IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特開2023-182941ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法
<>
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図1
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図2
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図3
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図4
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図5
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図6
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図7
  • 特開-ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182941
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02C 9/00 20060101AFI20231220BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20231220BHJP
   F02C 9/54 20060101ALI20231220BHJP
   F23R 3/00 20060101ALI20231220BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F02C9/00 B
F02C7/00 A
F02C9/00 C
F02C9/54
F23R3/00 E
F01D25/00 A
F01D25/00 V
F01D25/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096221
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】筈井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】阿野 繁
(72)【発明者】
【氏名】福本 皓士郎
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 僚一
(72)【発明者】
【氏名】和田 健太
(57)【要約】
【課題】燃焼状態を管理範囲内に維持しながら、バリエーションに富んだ特性データを収集可する。
【解決手段】ガスタービン制御装置は、周波数解析部と、データベースと、燃焼状態予測部と、補正量算出部とを備える。周波数解析部は、ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力する。データベースは、運転点ごとに周波数解析結果及びプロセス量を分析用データとして格納する。燃焼状態予測部は、分析用データを用いて構築された予測モデルを用いて、ガスタービンの燃焼状態を予測する。補正量算出部は、運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、運転点を起点とした探索候補点のうち状態予測部によって予測された燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にてガスタービンを運転するためにガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するための周波数解析部と、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとして格納するためのデータベースと、
前記分析用データを用いて構築された予測モデルを用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するための燃焼状態予測部と、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するための補正量算出部と、
を備える、ガスタービン制御装置。
【請求項2】
前記補正量算出部は、前記運転点領域について前記過去の探索実績が有る場合、前記待機時間として、前記運転点について前記過去の探索実績が無い場合に対応する第1待機時間より長い第2待機時間を設定するように構成される、請求項1に記載のガスタービン制御装置。
【請求項3】
前記運転点領域は、前記プロセス量によって規定される第1仮想空間が分割される複数のエリアのうち前記運転点が属する領域として特定される、請求項1又は2に記載のガスタービン制御装置。
【請求項4】
前記待機時間は、前記データベースに格納された前記分析用データのうち前記運転点領域に含まれるデータ数が少なくなるに従って短くなるように設定される、請求項1又は2に記載のガスタービン制御装置。
【請求項5】
前記補正量算出部は、前記プロセス量によって規定される第2仮想空間に設定可能な探索ルートごとに前記予測モデルの不確かさを評価し、前記不確かさが大きい前記探索ルートから前記探索候補点を優先的に選択するように構成される、請求項1又は2に記載のガスタービン制御装置。
【請求項6】
前記探索ルートは、前記第2仮想空間のうち前記プロセス量が所定間隔で異なる運転点を含むルートとして規定され、
前記補正量算出部は、前記探索ルートに含まれる前記運転点の各々における前記予測モデルの不確かさに基づいて、前記探索ルートの不確かさを算出する、請求項5に記載のガスタービン制御装置。
【請求項7】
前記補正量算出部は、前記過去の探索実績に含まれるデータ数又は前記探索候補点における前記燃焼状態予測部によって予測された前記燃焼状態の安定度の少なくとも一方に基づいて、前記補正量を加えることによる前記制御信号の変化速度を可変にするように構成される、請求項1又は2に記載のガスタービン制御装置。
【請求項8】
前記プロセス量に基づいて前記運転点における前記ガスタービンの状態を把握するための状態把握部を更に備え、
前記補正量算出部は、前記状態把握部によって把握された前記状態が管理範囲を逸脱した場合に、前記補正量の算出を中断する、請求項1又は2に記載のガスタービン制御装置。
【請求項9】
ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するステップと、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとして格納するステップと、
前記分析用データを用いて構築された予測を用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するステップと、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するステップと、
を備える、ガスタービン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼器によって生成された燃焼ガスを用いて駆動されるガスタービンでは、ガスタービンに連結された発電機の出力、周囲の大気温度や湿度等に基づいて、燃焼ガスを生成するために燃焼器に供給される燃料や空気の流量を予め決定し、それらの値を試運転で微調整して運用に用いられている。しかしながら試運転は現実には限られた期間で行われることから、試運転によって全ての気象条件を考慮した調整ができるわけではない。また、ガスタービンに供給される空気を圧縮するための圧縮機の性能劣化や、当該空気に含まれる異物を除去するためのフィルタに目詰まり等の経年変化が生じることもあるため、実際の流量は計画時や試運転時からずれてしまう可能性がある。その場合、ガスタービンの燃焼安定性が低下し、ガスタービンの燃焼状態が管理範囲から逸脱するおそれがある。このような燃焼状態の管理範囲からの逸脱はタービンの故障等の不具合に繋がる可能性があり、ガスタービンの運転に大きな支障をきたす。そのため、燃焼状態の管理範囲からの逸脱を出来る限り抑制し回避することが、ガスタービンの保護及び稼働率向上の観点から求められている。
【0003】
このようなガスタービンにおける燃焼状態の管理範囲からの逸脱を抑制するための技術として、例えば特許文献1がある。この文献では、ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数分析した結果に基づいて、燃焼状態として燃焼振動の特性を解析し、燃焼振動が管理範囲内に抑制されるように、燃焼器に供給される燃料の流量、又は、空気の燃料を調整するとされている。更に、調整されたこれらのプロセス値をデータベースに蓄積し、次回以降に、データベースの蓄積されたデータを利用することで、燃焼振動を抑制するための燃料の流量、又は、空気の流量に調整する際に、信頼性をより高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-155590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のガスタービン制御装置では、上記特許文献1のように燃焼状態を管理範囲内に抑制するようにガスタービンの運転点を移動させた際に、燃焼状態が管理範囲内に安定するように自動的に燃料流量を増減させることにより周囲の運転点を探索し、これらの運転点における燃焼状態に関する特性データを収集することで、より多くの情報をデータベースに蓄積し、信頼性向上を図ることがある。このようにデータベースに蓄積した情報に基づいて燃焼状態の特性を高い信頼性で把握する観点からは、データベースには、様々な運転条件で取得された情報が蓄積されることが望ましい。
【0006】
しかしながら、上記のように燃焼状態が管理範囲内において自動的に燃料流量を増減させながら探索された運転点で収集されるデータは非常に類似しており、同様の探索を何度も行ったとしても、類似したデータが収集されるだけであり、バリエーションに富んだデータ収集は難しい。対照的に、バリエーションに富んだデータを収集するために運転点を探索すると、燃焼状態が管理範囲を逸脱して燃焼振動等を発生させる可能性が増えてしまう。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、燃焼状態を管理範囲内に維持しながら、バリエーションに富んだ特性データを収集可能なガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係るガスタービン制御装置は、上記課題を解決するために、
ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するための周波数解析部と、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとして格納するためのデータベースと、
前記分析用データを用いて構築された予測モデルを用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するための燃焼状態予測部と、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するための補正量算出部と、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係るガスタービン制御方法は、上記課題を解決するために、
ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するステップと、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとして格納するステップと、
前記分析用データを用いて構築された予測を用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するステップと、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ガスタービンの動作状態を管理範囲内に維持しながら、ガスタービンの燃焼安定性に関する特性を予測するための予測モデルの構築に用いられる分析用データを効率的に収集可能なガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るガスタービンの構成を概略的に示す図である。
図2】一実施形態に係るガスタービン制御装置をガスタービンとともに機能的に示すブロック図である。
図3図2のガスタービン制御装置の詳細な機能的構成を示すブロック図である。
図4図3のガスタービン制御装置によって実施されるタービン制御方法のフローチャートである。
図5図4のステップS101で圧力変動に周波数解析を行った結果の一例である。
図6】ガスタービンのプロセス量によって規定される第1仮想空間を模式的に示す図である。
図7】ガスタービンのプロセス量によって規定される第2仮想空間を模式的に示す図である。
図8】ガスタービンのプロセル量によって規定される第3仮想空間を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
