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特開2023-182603熱収縮性ポリエステル系フィルムロール
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  • 特開-熱収縮性ポリエステル系フィルムロール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182603
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】熱収縮性ポリエステル系フィルムロール
(51)【国際特許分類】
   B29C 61/06 20060101AFI20231219BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231219BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20231219BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
B29C61/06
C08J5/18 CFD
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147578
(22)【出願日】2023-09-12
(62)【分割の表示】P 2022179000の分割
【原出願日】2018-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅文
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長期間保管しても、経時による表層のシワ、巻芯のシワ、及び端面のシワが発生しにくく、印刷加工時に不良を起こしにくい熱収縮性ポリエステル系フィルロール。
【解決手段】下記要件(1)~(4)を満たすフィルムロール。(1)有効巻長が3000m以上30000m以下(2)フィルムロールの最表層の平均硬さが500以上700以下の範囲(3)フィルムロールの最表層の硬度のばらつきが10%以上20%以下(4)フィルムロールを最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率R(%)が最表層~最表層から巻長1000mの範囲で式1を満たし、最表層から巻長1000m~巻芯から巻長1000mの範囲で式2を満たし、巻芯~巻芯から巻長1000mの範囲で式3を満たすこと
-6.0(%)≦R(%)<0(%)・・式1。
-2.0(%)≦R(%)≦2.0(%)・・式2。
0(%)<R(%)≦6.0(%)・・式3
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベル用途又はバンディング用途に用いられる熱収縮性ポリエステル系フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、下記要件(1)~(4)を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(1)有効巻長が3000m以上30000m以下であること
(2)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で、硬さ試験機パロテスター2で測定した際の平均硬さが500以上700以下の範囲であること
(3)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の硬さのばらつきが10%以上20%以下であること
(4)前記フィルムロールを最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率 R(%)が最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で式1を満たし、
最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲で式2を満たし、
巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で式3を満たすこと
-6.0(%)≦ R(%) <0(%) ・・・式1
-2.0(%) ≦ R(%) ≦2.0(%) ・・・式2
0(%)< R(%) ≦ 6.0(%) ・・・ 式3
【請求項2】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムを90℃の温水中に10秒間浸漬処理後のフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項3】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みが8μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項4】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの幅が400mm以上2000mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関するものであり、詳しくはフィルム製膜後に長期保管した後も、シワなどが発生せず、印刷や製袋などの加工工程において不具合が生じず、飲料ボトル用のラベルや、弁当のバンディング包装用途などに好適に使用される熱収縮性ポリエステル系フィルロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶やPETボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる延伸フィルム(所謂、熱収縮性フィルム)が広範に使用されるようになってきている。そのような熱収縮性フィルムの内、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0003】
