(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182698
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】熱間圧延鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231219BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20231219BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231219BHJP
C21D 8/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21D8/02 D
C21D8/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169388
(22)【出願日】2023-09-29
(62)【分割の表示】P 2021534717の分割
【原出願日】2019-12-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/060185
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローデ・デュプレ
(72)【発明者】
【氏名】トム・ワーテルスコート
(72)【発明者】
【氏名】ネレ・ファン・ステーンベルヘ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・モリ・サンチェス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸性腐食下での使用に適した熱間圧延鋼を提供する。
【解決手段】本発明は、重量パーセントで表される、以下の元素:15%≦ニッケル≦25%、6%≦コバルト≦12%、2%≦モリブデン≦6%、0.1%≦チタン≦1%、0.0001%≦炭素≦0.03%、0.002%≦リン≦0.02%、0%≦硫黄≦0.005%、0%≦窒素≦0.01%を含み、以下の任意元素0%≦アルミニウム≦0.1%、0%≦ニオブ≦0.1%、0%≦バナジウム≦0.3%、0%≦銅≦0.5%、0%≦クロム≦0.5%の1種以上を含むことができる組成を有し、残余の組成は鉄及び不可避の不純物からなり、該鋼板の微細組織は、面積分率で20%~40%の焼戻しマルテンサイト、少なくとも60%の逆変態オーステナイト、並びにモリブデン、チタン及びニッケルの金属間化合物を含む、熱間圧延鋼を取り扱う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延鋼であって、重量パーセントで表される、以下の元素:
15%≦ニッケル≦25%
6%≦コバルト≦12%
2%≦モリブデン≦6%
0.1%≦チタン≦1%
0.0001%≦炭素≦0.03%
0.002%≦リン≦0.02%
0%≦硫黄≦0.005%
0%≦窒素≦0.01%
を含み、以下の任意元素
0%≦アルミニウム≦0.1%
0%≦ニオブ≦0.1%
0%≦バナジウム≦0.3%
0%≦銅≦0.5%
0%≦クロム≦0.5%
0%≦ホウ素≦0.001%
0%≦マグネシウム≦0.0010%
の1種以上を含むことができる組成を有し、残余の組成は鉄及び加工により生じた不可避の不純物から構成され、前記鋼板の微細組織は、面積分率で20%~40%の焼戻しマルテンサイト、少なくとも60%の逆変態オーステナイト、並びにモリブデン、チタン及びニッケルの金属間化合物を含む、熱間圧延鋼。
【請求項2】
前記組成が16%~24%のニッケルを含む、請求項1に記載の熱間圧延鋼。
【請求項3】
前記組成が16%~22%のニッケルを含む、請求項1又は2に記載の熱間圧延鋼。
【請求項4】
前記組成が6%~11%のコバルトを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項5】
前記組成が7%~10のコバルトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項6】
前記組成が3%~6%のモリブデンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項7】
前記組成が3.5%~5.5%のモリブデンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項8】
前記組成が0.1%~0.9%のチタンを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項9】