まず本開示の少なくとも一実施形態に係るガスタービン制御装置の制御対象であるガスタービン2について説明する。図1は一実施形態に係るガスタービン2の構成を概略的に示す図である。ガスタービン2は、ガスタービン本体部100と、燃焼部110とを備える。
【0014】
ガスタービン本体部100は、入口案内翼102を有する圧縮機101と、回転軸103と、タービン104とを備える。圧縮機101及びタービン104は回転軸103によって連結されており、タービン104には発電機121が接続されている。
【0015】
タービン104には、燃焼ガス導入管120が接続される。燃焼ガス導入管120から導入される燃焼ガスはタービン104を駆動させ、仕事を終えた燃焼ガス(排ガス)は外部に排出される。タービン104は燃焼ガスによって駆動されることで燃焼ガスが有するエネルギーを回転エネルギーに変換する。タービン104の回転エネルギーは、タービン104に連結された圧縮機101及び発電機121の駆動に利用される。
【0016】
圧縮機101は、外部から空気(吸気)を導入して圧縮空気を生成し、生成した圧縮空気を、圧縮空気導入部112を介して燃焼器111に送出する。また圧縮機101は回転軸103を介してタービン104及び発電機121に連結されており、タービン104の回転エネルギーによって駆動可能である。発電機121は、このように駆動されることで回転エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0017】
入口案内翼102は、圧縮機101の空気導入側の回転翼である。入口案内翼102は、回転翼の角度を制御することにより、回転数が略一定である場合においても、圧縮機101に導入される空気の流量を調整することが可能である。
【0018】
燃焼部110は、圧縮空気導入部112と、バイパス空気導入管117と、バイパス弁118と、バイパス空気混合管119と、燃焼ガス導入管120と、燃焼器111と、メイン燃料流量制御弁113と、パイロット燃料流量制御弁114と、メイン燃料供給弁115と、パイロット燃料供給弁116とを備える。
【0019】
圧縮空気導入部112は、圧縮機101に接続され、圧縮機で生成された圧縮空気を燃焼器111に導くための構成である。バイパス空気導入管117及びバイパス空気混合管119は、圧縮空気導入部112によって導入される圧縮空気の一部を、燃焼器111をバイパスして、燃焼ガス導入管120に導入することで、燃焼器111で生成した燃焼ガスと混合するための構成である。バイパス空気導入管117は燃焼器111より上流側の圧縮空気導入部112に接続されるとともに、バイパス空気混合管119は、燃焼器111より下流側の燃焼ガス導入管120に接続される。またバイパス空気導入管117及びバイパス空気混合管119との間には、燃焼器111をバイパスする圧縮空気の流量を調整するためのバイパス弁118が設けられる。
【0020】
メイン燃料流量制御弁113は、燃焼器111のメインバーナー(不図示)に供給されるメイン燃料の流量を制御するための構成である。メイン燃料供給弁115は、燃焼器111のメインバーナーに対するメイン燃料の供給状態(オン/オフ)を制御するための構成である。
【0021】
パイロット燃料流量制御弁114は、燃焼器111のパイロットバーナー(不図示)に供給されるパイロット燃料の流量を制御するための構成である。パイロット燃料供給弁116は、燃焼器111のパイロットバーナーに対するパイロット燃料の供給状態(オン/オフ)を制御するための構成である。
【0022】
燃焼器111は、圧縮空気を供給するための圧縮空気導入部112と、メイン燃料を供給するためのメイン燃料供給弁115につながる配管と、パイロット燃料を供給するためのパイロット燃料供給弁116につながる配管と、燃焼ガスを送出するための燃焼ガス導入管120に接続されている。燃焼器111では、圧縮空気導入部112から導入される圧縮空気と、メイン燃料及びパイロット燃料とがそれぞれ供給され、それらを燃焼することで高温高圧の燃焼ガスを生成する。生成された燃焼ガスは、燃焼ガス導入管120を介して、タービン104に送出される。
【0023】
燃焼ガス導入管120は、一端が燃焼器111に接続されるとともに、他端がタービン104に接続される。また、燃焼ガス導入管120の途中にはバイパス空気混合管119が接続される。
【0024】
続いて上記構成を有するガスタービン2を制御するためのガスタービン制御装置1について説明する。ガスタービン制御装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0025】
図2は一実施形態に係るガスタービン制御装置1をガスタービン2とともに機能的に示すブロック図である。ガスタービン2には、ガスタービン制御装置1で実施される制御に関連する構成として、プロセス量計測部4と、圧力変動測定部5と、加速度測定部6と、操作機構7とを備える。
【0026】
プロセス量計測部4は、ガスタービン2の運転中における、運転条件や運転状態を示すプロセス量を計測するための構成であり、各種計測機器である。プロセス量計測部4は、ガスタービン2上の然るべき部位に設置され、その計測結果は、予め定められた時刻ごとに、ガスタービン制御装置1の制御器10に出力される。ここで、プロセス量は、例えば、発電機121の発電電力(発電電流、発電電圧等)、ガスタービン2の周囲における大気温度、湿度、ガスタービン2の各部における燃料流量及び圧力、空気流量及び圧力、燃焼器111における燃焼ガス温度、燃焼ガス流量、燃焼ガス圧力、圧縮機101やタービン104の回転数、タービン104の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)等をはじめとする排出物濃度等である。
【0027】
尚、ここでプロセス量計測部4は、ガスタービン2に供給される燃料や空気の量等の操作可能な「操作量」の他に、例えば、大気温度といった気象データ、要求によって決定される発電機の負荷の大きさ(MW)等の「操作できない状態量」を計測してもよい(この場合、「プロセス量」には、「操作量(プラントデータ)」及び「操作できない状態量」が含まれる)。
【0028】
圧力変動測定部5は、燃焼器111に取り付けられた圧力測定器である。圧力変動測定部5は、制御器10からの指令により、予め定められた時刻毎に、燃焼により発生する燃焼器111内の圧力変動測定値を、ガスタービン制御装置1に出力する。
【0029】
加速度測定部6は、燃焼器111に取り付けられた加速度測定器である。この加速度測定部6は、制御器10からの指令により、予め定められた時刻ごとに、燃焼により発生する燃焼器111の加速度を計測し、その計測値を、ガスタービン制御装置1へ出力する。
