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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182740
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20231219BHJP
   F02M 25/025 20060101ALI20231219BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20231219BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20231219BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20231219BHJP
   F02M 43/04 20060101ALI20231219BHJP
   F02M 67/14 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F02M21/02 S
F02M25/025
F02D41/34 100
F02D19/02 B
F02D19/12 A
F02M43/04
F02M67/14
F02M21/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173463
(22)【出願日】2023-10-05
(62)【分割の表示】P 2021111457の分割
【原出願日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020149674
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020209144
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306026810
【氏名又は名称】株式会社アネブル
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 啓壮
(72)【発明者】
【氏名】古井 隆
(72)【発明者】
【氏名】杉野 忠
(57)【要約】
【課題】内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、内燃機関の高出力化を実現する。
【解決手段】燃料噴射装置28は、水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタ30を備える。水素ガス噴射用インジェクタ30から噴射された水素ガスを流すエジェクタ本体71を備える。エジェクタ本体71の噴射口71bは、内燃機関10の吸気ポート16内において吸気バルブ17の傘部17bに近接する位置で開口される。エジェクタ本体71内に水を噴射する水噴射用インジェクタ50を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタを備える燃料噴射装置であって、
前記水素ガス噴射用インジェクタから噴射された前記水素ガスを流す噴流パイプを備えており、
前記噴流パイプの噴射口は、内燃機関の吸気ポート内において吸気バルブの傘部に近接する位置で開口されている、燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置であって、
前記噴流パイプ内に水を噴射する水噴射用インジェクタを備えている、燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射装置であって、
前記水素ガスの流れを利用して前記水噴射用インジェクタから噴射された前記水を吸入し、前記水素ガスと前記水とを混合するエジェクタを備えており、
前記噴流パイプは、ディフューザを有し、前記エジェクタの外郭を形成するエジェクタ本体として用いられている、燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の燃料噴射装置であって、
前記水素ガス噴射用インジェクタ及び前記水噴射用インジェクタの作動を制御する制御装置を備えており、
前記制御装置は、前記吸気バルブの閉弁直前において前記水素ガスを噴射するように前記水素ガス噴射用インジェクタを作動させると共に、該水素ガス噴射用インジェクタの前記水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において前記水を噴射するように前記水噴射用インジェクタを作動させる、燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つに記載の燃料噴射装置であって、
前記噴流パイプに超音波振動を付与する超音波振動子を備えている、燃料噴射装置。
【請求項6】
内燃機関の筒内に水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタを備える筒内噴射式の燃料噴射装置であって、
水を噴射する水噴射用インジェクタと、
前記水素ガスの流れを利用して前記水噴射用インジェクタから噴射された前記水を吸入し、前記水素ガスと前記水とを混合するエジェクタと、を備えており、
前記エジェクタは、前記水素ガス噴射用インジェクタの上流側に配置されている、燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料噴射装置であって、
前記水素ガス噴射用インジェクタ及び前記水噴射用インジェクタの作動を制御する制御装置を備えており、
前記制御装置は、前記内燃機関の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において前記水素ガスを噴射するように前記水素ガス噴射用インジェクタを作動させると共に、該水素ガス噴射用インジェクタの前記水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において前記水を噴射するように前記水噴射用インジェクタを作動させる、燃料噴射装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の燃料噴射装置であって、
前記エジェクタに吸入される潤滑油を噴射する潤滑油噴射用インジェクタを備えている、燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。詳しくは、水素内燃機関(水素エンジン)に用いられる燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素内燃機関に用いられる燃料噴射装置には、内燃機関の燃焼室に吸入される空気に水素ガスを噴射する吸気ポート噴射式(予混合燃焼方式、外部混合方式)がある。図9は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。図9に示すように、内燃機関110はシリンダブロック111及びシリンダヘッド112を有する。シリンダブロック111の各筒内にピストン113が配置されている。シリンダブロック111とシリンダヘッド112とピストン113とにより燃焼室114が形成されている。シリンダヘッド112には、燃焼室114に連通する吸気ポート116及び排気ポート118が形成されている。
【0003】
シリンダヘッド112には、吸気ポート116の下流側開口端を開閉する吸気バルブ117、及び、排気ポート118の上流側開口端を開閉する排気バルブ119が配置されている。シリンダヘッド112には、燃焼室114の頂部に位置する点火プラグ121が配置されている。シリンダヘッド112には、吸気ポート116の上流側に連通する吸気通路124を有する吸気管123が接続されている。吸気管123には水素ガス噴射用インジェクタ126が配置されている。水素ガス噴射用インジェクタ126の先端部(水素ガス噴射部)は、吸気管123の上壁部において吸気通路124に露出するように配置されている。水素ガス噴射用インジェクタ126により水素ガスが吸気バルブ117に向けて噴射される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸気ポート噴射式において、水素ガス噴射用インジェクタ126は、水素ガスを吸気ポート116内に低い噴射圧力で噴射するため、技術的には簡単ではあるが、次に記載する問題がある。
(1)吸入空気(気体)と水素ガス(気体)とが吸気ポート116内で予混合されながら燃焼室114内に導入されるため、吸入空気が筒内に入りにくい。そのため、吸入空気の充填効率が低くなり、内燃機関110の高出力化が難しい。