前記組成が0.2~0.8%のチタンを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項10】
モリブデン、チタン及びニッケルの前記金属間化合物が、Ni3Ti、Ni3Mo又はNi3(Ti、Mo)の少なくとも1種以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項11】
モリブデン、チタン及びニッケルの前記金属間化合物が、粒間金属間化合物及び粒内金属間化合物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項12】
前記鋼が、1100MPa以上の引張強さ及び18%以上の全伸びを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項13】
前記鋼が、1200MPa以上の引張強さ及び19%以上の全伸びを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼。
【請求項14】
次の連続した工程を含む熱間圧延鋼の製造方法:
- 請求項1~9のいずれか一項に記載の鋼組成を提供する工程、
- 前記半完成品を1150℃~1300℃の間の温度に再加熱する工程、
- 熱間圧延仕上げ温度が800~975℃の間となるように前記半完成品をオーステナイテトの範囲で圧延して、熱間圧延鋼ストリップを得る工程、
- 次いで、前記熱間圧延鋼ストリップを10℃~Msの間の温度範囲に冷却する工程、
- その後、前記熱間圧延鋼ストリップをAe3~Ae3+350℃の間の焼鈍温度まで再加熱し、そのような温度で30分よりも長い間保持し、及び1℃/秒~100℃/秒の間の速度で10℃~Msの間の温度範囲まで冷却する工程、
- その後、前記熱間圧延鋼ストリップを0.1℃/秒~100℃/秒の間の加熱速度で575℃~700℃の間の焼戻し温度範囲まで再加熱し、及び前記熱間圧延鋼ストリップを前記焼戻し温度範囲に30分~72時間の間の持続時間保持する工程、
- 次いで、前記熱間圧延鋼ストリップを室温まで冷却し、熱間圧延鋼を得る工程。
【請求項15】
半完成品の前記再加熱温度が1150℃~1275℃の間である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記熱間圧延仕上げ温度が800℃~950℃の間である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
熱間圧延終了後の熱間圧延ストリップの前記冷却温度範囲が、15℃~Ms-20℃の間である、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記焼鈍温度範囲がAe3+20℃~Ae3+350℃の間である、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記焼鈍温度範囲がAe3+40℃~Ae3+300℃の間である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
焼鈍後の前記冷却速度が1℃/秒~80℃/秒の間である、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
焼鈍後の前記冷却速度が1℃/秒~50℃/秒の間である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
焼鈍後の前記冷却温度範囲が15℃~Ms-20℃の間である、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記焼戻し温度範囲が575℃~675℃の間である、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記焼戻し温度範囲が590℃~660℃の間である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
焼戻しのための前記加熱速度が0.1℃/秒~50℃/秒の間である、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
焼戻しのための前記加熱速度が0.1℃/秒~30℃/秒の間である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
石油及びガス井戸の構造部品又は操作部品の製造のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の鋼又は請求項14~26のいずれか一項に記載の方法で製造された鋼の使用。
