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  • 特開-石膏系鋳造用埋没材組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182617
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】石膏系鋳造用埋没材組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/08 20060101AFI20231219BHJP
   B22C 9/04 20060101ALI20231219BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 6/858 20200101ALI20231219BHJP
   A61K 6/871 20200101ALI20231219BHJP
【FI】
B22C1/08 D
B22C9/04 J
B22C9/04 E
B22C9/04 C
B22C9/02 101G
A61K6/858
A61K6/871
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149825
(22)【出願日】2023-09-15
(62)【分割の表示】P 2019546707の分割
【原出願日】2018-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017195194
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達矢
(72)【発明者】
【氏名】菅野 健一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来製品で実現できていなかった、放置時間を短縮した製品の提供を可能にする、急速加熱型の石膏系埋没材として有用な石膏系鋳造用埋没材組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】練和液を入れて練和後に硬化させ、硬化体を高温の炉に投入する急速加熱型の埋没材用である石膏系の粉体状の鋳造用埋没材組成物であって、焼石膏と、石英と、クリストバライトとを主成分としてなり、焼石膏と石英との共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの共粉砕物又は焼石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物から選ばれる少なくともそのいずれか一つの共粉砕物と、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分とを含む、平均粒子径が30μm以下である石膏系鋳造用埋没材組成物及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
練和液を入れて練和後に硬化させ、硬化体を高温の炉に投入する急速加熱型の埋没材用である石膏系の粉体状の鋳造用埋没材組成物であって、
焼石膏と、石英と、クリストバライトとを主成分としてなり、
焼石膏と石英との共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの共粉砕物又は焼石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物から選ばれる少なくともそのいずれか一つの共粉砕物と、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分とを含む、平均粒子径が30μm以下である石膏系鋳造用埋没材組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急速加熱型の埋没材用の石膏系鋳造用埋没材組成物及び石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法に関する。より具体的には、練和液を加えてスラリーとし、ワックスパターンやレジンパターン等を中子としてスラリーで埋め込んで硬化させ、その後に硬化体を高温の炉に投入するまでにかかる時間を従来の埋没材組成物よりも短時間にできる、作業の効率化に資する、特に歯科用埋没材等として有用な石膏系鋳造用埋没材組成物及びその製造方法を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用埋没材組成物とは、歯科用の埋没材を例にとって説明すると、下記のような工程を経て、銀歯などの補綴物を作製する際の鋳造に使用される鋳型材料のことである。まず、ワックスやレジン等で補綴物の鋳型原型(以下、パターンと呼ぶ)を作製する。一方で、粉状の歯科用埋没材に練和液を加え、混練して流動性の高いスラリーを用意する。上記で得たパターンを中子として、用意したスラリーで埋め込み、パターンを埋没させて放置する。一定時間経過すると、スラリーが硬化して、パターンが中子として埋め込まれた状態の硬化体になる。そして、得られた硬化体を適宜な条件で加熱する。この加熱工程(焼却工程)で、中子のパターンのみが焼却されてなくなり、その部分が空洞となって、銀歯などの補綴物の形状からなる空胴部分が内部に形成されてなる鋳型が得られる。そして、鋳型の空洞部分に溶かした金属を鋳造することで、目的とする形状の銀歯などの金属製の補綴物を形成している。