(2)最小点火エネルギーが小さく、火炎伝播速度が速いため、プレイグニッション、ノック等の異常燃焼が発生しやすい。そのため、圧縮比を大きくすることが困難で、熱効率が低い。
(3)吸気ポート116内に噴射された水素ガスが残留しやすいため、バックファイア(異常燃焼)が発生しやすい。
(4)燃焼速度が速いため、NOxの発生量が多い。NOxの発生量を希薄燃焼で低減することができるが、内燃機関110の高出力化が難しい。
【0005】
ちなみに、従来には、吸気ポート噴射式の他、内燃機関の筒内(燃焼室内)に向けて水素ガスを直接噴射する筒内噴射式(内部混合方式)の燃料噴射装置がある。筒内噴射式は、吸気バルブが閉じた後で筒内に水素ガスが噴射されるため、吸気ポート噴射式と比べて、異常燃焼(プレイグニッション、ノッキング、バックファイヤー)の抑制することができる。また、筒内に多量の空気が入るため、吸入空気の充填効率が高く、内燃機関の高出力化が可能である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、内燃機関の高出力化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題は、次の手段により解決することができる。
【0008】
第1の手段は、水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタを備える燃料噴射装置であって、前記水素ガス噴射用インジェクタから噴射された前記水素ガスを流す噴流パイプを備えており、前記噴流パイプの噴射口は、内燃機関の吸気ポート内において吸気バルブの傘部に近接する位置で開口されている、燃料噴射装置である。
【0009】
第1の手段によると、水素ガス噴射用インジェクタから噴射された水素ガスを、噴流パイプを介して、内燃機関の吸気ポート内において吸気バルブの傘部に近接する位置で噴射させることができる。これにより、燃焼室の近くで水素ガスを噴射させることで、高速噴流の効果により吸気行程後半の短期間噴射が可能となり、プレイグニッション、ノック等の異常燃焼の発生を抑制することができる。また、吸気ポート内に水素ガスが残留しにくくなるため、バックファイヤー(異常燃焼)の発生を抑制することができる。また、吸気ポート内での吸入空気(気体)と水素ガス(気体)との予混合を抑制することにより、筒内への吸入空気の充填効率を向上させることができる。また、筒内噴射に準じた水素ガスの噴射(吸気行程後半の短期間噴射)を行えることにより、プレイグ、ノック等の異常燃焼の発生が抑制できるため、高圧縮比化による熱効率向上が期待できる。よって、従来の吸気ポート噴射式の燃料噴射装置の問題を改善し、内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、筒内への吸入空気の充填効率の向上により、内燃機関の高出力化を実現することができる。
【0010】
第2の手段は、第1の手段において、前記噴流パイプ内に水を噴射する水噴射用インジェクタを備えている、燃料噴射装置である。
【0011】
第2の手段によると、水噴射用インジェクタから噴射された水が噴流パイプ内で水素ガスと混合される。水は液体で供給されるため慣性力により、噴流パイプ内で流れの乱れを作りながら水素ガスと水との気液混合体を生成することができる。この高速噴流の気液混合体により、水が気化する際の気化潜熱によって、圧縮端温度が低下されることで、筒内に投入される吸入空気の充填効率を向上させることができる。ひいては、ノックの発生を一層抑制することができるため圧縮比を上げることができる。また、水は不活性ガスなので、燃焼速度が緩慢になり、適正な燃焼速度で水素ガスを燃焼させることができるため、NOxの発生量を低減することができる。
【0012】
第3の手段は、第2の手段において、前記水素ガスの流れを利用して前記水噴射用インジェクタから噴射された前記水を吸入し、前記水素ガスと前記水とを混合するエジェクタを備えており、前記噴流パイプは、ディフューザを有し、前記エジェクタの外郭を形成するエジェクタ本体として用いられている、燃料噴射装置である。
【0013】
第3の手段によると、エジェクタにより、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタから噴射された水が吸入され、水素ガスと水とが混合される。これにより、水噴射用インジェクタの水噴射圧力を低圧化させると共に、水素ガスと水とのミキシング性を向上することができる。また、噴流パイプをエジェクタ本体として用いることができる。
【0014】
第4の手段は、第2又は3の手段において、前記水素ガス噴射用インジェクタ及び前記水噴射用インジェクタの作動を制御する制御装置を備えており、前記制御装置は、前記吸気バルブの閉弁直前において前記水素ガスを噴射するように前記水素ガス噴射用インジェクタを作動させると共に、該水素ガス噴射用インジェクタの前記水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において前記水を噴射するように前記水噴射用インジェクタを作動させる、燃料噴射装置である。
【0015】
第4の手段によると、制御装置により、吸気バルブの閉弁直前において水素ガス噴射用インジェクタが作動されることにより、水素ガス噴射用インジェクタから水素ガスが噴射されると共に、水素ガス噴射用インジェクタの水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタが作動されることにより、水噴射用インジェクタから水が噴射される。これにより、圧縮端温度の低下と成層燃焼とを実現し、プレイグニッション、ノックなどの異常燃焼の発生を効果的に抑制することができる。また、吸気バルブが開いて吸入空気が正の方向に流れているタイミングで、水素ガスと水との気液混合体が噴流パイプから噴射されるため、吸気ポート内に水素ガスが残留しにくく、バックファイヤーの発生を抑制することができる。
【0016】
第5の手段は、第2~4のいずれか1つの手段において、前記噴流パイプに超音波振動を付与する超音波振動子を備えている、燃料噴射装置である。
【0017】
第5の手段によると、超音波振動子による超音波振動が噴流パイプに付与される。これにより、噴流パイプ内を通過する水素ガスと水との気液混合体の流速を高め、気液混合体の噴霧速度を高速化することができる。
【0018】
第6の手段は、内燃機関の筒内に水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタを備える筒内噴射式の燃料噴射装置であって、水を噴射する水噴射用インジェクタと、前記水素ガスの流れを利用して前記水噴射用インジェクタから噴射された前記水を吸入し、前記水素ガスと前記水とを混合するエジェクタと、を備えており、前記エジェクタは、前記水素ガス噴射用インジェクタの上流側に配置されている、燃料噴射装置である。
【0019】
第6の手段によると、筒内噴射式の燃料噴射装置であるため、内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、筒内への吸入空気の充填効率の向上により内燃機関の高出力化を実現することができる。また、エジェクタにより、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタから噴射された水が吸入され、水素ガスと水とが混合される。これにより、水噴射用インジェクタの水噴射圧力を低圧化させると共に、水素ガスと水とのミキシング性を向上することができる。また、水素ガスと水との混合物が水素ガス噴射用インジェクタから筒内に噴射されることにより、水が気化する際の気化潜熱によって、圧縮端温度が低下されることで、高圧縮比化が可能となり、熱効率を向上することができる。また、水は不活性ガスなので、燃焼速度が緩慢になり、適正な燃焼速度で水素ガスを燃焼させることができるため、NOxの発生量を低減することができる。また、エジェクタが水素ガス噴射用インジェクタの上流側に配置されているため、水噴射用インジェクタに対する燃焼ガス及び凝縮水の接触を回避し、水噴射用インジェクタの耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0020】
第7の手段は、第6の手段において、前記水素ガス噴射用インジェクタ及び前記水噴射用インジェクタの作動を制御する制御装置を備えており、前記制御装置は、前記内燃機関の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において前記水素ガスを噴射するように前記水素ガス噴射用インジェクタを作動させると共に、該水素ガス噴射用インジェクタの前記水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において前記水を噴射するように前記水噴射用インジェクタを作動させる、燃料噴射装置である。