【請求項28】
請求項27に従って得られたシームレスチューブ、パイプ又は部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性環境下、特に石油及びガス産業における酸性腐食下での使用に適した熱間圧延鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、深井戸から石油及びガスが抽出されている。これらの深井戸は、一般に無塩又は酸性のいずれかに分類される。無塩の井戸は軽度の腐食性であるが、酸性井戸は、硫化水素、二酸化炭素、塩化物、及び遊離硫黄などの腐食剤の存在により、腐食性が高い。酸性井戸の腐食状態は高温及び高圧によって度合いが増す。したがって、これらの酸性井戸からの石油又はガスの抽出は非常に難しいため、酸性の石油及びガス環境については、素材を選択して、同時に優れた機械的特性を有する耐酸性腐食性の厳しい基準を満たすようにする。
【0003】
そのため、材料の強度を高めながら、毒性及び腐食性の高い環境下での耐食性要求に応えるために、鋭意研究開発努力が行われている。反対に、鋼の強度向上は、成形性が低下するため、シームレスパイプ、ラインパイプなどの製品への鋼の加工を妨げるので、成形性及び規格に応じた適切な耐食性とともに高い強度を兼ね備えた材料の開発が必要である。
【0004】
耐食性を有する高強度及び高成形性鋼の分野における以前の研究開発は、鋼のためのいくつかの方法をもたらし、そのいくつかを本発明を最終的に理解するために本明細書に列挙する。
【0005】
US20100037994号は、17重量%~19重量%のニッケル、8重量%~12重量%のコバルト、3重量%~5重量%のモリブデン、0.2重量%~1.7重量%のチタン、0.15重量%~0.15重量%のアルミニウム、及び残部の鉄を含み、オーステナイト溶体化温度で熱機械加工されたマルエイジング鋼のワークピースを受け入れ、熱機械加工と直接時効との間に熱処理を介在させることなく、マルエイジング鋼のワークピースの微細構造内に析出物を形成するために、マルエイジング鋼のワークピースを時効温度で直接時効させ、熱機械加工及び直接時効は10という平均ASTM粒子サイズを有するマルエイジング鋼を提供することを含む、マルエイジング鋼のワークピースを加工する方法を請求する。しかし、US20100037994号は耐食性を保証せず、マルエイジング鋼を経済的に加工する方法のみを請求している。
【0006】
EP2840160号は、質量%で、C:≦0.015%、Ni:12.0~20.0%、Mo:3.0~6.0%、Co:5.0~13.0%、Al:0.01~0.3%、Ti:0.2~2.0%、O:≦0.0020%、N:≦0.0020%、Zr:0.001~0.02%を含み、残余はFe及び不可避の不純物である疲労特性に優れたマルエイジング鋼を提供する。EP2840160号は、必要とされる十分な強度を提供するが、酸性腐食に対して耐食性を有する鋼を提供しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0037994号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2840160号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、これらの問題を解決するために、以下を同時に有する熱間圧延鋼を利用できるようにすることである。
- 1100MPa以上、好ましくは1200MPaを超える引張強さ、
- 18%以上、好ましくは19%を超える全伸び、
- NACE TM0177規格の降伏強度荷重の少なくとも85%に従う酸性腐食性及び亀裂のない鋼。
【0009】
好ましい実施形態において、本発明による鋼はまた、降伏強度850MPa以上を提供することができる。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明による鋼板は、0.6以上の引張強さに対する降伏強度の比も提供することができる。
【0011】
好ましくは、このような鋼はまた、良好な溶接性及び被覆性とともに、成形、特に圧延に良好な適合性を有することができる。
【0012】
本発明の別の目的は、製造パラメータの変更に対してロバストである一方で、従来の産業用途に適合するこれらの板の製造方法を利用できるようにすることでもある。
【0013】
本発明の熱間圧延鋼板は、その耐食性をさらに向上させるために、任意に被覆してもよい。
【0014】
