(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182677
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】安定化された抗体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231219BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231219BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61K39/395 C
A61K39/395 M
A61K9/08
A61K47/04
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167566
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2020503731の分割
【原出願日】2018-07-23
(31)【優先権主張番号】62/536,028
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】タン シャオリン
(72)【発明者】
【氏名】ラディック デイビッド ブレット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸化に起因する医薬品の劣化の発生または影響を低減した安定な液体抗体組成物、ならびに該組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む安定な液体医薬品であって、前記ガスが、5体積%未満の酸素を含み、前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定であり、少なくとも28日間安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって2%以下であることを指す、前記医薬品を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む安定な液体医薬品であって、前記ガスが、5体積%未満の酸素を含み、前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定であり、少なくとも28日間安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって2%以下であることを指す、前記医薬品。
【請求項2】
前記ガスが、2体積%以下の酸素を含む、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
前記ガスが、1体積%以下の酸素を含む、請求項2に記載の医薬品。
【請求項4】
前記ガスが、1体積%未満の酸素を含む、請求項3に記載の医薬品。
【請求項5】
前記ガスが、0.1体積%以下の酸素を含む、請求項4に記載の医薬品。
【請求項6】
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を10mg/ml未満の濃度で含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項7】
前記組み換えタンパク質の前記濃度が、5mg/ml未満である、請求項6に記載の医薬品。
【請求項8】
前記組み換えタンパク質の前記濃度が、2mg/ml未満である、請求項7に記載の医薬品。
【請求項9】
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を1mg/ml~200mg/mlの濃度で含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項10】
前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたとき、少なくとも3ヶ月の期間にわたって安定であり、少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって10%以下であることを指す、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項11】
少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって5%以下であることを指す、請求項10に記載の医薬品。
【請求項12】
少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって1%未満であることを指す、請求項11に記載の医薬品。
【請求項13】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む安定な液体医薬品であって、前記ガスが、5体積%未満の酸素を含み、前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定であり、安定であることが、所定の閾値を超えるかまたは前記閾値未満の少なくとも1つの製品のCQAの変化を指す、前記医薬品。
【請求項14】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、1体積%未満の酸素を含み、前記抗原結合タンパク質が、5℃で貯蔵されたときに少なくとも31ヶ月の期間にわたって安定であり、少なくとも31ヶ月間安定であることが、主な電荷変種の百分率の変化が前記期間にわたって10%以下であることを指す、前記医薬品。
【請求項15】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、1体積%未満の酸素を含む、前記医薬品。
【請求項16】
前記ガスが、0.1体積%以下の酸素を含む、請求項15に記載の医薬品。
【請求項17】
前記組み換えタンパク質が、抗原結合タンパク質である、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項18】
前記抗原結合タンパク質が、単一特異性抗体である、請求項17に記載の医薬品。
【請求項19】
前記抗原結合タンパク質が、二重特異性抗体である、請求項17に記載の医薬品。
【請求項20】
前記容器が、バイアルである、請求項1~19のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項21】
前記バイアルが、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、請求項20に記載の医薬品。
【請求項22】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、酸素含有率が低減されたガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器における医薬品を調製する方法であって、
(a)前記組み換えタンパク質の前記液体製剤を含有する1以上の容器を大気圧下で真空チャンバ内に投入する工程と、
(b)前記チャンバを0.05bar~0.15barの第1圧力で真空引きする工程と、
(c)前記チャンバを、前記第1圧力を超えるが1bar未満の第2圧力で非酸化ガスによって通気する工程と、
(d)前記1以上の容器を密閉する工程と
を含み、
前記方法が、5~45℃の範囲の温度で実施され、前記密閉容器が、5体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、
前記方法。
【請求項23】
前記1以上の容器を密閉する前に、1以上のさらなる回数で工程(b)及び(c)を繰り返すことをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1圧力が約0.1barである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2圧力が約800mbar~約1000mbarである、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記温度が、約15~25℃の範囲である、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記温度が約19℃である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記密閉容器が、2体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記密閉容器が、1体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記密閉容器が、0.1体積%以下の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を1mg/ml~200mg/mlの濃度で含有する、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を10mg/ml未満の濃度で含有する、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記組み換えタンパク質の濃度が、5mg/ml未満である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組み換えタンパク質の濃度が、2mg/ml未満である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組み換えタンパク質が、抗原結合タンパク質である、請求項22~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記抗原結合タンパク質が、単一特異性抗体である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗原結合タンパク質が、二重特異性抗体である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記容器が、バイアルである、請求項22~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記バイアルが、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記1以上のベント脚部が、工程(b)及び/または工程(c)の際に部分的に閉鎖されている、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記1以上のベント脚部が、工程(d)の際に完全に閉鎖されている、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記チャンバにおける圧力が、ピラニ真空計を介して測定される、請求項22に記載の方法。
【請求項43】
前記非酸化ガスが、窒素である、請求項22~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記非酸化ガスが、アルゴンである、請求項22~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記非酸化ガスが、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン及びラドンからなる群から選択される、請求項22~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
液体医薬製剤を含有する密閉容器のヘッドスペースにおける酸素含有率を制御する方法であって、
(a)前記密閉容器の前記ヘッドスペースにおける所望の最終酸素含有率を求める工程と、
(b)酸素低減の第1サイクル後の終端の酸素含有率%を、式(I):
を介して算出する工程であって、式中、%O
2開始は、前記第1サイクルの開始における酸素含有率%であり、P
真空は、前記酸素低減の第1サイクルにおいて印加される真空引き圧力であり、P
通気は、P
真空より高いが1bar未満の圧力であり、%O
2終端は、前記第1サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(c)前記式(I)をさらなるサイクルに任意選択的に適用する工程であって、式中、%O
2開始が、前記所望の最終酸素含有率に達するまでの、前記先行サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(d)(i)0.05bar~0.15barの圧力であるP
真空で、真空チャンバにおいて非密閉容器を真空引きすることによって1以上の酸素低減サイクルを実施すること、及び800mbar~1000mbarの通気圧力で非酸化ガスによって前記真空チャンバにおける前記非密閉容器を通気すること、ならびに
(ii)前記容器を密閉すること
によって、前記密閉容器における医薬品を調製する工程と
を含む、前記方法。
【請求項47】
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、制御された所定の酸素レベルを含み、前記容器が、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、前記医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、液体抗体組成物、ならびに、当該組成物が投与前に充填及び貯蔵されている容器のヘッドスペースにおける酸化ガスのレベルを最小限にする及び/または制御することによって、かかる組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
抗体治療法は、単一特異性及び二重特異性抗体を含めて、がん及び自己免疫疾患の処置を含めた種々の疾患及び状態の処置のために開発され続けている。抗体の効能は、特定の標的を対象とする抗体分子の産生の改善と共に増加してきた。抗体分子は、少量の投与のために高濃度で、または、高効能治療のためにより低濃度で貯蔵されていても、バイアルなどの医薬品容器に充填及び貯蔵されてシリンジを介して投与される液体製剤中にあるとき、酸化されやすいことがある。酸化または他の劣化プロセスに起因する生物活性剤の損失を最小限にするために安定な組成物を維持することの重要性が、International Conference on Harmonisation of Technical Requirements For Registration of Pharmaceuticals For Human Use(ICH)によって強調されている。ICH規格(Q6A及びQ6B)によると、原薬が、適切な分析方法を介して実証されるように、新規薬物申請書において提案されている特定の処方かつ特定の貯蔵条件下で劣化しないときに、製品劣化試験が、規制当局の承認の下で削減または除外される場合がある。