【0021】
第7の手段によると、制御装置により、内燃機関の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において水素ガス噴射用インジェクタが作動される。これにより、水素ガス噴射用インジェクタから水素ガスが筒内に噴射される。このため、水素ガス噴射用インジェクタの噴射圧力を低く設定することが可能となる。また、水素ガス噴射用インジェクタの水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタが作動されることにより水噴射用インジェクタから水が噴射される。
【0022】
第8の手段は、第6又は7の手段において、前記エジェクタに吸入される潤滑油を噴射する潤滑油噴射用インジェクタを備えている、燃料噴射装置である。
【0023】
第8の手段によると、潤滑油噴射用インジェクタから噴射された潤滑油が、エジェクタに吸入され、水素ガス噴射用インジェクタ内を通過する。これにより、内燃機関の熱害による水素ガス噴射用インジェクタのバルブ体の摺動不良や焼き付きの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の燃料噴射装置によると、内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、内燃機関の高出力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態1にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図2】水素ガス噴射用インジェクタを示す断面図である。
図3】水噴射用インジェクタを示す断面図である。
図4】エジェクタを示す断面図である。
図5】燃料供給システムを示す構成図である。
図6】ECUの噴射制御にかかるタイムチャートである。
図7】実施形態2にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図8】実施形態3にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図9】従来例にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図10】実施形態4にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図11】実施形態5にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図12】実施形態6にかかる内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
図13】燃料噴射装置を示す断面図である。
図14】燃料供給システムを示す構成図である。
図15】燃料供給システムの別例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0027】
[実施形態1]
本実施形態に係る燃料噴射装置は、自動車等の車両に搭載される内燃機関(エンジン)に用いられるものである。内燃機関は、水素ガスを燃料とする多気筒(例えば4気筒)のレシプロタイプの火花点火式水素エンジンである。図1は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。
【0028】
(内燃機関)
図1に示すように、内燃機関10は、水素内燃機関であり、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12を有する。シリンダブロック11の各筒内にピストン13が配置されている。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とピストン13とにより燃焼室14が形成されている。シリンダヘッド12には、燃焼室14に連通する吸気ポート16及び排気ポート18が形成されている。
【0029】
シリンダヘッド12には、吸気ポート16の下流側開口端を開閉する吸気バルブ17、及び、排気ポート18の上流側開口端を開閉する排気バルブ19が配置されている。吸気バルブ17は、ステム17a及び傘部17bを有する。なお、図1において、吸気バルブ17の閉弁直前の状態が実線17で示されている。また、吸気バルブ17の閉弁状態が二点鎖線17で示されている。
【0030】
シリンダヘッド12には、燃焼室14の頂部に位置する点火プラグ21が配置されている。シリンダヘッド12には、吸気ポート16の上流側に連通する吸気通路24を有する吸気管23が接続されている。
【0031】
(燃料噴射装置)
燃料噴射装置28は、水素ガス噴射用インジェクタ30、水噴射用インジェクタ50及びエジェクタ70を備えている。なお、燃料噴射装置28は、シリンダヘッド12に設置された筐体(不図示)に一体的に保持されている。
【0032】
(水素ガス噴射用インジェクタ30)
図2は水素ガス噴射用インジェクタを示す断面図である。図2に示すように、水素ガス噴射用インジェクタ30は、水素ガスを噴射する電磁弁構造を有する。水素ガス噴射用インジェクタ30は、コア31と電磁ソレノイド32とボデー33とバルブ体35とスプリング37とシート39とを備えている。コア31は、水素脆化に強い磁性材料により筒状に形成されている。コア31の軸方向の中間部には、アジャストパイプ43が圧入により取り付けられている。コア31の上流側端部(図2において上端部)にはストレーナ44が取り付けられている。
【0033】
電磁ソレノイド32は、コア31の下流側端部(図2において下端部)を取り囲むように設けられている。電磁ソレノイド32は、ボビン32aとコイル32bとハウジング32cとを有する。ボビン32aはコア31に固定されている。コイル32bはボビン32aに巻装されている。ハウジング32cは、磁性材料によりC字筒状に形成されている。ハウジング32c内にボビン32a及びコイル32bが収容されている。
【0034】
電磁ソレノイド32を含むコア31の周囲は、樹脂製のケース41により覆われている。ケース41には、外部コネクタ(不図示)を接続するコネクタ41aが形成されている。コネクタ41aには、コイル32bに接続された端子ピン42が配置されている。端子ピン42は、外部コネクタを介して、制御装置(以下、「ECU」と表記する)60(図1参照)に電気的に接続されている。ECU60によって、水素ガス噴射用インジェクタ30の作動が制御(噴射制御)すなわち水素ガスを噴射すべきタイミングでコイル32bが通電される。
【0035】
ボデー33は、水素脆化に強い磁性材料により筒状に形成されている。ボデー33は、コア31の下流側(図2において下側)に同心状に配置されている。ボデー33は、非磁性材からなるスリーブ45を介して、コア31に液密に接続されている。スリーブ45は、コア31の外周側に嵌合されかつ溶接により固定される一方、ボデー33の内周側に嵌合されかつ溶接されている。ボデー33の上流側端部(図2において上端部)はケース41により覆われている。
【0036】
バルブ体35は、ボデー33内に対して軸方向(図2において上下方向)に移動可能に配置されている。バルブ体35は、水素脆化に強い磁性材料により中空筒状に形成されている。バルブ体35の中空部はコア31の中空部と連通されている。バルブ体35の上流側端部(図2において上端部)にはアーマチャ部35aが形成されている。
【0037】
バルブ体35の下流側端部(図2において下端部)には、バルブ体35の開口端部を閉鎖するバルブ部35bが形成されている。アーマチャ部35aとバルブ部35bとは筒状部35cにより同心状に接続されている。筒状部35cには、バルブ部35b寄りの位置において径方向に貫通する連通孔35dが形成されている。連通孔35dにより筒状部35cの内外が連通されている。バルブ体35のバルブ部35bの先端面(図2において下端面)の中央部には円形状の凹部が形成されており、その凹部にゴム製の円形板状のシール部材36が焼き付けにより接着されている。
【0038】
スプリング37は、バルブ体35とアジャストパイプ43との対向面間に介在されている。スプリング37は金属製のコイルスプリングからなる。スプリング37の弾性により、バルブ体35が下流側(図2において下方)へ付勢されている。アジャストパイプ43及びスプリング37は、水素脆化に強い金属材料で形成されている。
【0039】
シート39は、ボデー33の下流側端部(図2において下端部)内に嵌合されかつ溶接により固定されている。シート39は、水素脆化に強い金属製で、有底円筒形状に形成されており、底側のシート部39aが上流側(図2において上側)に向けて配置されている。シート部39aには噴射孔39bが形成されている。バルブ体35とシート39とから弁部47が構成されている。ボデー33にはゴム製のシール部材49が設けられている。
