得られた負極、又は実施例15で得られた正極から、幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片の集電体側の表面を両面テープでアルミ板に貼り付けた。JIS Z 1522に準拠し、試験片の電極層側に幅18mmのテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」(ニチバン社製))を貼り付け、180°方向に100mm/minの速度でテープを剥離したときの強度を6回測定し、その平均値(N/18mm)をピール強度として算出した。この値が大きいほど集電体と電極層の接着強度が高く、集電体から電極層が剥離しがたいと評価でき、具体的には、以下の基準に基づきピール強度を評価した。評価B以上を合格とした。
A:40N/m以上
B:30N/m以上40N/m未満
C:20N/m以上30N/m未満
D:20N/m未満
【0056】
(サイクル試験)
サイクル試験のために次の方法にて二次電池を製造した。評価には2032型のコイン電池を各水準N=10で作製して評価を行った。各実施例にて作成した正極、負極を対向させて、電極間にセパレーター(ポリエチレン製多孔膜)を挿入し、LiPF6をエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1に1mol/Lとなるように溶解したものを電解液として用いて正極または負極の評価用電池を作製した。
評価としては、まず、次の初期充放電試験を行った。
評価用電池を25℃の環境下、(ほぼ0Vから)4.0Vまで、0.1Cの電流で充電した。30分間の休止後、25℃の環境下で3.0Vまで0.1Cの電流で放電した。ここまでの手順をもって初期充放電試験とした。
上記の初期充放電試験後、以下の手順でサイクル試験を実施した。45℃の環境下、1.0Cの電流で4.2Vまで定電流充電を行い、10分間の休止後、1.0Cの電流で3.0Vまで放電した。この充放電を1サイクルとして、500サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
N=10の最大値と最小値を除外し、その他の平均値をその水準の結果とした。結果を次の基準にて評価した。評価B以上を合格とした。
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が80%以上90%未満
C:容量維持率が70%以上80%未満
D:容量維持率が70%未満
【0057】
実施例1~16及び比較例1~4を上記のとおりに評価した結果を表2に併せて示す。
【0058】
【0059】
なお、表2中の単量体組成における空欄は対応する単量体成分を配合しなかったことを意味する。