(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182864
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】強皮症または瘢痕を治療するためのHGFアプタマーを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20231220BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231220BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20231220BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231220BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231220BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231220BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231220BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20231220BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K38/18
A61P17/00
A61K47/59
A61K9/14
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/26
A61K31/506
C12N15/115 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180910
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大知
(72)【発明者】
【氏名】浅野 善英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】金 範▲ジュン▼
(72)【発明者】
【氏名】山東 信介
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】戚 蟠
(72)【発明者】
【氏名】植木 亮介
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA94
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC41
4C076DD67
4C076EE17
4C076EE24
4C076EE31
4C076EE36
4C076EE48
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA02
4C084DB62
4C084MA13
4C084MA41
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA891
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA41
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】線維化が現れている病変部に対して効率的に薬剤を送達でき、安全性が高く、かつ副作用がないかまたは低い、強皮症または瘢痕を治療するための医薬組成物を提供すること。
【解決手段】強皮症を治療するための肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーを含む医薬組成物。強皮症を治療するための、HGFアプタマーがマトリックスに含まれている製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強皮症を治療するための肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーを含む医薬組成物。
【請求項2】
強皮症を治療するための、肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーがマトリックスに含まれている製剤。
【請求項3】
前記マトリックスの形状がマイクロニードルである、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記マトリックスの形状がナノ粒子またはマイクロ粒子である、請求項2に記載の製剤。
【請求項5】
前記HGFアプタマーがナノ粒子またはマイクロ粒子に封入されたHGFアプタマー封入ナノ粒子またはHGFアプタマー封入マイクロ粒子が、さらにマイクロニードルに封入されている、請求項2に記載の製剤。
【請求項6】
前記ナノ粒子またはマイクロ粒子を構成するポリマーが、生分解性ポリマーである、請求項4または5に記載の製剤。
【請求項7】
前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ラクチド-グリコリド共重合体、ラクチド-グリコリド-co-ポリエチレングリコール共重合体、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記マイクロニードルの基材が水溶性ポリマーを含む、請求項3および5~7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記水溶性ポリマーが、セルロースまたはその誘導体、アルギン酸塩、マルトース、ポリ乳酸、およびそれらの組み合わせから選ばれる、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
強皮症を治療するための、イマチニブまたはその薬学的に許容される塩が封入されたナノ粒子またはマイクロ粒子を含むマイクロニードル製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高くかつ高い効能を有する、強皮症または瘢痕を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強皮症は、皮膚および肺、食道などの内臓諸器官の線維化を主徴とした慢性炎症性疾患であり、線維化の他にも免疫異常・炎症や血管障害が主要な病態として挙げられる。皮膚硬化は線維化に起因した病状であり、強皮症の疾患概念の中核をなす主要症状である。真皮下層から膠原線維の膨化・増生が始まり、真皮の中層や上層まで線維化が広がっていく。強皮症は、コラーゲン等の細胞外マトリクスの組織への過剰沈着が原因であると考えられている。
一方、瘢痕は、外傷や熱傷、手術などによって生じた創傷の治癒過程での異常が原因で生じる皮膚の線維増殖性疾患であり、特に、肥厚性瘢痕やケロイドは、細胞外マトリックスの増殖を主体とした病変である。
