(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182946
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】交流アーク炉
(51)【国際特許分類】
F27B 3/28 20060101AFI20231220BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20231220BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20231220BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20231220BHJP
H05B 7/148 20060101ALI20231220BHJP
H05B 7/18 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F27B3/28
F27B3/20
F27D19/00 A
F27D21/00 G
H05B7/148 B
H05B7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096240
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】二本柳 理人
【テーマコード(参考)】
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA02
4K045DA04
4K045RB02
4K056AA05
4K056BB08
4K056CA02
4K056FA04
4K056FA12
(57)【要約】
【課題】炉内の温度分布の偏りを低減して、短時間でスクラップの溶解を可能にする交流アーク炉を提供する。
【解決手段】実施形態の交流アーク炉は、三相交流の相ごとに設けられた複数の電力固定電極と、前記複数の電力固定電極と炉内のスクラップとの間にアークを発生させて、前記スクラップに所定の電力を供給する第1電力供給手段と、前記スクラップの溶鋼の温度の低い領域に電力を供給するように配置された複数の電力可変電極と、前記複数の電力可変電極に電力を供給する第2電力供給手段と、前記溶鋼の温度分布を表す画像データを取得可能に設けられた撮像装置と、前記画像データにもとづいて、前記溶鋼の温度分布の偏りを推定し、前記溶鋼の温度分布の偏りを解消するように前記複数の電力可変電極に供給する電力を算出し、算出した電力を出力するように前記第2電力供給手段を制御する制御装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流の相ごとに設けられた複数の電力固定電極と、
前記複数の電力固定電極と炉内に挿入されたスクラップとの間にアークを発生させて前記複数の電力固定電極に所定の電力を供給する第1電力供給手段と、
前記スクラップの溶解により形成された溶鋼のうち、他の領域よりも温度の低い領域に電力を供給するように配置された複数の電力可変電極と、
前記複数の電力可変電極に電力を供給する第2電力供給手段と、
前記溶鋼の温度分布を表す画像データを取得可能に設けられた撮像装置と、
前記画像データにもとづいて、前記溶鋼の温度分布の偏りを推定し、前記溶鋼の温度分布の偏りを解消するように前記複数の電力可変電極に供給する電力を算出し、算出した電力を出力するように前記第2電力供給手段を制御する制御装置と、
を備えた交流アーク炉。
【請求項2】
前記複数の電力可変電極は、前記複数の電力固定電極のうちの隣り合う電極の間にそれぞれ配置された請求項1記載の交流アーク炉。
【請求項3】
前記第2電力供給手段は、第1インバータ装置を含む請求項1記載の交流アーク炉。
【請求項4】
前記第1電力供給手段は、第2インバータ装置を含む請求項3記載の交流アーク炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流アーク炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な交流アーク炉では、炉用変圧器の2次側に接続した3本の黒鉛電極と炉内スクラップ間にアークを発生させてスクラップを溶解し、3本の電極を各々昇降させることでアーク長を変化させて、黒鉛電極とスクラップとの間での電圧・電流を制御している。
【0003】
近年では、電力原単位の改善や発生フリッカの抑制を目的として、インバータ装置を使用した交流アーク炉が開発され、利用が開始されている。
【0004】
