(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182949
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】船舶の方位制御装置および方位制御方法
(51)【国際特許分類】
B63H 25/04 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
B63H25/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096248
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池亀 透
(72)【発明者】
【氏名】今村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】阪口 亮
(72)【発明者】
【氏名】石岡 匠也
(57)【要約】
【課題】変化する方位、外乱の影響を考慮しつつ、航走中の任意な操舵パターンに対して適切な制御ゲインを算出する方位制御装置および方位制御方法を得る
【解決手段】方位指令生成部によって生成された方位指令信号、ヨー角信号、ヨー角速度信号、に基づいて船舶を進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号を出力する方位制御部、舵角指令信号に基づいて舵を制御する舵角制御部、舵角信号、ヨー角信号およびヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否を判定する算定可否判定部を有し、算定可否判定部が周波数特性の算定が可能と判定した場合は舵角信号に対するヨー角信号およびヨー角速度信号の周波数特性を算定して方位制御部の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整部、を備えた船舶の方位制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号を生成する方位指令生成部、
前記船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号を出力するヨー角検出部、
前記船舶の前記重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号を出力するヨー角速度検出部、
前記船舶の舵の角度を示す舵角信号を出力する舵角検出部、
前記船舶の速度を示す船速信号を出力する船速検出部、
前記方位指令生成部によって生成された前記方位指令信号と、前記ヨー角検出部によって出力された前記ヨー角信号と、前記ヨー角速度検出部によって出力された前記ヨー角速度信号と、に基づいて前記船舶を前記進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号を出力する方位制御部、
前記方位制御部によって出力された前記舵角指令信号に基づいて舵を制御する舵角制御部、
前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否を判定する算定可否判定部を有し、前記算定可否判定部が周波数特性の算定が可能と判定した場合は前記舵角検出部によって出力された前記舵角信号に対する前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の各周波数特性を算定して前記方位制御部の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整部、を備えた船舶の方位制御装置。
【請求項2】
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の相関度合い、振幅、変化量、信号対雑音比率、外乱による揺動比率の少なくとも一つに基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項3】
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の相関度合い、振幅、変化量、信号対雑音比率、外乱による揺動比率の少なくとも一つに基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する比較閾値を前記船速信号に応じて変化させる請求項2に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項4】
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号の変化量が予め定められた変化量よりも大きい場合に前記周波数特性の算定を許可する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項5】
前記制御ゲイン調整部は、前記舵角信号、に対する前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の周波数特性を算定する際に算定精度を算出し、前記算定精度が予め定められた精度よりも高い場合に算定した前記周波数特性に基づいて前記方位制御部の制御ゲインを調整する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項6】
前記制御ゲイン調整部は、前記算定精度が予め定められた精度よりも高い場合に算定した前記周波数特性を学習する請求項5に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項7】
前記制御ゲイン調整部は、算定した前記周波数特性を前記算定精度に応じた重み付けをして学習する請求項6に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項8】
前記制御ゲイン調整部は、直進航走する場合のあて舵量である舵角オフセット量を算出し、前記方位制御部の制御ゲインを調整する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項9】
前記制御ゲイン調整部は、前記舵角オフセット量を陽に表現したモデルに基づいて前記舵角オフセット量を差分方程式によって算出する請求項8に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項10】
前記舵角制御部は、前記舵角指令信号と前記舵角オフセット量に基づいて舵を制御する請求項8に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項11】
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号と前記舵角オフセット量に基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する請求項8に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項12】
前記方位制御部は、
前記方位指令信号と、前記ヨー角信号との偏差を0とするヨー角速度指令信号を演算する第一の制御演算部、
第一の制御演算部によって演算された前記ヨー角速度指令信号と、前記ヨー角速度信号との偏差を0とするフィードバック舵角指令信号を演算する第二の制御演算部、
前記ヨー角速度指令信号に基づいてフィードフォワード舵角指令信号を演算する第三の制御演算部、
前記第二の制御演算部によって演算された前記フィードバック舵角指令信号と、前記第三の制御演算部によって演算された前記フィードフォワード舵角指令信号を加算して舵角指令信号を出力する加算器、を有する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項13】
前記制御ゲイン調整部は、
前記舵角信号に対し、前記ヨー角信号について目標とすべき周波数特性を有するヨー角信号規範伝達関数と、前記ヨー角速度信号について目標とすべき周波数特性を有するヨー角速度信号規範伝達関数と、を設定する規範伝達関数設定部と、
前記規範伝達関数設定部によって設定された前記ヨー角信号規範伝達関数と前記ヨー角速度信号規範伝達関数に基づいて、前記方位制御部の制御ゲインを調整するオンラインゲイン調整部を有する、請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
【請求項14】
方位指令生成部によって船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号が生成されるステップと、
ヨー角検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号が出力されるステップと、
ヨー角速度検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号が出力されるステップと、
舵角検出部によって船舶の舵の角度を示す舵角信号が出力されるステップと、
