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特開2023-182737疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤及びそのスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182737
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤及びそのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20231219BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20231219BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231219BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231219BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20231219BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20231219BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231219BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231219BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231219BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
A61K8/9789 ZNA
A61K36/752
A61K36/82
A61P17/16
A61Q19/00
A23L33/105
C12Q1/37
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/50 Q
C12N15/12
C12N15/57
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173131
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2021545038の分割
【原出願日】2019-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 美郷
(72)【発明者】
【氏名】宮井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】光村 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】白土 真紀
(72)【発明者】
【氏名】土師 信一郎
(57)【要約】
【課題】疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤及びそのスクリーニング方法の提供。
【解決手段】本発明の肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現を亢進又は発現低下を抑制することにより、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れを抑制/改善する。本発明のスクリーニング方法により、疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善作用を有する物質を選択することができる。ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を含む肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介し疲労及び/又はストレスによる肌荒れの抑制/改善に有効である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を有効成分として含む、疲労及び/又はストレスによる肌荒れを予防/改善する肌荒れ抑制/改善剤。
【請求項2】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項1に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
【請求項3】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項1又は2に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
【請求項4】
カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介して前記肌荒れを予防/改善する、請求項1~3のいずれか1項に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
【請求項5】
ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を有効成分として含むカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項6】
カスパーゼ14の発現の亢進を介して肌荒れを予防/改善するための、請求項5に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項7】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項5又は6に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項8】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項7に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項9】
ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を含む組成物を対象に投与することにより疲労及び/又はストレスによる肌荒れを予防/改善する美容方法。