ニッケルは15%~25%の間で鋼に存在する。ニッケルは、焼戻す前の加熱中にモリブデン及びチタンと金属間化合物を形成することによって鋼に強度を付与するために本発明の鋼にとって必須の元素であり、これらの金属間化合物はまた、逆変態オーステナイトの形成のための部位として作用する。ニッケルは、鋼に伸びを付与する焼戻し中の逆変態オーステナイトの形成においても非常に重要な役割を果たす。しかし、15%未満のニッケルは金属間金属の生成の減少のために強度を付与できない。一方、25%を超えてニッケルが存在すると、80%を超える逆変態オーステナイトが形成され、これは鋼の引張強さに悪影響を及ぼす。本発明のためにはニッケルの好ましい含有率は16%~24%の間、より好ましくは16%~22%の間に保つことができる。
【0015】
コバルトは本発明の鋼の必須元素であり、6%~12%の間で存在する。コバルトを添加する目的は、焼戻しの間に逆変態オーステナイトの形成を補助し、それによって鋼に伸びを付与することである。さらに、コバルトはモリブデンが固溶体を形成する速度を低下させることにより、モリブデンの金属間化合物の形成を助ける。しかし、コバルトが12%を超えて存在すると、逆変態オーステナイトが過剰に形成され、これは鋼の強度に悪影響を及ぼし、一方コバルトが6%未満であると、固溶体の生成速度が低下しない。本発明のためにはコバルトの好ましい含有率は、6%~11%の間、より好ましくは7%~10%の間に保つことができる。
【0016】
モリブデンは、本発明の鋼の2%~6%を構成する必須元素である。モリブデンは、焼戻しのための加熱の間ニッケル及びチタンと金属間化合物を形成することにより、本発明の鋼の強度を増加させる。モリブデンは、本発明の鋼に耐食性特性を付与するための必須元素である。しかし、モリブデンの添加は、合金元素の添加コストを過度に増大させるため、経済的な理由からその含有率は6%に限られる。モリブデンの好ましい限度は3~6%の間、より好ましくは3.5~5.5%の間である。
【0017】
本発明の鋼のチタン含有率は0.1%~1%の間である。チタンは、鋼に強度を付与するために、炭化物と同様に金属間化合物を形成する。チタンが0.1%未満の場合、必要な効果が得られない。本発明のために好ましい含有率は、0.1%~0.9%の間、より好ましくは0.2%~0.8%の間に保つことができる。
【0018】
炭素は0.0001~0.03%の間で鋼に存在する。炭素は残留元素であり、加工から生じる。処理に制約があるため、不純物炭素を0.0001%未満にするのは不可能であり、0.03を超える炭素の存在は鋼の耐食性を低下させるので避けなければならない。
【0019】
本発明の鋼のリン成分は0.002%~0.02%の間である。リンは、特に結晶粒界に偏析したり、共偏析したりする傾向があるため、スポット溶接性及び熱間延性を低下させる。これらの理由により、その含有率は0.02%に制限され、好ましくは0.015%より低い。
【0020】
硫黄は必須元素ではないが、鋼に不純物として含まれている可能性があり、本発明の観点からは硫黄含有率は可能な限り低くすることが好ましいが、製造コストの観点からは0.005%以下である。さらに、鋼により多量の硫黄が存在する場合には、それが結合して硫化物を形成し、本発明の鋼に及ぼすその有益な影響を減少させるため、0.003%未満が好ましい
【0021】
窒素は、材料の時効を避けるために0.01%に制限され、窒素は、バナジウム及びニオブとともに析出強化によって本発明の鋼に強度を付与する窒化物を形成するが、窒素の存在が0.01%を超えるきは常に、窒素は本発明にとって有害な多量の窒化アルミニウムを形成する可能性があるので、窒素の好ましい上限は0.005%である。
【0022】
アルミニウムは必須元素ではないが、溶鋼中に存在する酸素を除去して酸素が気相を形成しないようにすることにより本発明の鋼を清浄化するために、鋼の溶融状態でアルミニウムが添加されるという事実により鋼に加工不純物として含まれることがあり、したがって残留元素として0.1%まで存在してもよい。しかし、本発明の観点から、アルミニウム含有率はできるだけ低くすることが好ましい。
【0023】
ニオブは、本発明にとって任意元素である。ニオブ含有率は、本発明の鋼に0%~0.1%の間存在する可能性があり、析出強化によって本発明の鋼に強度を付与するよう炭化物又は炭窒化物を形成するために、本発明の鋼に添加される。
【0024】
バナジウムは、本発明の鋼の0%~0.3%の間を構成する任意元素である。バナジウムは炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成することにより鋼の強度を高めるのに有効であり、経済的理由からその上限は0.3%である。これらの炭化物、窒化物又は炭窒化物は、冷却の第2及び第3工程中に形成される。バナジウムの好ましい限度は0~0.2%の間である。