【0040】
水素ガス噴射用インジェクタ30において、電磁ソレノイド32のコイル32bの非通電時には、スプリング37の付勢によりバルブ体35のシール部材36がシート39のシート部39aに弾性的に当接すると共にバルブ部35bの外周部がシート39のシート部39aに当接すなわち着座する。これにより、噴射孔39bが密閉状態に閉じられた閉弁状態となる。このため、水素ガスは、シート39の噴射孔39bから噴射されない。この状態では、水素ガスは、コア31、アジャストパイプ43及びバルブ体35の内部空間、バルブ体35の連通孔35dを介して、バルブ体35とボデー33とにより画定された空間部に流入している。
【0041】
また、コイル32bの通電時には、スプリング37の付勢に抗してバルブ体35が後退されることで、シート39のシート部39aからシール部材36及びバルブ部35bが離間すなわち離座する。これにより、噴射孔39bが開かれた開弁状態となる。このため、水素ガスが噴射孔39bから噴射される。水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガス噴射圧力は、例えば0.5~1.0MPaである。
【0042】
水素ガス噴射用インジェクタ30の電磁ソレノイド32は、コイル32bに給電する電流のオン・オフにより、基本的に「開」及び「閉」の2位置で用いられる。つまり、水素ガス噴射用インジェクタ30は、電磁ソレノイド32での開時間及び開閉タイミングを変えることで、水素ガスの噴射量を制御する。ECU60(図1参照)は、電磁ソレノイド32のコイル32bに給電するパルス状励磁電流のデューティ比を変化させるデューティ制御を行う。なお、デューティ比とは、パルス状励磁電流のON時間を、パルス状励磁電流のON時間とOFF時間とを加算したスイッチング周期で除したものである。水素ガス噴射用インジェクタ30は、ECU60からの噴射信号の入力による作動により水素ガスを噴射する。
【0043】
ECU60(図1参照)は、機関制御に係る各種処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムや機関制御に必要な情報を記憶するメモリ、水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の駆動回路等を備えて構成されている。ECU60には、機関運転状態を検出するクランクセンサ、アクセルセンサ、ノックセンサ、エアフロメータ、冷却水温センサ等が接続されている。ECU60は、各種センサの検出信号によって把握される内燃機関10の運転状況に応じて、噴射制御や点火時期制御を始めとする各種機関制御を実施する。ECU60による水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の噴射制御については後で説明する。
【0044】
(水噴射用インジェクタ50)
図3は水噴射用インジェクタを示す断面図である。水噴射用インジェクタ50は、水を噴射する電磁弁構造を有する。水噴射用インジェクタ50の基本的構成は、水素ガス噴射用インジェクタ30(図2参照)の基本的構成と略共通である。このため、水噴射用インジェクタ50において、水素ガス噴射用インジェクタ30と共通する構成要素及び構成部分には、下2桁を共通とする200番台の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図3に示すように、水噴射用インジェクタ50は、水素ガス噴射用インジェクタ30の弁部47(図2参照)とは異なる構成の弁部247を有する。弁部247は、バルブ体235とシート239とから構成されている。
【0046】
バルブ体235は、アーマチャ部材235aとバルブ部材235bと筒状部材235cとを有する。アーマチャ部材235aは、磁性材料により短筒状に形成されている。アーマチャ部材235aは、ボデー233の上流側端部(図3において上端部)内に軸方向に移動可能に配置されている。アーマチャ部材235aの中空部は、コア231の中空部と連通されている。
【0047】
筒状部材235cは、金属材料によって中空筒状に形成されている。筒状部材235cの上流側端部(図3において上端部)は、アーマチャ部材235aに溶接等により同心状に接続されている。筒状部材235cは、アーマチャ部材235aの外径よりも小さい外径を有する。筒状部材235cの中空部は、アーマチャ部材235aの中空部と連通されている。筒状部材235cには、径方向に貫通する連通孔235dが形成されている。
【0048】
バルブ部材235bは、金属材料によって球状に形成されている。バルブ部材235bは、筒状部材235cの下流側端部(図3において下端部)に対して溶接により接続されている。筒状部材235cの下流側の開口端部がバルブ部材235bにより閉鎖されている。
【0049】
シート239は、ボデー233の下流側端部(図3において下端部)内に嵌合されかつ溶接により固定されている。シート239は、金属製で、有底円筒形状に形成されており、底側のシート部239aが下流側(図3において下側)に向けて配置されている。シート部239aには噴射孔239bが形成されている。また、水噴射用インジェクタ50のコア231及びボデー233は、水素ガス噴射用インジェクタ30と異なり、水素脆化に関係しない磁性材料で形成してもよい。
【0050】
水噴射用インジェクタ50において、電磁ソレノイド232のコイル232bの非通電時には、スプリング237の付勢によりバルブ体235のバルブ部材235bがシート239のシート部239aに当接すなわち着座する閉弁状態となる。このため、水は、シート239の噴射孔239bから噴射されない。
【0051】
また、コイル232bの通電時には、スプリング237の付勢に抗してバルブ体235が後退されることでシート239のシート部239aからバルブ部材235bが離間すなわち離座する開弁状態となる。このため、水素ガスが噴射孔239bから噴射される。水噴射用インジェクタ50の水噴射圧力は、例えば0.1~0.3MPaである。水噴射用インジェクタ50は、ECU60からの噴射信号の入力による作動により水素ガスを噴射する。
【0052】
(エジェクタ70)
図4はエジェクタを示す断面図である。図4に示すように、エジェクタ70は、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタ50から噴射された水を吸入し、水素ガスと水とを混合するものである。エジェクタ70は、その外郭を形成するエジェクタ本体71を有する。エジェクタ本体71は、水素脆化に強い金属材料により直線状に延びる円管状に形成されている。
【0053】
エジェクタ本体71の基端部(図4において上端部)の内部には、ノズル72が同心状に形成されている。ノズル72は、下流側(図4において下方)に向かって次第に小径となるテーパ筒状に形成されている。エジェクタ本体71とノズル72との間に負圧室73が形成されている。負圧室73内にノズル72の先端部(図4において下端部)が配置されている。
【0054】
エジェクタ本体71には、負圧室73の下流側(図4において下側)に連通するディフューザ71aが形成されている。ディフューザ71aは、ノズル72と同心状に形成されている。エジェクタ本体71の先端部(図4において下端部)には、ディフューザ71aの下流端を開口する噴射口71bが形成されている。
【0055】
エジェクタ本体71の基端部(図4において上端部)には、ノズル72の上流側に向けて連続する段付き円筒状の水素ガス流入側接続部71cが同心状に形成されている。水素ガス流入側接続部71cは、水素ガス噴射用インジェクタ30のボデー33(図1参照)を同心状に接続可能に形成されている。
【0056】
エジェクタ本体71の負圧室73の側壁73aには、その側方(図4において左方)へ向けて連続する段付き円筒状の水流入側接続部71dが形成されている。水流入側接続部71dは、水噴射用インジェクタ50のボデー233(図1参照)を同心状に接続可能に形成されている。水流入側接続部71dの軸線は、水素ガス流入側接続部71cの軸線に対して交差(本実施形態では直交)している。
【0057】
図1に示すように、エジェクタ70の水素ガス流入側接続部71cには、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガス噴射部を含むボデー33が嵌合により接続されている。シール部材49により水素ガス流入側接続部71cとボデー33との間がシールされている。
【0058】
エジェクタ70の水流入側接続部71dには、水噴射用インジェクタ50の水噴射部を含むボデー233が嵌合により接続されている。シール部材249により水素ガス流入側接続部71cとボデー233との間がシールされている。