【0003】
医薬品容器のヘッドスペースにおける「空気」に取って代わるための窒素または不活性ガス(例えば、アルゴン)の使用が、当該分野において考察された。EP1174148(特許文献1)では、2mg/mlの濃度でのFabフラグメント組成物の調製であって、各バイアルのガスヘッドスペースが実験室規模での凍結乾燥チャンバ(すなわち、適正製造基準(GMP)の規格に好適ではない)における繰り返しのサイクルを介して窒素でパージされたものである、上記調製が考察されている。EP1174148(特許文献1)は、窒素バージ後のヘッドスペースガスの酸素濃度に言及しておらず、また、ヘッドスペースにおける酸素含有率を所定の目標レベルに制御するためのガイダンスも提供していないが、高分子量(HMW)の不純物の存在下での有意な百分率増加が、促進安定性貯蔵条件(例えば、40℃で1ヶ月)下で観察された。いくつかの例において、40℃における1ヶ月後のHMW種の増加は300%を超えたが(表1)、40℃で3ヶ月の貯蔵では、14倍超のHMW種の増加を生じた(表4)。同様に、US2016/0129028(特許文献2)には、多糖類の安定性を維持するための窒素オーバーレイプロセスの使用が考察されており、US2012/0183531(特許文献3)には、ヒスチジン緩衝剤の酸化に起因する黄色形成を防止または阻害するための、窒素または不活性ガスを使用した、タンパク質医薬品のヘッドスペースでの酸素の低減または置き換えが考察されている。酸化に起因する医薬品の劣化の発生または影響を低減する、信頼性のある方法が製薬業界で必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP1174148
【特許文献2】US2016/0129028
【特許文献3】US2012/0183531
【発明の概要】
【0005】
第1の態様において、本発明は、液体製剤中の組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質または抗体)と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、ガスが、5体積%未満の酸素を含み、組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定である、上記医薬品を提供する。これに関連して、少なくとも28日間安定であることは、高分子量種の百分率の増加が上記期間にわたって2%以下であることを指す。
【0006】
いくつかの場合において、上記ガスは、2体積%以下の酸素、1体積%以下の酸素、1体積%未満の酸素、または0.1体積%以下の酸素を含む。
【0007】
ある特定の実施形態において、医薬品の液体製剤は、約2mg/ml~200mg/mlの間の濃度で組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質)を含有する。いくつかの実施形態において、医薬品の液体製剤は、150~200mg/mlの間の濃度で組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質)を含有する。いくつかの実施形態において、医薬品の液体製剤は、10mg/ml未満、5mg/ml未満、または2mg/ml未満の濃度で組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質)を含有する。
【0008】
いくつかの実施形態において、医薬品は、45℃で貯蔵されたとき、少なくとも3ヶ月の期間にわたって安定である組み換えタンパク質を含有し、少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が上記期間にわたって10%以下であることを指す。いくつかの場合において、組み換えタンパク質の安定性は、高分子量種の百分率の増加が上記期間にわたって5%以下であること、または、高分子量種の百分率の増加が上記期間にわたって1%未満であることを指す。
【0009】
別の態様において、本発明は、液体製剤中の組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質または抗体)と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、ガスが、1体積%未満の酸素を含み、組み換えタンパク質が、5℃で貯蔵されたときに少なくとも31ヶ月の期間にわたって安定である、上記医薬品を提供する。これに関連して、少なくとも31ヶ月間安定であることは、主な電荷変種の百分率の変化が上記期間にわたって10%以下であることを指す。
【0010】
別の態様において、本発明は、液体製剤中の組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質)と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、ガスが、1体積%未満の酸素を含む、上記医薬品を提供する。いくつかの実施形態において、上記ガスは、0.1体積%以下の酸素を含む。いくつかの実施形態において、組み換えタンパク質は、5mg/ml未満の濃度で液体製剤中に存在する。いくつかの実施形態において、組み換えタンパク質は、約2mg/mlの濃度で液体製剤中に存在する。いくつかの実施形態において、組み換えタンパク質は、2mg/ml未満、約1.5mg/mlまたは約1mg/mlの濃度で液体製剤中に存在する。
【0011】
上記または本明細書において考察されている医薬品の種々の実施形態において、組み換えタンパク質は、抗原結合タンパク質である。いくつかの場合において、抗原結合タンパク質は、抗体である。いくつかの場合において、当該抗体は、単一特異性抗体である。いくつかの実施形態において、当該抗体は、二重特異性抗体である。
【0012】
いくつかの場合において、医薬品容器は、バイアルである。ある特定の実施形態において、バイアルは、ベント脚部を含むストッパー、例えば、ゴムストッパーを含む。いくつかの場合において、医薬品は、さらに、シリンジを介して投与されるか、または、シリンジもしくは注射デバイスに移される。
【0013】
別の態様において、本発明は、液体製剤中の組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質または抗体)と、酸素含有率が低減されたガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器における医薬品を調製する方法を提供し、上記方法は、、(a)組み換えタンパク質の液体製剤を含有する1以上の容器を大気圧下で真空チャンバ内に投入する工程と、(b)チャンバを0.05bar~0.15barの第1圧力で真空引きする工程と、(c)チャンバを800mbar~1000mbarの第2圧力で非酸化ガスによって通気する工程と、(d)1以上の容器を密閉された真空チャンバ内で密閉する工程とを含み、上記方法は、15~25℃の範囲の温度で実施され、密閉容器は、5体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記方法は、1以上の容器を密閉する前に、1以上のさらなる回数で工程(b)及び(c)を繰り返すことをさらに含む。
【0015】
いくつかの場合において、第1圧力は、約0.1barであり、及び/または、第2圧力は、0.2bar~0.1barもしくは0.1bar~0.12barである。いくつかの実施形態において、チャンバにおける圧力は、ピラニ真空計を介して測定される。いくつかの実施形態において、温度は、約19℃である。
【0016】
さらなる実施形態において、ストッパーは、不活性ガスオーバーレイの前に部分的に栓がされていてよく、次いで、不活性ガスオーバーレイプロセスの後に、完全に栓がされて密閉されてよい。いくつかの場合において、密閉容器は、2体積%未満の酸素、1体積%未満の酸素、または0.1体積%以下の酸素を含むヘッドスペースガスを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記または本明細書において考察されている方法によって調製された医薬品における液体製剤は、2mg/ml~200mg/mlの濃度で組み換えタンパク質を含有する。他の実施形態において、上記または本明細書において考察されている方法によって調製された医薬品における液体製剤は、150~200mg/mlの濃度で組み換えタンパク質を含有する。いくつかの実施形態において、上記または本明細書において考察されている方法によって調製された医薬品における液体製剤は、10mg/ml未満、5mg/ml未満、または2mg/ml未満の濃度で組み換えタンパク質を含有する。
【0018】
上記または本明細書において考察されている方法の種々の実施形態において、組み換えタンパク質は、抗原結合タンパク質または抗体である。いくつかの場合において、当該抗体は、単一特異性抗体である。いくつかの実施形態において、当該抗体は、二重特異性抗体である。
【0019】
いくつかの場合において、本発明の方法で使用される医薬品容器は、バイアルである。さらなる実施形態において、バイアルは、ベント脚部を有する凍結乾燥製品用ゴムストッパーを含む(不活性ガスオーバーレイの前に部分的に栓がされていてよく、次いで、不活性ガスオーバーレイプロセスの後に、完全に栓がされて密閉されてよい)。
【0020】
別の態様において、本発明は、液体医薬製剤を含有する密閉容器のヘッドスペースにおける酸素含有率を制御する方法を提供し、上記方法は、
(a)密閉容器のヘッドスペースにおける所望の最終酸素含有率を求める工程と、
(b)酸素低減の第1サイクル後の終端の酸素含有率%を、式(I):
を介して算出する工程であって、式中、%O
2開始は、第1サイクルの開始における酸素含有率%であり、P
真空は、酸素低減の第1サイクルにおいて印加される真空引き圧力であり、P
通気は、P
真空より高いが1bar未満の圧力であり、%O
2終端は、第1サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(c)式(I)をさらなるサイクルに任意選択的に適用する工程であって、式中、%O
2開始は、所望の最終酸素含有率に達するまでの、先行サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(d)(i)0.05bar~0.15barの圧力であるP
真空で、真空チャンバにおいて非密閉容器を真空引きすることによって1以上の酸素低減サイクルを実施すること、及び800mbar~1000mbarの通気圧力で非酸化ガスによって真空チャンバにおける非密閉容器を通気すること、ならびに
(ii)密閉された凍結乾燥チャンバにおける容器を密閉すること
によって、密閉容器における医薬品を調製する工程と
を含む。
医薬品のヘッドスペースにおける酸素%に関する要件が低い(例えば、およそ2%未満)とき、酸素含有率の目標レベルを達成するために複数の酸素低減サイクルが実施される。同じ真空圧力及び通気圧力を使用した複数の酸素低減サイクル後の酸素含有率%は、式(II)
を介して定義され、式中、%O
2開始は、第1サイクルの開始における酸素含有率%であり、P
真空は、酸素低減のサイクルにおいて印加される真空引き圧力であり、P
通気は、不活性ガスによる通気の圧力であり、%O
2最終は、複数のサイクルの終端における酸素含有率%であり、nは、生成物に適用される合計酸素低減サイクル数である。そのため、バイアルのヘッドスペースにおいて最終酸素レベルを達成するのに必要とされる酸素低減サイクル数は、式(II)を解くことによって取得される。
【0021】
上記または本明細書において考察されている方法の種々の実施形態において、非酸化ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン及びラドンからなる群から選択される。一実施形態において、非酸化ガスは、窒素である。一実施形態において、非酸化ガスは、アルゴンである。
【0022】
上記または本明細書において考察されている種々の実施形態は、本発明と整合するいずれの方法で組み合わされてもよい。他の実施形態は、後続の詳細な説明のレビューから明らかになるであろう。
[本発明1001]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む安定な液体医薬品であって、前記ガスが、5体積%未満の酸素を含み、前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定であり、少なくとも28日間安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって2%以下であることを指す、前記医薬品。
[本発明1002]
前記ガスが、2体積%以下の酸素を含む、本発明1001の医薬品。
[本発明1003]
前記ガスが、1体積%以下の酸素を含む、本発明1002の医薬品。
[本発明1004]
前記ガスが、1体積%未満の酸素を含む、本発明1003の医薬品。
[本発明1005]
前記ガスが、0.1体積%以下の酸素を含む、本発明1004の医薬品。
[本発明1006]
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を10mg/ml未満の濃度で含有する、本発明1001~1005のいずれかの医薬品。
[本発明1007]
前記組み換えタンパク質の前記濃度が、5mg/ml未満である、本発明1006の医薬品。
[本発明1008]
前記組み換えタンパク質の前記濃度が、2mg/ml未満である、本発明1007の医薬品。
[本発明1009]
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を1mg/ml~200mg/mlの濃度で含有する、本発明1001~1005のいずれかの医薬品。
[本発明1010]
前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたとき、少なくとも3ヶ月の期間にわたって安定であり、少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって10%以下であることを指す、本発明1001~1009のいずれかの医薬品。
[本発明1011]
少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって5%以下であることを指す、本発明1010の医薬品。