通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向に大きく収縮するものが広く利用されている。前記フィルムはテンター延伸法等によって延伸され、延伸されたフィルムを巻取り広幅のマスターロールを作製し、その後マスターロールを任意の幅でスリットしながら任意の巻長のロール状に巻取りフィルムロール製品とする。そのフィルムに意匠性を持たせたり、商品の表示の目的で、ロール形態で印刷工程に掛けられる。印刷後は、必要な幅に再度スリットしロール状に巻き取られた後、溶剤接着によるセンターシール工程を経てチューブ状に製袋され、ロール状に巻き取られる(すなわちラベルのロールになる)。
【0004】
チューブ状に製袋され巻き取られたラベルは、ロールから巻き出しながら必要な長さにカットされ、環状のラベルになる。環状ラベルは手かぶせ等の方法で、被包装物に装着され、スチームトンネルもしくは熱風トンネル等を通過して収縮させて被包装物に被覆されたラベルとなる。
【0005】
上記のフィルムは、製膜してロール状に巻き取られた後、すぐさま印刷工程に掛けられるわけではなく、通常常温で保管や運搬の取扱いをされるが、場合によっては半年以上の長期間を経て印刷工程に掛けられることもある。この保管期間中や運搬中に、ロール表層と巻芯にシワが発生したり、フィルムの巻ズレが発生したりするなど、ロールの形状が変化することがある。フィルムロールにシワが発生した場合、印刷の工程において印刷抜けや、ピッチズレ、印刷後の巻取り時にもシワ発生して外観不良なり、製品として使用できなくなる。熱収縮性ポリエステル系フィルムは、常温下で自然収縮を発生するので上記の悪さが他のフィルムよりも特に顕著となる。
【0006】
例えば、特許文献1においては、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールが保管中に、自然収縮した場合においてもフィルムの湾曲やフィルムロールの巻きズレを起こしにくく、印刷時のピッチズレが発生しにくいフィルロールが記載されている。しかし、本発明者らが文献1の方法で実施すると、巻芯から表層にかけて硬さを低下させていくために、ロール表層ではフィルムとフィルムの間に空気層が形成されやすくなり、長期間保管すると、その空気が抜けることによりロール表層にシワが発生しやすくなり、またロール端面においてはスポーキングシワ(花模様や車輪のスポーク状のシワ)が発生しやすくなった。この現象はフィルムロール巻長が大きくなるほど顕著となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5872595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フィルムを製膜後ロール状に巻き取ったフィルムロールを長期にわたって保管しても、経時によるフィルムロールの表層のシワ、巻芯のシワ、及び端面のシワが発生しにくく、印刷加工時に不良を起こしにくい熱収縮性ポリエステル系フィルロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、熱収縮性ポリエステル系フィルムを、マスターロールから任意の幅にスリットして製品ロールとするスリット工程において、スリット後の巻取り張力と、コンタクトロールの接圧を制御することにより、ロールの硬さを上記した範囲内にすることができ、そのフィルムロールは長期間保管後のシワが発生しにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の構成によりなる。
1.熱収縮性ポリエステル系フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、下記要件(1) ~ (4)を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(1)有効巻長が3000m以上30000m以下であること
(2)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の平均硬さが500以上700以下の範囲であること
(3)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の硬さのばらつきが10%以上20%以下であること
(4)前記フィルムロールを最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率 R(%)が最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で式1を満たし、
最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲で式2を満たし、
巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で式3を満たすこと
-6.0(%)≦ R(%)<0(%) ・・・式1
-2.0(%)≦ R(%)≦2.0(%) ・・・式2
0(%)< R(%)≦ 6.0(%) ・・・ 式3
2.前記熱収縮性ポリエステル系フィルムを90℃の温水中に10秒間浸漬処理後の主収縮方向の収縮率が30%以上である1.に記載の熱収縮性ポリエステルフィルムロール。
3.前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みが8μm以上60μm以下であることを特徴とする1.又は2.に記載の熱収縮性ポリエステルフィルムロール。
4.前記熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの幅が400mm以上2000mm以下であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、フィルムを製膜後ロール状に巻き取ったフィルムロールを長期にわたって保管しても、経時によるフィルムロールの表層のシワ、巻芯のシワ、及び端面のシワが発生しにくく、印刷加工時に不良を起こしにくい熱収縮性ポリエステル系フィルロールを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フィルムロール端面からみた表層、中間層、巻芯層の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの構成について詳しく説明する。
