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  • 特開-条件的活性型生物学的タンパク質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182651
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】条件的活性型生物学的タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231219BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20231219BHJP
   C40B 40/08 20060101ALI20231219BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20231219BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
C40B40/08
C12P21/00 C
C07K16/46
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023163210
(22)【出願日】2023-09-26
(62)【分割の表示】P 2021184506の分割
【原出願日】2016-02-24
(31)【優先権主張番号】62/120,312
(32)【優先日】2015-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/249,907
(32)【優先日】2015-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520478172
【氏名又は名称】バイオアトラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショート ジェイ エム
(72)【発明者】
【氏名】チャング フウェイ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】フレイ ガーハード
(57)【要約】      (修正有)
【課題】正常生理条件と比べて異常条件で活性がより高い条件的活性型生物学的タンパク質、詳細には治療用又は診断用タンパク質の生成方法を提供する。
【解決手段】条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、条件的活性型生物学的タンパク質が、異常条件下でのアッセイにおける条件的活性型生物学的タンパク質の活性と比較して正常生理条件でのアッセイにおいて低い活性を呈するタンパク質であり、野生型タンパク質のライブラリから条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程であって、条件的活性型生物学的タンパク質が、異常条件下でのアッセイにおける条件的活性型生物学的タンパク質の活性と比較して正常生理条件下でのアッセイにおいて低い活性を呈する工程を含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、前記条件的活性型生物学的タンパク質が、異常条件下でのアッセイにおける前記条件的活性型生物学的タンパク質の活性と比較して正常生理条件でのアッセイにおいて低い活性を呈するタンパク質であり、
野生型タンパク質のライブラリから前記条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程であって、前記条件的活性型生物学的タンパク質が、前記異常条件下での前記アッセイにおける前記条件的活性型生物学的タンパク質の活性と比較して前記正常生理条件下での前記アッセイにおいて低い活性を呈する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記選択する工程が、(a)前記正常生理条件下での前記アッセイにおける参照タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する前記条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程を含み、前記参照タンパク質が、前記正常生理条件下及び前記異常条件下の両方の前記アッセイで実質的に同じ活性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記野生型タンパク質が野生型抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記野生型タンパク質ライブラリが、cDNAによってコードされるタンパク質のコレクションである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記野生型タンパク質ライブラリがバクテリオファージディスプレイライブラリである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記野生型タンパク質ライブラリが組換えタンパク質のコレクションである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質が、
i.前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質をコードするDNAを1つ以上の発達技術を用いて発達させる工程であって、それにより変異DNAを作成する工程と、
ii.前記変異DNAを発現させる工程であって、それにより変異タンパク質を得る工程と、
iii.前記変異タンパク質から、(a)前記正常生理条件下での前記アッセイにおける前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する改良された条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程と、
に供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が、工程(i)で用いられる前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較したとき、前記異常条件下での前記アッセイにおける活性の前記正常生理条件下での活性に対する比の増加を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が、工程(i)で用いられる前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較したとき、改良された結合親和性、発現及びヒト化のうちの1つ以上を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、前記条件的活性型生物学的タンパク質が、(a)正常生理条件でのアッセイにおける野生型生物学的タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈するタンパク質であり、
i.前記野生型生物学的タンパク質を選択する工程と、
ii.前記野生型生物学的タンパク質をコードするDNAを1つ以上の発達技術を用いて発達させる工程であって、それにより変異DNAを作成する工程と、
iii.前記変異DNAを発現させる工程であって、それにより、(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の増加の両方を、そのうちの少なくとも1つが呈する変異タンパク質を得る工程と、
iv.前記変異タンパク質から、(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する前記条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程と、
を含み、
前記正常生理条件下での前記アッセイ及び前記異常条件下での前記アッセイが、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分を含有するアッセイ溶液で実施される、方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの構成成分が、前記正常生理条件下での前記アッセイ及び前記異常条件下での前記アッセイの両方の前記アッセイ溶液中に実質的に同じ濃度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの構成成分が正常生理的濃度で哺乳動物の体液中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの構成成分が、前記正常生理的濃度の約5%~約500%、又は前記正常生理的濃度の約10%~約400%、又は前記正常生理的濃度の約30%~約300%、又は前記正常生理的濃度の約50%~約200%、又は前記正常生理的濃度の約75%~約150%の範囲の濃度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記無機化合物が、ホウ酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二アンモニウム、硫酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、カルシウムキレート、銅キレート、鉄キレート、鉄キレート、マンガンキレート、亜鉛キレート、モリブデン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩酸、二酸化炭素、硫酸、リン酸、炭酸、尿酸、塩化水素、尿素、リンイオン、硫酸イオン及び塩化物イオンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記イオンが、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、及び銅イオンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記構成成分が、2~7.0mg/dLの濃度範囲の尿酸、8.2~11.6mg/dLの濃度範囲のカルシウムイオン、355~381mg/dLの濃度範囲の塩化物イオン、0.028~0.210mg/dLの濃度範囲の鉄イオン、12.1~25.4mg/dLの濃度範囲のカリウムイオン、300~330mg/dLの濃度範囲のナトリウムイオン及び15~30mMの濃度範囲の炭酸のうちの1つ以上から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機分子が、ヒスチジン、アラニン、イソロイシン、アルギニン、ロイシン、アスパラギン、リジン、アスパラギン酸、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン、グルタミン、トリプトファン、グリシン、バリン、ピロリシン、プロリン、セレノシステイン、セリン、及びチロシンから選択されるアミノ酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記有機分子が、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、乳酸、ピルビン酸、α-ケトン酸、酢酸及び揮発性脂肪酸から選択される有機酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記有機分子が、グルコース、ペントース、ヘキソース、キシロース、リボース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、GlcNAcβ1-3Gal、Galα1-4Gal、Manα1-2Man、GalNAcβ1-3Gal並びにO-、N-、C-、及びS-グリコシドから選択される糖である、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記イオンが、マグネシウムイオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、及びアンモニウムイオンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記イオンが、前記正常生理的濃度の約5%~約500%、又は前記正常生理的濃度の約10%~約400%、又は前記正常生理的濃度の約30%~約300%、又は前記正常生理的濃度の約50%~約200%、又は前記正常生理的濃度の約75%~約150%の範囲の濃度を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記異常条件が、正常生理的pHと異なるpHである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記イオンが、前記異常条件のpHから約1pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.8pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.6pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.5pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.4pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.3pH単位、又は前記異常条件のpHから約0.2pH単位の範囲内のpKaを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、前記条件的活性型生物学的タンパク質が、(a)正常生理条件でのアッセイにおける野生型生物学的タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下での前記アッセイにおける前記野生型生物学的タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈するタンパク質であり、
i.所望の特性を有する野生型タンパク質のフラグメント、変異タンパク質又は変異タンパク質のフラグメントを選択する工程と、
ii.工程(i)で選択された前記タンパク質又はタンパク質フラグメントをコードするDNAを1つ以上の発達技術を用いて発達させる工程であって、それにより変異DNAを作成する工程と、
iii.前記変異DNAを発現させる工程であって、それにより、(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した活性の増加の両方を、そのうちの少なくとも1つが呈する変異タンパク質を得る工程と、
iv.(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する変異タンパク質を選択する工程と、
を含む方法。
【請求項25】
工程(i)で選択される前記タンパク質が野生型タンパク質のフラグメントである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
工程(i)で選択される前記タンパク質が突然変異誘発技法を用いて生成される、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
工程(i)で選択される前記タンパク質が抗体又は抗体フラグメントである、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記所望の特性が、結合親和性、発現レベル及びヒト化から選択される、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質を発達させる工程であって、それにより少なくとも1つの改良された特性を有する改良された条件的活性型生物学的タンパク質を作製する工程をさらに含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの改良された特性が、工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質と比較したときの、前記異常条件下での前記アッセイにおける活性の前記正常生理条件下での活性に対する比の増加である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型タンパク質を、サイトカイン、インターロイキン、酵素、ホルモン、成長因子、細胞傷害剤、化学療法薬、放射性粒子及び診断用薬剤から選択される薬剤とコンジュゲートする工程をさらに含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記改良された条件的活性型タンパク質を、サイトカイン、インターロイキン、酵素、ホルモン、成長因子、細胞傷害剤、化学療法薬、放射性粒子及び診断用薬剤から選択される薬剤とコンジュゲートする工程をさらに含む、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項33】
前記タンパク質が抗体であり、工程(iv)で選択された前記条件的活性型抗体を二重特異性抗体になるように操作する工程をさらに含む、請求項24~28及び31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記タンパク質が抗体であり、前記改良された条件的活性型抗体を二重特異性抗体になるように操作する工程をさらに含む、請求項29~30及び32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記操作する工程が、前記二重特異性抗体を免疫エフェクター細胞表面抗原及び異なる標的抗原の両方に結合するように操作する、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記免疫エフェクター細胞が、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、リンホカイン活性化キラー細胞及びT細胞から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記免疫エフェクター細胞がT細胞であり、且つ前記免疫エフェクター細胞表面抗原がCD3である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記標的抗原が罹患細胞又は罹患組織に特異的な抗原である、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記罹患組織が腫瘍組織である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質を、マスキング部分及び切断可能部分の少なくとも一方が含まれるように操作する工程をさらに含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記マスキング部分及び前記切断可能部分の一方又は両方が、罹患細胞又は罹患組織に近接すると前記条件的活性型生物学的タンパク質から切断されるように適合される、請求項40に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンパク質の発達及び活性の分野に関する。具体的には、本開示は、野生型タンパク質、詳細には治療用タンパク質から、野生型の正常生理条件で可逆的又は不可逆的に不活性化される条件的活性型生物学的タンパク質を生成する方法に関する。例えば、発達させたタンパク質は、体温では事実上不活性であるが、それより低い温度では活性である。
【背景技術】
【0002】
様々な特徴においてタンパク質を発達させるための可能性、例えば、特に酵素を異なる条件下での操作のために安定させることについて記載している相当数の文献がある。例えば、酵素は、活性を変化させることで、より高い温度で安定するために発達した。高温での活性改良に関連して、改良の実質的な部分は、摂氏10度上昇するごとに代謝回転が倍増する酵素の場合に推定されるQ10則により共通して記載される高い動的活性に起因していることがある。加えて、分子の野生型温度活性など、その正常な動作条件でタンパク質を不安定化させる天然の突然変異の例がある。温度変異体について、これらの変異体は低温で活性であり得るが、典型的には野生型分子と比較して活性レベルが低い。(典型的に、Ql0又は同様の法則によって導かれる活性の低下によっても説明し得る)。
【0003】
例えば、野生型条件において事実上不活性であり得るが、野生型分子以外の条件において野生型条件と等しいか若しくはそれより優れたレベルで活性であり、又は特定の微小環境で活性化若しくは不活性化されるか、又は時間と共に活性化若しくは不活性化される、条件的活性型である有用な分子の生成が望ましい。温度に加え、それに関してタンパク質を発達させるか又は最適化し得る他の条件としては、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度が挙げられる。発達させる際に最適化し得る他の望ましい特性としては、化学的抵抗性及びタンパク質分解抵抗性が挙げられる。
【0004】
分子を発達又は操作するための多くの戦略が既に公開されている。しかしながら、その野生型操作条件において、不活性又は実質的に不活性(10%活性以下、及び特に1%活性以下)となるようにタンパク質を操作又は発達させることは、新しい条件において、野生型条件と等しいか又はそれよりも良好な活性を維持する一方で、不安定化変異及び不安定化効果に対抗しない変異を増加させる活性と共存する必要がある。不安定化が、Q10のような標準的規則によって予測された効果よりもタンパク質の活性を大きく減らすことができると推測され、従って低温で効果的に作用するタンパク質を発達させる能力は、例えば、それらの通常操作条件下では不活性であるのに対し、本発明者らが条件的活性型生物学的タンパク質と称する予期せぬ新規のタンパク質を創造する。
【0005】
本出願の全体において、様々な刊行物が著者及び日付により参照されている。その全体におけるこれらの刊行物の開示は、本明細書に記載及び特許請求される本開示の日付以降、当業者に知られている従来技術をより詳細に記載するために、本出願内に参照により組み込まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法を提供するものであり、方法は、野生型生物学的タンパク質を選択する工程と、野生型生物学的タンパク質をコードするDNAを1つ以上の発達的技術を用いて発達させて、変異DNAを作成する工程と、変異DNAを発現させて、変異タンパク質を得る工程と、変異タンパク質及び野生型タンパク質を正常生理条件下での分析及び異常条件下での分析に供する工程と、(a)正常生理条件での分析における野生型タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下での分析における野生型タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する変異タンパク質からの条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程とを含む。様々な態様において、正常生理条件は、温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度の1つ以上から選択される。特定の態様において、正常生理条件は温度であり、そこでは、条件的活性型生物学的タンパク質は実質的に正常生理温度では不活性であるが、正常生理温度よりも低い異常温度では活性である。他の態様において、条件的活性型生物学的タンパク質は、野生型正常生理条件において可逆的又は不可逆的に不活性である。1つの特定の態様において、タンパク質は、野生型正常生理条件で可逆的に不活性である。一方で、条件的活性型生物学的タンパク質は、活性における可逆的又は不可逆的な2つ以上の異なる生理条件の変化を示すこれらのタンパク質から選択される。
【0007】
一実施形態において、野生型生物学的タンパク質は、酵素である。特定の態様において、野生型生物学的タンパク質は、組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、レニン及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される。
【0008】
他の実施形態において、野生型タンパク質は、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP(SP)、ニューロペプチドY(NPY)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、バソプレッシン、及びアンギオスタチンから選択される。
【0009】
他の実施形態において、生物学的タンパク質は抗体である。
【0010】
別の実施形態において、本開示は、条件的活性型生物学的反応修飾物質を調製する方法を提供するものであり、本方法は、炎症反応メディエーターを選択する工程と;そのメディエーターに対する野生型抗体を同定する工程と;野生型抗体を発達させるステップと;第1の条件で野生型抗体と比べてメディエーターに対する結合の低下を呈し、且つ第2の条件でメディエーターに対する結合親和性の増加を呈する変異体に関して差次的にスクリーニングして上昇変異体を同定する工程と;上昇変異体の重鎖及び軽鎖を組み換えて組換え上昇変異体を作成する工程と;第1の条件で野生型抗体と比べてメディエーターに対する結合の低下を呈し、且つ第2の条件でメディエーターに対する結合親和性の増加を示す変異体に関して組換え上昇変異体をスクリーニングして条件的活性型生物学的反応修飾物質を同定する工程とを含む。一態様において、炎症反応メディエーターは、IL-6、IL-6受容体、TNF-α、IL-23及びIL-12から選択される。別の態様において、第1及び第2の条件は、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度の条件から選択される。
【0011】
別の実施形態において、本開示は、条件的活性型生物学的タンパク質と薬学的に受容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例9で選択された条件的活性型抗体、及びpH7.4と比べたpH6.0におけるそれらの選択性を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本明細書に提供される実施例の理解を容易にするために、特定のしばしば登場する方法及び/又は用語は以下に定義される。
【0014】
測定量と関連して本明細書で使用される用語「約」は、測定を行い、測定の目的に相応の注意レベルと使用される測定機器の精度を行使する当業者によって期待される測定量における通常の変動に関連するものである。特に明記しない限り、「約」は、与えられた値の+/-10%の変動に関連する。
【0015】
用語「活性」は、本明細書で使用されるとき、反応の触媒及びパートナーとの結合を含め、タンパク質が果たし得る任意の機能を指す。酵素については、活性とは、酵素の酵素活性であり得る。抗体については、活性とは、抗体とその抗原との間の結合活性(即ち、結合親和性)であり得る。受容体又はリガンドについては、活性とは、受容体とそのリガンドとの間の結合親和性であり得る。
【0016】
用語「薬剤」は、化学化合物、化学化合物の混合物、空間的に局所化された化合物の配列(例えば、VLSIPSペプチド配列、ポリヌクレオチド配列、及び/又はコンビナトリアル小分子配列)、生体高分子、バクテリオファージペプチドディスプレイライブラリ、バクテリオファージ抗体(例えばscFV)ディスプレイライブラリ、ポリソームペプチドディスプレイライブラリ、又はバクテリア、植物、菌類又は動物(特に哺乳類)の細胞又は組織のような生体材料から作られる抽出物を示すのに用いられる。薬剤は、本明細書の以下に記載されているスクリーニング分析に含まれることにより条件的活性型生物学的治療酵素として潜在的酵素活性のために評価される。薬剤は、以下の本明細書の以下に記載されているスクリーニング分析に含まれることにより条件的活性型生物学的治療酵素として潜在的活性のために評価される。
【0017】
制限部位における「曖昧な塩基要件」は、最大限には特定されないヌクレオチド塩基要件に関連するものである。例えば、特定の塩基(例えば、この例に限定はされないが、A、C、G、及びTから選択される特定の塩基)ではないが、少なくとも2つ以上の塩基の任意の1つであってもよい。塩基の曖昧性を表すために本明細書と同様に従来技術において用いられる共通に認められた省略形には以下を含む:R=G又はA;Y=C又はT;M=A又はC;K=G又はT;S=G又はC;W=A又はT;H=A又はC又はT;B=G又はT又はC;V=G又はC又はA;D=G又はA又はT;N=A又はC又はG又はT。
【0018】
本明細書で使用される用語「アミノ酸」は、アミノ基(-NH2)及びカルボキシル基(-COOH)を含む任意の有機化合物である、好適には、自由群又はペプチドの部分として縮合後のいずれでも結合する。「アルファ-アミノ酸を形成する20種の自然にエンコードされたポリペプチド」は従来技術において知られており、アラニン(ala又はA)、アルギニン(arg又はR)、アスパラギン(asn又はN)、アスパラギン酸(asp又はD)、システイン(cys又はC)、グルタミン酸(glu又はG)、ヒスチジン(his又はH)、イソロイシン(ile又はI)、ロイシン(leu又はL)、リシン(lys又はK)、メチオニン(met又はM)、フェニルアラニン(phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(ser又はS)、スレオニン(thr又はT)、トリプトファン(tip又はW)、チロシン(tyr又はY)及びバリン(val又はV)に関連するものである。
【0019】
用語「増幅」は、ポリヌクレオチドのコピー数が増大することを意味する。
【0020】
「キメラ特性」を有する分子は1)第1の参照分子と部分的に相同及び部分的に非相同であり、さらに2)第2の参照分子と部分的に相同であると同時に部分的に非相同であり、3)1つ以上の付加的参照分子と部分的に相同であると同時に非相同となる可能性を排除することを含まない。非限定的な実施形態において、キメラ分子は、部分的な分子配列の再集合を組み立てることによって調製されることもある。非限定的な態様において、キメラポリヌクレオチド分子は、複数の分子テンプレートを使用するキメラポリヌクレオチドを合成することによって調製されることもある。それにより結果として、キメラポリヌクレオチドは複数のテンプレートの性質を有する。
【0021】
本明細書で使用される用語「相同」とは、種間に関して発達的及び機能的である遺伝子配列を意味する。例えば、限定はされないが、ヒトの遺伝子において、ヒトCD4遺伝子はマウス3d4遺伝子と相同遺伝子であり、これら2つの遺伝子の配列及び構造は、高い相同性を示し、及び両遺伝子はMHCクラスIIを制限された抗原認識によるT細胞活性化の信号を送る際に機能するタンパク質をエンコードする。
【0022】
本明細書で用いられるとき、「比較ウィンドウ」は、少なくとも20の隣接するヌクレオチドの部位の部分概念を意味するものであり、そこでは、ポリヌクレオチド配列は、少なくとも20の隣接するヌクレオチドの参照配列と比較され、及び比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適な配置のための参照配列(付加又は削除を有さない)と比較して20%パーセント以下の付加又は削除(すなわちギャップ)を有することもある。比較ウィンドウを配置するための配列の最適な配置は、スミスの局所的相同性アルゴリズム(Smith and Waterman,1981/“Comparison of biosequences”,Adv Appl Math,2:482-489;Smith and Waterman,1981,“Overlapping genes and information theory”,J Theor Biol,91:379-380;Smith and Waterman,J Mol Biol,“Identification of common molecular subsequences”,1981,147:195-197;Smith et al.,1981,“Comparative biosequence metrics”,J Mol Evol,18:38-46)によって、ニードルマンの相同性アルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,“A general method applicable to the search for similarities in the amino acid sequence of two proteins”J Mol Biol,48(3):443-453)によって、ピアソンの相似性検索(Pearson and Lipman,1988,“Improved tools for biological sequence comparison”,Proc Nat Acad Sci USA,85:2444-2448)によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(GAP,BESTFIT,FASTA,and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)によって、又は調査によって導かれることがあり、及び選択された様々な方法によって生成される最高の配置(すなわち、比較ウィンドウ上で相同性の高い割合において結果として生じる)であることもある。
【0023】
用語「条件的活性型生物学的タンパク質」は、1つ以上の正常生理条件下の親野生型タンパク質よりも活性が多い又は少ない野生型タンパク質の変異体又は変異を意味する。この条件的活性型タンパク質は、体の選択された領域でも活性を示し、又は異常又は感染に対して許容な生理条件下で活性の増加又は減少を示す。正常生理条件は、投与の部位での、又は対象への投与の部位又は作用部位での組織又は器官における通常範囲内で考慮される温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度である。異常条件は、通常受け入れられる範囲から逸脱する条件のことを指す。一態様において、条件的活性型生物学的タンパク質は、野生型条件において実質的に不活性であるが、野生型条件と等しい又は野生型条件よりも良いレベルにおける他の野生型条件において活性である。例えば、部位の多様において、発達した条件的活性型生物学的タンパク質は体温において実質的に不活性であるが、低温では活性である。他の態様において、条件的活性型生物学的タンパク質は、野生型条件において、可逆的又は不可逆的に不活性である。さらなる態様において、野生型タンパク質は治療タンパク質である。他の態様において、条件的活性型生物学的タンパク質は、薬又は治療薬剤として用いられる。さらにもう1つの態様において、タンパク質は、例えば、肺を通過した後のような高い酸素濃度の血液中において、又は腎臓において見られる低いpHにおいて、多い又は少ない活性を示す。
【0024】
「保存的アミノ酸置換」は、類似の側鎖を有する残基の互換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシン、カルボン酸側鎖を有するアミノ酸の群は、セリン及びトレオニン、アミドを含む側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン及びグルタミン、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、アルギニン、及びヒスチジン、及び含硫側鎖を有するアミノ酸の群は、システイン及びメチオニンである。好適な保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、及びアスパラギン-グルタミンである。
【0025】
用語「対応する」は、本明細書において、ポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列の全て又は一部に対して相同である(すなわち、厳密に発達的に関連がなくても同一である)、又はポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列と同一であることを意味する。これと対比的に、用語「相補的」は、本明細書において、相補的配列が参照ポリヌクレオチド配列の全て又は一部に対して相同であることを意味する。例えば、ヌクレオチド配列が「TATAC」は参照「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に対して相補的である。
【0026】
用語「効果的分解」量は、酵素と接触していない基質と比較して、基質の少なくとも50%を処理するのに必要な酵素の量に関連する。
【0027】
本明細書で使用されるとき、「定義された配列枠組」は、ランダムではない塩基、一般的に実験データ又は構造データの塩基から選択された定義された配列のセットに関連する。例えば、定義された配列枠組は、ベータ-シート構造を形成するために予測されるアミノ酸配列のセットから構成されることがあり、また、他の変異において、ロイシンジッパー7つの繰り返しモチーフ、亜鉛フィンガー領域からなることがある。「定義された配列カーネル」は、可変性の限られた範囲を包含する配列のセットである。(1)20の従来のアミノ酸の完全にランダムな10塩基長配列は、(20)10配列のいずれかであり得る、及び(2)20の従来のアミノ酸の擬似ランダムな10塩基長配列は、(20)10配列のいずれかであり得るが、特定の部位及び/又は全体において、特定の残基にとってバイアスを示すが、これらに対し、(3)定義された配列カーネルは、各残基部位が許容可能な20の従来のアミノ酸のいずれかであるようにしている場合、配列のサブセットである。定義された配列カーネルは一般的に変異又は不変異の残基部位を有する、及び/又は個々の選択されたライブラリメンバー配列の長さ全体或いはセグメント的に、アミノ酸残基及びその類の定義されたサブセットから選択された残基を有することがある変異残基部位を有する。定義された配列カーネルは、アミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列に関連することがある。限定はしないが、例として、配列(NNK)10及び(NNM)10を挙げる。ここで、NはA、T、G又はCを表し、KはG又はTを表し、及びMは、A又はCを表し、配列(NNK)10及び(NNM)10は、定義された配列カーネルである。
【0028】
DNAの「消化」は、DNA内の特定の配列のみに作用する制限酵素によるDNAの触媒的開裂に関する。本明細書において使用される様々な制限酵素は市販されているものであり、及びそれらの反応条件、補因子及び他の要件は当業者において既知のものが使用された。分析目的において、典型的には、1マイクログラムのプラスミド又はDNAフラグメントが、約20マイクロリットルの緩衝液において約2ユニットの酵素と共に用いられる。プラスミド作成のためDNAフラグメントを分離させる目的において、典型的には5から50マイクログラムのDNAが、20から250ユニットのより大きい体積の酵素によって消化される。特定の制限酵素のための適当な緩衝溶液及び基質の量は、製造業者によって特定される。37℃で約1時間の培養が通常使用されるが、供給者の指示に従って変化することもある。消化後、反応は所望のフラグメントを分離して取得するために直接電気泳動にかけられる。
【0029】
「指向性結紮」は、ポリヌクレオチドの5’末端及び3’末端における結紮が、好適な結紮方向を特定するのに十分異なることを意味する。例えば、本来、2つの平滑末端を有する未処理及び未消化のPCR生成物は、多重クローニング部位において平滑末端を生成するために消化されるクローニングベクター内において結紮される際に、典型的には好適な結紮方向を有さない。従って、指向性結紮は、これらに関連して典型的には示されない。対照的に、5’EcoRI処理末端及び3’BamHIを有する消化されたPCR生成物が、EcoRI及びBamHIにより消化された多重クローニング部位を有するクローニングベクター内で結紮される際に、指向性結紮は典型的に示される。
【0030】
用語「DNAシャフリング」は、実質的に相同ではあるが、同一ではない配列間での組換えを示すために本明細書において使用され、実施形態によっては、DNAシャフリングは、cer/lox及び/又はflp/frtシステムなどを介してのように、非相同組換えを介しての乗換えを含むことがある。
【0031】
用語「薬剤」又は「薬剤分子」は、ヒト又は動物の体に投与された際に、ヒト又は動物の体に有益な効果を有する物質を含む治療剤を意味する。好適には、薬剤は、1つ以上の症状、病気、又はヒト又は動物の体における異常条件を治療する、治す又は緩和する、又はヒト又は動物の体の健康を増進させることができるものである。
【0032】
「有効量」は、若干の期間にわたって投与された者の生存生物における条件を治療する又は防止する、例えば、所望の投薬期間の間に治療的な効果を提供するのに有効的である、条件的活性型生物学的タンパク質又はフラグメントの量のことである。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「電解質」は、血液又は電荷を運搬する他の体液内の鉱物を定義するために使用される。例えば、一態様において、正常生理条件及び異常条件は、「電解質濃度」の条件であることがある。一態様において、試験される電解質濃度は、イオン化されたカルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物、重炭酸塩、及びリン酸塩濃度の1つ以上から選択される。例えば、一態様において、血清カルシウムの通常範囲は、8.5~10.2mg/dLである。この態様において、異常血清カルシウム濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。他の実施例で、一態様において、血清塩化物は1リットルあたり96~106ミリグラム当量(mEq/L)である。この態様において、異常血清塩化物濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。他の実施例で、一態様において、血清マグネシウム濃度の通常範囲は1.7~2.2mg/dLである。この態様において、異常血清マグネシウム濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。他の実施例で、一態様において、血清リン酸塩の通常範囲は、2.4~4.1mg/dLである。この態様において、異常血清リン酸塩濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。他の実施例で、一態様において、血清又は血液のナトリウムの通常範囲は135~145mEq/Lである。この態様において、異常血清又は血液ナトリウム濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。他の実施例で、一態様において、血清又は血液カリウムの通常範囲は、3.7~5.2mEq/Lである。この態様において、異常血清又は血液カリウム濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。さらなる態様において、血清重炭酸塩の通常範囲は20~29mEq/Lである。この態様において、異常血清又は血液重炭酸塩濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。異なる態様において、重炭酸塩レベルは、血液における酸性の通常レベル(pH)を示すために使用されることがある。用語「電解質濃度」は、組織、又は血液又は血漿以外の体液における特定の電解質濃度を定義するためにも使用されることがある。この場合、正常生理条件は、その組織又は体液において臨床的通常範囲であるように考慮される。この態様において、異常組織又は体液電解質濃度は、通常範囲の上又は下から選択されることがある。
【0034】
本開示で使用されるとき、用語「抗原決定基」は、酵素ポリペプチドのような抗原上の抗原性決定要素に関連する。また、酵素特異抗体のような抗体の抗原結合部位が結合する。抗原決定基は通常、アミノ酸又は当側鎖のような分子の化学表面活性分属からなり、及び特異3次元構造性質も特異的な電荷性を有することがある。本明細書で使用されるとき、「抗原決定基」は、抗原のその部分又は抗体の本体と結合する可変領域と相互に作用する結合相互佐用を形成することができる他の巨大分子を意味する。典型的には、このような結合相互作用は、1つ以上のCDRのアミノ酸残基との分子間作用として明らかにされる。
【0035】
本明細書で使用されるとき、「酵素」は特定の触媒作用の性質を有するタンパク質である。例えば、基質濃度、pH、温度及び阻害剤の有無などの要因は、触媒作用の割合に作用することがある。典型的には、野生型酵素において、Q10(温度係数)は温度が10℃上昇するごとに反応割合の増加を記載する。野生型酵素において、Q10=2~3であり、換言すれば、反応割合は、温度が10℃増加するごとに2倍又は3倍となる。高温にて、タンパク質は変性する。酵素最適値とわずかに異なるpH値で、酵素及びおそらく基質分子の電荷において小さい変化が生じる。イオン化における変化は、基質分子の結合に作用することがある。極端なpHレベルで、酵素は変性を生じ、そこでは、活性部位が歪められ、及び基質部位はもはや適合しない。
【0036】
本明細書で使用されるとき、用語「発達」又は「発達する」は、1つ以上の、新規なポリペプチドをエンコードする新規なポリヌクレオチドを生成する突然変異生成の方法を用いることを意味するものであり、新規なポリペプチドは改良された生体分子そのものであり、及び/又は他の改良された生体分子の生成に貢献する。特定の非限定的な態様において、本開示は親野生型タンパク質から条件的活性型生物学的タンパク質の発達に関するものである。一態様において、例えば、発達は、米国特許出願公開第2009/0130718号明細書に開示される非確率的なポリヌクレオチドキメラ化及び非確率的に突然変異を指令された部位の両方を実行する方法を意味するものである。より詳しくは、本開示は、正常生理条件において野生型親酵素と比較して活性の減少を示すが、1つ以上の異常条件下では野生型酵素と比較して活性を強化する条件的活性型生物学的酵素の発達のための方法を提供するものである。
【0037】
用語「フラグメント」、「誘導体」及び「相似器官」は、参照ポリペプチドを参照する際に、少なくとも1つの、少なくとも本質的に参照ポリペプチドと同じ生理機能又は活性を保有するポリペプチドを有する。さらに、用語「フラグメント」、「誘導体」及び「相似器官」は、著しく高い活性を有する成熟した酵素を生成するために開裂により修飾され得る低活性前駆タンパク質のような「前形態」分子によって例示される。
【0038】
「単一アミノ酸置換の全範囲」が各アミノ酸部位に示されている、テンプレートポリペプチドから子孫ポリペプチドを生成するための方法が本明細書において提供されている。本明細書で使用されるとき、「単一アミノ酸置換の全範囲」は、本明細書に記載されているようにアルファ-アミノ酸を形成する、20の自然にエンコードされたポリペプチドに関するものである。
【0039】
用語「遺伝子」はポリペプチド鎖の生成において含まれるDNAセグメントを意味し、個々のコーディングセグメント(エキソン)間に介在配列(ニトロン)と同様にコーディング領域(リーダー及びトレーダー)に先行する及びそれに続く領域を含む。
【0040】
本明細書で使用されるとき、「遺伝的不安定性」は、反復配列の損失による配列簡易化を通常含む減少事象の工程によって失われる、反復性の高い配列の自然な傾向を意味する。欠失は、反復の1つのコピー及び反復間の全ての損失を含むことがある。
【0041】
用語「非相同」は、一本鎖核酸配列が、他の一本鎖核酸配列又はその相補的配列にハイブリダイズできないことを意味する。従って、非相同な部分は、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドが、他の核酸又はポリヌクレオチドにハイブリダイズできない配列における部分又は領域を有することを意味する。このような領域又は部分は例えば変異の部分である。
【0042】
用語「相同」又は「相同」は、一本鎖核酸配列が相補的な一本鎖核酸配列にハイブリダイズできることを意味する。ハイブリダイゼーションの程度は、配列間の同一性の量、及び後述するような温度及び塩濃度のようなハイブリダイゼーション条件を含む要因の数によることがある。好適には、同一の領域が約5bpより大きく、さらに好適には、同一の領域が10bpよりも大きい。
【0043】
本開示の利益は「産業的応用」(又は産業的工程)にまで及び、用語は、非商業的な産業的応用(例えば、非営利機関での正医学的調査)と同様に、適切な商業的な産業的(又は単に産業的な)応用を含むために用いられる。関連する応用には、診断、医学、農業、製造及び学究的世界の分野を含む。
【0044】
「同一の」又は「同一」は、2つの核酸が同じ配列又は相補的な配列を有することを意味する。従って、「同一の部分」は、ポリヌクレオチドの領域又は部分、又はポリヌクレオチド全体が、他のポリヌクレオチドの部分に対して同一又は相補的であることを意味する。
【0045】
用語「分離された」は、その材料が元の環境(例えば、それが自然に発生するものであれば、自然環境)から除去されることを意味する。例えば、自然に発生するポリヌクレオチド又は生きている動物内に存在する酵素は分離されていないが、同じポリヌクレオチド又は酵素でも、自然系において共存する材料のいくつか又は全てから離されたものは、分離されている。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部であることがあり、及び/又はこのようなポリヌクレオチド又は酵素は、組成物の一部であることがあり、及びこのようなベクター又は組成物はその自然環境の一部でないという点で依然として分離されている。
【0046】
用語「分離された核酸」は核酸、例えば、DNA又はRNA分子を定義するのに用いられる。DNA又はRNA分子のような核酸は、それが誘導される有機体の自然発生遺伝子において存在するときに通常直接に隣接する5’及び3’隣接配列に直接隣接しない。従って、用語は、例えば、プラスミド又はウイルスベクター、異種細胞の遺伝子内(又は異種細胞の遺伝子ではあるが、自然発生のものとは異なる部位)に組み込まれた核酸、及び例えばPCR増幅又は制限酵素消化によって作られたDNAフラグメント、又は生体外転写で作られたRNA分子のような分離された分子として存在する核酸のように、ベクター内に組み込まれる核酸を言い表す。この用語はまた、例えば溶融タンパク質の製造において用いることができる付加的タンパク質をエンコードする交雑遺伝子の一部を形成する組換え核酸も意味する。
【0047】
本明細書で使用されるとき、「リガンド」はランダムペプチド又は可変セグメント配列のような特異的受容体によって認識される分子を意味する。当業者が認識しているように、分子(又は高分子複合体)は、受容体でもリガンドでもあり得る。一般的に、より小さい分子量を有する結合対はリガンドと呼ばれ、より大きい分子量を有する結合対は受容体と呼ばれる。
【0048】
「結紮」は2つの二本鎖核酸フラグメント間でリン酸ジエステル結合を形成する方法に関連する(Sambrook et al.,(1982).Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbour Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.,p.146;Sambrook et al.,Molecular Cloning:a laboratory manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)。提供された方法でなければ、結紮は、結紮されるDNAフラグメントのほぼ等モル量の0.5マイクログラムにつき10ユニットのT4 DNAリガーゼ(「リガーゼ」)を有する既知のバッファー及び条件を使用して達成されることもある。
【0049】
本明細書で使用されるとき、「リンカー」又は「スペーサー」は、例えば、ランダムペプチドが、タンパク質を結合するDNAから最少の立体障害を有する受容体に結合することができるように、タンパク質及びランダムペプチドを結合するDNAのような2つの分子を結合し、及び好適な立体配置に2つの分子を配置するのに役立つ。
【0050】
本明細書で使用されるとき、「微小環境」は、組織の他の領域又は体の領域とは、一定又は時間的に、物理的又は化学的な差異を有する組織又は体の任意の部分又は領域を意味する。
【0051】
本明細書で使用されるとき、「発達する分子性質」は、ポリヌクレオチド配列からなる分子、ポリペプチド配列からなる分子、及びポリヌクレオチド配列の一部及びポリペプチド配列の一部からなる分子を参照することを含む。特に関連して、これに限定することは意味しないが、発達する分子性質の実施例は、温度、塩分濃度、浸透圧、pH、酸化的ストレス、及びグリセロール、DMSO、洗浄剤及び/又は反応環境において接触させる任意の他の分子の種類の濃度のような特異的条件でのタンパク質活性を含む。加えて特に関連して、これに限定することは意味しないが、発達する分子性質の実施例は、安定性、例えば、指定された環境に指定された露出時間の後にある残余分子性質の量を含む。
【0052】
用語「変異」は、野生型核酸配列の配列における変化、又はペプチドにおける配列の変化を意味する。このような変異は、転移又は塩基転換のような点変異であることもある。変異には、欠失、挿入、又は複製であることがある。
【0053】
本明細書で使用されるとき、縮退「N、N、G/T」ヌクレオチド配列は、32の可能な三重項を表し、ここで「N」は、A、C、G又はTであり得る。
【0054】
用語「自然発生」は、本明細書で使用されるとき、対象が自然において見られるという事実に関連して適用されるものである。例えば、自然において原料から分離され得る有機体(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列で、実験室内で人によって意図的に修飾されたのではないものは自然発生である。一般的に、用語「自然発生」は、種において典型的であるように、非病理学的な(病気ではない)個体において存在するような対象に関連する。
【0055】
本明細書で使用されるとき、「正常生理条件」又は「野生型操作条件」は、対象への投与の部位又は作用部位での通常範囲内で考慮される温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度の条件である。
【0056】
本明細書で使用されるとき、「核酸分子」は、一本鎖又は二本鎖であるかによって、それぞれ少なくとも一塩基又は一塩基対からなる。さらに、核酸分子は、非限定ではあるが、RNA、DNA、遺伝子核酸、非遺伝子核酸、自然発生及び非自然発生核酸、及び合成核酸など核酸分子の群などのような分子を含むヌクレオチドの任意の群にのみ、又はキメラ的に属することができる。これは、非限定的な実施例として、ミトコンドリア、リボソームRNA、及び1つ以上の自然発生の成分と自然発生ではない成分からキメラ的になる核酸分子のような任意の細胞小器官に関連した核酸を含む。
