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特開2023-182639移植用肝臓の機能評価方法、移植用肝臓の機能評価プログラムおよび移植用肝臓の機能評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182639
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】移植用肝臓の機能評価方法、移植用肝臓の機能評価プログラムおよび移植用肝臓の機能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20231219BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231219BHJP
   A61L 27/36 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 D
A61L27/36 300
A61L27/36 100
A61L27/36 400
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023160143
(22)【出願日】2023-09-25
(62)【分割の表示】P 2021530638の分割
【原出願日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019126886
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム「移植用臓器の体外治療を可能にする潅流保存装置の開発と、メタボロミクスを用いた臓器潜在機能の客観的評価基軸の構築」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 英孝
(72)【発明者】
【氏名】藤分 秀司
(72)【発明者】
【氏名】樫原 稔
(72)【発明者】
【氏名】國光 健
(57)【要約】
【課題】移植用肝臓の移植の可否を客観的に評価する指標を提供する。
【解決手段】移植用肝臓の機能評価方法は、移植用肝臓の再灌流における第1のタイミングにおいて、移植用肝臓から第1サンプルを採取するステップと、再灌流における第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、移植用肝臓から第2サンプルを採取するステップと、第1サンプルにおける複数の代謝物の含有量を測定するステップと、第2サンプルにおける複数の代謝物の含有量を測定するステップと、複数の代謝物の各々について、第1のタイミングに対する第2のタイミングでの含有量の変化を求めるステップと、灌流中の肝臓から採取されたサンプル中に含まれる複数の代謝物について灌流による含有量の時間変化を示す参照データと、変化を求めるステップにて求めた複数の代謝物の含有量の変化とを用いて、移植用肝臓の機能評価に関する指標を求めるステップとを備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内から摘出された移植用肝臓の機能評価方法であって、
前記移植用肝臓の再灌流における第1のタイミングにおいて、前記移植用肝臓から第1サンプルを採取するステップと、
前記再灌流における前記第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、前記移植用肝臓から第2サンプルを採取するステップと、
前記第1サンプルにおける複数の代謝物の含有量を測定するステップと、
前記第2サンプルにおける前記複数の代謝物の含有量を測定するステップと、
前記複数の代謝物の各々について、前記第1のタイミングに対する前記第2のタイミングでの含有量の変化を求めるステップと、
灌流中の肝臓から採取されたサンプル中に含まれる前記複数の代謝物について灌流による含有量の時間変化を示す参照データと、前記変化を求めるステップにて求めた前記複数の代謝物の含有量の変化とを用いて、前記移植用肝臓の機能評価に関する指標を求めるステップとを備え、
前記複数の代謝物は、セドヘプツロース7-リン酸(Sedoheptulose 7-phosphate)、アデノシン3リン酸(Adenosine triphosphate)、グルコース-6-リン酸(Glucose-6-phosphate)、スクシニルCoA(Succinyl coenzyme A)、ジメチルグリシン(Dimethylglycine)、コリン(Choline)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、尿酸(Uric acid)、ピルビン酸(Pyruvic acid)および、イノシン(Inosine)の少なくとも2つを含む、移植用肝臓の機能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植用肝臓の機能評価方法、移植用肝臓の機能評価プログラムおよび移植用肝臓の機能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移植医療における慢性的な臓器不足を解消するための技術として、特開2018-154617号公報(特許文献1)には、移植のための臓器を、その機能を維持したまま長期間保存するための維持方法が開示される。特許文献1では、心停止後の臓器に、酸素運搬体および血液凝固阻害剤を含む灌流液を灌流させることによって、温虚血による組織障害を抑制し、心停止前の臓器に近い状態にまで回復させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-154617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の臓器移植では、移植のための臓器が移植可能な状態であるか否かの判断は、専ら移植外科医の経験(暗黙知)と迅速病理組織診断とに基づいている。移植外科医の暗黙知により移植可能と判断されながらも、本当は機能しない臓器を移植すれば、グラフト機能不全(Primary Non-Function:PNF)に陥るおそれがある。特に、バイタルオーガン(Vital Organ)と称される心臓、肺および肝臓の移植後には、早急に再移植を行なわないと患者の死亡に繋がるおそれがある。
【0005】
このように従来法では、臓器の潜在的機能または不可逆的傷害度を判断するための客観的な判断基準が存在しないため、移植前に臓器適性を正確に判断することができず、その判断が経験豊富な移植外科医に任されていた。そのため、上記特許文献1に記載される技術によって機能を回復させた心停止後摘出臓器についても、PNFを考慮して最終的には移植不能と判断される場合があり、ドナー不足の解消に歯止めがかかることが懸念される。また移植されたとしても、PNFに起因してグラフトロス(Graft Loss)となり、患者を失うリスクは常に存在する。
【0006】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、移植用肝臓の移植の可否を客観的に評価する指標を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る移植用臓器の機能評価方法は、灌流による複数のマーカ物質の含有量の時間変化を示すデータを準備するステップと、移植用臓器の再灌流における第1のタイミングにおいて、移植用臓器から第1の組織サンプルを採取するステップと、再灌流における第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、移植用臓器から第2の組織サンプルを採取するステップと、第1の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第2の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、複数のマーカ物質の各々について、第1のタイミングに対する第2のタイミングでの含有量の変化を求めるステップと、求めた含有量の変化とデータとを用いて、移植用臓器の機能評価に関する指標を求めるステップとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移植用臓器の移植の可否を客観的に評価する指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】肝臓の摘出から再灌流までの処理手順および、組織サンプルの取得タイミングを説明するための図である。
