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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018295
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】レンズユニット及び車載カメラ
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20230201BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20230201BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B7/02 Z
G02B7/02 F
G03B15/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122319
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中山 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】大関 公英
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AA05
2H044AA14
2H044AA17
2H044AH00
2H044AH11
2H044AJ04
(57)【要約】
【課題】高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩と外気の鏡筒内部への侵入を低減して、樹脂レンズの黄変を抑制するレンズユニットの提供を目的とする。
【解決手段】縮径部は、縮径部の物体側もしくは結像側に、第1の光学素子を配置するための第1の配置面を備え、第1の光学素子は、第1の光学素子の非光学有効部と第1の配置面との間に、第1の封止材を介挿して配置され、樹脂レンズ群は、縮径部における第1の配置面に対する光軸方向の反対面側に配置され、鏡筒は、前記反対面側であって樹脂レンズ群よりも前記反対面側の位置に、第2の光学素子を、前記反対面側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備え、第2の光学素子は、第2の光学素子の非光学有効部と第2の配置面との間に、第2の封止材を介挿して配置されるレンズユニットを採用した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂レンズと複数のガラスレンズとを含む複数の光学素子と、前記複数の光学素子を保持する鏡筒とを備え、
前記鏡筒は、縮径部を備え、
前記縮径部は、前記縮径部の物体側もしくは結像側に、前記複数の樹脂レンズの全てを除く前記複数の光学素子から選択される第1の光学素子を配置するための第1の配置面を備え、
前記第1の光学素子は、前記第1の光学素子の非光学有効部と前記第1の配置面との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材を介挿して配置され、
前記複数の樹脂レンズの全ては、前記縮径部における前記第1の配置面に対する光軸方向の反対面側に配置され、
前記鏡筒は、前記反対面側であって前記複数の樹脂レンズの全てよりも前記反対面側の位置に、前記複数の樹脂レンズの全てを除く前記複数の光学素子から選択される第2の光学素子を、前記反対面側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備え、
前記第2の光学素子は、前記第2の光学素子の非光学有効部と前記第2の配置面との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材を介挿して配置されることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記鏡筒と、前記第1の光学素子と、前記第1の封止材と、前記第2の光学素子と、前記第2の封止材と、を用いて形成された封止空間に配置される光学素子は、前記複数の樹脂レンズの全てのみである請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記第1の光学素子の非光学有効部への付勢力によって、前記第1の光学素子の前記鏡筒の光軸方向における位置を前記第1の配置面に固定し、
前記第2の光学素子の非光学有効部への付勢力によって、前記第2の光学素子の前記鏡筒の光軸方向における位置を前記第2の配置面に固定する請求項1又は請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記付勢力は、前記鏡筒へ螺着可能な押さえ環によるものである請求項3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記押さえ環は、光軸方向に弾性変形可能な構造体である請求項4に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記付勢力は、前記鏡筒の仮締めによるものである請求項3に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記第1の光学素子および前記第2の光学素子の基材は、無機ガラスである請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記封止空間に、窒素を封入した請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項9】
前記第1の封止材と前記第2の封止材とは、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、イソブチレン系ブロック共重合体の群より選択される一種以上を含有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項10】
前記第1の封止材と前記第2の封止材との国際ゴム硬さIRHDは、55IRHD以上、95IRHD以下である請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とする車載カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レンズユニット及び車載カメラに関する。
【背景技術】
【0002】
センシング等に用いられる車載カメラの周囲温度は、冬季や寒冷地での使用時は非常に低く、夏季やエンジンルーム近傍では非常に高温になる。そのため、車載カメラに搭載されるレンズユニットは、-40℃から125℃といった広い温度範囲で、常温時と変わらないレンズ性能を発揮する必要がある。さらに、長期間にわたって品質劣化を防ぎレンズ性能を維持する必要もある。長期間における品質維持の指標としては、120℃~125℃といった高温雰囲気内に製品を保管して、製品性能の経時変化を確認する加速劣化試験がある。車載カメラに用いられるレンズユニットは、この加速劣化試験においてレンズ性能を維持することが求められる。
【0003】