【0013】
〔熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを構成する熱収縮性ポリエステル系フィルム〕
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを構成する熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて使用するポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするものである。すなわち、ポリエステルの全構成成分100モル%に対してエチレンテレフタレートを50モル%以上、好ましくは60モル%以上含有するものである。
【0014】
本発明のポリエステルを構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0015】
脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)をポリエステルに含有させる場合、含有率は3モル%未満(ジカルボン酸成分100モル%中)であることが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸を3モル%以上含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、高速装着時のフィルム腰が不十分である。
【0016】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)をポリエステルに含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な収縮率を達成しにくくなる。
【0017】
ポリエステルを構成するエチレングリコール以外のジオール成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0018】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや、炭素数3~6個を有するジオール(たとえば、1-3プロパンジオール、1-4ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を60~80℃に調整したポリエステルが好ましい。
【0019】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計10モル%以上であることが高い収縮性を持たせる点で好ましい。10モル%未満であると必要な収縮率が得られず、収縮仕上げ時に収縮不足となる。非晶モノマー成分は10モル%以上、好ましくは11モル%以上、より好ましくは12モル%以上、特に好ましくは13モル%以上である。
【0020】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。また、ε-カプロラクトンを用いることも好ましい。
【0021】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0022】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05~3.0μmの範囲内(コールターカウンタで測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。また微粒子の添加量はフィルムに対して300~1200ppmの範囲内で、良好な滑り性(摩擦)と透明性を両立することができる。
【0023】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0024】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールのフィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式5により算出したフィルムの主収縮方向の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯熱収縮率)が、30%以上である。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)・・式5
【0025】
90℃における主収縮方向の温湯熱収縮率が30%未満であると、飲料ボトル用のラベルや、弁当のバンディング包装用として使用する場合に、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。温湯収縮率の上限は特に規定しないが、80%が上限であると考えられる。なお、90℃における主収縮方向の温湯熱収縮率は35%以上であるとより好ましく、40%以上であると特に好ましい。
【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールのフィルム厚みは、ラベル用途やバンディング用途の熱収縮性フィルムとして8μm以上60μm以下が好ましい。フィルム厚みが8μm未満であるとフィルムのコシ感が著しく低下するためフィルムロールにシワが入りやすくなり好ましくない。一方、フィルム厚みは厚くてもフィルムロールとして問題はないが、コストの観点から薄肉化することが好ましい。フィルムの厚みは10μm以上58μm以下がより好ましく、12μm以上56μm以下が特に好ましい。
【0027】
〔熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの特性〕