図2】灌流回路の構成例を模式的に示す図である。
図3】質量分析装置および評価装置の概略構成図である。
図4】第1評価における評価基準を説明するための図である。
図5】第2評価における評価基準を説明するための図である。
図6】第2評価における評価基準を説明するための図である。
図7】本実施の形態に係る肝臓グラフトの機能評価方法を説明するためのフローチャートである。
図8図7のステップS100に示す第1評価処理の手順を説明するためのフローチャートである。
図9図7のステップS100に示す第1評価処理の第1の変更例を説明するためのフローチャートである。
図10図7のステップS100に示す第1評価処理の第2の変更例を説明するためのフローチャートである。
図11図7のステップS200に示す第2評価処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一または相当部分について同一符号を付して、その説明が原則的に繰返さないものとする。
【0011】
[移植用臓器の機能評価方法の概要]
本実施の形態に係る移植用臓器の機能評価方法は、要約すると、移植用の臓器を質量分析することによって、予め指定されたマーカ物質についての定量的データを取得し、その取得した定量的データを、予め設定された評価基準に従って評価することにより、移植用の臓器が移植可能な状態であるか否かを判定するものである。
【0012】
以下では、最初に、本実施の形態に係る機能評価方法に用いる評価基準について説明する。続いて、当該評価基準を用いた機能評価方法について説明する。
【0013】
なお、本願明細書では、臓器の提供者(ドナー)となる哺乳動物として、ラットを用いる。また、移植用の臓器を肝臓とする。ただし、哺乳動物は、臓器を移植する対象であるレシピエントに応じて適宜選択することができ、ラット以外に、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、サル、イヌ、ネコ等を適用することができる。これは、当該マーカ物質の定量的データを取得するために、メタボロミクス解析を用いているためである。オミックス解析のうち、メタボロミクス解析は低分子代謝物を解析対象とするが、低分子代謝物には種差がなく、また解糖系等の代謝経路の中にはほぼ全ての生物で共通である経路も存在しており、ラット等の動物実験の結果をヒト等の他種の研究に外挿しやすいことがすでに知られている(例えば、Aono, R., et al. A pentose bisphosphate pathway for nucleoside degradation in Archaea. Nature Chemical Biology, 11(5), 355-360 (2015)および、吉田他、「メタボローム解析による消化器がんの診断-メタボロミクスによる膵がんバイオマーカー探索-」、日本臨床検査医学会誌、63(4):450-456を参照)。また、臓器には、肝臓以外に、例えば、心臓、腎臓、肺、膵臓、胃、小腸、大腸、精巣、卵巣、眼球などを適用することができる。
【0014】
(1)肝機能評価基準について
本願発明者らは、移植用の肝臓(以下、肝臓グラフトとも称する)の機能の評価基準を作成するために、肝機能の状態が異なる3種類の肝臓に対して共通の条件で灌流を行ない、各肝臓に含まれる代謝物の含有量を、質量分析を用いて測定した。測定では、肝臓の摘出後から再灌流までの過程において代謝物の含有量がどのように変化するのかを知るために、複数のタイミングで組織サンプルを採取し、質量分析を行なった。
【0015】
図1は、肝臓の摘出から再灌流までの処理手順および、組織サンプルの取得タイミングを説明するための図である。
【0016】
(1-1)組織サンプルの採取
試料には、Wistarラットから摘出した肝臓を用いた。図1の例では、試料Aは、Wistarラットの生体内から摘出した正常肝(Normal liver)である。
【0017】
試料Bは、心停止肝(DCD:Donor after circulatory death)である。試料Bは、Wistarラットを心停止させた後10分間静置して温虚血モデルを作成し、作成した温虚血モデルから摘出した肝臓である。
【0018】
試料Cは、心停止肝(DCD)である。試料Cは、Wistarラットを心停止させた後30分間静置して温虚血モデルラットを作成し、作成した温虚血モデルラットから摘出した肝臓である。なお、試料A、試料Bおよび試料Cを各々5個ずつ用意した。
【0019】
肝臓の摘出においては、肝臓の門脈に灌流液流入用カニューレを差し込み、肝臓の静脈に灌流液流出用カニューレを差し込み、胆管に胆汁流出用カニューレを差し込んだ。これらのカニューレを肝臓に固定した状態で、Wistarラットから肝臓を摘出し、摘出した肝臓を保存容器内に収容した。
【0020】
ここで、試料Bと試料Cとは、心停止後から肝臓摘出までの時間が異なっている。この時間は、肝臓への血流が停止する「温虚血」の時間となる。温虚血状態の肝臓にはATP(アデノシン3リン酸)の枯渇による細胞の膨化障害や老廃物の蓄積が生じる。そのため、移植が完了して肝臓に血流を再開させると、酸素化された灌流液によって老廃物が急速に代謝されることによって大量の活性酸素が生じ、結果的に肝臓障害を引き起こす場合がある。したがって、従来の肝移植では、温虚血状態が数分間続くと、移植不可能であると判断されている。この移植可否の判断は、専ら移植外科医の経験と病理組織学的知見とに基づいており、通常、温虚血状態が10分間続いた肝臓は移植可能であると判断される。一方で、温虚血状態が30分間続いた肝臓は移植不可能であると判断される。
【0021】
以下の説明では、温虚血状態が10分間続いた心停止後肝を「軽度心停止後肝(Mild DCD)」とも称する。温虚血状態が30分間続いた心停止後肝を「重度心停止後肝(Severe DCD)」とも称する。本実施の形態では、試料A(正常肝)および試料B(軽度心停止後肝)は、機能が正常である肝臓に該当する。一方、試料C(重度心停止後肝)は機能が不良である肝臓に該当する。
【0022】
次に、試料A~試料Cの各々について、肝臓の血管内の洗浄(フラッシュ)を行なった。洗浄には、生理食塩水を用いた。灌流液流入用カニューレを通じて生理食塩水を流入し、灌流液流出用カニューレを通じて生理食塩水を流出させた。流出した生理食塩水は灌流液流入用カニューレに循環させず、回収した。
【0023】
次に、洗浄後の肝臓にUW液(University of Wisconsin solution)を流して血液をUW液で置換させた後、UW液中に肝臓を浸漬させた状態で4時間冷保存した。この冷保存は、実際の医療現場において、ドナーから摘出した肝臓グラフトをレシピエントの元へ運搬する工程を想定したものである。冷保存の時間は、運搬に要する時間を最大限に見積もって4時間に設定した。この4時間は、遠隔地に発生した肝臓グラフトを使用する場合を考慮したものである。
【0024】
冷保存の終了後、肝臓を再加温することにより、肝臓の温度をWistarラットの体温程度(約37℃)にまで戻した。再加温は10分間行なった。
【0025】
次に、肝臓の温度を37℃の状態に維持しながら、肝臓の再灌流を行なった。灌流液には、クレブスバッファー液を用いた。図2は、灌流回路の構成例を模式的に示す図である。図2を参照して、灌流回路は、保存容器10と、灌流液リザーバ50,60と、灌流液流入経路20と、灌流液流出経路30と、ガス交換機構70と、ポンプ22とを有する。
【0026】
保存容器10には、試料である肝臓1が収容されている。灌流液リザーバ50,60は、灌流液が貯留される容器である。灌流液リザーバ50,60には図示しない温度機構が接続される。温度機構は、灌流液リザーバ50,60内に貯留される灌流液を一定温度(約37℃)に保つように構成される。
【0027】
灌流液流入経路20は、保存容器10内に設けられた灌流液流入用カニューレ12に接続される。灌流液流入経路20にはポンプ22が介挿される。灌流液流出経路30は、容器10内に設けられた灌流液流出用カニューレ14に接続される。
【0028】