しかしながら、レンズユニットに樹脂レンズを採用した場合、長期間にわたって高温雰囲気に曝されると、樹脂レンズに自動酸化による黄変が生じてしまうという問題がある。そこで、特許文献1は、ガラスレンズと少なくとも1つの樹脂レンズと赤外線カットフィルタ(以下、「IRカットフィルタ」と記載する。)とを、物体側からこの順序で鏡筒に保持したレンズユニットを提案している。ガラスレンズは、鏡筒の物体側の開口部に設けられた第1レンズ支持面との間にOリングを挟んだ状態で固定され、鏡筒の物体側の開口部を封止している。IRカットフィルタは、鏡筒の物体側の開口部に設けられたフィルタ固定部に固定され、鏡筒の結像側の開口部を封止している。そして、両方の開口部の封止によって形成された鏡筒内部の封止空間に、樹脂レンズが固定されている。そして、特許文献1に開示のレンズユニットでは、樹脂レンズ自体を酸素透過防止膜で被覆することによって、樹脂レンズの表面に酸素が到達することを防いで樹脂レンズの黄変を抑制している。また、特許文献1には、シール材を用いて封止空間に窒素ガスを充填したり、封止空間に脱酸素剤を配置したりすることも提案されている。
【0004】
また、-40℃から125℃といった広い温度範囲でもレンズ性能を維持するために、レンズユニットが確実に鏡筒に固定し、かつ、レンズ外径の変化を例えば1μm以下に抑えるという課題もある。そこで、特許文献2は、レンズ群を物体側から光軸方向へ弾性的に押圧して付勢保持することによって、レンズの外径方向での変化があったとしても、レンズ群の移動を抑える構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-105194号公報
【特許文献2】特開2017-161650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にあるような、酸素透過防止膜として有効なものは、欠陥の少ない無機層である。この無機層と光学樹脂との線膨張係数の差は非常に大きい。そのため、例えば-40℃から125℃といった広範な温度域で、酸素透過防止膜の剥離やクラックを防止しなければならないという困難な課題がある。
【0007】
また、特許文献2にあるようなレンズ保持構造は、車両走行時に加わる振動や衝撃に対してもレンズの移動を防ぐことができるような付勢力の設定が求められる。この付勢力は、押圧することによって固定されるレンズ及び部品の重量に比例する。一般にガラスレンズ材料は樹脂レンズ材料に比べ、2~3倍以上の比重を持つため、ガラスレンズに必要な付勢力は、同じ形状の樹脂レンズに必要な付勢力の2~3倍に設定する必要がある。このため、ガラスレンズと共に樹脂レンズが用いられる場合、樹脂レンズには大きな付勢力が加わり、樹脂レンズが変形してしまうという課題がある。
【0008】
以上のことから、本件発明は、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩と、外気の鏡筒内部への侵入を低減して樹脂レンズの黄変を抑制し、かつ、樹脂レンズに加わる付勢力を低減することができるレンズユニットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上述の課題を解決するため、本件発明者は鋭意研究の結果、以下に述べるレンズユニットに想到した。
【0010】
本件発明に係るレンズユニットは、複数の樹脂レンズと複数のガラスレンズとを含む複数の光学素子と、前記複数の光学素子を保持する鏡筒とを備え、前記鏡筒は、縮径部を備え、前記縮径部は、前記縮径部の物体側もしくは結像側に、前記複数の樹脂レンズの全てを除く前記複数の光学素子から選択される第1の光学素子を配置するための第1の配置面を備え、前記第1の光学素子は、前記第1の光学素子の非光学有効部と前記第1の配置面との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材を介挿して配置され、前記複数の樹脂レンズの全ては、前記縮径部における前記第1の配置面に対する光軸方向の反対面側に配置され、前記鏡筒は、前記反対面側であって前記複数の樹脂レンズの全てよりも前記反対面側の位置に、前記複数の樹脂レンズの全てを除く前記複数の光学素子から選択される第2の光学素子を、前記反対面側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備え、前記第2の光学素子は、前記第2の光学素子の非光学有効部と前記第2の配置面との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材を介挿して配置されることを特徴とするレンズユニットを採用した。
【0011】
本件発明に係る車載カメラは、本件発明に係るレンズユニットを備えることを特徴とする車載カメラを採用した。
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係るレンズユニットにおける複数の樹脂レンズの全ては、鏡筒と、第1の光学素子と、第1の封止材と、第2の光学素子と、第2の封止材とを用いて封止された空間(封止空間)に配置されている。この封止空間は、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩や、外気の鏡筒内部への侵入が低減されている。このことによって、当該封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0013】
さらに、第1の光学素子の光軸方向における位置を第1の配置面に固定するための付勢力と、第2の光学素子の光軸方向における位置を第2の配置面に固定するための付勢力は、全ての樹脂レンズに加わらない。すなわち、樹脂レンズは、樹脂レンズの光軸方向における位置を固定するだけの付勢力で固定することができる。このことによって、樹脂レンズに加わる付勢力を従来よりも弱くすることができ、樹脂レンズの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本件発明に係るレンズユニットの断面模式図である。
図2】実施例1と比較例の光線透過率の変化(Δ%T)の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.レンズユニットの実施形態
本件発明に係るレンズユニットは、複数の樹脂レンズと複数のガラスレンズとを含む複数の光学素子と、複数の光学素子を保持する鏡筒とを備え、鏡筒は、縮径部を備え、縮径部は、縮径部の物体側もしくは結像側に、複数の樹脂レンズの全てを除く複数の光学素子から選択される第1の光学素子を配置するための第1の配置面を備え、第1の光学素子は、第1の光学素子の非光学有効部と第1の配置面との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材を介挿して配置され、複数の樹脂レンズの全ては、縮径部における「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側に配置され、鏡筒は、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側であって複数の樹脂レンズの全てよりも「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の位置に、複数の樹脂レンズの全てを除く複数の光学素子から選択される第2の光学素子を、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備え、第2の光学素子は、第2の光学素子の非光学有効部と第2の配置面との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材を介挿して配置される構造を有している。