【0030】
操作機構7は、制御器10からの指令により、メイン燃料流量制御弁113及びメイン燃料供給弁115、並びに、パイロット燃料流量制御弁114及びパイロット燃料供給弁116の開度を操作する機構であり、これによりメイン燃料及びパイロット燃料の流量制御を行う。更に操作機構7は、制御器10からの指令により、バイパス弁118の開度を操作し、燃焼器111へ供給する空気の流量制御を行う。具体的には、燃焼器111において、バイパス弁118の開度を大きく(あるいは小さく)し、バイパス側に流れる空気流量を増加(あるいは減少)することにより、燃焼器111に供給される空気の流量を制御する。また操作機構7は、制御器10からの指令により、入口案内翼102の回転翼の角度を操作し、圧縮機101に導入される空気の流量制御を行う。
【0031】
ガスタービン制御装置1は、制御器10と、自動調整部20とを備える。制御器10は、プロセス量計測部4、圧力変動測定部5、及び、加速度測定部6から出力される測定値を受け取り、これを自動調整部20に転送する。また制御器10は、自動調整部20からの指令に基づき、操作機構7に対して、操作対象であるメイン燃料流量制御弁113及びメイン燃料供給弁115、パイロット燃料流量制御弁114及びパイロット燃料供給弁116、バイパス弁118、並びに、入口案内翼102を操作するための信号を出力する。
【0032】
図3図2のガスタービン制御装置1の詳細な機能的構成を示すブロック図であり、図4図3のガスタービン制御装置1によって実施されるタービン制御方法のフローチャートである。
【0033】
ガスタービン制御装置1のうち自動調整部20は、入力部21と、状態把握部22と、周波数解析部23と、補正量算出部24と、燃焼状態予測部25と、データベース26と、出力部28とを備える。これらの構成は、図4に示すガスタービン制御方法を実施する際に、以下のように機能する。
【0034】
まず入力部21には、制御器10から転送された各種データ(図2に示すプロセス量計測部4、圧力変動測定部5、加速度測定部6から出力されるプロセス量や圧力、加速度)が入力される(ステップS100)。入力部21に入力された各種データは、必要に応じて、状態把握部22、及び、周波数解析部23に受け渡されることで後述の各種処理に用いられる。
【0035】
続いて周波数解析部23は、ステップS100で取得した各種データのうち圧力変動(圧力変動測定部5の測定結果)又は加速度(加速度測定部6の測定結果)について周波数解析を実施する(ステップS101)。ステップS101における周波数解析は、圧力又は加速度の変動について高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)を適用することにより行われる。周波数解析部23で得られた周波数解析結果は状態把握部22及び燃焼特性把握部25に出力される。
【0036】
ここで図5図4のステップS101で圧力変動に周波数解析を行った結果の一例である。図5では、横軸は周波数を示し、縦軸は振動の強度(レベル)を示している。図5に示すように、燃焼器111において発生する燃焼振動(圧力振動又は加速度振動)は、複数の振動の周波数を有する。周波数解析は、複数の周波数帯に区切って行われてもよい。ここで、周波数帯とは、周波数解析部23が周波数分析を行った結果に基づいて、対応を行う最小単位となる周波数領域である。
【0037】
続いてステップS100で入力された各種データとステップS101で得られた周波数解析結果とを、分析用データとしてデータベース26に記憶(追加又は更新)する(ステップS102)。分析用データは、ステップS100で入力された各種データに含まれるプロセス量によって特定される運転点における周波数解析結果を含んで格納される。後述するように図4に示す一連のステップは運転点を探索しながら繰り返し実施され、データベース26には、運転点ごとに分析用データが逐次記憶される。
【0038】
このようにデータベース26に蓄積された分析用データは、燃焼状態予測部25においてガスタービンの燃焼状態を予測するための予測モデルの構築に用いられる。予測モデルの構築手法は限定されないが、分析用データを用いた回帰分析や機械学習を用いることができる。
【0039】
続いて状態把握部22によって把握されたガスタービンの状態が管理範囲を逸脱しているか否かを判定する(ステップS103)。ステップS103における判定は、状態把握部22において、ステップS100で入力された各種データに含まれるプロセス値とステップS101で得られた周波数解析結果とに基づいてガスタービンの状態が把握される。そして当該状態が、予め設定された管理範囲と比較されることにより、管理範囲の逸脱の有無が判定される。
【0040】
尚、状態把握部22で把握されるガスタービンの状態には、ガスタービンで発生する燃焼振動の有無、ガスタービンからの排ガスに含まれるNOxやCO含有濃度、又は、失火等の燃焼状態等が含まれる。またステップS103において判定基準とされる管理範囲は、これらのガスタービンの状態を示す各パラメータに対応する基準値(例えば上限基準値及び下限基準値)によって規定される。図5の例では、ガスタービンの状態の一例として、ガスタービンの振動強度が示されており、当該振動強度について規定された管理範囲である管理値(閾値)を逸脱する振動強度が検知された場合に、ガスタービンに燃焼振動が発生したと判定することができる。このような管理値は周波数の帯域ごとに設定されていてもよい。
【0041】
その結果、ガスタービンの状態が管理範囲を逸脱していることが判定された場合(ステップS103:YES)、ガスタービン制御装置1はガスタービンの状態が管理範囲を逸脱しないように対策を実施する(ステップS104)。ステップS104で実施される対策は、例えばガスタービンの状態が管理範囲を逸脱する要因が燃焼振動の発生である場合には、燃料や空気の流量の調整(空燃比の調整)のように燃焼振動を抑制するための対策であってもよいし、ガスタービン2の稼働の中断であってもよい。
【0042】
一方でガスタービンの状態が管理範囲を逸脱していないと判定された場合(ステップS103:NO)、ガスタービン制御装置1は、自動調整部20による運転点の探索実施中であるか否かを判定する(ステップS105)。運転点の探索実施中でない場合(ステップS105:NO)、すなわち、これから運転点の探索を開始する場合、現在の運転点を含む運転点領域における過去の探索実績を確認する(ステップS106)。ステップS106では、例えば、データベース26に格納された分析用データを検索することにより、現在の運転点を含む運転点領域における過去の分析用データがあるか検索することで、過去の探索実績が確認される。より具体的には、過去の探索実績は、データベース26に格納された分析用データに、確認対象となる運転点を含む運転点領域に含まれるデータがあるか否かに基づいて確認される。より好適には、データベース26に格納された分析用データに、運転点領域に信頼性のある予測モデルを構築するために十分なデータがあるか否かに基づいて確認される。