【請求項10】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項9に記載の美容方法。
【請求項11】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項9又は10に記載の美容方法。
【請求項12】
カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介して前記肌荒れを予防/改善する、請求項9~11のいずれか1項に記載の美容方法。
【請求項13】
カスパーゼ14の発現亢進又はカスパーゼ14の発現低下の抑制を指標とする疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記カスパーゼ14の発現低下は、コルチゾール増加に起因する、請求項13又は14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項13~15のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定すること;
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現が該薬剤を施す前と比較して上昇する場合、前記薬剤に疲労及び/又はストレスによる肌荒れを抑制/改善する効果があると評価すること;
を含む、前記方法。
【請求項18】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測定は、コルチゾール存在下の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定することにより行われる、請求項17又は18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤及びそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスにより、精神的・肉体的なダメージを受けることはよく知られている。美容の観点では、ストレスにより皮膚の水分保持機能やバリア機能が損なわれることや、乾燥肌、きめの乱れ、ニキビ、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎といった肌トラブルや皮膚疾患を引き起こすことが知られている(特許文献1~3)。また、ストレスが重なって起こると、作業能率が低下した状態、すなわち疲労した状態になることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
現在のライフスタイルには、視覚・聴覚等を介した様々な情報刺激が氾濫しており、このような刺激により、ストレスや疲労が引き起こされる可能性が考えられる。しかしながら、そのような情報刺激による疲労またはストレスが、肌に与える影響についてはこれまであまり調べられてはいなかった。
【0004】
ストレスを評価するマーカーとして、コルチゾールが知られている。コルチゾールはストレスにより分泌が増加するステロイドホルモンであり、「ストレスホルモン」とも称される。コルチゾールは副腎皮質から放出され、抗炎症、免疫抑制、糖代謝、タンパク質代謝、脂質代謝の亢進作用などを有するが、皮膚細胞では、コルチゾールによりフィラグリンやコラーゲンが減少すること(非特許文献2)、ロリクリンの発現が低下すること(非特許文献3)等が報告されている。
【0005】
したがって、疲労やストレスによる肌状態の悪化を抑制できる物質の探索が望まれる。しかしながら、これまでに、どのような物質が疲労やストレス、例えば情報刺激等による疲労やストレス、によるコルチゾールの増加に起因する肌荒れといった肌状態の悪化を抑制するのか十分に解明されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3935636号公報
【特許文献2】特許第4780817号公報
【特許文献3】特許第5661994号公報
【特許文献4】特開2017-160187号公報
【特許文献5】特許第6052719号公報
【特許文献6】特開2013-096826号公報
【特許文献7】特開2011-115108号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Biological Psychiatry Vol.24, No.4, 2013, 200-210
【非特許文献2】http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20180611_2.pdf,POLA技術広報「ストレスが肌のうるおいを奪うメカニズムを解明;ストレスホルモンの影響を解消するオリジナルエキスを開発」(2018年6月11日発行)
【非特許文献3】J Invest Dermatol. 2017, Jul; 137(7): 1474-1483
【非特許文献4】Journal of Psychosomatic Research 69 (2010), 17-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、疲労やストレスによる肌荒れを抑制/改善すべく鋭意研究を行った。その結果、疲労やストレスとの関連性が強いコルチゾール増加によってカスパーゼ14の発現の低下が起こることを発見した。かかる発見に基づき、疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤をスクリーニングする方法を確立した。このようなスクリーニング方法により、疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善作用を有する新規な物質も発見した。
【0010】
本願は、下記の発明を提供する:
(1)ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を有効成分として含む、疲労及び/又はストレスによる肌荒れを予防/改善する肌荒れ抑制/改善剤。
(2)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(1)に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
(3)前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、(1)又は(2)に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