灌流液流入経路20は、ポンプ22を用いて、灌流液リザーバ50から灌流液流入用カニューレ12を経由して、肝臓1に灌流液を供給する。このとき、灌流液の圧力が3~8mmHgとなるように、図示しない制御部によってポンプ22を制御する。
【0029】
肝臓1から流出した灌流液は、灌流液流出用カニューレ14および灌流液流出経路30を経由して、灌流液リザーバ60に回収される。ガス交換機構70は、灌流液リザーバ60に貯留される灌流液に酸素等の気体を供給することによって気体を溶解させた後、灌流液を灌流液リザーバ50に戻すように構成される。
【0030】
なお、図2では、灌流液を循環させる循環式の灌流回路の構成例を示したが、使用後の灌流液を循環させずに回収する構成としてもよい。再灌流の実行中に肝臓1の胆管から出力される胆汁は、胆汁流出用カニューレ40を経由して、容器80に回収される。
【0031】
以上説明した一連の工程の実行中において、試料ごとに、肝臓1から組織片を切り取ることにより、組織サンプルSを採取した。図1には、組織サンプルを採取するタイミングT1~T4が示される。
【0032】
タイミングT1は、肝臓の洗浄後であって冷保存前のタイミングに設定される。タイミングT2は冷保存直後のタイミングに設定される。すなわち、タイミングT1,T2は、冷保存前後にそれぞれ設定されている。
【0033】
タイミングT3は、再灌流初期に設定される。再灌流初期とは、肝機能が回復しつつある期間である。図1の例では、タイミングT3は、再灌流開始から15分後となるタイミングに設定されている。
【0034】
タイミングT4は、再灌流後期に設定される。再灌流後期とは、肝機能の回復がピークとなる期間である。図1の例では、タイミングT4は、再灌流開始から60分後となるタイミングに設定されている。すなわち、タイミングT3,T4は、再灌流中であって、肝機能の状態が互いに異なるタイミングに設定されている。
【0035】
(1-2)組織サンプルの質量分析
次に、上述したタイミングT1~T4の各々で採取された試料A~Cの組織サンプルを、質量分析を利用してスクリーニングを行なった。質量分析には、液体クロマトグラフ質量分析法(LC/MS)を用いた。
【0036】
具体的には、組織サンプル(約50mg)に内部標準液500μLを加え、バイオマッシャー(株式会社ニッピ)を用いてホモジャナイズした。次に、ホモジネートに水250μLを加えて撹拌し、さらにクロロホルム500μLを加えて撹拌した。遠心分離(15,000rpm、4℃、5分)を行なった後、上層500μLを抽出した。さらに、抽出液を、遠心エバポレーターを用いて乾燥し、残渣を水50μLで再溶解し、測定用試料とした。
【0037】
LC/MS分析は、LCMS-8060(島津製作所)を用いて行なった。LC/MS分析の測定モードとして、多重反応モニタリング(multiple reaction monitoring:MRM)およびスキャン分析を用いた。
【0038】
図3は、質量分析装置100および評価装置120の概略構成図である。図3を参照して、質量分析装置100は、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)部102と、データ処理部104と、制御部106とを有する。
【0039】
LC/MS部102は、カラム(図示せず)を備えた液体クロマトグラフと、質量分析部とを有する。カラムに供給された試料は、カラムを通過する過程で試料成分毎に分離され、真空状態の質量分析部に順次導かれて質量分析が行なわれる。これにより、リテンションタイムに応じて異なるスペクトルが得られる。
【0040】
質量分析部は、例えば、イオン化室、イオントラップおよびTOFMS(飛行時間型質量分析計)を有する。イオン化室は、液体クロマトグラフにより分離された試料成分を、ESI(エレクトロスプレーイオン化)などのイオン化法を用いてイオン化する。試料成分のイオン化法は、ESIに限らず、APCI(大気圧化学イオン化)などの各種方法を用いることができる。
【0041】
イオントラップは、例えば三次元四重極型であり、イオン化室で得られたイオンを捕捉するとともに、捕捉したイオンの一部を選択的にイオントラップ内に残し、CID(衝突誘起解離)により開裂させることができる。開裂されたイオンは、イオントラップからTOFMSに供給される。
【0042】
TOFMSでは、飛行空間に形成された電場により加速されたイオンが、飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて時間的に分離され、イオン検出器により順次検出される。イオン検出器による検出信号はデータ処理部104に入力され、デジタルデータに変換された後、マススペクトル、マスクロマトグラム、トータルクロマトグラムの作成などの各種のデータ処理が実行される。
【0043】
制御部106は、LC/MS部102の動作を制御する。なお、データ処理部104および制御部106の機能は、所定の制御・処理ソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータにより具現化することができる。
【0044】
なお、本実施の形態では、質量分析装置100として液体クロマトグラフ質量分析装置を用いる構成について説明したが、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法によるPESIイオン源を利用した質量分析装置(PESIイオン化質量分析装置を用いることも可能である。
【0045】
制御部106は、データ処理部104で作成されたデータを評価装置120へ転送する。評価装置120は、質量分析装置100と通信接続されている。質量分析装置100および評価装置120の間の通信は、無線通信で実現されてもよいし、有線通信で実現されてもよい。
【0046】
評価装置120は、主な構成要素として、演算部であるCPU(Central Processing Unit)122と、記憶部124と、表示部126と、入力部128とを有する。評価装置120には、例えばパーソナルコンピュータなどを利用することができる。
【0047】
CPU122は、記憶部124に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、評価装置120の各部の動作を制御する。具体的には、CPU122は、当該プログラムを実行することによって、後述する移植用肝臓の機能評価を実現する。なお、図3の例では、CPU122が単数である構成を例示しているが、評価装置120は複数のCPUを有する構成としてもよい。
【0048】
記憶部124は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって実現される。記憶部124は、CPU122によって実行されるプログラム、またはCPU122によって用いられるデータなどを記憶する。当該プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体に記憶されていてもよい。
【0049】
CPU122には、表示部126および入力部128が接続される。表示部126は、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。入力部128は、評価装置120に対するユーザの操作入力を受け付ける。入力部128は、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。
【0050】
評価装置120は、試料A~Cの各々について、タイミングT1~T4の各々における組織サンプルのマススペクトルデータを取得すると、取得したマススペクトルデータに基づいて、試料に含まれる代謝物の定量分析を実行する。このとき取得される定量的データを用いて、肝臓グラフトの機能評価に用いる評価基準が設定される。
【0051】
(1-3)評価基準の設定
本実施の形態に係る肝機能の評価方法は、2段階の評価から構成される。第1評価は、再灌流前に取得された定量的データを用いて実行され、肝臓グラフトの機能の良否を評価するものである。第2評価は、再灌流中に取得される定量的データを用いて実行され、再灌流によって機能を維持または機能を回復させた肝臓グラフトについて、移植の可否を評価するものである。なお、第1評価は、最終的な第2評価に対する予備的な評価であるため、省略することも可能である。
【0052】
(i)第1評価における評価基準