【0003】
歯科用埋没材は、結合材の種類によって、石膏系埋没材やリン酸塩系埋没材などに分類されており、石膏系埋没材は、一般的に融点が1000℃以下の金属を鋳造する際の鋳型(石膏型)として広く使用されている。石膏系埋没材は、耐火材に、クリストバライトや石英、結合材に石膏が使われ、練和液として一般的には水が使用される。以下、練和液として水を用いる場合を代表例として説明し、その場合の練和液を練水と呼ぶ。また、石膏系埋没材は、上記の焼却工程における加熱条件によって、通常加熱型と急速加熱型に分類されている。通常加熱型では、室温から徐々に昇温して、埋没した中子のパターンを焼却するのに対し、急速加熱型では、700℃或いは750℃の高温に昇温されている焼却炉に、硬化体を投入してパターンを焼却する。このため、通常加熱型のものよりも高い作業性の実現が可能になる。
【0004】
そして、特に歯科用埋没材では、その使用目的から、得られる鋳型(石膏型)の空洞部分に、高い寸法安定性や表面平滑性が必要とされる。このため、このような用途において、上記特性を満足した鋳型を得る観点から、種々の提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-87918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した状況において、本発明者らは、歯科用埋没材等として広く使用されている急速加熱型の石膏系埋没材について、さらなる作業効率の向上の観点から鋭意検討を行った。作業性の高い急速加熱型の石膏系埋没材では、高温に昇温されている焼却炉に硬化体を投入するため、鋳型にクラックが入り易いという課題があった。鋳型(石膏型)にクラックが入った場合は、得られた補綴物などの鋳造物にバリ等が生じ、場合によっては、パターンの作製からやり直さなければならなくなる。そして、下記に述べるように、鋳型にクラックが入る問題は、焼却炉に投入する際の硬化体の硬化状態と関連することが知られている。
【0007】
急速加熱型の石膏系埋没材は、一般に、埋没材と、練水とを混練してスラリーとし、一連の作業を経た後、高温の焼却炉に投入した場合の熱衝撃(ヒートショック)に耐え得る状態になるまで放置して、スラリーを硬化させる必要があるとされている。そして、上記した鋳型(石膏型)におけるクラックの発生は、高温の焼却炉に投入した際のスラリーの硬化状態、すなわち、上記した硬化を進めるために放置した時間(「放置時間」と呼ぶ)に関連することが知られている。具体的には、この放置時間が短い程、作業効率を向上させることができる一方で、放置時間が十分でない状態で硬化体を高温に昇温した焼却炉に投入すると、鋳型にクラックが入り、鋳造不良の原因となる。
【0008】
上記したことから、急速加熱型の石膏系埋没材である歯科用埋没材製品では、この点についての設計をした上で市販がされており、各製品には、その製品において必要となる放置時間がそれぞれ定められている。具体的には、石膏系の歯科用埋没材製品の場合、練水との混練を開始した時点(歯科用埋没材が、練水に接水した時点)から計測を開始して、20分後、或いは、30分後に、高温の焼却炉へ硬化体の投入が可能になる製品であるとした意味をもつ、守るべき放置時間が定められている。このため、作業者は、例えば、20分タイプの石膏系の歯科用埋没材を用いた場合、練水に接水した時点から計測を開始して、少なくとも20分が経ってから、硬化体を高温に昇温されている焼却炉に投入する必要がある。言い換えれば、作業者は、練和して、スラリーで中子を埋め込んでから、しばらくの間は作業を停止する必要がある。本発明では、練水を入れた時点を始点として計測した急速加熱を開始できる状態の硬化体になるまでの時間を、「放置時間」と規定している。
【0009】