【0003】
強皮症における線維芽細胞の異常活性化やコラーゲンの過剰産生の原因は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βと呼ばれるサイトカインが鍵となっていることが報告されている(非特許文献1等)。実際に、強皮症患者の皮膚病変部や末梢血単核球ではTGF-βが過剰発現している。
【0004】
強皮症に伴う皮膚硬化の治療方法としては、比較的初期の症状においては、副腎皮質ステロイドの投与が有効である(非特許文献2等)。しかし、ステロイドは腎クリーゼを誘発するリスクが指摘されている。
また、抗癌剤、免疫抑制剤であるシクロホスファミドは、皮膚硬化に対して有効であるが、効果が緩やかであり、発癌性等の副作用がある。リツキシマブは、皮膚硬化の改善等を示したが、比較的高確率で感染症を引き起こす。
【0005】
さらに、イマニチブ等のチロシンキナーゼ阻害剤を含む限局性強皮症の膏薬療法も報告されている(特許文献1)。さらにまた、線維症および/または炎症状態の発症または進行に関与する2以上の遺伝子の発現を阻害する核酸を静脈内またはくも膜下投与する線維症および/または炎症状態の治療方法も知られている(特許文献2)。しかし、膏薬等の投薬形態では角質層がバリアとなって薬剤が角質層を透過できず、一方、長い注射針を使えばより深く注入できるが、真皮に到達し、出血や痛みを伴う。強皮症は、一般的に治療が長期に渡る疾患であるため、投与回数は患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)に直接関連する。
【0006】
一方、肝細胞増殖因子(HGF)は、肝などの臓器でTGF-βに拮抗し、線維化を抑制する作用を持つ。近年、ブレオマイシン強皮症モデルマウスに、HGF遺伝子プラスミドを筋肉内投与したところ、硬化病変部における皮膚の厚さと結合織が減少し、コラーゲン中に特異的に存在するアミノ酸であるハイドロオキシプロリン量が減少し、さらに、皮膚中のTGF-βの発現量が減少することが報告されている(非特許文献3)。また、HGF-HVJリポソームを臀筋投与した強皮症モデルマウスでは、非処置のマウスに比べて、下皮厚を2~3倍減少させたことも報告されている(非特許文献4)。しかし、HGFタンパク質を製造するには一般的に発現系を使用しなければならず、提供されるHGFは高価格となり、品質管理が煩雑である。
【0007】
したがって、安全性が高くかつ高い効能を有する強皮症または瘢痕の治療法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2016-523960号公報
【特許文献2】特表2015-523966号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Masatoshi JINNIN, The Journal of Dermatology, 37, (2010), 11-25
【非特許文献2】「日本皮膚科学会ガイドライン」、日皮会誌:126(10)、1831-1896、2016(平成28)
【非特許文献3】呉 朋花、東京医科歯科大学、2006年度 実績報告書「強皮症のHGF遺伝子プラスミドを用いた遺伝子療法の臨床的応用」、https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18790777/
【非特許文献4】Arthritis Research & Therapy 2006, Vol.8, No. 6. pp.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、強皮症または瘢痕の病変部に対して効率的に薬剤を送達でき、安全性が高く、かつ副作用がないかまたは低い、強皮症または瘢痕を治療するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討した結果、肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーを含む医薬組成物が強皮症の治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]強皮症を治療するための肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーを含む医薬組成物。
[2]強皮症を治療するための、肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマーがマトリックスに含まれている製剤。
[3]前記マトリックスの形状がマイクロニードルである、前項[2]に記載の製剤。
[4]前記マトリックスの形状がナノ粒子またはマイクロ粒子である、前項[2]に記載の製剤。
[5]前記HGFアプタマーがナノ粒子またはマイクロ粒子に封入されたHGFアプタマー封入ナノ粒子またはHGFアプタマー封入マイクロ粒子が、さらにマイクロニードルに封入されている、前項[2]に記載の製剤。
[6]前記ナノ粒子またはマイクロ粒子を構成するポリマーが、生分解性ポリマーである、前項[4]または[5]に記載の製剤。
[7]前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ラクチド-グリコリド共重合体、ラクチド-グリコリド-co-ポリエチレングリコール共重合体、およびそれらの組み合わせから選択される、前項[6]に記載の製剤。
[8]前記マイクロニードルの基材が水溶性ポリマーを含む、前項[3]および[5]~[7]のいずれか1項に記載の製剤。
[9]前記水溶性ポリマーが、セルロースまたはその誘導体、アルギン酸塩、マルトース、ポリ乳酸、およびそれらの組み合わせから選ばれる、前項[8]に記載の製剤。
[10]強皮症を治療するための、イマチニブまたはその薬学的に許容される塩が封入されたナノ粒子またはマイクロ粒子を含むマイクロニードル製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強皮症が現れている病変部に対して薬剤(HGFアプタマー)を効率的に送達でき、高い安全性で、かつ副作用を伴うことなく、強皮症を治療することができる。特に薬剤をマトリックスに封入した医薬組成物は、薬剤の持続放出によって薬理効果が向上する。当該マトリックス封入医薬組成物の中でも、特にマイクロニードル封入製剤は、投与時の痛みが少なく、投与回数を減らし、自己投与を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、2重量%HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子のSEM像を示す。
【
図2】