[本発明1012]
少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって1%未満であることを指す、本発明1011の医薬品。
[本発明1013]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む安定な液体医薬品であって、前記ガスが、5体積%未満の酸素を含み、前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間にわたって安定であり、安定であることが、所定の閾値を超えるかまたは前記閾値未満の少なくとも1つの製品のCQAの変化を指す、前記医薬品。
[本発明1014]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、1体積%未満の酸素を含み、前記抗原結合タンパク質が、5℃で貯蔵されたときに少なくとも31ヶ月の期間にわたって安定であり、少なくとも31ヶ月間安定であることが、主な電荷変種の百分率の変化が前記期間にわたって10%以下であることを指す、前記医薬品。
[本発明1015]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、1体積%未満の酸素を含む、前記医薬品。
[本発明1016]
前記ガスが、0.1体積%以下の酸素を含む、本発明1015の医薬品。
[本発明1017]
前記組み換えタンパク質が、抗原結合タンパク質である、本発明1001~1016のいずれかの医薬品。
[本発明1018]
前記抗原結合タンパク質が、単一特異性抗体である、本発明1017の医薬品。
[本発明1019]
前記抗原結合タンパク質が、二重特異性抗体である、本発明1017の医薬品。
[本発明1020]
前記容器が、バイアルである、本発明1001~1019のいずれかの医薬品。
[本発明1021]
前記バイアルが、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、本発明1020の医薬品。
[本発明1022]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、酸素含有率が低減されたガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器における医薬品を調製する方法であって、
(a)前記組み換えタンパク質の前記液体製剤を含有する1以上の容器を大気圧下で真空チャンバ内に投入する工程と、
(b)前記チャンバを0.05bar~0.15barの第1圧力で真空引きする工程と、
(c)前記チャンバを、前記第1圧力を超えるが1bar未満の第2圧力で非酸化ガスによって通気する工程と、
(d)前記1以上の容器を密閉する工程と
を含み、
前記方法が、5~45℃の範囲の温度で実施され、前記密閉容器が、5体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、
前記方法。
[本発明1023]
前記1以上の容器を密閉する前に、1以上のさらなる回数で工程(b)及び(c)を繰り返すことをさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記第1圧力が約0.1barである、本発明1022または1023の方法。
[本発明1025]
前記第2圧力が約800mbar~約1000mbarである、本発明1022~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記温度が、約15~25℃の範囲である、本発明1022~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
前記温度が約19℃である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
前記密閉容器が、2体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、本発明1022~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
前記密閉容器が、1体積%未満の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、本発明1028の方法。
[本発明1030]
前記密閉容器が、0.1体積%以下の酸素を含むヘッドスペースガスを含む、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を1mg/ml~200mg/mlの濃度で含有する、本発明1022~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記液体製剤が、前記組み換えタンパク質を10mg/ml未満の濃度で含有する、本発明1022~1030のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記組み換えタンパク質の濃度が、5mg/ml未満である、本発明1032の方法。
[本発明1034]
前記組み換えタンパク質の濃度が、2mg/ml未満である、本発明1033の方法。
[本発明1035]
前記組み換えタンパク質が、抗原結合タンパク質である、本発明1022~1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記抗原結合タンパク質が、単一特異性抗体である、本発明1035の方法。
[本発明1037]
前記抗原結合タンパク質が、二重特異性抗体である、本発明1035の方法。
[本発明1038]
前記容器が、バイアルである、本発明1022~1037のいずれかの方法。
[本発明1039]
前記バイアルが、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、本発明1038の方法。
[本発明1040]
前記1以上のベント脚部が、工程(b)及び/または工程(c)の際に部分的に閉鎖されている、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記1以上のベント脚部が、工程(d)の際に完全に閉鎖されている、本発明1039または1040の方法。
[本発明1042]
前記チャンバにおける圧力が、ピラニ真空計を介して測定される、本発明1022の方法。
[本発明1043]
前記非酸化ガスが、窒素である、本発明1022~1042のいずれかの方法。
[本発明1044]
前記非酸化ガスが、アルゴンである、本発明1022~1042のいずれかの方法。
[本発明1045]
前記非酸化ガスが、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン及びラドンからなる群から選択される、本発明1022~1042のいずれかの方法。
[本発明1046]
液体医薬製剤を含有する密閉容器のヘッドスペースにおける酸素含有率を制御する方法であって、
(a)前記密閉容器の前記ヘッドスペースにおける所望の最終酸素含有率を求める工程と、
(b)酸素低減の第1サイクル後の終端の酸素含有率%を、式(I):
を介して算出する工程であって、式中、%O
2開始は、前記第1サイクルの開始における酸素含有率%であり、P
真空は、前記酸素低減の第1サイクルにおいて印加される真空引き圧力であり、P
通気は、P
真空より高いが1bar未満の圧力であり、%O
2終端は、前記第1サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(c)前記式(I)をさらなるサイクルに任意選択的に適用する工程であって、式中、%O
2開始が、前記所望の最終酸素含有率に達するまでの、前記先行サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、
(d)(i)0.05bar~0.15barの圧力であるP
真空で、真空チャンバにおいて非密閉容器を真空引きすることによって1以上の酸素低減サイクルを実施すること、及び800mbar~1000mbarの通気圧力で非酸化ガスによって前記真空チャンバにおける前記非密閉容器を通気すること、ならびに
(ii)前記容器を密閉すること
によって、前記密閉容器における医薬品を調製する工程と
を含む、前記方法。
[本発明1047]
液体製剤中の組み換えタンパク質と、ガスを含むヘッドスペースとを含有する密閉容器を含む医薬品であって、前記ガスが、制御された所定の酸素レベルを含み、前記容器が、1以上のベント脚部を有するストッパーを含む、前記医薬品。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、5℃で31ヶ月の貯蔵後の、二重特異性抗体の液体製剤に関する酸素のヘッドスペース含有率の関数としての、CEX-UPLCによる主な電荷変種の変化(%)を示す。
【
図2】
図2は、本明細書において考察されている方法による窒素オーバーレイを使用した45℃での28日間の貯蔵後の、二重特異性抗体の液体製剤に関する酸素のヘッドスペース含有率の関数としての、高分子量種の増加(%)を示す。
【
図3】
図3は、本明細書において考察されている方法による窒素オーバーレイを使用した45℃での3ヶ月の貯蔵後の、二重特異性抗体の液体製剤に関する酸素のヘッドスペース含有率の関数としての、高分子量種の増加(%)を示す。
【
図4】
図4は、本明細書において考察されている方法によるアルゴンオーバーレイを使用した45℃での3ヶ月の貯蔵後の、二重特異性抗体の液体製剤に関する酸素のヘッドスペース含有率の関数としての、高分子量種の増加(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明を記載する前に、この発明が、記載されている特定の方法及び実験条件が変動する場合があるため、かかる方法及び条件に限定されないことが理解されるべきである。本明細書において使用されている用語は、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、限定的であることが意図されていないことも理解されるべきである。
【0025】
別途定義されない限り、本明細書において使用されている全ての技術的及び科学的用語は、この発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙されている数値を参照して使用される場合、当該値が列挙されている値よりも1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書において使用される場合、「約100」という表現は、99及び101ならびに間にある全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0026】
本明細書において記載されているものと同様または等価な任意の方法及び材料が本発明の実用または試験において使用され得るが、好ましい方法及び材料をここで記載する。この明細書において言及されている全ての特許、出願及び非特許公報は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
定義
「組み換えタンパク質」という用語は、本明細書において使用される場合、組み換え手段によって調製、発現、作製または単離される全てのタンパク質、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされている組み換え発現ベクターを使用して発現されるタンパク質を含むことが意図される。
【0028】
「抗原結合分子」または「抗原結合タンパク質」という用語は、例えば、単一特異性及び二重特異性抗体を含めた抗体及び抗体の抗原結合フラグメントを含む。
【0029】
「抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、特定の抗原と特異的に結合するまたは相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖(ジスルフィド結合によって相互接続されている2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖)を含む免疫グロブリン分子、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分され得る。各VH及びVLは、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4、でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置されている3つのCDR及び4つのFRから構成されている。本発明の異なる実施形態において、抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系列配列と同一であってよく、または天然もしくは人工的に修飾されてよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイドバイサイド分析に基づいて定義されてよい。
【0030】
「抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、完全な抗体分子の抗原結合フラグメントも含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などの用語は、本明細書において使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の、自然に生じる、酵素的に得られ得る、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、任意の好適な標準技術、例えば、タンパク質分解、または抗体の可変ドメイン及び任意選択的には定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組み換え遺伝子操作技術を使用して、例えば、完全な抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは、公知であり、及び/または、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、または合成され得る。DNAは、化学的に、または、分子生物学技術を使用することによって配列及び操作されて、例えば、1以上の可変及び/もしくは定常ドメインを好適な構成に配置し、または、コドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸などを修飾し、付加し、もしくは欠失させ得る。