【0025】
鋼の強度を高め、その耐食性を向上させるため、銅を0~0.5%の量で任意元素として加えることができる。そのような効果を得るためには最低0.01%の銅が必要である。しかし、その含有率が0.5%を超えると、銅は表面形態を劣化させる可能性がある。
【0026】
クロムは、本発明にとって任意元素である。本発明の鋼にはクロム含有率が0%~0.5%の間で存在することができる。クロムは鋼に対する耐食性を向上させる元素であるが、0.5%よりも高いクロムの含有率は鋳造後の中心部の共偏析につながる。
【0027】
ホウ素又はマグネシウムのような他の元素は、個々に又は組み合わせて、以下の重量比、すなわち、ホウ素≦0.001%、マグネシウム≦0.0010%で添加することができる。これらの元素は、示された最大含量レベルまでは、凝固の間に結晶粒を微細化することを可能にする。
【0028】
前記鋼の組成の残余は、鉄と加工に起因する不可避の不純物からなる。
【0029】
前記鋼の微細組織は、以下を含む。
【0030】
逆変態オーステナイトは、本発明の鋼のマトリックス相であり、面積分率で少なくとも60%存在する。本鋼の逆変態オーステナイトはニッケルで富化されており、すなわち、本鋼の逆変態オーステナイトは残留オーステナイトと比較してより多量のニッケルを含有する。逆変態オーステナイトは鋼の焼戻し中に形成され、同時にNiで富化される。本発明の鋼の逆変態オーステナイトは、酸性環境に対する耐食性と同様に伸びの両方を付与する。
【0031】
マルテンサイトは、本発明の鋼に面積分率で20%~40%の間で存在する。本発明のマルテンサイトは、フレッシュマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトの両方を含む。フレッシュマルテンサイトは焼鈍後の冷却中に形成され、焼戻し工程中に焼戻される。マルテンサイトは、強度と同様に伸びの両方を本発明の鋼に付与する。
【0032】
ニッケル、チタン及びモリブデンの金属間化合物が本発明の鋼に存在する。この金属間化合物は、加熱(hearing)の間だけでなく、焼き戻し過程の間にも形成される。生成した金属間化合物は粒間金属間化合物及び粒内金属間化合物である。本発明の粒間金属間化合物は、マルテンサイト及び逆変態オーステナイトの両方に存在する。本発明のこれらの金属間化合物は、円柱形又は球形であり得る。本発明の鋼の金属間化合物は、Ni3Ti、Ni3Mo又はNi3(Ti、Mo)金属間化合物として形成される。本発明の鋼の金属間化合物は、本発明の鋼に強度及び特に酸性環境に対する耐食性を付与する。
【0033】
上記の微細組織に加えて、熱間圧延鋼板の微細組織はフェライト、ベイナイト、パーライト及びセメンタイトのような微細組織成分を含まないが、微量で見られることがある。鉄-モリブデン及び鉄ニッケルのような微量の鉄の金属間化合物が存在し得る場合でも、鉄の金属間化合物の存在は鋼の使用特性に重大な影響を及ぼさない。
【0034】
本発明の鋼は、継ぎ目のない管状の製品若しくは鋼板、又はさらには石油及びガス産業又は酸性環境を有する任意の他の産業で使用される構造部品若しくは操作部品にも成形することができる。本発明の例示のための好ましい実施形態において、本発明による鋼板は、以下の方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明に従った化学組成を有する鋼の半完成品鋳造物を提供することからなる。鋳造は、インゴット、ビレット、バーにされるか、薄いスラブ又は薄いストリップ、すなわち、厚さは、スラブの場合は約220mm、薄いストリップの場合は数十ミリメートルまでの範囲である薄いスラブ又は薄いストリップの形態で連続的に行うことができる。
【0035】
例えば、上記の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、ここで、スラブは、中心部偏析を回避するために、連続鋳造工程の間に任意に直接軽圧下を受けた。連続鋳造方法によって提供されるスラブは、連続鋳造の後、高温で直接使用することができ、又は最初に室温まで冷却され、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0036】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、好ましくは少なくとも1150℃であり、1300℃未満でなければならない。スラブの温度が1150℃より低い場合、圧延機に過大な荷重がかかる。したがって、スラブの温度は100%オーステナイト範囲で熱間圧延が完了できるように十分に高いことが好ましい。1275℃を超える温度で再加熱すると、生産性が損なわれ、工業的にも費用がかかる。したがって、好ましい再加熱温度は1150℃~1275℃の間である。