図2は、1重量%及び2重量%モデルDNA封入PLGAマイクロ粒子からのモデルDNAの持続放出効果を示す。
【
図3】
図3は、2重量%HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子のSEM像を示す。
【
図4】
図4は、ローダミン-PLGAマイクロ粒子HAマイクロニードルの顕微鏡観察像を示す。
【
図5】
図5は、PLGAナノ粒子CMCマイクロニードルの顕微鏡観察像を示す。
【
図6】
図6は、35w/w%のゼラチンハイドロゲルにPLGAナノ粒子CMCマイクロニードルを挿入した結果を示す。(a)は挿入直後のゼラチンの光学顕微鏡観察像、(b)は30秒挿入後のマイクロニードルの光学顕微鏡観察像、(c)は挿入前と30秒挿入後のマイクロニードルの長さの変化を示す。
【
図7】
図7は、NIH-3T3細胞によって産生されたコラーゲンをシリウスレッドで染色した光学顕微鏡観察像を示す。
【
図8】
図8は、NIH3T3細胞株のコラーゲン産生を示す。(a)はコラーゲン濃度と吸光度との関係を示す標準曲線、(b)は、TGF-β、および200ng/mlのHGFアプタマー、400ng/mlのHGFアプタマー添加下でのコラーゲン産生の結果を示す。
【
図9】
図9は、本発明の製剤を投与したブレオマイシン誘発強皮症マウスの真皮の顕微鏡画像(ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色)を示す。「コントロール」は非処置;「アプタマー単独」はHGFアプタマーのみの7日間皮下投与;「MP」はHGFアプタマー封入マイクロ粒子の1ショット皮下投与;「NP」はHGFアプタマー封入ナノ粒子の1ショット皮下投与;「MN」はHGFアプタマー封入ナノ粒子CMCマイクロニードルの1回適用、を意味する。
【
図10】
図10は、本発明の製剤を投与したブレオマイシン誘発強皮症マウスから剥離した真皮の厚みを示す。「アプタマー単独」は HGFアプタマーのみの7日間皮下投与(N=8);「MP」はHGFアプタマー封入マイクロ粒子の1ショット皮下投与(N=8);「NP」はHGFアプタマー封入ナノ粒子の1ショット皮下投与(N=8);「MN」はHGFアプタマー封入ナノ粒子CMCマイクロニードルの1回適用(N=3)、を意味する。
【
図11】
図11は、本発明の製剤を投与したブレオマイシン誘発強皮症マウスから剥離した皮膚の引張試験の結果を示す。「アプタマー単独」はHGFアプタマーのみの7日間皮下投与(N=8);「MP」はHGFアプタマー封入マイクロ粒子の1ショット皮下投与(N=8);「NP」はHGFアプタマー封入ナノ粒子の1ショット皮下投与(N=8);「MN」はHGFアプタマー封入ナノ粒子CMCマイクロニードルの1回適用(N=3)、を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一実施形態は、強皮症を治療するための肝細胞性増殖因子(HGF)アプタマー(以下、「薬剤」と言うことがある)を含む医薬組成物である。
「強皮症」は、皮膚が硬くなる変化を代表的な症状とする疾患で、本明細書において、「強皮症」は、内臓にも変化をともなう全身性強皮症(汎発性強皮症)と、皮膚とその下部の組織(死亡・筋肉・骨)のみをおかす限局性強皮症とを含む。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、瘢痕を治療するためのHGFアプタマーを含む医薬組成物である。
本明細書において、「瘢痕」は、外傷後に生じる一般的な瘢痕組織であれば特に制限されず、例えば、いわゆる傷跡(成熟瘢痕)、赤く盛り上がる異常な瘢痕(肥厚性瘢痕)、肥厚性瘢痕が正常皮膚にも広がっていく瘢痕(ケロイド)、創傷治癒過程で生じる瘢痕が引きつれたもの(瘢痕拘縮)などを含む。
瘢痕の中でも、特にケロイドの修復については多数の報告がある。例えば、HGFタンパク質がコラゲナーゼの発現を増加させて、コラーゲン合成を抑制することが報告されている(例えば、Won Jai Lee et al., J Korean Med Sci 2011; 26、pp.1081-1086;Zhehu Jin, Pathology (January 2014), 46(1), pp.25-31;Priya Krishna et al., Laryngoscope 120, November 2010, pp.2247-2257等)。
【0016】
「HGFアプタマー」は、HGF受容体(例えば、c-Met)に特異的に結合して、HGFと当該HGF受容体との結合を阻害する作用を有する1本鎖核酸分子を有するものであれば特に限定されない。HGFアプタマーは、HGFタンパク質に比べて、優れた安定性に加えて、高収率、かつ低価格で製造できるという利点がある。
【0017】
本明細書において、「特異的」とは、HGF受容体に対する本発明におけるHGFアプタマーの選択的結合を指す。アプタマーは、HGF受容体タンパク質又はそれを細胞膜上に発現する細胞を、所定の条件下において、無関係なタンパク質もしくは細胞に対する結合と比較して、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも7倍、好ましくは少なくとも10倍で結合する場合に、そのアプタマーは特異的であるという。「無関係なタンパク質」とは、HGF受容体とは異なるタンパク質であり、その構造、機能等がHGF受容体と異なればよい。
【0018】
本発明におけるHGFアプタマーは、HGF受容体に対して特異的に結合するとの機能を有する限り、そのポリヌクレオチドにおいて1~数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された配列を有していてもよい。かかるポリヌクレオチドの欠失、置換、挿入及び/又は付加が存在する場合、本発明におけるHGFアプタマーの配列は、元のポリヌクレオチドと少なくとも80%以上、少なくとも85%以上、少なくとも90%以上、少なくとも91%以上、少なくとも92%以上、少なくとも93%以上、少なくとも94%以上、少なくとも95%以上、少なくとも96%以上、少なくとも97%以上、少なくとも98%以上、または少なくとも99%以上の配列同一性を有する配列でよい。
【0019】
また、本発明におけるHGFアプタマーの全塩基数は、HGF受容体に特異的に結合するとの機能を有する限り、特に制限はない。合成の容易さや抗原性の点から、上限としては、例えば、500塩基以下でもよく、250塩基以下でもよく、150塩基以下でもよく、80塩基以下でもよく、70塩基以下でもよく、60塩基以下でもよく、55塩基以下でもよい。また、全塩基数が少ない場合、化学合成及び大量生産がより容易で、かつ費用面における長所も大きい。また、化学修飾も容易で生体内の安全性も高く、毒性も低くなる。したがって、下限としては、28塩基以上でもよく、35塩基以上でもよく、40塩基以上でもよく、45塩基以上でもよい。本発明におけるHGFアプタマーが有するポリヌクレオチドの塩基数は、例えば、28~500塩基でもよく、35~250塩基でもよく、40~150塩基でもよく、40~150塩基でもよく、40~80塩基でもよく、40~70塩基でもよく、40~60塩基でもよく、45~55塩基でもよい。