このようなインバータ装置を利用した交流アーク炉では、電極の本数および電極の配置については、一般的な交流アーク炉と同様に、炉上部からみて、3本の電極が三角形に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-114320号公報
【特許文献2】特開平8-78156号公報
【特許文献3】特開2014-40965号公報
【特許文献4】特開2021-139582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、一般的な交流アーク炉であっても、インバータ式の交流アーク炉であっても、炉上部からみて、3本の電極を三角形に配置しており、電極の配置に応じて、炉内の溶鋼の温度分布に偏りが生じることがある。炉内の溶鋼の温度分布が偏った状態で電力の供給を継続すると、電極の近傍や周囲が高温になる一方で、電極に挟まれた間の領域では、十分に温度が上がらないとの問題を生じ得る。炉内で高温になる領域では、その領域に近接して炉壁が存在すると、高温により炉壁の劣化が進行するなど、操業に影響を与え得る事象が生じ得る。炉内で低温の領域では、スクラップの溶解が進まず、長時間にわたって操業を継続することとなり、電力原単位を削減すべきとの要求を満たすことが困難になる。
【0007】
本発明の実施形態は、炉内の温度分布の偏りを低減して、短時間でスクラップの溶解を可能にする交流アーク炉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、三相交流の相ごとに設けられた複数の電力固定電極と、前記複数の電力固定電極と炉内に挿入されたスクラップとの間にアークを発生させて前記複数の電力固定電極に所定の電力を供給する第1電力供給手段と、前記スクラップの溶解により形成された溶鋼のうち、他の領域よりも温度の低い領域に電力を供給するように配置された複数の電力可変電極と、前記複数の電力可変電極に電力を供給する第2電力供給手段と、前記溶鋼の温度分布を表す画像データを取得可能に設けられた撮像装置と、前記画像データにもとづいて、前記溶鋼の温度分布の偏りを推定し、前記溶鋼の温度分布の偏りを解消するように前記複数の電力可変電極に供給する電力を算出し、算出した電力を出力するように前記第2電力供給手段を制御する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、炉内の温度分布の偏りを低減して、短時間でスクラップの溶解を可能にする交流アーク炉が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る交流アーク炉を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る交流アーク炉の一部である変換器を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式図である。
【
図5】第1の実施形態に係る交流アーク炉の一部である制御装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図6】第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
【
図7】第2の実施形態に係る交流アーク炉を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る交流アーク炉を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る交流アーク炉10は、炉用変圧器14aと、電力固定電極16aと、炉用変圧器14bと、変換器20と、電力可変電極16bと、撮像装置30と、制御装置40と、を備える。
【0013】
炉用変圧器(第1電力供給手段)14aは、遮断器12aを介して、交流母線1に接続される。炉用変圧器14bは、遮断器12bを介して、交流母線1に接続される。交流母線1は、三相交流である。炉用変圧器14aは、交流母線1から供給される電力を3本の電力固定電極16aに供給する。炉用変圧器14aの2次側には、複数のタップが設けられており、タップを切り替えることによって、所望の電圧が出力される。炉用変圧器14aおよび電力固定電極16aは、既存のアーク炉の設備とすることができる。
【0014】
交流母線1に接続された炉用変圧器14bの2次側には、インバータ回路を含む変換器(第2電力供給手段、第1インバータ装置)20が接続されており、交流母線1から供給される電力は、変換器20によって適切な電力に変換されて、3本の電力可変電極16bに供給される。炉用変圧器14bは、この例では、2次側の巻線を辺延びデルタ結線を採用することによって、炉用変圧器14bから出力される交流電圧の位相の設定を行っている。