【0057】
加えて、「核酸分子」は、非限定ではあるが、部分的に1つ以上のアミノ酸及び糖などのようなヌクレオチドに基づいていない成分を含むことがある。従って、実施例であり、限定するものではないが、部分的にヌクレオチドに基づき、部分的にタンパク質に基づくリボザイムは「核酸分子」とみなされる。
【0058】
加えて、これに限定されるわけではないが、実施例として、放射性又は非放射性ラベルのような検出可能な部分によってラベル化される核酸分子は、同様に「核酸分子」とみなされる。
【0059】
用語「~をコードする核酸配列」、又は「~の配列をコードするDNA」、又は「~をエンコードするヌクレオチド配列」、特に酵素をエンコードするヌクレオチド配列 - 他の同義の用語と同様に - 適当な調節配列の制御下におかれた際に、転写され、及び酵素内に転換されたDNA配列に関するものである。「プロモーター配列」は、細胞内でRNAポリメラーゼを結合し、配列をコード化する下流方向(3’方向)の転写を開始させることができるDNA調節領域である。プロモーターは、DNA配列の一部である。この配列領域は、3’末端に開始コドンを有する。プロモーター配列は、バックグラウンドより高い検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な成分である、最小限の塩基を含む。しかしながら、RNAポリメラーゼが配列を稀有合資、転写が開始コドン(プロモーターを有する3’末端)で開始された後、転写は3’方向において下流に進行する。プロモーターにおいて、配列は、RNAポリメラーゼの結合を負う領域(共通配列)を結合するタンパク質と同様に、転写開始部位(便宜上、ヌクレアーゼS1を有するマッピングによって定義される)で見つかる。
【0060】
用語「酵素(タンパク質)をエンコードする核酸」又は「酵素(タンパク質)をエンコードするDNA」又は「酵素(タンパク質)をエンコードするポリヌクレオチド」及び他の同義の用語は、酵素のためのコーディング配列のみを含むポリヌクレオチドも付加的コーディング配列及び/又は非コーディング配列を含むポリヌクレオチドも包括するものである。
【0061】
好適な一実施形態において、「特異的核酸分子種」は、これに限定されるわけではないが、その一時配列によって例示されるように、その化学的構造により定義される。他の好適な実施形態において、「特異的核酸分子種」は、核酸種の機能によって、又は核酸種から誘導された生成物の機能によって定義される。従って、非限定的な実施例として、「特異的核酸分子種」は、その発現した生成物に起因する活性又は性質を含む、1つ以上のそれに起因する活性又は性質によって定義される。
【0062】
「核酸ライブラリの中に作用核酸試料を構築すること」の即時定義は、ベクター内の結紮及び宿主の変換によるような、収集に基づいたベクター内へ核酸試料を組み込む工程を含む。関連するベクター、宿主及び他の試薬の記載は、それらの特異的非限定の実施例と同様に以下に提供される。「核酸ライブラリの中に作用核酸試料を構築すること」の即時定義はまた、接着体への結紮によるような、収集に基づいた非ベクター内へ核酸試料を組み込む工程も含む。好適には接着体は、PCRによる増幅を容易にするためのPCRプライマーへアニールすることができる。
【0063】
また、非限定的な実施形態において、「核酸ライブラリ」は、1つ以上の核酸分子のコレクションに基づいたベクターからなる。他の好適な実施形態において、「核酸ライブラリ」は、核酸分子のコレクションに基づいた非ベクターからなる。さらに他の好適な実施形態において、「核酸ライブラリ」は、部分的にベクターに基づき、部分的に非ベクターに基づく核酸分子のコレクションの結合からなる。好適には、ライブラリからなる分子のコレクションは、個々の核酸分子の種類に応じて検索可能及び分離可能である。
【0064】
本開示は「核酸構築物」又は「ヌクレオチド構築物」、又は「DNA構築物」を提供するものである。用語「構築物」は、ベクター又はベクターの部分のような1つ以上の付加的分子部分に任意に化学結合されることもあるポリヌクレオチド(例えば酵素ポリヌクレオチド)のような分子を記載するのに本明細書において用いられる。特定の態様において、態様の限定を意味するわけではないが、ヌクレオチド構築物は、宿主細胞の形質転換に適したDNA発現構築物によって例証されている。
【0065】
「オリゴヌクレオチド」(又は「オリゴ」と同義語)は、一本鎖ポリデオキシヌクレオチド又は化学合成された相補的ポリデオキシヌクレオチド鎖に関するものである。このような合成オリゴヌクレオチドは5’リン酸塩を有することも有さないこともある。これらは、キナーゼの存在下においてATPとリン酸を加えることなく他のオリゴヌクレオチドに連結することはない。合成オリゴヌクレオチドは、脱リン酸化されないフラグメントに連結される。ポリメラーゼに基づいた増幅(例えばPCRによる)を得るため、「連続して少なくとも第1の相同配列、変性N、N、G/T配列、及び第2の相同配列からなる32倍変性オリゴヌクレオチド」は言及される。これに関連して用いられているように、「相同」は、オリゴ及びポリメラーゼに基づいた増幅に供される親ポリヌクレオチド間で相同性に参照されるものである。
【0066】
本明細書で使用されるとき、用語「操作可能な状態で結合」は、機能的関係性におけるポリヌクレオチド要素の結合を意味する。核酸は、他の核酸配列と機能的関係性におかれた際に「操作可能な状態で結合」である。例えば、それがコーディング配列の転写に影響を及ぼす場合、プロモーター又はエンハンサーはコーディング配列に操作可能な状態で結合される。操作可能な状態で結合は、結合されているDNA配列が、典型的には隣接しており、及び2つのタンパク質コーディング領域を接合するのに必要な場合、隣接し、リーディングフレーム内にあることを意味する。
【0067】
RNAポリメラーゼが単一mRNAにおいて2つのコーディング配列を転写するときに、コーディング配列は、他のコーディング配列に「操作可能な状態で結合」し、両方のコーディング配列に由来したアミノ酸を有する単一ポリペプチド内に翻訳される。発現された配列が所望のタンパク質を作るために最終的に処理される限り、コーディング配列は、互いに隣接する必要はない。
【0068】
本明細書で使用されるとき、用語「親のポリヌクレオチドセット」は1つ以上の異なるポリヌクレオチド種からなる。通常、この用語は、好適には親のセットの突然変異生成により得られる子孫ポリヌクレオチドセットを参照するのに用いられ、この場合、用語「親の」、「起動」及び「テンプレート」は、互換性がある。
【0069】
用語「患者」又は「対象」は、治療の目的となる、ヒトのような例えば哺乳類などの動物を意味する。対象又は患者には男性でも女性でもあり得る。
【0070】
本明細書で使用されるとき、用語「生理条件」は、温度、pH、浸透圧、イオン化強度、粘度など、生菌に適合できる、及び/又は生存可能な培養酵母又は哺乳類細胞において通常細胞内に存在する生化学的パラメータを意味するものである。例えば、典型的な実験培養条件下で成長した酵母細胞内において細胞内条件とは生理的条件である。生体外転写カクテルにおける適当な生体外反応条件は正常生理的条件である。一般に、インビトロ生理条件は、50~200mMのNaCl又はKCl、pH6.5~8.5、20~45℃及び0.001~10mMの二価陽イオン(例えばMg++”、Ca++);好ましくは、約150mMのNaCl又はKCl、pH7.2~7.6、5mMの二価陽イオンを含み、多くの場合に0.01~1.0%非特異的タンパク質(例えばBSA)を含む。非イオン性界面活性剤(Tween、NP-40、トリトンX-100)が、通常約0.001~2%、典型的には0.05~0.2%(v/v)で存在することも多くある。詳細な水溶液条件は、医師が従来方法により選択し得る。一般的な指針として、以下の緩衝水溶液条件を適用することができる:10~250mMのNaCl、5~50mMのトリスHCl、pH5~8、任意選択で二価陽イオン及び/又は金属キレート剤及び/又は非イオン性界面活性剤及び/又は膜画分及び/又は消泡剤及び/又はシンチラントの添加。正常生理条件は、患者の正常範囲と見なし得る、患者又は対象の生体内の投与部位又は作用部位における温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度を指す。
【0071】
標準規定(5’~3’)は二本鎖ポリヌクレオチドの配列を記載するために本明細書において用いられる。
【0072】
用語「個体群」は、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドの部分又はタンパク質のような組成物の収集を意味する。「混合された個体群」は、核酸又はタンパク質の同じ属ではある(すなわち関連している)が、その配列において異なり(すなわち同一ではない)、従ってその生理的知的活性において異なる組成物の収集である。
【0073】
「代用形」を有する分子とは、参照代用形分子との比較において、異なる性質(例えば活性の増加)を有するより成熟した分子形態を得るために、1つ以上の共有結合及び非共有結合化学的修飾(例えば、グリコシル化、タンパク質分解開裂、二量体化又はオリゴマー化、温度による誘発又はpHによって誘発された高次構造的変化、補助因子との会合など)の任意の組み合わせを途中で経た分子を意味する。2つ以上の化学的修飾(例えば、2つのタンパク質分解開裂、又はタンパク質分解開裂及び非グリコシル化)が成熟した分子の製造への途中で区別されることができるときに、参照前駆体分子は「前駆代用形」分子と称される。
【0074】
本明細書で使用されるとき、用語「タンパク質」は、単量体がアミノ酸である、ペプチド結合又はジスルフィド結合によって一体につなぎ合わされているポリマーを指す。「タンパク質」は、完全長の天然に存在するアミノ酸鎖又はそのフラグメント、例えば、ポリペプチドのうち結合相互作用において有益な特定の領域、又は合成アミノ酸鎖、又はこれらの組み合わせを指す。従ってそのフラグメントは、約8~約500アミノ酸長、好ましくは約8~約300アミノ酸、より好ましくは約8~約200アミノ酸、さらにより好ましくは約10~約50又は100アミノ酸長の、完全長タンパク質の一部であるアミノ酸配列を指す。加えて、天然に存在するアミノ酸以外のアミノ酸、例えば、β-アラニン、フェニルグリシン及びホモアルギニンが、タンパク質に含まれ得る。一般に見られる非遺伝子コードアミノ酸もまた、本発明において用いられ得る。本発明で用いられるアミノ酸は全て、D型光学異性体又はL型光学異性体のいずれかであり得る。特定の文脈での使用にはD型異性体が好ましく、以下に詳述する。加えて、他のペプチドミメティクスもまた、例えば本発明のポリペプチドのリンカー配列において有用である(Spatola,1983,Chemistry and Biochemistry of Amino Acids.Peptides and Proteins,Weinstein,ed.,Marcel Dekker,New York,p.267を参照)。一般に、用語「タンパク質」は、共有結合性又は非共有結合性の結合によって一体に保持された2個又は数個のポリペプチド鎖を含む構造を包含すること以外には、何ら用語「ポリペプチド」との大きな違いを伝えようと意図するものではない。
【0075】
本明細書で使用されるとき、用語「擬似ランダム」は、限られた可変性を有する配列の組を意味する。例えば、他の位置の残基可変性の程度は、任意の擬似ランダム位置以外の残基変異のある程度を与えられるが、制限される。
【0076】
本明細書で使用されるとき、「準繰り返しユニット」は、再集合された繰り返しに関連するものであり、定義上同一ではない。実際この方法は、同一開始配列の突然変異誘発によって製造された実際に同一のエンコーディングユニットだけでなく、いくつかの領域において著しく分岐することのある類似又は関連した配列の再集合も提唱される。それにも関わらず、配列がこの方法によって再集合するのに十分な相同を含む場合、「準繰り返し」ユニットと呼ばれることができる。
【0077】
本明細書で使用されるとき、「ランダムペプチドライブラリ」は、ランダムペプチドのセットをエンコードするポリヌクレオチド配列のセット、及びこれらのランダムペプチドを含む溶融タンパク質と同様に、これらのポリペプチド配列によってエンコードされるランダムペプチドのセットを意味する。
【0078】
本明細書で使用されるとき、「ランダムペプチド配列」は2つ以上のアミノ酸モノマーからなり、及び確率的又はランダムな工程によって構成されるアミノ酸配列を意味する。ランダムペプチドは、枠組み又は足場材料を含むことがあり、不変配列を有することがある。
【0079】
本明細書で使用されるとき、「受容体」は与えられたリガンドに親和性を有する分子を意味するものである。受容体は自然発生又は合成分子であることがある。受容体は、不変状態で使用される、又は他の種との集合体として使用されることがある。受容体は、直接的に又は特異的結合物質を介して結合メンバーに共有結合で、又は非共有結合で結合されることがある。受容体の実施例は、これに限定されないが、単クローン抗体及び特異的抗原決定基(例えばウイルス、細胞、又は他の材料)との抗血清試薬、細胞膜受容体、糖及び糖タンパク質複合体、酵素、及びホルモン受容体を含む。
【0080】
「組換え」酵素は、組換えDNA技術によって生成される酵素、すなわち、所望の酵素をエンコードする外因性DNA構成によって形質転換された細胞から生成される。「合成」酵素は、化学合成によって調製される。
【0081】
用語「関連ポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドの領域又は部分が同一であること、及びポリヌクレオチドの領域又は部分が非相同であることを意味する。
【0082】
本明細書で使用されるとき、「減少的再集合」は繰り返し配列によって媒介される欠失(及び/又は挿入)を介して生じる分子多様性における増加を意味するものである。
【0083】
以下の用語「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性の割合」及び「実質的に同一」は、2つ以上のポリヌクレオチド間の配列の関係性を記載するのに用いられる。
【0084】
「参照配列」は配列比較の基礎として使用される定義された配列である。参照配列は、より大きい配列のサブセット、例えば、全長cDNAのセグメント又は配列リストにおいて与えられる遺伝子配列のセグメント、又は完全なcDNA又は遺伝子配列からなることがある。一般的に、参照配列は長さにおいて少なくとも20ヌクレオチドであり、しばしば、長さにおいて少なくとも25ヌクレオチドであり、及びしばしば、長さにおいて少なくとも50ヌクレオチドである。2つのポリヌクレオチドが、それぞれ(1)2つのポリヌクレオチド間で類似の配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の部分)からなり、及び(2)さらに、2つのポリヌクレオチド間で分岐する配列からなることがあるため、2つの(又はそれを超える)ポリヌクレオチド間での配列比較は、配列類似性の局所的領域を同定し、及び比較するために、「比較ウィンドウ」上で2つのポリヌクレオチドの配列を比較することによって実行される。
【0085】
「反復インデックス(RI)」は、本明細書で使用されるとき、クローニングベクター内に含まれる準繰り返しユニットのコピーの平均数である。
【0086】
用語「制限部位」は、制限酵素の作用の発現に必要な認識配列を意味し、接触開裂の部位を含む。開裂の部位は、低い曖昧性配列(すなわち、制限部位の発生の頻度の主要な決定要素を含む配列)からなる制限部位の部分において含まれること、又は含まれないことがあると認められる。従って、多くの場合、関連のある制限部位は、内部開裂部位(例えば、EcoRI部位においてG/AATTC)又は直接隣接開裂位置(例えば、EcoRII部位において/CCWGG)を有する低い曖昧性配列のみを含む。他の場合、関連のある制限酵素(例えばEco57I部位又はCTGAAG(16/14))は外部開裂部位(例えば、Eco57I部位のN.Sub.16部分において)を有する低両義性配列(例えば、Eco57I部位のCTGAAG配列)を含む。酵素(例えば制限酵素)がポリヌクレオチドを「開裂する」というのは、制限酵素がポリヌクレオチドの開裂を触媒する又は容易にすることを意味すると理解されている。
【0087】
非限定的な態様において、「選択可能なポリヌクレオチド」は、5’末端領域(又は終止領域)、中間領域(例えば、内部又は中央領域)及び3’末端領域(又は終止領域)からなる。本態様で使用されるとき、5’末端領域は、5’ポリヌクレオチド末端(又は5’ポリヌクレオチド終止)の方に位置する領域である。従って、ポリヌクレオチドの5’半分における部分又は全体である。同様に、3’末端領域は、3’ポリヌクレオチド末端(又は3’ポリヌクレオチド終止)の方に位置する領域である。従って、ポリヌクレオチドの3’半分における部分又は全体である。この非限定的例証で使用されているように、任意の2つの領域間で、又は3つの全ての領域間で配列が重複していることがある。
【0088】
用語「配列同一性」は、2つのポリヌクレオチド配列が比較ウィンドウにわたって(即ち、各ヌクレオチド毎に)同一であることを意味する。用語「配列同一性パーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントされた配列を比較ウィンドウにわたって比較し、両方の配列に同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、又はI)が現れる位置の数を決定してマッチ位置の数を求め、そのマッチ位置の数を比較ウィンドウにおける位置の総数(即ち、ウィンドウサイズ)で除し、その結果に100を乗じて配列同一性パーセンテージを求めることにより計算される。この「実質的な同一性」は、本明細書で使用されるとき、ポリヌクレオチド配列の特性を表し、ここでポリヌクレオチドは、少なくとも25~50ヌクレオチドの比較ウィンドウの参照配列と比較したとき少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも85パーセントの同一性、多くの場合に90~95パーセントの配列同一性、及び最も一般的には少なくとも99パーセントの配列同一性を有する配列を含み、ここで配列同一性パーセンテージは、比較ウィンドウにわたって参照配列の合計20パーセント以下の欠失又は付加を含み得るポリヌクレオチド配列を参照配列と比較することにより計算される。
【0089】
当該技術分野において公知のとおり、2つの酵素間の「類似性」は、一方の酵素のアミノ酸配列及びその保存アミノ酸置換を第2の酵素の配列と比較することによって決定される。類似性は、当該技術分野において周知の手順、例えばBLASTプログラム(National Center for Biological InformationのBasic Local Alignment Search Tool)によって決定し得る。
【0090】
分子対(例えば、抗体-抗原対又は核酸対)のメンバーは、他の非特異的分子に対してよりも強い親和性で互いに結合している際に、互いに「特異的に結合している」といわれる。例えば、抗体は、抗原に対して非特異的タンパク質よりも効率よく結合するため、抗原と特異的に結合すると記載されることができる。(同様に、塩基対相互作用によって標的と特異的に二本鎖を形成している場合、核酸プローブは、標的核酸と特異的に結合すると記載されることができる(上記を参照)。)
【0091】
「特異的ハイブリダイゼーション」は、本明細書において、第1のポリヌクレオチド及び第2のポリヌクレオチド(例えば、第1のポリヌクレオチドと違いを有するが、実質的には同一の配列を有するポリヌクレオチド)間での交雑の形態として定義したものであり、ここで、実質的に無関係なポリヌクレオチド配列は混合物において交雑を形成しない。
【0092】
用語「特異的ポリヌクレオチド」は、特定の終末点、及び特定の核酸配列を有するポリヌクレオチドを意味する。2つのポリヌクレオチドにおいて、1つのポリヌクレオチドが第2のポリヌクレオチドの一部として同一の配列を有するが、異なる末端が2つの異なる特異的ポリヌクレオチドからなる。
【0093】
「厳密なハイブリダイゼーション条件」は、配列間で少なくとも90%同一、好適には少なくとも95%同一、最も好適には少なくとも97%同一であるときのみハイブリダイゼーションが生じることを意味する。Sambrook et al.,Molecular Cloning:a laboratory manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989を参照すること。
【0094】
本開示において、また、酵素ポリペプチドの配列と「実質的に同一の」配列を有するポリペプチドも含まれる。「実質的に同一の」アミノ酸配列は、保存アミノ酸置換によってのみ参照配列と異なる配列であり、例えば、同じ種類の別の1つのアミノ酸の置換である(例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンのような疎水性アミノ酸から他の疎水性アミノ酸への置換、又はアルギニンからリシンへの置換、グルタミン酸からアスパラギン酸への置換又はグルタミンからアスパラギンへの置換のように、ある極性アミノ酸から他の極性アミノ酸への置換)。
【0095】
加えて、「実質的に同一の」アミノ酸配列は、参照配列とは異なる配列、又は非保存的置換、欠失又は挿入のような置換が分子の活性部位ではない部位で発生するとき、1つ以上の非保存的置換、欠失又は挿入によって異なる配列であり、ポリペプチドがその行動性質を基本的に保持すると定めた配列である。例えば、1つ以上のアミノ酸は酵素ポリペプチドから除かれることがあり、結果として、著しくその生物学的活性を変えることなく、ポリペプチドの構造の修飾となる。例えば、酵素生理的活性において必要とされない、アミノ-又はカルボキシル-末端アミノ酸は除かれることがある。このような修飾は、より小さい活性酵素ポリペプチドの開発につながることがある。
【0096】
本開示は「実質的に純粋な酵素」を提供するものである。用語「実質的に純粋な酵素」は、自然に関連付けられる他のタンパク質、脂質、糖、核酸及び他の生理的材料を実質的に含まないポリペプチド(例えば酵素ポリペプチド、又はそれらのフラグメント)のような分子を記載するのに本明細書において用いられる。例えば、ポリペプチドのように、実質的に純粋な分子は、対象の分子において乾燥重量で少なくとも60%であることがある。ポリペプチドの純度は、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(例えばSDS-PAGE)、カラムクロマトグラフィー(例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、及びアミノ-末端アミノ酸配列分析を含む標準的な方法を使用して決定される。
【0097】
本明細書で使用されるとき、「実質的に純粋」は、対象となる種が、支配的な種であることを意味し(すなわち、モルベースで、組成物において任意の他の個別の分子より豊富である)、及び好適には、実質的に精製された断片は、対象となる種が存在する全ての高分子種の少なくとも約50%(モルベースで)からなる組成物である。一般的に、実質的に純粋な組成物は、組成物において存在する高分子種の約80~90パーセント以上からなる。最も好適には、対象となる種は、基本的に均質に精製され(汚染物質種は従来の検出方法によって組成物において検出されることができない)、ここで、その構成は基本的に単一の高分子種からなる。溶解種、小さい分子(<500ドルトン)及び基本的なイオン種は高分子種とはみなされない。
【0098】
用語「治療する」は、(1)状態、疾患又は条件の臨床的又は潜在的症状に苦しむ、又はそれらに罹患しやすいが、状態の臨床的又は潜在的症状、疾患又は条件を依然として経験していない又は示していない動物において進行する状態、疾患又は条件の臨床的症状の出現を防止する又は遅延させること、(2)状態、疾患又は条件を阻害すること(すなわち、疾患又は維持療法の場合ではそれらの逆戻り又は少なくとも1つの臨床的又は潜在性症状の進行を抑制し、減少させ、又は遅延させること)及び/又は(3)状態を楽にすること(すなわち、状態、疾患、又は条件又は臨床又は潜在性症状の少なくとも1つの後退を引き起こすこと)治療される患者の利点は、統計学的にも有意であり、又は少なくとも患者又は医師に少なくとも認知可能である。
【0099】
本明細書で使用されるとき、用語「可変性セグメント」は、ランダム、擬似ランダム、又は定義された仁配列からなる発生期のペプチドの部分を意味する。「可変性セグメント」は、ランダム、擬似ランダム、又は定義された仁配列からなる発生期のペプチドの部分を意味する。可変性セグメントは変異体及び不変異体残基位置の両方からなることがあり、及び変異体残基位置における変異体残基の度合いは、限定されることがあり、両方の選択肢は、実行者の裁量で選択される。典型的には可変性セグメントは、長さにおいて約5~20アミノ酸残基(例えば8~10)であり、しかし、可変性セグメントはそれより長いこともあり、及び抗体フラグメント、タンパク質結合核酸、受容体タンパク質などのような抗体タンパク質又は受容体タンパク質からなることもある。
【0100】
用語「変異体」は、1つ以上の野生型タンパク質親分子の塩基対、コドン、イントロン、エキソン又はアミノ酸残基(それぞれ)において修飾された開示のポリヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。変異体は、例えば、エラープローンPCR、シャフリング、オリゴヌクレオチド指定突然変異、アセンブリPCR、性的PCR突然変異、生体内での突然変異、カセット突然変異、再帰的アンサンブル突然変異、指数的アンサンブル突然変異、位置特異的突然変異、遺伝子再構築、飽和突然変異及びそれらの任意の組み合わせのような方法を含む手段の任意の数によって製造される。野生型タンパク質と比較して、正常生理的条件、例えば温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度の1つ以上の条件において活性が減少し、及び異常条件において活性が増強される変異体タンパク質を製造するための技術は、本明細書に開示される。変異体は、野生型タンパク質と比較して、化学的耐性及びタンパク質分解耐性を増強する性質において付加的に選択される。
【0101】
本明細書で使用されるとき、用語「野生型」は、ポリヌクレオチドがいかなる突然変異も含まないことを意味する。「野生型(wild type)タンパク質」、「野生型(wild-type)タンパク質」、「野生型(wild-type)生物学的タンパク質」、又は「野生型(wild type)生物学的タンパク質」は、自然から単離することのできる、自然中に見られる活性レベルで活性であり、且つ自然中に見られるアミノ酸配列を含むタンパク質を指す。用語「親分子」及び「標的タンパク質」も野生型タンパク質を指す。
【0102】
例えば「ワーキング試料」にあるような用語「ワーキング」は、単に人が作業している試料である。同様に、例えば「ワーキング分子」は、人が作業している分子である。
【0103】
用語「条件的活性型抗体」は、1つ以上の正常生理条件下で親野生型抗体と比べて活性がより高い又は活性がより低い野生型抗体の変異体、又は突然変異体を指す。この条件的活性型抗体は、体の特定の領域で活性を呈し得るか、及び/又は異常な又は許容的な生理条件下で活性の増加又は活性の低下を呈し得る。一態様において、条件的活性型抗体は正常生理条件で事実上不活性であるが、正常生理条件以外では、正常生理条件におけるよりも良好なレベルで活性である。例えば、一態様において、発達させた条件的活性型抗体は体温では事実上不活性であり得るが、それよりも低い温度では活性である。別の態様において、条件的活性型抗体は正常生理条件で可逆的又は不可逆的に不活性化され得る。さらなる態様において、野生型抗体は治療用抗体である。別の態様において、条件的活性型抗体は薬物、又は治療剤として用いられる。さらに別の態様において、この抗体は、例えば肺を通過した後など、高酸素化した血液中、又は腎臓に見られるより低いpH環境においては、活性がより高いか又はより低い。
【0104】
用語「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」は、特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に分泌免疫グロブリンが結合して、それによりこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原担持標的細胞に特異的に結合し、続いて細胞毒で標的細胞を死滅させることが可能となる細胞傷害の一形態を指す。標的細胞の表面に対するリガンド特異的高親和性IgG抗体は細胞傷害性細胞を刺激するもので、かかる死滅に必要である。標的細胞の溶解は細胞外であり、細胞間の直接接触を必要とし、補体は関与しない。
【0105】
任意の特定の抗体がADCCによる標的細胞の溶解を媒介する能力は、分析することができる。ADCC活性を評価するには、免疫エフェクター細胞と併せて標的リガンドを提示する標的細胞に目的の抗体を加え、免疫エフェクター細胞が抗原抗体複合体によって活性化されると、標的細胞の細胞溶解が生じ得る。細胞溶解は、概して、溶解した細胞からの標識(例えば、放射性基質、蛍光色素又は天然細胞内タンパク質)の放出によって検出される。かかる分析に有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。インビトロADCC分析の具体的な例は、Bruggemann et al,1987,J.Exp.Med.,vol.166,page 1351;Wilkinson et al,2001,J.Immunol.Methods,vol.258,page 183;Patel et al,1995 J.Immunol.Methods,vol.184,page 29に記載されている。それに代えて又は加えて、目的の抗体のADCC活性は、Clynes et al,1998,PNAS USA,vol.95,p.652に開示されるものなど、例えば動物モデルにおいて、インビボで評価してもよい。
【0106】
用語「癌」及び「癌性」は、典型的には制御されない細胞成長/増殖によって特徴づけられる哺乳動物における生理条件を指し、又はそれを記載する。「腫瘍」は1つ又はそれ以上の癌性細胞を含む。癌の例としては、限定はされないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍が挙げられる。かかる癌のより詳細な例としては、有棘細胞癌(例えば、上皮有棘細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌(「NSCLC」)、肺腺癌及び肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(gastric cancer)又は胃癌(stomach cancer)(消化管癌を含む)、膵癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーマ、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎癌(kidney cancer)又は腎癌(renal cancer)、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、並びに頭頸部癌が挙げられる。
【0107】
用語「多重特異性抗体」は、本明細書で使用されるとき、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な多重特異性抗体はBBB-Rと脳抗原との両方に結合し得る。多重特異性抗体は完全長抗体又は抗体フラグメント(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。2つ、3つ又はそれ以上(例えば4つ)の機能性抗原結合部位を含む操作された抗体もまた企図される(例えば、米国特許出願公開第2002/0004587 A1号明細書を参照)。多重特異性抗体は完全長抗体又は抗体フラグメントとして調製することができる。
【0108】
用語「完全長抗体」は、抗原結合可変領域(VH又はVL)並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む抗体を指す。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えばヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であってもよい。
【0109】
完全長抗体は、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なる「クラス」に割り当てられ得る。完全長抗体の主要なクラスは5つあり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、これらのうちの幾つかは「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分かれ得る。異なる抗体クラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0110】
用語「ライブラリ」は、本明細書で使用されるとき、単一のプールとしてのタンパク質のコレクションを指す。本発明のライブラリは、好ましくはDNA組換え技術を用いて作成される。例えば、cDNA又は任意の他のタンパク質コードDNAのコレクションを発現ベクターに挿入してタンパク質ライブラリを作成し得る。発現ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、及びウイルス発現ベクターから選択され得る。また、cDNA又はタンパク質コードDNAのコレクションをファージゲノムに挿入して、野生型タンパク質のバクテリオファージディスプレイライブラリを作成することもできる。cDNAのコレクションは、Sambrookら(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)によって開示される方法によるなど、特定の細胞集団又は組織試料から作製し得る。特定の細胞型由来のcDNAコレクションもまた、Stratagene(登録商標)などの供給業者から市販されている。本明細書で使用されるとおりの野生型タンパク質のライブラリは、生物学的試料のコレクションではない。
【0111】
用語「組換え抗体」は、本明細書で使用されるとき、抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞によって発現される抗体(例えばキメラ、ヒト化、又はヒト抗体又はそれらの抗原結合フラグメント)を指す。組換え抗体を産生する「宿主細胞」の例としては、以下が挙げられる:(1)哺乳類細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、骨髄腫細胞(Y0及びNS0細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、Hela及びVero細胞;(2)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21及びTn5;(3)植物細胞、例えばタバコ属(Nicotiana)に属する植物(例えばニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum));(4)酵母細胞、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)に属するもの(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))又はアスペルギルス属(Aspergillus)に属するもの(例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger));(5)細菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞又は枯草菌(Bacillus subtilis)細胞等。
【0112】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物としては、限定はされないが、家畜動物(例えば、雌ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。特定の実施形態において、個体又は対象はヒトである。
【0113】
詳細な説明
本開示は、タンパク質を操作し又は発達させることにより、野生型条件では可逆的又は不可逆的に不活性化されるが、正常条件では野生型条件と同じ又は等価なレベルで活性である新規分子を作成する方法に関する。これらの新規タンパク質は、本明細書では条件的活性型生物学的タンパク質と称される。これらの条件的活性型生物学的タンパク質及びこれらのタンパク質の作製方法は、米国特許出願公開第2012/0164127号明細書に記載されている。条件的活性型生物学的タンパク質は、宿主体内で短期間又は限られた期間だけ活性である新規治療薬の開発に特に価値がある。宿主に有害であるが、限定された活性が、所望の治療を実行するのに必要である、投与されるタンパク質の拡張された操作において、これは特に価値がある。有益な適用の実施例は、高濃度においての局所的治療と同様に、高投与量での局所的又は全身的治療を含む。生理的条件下での不活性化は、投与の組み合わせ及びタンパク質の不活性化の割合によって決定されることがある。この条件に基づいた不活性化は、触媒活性が比較的短い期間において実質的に負の影響を引き起こすとき、酵素治療において特に重要である。
【0114】
本開示はまた、野生型分子とは異なる新規の分子、経時的に可逆的又は不可逆的に、活性又は不活性である、又は体内の特定の器官(例えば膀胱又は腎臓)を含む体内の特定の微小環境においてのみ活性又は不活性である新規の分子を生成するためのタンパク質を操作する又は発達させる方法を指示する。一部の実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は、本明細書に記載されるとおりの1つ以上の標的タンパク質に対する抗体である。
【0115】
標的野生型タンパク質
任意の治療的タンパク質は、条件的活性型生物学的タンパク質の製造において、標的タンパク質又は野生型タンパク質としての機能を果たす。一態様において、標的タンパク質は野生型酵素である。現在使用されている治療的タンパク質酵素は、凝血塊の治療において使用されるウロキナーゼ及びストレプトキナーゼ、他の薬剤の吸収及び分散を増加させる補助剤として使用されるヒアルロニダーゼを含む。一態様において、条件的活性型生物学的タンパク質の生成のために選択される野生型タンパク質は、野生型タンパク質又は酵素に関連した有害な副作用を回避する又は最小限にするために、現在では治療的タンパク質が使用される。或いは、治療としての使用が現在されていない酵素は、条件的活性型生物学的タンパク質の生成のために選択されることがある。特定の非限定的実施例は、以下に詳細に議論される。
【0116】
治療的タンパク質は、単独で、又は様々な疾患又は医学的条件を治療するための他の療法と組み合わせて用いられることがある。本開示の条件的活性型生物学的タンパク質は、循環疾患、関節炎、多発性硬化症、自己免疫疾患、癌、皮膚科学的状態を含む1つ以上の兆候において使用するための適用ができ、及び様々な診断形式で使用できる。タンパク質及び兆候によっては、条件的活性型生物学的酵素タンパク質は、以下に議論されるように、非経口的、局所的又は経口的な剤形で投与されることがある。
【0117】
循環障害-血栓症及び血栓溶解療法
血栓(凝血塊)は、循環系において形成される血液構成要素に由来する固体の塊として定義される。血栓は、血液凝固因子、血小板、赤血球及び血管壁との相互作用を含む一連の事象により形成される。血小板は、血小板、フィブリン及び脈管障害の原因となることがある補足された血液細胞の血管内凝集である。血流を妨げる、又は遮断することによって、血栓は、組織への酸素供給を奪う。血栓の断片(塞栓)は、剥離することができ、より小さい血管を妨げることができる。動脈血栓形成は、潜在性の狭窄-アテローム性動脈硬化症、低流量状態の心機能、癌における凝固亢進又は凝固因子欠乏、又はステント又はカテーテルなどの異物を含む任意の様々な要因のいずれかによって誘発される。動脈虚血につながる血栓は、肢又は組織の損傷、急性心筋梗塞(AMI)、脳卒中、切断又は腸梗塞に結果としてなることがある。疾病率及び死亡率の大きい原因は、動脈血栓(冠状動脈血栓及び脳動脈血栓)及び肺血栓の形成である。静脈血栓形成は、外傷、例えば静止による鬱血、又は凝固亢進などの内皮損傷によって生じることがあるが、アテローム性動脈硬化は要因とはならない。治療法は、機械的血栓摘出術、薬力学的血栓摘出術及び血栓溶解を含む。血栓症の治療は、血栓の形成を最小化し、除去を助けるために用いられる。
【0118】
血栓症の治療は、血小板の活性化を阻害する抗血小板薬剤の使用、抗凝固性治療、及び/又は凝血を分解するための血栓溶解治療を含む。抗血小板物質の例としては、アスピリン、ジピリダモール及びチクロピジンが挙げられる。抗凝固剤の例は、ヘパリン、ワルファリン、ヒルジン、及び活性型ヒトタンパク質Cを含む。血栓溶解剤の例は、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)/tPA変異体、ウロキナーゼ及びストレプトキナーゼを含む。血栓溶解剤は、作用の触媒型を示す。
【0119】
急性心筋梗塞における血栓溶解治療は確立されている。血栓溶解剤の使用は、標準的な救急治療となった。効果的であるにも関わらず、これらの製品は、完全な再灌流を患者の約50%においてのみ達成し、副作用は、高血圧と同様に出血(特に頭蓋内出血)の危険を含む。傷害性又は疾患性血管からの凝血塊の分解は、「線維素溶解」又は「線維素溶解方法」と称される。タンパク質プラスミノーゲンを活性化するプラスミノーゲン活性剤によって、線維素溶解はタンパク質分解方法であり、それによって、プラスミンを形成する。タンパク質分解性プラスミンは、凝血塊を溶かすために、フィブリンストランドを分解する。フィブリン特異性プラスミノーゲン活性剤は、組織プラスミノーゲン活性化因子又は変異体を含む。非特異的プラスミノーゲン活性剤は、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼを含むことがある。
【0120】
特定の一般的に用いられる血栓溶解治療は、いくつかの利用できる組織プラスミノーゲン活性剤(tPA)変異体の1つを利用する。例えば、以前使用のために承認された製品に基づくtPA変異体は、Alteplase(rt-PA)、Reteplase(r-PA)及びTenecteplase(TNK)である。tPA変異体の承認された用途は、例えば、AMIに続く心室機能改善における急性心筋梗塞、鬱血性心不全の発病率の減少、及びAMIと関連した死亡率の減少、神経病学的回復を改善するための成人における虚血性脳卒中の管理及び障害の発病率の減少、急性肺塞栓の溶解のため、及び不安定な血行動態が付随する肺塞栓の溶解のため、成人における急性大量肺塞栓の管理を含む。
【0121】
他の一般的に用いられる血栓溶解治療は、ウロキナーゼを利用する。ウロキナーゼは、抹消血管疾患の処置において使用する標準的溶解剤である。
【0122】
ストレプトキナーゼは、ヒトプラスミノーゲンを結合及び活性化することができる連鎖球菌のいくつかの種類から分泌されるタンパク質である。ヒトプラスミノーゲンとストレプトキナーゼとの複合体は、プラスミンを生成するための結合開裂で活性化されることによって、他の非結合プラスミノーゲンを加水分解的に活性化することができる。プラスミノーゲンの通常の活性は、Arg561-Val562結合のタンパク質分解によって起こる。Val562のアミノ基は、Asp740と塩橋を形成し、活性プロテアーゼプラスミンを作るため高次構造的な変化を生じさせる。プラスミンは、凝血の主要成分であるフィブリンを分解するために血中で作られる。
【0123】
ストレプトキナーゼは、心筋梗塞(心臓発作)、肺塞栓症(肺凝血)及び深部静脈血栓症(脚凝血)のいくつかの場合、有効な凝血塊溶解薬剤として用いられる。ストレプトキナーゼは線維素溶解剤と呼ばれている薬剤の群に帰属する。ストレプトキナーゼは、心臓壁の動脈における凝血塊を溶かし、心筋への損傷を減らすために、心臓発作の発症後、可能な限り早く与えられる。ストレプトキナーゼは、細菌製品であるため、本体はタンパク質に対して免疫を確立する能力を有する。従って、この製品は、最初の投与から4日後以降は、有効ではない可能性があり、及びアレルギー反応を引き起こす可能性があるため、与えないことが推奨される。このため、通常、最初の心臓発作の後のみ与えられ、更なる血栓症は典型的には組織プラスミノーゲン活性剤(TPA)により治療される。ストレプトキナーゼは、術後癒着を防止するために用いられることもある。
【0124】
ストレプトキナーゼの副作用は、出血(多量及び少量)、低血圧、及び呼吸抑制及びアレルギー反応を含む。加えて、抗凝血剤、血小板機能を変える薬剤(例えば、アスピリン、他のNSAID、ジピリダモール)は、出血の危険性を高めることがある。
【0125】
血栓溶解剤の投与は、通常、注射によって、又は急速静注投与によって、又は機械的注入システムによって行われる。副作用は、重篤には頭蓋内、胃腸、後腹膜、又は心嚢の出血を含むことがある。出血が生じた場合、直ちに投与を中断しなければならない。
【0126】
本開示の特定の実施形態において、tPA、ストレプトキナーゼ又はウロキナーゼは、標的又は野生型タンパク質として選択される。
【0127】
一実施形態において、本開示の方法は、通常の生理的条件よりも低い異常温度条件で高い活性を有し、通常の生理的条件(例えば37℃)で実質的に非活性又は不活性である、条件的活性型組換え、又は合成ストレプトキナーゼ変異体を選択するのに用いられる。一態様において、異常温度条件は、室温、例えば20~25℃である。他の態様において、本開示は、脳卒中又は心臓発作を治療する方法を提供するものであり、この方法は、凝血塊を消去し、ストレプトキナーゼ変異体の急速な不活性化が過剰な出血を回避できるように、条件的活性型ストレプトキナーゼ変異体の高用量を脳卒中又は心臓発作患者に投与することからなる。
【0128】
循環障害-レニン/アンギオテンシン
レニン-アンギオテンシン系は、血圧及び水(流体)バランスを調節するホルモン系である。腎臓は、血液量が低いときにレニンを分泌する。レニンは、ペプチドアンギオテンシンIに肝臓から分泌されるアンギオテンシノーゲンを加水分解する酵素である。アンギオテンシンIは、アンギオテンシンIIに内皮結合したアンギオテンシン変換酵素(ACE)によって、肺においてさらに切断される。アンギオテンシンIIは、血管を収縮させ、結果として血圧を増加させる。しかしながら、アンギオテンシンπも副腎皮質からホルモンアルドステロンの分泌を促進する。アルドステロンは、腎細管でのナトリウム及び水の再吸収を増加させる。この増加は、体の流体を増加させ、血圧を増加させる。過剰に活発なレニン-アンギオテンシン系は、血管収縮、及びナトリウム及び水の保持につながる。これらの効果は高血圧につながる。血圧を下げるために、このシステムにおいて異なる工程を中断する多くの薬がある。これらの薬は、高血圧(高血圧症)、心不全、腎不全及び糖尿病の有害な影響を制御するための主要な方法の1つである。
【0129】
血液量減少性ショックは緊急状態であり、大量の血液及び/又は流体を失うことにより、心臓は体細胞に酸素を含ませた血液を適切に灌流することができなくなる。失血は、外傷、損傷及び内出血により起こり得る。循環血液の量は、火傷、下痢、過剰な汗又は嘔吐による過剰な流体損失のため減少することがある。血液量減少性ショックの兆候には、不安、冷たくじっとりした肌、混乱、呼吸促迫又は意識消失を含む。検査は低血圧、低体温及び弱い又は弱々しいこともある速い脈拍を含むショックの徴候を示す。治療は、輸液、血液又は血液製剤、ショックの治療、及び血圧及び心拍出量を増加させるためのドーパミン、ドブタミン、エピネフリン及びノルエピネフリンのような薬剤を含む。
【0130】
一実施形態において、本開示は、通常の生理的温度では可逆的に不活性化されるが、血液量減少性ショックにより患者が異常低温であるときには再び活性化される条件的組換えレニン変異体を選択するための方法を提供する。条件的活性型タンパク質は、体内の流体量の増加及び血圧の増加を促すために血液量減少性ショックを治療するのに用いられることがある。
【0131】
循環障害-レイノー現象
レイノー現象(RP)は、指、つま先及びときには他の末端の変色を引き起こす血管攣縮性疾患である。感情的ストレス及び冷えがこの減少の典型的な引き金である。冷温にさらされると、末端は熱を失う。指及びつま先に供給される血液は、体の核心温度を保つために通常ゆっくりとなる。血流は、末端の皮下の小さい動脈の狭窄によって減少する。ストレスは、体が冷えるのと同じような反応を引き起こす。レイノー現象において、通常の反応が肥大したものである。状態としては、痛み、変色、及び冷え及び麻痺の感覚を引き起こすことがある。この現象は結果としてそれぞれの領域への血液供給を減少させる血管攣縮である。レイノー疾患(初期レイノー現象)において、疾患は突発性である。レイノー症候群(第2レイノー現象)において、現象は、他の扇動因子によって引き起こされる。手の温度勾配の測定は、初期及び第2形態間の識別を行う1つの手段である。初期形態は、第2形態に進行することがあり、極端な場合には第2形態は指先の壊死又は壊疽に進行することがある。
【0132】
レイノー現象は、冷え又は感情的ストレスへの反応の肥大したものである。初期のRPは、微小血管攣縮によって基本的にもたらされる。交感神経系の過剰活性化は、末梢血管の過度の血管収縮を引き起こし、低酸素症につながる。慢性、再発性の場合、皮膚、皮下組織及び筋肉の萎縮となることがある。稀に潰瘍形成及び虚血性壊疽となることもある。
【0133】
レイノー現象のための従来の治療選択肢は、血管を拡張し、循環を促進する処方薬物治療を含む。これらは、ニフェピジン又はジルチアゼムのようなカルシウムチャンネル遮断薬、ノルアドレナリン、血管を収縮させるホルモンの作用を相殺するプラゾシン又はドキサゾシンのようなアルファ遮断薬、及びニトログリセリンクリーム又はアンギオテンシンII阻害剤ロサルタン、シルデナフィル又はプロスタグランジンのような血管を緩めるための血管拡張薬を含む。フルオキセチン、選択的セロトニン再摂取阻害剤及び他の抗鬱剤は、生理的ストレッサーによる発症の頻度及び重症度を低減することができる。これらの薬剤は、頭痛、潮紅及びくるぶし浮腫のような副作用を引き起こすことがある。薬剤は経時的に効果を失うこともある。
【0134】
皮膚血管収縮及び血管拡張の調節は、変更した交感神経活性及び多くの神経調節を含み、REDOXシグナル伝達及びRhoA/ROCK経路のような他のシグナル伝達と同様に、アドレナリン性及び非アドレナリン性を含む。皮膚の血管平滑筋細胞(vSMC)の血管収縮は、アルファ1及びアルファ2アドレナリン受容体によって伝達されるノルエピネフリンによって活性化されると考えられる。アルファ2C-ARsは、トランスゴルジから刺激に応答するvSMCの細胞表面に転座させ、及びこれらの応答のシグナル伝達は、RhoA/Rhokinase(ROCK)シグナル伝達経路を含む。皮膚動脈の冷たい刺激は、vSMCのミトコンドリアの反応性酸素種(ROS)の即時の生成につながる。ROSは、RhoA/ROCK経路を介したREDOXシグナル伝達に含まれる。RhoAは、vSMCにおける遊走及び細胞収縮のようなアクチン-ミオシン依存工程の調節の役割を有するGTP-結合タンパク質である。RPとの可能な包含を有する脈管構造の周知の機能を有する非アドレナリンニューロペプチドは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP(SP)、ニューロペプチドY(NPY)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)を含む。Fonseca et al.,2009,“Neuronal regulators and vascular dysfunction in Raynaud’s phenomenon and systemic sclerosis”,Curr.Vascul.Pharmacol.7:34-39。
【0135】
RPのための新しい治療は、アルファ-2Cアドレナリン受容体遮断薬、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、Rho-キナーゼ阻害剤及びカルシトニン遺伝子関連ペプチドを含む。
【0136】
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)はペプチドのカルシトニン族のメンバーであり、及びアルファ-CGRP及びベータ-CGRPの2つの形態で存在する。アルファ-CGRPは、カルシトニン/CGRP遺伝子の選択的スプライシングによって形成された37-アミノ酸ペプチドである。CGRPは、末梢神経及び中枢神経において作られる最もありふれたペプチドの1つである。それは、効能のあるペプチド血管拡張薬であり、痛みの伝導に作用することができる。片頭痛はCGRPの濃度上昇に関連する共通の神経疾患である。CGRPは、脳内血管を拡張し、及び血管痛覚を伝導する。CGRP受容体拮抗薬は、片頭痛の治療として実験された。Arulmani et al.,2004,“Calcitonin gene-related peptide and it role in migraine pathophysiology”,Eur.J.Pharmacol.500(1-3):315-330.少なくとも3つの受容体サブタイプが同定され、CGRPは、Gタンパク質共役型受容体を介して作用し、様々な組織におけるペプチドの作用を調節する機能において変化する。受容体を介したCGRPの情報伝達は、2つの補助的タンパク質、受容体活性修飾因子タンパク質1(RAMP1)及び受容体構成タンパク質(RCP)に依存している。Ghatta 2004、カルシトニン遺伝子関連ペプチドは、その役割が理解されている。Indian J.Pharmacol.36(5):277-283。3つの血管拡張薬、内皮依存性血管拡張薬アデノシン三リン酸(ATP)、内皮非依存性血管拡張薬プロスタサイクリン(エポプロステロール、PGI2)及びCGRPのレイノー現象の患者への静注の効果の1つ、及びCGRPの研究は、レイノー現象を有する患者及びCGRP及びレーザードップラー血流測定法(LDF)を用いて制御に適合した年齢及び性別の同程度の数に対して、レイノー患者において、皮膚血流増大によって顔及び手の潮赤がCGRPによって誘導されるが、制御群においてCGRPは顔のみの潮赤を引き起こしたことを示した。PG12は、両群の手及び顔の血流に同様のことを引き起こした。ATPは、患者の手又は顔の血流にいかなる重大な変化も引き起こさなかったが、制御群の顔における血流は増加させた。Shawket et al.,1989,“Selective suprasensitivity to calcitonin-gene-related peptide in the hands in Reynaud’s phenomenon”.The Lancet,334(8676):1354-1357。一態様において、野生型タンパク質標的分子はCGRPである。