第1評価では、評価基準として、肝機能の評価するためのマーカ物質と、肝機能の良否を判定するための閾値とを用いる。そこで、上述した3種類の試料A~Cの定量的データに基づいて、マーカ物質を同定するとともに、マーカ物質ごとに閾値を設定した。
【0053】
具体的には、タイミングT1,T2の各々で採取された試料A~Cの定量的データに基づいて、機能が正常である肝臓グラフトでは高い数値を示し、機能が不良である肝臓グラフトでは低い数値を示すという観点から、マーカ物質候補を同定した。
【0054】
冷保存前であるタイミングT1の定量的データにおいては、試料A(正常肝)および試料B(軽度心停止後肝)で高い数値を示し、試料C(重度心停止後肝)で低い数値を示す代謝物として、2個の代謝物がマーカ物質候補として同定された。この2個の代謝物は、ウリジン(Uridine)およびアデニロコハク酸(Adenylosuccinic Acid)である。
【0055】
一方、冷保存後であるタイミングT2の定量的データにおいては、試料A(正常肝)および試料B(軽度心停止後肝)で高い数値を示し、試料C(重度心停止後肝)で低い数値を示す代謝物として、1個の代謝物がマーカ物質候補として同定された。この1個の代謝物は、ウリジンである。
【0056】
図4には、タイミングT1の定量的データにおけるマーカ物質の含有量、およびタイミングT2の定量的データにおけるマーカ物質の含有量が示される。図4(A)は、試料A~Cの各々のタイミングT1におけるウリジンの含有量を示すグラフであり、図4(B)は、試料A~Cの各々のタイミングT1におけるアデニロコハク酸の含有量を示すグラフである。各グラフの縦軸は、マススペクトルのピーク面積比をタンパク量で除した値(マススペクトルのピーク面積比/タンパク量)に相当する。マススペクトルのピーク面積比とは、内部標準物質のピーク面積に対する目的成分のピーク面積の比である。タンパク量は、組織サンプルごとのタンパク量を定量分析によって測定したものである。
【0057】
図4(A)のグラフによると、タイミングT1では、正常肝、軽度心停止後肝、重度心停止後肝の順にウリジンの含有量が減少している。そこで、正常肝および軽度心停止後肝と、重度心停止後肝との間に、肝機能の良否を判定するための閾値U1を設定した。具体的には、正常肝および軽度心停止後肝のウリジンの含有量の平均値と、重度心停止後肝のウリジンの含有量の平均値との平均値を、閾値U1に設定した。
【0058】
また、図4(B)のグラフに示すように、タイミングT1では、正常肝、軽度心停止後肝、重度心停止後肝の順にアデニロコハク酸の含有量が減少している。そこで、正常肝および軽度心停止後肝と、重度心停止後肝との間に、肝機能の良否を判定するための閾値A1を設定した。具体的には、正常肝および軽度心停止後肝のアデニロコハク酸の含有量の平均値と、重度心停止後肝のアデニロコハク酸の含有量の平均値との平均値を、閾値A1に設定した。
【0059】
一方、図4(C)のグラフに示すように、タイミングT2では、正常肝、軽度心停止後肝、重度心停止後肝の順にウリジンの含有量が減少している。そこで、正常肝および軽度心停止後肝と、重度心停止後肝との間に、肝機能の良否を判定するための閾値U2を設定した。具体的には、正常肝および軽度心停止後肝のウリジンの含有量の平均値と、重度心停止後肝のウリジンの含有量の平均値との平均値を、閾値U2に設定した。
【0060】
(ii)第2評価における評価基準
第2評価では、評価基準として、再灌流による肝機能の維持および回復を評価するためのマーカ物質と、移植の可否を判定するための閾値とを用いる。そこで、上述した3種類の試料A~Cの定量的データに基づいて、マーカ物質を同定するとともに、マーカ物質ごとに閾値を設定した。
【0061】
具体的には、タイミングT3,T4の各々で採取された試料A~Cの定量的データに基づいて、再灌流中での含有量の変化という観点から、マーカ物質候補を同定した。タイミングT3とタイミングT4との間で含有量が変化した代謝物として、10個の代謝物がマーカ物質候補として同定された。この10個の代謝物は、セドヘプツロース7-リン酸(Sedoheptulose 7-phosphate)、アデノシン3リン酸(Adenosine triphosphate)、グルコース-6-リン酸(Glucose-6-phosphate)、スクシニルCoA(Succinyl coenzyme A)、ジメチルグリシン(Dimethylglycine)、コリン(Choline)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、尿酸(Uric acid)、ピルビン酸(Pyruvic acid)、イノシン(Inosine)である。
【0062】
図5には、タイミングT3の定量的データにおけるマーカ物質の含有量、およびタイミングT4の定量的データにおけるマーカ物質の含有量が示される。図5(A)~図5(J)は、試料A~Cの各々のタイミングT3,T4におけるマーカ物質の含有量を示すグラフである。
【0063】
各図において、A(T3)は、試料A(正常肝)のタイミングT3におけるマーカ物質の含有量であり、A(T4)は、試料A(正常肝)のタイミングT4におけるマーカ物質の含有量である。B(T3)は、試料B(軽度心停止後肝)のタイミングT3におけるマーカ物質の含有量であり、B(T4)は、試料B(軽度心停止後肝)のタイミングT4におけるマーカ物質の含有量である。C(T3)は、試料C(重度心停止後肝)のタイミングT3におけるマーカ物質の含有量であり、C(T4)は、試料C(重度心停止後肝)のタイミングT4におけるマーカ物質の含有量である。各グラフの縦軸は、マススペクトルのピーク面積比をタンパク量で除した値(マススペクトルのピーク面積比/タンパク量)に相当する。
【0064】
図5(A)に示すように、セドヘプツロース7-リン酸の含有量は、正常肝および軽度心停止後肝では増加し、重度心停止後肝では減少している。図5(E)、図5(F)、図5(G)、図5(H)、図5(I)および図5(J)に示すように、ジメチルグリシン、コリン、2-アミノ酪酸、尿酸、ピルビン酸およびイノシンの含有量においても、セドヘプツロース7-リン酸と同様の傾向が見られた。
【0065】
これに対して、図5(B)に示すように、アデノシン3リン酸の含有量は、正常肝では減少し、軽度心停止後肝では増加し、重度心停止後肝では減少している。また、図5(C)および図5(D)に示すように、グルコース-6-リン酸およびスクシニルCoAの含有量は、正常肝、軽度心停止後肝および重度心停止後肝のいずれも増加している。
【0066】
図6に、図5に示した10個のマーカ物質について、タイミングT3からタイミングT4に向けた含有量の変化の傾向をまとめて示す。図6は、試料A~Cの各々につき合計5個の試料における含有量の変化の傾向をスコアで表わしたテーブルである。同テーブルでは、各マーカ物質において、タイミングT3からタイミングT4に向けて含有量が増加した場合のスコアを「1」とし、含有量が減少した場合のスコアを「0」とした。
【0067】
なお、含有量の増加/減少は、タイミングT3およびT4間の含有量の大小に基づいて判定してもよい。この場合、タイミングT3の含有量に比べてタイミングT4の含有量が大きいときにはスコアを「1」とし、タイミングT3の含有量に比べてタイミングT4の含有量が小さいときにはスコアを「0」とする。
【0068】
あるいは、含有量の増加/減少を、タイミングT3およびT4間の含有率の変化率に基づいて判定してもよい。この場合、タイミングT3の含有量に対するタイミングT4の含有量の比率を算出する。タイミングT3,T4の含有量が等しいとき、比率=1となる。タイミングT4の含有量がタイミングT3の含有量よりも大きければ、比率>1となり、タイミングT3の含有量よりも小さければ、比率<1となる。
【0069】
上記比率に対して、1より大きい第1の閾値と、1より小さい第2の閾値とが予め設定しておき、算出した比率と第1および第2の閾値とを比較する。算出した比率が第1の閾値よりも大きいときには、含有量が増加したと判定してスコアを「1」とする。算出した比率が第2の閾値よりも小さいときには、含有量が減少したと判定してスコアを「0」とする。
【0070】