【0059】
エジェクタ70のエジェクタ本体71の細径部分(ディフューザ71aを含む下流側部分)は、吸気管23の下流側端部の上壁部に形成された挿通孔23aに挿通されている。これにより、エジェクタ本体71の上流側部分は、吸気管23の上方に配置されている。また、挿通孔23aには、エジェクタ本体71の基端部(詳しくは、細径部分(ディフューザ71aを含む下流側部分)の基端部)が配置されている。また、エジェクタ本体71の先端部の噴射口71bは、内燃機関10の吸気ポート16内において閉弁状態の吸気バルブ17の傘部17b(図1中、二点鎖線17参照)に近接する位置に配置されている。これにより、噴射口71bが内燃機関10の吸気ポート16内において吸気バルブ17の傘部17bに近接する位置で開口されている。エジェクタ本体71は本明細書でいう「噴流パイプ」に相当する。すなわち、エジェクタ本体71として噴流パイプ(エジェクタ本体71と同一符号を付す)が用いられている。
【0060】
(燃料供給システム)
図5は燃料供給システムを示す構成図である。図5に示すように、燃料噴射装置28にかかる燃料供給システム80は、水素ガス貯蔵タンク81、水素ガス供給流路82、水貯蔵タンク91及び水供給流路92を備えている。
【0061】
水素ガス貯蔵タンク81に水素ガスが高圧状態で貯蔵されている。水素ガス供給流路82の上流側端部は水素ガス貯蔵タンク81に接続されている。水素ガス供給流路82の下流側端部は、水素ガス噴射用インジェクタ30のコア31(図1参照)に接続されている。水素ガス供給流路82は、水素ガス貯蔵タンク81内の水素ガスを水素ガス噴射用インジェクタ30に供給する流路である。
【0062】
水素ガス供給流路82の途中には、上流側から下流側に向かって遮断弁83、減圧弁84及び安全弁85が設けられている。遮断弁83は、水素ガス貯蔵タンク81の元弁として機能する電磁弁である。遮断弁83が開弁されると、水素ガス貯蔵タンク81から水素ガス供給流路82に水素ガスが供給される。また、減圧弁84は、水素ガスを減圧する調圧弁である。また、安全弁85は、減圧弁84で減圧されたた圧力が一定以上の場合に開弁し、水素ガスを大気中に放出する。
【0063】
水貯蔵タンク91に水が貯蔵されている。水供給流路92の上流側端部は水貯蔵タンク91に接続されている。水供給流路92の下流側端部は、水噴射用インジェクタ50のコア231(図1参照)に接続されている。水供給流路92は、水貯蔵タンク91内の水を水噴射用インジェクタ50に供給する流路である。水供給流路92の途中には、電動ポンプからなる水供給ポンプ93が設けられている。水供給ポンプ93の駆動により、水貯蔵タンク91内の水が水供給流路92を介して水噴射用インジェクタ50に圧送される。なお、遮断弁83及び水供給ポンプ93の作動(開閉)は、ECU60(図1参照)によって制御される。
【0064】
(ECU60の噴射制御)
図6はECUの噴射制御にかかるタイムチャートである。図6に示すように、ECU60(図1参照)は、吸気バルブ17の閉弁直前において水素ガスを噴射するように水素ガス噴射用インジェクタ30を作動させると共に、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水を噴射するように水噴射用インジェクタ50を作動させるように設定されている。
【0065】
詳しくは、機関軽負荷時において、ECU60は、吸気行程の終了直前すなわち吸気バルブ17の閉弁直前において、水素ガス噴射期間τh1の間、水素ガス噴射用インジェクタ30を作動させる。また、ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの水噴射期間τw1において、水噴射用インジェクタ50を作動させる。水素ガス噴射期間τh1と水噴射期間τw1とは、
τh1>τw1
の関係にある。
【0066】
また、機関高負荷時において、ECU60は、吸気行程の終了直前すなわち吸気バルブ17の閉弁直前において、水素ガス噴射期間τh2の間、水素ガス噴射用インジェクタ30を作動させる。また、ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの水噴射期間τw2において、水噴射用インジェクタ50を作動させる。水素ガス噴射期間τh2と水噴射期間τw2とは、τh2>τw2の関係にある。
【0067】
また、機関軽負荷時の水素ガス噴射期間τh1と機関高負荷時の水素ガス噴射期間τh2とは、τh1<τh2の関係にある。また、機関軽負荷時の水噴射期間τw1と機関高負荷時の水噴射期間τw2とは、τw1<τw2の関係にある。なお、機関軽負荷時の水素ガス噴射期間τh1の終了時刻と機関高負荷時の水素ガス噴射期間τh2の終了時刻とは同じである。また、機関軽負荷時の水噴射期間τw1の終了時刻と機関高負荷時の水噴射期間τw2の終了時刻とは同じである。
【0068】
(燃料噴射装置28の作用)
燃料噴射装置28の作用を説明する。内燃機関10の吸気バルブ17の閉弁直前において水素ガス噴射用インジェクタ30が作動されることにより、水素ガス噴射用インジェクタ30から水素ガスを噴射させると共に、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタ50が作動される。これにより、水素ガス噴射用インジェクタ30から噴射された水素ガスがエジェクタ70のノズル72に向けて噴射される。一方、水噴射用インジェクタ50から噴射された水がエジェクタ70の負圧室73に向けて噴射される。
【0069】
すると、ノズル72からディフューザ71aへの水素ガスの流れにより発生する負圧により、負圧室73の水がディフューザ71aに吸入されることにより、水素ガスと水とが混合される。その水素ガスと水との混合物すなわち気液混合体は、内燃機関10の吸気ポート16内において閉弁直前の吸気バルブ17の傘部17b(図1中、実線17b参照)に近接する位置すなわち燃焼室14の近くでディフューザ71aの噴射口71bから噴射される。噴射された気液混合体は、吸入空気と共に燃焼室14内へ吸入される。燃焼室14内において、水素ガスは、吸入空気と混合しながら、所定タイミングにて点火されて燃焼される。なお、気液混合体は、燃焼室14で圧縮されると、水は完全に蒸気になり、混合気温度を下げる効果を発揮し、また、燃焼が終われば蒸気として排出される。
【0070】
(実施形態1の利点)
本実施形態によると、水素ガス噴射用インジェクタ30から噴射された水素ガスを、エジェクタ本体71を介して、内燃機関10の吸気ポート16内において吸気バルブ17の傘部17bに近接する位置で噴射させることができる。これにより、燃焼室14の近くで水素ガスを噴射させることで、高速噴流の効果により吸気行程後半の短期間噴射が可能となり、プレイグニッション、ノック等の異常燃焼の発生を抑制することができる。また、吸気ポート16内に水素ガスが残留しにくくなるため、バックファイヤー(異常燃焼)の発生を抑制することができる。また、吸気ポート16内での吸入空気(気体)と水素ガス(気体)との予混合を抑制することにより、筒内への吸入空気の充填効率を向上させることができる。また、筒内噴射に準じた水素ガスの噴射(吸気行程後半の短期間噴射)を行えることにより、プレイグ、ノック等の異常燃焼の発生が抑制できるため、高圧縮比化による熱効率向上が期待できる。よって、従来の吸気ポート噴射式の燃料噴射装置の問題を改善し、内燃機関の異常燃焼の発生を抑制しつつ、筒内への吸入空気の充填効率の向上により、内燃機関の高出力化を実現することができる。
【0071】
また、エジェクタ本体71内に水を噴射する水噴射用インジェクタ50を備えている。したがって、水噴射用インジェクタ50から噴射された水がエジェクタ本体71内で水素ガスと混合される。水は液体で供給されるため慣性力により、エジェクタ本体71内で流れの乱れを作りながら水素ガスと水との気液混合体を生成することができる。この高速噴流の気液混合体により、水が気化する際の気化潜熱によって、圧縮端温度が低下されることで、筒内に投入される吸入空気の充填効率を向上させることができる。ひいては、ノックの発生を一層抑制することができるため圧縮比を上げることができる。また、水は不活性ガスなので、燃焼速度が緩慢になり、適正な燃焼速度で水素ガスを燃焼させることができる、NOxの発生量を低減することができる。
【0072】
また、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタ50から噴射された水を吸入し、水素ガスと水とを混合するエジェクタ70を備えている。したがって、エジェクタ70により、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタ50から噴射された水が吸入され、水素ガスと水とが混合される。これにより、水噴射用インジェクタ50の水噴射圧力を低圧化させると共に、水素ガスと水とのミキシング性を向上することができる。