【0137】
一実施形態において、本開示は、通常の生理的温度において可逆的に不活性であるが、指が異常低温であるときには再活性される、レイノー症候群に関連するタンパク質の条件的活性型組換えタンパク質変異体を選択するための方法を提供する。条件的活性型タンパク質は、レイノー現象を治療するため、低循環による指機能の喪失を防止する又は低減させるために用いられることがある。
【0138】
循環障害-バソプレッシン
アルギニンバソプレッシン(AVP、バソプレッシン、抗利尿性ホルモン(ADH))は、組織浸透性に関する腎細管での分子の再吸収を制御する多くの哺乳類で見られるペプチドホルモンである。バソプレッシンの最も重要な役割の1つは、体内における水分保持を調節することである。高濃度において、適度な血管収縮が導かれることで血圧を上昇させる。バソプレッシンは、尿浸透圧(高濃度)の上昇及び水分排泄の減少を結果として引き起こす3つの効果を有する。第1に、バソプレッシンは、水分の再吸収及び濃縮尿(抗利尿)のより少ない量の排出を可能とする腎臓において、集合管細胞の水の透過性の増大を引き起こす。これは、集合管細胞の頂端膜において、アクアポリン2水分チャンネルの挿入を介して起こる。第2に、バソプレッシンは、尿素に集合管の内側髄部分透過性の増大を引き起こし、髄質間質において尿の再吸収の増加を可能にする。第3に、バソプレッシンは、Na+、K+、2Cl-共輸送体の活性を増加することによって、ナトリウムの刺激及びヘンレ係蹄の厚みのある上肢における塩化物の再吸収が起こる。塩化ナトリウム再吸収は、逆流増加の過程によるものであり、集合管髄質での水分再吸収をもたらすアクアポリンにおいての浸透勾配を提供する。
【0139】
腎臓の集合管周辺の高張性間質性流体は、水の除去において高い浸透圧を提供する。アクアポリンと呼ばれるタンパク質によって作られる膜貫通チャンネルは、水への浸透性を非常に高める血漿膜に挿入される。開いているとき、アクアポリンチャンネルは、毎秒30億分子の水を透過させることができる。アクアポリン2チャンネルの挿入は、バソプレッシンによるシグナル伝達を必要とする。バソプレッシンは、集合管細胞の基底側表面で受容体(V2受容体と呼ばれる)と結合する。ホルモンの結合は、細胞内におけるcAMPのレベルを引き上げる引き金となる。この「第2のメッセンジャー」は、集合管細胞の頂端膜でアクアポリン2チャンネルの挿入に結果としてなる連鎖を開始する。アクアポリンは、腎単位の外へ水を排出し、血流に尿を戻すことから水分の再吸収量を増加させる。
【0140】
脳下垂体からのバソプレッシンの放出においての主要な刺激は、血漿のオスモル濃度を増加させる。激しい発汗のような体の脱水はどんなものでも血中のオスモル濃度を増加させ、アクアポリン2経路にV2受容体へのバソプレッシンを作動させる。結果として、尿の0.5リットル/日と同じくらい少量が、元の腎ろ液180リットル/日が残存することがある。尿における塩濃度は血中の4倍であることがある。大量の水を飲むなどして、血液があまりにも希薄となると、バソプレッシン分泌が阻害され、アクアポリン2チャンネルは、エンドサイトーシスによって細胞内に戻される。その結果、血中の4分の1程度の少量の塩濃度で大量の薄い尿が生成される。
【0141】
減少させたバソプレッシン放出又は減少させたAVPへの腎臓の感受性は、尿崩症、高ナトリウム血症状態(血中のナトリウム濃度の増加)、多尿症(過剰な尿生成)及び多飲症(口渇)につながる。
【0142】
AVP分泌の高レベル(不適当な抗利尿ホルモン(SIADH)症候群)及び結果として生じる低ナトリウム血症(低い血液ナトリウム濃度)は、脳疾患及び肺(小さい細胞肺癌)の条件において生じる。周術期間において、外科的ストレス及びいくつかの一般的に用いられる薬物(例えば、阿片剤、シントシノン、制吐剤)の作用は、過剰なバソプレッシン分泌の同様の状態につながる。これは、数日間程度の低ナトリウム血症を引き起こすことがある。
【0143】
バソプレッシン作動薬は、様々な条件において治療的に使用され、及びその長時間作用性の合成類似デスモプレッシンは、出血(フォン・ウィルブラント病の様々な形態において)の制御及び児童による寝小便の極端な場合の制御と同様に、低バソプレッシン分泌を特徴とする条件において使用される。テルリプレッシン及び関連する類似体は、特定の条件において血管収縮剤として用いられる。バソプレッシン注入は、イノトロープ(例えばドーパミン又はノルエピネフリン)の高投与に応じない感染性ショック患者において、管理の第2ラインとして用いられる。バソプレッシン受容体アンタゴニストは、バソプレッシン受容体で作用を妨げる薬剤である。それらは低ナトリウム血症の治療においても使用されることがある。
【0144】
一実施形態において、本開示は、通常の生理的浸透圧において可逆的に不活性であるが、血中における異常浸透圧下において再活性される、バソプレッシン応答において含まれるタンパク質の条件的生物学的組換え又は合成タンパク質のための選択の方法を提供する。他の実施形態において、バソプレッシン応答において含まれるタンパク質の変異体は、ナトリウム欠乏状態において活性化されるが、通常の血清ナトリウム濃度では不活性化される。一態様において、ナトリウム欠乏状態は、血清ナトリウム<135mEq/Lである。
【0145】
癌-アンギオスタチン
アンギオスタチンはいくつかの動物種において自然発生するタンパク質である。それは、内因性血管新生阻害剤(すなわち、新しい血管の成長を阻害する)として作用する。アンギオスタチンは、内皮細胞の増殖及び転移を阻害することで腫瘍細胞の成長及び転移を抑制する。アンギオスタチンはプラスミン(それ自体がプラスミノーゲンのフラグメントである)の38kDフラグメントである。アンギオスタチンは、プラスミノーゲンの1~3クリングルからなる。アンギオスタチンは、例えば、ホスホグリセリン酸キナーゼによる細胞外ジスルフィド結合還元を含むプラスミノーゲンの自己融解開裂によって作られる。アンギオスタチンは、MMP2、MMP12及びMMP9を含む異なる基質メタロプロテイナーゼ、及びセリンプロテアーゼ(好中級エラスターゼ、前立腺特異抗原(PSA))によるプラスミノーゲンから開裂することができる。生体内において、アンギオスタチンは、腫瘍の成長を阻害し、及び実験的転移を休眠状態に維持する。アンギオスタチンは、初期腫瘍、及び他の炎症性及び変性疾患の動物内で上昇する。
【0146】
アンギオスタチンは、アンギオモチン及び内皮細胞表面ATOシンターゼ、インテグリン、アネキシンII、C-met受容体、NG2-プロテオグリカン、組織プラスミノーゲン活性体、コンドロイチン表面糖タンパク質、及びCD26を含む多くのタンパク質と結合することで知られている。ある研究は、強力な抗血管新生活性を有するIL-12、TH1サイトカインはアンギオスタチンの活性のメディエーターであることを示している。Albin”.,J.Translational Medicine.Jan.4,2009,7:5。アンギオスタチンは、内皮細胞表面で結合し、及びATP合成を阻害する。ATP合成はまた、様々な癌細胞表面で生じる。腫瘍細胞表面ATP合成は、低細胞外pH、腫瘍微小環境の特徴にてより活発に見られる。アンギオスタチンは、酸性細胞外pH(pHe)での腫瘍細胞表面ATP合成活性に作用すると見られる。低細胞外pHで、アンギオスタチンは、直接的に抗腫瘍化である。低pHで、アンギオスタチン及び抗ベータサブユニット抗体は、細胞外ATP合成の低レベルな腫瘍細胞において欠けている直接的毒性と同様に、A549癌細胞の細胞内酸性化を導く。腫瘍細胞毒性の機構は、細胞表面ATP合成の阻害に起因して細胞内pH調節解除によっていることが仮定されている。Chi and Pizzo,“Angiostatin is directly cytotoxic to tumor cells at low extracellular pH:a mechanism dependent on cell surface-associated ATP synthase”,Cancer Res.,2006,66(2):875-82。
【0147】
一実施形態において、本開示は通常の生理的血液pHにおいて野生型アンギオスタチンよりも活性が低いが、低pHにおいて、活性の増強を示す条件的活性型アンギオスタチン変異体の同定のための方法を提供する。低pHは、通常の生理的pHよりも低いものとして定義される。一態様において、低pHはpH約7.2以下である。特定の態様において、低pHはpH約6.7である。
【0148】
一態様において、条件的活性型アンギオスタチン変異体は抗癌剤として処方され、利用されることがある。
【0149】
組織浸透性の増進-ヒアルロニダーゼ
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を分解させる酵素の一系統である。ヒアルロン酸、格子間障壁の主要構成要素の分解を引き起こすことによって、ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸の粘性を低下させ、それによって、組織透過率を上昇させる。薬剤の分散及び運搬を速くするために、薬剤に関連して医学において用いられる。最も一般的な適用は、眼の手術において、局所麻酔約と組み合わせて使用される。動物由来のヒアルロニダーゼは、Hydase(商標)(PrimaPharm Inc.;Akorn me)、ビトラーゼ(ISTA Pharmaceuticals)、Amphadase(Amphastar Pharmaceuticals)を含む。ヒト組換えヒアルロニダーゼは、他の薬剤の吸収を増加させる補助剤として現在承認されている。Hypodermocyclis(流体の皮下注入)、放射線不透過性薬剤の吸収を改良する、皮下尿路造影における補助剤(Hylenex;Halozyme Therapeutics,Inc.;Baxter Healthcare Corp)。一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質の調製のために、ヒアルロニダーゼは野生型タンパク質(親分子)として使われる。ヒアルロニダーゼは、癌転移及び血管新生において役割を果たすことができる。従って、これらの酵素に対する露出過度は有害であることがある。一態様において、条件的活性型生物学的ヒアルロニダーゼタンパク質は、正常生理的温度において不可逆的又は可逆的に不活性であるが、正常生理的温度よりも低い特定の温度範囲において、野生型ヒアルロニダーゼと等しい又は上回るレベルで活性である。
【0150】
自己免疫疾患-条件的活性型生物学的応答修飾因子
リウマチ性関節炎は、関節炎及び関節の進行的破壊による腫れにつながる、異常免疫機構によって特徴付けられた自己免疫疾患である。RA(リウマチ性関節炎)は皮膚、結合組織及び体内の器官にも作用することがある。従来の治療は、非ステロイドの抗炎症薬剤(NSAIDS)、COX-2阻害剤及びメトトレキサートのような疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDS)を含む。従来の治療方式は、特に長期間の使用において、いずれも理想的ではない。
【0151】
炎症メディエーターを標的とする生物学的応答修飾因子は、リウマチ性関節炎及び他の自己免疫疾患の治療に、相対的に新規な手法を提供する。このような生物学的応答修飾因子には、IL-6、IL-6受容体、TNF-アルファ、IL-23及びIL-12のような様々な炎症メディエーターに対する抗体又はそれらの活性部分を含む。
【0152】
第1の生物学的応答修飾因子のいくつかは、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-a)、RAの病因において含まれる炎症促進性サイトカインを標的とする薬物である。いくつかの抗TNFアルファ薬剤は、RAの治療のため現在市販されている。例えば、エンブレル(登録商標)(エタネルセプト、アムゲン)はTNF-アルファ遮断薬である。エタネルセプトは、ヒトIgGIのFc部分に結合されるヒト75キロドルトン(p75)腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外連結結合部分からなる二量体溶融タンパク質である。エタネルセプトのFc成分は、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びヒンジ領域を含むが、IgGIのCh1ドメインは含まない。エタネルセプトはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)哺乳類細胞発現系で作られる。それは、934アミノ酸からなり、見かけの分子量は約150キロドルトンである。エンブレル(登録商標)はリウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、及び尋常性乾癬の治療に使用される。エンブレル(登録商標)の重大な副作用には、結核、真菌感染、日和見病原体によるウイルス感染を含む感染症を含む。敗血症が生じることもある。リンパ腫又は他の悪性腫瘍も報告されている。
【0153】
レミケード(登録商標)(インフリキシマブ)は、ヒト恒常的領域及びネズミ可変領域からなるキメラ抗-TNF-アルファIgGKI単一クローン抗体である。レミケードは静注で投与され、及びリウマチ性関節炎、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎及び強直性脊椎炎の治療に使用される。レミケードの副作用は、重篤な感染症又は敗血症、及び稀に特定のT細胞リンパ腫を含む。他の副作用は、肝毒性、特定の重篤な血液学的事象、過敏性反応及び特定の神経学的事象を含む。
【0154】
他の生物学的応答修飾因子は、ヒト化抗インターロイキン-6(IL-6)受容体抗体を含む。IL-6は、炎症、腫れ、及びRAにおける関節損傷に寄与するサイトカインである。1つのヒト化抗IL-6受容体抗体、アクテムラ(トシリズマブ、Roche)は、FDA及び欧州委員会によって、リウマチ性関節炎の成人患者を治療するとして承認されている。アクテムラはまた、日本においてもRA及び若年性関節リウマチ(sJIA)の治療において承認されている。段階III研究は、他の治療薬と比較して、アクテムラによる治療は、単独治療としても、また、MTX又は他のDMARDとの組み合わせでも、RAの兆候及び症状を減少させると示している。アクテムラは、その受容体にIL-6の結合を競合的に遮断するヒト化IL-6受容体単クローン抗体である。従って、それは、RAにおける滑膜肥厚及びパンヌス形成につながるIL-6の増殖作用を阻害する。アクテムラの重大な副作用は、重篤な感染症及びアナフィラキシーのいくつかの場合を含む過敏反応を含む。他の副作用は、上気道感染症、頭痛、鼻咽頭炎、高血圧及び増加ALTが含まれる。
【0155】
他の共通の自己免疫疾患は乾癬である。免疫系の過剰活性は、IL-12及びIL-23、乾癬皮膚斑で見られる2つのサイトカインタンパク質の高濃度につながることがある。IL-12及びIL-23は、ナチュラルキラー細胞活性化及びCD4+T細胞分化及び活性化のような、炎症性及び免疫性応答において含まれる。
【0156】
中程度の又は重症な乾癬における一治療は、ステラーラ(商標)(ウステキマヌブ、Centocor Ortho Biotech,Inc.)IL-12及びIL-23サイトカインのp40サブユニットに対するヒト化IgGIk単クローン抗体の皮下注射を含む。ステラーラは、斑肥厚、皮膚のはがれ、赤みなどの乾癬斑に関する特定の症状からの軽減を提供することが示されている。ステラーラ用製剤は、L-ヒスチジン及びL-ヒスチジン塩酸塩水和物、ポリソルベート80、及び水溶液中のショ糖を含む。ステラーラ(商標)の使用は、免疫系に作用し、及び特定の型の癌の危険性を増すのと同様に、結核及びバクテリア、真菌又はウイルスによって引き起こされる感染症を含む感染症の機会を増やす。
【0157】
生物学的応答修飾因子の副作用は、重篤であり、患者への高レベルの注入によって、患者を重篤な感染症又は死に影響されやすくすることがある。これが薬剤のこの重要な種類に関連する大きい副作用である。1つの課題は、注入後に長い治療効果を提供するために必要な抗体の投与から活性の高い初期レベルを回避することである。
【0158】
一実施形態において、本開示は条件的活性型生物学的応答メディエーター又はそれらのフラグメントを調製するための方法を提供し、注入後に長い治療効果を提供するために必要な抗体の投与から活性の高いレベルを回避するものである。本開示の方法は、室温のような投与条件では不活性であるが、体温ではゆっくりとリフォールド(可逆的又は不可逆的に)する、IL-6、IL-6受容体、TNF-アルファ、IL-23及びIL-12のような炎症メディエーターに対する抗体を設計するために用いられることがある。これらの抗体又はそのフラグメントは、最初の注入に応じて不活性であるが、血液注入に露出されると、数時間から数日の機関にわたって、リフォールド又は再活性される。これは、副作用の減少による、より高い投与量及びより長い半減期(又は投与期間)を可能にするものである。
【0159】
一態様において、本開示は、室温などの投与条件では不活性であるが、体温では(可逆的又は不可逆的に)ゆっくりとリフォールディングされる、炎症性メディエーターに対する条件的活性型抗体、又はそのフラグメントの調製方法を提供する。本方法は、以下の工程:炎症性メディエーターを選択する工程、ハイブリドーマを用いて炎症性メディエーターに対する抗体を同定するためスクリーニングする工程、抗炎症性メディエーター抗体をヒト化する工程、抗炎症性メディエーター抗体を発達させる工程、及び2つ以上の条件、例えば室温と37℃以上などの2つ以上の温度条件で結合に関して差次的にスクリーニングする工程、野生型と比べて第1の条件で不活性であるが、第2の条件では野生型抗体活性(結合)と比べて活性(例えば結合)の増加を示す突然変異に関して選択する工程を含む。次に、重鎖及び軽鎖に同定された上昇変異体を、重鎖及び軽鎖内で、並びに重鎖及び軽鎖のコンビナトリアル結合を介して組み換える。これらの組換え重鎖及び軽鎖のスクリーニングを2つの条件、例えば室温及び37℃以上で繰り返す。加えて、組換え抗体又はフラグメントを、貯蔵条件下及び生理条件下における活性及び安定性に関してスクリーニングすることができる。
【0160】
或いは、炎症メディエーターへの野生型抗体は、抗体又は変異体又はそれらの活性フラグメントが知られている。
【0161】
一態様において、第1及び第2の条件は、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス及び電荷濃度から選択される。他の態様において、炎症メディエーターは、IL-6、IL-6受容体、TNF-アルファ、IL-23及びIL-12から選択される。
【0162】
別の態様において、本開示は、室温などの投与条件では不活性であるが、体温では(可逆的又は不可逆的に)緩徐にリフォールディングする、IL-6に対する条件的活性型抗体、又はそのフラグメントを調製する方法を提供する。この方法は以下の工程を含む。IL-6に対する抗体に関して完全ヒトライブラリをスクリーニングする工程。IL-6抗体を発達させる工程及び室温と37℃以上とで分子に関して差次的にスクリーニングする工程;室温では野生型と比べて不活性であるが、野生型抗体活性(結合)と比べて活性(例えば結合)の増加を示す突然変異に関して選択する工程。次に、重鎖及び軽鎖に同定された上昇変異体を、重鎖及び軽鎖内で、並びに重鎖及び軽鎖のコンビナトリアル結合を介して組み換える。これらの組換え重鎖及び軽鎖のスクリーニングを室温及びより高温で繰り返す。加えて、貯蔵条件下及び生理条件下における活性及び安定性に関して組換え抗体又はフラグメントを試験する。
【0163】
従って同定され、及び製造された条件的活性型抗IL-6抗体は、それを必要とする患者に有効な量を投与することによって、リウマチ性関節炎又は乾癬のような自己免疫疾患を治療するための方法において使用され、従来の生物学的応答修飾因子抗IL-6抗体の投与と比較して副作用を低減している。この方法の利点の1つは、数週間又は数カ月にわたって半減期のクリアランスが続く生物学的応答修飾剤の現在の高いレベルと比較して、治療期間にわたっての薬剤量の平滑化及び平準化ができることである。
【0164】
ライブラリからの野生型タンパク質の選択
野生型タンパク質は、バクテリオファージディスプレイライブラリなどの野生型タンパク質ライブラリから選択され得る。かかる実施形態では、野生型タンパク質の多数の候補をバクテリオファージライブラリで、特に表面ディスプレイ技術によって発現させる。好適な野生型タンパク質に関してライブラリからの候補をスクリーニングする。典型的なバクテリオファージライブラリは、細菌宿主で候補を発現するバクテリオファージを含有し得る。一実施形態において、バクテリオファージライブラリは複数のバクテリオファージを含み得る。
【0165】
バクテリオファージライブラリの構築には、典型的には繊維状大腸菌ファージM13などの繊維状バクテリオファージが、候補をコードするオリゴヌクレオチドをバクテリオファージコートタンパク質のうちの1つのコード配列に挿入することによって遺伝子修飾される。バクテリオファージ粒子のコートタンパク質は、結果的に候補と共に発現し、従ってバクテリオファージ粒子の表面上に候補が提示される。次に、提示された候補を好適な野生型タンパク質に関してスクリーニングし得る。
【0166】
好適な野生型タンパク質に関してスクリーニングする一つの一般的な技術は、所望の候補を含むバクテリオファージ粒子を支持体上に固定化することによるものである。支持体は、望ましい候補と結合し得る「ベイト」で被覆されたプラスチックプレートであり得る。未結合のバクテリオファージ粒子をプレートから洗い流し得る。プレートに結合しているバクテリオファージ粒子(望ましい候補を含む)を洗浄によって溶出させ、溶出したバクテリオファージ粒子を細菌で増幅する。次に、選択されたバクテリオファージ粒子における候補をコードする配列をシーケンシングによって決定し得る。候補とベイトとの間の関係は、例えば、リガンド-受容体又は抗原-抗体の関係であり得る。
【0167】
好適な野生型タンパク質に関してスクリーニングする別の一般的な技術は、候補が呈する所望の酵素活性に関する個々のバクテリオファージクローンの酵素アッセイを用いることによるものである。比酵素活性に応じて、当業者は、所望のレベルの酵素活性を有する候補をスクリーニングする適切なアッセイを設計することができる。
【0168】
一部の実施形態において、バクテリオファージライブラリは、各バクテリオファージクローンがアレイ上の特定の位置を占めるようなアレイとして提供される。かかるアレイは固体支持体、例えば、膜、寒天プレート又はマイクロタイタープレート上に提供されてもよく、マイクロタイタープレートの場合、ライブラリの各バクテリオファージクローンは固体支持体上の特定の所定位置でそれに付加され又は付着する。寒天プレートの場合、好ましくはかかるプレートは細菌成長培地を含んで細菌の成長を補助する。アレイが膜上、例えば、ニトロセルロース又はナイロン膜上に提供される場合、細菌培養物は膜上に加えられ、その膜が栄養成長培地に浸漬される。加えて、バクテリオファージクローンはまたビーズ上に提供されてもよく、この場合単一のバクテリオファージクローンを単一のビーズに付着させることができる。或いはバクテリオファージクローンは各々が光ファイバーの端部に提供されてもよく、この場合、ファイバーを使用して光源からの紫外線放射が光学的に伝達される。
【0169】
典型的なバクテリオファージライブラリには106~1010個の組換えバクテリオファージが含まれることもあり、その各々が、異なる候補を担持するコートタンパク質(例えばファージM13の場合gp3又はgp8)によって区別される。バクテリオファージライブラリの細菌宿主は、例えば、サルモネラ属(Salmonella)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、赤痢菌属(Shigella)、リステリア属(Listeria)、カンピロバクター属(Campylobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、エルシニア属(Yersinia)、シュードモナス属(Pseudomonas)及び大腸菌属(Escherichia)を含む細菌属から選択され得る。
【0170】
候補をコードするオリゴヌクレオチドは、野生型タンパク質をコードするcDNAのコレクションであり得る。好適な野生型タンパク質を発現し得る生物学的試料からcDNAを合成する方法は公知である。転写物を介して生理活性を示す任意の遺伝情報をcDNAとして収集し得る。cDNAの作製時には、完全長cDNAを合成することが不可欠である。完全長cDNAの合成に用い得る方法は幾つかある。例えば、好適な方法としては、5’キャップ部位の標識に酵母又はHela細胞のキャップ結合タンパク質を利用する方法(I.Edery et al.,“An Efficient Strategy To Isolate Full-length cDNAs Based on a mRNA Cap Retention Procedure(CAPture)”,Mol.Cell.Biol.,vol.15,pages 3363-3371,1995);及び5’キャップを有しない不完全cDNAのリン酸をアルカリホスファターゼを用いて取り除き、次に全cDNAをタバコモザイクウイルスのデキャッピング酵素で処理すると完全長cDNAのみがリン酸を有するようになる方法(K.Maruyama et al.,“Oligo-capping:a simple method to replace the cap structure of eukaryotic mRNAs with oligoribonucleotides”,Gene,vol.138,pages 171-174,1995及びS.Kato et al.,“Construction of a human full-length cDNA bank”,Gene,vol.150,pages 243-250,1995)が挙げられる。
【0171】
野生型タンパク質候補のライブラリはまた、ある生物の完全な抗体レパートリーに由来する組換え抗体を用いて作製することもできる。レパートリーを表す遺伝情報が完全抗体の大規模コレクションとしてアセンブルされ、これを、所望の抗原結合活性及び/又は1つ以上の他の機能的特性を有する好適な野生型抗体に関してスクリーニングし得る。一部の実施形態では、抗原で免疫した動物由来のB細胞、例えば、ヒト、マウス、又はウサギB細胞などを単離する。単離したB細胞からmRNAを回収し(cDNAに変換し)、塩基配列決定する。軽鎖をコードする最も頻度の高いcDNAフラグメント及び重鎖をコードする最も頻度の高いcDNAフラグメントをアセンブルして抗体にする。一実施形態では、軽鎖をコードする100個の最も頻度の高いcDNAフラグメント及び重鎖をコードする100個の最も頻度の高いcDNAフラグメントをアセンブルして抗体を作製する。別の実施形態において、最も頻度の高いcDNAフラグメントは重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域をコードするのみであり、従ってアセンブルした抗体は可変領域のみを含有し、定常領域は含有しない。
【0172】
一部の実施形態において、B細胞から単離したmRNA由来のものを含め、IgG重鎖の可変領域をコードするcDNAフラグメントが軽鎖の最も頻度の高いIgK又はIgK可変領域とアセンブルされる。アセンブルされた抗体は、IgG由来の重鎖可変領域とIgK由来の軽鎖可変領域又はIgKとを含有する。
【0173】
次に、アセンブルした抗体をコードするcDNAを、好ましくはプレートベースのフォーマットでクローニングして発現させる。発現した抗体の結合活性はビーズベースのELISA分析で分析してもよく、好適な野生型抗体はELISA分析に基づき選択し得る。アセンブルした抗体をコードするcDNAはまた、バクテリオファージディスプレイライブラリで発現させてもよく、次にはこれを本明細書に開示される技法のいずれか一つによって1つ以上の望ましい野生型抗体に関してスクリーニングし得る。
【0174】
野生型タンパク質が抗体である実施形態において、野生型抗体は好ましくは、それを条件的活性型抗体に発達させることを容易にする特定の特性を有する。特定の実施形態において、野生型抗体は、正常生理条件下及び異常条件下の両方で類似した結合活性及び/又は特性を有し得る。かかる実施形態において、野生型抗体は、正常生理条件下及び異常条件下の両方で最も類似した結合活性及び/又は最も類似した1つ以上の特性の組み合わせを有することに基づき選択される。例えば、正常生理条件及び異常条件がそれぞれpH7.4及びpH6.0である場合、pH7.4及び6.0での類似性が低い結合活性を有する抗体よりも、pH7.4及び6.0で最も類似した結合活性を有する野生型抗体が選択され得る。
【0175】
野生型タンパク質の選択後、その野生型タンパク質をコードするDNAを好適な突然変異誘発技法を用いて発達させて変異DNAを作製し、次にこれを発現させることにより、条件的活性型生物学的タンパク質を同定するためスクリーニングにかける変異タンパク質を作製し得る。一部の実施形態において、発達させるのは最小限であってよく、例えばごく少数の突然変異のみを野生型タンパク質に導入して、所望の条件的活性を有する変異タンパク質が作製される。例えば、好適な条件的活性型生物学的タンパク質の作製には、20個未満の変化、場合により18個未満の変化をCPEによって各部位に導入することで十分であり得る。CPSについては、望ましい条件的活性型生物学的タンパク質の作製に、野生型タンパク質における6個未満の上昇突然変異、又は5個未満の上昇突然変異、又は4個未満の上昇突然変異、又は3個未満の上昇突然変異、又は2個未満の上昇突然変異の組み合わせが十分であり得る。
【0176】
一部の実施形態において、野生型タンパク質のライブラリ(例えばバクテリオファージライブラリ及び/又は組換え抗体ライブラリ)が十分に大きい場合、発達させる工程及び発現させる工程は不要であり得る。かかる大規模ライブラリは、条件的活性特性を有する(正常生理条件下のアッセイで低い活性及び異常条件下のアッセイで高い活性の両方を有する)野生型タンパク質を含有し得る。これらの実施形態では、ライブラリ中の野生型タンパク質を選択工程に供することにより、異常条件下でのアッセイにおける同じタンパク質と比べて正常生理条件下でのアッセイで活性が低い条件的活性型生物学的タンパク質を発見する。一実施形態では、ライブラリ中の野生型タンパク質が、参照タンパク質と共に、正常生理条件下でのアッセイと異常条件下でのアッセイとに個別に供される。ライブラリから選択される条件的活性型生物学的タンパク質は、異常条件下での同じタンパク質の活性と比較して正常生理条件下でより低い活性を呈するものである。この実施形態では、ライブラリが十分に大きいため、条件的活性特性を備えた野生型タンパク質がライブラリに既に存在する。条件的活性型生物学的タンパク質を発見するために野生型タンパク質を発達させる必要はない。
【0177】
一部の実施形態において、選択工程には比較用の参照タンパク質が用いられ得る。参照タンパク質は、正常生理条件下及び異常条件下の両方で類似した又は同じ活性を有する点で条件的活性型ではないものであり得る。参照タンパク質は、ライブラリ中の野生型タンパク質と同種のタンパク質、例えば同種の酵素、抗体又は機能ペプチドである。参照タンパク質はまた、同種の組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、レニン、ヒアルロニダーゼ、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP(SP)、ニューロペプチドY(NPY)、血管作動性腸管ペプチド(VTP)、バソプレシン又はアンジオスタチンであってもよい。例えば、ライブラリに、ある抗原に対する野生型抗体が多数含まれる場合、参照タンパク質は、正常生理条件及び異常条件の両方でその抗原との結合に関して同じ又は類似した活性を有する同じ抗原に対する抗体である。
【0178】
従って、一実施形態では、ライブラリ中の野生型タンパク質が、参照タンパク質と共に、正常生理条件下でのアッセイと異常条件下でのアッセイとに個別に供される。ライブラリから、(a)参照タンパク質との比較で正常生理条件下における活性の低下、及び(b)参照タンパク質との比較で異常条件下における活性の増加の両方を呈する条件的活性型生物学的タンパク質が選択される。
【0179】
条件的活性型生物学的タンパク質の生成方法
1つ以上の突然変異誘発技術は、変異DNAのライブラリを作るための野生型タンパク質をエンコードするDNAを発達させるのに使用される。変異DNAは、変異タンパク質のライブラリを作るために発現され、及びこのライブラリは、正常生理的条件下及び1つ以上の異常条件下でスクリーニング分析するために対象とされる。条件的活性型生物学的タンパク質は、(a)野生型タンパク質と比較して正常生理的条件下での分析において活性が減少すること、及び(b)野生型タンパク質と比較して異常条件下での分析において活性が増大することの両方を示すこれらのタンパク質から選択される。或いは、条件的活性型生物学的タンパク質は、2つ以上の異なる生理的条件において、可逆的に又は不可逆的に活性の変化を示すこれらのタンパク質から選択される。一部の実施形態において、野生型タンパク質は抗体である。
【0180】
一部の実施形態において、発達させるタンパク質は野生型タンパク質のフラグメント又は野生型抗体のフラグメントであり得る。一部の他の実施形態において、発達させるタンパク質は、突然変異誘発方法によって選択されたタンパク質であってもよく、ここでこのタンパク質は、高い結合親和性、高い発現レベル又はヒト化など、所望の特性を有するため選択される。選択されたタンパク質が(この場合、これは野生型タンパク質でない)、本明細書に開示される方法において発達させるタンパク質として用いられ得る。かかる実施形態において、本発明の方法は、野生型タンパク質、野生型タンパク質のフラグメント及び変異タンパク質からタンパク質を選択する工程、選択されたタンパク質をコードするDNAを発達させて変異DNAを作製する工程、変異DNAを発現させて変異タンパク質を作製する工程、変異タンパク質をスクリーニングして、(a)正常生理条件でのアッセイにおける選択されたタンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下でのアッセイにおける選択されたタンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する条件的活性型生物学的タンパク質を作製する工程を含む。
【0181】
親分子からの発達分子の生成
条件的活性型生物学的タンパク質は、突然変異誘発方法と、非野生型条件での活性が野生型条件での活性と同じままであるか又はそれより良好である一方での野生型条件での活性の低下に関して個々の突然変異をスクリーニングすることとによって生成することができる。
【0182】
本開示は酵素活性を有するポリペプチドをエンコードする核酸変異体を生成するための方法を提供するものであって、ここで、この変異体は、自然発生のものから異常生理的活性を有するものであり、この方法は、(a)(i)異なるヌクレオチドと1つ以上のヌクレオチドを置換する工程。ここで、ヌクレオチドは自然又は非自然のヌクレオチドからなる。(ii)1つ以上のヌクレオチドを欠失する工程。(iii)1つ以上のヌクレオチドを付加する工程、又は(iv)任意のこれらの組み合わせによって核酸を修飾する工程、からなる。一態様において、非自然のヌクレオチドは、イノシンからなる。他の態様において、この方法は、異常酵素活性のために修飾された核酸によってエンコードされたポリペプチドを分析する工程、それによって、異常酵素活性を有するポリペプチドをエンコードする修飾された核酸を同定する工程からなる。一態様において、工程(a)の修飾は、PCR、エラープローンPCR、シャフリング、オリゴヌクレオチド指定突然変異、アセンブリPCR、性的PCR突然変異、生体内突然変異、カセット突然変異、再帰的アンサンブル突然変異、指数的アンサンブル突然変異、位置特異的突然変異、遺伝子再構築、遺伝子位置飽和突然変異、リガーゼ鎖反応、生体外突然変異、リガーゼ鎖反応、オリゴヌクレオチド合成、任意の遺伝子生成技術、及びこれらの組み合わせによってなされる。他の態様において、この方法はさらに修飾工程(a)の少なくとも1回の繰り返しからなる。
【0183】
本開示は、さらに、2つ以上の核酸からポリヌクレオチドを製造するための方法を提供する。この方法は、次の(a)~(c)からなる。(a)2つ以上の核酸間で同一の領域及び多様な領域を同定する工程。そこでは、この核酸の少なくとも1つは、本開示の核酸からなる。(b)2つ以上の核酸の少なくとも2つの配列に対応するオリゴヌクレオチドのセットを提供する工程。及び(c)ポリメラーゼでオリゴヌクレオチドを延長し、それにより、ポリヌクレオチドを製造する工程。
【0184】
任意の突然変異誘発の技術は、本開示の様々な実施形態において使用されることがある。確率的又はランダムな突然変異誘発は、予定されていない突然変異を有する一連の子孫分子を得るために、親分子が変異する(修飾される又は変えられる)状況によって例証される。従って、生体外確率的突然変異誘発反応は、例えば、その製造が意図されたものではない、特に予定されていない製造物である。むしろ、得られる変異の正確な性質に関して、従って、生成される製造物に関して、不確定、従ってランダムである。確率的突然変異誘発は、エラープローンPCR及び確率的シャフリングのような、変異がランダム又は予定されていない方法において示される。変異体形成は、エラープローンPCRのようなエラープローン転写や、プルーフリーディング活性が欠けるポリメラーゼの使用(Liao(1990)Gene 88:107-111参照)又は変異株(変異宿主細胞は以下にさらに詳細に議論されており、これは一般的によく知られている)において第1の形態の複製によるものである。突然変異誘発因子株は、不整合な修復の機能において欠損される任意の変異体を含むことができる。これらは、mutS、mutT、mutH、mutL、ovrD、dcm、vsr、umuC、umuD、sbcB、recJなどの変異遺伝子生成物を含む。欠損は、遺伝子突然変異、対立遺伝子交換、微小化合物又は発現されたアンチセンスRNA又は他の技術によって得られる。欠損は、記述された遺伝子又は任意の有機体における相同遺伝子であることがある。
【0185】
開始分子から選択的タンパク質を作るために、現在、広く使われている突然変異誘発の方法は、オリゴヌクレオチド指定突然変異技術、エラープローンポリメラーゼ鎖反応(エラープローンPCR)及びカセット突然変異誘発であり、そこでは、最適化される特定の領域は、合成的に突然変異を誘発されたオリゴヌクレオチドと置換される。これらの場合、多くの突然変異部位は元の配列における特定の部位の周辺で発生する。
【0186】
オリゴヌクレオチド指定突然変異において、短い配列は、合成的に突然変異を誘発されたオリゴヌクレオチドと置換される。オリゴヌクレオチド指定突然変異において、ポリヌクレオチドの短い配列は、制限酵素消化を使用する合成ポリヌクレオチドから除かれ、様々な塩基が元の配列から変更された合成ポリヌクレオチドと置換される。ポリヌクレオチド配列は化学的突然変異誘発によって変更されることもある。化学的突然変異ゲ原は、例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、又はギ酸を含む。ヌクレオチド前駆体と類似の他の薬剤は、ニトロソグアニジン、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、又はアクリジンを含む。一般的に、これらの薬剤は、それにより配列を変位させるヌクレオチド前駆体の代わりにPCR反応に加えられる。プロフラビン、アクリフラビン、キナクリンなどのような薬剤の挿入が使用されることもある。ポリヌクレオチド配列のランダムな突然変異誘発は、X線又は紫外線照射によって得られることがある。一般的に、突然変異誘発されたプラスミドポリヌクレオチドは、大腸菌(E.coli)内に導入され、交雑プラスミドのプール又はライブラリとして伝播される。
【0187】
エラープローンPCRは、長い配列にわたってランダムに点突然変異の低レベルを導入するための低忠実度重合条件を使用する。未知の配列のフラグメントの混合物において、エラープローンPCRは、混合物を突然変異誘発するのに用いられることがある。
【0188】
カセット突然変異誘発において、単一テンプレートの配列遮断は、典型的にはランダム配列によって(部分的に)置換される。Reidhaar-Olson J F and Sauer R T:Combinatorial cassette mutagenesis as a probe of the informational content of protein sequences.Science 241(4861):53-57,1988。
【0189】
或いは、非確率的又は非ランダムな遺伝子突然誘発の任意の技術も本開示の様々な実施形態において使用することができる。非確率的突然変異誘発は、1つ以上の予め決定された変異を有する分子を得るために、親分子が変異される(修飾される、又は変化される)状況によって例証される。ある程度の量におけるバックグラウンド製造物の存在が、分子プロセシングの起こる多くの反応において実在し、及びバックグラウンド製造物の存在が、予定されていない製造物を有する突然変異誘発工程の非確率的性質から減じないことはよく理解されている。部位-飽和突然変異誘発及び合成結紮リアセンブリは、遺伝子突然変異誘発技術の例であり、そこで意図された製造物の正確な化学的構造は予定されたものである。
【0190】
部位-飽和点突然変異誘発の1つの方法は、米国特許出願公開第2009/0130718号明細書に記載されている。この方法は、テンプレートポリヌクレオチドのコドンに対応する一連の変性プライマーを提供し、及び変性プライマーに対応する配列を含む子孫ポリヌクレオチドを製造するためのポリメラーゼ伸長を実行する。子孫ポリヌクレオチドは、直接的発達において発現され、及びスクリーニングされる。具体的には、これは、一連の子孫ポリペプチドを製造するための方法であって、工程(a)テンプレートポリペプチド配列をエンコードするコドンの複数からそれぞれなるテンプレートポリペプチドのコピーを提供する工程、及び(b)テンプレートポリヌクレオチドの各コドンにおいて、(1)一連の変性プライマーを提供する工程、そこでは、各プライマーはテンプレートポリヌクレオチドのコドンに対応する変性コドンからなり、少なくとも1つの隣接配列は、テンプレートポリヌクレオチドのコドンに隣接する配列に相同である、(2)プライマーがテンプレートポリヌクレオチドのコピーにアニール可能な条件を提供する工程、及び(3)テンプレートに沿ったプライマーからのポリメラーゼ伸長反応を実行する工程の(1)~(3)の工程を実行し、それによって子孫ポリヌクレオチドを提供し、それぞれがアニールされたプライマーの変性コドンに対応する配列を含み、それによって一連の子孫ポリヌクレオチドを製造する。
【0191】
部位-飽和突然変異誘発は、核酸の誘導された発達及び例えば核酸活性及び/又は特異的タンパク質、特に酵素、対象の活性のような結果として生じる対象の活性において発達した核酸を含むクローンのスクリーニングに関するものである。
【0192】
この技術によって提供された突然変異誘発された分子は、糖、脂質、核酸及び/又はタンパク質組成物を含む生物学的分子を含む、キメラ分子及び点突然変異を有する分子を有することがあり、及び特異的であるが非限定的なこれらの実施例は、抗生物質、抗体、酵素、及びステロイド及び非ステロイドホルモンを含む。
【0193】
部位飽和突然変異誘発は、1)分子の子孫世代を調製する工程(ポリヌクレオチド配列からなる分子、ポリペプチドからなる分子、及びポリヌクレオチド配列の部分及びポリペプチド配列の部分からなる分子を含む)、これは少なくとも1つの点突然変異、付加、欠失及び/又はキメラ化を1つ以上の祖先又は親世代テンプレートから得るための突然変異誘発である、2)子孫生成分子をスクリーニングする工程 - 好適には、対象の少なくとも1つの性質(例えば、酵素活性における改良、又は安定性の増加、又は新規の化学療法的効果)において、高スループット法を使用する工程、3)親及び/又は子孫世代分子に関する構造及び/又は機能的情報を任意選択により得る及び/又は一覧にする工程、及び4)任意の工程1)~3)を任意選択により繰り返す工程からなる方法を一般的に意味する。
【0194】
部位飽和突然変異誘発において、生成された(例えば、親ポリヌクレオチドテンプレートから)「コドン部位飽和突然変異誘発」と称されるポリヌクレオチドの子孫世代は、全てのコドン(又は同じアミノ酸をエンコードする変性コドンの全系統)が各コドン位置で表れるように、それぞれが、3つ以上の隣接点突然変異(すなわち、新しいコドンからなる異なる塩基)の少なくとも1組を有する。このポリヌクレオチドの子孫世代に対応する、及びこのポリヌクレオチドの子孫世代によってエンコードされるのは、それぞれ少なくとも1つの単一アミノ酸点突然変異を有する、生成された一連の子孫ポリペプチドである。好適な態様において、生成された「アミノ酸部位飽和突然変異誘発」と称される一例は、ポリペプチドに沿った各アミノ酸位置及び全アミノ酸位置でアルファアミノ酸置換を形成する、自然にエンコードされる19のポリペプチドのそれぞれにおける変異ポリペプチドである。この収量は - 親ポリペプチドに沿った各アミノ酸位置及び全アミノ酸位置-元のアミノ酸を含む20の異なる子孫ポリペプチドの全て、又は付加アミノ酸が、20の自然にエンコードされたアミノ酸の代わりに、又は付加されてのいずれかで使用される場合、潜在的に21以上の異なる子孫ポリペプチドである。
【0195】
他の突然変異誘発技術は、組換えを含んで用いられることがあり、より具体的には、部分的相同の領域を含むポリヌクレオチド配列の生体内再集合の方法によって、ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを調製するための方法、少なくとも1つのポリヌクレオチドを形成するためのポリヌクレオチドをアセンブリする方法、有用な性質を有するポリペプチドの製造のためにポリヌクレオチドをスクリーニングする方法を含む。
【0196】
他の態様において、突然変異誘発技術は、分子を組換えるため、及び/又は配列及び相同領域を有する反復又は連続した配列の範囲の煩雑さを減らす縮小した方法を伝達するため、細胞の本来の性質を利用する。
【0197】
様々な突然変異誘発技術は、活性を強化された生物学的活性交雑ポリペプチドをエンコードする交雑ポリペプチドを生成するための方法を提供するため、単独で、又は組み合わせて用いられることがある。これら及び他の目的を達成することにおいて、本開示の一態様に従って、適当な宿主細胞内にポリペプチドを導入し、交雑ポリヌクレオチドエオ製造するための条件下で宿主細胞を成長させる方法が設けられている。
【0198】
キメラ遺伝子は、制限酵素によって生成される互換性のある粘着末端を使用する2つのポリヌクレオチドフラグメントを接合することによって作られる。ここで、各フラグメントは、別々の祖先(親)分子に由来する。他の実施例は、単一部位突然変異誘発されたポリペプチドのためにエンコードする単一子孫ポリヌクレオチドを生成するための親ポリヌクレオチドにおいて、単一コドン位置の突然変異誘発(すなわち、コドン置換、付加、欠失を得るため)である。
【0199】
さらに、生体内部位特異的組換え系は、生体内組換えのランダムな方法と同様に、遺伝子の交雑の生成、及び相同であるが、プラスミド上で切断された遺伝子間の組換えの生成のために利用される。突然変異誘発はまた、重複拡張及びPCRによっても報告された。
【0200】
非ランダムな方法は、点突然変異及び/又はキメラ化のより大きい数を得るために使用し、例えば、総合的又は包括的な方法は、テンプレート分子において特異的構造群(例えば、特異的単一アミノ酸位置又は2つ以上のアミノ酸位置からなる配列)に機能的に属するために、及び突然変異の特異的な群化を分類し、比較するために、特定の突然変異の群化において全ての分子種を生成するために用いられる。
【0201】
これらの、又は他の任意の発達させる方法は、本開示において、1つ以上の親分子から新規な分子の個体群(ライブラリ)を生成する。
【0202】
構築物は、形成後、既発表のプロトコルに従いアガロースゲルでサイズ分画され、クローニングベクターに挿入され、且つ適切な宿主細胞にトランスフェクトされてもよく、又はされなくてもよい。
【0203】
発達させた分子の発現
変異分子のライブラリが生成されると、DNAは通常の分子生物学的技術を使用して発現されることができる。従って、タンパク質発現は、様々な周知の方法を使用して管理されることができる。
【0204】
例えば、簡単には、野生型遺伝子は本明細書において示されるような任意の種々のランダム法又は非ランダム法を使用して発達されることができる。変異DNA分子はその後消化され、標準の分子生物学的技術を用いてプラスミドDNA等のベクターDNAにライゲーションされる。個々の変異体を含むベクターDNAは、標準プロトコルを使用して細菌又は他の細胞に形質転換される。これは、ハイスループットな発現及びスクリーニングのための96穴トレイ等のマルチウェルトレイの個々のウェルにおいて行われ得る。この方法は、変異分子ごとに繰り返される。
【0205】
このようにして選択及び単離されたポリヌクレオチドは、適切な宿主細胞に導入される。適切な宿主細胞は、遺伝子組換え及び/又は減少的再集合を促進することができる任意の細胞である。選択されたポリヌクレオチドは、好ましくは、適切な制御配列を含むベクターに既にあるものである。宿主細胞は、哺乳細胞等の高等真核細胞であり、又は酵母細胞等の下等真核細胞であってもよく、又は好ましくは宿主細胞は、細菌細胞等の原核細胞であってもよい。宿主細胞へのコンストラクトの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、又はエレクトロポレーションによって遂行されることができる(例えば、Ecker and Davis,1986,Inhibition of gene expression in plant cells by expression of antisense RNA,Proc Natl Acad Sci USA,83:5372-5376)。
【0206】
使用可能な発現ベクターの代表例として、ウイルス粒子、バキュロウイルス、ファージ、プラスミド、ファージミド、コスミド、フォスミド、細菌人工染色体、ウイルスDNA(例えば、ワクシニア、アデノウイルス、foul pox virus、仮性狂犬病、及びSV40派生物)plに基づく人工染色体、酵母プラスミド、酵母人工染色体、及び特定の目的宿主に特異的な任意の他のベクター(例えば桿菌、アスペルギルス、及び酵母)が言及され得る。従って、例えば、DNAは、ポリペプチドを発現するための様々な発現ベクターのいずれか1つに含まれ得る。このようなベクターは、染色体性のDNA配列、非染色体性のDNA配列、及び合成DNA配列を含む。多数の適切なベクターは当業者に周知であり、市販されている。例として以下のベクターを挙げる。細菌性:pQEベクター(Qiagen)、pBluescriptプラスミド、pNHベクター、ラムダZAPベクター(Stratagene);ptrc99a、ρKK223-3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia);真核性:pXTl、ρSG5(Stratagene)pSVK3、pBPV、pMSG、pSVLSV40(Pharmacia)。しかしながら、それらが宿主において複製可能であり且つ生存可能である限り、他のいかなるプラスミドも又は他のベクターも使用可能である。低コピー数ベクター又は高コピー数ベクターが、本発明において使用されることができる。
【0207】
発現ベクターにおけるDNA配列は、RNA合成を導くための適切な発現制御配列(プロモーター)と操作可能に連結される。特定の名付けられた細菌プロモーターは、lad、lacZ、T3、T7、gpt、ラムダPR、PL、及びtrpを含む。真核生物プロモーターは、前初期CMV、HSVチミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルス由来のLTR、及びマウスメタロチオネイン-1を含む。適切なベクター及びプロモーターの選択は、十分に当業者の水準の範囲内にある。発現ベクターはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位及び転写ターミネーターを含む。このベクターは、発現を増幅するための適切な配列を含んでもよい。プロモーター領域は、選択可能なマーカーを有するクロラムフェニコールトランスフェラーゼ(CAT)ベクター、又は他のベクターを使用して、任意の所望の遺伝子から選択されることができる。加えて、発現ベクターは、真核細胞培養に対するジヒドロ葉酸還元酵素又はネオマイシン耐性等、又は大腸菌(E.coli)におけるテトラサイクリン又はアンピシリン耐性等の、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型の特徴を提供するために、好ましくは、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含む。
【0208】
従って、本開示の他の態様において、新規なポリヌクレオチドは、減少的再集合の方法によって生成されることができる。方法は、連続的な配列(オリジナルのコード配列)、適切なベクターへのそれらの挿入、及び適切な宿主細胞へのその後のそれらの導入を含むコンストラクトの生成を含む。個々の分子同一性の再集合は、相同領域を有するコンストラクトにおける連続的な配列間での、又は擬似繰り返し単位間での組合せ方法によって発生する。再集合方法は、複雑さ及び反復配列の範囲を再結合させ及び/又は減少させ、新しい分子種の生成をもたらす。様々な処理を、再集合の割合を増強させるために適用することができる。これらは、紫外線処理又はDNA損害性化学薬品、及び/又は増強した水準の「遺伝的不安定性」を示す宿主細胞株の使用を含むことができる。従って、再集合方法は、それら自体の発達を導くために、相同組換え又は準反復配列の自然の特性を含むことができる。
【0209】
一の態様において、宿主生物又は細胞は、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、又は真核生物からなるものである。本発明の他の態様において、グラム陰性細菌は、大腸菌(Escherichia coli)又は蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)からなるものである。本発明の他の態様において、グラム陽性細菌は、ストレプトミセス・ディベルサ(Streptomyces diversa)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、又は枯草菌(Bacillus subtilis)からなるものである。本発明の他の態様において、真核生物は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)又はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)からなるものである。適切な宿主の代表例として、大腸菌(E.coli)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)等の細菌細胞;酵母等の真菌細胞;Drosophila S2及びSpodoptera Sf9等の昆虫細胞;CHO、COS又はボーズ黒色腫(Bowes melanoma)等の動物細胞;アデノウイルス;及び植物細胞が言及され得る。適切な宿主の選択は、本明細書における教示から当業者の範囲内であると考えられる。