【0043】
尚、本実施形態では、データベース26に格納される分析用データは、予測モデルの構築用データ、及び、運転点領域における過去の探索実績の有無を確認する際の参照用データを兼ねているが、予測モデルの構築用としての分析データと、運転点領域における過去の探索実績の有無を確認する際の参照用データとが、それぞれ別のデータベースに格納されていてもよい。つまり、データベース26は、予測モデルの構築用としての分析データを格納するためのデータベースと、運転点領域における過去の探索実績の有無を確認する際の参照用データを格納するためのデータベースとを含んでもよい。
【0044】
尚、ステップS106で取り扱われる運転点領域とは、ある運転点を含む所定の広がりを有する範囲であり、例えば、予測モデルの構築に用いられる分析用データとして用いられた場合に、ある運転点と予測モデルに対する寄与度がほぼ同等であるとみなせる範囲、いわば、ある運転点と類似するとみなせる範囲を含むように規定される。
【0045】
続いて自動調整部20は、ステップS106で確認した過去の探索実績に基づいて探索開始条件に含まれる待機時間を設定する(ステップS107)。探索開始条件は、後述するステップS109で運転点の次の移動先の候補である探索候補点の探索を開始するための条件であり、ステップS107で設定された待機時間を経過することを条件として規定する。
尚、ステップS107における待機時間の設定は、データベース26に格納された分析用データのうち運転点を含む運転点領域に含まれるデータ数が少なくなるに従って短くなるように行われる。これにより、データ数が少ない運転点領域における分析用データの収集が促進されることで、分析用データを用いて構築される予測モデルの信頼性を効果的に向上できる。
【0046】
続いて自動調整部20は、ステップS107で設定された待機時間が経過することで探索開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS108)。探索開始条件が成立すると(ステップS108:YES)、探索候補点が選択される(ステップS109)。探索候補点は、運転点の移動先の候補として、所定の探索アルゴリズムに基づいて選択される。
【0047】
続いて燃焼状態予測部25は、ステップS109で選択した探索候補点について燃焼状態を予測する(ステップS110)。ステップS110では、データベース26に格納された分析用データを用いて構築された予測モデルを用いて、探索候補点にガスタービンの運転点が移行した場合の燃焼状態が予測される。ステップS110で予測されるガスタービンの燃焼状態には、例えば、ガスタービンで発生する燃焼振動の有無、ガスタービンからの排ガスに含まれるNOxやCO含有濃度、又は、失火の有無等が含まれる。
【0048】
続いて自動調整部20は、ステップS110で予測された燃焼状態が管理範囲を逸脱するか否かを判定する(ステップS111)。ステップS111において判定基準とされる管理範囲は、これらのガスタービンの燃焼状態を示す各パラメータに対応する基準値(例えば上限基準値及び下限基準値)によって規定される。すなわち、ステップS111では、燃焼状態予測部25によって予測された燃焼状態について、前述のステップS103と実質的に類似の判定がなされることで、探索候補点における燃焼状態が管理範囲を逸脱されるか否かが判定される。
【0049】
その結果、探索候補点におけるガスタービンの燃焼状態が管理範囲を逸脱しないと判定された場合(ステップS111:YES)、自動調整部20は、補正量算出部24に対して、ステップS109で探索された探索候補点に移行するための補正値を出力するように指令する(ステップS112)。その結果、ガスタービンの運転点は、ステップS109で探索された探索候補点に移行し、処理がステップS100に戻される。
【0050】
一方で、探索候補点におけるガスタービンの燃焼状態が管理範囲を逸脱すると判定された場合(ステップS111:NO)、処理はステップS113に戻される。ステップS113では探索終了条件の成否が判定される。探索終了条件が成立しない場合には(ステップS113:NO)、処理がステップS109に進められることにより、次の探索候補点が選択される。この場合、次の探索候補点についても、燃焼状態予測部25によって予測されたガスタービンの燃焼状態が管理範囲を逸脱しない範囲において、運転点を移動して予測モデルの構築に用いられる分析用データの収集が行われる。
尚、探索終了条件が成立した場合には(ステップS113:YES)、ガスタービンの運転点は、探索前に戻される(ステップS114)。
【0051】
以上のように、本ガスタービン制御方法では、上記処理が繰り返し実施されることにより、ガスタービンの運転点が、その燃焼状態が管理範囲を逸脱しない探索候補点に移動しながら、予測モデルの構築に用いられる分析用データを収集することができる。
【0052】
ここで、ステップS107では、待機時間が、ガスタービンの運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて可変に設定される。例えば、運転点領域における過去の探索実績が無い場合には、待機時間として、第1待機時間が設定される。一方で、運転点領域における過去の探索実績が有る場合には、待機時間として、第1待機時間より長い第2待機時間が設定される。すなわち、運転点領域における過去の探索実績が有る場合は、過去の探索実績が無い場合に比べて待機時間が長く設定される。
【0053】
運転点領域における過去の探索実績が無い場合には、当該運転点領域について過去に収集された分析用データがデータベース26に格納されていない。そのため、仮にガスタービンの運転点を当該運転点領域に含まれる探索候補点に移行すると、データベース26に格納されておらず、予測モデルを構築する際に予測精度への貢献度が高いデータが得られる可能性が高い。そのため、このような場合には待機時間として比較的短い第1待機時間を設定することで、過去の探索実績がない運転点領域におけるデータ収集を促進することができる。
【0054】