【0015】
遮断器12a,12bは、スクラップの溶解を開始するときに同時に投入される。遮断器12a,12bは、交流アーク炉10の運転を停止するときや交流アーク炉10の運転に異常等が生じたときに遮断される。
【0016】
撮像装置30は、スクラップが溶解された溶鋼の温度分布を表す画像データを取得するように配置される。撮像装置30は、たとえば、炉2の上方に配置され、溶鋼を上方から撮像する。たとえば、撮像装置30は、赤外線により、撮像の対象物の温度を計測するカメラである。撮像装置30は、溶鋼の温度分布を表す画像データを取得して、制御装置40に送信する。
【0017】
制御装置40は、変換器20および撮像装置30に接続されている。制御装置40は、撮像装置30によって取得された画像データにもとづいて、炉2内の溶鋼の温度分布の偏りを表すデータを算出する。制御装置40は、算出した溶鋼の温度分布の偏りのデータにもとづいて、変換器20を制御する。
【0018】
制御装置40における温度分布の偏りを表すデータの算出は、たとえば、既存の画像処理技術を用いて行われる。1つの具体例では、以下のように算出される。
【0019】
制御装置40は、取得した画像データを画像処理して、2次元メッシュ状の温度のデータを生成する。制御装置40は、2次元メッシュ温度データのあらかじめ設定した領域の平均温度T0を算出する。あらかじめ設定した領域は、電力の投入により高温となり得る領域であり、後述するコールドスポットとはならない領域である。制御装置40は、2次元メッシュ状の温度データの領域のうち、平均温度T0のα倍(αはあらかじめ設定される固定値、0<α<1)の温度T1となる領域の面積Scsを計算する。このとき温度T1は、T1±ΔTのようにある程度の幅をもたせてもよい。制御装置40は、このときの面積Scsを、溶鋼の温度分布の偏りTdeb(
図5および
図6)に設定する。溶鋼の温度分布の偏りを表すデータの算出は、この具体例に限らず、適切な他の手法を用いればよい。
【0020】
図2は、本実施形態に係る交流アーク炉の一部である変換器を例示する模式的なブロック図である。
図2に示すように、変換器20は、整流回路22a~22cと、インバータ回路24a~24cと、を有する。整流回路22a~22cは、炉用変圧器14bの2次巻線に接続されている。整流回路22a~22cの出力には、平滑コンデンサ26a~26cが接続されている。整流回路22a~22cおよび平滑コンデンサ26a~26cは、炉用変圧器14aの2次側から出力された三相交流を直流に変換して出力する。
【0021】
インバータ回路24a~24cは、整流回路22a~22cおよび平滑コンデンサ26a~26cから出力された直流を三相交流に変換して出力する。この例では、たとえばインバータ回路24aの出力、インバータ回路24bの出力およびインバータ回路24cの出力に3本の電力可変電極16bがそれぞれ接続される。
【0022】
インバータ回路24a~24cは、好ましくは、この例のように、自励式の変換回路が採用される。インバータ回路24a~24cは、自励式の変換回路に限らず、他励式の変換回路であってもよい。自励式の変換回路とすることによって、溶鋼の温度分布の偏りに応じて、連続的に設定された電力を出力することが可能になる。
【0023】
電力固定電極16aおよび電力可変電極16bは、電極昇降装置(図示せず)によって、溶鋼との間の距離を制御される。電極昇降装置は、たとえば、制御装置40によって、生成された速度基準で、6本の電力固定電極16aおよび電力可変電極16bを昇降させ、たとえば、所望のインピーダンスとなるようにそれぞれの電極におけるアーク長を制御する。
【0024】
本実施形態に係る交流アーク炉10の動作について説明する。
図3(a)および
図3(b)は、第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式図である。
図3(a)および
図3(b)には、炉2を上方からみた場合の電力固定電極16aおよび電力可変電極16bの配置が示されている。
図3(a)および
図3(b)に示すように、電力固定電極16aは、ほぼ正三角形の頂点の位置に配置されている。電力可変電極16bは、電力固定電極16aの間に配置されている。より詳細には、R相の電力固定電極16aとS相の電力固定電極16aとの間にR’相の電力可変電極16bが配置されている。S相の電力固定電極16aとT相の電力固定電極16aとの間にS’相の電力可変電極16bが配置されている。T相の電力固定電極16aとR相の電力固定電極16aとの間にT’相の電力可変電極16bが配置されている。