【0210】
組換えタンパク質を発現するために使用され得る様々な哺乳細胞培養系に特に関連して、哺乳類の発現系の例は、“SV40-transformed simian cells support the replication of early SV40 mutants”(Gluzman、1981)に記載されるサル腎臓繊維芽細胞のCOS-7株、及びC127、3T3、CHO、HeLa及びBHK細胞株等の相性の良いベクターを発現することができる他の細胞株を含む。哺乳類の発現ベクターは複製開始点、適切なプロモーター、及びエンハンサー、及び任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスのドナー及びアクセプター部位、転写終結配列、及び5’隣接非転写配列をも含むであろう。SV40スプライシングに由来するDNA配列、及びポリアデニル化部位は、必要な非転写遺伝因子を提供するために使用されることができる。
【0211】
細胞はその後増殖し、「減少的再集合」は達成される。減少的再集合方法の割合は、必要に応じて、DNA損傷の導入によって刺激され得る。インビボでの再集合は「遺伝子組換え」とまとめて呼ばれる「分子間の」方法に向けられ、これは細菌において、「RecA依存性」の現象として通常観察される。本発明は、配列を組換え且つ再集合させるための宿主細胞の遺伝子組換え方法、又は欠損によって細胞における準反復配列の複雑性を減少させるための縮小方法を調節する細胞の能力に依存することができる。「縮小再集合」のこの方法は、「分子内の」、RecA非依存性の方法によって生じる。最終結果は、全ての可能な組合せへの分子の再集合である。
【0212】
目的のポリヌクレオチドを含む宿主細胞は、プロモーターを活性化させ、形質転換細胞を選択し、又は遺伝子を増幅させるのに適切なように改変された従来の栄養培地で培養されることができる。この培養条件(例えば温度、pHなど)は、発現のために選択される宿主細胞と共に以前使用されたものであり、また当業者にとって明らかである。
【0213】
タンパク質発現は様々な周知の方法によって誘導されることができ、多くの遺伝系がタンパク質発現の誘導のために公表されている。例えば、適切な系については、誘導剤品の追加によってタンパク質発現が誘導される。細胞はその後、遠心分離によってペレットにされ、上澄みが取り除かれる。ペリプラズムタンパク質は、DNAse、RNAse及びリソチームを有する細胞を培養することによって高められ得る。遠心分離後、新規なタンパク質を含む上澄みは、アッセイ前に新しいマルチウェルトレイに移され、保存される。
【0214】
細胞は一般的には遠心分離によって採取され、物理的又は化学的手段によって分離され、及び得られたクルードの抽出物は更なる精製のために保持される。タンパク質の発現のために使用される微生物細胞は、凍結融解サイクル、音波処理、機械分離、又は細胞溶解剤の使用を含む任意の好都合な方法によって分離されることができる。このような方法は当業者に周知である。発現したポリペプチド又はその断片は、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含む方法によって、組換え細胞培養物から回収され、精製され得る。タンパク質のリフォールディング過程が、必要に応じて、ポリペプチドの構造を仕上げる際に用いられることができる。必要に応じて、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)が、最終的な精製過程のために使用されることができる。
【0215】
所望の活性を有すると特定されるクローンは、その後シーケンスされることができ、増強した活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチド配列を特定する。
【0216】
このようなライブラリから特定されるポリペプチドが、治療、診断、研究、及び関連する目的のために使用されることができ、及び/又はシャッフリング及び/又は選択の1つ以上の追加的なサイクルにさらされることができる。本発明は、少なくとも10アミノ酸の長さである条件的活性型生物学的タンパク質の断片を提供するものであり、断片は活性を有するものである。
【0217】
本開示は、酵素活性を有するコドン最適化ポリペプチド又はその断片を提供するものであり、コドンの使用は特定の生物又は細胞のために最適化される。Narum et al.,“Codon optimization of gene fragments encoding Plasmodium falciparum merzoite proteins enhances DNA vaccine protein expression and immunogenicity in mice”.Infect.Immun.2001 December,69(12):7250-3には、マウス系におけるコドン最適化が記載される。Outchkourov et al.,“Optimization of the expression of Equistatin in Pichia pastoris,protein expression and purification”,Protein Expr.Purif.2002 February;24(1):18-24 には、酵母系におけるコドン最適化が記載される。Feng et al.,“High level expression and mutagenesis of recombinant human phosphatidylcholine transfer protein using a synthetic gene:evidence for a C-terminal membrane binding domain”Biochemistry 2000 Dec.19,39(50):15399-409 には、大腸菌(E.coli)におけるコドン最適化が記載される。Humphreys et al.,“High-level periplasmic expression in Escherichia coli using a eukaryotic signal peptide:importance of codon usage at the 5’end of the coding sequence”,Protein Expr.Purif.2000 Nov.20(2):252-64には、大腸菌(E.coli)においてコドンの使用がどのように分泌に影響するかが記載される。
【0218】
条件的活性型生物学的タンパク質の発達は、好都合なハイスループットスクリーニング又は選択過程の利用によって補助されることができる。
【0219】
同定後、本開示のポリペプチド及びペプチドは合成であってもよく、又は組換え生成されたポリペプチドであってもよい。ペプチド及びタンパク質は、インビトロ又はインビボで組換え発現させることができる。本開示のペプチド及びポリペプチドは、当該技術分野において公知の任意の方法を用いて作製及び単離することができる。本開示のポリペプチド及びペプチドはまた、全体又は一部を、当該技術分野において周知の化学的方法を用いて合成することもできる。例えば、Caruthers(1980)“New chemical methods for synthesizing polynucleotides”,Nucleic Acids Res.Symp.Ser.215-223;Horn(1980),“Synthesis of oligonucleotides on cellulose.Part II:design and synthetic strategy to the synthesis of 22 oligodeoxynucleotides coding for Gastric Inhibitory Polypeptide(GIP)1”,Nucleic Acids Res.Symp.Ser.225-232;Banga,A.K.,Therapeutic Peptides and Proteins,Formulation,Processing and Delivery Systems(1995)Technomic Publishing Co.,Lancaster,Paを参照のこと。例えば、ペプチド合成は様々な固相技法を用いて実施することができ(例えば、Roberge(1995)“A strategy for a convergent synthesis of N-linked glycopeptides on a solid support”,Science 269:202;Merrifield(1997)“Concept and early development of solid-phase peptide synthesis”,Methods Enzymol.289:3-13を参照のこと)、例えばABI 43 IAペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer)を製造者が提供する指示に従い使用して自動合成を達成してもよい。
【0220】
本開示のペプチド及びポリペプチドはまた、グリコシル化することもできる。グリコシル化は、化学的に、或いは細胞生合成機構によって翻訳後に加えることができ、ここで細胞生合成機構は、既知のグリコシル化モチーフ(これは配列にとって天然であってもよく、又はペプチドとして加えられるか、若しくは核酸コード配列に加えられてもよい)の利用を取り入れるものである。グリコシル化はO結合型又はN結合型であり得る。
【0221】
上記に定義するように、本開示のペプチド及びポリペプチドには、あらゆる「模倣体」及び「ペプチド模倣体」の形態が含まれる。用語「模倣体」及び「ペプチド模倣体」は、本開示のポリペプチドと実質的に同じ構造的及び/又は機能的特性を有する合成の化学的化合物を指す。模倣体は、完全に合成非天然アミノ酸類似体で構成されてもよく、又は部分的に天然のペプチドアミノ酸と部分的に非天然のアミノ酸類似体とのキメラ分子である。模倣体はまた、置換が模倣体の構造及び/又は活性も実質的に変化させるものでない限り、任意の量の天然アミノ酸保存的置換を組み込むことができる。保存された変異体である本開示のポリペプチドと同じく、模倣体が本開示の範囲内にあるかどうか、すなわち、その構造及び/又は機能が実質的に改変されないことは、ルーチンの実験によって決定されることになる。
【0222】
本開示のポリペプチド模倣体組成物は、非天然構造成分の任意の組み合わせを含有し得る。代替的な態様において、本開示の模倣体組成物は、以下の3つの構造基:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結基;b)天然に存在するアミノ酸残基の代わりの非天然残基;又はc)二次構造の模倣を誘導する、すなわちそれにより二次構造、例えばβターン、γターン、βシート、αヘリックスコンホメーションなどを誘導し又は安定化させる残基のうちの1つ又は全てを含む。例えば、本開示のポリペプチドは、その残基の全て又は一部が天然のペプチド結合以外の化学的手段によってつなぎ合わされるとき、模倣体として特徴付けることができる。個々のペプチド模倣体残基は、ペプチド結合、他の化学結合又はカップリング手段、例えば、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、二官能性マレイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などによってつなぎ合わされ得る。従来のアミド結合(「ペプチド結合」)連結の代わりとなり得る連結基としては、例えば、ケトメチレン(例えば、~C(.dbd.O)-CH.sub.2~又は-C(.dbd.O)~NH-)、アミノメチレン(CH.sub.2-NH)、エチレン、オレフィン(CH.dbd.CH)、エーテル(CH.sub.2~O)、チオエーテル(CH.sub.2~S)、テトラゾール(CN.sub.4--)、チアゾール、レトロアミド、チオアミド、又はエステルが挙げられる(例えば、Spatola(1983),Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,Vol.7,pp 267-357,“Peptide Backbone Modifications,”Marcell Dekker,N.Y.を参照のこと)。
【0223】
本開示のポリペプチドはまた、天然に存在するアミノ酸残基の代わりに全て又は一部の非天然残基を含有することによっても模倣体として特徴付けることができる。非天然残基については、科学文献及び特許文献に十分な記載がなされている;天然アミノ酸残基の模倣体として有用ないくつかの例示的な非天然組成物及び指針は、以下に記載する。芳香族アミノ酸の模倣体は、例えば、D-又はL-ナフチルアラニン;D-又はL-フェニルグリシン;D-又はL-2チエニルアラニン;D-又はL-1,-2、3-、又は4-ピレニルアラニン;D-又はL-3チエネイルアラニン(thieneylalanine);D-又はL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-又はL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン;D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-又はL-p-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-p-メトキシ-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-2-インドール(アルキル)アラニン;及びD-又はL-アルキルアミン類[ここで、アルキルは、置換又は非置換メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-イソブチル、イソ-ペンチル、又は非酸性アミノ酸であってもよい]による置換によって作成することができる。非天然アミノ酸の芳香環としては、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル、及びピリジル芳香環が挙げられる。
【0224】
酸性アミノ酸の模倣体は、例えば、負電荷を維持する一方での非カルボキシル化アミノ酸;(ホスホノ)アラニン;硫酸化スレオニンによる置換によって作成することができる。カルボキシル側基(例えば、アスパルチル又はグルタミル)も、カルボジイミド(R’~N-C-N-R’)、例えば、1-シクロヘキシル-3(2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミド又はl-エチル-3(4-アゾニア-4,4-ジメトールペンチル)カルボジイミドとの反応によって選択的に修飾することができる。アスパルチル又はグルタミルはまた、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル及びグルタミニル残基に変換することもできる。塩基性アミノ酸の模倣体は、例えば、(リジン及びアルギニンに加えて)アミノ酸オルニチン、シトルリン、又は(グアニジノ)酢酸、又は(グアニジノ)アルキル酢酸(ここで、アルキルは、上記に定義される)による置換によって作成することができる。ニトリル誘導体(例えば、COOHの代わりにCN部分を含む)は、アスパラギン又はグルタミンを置換することができる。アスパラギニル及びグルタミニル残基は、対応するアスパルチル又はグルタミル残基に対して脱アミノ化することができる。アルギニン残基模倣体は、アルギニルと、例えば1つ以上の従来の試薬、例えばフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロ-ヘキサンジオン、又はニンヒドリンとの、好ましくはアルカリ性条件下での反応によって作成することができる。チロシン残基模倣体は、チロシルと、例えば芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によって作成することができる。N-アセチルイミダゾール及びテトラニトロメタンを使用して、それぞれO-アセチルチロシル種及び3-ニトロ誘導体を形成することができる。システイン残基模倣体は、システイニル残基と、例えば2-クロロ酢酸又はクロロアセトアミドなどのα-ハロ酢酸及び対応するアミン類との反応によって;カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を得て作成することができる。システイン残基模倣体はまた、システイニル残基と、例えばブロモ-トリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミダゾイル)プロピオン酸;クロロアセチルリン酸塩、N-アルキルマレイミド類、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド;メチル2-ピリジルジスルフィド;p-クロロメルクリ安息香酸塩;2-クロロメルクリ-4ニトロフェノール;又はクロロ-7-ニトロベンゾ-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によって作成することもできる。リジン模倣体は、リシニルと、例えばコハク酸又は他のカルボン酸無水物との反応によって作成することができる(及びアミノ末端残基を改変することができる)。リジン及び他のα-アミノ含有残基模倣体はまた、イミドエステル、例えば、メチルピコリンイミデート、ピリドキサールリン酸、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O-メチルイソウレア、2,4、ペンタンジオンとの反応、及びグリオキシル酸塩とのトランスアミダーゼ触媒反応によって作成することもできる。メチオニンの模倣体は、例えばメチオニンスルホキシドとの反応によって作成することができる。プロリンの模倣体には、例えば、ピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、3-又は4-ヒドロキシプロリン、デヒドロプロリン、3-又は4-メチルプロリン、又は3,3,-ジメチルプロリンが含まれる。ヒスチジン残基模倣体は、ヒスチジルと、例えばジエチルプロカーボネート又はパラブロモフェナシルブロミドとの反応によって作成することができる。他の模倣体としては、例えば、プロリン及びリジンのヒドロキシル化;セリル又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化;リジン、アルギニン及びヒスチジンのα-アミノ基のメチル化;N末端アミンのアセチル化;主鎖アミド残基のメチル化又はN-メチルアミノ酸による置換;又はC末端カルボキシル基のアミド化によって作成されるものが挙げられる。
【0225】
本開示のポリペプチドの残基、例えばアミノ酸はまた、逆のキラリティーのアミノ酸(又はペプチド模倣体残基)によって置換されてもよい。従って、L-配置(化学的実体の構造に応じてR又はSとも称することができる)で天然に存在する任意のアミノ酸は、D-アミノ酸と称されるが、R型又はS型とも称することができる同じ化学構造タイプの、しかし逆のキラリティーのペプチド模倣体のアミノ酸で置換することができる。
【0226】
本開示はまた、翻訳後プロセシング(例えばリン酸化、アシル化等)などの天然の過程によるか、或いは化学修飾技術による本開示のポリペプチドの修飾方法を提供する。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖及びアミン又はカルボキシル末端を含むポリペプチドのどこに行われてもよい。同じタイプの修飾が、所与のポリペチドのいくつかの部位に同じ又は様々な程度で存在し得ることは理解されるであろう。また、所与のポリペチドが多くの種類の修飾を有することができる。修飾には、アセチル化、アシル化、PEG化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋性環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイレーション(selenoylation)、硫酸化、及びアルギニル化等のトランスファーRNA媒介性のタンパク質へのアミノ酸付加が含まれる。Creighton,T.E.,Proteins-Structure and Molecular Properties 2nd Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1993);Posttranslational Covalent Modification of Proteins,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pp.1-12(1983)を参照のこと。
【0227】
固相化学的ペプチド合成方法もまた、本開示のポリペプチド又はフラグメントの合成に用いることができる。かかる方法は1960年代初頭から当該技術分野において公知となっており(Merrifield,R.B.,“Solid-phase synthesis.I.The synthesis of a tetrapeptide”,J.Am.Chem.Soc,85:2149-2154,1963)(また、Stewart,J.M.and Young,J.D.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Ed.,Pierce Chemical Co.,Rockford,111.,pp.11-12も参照のこと)、近年では市販の実験室ペプチド設計及び合成キット(Cambridge Research Biochemicals)に用いられている。かかる市販の実験室キットは、概して、H.M.Geysen et al.,“Use of peptide synthesis to probe viral antigens for epitopes to a resolution of a single amino acid,”Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:3998(1984)の教示を利用しており、全てが単一のプレートに結合した多数の「ロッド」又は「ピン」の先端におけるペプチドの合成を提供する。かかるシステムを利用する際は、ロッド又はピンのプレートを逆さにして対応するウェル又はリザーバーの第2のプレートに挿入し、この第2のプレートには、適切なアミノ酸をピン又はロッドの先端に取り付け又は固定するための溶液が入っている。このようなプロセス工程、すなわちロッド及びピンの先端を逆さにして適切な溶液に挿入することを繰り返すことにより、アミノ酸が構築されて所望のペプチドになる。加えて、多くの利用可能なFMOCペプチド合成システムが利用可能である。例えば、ポリペプチド又はフラグメントのアセンブリは、Applied Biosystems,Inc.のModel 431 A(商標)自動ペプチドシンセサイザーを使用して固体支持体上で行うことができる。かかる装置は、直接合成か、或いは他の公知の技法を用いて結合し得る一連のフラグメントの合成かのいずれかによる、本開示のペプチドを容易に入手する機会を提供する。
【0228】
合成ポリペプチド又はそのフラグメントは、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法によって回収し、精製することができる。必要に応じて、ポリペプチドの構造を完成させるにおいて、タンパク質リフォールディング工程を用いることができる。必要であれば、最終的な精製工程に高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いることができる。
【0229】
本開示は、タンパク質変異体の少なくとも1つを含む条件的活性型タンパク質変異体製剤(preparation)又は製剤(formulation)を提供するものであり、製剤は液状か、又は乾燥している。タンパク質製剤は、任意選択で、緩衝液、補因子、第二の又は追加のタンパク質、又は1つ以上の賦形剤を含む。一態様において、本製剤は、例えば、温度、pH、又は浸透圧、酸化的ストレス又は重量オスモル濃度の異常条件下又は非生理条件下では活性であるが、正常な生理条件下では低活性又は不活性な治療用条件的活性型生物学的タンパク質として利用される。
【0230】
組換え又は合成のいずれの条件的活性型生物学的タンパク質にも、標準的な精製技法を用い得る。
【0231】
変異体のスクリーニングによる可逆的又は非可逆的変異体の同定
望ましい分子の同定は、最も直接的には、許容的条件及び野生型条件でタンパク質活性を計測することにより達成される。次に活性の比(許容的/野生型)が最も大きい変異体を選択することができ、標準方法を用いて個々の突然変異を組み合わせることにより、点突然変異のパーミュテーションを生成する。次に組み合わせたパーミュテーションタンパク質ライブラリについて、許容的条件と野生型条件との間で最も大きい活性の差を示すタンパク質をスクリーニングする。
【0232】
種々の方法を用いて、例えば蛍光アッセイなどのハイスループット活性アッセイを用いて上清の活性をスクリーニングし、所望の特性が何であれ(温度、pH等)、それに対して感受性を示すタンパク質変異体を同定することができる。例えば、時間的に感受性のある変異体をスクリーニングするには、より低い温度(25℃など)、及び元のタンパク質が機能する温度(37℃など)で、市販の基質を使用して各個別の変異体の酵素活性又は抗体活性を決定する。反応は、最初は96ウェルアッセイなどのマルチウェルアッセイフォーマットで実施し、14mlチューブフォーマットなどの異なるフォーマットを用いて確認することができる。
【0233】
本開示は、酵素を同定するためのスクリーニングアッセイをさらに提供し、このアッセイは、(a)複数個の核酸又はポリペプチドを提供する工程と;(b)それらの複数個から酵素活性について試験するポリペプチド候補を入手する工程と;(c)酵素活性について候補を試験する工程と;(d)例えば、温度、pH、酸化的ストレス、重量オスモル濃度、電解質濃度又は浸透圧の異常条件下又は非生理条件下で酵素活性の上昇を呈し、且つ正常生理条件下で野生型酵素タンパク質と比較して酵素活性の低下を呈するポリペプチド候補を同定する工程とを含む。
【0234】
一態様において、本方法は、条件的生物活性に関して候補をテストする前に、核酸又はポリペプチドの少なくとも1つを修飾する工程をさらに含み、別の態様において、工程(c)のテストは、宿主細胞又は宿主生物におけるポリペプチドの発現の向上をテストする工程をさらに含み、さらなる態様において、工程(c)のテストは、約pH3~約pH12のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、工程(c)のテストは、約pH5~約pH10のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、工程(c)のテストは、約pH6~約pH8のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、工程(c)のテストは、約pH6.7及び約pH7.5で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、約4℃~約55℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、約15℃~約47℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、約20℃~約40℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、約25℃及び約37℃で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、正常な浸透圧下、及び異常な(正又は負の)浸透圧下で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、工程(c)のテストは、正常な電解質濃度下、及び異常な(正又は負の)電解質濃度下で酵素活性をテストする工程をさらに含む。テストされる電解質濃度は、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素、重炭酸、及びリン酸濃度の1つから選択され、別の態様において、工程(c)のテストは、安定した反応産物をもたらす酵素活性をテストする工程をさらに含む。
【0235】
別の態様において、本開示は、酵素活性を有する本開示のポリペプチド又はそのフラグメントに特異的に結合する精製抗体を提供する。一態様において、本開示は、酵素活性を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体のフラグメントを提供する。
【0236】
抗体及び抗体ベースのスクリーニング方法
本開示は、本開示の酵素に特異的に結合する単離抗体又は組換え抗体を提供する。これらの抗体は、本開示の酵素又は関連するポリペプチドの単離、同定又は定量化に用いることができる。これらの抗体は、本開示の範囲内にある他のポリペプチド又は他の関連する酵素の単離に用いることができる。抗体は、酵素の活性部位に結合するように設計することができる。従って、本開示は、本開示の抗体を用いて酵素を阻害する方法を提供する。
【0237】
本抗体は、免疫沈降、染色、イムノアフィニティーカラムなどにおいて使用することができる。必要であれば、特異的抗原をコードする核酸配列は、免疫化と、続くポリペプチド又は核酸の単離、ポリペプチドの増幅又はクローニング及び本開示のアレイ上への固定化によって生成することができる。或いは、本開示の方法を用いて、修飾しようとする細胞によって産生される抗体の構造を修飾することができ、例えば、抗体の親和性を増加又は低下させることができる。さらに、抗体を作製又は修飾する能力は、本開示の方法によって細胞に操作される表現型であり得る。
【0238】
免疫化、抗体(ポリクローナル及びモノクローナル)の産生及び単離方法は当業者に公知であり、科学及び特許文献に記載されており、例えば、Coligan,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,Wiley/Greene,NY(1991);Stites(eds.)BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY(7th ed.)Lange Medical Publications,Los Altos,Calif.(「Stites」);Goding,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND PRACTICE(2d ed.)Academic Press,New York,N.Y.(1986);Kohler(1975)“Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity”,Nature 256:495;Harlow(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Publications,New Yorkを参照されたい。抗体はまた、動物を使用する従来のインビボ方法に加え、例えば、組換え抗体結合部位を発現するファージディスプレイライブラリを使用して、インビトロで生成することもできる。例えば、Hoogenboom(1997)“Designing and optimizing library selection strategies for generating high-affinity antibodies”,Trends Biotechnol.15:62-70;及びKatz(1997)“Structural and mechanistic determinants of affinity and specificity of ligands discovered or engineered by phage display”,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.26:27-45を参照のこと。
【0239】
ポリペプチド又はペプチドを使用して、本開示のポリペプチド、例えば酵素に特異的に結合する抗体を生成することができる。得られる抗体をイムノアフィニティークロマトグラフィー手順で用いると、ポリペプチドを単離若しくは精製したり、又は生体試料中にポリペプチドが存在するかどうかを決定したりし得る。かかる手順では、タンパク質調製物、例えば抽出物、又は生物学的試料を、本開示のポリペプチドのうちの1つとの特異的結合能を有する抗体に接触させる。
【0240】
イムノアフィニティー手順では、ビーズ又は他のカラムマトリックスなどの固体支持体に抗体を付加する。抗体が本開示のポリペプチドのうちの1つと特異的に結合する条件下でタンパク質調製物を抗体と接触した状態にする。洗浄して非特異的に結合したタンパク質を除去した後、特異的に結合したポリペプチドを溶出させる。
【0241】
生物学的試料中のタンパク質が抗体に結合する能力は、当業者が精通している種々の手順のいずれを用いて決定してもよい。例えば、結合は、抗体を蛍光剤、酵素標識、又は放射性同位元素などの検出可能標識で標識することによって決定し得る。或いは、抗体と試料の結合は、かかる検出可能標識を有する二次抗体を使用して検出してもよい。詳細なアッセイには、ELISAアッセイ、サンドイッチアッセイ、ラジオイムノアッセイ、及びウエスタンブロットが含まれる。
【0242】
本開示のポリペプチドに対して生成されるポリクローナル抗体は、ポリペプチドを動物に直接注入することによるか、又はポリペプチドを非ヒト動物に投与することによって得られ得る。このように得られた抗体は、次にはポリペプチドそれ自体に結合することになる。このようにして、ポリペプチドのフラグメントのみをコードする配列であっても、完全な天然ポリペプチドに結合し得る抗体の生成に使用することができる。かかる抗体は、次には当該のポリペプチドを発現する細胞からのポリペプチドの単離に使用することができる。
【0243】
モノクローナル抗体の調製には、連続細胞株培養によって産生される抗体をもたらす任意の技法を用いることができる。例としては、ハイブリドーマ法、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法、及びEBV-ハイブリドーマ法が挙げられる(例えば、Cole(1985)in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77-96を参照のこと)。
【0244】
一本鎖抗体の産生に関して記載される技法(例えば、米国特許第4,946,778号明細書を参照のこと)は、本開示のポリペプチドに対する一本鎖抗体の作製に適合させることができる。或いは、トランスジェニックマウスを用いてこれらのポリペプチドに対するヒト化抗体又はそのフラグメントを発現させてもよい。本開示のポリペプチドに対して生成された抗体は、他の生物及び試料からの同様のポリペプチド(例えば酵素)のスクリーニングに用いられ得る。かかる技法では、生物からのポリペプチドを抗体に接触させて、抗体に特異的に結合するポリペプチドを検出する。抗体結合の検出には、上記に記載した手順のいずれを用いてもよい。
【0245】
スクリーニング方法及び「オンライン」モニタリング装置
本開示の方法の実施においては、本開示のポリペプチド及び核酸と併せて、例えば、酵素活性に関するポリペプチドのスクリーニング、酵素活性の候補モジュレーター、例えばアクチベーター又は阻害薬としての化合物、本開示のポリペプチドに結合する抗体、本開示の核酸とハイブリダイズする核酸のスクリーニング、本開示のポリペプチドを発現する細胞のスクリーニングに種々の機器及び方法を用いることができる。
【0246】
アレイ、又は「バイオチップ」
本開示の核酸又はポリペプチドは、アレイに固定化又は適用することができる。アレイは、本開示の核酸又はポリペプチドとの結合能又はその活性の調節能に関する組成物(例えば、小分子、抗体、核酸等)のライブラリのスクリーニング又はモニタリングに用いることができる。例えば、本開示の一態様において、モニタリングされるパラメータは酵素遺伝子の転写物発現である。細胞の1つ以上、又は全ての転写物を、アレイ、又は「バイオチップ」上の固定化した核酸とのハイブリダイゼーションにより、細胞の転写物、又は細胞の転写物を代表するか若しくはそれと相補的な核酸を含む試料のハイブリダイゼーションによって計測することができる。マイクロチップ上の核酸の「アレイ」を用いることにより、細胞の転写物の一部又は全てを同時に定量化することができる。或いは、ゲノム核酸を含むアレイを使用して、本開示の方法によって作製した新規改変株の遺伝子型を決定することもできる。ポリペプチドアレイはまた、複数のタンパク質の同時定量化にも用いることができる。本開示は、「マイクロアレイ」又は「核酸アレイ」又は「ポリペプチドアレイ」又は「抗体アレイ」又は「バイオチップ」、又はこれらの変化形とも称される任意の公知の「アレイ」で実施することができる。アレイは一般的には、複数の「スポット」又は「標的エレメント」であって、各標的エレメントが、試料分子、例えばmRNA転写物に対する特異的結合のため基質表面の所定の範囲に固定化された所定量の1つ以上の生体分子、例えばオリゴヌクレオチドを含むものである。
【0247】
本開示の方法の実施においては、例えば、米国特許第6,277,628号明細書;同第6,277,489号明細書;同第6,261,776号明細書;同第6,258,606号明細書;同第6,054,270号明細書;同第6,048,695号明細書;同第6,045,996号明細書;同第6,022,963号明細書;同第6,013,440号明細書;同第5,965,452号明細書;同第5,959,098号明細書;同第5,856,174号明細書;同第5,830,645号明細書;同第5,770,456号明細書;同第5,632,957号明細書;同第5,556,752号明細書;同第5,143,854号明細書;同第5,807,522号明細書;同第5,800,992号明細書;同第5,744,305号明細書;同第5,700,637号明細書;同第5,556,752号明細書;同第5,434,049号明細書に記載されるとおりの、任意の公知のアレイ及び/又はアレイの作製及び使用方法、又はそれらの変形例を全て又は部分的に援用することができる;また、例えば、国際公開第99/51773号パンフレット;国際公開第99/09217号パンフレット;国際公開第97/46313号パンフレット;国際公開第96/17958号パンフレットも参照のこと;また、例えば、Johnston(1998)“Gene chips:Array of hope for understanding gene regulation”,Curr.Biol.8:R171-R174;Schummer(1997)“Inexpensive Handheld Device for the Construction of High-Density Nucleic Acid Arrays”,Biotechniques 23:1087-1092;Kern(1997)“Direct hybridization of large-insert genomic clones on high-density gridded cDNA filter arrays”,Biotechniques 23:120-124;Solinas-Toldo(1997)“Matrix-Based Comparative Genomic Hybridization:Biochips to Screen for Genomic Imbalances”,Genes,Chromosomes & Cancer 20:399-407;Bowtell(1999)“Options Available-From Start to Finish~for Obtaining Expression Data by Microarray”,Nature Genetics Supp.21:25-32も参照のこと。また、米国特許出願公開第20010018642号明細書;同第20010019827号明細書;同第20010016322号明細書;同第20010014449号明細書;同第20010014448号明細書;同第20010012537号明細書;同第20010008765号明細書も参照のこと。
【0248】
キャピラリーアレイ
本開示の方法では、GIGAMATRIX(商標)Diversa Corporation、San Diego、Calif.などのキャピラリーアレイを使用することができる。本開示の核酸又はポリペプチドはアレイに固定化又は適用することができる。アレイは、本開示の核酸又はポリペプチドとの結合能又はその活性の調節能に関する組成物(例えば、小分子、抗体、核酸等)のライブラリのスクリーニング又はモニタリングに用いることができる。キャピラリーアレイは、試料を保持及びスクリーニングする別のシステムを提供する。例えば、試料スクリーニング機器は、アレイ状の隣接するキャピラリーとして形成された複数のキャピラリーを含んでもよく、ここで各キャピラリーは、試料を保持するためのルーメンを画定する少なくとも1つの壁を含む。機器はさらに、アレイにおける隣接するキャピラリーの間に配置された介在材料、及び介在材料の範囲内に形成された1つ以上の参照表示を含み得る。試料をスクリーニングするためのキャピラリー(ここでキャピラリーは、キャピラリーのアレイにおいて結合されているように適合される)は、試料を保持するためのルーメンを画定する第1の壁と、試料を励起させるためルーメンに提供される励起エネルギーをフィルタリングするための、フィルタリング材料で形成された第2の壁とを含むことができる。ポリペプチド又は核酸、例えばリガンドは、キャピラリーアレイのキャピラリーの少なくとも一部分に入る第1の構成成分中に導入することができる。キャピラリーアレイの各キャピラリーは、第1の構成成分を保持するためのルーメンを画定する少なくとも1つの壁を含むことができる。第1の構成成分の後にはキャピラリーに気泡が導入され得る。キャピラリーに第2の構成成分を導入することができ、ここで第2の構成成分は気泡によって第1の構成成分と分離されている。目的の試料は検出可能な粒子で標識された第1の液体としてキャピラリーアレイのキャピラリーに導入することができ、ここでキャピラリーアレイの各キャピラリーは、第1の液体及び検出可能な粒子を保持するためのルーメンを画定する少なくとも1つの壁を含み、この少なくとも1つの壁は、検出可能な粒子を少なくとも1つの壁に結合させる結合材料で被覆されている。この方法は、キャピラリーチューブから第1の液体を取り除く工程であって、結合した検出可能な粒子はキャピラリー内に維持される工程と、第2の液体をキャピラリーチューブに導入する工程とをさらに含み得る。キャピラリーアレイは、ルーメンを画定する少なくとも1つの外壁を含む複数の個別のキャピラリーを含み得る。キャピラリーの外壁は、一体に融合した1つ以上の壁であり得る。同様に、壁が液体又は試料を保持するためのルーメンを形成する限りにおいて、壁は、円筒形、四角形、六角形又は任意の他の幾何学的形状のルーメンを画定することができる。キャピラリーアレイのキャピラリーは、ごく近接して一体に保持され、平面構造を形成し得る。キャピラリーは、隣り合わせで融合(例えば、キャピラリーがガラスでできている場合)、接着、結合、又は締結することによって一体に結合されてもよい。キャピラリーアレイは、任意の数の個別のキャピラリー、例えば、100~4,000,000個の範囲のキャピラリーで形成され得る。キャピラリーアレイは、約100,000個又はそれ以上の個別のキャピラリーが一体に結合されたマイクロタイタープレートを形成し得る。
【0249】
一部の実施形態において、本発明の条件的活性型生物学的タンパク質の活性は、正常生理条件下では小分子によって阻害されるが、異常条件下では同じ小分子によって全く又はそれ程阻害されない。例えば、条件的活性型生物学的タンパク質の活性は、ヒト血漿中に特定の濃度で存在する酸素、グルコース、又は重炭酸塩によって阻害され得るが、腫瘍微小環境ではヒト血漿中よりも酸素、グルコース又は重炭酸塩の濃度が低いことがあり得るため、同じタンパク質の活性が腫瘍微小環境では阻害される程度が低いか又は全く阻害されないこともある。
【0250】
一部の実施形態において、本発明の方法は、テンプレートポリペプチドの結合親和性及び選択性を同時に改善し得る。例えば、テンプレート抗体から出発して、本方法は、抗原に対する結合親和性が異常条件下でテンプレート抗体よりも高く、且つ正常生理条件での活性に対する異常条件での活性の比がテンプレート抗体よりも高い条件的活性型抗体を生成することができる。一実施形態において、これらの結果は、米国特許第8,859,467号明細書に記載されるとおりのコンビナトリアルタンパク質合成(Combinatorial Protein Synthesis:CPS)を用いることによって達成される。具体的には、CPSを用いることにより、条件的活性及び親和性の両方を改善して、ひいては選択された条件的活性型生物学的タンパク質の親和性及び選択性の両方を同時に改善する突然変異を同時に組み込むことができる。
【0251】
アッセイ条件
スクリーニング工程に用いられるアッセイの正常生理条件及び異常条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度から選択される条件、並びに2つ以上のかかる条件の組み合わせを用いて行われてもよい。例えば、温度の正常生理条件は37.0℃の正常ヒト体温であってもよく、一方、温度の異常条件は、正常生理的温度よりも1~2℃高いものであり得る腫瘍微小環境の温度など、37.0℃の温度と異なる温度であってもよい。別の例において、正常生理条件及び異常条件はまた、7.2~7.6の範囲の正常生理的pH及び腫瘍微小環境において示される6.2~6.8の範囲などの異常なpHであってもよい。
【0252】
正常生理条件下及び異常条件下の両方のアッセイとも、アッセイ媒体中で行われ得る。アッセイ媒体は、例えば緩衝液並びに他の構成成分を含有し得る溶液であり得る。アッセイ媒体に用いることのできる一般的な緩衝液としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩緩衝液、リン酸緩衝液、クレブス緩衝液などの重炭酸塩緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。アッセイに好適であることが当業者に公知の他の緩衝液を使用してもよい。これらの緩衝液を用いて、血漿又はリンパ液など、ヒト又は動物の体液の組成の特徴又は構成成分を模擬し得る。
【0253】
本発明の方法において有用なアッセイ溶液は、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分、好ましくはヒトなどの哺乳類又は動物の体液中に一般に見出されるものを含有し得る。かかる構成成分の例としては、栄養構成成分及び代謝産物、並びに体液中に見出され得る任意の他の構成成分が挙げられる。本発明は、この構成成分が緩衝液系の一部であっても、又はそうでなくてもよいことを企図する。例えば、アッセイ溶液は、重炭酸イオンを加えたPBS緩衝液であってもよく、ここで重炭酸塩はPBS緩衝液の一部ではない。或いは、重炭酸イオンは重炭酸塩緩衝液の一部である。
【0254】
無機化合物又はイオンは、ホウ酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二アンモニウム、硫酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、カルシウムキレート、銅キレート、鉄キレート、マンガンキレート及び亜鉛キレート、モリブデン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩酸、二酸化炭素、硫酸、リン酸、炭酸、尿酸、塩化水素、尿素、リンイオン、硫酸イオン、塩化物イオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン及び銅イオンのうちの1つ以上から選択され得る。
【0255】
無機化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、2~7.0mg/dLの濃度範囲の尿酸、8.2~11.6mg/dLの濃度範囲のカルシウムイオン、355~381mg/dLの濃度範囲の塩化物イオン、0.028~0.210mg/dLの濃度範囲の鉄イオン、12.1~25.4mg/dLの濃度範囲のカリウムイオン、300~330mg/dLの濃度範囲のナトリウムイオン、15~30mMの濃度範囲の炭酸、約80μMのクエン酸イオン、0.05~2.6mMの範囲のヒスチジンイオン、0.3~1μMの範囲のヒスタミン、1~20μMの範囲のHAPTイオン(水素化アデノシン三リン酸)、及び1~20μMの範囲のHADPイオンが挙げられる。
【0256】
一部の実施形態において、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在するイオンは、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン(塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキシハロゲン化物イオン、硫酸イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、スルホン酸イオン、オキシハロゲン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、アンモニウムイオン、又は有機イオン、例えばカルボン酸イオン、フェノラートイオン、スルホン酸イオン(硫酸メチルなどの有機硫酸塩)、バナジウム酸イオン、タングステン酸イオン、ホウ酸イオン、有機ボロン酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、五ホウ酸イオン、ヒスチジンイオン、及びフェノラートイオンから選択される。
【0257】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、例えば、ヒスチジン、アラニン、イソロイシン、アルギニン、ロイシン、アスパラギン、リジン、アスパラギン酸、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン、グルタミン、トリプトファン、グリシン、バリン、ピロリシン、プロリン、セレノシステイン、セリン、チロシンなどのアミノ酸及びこれらの混合物から選択され得る。
【0258】
アミノ酸の一部の正常生理的濃度の例としては、3.97±0.70mg/dLのアラニン、2.34±0.62mg/dLのアルギニン、3.41±1.39mg/dLのグルタミン酸、5.78±1.55mg/dLのグルタミン、1.77±0.26mg/dLのグリシン、1.42±0.18mg/dLのヒスチジン、1.60±0.31mg/dLのイソロイシン、1.91±0.34mg/dLのロイシン、2.95±0.42mg/dLのリジン、0.85±0.46mg/dLのメチオニン、1.38±0.32mg/dLのフェニルアラニン、2.02±6.45mg/dLのスレオニン、1.08±0.21mg/dLのトリプトファン、1.48±0.37mg/dLのチロシン及び2.83±0.34mg/dLのバリンが挙げられる。
【0259】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸、尿酸、アラントイン、アデノシン、尿素、アンモニア及びコリンなどの非タンパク質窒素含有化合物から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、1.07±0.76mg/dLのクレアチン、0.9~1.65mg/dLのクレアチニン、0.26±0.24mg/dLのグアニジノ酢酸、4.0±2.9mg/dLの尿酸、0.3~0.6mg/dLのアラントイン、1.09±0.385mg/dLのアデノシン、尿素27.1±4.5mg/dL及び0.3~1.5mg/dLのコリンが挙げられる。
【0260】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、乳酸、ピルビン酸、α-ケトン酸、酢酸、及び揮発性脂肪酸などの有機酸から選択され得る。これらの有機酸の一部の正常生理的濃度の例としては、2.5±1.9mg/dLのクエン酸、0.8mg/dLのα-ケトグルタル酸、0.5mg/dLのコハク酸、0.46±0.24mg/dLのリンゴ酸、0.8~2.8mg/dLのアセト酢酸、0.5±0.3mg/dLのβ-ヒドロキシ酪酸、8~17mg/dLの乳酸、1.0±0.77mg/dLのピルビン酸、0.6~2.1mg/dLのa-ケトン酸、1.8mg/dLの揮発性脂肪酸が挙げられる。
【0261】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、グルコース、ペントース、ヘキソース、キシロース、リボース、マンノース及びガラクトースなどの糖類(炭水化物)、並びに、ラクトース、GlcNAcβ1-3Gal、Galα1-4Gal、Manα1-2Man、GalNAcβ1-3Gal及びO-、N-、C-、又はS-グリコシドを含めた二糖類から選択され得る。これらの糖類の一部の正常生理的濃度の例としては、83±4mg/dLのグルコース、102±73mg/dLの多糖類(ヘキソースとして)、77±63mg/dLのグルコサミン、0.4~1.4mg/dLのヘキスロン酸塩(グルクロン酸として)及び2.55±0.37mg/dLのペントースが挙げられる。
【0262】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、コレステロール、レシチン、セファリン、スフィンゴミエリン及び胆汁酸などの脂肪又はその誘導体から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、40~70mg/dLの遊離コレステロール、100~200mg/dLのレシチン、0~30mg/dLのセファリン、10~30mg/dLのスフィンゴミエリン及び02.~0.3mg/dLの胆汁酸(コール酸として)が挙げられる。
【0263】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、フィブリノゲン、抗血友病グロブリン、免疫γ-グロブリン、免疫オイグロブリン、同種凝集素、β-偽グロブリン、糖タンパク質類、リポタンパク質及びアルブミンなどのタンパク質から選択され得る。例えば、哺乳動物血清アルブミンの正常生理的濃度は3.5~5.0g/dLである。一実施形態において、アルブミンはウシ血清アルブミンである。