一方で運転点領域における過去の探索実績が有る場合には、当該運転点領域について過去に収集された分析用データがデータベース26に格納されている。そのため、仮にガスタービンの運転点を当該運転点領域に含まれる探索候補点に移行したとしても、既にデータベース26に格納されている分析用データに類似しており、予測モデルを構築する際に予測精度への貢献度が低いデータが得られる可能性が高い。そのため、このような場合には待機時間として比較的長い第2待機時間を設定することで、過去の探索実績がある運転点領域における類似のデータ収集を抑制することができる。
【0055】
またステップS107において待機時間を設定するために過去の探索実績の有無が判定される対象である運転点領域は、ガスタービン2のプロセス量によって規定される第1仮想空間V1が分割されることで規定されてもよい。ここで図6はガスタービン2のプロセス量によって規定される第1仮想空間V1を模式的に示す図である。図6では第1仮想空間V1は、2種類のプロセス量A、Bによって二次元空間として規定され、各プロセス量A,Bの数値範囲に対応するように複数のエリアに分割される。この場合、ステップS107では、ガスタービンの運転点が第1仮想空間V1のどのエリアに属するかが判断され、運転点が属するエリアが運転点領域として特定される(図6では、運転点が属する運転点領域に対応するエリアが濃いハッチングで例示されている)。
【0056】
尚、図6では第1仮想空間V1の一例として2種類のプロセス量A,Bによって規定される二次元空間を例示しているが、第1仮想空間V1はより多くの種類のプロセス量によって規定される多次元空間であってもよい。
【0057】
尚、図6に示す例では、ステップS107において第1仮想空間V1で分割されたエリアを単位に過去の探索実績の有無を判定する場合を例示しているが、この判定は運転状態を正規化した値に対するユークリッド距離に基づいて行われてもよい。
【0058】
またステップS107における待機時間の設定は、運転点領域における過去の探索実績に含まれるデータ数に基づいて行われてもよい。この場合、運転点領域における過去の探索実績が有る場合に、当該過去の探索実績としてデータベース26に格納された分析用データの数が特定される。そして例えば、そのデータ数が少なくなるに従って待機時間が短くなるように設定される。過去の探索実績が少ない運転点領域における分析用データは、予測モデルの信頼性を向上させるために貢献度が大きい。そのため、過去の探索実績に含まれるデータ数が少ない運転点について短い待機時間を設定することで、当該運転点領域における分析用データの収集を促進できる。
【0059】
またステップS109における探索候補点の選択は、プロセス量によって規定される第2仮想空間V2に設定可能な探索ルートごとに予測モデルの不確かさσを評価し、不確かさσが大きい探索ルートから探索候補点を選択するようにしてもよい。この場合、第2仮想空間V2に設定可能な探索ルートの各々は、プロセス量が所定間隔(例えば等間隔)で異なる運転点を含むルートとして規定されてもよい。ここで図7はガスタービン2のプロセス量A、Bによって規定される第2仮想空間V2を模式的に示す図である。図7の例では、第2仮想空間V2において、プロセス量Aのみを一定間隔で変化させる第1探索ルートR1(プロセス量Bはゼロに固定)と、プロセス量Bのみを一定間隔で変化させる第2探索ルートR2(プロセス量Aはゼロに固定)とが示されている。
【0060】
自動調整部20は、これらの第1探索ルートR1、及び、第2探索ルートR2における各運転点について不確かさσを算出する。具体的には第1探索ルートR1には運転点a1、a2、a3、a4、・・・が属しており、運転点a1はプロセス値Aについて平均値p1=0.3及び標準偏差σ1=0.1を有し、運転点a2はプロセス値Aについて平均値p2=0.5及び標準偏差σ2=0.2を有し、運転点a3はプロセス値Aについて平均値p3=0.7及び標準偏差σ3=0.3を有し、運転点a4はプロセス値Aについて平均値p4=1.1及び標準偏差σ4=0.2を有する。ここでプロセス値Aについて予め設定された許容範囲(p<1.0)が規定されている場合には、当該許容範囲に含まれる運転点の標準偏差を用いて、第1探索ルートR1に関する不確かさσAは次式により得られる。
σA=(σ1+σ2+σ3)/3=(0.1+0.2+0.3)/3=0.2
【0061】
同様に第2探索ルートR2には運転点b1、b2、b3、・・・が属しており、運転点b1はプロセス値Bについて平均値p1=0.5及び標準偏差σ1=0.2を有し、運転点b2はプロセス値Bについて平均値p2=0.3及び標準偏差σ2=0.6を有する。ここでプロセス値Bについて上下限リミッタの範囲内に運転点b1,b2が含まれる場合には、それぞれの運転点の標準偏差を用いて、第2探索ルートR2について不確かさσBは次式により得られる。
σB=(σ1+σ2)/2=(0.2+0.6)/2=0.4
【0062】
自動調整部20は、このように第1探索ルートR1、及び、第2探索ルートR2について得られた不確かさσA、σBを比較することにより、不確かさが大きな探索ルートから優先的に探索候補点を選択する。この例では、第1探索ルートR1に対応する不確かさσAより、第2探索ルートR2に対応する不確かさσBが大きいため、第1探索ルートR1より先に第2探索ルートR2から探索候補点の選択が行われる。このように第2仮想空間V2において不確かさが大きな探索ルートから優先的に探索候補点の選択を行うことで、予測モデルの信頼性向上に貢献度が大きな分析用データを好適に収集できる。
尚、本実施形態では第1探索ルートR1、及び、第2探索ルートR2を比較する際に両者の不確かさσA、σBを、各探索ルートに属する各運転点の標準偏差の平均値として算出した場合を例示しているが、各探索ルートに属する各運転点の標準偏差について最大値又は最小値等、他の指標を基準に比較するようにしてもよい。
【0063】
またステップS112において、ガスタービン2の運転点をステップS109で選択された探索候補点に移行するように補正値を出力する場合には、補正値によるガスタービン2に対する制御信号の変化速度を可変に設定してもよい。この場合、制御制御信号の変化速度は、現在の運転点からステップS109で選択された探索候補点に至るまでの間におけるガスタービンの挙動の安定度、又は、現在の運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に含まれるデータ数の少なくとも一方に基づいて設定してもよい。
【0064】
図8はガスタービン2のプロセス量によって規定される第3仮想空間V3を模式的に示す図である。第3仮想空間V3では、燃焼状態予測部25の予測結果に基づいてガスタービン2の挙動の安定度が比較的高いと見込まれる領域Cと、燃焼状態予測部25の予測結果に基づいてガスタービン2の挙動の安定度が比較的低いと見込まれる領域Dとが例示的に示されている。