【0020】
本発明におけるHGFアプタマーは1本鎖(ssDNA)であることが好ましいが、ループ構造を有していてもよく、HGFアプタマーを構成するポリヌクレオチドがループ構造の一部または全部を形成していてもよい。本明細書において、「ループ構造」とは、鎖状の化合物の1か所以上が互いに結合して形成された環状の構造をいう。例えば、ループ構造は、1本鎖核酸において、1組以上の相補的な塩基同士が塩基対を形成して形成された環状の構造でよい。ループ構造を形成するための結合の手段は、塩基対の形成によるものに限られず、例えば、核酸の5’末端と3’末端とのライゲーションによるものや、その他任意の架橋構造によるものでもよい。ループ構造を有することにより、HGF受容体への結合能が向上する。
ループ構造をとることにより部分的に2本鎖構造を形成する場合であっても、その核酸アプタマーの長さは1本鎖の長さとして計算するものとする。
【0021】
本発明におけるHGFアプタマーは、前記ループ構造に連結する二本鎖ポリヌクレオチドからなるステム構造を有していてもよい。本明細書において、「ステム構造」とは、鎖状の化合物の2か所以上が互いに結合して形成された鎖状の構造をいう。例えば、ステム構造は、1本鎖核酸において、1組以上の相補的な塩基同士が塩基対を形成して形成された鎖状の構造でもよい。
ループ構造にステム構造が連結する形態は特に限定されないが、ループ構造及びステム構造が一続きのポリヌクレオチドから形成された形態を例示できる。このような核酸の形態は一般に「ステム・ループ構造」と呼ばれる構造であり、tRNA等に見出される。
【0022】
本発明におけるHGFアプタマーは2本鎖ポリヌクレオチドからなるステム構造を有することにより、容易にループ構造を形成可能であり、HGF受容体への結合能が向上する。
【0023】
本発明におけるHGFアプタマーは、当該アプタマーを1単位とし、その1単位のアプタマーが2つ以上連結されたマルチ構造を形成していてもよい。かかるマルチ構造アプタマーとしては、例えば、1単位のアプタマーが2つ連結されたダイマーを例示できる。連結された2つのアプタマーは、互いに同一でも、異なっていてもよい。また、当該ダイマーは、1つのアプタマーと、その相補鎖とがハイブリダイズして得られるものでもよい。
当該連結はリンカーによって結合されていてもよく、そのリンカーの長さは例えばポリヌクレオチド換算で80塩基分以下の長さである。
【0024】
また、本発明におけるHGFアプタマーは、グアニン四重鎖構造を形成していてもよい。グアニン四重鎖構造は、4組のG配列により形成される特定の立体構造である(Y. Nonaka et al., Molecules, 25, 215-225(2010))。グアニン四重鎖はそのトポロジーから「並行型」、「逆並行型」に分類できるが、並行型であっても、逆並行型であってもよい。
【0025】
また、本発明におけるHGFアプタマーは、生体内における安定性の増大のために、化学修飾されていてもよい。そのような化学修飾の非限定的な例としては、糖鎖部分での化学的置換、リン酸エステル部分での化学的置換、塩基部分での化学的置換が挙げられる。
【0026】
典型的な態様において、本発明におけるHGFアプタマーは、例えば、特許第6495927号に記載の配列番号1~4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
配列番号1:ggatggtagc tcggtcgggg tgggtgggtt gg
配列番号2:ggttggtagc tcggtcgggg tgggtgggtt gg
配列番号3:ggatggtagc tcggtcgggg tgggtgggat gg
配列番号4:ggttggtagc tcggtcgggg tgggtgggat gg
なお、本明細書において、ヌクレオチド配列は、5′末端から3′末端方向に左から右に記載する。
【0027】
また、本発明におけるHGFアプタマーは、上記の配列番号1~4で表される塩基配列において、1~2個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド、または上記の配列番号1~4で表される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドも挙げることができる。
【0028】
また、本発明におけるHGFアプタマーは、上記の配列番号1~4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、上記の配列番号1~4で表される塩基配列において、1~2個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド、または1~4で表される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、上記のポリヌクレオチドが少なくとも一部を形成するループ構造を有し、当該ループ構造に連結する二本鎖ポリヌクレオチドからなるステム構造をさらに有するものが好ましい。
【0029】
また、本発明におけるHGFアプタマーは、上記の配列番号1~4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが2つ連結したダイマーを形成していてもよい。連結されるポリヌクレオチド同士は、同一であっても、異なっていてもよい。また、当該ダイマーは、上記の配列番号1~4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと、その相補鎖とがハイブリダイズして得られるものでもよい。
【0030】
本発明におけるHGFアプタマーは、血中の分解酵素(ヌクレアーゼ)に対して強い分解耐性を示す。
【0031】
本発明におけるHGFアプタマーの詳細については、例えば、特許第6495927号を参照されたい。
【0032】
本発明におけるHGFアプタマーは、公知の固相合成法に従って化学合成することができる。核酸の化学合成法については、例えば、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, Volume 1, Section 3を参照されたい。化学合成によって得られた本発明のHGFアプタマーは、使用前に当該分野で公知の方法によって精製することが好ましい。精製方法としては、例えば、ゲル精製法、アフィニティーカラム精製法、HPLC法等が挙げられる。
【0033】