(4)カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介して前記肌荒れを予防/改善する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の肌荒れ抑制/改善剤。
(5)ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を有効成分として含むカスパーゼ14の発現亢進剤。
(6)カスパーゼ14の発現の亢進を介して肌荒れを予防/改善するための、(5)に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
(7)前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、(5)又は(6)に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
(8)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(7)に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
(9)ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を含む組成物を対象に投与することにより疲労及び/又はストレスによる肌荒れを予防/改善する美容方法。
(10)前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、(9)に記載の美容方法。
(11)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(9)又は(10)に記載の美容方法。
(12)カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介して前記肌荒れを予防/改善する、(9)~(11)のいずれか1項に記載の美容方法。
(13)カスパーゼ14の発現亢進又はカスパーゼ14の発現低下の抑制を指標とする疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法。
(14)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(13)に記載のスクリーニング方法。
(15)前記カスパーゼ14の発現低下は、コルチゾール増加に起因する、(13)又は(14)に記載のスクリーニング方法。
(16)前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、(13)~(15)のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
(17)疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定すること;
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現が該薬剤を施す前と比較して上昇する場合、前記薬剤に疲労及び/又はストレスによる肌荒れを抑制/改善する効果があると評価すること;
を含む、前記方法。
(18)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(17)に記載の方法。
(19)前記測定は、コルチゾール存在下の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定することにより行われる、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)カスパーゼ14の発現亢進を介して肌荒れを抑制/改善するツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物。
(21)前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下による肌荒れである、(20)に記載のツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物。
(22)前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、(21)に記載の方法。
(23)カスパーゼ14の発現の亢進又はコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下の抑制を介して肌荒れを予防/改善する、(20)~(22)のいずれか1項に記載のツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現を亢進することや、コルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下を抑制することができる。上記のようにカスパーゼ14の発現が亢進又は発現低下が抑制されると、例えば情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れが抑制/改善される。ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を含む肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現の亢進又は発現低下の抑制を介し疲労及び/又はストレスによる肌荒れの抑制/改善に有効である。また、本発明のスクリーニング方法により選択された肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現を亢進すること、及び/又はコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下を抑制することにより、疲労及び/又はストレスによる肌荒れを抑制/改善する。本発明により、肌の水分保持機能やバリア機能が回復又は強化され、疲労及び/又はストレスによる肌トラブルや皮膚疾患を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実験1の情報ストレス・疲労課題を説明する模式図である。
図2図2は、実験2において測定した、実験1の情報ストレス・疲労課題下におけるTEWL(経皮水分蒸散量)の変化を示す。