上記した現状に対し、本発明者らは、上記した放置時間を短縮した製品を提供できれば、従来製品よりも短時間に作業ができるようになり、また、そのような製品が種々に提供されれば、所望する作業状況に合わせて放置時間が異なる製品を適宜に選択して設計できる範囲が広がるので、作業の効率化を図る上で有用であるとの認識を持つに至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来製品で実現できていなかった、放置時間を、従来品よりも短縮した製品の提供を可能にできる、急速加熱型の石膏系埋没材として有用な石膏系鋳造用埋没材組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、石膏系鋳造用埋没材組成物において、放置時間を適宜に設計した製品の提供が可能になる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の石膏系鋳造用埋没材組成物を提供する。
[1]練和液を入れて練和後に硬化させ、硬化体を高温の炉に投入する急速加熱型の埋没材用である石膏系の粉体状の鋳造用埋没材組成物であって、焼石膏と、石英と、クリストバライトとを主成分としてなり、焼石膏と石英との共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの共粉砕物又は焼石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物から選ばれる少なくともそのいずれか一つの共粉砕物と、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分とを含む、平均粒子径が30μm以下である石膏系鋳造用埋没材組成物。
【0012】
本発明の石膏系鋳造用埋没材組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。[2]前記保湿性成分が、多価アルコール類から選ばれる成分を含むこと;
[3]前記[2]の多価アルコール類が、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3ブチレングリコール及びこれらの重合物或いは共重合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかであること;
[4]前記[3]のグリセリンが、純度98.5%以上のグリセリンであること;
[5]前記[1]~[4]のいずれかにおいて、前記練和液を入れた時点を始点として計測した、急速加熱を開始できる状態の硬化体になるまでの放置時間が、8~15分であること;
[6]前記[5]の放置時間が、8~10分であること;
[7]前記[5]の放置時間が、8分であること;
[8]前記[1]~[7]のいずれかにおいて、前記主成分100質量部に対して、前記保湿性成分を0.05~1.0質量部含んでなること;
[9]前記[1]~[8]のいずれかにおいて、歯科用であること;
[10]前記[1]~[9]のいずれかにおいて、さらに、二水石膏を含むこと;
[11]前記[10]の二水石膏は、前記共粉砕物として含有されていること;
[12]前記[1]~[11]のいずれかにおいて、前記練和液を入れた時点から2時間後の凝結膨張率が、0.2%以上3.0%以下であること;
[13]前記[1]~[12]のいずれかにおいて、総合膨張率が、1.3%以上3.0%以下であること;が挙げられる。
【0013】
本発明は、別の実施形態として、下記の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法を提供する。
[14]練和液を入れて練和後に硬化させて得た硬化体を高温の炉に投入して使用される急速加熱型の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法であって、主成分である、焼石膏、石英及びクリストバライトを配合する際に、焼石膏と石英との共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの共粉砕物及び焼石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物からなる群から選ばれる少なくともいずれか一つの共粉砕物を用い、さらに、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を配合させて、平均粒子径が30μm以下である粉体状の石膏系鋳造用埋没材組成物を調製することを特徴とする石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法。
【0014】
本発明の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。
[15]前記主成分100質量部に対して、前記保湿性成分が0.05~1.0質量部含まれるように前記保湿性成分を配合する前記[14]に記載の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法。
[16]さらに、二水石膏を配合させる前記[14]又は[15]に記載の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法。