【0264】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、ビタミンA、カロチン、ビタミンE、アスコルビン酸、チアミン、イノシトール、葉酸、ビオチン、パントテン酸、リボフラビンなどのビタミン類から選択され得る。これらのビタミン類の一部の正常生理的濃度の例としては、0.019~0.036mg/dLのビタミンA、0.90~1.59mg/dLのビタミンE、0.42~0.76mg/dLのイノシトール、0.00162~0.00195mg/dLの葉酸及びビオチン0.00095~0.00166mg/dLが挙げられる。
【0265】
アッセイ溶液中(正常生理条件下のアッセイ及び異常条件下のアッセイの両方)の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト又は動物血清中の無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度範囲内であり得る。しかしながら、生理的正常範囲外の濃度もまた用いられ得る。例えば、ヒト血清中におけるマグネシウムイオンの正常範囲は1.7~2.2mg/dL、及びカルシウムは8.5~10.2mg/dLである。アッセイ溶液中のマグネシウムイオン濃度は約0.17mg/dL~約11mg/dLであってもよい。アッセイ溶液中のカルシウムイオン濃度は約0.85mg/dL~約51mg/dLであってもよい。一般則として、アッセイ溶液中の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の5%、又は10%、又は20%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%もの低さであるか、又はヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の1.5倍、又は2倍、又は3倍、又は4倍又は5倍、又は7倍又は9倍又は10倍又はさらには20倍もの高さであってもよい。アッセイ溶液の種々の構成成分を、それぞれの正常生理的濃度と異なる濃度レベルで使用し得る。
【0266】
正常生理条件下及び異常条件下でのアッセイを用いて変異タンパク質の活性を計測する。アッセイ中、変異タンパク質及びその結合パートナーの両方がアッセイ溶液中に存在する。変異タンパク質とその結合パートナーとの間の関係は、例えば、抗体-抗原、リガンド-受容体、酵素-基質、又はホルモン-受容体であり得る。変異タンパク質がその活性を発現するには、変異タンパク質がその結合パートナーと接触してそれに結合することが可能でなければならない。次には変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合後に変異タンパク質のその結合パートナーに対する活性が発現し、それを計測する。
【0267】
一部の実施形態において、アッセイで用いられるイオンは、スクリーニングする変異タンパク質とその結合パートナー、特に荷電アミノ酸残基を含むものとの間の架橋の形成において機能し得る。従ってイオンは、変異タンパク質及びその結合パートナーの両方との水素結合及び/又はイオン結合による結合能を有し得る。これは、巨大分子(変異タンパク質又はその結合パートナー)には到達し難いこともある部位にイオンが到達可能であることにより、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。場合によっては、アッセイ溶液中のイオンは、変異タンパク質及びその結合パートナーが互いに結合する可能性を増加させ得る。さらに、イオンは、それに加えて又は代えて、大型分子(変異タンパク質又はその結合パートナー)に結合することによって変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。この結合は、結合パートナーとの結合を促進する特定のコンホメーションに大型分子のコンホメーションを変化させ、及び/又は大型分子をそのようなコンホメーションに保持し得る。
【0268】
イオンが変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を、恐らくは変異タンパク質及びその結合パートナーとのイオン結合の形成によって補助し得ることが観察されている。従って、イオンのない同じアッセイと比較して、スクリーニングがはるかに効率的となり得るとともに、より多くのヒット(候補条件的活性型生物学的タンパク質)を同定することができる。好適なイオンは、マグネシウムイオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、HAPTイオン、HADPイオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、ヒスチジンイオン、ヒスタミンイオン、及びアンモニウムイオンから選択され得る。
【0269】
イオンは、そのイオンのpKaに近いpHで変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するよう機能することが分かっている。かかるイオンは、好ましくは変異タンパク質のサイズと比べて比較的小さい。
【0270】
一実施形態において、異常条件が、正常生理条件下における正常生理的pHと異なるpHである場合、候補条件的活性型生物学的タンパク質のヒット数を増加させるのに好適なイオンは、アッセイで試験する異常pHに近いpKaを有するイオンから選択され得る。例えば、イオンのpKaは、異常pHと1pH単位異なってもよく、異常pHと0.8pH単位異なってもよく、異常pHと0.6pH単位異なってもよく、異常pHと0.5pH単位異なってもよく、異常pHと0.4pH単位異なってもよく、異常pHと0.3pH単位異なってもよく、異常pHと0.2pH単位異なってもよく、又は異常pHと0.1pH単位異なってもよい。
【0271】
本発明において有用なイオンの例示的pKa(このpKaは、温度が異なると僅かに変わり得る)は、以下のとおりである:アンモニウムイオンはpKaが約9.24であり、リン酸二水素はpKaが7.2であり、酢酸はpKaが約4.76であり、ヒスチジンはpKaが約6.04であり、重炭酸イオンはpKaが約6.4であり、クエン酸塩はpKaが6.4であり、乳酸イオンはpKaが約3.86であり、ヒスタミンはpKaが約6.9であり、HATPはpKaが6.95(HATP3-⇔ATP4-+H+)であり、及びHADPはpKaが6.88(HADP3-⇔ADP4-+H+)である。
【0272】
一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は硫化水素の存在下でアッセイ及び選択される。硫化水素はpKaが7.05である。一部の実施形態では、正常生理条件に相当するアッセイと異常生理条件に相当するアッセイとに異なる硫化水素濃度が用いられ得る。或いは、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ媒体は硫化水素濃度がほぼ同じで、また特定の条件の値が何らか異なるものであり、例えばこのアッセイは異なるpHで行われ得る。アッセイで用いられる硫化水素濃度は100μm~約100mMであり得る。好ましくは、アッセイ媒体は、1~10mM、又は1~5mM、又は1~3mMの硫化水素濃度を有する。硫化水素の存在下で行われるアッセイは公知である。
【0273】
特定の実施形態において、異常条件のpH(即ち、異常pH)が分かると、候補条件的活性型生物学的タンパク質のヒットを増加させるのに好適なイオンを、異常pH又はそれに近いpKaを有するイオンから選択することができ、例えば、候補イオンは、異常pHと約1pH単位異なる、異常pHと0.8pH単位異なる、異常pHと0.6pH単位異なる、異常pHと0.5pH単位異なる、異常pHと0.4pH単位異なる、異常pHと0.3pH単位異なる、異常pHと0.2pH単位異なる、又は異常pHと0.1pH単位異なるpKaを提供し得る。
【0274】
前述のとおり、イオンは、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するのに、そのイオンのpKa又はそれに近いpHで最も有効である。例えば、pH7.2~7.6のアッセイ溶液では、重炭酸イオン(pKaが約6.4である)は、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でないことが分かっている。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.4にまで低下させるに従い、重炭酸イオンは、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となる。結果として、pH6.4のアッセイであれば、pH7.2~7.6のアッセイと比較してより多くのヒットが同定され得る。同様に、ヒスチジンは、pH7.4では、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でない。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.0にまで低下させるに従い、ヒスチジンは変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となり、また、例えば約6.2~6.4の範囲のpHでは、より多くのヒットを同定することも可能になる。
【0275】
本発明では、意外にも、正常生理条件のアッセイ溶液のpH(即ち、正常生理的pH)と異常条件のアッセイ溶液のpH(即ち、異常pH)とが異なる場合、正常生理的pHと異常pHとのほぼ中点からほぼ異常pHに至る範囲のpKaを有するイオンが、スクリーニングする変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を大幅に補助し得ることが見出された。結果として、このスクリーニングアッセイは、異常条件で活性が高いヒット又は候補条件的生物学的タンパク質をより多く見付けるのに、はるかに効率的である。
【0276】
一部の実施形態では、pKaは異常pHと少なくとも1pH単位異なっていてもよい。異常pHが酸性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH-1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。異常pHが塩基性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH+1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。イオンは、本願に記載されるものから選択され得る。しかしながら、本願に明示的に記載されていないさらに多くのイオンもまた用いることができる。スクリーニングアッセイの異常pH及び正常生理的pHが選択されると、当業者は、本発明の指針を用いて、異常条件で高い活性を有するヒットをより多く同定する点でスクリーニングの効率を増加させるのに好適なpKaを有する任意のイオンを選択し得ることが理解される。
【0277】
例えば、ある例示的スクリーニングについて異常pHが8.4であり、正常生理的pHが7.4である場合、約7.9(中点)~9.4(即ち、8.4+1)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、トリシン(pKa 8.05)、ヒドラジン(pKa 8.1)、ビシン(pKa 8.26)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(pKa 8.3)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(pKa 8.4)、タウリン(pKa 9.06)に由来するイオンが挙げられる。別の例では、ある例示的スクリーニングについて異常pHが6であり、正常生理的pHが7.4である場合、約5(即ち、6-1)~6.7(中点)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、リンゴ酸塩(pKa 5.13)、ピリジン(pKa 5.23)、ピペラジン(pKa 5.33)、カコジル酸塩(pKa 6.27)、コハク酸塩(pKa 5.64)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(pKa 6.10)、クエン酸塩(pKa 6.4)、ヒスチジン(pKa 6.04)及びビス-トリス(6.46)に由来するイオンが挙げられる。当業者は、膨大な数の化学マニュアル及びテキストを参考にして、無機化学化合物及び有機化学化合物の両方を含め、その範囲内にあるpKaを有するイオンに変換し得る既知の化学化合物を同定することが可能であろう。好適なpKaを有する化学化合物の中では、より小さい分子量のものが好ましいこともある。
【0278】
従って、本発明では、予想外にも、最終的に同定される条件的活性型生物学的タンパク質の作製が野生型タンパク質からの正しいタンパク質変異体の生成に依存するのみならず、アッセイ溶液中における好適なpKaのイオンの使用にも依存することが見出された。イオンは大規模ライブラリからの高活性の変異体の効率的な選択を促進し得るため、本発明では、変異タンパク質の大規模ライブラリの(例えば、CPE及びCPSによる)生成に加えて、アッセイ溶液中に使用する好適なイオン(適切なpKaを有する)を見付けることに労力を注ぐべきであると考えられる。さらに、好適なイオンがない場合、スクリーニングの効率が低く、高活性の変異体が見付かる可能性が低下することが考えられる。結果的に、好適なイオンなしに同じ数の高活性の変異体を得るために、複数のスクリーニングラウンドが必要となり得る。
【0279】
アッセイ溶液中のイオンはアッセイ溶液の構成成分からインサイチューで形成されてもよく、又はアッセイ溶液に直接含められてもよい。例えば、空気からCO2をアッセイ溶液に溶解させて炭酸イオン及び重炭酸イオンを提供してもよい。別の例では、リン酸二水素ナトリウムをアッセイ溶液に添加してリン酸二水素イオンを提供してもよい。
【0280】
アッセイ溶液中におけるこの構成成分の濃度は(正常生理条件下のアッセイ及び異常条件下のアッセイの両方について)、ヒトなどの哺乳動物の天然に存在する体液中で典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。他の実施形態において、構成成分の濃度は、特に変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するように機能し得るイオンである構成成分の場合に、より高くてもよく、これは、かかるイオンの濃度が高いほど変異タンパク質及びその結合パートナーとのイオン結合が形成され、特に結合が促進されて、より多くのヒット又は候補条件的活性型タンパク質が見付かる可能性が高くなり得ることが観察されているためである。
【0281】
一部の実施形態において、アッセイ溶液中のイオン濃度は、特に正常生理的濃度よりも過剰な濃度が用いられる場合に、アッセイを用いてより多くのヒットが見付かる可能性と正の相関があり得る。例えば、ヒト血清は約15~30mMの重炭酸イオン濃度を有する。一例において、アッセイ溶液中の重炭酸イオン濃度を3mMから10mM、20mM、30mM、50mM及び100mMに増加させたとき、重炭酸塩濃度が増加する毎にアッセイにおけるヒットの数もまた増加した。これを踏まえると、アッセイ溶液には、約3mM~約200mM、又は約5mM~約150mM又は約5mM~約100mM、又は約10mM~約100mM又は約20mM~約100mM又は約25mM~約100mM又は約30mM~約100mM又は約35mM~約100mM又は約40mM~約100mM又は約50mM~約100mMの範囲の重炭酸塩濃度を用いることができる。
【0282】
別の実施形態において、アッセイ溶液中のクエン酸塩濃度は、約30μM~約120μM、又は約40μM~約110μM、又は約50μM~約110μM、又は約60μM~約100μM、又は約μM~約90μM、又は約μMであり得る。
【0283】
条件的活性型生物学的タンパク質は、その由来である元の野生型タンパク質と比較したとき荷電アミノ酸残基の割合が高いことが分かっている。例えば、3つの正電荷アミノ酸残基:リジン、アルギニン及びヒスチジン;及び2つの負電荷アミノ酸残基:アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩がある。選択された条件的活性型生物学的タンパク質では、野生型タンパク質(これから変異タンパク質を発達させ、それらの変異タンパク質から条件的活性型生物学的タンパク質が選択される)と比較してこれらの荷電アミノ酸が大きな比率を占める。荷電アミノ酸残基が多いほどイオンとの水素結合/イオン結合がより多く形成され得るため、これはアッセイ溶液中におけるイオンの使用に関係し得る。
【0284】
一実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、異常条件は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液は正常生理的pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液は異常pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。重炭酸イオンのpKaは約6.4であるため、重炭酸イオンは、pH6.2~6.8、例えばpH6.4の異常pHで変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助することができる。
【0285】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、及び異常条件は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液は正常生理的pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液は異常pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。クエン酸イオンはpKaが6.4であるため、クエン酸イオンは、pH6.2~6.8の異常条件のアッセイ溶液中で変異タンパク質と結合パートナーとの間の結合を有効に補助することができる。従って、pH6.4の条件下でより高い結合活性を有し且つ7.2~7.8のpH条件下でより低い活性を有する候補条件的活性型生物学的タンパク質がより多く同定され得る。酢酸、ヒスチジン、重炭酸塩、HATP及びHADPを含めた他のイオンも同様に機能し、こうしたイオンを含有するアッセイ溶液によって、イオンのpKa前後のpHでより高い結合活性を有し且つイオンのpKaと異なるpH(例えば正常生理的pH)でより低い結合活性を有する変異タンパク質を有効にスクリーニングすることが可能となる。
【0286】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は37℃の正常生理的温度であり、異常条件は38~39℃の異常温度(一部の腫瘍微小環境における温度)である。正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液は正常生理的温度及び70mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液は異常温度及び70mMの重炭酸イオンを有する。
【0287】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は正常ヒト血清における特定の電解質濃度であり、異常条件は、動物又はヒトにおいて異なる位置に位置し得るか又はヒト血清中の正常生理的電解質濃度を変化させる動物又はヒトの状態によって生じ得る異なる異常な濃度である同じ電解質の濃度である。
【0288】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーの間の結合にはまた、幾つもの他の方法で影響を与えることができる。典型的には、この影響は、アッセイ媒体に1つ以上の追加的な構成成分を含めることによって及ぼされることになる。これらの追加的な構成成分は、変異タンパク質、結合パートナーのいずれか一方又は両方と相互作用するように設計され得る。加えて、これらの追加的な構成成分は、2つ以上の相互作用の組み合わせ並びに2つ以上のタイプの相互作用の組み合わせを用いて結合に影響を与え得る。
【0289】
一実施形態において、目的の結合相互作用は抗体と抗原との間である。この実施形態において、1つ以上の追加的な構成成分がアッセイ媒体に含まれ、抗体、抗原又は両方に影響を及ぼし得る。このようにして、所望の結合相互作用が増強され得る。
【0290】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとイオン結合を形成して変異タンパク質と結合パートナーとの間の結合を補助し得るイオンに加え、本発明はまた、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助するために利用し得る他の構成成分も含む。一実施形態では、変異タンパク質及び/又はその結合パートナーと水素結合を形成し得る分子を利用し得る。別の実施形態では、変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する分子を使用し得る。さらに別の実施形態では、変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する分子が企図される。
【0291】
本明細書で使用されるとき、用語「水素結合」は、炭素、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電気陰性原子に共有結合的に結合した水素(水素結合供与体)と、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電子供与原子の非共有電子対(水素結合受容体)との間の比較的弱い非共有結合性の相互作用を指す。
【0292】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとの水素結合形成能を有する構成成分には、極性結合を伴う有機分子並びに無機分子が含まれる。変異タンパク質及び/又は変異タンパク質の結合パートナーは、典型的には、水素結合を形成し得るアミノ酸を含有する。好適なアミノ酸は、水素結合形成能を有する極性基を備えた側鎖を有する。好適なアミノ酸の非限定的な例としては、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg) アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0293】
これらのアミノ酸は水素供与体及び水素受容体の両方として機能し得る。例えば、Ser、Thr、及びTyrに見られ得るような-OH基の酸素原子、Glu及びAspに見られ得るような-C=O基の酸素原子、Cys及びMetに見られ得るような-SH基又は-SC-の硫黄原子、Lys及びArgに見られ得るような-NH3+基の窒素原子、並びにTrp、His及びArgに見られ得るような-NH-基の窒素原子は、全て水素受容体として機能し得る。また、このリスト中の基で水素原子を含むもの(例えば-OH、-SH、NH3+及び-NH-)は水素供与体としても機能し得る。
【0294】
一部の実施形態では、変異タンパク質及び/又はその結合パートナーの骨格もまた、1つ以上の水素結合の形成に関与し得る。例えば、骨格は、ペプチド結合にあるように、-(C=O)-NH-の反復構造を有し得る。この構造の酸素及び窒素原子が水素受容体として機能し得る一方、水素原子が水素結合に関与し得る。
【0295】
水素結合に用いられ得る水素又は酸素原子が関わる少なくとも1つの極性結合を有する無機化合物としては、例えば、H2O、NH3、H2O2、ヒドラジン、炭酸塩、硫酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。アルコール類;フェノール類;チオール類;脂肪族アミン類、アミド類;エポキシド類、カルボン酸類;ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、有機塩化物、及び有機フッ素などの有機化合物。水素結合を形成し得る化合物は、例えば、“The Nature of the Chemical Bond,”by Linus Pauling,Cornell University Press,1940,pages 284~334(この開示は、水素結合相互作用能を有する化合物のその列挙に関して本明細書によって全体として参照により援用される)で考察されているものなど、化学文献において周知である。
【0296】
一部の実施形態において、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、l-ヘキサノール、2-オクタノール、l-デカノール、シクロヘキサノール、及び高級アルコール類;ジオール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、及びポリアルキレングリコール類を挙げることができる。好適なフェノール類としては、ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、フェノール、o-、m-、及びp-クレゾール、チモール、α及びβ-ナフトール、ピロガロール、グアヤコール、及びフロログルシノールが挙げられる。好適なチオール類としては、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、ブタンチオール、tert-ブチルメルカプタン、ペンタンチオール類、ヘキサンチオール、チオフェノール、ジメルカプトコハク酸、2-メルカプトエタノール、及び2-メルカプトインドールが挙げられる。好適なアミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アニリン、ジメチルアミン及びメチルエチルアミン、トリメチルアミン、アジリジン、ピペリジン、N-メチルピペリジン、ベンジジン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、o-、m-、及びp-トルイジン及びN-フェニルピペリジンが挙げられる。好適なアミド類としては、エタンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド及びN-メチル-N-p-シアノエチルホルムアミドが挙げられる。エポキシド類としては、エチレンオキシド、酸化プロピレン、tert-ブチルヒドロペルオキシド、スチレンオキシド、エポキシドグリシドール、シクロヘキセンオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はエチルベンゼンヒドロペルオキシド、イソブチレンオキシド、及び1,2-エポキシオクタンを挙げることができる。カルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、サリチル酸、安息香酸、酢酸、ラウリン酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、アクリル酸、グリシン、ヘキサヒドロ安息香酸、o-、m-、及びp-トルイル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、及びパラアミノ安息香酸を挙げることができる。ケトン類としては、アセトン、3-プロパノン、ブタノン、ペンタノン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルtert-ブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びアセトフェノンを挙げることができる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、イソブチルアルデヒド(sobutyraldehyde)、バレルアルデヒド、オクトアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、シクロヘキサノン、サリチルアルデヒド、及びフルフラールを挙げることができる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸アミル、アセト酢酸メチル、及びアセト酢酸エチルが挙げられる。本発明で用い得るエーテル類としては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、及びジメトキシエタンが挙げられる。エーテル類は、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなど、環状であってもよい。
【0297】
有機塩化物としては、クロロホルム、ペンタクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロメタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、及び二塩化エチレンが挙げられる。有機フッ素としては、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ジフルオロプロパン、トリフルオロプロパン、テトラフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、及びヘプタフルオロプロパンを挙げることができる。
【0298】
水素結合は結合の強度によって、強い、中程度の、又は弱い水素結合に分類することができる(Jeffrey,George A.;An introduction to hydrogen bonding,Oxford University Press,1997)。強い水素結合は、2.2~2.5Åの供与体-受容体距離及び14~40kcal/molの範囲のエネルギーを有する。中程度の水素結合は、2.5~3.2Åの供与体-受容体距離及び4~15kcal/molの範囲のエネルギーを有する。弱い水素結合は、3.2~4.0Åの供与体-受容体距離及び<4kcal/molの範囲のエネルギーを有する。水素結合の幾つかの例は、エネルギーレベルと共に、F-H・・・:F(38.6kcal/mol)、O-H・・・:N(6.9kcal/mol)、O-H・・・:O(5.0kcal/mol)、N-H・・・:N(3.1kcal/mol)及びN-H・・・:O(1.9kcal/mol)である。さらに詳しくは、Perrin et al.“Strong”hydrogen bonds in chemistry and biology,Annual Review of Physical Chemistry,vol.48,pages 511-544,1997;Guthrie,“Short strong hydrogen bonds:can they explain enzymic catalysis?”Chemistry & Biology March 1996,3:163-170を参照のこと。
【0299】
一部の実施形態において、本発明に用いられる構成成分は変異タンパク質及び/又はその結合パートナーと強い水素結合を形成することができる。これらの構成成分は、高い電気陰性度の原子を有する傾向がある。最も高い電気陰性度を有することが知られている原子は、順にF>O>Cl>Nである。従って、本発明は好ましくは、水素結合の形成において、フッ素、ヒドロキシル基又はカルボニル基を含む有機化合物を使用する。一実施形態では、強い水素結合を形成するため、本発明において有機フッ素が用いられ得る。
【0300】
別の実施形態において、変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分が利用される。かかる構成成分には、疎水基を有する有機化合物が含まれる。
【0301】
本明細書で使用されるとき、用語「疎水性相互作用」は、疎水性化合物又は化合物の疎水性領域と別の疎水性化合物又は他の化合物の疎水性領域との間の可逆的な引力相互作用を指す。この種の相互作用については、“Hydrophobic Interactions,”A.Ben-Nairn(1980),Plenum Press,New York(この開示は、疎水性相互作用のその記載に関して本明細書によって参照により援用される)に記載されている。
【0302】
疎水性材料は、その非極性の性質のため、水分子の反発力を受ける。水溶液中の比較的非極性の分子又は基が水よりむしろ他の非極性分子と会合するとき、「疎水性相互作用」と呼ばれる。
【0303】
変異タンパク質及びその結合パートナーは、典型的には、疎水性相互作用能を有するアミノ酸を含む。これらのアミノ酸は、典型的には、疎水性相互作用能を有する非極性基を有する少なくとも1つの側鎖を有することによって特徴付けられ得る。疎水性アミノ酸としては、例えば、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、程度は小さいが、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0304】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分には、疎水性分子又は少なくとも1つの疎水性部分を含有する分子である有機化合物が含まれる。一部の実施形態において、これらの疎水性構成成分は、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、及びアルキン類から選択される炭化水素であり得る。疎水基には、芳香族基、アルキル、シクロアルキル、アルケニル及びアルキニル基が含まれ得る。用語「アルキル」、「アルケニル」及び「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、直鎖アルケニル/アルキニル基、分枝鎖アルケニル/アルキニル基、シクロアルケニル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルケニル/アルキニル基を含めた、1~30個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基を指す。かかる炭化水素部分はまた、1つ以上の炭素原子上で置換されていてもよい。
【0305】
疎水性相互作用の強度は、互いに相互作用し得る利用可能な「疎水性物質」の量に基づくことが理解され得る。従って、疎水性相互作用は、例えば、疎水性(hydrophonbic)相互作用に関わる分子中の疎水性部分の量及び/又は「疎水性」の性質を増加させることにより調整し得る。例えば、疎水性部分(その本来の形態では炭化水素鎖を含み得る)を修飾して、その炭素骨格の炭素の1つに疎水性側鎖を付加することによってその疎水性(その部分が関与する疎水性相互作用の強度を増加させる能力)を増加させることができる。本発明の好ましい実施形態において、これは、例えば様々なステロイド化合物及び/又はそれらの誘導体、例えばステロール系化合物、より詳細にはコレステロールを含めた様々な多環式化合物の付加を含み得る。一般に、側鎖は、直鎖、芳香族、脂肪族、環状、多環式、又は当業者によって企図されるとおりの任意の他の様々なタイプの疎水性側鎖であってよい。
【0306】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有するタイプの構成成分は、必ずしもというわけではないが、通常は、極性部分を有する化合物である。本明細書で使用されるとき、「ファンデルワールス相互作用」は、双極子間相互作用及び/又は量子動力学の結果としての隣接する原子、部分、又は分子の変動する極性の相互関係によって生じる原子間、部分間、分子間、及び表面間の引力を指す。
【0307】
本発明におけるファンデルワールス相互作用は、変異タンパク質又は結合パートナーと構成成分との間の引力である。ファンデルワールス相互作用は3つの供給源から生じ得る。第一に、一部の分子/部分が、電気的には中性であっても、永久電気双極子であり得る。一部の分子/部分の構造における電子電荷分布の固定的な歪みのため、分子/部分の片側が常に幾らか正であり、反対側が幾らか負である。かかる永久双極子が互いに整列しようとする傾向により、正味の引力がもたらされる。これが2つの永久双極子の間の相互作用(ケーソム力)である。
【0308】
第二に、永久双極子である分子の存在は、他の隣接する極性又は非極性分子の電子電荷を一時的に歪ませ、それによってさらなる分極を誘起し得る。永久双極子が隣接する誘起双極子と相互作用することによって追加的な引力が生じる。これは永久双極子と対応する誘起双極子との間の相互作用であり、デバイ力と称され得る。第三に、関与する分子が永久双極子でないとしても(例えば有機液体ベンゼン)、分子における2つの瞬間的に誘起される双極子によって分子間に引き付ける力は存在する。これは2つの瞬間的に誘起される双極子間の相互作用であり、ロンドン分散力と称され得る。
【0309】
変異タンパク質及び/又は結合パートナーには、ファンデルワールス相互作用能を有するアミノ酸が多数ある。これらのアミノ酸は、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)を含め、極性側鎖を有し得る。これらのアミノ酸はまた、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)を含め、非極性基を有する側鎖も有し得る。
【0310】
変異タンパク質及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する構成成分には、アッセイ溶液に可溶性の極性又は非極性無機化合物が含まれる。アッセイ溶液は、概して水溶液であり、従ってこれらの極性又は非極性無機化合物は、好ましくは水に可溶性である。ファンデルワールス相互作用に好ましい材料は、双極子間相互作用能を有するような極性のものである。例えばAlF3は極性Al-F結合を有し、水に可溶性である(20℃で約0.67g/100ml水)。HgCl2は極性Hg-Cl結合を有し、20℃で7.4g/100mlで水に可溶性である。PrCl2は極性Pr-Cl結合を有し、20℃で約1g/100mlで水に可溶性である。
【0311】
ファンデルワールス相互作用能を有する好適な極性化合物としては、アルコール類、チオール類、ケトン類、アミン類、アミド類、エステル類、エーテル類、及びアルデヒド類が挙げられる。これらの化合物の好適な例は、水素結合に関連して上記に記載している。ファンデルワールス相互作用能を有する好適な非極性化合物としては、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、アルキン類が挙げられる。
【0312】
水素結合構成成分、疎水性構成成分及びファンデルワールス構成成分を利用して、幾つもの方法で変異タンパク質とその結合パートナーとの結合に影響を与えることができる。一実施形態では、水素結合、疎水性相互作用及び/又はファンデルワールス相互作用によって変異タンパク質とその結合パートナーとの間に架橋が形成され得る。かかる架橋は変異タンパク質と結合パートナーとを互いに近接させて結合を促進し、及び/又は変異タンパク質及び/又は結合パートナーを互いに対して結合を促進するような位置に置き得る。
【0313】
別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は、例えば、結合可能性が増加する形でタンパク質及び結合パートナーを互いに集合又は会合させることにより、変異タンパク質がその結合パートナーと結合する可能性を増加させ得る。従って、これらの相互作用のうちの1つ以上を単独で又は組み合わせて用いることで、例えば、結合部位が互いのより近くに引き寄せられるようにするか、又は分子の非結合部分を互いに離して配置し、それによって結合部位を互いのより近くに位置させることにより、変異タンパク質及び結合パートナーを互いにより近接して集合させ、又は変異タンパク質及び結合パートナーを結合が促進される形で配置し得る。
【0314】
なおも別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は変異タンパク質及び/又はその結合パートナーのコンホメーションに影響を与えて、変異タンパク質とその結合パートナーとの結合の一層の助けとなるコンホメーションをもたらし得る。具体的には、変異タンパク質及び/又は結合パートナーのアミノ酸の1つ以上との結合又は相互作用により、変異タンパク質又は結合パートナーにおける変異タンパク質/結合パートナー結合反応に有利な1つ以上のコンホメーション変化が生じ得る。
【0315】
本発明は2つのアッセイペアを実施し、1つは、正常生理条件における変異タンパク質の由来となった元のタンパク質と比較したときの正常生理条件でのアッセイにおける変異タンパク質の活性の低下を求めるものであり、及び第2のアッセイは、異常条件における変異タンパク質の由来となった元のタンパク質と比較したときの異常条件下でのアッセイにおける変異タンパク質の活性の増加を求めるものである。場合によっては、変異タンパク質の由来となった元のタンパク質は野生型タンパク質であり得る。他の場合には、変異タンパク質の由来となった元のタンパク質は、それ自体が、本明細書の他の部分に記載される突然変異技法の1つ以上を用いて調製された変異タンパク質であり得る。
【0316】
本発明のアッセイペアで用いられる条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度及びアッセイ溶液又は媒体の任意の他の構成成分の濃度から選択され得る。従って、アッセイ媒体の特定の構成成分は、アッセイの両方のペアにおいて実質的に同じ濃度で用いられ得る。そのような場合、構成成分は典型的には、血清、腫瘍微小環境、筋肉環境、神経環境又は投与ポイントで直面し得るか、投与された治療が通過し得るか、若しくは治療ポイントで直面し得る任意の他の環境など、ヒト又は動物における特定の環境を模擬する目的で存在する。これらの環境を模擬する1つ以上の構成成分の選択の重要な一側面は、それによってアッセイペアを用いて実施される選択過程の結果が向上し得ることである。例えば、特定の環境を模擬することにより、選択過程において当該環境の特定の構成成分が変異タンパク質に及ぼす様々な効果を評価することが可能となる。特定の環境の構成成分は、例えば、変異タンパク質を変化させ、又はそれと結合し、変異タンパク質の活性を阻害し、変異タンパク質を不活性化する等し得る。
【0317】
一部の実施形態において、アッセイ溶液の1つ以上の構成成分は、好ましくは、硫化水素、重炭酸塩、ヒスタミン、乳酸、及び酢酸などの小分子である。一実施形態において、小分子構成成分は、好ましくはアッセイ溶液中に約100μm~約100mM、又はより好ましくは約0.5~約50mM、又は約1~約10mMの濃度で存在する。
【0318】
アッセイ溶液中の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳動物の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。これは、体液中の構成成分の正常生理的濃度と称することができる。他の実施形態において、アッセイ溶液中の特定の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳動物の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度より低くてもよく、又はそれより高くてもよい。
【0319】
別の実施形態において、構成成分は、アッセイのペアの各々で実質的に異なる濃度で存在し得る。そのような場合、正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液と異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液とを区別する条件であるのは構成成分の濃度であるため、構成成分の存在、非存在又は濃度が、アッセイされる条件となる。従って、本発明の方法のこの実施形態によって作製される条件的活性型生物学的タンパク質は、構成成分の濃度に少なくとも部分的に依存する活性に関して選択され得る。
【0320】
一部の実施形態において、構成成分はアッセイ溶液の一方のペアに存在し、しかしアッセイ溶液の他方のペアには全く存在しなくてもよい。例えば、異常条件のアッセイ溶液中の乳酸濃度は、腫瘍微小環境の乳酸濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。乳酸は、正常生理条件のアッセイ溶液のペアには存在しなくてもよい。
【0321】
一実施形態において、正常生理条件は正常生理条件を代表する第1の乳酸濃度であり、異常条件は、体内の特定の位置に存在する異常条件を代表する第2の乳酸濃度である。
【0322】
別の例において、腫瘍微小環境に見られ得るようにグルコースが存在しないことを模擬するため、異常条件のアッセイ溶液中にグルコースが存在しなくてもよく、一方、正常生理条件のアッセイ溶液のペアにおいては、グルコースは血漿グルコース濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。この特徴を用いると、条件的活性型生物学的タンパク質を輸送中には不活性又は最小限の活性で位置又は環境に優先的に送達し、異常条件のアッセイ溶液中の構成成分の濃度が存在する環境に到達したときに活性化させることができる。
【0323】
例えば、腫瘍微小環境は典型的には、ヒト血清と比較して低いグルコース濃度及び高い乳酸濃度の両方を有する。グルコースの正常生理的濃度は血清中で約2.5mM~約10mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境ではグルコース濃度は0.05mM~0.5mMの範囲で典型的には極めて低い。一実施形態において、正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液は約2.5mM~約10mMの範囲のグルコース濃度を有し、異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液は約0.05mM~約0.5mMの範囲のグルコース濃度を有する。このように作製された条件的活性型生物学的タンパク質は、低グルコース環境では高グルコース環境よりも高い活性を有する。この条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0324】
血清中の乳酸の正常生理的濃度は約1mM~約2mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境では乳酸濃度は典型的には10mM~20mMの範囲である。一実施形態において、正常生理条件下でのアッセイのアッセイ溶液は約1mM~約2mMの範囲の乳酸濃度を有し、異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液は約10mM~約20mMの範囲の乳酸濃度を有する。このように作製された条件的活性型生物学的タンパク質は、高乳酸環境では低乳酸環境よりも高い活性を有する。従ってこの条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0325】
同様に、筋肉痛では乳酸の濃度が正常より高い(異常である)ことが知られている。従って、筋肉痛環境で活性となり得る変異タンパク質を探すとき、異常条件でのアッセイのペアはより高い濃度の乳酸の存在下で実施して筋肉痛環境を模擬することができ、一方、正常生理条件でのアッセイのペアは、より低い濃度の乳酸で、又は乳酸の非存在下で実施することができる。このようにして、筋肉痛環境において乳酸濃度の増加に伴い活性が向上する変異タンパク質を選択することができる。かかる条件的活性型生物学的タンパク質は、例えば抗炎症剤として有用であり得る。
【0326】
別の実施形態において、アッセイ溶液の両方のペアにおいて2つ以上の構成成分を使用し得る。このタイプのアッセイでは、条件的活性型生物学的タンパク質は、上記に記載した2つのタイプのアッセイの両方の特徴を用いて選択し得る。或いは、2つ以上の構成成分を用いて条件的活性型生物学的タンパク質の選択性を増加させることができる。例えば、腫瘍微小環境に戻ると、異常条件でのアッセイのペアは、高乳酸濃度及び低グルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができ、一方、対応する正常生理条件でのアッセイのペアは、比較的低い乳酸濃度及び比較的高いグルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができる。
【0327】
本発明は、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される各構成成分を単独で又は組み合わせで用いて、構成成分のある濃度で同じ構成成分の異なる濃度と比べて活性が高い条件的活性型生物学的タンパク質を選択し得ることを企図する。
【0328】
正常環境と異常環境とを区別する条件として1つ以上の代謝産物の異なる濃度に頼るアッセイは、血漿中よりも腫瘍微小環境中で活性が高い条件的活性型生物学的タンパク質の選択に特に好適となることができ、なぜなら腫瘍微小環境は典型的には、血漿中の同じ代謝産物の濃度と比較して異なる濃度を有する代謝産物を数多く有するためである。
【0329】
Kinoshita et al.,“Absolute Concentrations of Metabolites in Human Brain Tumors Using In Vitro Proton Magnetic Resonance Spectroscopy,”NMR IN BIOMEDICINE,vol.10,pp.2-12,1997は、正常脳及び脳腫瘍における代謝産物を比較した。このグループは、N-アセチルアスパラギン酸塩が正常脳では5000~6000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では僅か300~400μM、星状細胞腫では1500~2000μM、及び未分化星状細胞腫では600~1500μMであることを発見した。さらに、イノシトールは正常脳では1500~2000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2500~4000μM、星状細胞腫では2700~4500μM、及び未分化星状細胞腫では3800~5800μMである。ホスホリルエタノールアミンは正常脳では900~1200μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2000~2800μM、星状細胞腫では1170~1370μM、及び未分化星状細胞腫では1500~2500μMである。グリシンは正常脳では600~1100μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では4500~5500μM、星状細胞腫では750~1100μM、及び未分化星状細胞腫では1900~3500μMである。アラニンは正常脳では700~1150μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2900~3600μM、星状細胞腫では800~1200μM、及び未分化星状細胞腫では300~700μMである。これらの代謝産物はまた、血中で異なる濃度を有することもあり、例えば、N-アセチルアスパラギン酸塩は血中で約85000μMの濃度を有し;イノシトールは血中で約21700μMの濃度を有し;グリシンは血中で約220~400μMの濃度を有し;アラニンは血中で約220~300μMの濃度を有する。
【0330】
従って、これらの代謝産物は、少なくともN-アセチルアスパラギン酸塩、イノシトール、グリシン及びアラニンを含め、脳腫瘍で活性であるが血中又は正常脳組織では活性でない条件的活性型生物学的タンパク質を選択するため、アッセイ溶液中において異なる濃度で用い得る。例えば、膠芽腫の腫瘍微小環境で活性であるが、血中又は正常脳組織では活性でないか又は少なくとも活性が低い条件的活性型生物学的タンパク質を選択するため、N-アセチルアスパラギン酸塩が85000μMの濃度のアッセイ溶液を正常生理条件下でのアッセイのペアに用いてもよく、N-アセチルアスパラギン酸塩が350μMの濃度のアッセイ溶液を異常条件下でのアッセイのペアに用いてもよい。
【0331】
Mayers et al.,“Elevated circulating branched chain amino acids are an early event in pancreatic adenocarcinoma development,”Nature Medicine,vol.20,pp.1193-1198,2014は、膵臓の患者の診断前血漿中の分枝鎖アミノ酸を含む種々の異なる代謝産物の濃度を調べた。膵腫瘍患者には、膵癌を有しないヒトの血中における同じ代謝産物の濃度と比べて血流中に異なる濃度で存在する幾つかの代謝産物があることが分かった。Mayersらはまた、膵癌患者が正常対象との比較においてその血漿中に分枝アミノ酸の有意な上昇を有することも見出した。上昇した濃度で存在する分枝アミノ酸には、イソロイシン、ロイシン及びバリンが含まれる(Mayersの表1)。正常な健常ヒトと比べて膵癌患者の血漿中に有意に異なる濃度で存在するMayersの図1に示される他の代謝産物がある。これらの代謝産物には、少なくともアセチルグリシン、グリシン、フェニルアラニン、チロシン、2-アミノアジピン酸、タウロデオキシコール酸塩/タウロケノデオキシコール酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、乳酸塩、a-グリセロリン酸塩及び尿酸塩が含まれる。従って、特定の代謝産物が膵癌患者と正常な健常患者との血漿中において異なる濃度で存在するという知見に基づけば、膵癌の腫瘍微小環境もまたこれらの代謝産物に関して健常患者の膵臓微小環境に存在し得るものと異なる濃度を有するであろうことを予測し得る。
【0332】
従って、一実施形態において、これらの代謝産物の1つ以上が、正常生理条件のアッセイ溶液中に、健常人の血漿中におけるこれらの代謝産物の濃度(即ち、代謝産物の正常生理的濃度)を近似する量で用いられ得る。例えば、健常人の血漿中における既知の正常生理的濃度は、イソロイシンについて約1.60±0.31mg/dL、ロイシンについて約1.91±0.34mg/dL、及びバリンについて約2.83±0.34mg/dLである。正常生理条件のアッセイ溶液は、これらの分枝アミノ酸の1つ以上のこれらの範囲内の正常生理的濃度を有し得る。異常条件のアッセイ溶液は、対応する分枝アミノ酸の健常人における正常生理的濃度よりも約5倍、又は約10倍、又は約20倍、又は約50倍、又は約70倍、又は約100倍、又は約150倍、又は約200倍、又は約500倍高い濃度で同じ分枝アミノ酸を有し得る。Mayersらの知見に基づけば、Mayersらによって見出された血漿中に見られるこれらの分枝アミノ酸のより高い濃度は腫瘍微小環境から生じて血流中で希釈されるため、これは膵腫瘍微小環境でこれらの分枝アミノ酸の濃度が有意に上昇していると予想され得ることを反映したものである。同様に、異常条件下でのアッセイは、特定の代謝産物の濃度が正常な個体と比べて癌患者で有意に低かったとしても、膵癌患者の血中の他の代謝産物の濃度を反映するものであってもよい。このようにして、スクリーニングが実際の環境を模擬し、それによって当該の特定の環境について最も高い活性の変異体が選択されることを確実にし得る。