図3図3は、実験3において測定した、実験1の情報ストレス・疲労課題下におけるChalder Fatigue Scaleによる疲労度の変化を示す。
図4図4は、実験4において測定した、実験1の情報ストレス・疲労課題下における唾液中コルチゾール量(ng/ml)の経時的変化を示す。
図5図5は、実験5において測定した、コルチゾール濃度とカスパーゼ14の発現量との関係を示す。カスパーゼ14の発現量は、コルチゾールを添加しない場合(-)を1とした相対的なmRNA発現量で示す。
図6図6は、実験6において測定した、コルチゾール存在下におけるカスパーゼ14の発現とツバキ花抽出物又はシークヮーサー抽出物の濃度の関係を示す。カスパーゼ14の発現量は、ツバキ花抽出物又はシークヮーサー抽出物を添加しない場合(-)を1とした相対的なmRNA発現量で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
カスパーゼ14は皮膚の水分保持機能やバリア機能に関与することが知られているシステインプロテアーゼである(特許文献4~7)。カスパーゼ14量又は発現量が低下すると水分保持機能やバリア機能が失われ肌荒れを引き起こすと考えられている。また、上述のように、ストレスやコルチゾール増加により肌荒れを引き起こすことも知られている(非特許文献3)。しかしながら、コルチゾール増加によってカスパーゼ14の発現の低下が引き起こされることはこれまでに報告されていない。驚くことに、本発明者らは情報疲労及び/又は情報ストレスをはじめとする疲労及び/又はストレスによる肌荒れではコルチゾールによってカスパーゼ14の発現低下が起こるような肌状態になることを発見し、肌荒れ状態を模した系をコルチゾールによって構築することを試み、コルチゾール存在下でカスパーゼ14の発現量を指標として発現量を上昇させることができる薬剤をスクリーニングする方法を確立した。
【0014】
本発明は、このような発明者らの知見に基づくものであり、肌荒れ抑制/改善剤およびカスパーゼ14の発現亢進剤(以降これらを総称して「本発明の剤」という場合がある。)およびそのスクリーニング法、並びにそれらを投与することを含む美容方法に関する。本発明の肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現亢進剤からなってもよく、又は含有してもよい。例えば、本発明の肌荒れ抑制/改善剤は、カスパーゼ14の発現を亢進したり、コルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下を抑制することにより、情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れを抑制/改善することができる。
【0015】
本明細書において、肌荒れとは、肌の乾燥、赤み、ニキビ、きめの乱れ、湿疹、かゆみ、黄色化、くすみ、色素沈着、不全角化といった肌状態の悪化を指す。肌荒れは、例えば、カスパーゼ14の発現低下による肌荒れ、情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによる肌荒れ、情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れ、情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因するカスパーゼ14の発現低下による肌荒れである。肌荒れは、TEWL(経皮水分蒸散量)の増加、不全角化を有する細胞数の増加、角層水分量の低下等により評価することができるがこれらの評価方法に限定されず、任意の評価方法、とりわけ、コルチゾール増加による肌荒れ、カスパーゼ14の量又は発現低下による肌荒れ、疲労及び/又はストレス、例えば、情報疲労及び/又は情報ストレス、による肌荒れに関する公知の評価方法が使用できる。
【0016】
現在では、宣伝広告、ニュース、インターネット、SNS、電光表示板、音楽、構内や車内での放送といった、音、映像、写真、文字等の視覚・聴覚等を介した様々な情報による刺激が氾濫している。本明細書において、情報刺激とは、このような各種情報による刺激を指す。情報疲労とは情報刺激がもたらす疲労を指し、情報ストレスとは情報刺激がもたらすストレスを指す。本発明者らは、情報疲労や情報ストレスが肌にTEWLの増加をはじめとする悪影響をもたらすことを発見した。したがって、本発明の肌荒れは情報疲労及び/又は情報ストレスに起因しうる。
【0017】
肌荒れの抑制/改善とは、上記のような肌状態の悪化を抑制/改善することであり、限定されないものの上記肌荒れの評価法と同様の方法により評価できる。ある実施形態では、肌荒れの抑制/改善は、例えばカスパーゼ14の発現を亢進させることにより達成されるか、あるいは、コルチゾールの増加によるカスパーゼ14の発現低下を抑制することにより達成され、コルチゾールの増加は情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労やストレスに起因するものである。
【0018】
カスパーゼ14の発現の亢進とは、例えば、本発明の剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、本発明の剤を付与した場合に、カスパーゼ14の発現量が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、Dunnettの検定等)をもって亢進していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。
【0019】
カスパーゼ14の発現低下の抑制とは、例えば、本発明の剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、本発明の剤を付与した場合に、カスパーゼ14の発現量の低下(例えば、コルチゾールの増加によるカスパーゼ14の発現量の低下)が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、Wilcoxonの順位和検定、t検定等)をもって減少していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%減少していることを意味し得る。
【0020】
カスパーゼ14の発現量は、例えば、実施例のようなRT-PCR法などのPCR法により測定してもよく、市販のキットを用いて測定してもよく、あるいは特許文献4に記載の方法により求めることができるがこれらに限定されず、任意の公知技術が使用できる。