[17]前記主成分である、焼石膏、石英及びクリストバライトを配合する際に用いる前記共粉砕物のそれぞれが、さらに二水石膏を含んで共粉砕してなる共粉砕物である前記[14]又は[15]に記載の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の急速加熱型の石膏系埋没材製品で実現できていなかった、放置時間の短縮ができ、放置時間を短縮しても、ヒートショックによるクラックの発生が抑制された良好な鋳型(石膏型)を得ることができる有用な石膏系鋳造用埋没材組成物の提供が可能になる。また、本発明によれば、石膏系鋳造用埋没材組成物において、放置時間を適宜に設計することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】検討例で使用したT字のワックスパターンの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、急速加熱型の石膏系埋没材において、極めて簡単な構成でありながら、従来品よりも放置時間を短縮でき、しかも、高温の焼却炉に投入して得られる鋳型がヒートショックによるクラックの発生が抑制された良好なものになることを見出した。例えば、従来の市販されている急速加熱型の歯科用埋没材製品では、歯科用埋没材に練水を入れて接水した時点から、一連の作業後、パターンが中子として埋め込まれた状態の硬化体を高温の焼却炉に投入するまでの放置時間を、20分或いは30分としており、最短でもこれらの時間がかかっていた。これに対し、本発明の石膏系鋳造用埋没材組成物(以下、単に「本発明の組成物」と呼ぶ)を用いることで、この放置時間を、8~15分間程度に短縮した場合や、8~10分間程度に短縮した場合や、更に8分程度に短縮した場合であっても、ヒートショックによるクラックの発生が抑制された良好な鋳型を得ることができる。
【0018】
本発明の組成物は、従来の石膏系埋没材組成物と同様、主成分として、結合材に焼石膏を用い、耐火材に石英及びクリストバライトを用いた構成のものである。本発明の組成物は、さらに、これらの成分が、焼石膏と石英との乾式の共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの乾式の共粉砕物、或いは、焼石膏と石英とクリストバライトとの乾式の共粉砕物の少なくともいずれかとして含有されており、当該組成物の平均粒子径が30μm以下となるように構成されている。そして、さらに、この主成分構成に加えて、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を含有してなることを特徴とする。本発明者らは、主成分構成において上記した共粉砕物を用い、且つ、前記保湿性成分を含有させる構成としたことで、驚くべきことに、従来品における流動性等の性能を損なうことなく、「放置時間」を短縮でき、短時間で形成した鋳型(石膏型)がクラックの発生が抑制された耐熱衝撃性に優れるものになることを見出した。
【0019】
具体的には、本発明の組成物を水と混練してスラリーとし、該スラリーでパターンを埋め込み、その後に硬化させるために設ける放置時間を従来品よりも短縮し、700℃或いは750℃の高温の焼却炉に投入した場合においても、形成した鋳型は、ヒートショックによって生じるクラックの発生が効果的に抑制されたものになることがわかった。また、本発明者らは、検討の結果、焼石膏を含む主成分を共粉砕物からなる構成とし、且つ、石膏系鋳造用埋没材組成物を平均粒子径が30μm以下の粉体となるようにしたことが、従来品によって得られる品質を損なうことなく、上記した放置時間の短縮化の効果の実現に寄与するという驚くべき事実を見出した。この点については、例をもって後述する。
【0020】
本発明で、石膏系鋳造用埋没材組成物の構成を、焼石膏を含む主成分に、少なくとも焼石膏を他の主成分と乾式で共粉砕してなる共粉砕物を使用し、且つ、平均粒子径が30μm以下の粉体となるようにしたことで、放置時間を短縮できた理由は定かではない。なお、本発明で規定する平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した体積平均径である。本発明者らの検討によれば、上記した効果が得られた要因の一つは、上記の構成としたことで、焼石膏の粒度を細かくできた点にある。一方、焼石膏の粒度を細かくしただけであると、フロー値が低下し、練和時の流動性が劣るという別の問題を生じることがわかった。この問題に対し、本発明者らは、焼石膏とその他の主成分とを共粉砕することで、改善できることを見出した。このため、本発明では、焼石膏を含む主成分の共粉砕物を使用し、平均粒子径が30μm以下の構成としたことで、放置時間の短縮化と、焼石膏の粒度を細かくすることで生じるフロー値の低下の問題を抑制する効果の両立を図っている。
【0021】