【0333】
一部の他の実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中の濃度を模擬してこれらの患者の実際の血漿環境を模擬する濃度の1つ以上の分枝アミノ酸を含み得る。かかる実施形態において、異常条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中における対応する分枝アミノ酸の濃度よりも約2倍、又は約3倍、又は約4倍、又は約5倍、又は約7倍、又は約8倍、又は約10倍、又は約15倍、又は約20倍、又は約50倍高い濃度の同じ分枝アミノ酸を有して、これらのより高い濃度が腫瘍微小環境で起こり、血流中の濃度が腫瘍微小環境の実際の濃度の希釈に相当するという事実を反映し得る。同様に、他の代謝産物もまた、正常生理条件及び異常条件のアッセイ溶液中で異なる濃度を有してもよく、血流に関して収集されたデータから予想される実際の違いを反映し得る。場合によっては、膵臓の患者の血流中に特定の代謝産物の欠損が認められることもあり、その場合、計測された血流中濃度を反映する濃度を正常生理条件のアッセイに用いることができ、さらに低い濃度を異常条件のアッセイに用いて、前記代謝産物が腫瘍微小環境で消費されるものと見込まれるという予想を考慮に入れることができる。このようにアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型生物学的タンパク質は、膵癌患者の血漿中と比べて膵癌微小環境で活性がより高いものとなり得る。
【0334】
一部の実施形態では、本発明に膵癌患者の血漿全体を使用し得る。例えば、一実施形態において、正常生理条件下及び異常条件下のアッセイの一方又は両方についてアッセイ溶液に膵癌患者の血漿の1つ以上の構成成分の模擬を用い得る。例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は6.4~6.8の範囲のpHを有し、30wt.%の膵癌患者の血漿が添加される。この実施形態において、膵癌患者の血漿は、(1)条件的活性型生物学的タンパク質がpH7.2~7.6の血中で活性化されないことを確実にすること、及び(2)また、条件的活性型生物学的タンパク質が腫瘍微小環境で、膵癌患者の血中に見られるこの代謝産物組成の存在下であってもpH6.2~6.8によって活性化され得るように確実にすることの両方のために存在する。これにより、治療が膵癌患者に合わせて調整されることになる。
【0335】
別の例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は6.4~6.8の範囲のpHを有し、膵癌患者の血漿は一切添加されない。
【0336】
上記で考察した幾つかのタイプのアッセイの各々において、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される同じ構成成分を用い得る。例えば、乳酸の場合、乳酸は、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液のペアにおいて実質的に同じ濃度で用いられてもよい。正常生理条件と異常条件とは、次には1つ以上の他の側面、例えば、温度、pH、別の構成成分の濃度等が異なることになる。異なる実施形態において、乳酸は正常生理条件と異常条件とを区別する因子の一つとして用いられてもよく、それにより、乳酸が正常生理条件(非腫瘍微小環境)と比べて異常な腫瘍微小環境でより高い濃度であるという事実を反映し得る。
【0337】
一部の実施形態において、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に、2つ以上の構成成分が実質的に同じ濃度で添加される。例えば、クエン酸塩及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がこれらのアッセイ溶液に添加される。両方のアッセイ溶液においてクエン酸塩濃度は約80μMであってもよく、BSA濃度は約10~20%であってもよい。より具体的には、正常生理条件下でのアッセイのペアのアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。異常条件下でのアッセイのペアのアッセイ溶液は6.4~6.8の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。
【0338】
一実施形態において、ヒト血清は、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に実質的に同じ濃度で添加され得る。ヒト血清は多数の無機化合物、イオン、有機分子(タンパク質を含む)を有するため、アッセイ溶液は、これらの2つのアッセイ溶液間で実質的に同じ濃度で存在する無機化合物、イオン、有機分子から選択される複数の多数の構成成分を有し得る。
【0339】
一部の他の実施形態において、2つ以上の構成成分のうちの少なくとも1つは、正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液に異なる濃度で添加される。例えば、乳酸及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がアッセイ溶液に添加される。乳酸濃度は正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液間で異なり得る一方、BSAは両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有し得る。乳酸は異常条件のアッセイ溶液で30~50mg/dLの範囲の濃度及び正常生理条件のアッセイ溶液で8~15mg/dLの範囲の濃度を有してもよい。他方で、BSAは、約10~20%など、両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有する。これらのアッセイ溶液を用いることによってこのように選択された条件的活性型生物学的タンパク質は、BSAの存在下で8~15mg/dLの低乳酸濃度と比べて30~50mg/dLの高乳酸濃度で活性がより高い。
【0340】
一部の実施形態において、アッセイ溶液は、2つ以上の条件に依存する活性を有する条件的活性型生物学的タンパク質を選択するように設計されてもよい。一例示的実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は、pH及び乳酸の両方に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型生物学的タンパク質を選択するためのアッセイ溶液は、pHが7.2~7.6、乳酸が8~15mg/dLの範囲の濃度の正常生理条件のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.4~6.8、乳酸が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいては候補生物学的活性タンパク質のヒット数を増加させるイオンもまた含み得る。
【0341】
さらに別の例示的実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は、pH、グルコース及び乳酸に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型生物学的タンパク質を選択するためのアッセイ溶液は、pHが7.2~7.6、グルコースが2.5~10mMの範囲の濃度、乳酸が8~15mg/dLの範囲の濃度の正常生理条件のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.4~6.8、グルコースが0.05~0.5mMの範囲の濃度、乳酸が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異タンパク質とその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいてはpH6.4~6.8で結合パートナーに結合する候補生物学的活性タンパク質の数を増加させるイオンもまた含み得る。かかるアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型生物学的タンパク質は、pH7.2~7.6、グルコース濃度2.5~10mM及び乳酸濃度8~15mg/dLの環境と比べてpH6.4~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸濃度30~50mg/dLの環境で活性がより高い。
【0342】
無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される2つ以上の構成成分は、選択された条件的活性型生物学的タンパク質を送達することになる位置/部位(即ち、標的部位)の環境を模擬する異常条件のアッセイ溶液を作り出すためものである。一部の実施形態において、標的部位の環境にある少なくとも3つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも4つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも5つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも6つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよい。
【0343】
一実施形態において、標的部位から採取された体液が異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液として直接用いられ得る。例えば、対象、好ましくは治療を必要としている関節疾患を有する対象から滑液が採取されてもよい。採取された滑液は、任意選択で希釈され、異常条件でのアッセイのペアにおいてアッセイ溶液として用いられて、条件的活性型生物学的タンパク質が選択され得る。採取された滑液を、任意選択で希釈して、異常条件下でのアッセイのアッセイ溶液、及び正常生理条件下でのアッセイ用のヒト血漿を模擬するアッセイ溶液として用いることにより、選択される条件的活性型生物学的タンパク質(例えば、TNF-α)は、他の位置又は器官と比べて関節において活性がより高いものとなり得る。例えば、炎症関節(関節炎など)を有する対象はTNF-αで治療し得る。しかしながら、TNF-αは典型的には、他の組織及び器官に損傷を与える重度の副作用を有する。滑液では活性が高いが血中では活性でないか又は活性が低い条件的活性型TNF-αは、体の他の部分に対するTNF-αの副作用を低減しつつ又は潜在的にそれなしに、TNF-αの活性を関節に送達し得る。
【0344】
複数の条件に依存した活性を有する条件的活性型生物学的タンパク質の開発により、対象の体における標的部位に対する条件的活性型生物学的タンパク質の選択性(selectivtity)の向上がもたらされることになる。理想的には、条件のうちの一部のみが存在する他の位置では、条件的活性型生物学的タンパク質は活性でないか、又は少なくとも活性が大幅に低い。一実施形態において、pH6.4~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸濃度30~50mg/dLで活性な条件的活性型生物学的タンパク質は、これらの条件が全て腫瘍微小環境に存在するものであるため、腫瘍微小環境に特異的に送達することができる。他の組織又は器官に存在するのはこれらの条件のうちの1つ又は2つであり得るため、この条件的活性型生物学的タンパク質を他の組織又は器官で完全に活性化させるには不十分である。例えば、運動後の筋肉は6.4~6.8の範囲の低pHを有し得る。しかしながら、それはアッセイされる別の条件を有しないことがあり得る。従って運動後の筋肉では条件的活性型生物学的タンパク質は活性でないか、又は少なくとも活性が低い。
【0345】
一部の実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質の活性が、条件的活性型生物学的タンパク質の選択に用いた条件に本当に依存することを確認する工程が行われ得る。例えば、条件的活性型生物学的タンパク質は、3つの条件:pH6.4~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸濃度30~50mg/dLに依存するように選択される。選択された条件的活性型生物学的タンパク質は、次にこれらの3つの条件の各々で個別に、及び3つの条件のペアを含む環境で試験され、これらの試験で条件的活性型生物学的タンパク質が活性でない又は活性が低いことが確認され得る。
【0346】
一部の実施形態において、血清のある種の構成成分が意図的に最小限に抑えられ、又はアッセイ媒体から除外される。例えば、抗体のスクリーニング時、抗体と結合するか又はそれを吸着する血清の構成成分をアッセイ媒体中では最小限に抑え、又はそこから除外することができる。かかる結合した抗体は偽陽性を生じ、それによって、条件的活性型というよりむしろ種々の異なる条件下で単に血清中に存在する構成成分に結合するに過ぎない結合変異抗体が含まれることになり得る。従って、アッセイ中の変異体と潜在的に結合し得る構成成分が最小限に抑えられ又は除外されるようなアッセイ構成成分の慎重な選択を用いることにより、所望の結合パートナー以外のアッセイの構成成分に結合するために条件的活性に関して不用意に陽性と同定され得る非機能性変異体の数を低減することができる。例えば、ヒト血清中の構成成分と結合する傾向のある変異タンパク質をスクリーニングする一部の実施形態では、ヒト血清の構成成分に結合する変異タンパク質によって生じる偽陽性の可能性を低減し又は排除するため、アッセイ溶液中にBSAが用いられ得る。同じ目標を達成するための詳細な例において、他の類似の置き換えもまた行うことができる。
【0347】
スクリーニングのフォーマット
本発明のスクリーニング工程は、当業者に公知の任意の好適な方法であってよい。例としては、ELISA、酵素活性アッセイ、インビトロ(臓器等)での実組織スクリーニング、組織スライド、全動物、細胞株及び3Dシステムの使用が挙げられる。例えば、好適な細胞ベースのアッセイについては国際公開第2013/040445号パンフレットに記載されており、組織ベースのアッセイについては米国特許第7,993,271号明細書に記載されており、全動物ベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2010/0263599号明細書に記載されており、3Dシステムベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2011/0143960号明細書に記載されている。
【0348】
一部の実施形態において、スクリーニング環境は、細胞膜内部、細胞膜上又は細胞膜外部など、細胞膜に近接した環境であるか、又は関節における環境である。細胞膜環境でのスクリーニング時に結合親和性に影響を及ぼし得る幾つかの要因としては、受容体の発現、インターナリゼーション、抗体薬物複合体(ADC)力価等が挙げられる。
【0349】
一部の実施形態において、発達させる工程により、上記で考察した条件的活性特性に加えて他の所望の特性を同時に有し得る変異タンパク質を作製し得る。発達させ得る好適な他の所望の特性としては、結合親和性、発現、ヒト化等を挙げることができる。従って、本発明を用いて、これらの他の所望の特性のうちの少なくとも1つ又はそれ以上もまた向上した条件的活性型生物学的タンパク質を作製し得る。
【0350】
一部の実施形態において、本発明では条件的活性型生物学的タンパク質が作製される。選択された条件的活性型生物学的タンパク質は、例えば第2の発達工程において、本明細書に開示される突然変異誘発技法の一つを用いてさらに変異させることができ、それにより結合親和性、発現、ヒト化など、選択された条件的活性型生物学的タンパク質の別の特性を向上させ得る。この第2の発達工程の後、条件的活性及び向上させた特性の両方に関して変異タンパク質をスクリーニングし得る。
【0351】
一部の実施形態において、野生型タンパク質を発達させて変異タンパク質を作製した後、第1の条件的活性型生物学的タンパク質が選択され、これは(a)正常生理条件下でのアッセイにおける野生型タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下でのアッセイにおける野生型タンパク質と比較した活性の増加の両方を呈する。次に第1の条件的活性型生物学的タンパク質が1つ以上の追加的な発達、発現及び選択工程にさらに供され、(a)正常生理条件下でのアッセイにおける野生型タンパク質と比較した活性の低下、及び(b)異常条件下でのアッセイにおける野生型タンパク質と比較した活性の増加の両方、並びに第1の条件的活性型生物学的タンパク質及び/又は野生型と比較して異常条件での活性と正常生理条件での活性とのより大きい比を呈する少なくとも第2の条件的活性型生物学的タンパク質が選択され得る。
【0352】
特定の実施形態において、本発明は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との活性比が大きい(例えば、異常条件と正常生理条件との間での選択性がより大きい)条件的活性型生物学的タンパク質を作製することを目標とする。異常条件での活性と正常生理条件での活性との比、即ち選択性は、少なくとも約2:1、又は少なくとも約3:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約30:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約50:1、又は少なくとも約60:1、又は少なくとも約70:1、又は少なくとも約80:1、又は少なくとも約90:1、又は少なくとも約100:1であり得る。
【0353】
一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は抗体であり、これは、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1であり得る。一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質を用いて腫瘍部位が標的化され、ここで条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍部位で活性であり、且つ非腫瘍部位(正常生理条件)では活性が大幅に低いか又は不活性である。
【0354】
一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は、本明細書の他の部分に開示するものなど、別の薬剤とコンジュゲートするように意図される抗体である。この条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比がより高いものであり得る。例えば、別の薬剤とコンジュゲートされる条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1であり得る。これは、コンジュゲートする薬剤が例えば毒性又は放射性である場合に、かかるコンジュゲート薬剤は疾患又は治療部位に集中させることが望ましいため、特に重要であり得る。
【0355】
条件的活性型抗体の操作
本発明の条件的活性型抗体は、本明細書に記載される1つ以上の抗体操作技法によって操作し得る。抗体操作技法の非限定的な例としては、抗体コンジュゲーション、多重特異性抗体の操作、及び抗体のFc領域の操作が挙げられる。
【0356】
条件的活性型抗体のコンジュゲーション
本発明によって提供される条件的活性型抗体は、分子にコンジュゲートし得る。本条件的活性型抗体は例えば脳、滑液、腫瘍微小環境、又は幹細胞ニッチで優先的に作用するため、分子を脳、滑液又は腫瘍微小環境のうちの一つに輸送する目的で条件的活性型抗体を分子にコンジュゲートし得る。一部の実施形態において、コンジュゲートされる分子はある程度の毒性を有し、この毒性は、体内を通じた輸送中、条件的活性型抗体とのコンジュゲーションによって低減し得る。従って、このように毒性の薬剤が疾患又は治療部位で優先的に作用するように影響を及ぼし得る。
【0357】
条件的活性型抗体と治療用又は診断用薬剤などの分子とのコンジュゲーションは、共有結合性又は非共有結合性の結合によることができる。共有結合性のコンジュゲーションは、直接であっても、又はリンカーを介してもよい。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、タンパク質融合によって(即ち、条件的活性型抗体及び神経障害薬物をコードする2つの遺伝子の遺伝子融合、並びに単一のタンパク質としての発現によって)達成される。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、条件的活性型抗体上の反応基と分子上の対応する基又はアクセプターとの間の共有結合の形成による。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、コンジュゲートする2つの分子のうちの一方を、コンジュゲートする他方の分子と適切な条件下で共有結合を形成する反応基(非限定的な例として、スルフヒドリル基又はカルボキシル基)を含むように修飾(例えば、遺伝子修飾)することによる。一つの非限定的な例として、所望の反応基(例えば、システイン残基)を有する分子(例えばアミノ酸)が条件的活性型抗体に導入され、神経薬などの分子とジスルフィド結合を形成し得る。核酸をタンパク質と共有結合的にコンジュゲートする方法は当該技術分野において公知である(即ち光架橋、例えば、Zatsepin et al.Russ.Chem.Rev.,74:77-95(2005)を参照のこと)。
【0358】
非共有結合性のコンジュゲーションは、当業者が容易に理解するであろうように、疎水結合、イオン結合、静電相互作用などを含めた任意の非共有結合手段によることができる。
【0359】
コンジュゲーションはまた、種々のリンカーを使用して実施してもよい。例えば、条件的活性型抗体と神経薬とは、種々の二機能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二機能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル類(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビスジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート類(トルエン2,6-ジイソシアネートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)を使用してコンジュゲートし得る。ペプチド結合によってつながった1~20アミノ酸で構成されるペプチドリンカーも使用し得る。特定のかかる実施形態において、アミノ酸は、20個の天然に存在するアミノ酸から選択される。特定の他のかかる実施形態において、アミノ酸の1つ以上は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン及びリジンから選択される。
【0360】
リンカーは、治療又は疾患部位への送達時に神経薬の遊離を促進する「開裂可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光解離性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al.,Cancer Res.,52:127-131(1992);米国特許第5,208,020号明細書)が用いられてもよい。抗体コンジュゲーション用の架橋剤試薬のいくつかの例としては、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SLAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、及びスルホ-SMPB、及びSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)が挙げられる。
【0361】
コンジュゲートされる治療剤は、放射性粒子、化学療法薬、又は細胞毒素(即ちサイトトキシン)など、体にとって毒性であり得る。本発明の条件的活性型抗体を用いてコンジュゲートされた治療剤を疾患部位に送達することにより、その活性が望ましくない身体領域でのこれらの治療剤の毒性作用が大幅に減少し得る。放射性粒子を抗体にコンジュゲートする技法は、当該技術分野において公知である。イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(登録商標))及びトシツモマブ(Bexxar(登録商標))は、放射性粒子がコンジュゲートされたモノクローナル抗体の例である。両方とも、異なる放射性粒子とコンジュゲートした、CD20抗原に対する抗体である。同様に、化学療法薬を抗体にコンジュゲートする技法もまた当該技術分野において公知である。化学療法薬とコンジュゲートされている市販の抗体は少なくとも2つある:ブレンツキシマブベドチン(Adcetris(登録商標))及びado-トラスツズマブエムタンシン(Kadcyla(商標))。細胞毒素を抗体にコンジュゲートする技法もまた当該技術分野において公知である。例えば、デニロイキンジフチトクス(Ontak(登録商標)、制癌薬)は、インターロイキン-2(IL-2)として知られる免疫系タンパク質が、ジフテリアを引き起こす病原菌由来の毒素に付加されたものからなる。
【0362】
任意の種類の放射性粒子、化学療法薬及び細胞毒素を、これらの薬剤を治療又は疾患部位に送達する間のこれらの薬剤の副作用を低減するため、本発明の条件的活性型抗体にコンジュゲートし得ることが企図される。
【0363】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体にコンジュゲートされた放射性粒子は、1つ以上の放射性同位元素を含浸させた粒子を含み、細胞の局所領域的アブレーションに十分な放射能を有する。こうした粒子は、ガラス、金属、樹脂、アルブミン、又はポリマーを含み得る。放射性粒子における金属は、鉄、ガドリニウム、及びカルシウムから選択され得る。放射性粒子における1つ以上の放射性同位元素の例は、ガリウム-67(67Ga)、イットリウム-90(90Y)、ガリウム-68(68Ga)、タリウム-201(201T1)、ストロンチウム-89(89Sr)、インジウム-III(111In)、ヨウ素-131(131I)、サマリウム-153(153Sm)、テクネチウム-99m(99mTc)、レニウム-186(186Re)、レニウム-188(188Re)、銅-62(62Cu)、及び銅-64(64Cu)から選択される。好ましくは、組成物中の放射性同位元素は、ベータ線、ガンマ線、及び/又は陽電子を放射する。
【0364】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体にコンジュゲートされる化学療法薬は、アントラサイクリン類、トポイソメラーゼI及び/又はII阻害薬、紡錘体毒植物性アルカロイド、アルキル化剤、抗代謝産物、エリプチシン及びハルミンから選択される。
【0365】
アントラサイクリン類(又はアントラサイクリン系抗生物質)は、ストレプトミセス属(Streptomyces)細菌に由来する。これらの化合物は、例えば、肝細胞癌、白血病、リンパ腫、及び乳癌、子宮癌、卵巣癌、及び肺癌を含めた多種多様な癌の治療に用いられる。アントラサイクリン類としては、限定はされないが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン、アクラルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、メトキシモルホリニルドキソルビシン、及び薬学的に受容可能な塩が挙げられる。
【0366】
トポイソメラーゼ類は、DNAのトポロジーを維持する必須酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼの阻害は、適切なDNA超らせん形成を混乱させることによってDNAの転写及び複製の両方を妨げる。一部のI型トポイソメラーゼ阻害薬にはカンプトテシン誘導体が含まれる。カンプトテシン誘導体とは、イリノテカン、トポテカン、ヘキサテカン(hexatecan)、シラテカン、ルトルテカン(lutortecan)、カレニテシン(BNP1350)、ギマテカン(ST1481)、ベロテカン(CKD602)、又はこれらの薬学的に受容可能な塩などのカンプトテシン類似体を指す。II型トポイソメラーゼ阻害薬の例としては、限定はされないが、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド及びテニポシドが挙げられる。アメリカミヤオソウ(American Mayapple)(ポドフィルム・ペルタツム(Podophyllum peltatum))の根に天然に存在するアルカロイドであるエピポドフィロトキシン類の半合成誘導体がある。
【0367】
紡錘体毒植物性アルカロイドは植物に由来し、細胞分裂に必須の微小管機能を妨げることによって細胞分裂を遮断する。これらのアルカロイド類としては、限定はされないが、ビンカアルカロイド類(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン及びビンポセチンなど)及びタキサン類が挙げられる。タキサン類としては、限定はされないが、パクリタキセル、ドセタキセル、ラロタキセル、カバジタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、及びこれらの薬学的に受容可能な塩が挙げられる。
【0368】
アルキル化剤としては、限定はされないが、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミド及び白金化合物、例えば、オキサリプラチン、シスプラチン又はカルボプラチンが挙げられる。
【0369】
抗代謝産物は、正常な代謝の一部である代謝産物の使用を阻害する化学物質である。抗代謝産物が存在すると、細胞成長及び細胞分裂が変化する。プリン又はピリミジン類似体は、DNAへのヌクレオチドの組み込みを妨げて、DNA合成、従って細胞分裂を停止させる。これらはまた、RNA合成にも影響を及ぼす。プリン類似体の例としては、アザチオプリン、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン及びクラドリビンが挙げられる。ピリミジン類似体の例としては、5-フルオロウラシル(5FU)(これはチミジル酸シンターゼを阻害する)、フロクスウリジン(FUDR)及びシトシンアラビノシド(シタラビン)が挙げられる。
【0370】
抗葉酸剤は、葉酸の機能を弱める化学療法薬である。周知の例はメトトレキサートであり、これは、酵素ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を阻害し、従ってテトラヒドロ葉酸塩の形成を妨げる葉酸類似体である。これは、DNA、RNA及びタンパク質の産生阻害につながる(テトラヒドロ葉酸塩はアミノ酸セリン及びメチオニンの合成にも関与するため)。他の抗葉酸剤としては、限定はされないが、トリメトプリム、ラルチトレキセド、ピリメタミン及びペメトレキセドが挙げられる。
【0371】
エリプチシン及びハルミンなど、他の化学療法薬も条件的活性型抗体にコンジュゲートされ得る。エリプチシン及びその誘導体、例えば、9-ヒドロキシエリプチシニウム、N2-メチル-9-ヒドロキシエリプチシニウム、2-(ジエチアミノ(diethyiamino)-2-エチル)9-ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2-(ジイソプロピルアミノ-エチル)9-ヒドロキシ-エリプチシニウムアセテート及び2-(βピペリジノ-2-エチル)9-ヒドロキシエリプチシニウムは、全てが有効な化学療法薬である。
【0372】
ハルミンは、ペガヌム・ハルマラ(Peganum harmala)の種子から単離された天然の植物性アルカロイド生成物である。ハルミン系化学療法薬としては、ハルミン、ハルマリン、ハルモール、ハルマロール及びハルマン、並びにキナゾリン誘導体:バシシン及びバシシノンが挙げられる。
【0373】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体にコンジュゲートされる細胞毒素としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン(anthracinedione)、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド類、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシン並びにこれらの類似体又は相同体が挙げられる。他の毒素としては、例えば、リシン、CC-1065及び類似体、デュオカルマイシン類が挙げられる。さらに他の毒素としては、ジプテリア(diptheria)毒素、及びヘビ毒(例えばコブラ毒)が挙げられる。
【0374】
一部の実施形態において、本発明の条件的活性型抗体は診断用薬剤にコンジュゲートされ得る。本発明で使用される診断用薬剤には、例えば以下の文献に提供されるように、当該技術分野において公知の任意の診断用薬剤が含まれ得る:Armstrong et al,“Diagnostic Imaging,”5th Ed.,Blackwell Publishing(2004);Torchilin,V.P.,Ed.,“Targeted Delivery of Imaging Agents,”CRC Press(1995);Vallabhajosula,S.,“Molecular Imaging:Radiopharmaceuticals for PET and SPECT,”Springer(2009)。診断用薬剤は、限定はされないが、ガンマ線放射シグナル、放射性シグナル、エコー源性シグナル、光学的シグナル、蛍光性シグナル、吸収性シグナル、磁性シグナル又は断層撮影法のシグナルを含めた検出可能なシグナルを提供し、及び/又は増強する薬剤の使用を含め、種々の方法で検出することができる。診断用薬剤のイメージング技法としては、限定はされないが、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、光学イメージング、陽電子放射断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、X線イメージング、ガンマ線イメージングなどを挙げることができる。
【0375】
一部の実施形態において、診断用薬剤には、種々の画像診断法に用いられる、例えば金属イオンに結合したキレーターが含まれ得る。例示的キレーターとしては、限定はされないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[4-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカ-1-イル)メチル安息香酸(CPTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン酸)(DOTP)、1,4,8,11-テトラアザシクロドデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0376】
放射性同位元素は、本明細書に記載される一部の診断用薬剤に組み込むことができ、ガンマ線、陽電子、β及びα粒子、又はX線を放射する放射性核種を含み得る。好適な放射性核種としては、限定はされないが、Ac、As、At、nB、128Ba、212Bi、75Br、77Br、14C、109Cd、62Cu、64Cu、67Cu、18F、67Ga、68Ga、3H、123I、125I、130I、131I、111In、177Lu、13N、150、32P、33P、212Pb、103Pd、186Re、188Re、47Sc、153Sm、89Sr、99mTc、88Y及び90Yが挙げられる。特定の実施形態において、放射性薬剤には、mIn-DTPA、99mTc(CO)3-DTPA、99mTc(CO)3-ENPy2、62/64/67Cu-TETA、99mTc(CO)3-IDA、及び99mTc(CO)3トリアミン(環状又は直鎖状)が含まれ得る。他の実施形態では、これらの薬剤には、111In、177Lu、153Sm、88/90Y、62/64/67Cu、又は67/68Gaを有するDOTA及びその様々な類似体が含まれ得る。一部の実施形態では、以下の文献に提供されるように、例えば、DTPA-脂質など、キレートに結合した脂質の組み込みによってリポソームを放射性標識することができる:Phillips et al,Wiley Interdisciplinary Reviews:Nanomedicine and Nanobiotechnology,vol.1,pages 69-83(2008);Torchilin,V.P.&Weissig,V.,Eds.Liposomes 2nd Ed.:Oxford Univ.Press(2003);Elbayoumi,T.A.&Torchilin,V.P.,Eur.J.Nucl.Med.Mol.Imaging,33:1196-1205(2006);Mougin-Degraef,M.et al,Int’l J.Pharmaceutics,344:110-1 17(2007)。
【0377】
他の実施形態では、診断用薬剤が、蛍光剤、リン光剤、化学発光剤などの光学的薬剤を含み得る。数多くの薬剤(例えば、色素、プローブ、標識、又は指示薬)が当該技術分野において公知であり、本発明において使用することができる。(例えば、Invitrogen、“The Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,”Tenth Edition(2005)を参照のこと)。蛍光剤には、種々の有機及び/又は無機小分子又は種々の蛍光タンパク質及びその誘導体が含まれ得る。例えば、蛍光剤としては、限定はされないが、シアニン、フタロシアニン、ポルフィリン、インドシアニン、ローダミン、フェノキサジン、フェニルキサンテン、フェノチアジン、フェノセレナジン、フルオレセイン、ベンゾポルフィリン、スクアライン、ジピロロピリミドン、テトラセン、キノリン、ピラジン、コリン、クロコニウム、アクリドン、フェナントリジン、ローダミン、アクリジン、アントラキノン、カルコゲノピリリウム類似体、クロリン、ナフタロシアニン、メチン色素、インドレニウム色素、アゾ化合物、アズレン、アザアズレン、トリフェニルメタン色素、インドール、ベンゾインドール、インドカルボシアニン、ベンゾインドカルボシアニン、及び4,4-ジフィウオロ(difiuoro)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンの一般構造を有するBODIPY(商標)誘導体、及び/又はこれらの任意のコンジュゲート及び/又は誘導体を挙げることができる。使用することのできる他の薬剤としては、限定はされないが、例えば、フルオレセイン、フルオレセイン-ポリアスパラギン酸コンジュゲート、フルオレセイン-ポリグルタミン酸コンジュゲート、フルオレセイン-ポリアルギニンコンジュゲート、インドシアニングリーン、インドシアニン-ドデカアスパラギン酸コンジュゲート、インドシアニン(NIRD)-ポリアスパラギン酸コンジュゲート、イソスルファンブルー、インドールジスルホネート、ベンゾインドールジスルホネート、ビス(エチルカルボキシメチル)インドシアニン、ビス(ペンチルカルボキシメチル)インドシアニン、ポリヒドロキシインドールスルホネート、ポリヒドロキシベンゾインドールスルホネート、リジッドヘテロ原子インドールジスルホネート、インドシアニンビスプロパン酸、インドシアニンビスヘキサン酸、3,6-ジシアノ-2,5-[(N,N,N’,N’-テトラキス(カルボキシメチル)アミノ]ピラジン、3,6-[(N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-アザテジノ(azatedino))ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-モルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-ピペラジノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸S-オキシド、2,5-ジシアノ-3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジンS,S-ジオキシド、インドカルボシアニンテトラスルホネート、クロロインドカルボシアニン、及び3,6-ジアミノピラジン-2,5-ジカルボン酸が挙げられる。
【0378】
さらに他の実施形態において、診断用薬剤には、例えば、超常磁性酸化鉄(SPIO)、ガドリニウム又はマンガンの錯体などを含めた、当該技術分野において概して周知の造影剤が含まれ得る。(例えば、Armstrong et al,“Diagnostic Imaging,”5th Ed.,Blackwell Publishing(2004)を参照のこと)。一部の実施形態において、診断用薬剤には、磁気共鳴(MR)造影剤が含まれ得る。例示的磁気共鳴造影剤としては、限定はされないが、常磁性薬剤、超常磁性薬剤などが挙げられる。例示的常磁性薬剤としては、限定はされないが、ガドペンテト酸、ガドテル酸、ガドジアミド、ガドリニウム、ガドテリドール、マンガホジピール、ガドベルセタミド、クエン酸鉄アンモニウム、ガドベン酸、ガドブトロール、又はガドキセト酸を挙げることができる。超常磁性薬剤としては、限定はされないが、超常磁性酸化鉄及びフェリステンを挙げることができる。特定の実施形態において、診断用薬剤には、例えば以下の文献に提供されるようなX線造影剤が含まれ得る:H.S Thomsen,R.N.Muller and R.F.Mattrey,Eds.,“Trends in Contrast Media,”Berlin:Springer-Verlag,1999);P.Dawson,D.Cosgrove and R.Grainger,Eds.,“Textbook of Contrast Media”(ISIS Medical Media 1999);Torchilin,V.P.,Curr.Pharm.Biotech.,vol.1,pages 183-215(2000);Bogdanov,A.A.et al,Adv.Drug Del.Rev.,Vol.37,pages 279-293(1999);Sachse,A.et ah,Investigative Radiology,vol.32,pages 44-50(1997)。X線造影剤の例としては、限定なしに、イオパミドール、イオメプロール、イオヘキソール、イオペントール、イオプロミド、イオシミド、イオベルソール、イオトロラン、イオタスル、イオジキサノール、イオデシモール、イオグルカミド、イオグルニド、イオグラミド、イオサルコール、イオキシラン、イオパミロン、メトリザミド、イオビトリドール及びイオシメノールが挙げられる。特定の実施形態において、X線造影剤としては、イオパミドール、イオメプロール、イオプロミド、イオヘキソール、イオペントール、イオベルソール、イオビトリドール、イオジキサノール、イオトロラン及びイオシメノールを挙げることができる。
【0379】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は、タンパク質、例えば、インターロイキン、サイトカイン、酵素、成長因子、又は他の抗体にコンジュゲートされ得る。かかるタンパク質のいくつかの例としては、例えば、腫瘍壊死因子、α-インターフェロン(EFN-α)、β-インターフェロン(IFN-β)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、アポトーシス剤(例えば、TNF-α、TNF-β、国際公開第97/33899号パンフレットに開示されるようなAIM I)、AIM II(国際公開第97/34911号パンフレットを参照)、Fasリガンド(Takahashi et al.,J.Immunol.,vol.6,pages 1567-1574,1994)、及びVEGI(国際公開第99/23105号パンフレット)、抗血栓症剤又は抗血管新生剤(例えば、アンジオスタチン又はエンドスタチン);又は生物学的反応修飾物質、例えば、リンホカイン(例えば、インターロイキン-1(「IL-I」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、及び顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」))、又は成長因子(例えば、成長ホルモン(「GH」))が挙げられる。
【0380】
一部の実施形態では、血液脳関門(BBB)を通過するための条件的活性型抗体が、神経障害の治療用薬物にコンジュゲートされ得る。この薬物は、抗体と共にBBBを通って輸送され、神経障害を治療するため脳内に留まり得る。神経障害とは、中枢神経系(CNS)に影響を及ぼし、及び/又はCNSに病因がある疾患又は障害を指す。例示的CNS疾患又は障害としては、限定はされないが、ニューロパチー、アミロイドーシス、癌、眼疾患又は眼障害、ウイルス又は微生物感染症、炎症、虚血、神経変性疾患、てんかん発作、行動障害、及びリソソーム蓄積症が挙げられる。
【0381】
本出願の目的上、CNSは、通常は血液網膜関門によって体の残りの部分から隔絶されている眼を含むものと理解されるであろう。神経障害の具体的な例としては、限定はされないが、神経変性疾患、例えばレビー小体病、ポリオ後症候群、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、タウオパチー、例えばアルツハイマー病及び核上性麻痺など、プリオン病、例えばウシ海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ症候群、クールー、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、慢性消耗病、及び致死性家族性不眠症など、球麻痺、運動ニューロン疾患、及び神経系ヘテロ変性障害、例えばカナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス縮れ毛症候群、コケイン症候群、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、及びウンフェルリヒト・ルントボルク症候群など、認知症(限定はされないが、ピック病、及び脊髄小脳失調症を含む)、癌(例えば、体の別の場所の癌から生じる脳転移を含めた、CNS及び/又は脳の癌)が挙げられる。
【0382】
神経障害の治療用薬物としては、限定はされないが、抗体、ペプチド、タンパク質、1つ以上のCNS標的の天然リガンド、1つ以上のCNS標的の天然リガンドの修飾型、アプタマー、阻害性核酸(すなわち、低分子阻害性RNA(siRNA)、及び低分子ヘアピンRNA(shRNA))、リボザイム、及び小分子、又は前述のいずれかの活性フラグメントが挙げられ得る。例示的神経障害薬物としては、限定はされないが、以下が挙げられる:抗体、アプタマー、タンパク質、ペプチド、阻害性核酸及び小分子並びに前述のいずれかの活性フラグメントであって、それら自体であるか、又はCNS抗原又は標的分子、例えば、限定はされないが、アミロイド前駆体タンパク質又はその一部分、アミロイドβ、β-セクレターゼ、γ-セクレターゼ、τ、α-シヌクレイン、パーキン、ハンチンチン、DR6、プレセニリン、ApoE、神経膠腫又は他のCNS癌マーカー、及びニューロトロフィンを特異的に認識し、及び/又はそれに作用する(すなわち、阻害し、活性化し、又は検出する)もの。神経障害薬及びそれらが治療に用いられ得る障害の非限定的な例としては、アルツハイマー病、急性及び慢性脳損傷、脳卒中の治療用の抗BACE1抗体;アルツハイマー病の治療用の抗Aβ抗体;脳卒中、急性脳損傷、脊髄損傷の治療用のニューロトロフィン;慢性脳損傷(神経形成)の治療用の脳由来神経栄養因子(BDNF)及び線維芽細胞成長因子2(FGF-2);脳癌の治療用の抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体;パーキンソン病の治療用のグリア細胞株由来神経因子(GDNF);筋萎縮性側索硬化症及びうつ病の治療用の脳由来神経栄養因子(BDNF);脳のリソソーム蓄積障害の治療用のリソソーム酵素;筋萎縮性側索硬化症の治療用の毛様体神経栄養因子(CNTF);統合失調症の治療用のニューレグリン-1;及びHER2陽性癌からの脳転移の治療用の抗HER2抗体(例えばトラスツズマブ)が挙げられる。
【0383】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体はこの抗体のFc領域上にコンジュゲートされ得る。上記に記載したコンジュゲート分子、化合物又は薬物が、米国特許第8,362,210号明細書に記載されるように、Fc領域にコンジュゲートされ得る。例えば、Fc領域は、条件的活性型抗体が優先的な活性を示す部位に送達されるサイトカイン又は毒素にコンジュゲートされ得る。ポリペプチドを抗体のFc領域にコンジュゲートする方法は、当該技術分野において公知である。例えば、米国特許第5,336,603号明細書、同第5,622,929号明細書、同第5,359,046号明細書、同第5,349,053号明細書、同第5,447,851号明細書、同第5,723,125号明細書、同第5,783,181号明細書、同第5,908,626号明細書、同第5,844,095号明細書、及び同第5,112,946号明細書;欧州特許第307,434号明細書;欧州特許第367,166号明細書;欧州特許第394,827号明細書;国際公開第91/06570号パンフレット、国際公開第96/04388号パンフレット、国際公開第96/22024号パンフレット、国際公開第97/34631号パンフレット、及び国際公開第99/04813号パンフレット;Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.88,pages 10535-10539,1991;Traunecker et al.,Nature,vol.331,pages 84-86,1988;Zheng et al.,J.Immunol.,vol.154,pages 5590-5600,1995;及びViI et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.89,pages 11337-11341,1992を参照のこと。
【0384】
一実施形態において、本明細書に開示されるコンジュゲーションに使用される条件的活性型抗体は、好ましくは、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約10:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約22:1、又は少なくとも約24:1、又は少なくとも約26:1である。
【0385】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は、1つが条件的活性型抗体と反応し且つ1つがコンジュゲート薬剤と反応する少なくとも2つの反応基を有する中間リンカーを介してコンジュゲート薬剤に共有結合的に付加され得る。リンカー(任意の適合性有機化合物を含み得る)は、条件的活性型抗体又はコンジュゲート薬剤との反応が条件的活性型抗体の反応性及び/又は選択性に悪影響を与えないように選択することができる。さらに、コンジュゲート薬剤へのリンカーの付加がコンジュゲート薬剤の活性を破壊してはならない。
【0386】
酸化型条件的活性型抗体に好適なリンカーとしては、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、ヒドロキシルアミン、フェニルヒドラジン、セミカルバジド及びチオセミカルバジド基から選択される基を含有するものが挙げられる。還元型条件的活性型抗体に好適なリンカーとしては、還元型条件的活性型抗体のスルフヒドリル基との反応能を有する特定の反応基を有するものが挙げられる。かかる反応基としては、限定はされないが、反応性ハロアルキル基(例えばハロアセチル基を含む)、p-安息香酸水銀基及びマイケル型付加反応能を有する基(例えば、マレイミド類及びMitra and Lawton,J.Amer.Chem.Soc.Vol.101,pages 3097-3110,1979によって記載されるタイプの基を含む)が挙げられる。
【0387】
多重特異性条件的活性型抗体の操作
多重特異性抗体は、多エピトープ特異性を有する抗体である。多重特異性抗体には、限定はされないが、VHVL単位が多エピトープ特異性を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗体、各VHVL単位が異なるエピトープに結合する2つ以上のVL及びVHドメインを有する抗体、各単一可変ドメインが異なるエピトープに結合する2つ以上の単一可変ドメインを有する抗体、及び1つ以上の抗体フラグメントを含む抗体並びに共有結合的又は非共有結合的に連結されている抗体フラグメントを含む抗体が含まれる。
【0388】
二重特異性抗体を含めた多重特異性抗体を構築するため、少なくとも1つの遊離スルフヒドリル基を有する抗体フラグメントが入手される。抗体フラグメントは完全長条件的活性型抗体から入手されてもよい。条件的活性型抗体を酵素消化すると、抗体フラグメントが生じ得る。例示的酵素消化方法としては、ペプシン、パパイン及びLys-Cが用いられ得る。例示的抗体フラグメントとしては、限定はされないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ(Db);タンデムダイアボディ(taDb)、線状抗体(米国特許第5,641,870号明細書、実施例2;Zapata et al.,Protein Eng.,vol.8,pages 1057-1062(1995)を参照);1アーム抗体、単一可変ドメイン抗体、ミニボディ(Olafsen et al(2004)Protein Eng.Design&Sel.,vol.17,pages 315-323)、一本鎖抗体分子、Fab発現ライブラリによって作製されるフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、相補性決定領域、及びエピトープ結合フラグメントが挙げられる。抗体フラグメントはまた、DNA組換え技術を用いて作製されてもよい。抗体フラグメントをコードするDNAをプラスミド発現ベクター又はファージミドベクターにクローニングし、大腸菌(E.coli)において直接発現させ得る。抗体酵素消化方法、DNAクローニング及び組換えタンパク質発現方法は、当業者に周知である。
【0389】