図6を参照して、例えば、セドヘプツロース7-リン酸の場合、試料A(正常肝)では、5個の試料A1~A5のうち2個の試料A1,A3のスコアが「1」を示し、残りの3個の試料A2,A4,A5のスコアが「0」を示した。これに対して、試料B(軽度心停止後肝)では、5個の試料B1~B5全てのスコアが「1」を示し、試料C(重度心停止後肝)では、5個の試料C1~C5全てのスコアが「0」を示した。
【0071】
グルコース-6-リン酸、ジメチルグリシン、コリン、2-アミノ酪酸および尿酸の場合、試料A(正常肝)および試料B(軽度心停止後肝)では、5個の試料全てのスコアが「1」を示し、試料C(重度心停止後肝)では、5個の試料C1~C5全てのスコアが「0」を示した。
【0072】
各マーカ物質についてスコアが算出されると、試料ごとに、10個のスコアの合計値を算出した。すなわち、合計スコアの最高値は「10」となり、最低値は「0」となる。
【0073】
図6に示すように、試料A(正常肝)および試料B(軽度心停止後肝)の合計スコアは、最高値「10」に近い値に分布している。これに対し、試料C(重度心停止後肝)の合計スコアは、最低値「0」に近い値に分布している。
【0074】
図6のテーブルによると、10個のマーカ物質のうちの9個のマーカ物質において、試料A(正常肝)と、試料B(軽度心停止後肝)とは、タイミングT3からタイミングT4に向けたマーカ物質の含有量の変化の傾向が一致している。その結果、正常肝と軽度心停止後肝とは、合計スコアが近似している。
【0075】
これに対して、10個のマーカ物質のうちの9個のマーカ物質において、試料A(正常肝)と、試料C(重度心停止後肝)とは、タイミングT3からタイミングT4に向けたマーカ物質の含有量の変化の傾向が異なっている。その結果、正常肝と重度心停止後肝とは、合計スコアが近似せず、かけ離れた値となっている。図6のテーブルでは、重度心停止後肝は、正常肝に比べて、合計スコアが著しく低くなっている。
【0076】
図6のテーブルに基づいて、本願発明者らは、合計スコアに対して、正常肝および軽度心停止後肝と、重度心停止後肝とを切り分けるための閾値を設定し、この閾値を、再灌流により機能が回復した肝臓グラフトか、機能が回復していない肝臓グラフトかを判定するための基準値とした。
【0077】
具体的には、正常肝および軽度心停止後肝の合計スコアが「6」から「10」までの範囲を示す一方で、重度心停止後肝の合計スコアが「0」または「1」を示すことから、基準値を「2」に設定した。
【0078】
これによると、合計スコアを用いて、再灌流後の肝臓グラフトが移植可能な状態であるか否かを判定することができる。具体的には、肝臓グラフトの合計スコアが基準値「2」よりも高い場合には、肝臓グラフトが移植可能であると判定される。この場合、肝臓グラフトは、タイミングT3からタイミングT4に向けたマーカ物質の含有量の変化の傾向が、正常肝と一致していると判断することができる。したがって、再灌流によって肝臓グラフトの機能が移植可能なレベルまで回復したと判断することができる。
【0079】
一方、肝臓グラフトの合計スコアが閾値「2」以下である場合には、肝臓グラフトが移植不可能であると判定される。この場合、肝臓グラフトは、タイミングT3からタイミングT4に向けたマーカ物質の含有量の変化の傾向が、正常肝と異なっていると判断することができる。したがって、再灌流によっても肝臓グラフトの機能が移植可能なレベルまで回復していないと判断することができる。
【0080】
なお、第2評価では、10個のマーカ物質のスコアの合計スコアを用いて移植の可否を判定する構成としたことにより、マーカ物質ごとのスコアのばらつきを吸収することができる。言い換えれば、正常肝であっても、複数の試料の間で含有量の増加/減少の傾向にばらつきが生じるため、マーカ物質単位で、正常肝と含有量の変化の傾向が一致しているか否かを判断した場合には、判断を誤る可能性がある。全マーカ物質の合計スコアを用いて、マーカ物質全体で含有量の変化の傾向が一致しているか否かを総合的に判断することによって、このような誤った判断を防ぐことができる。
【0081】
(2)肝機能評価方法について
次に、上述した評価基準を用いた肝臓グラフトの機能評価方法について説明する。
【0082】
図7は、本実施の形態に係る肝臓グラフトの機能評価方法を説明するためのフローチャートである。図7には、肝臓グラフトの摘出から再灌流までの処理手順を説明するフローチャート(図7左図)、質量分析装置における処理手順を説明するフローチャート(図7中央図)、および評価装置における処理手順を説明するフローチャート(図7右図)が示されている。
【0083】
図7を参照して、ステップS10では、ドナーから肝臓グラフトが摘出される。ステップS20では、摘出した肝臓グラフト内の血管を洗浄するフラッシュ処理が実行される。洗浄には、例えば生理食塩水を用いることができる。洗浄後の肝臓グラフトをUW液中に浸漬させる。
【0084】
ステップS30では、肝臓グラフトから組織サンプルが採取される。ステップS30による組織サンプルの採取は、図1におけるタイミングT1に相当する。
【0085】
ステップS40では、肝臓グラフトの冷保存処理を実行する。冷保存を行なう時間は、特に限定されず、ドナーからレシピエントまでの肝臓グラフトの運搬時間などを考慮してユーザが適宜設定することができる。また、保存液は、UW液に限定されず、ユーザが適宜選択することができる。
【0086】
冷保存処理(ステップS40)が終了した時点で、ステップS50では、肝臓グラフトから組織サンプルが採取される。ステップS50による組織サンプルの採取は、図1におけるタイミングT2に相当する。
【0087】
ステップS60では、肝臓グラフトの再加温処理は行なわれる。再加温処理によって、肝臓グラフトの温度を約37℃に戻す。
【0088】
ステップS70では、肝臓グラフトの温度を約37℃を維持した状態で、肝臓グラフトの再灌流処理が行なわれる。再灌流処理は、例えば、図2に示した灌流回路を用いて行なうことができる。ただし、灌流液は、クレブスバッファー液に限定されず、ユーザが適宜選択することができる。
【0089】
再灌流が開始されると、ステップS80により、再灌流初期の所定のタイミング(例えば、再灌流開始15分後)において、肝臓グラフトから組織サンプルが採取される。ステップS80による組織サンプルの採取は、図1におけるタイミングT3に相当する。さらに、ステップS90により、再灌流終期の所定のタイミング(例えば、再灌流開始30分後)において、肝臓グラフトから組織サンプルが採取される。ステップS90による組織サンプルの採取は、図1におけるタイミングT4に相当する。
【0090】
質量分析装置100では、ステップS31により、ステップS30において採取された組織サンプルに対する質量分析が行なわれる。質量分析にて取得されたマススペクトルデータは、評価装置120へ転送される。
【0091】
その後、質量分析装置100では、ステップS51,S81,S91により、ステップS50,S80,S90において採取された組織サンプルについて、それぞれ質量分析が行なわれる。各質量分析処理にて取得されたマススペクトルデータは、評価装置120へ転送される。
【0092】
評価装置120においては、質量分析装置100から転送されたマススペクトルデータに基づいて、肝臓グラフトが移植可能な状態であるか否かについての評価が行なわれる。
【0093】
具体的には、最初に、評価装置120は、ステップS32により、冷保存(S40)前のタイミングT1で採取した組織サンプルのマススペクトルデータを取得し、続いて、ステップS52により、冷保存(S40)後のタイミングT2で採取した組織サンプルのマススペクトルデータを取得する。評価装置120は、ステップS100により、これら2つのマススペクトルデータを用いて、第1評価処理を実行する。
【0094】
図8は、図7のステップS100に示す第1評価処理の手順を説明するためのフローチャートである。図8のフローチャートは、評価装置120のCPU122により実行することができる。
【0095】
図8を参照して、CPU122は、ステップS101により、タイミングT1におけるマススペクトルデータからマーカ物質であるウリジンの含有量M1(T1)を検出する。続いて、CPU122は、ステップS102により、タイミングT2におけるマススペクトルデータからウリジンの含有量M1(T2)を検出する。ステップS101,S102では、CPU122は、マススペクトルのピーク面積比をタンパク量で除算することより、ウリジンの含有量M1を検出する。