【0073】
また、ディフューザ71aを有する噴流パイプ71を、エジェクタ70の外郭を形成するエジェクタ本体71として用いることができる。
【0074】
また、水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の作動を制御するECU60を備えており、ECU60は、吸気バルブ17の閉弁直前において水素ガスを噴射するように水素ガス噴射用インジェクタ30を作動させると共に、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水を噴射するように水噴射用インジェクタ50を作動させる。
【0075】
したがって、ECU60により、吸気バルブ17の閉弁直前において水素ガス噴射用インジェクタ30が作動されることにより、水素ガス噴射用インジェクタ30から水素ガスが噴射されると共に、水素ガス噴射用インジェクタ30の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタ50が作動されることにより、水噴射用インジェクタ50から水が噴射される。これにより、圧縮端温度の低下と成層燃焼とを実現し、プレイグニッション、ノックなどの異常燃焼の発生を効果的に抑制することができる。また、吸気バルブ17が開いて吸入空気が正の方向に流れているタイミングで、水素ガスと水との気液混合体がエジェクタ本体71から噴射されるため、吸気ポート16内に水素ガスが残留しにくく、バックファイヤーの発生を抑制することができる。
【0076】
[実施形態2]
本実施形態は、実施形態1(図1参照)に変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、実施形態1と同一部位に同一符号を付して重複する説明を省略する。図7は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。図7に示すように、本実施形態は、実施形態1におけるエジェクタ70のノズル72(図1参照)が省略されており、負圧室73が水素ガスと水との合流室74として構成されている。なお、合流室74の側壁に符号74aを付す。
【0077】
これにより、エジェクタ70の機能が省略されている。このため、実施形態2では、エジェクタ本体71を噴流パイプ71という。また、噴流パイプ71のディフューザ71aは、開口断面積が一定のストレート状の管状部に形成してもよい。
【0078】
[実施形態3]
本実施形態は、実施形態2(図7参照)に変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、実施形態1と同一部位に同一符号を付して重複する説明を省略する。図8は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。図8に示すように、本実施形態は、実施形態2における水噴射用インジェクタ50(図7参照)が省略されている。これにともない、噴流パイプ71の水流入側接続部71d及び合流室74並びに側壁74aが省略されている。本実施形態のECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30のみを制御する。
【0079】
[実施形態4]
本実施形態は、実施形態1(図1参照)に変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、実施形態1と同一部位に同一符号を付して重複する説明を省略する。図10は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。図10に示すように、本実施形態は、実施形態1における吸気管23の挿通孔23a(図1参照)が大径化された挿通孔23bとされている。
【0080】
エジェクタ本体71の基端部(詳しくは、細径部分(ディフューザ71aを含む下流側部分)の基端部)には円環状の超音波振動子95が嵌合されている。超音波振動子95は、吸気管23の挿通孔23b内に設置されている。超音波振動子95は、ECU60に電気的に接続されている。ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の作動中において超音波振動子95を軸方向に高周波で駆動する制御を行う。これにより、超音波振動子95は、エジェクタ本体71の基端部に軸方向の超音波振動を付与し、エジェクタ本体71を軸方向に高周波で加振する。
【0081】
本実施形態によると、超音波振動子95による超音波振動がエジェクタ本体71の軸方向に付与される。これにより、エジェクタ本体71の内壁面の流体抵抗が低減される。このため、エジェクタ本体71内を通過する水素ガスと水との気液混合体の流速を高め、気液混合体の噴霧速度を高速化することができる。
【0082】
また、吸気行程後半の短期間噴射において、水素ガスと水との気液混合体の高速噴流を内燃機関10の燃焼室14内に供給できるため、混合気形成の改善に大きく寄与することができる。よって、内燃機関(水素内燃機関)10の最大の課題である異常燃焼(プレイグニッション、ノッキング、バックファイヤー)の抑制と混合気形成の改善とにより、熱効率をより一層向上することができる。
【0083】
また、超音波振動子95は、円環状に形成されかつエジェクタ本体71の基端部に嵌合されている。したがって、超音波振動子95による超音波振動をエジェクタ本体71に効率良く付与することができる。また、エジェクタ本体71を挿通する吸気管23の挿通孔23bを利用して、超音波振動子95をコンパクトに設置することができる。
【0084】
[実施形態5]
本実施形態は、実施形態4(図10参照)に変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、実施形態1と同一部位に同一符号を付して重複する説明を省略する。図11は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図である。図11に示すように、本実施形態は、実施形態4の超音波振動子95(図10参照)に代えて、軸方向に並ぶ2つの円環状の超音波振動子すなわち第1超音波振動子97及び第2超音波振動子98が配置されている。
【0085】
両超音波振動子97,98は、ECU60にそれぞれ電気的に接続されている。ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の作動中において第1超音波振動子97を軸方向に高周波で駆動する制御を行う。これにより、第1超音波振動子97は、実施形態4(図10参照)の超音波振動子95と同様、エジェクタ本体71の基端部に軸方向の超音波振動を付与し、エジェクタ本体71を軸方向に高周波で加振する。
【0086】
また、ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ30及び水噴射用インジェクタ50の作動中において第2超音波振動子98を径方向に高周波で駆動する制御を行う。これにより、第2超音波振動子98は、エジェクタ本体71の基端部に径方向の超音波振動を付与し、エジェクタ本体71を径方向に高周波で加振する。
【0087】
本実施形態によると、第1超音波振動子97による超音波振動がエジェクタ本体71の軸方向に付与される。これにより、エジェクタ本体71の内壁面の流体抵抗が低減される。このため、エジェクタ本体71内を通過する水素ガスと水との気液混合体の流速を高め、気液混合体の噴霧速度を高速化することができる。
【0088】
さらに、第2超音波振動子98による超音波振動がエジェクタ本体71の径方向に付与される。これにより、エジェクタ本体71内を通過する水素ガスと水との気液混合体にポンプ作用が付与される。このため、エジェクタ本体71内を通過する水素ガスと水との気液混合体の流速を高め、気液混合体の噴霧速度を高速化することができる。
【0089】
したがって、エジェクタ本体71の軸方向の超音波振動によるエジェクタ本体71の内壁面の流体抵抗の低減と、エジェクタ本体71の径方向の超音波振動によるポンプ作用と、の協働によって、エジェクタ本体71内を通過する水素ガスと水との気液混合体の噴霧速度を高速化することができる。
【0090】
[実施形態6]
本実施形態に係る燃料噴射装置は、実施形態1(図1参照)の燃料噴射装置及びその配置に変更を加えたものである。図12は内燃機関の燃料噴射装置の周辺部を示す断面図、図13は燃料噴射装置を示す断面図である。内燃機関10については実施形態1(図1参照)と同一部位に同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0091】