【0031】
抗原結合フラグメントの非限定的な例には、(i)Fabフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、(iii)Fdフラグメント、(iv)Fvフラグメント、(v)単鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント、及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)を模倣するアミノ酸残基、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が含まれる。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書において使用される場合、「抗原結合フラグメント」という表現内に包含される。
【0032】
抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの可変ドメインを典型的には含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものであってよく、1以上のフレームワーク配列と隣接しているまたはインフレームである少なくとも1つのCDRを一般に含む。VLドメインに関連するVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VH及びVLドメインは、任意の好適な配置において互いに対して位置していてよい。例えば、可変領域は、二量体であってよく、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有していてよい。代替的には、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VHまたはVLドメインを含有していてよい。
【0033】
ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合的に結合している少なくとも1つの可変ドメインを含有していてよい。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見られ得る可変及び定常ドメインの非限定的な例示的構成には、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、及び(xiv)VL-CLが含まれる。上記に列挙されている例示的な構成のいずれかを含めた可変及び定常ドメインの任意の構成において、可変及び定常ドメインは、互いに直接結合していても、完全もしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結されていても、いずれでもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子における隣接する可変及び/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の連結を結果として生じさせる少なくとも2(例えば、5、10、15、20、40、60以上)のアミノ酸からなっていてよい。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いに及び/または1以上の単量体VHもしくはVLドメインと(例えば、ジスルフィド結合(複数可)によって)共有結合的に会合している上記に列挙されている可変及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含んでいてよい。
【0034】
完全な抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であってよい。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、少なくとも2つの異なる可変ドメインを典型的には含み、各可変ドメインが、別個の抗原に、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することが可能である。本明細書に開示されている例示的な二重特異性抗体フォーマットを含めた任意の多重特異性抗体フォーマットは、当該分野において利用可能な常套の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合フラグメントに関連する使用に適合され得る。
【0035】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本発明のヒト抗体は、例えばCDR及び特にCDR3において、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダムもしくは部位特異的突然変異によって、またはインビボで体細胞変異によって導入される変異)を含んでいてよい。しかし、「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、別の哺乳動物種、例えば、マウスの生殖細胞系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列上にグラフト化されている抗体を含むことは意図していない。
【0036】
本発明の抗体は、いくつかの実施形態において、組み換えヒト抗体であってよい。「組み換えヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、組み換え手段によって調製、発現、作製または単離された全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされている組み換え発現ベクターを使用して発現された抗体(以下にさらに記載されている)、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離される抗体(以下にさらに記載されている)、ヒト免疫グロブリン遺伝子にトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992) Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、または、他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作製もしくは単離された抗体を含むことが意図される。かかる組み換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する。ある特定の実施形態において、しかし、かかる組み換えヒト抗体は、インビトロ突然変異(または、ヒトIg配列にトランスジェニックな動物が使用されるときには、インビボ体細胞突然変異)に供され、そのため、組み換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列VH及びVL配列に由来し関係するが、インビボでヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内に自然に存在し得ない配列である。
【0037】
ヒト抗体は、ヒンジの不均一に関連する2つの形態で存在し得る。1つの形態において、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されているおよそ150~160kDaの安定な4鎖構築体を含む。第2形態において、二量体は、鎖間ジスルフィド結合を介して連結されず、共有結合した軽鎖及び重鎖(半抗体)から構成されている約75~80kDaの分子が形成される。これらの形態は、親和性精製の後であっても、分離することが極端に困難であった。
【0038】
種々のインタクトなIgGアイソタイプにおける第2形態の出現の頻度は、限定されないが、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的差異に起因している。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一のアミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的には観察されるレベルまで第2形態の出現を有意に低減させ得る(Angal et al.(1993) Molecular Immunology 30:105)。本発明は、所望の抗体形態の収率を改善するために、例えば、産生において、望ましい場合がある、ヒンジ、CH2またはCH3領域における1以上の変異を有する抗体を包含する。
【0039】
本発明の抗体は、単離された抗体であってよい。「単離された抗体」は、本明細書において使用される場合、同定され、かつ、その自然環境の少なくとも1つの構成要素から分離及び/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの構成要素から、または、抗体が天然に存在するもしくは天然に産生される組織もしくは細胞から分離または回収された抗体は、本発明の目的で「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組み換え細胞内のin situでの抗体も含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離工程に供された抗体である。ある特定の実施形態によると、単離された抗体は、他の細胞物質及び/または化学物質を実質的に含まないことがある。
【0040】
本発明はまた、特異性抗原に結合するワンアーム抗体も含む。本明細書において使用される場合、「ワンアーム抗体」は、単一の抗体重鎖及び単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。
【0041】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られている抗体分子の可変領域において特異性抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、1を超えるエピトープを有し得る。そのため、異なる抗体が、抗原における異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体構造または線状のいずれであってもよい。立体構造エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に並列なアミノ酸によって産生される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。ある特定の状況において、エピトープは、抗原における多糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部位を含み得る。
【0042】
「実質的同一性」または「実質的に同一」という用語は、核酸またはそのフラグメントを指すとき、別の核酸(またはその相補鎖)と、適切なヌクレオチド挿入または欠失を伴って最適に整列される場合に、以下に考察されているように、配列同一性の任意の周知のアルゴリズム、例えば、FASTA、BLASTまたはGapによって測定されるように、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、または99%でヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的同一性を有する核酸分子は、ある特定の場合において、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0043】
ポリペプチドに適用されるように、「実質的類似性」または「実質的に類似」という用語は、2つのペプチド配列が、例えば、デフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITによって最適に整列される場合、少なくとも95%の配列同一性、なおより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似する化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されているものである。概して、保存アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合には、配列同一性のパーセントまたは類似性の程度が、置換の保存的性質を補正するために上方調整されてよい。この調整をするための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994) Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸のグループの例として以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びスレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩、ならびに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存アミノ酸置換基は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸塩-アスパラギン酸塩、及びアスパラギン-グルタミンである。代替的には、保存的置き換えは、参照によって本明細書に組み込まれる、Gonnet et al.(1992) Science 256:1443-1445に開示されているPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する任意の変化である。
【0044】