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの有効巻長は3000m以上30000m以下であることが好ましい。ここで、有効巻長とは、フィルムロールからフィルムを巻きだして、長手方向端部から5m除去した箇所(最表層)から、巻芯コアから長手方向に少なくとも100mの箇所(巻芯)までのフィルムの長手方向の長さをさすものとする。なお、後述するようにフィルムロール最表層より500m毎の地点で平均硬さの測定を行うので、具体的には巻芯の地点は巻芯コアから長手方向に100m以上600m未満の地点となる。有効巻長が3000m未満であると、印刷工程において頻繁にフィルムロールを交換する手間が発生し、コストの面で好ましくない。また、30000mを超えるとフィルムロール径が大きくなりすぎてハンドリング性が低下し好ましくない。
【0028】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの最表層の硬さをフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の平均硬さが500以上700以下の範囲であることが好ましい。フィルムロールの「最表層」とはフィルムロールからフィルムを巻きだして、長手方向端部から5m除去した後のフィルムロール表面部をさすものとする。また、硬さはスイスプロセオ社製の硬さ試験機パロテスター2を使用して測定するものとする。幅方向の平均硬さが500未満であると、フィルムロールの巻が崩れる(所謂、巻ズレ)が発生していまい好ましくない。また、平均硬さが700を超えるとフィルムロール内のフィルムが癒着するブロッキングが発生していまい、巻出し時に異音(癒着したフィルムが剥離する音)や剥離跡が発生したり、フィルムが破断したりするため好ましくない。平均硬さはより好ましくは、550以上650以下である。
【0029】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの最表層の硬さをフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の硬さのばらつきは、10%以上20%以下である。硬さのばらつきは下記の式4において算出されるものとする。
硬さのばらつき=(硬さの最大値 ― 硬さの最小値)÷平均硬さ×100・・・式4
硬さのばらつきが20%を超えると、フィルムに部分的なたるみが生じる原因となり、印刷時に印刷抜けやシワが発生しやすくなり好ましくない。ばらつきは0%が理想ではあるが、実質的に達成は困難であり、せいぜい10%が下限と考えられる。
【0030】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率Rが最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で式1を満たし、表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲で式2を満たし、巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で式3を満たすことが好ましい。
-6.0(%)≦ R (%)< 0(%) ・・・式1
-2.0(%)≦ R(%)≦ 2.0(%)・・・式2
0(%)< R(%)≦ 6.0(%)・・・式3
【0031】
ここで、平均硬さの増加率の測定および算出方法について以下にのべる。
〈平均硬さの増加率〉
フィルムロールをフィルム巻き出し機にセットし、まず最表層のロールの硬さを幅方向に測定し平均硬さを求める。その後、巻出し機を用いてフィルムをロールから巻き出し、500mごとに巻き出し機を停止させて、その時のロールの硬さを幅方向に測定して平均硬さを求める。平均硬さの増加率は、ある巻長で測定した平均硬さXnから、その直前に測定した平均硬さXn-1(つまり500m表層側の巻長での平均硬さ)を引いて、さらに直前に測定した平均硬さXn-1で除して、100を乗じた値とする。例えば、最表層からの巻長500mでの平均硬さが680であり、最表層からの巻長1000mでの平均硬さが660である場合、最表層からの巻長500m地点~巻長1000m地点での増加率R(%)は (650―680)÷680×100= ―4.4%となる。
【0032】
以上のように、最表層~最表層からの巻長1000mの範囲(以下、表層という)と、最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲(以下、中間層という)と、巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲(以下、巻芯層という)で、それぞれ異なる範囲内の平均硬さの増加率Rを有することが好ましい。表層、中間層、巻芯層それぞれでの平均硬さの増加率R(%)の詳細について下記する。
【0033】
〈表層〉
表層の平均硬さの増加率R(%)は式1を満たすことが好ましい。すなわち、最表層からフィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さが、測定毎に式1の範囲で減少することが好ましく、言い換えれば、マスターロールから製品ロールにスリットして巻き換える工程において製品ロールの巻長が増加するとともに、平均硬さが増加することが好ましい。なお表層は最表層~最表層からの巻長1000mの範囲であるため、平均硬さの測定は3箇所(最表層、最表層から巻長500m地点、最表層から巻長1000m地点)となり、増加率R(%)を求めるのは2区間である。表層の平均硬さの増加率R(%)が前記2区間の両方において式1を満たすことにより、フィルムロールを経時させた後に表層のシワが発生しにくくなる。最表層からフィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さが式1の範囲で減少することが好ましいので、増加率R(%)が0(%)未満であることが好ましく、0(%)は好ましくない。また、R(%)は-6.0(%)を下回ると、巻長当りの平均硬さの変化が大きすぎるために、かえって巻取り時にシワが入りやすくなり好ましくない。増加率R(%)の範囲は、より好ましくは -5.5(%)≦R(%)<0.5(%)であり、特に好ましくは-5.0(%)≦R(%)<1.0(%)である。
【0034】
〈中間層〉