【0016】
〔レンズユニットの構造〕
本件発明に係るレンズユニットは、レンズユニットが必要とする光学性能や構造などの要求に応じて、縮径部の物体側に第1の配置面を備える構造と、縮径部の結像側に第1の配置面を備える構造とから、選択して採用することができる。そして、本明細書では、縮径部の物体側に第1の配置面を備える構造を「構造A」とし、縮径部の結像側に第1の配置面を備える構造を「構造B」として、以下説明する。本件発明に係るレンズユニットは、構造Aと構造Bとのいずれを採用しても、複数の樹脂レンズの全ては、鏡筒と、第1の光学素子と、第1の封止材と、第2の光学素子と、第2の封止材とを用いて封止された空間(封止空間)に配置される。この封止空間は、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩や、外気の鏡筒内部への侵入が低減されたものとなる。このことによって、当該封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0017】
本件発明に係る構造Aの実施形態のレンズユニット1の断面模式図を図1に示す。レンズユニット1は、複数の光学素子と鏡筒10とを備えている。当該複数の光学素子は、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との樹脂レンズ群と、光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22とのガラスレンズ群と、第2の光学素子40とで構成されている。そして、鏡筒10は、内径が他部の径よりも小さい縮径部11を備えている。図1では、レンズユニット1の光学素子20が配置されている方向が物体側であり、第2の光学素子40が配置されている方向が結像側である。
【0018】
縮径部11は、縮径部11の物体側に、樹脂レンズ群を除く前記複数の光学素子から選択される第1の光学素子22を物体側から配置するための第1の配置面12を備えている。すなわち、レンズユニット1の構造は構造Aである。第1の光学素子22は、第1の光学素子22の結像側の非光学有効部と第1の配置面12との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材60を介挿して配置される。また、光学素子20と光学素子21とは、第1の光学素子22の物体側の非光学有効部との間にスペーサ51を介挿して配置される。そして、螺着可能な押さえ環50を用いて、光学素子20の物体側の非光学有効部へ物体側から結像側への方向の付勢力を加えることによって、光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22との鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。
【0019】
次に、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との樹脂レンズ群は、縮径部11における「第1の配置面12に対する光軸方向の反対面」側に配置される。すなわち構造Aでは、樹脂レンズ群は縮径部11の結像側に配置される。このとき、縮径部11は、縮径部11の結像側に、樹脂レンズ30を結像側から配置するための配置面を備えている。この配置面に樹脂レンズ30の物体側の非光学有効部を配置し、樹脂レンズ30の結像側に樹脂レンズ31を配置している。そして、螺着可能な押さえ環52を用いて、樹脂レンズ31の結像側の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を加えることによって、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。
【0020】
さらに、鏡筒10は、「第1の配置面12に対する光軸方向の反対面」側であって樹脂レンズ群よりも「第1の配置面12に対する光軸方向の反対面」側の位置に、樹脂レンズ群を除く前記複数の光学素子から選択される第2の光学素子40を、「第1の配置面12に対する光軸方向の反対面」側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面13を備えている。すなわち構造Aでは、樹脂レンズ群よりも結像側の位置に、第2の光学素子40を結像側から配置するための第2の配置面13を備えている。第2の光学素子40は、第2の光学素子40の物体側の非光学有効部と第2の配置面13との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材61を介挿して配置される。そして、螺着可能な押さえ環53を用いて、第2の光学素子40の結像側の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を加えることによって、第2の光学素子40の鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。
【0021】
すなわち、レンズユニット1は、鏡筒10と、第1の光学素子22と、第1の封止材60と、第2の光学素子40と、第2の封止材61と、を用いて封止された空間に、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との樹脂レンズ群のみが配置される構造を有している。そして、この封止された空間は、上述の構造を採用することによって、高いガスバリア性を保つことができる。このことから、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との自動酸化による黄変を抑制することができる。なお、この封止された空間には、レンズユニット1に用いられる複数の樹脂レンズの全てが配置されている限りにおいて、樹脂レンズ以外の光学素子の配置を制限しない。また、封止に用いる光学素子は、自動酸化による黄変が生じない光学材料を使用したものであれば、第1の光学素子22、第2の光学素子40に限定されない。
【0022】
上述の封止された空間には、窒素を充填して封入することが好ましい。当該封止された空間が不活性ガスである窒素で満たされることによって、樹脂レンズの黄変の原因となる酸素が非常に少ない状態となり、樹脂レンズの黄変を抑制することができるからである。
【0023】