【0096】
次に、CPU122は、ステップS103により、ウリジンの含有量M1(T1)と閾値U1とを比較する。閾値U1は、図4(A)において、タイミングT1における正常肝、軽度心停止肝および重度心停止肝のウリジン含有量に基づいて設定したものである。
【0097】
ウリジンの含有量M1(T1)が閾値U1以下である場合(S103にてNO)、CPU122は、ステップS106により、肝臓グラフトが機能不良であると判定する。
【0098】
一方、含有量M1(T1)が閾値U1より大きい場合(S103にてYES)、CPU122は続いて、ステップS104により、ウリジンの含有量M1(T2)と閾値U2とを比較する。閾値U2は、図4(C)において、タイミングT2における正常肝、軽度心停止肝および重度心停止肝のウリジン含有量に基づいて設定したものである。
【0099】
ウリジンの含有量M1(T2)が閾値U2以下である場合(S104にてNO)、CPU122は、ステップS106により、肝臓グラフトが機能不良であると判定する。一方、ウリジンの含有量M1(T2)が閾値U2より大きい場合(S104にてYES)、CPU122は、ステップS105により、肝臓グラフトが機能正常であると判定する。
【0100】
なお、図8に示すフローチャートでは、タイミングT1およびT2におけるウリジンの含有量に基づいて、肝臓グラフトの機能を判定したが、図9に示すように、タイミングT1におけるウリジンおよびアデニロコハク酸の含有量に基づいて肝臓グラフトの機能を判定することもできる。あるいは、図10に示すように、タイミングT2におけるウリジンの含有量に基づいて肝臓グラフトの機能を判定することもできる。
【0101】
図9は、図7のステップS100に示す第1評価処理の第1の変更例を説明するためのフローチャートである。
【0102】
図9を参照して、CPU122は、ステップS101により、タイミングT1におけるマススペクトルデータからマーカ物質であるウリジンの含有量M1(T1)を検出する。続いて、CPU122は、ステップS107により、タイミングT1におけるマススペクトルデータからアデニロコハク酸の含有量M2(T1)を検出する。
【0103】
次に、CPU122は、ステップS103により、ウリジンの含有量M1(T1)と閾値U1とを比較する。ウリジンの含有量M1(T1)が閾値U1以下である場合(S103にてNO)、CPU122は、ステップS106により、肝臓グラフトが機能不良であると判定する。
【0104】
一方、含有量M1(T1)が閾値U1より大きい場合(S103にてYES)、CPU122は続いて、ステップS108により、アデニロコハク酸の含有量M2(T1)と閾値A1とを比較する。閾値A1は、図4(B)において、タイミングT1における正常肝、経度心停止肝および重度心停止肝のアデニロコハク酸の含有量に基づいて設定したものである。
【0105】
アデニロコハク酸の含有量M2(T1)が閾値A1以下である場合(S108にてNO)、CPU122は、ステップS106により、肝臓グラフトが機能不良であると判定する。一方、アデニロコハク酸の含有量M2(T1)が閾値A1より大きい場合(S108にてYES)、CPU122は、ステップS105により、肝臓グラフトが機能正常であると判定する。
【0106】
図10は、図7のステップS100に示す第1評価処理の第2の変更例を説明するためのフローチャートである。
【0107】
図10を参照して、CPU122は、ステップS102により、タイミングT2におけるマススペクトルデータからマーカ物質であるウリジンの含有量M1(T2)を検出する。
【0108】
次に、CPU122は、ステップS104により、ウリジンの含有量M1(T2)と閾値U2とを比較する。ウリジンの含有量M1(T2)が閾値U2以下である場合(S104にてNO)、CPU122は、ステップS106により、肝臓グラフトが機能不良であると判定する。一方、含有量M1(T2)が閾値U2より大きい場合(S104にてYES)、CPU122は、ステップS105により、肝臓グラフトが機能正常であると判定する。
【0109】
図7に戻って、評価装置120は、ステップS82により、再灌流初期のタイミングT3で採取した組織サンプルのマススペクトルデータを取得し、続いて、ステップS92により、再灌流後期のタイミングT4で採取した組織サンプルのマススペクトルデータを取得する。評価装置120は、ステップS200により、これら2つのマススペクトルデータを用いて、第2評価処理を実行する。
【0110】
図11は、図7のステップS200に示す第2評価処理の手順を説明するためのフローチャートである。図11のフローチャートは、評価装置120のCPU122により実行することができる。
【0111】
図11を参照して、ステップS201により、CPU122は、10個のマーカ物質の中から対象マーカ物質Mi(iは1以上10以下の整数)を選択する。次に、CPU122は、ステップS202により、タイミングT3におけるマススペクトルデータから対象マーカ物質Miである代謝物の含有量Xi(T3)を検出する。CPU122はさらに、ステップS203により、タイミングT4におけるマススペクトルデータから対象マーカ物質Miの含有量Xi(T4)を検出する。ステップS202,S203では、CPU122は、マススペクトルのピーク面積比をタンパク量で除算することより、対象マーカ物質の含有量Xiを検出する。
【0112】
次に、CPU122は、ステップS204により、タイミングT3からタイミングT4に向かう含有量Xiの変化の傾向を算出する。ステップS204では、例えば、CPU122は、Xi(T3)およびXi(T)の大小に基づいて、含有量Xiの変化の傾向(増加/減少)を判定する。この場合、CPU122は、Xi(T3)<Xi(T4)であれば、含有量Xiが増加したと判定し、Xi(T3)>Xi(T4)であれば含有量Xiが減少したと判定する。
【0113】
あるいは、CPU122は、Xi(T3)およびXi(T4)の変化率(=Xi(T4)/Xi(T3))に基づいて、含有量Xiの増加/減少を判定することができる。CPU122は、含有量Xi(T3)に対する含有量Xi(T4)の比率を算出する。Xi(T3)=Xi(T4)のとき、比率=1となる。一方、Xi(T4)>Xi(T3)のときには、比率>1となり、Xi(T4)<Xi(T3)のときには、比率<1となる。
【0114】
CPU122は、算出した変化率と第1の閾値(第1の閾値>1)とを比較し、変化率が第1の閾値より大きいときには、含有量Xiが増加したと判定する。また、CPU122は、変化率と第2の閾値(第2の閾値<1)とを比較し、変化率が第2の閾値より小さいときには、含有量Xiが減少したと判定する。
【0115】
次に、CPU122は、ステップS205に進み、ステップS204で求めた含有量Xiの変化の傾向が、正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向と一致しているか否かを判定する。正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向は、図5に示した、正常肝(試料A)のタイミングT3,T4におけるマーカ物質の含有量に基づいている。CPU122は、ステップS204で説明した方法と同様の方法を用いて、正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向を算出することができる。
【0116】
ステップS205において、肝臓グラフトにおけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向が、正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向と一致している場合(S205にてYES)、CPU122は、ステップS206により、マーカ物質Miに対するスコアを「1」とする。一方、肝臓グラフトにおけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向が、正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向と一致していない場合(S205にてNO)、CPU122は、ステップS207により、マーカ物質Miに対するスコアを「0」とする。