中間層の平均硬さの増加率R(%)は、500m毎の全区間において式2を満たすことが好ましい。すなわち、中間層は平均硬さが巻長に対して増加、減少、あるいは一定のいずれでもかまわないが、巻長当りの平均硬さの変化が小さいことが好ましい。中間層での増加率R(%)が-2.0(%)未満あるいは2.0(%)を超える場合、フィルムロール内に部分的に硬さの低い部分や、高い部分が生じてしまうため、フィルムロール端面にシワが入りやすくなり好ましくない。平均硬さの増加率R(%)のより好ましい範囲は-1.5(%)≦R(%)≦1.5(%)であり、特に好ましくは-1.0(%)≦R(%)≦1.0(%)である。
【0035】
〈巻芯層〉
巻芯層の平均硬さの増加率R(%)は式3を満たすことが好ましい。すなわち、巻芯層ではフィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さが測定毎に式3の範囲で増加することが好ましい。なお、巻芯層は巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲であるため、平均硬さの測定は3箇所(巻芯、巻芯からの巻長500m地点、巻芯からの巻長1000m地点)、増加率R(%)を求めるのは2区間となる。巻芯層の平均硬さの増加率R(%)が前記2区間の両方において式3を満たすことにより、巻芯でのフィルムロール表面及び端面のシワの発生が抑えられる。巻芯層においてはフィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さが式3の範囲で増加することが好ましいので、増加率R(%)が0(%)より大きいことが好ましく、0(%)は好ましくない。また、増加率R(%)が6.0(%)を超えると、硬さの変化が急すぎるために、かえって巻取り時にシワが入りやすくなり好ましくない。平均硬さ増加率R(%)のより好ましい範囲は、0.5(%)<R(%)≦5.5(%)であり、特に好ましくは1.0(%)<R(%)≦5.0(%)である。
【0036】
表層において、フィルムを巻き出した時の平均硬さが最表層から巻き芯側にかけて減少する(言い換えれば巻き芯側から、最表層にかけて増加する)ことにより経時後のフィルムロールのシワ発生が抑制される効果について推定されるメカニズムを下記する。
製膜したフィルムをマスターロールとして巻取り、その後、任意の幅にスリットして製品フィルムロールとして巻き取るが、マスターロールから製品フィルムロールまでのフィルムの走行や、巻取り時の回転するコアや巻き取ったフィルムロールの回転により、空気の随伴流が発生する。随伴流によりコアとフィルムの間、巻き取ったフィルムとフィルムの間に微細な空気の層が形成される。この空気の層は製品の巻取り直後は安定した状態にあるが、製品フィルムロールの長期的保管中に、巻取り時に発生した応力の残留によって、フィルムロールの端面や、あるいはフィルム表面から空気が抜けていき、フィルムロールが巻き締まることでシワが発生する。表層においてフィルムを巻き出した時の平均硬さが最表層から巻き芯側にかけて減少する(言い換えれば巻き芯側から、最表層にかけて増加する)ように巻き取ることで、随伴流による空気の層を形成させにくくすることが可能となる。表層における空気層が極めて少ないために、経時による空気抜けも発生しにくくなり、結果、経時でのシワの発生が抑制されるものと考えられる。
【0037】
巻心層についても同様に空気の層の形成の観点から推測できる。巻心層は、つまるところ巻取り開始をしてその後巻取り速度を徐々に上げていく領域に相当するが、コアのわずかな歪みや、加速による膜揺れなどにより空気の層が形成されやすい層でもある。この巻芯層において、フィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さが測定毎に増加するように巻取りをすることにより空気の層が形成されにくくなり、シワの発生が抑制されるものと考えられる。
【0038】
中間層は、表層と巻芯層の間に位置する層であり、表層及び巻芯層の影響を受けると考えられる。前記のように表層及び/又は巻芯層に空気層が形成された場合には、経時による空気抜けに伴い巻き締まりが起きるために中間層も影響を受けて端面のシワが発生すると考えられる。したがって、表層及び巻芯層を前記の平均硬さ増加率R(%)の範囲内としておけば中間層でのシワの発生は低減されるので、中間層においては平均硬さの変化を小さくして安定化させるのがよいと考えられる。
【0039】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの幅は400mm以上2000mm以下が好ましい。ロールの幅が400mm未満であると、その後の印刷加工においてフィルム面積あたりのコストが高くなり好ましくない。また、ロールの幅が2000mmを超えると、ハンドリング性の観点から好ましくない。ロールの幅はより好ましくは、500mm以上1900mm以下であり、特に好ましくは、600mm以上1800mm以下である。
【0040】
[熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの製造方法]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを構成する熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その製造方法について何ら制限される物ではないが、例えば、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により製造することによって得ることができる。
【0041】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200~300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0042】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0043】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で幅方向もしくは長手方向に延伸し、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。
【0044】