形成した鋳型(石膏型)が、ヒートショックによって生じるクラックの発生が効果的に抑制されたものになる本発明の組成物について、下記に述べる方法で、練和液(練水)を入れた時点から2時間後の凝結膨張率と、後述する総合膨張率とを測定し、これらの値がどの程度である場合に良好な結果が得られるかについて検討した。その結果、練水を入れた時点から2時間後の凝結膨張率が、0.2%以上3.0%以下である場合、また、総合膨張率が、1.3%以上3.0%以下である場合に良好な結果が得られることが確認できた。
【0022】
練水を入れた時点から2時間後の凝結膨張率は、練水が入ったシリコーンゴム製のラバーカップに、測定対象の石膏系鋳造用埋没材組成物を15秒で投入し、1分間撹拌後、凝結膨張率測定用の型枠に流し込み、これを試験体として、下記のようにして測定した。すなわち、練水で練和した組成物が型枠に流し込まれてすぐのサイズを基準とし、具体的には、この時点で型枠に設置したゲージをゼロにして、2時間後におけるゲージの値を読み取って、練水をカップに入れた時点から2時間後の凝結膨張率を測定した。
【0023】
本発明で用いる総合膨張率は、下記のようにしてそれぞれ測定した、「放置時間経過時における凝結膨張率」と「熱膨張率」との和である。まず、練水が入ったシリコーンゴム製のラバーカップに、測定対象の石膏系鋳造用埋没材組成物を15秒で投入し、1分間撹拌後、凝結膨張率測定用の型枠と、熱膨張率測定用の型枠にそれぞれ流し込み、それぞれを試験体として、下記のようにして測定した。
【0024】
「放置時間経過時における凝結膨張率」は、練水で練和した組成物が凝結膨張率の測定用の型枠に流し込まれてすぐのサイズを基準とし、具体的には、この時点で型枠にあるゲージをゼロにし、確認したい放置時間経過時におけるゲージの値を読み取って測定する。また、「熱膨張率」は、放置時間経過時のサンプルを取り出し、これを下記のようにして加熱して測定する。具体的には、熱膨張計(ブルカー社製、製品名:TD5000SA)に、上記で取り出した試験体(サンプル)をセットし、室温から1分間に10℃の速度で昇温させ、700℃到達時の熱膨張率を測定した。なお、熱膨張率の測定は、加熱に用いた放置時間経過時のサンプルサイズを基準とし、該基準に対して、どのくらい膨張したかを測定した。
【0025】
〔粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分〕
本発明の組成物は、上記したことを基本構成とし、且つ、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を含有させたことを特徴とする。
【0026】
本発明者らは、先に述べた従来技術の課題を解決すべく、前記した主成分以外の成分を用いる構成で、石膏系鋳造用埋没材組成物に含有させることで、放置時間を短くしても形成した鋳型にヒートショックによってクラックが発生することが抑制される有用な成分を見出すべく、鋭意検討を行った。本発明者らは、その検討過程で、水分含有率が低い純度が98.5%以上のグリセリンを含有させた場合、放置時間を短くしても、形成される鋳型は、ヒートショックによって生じるクラックの発生が抑制されたものになることを見出した。
【0027】
さらに検討した結果、純度が98.5%以上のグリセリンに限らず、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を含有させることによっても同様の効果が得られることを見出した。
【0028】
本発明の組成物を構成する粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分としては、多価アルコール類が挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、前記した純度が98.5%以上のグリセリン(精製グリセリンと呼ばれている)や、その他のグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3ブチレングリコール等や、これらの重合物或いは共重合物が挙げられる。
【0029】
本発明者らの検討によれば、上記した保湿性成分の使用量としては、主成分100質量部に対して、0.05~1.0質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、目的とする放置時間の短縮効果との兼ね合いにもよるが、0.1~1.0質量部、更に好ましくは0.2~1.0質量部の範囲内で含むとよい。上記の範囲よりも少ないと、放置時間を短くできても、急速加熱で形成した鋳型にクラックが発生することが抑制されるとした効果が十分に発揮されない場合がある。また、上記の範囲よりも多くなると、主成分と共粉砕等して混合させた場合に、ベタつくので好ましくない。以下、保湿性成分の代表例として、純度が98.5%以上のグリセリンを用いて説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明の説明は、特に、歯科用の埋没材を中心に行っているが、本発明の組成物の利用範囲はこれに限定されるものでなく、例えば、バリのない精緻な形状が要求される、宝飾品、美術工芸品、金属部品等を、効率よく、歩留まりよく鋳造する場合にも、何ら区別することなく用いることができる。