抗体フラグメントは従来技術を用いて精製してもよく、還元に供すると遊離チオール基が生成される。遊離チオール基を有する抗体フラグメントは架橋剤、例えばビスマレイミドと反応する。かかる架橋された抗体フラグメントを精製し、次に遊離チオール基を有する第2の抗体フラグメントと反応させる。2つの抗体フラグメントが架橋された最終産物が精製される。特定の実施形態において、各抗体フラグメントはFabであり、2つのFabがビスマレイミドを介して連結した最終産物は、本明細書ではビスマレイミド-(チオ-Fab)2、又はビス-Fabと称される。かかる多重特異性抗体及び抗体類似体は、ビス-Fabを含め、多数の抗体フラグメントの組み合わせ、又は天然抗体の構造変異体又は特定の抗体フラグメントの組み合わせを迅速に合成するために利用することができる。
【0390】
多重特異性抗体は、多重特異性抗体に追加的な機能性部分が付加され得るように修飾架橋剤と合成することができる。修飾架橋剤は任意のスルフヒドリル反応性部分の結合を可能にする。一実施形態では、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート(SAT A)がビスマレイミドに結合してビスマレイミドアセチルチオアセテート(BMata)を形成する。マスクされたチオール基の脱保護後、スルフヒドリル反応性(又はチオール反応性)部分を有する任意の官能基が多重特異性抗体に結合し得る。
【0391】
例示的チオール反応性試薬としては、多機能性リンカー試薬、捕捉剤、すなわちアフィニティー標識試薬(例えばビオチン-リンカー試薬)、検出標識(例えばフルオロフォア試薬)、固相固定化試薬(例えばSEPHAROSE(商標)、ポリスチレン、又はガラス)、又は薬物-リンカー中間体が挙げられる。チオール反応性試薬の一例は、N-エチルマレイミド(NEM)である。修飾架橋剤を有するかかる多重特異性抗体又は抗体類似体は、薬物部分試薬又は他の標識とさらに反応させてもよい。多重特異性抗体又は抗体類似体と薬物-リンカー中間体との反応は、それぞれ多重特異性抗体薬物コンジュゲート又は抗体類似体薬物コンジュゲートをもたらす。
【0392】
多重特異性抗体を作製するための他の多くの技法も本発明において用いることができる。それらの技法について記載している文献としては、以下が挙げられる:(1)異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現に関して、Milstein and Cuello,Nature,vol.305,page 537(1983))、国際公開第93/08829号パンフレット、及びTraunecker et al.,EMBO J.,vol.10,page 3655(1991);(2)「ノブインホール」操作に関して米国特許第5,731,168号明細書;(3)静電ステアリング効果を操作することによる抗体Fc-ヘテロ二量体分子の作製に関して国際公開第2009/089004A1号パンフレット;(4)2つ以上の抗体又はフラグメントの架橋結合に関して米国特許第4,676,980号明細書、及びBrennan et al.,Science,vol.229,page 81(1985);(5)ロイシンジッパーを使用した二重特異抗体の作製に関してKostelny et al.,J.Immunol.,vol.148,pages 1547-1553(1992);(6)「ダイアボディ」技術を用いた二重特異性抗体フラグメントの作製に関してHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.90,pages 6444-6448(1993);(7)単鎖Fv(sFv)二量体の使用に関してGruber et al.,J.Immunol.,vol.152,page 5368(1994);(8)三重特異性抗体の調製に関してTutt et al.J.Immunol.147:60(1991);及び(9)「オクトパス抗体」又は「デュアル可変ドメイン免疫グロブリン」(DVD)を含めた、3つ以上の機能性抗原結合部位を有する操作された抗体に関して米国特許出願公開第2006/0025576A1号明細書及びWu et al.Nature Biotechnology,vol.25,pages 1290-1297(2007)。
【0393】
一実施形態では、BBBを通過するための条件的活性型抗体を操作して多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)が作製される。この多重特異性抗体は、BBB-Rに結合する第1の抗原結合部位と脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。少なくともBBB-Rに対する第1の抗原結合部位は条件的活性型である。脳抗原は、脳で発現する抗原であり、抗体又は小分子によって標的化され得る。かかる抗原の例としては、限定なしに、以下が挙げられる:β-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドβ(Aβ)、上皮成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、タウ、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、α-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、γセクレターゼ、デスレセプター6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、及びカスパーゼ6。一実施形態において、抗原はBACE1である。
【0394】
多重特異性抗体は、多重特異性抗体が結合し得る標的(抗原)の全て又はほとんどを含有する優先的標的組織において高い選択性を有し得る。例えば、二重特異性抗体は、抗原のうちの一方のみを発現し得る非標的細胞と比較して、その二重特異性抗体によって認識される抗原の両方を発現する標的細胞により高い選好性を示すことにより、標的細胞に対する選択性を提供し得る。従って、この系のダイナミズムに起因して、平衡状態では非標的細胞と比べてより多く標的細胞に結合する二重特異性抗体が存在する。
【0395】
免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の操作
本発明の二重特異性条件的活性型抗体は、標的抗原が存在する疾患部位に免疫エフェクター細胞を誘引することができる。二重特異性条件的活性型抗体は、2つの異なる抗原:免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に特異的に結合することのできる抗体である。二重特異性抗体は、一方のアームが免疫エフェクター細胞表面抗原に結合し、且つ他方のアームが標的抗原に結合する2本のアームを含む完全長抗体であってもよい。二重特異性抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)のみを含む抗体フラグメントであってもよい。一実施形態において、抗体フラグメントは、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合するためのものであり、且つ他方のアームが標的抗原に結合する少なくとも2つのVHVL単位を含む。別の実施形態において、抗体フラグメントは、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合するためのものであり、且つ他方のアームが標的抗原に結合する少なくとも2つのシングル可変ドメイン(VH又はVL)を含む。一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合し、且つ他方が標的抗原に結合する2つのscFvを含む。
【0396】
誘引される免疫エフェクター細胞は、免疫エフェクター細胞と罹患細胞又は罹患組織上の標的抗原との両方に対するその結合活性により、標的抗原を含有する罹患細胞又は罹患組織に免疫エフェクター細胞を誘引し得る。免疫エフェクター細胞は罹患細胞又は罹患組織を抑制し又はさらには破壊する能力を有するため、次には誘引された免疫エフェクター細胞が罹患細胞又は罹患組織を攻撃し、そのようにして疾患の治癒を助け得る。例えば、免疫エフェクター細胞は腫瘍細胞又は感染細胞を破壊することができる。免疫エフェクター細胞としては、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞及びT細胞が挙げられる。
【0397】
二重特異性条件的活性型抗体は、各一つずつが免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する2つの結合活性を有する。一実施形態では、両方の結合活性が条件的であり、つまり、免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性は正常生理条件下で野生型抗体の結合活性よりも低く、且つ異常条件下で野生型抗体よりも高いということになる。一実施形態では、2つの結合活性のうちの一方のみが条件的であり、つまり、免疫エフェクター細胞表面抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性又は標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性のいずれか一方が条件的であるということになる。この場合、免疫エフェクター細胞表面抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性又は標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性の一方は、正常生理条件下で野生型抗体の対応する活性よりも低く、且つ異常条件下で野生型抗体の対応する活性よりも高い。
【0398】
二重特異性条件的活性型抗体の2本のアーム(例えば、2つのVHVL単位又は2つのscFv)は、従来の方法を用いてつなぎ合わされ得る。当該分野で周知のとおり、完全な抗原結合部位を含有する最小限の抗体フラグメントは、非共有結合的に会合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメイン(VH及びVL)の二量体を有する。この構成は、各可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定する天然抗体に見られるものと一致する。集合的には、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。CDRに隣接するフレームワーク(FR)が、ヒト及びマウスと同程度に多様な種の天然免疫グロブリンにおいて本質的に保存されている三次構造を有する。これらのFRは、CDRをそれらの適切な向きに保持する働きをする。定常ドメインは結合機能に必要ないが、VH-VL相互作用の安定化に役立ち得る。シングル可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含む半分のFv)であっても、抗原を認識して結合する能力を有するが、通常は結合部位全体と比べると親和性が低い(Painter et al.,“Contributions of heavy and light chains of rabbit immunoglobulin G to antibody activity.I.Binding studies on isolated heavy and light chains,”Biochemistry,vol.11 pages 1327-1337,1972)。従って、二重特異性条件的活性型抗体の結合部位の前記ドメインは、異なる免疫グロブリンのVH-VL、VH-VH又はVL-VLドメインのペアとして構築し得る。
【0399】
一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、組換えDNA技法を用いて連続ポリペプチド鎖として、例えば連続ポリペプチド鎖を構築するため二重特異性条件的活性型抗体をコードする核酸分子を発現させるような方法で構築し得る(例えば、Mack et al.,“A small bispecific antibody construct expressed as a functional single-chain molecule with high tumor cell cytotoxicity,”Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.92,pages 7021-7025,2005を参照)。ポリペプチド鎖内でのVH及びVLドメインの順序は、抗原結合部位が適切に折り畳まれて免疫エフェクター細胞表面抗原に対する1つの結合部位と標的抗原に対する1つの結合部位とを形成し得るようにVH及びVLドメインが配置される限り、本発明において重要ではない。
【0400】
免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の生成においては、多重特異性条件的活性型抗体の操作に関して本明細書に記載される技法の一部を用い得る。
【0401】
シングルポリペプチド鎖として構成された二重特異性抗体は当該技術分野において公知であり、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025、Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197、Loffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103、Bruhl,J.Immunol.,(2001),166,2420-2426に記載されている。二重特異性抗体に特に好ましい構成は、VH及びVL領域がリンカードメインによって互いに連結されているポリペプチド構築物である。シングルポリペプチド鎖におけるVH及びVL領域の順序は重要ではない。一実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VH2-リンカードメイン-VL2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VL1-リンカードメイン-VH1-リンカードメイン-VL2-リンカードメイン-VH2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VH2-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VL2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VL2-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VH2として構成される。シングルポリペプチド鎖は、各々が免疫エフェクター細胞表面抗原又は標的抗原との結合能を有する2本のアームに折り畳まれ得る。
【0402】
二重特異性条件的活性型抗体のリンカードメインは、これらのVH及びVLドメイン間の分子間会合を可能にするのに十分な長さのペプチドフラグメントである。この目的に好適なリンカーの設計については、先行技術、例えば、欧州特許第623 679 B1号明細書、米国特許第5,258,498号明細書、欧州特許第573 551 B1号明細書及び米国特許第5,525,491号明細書に記載されている。リンカードメインは、好ましくは、グリシン、セリン及び/又はグリシン/セリンから選択される1~25アミノ酸の親水性可動性リンカーである。一実施形態において、リンカードメインは配列(Gly4Ser)3の15アミノ酸リンカーである。
【0403】
追加的なリンカードメインは、オリゴマー形成ドメインを含む。オリゴマー形成ドメインは、その2つ又は数個のVH及びVLドメインの組み合わせが折り畳まれて、免疫エフェクター細胞表面抗原又は標的抗原との結合能を各々有する2本のアームになるのを促進することができる。オリゴマー形成ドメインの非限定的な例には、ロイシンジッパー(jun-fos、GCN4、E/EBPなど;Kostelny,J.Immunol.148(1992),1547-1553;Zeng,Proc.Natl.Acad.Sci.94(1997),3673-3678、Williams,Genes Dev.5(1991),1553-1563;Suter,“Phage Display of Peptides and Proteins”,Chapter 11,(1996),Academic Press)、定常ドメインCH1及びCLなどの抗体由来オリゴマー形成ドメイン(Mueller,FEBS Letters 422(1998),259-264)及び/又はGCN4-LIなどの四量体化ドメイン(Zerangue,Proc.Natl.Acad.Sci.97(2000),3591-3595)が含まれる。
【0404】
一部の実施形態では、ノブ・イン・ホール技術を用いてシングルポリペプチド鎖二重特異性条件的抗体の折り畳みを安定化させてもよい。ノブ・イン・ホール技術については、Ridgwayら(“‘Knobs-into-holes’engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization,”Protein Eng.1996 Jul;9(7):617-21)によって記載されている。この手法は、隣接するaヘリックス間のアミノ酸側鎖のパッキングに用いられており、ここではaヘリックスの残基の側鎖が、円筒形の表面上にホールと交互に間隔を置いて配置されたノブとして表され、これらのホールには隣接するaヘリックスのノブが嵌まり得る(O’Shea et al.,(1991)Science,254,539-544)。
【0405】
免疫エフェクター細胞表面抗原は、1つ又はあるクラスの免疫エフェクター細胞に特異的であるはずである。多くの免疫エフェクター細胞に対する表面抗原が既知である。ナチュラルキラー細胞は、CD56、CD8、CD16、KIRファミリー受容体、NKp46、NKp30、CD244(2B4)、CD161、CD2、CD7、CD3、及びキラー細胞免疫グロブリン様受容体を含めた表面抗原を有する(Angelis et al.,“Expansion of CD56-negative,CD16-positive,KIR-expressing natural killer cells after T cell-depleted haploidentical hematopoietic stem cell transplantation,”Acta Haematol.2011;126(1):13-20;Dalle et al.,“Characterization of Cord Blood Natural Killer Cells:Implications for Transplantation and Neonatal Infections,”Pediatric Research(2005)57,649-655;Agarwal et al.,“Roles and Mechanism of Natural Killer Cells in Clinical and Experimental Transplantation,”Expert Rev Clin Immunol.2008;4(1):79-91)。
【0406】
マクロファージは、CD11b、F4/80、CD68、CSF1R、MAC2、CD11c、LY6G、LY6C、IL-4Rα、CD163、CD14、CD11b、F4/80(マウス)/EMR1(ヒト)、CD68及びMAC-1/MAC-3、PECAM-1(CD31)、CD62、CD64、CD45、Ym1、CD206、CD45RO、25F9、S100A8/A9、及びPM-2Kを含めた表面抗原を有する(Murray et al.,“Protective and pathogenic functions of macrophage subsets,”Nature Reviews Immunology,11,723-737;Taylor et al.,“Macrophage receptors and immune recognition,”Annu Rev Immunol 2005;23:901-44;Pilling,et al.,“Identification of Markers that Distinguish Monocyte-Derived Fibrocytes from Monocytes,Macrophages,and Fibroblasts,”PLoS ONE 4(10):e7475.doi:10.1371/journal.pone.0007475,2009)。
【0407】
リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞は、T3、T4 T11、T8、TII、Leu7、Leu11を含めた表面抗原を有する(Ferrini et al.,“Surface markers of human lymphokine-activated killer cells and their precursors,”Int J Cancer.1987 Jan 15;39(1):18-24;Bagnasco et al.,“Glycoproteic nature of surface molecules of effector cells with lymphokine-activated killer(LAK)activity,”Int J Cancer.1987 Jun 15;39(6):703-7;Kaufmann et al.,“Interleukin 2 induces human acute lymphocytic leukemia cells to manifest lymphokine-activated-killer(LAK)cytotoxicity,”The Journal of Immunology,August 1,1987,vol.139 no.3 977-982)。
【0408】
T細胞、特に細胞傷害性T細胞は、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、T58、CD27、CD45、CD84、CD25、CD127、及びCD196(CCR6)、CD197(CCR7)、CD62L、CD69、TCR、T10、T11、及びCD45ROを含めた表面抗原を有する(Ledbetter et al.,“Enhanced transmembrane signalling activity of monoclonal antibody heteroconjugates suggests molecular interactions between receptors on the T cell surface,”Mol Immunol.1989 Feb;26(2):137-45;Jondal et al.,“SURFACE MARKERS ON HUMAN T AND B LYMPHOCYTES,”JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE,VOLUME 136,1972,207-215;Mingari et al.,“Surface markers of human T lymphocytes,”Ric Clin Lab.1982 Jul-Sep;12(3):439-448)。
【0409】
二重特異性条件的活性型抗体は、免疫エフェクター細胞との結合後、標的抗原が好ましくは表面上に存在する細胞又は組織へと免疫エフェクター細胞を導くことができる。二重特異性条件的活性型抗体(免疫エフェクター細胞を有する)が標的抗原に結合すると、免疫エフェクター細胞が罹患細胞又は罹患組織を攻撃し得る。ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、LAK細胞、T細胞(細胞傷害性)などの免疫エフェクター細胞は、いずれも、罹患細胞又は組織を死滅させ及び/又は破壊する能力、例えば腫瘍組織を破壊する能力を有する。
【0410】
罹患細胞又は罹患組織は、癌、炎症性疾患、神経障害、糖尿病、心血管疾患、又は感染症から選択され得る。標的抗原の例としては、様々な免疫細胞、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、胚細胞腫瘍、芽細胞腫、並びに様々な血液疾患、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患に関連する細胞が発現する抗原が挙げられる。
【0411】
二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る癌に特異的な標的抗原としては、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgGl、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-R a、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2又はビメンチンのうちの1つ以上が挙げられる。
【0412】
本発明の遺伝子操作された細胞傷害性細胞又は医薬組成物で治療される癌の種類としては、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、及びある種の白血病又はリンパ性悪性腫瘍、良性及び悪性腫瘍、及び悪性病変、例えば、肉腫、癌腫、及び黒色腫が挙げられる。癌は非固形腫瘍(血液腫瘍など)又は固形腫瘍であってもよい。成人腫瘍/癌及び小児腫瘍/癌もまた含まれる。
【0413】
血液癌は、血液又は骨髄の癌である。血液癌(又は血行性癌)の例としては、白血病、例えば、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病並びに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性型及び高悪性度型)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病及び骨髄形成異常が挙げられる。
【0414】
固形腫瘍は、通常は嚢胞又は液体領域を含まない異常な組織塊である。固形腫瘍は良性又は悪性であり得る。固形腫瘍の異なるタイプは、それを形成する細胞のタイプにちなんで命名される(肉腫、癌腫、及びリンパ腫など)。治療し得る固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫及び混合性神経膠腫など)、膠芽腫(多形性膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、シュワン腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び脳転移など)を含めた肉腫及び癌腫が挙げられる。
【0415】
二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る炎症性疾患に特異的な標的抗原としては、AOC3(VAP-1)、CAM-3001、CCL11(エオタキシン-1)、CD125、CD147(ベイシジン)、CD154(CD40L)、CD2、CD20、CD23(IgE受容体)、CD25(IL-2受容体の鎖)、CD3、CD4、CD5、IFN-a、IFN-γ、IgE、IgE Fc領域、IL-1、IL-12、IL-23、IL-13、IL-17、IL-17A、IL-22、IL-4、IL-5、IL-5、IL-6、IL-6受容体、インテグリンa4、インテグリンα4β7、ラマ・グラマ(Lama glama)、LFA-1(CD1 la)、MEDI-528、ミオスタチン、OX-40、rhuMAb β7、スクレロスシン(scleroscin)、SOST、TGFβ1、TNF-a又はVEGF-Aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0416】
本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る神経障害に特異的な標的抗原としては、βアミロイド又はMABT5102Aのうちの1つ以上が挙げられる。本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る糖尿病に特異的な抗原としては、L-Ιβ又はCD3のうちの1つ以上が挙げられる。本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る心血管疾患に特異的な抗原としては、C5、心臓ミオシン、CD41(インテグリンα-lib)、フィブリンII、β鎖、ITGB2(CD18)及びスフィンゴシン-1-リン酸のうちの1つ以上が挙げられる。
【0417】
本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る感染症に特異的な標的抗原としては、炭疽毒素、CCR5、CD4、クランピング因子A、サイトメガロウイルス、サイトメガロウイルス糖タンパク質B、エンドトキシン、大腸菌(Escherichia coli)、B型肝炎表面抗原、B型肝炎ウイルス、HIV-1、Hsp90、インフルエンザA型赤血球凝集素、リポタイコ酸、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、狂犬病ウイルス糖タンパク質、呼吸器合胞体ウイルス及びTNF-aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0418】
標的抗原のさらなる例としては、癌細胞に特異的な又は増幅された形で見られる表面タンパク質、例えば、B細胞リンパ腫についてのIL-14受容体、CD19、CD20及びCD40、種々の癌腫についてのLewis Y及びCEA抗原、乳癌及び結腸直腸癌についてのTag72抗原、肺癌についてのEGF-R、ヒト乳癌及び卵巣癌で増幅されることの多い葉酸結合タンパク質及びHER-2タンパク質、又はウイルスタンパク質、例えばHIVのgpl20及びgp41エンベロープタンパク質、B型及びC型肝炎ウイルス由来のエンベロープタンパク質、ヒトサイトメガロウイルスの糖タンパク質B及び他のエンベロープ糖タンパク質、及びカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスなどのオンコウイルス由来のエンベロープタンパク質が挙げられる。他の潜在的標的抗原としてはCD4(リガンドはHIV gpl20エンベロープ糖タンパク質である)、及び他のウイルス受容体、例えばヒトライノウイルスに対する受容体であるICAM、及びポリオウイルスに対する関連する受容体分子が挙げられる。
【0419】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、初めに細胞表面上の2つの鍵分子、CD4及び共受容体に結合しない限りはヒト細胞に入ることができない。最初に認識される共受容体はCCR5であり、ウイルスのライフサイクルにおいては後に別のケモカイン受容体CXCR4がHIV-1に対する共受容体になる(D’Souza,Nature Med.2,1293(1996);Premack,Nature Med.2,1174;Fauci,Nature 384,529(1996))。性的接触によるウイルス感染のほとんどを引き起こすHIV-1株は、Mトロピックウイルスと呼ばれる。これらのHIV-1株(非合胞体誘導(NSI)初代ウイルスとしても知られる)は初代CD4+ T細胞及びマクロファージで複製し、その共受容体としてケモカイン受容体CCR5(及び、頻度は低いがCCR3)を用いることができる。Tトロピックウイルス(時に合胞体誘導(SI)初代ウイルス(visuses)と呼ばれる)もまた初代CD4+ T細胞で複製することができるが、加えてインビトロで樹立CD4+ T細胞株を感染させることができ、これをケモカイン受容体CXCR4(フーシン)を介して行う。これらのTトロピック株の多くはCXCR4に加えてCCR5を用いることができ、一部は、少なくとも特定のインビトロ条件下で、CCR5を介してマクロファージに侵入することができる(D’Souza,Nature Med.2,1293(1996);Premack,Nature Med.2,1174;Fauci,Nature 384,529(1996))。HIVの性感染の約90%にMトロピックHIV-1株が関与するとされているため、CCR5が患者におけるこのウイルスの優勢な共受容体である。
【0420】
標的細胞上の共受容体分子の数及びアイデンティティ、並びにHIV-1株が異なる共受容体を介して細胞に侵入するものと思われる能力は、疾患進行の重要な決定因子のように見える。ホジキン病患者に由来するリンパ節のT細胞及びB細胞においてもCCR3及びCCR5の高発現が観察された。I型糖尿病は、T細胞媒介性自己免疫疾患であると考えられている。関連する動物モデルにおいて、膵臓におけるCCR5受容体の発現がI型糖尿病の進行と関連付けられた(Cameron(2000)J.Immunol.165,1102-1110)。一実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は標的抗原としてCCR5に結合し、これを用いて宿主細胞のHIV感染を抑制し得るとともに他の疾患の進行を減速させ得る。
【0421】
(ヒト)CCR5に特異的に結合する幾つかの抗体が当該技術分野において公知であり、MC-1(Mack(1998)J.Exp.Med.187,1215-1224又はMC-5(Blanpain(2002)Mol Biol Cell.13:723-37、Segerer(1999)Kidney Int.56:52-64、Kraft(2001)Biol.Chem.14;276:34408-18)が含まれる。従って、二重特異性条件的活性型抗体は、例えば、CCR5、好ましくはヒトCCR5に特異的な抗体のVL及びVHドメイン(即ちIg由来の第2のドメイン)、並びにT細胞上のCD3抗原に特異的な抗体のVH及びVLドメインを含むことが好ましい。
【0422】
別の実施形態において、本発明は、標的抗原としてのCD19及びT細胞上のCD3に対する二重特異性条件的活性型抗体を提供する。CD19は、極めて有用な医学的標的であることが分かっている。CD19は、プロB細胞から成熟B細胞までの全B細胞系統で発現するとともに全てのリンパ腫細胞上で一様に発現し、幹細胞には存在しない(Haagen,Clin Exp Immunol 90(1992),368-75;Uckun,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(1988),8603-7)。CD19に対する抗体と追加的な免疫調節抗体との両方を用いる併用療法が、B細胞悪性病変(国際公開第02/04021号パンフレット、米国特許出願公開第2002006404号明細書、米国特許出願公開第2002028178号明細書)及び自己免疫疾患(国際公開第02/22212号パンフレット、米国特許出願公開第2002058029号明細書)の治療向けに開示されている。国際公開第00/67795号パンフレットは、緩徐進行型及び侵襲性の強い形態のB細胞リンパ腫、並びに急性型及び慢性型のリンパ性白血病の治療に向けたCD19に対する抗体の使用を開示している。国際公開第02/80987号パンフレットは、B細胞非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫又はB細胞白血病(例えばB細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、(例えばヘアリー細胞リンパ腫)、B細胞前駆体急性リンパ性白血病(プレB-ALL)、B細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL))などの疾患の治療に向けた抗原CD19に対する抗体に基づいた免疫毒素の治療的利用を開示している。
【0423】
さらなる実施形態において、本発明は、標的抗原としてのCD20及びT細胞上のCD3に対する二重特異性条件的活性型抗体を提供する。CD20は、Bリンパ球上に存在する細胞表面タンパク質の一つである。CD20抗原は、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の90%超に見られるものを含め、正常な及び悪性のプレBリンパ球及び成熟Bリンパ球に見られる。この抗原は、造血幹細胞、活性化Bリンパ球(形質細胞)及び正常組織には存在しない。ほとんどがマウス起源の幾つかの抗体が記載されている:1F5(Press et al.,1987,Blood 69/2,584-591)、2B8/C2B8、2H7、1H4(Liu et al.,1987,J Immunol 139,3521-3526;Anderson et al.,1998,米国特許第5,736,137号明細書;Haisma et al.,1998,Blood 92,184-190;Shan et al.,1999,J.Immunol.162,6589-6595)。
【0424】
キャリアータンパク質に連結されたscFvをコードするDNAによるワクチン接種を用いた形質細胞悪性病変治療の免疫療法ストラテジーにおいてCD20が記載されており(Treon et al.,2000,Semin Oncol 27(5),598)、CD20抗体(IDEC-C2B8)を用いた免疫療法治療が非ホジキンB細胞リンパ腫の治療において有効であることが示されている。
【0425】
一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、ポリヌクレオチド分子によってコードされるシングルポリペプチド鎖である。ポリヌクレオチドは、例えば、DNA、cDNA、RNA又は合成的に作製されたDNA若しくはRNA又はそれらのポリヌクレオチドのいずれかを単独或いは組み合わせで含む組換えによって作製されたキメラ核酸分子であってもよい。ポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを含めたベクター、例えば発現ベクター、又は遺伝子操作において従来用いられている任意の発現系の一部であり得る。ベクターは、好適な宿主細胞における好適な条件下でのベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子などのさらなる遺伝子を含んでもよい。
【0426】
一態様において、ポリヌクレオチドは、原核細胞又は真核細胞における発現を可能にする発現制御配列に作動可能に連結されている。哺乳類細胞へのポリヌクレオチド又はベクターの送達には、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシパピローマウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターが用いられ得る。本発明のポリヌクレオチドを含有するベクターは周知の方法によって宿主細胞に移すことができ、方法は細胞宿主のタイプに応じて変わる。例えば、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションが良く利用される一方、他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理又は電気穿孔が用いられ得る。
【0427】
マスキングされた条件的活性型生物学的タンパク質の操作
本発明の条件的活性型生物学的タンパク質、特に条件的活性型抗体は、マスキング部分によってその条件的活性がマスキングされた、及び/又はそのコンジュゲート薬剤の活性がマスキングされたものであってもよい。マスキングされた活性は、マスキング部分が条件的活性型生物学的タンパク質から取り除かれるか、又は切断されると利用可能になり得る。好適なマスキング技術については、例えば、Desnoyers et al.,“Tumor-Specific Activation of an EGFR-Targeting Probody Enhances Therapeutic Index,”Sci.Transl.Med.5,207ra144,2013に記載されている。
【0428】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は、条件的活性及び/又はそのコンジュゲート薬剤の活性をマスキングするマスキング部分と連結される。例えば、条件的活性型抗体がマスキング部分とカップリングされると、かかるカップリング又は修飾によって構造変化が生じてもよく、この構造変化は条件的活性型抗体がその抗原と特異的に結合する能力を低下させ又は阻害するものである。条件的活性型抗体が標的組織又は微小環境に到達すると、マスキング部分が標的組織又は微小環境に存在する酵素によって切断され、ひいてはマスキングされていた活性が放出される。例えば、酵素は、一般に腫瘍微小環境で活性なプロテアーゼであってもよく、これがマスキング部分を切断すると、腫瘍組織内において活性を有する条件的活性型抗体が放出され得る。
【0429】
一部の実施形態において、活性は、元の活性の約50%未満、又は元の活性の約30%未満、又は元の活性の約10%未満、又は元の活性の約5%未満、又は元の活性の約2%未満、又は元の活性の約1%未満、又は元の活性の約0.1%未満、又は元の活性の約0.01%未満となるようにマスキングされる。一部の実施形態では、例えば、送達に適切な時間を確実にするため、マスキング効果は、インビボ又は標的移動インビトロ免疫吸収アッセイで計測したとき少なくとも2、4、6、8、12、28、24、30、36、48、60、72、84、96時間、又は5、10、15、30、45、60、90、120、150、180日、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヵ月又はそれ以上続くように設計される。
【0430】
特定の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナー(抗原)と構造的に類似している。マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーが修飾されたものであってもよく、これは、条件的活性型抗体との結合の親和性及び/又はアビディティを少なくとも僅かに低下させるアミノ酸変化を含有する。一部の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーとの相同性を含まないか、又は実質的に含まない。他の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーと5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、又は80%以下の配列同一性(identify)を有する。
【0431】
マスキング部分は種々の異なる形態で提供され得る。特定の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の既知の結合パートナーであってもよく、但し、マスキング部分が標的との所望の結合の妨げとなることを低減するため、マスキング部分は、マスキング部分の切断後に条件的活性型抗体の標的となる標的タンパク質よりも低い親和性及び/又はアビディティで条件的活性型抗体に結合するものとする。従って、マスキング部分は、好ましくはマスキング部分の切断前は標的結合から条件的活性型抗体をマスキングするが、抗体からマスキング部分が切断された後は、標的との活性分子の結合を実質的に若しくは大幅に妨げたり、又はそれに関して競合したりしないものである。具体的な実施形態において、条件的活性型抗体及びマスキング部分は、天然に存在する結合パートナーペアのアミノ酸配列を含有せず、従って条件的活性型抗体及びマスキング部分の少なくとも一方が、天然に存在する結合パートナーのメンバーのアミノ酸配列を有しない。
【0432】
或いは、マスキング部分は条件的活性型抗体に特異的に結合するのでなく、むしろ立体障害などの非特異的相互作用によって条件的活性型抗体-標的結合を妨げ得る。例えば、マスキング部分は、抗体の構造又はコンホメーションによってマスキング部分が条件的活性型抗体を例えば電荷ベースの相互作用によってマスキングすることが可能となり、それによって条件的活性型抗体に標的が到達することが妨げられるような位置にあり得る。
【0433】
一部の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体と共有結合性の結合によってカップリングされる。別の実施形態において、条件的活性型抗体は、マスキング部分を条件的活性型抗体のN末端に結合することにより、その標的との結合が阻止される。さらに別の実施形態において、条件的活性型抗体は、マスキング部分と条件的活性型抗体との間のシステイン間ジスルフィド架橋によってマスキング部分にカップリングされる。
【0434】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は切断可能部分(CM)とさらにカップリングされる。CMは酵素によって切断される能力を有し、又はCMは還元剤によって還元される能力を有し、又はCMは光分解される能力を有する。一実施形態において、CMのアミノ酸配列はマスキング部分とオーバーラップしているか、又はその範囲内に含まれ得る。別の実施形態において、CMは条件的活性型抗体とマスキング部分との間にある。CMの全て又は一部分が切断前の条件的活性型抗体のマスキングを促進し得ることに留意しなければならない。CMが切断されると、条件的活性型抗体はその抗原に対する結合の活性が高くなる。
【0435】
CMは、対象の治療部位に標的抗原と共存する酵素の基質であり得る。それに代えて、又は加えて、CMは、ジスルフィド結合が還元される結果として切断可能なシステイン間ジスルフィド結合を有し得る。CMはまた、光源によって活性化可能な光解離性基質であってもよい。
【0436】
条件的活性型抗体の所望の標的組織には、CMを切断する酵素が優先的に位置するはずであり、ここで条件的活性型抗体は、罹患組織又は腫瘍組織などの標的組織(異常条件)において示される条件でより高活性である。例えば、幾つもの癌、例えば固形腫瘍においてレベルが増加する既知のプロテアーゼがある。例えば、La Rocca et al,(2004)British J.of Cancer 90(7):1414-1421を参照のこと。かかる疾患の非限定的な例としては、あらゆる種類の癌(乳癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵癌等)、関節リウマチ、クローン病、黒色腫、SLE、心血管損傷、虚血等が挙げられる。従って、腫瘍組織に存在するプロテアーゼ、特に非癌性組織と比較したとき腫瘍組織に高レベルで存在するプロテアーゼによって切断可能なペプチド基質を含む好適なCMが選択され得る。
【0437】
一部の実施形態において、CMは、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MTl-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、β-セクレターゼ、uPA及びPSAから選択される酵素の基質であり得る。CMを切断する酵素は、非治療部位の組織(例えば健常組織)と比べて治療部位の標的組織(例えば罹患組織又は腫瘍組織;例えば療法的治療又は診断的治療向け)に比較的高いレベルで存在する。従って、罹患組織又は腫瘍組織で活性がより高いものであり得る抗体の条件的活性に加えて、罹患組織又は腫瘍組織に示される酵素はCMを切断することができ、これが条件的活性型抗体の活性、又はコンジュゲート薬剤の活性をさらに増強する。非修飾又は非切断CMは、条件的活性型抗体の活性の効率的な阻害又はマスキングを可能にすることができ、従って条件的活性型抗体は正常組織(正常生理条件)では活性が低い。正常組織での条件的活性型抗体の活性を抑制する二重の機構(条件的活性及びマスキング部分)により、重大な有害作用を引き起こすことなしにはるかに高い投薬量の条件的活性型抗体の使用を用いることが可能となる。
【0438】
一部の実施形態において、CMは、以下の表1に掲載する酵素(enzymers)から選択される酵素の基質であり得る。
【0439】
【表1】
【0440】
或いは又は加えて、CMはシステインペアのジスルフィド結合を含んでもよく、従ってこれは、グルタチオン(GSH)、チオレドキシン、NADPH、フラビン、アスコルビン酸塩などを含めた、固形腫瘍の組織、又はその周囲に多量に存在し得る細胞性還元剤などの還元剤によって切断可能である。
【0441】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体はCM及びマスキング部分の両方を含有する。条件的活性型抗体の活性は、酵素によるCMの切断時にアンマスキングされる。一部の実施形態において、1つ以上のリンカー、例えば可動性リンカーを抗体とマスキング部分とCMとの間に挿入して可動性を付与することが望ましい場合もある。例えば、マスキング部分及び/又はCMは、所望の可動性を付与するのに十分な数の残基を含有しないこともある(例えば、Gly、Ser、Asp、Asn、特にGly及びSer、特にGly)。そのため、1つ以上のアミノ酸を導入して可動性リンカーを提供することが有益であり得る。例えば、マスキングされた条件的活性型抗体は以下の構造を有し得る(ここで以下の式は、N末端からC末端への方向又はC末端からN末端への方向のいずれにもアミノ酸配列を表す):
(MM)-L1-(CM)-(AB)
(MM)-(CM)-L1-(AB)
(MM)-L1-(CM)-L2-(AB)
シクロ[L1-(MM)-L2-(CM)-L3-(AB)]
式中、MMはマスキング部分であり、ABは条件的活性型抗体であり;L1、L2、及びL3は各々独立して、且つ任意選択で、存在又は非存在を表し、少なくとも1つの可動性アミノ酸(例えば、Gly)を含む同じ又は異なる可動性リンカーであり;及びシクロは、存在する場合、構造のN末端及びC末端の両方又はその近傍のシステインペアの間にジスルフィド結合が存在するため構造全体が環状構造の形態である。
【0442】
本発明での使用に好適なリンカーは、概して、マスキング部分に可動性を付与して条件的活性型抗体の活性の阻害を促進するものである。かかるリンカーは、概して可動性リンカーと称される。好適なリンカーは容易に選択することができ、1アミノ酸(例えばGly)~20アミノ酸、2アミノ酸~15アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸、例えば、4アミノ酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、又は7アミノ酸~8アミノ酸など、好適な種々の長さのいずれであってもよく、1、2、3、4、5、6、又は7アミノ酸であり得る。
【0443】
例示的可動性リンカーとしては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(例えば、(GS)n、(GSGGS)n及び(GGGS)n[式中、nは少なくとも1の整数である]を含む、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当該技術分野において公知の他の可動性リンカーが挙げられる。例示的可動性リンカーとしては、限定はされないが、Gly-Gly-Ser-Gly、Gly-Gly-Ser-Gly-Gly、Gly-Ser-Gly-Ser-Gly、Gly-Ser-Gly-Gly-Gly、Gly-Gly-Gly-Ser-Gly、Gly-Ser-Ser-Ser-Glyなどが挙げられる。
【0444】
条件的活性型抗体の活性のマスキングに用いられる技法の幾つかが、国際公開第2010081173A2号パンフレットに記載されている。
【0445】
医薬組成物
本開示は、少なくとも1つの組成物を提供するものであって、この組成物は、(a)条件的活性型生物学的タンパク質、及び(b)適当な担体又は希釈剤を有するものである。本開示はまた、少なくとも1つの組成物を提供するものであって、この組成物は、(a)本明細書に記載の核酸をエンコードする条件的活性型生物学的タンパク質、及び(b)適当な担体又は希釈剤を有するものである。担体又は希釈剤は、選択的に、既知の担体又は希釈剤に従って、薬学的に許容可能なものにすることができる。組成物はさらに、選択的に、追加して少なくとも1つの化合物、タンパク質、又は組成物を有することができる。一部の実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は条件的活性型抗体である。
【0446】
条件的活性型生物学的タンパク質は、薬学的に受容可能な塩の形態であってもよい。薬学的に受容可能な塩とは、製薬産業において治療用タンパク質の塩として一般的に用いられるものであって、例えばナトリウム、カリウム、カルシウムなどの塩、並びにプロカイン、ジベンジルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、メチルグルカミン、タウリンなどのアミン塩、並びに塩酸塩、及び塩基性アミノ酸などの酸添加塩含むものである。
【0447】
本開示は、さらに、当該技術分野に既知である通り、及び/又は本明細書に記載されている通り、細胞、組織、臓器、動物又は患者における、少なくとも1つの親分子が関連する症状を、及び/又は関連症状の前、後、若しくは間に調節又は治療するための、治療有効量を投与するための、少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質の方法又は組成物を提供する。従って、本開示は、本開示の少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質の有効量を有する組成物を、細胞、組織、臓器又は動物に接触させる工程或いはそれに投与する工程を有する、細胞、組織、臓器又は動物における、野生型タンパク質に関連する症状を、診断又は処置する方法を提供するものである。本方法は選択的に、さらに、細胞、組織、臓器又は動物に対し、有効量である0.001~50mg/kgの、本開示の条件的活性型生物学的タンパク質を使用する工程を有していてもよい。本方法は選択的に、さらに、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内、嚢内(intracapsular)、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、頸内、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊椎内、滑液包内、胸内、子宮内、嚢内(intravesical)、ボーラス、膣、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮から選択される少なくとも1つの形態により、接触させる工程又は投与する工程を、使用する工程を有していてもよい。本方法は選択的に、さらに、条件的活性型生物学的タンパク質の接触又は投与の前に、同時に、又は後に、検出可能な標識又はレポーター、TNFアンタゴニスト、抗リウマチ剤、筋肉弛緩剤、麻酔薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、鎮痛剤、麻酔剤、鎮静剤、局所麻酔剤、神経筋遮断薬、抗菌薬、乾癬治療薬、コルチコステロイド、タンパク同化ステロイド、エリスロポエチン、免疫化薬、免疫グロブリン、免疫抑制薬、成長ホルモン、ホルモン補充薬、放射性医薬品、抗欝薬、抗精神病薬、興奮剤、喘息薬、ベータアゴニスト、吸入用ステロイド、エピネフリン又はその類似物、細胞毒性薬又は他の抗癌剤、メトトレキセートのような代謝拮抗剤、増殖抑制剤、サイトカイン、或いはサイトカインアンタゴニストの少なくとも1つから選択される、少なくとも1つの化合物又はタンパク質の有効量を有する、少なくとも1つの組成物を投与する工程を有していてもよい。