方位制御部によって方位指令生成部が生成した方位指令信号と、ヨー角検出部が出力したヨー角信号と、ヨー角速度検出部が出力したヨー角速度信号と、に基づいて船舶を進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号が出力されるステップと、
舵角制御部によって舵角指令信号に基づいて舵が制御されるステップと、
制御ゲイン調整部が有する算定可否判定部によって前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否が判定され、前記算定可否判定部によって周波数特性の算定が可能と判定された場合は、前記制御ゲイン調整部によって、前記舵角信号に対して前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の各周波数特性が算定され、前記方位制御部の制御ゲインが調整されるステップと、を有する船舶の方位制御方法。
【請求項15】
前記方位制御部によって前記舵角指令信号が出力されるステップは、
第一の制御演算部によって、前記方位指令信号と、前記ヨー角信号との偏差を0とするヨー角速度指令信号が演算されるステップと、
第二の制御演算部によって、第一の制御演算部によって演算された前記ヨー角速度指令信号と、前記ヨー角速度信号との偏差を0とするフィードバック舵角指令信号が演算されるステップと、
第三の制御演算部によって、前記ヨー角速度指令信号に基づいてフィードフォワード舵角指令信号が演算されるステップと、
加算器によって、前記第二の制御演算部によって演算された前記フィードバック舵角指令信号と、前記第三の制御演算部によって演算された前記フィードフォワード舵角指令信号が加算されて舵角指令信号が出力されるステップと、を有する請求項14に記載の船舶の方位制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、船舶の方位制御装置および方位制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の進む方向を指定の進路に乗せ、維持するべく操舵する方位制御装置が存在する。船舶の方位制御装置のことを、船舶の自動操舵装置またはオートパイロットとも称する。船舶の方位制御装置は、船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度であるヨー角を、指示された方位に一致させるように舵を制御する。
【0003】
船舶の方位制御装置は、指示方位に船首方位(ヨー角)を追従させるために舵を制御する装置である。指示方位と船首方位との偏差に対して、所定の制御ゲインを乗じて舵角指令を生成し、舵角指令に従って舵を制御する。船舶の方位制御装置は、舵駆動部によって舵を駆動する。舵駆動部は舵を駆動し、船体にヨーレートを誘起させて船首方位を変化させる。
【0004】
船舶の方位制御装置では、潮流、波浪、風雨等の船舶への外乱要因に対して、船体の振動が助長されることを予防するために、制御ゲインを最適化しなければならない。制御ゲインは、船体パラメータに基づいて決定することができる。しかしながら、船体パラメータは、船速、喫水の変化等によって変動する。
【0005】
そこで、船体パラメータの変化への対応が必要とされる。実際の船舶を航走させて、入力データ(舵角)と出力データ(船首方位)を蓄積する。蓄積されたデータ群に対して、予め船体パラメータを仮決めして構築した船体モデルに入力データ(舵角)を流し込み、出力データ(船首方位)を算出する。この算出された船首方位と、実際に計測した船首方位との比較結果から、船体パラメータを調節(修正)する技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の船舶の方位制御装置にあっては、潮流等の外乱モデルを表現する舵角オフセットと船体パラメータを固定値とみなしている。舵角オフセットとは、船舶が直進するために必要とするあて舵量である。舵角指令と船首方位のデータを蓄積してSQP(Sequential Quadratic Programming)のアルゴリズムを用いて舵角オフセットと船体パラメータを同定している。舵角オフセットを固定値とみなすと、船舶の方位の変更、時々刻々と変化する外乱の影響を考慮することができない。
【0008】
その結果、同定に用いる舵角指令が船首方位のデータに対して大きな変針を求める場合に、舵角オフセットを固定値とした制約により、船体パラメータが適切に同定できなくなる。船体パラメータが不適切な値を取ると、船体パラメータに基づいて決定される制御ゲインも不適切な値となる。このため、意図しない方位制御応答が発生するという問題が生じる。
【0009】
また、特許文献1の船舶の方位制御装置にあっては、船舶の方位指令値にステップ状の変針を与え、その時の舵角指令と船首方位のデータを用いて舵角オフセットと船体パラメータの同定を行っている。このため、通常の航走中の任意なパターンの操舵に対して、舵角オフセットと船体パラメータの同定は実行できないという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献1には船舶の方位制御装置について、一度のステップ状の変針で良好な同定が行われたとの記述がある。それによって良好な変針特性が得られる制御ゲインが算出されたと記載されている。しかし、船体形状、積載量、船速、変針量によって必要な変針回数、変針パターンは異なる。特許文献1には、どのようなパターンの変針動作をすれば、良好な制御ゲインが算出されるかといった定量的な指針が明確化されていない。
【0011】
本願は、上記のような問題点を解決するためになされたものである。航走する方位の変化、時々刻々と変化する外乱の影響を考慮しつつ、航走中の任意な操舵パターンに対して適切な制御ゲインを算出するための船体パラメータを航走中に算定することができる方位制御装置および方位制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に係る船舶の方位制御装置は、
船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号を生成する方位指令生成部、
船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号を出力するヨー角検出部、
船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号を出力するヨー角速度検出部、
船舶の舵の角度を示す舵角信号を出力する舵角検出部、
船舶の速度を示す船速信号を出力する船速検出部、
方位指令生成部によって生成された方位指令信号と、ヨー角検出部によって出力されたヨー角信号と、ヨー角速度検出部によって出力されたヨー角速度信号と、に基づいて船舶を進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号を出力する方位制御部、
方位制御部によって出力された舵角指令信号に基づいて舵を制御する舵角制御部、
舵角信号、ヨー角信号およびヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否を判定する算定可否判定部を有し、算定可否判定部が周波数特性の算定が可能と判定した場合は舵角検出部によって出力された舵角信号に対するヨー角信号およびヨー角速度信号の各周波数特性を算定して方位制御部の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整部、を備えたものである。
【0013】
また、本願に係る船舶の方位制御方法は、
方位指令生成部によって船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号が生成されるステップと、
ヨー角検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号が出力されるステップと、
ヨー角速度検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号が出力されるステップと、
舵角検出部によって船舶の舵の角度を示す舵角信号が出力されるステップと、
方位制御部によって方位指令生成部が生成した方位指令信号と、ヨー角検出部が出力したヨー角信号と、ヨー角速度検出部が出力したヨー角速度信号と、に基づいて船舶を進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号が出力されるステップと、
舵角制御部によって舵角指令信号に基づいて舵が制御されるステップと、