【0031】
次に、本発明の組成物を構成する主成分について説明する。
〔主成分〕
本発明の組成物を構成する主成分は、従来の石膏系埋没材組成物と同様、焼石膏、石英及びクリストバライトであり、その配合も、従来と同様、それぞれが約1/3ずつ程度配合されたものであればよい。より具体的には、例えば、主成分の合計を100質量部とした場合に、焼石膏が25~50質量部程度、クリストバライトが10~35質量部程度、石英が40~65質量部程度で配合させたものであればよい。
【0032】
(焼石膏)
本発明の組成物を構成する焼石膏とは、硫酸カルシウムの1/2水和物[CaSO4・1/2H2O]及び無水和物[CaSO4]であり、β型半水石膏、α型半水石膏、III型無水石膏、或いは、それらの混合物などが挙げられる。いずれの焼石膏も本発明に用いることができる。本発明者らの検討によれば、鋳造時に必要な鋳型の強度を考慮すると、α型半水石膏(α石膏)を用いることがより好ましい。焼石膏は、水と化学反応し、容易に二水石膏に変化するため結合材として用いられる。
【0033】
本発明の組成物に適量の水を加えて混練したスラリーは、パターンを中子とする型枠内に注入すると、速やかに固結する。本発明の組成物は、この焼石膏が固結することで形成される硬化体の状態を、従来品の放置時間と比べて短い放置時間で、鋳型(石膏型)がヒートショックを受けにくい耐熱衝撃性に優れたものになる構成を有する。その結果、放置時間を短くした硬化体を、高温の焼却炉で中子のパターンを焼却して消失させて形成した鋳型は、クラックの発生が効果的に抑制され、鋳型を用いて得た補綴物などの鋳造物は、バリのない良好なものになる。
【0034】
本発明の組成物は、上記したように、結合材として焼石膏を用いていることから、スラリーを注入する時の流動性に優れ、得られる鋳型(石膏型)は、焼却後の残留応力による変形が少なく、また、鋳造後の鋳造物の取出しが容易にでき、経時変化も少ないといった利点を有するものになる。
【0035】
(石英、クリストバライト)
本発明の組成物は、耐火材として、石英及びクリストバライトを含み、この点については、従来技術と異なることはない。したがって、これらの材料は、従来の「石膏系埋没材」で用いられている公知の材料をいずれも使用することができる。
【0036】
先に述べたように、本発明の組成物は、主成分として用いる、焼石膏と石英とクリストバライトとを、焼石膏と、その他の主成分とを共粉砕した状態で用いたことを特徴とする。このように構成したことで、本発明の組成物は、従来品と比べて放置時間を短縮して得た硬化体を高温の焼却炉に投入した場合に、形成される鋳型(石膏型)が、ヒートショックを受けにくい耐熱衝撃性に優れたものになる。また、後述するように、このような共粉砕物を用いたことで、焼石膏のみを粉砕した構成の組成物で見られたフロー値の低下、すなわち、スラリーの流動性の低下の問題を抑制できる。
【0037】
(二水石膏)
本発明の組成物は、二水石膏を添加することができる。これにより、本発明の組成物の凝結膨張率及び熱膨張率を大きくすることができる。本発明の組成物に二水石膏を添加する際の方法は特に限定されない。例えば、前記した主成分を共粉砕する際に二水石膏を添加し、主成分とともに共粉砕して共粉砕物として添加する構成としてもよいし、共粉砕した後の主成分に二水石膏を添加するように構成してもよい。但し、二水石膏は、本発明の組成物の必須成分ではなく、任意成分である。
【0038】
〔石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法〕
次に、本発明の組成物を得ることができる本発明の石膏系鋳造用埋没材組成物の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、組成物の主成分である、焼石膏、石英及びクリストバライトを配合する際に、焼石膏と石英との共粉砕物、焼石膏とクリストバライトとの共粉砕物及び焼石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物からなる群から選ばれる少なくともいずれか一つの共粉砕物を用い、さらに、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を配合させて、平均粒子径が30μm以下である粉体状の石膏系鋳造用埋没材組成物を調製することを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法は、主成分原料に、少なくとも焼石膏を含む共粉砕物を用いること、粉体或いは水分含有率が低い液状の保湿性成分を配合すること、平均粒子径が30μm以下となるようにすることを特徴とし、それ以外は、従来の石膏系の粉体状の鋳造用埋没材組成物の製造方法と同様である。