配列同一性とも称される、ポリペプチドに関する配列類似性は、配列解析ソフトウエアを使用して典型的には測定される。タンパク質解析ソフトウエアは、保存アミノ酸置換を含めた種々の置換、欠失及び他の修飾に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウエアは、密接に関係するポリペプチド、例えば、異なる生物種由来の相同ポリペプチド間、または野生型タンパク質とその突然変異タンパク質との間での配列相同性または配列同一性を決定するデフォルトパラメータと共に使用され得るGap及びBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルトまたは推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較され得る。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域の整列及び配列同一性パーセントを提供する(上記Pearson(2000))。本発明の配列を異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較するときの別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用する、コンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、それぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる、Altschul et al.(1990) J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1997) Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0045】
組み換えタンパク質を含む医薬品及び組成物
本発明の医薬品は、ヘッドスペースにおけるガスが酸化ガスの大気中濃度と比較して低減された濃度の酸化ガス(例えば、酸素)を有する密閉容器(例えば、バイアル)を含む。本発明の医薬品は、組み換えタンパク質(例えば、抗原結合タンパク質または抗体)の液体医薬製剤を含有する医薬品容器のヘッドスペースにおける酸化ガスのレベルを低減するための方法の本発明者らの発見に基づいている。標準の凍結乾燥技術とは対照的に、液体組成物上のヘッドスペースガスの真空引き及び通気は、液体組成物の泡立ちまたは跳ね返り(材料の損失、または蒸発を引き起こし得、結果として、活性剤(例えば、抗体)の濃度の変化を生じさせ得る)を最小にするまたは排除するために、真空チャンバにおける圧力の微調整を必要とする。材料の損失または濃度変化は、活性剤が低濃度(例えば、約2mg/ml)で存在する高力価組成物について特に問題となる。高濃度製剤の安定性の変化は、酸化劣化生成物が複合体の純度/不純物プロファイルを結果として生じさせて、場合により免疫原性の懸念につながり得るため、問題となる。
【0046】
本発明の医薬品は、いくつかの実施形態において、体積基準で5%未満の酸化ガス(例えば、酸素)を有するヘッドスペースガスを含有し得る。医薬品容器のヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の濃度は、種々の実施形態において、4.5%未満、4%未満、3.5%未満、3%未満、2.5%未満、2%未満、または1.5%未満であってよい。一実施形態において、ヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の濃度は、約1%未満である。一実施形態において、ヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の濃度は、約0.5%以下である。一実施形態において、ヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の濃度は、約0.1%以下である。種々の実施形態において、医薬品容器のヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の濃度は、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、または0.1%未満である。いくつかの場合において、ヘッドスペースガスにおける酸素の濃度は、約0.01%~約1.5%である。いくつかの場合において、ヘッドスペースガスにおける酸素の濃度は、約0.75%~約1.25%である。いくつかの場合において、ヘッドスペースガスにおける酸素の濃度は、約0.05%~約0.15%である。
【0047】
本明細書において記載されている容器は、所望量の医薬製剤及びヘッドスペースを収容するのに十分な容積を有するバイアル、フラスコなどであり得る。容器は、これに含有される医薬製剤に関して不活性な特徴を示し、かつ、医薬製剤の漏出、または周囲空気の侵入を防止するのに十分に不透過性である種々の好適な材料から形成され得る。例示的な材料には、ガラス(例えば、ポリカーボネートポリスチレンポリプロピレンガラス)、ポリマー(例えば、プラスチックの、白金硬化シリコーン管類)及び金属(例えば、ステンレス鋼316L)が含まれる。いくつかの実施形態において、容器は、タイプ1ガラスバイアルである。加えて、容器は、所望により、再利用可能な構成要素、または1回使用の使い捨て構成要素として構成され得る。ベント脚部(複数可)を有するゴム栓用の複数の設計が利用可能であり、本明細書において記載されている方法における使用に適合する凍結乾燥バイアルと併せて使用するのに好適である。1つのベント脚部(単一のベント)、「2つの脚部」(2つのベントポイント)、「3つの脚部」(3つのベントポイント)、及び十字型(4つのベントポイント)またはさらに多くのベントを含むストッパーが市販されている。凍結乾燥チャンバにおけるバイアルでの使用のためのストッパーは、ガスオーバーレイ/酸素低減プロセスの際にベント(複数可)が外側の空間に開放されて、部分的に栓がされていてよく、次いで、1以上の酸素低減サイクルの後に容器と接続して完全に栓がされて密閉されてよい。
【0048】
本発明の医薬品は、本発明の抗原結合分子(例えば、抗体)を含む液体医薬組成物を含む。本発明の医薬組成物は、改善された移動、送達、耐性などを付与する、好適な担体、賦形剤、及び他の剤によって製剤化される。多数の適切な製剤が、全ての薬剤師に知られている処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA、に見出され得る。例えば、賦形剤は、安定化剤、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤、有機溶剤、塩またはこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、安定化剤は、ポリオール、糖、アミノ酸、非イオン性界面活性剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、等張化剤は、糖、アミノ酸、塩、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、緩衝剤は、ヒスチジン、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、炭酸塩、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0049】
液体組成物における抗原結合分子(例えば、抗体)の濃度は、分子の力価及び医薬品容器から投与される用量に応じて変動し得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約1mg/ml~約200mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約1mg/ml~約10mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約1mg/ml~約5mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約0.1mg/ml~約2mg/mlの範囲であり得る。種々の実施形態において、上記濃度は、約25mg/ml未満、約20mg/ml未満、約15mg/ml未満、約10mg/ml未満、または約5mg/ml未満である。種々の実施形態において、液体組成物における抗原結合分子の濃度は、約5mg/ml以下、約4mg/ml以下、約3mg/ml以下、約2mg/ml以下、または約1mg/ml以下である。一実施形態において、上記濃度は、約2mg/ml未満である。一実施形態において、上記濃度は、約1mg/ml未満である。
【0050】
液体組成物における抗原結合分子(例えば、抗体)の濃度は、医薬品容器から投与される体積及び用量に応じて変動し得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約1mg/ml~約200mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約10mg/ml~約200mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約50mg/ml~約100mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約100mg/ml~約150mg/mlの範囲であり得る。いくつかの場合において、上記濃度は、約150mg/ml~約200mg/mlの範囲であり得る。一実施形態において、上記濃度は、約10mg/ml超である。別の実施形態において、上記濃度は、約50mg/ml超である。別の実施形態において、上記濃度は、約100mg/ml未満である。一実施形態において、上記濃度は、約150mg/ml超である。
【0051】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的の疾患、状態、投与経路などに応じて変動し得る。好ましい用量は、体重または体表面積に従って典型的には算出される。本発明の抗原結合分子は、成年患者での治療目的で使用されるとき、通常は約0.01~約20mg/体重kg、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、または約0.05~約3mg/体重kgの単回用量で本発明の抗原結合分子を静脈内投与するのに有利であり得る。状態の重篤度に応じて、処置の頻度及び継続期間が調整され得る。抗原結合分子を投与するのに有効な投薬量及びスケジュールは、実験的に決定されてよく、例えば、患者の経過は、周期的なアセスメント、及びこれにより調整される用量によってモニタリングされ得る。さらに、投薬量の種間のスケーリングは、当該分野において周知の方法を使用して実施され得る(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0052】
本発明の医薬組成物は、標準のニードル及びシリンジによって皮下または静脈内送達され得る。また、皮下送達に関して、ペン送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達における適用を容易に有する。かかるペン送達デバイスは、再利用可能であっても使い捨てであってもよい。再利用可能なペン送達デバイスは、医薬組成物を含有する交換式カートリッジを一般に利用する。カートリッジ内の医薬組成物が全て投与されてカートリッジが空になったら、空のカートリッジは容易に廃棄されて、医薬組成物を含有する新たなカートリッジと交換され得る。ペン送達デバイスは次いで再使用され得る。使い捨てペン送達デバイスにおいては、交換式カートリッジが存在しない。むしろ、使い捨てペン送達デバイスは、デバイス内のリザーバに保持されている医薬組成物が予め充填されている状態となる。リザーバから医薬組成物が出されて空になったら、デバイス全体が廃棄される。
【0053】
注射可能な液体調製物は、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射、点滴などの剤形を含んでいてよい。これらの注射可能な調製物は、公に知られている方法によって調製されてよい。例えば、注射可能な調製物は、注射に従来使用されている滅菌水性媒体中で調製されてよい。注射用の水性媒体として、例えば、生理食塩水、グルコースを含有する等張液、及び他の助剤などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などと組み合わせて使用されてよい。こうして調製される注射は、適切な容器またはデバイス(例えば、アンプル、シリンジ、注射デバイスもしくはペン)に充填されるか、または移され得る。
【0054】
抗原結合分子の安定性
本発明の医薬品容器のヘッドスペースにおける酸化ガス(例えば、酸素)の量の低減は、容器内の液体組成物中の製剤化された抗原結合分子の安定性に有利に影響する。酸化は、抗体及び二重特異性抗原結合分子を含めたタンパク質治療の主な劣化経路である。かかる劣化の影響は、活性物質のいずれかの損失が、所定の貯蔵期間の後に組成物に残存する活性剤の量に偏って影響するときに、低濃度において顕著である。かかる劣化の現れには、高分子量(HMW)種の増加及び電荷変種の百分率の変化が含まれる。HMW種の量及び百分率の変化は、当該分野において知られている標準のサイズ排除クロマトグラフィ技術を使用して検出され得る(例えば、Lu et al.,MAbs,5(1):102-113,2013)。電荷変種の量及び百分率の変化は、当該分野において知られている標準のカチオン交換クロマトグラフィ技術を使用して検出され得る(例えば、Chumsae,et al.,Journal of Chromatography B,850:285-294,2007)。本発明の医薬品における抗原結合分子の安定性は、具体的な貯蔵条件に対応する時間及び温度パラメータの関数としてHMWまたは電荷変種の量または百分率の変化を測定することによって確定され得る。いくつかの場合において、貯蔵条件は、医薬品が製造及び使用の間に通常維持されるであろうこれらの条件に匹敵し得る。他の場合において、貯蔵条件は、より短い期間でより長期の安定性の兆しを得ることが意図される促進された条件であってよい。
【0055】
本発明の組成物の種々の実施形態において、抗原結合分子(例えば、抗体)は、45℃で貯蔵されたときに少なくとも28日の期間安定なままであり得る。安定性は、この文脈において、例えば、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率の増加が約2%以下であることを指し得る。いくつかの場合において、HMW種の増加の百分率は、貯蔵期間にわたって約1.5%以下または約1%以下である。いくつかの場合において、抗原結合分子は、45℃で貯蔵されたとき、少なくとも3ヶ月の期間にわたって安定なままである。これらのより長い貯蔵条件下で、安定性は、貯蔵期間にわたって、例えば、HMW種の増加が約10%以下であることを指す。いくつかの場合において、これらのより長い貯蔵条件下での安定性は、貯蔵期間にわたってHMW種の増加が約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、または約1%以下であることを指し得る。他の実施形態において、抗原結合分子(例えば、抗体)は、5℃で貯蔵されたときに少なくとも31ヶ月の期間の間、安定なままである。安定性は、この文脈において、例えば、貯蔵期間にわたって、電荷変種の百分率の変化が10%以下であることを指し得る。いくつかの場合において、貯蔵の期間は、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、30ヶ月または36ヶ月であり得る。