化学合成によって得られたHGFアプタマーは、当該分野において周知のインビトロセレクション法を用いて選別することができる。そのような手法の好ましい例としては、試験管内進化(SELEX法)が挙げられる。SELEX法は、ターゲット物質(受容体)に結合するアプタマーの選別と、PCRによる指数関数的な増幅を複数回繰り返すことにより、受容体に親和性を有する核酸分子(1本鎖DNA、RNA)を得る方法である。
【0034】
さらに、本発明におけるHGFアプタマーとして、HGFペプチドアプタマーを使用することもできる。HGFペプチドアプタマーは、HGF受容体に特異的に結合して、HGFと当該HGF受容体との結合を阻害する作用を有する、一般的に500~2,500Daの分子量を有するペプチドである。HGFペプチドアプタマーの中でも、様々な種類のペプチドが結合して環状構造を取るペプチドは、抗体様結合親和性および特異性を有することが知られている(例えば、Katsuya Sakai et al., Nature Chemical Biology, Vol.15, June 2019, pp.598-606; Wenyu Miao et al., Int. J. Mol. Sci. 2018, 19, 3141-3157参照)。
【0035】
本発明におけるHGFアプタマーは、それ自体を投与してもよく、適宜の薬学的に許容される添加剤と組み合わせて医薬組成物として投与してもよい。薬学的に許容される添加剤とは、製剤技術分野において通常使用する医薬組成物の製剤化や生体への適用を容易にし、その作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質をいう。当該添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、潤滑沢剤、安定化剤が挙げられる。
【0036】
本発明の医薬組成物の投薬形態は、皮膚への浸透性の点から、ナノ粒子、マイクロ粒子、リポソーム、デンドリマー、マイクロカプセル、ナノカプセル、マイクロスフェア、ナノスフェア、マイクロニードルなどのマトリックス封入型に加えて、軟膏、硬膏、クリーム、ローション、溶液、スプレー、エアゾールスプレー、エアゾールフォーム等を挙げることができる。また、マイクロニードルにナノ粒子またはマイクロ粒子をさらに封入した形態(「ナノ粒子封入マイクロニードル」、「マイクロ粒子封入マイクロニードル」)を挙げることができる。
投与方法としては、非経口、例えば、マイクロニードル適用、注射、エアロゾル、塗布が挙げられる。
【0037】
上記の形態の中で、薬剤の皮膚への浸透性、特に薬剤の真皮への送達、薬剤の持続放出などの点から、マトリックス封入型が好ましく、マイクロニードル、ナノ粒子、またはマイクロ粒子がより好ましい。
【0038】
したがって、本発明の一実施形態は、強皮症または瘢痕を治療するための、HGFアプタマーがマトリックスに封入されている製剤である。
【0039】
マイクロニードル製剤は、一般に、微細針の主に先端部に薬剤を含有させ、皮膚に貼付することで薬剤を体内に投与するパッチ形態を特徴とする。ニードルが直接皮膚の内部に入り、皮膚内部で薬剤が溶解・浸透するため、薬剤を効率的に送達することができ、簡便かつ安全な投与形態により自己投与が可能であり、投与時に痛みを伴わないなどの利点がある。また、投与回数を低減でき、連続投与は不要である。このようなマイクロニードル製剤の特徴は、比較的長い治療期間を要する強皮症患者のQOLを向上させる。
なお、パッチは、一般に、マイクロニードルを基板上に多数集積させたマイクロニードルアレイの背面に、疎水性または非溶解性フィルムを裏打ちしたものである。
【0040】
本発明におけるマイクロニードルは、基材が水溶性ポリマー等からなり、皮膚の水分でマイクロニードルが溶解するタイプの「溶解型マイクロニードル」でも、基材が生分解性ポリマー等からなり、マイクロニードルが生分解するタイプの「非溶解型マイクロニードル」でもよい。しかし、基材が金属やシリコンであるマイクロニードルを含まない。
【0041】
水溶性ポリマーとしては、例えば、セルロースまたはその誘導体、アルギン酸塩、マルトース、ポリ乳酸、ポリデキストロース、マルトデキストリン、グアーガム、ゼラチン、アラビアゴム、それらの組み合わせが挙げられる。セルロース誘導体とは、セルロース分子中のヒドロキシ基に、エーテル結合またはエステル結合によって異なる置換基を導入することにより、溶解性、熱的性質、化学的性質等を改変したもので、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(PMC)等である。
水溶性ポリマーとして、ヒアルロン酸も使用できるが、ヒアルロン酸は線維芽細胞を刺激し、コラーゲン産生を誘導する傾向がある。
【0042】
マイクロニードルの作製方法としては、多数の方法が報告されているが、例えば、Xuらの「2019年度 精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集」、E36に記載にマイクロモールディング法に従って作製することができる。
具体的には、金属のマイクロニードルアレイにマイクロ放電加工を施してオス型モールドを製作し、オス型モールドをマイクロニードル作成用材料溶液に挿入し、マイクロニードル作成用材料溶液を固化し、次いで、オス型モールドを取り除くと、メス型モールド(マイクロニードル作成用モールド)が得られる。メス型モールドを表面親水性付与のためにプラズマ処理し、薬剤溶液を添加し、当該溶液を固化させる。次いで、メス型モールドを取り除くと、マイクロニードルパッチが得られる。
【0043】
ナノ粒子またはマイクロ粒子を構成するポリマーとしては、生分解性ポリマーが好ましい。生分解性ポリマーとしては、薬剤放出量の制御、薬剤の運搬性などの点から、例えば、乳酸、グルコール酸、酪酸、ヒドロキシ酪酸、シュウ酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸などの重合体、およびこれらの共重合体が挙げられ、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ラクチド-グリコリド共重合体(PLGA)、またはラクチド-グリコリド-co-ポリエチレングリコール共重合体が好ましく、ラクチド-グリコリド共重合体がより好ましい。
【0044】
ラクチド-グリコリド共重合体としては、乳酸とグリコール酸とを約0.01:1~1:0.01、好ましくは1:5~10:1、より好ましくは1:1~6:1の比率で含む、分子量2,000~200,000、好ましくは2,000~100,000、より好ましくは5,000~85,000のものが挙げられる。
【0045】