図12に示すように、燃料噴射装置300は、内燃機関10の筒内に水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタ310を備える筒内噴射式の燃料噴射装置である。なお、燃料噴射装置300は、シリンダヘッド12に設置された筐体(不図示)に一体的に保持されている。
【0092】
(燃料噴射装置)
図13に示すように、燃料噴射装置300は、水素ガス噴射用インジェクタ310、水噴射用インジェクタ320、潤滑油噴射用インジェクタ330及びエジェクタ340を備えている。
【0093】
(水素ガス噴射用インジェクタ310)
水素ガス噴射用インジェクタ310は、水素ガスを噴射する電磁弁構造を有する。水素ガス噴射用インジェクタ310の基本的構成は、実施形態1の水素ガス噴射用インジェクタ30(図2参照)の基本的構成と略共通である。このため、水素ガス噴射用インジェクタ310において、実施形態1の水素ガス噴射用インジェクタ30と共通する主な構成要素及び構成部分には、下2桁を共通とする400番台の符号を付してその説明を省略する。
【0094】
水素ガス噴射用インジェクタ310は、実施形態1の水素ガス噴射用インジェクタ30の弁部47(図2参照)とは異なる構成の弁部447を有する。弁部447は、バルブ体435と筒状部材438とシート439とから構成されている。
【0095】
筒状部材438は、金属製で、中空円筒形状に形成されている。筒状部材438の一端部(図13において上端部)は、ボデー433の下流側端部(図13において下端部)内に嵌合されかつ溶接により固定されている。
【0096】
シート439は、金属製で、略円板状に形成されている。シート439は、筒状部材438の下流側端部(図13において下端部)内に嵌合されかつ溶接により固定されている。シート439の中心部には噴射孔439bが形成されている。
【0097】
バルブ体435は、アーマチャ部材435aとバルブ部材435bとを有する。アーマチャ部材435aは、磁性材料により短筒状に形成されている。アーマチャ部材435aは、筒状部材438の上流側端部(図13において上端部)内に軸方向に移動可能に配置されている。アーマチャ部材435aは、コア431の中空部と筒状部材438の中空部とを連通する連通孔435eを有する。
【0098】
バルブ部材435bは、金属製で、ニードル状に形成されている。バルブ部材435bの一端部(図13において上端部)は、アーマチャ部材435aに同心状に接続されている。バルブ部材435bの他端部(図13において下端部)は、シート439(詳しくは噴射孔439b)を開閉する弁部435fとなっている。
【0099】
水素ガス噴射用インジェクタ310において、電磁ソレノイド432のコイル432bの非通電時には、スプリング437の付勢によりバルブ体435のバルブ部材435bの弁部435fがシート439に当接すなわち着座する閉弁状態となる。このため、水素ガスは、シート439の噴射孔439bから噴射されない。
【0100】
また、コイル432bの通電時には、スプリング437の付勢に抗してバルブ体435が後退されることでシート439からバルブ部材435bの弁部435fが離間すなわち離座する開弁状態となる。
【0101】
(水噴射用インジェクタ320)
水噴射用インジェクタ320は、実施形態1の水噴射用インジェクタ50(図3参照)と同一構成であるから、主な構成要素及び構成部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0102】
(潤滑油噴射用インジェクタ330)
潤滑油噴射用インジェクタ330は、潤滑油を噴射する電磁弁構造を有する。潤滑油噴射用インジェクタ330は、水噴射用インジェクタ320と同一構成であるから、主な構成要素及び構成部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0103】
(エジェクタ340)
エジェクタ340は、水素ガスの流れを利用して水噴射用インジェクタ320から噴射された水、及び、潤滑油噴射用インジェクタ330から噴射された潤滑油を吸入し、水素ガスと水と潤滑油とを混合するものである。エジェクタ340の基本的構成は、実施形態1のエジェクタ70(図4参照)の基本的構成と略共通である。このため、エジェクタ340において、実施形態1のエジェクタ70と共通する構成要素及び構成部分には、下2桁を共通とする500番台の符号を付してその説明を省略する。
【0104】
エジェクタ本体571の先端部(図13において下端部)は、水素ガス噴射用インジェクタ310のコア431の上流側端部(図13において上端部)内に嵌合されている。すなわち、水素ガス噴射用インジェクタ310の上流側にエジェクタ340が配置されている。
【0105】
エジェクタ本体571の上流側接続部(実施形態1のエジェクタ70における水素ガス流入側接続部71c(図4参照)が相当する)は、水素ガス流入口571cとして開口されている。
【0106】
エジェクタ本体571の水流入側接続部571dには、水噴射用インジェクタ320のボデー233の先端部が接続されている。
【0107】
エジェクタ本体571の負圧室573の側壁には、円筒状の潤滑油流入側接続部571eが形成されている。潤滑油流入側接続部571eは、水流入側接続部571dと左右対称状をなすように配置されている。潤滑油流入側接続部571eには、潤滑油噴射用インジェクタ330のボデー233の先端部が接続されている。
【0108】
エジェクタ340は、略クロス型の配管継手部材350の中空部に配置されている。
【0109】
(配管継手部材350)
配管継手部材350は、下方に延びる円筒状の第1ソケット部351と、左方に延びる円筒状の第2ソケット部352と、右方に延びる第3ソケット部353と、前方(図13において紙面表方)に延びる第4ソケット部354と、を有する。第4ソケット部354は、第2ソケット部352と第3ソケット部353との間から上方へ膨出する膨出部350aに形成されている。
【0110】
第1ソケット部351内には、水素ガス噴射用インジェクタ310のコア431の上流側端部(図13において上端部)が接続されている。第2ソケット部352内には、水噴射用インジェクタ320のケース241が嵌合されている。第3ソケット部353内には、潤滑油噴射用インジェクタ330のケース241が嵌合されている。
【0111】
(内燃機関10に対する燃料噴射装置300の設置)
図12に示すように、燃料噴射装置300の水素ガス噴射用インジェクタ310の筒状部材438は、内燃機関10のシリンダヘッド12の吸気ポート16の下側の壁部に形成された挿通孔12aに挿通されている。筒状部材438の先端部は、閉弁状態の吸気バルブ17の傘部17bに近接する位置に配置されている。水素ガス噴射用インジェクタ310の噴射孔439b(図13参照)は、内燃機関10の筒内すなわち燃焼室14内に水素ガスを噴射可能に配置されている。水素ガス噴射用インジェクタ310、水噴射用インジェクタ320及び潤滑油噴射用インジェクタ330は、ECU60により噴射制御される。
【0112】
(燃料供給システム)
図14は燃料供給システムを示す構成図である。図14に示すように、燃料噴射装置300にかかる燃料供給システム380は、水素ガス貯蔵タンク381、水素ガス供給流路382、水貯蔵タンク391、水供給流路392、潤滑油貯蔵タンク394及び潤滑油供給流路396を備えている。
【0113】
水素ガス貯蔵タンク381に水素ガスが高圧状態で貯蔵されている。水素ガス供給流路382の上流側端部は水素ガス貯蔵タンク381に接続されている。水素ガス供給流路382の下流側端部は、燃料噴射装置300の配管継手部材350の第4ソケット部354(図12参照)に接続されている。水素ガス供給流路382は、水素ガス貯蔵タンク381内の水素ガスを燃料噴射装置300に供給する流路である。
【0114】
水素ガス供給流路382の途中には、上流側から下流側に向かって遮断弁383及び減圧弁384が設けられている。遮断弁383は、水素ガス貯蔵タンク381の元弁として機能する電磁弁である。遮断弁383が開弁されると、水素ガス貯蔵タンク381から水素ガス供給流路382に水素ガスが供給される。また、減圧弁384は、水素ガスを減圧する調圧弁である。
【0115】
水貯蔵タンク391に水が貯蔵されている。水供給流路392の上流側端部は水貯蔵タンク391に接続されている。水供給流路392の下流側端部は、水噴射用インジェクタ320のコア231(図12参照)に接続されている。水供給流路392は、水貯蔵タンク391内の水を水噴射用インジェクタ320に供給する流路である。水供給流路392の途中には、電動ポンプからなる水供給ポンプ393が設けられている。水供給ポンプ393の駆動により、水貯蔵タンク391内の水が水供給流路392を介して水噴射用インジェクタ320に圧送される。なお、遮断弁383及び水供給ポンプ393の作動(開閉)は、ECU60(図12参照)によって制御される。