また、光学素子20と光学素子21とは、第1の光学素子22の物体側の非光学有効部との間にスペーサ51を介挿して配置されている。そして、螺着可能な押さえ環50を用いて、光学素子20の物体側の非光学有効部へ物体側から結像側への方向の付勢力を加えることによって、光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22との鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。次に、縮径部11の結像側の配置面に樹脂レンズ30の物体側の非光学有効部を配置し、樹脂レンズ30の結像側に樹脂レンズ31を配置している。そして、螺着可能な押さえ環52を用いて、樹脂レンズ31の結像側の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を加えることによって、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。さらに、螺着可能な押さえ環53を用いて、第2の光学素子40の結像側の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を加えることによって、第2の光学素子40の鏡筒10の光軸方向における位置を固定している。すなわち、レンズユニット1の全ての光学素子は、光軸方向への付勢力によって位置を固定されている。したがって、レンズユニット1の全ての光学素子は、光学素子の径方向の外縁部と鏡筒との間に、空間的余裕を残した状態で位置を固定することができる。このことによって、レンズユニット1内に配置された光学素子は、温度変化による、光学素子の径方向の膨張収縮があっても、光学素子の径方向に鏡筒へ強く押し付けられることが無く、また、光学素子の位置の固定が不十分になることが無い。
【0024】
ガラスレンズ群は、押さえ環50を用いて、光学素子20の物体側の非光学有効部へ付勢力を加えることによって、その位置を固定されている。また、樹脂レンズ群は、押さえ環52を用いて、樹脂レンズ31の結像側の非光学有効部へ付勢力を加えることによって、その位置を固定されている。さらに、第2の光学素子40は、押さえ環53を用いて、第2の光学素子40の結像側の非光学有効部へ付勢力を加えることによって、その位置を固定されている。このように、ガラスレンズ群と、樹脂レンズ群と、第2の光学素子40とは、それぞれ異なる押さえ環を用いて付勢力を加えられている。したがって、押さえ環50で加える付勢力は、ガラスレンズ群の位置を固定するに必要十分な力で良く、押さえ環52で加える付勢力は、樹脂レンズ群の位置を固定するに必要十分な力で良く、押さえ環53で加える付勢力は、第2の光学素子40の位置を固定するに必要十分な力で良い。このことによって、レンズユニット1に配置される光学素子の位置を固定し、振動や衝撃に対してもレンズの移動を防ぐための付勢力を分散することができる。さらに、樹脂レンズはガラスレンズと比べて比重が小さいことから、樹脂レンズ群に加わる付勢力は、ガラスレンズ群へ加える付勢力と比べて、小さく設定することができる。このことによって、付勢力による樹脂レンズ群の歪みや変形を防ぐことができる。
【0025】
鏡筒10の形状および構造は、物体側および結像側の開口部以外の開口部を有せず、上述した封止構造によって高いガスバリア性を保つことができる限り、どのような形状、及び構造のものであっても構わない。特に、以下で説明するレンズユニットに制限されず、例えば光路折り曲げ光学系等、どのようなものであっても構わない。そして、鏡筒10の形状および構造は、物体側および結像側の開口部以外の開口部を有していないことから、上述の封止された空間への外気の侵入の経路、もしくは、封止された空間からの気体の漏洩の経路は、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間である。したがって、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間において、ガスバリア性を有する本件発明に係る封止材を介挿すれば良い。つまり、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間に封止材を介挿する場合、封止材は、封止に用いられる光学素子の物体側、または結像側のいずれの光学面に介挿しても良い。
【0026】
光学素子20と光学素子21とは、第1の光学素子22の物体側の非光学有効部との間にスペーサ51を介挿して配置している。このように、スペーサ51を介挿することによって、レンズ間隔を調整できる。また、スペーサ51によって、光学素子20の物体側の非光学有効部に加えられる付勢力を、第1の光学素子22の物体側の非光学有効部に伝えることができる。さらに、図1には図示していないが、固定絞りを介挿しても良い。結像部における入射する光量を調節することができるからである。
【0027】
上述の付勢力は、鏡筒の仮締めによって与えるものであっても良い。光学素子を押さえる構造が簡素であり、生産も簡易だからである。
【0028】
なお、縮径部の結像側に第1の配置面を備える構造Bのレンズユニットは図示しないが、構造Bの実施形態について以下に説明する。本件発明に係る構造Bを採用するレンズユニットの複数の樹脂レンズの全ては、縮径部における「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側に配置される。すなわち、構造Bでは、複数の樹脂レンズの全ては縮径部の物体側に配置される。さらに、鏡筒は、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側であって複数の樹脂レンズの全てよりも「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の位置に、複数の樹脂レンズの全てを除く複数の光学素子から選択される第2の光学素子を、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備えている。すなわち、構造Bでは、複数の樹脂レンズの全てよりも物体側の位置に、第2の光学素子を物体側から配置するための第2の配置面を備えている。
【0029】
そして、構造Aと同様に構造Bにおいても、第1の光学素子は、第1の光学素子の非光学有効部と第1の配置面との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材を介挿して配置され、第2の光学素子は、第2の光学素子の非光学有効部と第2の配置面との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材を介挿して配置される。このとき、少なくとも第1の光学素子は、第1の光学素子の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を加えることによって、鏡筒の光軸方向における位置が固定される。複数の樹脂レンズの全ては、複数の樹脂レンズの全てのうち最も物体側の樹脂レンズの非光学有効部へ物体側から結像側への方向の付勢力を加えることによって、鏡筒の光軸方向における位置が固定される。そして、少なくとも第2の光学素子は、第2の光学素子の非光学有効部へ物体側から結像側への方向の付勢力を加えることによって、鏡筒の光軸方向における位置が固定される。
【0030】
すなわち、構造Aと同様に構造Bにおいても、複数の樹脂レンズの全ては、鏡筒と、第1の光学素子と、第1の封止材と、第2の光学素子と、第2の封止材とを用いて封止された空間(封止空間)に配置される。そして、この封止された空間は、上述の構造を採用することによって、高いガスバリア性を保つことができる。このことから、複数の樹脂レンズの全ての自動酸化による黄変を抑制することができる。
【0031】
以上の説明から理解されるように、構造Bのレンズユニットは、構造Aのレンズユニット1で説明した好ましい特徴を、構造Aと同様に有するものである。そして、以降は主に構造Aのレンズユニット1を例として説明しているが、構造Bにおいても同様に適用されるものである。
【0032】
〔封止材〕