【0117】
なお、肝臓グラフトにおけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向が正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向と一致度が大きい場合のスコアが、一致度が小さい場合のスコアと異なる場合であれば、スコアの値は「1」,「0」に限定されない。変化の絶対値を求め、一致度が大きい場合にはスコアを「1」とし、一致度が小さい場合にはスコアを「0」とし、その間の場合にはスコアを「0.5」としてもよい。
【0118】
次に、CPU122は、ステップS208により、10個のマーカ物質の全てを対象マーカ物質に選択したか否かを判定する。全てのマーカ物質を選択していない場合(S208にてNO)、CPU122は、処理をステップS201に戻し、次のマーカ物質M(i+1)を対象マーカ物質に選択し、ステップS202~S207の処理を再び実行する。
【0119】
一方、10個のマーカ物質の全てを対象マーカ物質に選択した場合(S208にてYES)、CPU122は、ステップS209に進み、全てのマーカ物質のスコアを足し合わせることにより、合計スコアを算出する。
【0120】
CPU122は、ステップS210により、ステップS209で算出した合計スコアと基準値(=2)とを比較する。この基準値は、図6に示した正常肝、軽度心停止後肝および重度心停止後肝の合計スコアに基づいて設定したものである。
【0121】
合計スコアが基準値よりも高い場合(S210にてYES)、CPU122は、ステップS211により、肝臓グラフトが移植可能な状態であると判定する。一方、合計スコアが基準値以下である場合(S210にてNO)、CPU122は、ステップS212により、肝臓グラフトが移植不可能な状態であると判定する。
【0122】
つまり、各マーカ物質についてのスコアまたは合計スコアは、肝臓グラフトの機能評価に関する指標として機能する。
【0123】
図7に戻って、CPU122は、ステップS300により、第1評価処理(S100)および第2評価処理(S200)における評価結果を表示部126に表示する。移植外科医などのユーザは、表示部126に表示された評価結果に基づいて、肝臓グラフトをレシピエントに移植するか否かを判断することができる。
【0124】
以上説明したように、本実施の形態に係る移植用臓器の機能評価方法は、移植用臓器を質量分析することによって予め指定されたマーカ物質についての定量的データを取得し、その取得した定量的データを、予め設定された評価基準に従って評価することにより、移植用の臓器が移植可能な状態であるか否かを判定するものである。これによると、従来、移植外科医の経験および病理組織学的知見に基づいて行なわれていた移植用臓器の移植可否の判定を、客観的に行なうことが可能となる。また、臓器移植が行なわれる前に移植の可否を判定することができるため、移植に利用できる臓器を増やすことができる。
【0125】
さらに、本実施の形態に係る移植用臓器の機能評価方法によれば、脳死肝だけでなく、再灌流によって機能が回復した心停止後肝も移植に利用できる可能性が高められるため、ドナー臓器数の不足の解消に寄与することができる。
【0126】
[他の実施形態]
上記実施形態では、肝臓グラフトにおけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向と正常肝におけるマーカ物質Miの含有量の変化の傾向との一致度をスコア化し、各マーカ物質のスコアの合計を求めることにより、移植用臓器の機能評価を行なった。他の実施形態では、スコア化を行なわず、回帰分析により移植用臓器の機能評価を行なってもよい。例えば、マーカ物質Miの含有量の変化量を説明変数とし、移植用臓器の機能の正常度を目的変数として、回帰式を作成してもよい。
【0127】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0128】
(第1項)一態様に係る移植用臓器の機能評価方法は、生体内から摘出された移植用臓器の機能評価方法であって、灌流による複数のマーカ物質の含有量の時間変化を示すデータを準備するステップと、移植用臓器の再灌流における第1のタイミングにおいて、移植用臓器から第1の組織サンプルを採取するステップと、再灌流における第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、移植用臓器から第2の組織サンプルを採取するステップと、第1の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第2の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、複数のマーカ物質の各々について、第1のタイミングに対する第2のタイミングでの含有量の変化を求めるステップと、求めた含有量の変化とデータとを用いて、移植用臓器の機能評価に関する指標を求めるステップとを備える。
【0129】
第1項に記載の機能評価方法によれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を指標化することにより、この指標に基づいて移植用臓器の移植可否を判定することができる。これによると、移植を行なう前に、移植用臓器が移植可能な状態であるか否かを客観的に判断することが可能となる。また、再灌流によって機能が回復した心停止後臓器も移植に利用できる可能性が高められるため、ドナー臓器数の不足の解消に寄与することができる。
【0130】
(第2項)第1項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、変化を求めるステップは、含有量の変化の傾向を求めるステップを含む。指標を求めるステップは、含有量の変化の傾向をスコア化するステップを含む。スコア化するステップは、移植用臓器における含有量の変化の傾向が、機能が正常な臓器における含有量の変化の傾向と一致する場合のスコアを、一致しない場合のスコアよりも大きくするステップを含む。
【0131】
第2項に記載の機能評価方法によれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化の傾向を、機能が正常な臓器における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化の傾向に基づいてスコア化することにより、このスコアに基づいて移植可否を客観的に判定することができる。
【0132】
(第3項)第1項または第2項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、第1の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップ、および第2の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップの各々は、質量分析を用いて複数のマーカ物質の含有量を測定するステップを含む。
【0133】
第3項に記載の機能評価方法によれば、第1および第2の組織サンプルの質量分析を行なうことにより、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を指標化することができる。
【0134】
(第4項)第1項から第3項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、変化を求めるステップは、第1のタイミングにおける含有量に対する第2のタイミングにおける含有量の変化率が、1より大きい第1の閾値よりも大きい場合に、含有量の増加と判定し、変化率が、1より小さい第2の閾値よりも小さい場合に、含有量の減少と判定するステップをさらに含む。
【0135】
第4項に記載の機能評価方法によれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を、組織サンプルのばらつきによらず、適切にスコア化することができる。これにより、高い精度で移植の可否を判定することができる。
【0136】