【0025】
3本の電力固定電極16aに供給される三相交流の相電圧は、120°ずつ位相がずれている。三相交流の相電圧は、
図3(a)に示すように、R相→S相→T相のように相回転している。また、3本の電力可変電極16bに供給される相電圧は、120°ずつ位相がずれている。この例では、3本の電力可変電極16bに供給される相電圧は、3本の電力固定電極16aの相電圧から60°ずつ位相がずれている。たとえば、R’相の電圧および線電流の位相は、R相の電圧の位相よりも60°遅れ、S’相の電圧の位相は、S相の電圧の位相よりも60°遅れ、T’相の電圧の位相は、T相の電圧の位相よりも60°遅れている。また、この例では、3本の電力可変電極16bに供給される相電圧および線電流は、
図3(b)に示すように、R’相→S’相→T’相のように相回転している。
【0026】
3本の電力可変電極16bは、上述のように、ほぼ正三角形状に配置された3本の電力固定電極16aの間にほぼ正三角形状に配置される場合に限らない。電力固定電極16aおよび電力可変電極16bの配置は、溶鋼の温度分布に応じて、適切な位置とされる。電力可変電極16bは、たとえば、溶鋼のコールドスポットを効果的に加熱できる適切な任意の位置に配置することができる。
【0027】
図3(a)および
図3(b)の例では、3本の電力固定電極16aおよび3本の電力可変電極16bに供給される三相交流の相回転の方向の方向は同じであるが、これに限らず、異なる相回転の方向としてもよい。また、各相の配置もこの例に限らず、炉2の構成や炉2に装入されるスクラップの量や種類等に応じて適切な配置が選定される。
【0028】
図3(a)には、電力可変電極16bによる溶鋼への電力供給がなく、電力固定電極16aから溶鋼へ電力供給している状態が模式的に示されている。
図3(a)の破線の円形で示すように、電力固定電極16aのまわりの溶鋼には、熱が伝わっている。
図3(a)の破線の領域から離れるほど、溶鋼に熱が伝わりにくい。隣り合う電力固定電極16aの間の溶鋼では、いずれの電力固定電極16aからの熱が伝わりにくく、
図3(a)の「SPOT」と記されている領域では、他の領域に比べて温度が低い。「SPOT」と記されている領域は、電力固定電極16aの電力供給による温度上昇の十分でない領域であり、「コールドスポット」と呼ぶ。この例では、電力固定電極16aが3本の場合には、主たる「コールドスポット」は、3箇所形成される。
【0029】
つまり、3本の電力可変電極16bは、電力固定電極16aにより形成される3箇所のコールドスポットにそれぞれ配置されている。
図3(b)では、3本の電力可変電極16bに電力を供給した場合の溶鋼への熱の伝わりを電力可変電極16bのまわりの破線の円形で示している。本実施形態に係る交流アーク炉10では、電力可変電極16bによって、コールドスポットに電力を供給することによって、コールドスポットを解消し、溶鋼の温度分布の偏りを解消して、スクラップの溶解時間を短縮する。
【0030】
図4(a)および
図4(b)は、第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式図である。
図4(a)および
図4(b)には、電力固定電極16aによって、電力供給されている溶鋼と、溶鋼に形成されたコールドスポット(図では、SPOTと表記)とが、模式的に示されている。撮像装置30は、炉2の上方に溶鋼の温度分布を計測できるように配置されている。
図4(a)および
図4(b)に示すように、撮像装置30は、溶鋼の温度分布を表すデータを取得する。撮像装置30は、溶鋼におけるコールドスポットの大きさを含む領域とコールドスポット以外の高温になる領域とを含むように、溶鋼を撮像し、溶鋼の画像データを生成する。
図4(a)の場合では、溶鋼に占めるコールドスポットの大きさが大きく、
図4(b)の場合では、コールドスポットの大きさが小さい。この例では、コールドスポットの大きさが大きいほど、溶鋼の温度分布の偏りが大きいものとする。なお、炉2では、炉体にスクラップが装入された後に炉蓋が設けられるので、赤外線検出する撮像装置30によって、炉蓋経由で溶鋼の温度分布のデータが取得される。
【0031】