第1の封止材60と第2の封止材61とは、気体の透過を抑制するものである。そのため、第1の封止材60と第2の封止材61とは、熱可塑性エラストマーを主成分とすることが好ましい。そして、当該熱可塑性エラストマーの脆化温度は、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。さらに、当該熱可塑性エラストマーは、粘着物性に優れるスチレン系エラストマーであることが好ましい。封止材の主成分をスチレン系エラストマーとすることで、「光学素子と封止材との界面」及び「封止材と配置面との界面」の密着性が高く、低温から高温まで温度変化が大きい使用環境下でも、剥離が起こり難くなる。具体的には、封止材が、20℃~30℃の温度環境から100℃を超える高温環境におかれ塑性変形した後、-40℃の低温環境におかれる等の過酷な環境下であっても、「光学素子と封止材との界面」及び「封止材と配置面との界面」の剥離が起こりにくく、ガスバリア性に優れているからである。
【0033】
スチレン系エラストマーは、ハードセグメントがスチレンであって、ソフトセグメントの違いによって、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。さらに、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、および、スチレン―エチレン―エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等の水添スチレン系エラストマーが挙げられる。スチレン系エラストマーは、耐熱老化性の点で水添スチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0034】
また、熱可塑性エラストマーは、イソブチレン系ブロック共重合体であることがさらに好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体は、ソフトセグメントがイソブチレンを主成分とする分子鎖から構成されており、ハードセグメントは、芳香族ビニル化合物、ポリアミド、および、ポリウレタンを用いたものが知られている。さらに、ハードセグメントの芳香族ビニル化合物にスチレンを用いたものには、スチレン-イソブチレンジブロック共重合体(SIB)、およびスチレン-イソブチレンスチレン-トリブロック共重合体(SIBS)が挙げられる。
【0035】
イソブチレン系ブロック共重合体は、スチレン-イソブチレンジブロック共重合体(SIB)、スチレン-イソブチレンスチレン-トリブロック共重合体(SIBS)の群より選択される1種以上を含有することが好ましい。この、SIBS、またはSIBとSIBSを用いた組成物は、移行性が少ないにもかかわらず、良好な柔軟性、粘着性、熱安定性、制振性能を備え、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)と同等程度のガスバリア性を有するからである。なお、SIBSおよびSIBS/SIBは、株式会社カネカの商品名「シブスター(SIBSTAR)」として市場に提供されている。また、SIB、およびSIBSはハードセグメントがスチレンブロックであるため、スチレン系エラストマーにも含まれる。
【0036】
すなわち、熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、イソブチレン系ブロック共重合体の群より選択される一種以上を含有することが好ましい。レンズユニットの使用環境に応じて適宜組み合わせを選択できるからである。なお、混合割合等に関しても特段の限定はない。
【0037】
〔封止材の硬度〕
第1の封止材60と第2の封止材61とのM法(中硬さ用マイクロサイズ試験)による国際ゴム硬さ(IRHD)は、55IRHD以上95IRHD以下であることが好ましい。封止材の国際ゴム硬さが55IRHD未満であると、配置面と光学素子との間に介挿して光学素子を押圧した際、封止材の変形が大きくなって、光学素子の光学有効領域に干渉する恐れがあることから好ましくない。封止材の国際ゴム硬さが95IRHDを超えると、配置面と光学素子との間に介挿して光学素子を押圧した際、封止材の変形が少なく、光学素子や配置面の形状に十分にフィットせず、密着性が低下する恐れがあることから好ましくない。
【0038】
上述の理由から、封止材の国際ゴム硬さ(IRHD)の下限値は、60IRHDがより好ましい。また、封止材の国際ゴム硬さ(IRHD)の上限値は、80IRHDがより好ましく、75IRHDがさらに好ましい。
【0039】
〔封止材の製造方法〕
第1の封止材60と第2の封止材61とは、次のようにして調製・製造できる。一例として、スチレン-イソブチレンスチレン-トリブロック共重合体(SIBS)と、エチレン含有量が32モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体とを、質量比で8.5:1.5として混合(ドライブレンド)した後に、二軸スクリュー押し出し機によって所定の厚さの樹脂シートに成形することができる。その後、この樹脂シートを加熱延伸ローラに投入して、厚さ調整を行いシート状樹脂フィルムとする。得られたシート状樹脂フィルムをカッティングすることにより、光学素子の接着に用いるシート状封止材とする。但し、上述の混合割合や製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0040】
〔封止材の形状と寸法〕
ガスバリア性を達成できるものであれば、封止材の形状は、円形、方形、または不定形のリング状であってもよい。さらに、封止材を介挿した状態で光学素子の全周の密着を達成するように封止材を敷設できる場合、その封止材の形状は、帯状であってもよい。そして、第1の配置面12と第2の配置面13とに収まる寸法とすれば良い。
【0041】
封止材の形状がリング状である場合、リング形状の封止材の外径と内径との差の大きい方が、ガスバリア性に有利である。外径と内径との差の大きいリング形状の封止材は、封止材内部におけるガスの移動距離を長くすることができるためである。こうしたことから、縮径部11の面積や光学素子の非光学有効部の面積を広く確保できる構造を用いて第1の配置面12と第2の配置面13との面積を広く確保し、外径と内径との差の大きいリング形状の第1の封止材60と第2の封止材61とを介挿するほうが、より高いガスバリア性を得ることができる。しかしながらこの場合、レンズユニットが大型化してしまう。したがって、レンズユニットや光学素子の寸法上許容される適切な範囲内で、封止材の外径と内径を決定すれば良い。
【0042】
封止材の厚さは、光学素子の曲率・レンズ厚さ等を考慮して、「光学素子と封止材との界面」及び「封止材と配置面との界面」の密着性を高くすることのできる厚さとすれば良い。より具体的には、密着性を高くすることのできる厚さは、例えば0.5から2.0Nmといったトルクで付勢力を加えたときに、「光学素子と封止材との界面」及び「封止材と配置面との界面」の密着に十分な「封止材のつぶし代」を加えた厚さである。そして、付勢された光学素子が、鏡筒の縮径部、または、他の光学部材に当接して光軸方向における位置が固定されていればよい。
【0043】