ナノ粒子またはマイクロ粒子は、一般に、超音波処理や撹拌によるせん断力によりエマルションを得、溶媒を蒸発することによって作製できる。例としては、二段階乳化法(C. Bitencourt et al., Tissue Engineering, 21, (2013), 246-256)が挙げられるが、得られる粒子の粒度分布の幅が広い。一方、シラスポーラスガラス(SPG)膜乳化法(S. Omi, et al. J. Appl. Polym. Sci., 51 (1994) 1-11)は、均一な細孔径をもつSPG膜を介して、分散相液をある一定圧力で押し出すことにより、押し出される側をゆっくり流れている連続相液中に、均一な粒子として次々に分散させる乳化法である。SPG膜乳化法は、粒子サイズの精密な制御が可能であり、本発明の粒子の作製に好ましく使用できる。
【0046】
薬剤封入ナノ粒子または薬剤封入マイクロ粒子は、例えば、ポリマーを含む溶媒に薬剤含有水溶液を乳化させてW/Oエマルションを得、次いで、SPG膜を介して当該W/Oエマルションを連続相液中に一定圧力で押し出してW/O/Wエマルションを得、最後に、溶媒を除くことによって作製できる。当該方法によって得られたマイクロ粒子は、粒子群の分子幅が小さく、粒子同士の凝集が抑制され、その形状が球状であるなどの利点を有する。薬剤封入マイクロ粒子の作製については、例えば、Ohta et al.,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 179(2019)453-461、薬剤封入ナノ粒子の作製については、例えば、Cheng,Jianjun,et al.,Biomaterials,28(2007)869-876を参照されたい。
【0047】
安定な膜乳化のためには界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の種類や濃度によって粒子の平均径や粒度分布が大きく変わる。
【0048】
薬剤封入ナノ粒子の粒径は、1nm~1000nmであることが好ましく、10nm~500nmであることがより好ましく、20nm~300nmであることがさらに好ましい。薬剤封入マイクロ粒子の粒径は、1μm~500μmであることが好ましく、5μm~100μmであることがより好ましく10μm~50μmであることがさらに好ましい。
本明細書において、「粒径」とは平均粒子径を指す。平均粒子径は、動的光散乱法あるいはレーザー回折式粒度分布計により、任意に500個以上の粒子を選択して、個別の粒子サイズを測定して、その測定値の平均値をとったものである。
【0049】
ナノ粒子またはマイクロ粒子中の薬剤の含有量は、特に制限はないが、例えば、薬剤封入ナノ粒子または薬剤封入マイクロ粒子の総重量当たり、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、さらに好ましくは少なくとも10重量%である。2重量%~20重量%の範囲、好ましくは5重量%~20重量%の範囲、さらに好ましくは10重量%~20重量%の範囲である。
マイクロニードル中の薬剤の含有量は、特に制限はないが、例えば、薬剤封入マイクロニードル製剤の総重量当たり、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%、さらに好ましくは少なくとも1重量%である。0.01重量%~10重量%の範囲、好ましくは0.1重量%~5重量%の範囲、さらに好ましくは1重量%~3重量%の範囲である。
【0050】
本発明の薬剤の投与量は、投与形態、投与対象、年齢、性別、症状等によって異なるが、例えば、ナノ粒子、マイクロ粒子、マイクロニードルの各製剤では、成人(体重60kgとして)において、1日あたり、例えば20~1000mg程度、好ましくは20~900mg程度、より好ましくは20~700mg程度、より好ましくは20~500mg程度、より好ましくは20~300mg程度、さらに好ましくは20~200mg程度を投与することができる。
【0051】
さらに、本発明の一実施形態は、強皮症または瘢痕を治療するための、イマチニブが封入されたナノ粒子またはマイクロ粒子がさらにマイクロニードル封入されたマイクロニードル製剤である。
【0052】
イマチニブはその薬学的に許容される塩でもよい。イマチニブの薬学的に許容される塩としては、例えば、薬学的に許容される酸付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸、硫酸またはリン酸のような無機酸、または適当な有機カルボン酸またはスルホン酸の塩が挙げられるが、イマチニブのモノメタンスルホン酸塩が好ましい。
【0053】
ナノ粒子、マイクロ粒子、これらの粒子へのイマチニブの封入方法などは、上記のとおりであるか、または、上記を参考にして実施できる。
イマチニブのモノメタンスルホン酸塩を封入したマイクロニードルの製造方法は、Xuらの「2019年度 精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集」、E36の記載を参照されたい。
【実施例0054】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
実施例1 HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子製剤の作製
1.試薬
ラクチド-グリコリド共重合体(PLGA)(75/75)(Mw=75,000、Mitsui Chemicals)
ジクロロメタン(DCM)(Wako、#132-02451)
ポリビニルアルコール(PVA)(Mw=13,000~23,000、Sigma Aldrich #363170)
ポリエチレングリコール(PEG)(Mw=20,000、Wako #168-11285)
子牛胸腺由来のデオキシリボ核酸ナトリウム(Type I,fibers)(SIGMA、#D1501-100MG)
サンソフト(登録商標)(#818H)
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル-ブロック-ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(mPEG-b-PLGA)(Mw(PEG)=5,000、Mw(PLGA)=55,000、ALDRICH、#764752)
2.装置
超音波ホモジナイザー(SMT, ULTRA SONIC HOMOGENIZER UH-150)
SPG膜乳化モジュール(SPG膜孔サイズ: 5μm親水性)
遠心分離機(Tomy LC-200)
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立 TM3030Plus)
レーザー回折粒度分布計(Horiba LA-350)
3.方法
(1)PVA(12g)とPEG(156mg)とを純水(600ml)に加え、50℃で一晩攪拌して溶解した。
(2)PLGA(450mg)とmPEG-b-PLGA(50mg)、サンソフト(100mg)をDCM(5ml)に溶解した。