【0065】
例えば領域Cでは、ガスタービン2の挙動の安定度が高いため、単位時間当たりの補正量を多くすることで、ステップS109で選択された探索候補点に移行するための補正量を付加することによる制御信号の変化速度を大きくすることができる。これにより、ガスタービン2の挙動が安定していることが見込まれる領域Cにおいては制御信号の変化速度を大きくすることで、移行先の探索候補点への運転点の移行を迅速に行うことができる。
【0066】
また領域Dでは、ガスたーbン2の挙動の安定度が低いため、単位時間当たりの補正量を少なくすることで、ステップS109で探索された探索候補点に移行するための補正量を付加することによる制御信号の変化速度を小さくすることができる。これにより、挙動の安定度が低い領域Dでは、制御信号の変化速度を抑えることで、運転点の移行中におけるガスタービン2の挙動が不安定化する可能性を抑えることができる。
【0067】
また、このような領域C及びDにわたった運転点の移行時の制御信号の変化速度は、更に、運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に含まれるデータ数に依存してもよい。例えば運転点領域における過去の探索実績に含まれるデータ数が少ない場合には、変化速度を大きくすることで、データ数が少ない運転点領域におけるデータ収集を促進することができる。一方で運転点領域における過去の探索実績に含まれるデータ数が多い場合には、変化速度を小さくすることで、運転点の移行中におけるガスタービンの挙動が不安定化する可能性をより抑えた慎重な変化とすることができる。
【0068】
また補正値によるガスタービン2に対する制御信号の変化速度は、ステップS109で選択された探索候補点における予測モデルの不確かさに基づいて設定されてもよい。探索候補点における予測モデルの不確かさが基準値以上である場合には、制御信号の変化速度を大きくする。これにより、予測モデルの不確かさが大きな探索候補点への運転点の移行を迅速に行うことで、予測モデルの構築に貢献度が高いデータの収集を促進できる。一方、探索候補点における予測モデルの不確かさが基準値未満である場合には、制御信号の変化速度を小さくする。これにより、不確かさが小さい探索候補点への運転点への移行速度を抑えることで、運転点の移行中におけるガスタービンの挙動が不安定化する可能性をより抑えることができる。
【0069】
以上説明したように上記各実施形態によれば、ガスタービンの動作状態を安定的に維持しながら、ガスタービンの燃焼安定性に関する特性を予測するための予測モデルの構築に用いられる分析用データを効率的に収集可能なガスタービン制御装置、及び、ガスタービン制御方法を提供できる。
【0070】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0071】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0072】
(1)一態様に係るガスタービン制御装置は、
ガスタービン(2)のプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器(111)内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するための周波数解析部(23)と、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとして格納するためのデータベース(26)と、
前記分析用データを用いて構築された予測モデルを用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するための燃焼状態予測部(25)と、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するための補正量算出部(24)と、
を備える。
【0073】
上記(1)の態様によれば、ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析した結果が、運転点ごとに分析用データとしてデータベースに蓄積される。データベースに蓄積された分析用データは予測モデルの構築に用いられ、当該予測モデルは、状態予測部による燃焼状態の予測に用いられる。補正量算出部は、ガスタービンの運転点における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過した場合に、探索開始条件が成立したと判定する。探索開始条件が成立すると、運転点を起点とした探索候補点のうち燃焼状態予測部によって予測される燃焼状態が管理範囲に収まる探索候補点にてガスタービンを運転するために、制御信号に付加すべき補正量が算出される。これにより、ガスタービンの運転点は、燃焼状態が管理範囲に収まる範囲内において探索候補点に移行することで、探索候補点において新たな分析用データの収集を行うことができる。
【0074】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記補正量算出部は、前記運転点領域について前記過去の探索実績が有る場合、前記待機時間として、前記運転点について前記過去の探索実績が無い場合に対応する第1待機時間より長い第2待機時間を設定するように構成される。
【0075】
上記(2)の態様によれば、運転点を含む運転点領域について過去の探索実績が有る場合は、過去の探索実績が無い場合に比べて待機時間が長く設定される。これにより、過去の探索実績が有る運転点領域に属する運転点を起点とする探索候補点で収集される分析用データは予測モデルの精度に貢献が比較的小さいため、待機時間を長く設定することで、類似の分析用データが繰り返し収集されることを抑制することができる。一方で、過去の探索実績が無い運転点領域に属する運転点を起点とする探索候補点で収集される分析用データは予測モデルの精度に貢献が大きいため、待機時間を短く設定することで、収集を促進できる。
【0076】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記運転点領域は、前記プロセス量によって規定される第1仮想空間が分割される複数のエリアのうち前記運転点が属する領域として特定される。
【0077】
上記(3)の態様によれば、過去の探索実績の有無が判定される運転点領域は、プロセス値によって規定される第1仮想空間が分割されてなるエリアを単位として特定される。これにより、運転点に対して所定の広がりを有する運転点領域を類似の範囲とみなし、当該運転点領域における過去の探索実績に基づいて待機時間を設定できる。