【0448】
本開示はさらに、当該技術分野において既知である通り、及び/又は本明細書に記載されている通り、細胞、組織、臓器、動物又は患者における少なくとも1つの、野生型タンパク質が関連する症状を、及び/又は関連症状の前、後、若しくは間に診断するための、少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質の方法を提供する。
【0449】
薬学的に受容可能な担体は、投与される特定の組成物によって、及びその組成物を投与するのに使用される特定の方法によって、ある程度決定される。従って、本発明の医薬組成物に好適な製剤は多種多様である。様々な液体担体、例えば緩衝生理食塩水などが使用されてもよい。そうした溶液は、無菌であり、一般的に不都合となる物質は入っていない。そうした溶液は、従来的な既知の滅菌方法によって滅菌されてもよい。組成物は生理学的条件に近付けるのに必要とされる薬学的に受容される、pH調節剤及び緩衝剤、等張性調節剤などの補助物質、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等を含んでいてもよい。こうした製剤の中での条件的活性型生物学的タンパク質の濃度は幅広く変えてもよく、選んだ特定の投与形態に従って、流体容積、粘度、体重などに主に基づいて選択されるであろう。
【0450】
経口投与に適した製剤は、(a)水、生理食塩水、又はPEG400などの希釈剤中に懸濁された、有効量の放送された核酸のような、液体の液剤、(b)それぞれ予め決定された量の活性成分を、液体、固形物、顆粒又はゼラチンとして含有する、カプセル剤、サシェ剤又は錠剤、(c)適切な液体中の懸濁剤、並びに(d)好適な乳剤からなることができる。本発明の、経口投与のための医薬組成物及び製剤は、当該技術分野で公知の薬学的に受容可能な担体を、適切な用量使用して配合することができる。そうした担体は、医薬品が、錠剤、丸剤、散剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、トローチ剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤など、患者の服用に好適な単位用量形に製剤化されることを可能にする。経口使用のための医薬製剤は、固体賦形剤によって製剤化されるが、場合により、錠剤又は糖衣剤の中核部を得るため、得られた混合物を磨り潰し、好適な追加の化合物を加えた後にその顆粒剤の混合物を処理する。好適な固体賦形剤は炭水化物又はタンパク質充填剤であり、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールなどの糖;トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモ又は他の植物に由来するデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;並びにアラビア及びトラガカントを含むガム:並びにゼラチン及びコラーゲンなどのタンパク質を含む。架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、又はアルギン酸ナトリウムなどのそれらの塩のような、崩壊剤又は可溶化剤を加えてもよい。錠剤形は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、微晶質セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、水和剤、保存剤、香味料、色素、崩壊剤、及び薬学的に受容可能な担体の中から1つ又は複数を含むことができる。
【0451】
本発明は、水性懸濁剤の製造に適する賦形剤との混合物中に、条件的活性型生物学的タンパク質を有する水性懸濁剤を提供する。そのような賦形剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム及びアラビアガムのような懸濁化剤、及び天然に存在するホスファチド(例えばレシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えばポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えばポリエチレンソルビトールモノオレート)、又はエチレンオキシドと脂肪酸及び無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)のような核酸剤又は湿潤剤を含むことができる。水性懸濁剤はまた、エチル又はn-プロピル-p-ヒドロキシベンゾエートなどの1つ又は複数の保存剤、1つ又は複数の着色剤、1つ又は複数の香味料、並びにスクロース、アスパルテーム又はサッカリンなどの1つ又は複数の甘味料を含有することができる。製剤は浸透圧について調整されてもよい。
【0452】
トローチ剤形は、活性成分を通常、スクロース及びアカシア又はトラガカントといった香味料中に有し、また、香錠剤は、ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシア乳剤、ゲル剤などの不活性基材中に活性成分を有し、これらの活性成分に加え当該技術分野で既知の担体を有することができる。条件的活性型生物学的タンパク質は、経口投与されるとき、消化から保護されていなければならないと理解されている。これは、一般的には、条件的活性型生物学的タンパク質を、酸性的及び酵素的な加水分解への耐性を付与する組成物と複合体を作ることによって、或いは条件的活性型生物学的タンパク質を、リポソームなどの適切な耐性を有する担体中に包装することによって、達成される。タンパク質を消化から保護する方法は、当該技術分野において公知である。医薬組成物は、例えば、リポソーム中に、又は活性成分を徐放できるようにする製剤中に、封入することができる。
【0453】
包装された条件的活性型生物学的タンパク質は、単独で、又は他の好適な成分との組み合わせによって、エアロゾル製剤(例えば、噴霧吸入が可能なもの)に製剤化して、吸入法によって投与することができるエアロゾル製剤は、ジクロロフルオロメタン、プロパン、窒素などの圧縮された許容される噴射剤に入れることができる。直腸投与に好適な製剤は、例えば、包装された核酸と坐剤基材からなる坐剤を含む。好適な坐剤は、天然又は合成のトリグリセリド又はパラフィン炭化水素を含み、さらに、包装された核酸と基材の組合せからなるゼラチンの直腸用カプセルを使うことも可能であり、その基材には、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、及びパラフィン炭化水素が含まれる。
【0454】
本発明の経皮又は局所の送達組成物は、条件的活性型生物学的タンパク質に加えて、薬学的に受容可能な担体が、クリーム、軟膏、液体又はハイドロゲルの製剤中に含んでもいてもよく、添加成分が治療用タンパク質の送達に悪影響を与えない限り、その他の化合物を含んでいてもよい。従来の薬学的に受容可能な乳化剤、界面活性剤、懸濁化剤、抗酸化剤、浸透圧上昇剤、増量剤、希釈剤、保存剤を、加えてもよい。水に可溶のポリマーも担体として使用することができる。
【0455】
非経口投与、例えば、関節内(関節部中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、及び皮下の経路などによる投与に好適な製剤は、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、及び対象の被投与者の血液に対する等張性を製剤に与える溶質を含有し得る水性及び非水性の等張性無菌注射溶液と、懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、保存剤を含有し得る水性及び非水性の無菌懸濁溶液とを含む。本発明の実施において、組成物は、例えば、静脈内注入、経口、局所、腹腔内、又はくも膜下腔内に投与することができる。一態様において、非経口投与の形態は、条件的活性型生物学的タンパク質を有する組成物の投与に好適な方法である。組成物は、便宜的に、単位用量形で投与されてもよく、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.Easton Pa.,18th Ed.,1990に記載されているような、医薬分野で公知である任意の方法によって調製されてもよい。静脈内投与の製剤は、無菌の水又は生理食塩水、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、野菜由来のオイル、水素化ナフタレンなどの薬学的に受容可能な担体を含有していてもよい。米国特許第4318905号明細書の記載も参照及び適用のこと。
【0456】
条件的活性型生物学的タンパク質を有する、包装された組成物の製剤は、アンプル及びバイアルのような、単位用量又は複数容量を封入された容器に入れることができる。注射用溶液及び懸濁液は、以前に記載した種類の無菌の散剤、顆粒剤、及び錠剤から調製することができる。
【0457】
本開示はまた、本開示に従って、少なくとも1つの野生型タンパク質に関連する症状を診断するための、少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質の、組成物、装置及び/又は送達方法を提供するものである。
【0458】
また提供するものは、少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質及び少なくとも1つの薬学的に受容可能な担体又は希釈剤を有する組成物である。組成物は選択的に、さらに、検出可能な標識又はレポーター、細胞毒性薬又は他の抗癌剤、メトトレキセートのような代謝拮抗剤、増殖抑制剤、サイトカイン、又はサイトカインアンタゴニスト、TNFアンタゴニスト、抗リウマチ剤、筋肉弛緩剤、麻酔薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、鎮痛剤、麻酔剤、鎮静剤、局所麻酔剤、神経筋遮断薬、抗菌薬、乾癬治療薬、コルチコステロイド、タンパク同化ステロイド、エリスロポエチン、免疫化薬、免疫グロブリン、免疫抑制薬、成長ホルモン、ホルモン補充薬、放射性医薬品、抗欝薬、抗精神病薬、興奮剤、喘息薬、βアゴニスト、吸入用ステロイド、エピネフリン又は類似物の少なくとも1つから選択される、少なくとも1つの化合物又はタンパク質の有効量を有することができる。
【0459】
また提供するものは、本開示の少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質を有する医療装置であり、ここで装置は、少なくとも1つの条件的活性型生物学的タンパク質を、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、頸内、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊椎内、滑液包内、胸内、子宮内、嚢内、ボーラス、膣、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮から選択される、少なくとも1つの形態により接触させる工程又は投与する工程に好適なものである。
【0460】
さらなる態様において、本開示は、少なくとも1つの本開示の条件的活性型生物学的タンパク質又は断片を凍結乾燥された形態で有する第1の容器と、場合により、無菌の水、無菌の緩衝化水、或いはフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、硝酸フェニル水銀、フェノキシエタノール、ホルムアルデヒド、クロロブタノール、塩化マグネシウム(例えば六水和物)、アルキルパラベン(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム及びチメロサール又はそれらの混合物からなる群から選択され、水性希釈剤中に入れられた少なくとも1つの保存剤を有する第2の容器とを有するキットを提供するものである。一態様において、キットの第1の容器中の、条件的活性型生物学的タンパク質又は特定部分又は変異体の濃度は、第2の容器の内容物によって、約0.1mg/ml~約500mg/mlの濃度に再構成される。別の態様において、第2の容器はさらに等張剤を有する。別の態様において、第2の容器はさらに生理学的に受容可能な緩衝液を有する。一態様において、本開示は、少なくとも1つの野生型タンパク質が介在する症状を治療する方法であって、それを必要とする患者に、キットに提供されている製剤を投与する工程と、投与の前に再構成する工程とを有する、治療する方法を提供する。
【0461】
また提供されるものは、ヒトの医薬品又は診断用途のための製品の物品であって、この製品の物品は、包装素材と、溶液又は少なくとも1つの本開示の条件的活性型生物学的タンパク質を凍結乾燥したものとを有する。製品の物品は、選択的に、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内、嚢内(intracapsular)、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、頸内、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊椎内、滑液包内、胸内、子宮内、嚢内(intravesical)、ボーラス、膣、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮の、送達装置又は送達システムを、構成要素とする容器を有することができる。
【実施例0462】
本開示は、本明細書に記載される任意の開示をさらに提供する。
【0463】
実施例1:温度変異体についてのマルチウォールアッセイ(例えば、96ウェルアッセイ)についての概要
マルチウォールプレートの各ウェルに蛍光基質を加え、野生型の温度と、新規の型で低い反応温度の両方(例えば、上述の通り37℃又は25℃のいずれか)に適切な時間おく。蛍光プレートリーダーによって、適切な励起及び発光スペクトル(例えば、320nmの励起スペクトル、405nmの発光スペクトル)において、蛍光を測定することによって、蛍光を検出する。相対蛍光ユニット(Relative fluorescence unit:RFU)を決定する。野生型分子からの上清及びプラスミド/ベクターで形質転換された細胞を、陽性対照及び陰性対照として用いる。各サンプル、反応温度、陽性対照及び陰性対照において複製反応を行う。
【0464】
低い温度(例えば、25℃で活性化する変異体)で活性化し、野生型の温度(例えば、37℃で、10%、20%、30%、40%、又はそれを超えて活性が低下する)で活性が低下し、すなわち活性の比が1.1以上か又はより大きい値以上(例えば25℃又は37℃における活性の比(25℃/37℃)が1.1以上か又はより大きい値以上)である、変異体を、推定温度感受性の一次ヒットとしてみなすことができる。この温度感受性一次ヒットを、次いで、同じアッセイを用いてスクリーニングし、全ての一次ヒットを確かめることができる。
【0465】
実施例2:温度変異体の確認試験のための異なるアッセイ形式(例えば、14mLアッセイ)についての概要
温度感受性一次ヒットとして同定された変異体を、14mLの培養チューブで発現させ、それらの酵素活性を野生型の温度(例えば、37℃)とより低い温度(例えば、25℃)とにおいて測定する。タンパク質を発現させ、上述の通りにマルチウォール形式で用いるために精製するが、マルチウォール(96ウェルプレート)でない異なる形式(14mlチューブ)における発現も別に行う。
【0466】
各変異体の上清を、マルチウォールプレート、例えば96ウェルのマイクロプレートに移動する。各チューブに蛍光基質を加え、指定の温度(野生型の温度、より低い温度)に適切な時間おく。野生型分子を陽性対照として使用し、ベクターのみにより形質転換した細胞からの上清を陰性対照として使用する。蛍光プレートリーダーによって、適切な発光スペクトル(例えば、320nmの励起スペクトル、405nmの発光スペクトル)において、蛍光を測定することによって、蛍光を検出する。相対蛍光ユニット(Relative fluorescence unit:RFU)を決定する。各サンプル、反応温度、陽性対照及び陰性対照において複製反応を行う。
【0467】
低い温度(例えば、25℃)で活性化するが、野生型の温度(例えば、37℃)で、少なくとも30%以上の活性の低下を見せ、すなわち野生型の温度(例えば、37℃)での活性に対する、低い温度(例えば25℃)での活性の比が1.1以上である変異体を、温度感受性ヒットとして同定する。
【0468】
低い温度(例えば、25℃)における変異体の活性を、野生型の温度(例えば、37℃)における野生型分子の活性と比較する。低い温度(例えば、25℃)において野生型分子よりも活性が高いことが、残存活性が1より大きく、好ましくは2以上であることで示される場合、且つ変異体が野生型の温度(37℃)において野生型分子と比べたときに、全体的な活性の低下を示す場合、変異体の表現型が温度感受性変異体であると確認できる。
【0469】
実施例3:発見したヒットのさらなる発達についての概要
必要に応じて、新規のコンビナトリアル変異体ライブラリを、上述において同定した変異体ヒットの全て又は選択したものから作成する。この新規のライブラリを、選択した変異体それぞれについて、可能な全てのアミノ酸変異体を含むようにデザインし、新しいヒットについての記載の通り再度スクリーニングをすることができる。
【0470】
実施例4:温度低下後の酵素活性の可逆性についての概要
温度感受性の発達させた変異体に対してさらにアッセイを行い、低い温度(例えば、25℃)における酵素活性が可逆的か非可逆的か、変異体を高い温度に曝し、続けて低い温度(例えば、25℃)に戻すことによって、確認することができる。この温度感受性変異体を、所望の形式、例えば、概述のような14mL培養チューブにおいて発現させる。この変異体を、野生型の温度(例えば、37℃)及びその他の温度を含んだ幾つかの条件下においてテストし、続いて、必要な低い温度(例えば、25℃)に再度曝す。低い温度において活性のある変異体であって、より高い温度又は野生型の温度まで上昇させたとき、活性の低下を示し(すなわち、低い温度における活性の高い温度に対する活性の比が、1、1.5、2、又はそれより高い値以上である)、再度低い温度まで下げられたときにベースラインの活性を示す、変異体を、「可逆性ヒット」と判定する。低い温度において活性のある変異体であって、より高い温度又は野生型の温度まで上昇させたとき、活性の低下を示し(すなわち、低い温度における活性の高い温度に対する活性の比が、1、1.5、2、又はそれより高い値以上である)、再度低い温度まで下げられたときに少なくとも低下した活性と同じ程度の活性を示す、変異体を、「非可逆性ヒット」と判定する。
【0471】
実施例5:条件的活性型のアンジオスタチン変異体のスクリーニングについての材料及び方法
条件的活性型のアンジオスタチン変異体のスクリーニングについての材料及び方法は、Chi and Pizzo,“Angiosatin is directly cytotoxic to tumor cells at low extracellular pH:a mechanism dependent on cell surface-associated ATP synthase”,Cancer Res.2006;66(2):875-882から適用することが可能である。
【0472】
材料
ヒトのプラスミノーゲン由来の、野生型アンジオスタチンのクリングル1~3は、Calbiochem(ドイツ、Darmstadt)から入手可能であり、無菌PBS中で再構成することができる。過去に記載されているように、ATP合成酵素の触媒的βサブユニットに対するポリクローナル抗体は作製可能であり、ウシのATP合成酵素F1サブユニットは精製可能である((Moser et al.,“Angiostatin binds ATP synthase on the surface of human endothelial cells”,Proc Natl Acad Sci USA 1999;96:2811-6;Moser et al.“Endothelial cell surface Fl-FO ATP synthase is active in ATP synthesis and is inhibited by angiostatin”,Proc Natl Acad Sci USA;2001;98:6656-61)。カリポリドは、無菌の水に可溶化し、無菌にフィルターすることができる。
【0473】
細胞培養
A549(肺がん組織由来のヒト上皮細胞株)又は他のがん細胞株(DU145、LNCaP、又はPC-3細胞)は、例えばATCCから入手可能である。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、文献に記載されているようにヒト臍帯静脈から単離可能である(Grant et al.,“Matrigel induces thymosin h 4 gene in differentiating endothelial cells”,J Cell Sci 1995;108:3685-94.)。HUVEC細胞は、ATP合成酵素を細胞表面に発現する細胞株で、陽性対照として使用することができる。細胞は、1%ペニシリンストレプトマイシン及び10%血清置換培地3(Sigma、St.Louis,MO)を入れたDMEM(Life Technologies、Carlsbad,CA)で培養し、プラスミミノーゲンの存在を最小限にすることができる。低いpH(6.7)の培地は、重炭酸塩を5%CO2条件下で10mmol/Lまで減少させ、浸透圧を維持するために34mmol/LのNaClを追加するか、又は22mmol/Lの重炭酸塩培地を17%CO2条件下でインキュベートすることで調製することができる。pHを低下させる方法は、実験的制約及びアッセイによって変化してもよい。
【0474】
フローサイトメトリー
ATP合成酵素が腫瘍細胞株の細胞表面において機能的であることを確認するために、フローサイトメトリー実験を行うことができる。例えば、A549細胞株を、低酸素状態(0.5%O2、5%CO2、N2平衡)対酸素正常状態(21%O2、5%CO2)で、異なるpHの培地(10、22、及び44mmol/Lの重炭酸塩DMEM)において、0、12、24、48、お及び72時間培養することができる。生細胞をブロックし、抗βサブユニット抗体と共にインキュベートし、洗浄し、ブロックし、二次抗体のヤギ抗ウサギ抗体FITC(Southern Biotech、Birmingham,AL)と共にインキュベートし、再度洗浄することができる(全ての工程は4℃で行われる)。ヨウ化プロピジウム(BD Biosciences、San Jose,CA)を、細胞膜を損傷した細胞を識別するために全てのサンプルに含めることができる。10,000細胞中のFITCの平均蛍光強度を、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson、Franklin Lakes,NJ)によって定量化し、CELLQuestソフトウェア(BD Biosciences)上で、ヨウ化プロピジウムを取り込んだ細胞を取り除くことで、ミトコンドリアATP合成酵素の検出を除去することができる。
【0475】
細胞表面のATP合成アッセイ
96ウェルプレート中のA549又は1-LN細胞(ウェル毎に60,000個)を、培地で満たし、アンジオスタチン、アンジオスタチン変異体、抗βサブユニット抗体、ウシ血清アルブミンに対して作成されたウサギIgG(Organon Teknika、West Chester,PA)、ピセタノール(既知のATP合成酵素F1の阻害剤で陽性対照として用いられる、Sigma)、又は培地のみによって、37℃、5%CO2で30分間処理することができる。次いで、細胞を0.05mmol/LのADPで20秒間インキュベートすることができる。上清を除去し、記載(23)の通り、にCellTiterGloルミネセンスアッセイ(Promega、Madison,WI)によって、ATP産生を分析することができる。細胞溶解物を同様に分析し、ATPの細胞内プールが全ての条件において変わらないことを確認することができる。記録を、Luminoskan Ascent(Thermo Labsystems、Helsinki,Finland)上でとることができる。データは、それぞれの独立した実験において決定された基準に基づいて、細胞毎のATPのモル数によって表される。
【0476】
細胞増殖アッセイ
アンジオスタチンのがん細胞株への効果を、無血清培地において、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、分子内塩(MTS)増殖アッセイによって評価することができる。アンジオスタチンの存在下又は非存在下において、37℃、5%CO2で20時間インキュベートした後、96ウェルマイクロプレートの各ウェルにおける相対的な細胞数を、AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて製品のプロトコルに従って、決定することができる。培地のpHを、5%CO2において重炭酸塩濃度によって調節することができる。
【0477】
細胞毒性の評価
細胞死及び細胞溶解を定量化するために、サイトゾルから上清に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(lactate cehydrogenase:LDH)の活性を、Cytotoxicity Detectionキット(Roche、Indianapolis,IN)によって計測することができる。アンジオスタチン、アンジオスタチン変異体、抗βサブユニット抗体、ウサギIgG、カリポリド、及びトリトンX(細胞を透過処理する界面活性剤で陽性対照として用いる)によって処理したがん細胞(例えば、A549細胞)(ウェル毎に5,000個)を、5%CO2又は17%CO2(それぞれ、中性及び低pH条件)で、37℃、15時間インキュベートすることができる。細胞毒性の指標は、同じpHの培地に対応させて、4組の処理したサンプルの平均吸光度を、4組の未処理サンプルの平均吸光度によって除算することで計算することができる。細胞のネクローシス及びアポトーシスの評価アンジオスタチンの細胞死を引き起こす作用を決定するために、ヒストン-DNA ELISAを行うことができる。A549細胞(ウェル毎に5,000個)に対するアンジオスタチン、アンジオスタチン変異体、抗βサブユニット抗体、ウサギIgG、カリポリドの効果を、核外のヒストン-DNA断片の検出に基づいた、ELISAアポトーシス及びネクローシスアッセイ(Roche)を用いることで、決定することができる。試薬の存在下又は非存在下で、37℃15時間インキュベートした後、4組のサンプルの細胞溶解物又は上清から、それぞれアポトーシス又はネクローシスを決定することができる。アポトーシス又はネクローシスは、同じpHの培地に対応させて、4組の処理したサンプルの平均吸光度を、4組の未処理サンプルの平均吸光度によって除算することで計算することができる。培地のpHを、5%CO2又は17%CO2においてインキュベートすることで調節することができる。
【0478】
細胞内pH(pHi)の測定
pHiは、カバーガラス付きの35mmマイクロウェルディッシュ(MatTek、Ashland,MA)上に乗せた細胞の蛍光によって、測定することができる。細胞を、成長因子を減少させた、フェノールレッドフリーのMatrigel(BD Biosciences)に乗せることができる。一晩培養後、培地を変え、細胞をpH感受性蛍光色素のcSNARF(Molecular Probes、Eugene,OR)と共に添加して15分間おき、続いて新しい培地で20分間回復させる。次いで、細胞を顕微鏡の台にマウントし、37℃、5%CO2で発光スペクトルの収集を1時間行い、記載の通りそれぞれ7~15細胞を含む領域からpHiを計算することができる(Wahl ML,Grant DS.“Effects of microenvironmental extracellular pH and extracellular matrix proteins on angiostatin’s activity and on intracellular pH”,Gen Pharmacol 2002;35:277-85)。スペクトル収集の開始時に、培地をディッシュから取り除き、細胞を、アンジオスタチン、抗βサブユニット抗体、ウサギIgG、カリポリド、ナトリウム-プロトン交換阻害剤を含む又は含まない、1mLの新しい培地によって試すことができる。培地のpHを、上述のように、固定した%CO2において、重炭酸塩濃度によって調節することができる。
【0479】
実施例6:抗体の軽鎖又は重鎖を発達させる
抗体F1-10F10の重鎖及び軽鎖をCPEを用いて別個に発達させた。軽鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する26個の軽鎖変異体が見付かり、この場合、変異体は、pH6.0では野生型と比べて活性がより高く、且つ変異体はpH7.4で野生型と比べて活性が低かった。26個の軽鎖変異体は、軽鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、26個の軽鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、軽鎖におけるホットスポットと見なした。重鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する28個の重鎖変異体が見付かった。これらの28個の重鎖変異体は、重鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、28個の重鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、重鎖におけるホットスポットと見なした。軽鎖変異体及び重鎖変異体の条件的活性は、ELISA分析によって確認した。
【0480】
この例で生成された最良の条件的活性型抗体は、pH7.4でのその活性に対するpH6.0でのその活性が17倍の差であった。加えて、条件的活性型抗体の多くが、7.4の正常生理的pHと6.0の異常pHとの間のpHで可逆の活性を有した。興味深いことに、ELISA分析によって5.0~7.4のpH範囲で条件的活性型抗体の活性を試験したとき、この例で生成された条件的活性型抗体のほとんどが約5.5~6.5のpHで最適な結合活性を呈した。
【0481】
この例で生成された条件的活性型抗体の活性はまた、全細胞を使用したFACS(蛍光活性化細胞選別)分析によっても確認し、ここではCHO細胞を使用して、pH6.0及びpH7.4で抗体の抗原を発現させた。条件的活性型抗体をCHO細胞に加えることにより、結合活性を計測した。FACS分析により、pH7.4と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性に関するELISA分析の結果に一般的な傾向が確認された。
【0482】
実施例7:特殊緩衝液中における条件的活性型抗体の選択
本発明における発達させる工程によって生成した変異体抗体を、7.4の正常生理的pHでの分析及び6.0の異常なpHでの分析に供した。両方の分析とも、ヒト血清に見られる重炭酸塩を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を使用して実施した。溶液中の重炭酸塩の濃度は、ヒト血清中の典型的な重炭酸塩濃度、すなわち生理的濃度であった。重炭酸塩を含有しない同じPBS溶液を使用して、比較試験を行った。
【0483】
この例における変異抗体又は条件的活性型抗体の結合活性を計測するアッセイはELISAアッセイであり、これは以下のとおり実施した:
1.ELISA前日:PBSで1ug/mlの100ulの抗体Ab-A ECD hisタグ(2.08mg/ml)抗原によってウェルをコーティングした。
3.抗体Ab-A-His抗原でコーティングした96ウェルプレートから緩衝溶液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させた。
4.プレートを緩衝液N又はPBSで3回洗浄した、
5.プレートを200ulの指定緩衝液によって室温で1時間ブロックした、
6.選択されたCPE/CPS変異体及び野生型タンパク質をレイアウトに従い指定緩衝溶液中に75ng/mlに希釈した。緩衝溶液のpHは6.0又は7.4のいずれかに設定した(以下、「当該指定緩衝溶液」)、
6.緩衝液を振り払い、100ulの75ng/ml試料をプレートレイアウトに従い各ウェルに加えた、
7.プレートを室温で1時間インキュベートした、
8.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取った、
9.プレートをレイアウトに従い200ulの指定緩衝溶液で合計3回洗浄した、
10.抗Flag HRPを指定緩衝溶液中に1:5000希釈で調製し、レイアウトに従い各ウェルに100ulの抗Flagセイヨウワサビ過酸化物(HRP)を加えた、
11.プレートを室温で1時間インキュベートした、
13.プレートを200ulの指定緩衝溶液で合計3回洗浄した、
14.プレートを50ulの3,3’,5,5;-テトラメチルベンジジン(TMB)で1.5分間発色させた。
【0484】
重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液における分析は、条件的活性型抗体の選択に関して有意に高い成功率をもたらしたことが分かった。加えて、重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液を使用して選択された条件的活性型抗体は、pH7.4での活性に対するpH6.0でのその活性の比がはるかに高い傾向があり、従って有意に高い選択性をもたらした。
【0485】
さらに、選択された条件的活性型抗体(重炭酸塩を含むPBS緩衝溶液を使用)を、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中で試験したとき、pH7.0と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性は有意に低下したことが確認された。しかしながら、このPBS緩衝溶液に生理的量の重炭酸塩を添加すると、同じ条件的活性型抗体の選択性が回復した。
【0486】
別の分析において、選択された条件的活性型抗体を、重炭酸塩を添加したクレブス緩衝溶液で試験した。pH7.4での活性に対するpH6.0での活性のより高い比が、重炭酸塩を添加したこのクレブス緩衝溶液においても観察された。これは、少なくとも部分的には、クレブス緩衝溶液中の重炭酸塩の存在に起因した可能性があるものと思われる。
【0487】
PBS緩衝溶液中で重炭酸塩濃度をその生理的濃度未満の濃度に低下させると、7.4の正常な生理的pHにおける条件的活性型抗体の活性が増加したことが観察された。pH7.4での条件的活性型抗体の活性の増加は、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩濃度の低下に関係することが観察された。
【0488】
野生型抗体は、pH7.4で分析したとき、条件的活性型抗体について試験したPBS緩衝溶液中の同じ重炭酸塩濃度のいずれにおいてもその活性が同じままであったため、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩量の違いによる影響は受けなかった。
【0489】
実施例8:異なる緩衝液における条件的活性型抗体の選択
本発明に係る発達させる工程によって生成した変異体抗体を、正常な生理的pH(7.4)でのELISA分析及び異常なpH(6.0)でのELISA分析に供した。いずれのELISA分析も、ウシ血清アルブミン(BSA)含有クレブス緩衝液ベースの緩衝液、並びに重炭酸塩及びBSA含有PBS緩衝液ベースの緩衝液を含む種々の緩衝液を使用して実施した。
【0490】
ELISAアッセイは以下のとおり実施した:
1.ELISA前日:コーティング緩衝液(炭酸塩-重炭酸塩緩衝液)で1ug/mlの100ulの抗体Ab-A ECD hisタグ(2.08mg/ml)抗原によってウェルをコーティングした。
2.抗体Ab-A-His抗原でコーティングした96ウェルプレートから緩衝溶液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させた。
3.プレートを200ulの20種の緩衝液で3回洗浄した。
4.プレートを200ulの20種の緩衝液によって室温で1時間ブロックした。
5.変異体及びキメラをレイアウトに従い20種の緩衝液中75ng/mlに希釈した。
6.緩衝液を振り払い、100ulの希釈試料をプレートレイアウトに従い各ウェルに加えた。
7.プレートを室温で1時間インキュベートした。
8.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルを使用してプレートを拭き取って乾燥させた。
9.プレートを200ulの20種の緩衝液で合計3回洗浄した。
10.抗flag IgG HRPを20種の緩衝液中に1:5000希釈で調製した。各ウェルに100μlの抗flag IgG HRP溶液を加えた。
11.プレートを室温で1時間インキュベートした。
12.プレートを200ulの20種の緩衝液で合計3回洗浄した。
13.プレートを50ul 3,3’,5,5;-テトラメチルベンジジンで30秒間発色させた。
【0491】
重炭酸塩含有PBS緩衝溶液中での分析を用いて選択された条件的活性型抗体は、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析を用いて選択されたものとの比較において、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がはるかに高かった。加えて、重炭酸塩が添加されたクレブス緩衝溶液も、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析と比較したとき、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がより高かった。望ましい条件的活性型抗体の選択に重炭酸塩が重要であるものと思われる。
【0492】
実施例9:種々の緩衝液中における条件的活性型抗体の選択
この例では、pH6.0で野生型抗体よりも活性が高く、且つpH7.4で野生型抗体よりも活性が低い、ある抗原に対する条件的活性型抗体をスクリーニングした。スクリーニング工程は以下の表2及び表3の緩衝液を使用して実施した。表2の緩衝液はクレブス緩衝液をベースとし、表2の第1列に示されるとおりの追加的な構成成分を加えたものであった。
【0493】
【表2】
【0494】
追加的な構成成分を含むPBS緩衝液をベースとする一部のアッセイ緩衝液を以下の表3に示した。表2及び表3の緩衝液中の構成成分は1リットルの緩衝液中に加えられたグラム単位の量で提供されることに留意されたい。しかしヒト血清の濃度は緩衝液の10wt.%である。
【0495】
【表3】
【0496】
これらのアッセイ緩衝液によるELISAアッセイを用いてスクリーニングを実施した。ELISAアッセイは実施例7~8に記載されるとおり実施した。10種のアッセイ緩衝液の各々に対して選択された条件的活性型抗体を以下の表4に示した。OD 450吸光度はELISAアッセイの結合親和性と逆相関する。
【0497】
【表4】
【0498】
緩衝液8及び9を用いて、選択された条件的活性型抗体の一部の選択性を確認し、図1に示すとおり、それらがpH7.4と比べてpH6.0で実に所望の選択性を有することが分かった。異なる緩衝液を用いると、条件的活性型抗体の選択性に影響が及んだことに留意されたい。
【0499】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、文脈上特に明確に指示されない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には複数形の参照が含まれることに留意しなければならない。さらに、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書では同義的に用いられ得る。用語「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「~を有する(having)」、及び「~で構成される(constructed from)」も同義的に用いられ得る。
【0500】
特に指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される、分子量、百分率、比、反応条件など、成分、特性の量を表す全ての数値は、全ての例において、用語「約」が存在するか否かに関わらず、用語「約」によって修飾されているものと理解されるべきである。従って、反する旨が示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に示される数値パラメータは近似であり、本開示によって達成しようとする所望の特性に応じて変わり得る。最低限でも、且つ特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとすることなしに、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁の数字を踏まえて、且つ通常の丸め法を適用することによって解釈されなければならない。本開示の広い範囲を示す数値の範囲及びパラメータは近似であるにも関わらず、具体的な例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、そのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる特定の誤差を本質的に含む。
【0501】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータは、単独での使用、又は本明細書に開示される他のあらゆる成分、化合物、置換基又はパラメータの1つ以上と組み合わせた使用について開示されるものと解釈されるべきであることが理解されなければならない。
【0502】
また、本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータの各量/値又は量/値の範囲は、本明細書に開示される任意の他の1つ又は複数の成分、1つ又は複数の化合物、1つ又は複数の置換基又は1つ又は複数のパラメータについて開示される各量/値又は量/値の範囲との組み合わせでも開示されるものと解釈されるべきであること、従って、本明細書に開示される2つ以上の成分、化合物、置換基又はパラメータの量/値又は量/値の範囲の任意の組み合わせも本記載の目的上、互いに組み合わせて開示されることも理解されなければならない。
【0503】
さらに、本明細書に開示される範囲の各々は、同じ有効桁数を有する開示される範囲内にある具体的な各値の開示として解釈されるべきであることが理解される。従って、1~4の範囲は、値1、2、3及び4の明示的な開示と解釈されるべきである。さらに、本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについての本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内にある具体的な各値と組み合わせて開示されるものと解釈されるべきであることが理解される。従って、この開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限又は各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによるか、又は各範囲の各上限を各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによって得られる全ての範囲の開示と解釈されるべきである。
【0504】
さらに、説明又は例に開示される成分、化合物、置換基又はパラメータの具体的な量/値は、範囲下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、従って本出願の他の場所に開示される同じ成分、化合物、置換基若しくはパラメータの任意の他の範囲下限若しくは上限、又は具体的な量/値との組み合わせで、成分、化合物、置換基又はパラメータの範囲を形成することができる。
【0505】
本明細書で言及される文献は全て、本明細書によって全体として、又はそれらが具体的に頼りとされた開示を提供する代わりに参照により援用される。本出願人らは、開示されるいかなる実施形態も公衆に提供する意図はなく、及び任意の開示される変形例又は代替例が字義的に特許請求の範囲に含まれないこともあり得る程度まで、それらは均等論の下で本明細書の一部と見なされる。
【0506】
しかしながら、前述の説明に本発明の数値的な特徴及び利点が本発明の構造及び機能の詳細と共に示されているとしても、本開示は例示的なものに過ぎず、詳細、特に要素の形状、サイズ及び配置の点で、添付の特許請求の範囲を表現している用語の広義の一般的な意味によって示される最大限の範囲まで本発明の原理の範囲内で変更形態をなし得ることが理解されるべきである。
図1
【配列表】
2023182651000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、前記条件的活性型生物学的タンパク質が、対象の条件的活性型生物学的タンパク質の作用部位の組織または臓器における正常範囲から逸脱している異常pH6.0下でのアッセイにおける条件的活性型生物学的タンパク質の結合活性と比較して、条件的活性型生物学的タンパク質の投与部位におけるかまたは対象の条件的活性型生物学的タンパク質の作用部位の組織または臓器における正常範囲内にある正常生理pH7.4下でのアッセイにおいて低い結合活性を呈するタンパク質であり、該方法は、
野生型タンパク質のライブラリから条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程であって、該条件的活性型生物学的タンパク質が、異常pH下でのアッセイにおける条件的活性型生物学的タンパク質の結合活性と比較して、正常生理pH下でのアッセイにおいて低い結合活性を呈する、工程
を含み、
正常生理pH下でのアッセイ及び異常pH下でのアッセイが、25~100mM重炭酸塩を少なくとも1つの構成成分として含むアッセイ溶液中で実施される、方法。
【請求項2】
前記選択する工程が、(a)正常生理pH下でのアッセイにおける参照タンパク質と比較した結合活性の低下、及び(b)異常pH下での前記アッセイにおける前記参照タンパク質と比較した結合活性の増加の両方を呈する条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程を含み、前記参照タンパク質が、正常生理pH下でのアッセイ及び異常pH下でのアッセイの両方で実質的に同じ結合活性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記野生型タンパク質が野生型抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記野生型タンパク質ライブラリが、cDNAによってコードされるタンパク質のコレクションである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記野生型タンパク質ライブラリがバクテリオファージディスプレイライブラリである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記野生型タンパク質ライブラリが組換えタンパク質のコレクションである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質が、
i.前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質をコードするDNAを、変異DNAを作り出す1つ以上の発達技術を用いて発達させる工程と、
ii.前記変異DNAを発現させる工程であって、それにより変異タンパク質を得る、工程と、
iii.前記変異タンパク質から、
(a)前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較した、前記正常生理pH下でのアッセイにおける結合活性の低下、及び
(b)前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較した、前記異常pH下でのアッセイにおける結合活性の増加
の両方を呈する改良された条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程と、
に供される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が、工程(i)で用いられる前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較したとき、前記異常pH下でのアッセイにおける結合活性の、前記正常生理pH下での結合活性に対する増加した比率を有する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が、工程(i)で用いられる前記選択された条件的活性型生物学的タンパク質と比較したとき、改良された結合親和性を有する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
条件的活性型生物学的タンパク質を調製する方法であって、該条件的活性型生物学的タンパク質が、対象の条件的活性型生物学的タンパク質の作用部位の組織または臓器における正常範囲から逸脱している異常pH6.0下でのアッセイにおける条件的活性型生物学的タンパク質の結合活性と比較して、条件的活性型生物学的タンパク質の投与部位におけるかまたは対象の条件的活性型生物学的タンパク質の作用部位の組織または臓器における正常範囲内にある正常生理pH7.4下でのアッセイにおける同結合活性の低下を示すタンパク質であり、
i.所望の特性を持つ野生型生物学的タンパク質、変異タンパク質および野生型タンパク質フラグメントから親ポリペプチドを選択する工程と、
ii.変異DNAを作り出す1つ以上の発達技術を用いて、親ポリペプチドをコードするDNAを発達させる工程と、
iii.その少なくとも1つが、前記異常pH下でのアッセイにおける結合活性と比較して、前記正常生理pH下でのアッセイにおける同結合活性の低下を示す変異タンパク質を得るために、前記変異DNAを発現させる工程と、
iv.前記変異タンパク質から、前記異常pH下でのアッセイにおける結合活性と比較して、前記正常生理pH下でのアッセイにおける同結合活性の低下を示す前記条件的活性型生物学的タンパク質を選択する工程と、
を含み、
前記正常生理pH下での前記アッセイ及び前記異常pH下での前記アッセイが、実質的に同じ濃度の少なくとも1つの構成成分を含むアッセイ溶液中で実施され、前記少なくとも1つの構成成分が25~100mM重炭酸塩である、方法。
【請求項11】
親ポリペプチドが抗体又は抗体フラグメントである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質を発達させて、少なくとも1つの改良された特性を有する改良された条件的活性型生物学的タンパク質を作成する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの改良された特性が、結合親和性、発現レベル及びヒト化から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの改良された特性が、工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質と比較したときの、前記異常pH下での前記アッセイにおける結合活性の、前記正常生理pH下での結合活性に対する、増加した比率である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型タンパク質を、サイトカイン、インターロイキン、酵素、ホルモン、成長因子、細胞傷害剤、化学療法薬、放射性粒子及び診断用薬剤から選択される薬剤とコンジュゲートする工程をさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項16】
前記改良された条件的活性型タンパク質を、サイトカイン、インターロイキン、酵素、ホルモン、成長因子、細胞傷害剤、化学療法薬、放射性粒子及び診断用薬剤から選択される薬剤とコンジュゲートする工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
工程(iv)で選択された前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が条件的活性型抗体であり、工程(iv)で選択された前記条件的活性型抗体を二重特異性抗体になるように遺伝子操作する工程をさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項18】
前記改良された条件的活性型生物学的タンパク質が改良された条件的活性型抗体であり、前記改良された条件的活性型抗体を二重特異性抗体になるように遺伝子操作する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記遺伝子操作する工程が、前記二重特異性抗体を免疫エフェクター細胞表面抗原及び異なる標的抗原の両方に結合するように遺伝子操作する、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫エフェクター細胞が、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、リンホカイン活性化キラー細胞及びT細胞から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記免疫エフェクター細胞がT細胞であり、且つ前記免疫エフェクター細胞表面抗原がCD3である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記標的抗原が罹患細胞又は罹患組織に特異的な抗原である、請求項1921のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記罹患組織が腫瘍組織である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程(iv)で選択された前記条件的活性型生物学的タンパク質を、マスキング部分及び切断可能部分の少なくとも一方が含まれるように遺伝子操作する工程をさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項25】
前記マスキング部分及び前記切断可能部分の一方又は両方が、罹患細胞又は罹患組織に近接すると前記条件的活性型生物学的タンパク質から切断されるように適合される、請求項24に記載の方法。
【外国語明細書】