通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、収縮させたい方向(主収縮方向となる方向)に未延伸フィルムを延伸することによって製造される。
【0045】
幅方向に延伸する場合、未延伸フィルムをフィルムの両端をクリップで把持して加熱することができるテンター装置に導き、熱風によりフィルムを所定の温度まで加熱した後、長手方向に搬送しながらクリップ間の距離を広げることでフィルムを幅方向に延伸する。
この際、幅方向の延伸温度がTg+5℃未満であると、延伸時に破断が生じやすくなり、好ましくない。またTg+40℃より高いと、均一な幅方向の延伸ができなくなり、幅方向の厚み斑が大きくなるため、フィルムロールの硬さのばらつきが大きくなり好ましくない。延伸温度はより好ましくはTg+8℃以上Tg+37℃以下であり、更に好ましくはTg+11℃以上Tg+34℃以下である。
この時の延伸倍率は特に制限されないが、2倍以上6倍以下が好ましい。延伸倍率が2倍未満であると、物質収支的に高い収縮率が得られにくい上に厚み精度が悪くなる。また延伸倍率が6倍を上回ると、延伸製膜時に破断しやすくなり好ましくない。
【0046】
上記の方法で延伸製膜されたフィルムは、ワインダー装置により巻き取られ、マスターロールが作製される。そのマスターロールは、その後のスリット工程において、任意の幅にスリットされ、製品フィルムロールとしてコアに巻き取られる。
【0047】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールのスリット工程における巻取り方法について述べる。フィルムの巻取りにおいては、フィルム長手方向にテンションを掛けながら、さらに、フィルムロールの上からコンタクトロールによる圧力(以下、面圧と称する)を掛けながら、巻き取る方法が好ましい。このフィルムに対するテンションおよび面圧がフィルムロールの硬さの調整に重要であり、下記にテンションと面圧のコントロールによるフィルム硬さの調整方法について、表層、中間層、巻芯層それぞれについて述べるが、スリット工程の進行順に巻芯層、中間層、表層の順番で記載する。
【0048】
〈巻芯層〉
巻芯層においては、式3で規定の範囲に入るよう、巻取り開始時のフィルムにかかる張力(初期張力)を、90N/m以上130N/m以下にすることが好ましい。初期張力が80N/m未満であると、巻芯の巻き硬さが低くなり、巻取り開始のフィルム増速時にシワが入りやすくなり好ましくない。また、130N/mを超えると、硬さが高くなりすぎて、ロールのコアとなる紙管が変形したりするため好ましくない。より好ましくは、95N/m以上125N/m以下であり、特に好ましくは、100N/m以上120N/m以下である。
巻取り開始時のコンタクトロールの面圧(初期面圧)は、290N/m以上430N/m以下にすることが好ましい。初期面圧が290N/m未満であると、巻取り開始のフィルム増速時にフィルムを押さえる効果が小さくなりシワが入りやすくなり好ましくない。また、430N/mを超えると、張力の場合と同様にロールの硬さが高くなりすぎて、ロールのコアとなる紙管が変形したりするため好ましくない。より好ましくは、300N/m以上420N/m以下であり、特に好ましくは310N/m以上410N/m以下である。
フィルムロールの平均硬さの増加率R(%)を式3で規定の範囲にするために、張力と面圧は、初期条件から一定にするのではなく、巻取りの進行に従い変化させる(所謂、テーパ)ことが好ましい。巻取り張力については、巻取りの進行に従い減少させることが好ましく、その変化率は、巻取り長さが100m増加するにしたがい、初期張力に対して4%/100m以上7%/100m以下で減少(減少率 %/100m)させることが好ましい。この減少率が4%/100m未満もしくは7%/100mを超えると、式3で規定の平均硬さの増加率R(%)が得られず、期待される効果が得られないため好ましくない。一方で、張力の減少に伴い、フィルムが弛んだり、ロールから浮きがちになるために、シワが入りやすくなるため、面圧は巻取りの進行に伴い増加させることが好ましく、その変化率は、巻取り長さが100m増加するに従い、初期面圧に対して、7%/100m以上11%/100m以下で増加(増加率 %/100m)させることが好ましい。7%/100m未満では、張力の減少に伴いフィルムにシワが入りやすくなるため好ましくない。また、11%/100mを超えると、規定の巻き硬さの増加率にならず、期待される効果が得られないため好ましくない。
【0049】
〈中間層〉
中間層は、式2で規定のように平均硬さの変化が小さいことが好ましく、巻取り張力とコンタクトロールの面圧は一定であることが好ましい。つまり、張力の増加率および面圧の増加率は0%/100mであることが好ましい。中間層は、巻取り開始から増速後の巻取り速度一定で巻く領域であり、張力と面圧が一定であれば、フィルムロールの平均硬さは大きく変化せず、規定の式2の範囲内になる。
【0050】
〈表層〉
表層において、フィルムロールの平均硬さが式1で規定の範囲になるように、巻取り張力とコンタクトロールの面圧は一定であることが好ましい。フィルムロール表層はスリット工程において巻き上がりのために減速する領域であり、張力と面圧を一定に設定しておくことで、巻取るフィルムがロールに対して押さえられる効果(すなわち空気の巻き込み量の減少)が速度の低下とともに増加し、巻き硬さは表層になるにつれて増加する(つまり平均硬さの増加率R(%)は式1で規定の範囲でマイナスになる)。張力と面圧は一定であるため、張力の減少率および面圧の増加率は0%/100mであることが好ましい。
【実施例0051】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。
【0052】
また、フィルムの評価方法は下記の通りである。
【0053】
[Tg(ガラス転移点)]
示差走査熱量分析装置(セイコー電子工業株式会社製、DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で-40℃から120℃に10℃/分の昇温速度で昇温して測定した。Tg(℃)はJIS-K7121-1987に基づいて求めた。