【0078】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記待機時間は、前記データベースに格納された前記分析用データのうち前記運転点を含む運転点領域に含まれるデータ数が少なくなるに従って短くなるように設定される。
【0079】
上記(4)の態様によれば、データベースに格納された分析用データのうち、運転点を含む運転点領域に含まれるデータ数が少ない運転点について短い待機時間を設定することで、当該運転点領域における分析用データの収集を促進できる。これにより、データ数が少ない運転点領域における分析用データの収集を促進することで、分析用データを用いて構築される予測モデルの信頼性を効果的に向上できる。
【0080】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記補正量算出部は、前記プロセス量によって規定される第2仮想空間に設定可能な探索ルートごとに前記予測モデルの不確かさを評価し、前記不確かさが大きい前記探索ルートから前記探索候補点を優先的に選択するように構成される。
【0081】
上記(5)の態様によれば、第2仮想空間に設定可能な探索ルートの各々について予測モデルの不確かさを評価し、不確かさが大きな探索ルートを優先に探索候補点の選択が行われる。これにより、予測モデルの不確かさが大きな探索ルートから優先的に探索候補点を選択することで、予測モデルの信頼性向上に貢献度が大きな分析用データを効率的に収集できる。
【0082】
(6)他の態様では、上記(5)の態様において、
前記探索ルートは、前記第2仮想空間のうち前記プロセス量が所定間隔で異なる運転点を含むルートとして規定され、
前記補正量算出部は、前記探索ルートに含まれる前記運転点の各々における前記予測モデルの不確かさに基づいて、前記探索ルートの不確かさを算出する。
【0083】
上記(6)の態様によれば、各探索ルートの不確かさは、各々の探索ルートに含まれる運転点ごとの不確かさに基づいて算出される。これにより、限られたデータ数に基づいて各探索ルートの不確かさを適切に評価できる。
【0084】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記補正量算出部は、前記過去の探索実績に含まれるデータ数又は前記探索候補点における前記燃焼状態予測部によって予測された前記燃焼状態の安定度の少なくとも一方に基づいて、前記補正量を加えることによる前記制御信号の変化速度を可変にするように構成される。
【0085】
上記(7)の態様によれば、ガスタービンを探索候補点で運転するために制御信号に補正量を付加する際に、制御信号の変化量が、運転点領域で過去に収集されたデータ数、又は、探索候補点における燃焼状態の安定度の少なくとも一方に基づいて可変となる。これにより、収集されるデータの予測モデルの信頼性向上への貢献度や、運転点から探索候補点に移行する際の燃焼状態の安定度に基づいて、迅速なデータ収集を行いつつ、燃焼状態が不安定化する可能性を効果的に低減できる。
【0086】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記プロセス量に基づいて前記運転点における前記ガスタービンの状態を把握するための状態把握部(22)を更に備え、
前記補正量算出部は、前記状態把握部によって把握された前記状態が管理許容範囲を逸脱した場合に、前記補正量の算出を中断する。
【0087】
上記(8)の態様によれば、状態把握部によってガスタービンの状態が管理範囲を逸脱した場合には、制御信号に補正量を付加することによる運転点の探索を中断する。これにより、ガスタービンの状態を管理範囲に復旧させるための対策等を適切に行うことが可能である。
【0088】
(9)一態様に係るガスタービン制御方法は、
ガスタービンのプロセス量によって特定される運転点において、前記ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析し、周波数分析結果を出力するステップと、
前記運転点ごとに前記周波数解析結果及び前記プロセス量を分析用データとしてデータベースに格納するステップと、
前記分析用データを用いて構築された予測を用いて、前記ガスタービンの燃焼状態を予測するステップと、
前記運転点を含む運転点領域における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過することを規定する探索開始条件が成立する場合、前記運転点を起点とした探索候補点のうち前記状態予測部によって予測された前記燃焼状態が管理範囲内に収まる探索候補点にて前記ガスタービンを運転するために前記ガスタービンの制御信号に付加すべき補正量を算出するステップと、
を備える。
【0089】
上記(9)の態様によれば、ガスタービンの燃焼器内での圧力又は加速度の振動を周波数解析した結果が、運転点ごとに分析用データとしてデータベースに蓄積される。データベースに蓄積された分析用データは予測モデルの構築に用いられ、当該予測モデルは、状態予測部による燃焼状態の予測に用いられる。補正量算出部は、ガスタービンの運転点における過去の探索実績に基づいて設定される待機時間が経過した場合に、探索開始条件が成立したと判定する。探索開始条件が成立すると、運転点を起点とした探索候補点のうち燃焼状態予測部によって予測される燃焼状態が管理範囲に収まる探索候補点にてガスタービンを運転するために、制御信号に付加すべき補正量が算出される。これにより、ガスタービンの運転点は、燃焼状態が管理範囲に収まる範囲内において探索候補点に移行することで、探索候補点において新たな分析用データの収集を行うことができる。
【符号の説明】
【0090】
1 ガスタービン制御装置
2 ガスタービン
4 プロセス量計測部
5 圧力変動測定部
6 加速度測定部
7 操作機構
10 制御器
20 自動調整部
21 入力部
22 状態把握部
23 周波数解析部
24 補正量算出部
25 燃焼状態予測部
26 データベース
28 出力部
100 ガスタービン本体部
101 圧縮機
102 入口案内翼
103 回転軸
104 タービン
110 燃焼部
111 燃焼器
112 圧縮空気導入部
113 メイン燃料流量制御弁
114 パイロット燃料流量制御弁
115 メイン燃料供給弁
116 パイロット燃料供給弁
117 バイパス空気導入管
118 バイパス弁
119 バイパス空気混合管
120 燃焼ガス導入管
121 発電機
V1 第1仮想空間
V2 第2仮想空間
V3 第3仮想空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8