【0021】
本発明の剤は、ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物からなってもよく、又は有効成分として含有してもよい。しかしながら、カスパーゼ14の発現を亢進することができる物質であればこれらに限定されず、例えば、特許文献4等に記載のようなカスパーゼ14の発現亢進剤を用いてもよい。
【0022】
本発明の剤は、上記の有効成分の何れか1種を単独で含有してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有してもよい。
【0023】
本発明の剤は、上記の有効成分を、1種又は2種以上の他の成分、例えば賦形剤、担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0024】
ツバキ(Camellia japonica)は、日本や中国などのアジア地域に広く分布するツバキ科ツバキ属の常緑樹である。ツバキの花は、美白、老化防止、保湿などの用途が知られている(特開2002-371092号公報、特開2013-53108号公報、特表2017-522354号公報)。ツバキ花抽出物は、ツバキの花を抽出した抽出物のことを指す。
【0025】
シークヮーサー(Citrus depressa)は、奄美大島、沖縄、台湾などに分布するミカン科の常緑低木の柑橘類である。シークヮーサーには、保湿、脱糖化、抗炎症作用等を有することが知られている(特開2009-196898号公報、特開2014-76957号公報、国際公開第2007/097286号公報)。シークヮーサー抽出物は、シークヮーサーの果実及び/又は果皮、好ましくは果皮を抽出した抽出物のことを指す。
【0026】
上述の植物の抽出物は、化粧品原料や健康食品材料として市販のものを使用してもよく、常法により得てもよい。抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、原料植物を抽出溶媒とともに常温又は加熱して浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。植物体をそのまま使用することもできるが、顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0027】
抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水性溶媒、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、あるいは有機溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、1、3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0028】
このような抽出操作により、有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により凍結乾燥などにより濃縮あるいは任意の溶媒で希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0029】
また、原料の植物を圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので、抽出物の代わりに圧搾液を使用することもできる。
【0030】
また、本願は、本発明の剤を含む組成物も提供する。本発明の組成物は、化粧品組成物又は食品組成物であってもよい。本発明の組成物は、例えば、情報疲労や情報ストレス等の疲労やストレスによる肌荒れを抑制/改善するための組成物であってもよい。
【0031】
また、本願は、本発明の剤又は組成物を対象に投与することにより、情報疲労や情報ストレス等の疲労やストレスによる肌荒れを予防/改善する美容方法も提供する。本発明の方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0032】
本発明の剤又は組成物を投与する対象は、情報疲労や情報ストレス等の疲労やストレスによる肌荒れが客観的又は主観的に認められる対象であっても、かかる疲労やストレスによる肌荒れを予防したいと希望する対象であってもよい。例えば、TEWLが高い、不全角化を有する細胞数が多い、等と判断された対象であってもよく、あるいは、疲労やストレスによる肌荒れ、例えば、肌の乾燥、赤み、ニキビ、きめの乱れ、湿疹、かゆみ等が気になる対象であってもよい。
【0033】
本発明の剤又は組成物は、外用投与または経口投与など任意の経路により投与できる。外用投与の形態としては、例えば、クリーム、乳液、液体、シート、スプレー、ゲルなど任意に選択することができる。経口投与の形態としては、例えば、錠剤、サプリメント、飲料、粉末など任意に選択することができる。
【0034】
本発明の化粧品組成物は、乳液、クリーム、美容液、ローション、パック、洗顔料、石鹸、ボディソープ、シャンプー等の各種化粧品であってもよく、液状、乳液状、クリーム状、固形状、シート状、スプレー状、ゲル状、泡状、パウダー状等の様々な形態であり得る。また、本発明の食品組成物は、粉末、飲料、または錠剤であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。
【0035】
また、投与頻度は、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、都度投与等任意に選択できるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明の剤又は組成物におけるツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物等の有効成分の配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物の配合量は、本発明剤又は組成物の総重量当たり0.0001~100重量%、0.0001~90重量%、0.001~50重量%、0.01~5重量%、0.01~1重量%、0.01~0.5重量%、0.05~0.2重量%、0.1重量%、等とすることができるが、本発明の効果が発揮されれば限定されない。
【0037】