【0037】
本発明の熱間圧延仕上げ温度は、800℃~975℃の間、好ましくは800℃~950℃の間である。
【0038】
次に、このようにして得られた熱間圧延鋼ストリップを熱間圧延仕上げ温度から10℃~Msの間の温度範囲まで冷却する。熱間圧延鋼ストリップを冷却するのに好ましい温度範囲は、15℃~Ms-20℃の間である。
【0039】
その後、熱間圧延鋼ストリップをAe3~Ae3+350℃の焼鈍温度範囲まで加熱する。熱間圧延鋼ストリップは焼鈍温度で30分を超える持続時間保持される。好ましい実施形態において、焼鈍温度範囲は、Ae3+20℃~Ae3+350℃の間、より好ましくは、Ae3+40℃~Ae3+300℃の間である。
【0040】
次に、熱間圧延鋼ストリップを1℃/秒~100℃/秒の間の冷却速度で冷却する。好ましい実施形態において、焼鈍温度で保持した後の冷却のための冷却速度は、1℃/秒~80℃/秒の間、より好ましくは1℃/秒~50℃/秒の間である。熱間圧延鋼ストリップは焼鈍後10℃~Msの間、好ましくは15℃~Ms-20℃の間の温度範囲まで冷却される。この冷却工程の間にフレッシュマルテンサイトが形成され、1℃/sを超える冷却速度により、熱間圧延ストリップが完全に事実上マルテンサイトであることが保証される。
【0041】
次に、熱間圧延鋼ストリップを0.1℃/秒~100℃/秒の間、好ましくは0.1℃/秒~50℃/秒の間、さらに0.1℃/秒~30℃/秒の間の加熱速度で焼戻し温度範囲まで加熱する。この加熱の間及び焼戻しの間に、ニッケル、チタン及びモリブデンの金属間化合物が形成される。この加熱及び焼戻し中に形成された金属間化合物はいずれもNi3Ti、Ni3Mo又はNi3(Ti,Mo)金属間化合物として生じた粒内金属管化合物及び粒間金属間化合物の両方である。焼戻し温度範囲は575℃~700℃の間であり、鋼は30分~72時間の間の持続時間焼戻される。好ましい実施形態において、焼戻し温度範囲は575℃~675℃の間、より好ましくは590℃~660℃の間である。焼戻し保持中にマルテンサイトはオーステナイトに戻り、逆変態オーステナイトを形成する。加熱中に形成される金属間化合物の一部が本発明の焼戻し温度範囲ではオーステナイトを溶解し、ニッケルで富化させ、このニッケルが富化した逆変態オーステナイトが室温で安定である理由により、焼戻し中に形成される逆変態オーステナイトはニッケルで富化される。
【0042】
その後、熱間圧延鋼ストリップを室温まで冷却し、熱間圧延鋼を得る。
【実施例0043】
ここに示される以下の試験、実施例、象徴的例示及び表は、本質的に非制限的であり、例示のみの目的で考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示す。
【0044】
組成の異なる鋼を表1にまとめ、それぞれ表2に規定されている処理パラメータに従って鋼を製造する。その後、表3に試験例中に得られた鋼の微細組織をまとめ、表4に得られた特性の評価結果をまとめた。
【0045】
【0046】
<表2>
表2は、表1の鋼に実施された処理パラメータをまとめたものである。
【0047】
全ての鋼試料のMsを、以下の式に従って算出する。
Ms=764.2-302.6C-30.6Mn-16.6Ni-8.9Cr+2.4Mo-11.3Cu+8.58Co+7.4W-14.5Si
式中、元素の含有率は重量パーセントで表す。
【0048】
一方、Ae3を、以下の式に従って(℃)で計算する。
Ae3=955-350C-25Mn+51Si+106Nb+100Ti+68Al-11Cr-33Ni-16Cu+67Mo
式中、元素の含有率は重量パーセントで表す。
【0049】
【0050】
<表3>
表3は、本発明の鋼及び参考の鋼の両方の微細組織を決定するための走査型電子顕微鏡のような異なる顕微鏡に関する標準に従って行われた試験の結果を例示する。
【0051】
結果を本明細書に明記する。
【0052】
【0053】
表4は、本発明の鋼及び参考の鋼の両方の機械的性質を例示する。引張強さ、降伏強度及び全伸びを決定するために、A25ype試料についてNBN EN ISO 6892-1規格に従って引張試験を実施し、耐食性試験はNACE TM0316に従って降伏強度の少なくとも85%の荷重を用いる方法Bによって実施する。
【0054】
規格に従って実施された種々の機械的試験の結果をまとめた。
【0055】