【0056】
特定の治療用タンパク質製品を製造するプロセスを通して、ある特定の製品の品質特性は、これらの潜在的な臨床的影響に基づいて同定され得る。関係する品質特性は、純度、安全性及び/または効能への潜在的影響に応じて重要品質特性(CQA)とみなされ得る。高分子量(HMW)種及び電荷変異は、製造プロセスの際に改変され得る多くの生成物のCQAのうちのまさに2つである。タンパク質は、製品を容器内に充填した後、及び容器貯蔵の際を含めた製造プロセスの際にこれらの品質特性の変化についてモニタリングされる。医薬品が酸化に感受性であることとは、製品の純度、安全性及び/または効能に影響し得る増加した酸化レベルに起因する特定のCQAについての閾値を超えるかまたは当該閾値未満の、製品のCQAの変化を指す。医薬品が酸化に感受性であることとはまた、増加した酸化レベルに起因して製品の純度、安全性及び/または効能に影響し得る、製品の変化も指す。
いくつかの場合において、安定性は、製品の純度、安全性及び/または効能に影響し得る、所定の閾値を超えるかまたは当該閾値未満の、製品のCQAの変化を指し得る。
【0057】
抗原結合分子の結合特性
本明細書において使用される場合、抗原結合分子、抗体、免疫グロブリン、抗体結合フラグメント、またはFc含有タンパク質と、例えば、所定の抗原、例えば、細胞表面タンパク質またはそのフラグメントのいずれかとの結合の文脈における「結合」という用語は、典型的には、2つのエンティティの最小のものまたは分子構造間の相互作用または会合、例えば、抗体-抗原相互作用を指す。
【0058】
例えば、結合親和性は、例えば、リガンドとしての抗原、及び分析物(または抗リガンド)としての抗体、Ig、抗体結合フラグメント、またはFc含有タンパク質を使用して、BIAcore 3000機器において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定されるとき、典型的には約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下のKD値に相当する。細胞ベースの結合ストラテジー、例えば、蛍光活性化細胞分類(FACS)結合アッセイもまた日常的に使用され、FACSデータは、放射性リガンド競合結合及びSPRなどの他の方法とよく相関する(Benedict,CA,J Immunol Methods.1997,201(2):223-31、Geuijen,CA,et al.J Immunol Methods.2005,302(1-2):68-77)。
【0059】
したがって、本発明の抗体または抗原結合タンパク質は、非特異性抗原(例えば、BSA、カゼイン)に結合する親和性よりも少なくとも10倍低いKD値に相当する親和性を有する所定の抗原または細胞表面分子(レセプタ)に結合する。本発明によると、非特異性抗原よりも低い10倍以下であるKD値に相当する抗体の親和性は、非検出可能結合であるとされ得、しかし、かかる抗体は、本発明の二重特異性抗体の産生のための第2抗原結合アームと対になり得る。
【0060】
「KD」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体もしくは抗体結合フラグメントの解離平衡定数を指す。KDと結合親和性との間に反比例関係があるため、KD値がより小さいと、親和性がより高い、すなわち、より強い。そのため、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、より高い相互作用形成能力、ゆえに、より小さいKD値に関し、逆に、「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、より低い相互作用形成能力、ゆえに、より大きいKD値に関する。いくつかの状況において、特定の分子(例えば、抗体)の別の相互作用パートナー分子(例えば、抗原Y)への結合親和性と比較した、当該分子(例えば、抗体)のその相互作用パートナー分子(例えば、抗原X)へのより高い結合親和性(またはKD)は、より大きいKD値(より低いまたはより弱い親和性)をより小さいKD(より高いまたはより強い親和性)で除算することにより決定される結合比として表され得、例えば、場合によっては、結合親和性よりも5倍もしくは10倍高いとして表され得る。
【0061】
「kd」(sec-1または1/s)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合フラグメントの解離速度定数を指す。上記値はまた、koff値とも称される。
【0062】
「ka」(M-1×sec-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度定数、または、抗体もしくは抗体結合フラグメントの会合速度定数を指す。
【0063】
「KA」(M-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合平衡定数、または、抗体もしくは抗体結合フラグメントの会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kaをkdで除算することによって得られる。
【0064】
「EC50」または「EC50」という用語は、特定の曝露時間後の、ベースラインと最大値との間の中間の応答を誘導する抗体の濃度を含む、最大有効濃度の半分を指す。EC50は、最大効果の50%が観察される抗体の濃度を本質的に表す。ある特定の実施形態において、EC50値は、例えばFACS結合アッセイによって決定される、CD3または腫瘍関連抗原を発現する細胞への最大半量結合を与える本発明の抗体の濃度に等しい。そのため、低減された、またはより弱い結合は、増加したEC50または最大有効濃度の半分の値で観察される。
【0065】
一実施形態において、減少した結合は、最大半量の標的細胞に結合し得る増加したEC50抗体濃度として定義され得る。
【0066】
別の実施形態において、EC50値は、T細胞の細胞毒性によって標的細胞の最大の半分の欠失を引き起こす、本発明の抗体の濃度を表す。そのため、増加した細胞毒性(例えば、T細胞媒介腫瘍細胞死滅)は、減少したEC50または最大半量有効濃度の値によって観察される。
【0067】
二重特異性抗原結合分子
本発明の抗原結合分子、例えば、抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であってよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であってよく、または、1を超える標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有していてよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69、Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。本発明の抗体は、別の機能性分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質に連結されてもよく、またはこれと共発現されてもよい。例えば、抗体またはそのフラグメントは、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合的会合、または他のものによって)1つ以上の他の分子エンティティ、例えば別の抗体または抗体フラグメントに機能的に連結されて、第2またはさらなる結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を産生し得る。
【0068】
本明細書において使用される場合、「抗原結合分子」という表現は、単独で、または1以上のさらなるCDR及び/もしくはフレームワーク領域(FR)と組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むまたはこれからなるタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を意味する。ある特定の実施形態において、抗原結合分子は、抗体または抗体のフラグメントであり、これらの用語は本明細書の他のいずれかの箇所に定義されている。
【0069】
本明細書において使用される場合、「二重特異性抗原結合分子」という表現は、少なくとも第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結合ドメインを含むタンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、または1以上のさらなるCDR及び/もしくはFRと組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのCDRを含む。
【0070】
本発明のある特定の例示的な実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)及び軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第1及び第2の抗原結合ドメイン(例えば、二重特異性抗体)を含む二重特異性抗原結合分子の文脈において、第1の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A1」によって表記されてよく、第2の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A2」によって表記されてよい。そのため、第1の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA1-HCDR1、A1-HCDR2、及びA1-HCDR3と称されてよく、第2の抗原結合ドメインのCDRは、A2-HCDR1、A2-HCDR2、及びA2-HCDR3と称されてよい。
【0071】
第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結合ドメインは、互いに直接または間接的に接続されて本発明の二重特異性抗原結合分子を形成し得る。代替的には、第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結合ドメインは、それぞれ、別個の多量体化ドメインに接続され得る。1つの多量体化ドメインと別の多量体化ドメインとの会合は、2つの抗原結合ドメイン間での会合を容易にし、これにより、二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書において使用される場合、「多量体化ドメイン」は、同じまたは類似する構造または構成の第2の多量体化ドメインと会合する能力を有する任意の巨大分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってよい。多量体化構成要素の非限定例は、免疫グロブリン(CH2-CH3ドメインを含む)のFc部、例えば、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに、各アイソタイプグループ内の任意のアロタイプである。
【0072】
本発明の二重特異性抗原結合分子は、別個の抗体重鎖のそれぞれ個々の部分である2つの多量体化ドメイン、例えば、2つのFcドメインを典型的には含む。第1及び第2の多量体化ドメインは、同じIgGアイソタイプ、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などのものであってよい。代替的には、第1及び第2の多量体化ドメインは、異なるIgGアイソタイプ、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4などのものであってよい。
【0073】
ある特定の実施形態において、多量体化ドメインは、少なくとも1つのシステイン残基を含有する、1~約200のアミノ酸の長さのFcフラグメントまたはアミノ酸配列である。他の実施形態において、多量体化ドメインは、システイン残基、または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインには、ロイシンジッパー、ヘリックスループモチーフ、またはコイルドコイルモチーフを含むまたはこれらからなるペプチドまたはポリペプチドが含まれる。
【0074】
任意の二重特異性抗体フォーマットまたは技術を使用して本発明の二重特異性抗原結合分子を作製してよい。例えば、第1の抗原結合特異性を有する抗体またはそのフラグメントは、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合的会合、または他のものによって)1つ以上の他の分子エンティティ、例えば、第2の抗原結合特異性を有する別の抗体または抗体フラグメントに機能的に連結されて、二重特異性抗原結合分子を産生し得る。本発明に関連して使用され得る具体的な例示的な二重特異性フォーマットには、非限定的に、例えば、scFv系またはダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、Quadroma、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを含む共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、及びMab2二重特異性フォーマットが含まれる(例えば、上記のフォーマットの概説については、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、及びこれに列挙されている参照文献を参照されたい)。
【0075】