本発明の剤又は組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。本発明の剤又は組成物の賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
その他の添加剤として、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、油分、水、アルコール類、キレート剤、シリコーン類、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等の公知のものを適宜選択して使用できる。
【0039】
さらに、本願は、カスパーゼ14の発現亢進又はカスパーゼ14の発現低下の抑制を指標とする、情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法も提供する。情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによる肌荒れ又はカスパーゼ14の発現低下は、コルチゾール増加に起因するものであってもよい。本発明のスクリーニング方法は、皮膚試料に候補薬剤を施すこと;候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定すること;前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現が該薬剤を施す前と比較して上昇する場合、前記薬剤に情報疲労及び/又は情報ストレス等の疲労及び/又はストレスによる肌荒れを抑制/改善する効果があると評価すること;を含んでもよく、測定に際し、皮膚試料にコルチゾールを添加してもよい。
【0040】
皮膚試料は、採取後の皮膚試料、例えば、ヒト等の動物から採取された後のex vivoの状態の皮膚試料であってもよいし、培養皮膚細胞、例えば、培養角化細胞又は培養線維芽細胞といったin vitroの状態であってもよい。あるいは、3D皮膚モデルなどの人工皮膚試料であってもよい。皮膚試料は、カスパーゼ14の発現量を測定することができれば限定されない。
【0041】
また、本願は、カスパーゼ14の発現の亢進又はコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下の抑制を介して、コルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下による肌荒れを抑制/改善するツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物も提供する。
【実施例0042】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0043】
実験1:情報ストレス・疲労課題
視覚及び聴覚に関する課題実験を行った。試験内容を理解し、試験参加への自由意志による同意が得られている28歳から34歳の健常女性19名を被験者として採用し、ストレス・疲労と肌の状態の関連性について検討を行った。
【0044】
上記被験者に以下の2バック課題および音楽視聴課題を同時に1日30分実施してもらうことを第1日目から第5日目まで毎日連続して5日間行い、ストレス・疲労を与えた。第1日目から各試験日について、試験担当医師による心理面・肉体面に関する問診を行い、試験継続について本人意思を確認した上で、試験を継続した。
【0045】
2バック課題
図1上図のような2バック課題を行った。具体的には、画面にA,B,C,Dの文字を1文字ずつランダムに切り替えて表示した。文字は一度に1文字のみ、500ミリ秒間提示され、消え、2000ミリ秒後に次の文字が提示されることを繰り返した。被験者はこれらの一連の文字を提示され、現在提示されている画面に表示される文字が2回前に表示された文字と同じか否かを判断し、キーボードの所定のキーを押して回答するように指示された。
【0046】
音楽視聴課題
図1下図のように音楽視聴課題を行った。具体的には、被験者にイヤホンを装着するように指示し、実験開始と同時にイヤホンを通して音楽を30分間流した。音楽は、ボーカルとバックミュージックの入ったポップミュージックであり、著作権フリーものを使用した。30分間の間に数回音楽が5秒間停止し、再開することを繰り返した。被験者は、音楽が止まった時に手を挙げるように指示された。
【0047】
実験2:ストレス・疲労による肌への影響
ストレス・疲労による肌への影響を調べるために、実験1の試験の第1日目と第5日目について、課題実施前に肌状態を比較した。肌状態の指標として、TEWL(経皮水分蒸散量)を測定した。TEWLは、Delfin社製のVapo meterを用いて測定した。
【0048】
結果を図2に示す。図2のように、TEWLは1日目に対し5日目には有意な増加が見られた。この結果により、ストレス・疲労によりバリア機能が損なわれることが示唆される。同様に、ストレス・疲労の蓄積に伴う未熟な角層細胞数の増加が見られた(データ示さず)。
【0049】
実験3:課題による疲労度の変化
課題が疲労に与える影響を調べるために、実験1の試験の第1日目と第5日目について、課題実施前に疲労度を比較した。疲労度は、非特許文献4に記載の質問票を用い被験者より得られた回答に基づくChalder Fatigue Scaleを指標として評価した。
【0050】
結果を図3に示す。図3のように、Chalder Fatigue Scaleは1日目に対し5日目には有意な増加が見られた。この結果により、課題により疲労が増加することがわかった。
【0051】
実験4:課題によるコルチゾール量の増加
課題によるコルチゾールの量の変化を調べるために、実験1の各試験日について、課題実施直後に被験者の唾液を採取し、唾液中のコルチゾール値をSalimetrics社のCortisol EIA kitを用い定量した。ベースラインとして、課題開始日の3日前である事前測定日に、被験者に課題と同じ時間安静してもらい、安静実施後の唾液を採取し、上記と同様の方法で唾液中コルチゾール値を測定し、その値をコントロール値とした。なお、コルチゾール値は時間によって変化することが知られているため、各試験日の唾液採取時間が同じになるよう試験実施時間を調整した。
【0052】
結果を図4に示す。図4のように、コルチゾールは第1日目から増加した。
【0053】
実験5:コルチゾールとカスパーゼ14との関係