制御ゲイン調整部が有する算定可否判定部によって舵角信号、ヨー角信号およびヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否が判定され、算定可否判定部によって周波数特性の算定が可能と判定された場合は、制御ゲイン調整部によって、舵角信号に対してヨー角信号およびヨー角速度信号の各周波数特性が算定され、方位制御部の制御ゲインが調整されるステップと、を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本願に係る船舶の方位制御装置および方位制御方法によれば、航走する方位の変化、時々刻々と変化する外乱の影響を考慮しつつ、航走中の任意な操舵パターンに対して適切な制御ゲインを算出するための船体パラメータを航走中に算定することができる方位制御装置および方位制御方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係る方位制御装置の構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る方位制御装置のハードウェア構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る方位制御装置が設置された船舶の座標系の説明図である。
【
図4】実施の形態1に係る方位制御装置の基本動作を示すフロー図である。
【
図5】実施の形態1に係る方位制御装置の方位指令生成部の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施の形態1に係る方位制御装置の方位制御部の構成を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態1に係る方位制御装置の制御演算部の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態1に係る方位制御装置の制御ゲイン調整部の構成を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態1に係る方位制御装置の船舶特性情報を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係る方位制御装置の周波数特性算定部の構成を示すブロック図である。
【
図11】実施の形態2に係る方位制御装置の構成図である。
【
図12】実施の形態2に係る方位制御装置の周波数特性算定部の構成を示すブロック図である。
【
図13】実施の形態3に係る方位制御装置の構成図である。
【
図14】実施の形態3に係る方位制御装置の周波数特性算定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、船舶の方位制御装置および方位制御方法の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。
【0017】
1.実施の形態1
<方位制御装置の構成>
図1には実施の形態1に係る船舶の方位制御装置10を搭載した船舶1の構成例を示す。船舶1に設置された方位制御装置10は、操作装置30およびセンサ群20から操作情報CIと各種センサ情報を受信し、舵角駆動指令信号RUADを出力する。
【0018】
方位制御装置10は、方位指令生成部100、方位制御部200、ゲイン調整部300と周波数特性算定部400から成る制御ゲイン調整部500、舵角制御部600より構成される。方位制御装置10は、センサ群20から各検出部の信号を入力し、方位指令生成部100から進行すべき方位指令信号DRCを受けとる。そして、舵角駆動部40に舵角駆動指令信号RUADを出力して舵角を制御する。舵角駆動部40は舵角駆動指令信号RUADに応じて船舵を操作する。これにより、方位制御装置10は、進行すべき方位指令信号DRCを出力することで、船舶1の方位を変更または保持せしめるものである。
【0019】
図1において、船舶1には、船舶を推進するために図示されない推進器が備えられている。推進器の出力は操作装置30から操作される。船舶1の推進器には、船外機を用いることができる。船外機は、船舶の推進、操舵機構として、エンジンの下にスクリューが一体に設けられている。そして、船外機は本体が船体の外側に取り付けられた推進装置である。船外機による進行方位の制御は、船外機本体の船体への取り付け角度を変えて実施する。船外機は小型船舶に多く採用される。船外機は複数機具備されていてもよい。
【0020】
実施の形態1に係る方位制御装置10の適用は船外機を備えた船舶に限定されない。大型船には船内機を備えた場合が多く見られる。船内機は、エンジン等の駆動部が船体内部にあり、この駆動部と繋がれた回転方向が可変のスクリューが船外に露出し、舵がスクリューと別体となっている形態の推進、操舵機構である。実施の形態1に係る方位制御装置10は、船内機による推進装置を備えた船舶にも適用可能である。
【0021】
その他船内外機を備えた船舶が存在する。船内外機は、エンジン等の駆動部が船内にあり、船外でこの駆動部と繋がれた回転方向が可変のスクリューと舵とが一体となっている形態の推進、操舵機構である。実施の形態1に係る方位制御装置10は、船内外機を備えた船舶にも適用可能である。
【0022】
操作装置30は、操船者が船舶の航走の初期条件と終端条件を入力する場合にも用いられる。センサ群20は、例えば、船舶1の緯度・経度を計測する全球測位衛星システム(以下、GNSS(Global Navigation Satellite System)と称す)および船舶1の方位角を計測する磁方位センサから構成される。センサ群20は、船舶1の角速度を計測するジャイロ、船舶1の並進加速度を計測する加速度センサ等に接続された慣性航法装置を備えていてもよい。
【0023】
センサ群20として具体的には、船舶1の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号Yを出力するヨー角検出部21が設けられている。船舶1の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号YRを出力するヨー角速度検出部22が設けられている。船舶1の船速を示す船速信号Vを出力する船速検出部23が設けられている。
【0024】
さらに船舶1の舵角を示す舵角信号RUAを出力する舵角検出部24を設けてもよい。ここで、ヨー角速度検出部22として、角速度検出のためのセンサを独自に備えてもよいが、ヨー角検出部21の出力であるヨー角信号Yを時間微分した値から求めることとしてもよい。船速検出部23は船速を、スクリュー回転速度計、対水面速度計、対気速度計、加速度センサ、GNSS、電波またはレーザによるドップラ計測器等から求めてもよい。
【0025】
<方位制御装置の機能>
方位制御装置10は、船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号DRCを生成する方位指令生成部100を備える。方位制御装置10は、センサ群20よりヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR、舵角信号RUA、船速信号Vを入力する。方位制御装置10は、操作装置30より操作情報CIを入力する。
【0026】
方位指令生成部100によって生成された方位指令信号DRCに対して、方位制御部200はヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR、船速信号Vを入力して、安定性と応答性を両立した制御ゲインで舵角指令信号RUACを出力する。舵角制御部600は舵角指令信号RUACを入力して舵角駆動指令信号RUADを生成して、舵角駆動部40へ出力し船舶1の舵を制御する。
【0027】
方位制御部200は、操作装置30からの操作情報CIによって船舶1の舵角信号RUAに対するヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの周波数特性を取得するための指示を出力する。具体的には、矩形波状または鋸波状の舵角指令信号RUACを出力し、これに対する、ヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの出力データを制御ゲイン調整部500で取得する。
【0028】
制御ゲイン調整部500は、取得した出力データから周波数特性を算定し、これに応じて、方位制御部200の制御ゲインを調整する。この調整によって、船舶1の船体パラメータが、船速、喫水の変化等によって変動しても、この変動に対応した制御ゲインを獲得することができる。その結果、安定性と応答性を両立した方位制御を可能とすることができる。
【0029】
ここでは、船舶1の舵角信号RUAに対するヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの周波数特性を取得するための指示を、操作装置30から操作情報CIによって行う場合の説明をした。しかし、方位制御部200が船舶1の安定した同一方位への航走継続を検出した場合に、必要に応じて周波数特性を取得する判断をし、矩形波状または鋸波状の舵角指令信号RUACを出力することとしてもよい。例えば方位制御部200が、所定時間ごとに、または方位制御装置10の起動ごとに、周波数特性の取得動作を行い、制御ゲイン調整部500に周波数特性を算定させ、方位制御部200の制御ゲインを調整させることとしてもよい。
【0030】