そして、付勢力を加えたときの第1の封止材60と第2の封止材61との変形による寸法変化や、高温環境下における第1の封止材60と第2の封止材61との体積膨張が発生しても、第1の封止材60と第2の封止材61とが第1の配置面12と第2の配置面13とからはみ出しが発生しない範囲で、第1の封止材60と第2の封止材61との寸法に対する第1の配置面12と第2の配置面13との大きさを決定することが好ましい。
【0044】
〔他の封止材〕
なお、第1の封止材60と第2の封止材61とに用いる材料や形状は、レンズユニット1に使用することができ、かつ、ガスバリア性に優れていれば、上述したものに制限されない。例えば、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム等を材料としたOリング、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を材料としたゴムシートガスケット、ニトリルゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン等を材料としたヘルールガスケット、金属製フープと緩衝材を渦巻状に巻き込んだ渦巻き型ガスケット、耐熱性の高い芯となる素材を金属薄板で被覆したメタルジャケットガスケット、ポリテトラフルオロエチレン等を材料としたシールテープ、接合面に塗布し一定時間経過することによって弾性被膜あるいは粘着性の薄層を形成する液状ガスケットなどをあげることができる。
【0045】
〔押さえ環〕
押さえ環50、押さえ環52、押さえ環53は、弾性変形する構造体であることが好ましい。温度変化によって、レンズユニット1内に配置された光学素子の光軸方向の膨張収縮があっても、押さえ環50、押さえ環52、押さえ環53が弾性変形することによって、適切な範囲の付勢力を維持し、光学素子の光軸方向における位置を固定することができるからである。
【0046】
押さえ環50は、螺着可能な押さえ環であって、ネジ作用によってレンズユニット1の物体側から結像側へ移動させることで、押さえ環50の物体側先端にある爪部から、光学素子20の非光学有効部へ物体側から結像側への方向の付勢力を与えることができる。このとき、温度変化によって、光学素子20、光学素子21、第1の光学素子22の光軸方向の膨張収縮があっても、押さえ環50が弾性変形することによって、適切な範囲の付勢力を維持し、光学素子20、光学素子21、第1の光学素子22の光軸方向における位置を固定することができる。
【0047】
押さえ環52は、螺着可能な押さえ環であって、ネジ作用によってレンズユニット1の結像側から物体側へ移動させることで、押さえ環52の物体側端面から、樹脂レンズ31の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を与えることができる。このとき、温度変化によって、樹脂レンズ30、樹脂レンズ31の光軸方向の膨張収縮があっても、押さえ環52が弾性変形することによって、適切な範囲の付勢力を維持し、樹脂レンズ30、樹脂レンズ31の光軸方向における位置を固定することができる。
【0048】
押さえ環53は、螺着可能な押さえ環であって、ネジ作用によってレンズユニット1の結像側から物体側へ移動させることで、押さえ環53の物体側端面から、第2の光学素子40の非光学有効部へ結像側から物体側への方向の付勢力を与えることができる。このとき、温度変化によって、第2の光学素子40の光軸方向の膨張収縮があっても、押さえ環53が弾性変形することによって、適切な範囲の付勢力を維持し、第2の光学素子40の光軸方向における位置を固定することができる。
【0049】
押さえ環50、押さえ環52、押さえ環53を構成する材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)や変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)などの樹脂材料を用いることが好ましい。成形性が良く、耐熱性があり、吸水性が低いことから寸法安定性に優れ、強度や剛性などの機械的性質にも優れ、伸びが大きく粘り強い特性を持つからである。また、弾性構造を有する金属製であっても良い。なお、温度変化によって、レンズユニット1内に配置された光学素子の光軸方向の膨張収縮があっても、弾性変形することによって適切な範囲の付勢力を維持し、光学素子の光軸方向における位置を固定することができるものであれば、上述の材料に限定されない。
【0050】
そして、温度変化によって、レンズユニット1内に配置された光学素子の光軸方向の膨張収縮があっても、弾性変形することによって適切な範囲の付勢力を維持し、光学素子の光軸方向における位置を固定することができるものであれば、押さえ環50、押さえ環52、押さえ環53を構成する材料は、それぞれ異なるものを用いても良い。
【0051】
また、温度変化によって、レンズユニット1内に配置された光学素子の光軸方向の膨張収縮があっても、弾性変形することによって適切な範囲の付勢力を維持し、光学素子の光軸方向における位置を固定することができる限りにおいて、押さえ環50、押さえ環52、押さえ環53は、押さえ環全体が弾性変形する構造でも良いし、部分的に弾性変形する構造であっても良い。
【0052】
〔鏡筒〕
鏡筒10の材質は、非鉄金属としてアルミニウム合金、マグネシウム合金等が挙げられる。一方で、樹脂材料としては、ポリ(エステル)カーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、および液晶ポリマーのうちのいずれか1種、もしくは2種以上のアロイ材が好ましい。特に、ガスバリア性の観点から、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、および液晶ポリマーを主成分とするのが好ましい。これらをガラス繊維、炭素繊維、および充填剤等とのコンパウンド、さらには、マイカ、タルク、カオリン、モンモリロナイト等の無機層状化合物を有機化前処理したものを添加したものを使用してもよい。
【0053】
鏡筒の内部は、高いガスバリア性を保つ封止空間である。高いガスバリア性を保つことができる限り、鏡筒はどのような形状及び構造のものであっても構わない。この鏡筒を用いるレンズユニットは、例えば、一端側に物体側開口と、他端側に結像側開口とを有することができる。そして、上述の開口には、各種レンズや光学フィルタを取り付けることができる。また、上述したレンズユニット1の構造を有する範囲において、これらの間に必要な中間レンズを配置することもできる。この中間レンズは、鏡筒の内部に固定されていても良いし、位置を移動可能なように構成されていても良い。位置が移動可能な中間レンズは、光学倍率を変更することや、フォーカスを調整することなどに用いることができる。
【0054】
そして、このように構成される封止空間は、不活性ガス環境下で組み立てを行うことによって、樹脂レンズの黄変の原因とはる酸素の非常に少ない不活性ガスで満たされた状態となる。なお、不活性ガスとして、高分子素材全般に対してガス透過係数が小さい窒素ガスを用いることが好ましい。
【0055】
〔光学素子〕
次に、上述したレンズユニット1に含まれる光学素子について説明する。当該光学素子に関しては、特段の限定はなく、用途に応じて適宜選択使用すれば足りる。例えば、車載カメラや監視カメラに搭載されるレンズユニットは、設置環境や使用環境にもよるが、外気に曝された状態になる。そのため、最も物体側に配置される対物レンズは、対擦傷性を考慮して無機ガラスを採用することが好ましい。