本発明の二重特異性抗原結合分子に関連して、多量体化ドメイン、例えば、Fcドメインは、Fcドメインの野生型の自然発生バージョンと比較して、1以上のアミノ酸の変化(例えば、挿入、欠失、または置換)を含み得る。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の修飾された結合相互作用(例えば、向上または軽減)を有する修飾されたFcドメインを結果として生じさせるFcドメインにおいて1以上の修飾を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、CH2またはCH3領域において修飾を含み、ここで、当該修飾が、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲であるエンドソームにおいて)、FcRnへのFcドメインの親和性を増加させる。かかるFc修飾の非限定例には、例えば、250位(例えば、EもしくはQ)、250及び428位(例えば、LもしくはF)、252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254位(例えば、SもしくはT)、及び256位(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)における修飾、あるいは428及び/または433位(例えば、L/R/S/P/QもしくはK)及び/または434位(例えば、H/FもしくはY)における修飾、あるいは250及び/または428位における修飾、あるいは307または308位(例えば、308F、V308F)、及び434位における修飾、が含まれる。一実施形態において、修飾は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)修飾、252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)修飾、250Q及び428L修飾(例えば、T250Q及びM428L)、ならびに307及び/または308修飾(例えば、308Fもしくは308P)を含む。
【0076】
本発明はまた、第1のCH3ドメイン及び第2のIg CH3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子も含み、第1及び第2のIg CH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸だけ互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差異は、アミノ酸の差異を欠く二重特異性抗体と比較してタンパク質Aへの二重特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態において、第1のIg CH3ドメインは、タンパク質Aに結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R修飾(IMGTエクソン番号付けによる。EU番号付けによりH435R)などのタンパク質A結合を低減または破壊する変異を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによりY436F)をさらに含んでいてよい。例えば、米国特許第8,586,713号を参照されたい。第2のCH3内に見出され得るさらなる修飾には、IgG1抗体の場合においてD16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによる;EUによりD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I)、IgG2抗体の場合においてN44S、K52N、及びV82I(IMGT;EUによりN384S、K392N、及びV422I)、ならびにIgG4抗体の場合においてQ15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、及びV82I(IMGTによる;EUによりQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、及びV422I)、が含まれる。
【0077】
ある特定の実施形態において、Fcドメインは、1を超える免疫グロブリンアイソタイプに由来するFc配列を組み合わせて、キメラであってよい。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4 CH2領域に由来するCH2配列の一部または全て、及びヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4に由来するCH3配列の一部または全てを含み得る。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域も含有し得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下方ヒンジ」配列と組み合わせた、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上方ヒンジ」配列を含んでいてよい。本明細書に記載されている抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの特定の例は、NからC末端まで:[IgG4 CH1]-[IgG4上方ヒンジ]-[IgG2下方ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG4 CH3]、を含む。本明細書に記載されている抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、NからC末端まで:[IgG1 CH1]-[IgG1上方ヒンジ]-[IgG2下方ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG1 CH3]、を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれら及び他の例は、全体が本明細書に組み込まれる、2014年8月28日に公開された米国特許公開公報第2014/0243504号に記載されている。これらの一般の構造、配置、及びそのバリアントを有するキメラFcドメインは、Fcエフェクタ機能に次に影響する、改変されたFcレセプタ結合を有し得る。
【0078】
pH依存性結合
本発明は、pH依存性結合特性を有する抗体及び二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本発明の抗体は、中性pHと比較して酸性pHにおいて、抗原への低減された結合を示し得る。代替的には、本発明の抗体は、中性pHと比較して酸性pHにおいて、抗原への向上した結合を示し得る。「酸性pH」という表現は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5,9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0以下のpH値を含む。本明細書において使用される場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、及び7.4のpH値を含む。
【0079】
ある特定の場合において、「中性pHと比較して酸性pHにおいて・・・低減された結合」は、中性pHでのその抗原に対する抗体結合のKD値に対する、酸性pHでのその抗原に対する抗体結合のKD値の比(またはその逆)の観点で表される。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体またはその抗原結合フラグメントが約3.0以上の酸性/中性KD比を示すとき、本発明の目的で「中性pHと比較して酸性pHにおいてMUC16に対して低減された結合」を示すとみなされ得る。ある特定の例示的な実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントに関する酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0以上であり得る。
【0080】
pH依存性結合特性を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して酸性pHにおいて特定の抗原に対して低減された(または向上した)結合について抗体の集団をスクリーニングすることによって得られ得る。加えて、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの修飾は、pH依存性特性を有する抗体を生じさせ得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えば、CDR内)の1以上のアミノ酸をヒスチジン残基で置換することによって、中性pHと比較して酸性pHにおいて低減された抗原結合を有する抗体が得られ得る。
【0081】
Fcバリアントを含む抗体
本発明のある特定の実施形態によると、抗体及び二重特異性抗原結合分子は、例えば、中性pHと比較して酸性pHにおいてFcRnレセプタに対する抗体結合を向上または軽減する1以上の変異を含むFcドメインを含む。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域において変異を含む抗体を含み、変異(複数可)が、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲であるエンドソームにおいて)FcRnへのFcドメインの親和性を増加させる。かかる変異は、動物に与えると、抗体の血清半減期の増加を結果として生じさせ得る。かかるFc修飾の非限定例として、例えば、250位(例えば、EもしくはQ)、250及び428位(例えば、LもしくはF)、252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254及び(例えば、SもしくはT)、及び256及び(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)における修飾、あるいは428及び/または433位(例えば、H/L/R/S/P/QもしくはK)及び/または434位(例えば、H/FもしくはY)における修飾、あるいは250及び/または428位における修飾、あるいは307または308位(例えば、308F、V308F)、及び434における修飾、が挙げられる。一実施形態において、修飾は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)修飾、252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)修飾、250Q及び428L修飾(例えば、T250Q及びM428L)、ならびに307及び/または308修飾(例えば、308Fもしくは308P)を含む。
【0082】
例えば、本発明は、250Q及び248L(例えば、T250Q及びM248L)、252Y、254T及び256E(例えば、M252Y、S254T及びT256E)、428L及び434S(例えば、M428L及びN434S)、ならびに433K及び434F(例えば、H433K及びN434F)からなる群から選択される変異の1以上の対または群を含むFcドメインを含む抗体及び二重特異性抗原結合分子を含む。上記Fcドメイン変異、及び本明細書に開示されている抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能性のある組み合わせは、本発明の範囲内であることが企図される。
【0083】
抗原結合ドメインの調製及び二重特異性分子の構成
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当該分野において知られている任意の抗体生成技術によって調製され得る。2つの異なる抗原に特異的な2つの異なる抗原結合ドメインは、一旦得られると、互いに対して適宜配置されて、日常的な方法を使用して本発明の二重特異性抗原結合分子を産生することができる。ある特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合分子の個々の構成要素(例えば、重鎖及び軽鎖)の1以上は、キメラ、ヒト化または完全なヒト抗体に由来する。かかる抗体を作製するための方法は、当該分野において周知されている。例えば、本発明の二重特異性抗原結合分子の重鎖及び/または軽鎖の1以上が、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製され得る。VELOCIMMUNE(商標)技術(または任意の他のヒト抗体生成技術)を使用して、特定の抗原に対して高親和性のキメラ抗体が、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有して最初に単離される。抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含めた所望の特徴について特徴付けられて選択される。マウス定常領域は、所望のヒト定常領域と置き換えられて、本発明の二重特異性抗原結合分子に組み込まれ得る完全なヒト重鎖及び/または軽鎖を生成する。
【0084】
遺伝子操作された動物が、ヒト二重特異性抗原結合分子を作製するのに使用され得る。例えば、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再配置及び発現することが不可能である遺伝子組み換えマウスが使用され得、当該マウスは、内因性マウスκ遺伝子座においてマウスκ定常遺伝子に操作可能に連結されるヒト免疫グロブリン配列によってコードされる唯1つまたは2つのヒト軽鎖可変ドメインを発現する。かかる遺伝子組み換えマウスは、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖に会合する2つの異なる重鎖を含む完全なヒト二重特異性抗原結合分子を産生するのに使用され得る。(例えば、US2011/0195454を参照されたい)。完全なヒトとは、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは免疫グロブリンドメインであって、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは免疫グロブリンドメインの各ポリペプチドの長さ全体にわたってヒト配列に由来するDNAによってコードされるアミノ酸配列を含んでいるものを指す。いくつかの場合において、完全なヒト配列は、ヒトに対して内因性であるタンパク質に由来する。他の場合において、完全なヒトタンパク質またはタンパク質配列は、各構成要素の配列がヒト配列に由来するキメラ配列を含む。いずれか1つの理論によって拘束されないが、キメラタンパク質またはキメラ配列は、例えば任意の野生型ヒト免疫グロブリン領域またはドメインと比較して、構成要素配列の接合点における免疫原性エピトープの作製を最小限にするように一般に設計される。
【0085】
医薬品容器のヘッドスペースにおける酸化ガスの低減方法