さらにこれに加えて、方位制御部200を介さず、ハンドルまたはジョイスティック等を用いて、操船者が手動で任意の形状の舵角指令信号RUACを出力する場合、および通常の航走中に操作装置30からの操作情報CIによって生成された方位指令信号DRCに対して、舵角指令信号RUACが出力される場合に制御ゲインを調整させることもできる。方位指令信号DRCに対して、ヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR、船速信号Vおよび制御ゲインで生成された舵角指令信号RUACを出力して、これに対するヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの出力データを制御ゲイン調整部500で取得することで、方位制御部200の制御ゲインを調整してもよい。
【0031】
<方位制御装置のハードウェア構成>
図2は、方位制御装置10のハードウェア構成図である。
図2のハードウェア構成は、方位制御装置10a、10bにも適用できる。以下では代表して方位制御装置10について説明する。本実施の形態では、方位制御装置10は、船舶の方位を制御する電子制御装置である。方位制御装置10の各機能は、方位制御装置10が備えた処理回路により実現される。具体的には、方位制御装置10は、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りをする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、および演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0032】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、および各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のものまたは異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出しおよび書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read only Memory)等が備えられている。記憶装置91としては、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等を使用してもよい。入力回路92は、センサ群20、操作装置30の出力信号を含む各種のセンサ、スイッチ、および通信線が接続され、これらセンサ、スイッチの出力信号と通信情報を演算処理装置90に入力するA/D変換器、通信回路等を備えている。出力回路93は、舵角駆動部40を含む駆動装置に演算処理装置90からの制御信号を出力する駆動回路等を備えている。
【0033】
方位制御装置10が備える各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、および出力回路93等の方位制御装置10の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、方位制御装置10が用いる閾値、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。方位制御装置10の有する各機能は、それぞれソフトウェアのモジュールで構成されるものであってもよいが、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって構成されるものであってもよい。
【0034】
<座標系とヨー角>
図3は、実施の形態1に係る方位制御装置10が設置された船舶1の座標系の説明図である。座標系X1-Y1-Z1は、海抜0mの地上または水上における固定点を基準にした座標系を示す。座標系X0-Y0-Z0は船舶の船体を基準にした座標系を示す。これらの座標系は右手系である。地球上の海上、河川または湖沼の水面上を航行する船舶の位置は、地球の表面上にあり地球が球体である影響を受ける。しかし、海抜0mの地上または水上の固定点と船舶1の距離が小さければ、両者は同一平面上にあるとみなして単純化して考えることができる。
【0035】
海抜0mの地上または水上における固定点の座標系X1-Y1-Z1は、X1が南北方向(矢印は北)を示し、Y1が東西方向(矢印は東)を示す。Z1は垂直方向(矢印は下)を示す。船舶1は、X1-Y1平面上に存在し、船体を基準にした座標系X0-Y0-Z0は、X0が船体の重心を通る前後方向(矢印は前であり船首方向)を示し、Y0が船体の重心を通る左右方向(矢印が右で右舷方向)を示し、Z0が船体の重心を通る船体構造の上下方向(矢印は下)を示す。
【0036】
ヨー角YA(方位角とも言う)はZ0軸周りの回転角度である。ヨー角速度(ヨーレート)はZ0軸周りの回転角速度である。
【0037】
船舶が進行すべき方位が方位指令生成部100によって指示された場合、方位指令信号DRCは、海抜0mの地上または水上における固定点の座標系X1-Y1-Z1のX1方向(
図2では北)を基準として示される。また、船舶1の船体の方向はX1方向を基準としてヨー角で示される。例えば船舶が北東に進路を取るべく指示された場合は、X1方向である北を基準として時計回りに45度の角度のヨー角YAを維持するように運航する。
【0038】
海抜0mの地上または水上の固定点と船舶1の距離が大きければ、両者は同一平面上にあると単純化して考えることができず、地球が球体であることを考慮して計算する必要がある。この場合でも、船舶が置かれた水面上で北を基準として指示されたヨー角を維持するように運航することは同じである。
【0039】
<基本動作を示すフローチャート>
図4は、実施の形態1に係る方位制御装置10の基本動作を示すフローチャートである。方位制御部200は、操作装置30からの指示、または方位制御部200の判断によって船体パラメータの取得による制御ゲインの調整を行う。
【0040】
方位制御部200は調整を実施しなくても、初期状態で規範伝達関数が設定されているので、方位指令生成部100の指示に基づいて、舵角指令信号RUACを算出することができる。しかし、船舶1の舵角信号RUAに対するヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの周波数特性を取得することによって、方位制御部200の制御ゲインを最新の船舶1の状態に対応して調整することができる。
【0041】
図4のフローチャートは、方位制御装置10が船体パラメータの取得による制御ゲインの調整を行うたびに実行される。ステップS100で、航走中において、方位制御部200における舵角指令信号RUACの矩形波状または鋸波状の舵角指令、操船者がハンドル等を用いて手動で生成した任意の形状の舵角指令、または通常の航走中の方位指令信号DRCに基づいて方位制御部200が算出した舵角指令、が出力される。
【0042】
ステップS101では、周波数特性算定部400が舵角信号RUAに対するヨー角信号Y、ヨー角速度信号YRの時系列データを取得する。周波数特性算定部400で船舶特性情報FCとして周波数特性を算定する。このとき、同時に船速信号Vのデータも取得して、船速に応じた周波数特性を算定することとしてもよい。
【0043】
ステップS103では、目標応答性能情報TCを読み出す。目標応答性能情報TCは、船舶1について予め定められており、目標応答性能情報TCから基本となる規範伝達関数が設定される。
【0044】
ステップS104では、ステップS101で算定した周波数特性(船舶特性情報FC)を用いて、目標応答性能情報TCから設定した規範伝達関数をもとに制御ゲイン情報GIを算出する。ステップS105で、制御ゲイン情報GIを用いて方位制御部200で方位制御演算が実行されて舵角指令信号RUACが出力される。舵角指令信号RUACに応じて舵角制御部600から舵角駆動指令信号RUADが出力され舵角駆動部40が制御されることによって船舶1の方位制御がされる。このとき、ステップS101からステップS105において同時に船速信号Vのデータを取得して、船速に応じた制御ゲイン情報GIを算定することとしてもよい。
【0045】
船舶の方位制御装置10を構成する方位指令生成部100、方位制御部200、ゲイン調整部300、および周波数特性算定部400について、その機能を詳細に説明する。
【0046】
<方位指令生成部>
図5は、実施の形態1に係る方位制御装置10の方位指令生成部100の構成を示すブロック図である。方位指令生成部100は、運動条件設定部101と方位演算部102で構成される。この運動条件設定部101は、船舶1の航走の初期条件と終端条件を設定するもので、操船者が船舶1の操作装置30に入力することにより操作情報CIによって設定される。
【0047】
操船者は船舶1の操作装置30によって、航走開始前の初期状態と、所望の航走が完了した時点での終端状態における姿勢角(方位角またはヨー角と同義)、角速度(姿勢角の1回時間微分)および角加速度(姿勢角の2回時間微分)の情報を設定する。この条件設定は、姿勢角、角速度および角加速度を数値化した値で与えてもよい。GNSSのタッチパネル化されたユーザインターフェースを用いて設定することもできる。初期状態は、センサ群20の検出値をセンサ群情報として自動的に取込み、終端状態のみをユーザインターフェース画面でタッチ入力することによって設定してもよい。