【0116】
潤滑油貯蔵タンク394に潤滑油が貯蔵されている。潤滑油は、例えばシリコン系の高耐熱潤滑油である。潤滑油供給流路396の上流側端部は潤滑油貯蔵タンク394に接続されている。潤滑油供給流路396の下流側端部は、潤滑油噴射用インジェクタ330のコア231(図12参照)に接続されている。潤滑油供給流路396は、潤滑油貯蔵タンク394内の潤滑油を潤滑油噴射用インジェクタ330に供給する流路である。
【0117】
なお、図15に示すように、潤滑油供給流路396の途中に、電動ポンプからなる潤滑油供給ポンプ399を設けてもよい。ECU60(図12参照)によって潤滑油供給ポンプ399が駆動制御されることにより、潤滑油貯蔵タンク394内の潤滑油が潤滑油供給流路396を介して潤滑油噴射用インジェクタ330に圧送される。
【0118】
(ECU60の噴射制御)
ECU60(図12参照)は、内燃機関10の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において水素ガスを噴射するように水素ガス噴射用インジェクタ310を作動させる。水素ガス噴射用インジェクタ310の噴射時間は、吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において要求噴射量に応じて変化する。これは、筒内の圧力が高くならないうちに早期に噴射することで均質燃焼を狙った圧縮行程前期噴射式の燃料噴射装置と同様である。
【0119】
また、ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ310の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水を噴射するように水噴射用インジェクタ320を作動させるように設定されている。また、ECU60は、水素ガス噴射用インジェクタ310の開弁時間を積算し、所定の積算時間に達したときで、かつ、水素ガス噴射用インジェクタ310の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において潤滑油を噴射するように潤滑油噴射用インジェクタ330を設定時間作動させるように設定されている。
【0120】
(燃料噴射装置300の作用)
燃料噴射装置300の作用を説明する。内燃機関10の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において水素ガス噴射用インジェクタ310が作動されることにより、水素ガス噴射用インジェクタ310から水素ガスが内燃機関10の燃焼室14内に噴射される。これにともない、水素ガスが配管継手部材350の第4ソケット部354からエジェクタ340のノズル572に向けて噴射される。
【0121】
一方、水素ガス噴射用インジェクタ310の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタ320が作動される。これにより、水噴射用インジェクタ320から噴射された水がエジェクタ340の負圧室573に向けて噴射される。すると、ノズル572からディフューザ571aへの水素ガスの流れにより発生する負圧により、負圧室573の水がディフューザ571aに吸入されることにより、水素ガスと水とが混合される。その水素ガスと水との気液混合体は、水素ガス噴射用インジェクタ310を介して内燃機関10の燃焼室14内に噴射される。噴射された気液混合体は、吸入空気と共に燃焼室14内へ吸入される。燃焼室14内において、水素ガスは燃焼される。なお、気液混合体は、燃焼室14で圧縮されると、水は完全に蒸気になり、混合気温度を下げる効果を発揮し、また、燃焼が終われば蒸気として排出される。
【0122】
また、潤滑油噴射用インジェクタ330が作動されたときには、潤滑油噴射用インジェクタ330から噴射された潤滑油がエジェクタ340の負圧室573に向けて噴射される。これにより、水素ガスに水と共に潤滑油が混合される。その水素ガスと水と潤滑油との気液混合体は、水素ガス噴射用インジェクタ310を介して内燃機関10の燃焼室14内に噴射される。
【0123】
(実施形態6の利点)
本実施形態によると、筒内噴射式の燃料噴射装置300であるため、内燃機関10の異常燃焼の発生を抑制しつつ、筒内への吸入空気の充填効率の向上により内燃機関10の高出力化を実現することができる。また、水素ガス噴射用インジェクタ310からの水素ガスの噴射にともない、水噴射用インジェクタ320から噴射された水がエジェクタ340に吸入されるため、水素ガスと水とを混合させて水素ガス噴射用インジェクタ310から筒内に噴射することができる。これにより、水が気化する際の気化潜熱によって、圧縮端温度が低下されることで、高圧縮比化が可能となり、熱効率を向上することができる。また、水は不活性ガスなので、燃焼速度が緩慢になり、適正な燃焼速度で水素ガスを燃焼させることができるため、NOxの発生量を低減することができる。また、エジェクタ340が水素ガス噴射用インジェクタ310の上流側に配置されているため、水噴射用インジェクタ320に対する燃焼ガス及び凝縮水の接触を回避し、水噴射用インジェクタ320の耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0124】
また、ECU60により、内燃機関10の吸気行程後半から圧縮行程前半までの間において水素ガス噴射用インジェクタ310が作動される。これにより、水素ガス噴射用インジェクタ310から水素ガスが筒内に噴射される。このため、水素ガス噴射用インジェクタ310の噴射圧力を低く設定することが可能となる。ひいては、水素ガス貯蔵タンク381内の水素を有効に使用することが可能となる。また、水素ガス噴射用インジェクタ310の水素ガスの噴射開始後から噴射終了前までの期間において水噴射用インジェクタ320が作動されることにより水噴射用インジェクタ320から水が噴射される。
【0125】
また、潤滑油噴射用インジェクタ330から噴射された潤滑油が、エジェクタ340に吸入され、水素ガス噴射用インジェクタ310内を通過する。これにより、内燃機関10の熱害による水素ガス噴射用インジェクタ310のバルブ体の摺動不良や焼き付きの発生を抑制することができる。ひいては、水素ガス噴射用インジェクタ310のバルブ体435の摺動性を確保することができ、水素ガス噴射用インジェクタ310の耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0126】
[他の実施形態]
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本発明は、自動車等の車両に限らず、航空機、船舶、その他の水素内燃機関の燃料噴射装置として適用してもよい。また、エジェクタ本体(噴流パイプ)71は、吸気管23に代えてシリンダヘッド12に設けてもよい。また、超音波振動子は、エジェクタ本体(噴流パイプ)71に超音波振動を付与することが可能であればよく、超音波振動子の形状、設置形態、個数等は変更してもよい。また、超音波振動子95は、エジェクタ本体71の径方向に超音波振動を付与するものでもよい。また、水素ガス噴射用インジェクタ310は、筒内に水素ガスを噴射する位置であれば任意の位置に配置してよい。また、潤滑油噴射用インジェクタ330は省略してもよい。
【符号の説明】
【0127】
10 内燃機関
16 吸気ポート
17 吸気バルブ
17b 傘部
28 燃料噴射装置
30 水素ガス噴射用インジェクタ
50 水噴射用インジェクタ
60 ECU(制御装置)
70 エジェクタ
71 エジェクタ本体(噴流パイプ)
71a ディフューザ
71b 噴射口
95 超音波振動子
97 第1超音波振動子
98 第2超音波振動子
300 燃料噴射装置
310 水素ガス噴射用インジェクタ
320 水噴射用インジェクタ
330 潤滑油噴射用インジェクタ
340 エジェクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2023-11-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを噴射する水素ガス噴射用インジェクタを備える燃料噴射装置であって、
前記水素ガス噴射用インジェクタから噴射された前記水素ガスを噴流で流す噴流パイプを備えており、
前記噴流パイプの噴射口は、内燃機関の吸気ポート内において吸気バルブの傘部に近接する位置で開口されている、燃料噴射装置。