撮像装置30は、逐次、溶鋼を撮像して、溶鋼の温度分布を表す画像データを制御装置40に送信する。制御装置40は、受信した画像データを画像処理して、コールドスポット大きさを算出する。制御装置40は、コールドスポットの大きさにより表された、溶鋼の温度分布の偏りTdebが、あらかじめ設定された温度分布指令値Tdeb*に追従するように、電力可変電極16bからコールドスポットに電力を供給する。つまり、本実施形態に係る交流アーク炉10では、制御装置40は、コールドスポットが大きい場合に、溶鋼の温度分布の偏りが大きいと判定し、より大きな電力を電力可変電極16bを介して溶鋼に投入する。これにより、交流アーク炉10では、コールドスポットが縮小または解消され、溶鋼の温度分布の偏りが縮小または解消されるので、電力の投入量に対するスクラップの溶解時間が短縮される。
【0032】
図5は、本実施形態に係る交流アーク炉の一部である制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図5に示すように、制御装置40は、制御器42を有する。制御装置40は、この例のように、リミッタ44を有してもよい。制御器42には、撮像装置30によって取得された画像データにもとづいて算出された溶鋼の温度分布の偏りTdebと、あらかじめ設定された溶鋼の温度分布指令値Tdeb*との差分を入力して、電力可変電極16bから溶鋼に供給する電力Pinを出力する。制御器42は、たとえばPI制御器である。
【0033】
リミッタ44は、炉用変圧器14bおよび変換器20等の設備の電力定格にもとづいて定められた最大値Pmaxを設定する。リミッタ44は、制御器42が、設定された最大電力Pmaxよりも大きい電力値を出力したときに、制御器42の出力を最大電力Pmaxに制限する。
【0034】
図6は、第1の実施形態に係る交流アーク炉の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
図6には、溶鋼の温度分布の偏りTdebに対する供給電力Pinの関係の一例が模式的に示されている。
図6のグラフ図では、横軸が溶鋼の温度の偏りTdebを表し、縦軸が電力可変電極16bによる供給電力Pinを表している。
【0035】
図6に示すように、
図6のグラフ図では、溶鋼の温度分布の偏りTdebが大きいほど、大きな供給電力Pinが電力可変電極16bに供給される。この例では、溶鋼の温度分布の偏りTdebが値Tdeb1を超えると、
図5に示した制御器42が最大電力Pmaxを超えて出力するので、供給電力Pinは、最大電力Pmaxに制限される。
【0036】
溶鋼の温度分布の偏りTdebの値が0~Tdeb1の範囲では、制御器42に設定された係数に応じて供給電力Pinの値が決定される。制御器42の係数を含むパラメータは、交流アーク炉の特性に応じて、交流アーク炉ごとに設定される。
【0037】
図5および
図6に示した制御システムは、一例であり、これに限らない。たとえば、あらかじめ取得された溶鋼の温度分布の偏りTdebと供給電力Pinとの関係をテーブルにして、制御装置40は、温度分布の偏りTdebを算出するごとに、テーブルを参照して供給電力Pinを決定するようにしてもよい。また、複数の方式を組み合わせて制御装置40に実装してもよい。
【0038】
本実施形態に係る交流アーク炉10の効果について説明する。
本実施形態に係る交流アーク炉10は、炉用変圧器14aおよび電力固定電極16aとは、別に、炉用変圧器14b、変換器20および電力可変電極16bを備えている。電力可変電極16bは、電力固定電極16aを炉2に配置することによって生ずるコールドスポットの位置に配置される。コールドスポットの有無や大きさは、撮像装置30によって取得された画像データを制御装置40によって画像処理することによって判定される。制御装置40は、コールドスポットが大きいときにコールドスポットの大きさに応じて、電力可変電極16bから電力を供給させるように、変換器20に指令することができる。そのため、炉2内のコールドスポットを小さくして、溶鋼の温度分布を所望の温度分布に近づけるようにすることができる。
【0039】
本実施形態に係る交流アーク炉10では、上述のように、炉2内のコールドスポットを小さくして溶鋼を所望の温度分布に近づけることができるので、単位時間当たりの溶鋼に対する電力投入量を十分に高めることが可能になる。したがって、スクラップの溶解を短時間とすることができ、投入するエネルギー原単位を低減することができる。
【0040】
電力固定電極16aを、上面視で、三角形状に配置した場合に、コールドスポットが形成された状態で、電力固定電極16aによって溶鋼に電力供給を継続した場合に、電力固定電極16aに近い炉2の壁面の温度が上昇して劣化が進みやすい。本実施形態に係る交流アーク炉10では、コールドスポットの形成される位置に電力可変電極16bを配置することができ、コールドスポットが大きくならないように、溶鋼に電力供給することが可能である。そのため、炉壁の温度上昇を抑制することが可能であり、炉2の寿命を向上させることが可能になる。