【実施例0039】
次に、検討例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。以下、部又は%とあるのは、特に断りがない限り、質量基準である。
【0040】
[検討例1](グリセリンの添加について)
(石膏系鋳造用埋没材組成物の調製)
主成分として、α石膏を30部、クリストバライトを20部、石英粉体を50部からなる配合の、平均粒子径が15μmの共粉砕物を用いた。これらの成分を乾式で共粉砕する際に、純度98.5%以上の精製グリセリン(花王社製)を、有効成分換算で、主成分100部に対して、0.05部、0.1部、0.2部、0.5部、1.0部及び1.2部の各濃度となるようにそれぞれ加えて、グリセリンの配合量が異なる6種の石膏系鋳造用埋没材組成物を得た。なお、乾式で共粉砕する条件は同一とした。
【0041】
(評価)
上記で得られたグリセリンの配合量の異なる各組成物をそれぞれに用い、下記の一連の手順を実施して、放置時間を3段階で変えた各硬化体を、高温の焼却炉に投入して鋳型(石膏型)をそれぞれ形成した。そして、得られた鋳型の耐熱衝撃性を下記の方法で比較した。
【0042】
予め、内径40mm、高さ50mmのステンレス製の鋳造用リングの内壁面にセラミックライナー(吉野石膏販売社製、製品名:YSライナー48)を一層巻き、その中に、図1に示した形状のT字のワックスパターンを入れたものを複数用意した。図1中のAは、鋳型となる円柱部分の直径を示し、Bは、鋳型に溶かした金属を導入するための導入路となる円柱の直径を示す。Aは6mmであり、Bは2.5mmである。
【0043】
先に調製した石膏系鋳造用埋没材組成物100部に、水を加えて練和して、それぞれグリセリンの配合量の異なるスラリーを得た。比較のために、グリセリンを含有していない主成分の共粉砕物のみからなる組成物を用い、上記したと同様の条件でスラリーを得た。次に、得られたスラリーを、予め用意した鋳造用リングに注ぎ込んで、内部に入れた上記形状のT字のワックスパターンを埋没させた。この際、同様の配合の組成物からなる試験体をそれぞれ6体ずつ得た。
【0044】
そして、高温の焼却炉に投入するまでのスラリーの硬化時間を変更して、放置時間が、8分、10分、15分となるようにし、その後に硬化体を急速加熱する工程を経て、石膏型(鋳型)をそれぞれに得た。そして、得られた各石膏型を用いてそれぞれ鋳造物を作製した。これらの石膏型と鋳造物の状態を観察して、グリセリンの配合量が異なる各石膏系鋳造用埋没材組成物を用いたことによる、耐熱衝撃性への影響を調べた。具体的には、まず、スラリーを得るために組成物に練水を入れた時点から、8分後、10分後、15分後の時点で、放置時間がそれぞれ異なる条件で硬化させた試験体を各2体ずつ、予め700℃に設定した電気炉(焼却炉)に投入した。そして、30分経過後、1体は炉から取り出し、取り出した石膏型のクラックの有無を目視で観察した。もう1体の石膏型は、そのまま、金銀パラジウム合金(金12%)(ジーシー社製、製品名:キャストウェル)を用いて鋳造に利用して、得られた鋳造物の表面状態を目視で観察した。
【0045】
上記した目視観察の結果から、下記の3段階の基準で、グリセリンの配合量が異なる各石膏系鋳造用埋没材組成物から得られた石膏型(鋳型)と、当該石膏型で鋳造した鋳造物についての耐熱衝撃性を評価した。結果を表1にまとめて示した。
○:石膏型にクラックが一切無い
△:石膏型の表面に(内部には達しない)クラックの発生が認められるが、鋳造物には影響が無い
×:石膏型に、内部の中空まで達するクラックあり、鋳造物に鋳造不良が発生した
【0046】
【0047】
表1の結果から、石膏系鋳造用埋没材組成物の配合にグリセリンを含有させることで、接水から高温の焼却炉に投入するまでの時間(放置時間)を短くしても、当該組成物を用いて得られる鋳型(石膏型)は、ヒートショックによるクラックの発生が抑制された耐熱衝撃性に優れたものになることが確認できた。また、石膏系鋳造用埋没材組成物の配合にグリセリンを1.2部含有させた場合は、粉体材料がベタついたことから、組成物に配合させるグリセリンの量は、0.05部~1.0部の範囲にすることが好ましいことがわかった。また、上記検討で使用したT字のワックスパターンに替えて、T字のレジンパターンを使用し、上記したと同様の試験を行ったところ、上記したと同様の結果が得られた。
【0048】
[検討例2](石膏の粒子径について)