【0056】
また、第1の光学素子22や第2の光学素子40のような、付勢力を加えて封止された空間を形成するために用いる光学素子は、物体側、または結像側の少なくともいずれかの面が有酸素下に曝されるため、酸素や窒素といった気体分子が光学素子の媒質内部を透過しない無機ガラスが好ましい。
【0057】
第2の光学素子40は、IRカットフィルタを用いることが好ましい。入射光線から赤外線をカットすることができるからである。
【0058】
ガラスレンズ群において、最も物体側のレンズに続く後続レンズは、概して、最も物体側のレンズで生じた各種収差を補正するために用いるものである。このような後続レンズは、一般的に凹レンズと凸レンズとの組みで構成される。これらのレンズの一方を高アッベ数の光学材料で構成した場合、他方は低アッベ数の光学材料を採用し、色収差補正を行うことが好ましい。特に、最も物体側のレンズで生じた収差が大きい場合には、後続レンズとして凹レンズと凸レンズとの組合せを複数配置することが好ましい。
【0059】
樹脂レンズ群に用いる樹脂のガラス転移温度(補外ガラス転移開始温度)は、高温環境下における変形を抑えるために、レンズユニットの最高到達温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
【0060】
アッベ数が高い樹脂レンズ用の樹脂としては、非晶質ポリオレフィン(APO)等の脂環式の脂肪族ポリマーからなるものを挙げることができる。非晶質の脂肪族ポリマーは、後述の芳香族ポリマーに比べて耐黄変性を向上させることが難しいものの、上述のようにガラス転移温度が高く、高温環境下での変形量が小さいことから好ましい。
【0061】
一方、アッベ数が低い樹脂製レンズ用の樹脂としては、ポリ(エステル)カーボネート等の芳香族化合物を挙げることができる。
【0062】
2.車載カメラの実施形態
本件発明に係る車載カメラは、上述の本件発明に係るレンズユニットを備えている。当該レンズユニットは、複数の樹脂レンズと複数のガラスレンズとを含む複数の光学素子と、複数の光学素子を保持する鏡筒とを備え、鏡筒は、縮径部を備え、縮径部は、縮径部の物体側もしくは結像側に、複数の樹脂レンズの全てを除く複数の光学素子から選択される第1の光学素子を配置するための第1の配置面を備え、第1の光学素子は、第1の光学素子の非光学有効部と第1の配置面との間に、気体の透過を抑制する第1の封止材を介挿して配置され、複数の樹脂レンズの全ては、縮径部における「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側に配置され、鏡筒は、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側であって複数の樹脂レンズの全てよりも「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の位置に、複数の樹脂レンズの全てを除く複数の光学素子から選択される第2の光学素子を、「第1の配置面に対する光軸方向の反対面」側の鏡筒端側から配置するための第2の配置面を備え、第2の光学素子は、第2の光学素子の非光学有効部と第2の配置面との間に、気体の透過を抑制する第2の封止材を介挿して配置される構造を有している。
【0063】
すなわち、樹脂レンズの全ては、鏡筒と、第1の光学素子と、第1の封止材と、第2の光学素子と、第2の封止材とを用いて封止された封止空間に配置されている。この封止空間は、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩や、外気の鏡筒内部への侵入を低減することができる。このことによって、当該封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0064】
さらに、第1の光学素子の光軸方向における位置を第1の配置面に固定するための付勢力と、第2の光学素子の光軸方向における位置を第2の配置面に固定するための付勢力は、全ての樹脂レンズに加わらない。つまり、レンズユニットに配置される光学素子の位置を固定するための付勢力を分散することができる。さらに、樹脂レンズはガラスレンズと比べて比重が小さいことから、樹脂レンズ群に加わる付勢力は、ガラスレンズ群へ加える付勢力と比べて、小さく設定することができる。このことによって、付勢力による樹脂レンズ群の歪みや変形を防ぐことができる。
【0065】
このようなレンズユニットを搭載する本件発明に係る車載カメラは、冬季や寒冷地での使用時から夏季やエンジンルーム近傍での使用時などの-40℃から125℃といった広い温度範囲で、常温時と変わらないレンズ性能を発揮することができる。さらに、長期間にわたって品質劣化を防ぎレンズ性能を維持することができる。
【0066】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明に係る発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0067】
実施例1では、図1に示す構成の構造Aのレンズユニットを用いた。鏡筒10は、A5056アルミニウム合金からなる丸棒を図1に示す形状に切削加工した後、全体をアルマイト処理したものを用いた。光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22とは、無機ガラスからなるガラスレンズを用いた。樹脂レンズ30と樹脂レンズ31とは、非晶質ポリオレフィンを材料とする樹脂レンズを用いた。そして、第2の光学素子40には、IRカットフィルタを用いた。
【0068】
押さえ環50は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を材料とし、射出成形によって図1に示す形に整形したものを用いた。これによって、押さえ環50を弾性変形する構造体とした。また、押さえ環52は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を材料とし、射出成形によって図1に示す形に整形したものを用いた。さらに、押さえ環53は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を材料とし、射出成形によって図1に示す形に整形したものを用いた。スペーサ51は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を材料とし、射出成形によって図1に示す形に整形したものを用いた。
【0069】
リング状かつシート状の第1の封止材60と第2の封止材61とは、次のように作製した。まず、封止材の材料の合計100重量部に対して、SIBS(SIBSTAR(登録商標)062T、株式会社カネカ)80重量部、及び、エチレン含有量32モル%のEVOH(株式会社クラレ社製)を20重量部となるように計量し、混合した。そして、混合した材料を、押出成形して樹脂ペレットにした。そして、この樹脂ペレットを射出成形機に投入して、厚さ1mmのシート状の成形品を得た。その後、この厚さ1mmのシートを125℃に加熱した炉内で圧縮成形して、厚さ0.1mmの樹脂フィルムを得た。そして、得られた樹脂フィルムを、付勢力を加えたときの寸法変化や、高温環境下における体積膨張による変化を考慮して、第1の配置面12と第2の配置面13とからのはみ出しが発生しない寸法でリング状に切り出した。以上により、リング状かつシート状の第1の封止材60と第2の封止材61とを得た。