【0041】
変換器20を自励式の変換器とした場合には、電力可変電極16bから溶鋼に供給する電力をコールドスポットの大きさに応じて連続的に設定することができる。そのため、コールドスポットへの電力供給をきめ細かく設定することが可能になり、エネルギー原単位をより効果的に低減することが可能になる。
【0042】
本実施形態に係る交流アーク炉10では、炉用変圧器14aによって、電力固定電極16aに電力を供給する。つまり、この構成は、既存の交流アーク炉の構成であり、既存の交流アーク炉に炉用変圧器14b、変換器20、電力可変電極16bおよび撮像装置30を追加することによって、本実施形態に係る交流アーク炉10とすることができる。そのため、既存の設備を流用することが可能であり、低コストで高性能な交流アーク炉10を短い設置期間で実現することが可能になる。
【0043】
上述した説明では、電力可変電極16bは3本であり、3本の電力可変電極16bのそれぞれは、隣り合う電力固定電極16aの間に配置されるものとして説明をしたが、これに限るものではない。電力可変電極は、3本よりも多くてもよく、好ましくは、3×n(n>1の整数)としてもよい。たとえば、電力可変電極16bを6本とし、隣り合う電力固定電極16aの間に2本ずつを配置するようにしてもよい。このように多数本の電力可変電極16bとすることによって、コールドスポットへの電力投入をよりきめ細かく設定することができ、電力原単位をより低減することが可能となる。
【0044】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態に係る交流アーク炉を例示する模式的なブロック図である。
本実施形態に係る交流アーク炉210では、第1の実施形態の場合の炉用変圧器14aに代えて、炉用変圧器214aおよび変換器220を備える。また、本実施形態に係る交流アーク炉210では、第1の実施形態に係る制御装置40に代えて、制御装置240を備える。他の点では、第1の実施形態の場合と同じであり、同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0045】
図7に示すように、本実施形態に係る交流アーク炉210は、炉用変圧器214aと、変換器220と、電力固定電極16aと、炉用変圧器14bと、変換器20と、電力可変電極16bと、撮像装置30と、制御装置240と、を備える。
【0046】
炉用変圧器214aは、遮断器12aを介して、交流母線1に接続される。炉用変圧器214aは、交流母線1から供給される電力を3本の電力固定電極16aに供給する。炉用変圧器214aの2次側には、インバータ回路を含む変換器(第2インバータ装置)220が接続されており、交流母線1から供給される電力は、変換器220によって適切な電力に変換されて3本の電力固定電極16aに供給される。
【0047】
変換器220は、変換器20と同様の構成とすることができる。変換器220は、たとえば、
図2に示した自励式のインバータ回路を含むことで、電力固定電極16aに供給する電力を連続的に可変することができる。自励式のインバータ回路を含む変換器220の場合には、スクラップに対して供給する電力をきめ細かく設定することができ、電力原単位の低減に寄与することができる。
【0048】
制御装置240は、変換器220,20および撮像装置30に接続されている。制御装置240は、第1の実施形態の場合と同様に、撮像装置30によって取得された画像データにもとづいて、炉2の温度分布のデータを取得し、温度分布の偏りを解消するように、変換器20を制御する。そのほか、制御装置240は、変換器220に対して、電力固定電極16aに供給する電力を設定し、変換器220の出力を制御する。
【0049】
本実施形態に係る交流アーク炉210では、電力固定電極16aに供給する電力をインバータ回路を用いた変換器220で駆動することができる。そのため、スクラップの溶解工程全体にわたって、電力原単位を低減させることが可能になる。
【0050】
このようにして、炉内の温度分布の偏りを低減して、短時間でスクラップの溶解を可能にする交流アーク炉を実現することができる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 交流母線、10,210 交流アーク炉、12a,12b 遮断器、14a,14b,214a 炉用変圧器、16a 電力固定電極、16b 電力可変電極、20,220 変換器、22a~22c 整流回路、24a~24c インバータ回路、30 撮像装置、40,240 制御装置