正常ヒト新生児表皮角化細胞(クラボウ)を、Humedia-KG2(クラボウ)培地を含むプレートに播種し、37℃、5%CO2にて培養した。播種2日後に、新鮮なHumedia-KB2培地にハイドロコルチゾン以外の増殖添加剤を加えた培地(以下、Humedia-KG2(コルチゾール(-))培地と記載する)に培地交換を行った。1日後、1.5mM Ca2+および各濃度(300nM、1μM、2μM)になるようにコルチゾールを添加したHumedia-KG2(コルチゾール(-))培地に培地交換を行い、24時間後に細胞をサンプリングした。サンプリングした細胞から、Roche社のRNA抽出キット(MagNA Pure LC RNA Isolation Kit-High Performace)を使用してRNAを抽出し、下記配列のPCRプライマー(C14プライマー)を用いて、RT-PCR法によりカスパーゼ14のmRNA発現量を測定した。
C14 プライマー配列
F:TGCACGTTTATTCCACGGTA
R:TGCTTTGGATTTCAGGGTTC
【0054】
同様に、ハウスキーピング遺伝子であるPGK1の発現量を、PGK1プライマー(Takarabio社、Human Housekeeping Gene Primer Set)を用いて定量し内部標準として用い、PGK1の発現量に対するカスパーゼ14のmRNA発現量を相対値として算出した。
【0055】
結果を図5に示す。図5に示すように、コルチゾールを添加すると、カスパーゼ14の発現が有意に低下することが示された。
【0056】
以上の結果により、疲労やストレスによる肌荒れではコルチゾールによってカスパーゼ14の発現低下が起こるような肌状態になることがわかった。よって、以下のように肌荒れ状態を模した系をコルチゾールを用いて構築し、疲労・ストレスによる肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニングを行った。
【0057】
実験6:コルチゾール存在下におけるカスパーゼ14の発現を亢進する疲労・ストレスによる肌荒れ抑制/改善作用を有する物質のスクリーニング方法
候補薬剤として、肌荒れ抑制/改善作用があるといわれている植物抽出物を含む合計74種類の原料を用いてスクリーニングを行った。ツバキ花抽出物には、日油(株)社製の「ツバキ花エキスBG」)を使用し、シークヮーサー抽出物には、日油(株)社製の「シークヮーサーエキスBG」を使用した。「ツバキ花エキスBG」は、1%ツバキ花抽出物および、49.5% 1,3-BGおよび49.5%水を含む。「シークヮーサーエキスBG」は、1.4%シークヮーサー果皮抽出物、59.2% 1,3-BGおよび39.4%水を含む。
【0058】
実験5と同様に、正常ヒト新生児表皮角化細胞(クラボウ)をHumedia-KG2(クラボウ)培地を用いて播種し、37℃、5%CO2にて培養した。播種1日後に、新鮮なHumedia-KG2(コルチゾール(-))培地に培地交換を行った。1日後、1.5mM Ca2+、1μMコルチゾール、および上記シークヮーサー抽出物又はツバキ花抽出物を0.10%(w/w)の濃度となるように添加したHumedia-KG2(コルチゾール(-))培地に培地交換を行った。対照として、これらの抽出物を含まない以外は同じ組成の培地を使用した。24時間後に細胞をサンプリングした。サンプリングした細胞から、実験5と同様の方法で、カスパーゼ14のmRNA発現量を測定し、PGK1を内部標準として用い、カスパーゼ14のmRNA発現量をPGK1の発現量に対する相対値として算出した。
【0059】
結果を図6に示す。図6より、74種の候補薬剤のうち、ツバキ花抽出物およびシークヮーサー抽出物を用いた場合、対照と比較してコルチゾール存在下におけるカスパーゼ14の発現が増加した。これらの抽出物を、カスパーゼ14の発現亢進作用又はコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下を抑制することにより疲労・ストレスによる肌荒れを抑制/改善する物質として選択した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ花抽出物及び/又はシークワーサー抽出物を有効成分として含むカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項2】
カスパーゼ14の発現の亢進を介して肌荒れを予防/改善するための、請求項に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項3】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項又はに記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項4】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項に記載のカスパーゼ14の発現亢進剤。
【請求項5】
カスパーゼ14の発現亢進又はカスパーゼ14の発現低下の抑制を指標とする疲労及び/又はストレスによる肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記カスパーゼ14の発現低下は、コルチゾール増加に起因する、請求項又はに記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記肌荒れは、疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加によるカスパーゼ14の発現低下に起因する肌荒れである、請求項のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
疲労及び/又はストレスによるコルチゾール増加に起因する肌荒れ抑制/改善剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定すること;
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現が該薬剤を施す前と比較して上昇する場合、前記薬剤に疲労及び/又はストレスによる肌荒れを抑制/改善する効果があると評価すること;
を含む、前記方法。
【請求項10】
前記疲労及び/又はストレスは、情報疲労及び/又は情報ストレスである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記測定は、コルチゾール存在下の皮膚試料におけるカスパーゼ14の発現を測定することにより行われる、請求項又は10に記載の方法。