【0048】
方位演算部102は、運動条件設定部101の出力する初期状態の情報SCIと終端状態の情報ECIとを受けて、方位指令信号DRCを演算する。ここで、方位指令信号DRCの演算方法は、複数考えられる。例えば、運動条件設定部101で得られた船舶1の初期状態の情報SCIと終端状態の情報ECIにおける姿勢角、角速度および角加速度に基づいて、時間の多項式として与えられた軌道を演算することができる。
【0049】
また、初期状態の情報SCIと終端状態の情報ECIを最短時間で結ぶ直線軌道を演算することもできる。初期状態と終端状態の間を最少燃料で到達可能な軌道を演算することもできる。すなわち、初期状態から終端状態に遷移する際、予め設定された評価関数を最小化する最適な軌道、例えば時間最短の意味で最適な軌道または最少燃料の意味で最適な軌道として演算してもよい。
【0050】
<方位制御部>
図6は実施の形態1に係る方位制御装置10の方位制御部200の構成を示すブロック図である。方位制御部200は、制御演算部210およびセンサ情報処理部220で構成される。センサ情報処理部220は、センサ群20の出力であるヨー角信号Yとヨー角速度信号YRを制御演算部210へ出力する。このとき、同時に船速信号Vのデータも取得して、制御演算部210へ出力することとしてもよい。
【0051】
センサ情報処理部220は、センサ群20から送られてきた各種センサの情報を、シリアル信号からパラレル信号に変換する機能を有していてもよい。また、ヨー角信号Yを時間微分してヨー角速度信号YRを生成する機能を有していてもよい。
【0052】
制御演算部210は、方位指令生成部100の出力である方位指令信号DRCと、ゲイン調整部300の出力である制御ゲイン情報GI(GI1、GI2、GI3)、センサ情報処理部220の出力であるヨー角信号Yとヨー角速度信号YRとに基づいて、舵角指令信号RUACを舵角制御部600へ出力する。このとき、同時に船速信号Vのデータに応じて制御ゲインを切替えて、舵角指令信号RUACを算出し出力することとしてもよい。
【0053】
<制御演算部>
図7は、実施の形態1に係る方位制御装置10の制御演算部210の構成を示すブロック図である。制御演算部210は、第一の制御演算部211、第二の制御演算部212、第三の制御演算部213、および加算器214からなる。
【0054】
第一の制御演算部211は、DRCとヨー角信号Yとの偏差を零とするように、第一の制御ゲイン情報GI1を用いた公知のP(Proportional)制御でヨー角速度指令信号YRCを演算し出力する。第二の制御演算部212は、第一の制御演算部211の出力であるヨー角速度指令信号YRCとヨー角速度信号YRのヨー角速度偏差を零とするように、第二の制御ゲイン情報GI2を用いた公知のPI(Proportional Integral)制御でFB(Feedback)舵角指令FBCを演算し出力する。
【0055】
第三の制御演算部213は、第一の制御演算部211の出力であるヨー角速度指令信号YRCと第三の制御ゲイン情報GI3に基づいて、FF(Feedforward)舵角指令FFCを演算し出力する。加算器214は、第二の制御演算部212の出力であるFB舵角指令FBCに第三の制御演算部213の出力であるFF舵角指令FFCを加算する。
【0056】
加算器214は、加算した結果として舵角指令信号RUACを出力する。制御演算部210をこのような構成にすることで、第一および第二の制御演算部211、212によって方位安定性を向上させ、第三の制御演算部213によって方位応答性を向上させることができる。また、上記の第一の制御演算部211、第二の制御演算部212、第三の制御演算部213について、同時に船速信号Vのデータに応じて制御ゲインを切替えて、出力することとしてもよい。
【0057】
<制御ゲイン調整部>
図8は、実施の形態1に係る方位制御装置10のゲイン調整部300の構成を示すブロック図である。船舶1の方位運動は、一般的に舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性として特徴付けることができる。例えば、特許文献1では、舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性として、1次のモデルが扱われている。
【0058】
しかしながら、船舶1の周波数特性は、船舶1の運動状態、例えば船舶の速度(以下、船速)によって大きく変化し、例えば、舵角を所定量だけ所定速度で切った場合、船速が低い領域ではヨー角速度信号YRが小さく、船速が高い領域ではヨー角速度信号YRが大きい性質がある。したがって、船速による制御応答のばらつきを小さくしつつ、制御系の応答を決める交差周波数を船速に依らず一定とするためには、制御演算部210に入力する制御ゲイン情報を船速に応じて可変とする必要がある。
【0059】
図9は、実施の形態1に係る方位制御装置10の船舶特性情報を示す図である。ここでは、舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性をゲインと位相について示している。船速が低い低速の領域(実線で示す)では、1次のモデルで比較的近似しやすい特性を有す。しかしながら、船速が高い高速の領域(破線で示す)では、ゲインが増大するとともに、条件によっては高周波側に緩やかなピークゲインを有する形状となり、1次のモデルでは近似できない。
図9では、ヨー角速度信号YRの周波数特性を示したが、ヨー角信号Yについても同様なことが言える。
【0060】
制御演算部210内の制御ゲイン情報GIを船速に応じて適切に設計ないし設定するために、ゲイン調整部300は、後述する周波数特性算定部400の出力である船舶特性情報と目標応答性能情報TCに基づき、制御ゲイン情報GIを演算し出力する。
図8に示したゲイン調整部300は、規範伝達関数設定部301およびオンラインゲイン調整部302で構成される。
【0061】
規範伝達関数設定部301は、任意に選定した目標応答性能情報TC、例えばゲイン交差周波数に基づいて、目標応答性能を達成する舵角信号RUAに対するヨー角信号Yの周波数特性を表す規範伝達関数と舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性を表す規範伝達関数を出力する。そして、オンラインゲイン調整部302は、前述した制御演算部210内の第一から第三の制御演算部(211~213)に係る制御ゲイン情報GI(GI1、GI2、GI3)を演算し出力する。
【0062】
オンラインゲイン調整部302は、第一と第二の制御演算部211、212に係る制御ゲイン情報GI1、GI2を、後述する周波数特性算定部400の出力である船舶特性情報FCと、規範伝達関数設定部301の出力である規範伝達関数をもとに、例えば公知の部分的モデルマッチング法にて、算出する。
【0063】
一方、第三の制御演算部213に係る制御ゲイン情報GI3は、船舶特性情報に基づいて、例えば舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性の逆モデルである、ヨー角速度信号YRに対する舵角信号RUAの周波数特性を利用して算出する。このとき、前記逆モデルが高次、例えば2回の時間微分を含む場合には、第三の制御演算部213の出力であるFF舵角指令FFCが急峻に変化することを抑えるため、ローパスフィルタまたは移動平均処理を逆モデルの後段に備えても良い。また、逆モデル自体の次数を減らす近似処理を導入してもよい。
【0064】
図8のゲイン調整部300の入力として、同時に船速信号Vのデータを追加し、船速に応じた制御ゲインをもとめることとしてもよい。
【0065】
<周波数特性算定部>
図10は、実施の形態1に係る方位制御装置10の周波数特性算定部400の構成を示すブロック図である。周波数特性算定部400は、ゲイン調整部300に船舶特性情報FCを入力する。船舶1の方位運動の周波数特性は、一般的に船速に応じて変化する。
【0066】
この周波数特性は、例えば、船舶1が一定の船速で航走中に、正弦波状の舵角指令信号RUACを周波数掃引しながら印加した時の、舵角信号RUAとヨー角速度信号YRの応答の増幅率と位相差から求める方法が考えられる。しかしながら、このような方法は、低周波での特性取得に膨大な計測時間と記憶容量を要すため、上記周波数特性を特徴付ける船舶特性情報FCをオンライン推定するには不向きである。
【0067】
これに対し、周波数特性算定部400は、周波数特性において注目したい帯域幅で十分なパワーを有する矩形波状あるいは鋸波状の信号を舵角指令信号RUACとして所定時間だけ印加した時のセンサ群20の出力であるセンサ群情報を入力とし、船舶特性情報をオンライン推定し出力するものである。周波数特性算定部400は、データ処理部401と逐次推定フィルタ部402で構成される。
【0068】