【0054】
[固有粘度 (IV)]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0055】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式5にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式5
【0056】
[フィルムロールの硬さ測定]
スイス プロセオ社製の硬さ試験機パロテスター2を用いて、フィルムロールの硬さを測定した。具体的には、スリッターで巻取り作製した本発明のフィルムロールを、フィルム巻き出し機を用いて、ロールの巻き解きと硬さ測定を繰り返しながら評価していく。最表層のロール硬さは、ロールから5mフィルムを除去した後、ロール幅方向に50mmの間隔で硬さを測定し、平均硬さおよび硬さのばらつきを求める。硬さのばらつきは下記の式4において算出されるものとする。
硬さのばらつき=(硬さの最大値 ― 硬さの最小値)÷平均硬さ×100・・・式4
上記のスリッターで、フィルムロールを500m単位に巻き解き、その時のロールの平均硬さを同様に求める。500m単位で巻き解いて測定した時の平均硬さを、その直前に測定した平均硬さ(つまり500m表層側で測定した平均硬さ)で割り、100を掛けることで、平均硬さの増加率R(%)を求める。なお、最初の500m地点での平均硬さの増加率R(%)は、最表層の平均硬さで割り、100を掛けることにより増加率R(%)を求めることとする。
【0057】
[フィルムロールのたるみ評価]
フィルムロール最表層において、幅方向に50mmピッチで該スリットロールの端から画鋲等の針でフィルムが数枚貫通される程度に穴を開け、該スリットロールの最表層から長手方向に針穴間隔が3m以上得られる様にフィルム全幅をシワが無いようにサンプリングする。その後、得られたサンプルの長手方向の針穴間隔を平面台上にてサンプルが平面になるようにすること以外は不必要となる張力をかけることなく、それぞれメジャーにて測定した。長手方向の針穴間隔は3m以上で測定され、メジャーの目盛りの読取りは0.1mmの位までとし、その最大値と最小値と平均値から次式によりたるみ率を求め、少数点以下第4位を四捨五入して表記した。
たるみ率=(最大値-最小値)÷平均値×100 ・・・式6
弛みの評価は、弛み率が0.1%未満のフィルムロールは弛みなし(○)とし、弛み率が0.1%以上のフィルムロールは弛みあり(×)と判断した
【0058】
[フィルムロールの巻ズレ]
フィルムロールの端面における、凹凸の有無およびその高さを測定した。ロールの端面に凹凸が存在しない場合もしくは、凹凸があるがその高さが3mm未満の場合を巻ズレなし(○)とし、3mm以上の凹凸がある場合は巻ズレあり(×)とした。
【0059】
[フィルムロールのシワ評価]
フィルムをロールから1枚巻き出し、蛍光灯下で観察した時に、シワの跡が見える場合をシワあり(×)と判定し、見えない場合をシワなし(○)と判定した。シワの評価は、製造直後のフィルムロールの最表層と、フィルムロールを巻き出して巻長100m残した箇所(巻芯)の2箇所および製造から雰囲気温度30℃湿度85RH%で6ヶ月間保管した後のフィルムロールの最表層と、フィルムロールを巻き出して巻長100m残した箇所の2箇所の合計4点で評価を行った。
【0060】
[フィルムロール端面のスポーキングシワ評価]
スリット工程において、フィルムを巻き取った後、フィルムロール端面のスポーキングシワ(花模様や車輪のスポーク状のシワ)の長さを測定し、シワの長さが30mm以上のシワをNG(×)とし、シワがない場合もしくは、シワの長さが30mm未満の場合はOK(○)とした。
【0061】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件のもとで重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル1を得た。組成を表1に示す。
[合成例2~4]
合成例1と同様の方法により、表1に示すポリエステル2~4を得た。ポリエステル2の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266;平均粒径1.5μm)をポリエステルに対して7200ppmの割合で添加した。なお、表中、NPGはネオペンチルグリコール、BDは1,4-ブタンジオールである。なおポリエステルの固有粘度は、それぞれ、2:0.75dl/g,3:0.75dl/g,4:1.20dl/gであった。
なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの組成は表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
[実施例1]
上記したポリエステル1、ポリエステル2、ポリエステル3およびポリエステル4を質量比 9:6:75:10で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが80μmの未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムのTgは65℃であった。当該未延伸フィルムをテンターに導き、フィルム両端部をクリップで把持した状態で、フィルム温度が90℃(Tg+25℃)になるまで予熱し、その後、フィルム温度が85℃(Tg+15℃)で横方向に4.0倍延伸した。次いで該当延伸後のフィルムの両縁部を裁断除去後、ワインダーでロール状に巻き取り、厚み20μmのフィルムマスターロールを作製した。該当マスターロールを、スリッター工程にて、スリットし、900mm幅で有効巻長10000mのロールを得た。この時、スリット張力の初期張力を110N/mとし、張力減少率を巻芯層で5.7%/100m、中間層では0%/100m、表層では0%/100mとした。また、コンタクトロールの初期面圧は360N/mとし、面圧増加率を表層で8.9%/100m、中間層では0%/100m、表層では0%/100mとした。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例2]