(3)10mgまたは20mgのHGFアプタマー(Ueki et al., Angew .Chem. Int.Ed. 2016, 55,579-582, Supporting Information, p.S2, "ss-0")、またはモデルDNAを純水(1ml)に加え、1wt%または2wt%のアプタマー溶液を調製した。
HGFアプタマーの配列(配列番号5):
5’ atc agg ctg gat ggt agc tcg gtc ggg gtg ggt ggg ttg gca agt
ctg atc gtg tca cgg atg gta gct cgg tcg ggg tgg gtg ggt tgg cag tga
cac g 3’
モデルDNA:
ウシ胸腺由来DNA(Sigma Aldrich社 D1501-100MG)
(4)HGFアプタマー溶液(1ml)をPLGA溶液(5ml)に加え、超音波ホモジナイザーで3分間乳化することにより(30秒超音波照射+30秒インターバルの繰り返し)(超音波ホモジナイザーの出力:OUTPUT6(90W)、30% duty)、W/Oエマルションを得た。
(5)得られたW/Oエマルションを、SPG膜乳化装置によって、さらに(1)で作製したPVAのPEG水溶液に乳化することにより、W/O/Wエマルションを得た。
(6)ドラフト内でエマルションを攪拌し続けることによりDCMを揮発させ、HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子を得た。得られた溶液を2500rpmで5分間遠心し、上澄みを取り除いて純水(50ml)を加えた。さらに同じ操作をもう一度繰り返し、粒子を洗浄した。上澄み除去後、純水(5ml)を加え、-80℃で凍結した。
得られた粒子の構造と粒径を、SEMおよびレーザー回折粒度分布計で評価した。5mgの粒子をPBS(1ml)に分散して37℃でインキベートし、PBS中に溶出したモデルDNA量をDAPIアッセイキット(同仁化学研究所)によって測定することにより、粒子の徐放挙動を検証した。
4.結果
得られた粒子のSEM像を
図1に示す。球形のマイクロ粒子の形成が確認された。また、レーザー回折粒度分布計による測定から、平均粒径は12.3mm、CVは26.06%であることが分かった。
モデルDNAを使用し、粒子からのDNAの放出挙動を測定した結果を
図2に示す。封入されたモデルDNAは10日間に渡って持続的に放出されていることが確認された。
【0056】
実施例2 HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子製剤の作製
1.試薬
PLGA(75/75)(Mw=75,000、Mitsui Chemicals)
DCM(Wako、#132-02451)
PVA(Mw=13,000~23,000、87~89%水素化、Sigma Aldrich #363170)
ポリエチレングリコール(PEG)(Mw=20,000、Wako #168-11285)
子牛胸腺由来のデオキシリボ核酸ナトリウム(Type I,fibers)(SIGMA、#D1501-100MG)
PLA-PEG-PLA(EL-40)(LA/EO=65/35)(Mw=19,300、Taki Chemical)
【0057】
【0058】
2.装置
超音波ホモジナイザー(SMT, ULTRA SONIC HOMOGENIZER UH-150)
遠心分離機(Tomy LC-200)
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立 TM3030Plus)
動的光散乱装置(DLS)(Malvern Zetasizer Nano ZS)
3.方法
(1)実施例1のHGFアプタマーを用いて、TE緩衝液(1ml)に対し、4mg/mlのHGFアプタマー溶液を調製した。
(2)DCM(2mL)に対し、100mg/mlのPLGAと10mg/mlのPLA-b-PEG-b-PLA(EL-40)を溶解した。
(3)(1)のアプタマー溶液を(2)のPLGA溶液に全量加え、超音波ホモジナイザーで90秒乳化することにより、W/Oエマルションを得た。
(4)さらに、2wt%のPVAと0.026wt%のPEGを溶解した純水を得られたW/Oエマルションに加え、超音波ホモジナイザーで60秒乳化することにより(出力:OUTPUT6(90W)、30% duty)、W/O/Wエマルションを得た。
(5)ドラフト内でエマルションを攪拌し続けることによりDCMを揮発させ、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子を得た。
(6)得られた溶液を3500rpmで30分間遠心し、上澄みを取り除いて純水(50ml)を加えた。さらに同じ操作をもう2回繰り返し、粒子を洗浄した。
(7)上澄み除去後、純水(5ml)を加え、-80℃で凍結した。
(8)得られた粒子の構造と粒径を、SEMおよびDLSで評価した。
4.結果
得られた粒子のSEM像を
図3に示す。球形のナノ粒子の形成が確認された。DLSによって測定された平均粒径は、211nmであった。
【0059】
実施例3 PLGAマイクロ粒子封入HAマイクロニードル製剤の作製
1.装置
プラズマ処理装置 YHS-R
真空乾燥機 VS type
2.手順
(1)Xuらの「2019年度 精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集」、E36に記載に方法に従って作製したマイクロニードル作成用モールドを、プラズマ処理装置で5秒間処理した。
(2)実施例1で作製したPLGAマイクロ粒子の分散液(300ml)を(1)のモールドに加え、真空乾燥機中で0.9MPaに減圧することにより、(1)のモールド中の溝に分散液を充填した。その後、40℃で30分加熱し、水を蒸発させた。
(3)さらに、20wt%のヒアルロン酸水溶液を加えてモールドを満たし、0.9MPaで減圧後、50℃で3時間加熱し、水を蒸発させてヒアルロン酸(HA)を固化させた。
3.結果
作製したマイクロニードルの顕微鏡観察像を
図4に示す。6×6のアレイ状に、高さ500mm程度のマイクロニードルが作製されていることが確認された。一方で、ニードルの先端が壊れて折れているものなどが一部観察された。これは、マイクロニードルが先端に集積してマトリックスであるHAの連続性が損なわれ、ニードルの強度が低下したためと推測される。
【0060】
実施例4 PLGAナノ粒子封入CMCマイクロニードル製剤の作製
1.試薬
カルボキシメチルセルロース(CMC)(SIGMA #C5678-500G)
2.装置
プラズマ処理装置 HS-R 真空乾燥機 S type
3.手順
(1)実施例3と同様に、マイクロニードル作成用モールドをプラズマ処理装置で10秒間処理した。
(2)実施例2で作製したPLGAナノ粒子を用いて、8wt%のCMC水溶液に対して、5wt%のPLGAナノ粒子を分散させた。