データ処理部401は、センサ群20の出力であるセンサ群情報に基づいて、舵角信号RUAとヨー角速度信号YR、および船速信号Vに重畳した観測雑音を除去するフィルタである。データ処理部401の出力は舵角信号RUAとヨー角速度信号YR、および船速信号V等の処理後データである。
【0069】
<算定可否判定部>
算定可否判定部403は、例えばセンサ群20の出力であるセンサ群情報に基づいて、舵角信号RUAとヨー角速度信号YR、ヨー角信号Yの大きさ、または相関度合いを算出することで、得られたデータが周波数特性の算定に適切か否かを判定する。そして、算定可否判定部403は、判定情報PCを出力する。
【0070】
周波数特性の算定に適切なデータとしての条件は、センサ信号とセンサ雑音の比であるSN比が十分に高いこと、波などによる不規則外乱による揺動がセンサ信号の大きさに対して小さいこと等としてもよい。データが周波数特性の算定に適切か否かを判定する方法としては、舵角信号または舵角指令信号の大きさ(絶対値)、それらの差分である舵角速度信号または舵角速度指令信号の大きさ(絶対値)が閾値を超えるか否か、を条件としてもよい。また、舵角信号または舵角速度信号とヨー角速度信号から逐次的に求めた相関係数の値が閾値を超えるか否か、を条件としてもよい。
【0071】
また、上述した閾値は、船速によって変えてもよい。一般的に船速が低い方が、SN比が低く、波などによる外乱による揺動の影響が大きくなる。このため、船速が低い場合は閾値を大きくして算定可能の判定条件を緩和してもよい。閾値の選定方法として、舵角または舵角速度信号を用いる場合は、ヨー角速度が十分に大きくなるとされる経験的な値を採用することができる。相関係数を用いる場合は、0.7から1の間程度の値を用いることとしてもよい。
【0072】
逐次推定フィルタ部402は、データ処理部401の出力である処理後データと算定可否判定部403の出力である判定情報PCに基づいて、船舶特性情報候補RFCと船舶特性情報候補RFCの推定精度情報PRを出力する。例えば、公知の逐次最小二乗法にて、舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性モデルを逐次的に推定し、船舶特性情報候補RFCとして出力する。また、周波数特性モデルを推定する過程で、当該モデルの推定値の分散および予測誤差量等を同時に求めることができる。この分散または予測誤差量等を推定精度情報PRとして出力する。
【0073】
前述したとおり、船速が高い高速領域では、高周波側にピークゲインが発生する場合がある。このため、ピークゲインが発生するような高速領域に対応すべく、周波数特性モデルの次数を2次以上にして、舵角信号RUAに対するヨー角速度信号YRの周波数特性モデルを逐次的に推定する。舵角信号RUAに対するヨー角信号Yの周波数特性についても周波数特性モデルを同様に推定してもよい。
【0074】
<舵角オフセット量>
ここで、船体が、船体横方向から潮流、風による外乱を受けながら直進航走する場合には、舵角を所定の角度に維持しておく必要がある。この舵角量を、舵角オフセット量RUA0と呼称する。舵角オフセット量RUA0が大きい場合、船舶の動的な特性を表す周波数特性モデルでは船舶の挙動を十分に表現できない。そこで、舵角オフセット量RUA0を考慮したARX(Auto-Regressive eXogenous)モデルの一例を、次式のような差分方程式で表現する。
【0075】
YR[k]=A1×YR[k-1]+A2×YR[k-2]
+B1×(U[k-1]-U0)+B2×(U[k-2]-U0)
※A1、A2、B1、B2は船舶の動的な特性を表すパラメータ、U0は舵角オフセット量、YRはヨー角速度、Uは舵角量、K、K-1、K-2はデータサンプル番号を表す。
【0076】
このモデルは、船体横方向から外乱を受け、舵角オフセット量U0が零でない時に、例えば舵角Uを10degの一定値とした場合と、舵角Uを-10degの一定値とした場合では、ヨー角速度YRは異なる値に収束することが表現できる。よって、舵角オフセット量を陽に考慮したモデルを用いることで、舵角オフセット量を推定することができる。
【0077】
例えば公知の逐次最小二乗法にて、動的な特性を表すパラメータA1、A2、B1、B2と静的な特性を表す舵角オフセット量U0を逐次的に推定することができる。また、舵角オフセット量U0を逐次的に推定することができるため、航走中に方位が大きく変化して、船体が受ける外乱の方向が変化した場合、および外乱の強さが増減した場合でも適切にパラメータA1、A2、B1、B2と舵角オフセット量U0を逐次的に推定することができる。
【0078】
なお、逐次推定フィルタ部402で使用するモデルは、前述した2次のARXモデルに限定されない。例えば1次のARXモデル、微分方程式モデル、状態空間モデル等、さまざまなモデルを利用して船舶特性情報候補RFCと推定精度情報PRを出力することができる。
【0079】
さらに、この逐次推定フィルタ部402で使用する推定手法は、前述した逐次最小二乗法に限定されない。公知のカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、カルマンスムーザ、逐次部分空間同定法等、さまざまな逐次推定手法を利用して船舶特性情報候補RFCを得ることができる。また例に挙げた公知の逐次推定手法も、推定値の分散および予測誤差を推定できるため、それらを推定精度情報PRとして出力することができる。
【0080】
また、算定可否判定部403の出力である判定情報PCに基づいて、前記逐次推定手法の算出アルゴリズムの一部または全部を、停止または変更して、算定に適したデータのみを用いて逐次的に船舶特性情報候補RFCを算定することができる。例えば、舵角をほとんど動かさない場合、動的な特性を表すパラメータを適切に推定することができず、不適切な船舶特性情報候補RFCを算定してしまう可能性がある。
【0081】
しかし当該機能によって、動的な特性を表すパラメータを適切に推定できるデータのみを抽出することができる。そのため、適切な船舶特性情報候補RFCを算定することができる。また、算出アルゴリズムを停止または変更する際に、算出アルゴリズム中の一部変数に忘却機能を持たせることで、停止または変更の時間が長くなった場合に、前の推定情報に引きずられることなく推定を再開することができる。
【0082】
当該機能によって、動的な特性の推定に適しているとされる矩形波状あるいは鋸波状の舵角指令信号RUACを印加しなくても、適切に船舶特性情報候補RFCを算定することができる。操船者による手動で生成した舵角指令信号RUAC、または通常航走中の方位指令信号DRCに基づいて方位制御部200が算出した舵角指令信号RUACを用いても、算定に適したデータのみを自動で抽出して船舶特性情報候補RFCを算定することができる。このため、適切な船舶特性情報候補RFCを算定することができる。
【0083】
<特性学習部>
特性学習部404は、逐次推定フィルタ部402の出力である船舶特性情報候補RFCと推定精度情報PRに基づいて、推定精度情報PRが良好な時刻での船舶特性情報候補RFCを学習し船舶特性情報FCとして出力する。推定精度情報PRが予め定められた閾値を超える毎に船舶特性情報FCを学習する。また、船舶特性情報候補RFCの算定を開始してから、推定精度情報PRが閾値を超えるまでは船舶特性情報FCはデフォルト値(初期設定値)のままとすることで、低精度な船舶特性情報FCを出力してしまうことを防ぐことができる。
【0084】
さらに、特性学習部404による船舶特性情報候補RFCによる船舶特性情報FCの学習は、一次遅れ要素を伴う平均化手法によって船舶特性情報FCに船舶特性情報候補RFCを反映させてもよい。例えば、以下の式によって算出してもよい。
【0085】
FC(n)=K×RFC+(1-K)×FC(n-1)
※Kは0以上1以下の反映係数、FC(n)は今回算出した船舶特性情報、FC(n-1)は前回算出した船舶特性情報を表す。
【0086】
また、特性学習部404の学習は、推定精度情報PRの値に応じて船舶特性情報候補RFCの反映割合を変更してもよい。例えば、反映係数Kの値を推定精度情報PRの値が大きくなるに従って大きくなるように設定してもよい。
【0087】
ここで、推定した周波数特性モデルをデータ処理部401の出力である船速に紐づけることで、船舶特性情報FCを船速の関数あるいはマップとして特性学習部404に蓄積することができる。船舶特性情報FCを特性学習部404に蓄積することで、船速が変化した場合、あるいは目標応答性能情報TCを変更した場合にも即応できる。再度周波数特性を推定することなく、特性学習部404に蓄積した船舶特性情報FCをもとに制御ゲイン情報GIを適切に設計ないし設定することができる。
【0088】
さらに、特性学習部404に学習する船舶特性情報FCは、ヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR、舵角信号RUA等に応じて複数の区画に分けられた学習値を有していてもよい。そのように複数の学習値を細かく設定することで、ヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR、舵角信号RUA等に応じた最適な目標応答性能情報TCを利用することができる。