本発明の方法は、酸化的劣化によって引き起こされる電荷変異及び/または凝集物を最小限にすることによって、より高い安定性及び品質保持期間を有する医薬品を提供する。本発明の方法は、酸素及び/もしくは他の酸化ガス、例えば、オゾン、過酸化物、塩素、フッ素、一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素、またはこれらの組み合わせの濃度を低減するための、医薬品容器のヘッドスペースにおけるガスの真空引き及び非酸化ガス(例えば、窒素またはアルゴン)によるヘッドスペースのその後の通気を含む。上記方法は、真空チャンバ(例えば、凍結乾燥チャンバ)において実施され得る。一実施形態において、真空チャンバには、圧力を正確に測定することにより当該圧力を本明細書において確認されている範囲内に制御するためのピラニ真空計(熱伝導真空計)が装着されている。種々の実施形態において、上記方法は、無菌条件下、及び/または調合薬品の生産に関する適正製造基準(GMP)の規格を満たす条件下で実施される。
【0086】
本発明の方法は、液体製剤中に組み換えタンパク質または抗原結合タンパク質(例えば、抗体もしくは二重特異性抗原結合分子)を含有する密閉容器中の医薬品を調製するのに使用され得る。医薬品は、医薬品容器のヘッドスペース中に低減された濃度の酸素及び/または他の酸化ガスを含有するように調製される。本発明による密閉容器中の医薬品を調製する方法は、(a)組み換えタンパク質または抗原結合タンパク質(例えば、抗体)の液体製剤を含有する1以上の容器を大気圧下で真空チャンバ内に投入する工程と、(b)チャンバを約0.05bar~約0.15barの第1圧力で真空引きする工程と、(c)チャンバを、約800mbar~約1000mbarの第2圧力で非酸化ガスによって通気する工程と、(d)1以上の容器を密閉された真空チャンバ内に密閉する工程とを含む。いくつかの実施形態において、プロセス工程(b)及び(c)は、ヘッドスペースにおける酸化ガスの濃度をさらに低減するために、容器(複数可)を密閉する前に1回以上繰り返される。種々の実施形態において、本発明の方法は、容器ヘッドスペースにおいて体積基準で5%未満の酸素(または他の酸化ガス)を有する医薬品を製造するのに使用され得る。いくつかの場合において、酸化ガス濃度は、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満まで低減される。いくつかの実施形態において、酸化ガス(例えば、酸素)濃度は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、または0.1%以下である。
【0087】
いくつかの実施形態において、酸素(または他の酸化ガス)の最終の所望の濃度が予め決定され得、上記で考案されている真空引き/通気プロセスのサイクル数が、したがって、所望の最終濃度を達成するように調整され得る。例えば、一実施形態において、密閉された医薬品容器のヘッドスペースにおける酸素含有率を制御する方法は、以下の工程を含む:(a)密閉容器のヘッドスペースにおける所望の最終酸素含有率を求める工程と、(b)酸素低減の第1サイクル後の終端の酸素含有率%を、式(I):
を介して算出する工程であって、式中、%O
2開始は、第1サイクルの開始における酸素含有率%であり、P
真空は、酸素低減の第1サイクルにおいて印加される真空引き圧力であり、P
通気は、P
真空より高いが1bar未満の圧力であり、%O
2終端は、第1サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、(c)上記式(I)をさらなるサイクルに任意選択的に適用する工程であって、式中、%O
2開始は、所望の最終酸素含有率に達するまでの、先行サイクルの終端における酸素含有率%である、工程と、(d)(i)0.05bar~0.15barの圧力であるP
真空で、真空チャンバにおいて非密閉容器を真空引きすることによって1以上の酸素低減サイクルを実施すること、及び800mbar~1000mbarの通気圧力で非酸化ガスによって真空チャンバにおける非密閉容器を通気すること、ならびに(ii)容器を密閉すること、によって、密閉容器における医薬品を調製する工程。
【0088】
種々の実施形態において、上記圧力は、組み換えタンパク質または抗原結合タンパク質を含有する液体製剤の蒸発を回避するために水蒸気圧を超えて維持される。種々の実施形態において、真空チャンバの真空引き及び/または通気は、約0.02bar~約0.2barの圧力で行われる。一実施形態において、真空引きは、約0.1barの圧力で行われ、通気は、約800mbar~約1000mbarの圧力で行われる。真空チャンバの通気において使用される非酸化ガスは、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン及びラドンから選択され得る。一実施形態において、非酸化ガスは窒素である。別の実施形態において、非酸化ガスはアルゴンである。種々の実施形態において、上記方法は、約5~45℃の範囲または約10~37℃の範囲の温度で実施される。種々の実施形態において、上記方法は、約15~25℃の範囲の温度で実施される。いくつかの場合において、上記温度は、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、または約25℃である。一実施形態において、全てのサイクルの温度が、約19℃で維持される。
【0089】
本発明の方法により医薬品容器内に密閉される組み換えタンパク質または抗原結合タンパク質組成物は、上記または本明細書において考察されている種々の組成物のいずれであってもよい。例えば、抗原結合タンパク質(例えば、抗体)の液体組成物は、緩衝剤、等張調整剤、安定化剤、界面活性剤などを含めて、種々の賦形剤によって製剤化され得、当該タンパク質は、約0.1mg/ml~約200mg/mlの範囲の濃度で存在し得る。いくつかの実施形態において、抗体または他の抗原結合タンパク質の濃度は、約1mg/ml~約25mg/ml、1mg/ml~約15mg/ml、または約1mg/ml~約10mg/mlである。いくつかの場合において、上記濃度は、10mg/ml未満、5mg/ml未満、2mg/ml未満または1mg/ml未満である。
【0090】
上記で考察されているように、容器(複数可)内のヘッドスペースガスの酸化ガス含量を低減させた後、容器(複数可)は、完全に閉鎖され/栓がされており、最終的に密閉される。ストッパーは、種々の材料(例えば、ポリマー、ゴム)からなり得、容器との係合に関し所望に応じて弾性特性(例えば、十分な剛性、鍛造性)を示し得る。いくつかの実施形態において、ストッパーは、合成ゴムから形成されており、いくつかの実施形態において、ストッパーは、ブチルゴムから形成されている。ストッパーは、1以上のベント、またはベント脚部を含んでいてよい。ストッパーは、弾性シールを形成及び保持するように適合され得、いくつかの実施形態において、従来の凍結乾燥手順に適合するストッパーであり得る。そのため、凍結乾燥チャンバにおけるバイアルでの使用のためのストッパーは、ガスオーバーレイ/酸素低減プロセスの際にはベント(複数可)が外側の空間に開放されて、部分的に栓がされていてよく、次いで、1以上の酸素低減サイクルの後に容器と接続して完全に栓がされて密閉されてよい。凍結乾燥システム、閉鎖キャップ及びストッパー構成の例は、FDA Guide「Lyophilization of Parenteral(7/93)」及びBhambhani and Medi、「Selection of Containers/Closures for Use in Lyophilization Applications:Possibilities and Limitations」、American Pharmaceutical Review,May 1,2010において提供されており、これらの内容は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0091】
以下の実施例は、当業者に、本発明の方法及び組成物をどのように作製及び使用するかの完全な開示及び記載を提供するように提示されるが、本発明者らが何を本発明とみなすかの範囲を限定することは意図していない。使用されている数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はなされているが、いくらかの実験的誤差及び逸脱が占めているはずである。別途示さない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は、摂氏温度であり、圧力は大気圧またはその付近である。
【0092】
実施例1:医薬品ヘッドスペースにおける酸素の低減
この例において、圧力を測定するためのピラニ真空計、及び圧力を制御するためのニードルバルブを装着した標準のGMP凍結乾燥チャンバを真空チャンバとして使用した。液体製剤中2mg/mlの濃度での二重特異性抗体を、ベント脚部ゴムストッパーを装着したバイアルにパッケージングし、2つのサイクルプロセスにおける窒素オーバーレイによりヘッドスペース酸素の存在を約21%から約0.25%に低減した。
【0093】
【0094】
バイアルをチャンバに入れたら、真空引きをして(ステップ6)、ガス(開始するには約21%の酸素を含有する空気である)をチャンバから除去した。圧力(100,000μbar)は、蒸発、発泡及び起こり得る水はねを回避するために水蒸気圧より高く、ピラニゲージによって測定する。通常の凍結乾燥条件下で、真空からさらにより低い圧力(150μbarほど)が存在し、そのため、圧力を、静電容量型圧力計を使用して制御する。しかし、静電容量型圧力計は約2000μbar未満の圧力でのみ正確であり、圧力を100,000μbarで制御するためには使用できない。
【0095】
100,000μbarの圧力に達したら、窒素をチャンバ内に充填し、真空引きされた空気と置き換えた。
【0096】
プロセスを2度繰り返し、酸素レベルをさらに低減した(以下の2度目のサイクルステップ3~4)。所望の酸素レベルに達したら、バイアルに栓をした(以下の2度目のサイクルステップ5)。
【0097】
【0098】
【0099】
実施例1において上記で考察されているプロセスからの例としての算出:
サイクル1
サイクル2
【0100】
実施例2:医薬品の安定性試験
安定性分析を、実施例1において考察されているプロセスを使用して調製した種々の医薬品において、ヘッドスペース酸素の濃度を変動させて実施し、ヘッドスペース酸素が大気圧レベルまたはその付近(約21%)である対照に対して比較した。いくつかの場合において(本明細書に記述されている)、窒素をプロセスの通気部においてアルゴンと置き換えた。高分子量(HMW)種を、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィ(SE-UPLC)を使用して検出し、電荷変種を、カチオン交換超高速液体クロマトグラフィ(CEX-UPLC)を使用して検出した。
【0101】
図1に示すように、窒素オーバーレイを介した21%から1%未満へのヘッドスペース酸素含有率の低減は、5℃で31ヶ月貯蔵した後にCEX-UPLCによって観察される二重特異性抗体の劣化を低減した。21%の酸素において、主な電荷変種の百分率変化が約46.25%であった一方で、<1%の酸素では、百分率変化が貯蔵期間にわたって約8.75%まで低減された。
【0102】
図2に示すように、窒素オーバーレイを介した21%から0.1%へのヘッドスペース酸素含有率の低減は、45℃で28日間貯蔵した後の、HMW種の存在下での百分率増加の低減によって示されるように、第2の二重特異性抗体の安定性を増加させた。21%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約8.62%増加した。15%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約8.53%増加した。10%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約4.74%増加した。5%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約1.42%増加し、0.1%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約0.24%増加した。
【0103】
図3は、ヘッドスペース酸素含有率を低減させるための窒素オーバーレイプロセスの後、45℃で3ヶ月貯蔵した後に観察した第2の二重特異性抗体についてのHMW種の存在下での百分率増加の低減を示す。5%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約9.66%増加した。2%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約7.27%増加した。1%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約4.54%増加し、1%未満の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約0.34%増加した。
【0104】
図4は、オーバーレイプロセスにおける窒素をアルゴンに置き換えたことを除いて
図3と同様にして45℃で3ヶ月間貯蔵した第2の二重特異性抗体についての同ヘッドスペース酸素含有率を示す。5%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約16.72%増加した。2%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約13.05%増加した。1%の酸素において、貯蔵期間にわたってHMW種の百分率が約7.68%増加したが、1%未満の酸素では、貯蔵期間にわたってHMW種の増加が検出可能ではなかった。
【0105】
本発明は、本明細書において記載されている具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書において記載されているものに加えて本発明の種々の変更が上記の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。かかる変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
前記組み換えタンパク質が、45℃で貯蔵されたとき、少なくとも3ヶ月の期間にわたって安定であり、少なくとも3ヶ月安定であることが、高分子量種の百分率の増加が前記期間にわたって10%以下、5%以下、または1%以下であることを指す、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬品。