検討例1の結果から、石膏系鋳造用埋没材組成物に配合させるグリセリンの量を0.2部とし、主成分の配合を、検討例1と同様に、α石膏を30部、クリストバライトを20部、石英粉末を50部とした。検討例2では、検討例1の場合と異なり、これらの主成分を共粉砕することなく、撹拌混合したものを検討用の石膏系鋳造用埋没材組成物とした。撹拌混合に用いるα石膏として、市販の40μmのα石膏(吉野石膏社製)を粉砕して、平均粒子径が、25μm、30μm、35μmのものをそれぞれ得、これらを用いた。クリストバライトには市販の20μmの粉末を用い、石英には市販の20μmの粉末を用いた。そして、α石膏の平均粒子径が異なること以外は同様の構成の4種の検討用の組成物を得た。α石膏の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による測定値(体積平均径)である。
【0049】
上記で得た撹拌混合したα石膏の平均粒子径が異なる4種の石膏系鋳造用埋没材組成物について、検討例1と同様にして、各石膏系鋳造用埋没材組成物を用いたことによる鋳型(石膏型)の耐熱衝撃性への影響を評価し、結果を表2に示した。さらに、練水を加えて得たスラリーについてフロー値を測定して、その流動性を調べた。結果を表2にまとめて示した。
【0050】
【0051】
表2に示した結果から、結合材として使用するα石膏の粒度を細かくしたことが、放置時間を短くした場合に、得られる鋳型(石膏型)に生じるヒートショックによるクラックの発生の抑制効果に寄与していることが確認できた。但し、撹拌混合に用いるα石膏の粒度を細かくするとフロー値が低下する傾向があることが確認され、α石膏を細かくした場合には、スラリーの流動性が低下するという別の問題が生じることがわかった。
【0052】
[検討例3](主成分の共粉砕について)
検討例2の結果から、α石膏を粉砕して粒度を細かくすることで、形成した鋳型(石膏型)に生じるヒートショックによるクラックの発生の抑制効果が得られることが確認できた。しかし、この場合には、スラリーの流動性が低下するという別の課題が生じることが認められた。そこで、下記に示したようにして、α石膏を単独で粉砕するのでなく、他の主成分とともに共粉砕した場合の効果についての検討を行った。主成分の配合を、α石膏を30部、クリストバライトを20部、石英を50部とし、α石膏と石英との共粉砕物、α石膏とクリストバライトとの共粉砕物、α石膏と石英とクリストバライトとの共粉砕物、の3種の共粉砕物をそれぞれに用いた構成の石膏系鋳造用埋没材組成物を得た。その際、上記共粉砕物に含まれていない主成分は、単独で共粉砕物と同様の平均粒子径になるように粉砕し、上記の共粉砕物にそれぞれ添加して、α石膏、クリストバライト、石英を主成分とする組成物をそれぞれ得た。また、共粉砕した際に、共粉砕物の平均粒子径が、25μm、30μm、35μmとなるようにして、粒子径が異なる3種類の石膏系鋳造用埋没材組成物をそれぞれ得た。また、いずれの場合も、共粉砕する際に、主成分100部に対してグリセリンを純分換算で0.2部となる量で配合した。
【0053】
上記で得た、共粉砕物の、種類と平均粒子径が異なる石膏系鋳造用埋没材組成物をそれぞれに用い、検討例1と同様にして、得られた石膏型(鋳型)の耐熱衝撃性を調べた。結果を表3に示した。なお、表3中の平均粒子径は、得られた石膏系鋳造用埋没材組成物についての測定結果である。
【0054】
【0055】
先に述べたように、α石膏を単味で粉砕した構成の検討例2では、表2に示したように、粉砕することで、形成した鋳型(石膏型)に生じるヒートショックによるクラックの発生の抑制効果が生じたものの、フロー値が低下し、スラリーの流動性が低下するという別の課題が生じた。これに対し、表3に示したように、α石膏を、他の主成分と共粉砕し、且つ、得られた石膏系鋳造用埋没材組成物の平均粒子径が30μm以下となるようにすることで、フロー値を大きく低下させることなく、練和時の流動性を十分なものにしつつ、鋳型(石膏型)及び鋳造物に生じるヒートショックによるクラックの発生の抑制効果を実現できることが確認された。
【0056】
表3の、平均粒子径が30μmと25μmである石膏系鋳造用埋没材組成物の各サンプルについて、下記のようにして膨張率の測定を行った。先に説明した方法で、練水を入れた時点から2時間後の凝結膨張率を測定した。また、各サンプルについて、各放置時間経過時の試験体(硬化体)における凝結膨張率と、各放置時間経過時の試験体を700℃に加熱した際の熱膨張率とを測定して、これらの値の和である総合膨張率を求めた。その結果、上記凝結膨張率は、0.2%以上3.0%以下の範囲内にあった。また、総合膨張率は1.3%以上3.0%以下の範囲内にあることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
A:T字ワックスパターンの鋳型となる部分の直径(6mm)を示す。
B:T字ワックスパターンの鋳型の導入路となる部分の直径(2.5mm)を示す。
図1