(3)(2)の溶液を(1)のモールドに加えて満たし、0.9MPaで減圧後、一晩静置して水を蒸発させ、CMCを固化させた。
4.結果
作製したマイクロニードルの顕微鏡観察像を
図5に示す。形の揃った、平均高さ1120mm、幅623mmのマイクロニードルが作製されていることが確認された。PLGA粒子をナノサイズにすることにより、強度が向上し、形状が崩れることなく、ニードルを作製できたものと考えられる。
作製したニードルの生体中での溶解性を検証するために、皮膚の含水率を模倣した35w/w%のゼラチンハイドロゲルにマイクロニードルを挿入した結果を
図6に示す。挿入30秒後には、ゼラチン内に挿入されたニードル先端部が溶解していることが確認された。これにより、作製したマイクロニードルは表皮に到達後、速やかに溶解してPLGAナノ粒子を放出する可能性が示唆された。
【0061】
実施例5 HGFアプタマーの線維芽細胞に対するコラーゲン産生抑制効果のインビトロ試験
1.試薬
(1)D-MEM(高グルコース)(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(Wako Pure Chemical #044-29765)
(2)実施例1に記載のHGFアプタマー
(3)ペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシンB懸濁液(×100)(抗生物質-抗真菌剤溶液)(Wako Pure Chemical #161-23181)
(4)トリプシン(EDTA)(Wako Pure Chemical # 209-16941)
(5)TGF-β(R&I system Inc #518-91181)
(6)0.1%シリウスレッド
(7)0.1mol/l NaOH
(8)0.1%酢酸
(9)ニュージーランド産新生仔ウシ血清(GE #SH3040.01)
2.手順
(1)DMEMに10%仔ウシ血清、1%PSAを添加したものを培地として使用し、NIH-3T3細胞を培養した。
(2)細胞を5x10
4細胞/ウェルで24ウェルのマイクロプレートに播種した。
(3)24時間後、培地をアスピレートし、血清を含まないDMEM培地を添加した。
(4)さらに8ng/mlのTGF-βを添加し、48時間培養した。
(5)その後、200ng/mlまたは400ng/mlのHGFアプタマーを添加した培地と交換し、さらに48時間培養した。
(6)培地をアスピレート後、70%アルコールで15分間インキュベートして細胞を固定化し、アルコールを除去した後に、0.1% シリウスレッド溶液(1ml)を添加して30分間静置した。
(7)0.1%酢酸で洗浄を行った。
(8)0.1mol/lNaOH(1ml)を加え、30分間静置した。
(9)紫外可視分光法(UV-Vis)で540nmの吸光度を測定し、コラーゲン産生量を評価した。
3.結果
NIH-3T3細胞によって産生されたコラーゲンをシリウスレッドで染色した光学顕微鏡観察像を
図7に示す。TGF-βによって刺激した群(右上パネル)ではコラーゲン産生が亢進し赤色を強く呈色しているのに対し、HGFアプタマーを添加した群(左下パネル、右下パネル)では赤色が少し減少していることが示唆された。さらにこれをUV-vis測定によって定量化した結果を
図8(b)に示す。コントロール群(
図7の左上パネル)と比較してTGF-βによって刺激した群(
図7の右上パネル)ではコラーゲン産生量が上昇し、HGFアプタマーを添加した群(
図7の左下パネル、右下パネル)では用量依存的にコラーゲン産生量が減少していることが示唆された。
【0062】
実施例6 強皮症治療効果のインビボ評価
1.試薬・材料
イソフルラン(Wako 099-06571 生化学用)
ブレオ注射用(日本化薬 27180)
PBS(-)(Wako 166-23555 細胞培養用)
2.動物
7週齢C57BL/6雌性マウス(日本クレア)
3.装置
導入麻酔ボックス
ヘアークリッパー(バリカン)
マイジェクター 注射針付シリンジ インスリン用(1 ml, 27 G×1/2”)(TERUMO)
4.手順-強皮症マウスモデルの作製
(1)マウスを1週間順化させた。
(2)導入麻酔ボックスにマウスを入れ、導入麻酔ボックスによりイソフルランで麻酔した。
(3)バリカンを用いて、麻酔をかけたマウスの背部を除毛した。
(4)ブレオ注射用を1.0mg/mlの濃度でPBS(-)に溶解させた(以降、この溶液を「ブレオマイシン溶液」と言う)。
(5)注射針付シリンジを用いて、ブレオマイシン溶液(0.3ml)をマウスの皮中に注射した。
(6)(4)の手順を1週間の内、平日の5日間実施した。これを3週間(計15日間)行った。
5.手順-材料の投与
(1)マウスを6群に分け、以下の条件で、HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子(Run 1)、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子(Run 2)、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子CMCマイクロニードル(Run 3)、HGFアプタマー単独(Run 4)の各製剤を投与した。「アプタマー単独」は、HGFアプタマーが粒子にもマイクロニードルにも封入されていない製剤を意味する。
【0063】
【0064】
(2)投与から1週間後に、二酸化炭素によりマウスを安楽死させた。
(3)はさみを用いて皮膚を剥離した。
6.手順―評価
(1)採取した皮膚から切片を作製し、HE染色を行った。得られた染色画像(
図9)から真皮厚みを画像解析によって測定し、各群での比較を行った。
(2)採取した皮膚を用いて引張試験を行い、ヤング率、破断応力、破断ひずみを測定した。
7.結果
各群の皮膚のHE染色像および当該像から算出された真皮厚みを
図10に示す。未処置の群と比較して、HGFアプタマー単独、HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子、HGFアプタマー封入ナノ粒子CMCマイクロニードルを投与した群ではいずれも真皮厚みの有意な減少が認められた。
また、引張試験によって皮膚の力学的強度を比較した結果、HGFアプタマー単独、HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子、HGFアプタマー封入PLGAナノ粒子CMCマイクロニードルを投与した群で、非処置群と比較して、ヤング率の低下が確認された(
図11)。
以上の結果から、HGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子およびHGFアプタマー封入PLGAナノ粒子、並びにHGFアプタマー封入PLGAナノ粒子マイクロニードルおよびHGFアプタマー封入PLGAマイクロ粒子マイクロニードルの強皮症に対する治療効果が示唆された。