スリット張力の巻芯層の張力減少率を4.5%/100mにし、コンタクトロール面圧の、巻芯層の面圧増加率を7.5%/100mに変更した以外は、実施例1と同様とした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例3]
スリット張力の巻芯層の張力減少率を6.5%/100mにし、コンタクトロール面圧の巻芯層の面圧増加率を10.5%/100mに変更した以外は、実施例1と同様とした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例4]
スリット張力の初期張力を125N/mにし、コンタクトロール面圧の初期面圧を390N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例5]
スリット張力の初期張力を95N/mにし、コンタクトロール面圧の初期面圧を330N/mに変更した以外は、実施例1と同様とした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例6]
フィルムロールの有効巻長を3000mに変更した以外は、実施例1と同様にした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[実施例7]
フィルムロールの有効巻長を25000mに変更した以外は、実施例1と同様にした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[比較例1]
スリット張力の初期張力を85N/mにし、コンタクトロール面圧の初期面圧を270N/mにした以外は、実施例1と同様にした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[比較例2]
延伸条件の予熱温度を110℃(Tg+45℃)にし、延伸温度を105℃(Tg+40℃)にした以外は、実施例1と同様にした。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[比較例3]
スリット張力減少率を巻芯層で0.4%/100m、中間層で0.4%/100m、表層では0.4%/100mとし、コンタクトロールの面圧増加率を表層で2.5%/100m、中間層では2.5%/100m、表層では2.5%/100mとした以外は実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[比較例4]
スリット張力の初期張力を90N/mにし、張力減少率を巻芯層で0.1%/100m、中間層で0.1%/100m、表層では0.1%/100mとして、また、コンタクトロールの初期面圧を150N/mとし、面圧増加率を表層で1.8%/100m、中間層では1.8%/100m、表層では1.8%/100mとしたいがいは実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[比較例5]
スリット張力減少率を巻芯層で-0.3%/100m、中間層で-0.3%/100m、表層では-0.3%/100mとし、コンタクトロールの面圧増加率を表層で-2.5%/100m、中間層では-2.5%/100m、表層では-2.5%/100mとした以外は実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
評価の結果、実施例1~7のフィルムは十分な収縮性を有し、フィルムロールの平均硬さ、硬さのばらつき、増加率R(%)が式1~式3で規定の範囲内となるため、スリットで巻き上がり直後のロールでの最表層、巻芯でのシワ、端面のスポーキングシワが発生せず、さらに6ヶ月保管後のフィルムロールにおいても最表層、巻芯でシワ、端面のスポーキングシワが発生しておらず、長期間保管後も印刷加工性に優れたフィルムロールであった。
【0067】
比較例1のフィルムは十分な収縮性を有するものの、フィルムロールの平均硬さが低いために、巻きずれが生じていまい、さらに、6ヶ月保管後のフィルムロールにおいても最表層、巻芯でシワ、端面のスポーキングシワが発生し、印刷加工性に劣るフィルムロールであった。
【0068】
比較例2は、製膜時の予熱/延伸温度が高いために、幅方向の厚み精度がわるく、フィルムロールの硬さのばらつきが大きいために、フィルムロールにたるみが生じてしまい、印刷加工性に劣るフィルムロールであった。
【0069】
比較例3のフィルムは十分な収縮性を有し、フィルムロールの平均硬さ、硬さのばらつきは規定の範囲内であるものの、ロールの平均硬さが表層から巻芯に向かって増加し続ける硬さのパターンを取り、本発明で規定する式1の範囲外であるため、スリットで巻き上がり直後のロールでは、最表層、巻芯でシワが発生しないが、6ヶ月保管後のフィルムロールでは、最表層にシワが発生してしまい、印刷加工性に劣るフィルムロールであった。
【0070】
比較例4のフィルムは、十分な収縮性を有するものの、フィルムロールの平均硬さが低いために、巻きずれが生じてしまい、さらに、ロールの平均硬さが表層から巻芯に向かって増加し続ける硬さのパターンを取り、本発明で規定する式1の範囲外であるため、6ヶ月保管後のフィルムロールでは、最表層にシワが発生してしまい、印刷加工性に劣るフィルムロールであった。
【0071】
また、比較例5のフィルムは十分な収縮性を有し、フィルムロールの硬さの平均値、ばらつきは規定の範囲内であるものの、ロールの硬さが表層から巻芯に向かって減少し続ける硬さのパターンを取り、本発明で規定する式3の範囲外であるため、スリットで巻き上がり直後のロールにおいて巻芯にシワが発生し、6ヶ月保管後のフィルムロールでは、表層および巻芯にシワが発生し、端面にはスポーキングシワが発生してしまい、印刷加工性に劣るフィルムロールであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールは、上記の如くたるみや巻ズレがなく、製造直後および長期間保管後もフィルムロールにシワが発生せず、印刷加工性に優れており、飲料ボトル用のラベルや、弁当のバンディング包装用途などに好適に使用することができる。
図1