【0089】
以上のように、実施の形態1に係る船舶1を所望の方位で航走させる船舶の方位制御装置10について説明した。方位制御装置10は、方位指令信号DRCを出力する方位指令生成部100と、船舶に搭載されたセンサ群20からのセンサ群情報を入力とし、船舶特性情報FCを出力する周波数特性算定部400と、周波数特性算定部400の出力である船舶特性情報FCに基づいて制御ゲイン情報GIを出力するゲイン調整部300を有する。そして、方位制御部200は方位指令生成部100の出力である方位指令信号DRCと、ゲイン調整部300による制御ゲイン情報GIと、センサ群20からのセンサ群情報と、に基づいて舵角指令信号RUACを出力する。
【0090】
これによって、方位の変化、および時々刻々と変化する外乱の影響を考慮しつつ、通常の航走時の任意の操舵パターンに対し、良好な変針特性が得られる制御ゲインを算出するための船体パラメータを、行動中に算定することができる。これによって、変化しえる制御対象のモデル化誤差に対して、即座に適切な制御ゲインを演算することができる。その結果、制御対象の特性変化に対してロバストな設計を可能とし、かつ方位制御に関わる外乱抑圧性能と目標値応答性能を適正に調整できる。さらに、潮流、波浪、風雨等の船舶への外乱要因で励起される振動を助長すること無く、安定な方位制御を実現できる。
【0091】
2.実施の形態2
図11は、実施の形態2に係る方位制御装置10aの構成図である。
図12は、実施の形態2に係る方位制御装置10aの周波数特性算定部400aの構成を示すブロック図である。
【0092】
図11の、実施の形態2に係る方位制御装置10aにおいて、実施の形態1に係る方位制御装置10との違いは、舵角駆動部40に入力される舵角駆動指令信号RUADが、制御ゲイン調整部500aに備えられた周波数特性算定部400aによって出力された舵角オフセット量RUA0と方位制御部200によって出力された舵角指令信号RUACを入力とした舵角制御部600aによって出力される点である。その他の構成は、
図1と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0093】
図12は、実施の形態2に係る方位制御装置10aの周波数特性算定部400aの構成を示すブロック図である。周波数特性算定部400aは、データ処理部401と逐次推定フィルタ部402a、算定可否判定部403、特性学習部404で構成される。実施の形態1にて、逐次推定フィルタ部402の出力が船舶特性情報候補RFCであった。これに対し、実施の形態2では、船舶特性情報候補RFCとともに推定される舵角オフセット量RUA0を舵角制御部600aへ出力する。舵角制御部600aにおいて舵角オフセット量RUA0を考慮した舵角駆動指令信号RUADを出力して、方位制御を行う。
【0094】
このような構成とすることで、舵角オフセット量RUA0による外乱を相殺する舵角駆動指令信号RUADを出力することができる。このため、舵角オフセット量RUA0による外乱を原因とする応答性の低下および安定性の低下を抑制し、方位制御性能の向上が実現できる。
【0095】
3.実施の形態3
図13は、実施の形態3に係る方位制御装置10bの構成図である。
図14は、実施の形態3に係る方位制御装置10bの周波数特性算定部400bの構成を示すブロック図である。
【0096】
図13の、実施の形態3に係る方位制御装置10bにおいて、実施の形態2に係る方位制御装置10aとの違いは、制御ゲイン調整部500bに備えられた周波数特性算定部400bが異なる点である。
図14の、実施の形態3に係る周波数特性算定部400bにおいて、実施の形態2に係る周波数特性算定部400aとの違いは、逐次推定フィルタ部402aが出力する舵角オフセット量RUA0が、算定可否判定部403aに入力され、判定情報PCに反映される点である。以上の他の構成は、実施の形態2に係る
図11、
図12と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0097】
実施の形態1および2にて、算定可否判定部403は舵角信号RUA、ヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR等の絶対値または相関係数を算出して、判定情報を出力していた。これに対し、実施の形態3では、さらに舵角オフセット量RUA0を舵角信号RUAに重畳した信号を用いて、判定情報を出力する。これによって、算定可否判定部403での判定に用いられるヨー角信号Y、ヨー角速度信号YR等との相関などを、より高い精度で求めることができる。このような構成とすることで、舵角オフセット量RUA0が大きい場合でも、動的な特性を推定するのにより適切なデータを抽出できるようになり、より精度の高い船舶特性情報候補RFCを出力できる。
【0098】
前述の実施の形態1、2および3において、
図1に記載された方位制御装置10、10aおよび10bの方位指令生成部100、方位制御部200、ゲイン調整部300、周波数特性算定部400、400aおよび400b、舵角制御部600、600aさらにはこれらを構成する
図4から
図8、および
図10から
図14に示された各機能からなる制御ブロックは、別々の制御回路で構成してもよい。あるいはこれらを1つの制御回路でまとめて構成してもよい。
【0099】
また、前述の制御ブロックにおいては、船外機および船内機の舵角を制御する舵角駆動機構までを含めて統合してもよい。これらの機能を実現する処理回路は、専用のハードウェアであってもよい。これらの機能は、メモリに格納されるプログラムを実行するCPU(中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSPともいう)であっても構成可能である。
【0100】
実施の形態1、実施の形態2および実施の形態3に係る船舶の方位制御装置10、10aおよび10bにおける、制御部分をソフトウェアで構成した場合、各実施の形態のそれぞれの制御部分の機能は、ソフトウェアを実行のたびにメモリにダウンロードして実行するタイプのソフトウェアで実現してもよい。また、これらをコンピュータの不揮発性記憶装置に固定化されたファームウェア、または前述のタイプのソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現してもよい。
【0101】
前述のタイプのソフトウェアとファームウェアはプログラムとして記述され、メモリに格納される。処理回路であるプロセッサは、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。これらのプログラムは、前述の各部の手順、方法をコンピュータに実行させるものである。ここで、メモリとは、たとえば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等が該当する。
【0102】
また、前述の各制御ブロックの機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部を前述のタイプのソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、各実施の形態の処理回路は、ハードウェア、前述のタイプのソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、各機能を実現することができる。また処理に必要な各種情報は、ハードウェア構成の場合は回路に予め設定され、またソフトウェア構成の場合にはメモリに予め記憶させておく。
【0103】
なお、上述の全ての実施の形態において、制御演算部の構成は、角度メジャーループのみ、角度メジャーループと角速度マイナーループの2重ループの他に、角度メジャーループと角速度マイナーループと角加速度マイナーループの3重ループとすることも当然可能である。このとき、角加速度は、センサ群情報の1つであるヨー角信号Yを2回時間微分で求めてもよく、あるいはヨー角速度信号YRを1回時間微分して求めてもよい。さらに、全ての実施の形態において、制御器の形態は、古典制御系のみならず、状態フィードバック制御のための現代制御系も利用することができる。
【0104】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0105】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0106】
(付記1)
船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号を生成する方位指令生成部、
前記船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号を出力するヨー角検出部、
前記船舶の前記重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号を出力するヨー角速度検出部、
前記船舶の舵の角度を示す舵角信号を出力する舵角検出部、