【0070】
レンズユニットの組み立ては、内部を酸素濃度が100ppm以下になるよう窒素置換したグローブボックス内で行った。まず、縮径部11の第1の配置面12に、リング状かつシート状の第1の封止材60を載せた後、第1の光学素子22を取り付けた。その後、第1の光学素子22の物体側の非光学有効部にスペーサ51を取り付け、さらに光学素子21と光学素子20とを順に取り付けた。そして、付勢部材である押さえ環50を用いて螺着した。これによって、光学素子20の物体側の非光学有効部に物体側から結像側への方向に適切な付勢力を加えて、光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22との、光軸方向における位置を固定した。
【0071】
次に、縮径部11の結像側の、樹脂レンズ30を結像側から配置するための配置面に、樹脂レンズ30を取り付け、続けて、樹脂レンズ31を取り付けた。そして、付勢部材である押さえ環52を用いて螺着した。これによって、樹脂レンズ31の結像側の非光学有効部に結像側から物体側への方向に適切な付勢力を加えて、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との、光軸方向における位置を固定した。
【0072】
さらに、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31よりも結像側にある第2の配置面13に、リング状かつシート状の第2の封止材61を載せた後、第2の光学素子40としてIRカットフィルタを取り付けた。そして、付勢部材である押さえ環53を用いて螺着した。これによって、第2の光学素子40の結像側の非光学有効部に結像側から物体側への方向に適切な付勢力を加えて、第2の光学素子40の光軸方向における位置を固定した。
【0073】
以上のようにして、実施例1のレンズユニットにおいて、鏡筒10と、第1の光学素子22と、第1の封止材60と、第2の光学素子40と、第2の封止材61とを用いて窒素が封入された状態で封止空間が形成され、当該封止空間内に樹脂レンズ30と樹脂レンズ31とが配置された。このようにして、実施例1のレンズユニットを作製した。
【比較例】
【0074】
比較例では、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との試験用レンズを、レンズユニットに入れることなく、そのまま用いた。
【0075】
〔評価試験〕
実施例1のレンズユニットと、比較例の試験用レンズを、温度125℃に保持した恒温槽内に放置して、実施例1の樹脂レンズ30と樹脂レンズ31と、比較例の試験用レンズとの、光線透過率の経時変化を測定した。恒温槽内は大気雰囲気である。光線透過率は、分光光度計U-4100(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて、波長400nmにおける透過率を測定した。
【0076】
図2に、放置時間が500時間、1500時間、3150時間後の、実施例1の樹脂レンズ30と樹脂レンズ31と、比較例の試験用レンズとの、波長400nmにおける光線透過率の変化(Δ%T)を示す。なお、光線透過率の変化(Δ%T)とは、放置試験開始前の光線透過率を基準とした、各放置時間時の光線透過率の変化差分を意味する。つまり、光線透過率の変化(Δ%T)がマイナスの数値は、光線透過率の悪化を意味している。
【0077】
図2に示す結果から、比較例の光線透過率の変化は、500時間後で-12(Δ%T)であり、3150時間後では-70.7(Δ%T)であった。つまり、比較例は、光線透過率が大きく悪化することが明らかとなった。一方、実施例1の光線透過率の変化は、500時間後で-1.1(Δ%T)であり、3150時間後でも-4.2(Δ%T)であった。つまり、実施例1は光線透過率の変化が非常に小さいことが明らかとなった。すなわち、実施例1のレンズユニットは、鏡筒10と、第1の光学素子22と、第1の封止材60と、第2の光学素子40と、第2の封止材61とを用いて形成した封止空間に窒素ガスが維持され、125℃という高温環境下に長時間放置されてもガスバリア性を維持し、当該封止空間内に配置された樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との黄変を抑制したことが明らかとなった。
【0078】
また、実施例1では、付勢部材である押さえ環50を用いて、光学素子20の物体側の非光学有効部に物体側から結像側への方向に付勢力を加えて、光学素子20と光学素子21と第1の光学素子22との、光軸方向における位置を固定した。また、樹脂レンズ31の結像側の非光学有効部に結像側から物体側への方向に付勢力を加えて、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との、光軸方向における位置を固定した。そして、第2の光学素子40の結像側の非光学有効部に結像側から物体側への方向に付勢力を加えて、第2の光学素子40の光軸方向における位置を固定した。すなわち、実施例1では、レンズユニットに配置される光学素子の位置を固定するための付勢力を分散することによって、樹脂レンズ30と樹脂レンズ31との光軸方向における位置を固定するための付勢力を小さく設定することができた。
【0079】
なお、実施例1では、構造Aのレンズユニットを用いて評価したが、構造Bのレンズユニットであっても、同様の結果が得られることは容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本件発明に係るレンズユニットにおける複数の樹脂レンズの全ては、鏡筒と、第1の光学素子と、第1の封止材と、第2の光学素子と、第2の封止材とを用いて形成された封止空間に配置されている。この封止空間は、実施例でも明らかになったように、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩や、外気の鏡筒内部への侵入が低減されたものとなる。このことによって、当該封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0081】
さらに、第1の光学素子の光軸方向における位置を第1の配置面に固定するための付勢力と、第2の光学素子の光軸方向における位置を第2の配置面に固定するための付勢力とは、全ての樹脂レンズに加わらない。すなわち、樹脂レンズは、樹脂レンズの光軸方向における位置を固定するだけの付勢力で固定することができる。このことによって、樹脂レンズに加わる付勢力を従来よりも弱くすることができ、樹脂レンズの変形を抑制することができる。したがって、本件発明に係るレンズユニットは、高温雰囲気下で使用される車載カメラや監視カメラに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0082】
1 レンズユニット
10 鏡筒
11 縮径部
12 第1の配置面
13 第2の配置面
20 光学素子
21 光学素子
22 第1の光学素子
30 樹脂レンズ
31 樹脂レンズ
40 第2の光学素子
50 押さえ環
51 スペーサ
52 押さえ環
53 押さえ環
60 第1の封止材
61 第2の封止材
図1
図2