(第5項)第1項から第4項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、移植用臓器は、肝臓である。複数のマーカ物質は、セドヘプツロース7-リン酸(Sedoheptulose 7-phosphate)、アデノシン3リン酸(Adenosine triphosphate)、グルコース-6-リン酸(Glucose-6-phosphate)、スクシニルCoA(Succinyl coenzyme A)、ジメチルグリシン(Dimethylglycine)、コリン(Choline)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、尿酸(Uric acid)、ピルビン酸(Pyruvic acid)および、イノシン(Inosine)の少なくとも2つを含む。
【0137】
第5項に記載の機能評価方法によれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を指標化することにより、この指標に基づいて肝臓グラフトの移植可否を判定することができる。これによると、移植を行なう前に、肝臓グラフトが移植可能な状態であるか否かを客観的に判断することが可能となる。また、再灌流によって機能が回復した心停止後肝も移植に利用できる可能性が高められるため、ドナー臓器数の不足の解消に寄与することができる。
【0138】
(第6項)第1項から第5項に記載の移植用臓器の機能評価方法は、ドナーからの摘出後、再灌流までの間に、移植用臓器を冷保存するステップと、冷保存の開始前の第3のタイミングにおいて、移植用臓器から第3の組織サンプルを採取するステップと、冷保存の終了後かつ再灌流の開始前の第4のタイミングにおいて、移植用臓器から第4の組織サンプルを採取するステップと、第3の組織サンプルにおける第1のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第4の組織サンプルにおける第1のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第3のタイミングおよび第4のタイミングにおける第1のマーカ物質の含有量に基づいて、移植用臓器の機能が正常であるか否かを判定するステップとをさらに備える。
【0139】
第6項に記載の機能評価方法によれば、再灌流前の移植用臓器について、機能の良否を判定することができる。
【0140】
(第7項)第1項から第5項に記載の移植用臓器の機能評価方法は、ドナーからの摘出後、再灌流までの間に、移植用臓器を冷保存するステップと、冷保存の終了後かつ再灌流の開始前の第4のタイミングにおいて、移植用臓器から第4の組織サンプルを採取するステップと、第4の組織サンプルにおける第1のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第4のタイミングにおける第1のマーカ物質の含有量に基づいて、移植用臓器の機能が正常であるか否かを判定するステップとをさらに備える。
【0141】
第7項に記載の機能評価方法によれば、再灌流前の移植用臓器について、機能の良否を判定することができる。
【0142】
(第8項)第1項から第5項に記載の移植用臓器の機能評価方法は、ドナーからの摘出後、再灌流までの間に、移植用臓器を冷保存するステップと、冷保存の開始前の第3のタイミングにおいて、移植用臓器から第3の組織サンプルを採取するステップと、第3の組織サンプルにおける第1および第2のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第3のタイミングにおける第1および第2のマーカ物質の含有量に基づいて、移植用臓器の機能が正常であるか否かを判定するステップとをさらに備える。
【0143】
第8項に記載の機能評価方法によれば、再灌流前の移植用臓器について、機能の良否を判定することができる。
【0144】
(第9項)第6項または第7項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、移植用臓器は、肝臓であり、第1のマーカ物質は、ウリジン(Uridine)である。
【0145】
第9項に記載の機能評価方法によれば、再灌流前の肝臓グラフトについて、機能の良否を判定することができる。
【0146】
(第10項)第8項に記載の移植用臓器の機能評価方法において、移植用臓器は、肝臓である。第1のマーカ物質は、ウリジン(Uridine)であり、第2のマーカ物質は、アデニロコハク酸(Adenylosuccinic Acid)である。
【0147】
第10項に記載の機能評価方法によれば、再灌流前の肝臓グラフトについて、機能の良否を判定することができる。
【0148】
(第11項)第11項に記載の移植用臓器の機能を評価するためのプログラムは、演算部を有するコンピュータを用いて、生体内から摘出された移植用臓器の機能を評価する。プログラムは、灌流による複数のマーカ物質の含有量の時間変化を示すデータを準備するステップと、移植用臓器の再灌流における第1のタイミングにおいて、移植用臓器から第1の組織サンプルを採取するステップと、再灌流における第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、移植用臓器から第2の組織サンプルを採取するステップと、第1の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、第2の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定するステップと、複数のマーカ物質の各々について、第1のタイミングに対する第2のタイミングでの含有量の変化を求めるステップと、求めた含有量の変化とデータとを用いて、移植用臓器の機能評価に関する指標を求めるステップとを演算部に実行させる。
【0149】
第11項に記載のプログラムによれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を指標化することにより、この指標に基づいて移植用臓器の移植可否を判定することができる。これによると、移植を行なう前に、移植用臓器が移植可能な状態であるか否かを客観的に判断することが可能となる。また、再灌流によって機能が回復した心停止後臓器も移植に利用できる可能性が高められるため、ドナー臓器数の不足の解消に寄与することができる。
【0150】
(第12項)第12項に記載の移植用臓器の機能評価装置は、演算部を含む。機能評価装置は、灌流による複数のマーカ物質の含有量の時間変化を示すデータを準備する。演算部は、移植用臓器の再灌流における第1のタイミングにおいて移植用臓器から採取された第1の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定する。演算部は、再灌流における第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて移植用臓器から採取された第2の組織サンプルにおける複数のマーカ物質の含有量を測定する。演算部は、複数のマーカ物質の各々について、第1のタイミングに対する第2のタイミングでの含有量の変化を求め、かつ、求めた含有量の変化とデータとを用いて、移植用臓器の機能評価に関する指標を求める。
【0151】
第12項に記載の機能評価装置によれば、再灌流中における複数のマーカ物質の各々の含有量の変化を指標化することにより、この指標に基づいて移植用臓器の移植可否を判定することができる。これによると、移植を行なう前に、移植用臓器が移植可能な状態であるか否かを客観的に判断することが可能となる。また、再灌流によって機能が回復した心停止後臓器も移植に利用できる可能性が高められるため、ドナー臓器数の不足の解消に寄与することができる。
【0152】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0153】
1 肝臓、10 保存容器、12 灌流液流入用カニューレ、14 灌流液流出用カニューレ、20 灌流液流入用経路、22 ポンプ、30 灌流液流出用経路、40 胆汁流出用カニューレ、50,60 灌流液リザーバ、70 ガス交換機構、80 容器、100 質量分析装置、102 LC/MS部、104 データ処理部、106 制御部、120 評価装置、122 CPU、124 記憶部、126 表示部、128 入力部。
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