前記船舶の速度を示す船速信号を出力する船速検出部、
前記方位指令生成部によって生成された前記方位指令信号と、前記ヨー角検出部によって出力された前記ヨー角信号と、前記ヨー角速度検出部によって出力された前記ヨー角速度信号と、に基づいて前記船舶を前記進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号を出力する方位制御部、
前記方位制御部によって出力された前記舵角指令信号に基づいて舵を制御する舵角制御部、
前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否を判定する算定可否判定部を有し、前記算定可否判定部が周波数特性の算定が可能と判定した場合は前記舵角検出部によって出力された前記舵角信号に対する前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の各周波数特性を算定して前記方位制御部の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整部、を備えた船舶の方位制御装置。
(付記2)
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の相関度合い、振幅、変化量、信号対雑音比率、外乱による揺動比率の少なくとも一つに基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する請求項1に記載の船舶の方位制御装置。
(付記3)
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の相関度合い、振幅、変化量、信号対雑音比率、外乱による揺動比率の少なくとも一つに基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する比較閾値を前記船速信号に応じて変化させる請求項2に記載の船舶の方位制御装置。
(付記4)
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号の変化量が予め定められた変化量よりも大きい場合に前記周波数特性の算定を許可する請求項1から3のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記5)
前記制御ゲイン調整部は、前記舵角信号、に対する前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の周波数特性を算定する際に算定精度を算出し、前記算定精度が予め定められた精度よりも高い場合に算定した前記周波数特性に基づいて前記方位制御部の制御ゲインを調整する請求項1から4のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記6)
前記制御ゲイン調整部は、前記算定精度が予め定められた精度よりも高い場合に算定した前記周波数特性を学習する請求項5に記載の船舶の方位制御装置。
(付記7)
前記制御ゲイン調整部は、算定した前記周波数特性を前記算定精度に応じた重み付けをして学習する請求項6に記載の船舶の方位制御装置。
(付記8)
前記制御ゲイン調整部は、直進航走する場合のあて舵量である舵角オフセット量を算出し、前記方位制御部の制御ゲインを調整する請求項1から7のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記9)
前記制御ゲイン調整部は、前記舵角オフセット量を陽に表現したモデルに基づいて前記舵角オフセット量を差分方程式によって算出する請求項8に記載の船舶の方位制御装置。
(付記10)
前記舵角制御部は、前記舵角指令信号と前記舵角オフセット量に基づいて舵を制御する請求項8または9に記載の船舶の方位制御装置。
(付記11)
前記制御ゲイン調整部の前記算定可否判定部は、前記舵角信号と前記舵角オフセット量に基づいて前記周波数特性の算定の可否を判定する請求項8から10のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記12)
前記方位制御部は、
前記方位指令信号と、前記ヨー角信号との偏差を0とするヨー角速度指令信号を演算する第一の制御演算部、
第一の制御演算部によって演算された前記ヨー角速度指令信号と、前記ヨー角速度信号との偏差を0とするフィードバック舵角指令信号を演算する第二の制御演算部、
前記ヨー角速度指令信号に基づいてフィードフォワード舵角指令信号を演算する第三の制御演算部、
前記第二の制御演算部によって演算された前記フィードバック舵角指令信号と、前記第三の制御演算部によって演算された前記フィードフォワード舵角指令信号を加算して舵角指令信号を出力する加算器、を有する請求項1から11のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記13)
前記制御ゲイン調整部は、
前記舵角信号に対し、前記ヨー角信号について目標とすべき周波数特性を有するヨー角信号規範伝達関数と、前記ヨー角速度信号について目標とすべき周波数特性を有するヨー角速度信号規範伝達関数と、を設定する規範伝達関数設定部と、
前記規範伝達関数設定部によって設定された前記ヨー角信号規範伝達関数と前記ヨー角速度信号規範伝達関数に基づいて、前記方位制御部の制御ゲインを調整するオンラインゲイン調整部を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の船舶の方位制御装置。
(付記14)
方位指令生成部によって船舶が進行すべき方位を示す方位指令信号が生成されるステップと、
ヨー角検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角度を示すヨー角信号が出力されるステップと、
ヨー角速度検出部によって船舶の重心を通る上下方向の軸の周りの回転角速度を示すヨー角速度信号が出力されるステップと、
舵角検出部によって船舶の舵の角度を示す舵角信号が出力されるステップと、
方位制御部によって方位指令生成部が生成した方位指令信号と、ヨー角検出部が出力したヨー角信号と、ヨー角速度検出部が出力したヨー角速度信号と、に基づいて船舶を進行すべき方位へ向かわせる舵角指令信号が出力されるステップと、
舵角制御部によって舵角指令信号に基づいて舵が制御されるステップと、
制御ゲイン調整部が有する算定可否判定部によって前記舵角信号、前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号に基づいて周波数特性の算定の可否が判定され、前記算定可否判定部によって周波数特性の算定が可能と判定された場合は、前記制御ゲイン調整部によって、前記舵角信号に対して前記ヨー角信号および前記ヨー角速度信号の各周波数特性が算定され、前記方位制御部の制御ゲインが調整されるステップと、を有する船舶の方位制御方法。
(付記15)
前記方位制御部によって前記舵角指令信号が出力されるステップは、
第一の制御演算部によって、前記方位指令信号と、前記ヨー角信号との偏差を0とするヨー角速度指令信号が演算されるステップと、
第二の制御演算部によって、第一の制御演算部によって演算された前記ヨー角速度指令信号と、前記ヨー角速度信号との偏差を0とするフィードバック舵角指令信号が演算されるステップと、
第三の制御演算部によって、前記ヨー角速度指令信号に基づいてフィードフォワード舵角指令信号が演算されるステップと、
加算器によって、前記第二の制御演算部によって演算された前記フィードバック舵角指令信号と、前記第三の制御演算部によって演算された前記フィードフォワード舵角指令信号が加算されて舵角指令信号が出力されるステップと、を有する請求項14に記載の船舶の方位制御方法。
【符号の説明】
【0107】
1 船舶、10、10a、10b 方位制御装置、20 センサ群、21 ヨー角検出部、22 ヨー角速度検出部、23 船速検出部、24 舵角検出部、30 操作装置、40 舵角駆動部、100 方位指令生成部、200 方位制御部、210 制御演算部、211 第一の制御演算部、212 第二の制御演算部、213 第三の制御演算部、214 加算器、220 センサ情報処理部、300 ゲイン調整部、301 規範伝達関数設定部、302 オンラインゲイン調整部、400、400a、400b 周波数特性算定部、401 データ処理部、402、402a 逐次推定フィルタ部、403、403a 算定可否判定部、500、500a、500b 制御ゲイン調整部、600、600a 舵角制御部、CI 操作情報、DRC 方位指令信号、ECI 終端状態の情報、FBC FB舵角指令、FC 船舶特性情報、FFC FF舵角指令、GI1 第一の制御ゲイン情報、GI2 第二の制御ゲイン情報、GI3 第三の制御ゲイン情報、GI 制御ゲイン情報、PC 判定情報、PR 推定精度情報、RFC 船舶特性情報候補、RUA 舵角信号、RUA0 舵角オフセット量、RUAC 舵角指令信号、RUAD 舵角駆動指令信号、SCI 初期状態の情報、TC 目標応答性能情報、V 船速信号、Y ヨー角信号、YA ヨー角、YR ヨー角速度信号、YRC ヨー角速度指令信号