(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182951
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】トマト果実の高糖度化方法、トマト果実の高糖度化剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/05 20180101AFI20231220BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20231220BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231220BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
A01G22/05 Z
A01G7/06 A
C12N15/31 ZNA
C12N1/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096250
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】児島 征司
【テーマコード(参考)】
2B022
4B065
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B022EA03
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA49
(57)【要約】
【課題】トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実を高糖度化できるトマト果実の高糖度化方法を提供する。
【解決手段】トマト果実の高糖度化方法は、シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物をトマトの栽培開始から第一花房の収穫期まで前記トマトに施用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物をトマトの栽培開始から第一花房の収穫期まで前記トマトに施用する、
トマト果実の高糖度化方法。
【請求項2】
前記分泌物を葉面散布にて前記トマトに施用する、
請求項1に記載のトマト果実の高糖度化方法。
【請求項3】
前記分泌物を前記トマトに複数回施用する、
請求項1又は2に記載のトマト果実の高糖度化方法。
【請求項4】
前記分泌物を前記トマトに4回以上施用する、
請求項3に記載のトマト果実の高糖度化方法。
【請求項5】
シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物を含む、
トマト果実の高糖度化剤。
【請求項6】
シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアを準備するステップと、
前記改変シアノバクテリアにトマト果実の高糖度化に関与する分泌物を分泌させるステップと、
を含む、
トマト果実の高糖度化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トマト果実の高糖度化方法、トマト果実の高糖度化剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口の増加に伴う食糧増産への要求に伴い、限られた耕作地の中で効率よく品質の高い農作物を生産するための技術開発が求められている。具体的には、成長増進による栽培期間の短縮、栽培面積あたりの収穫量の増加、病害及び規格外品の低減による歩留まり向上、並びに、果実の増体及び高糖度化などの生産物の高品質化が望まれている。中でも、トマトは、地域を問わず世界的に食用生産されており、特に、近年では、トマト果実の高糖度化等の嗜好性に対する消費者の要求がますます高まっている。このような状況から、糖度の高いトマトを効率良く生産することが求められている。
【0003】
例えば、トマト果実を高糖度化する方法として、ビタミンC及びメチオニンを含有する水溶液を葉面散布にてトマトに施用する方法が知られている(特許文献1)。また、例えば、遺伝子組み換えによってトマト果実を高糖度化する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sagor et al. “A novel strategy to produce sweeter tomato fruits with high sugar contents by fruit-specific expression of a single bZIP transcription factor gene”, Plant Biotechnology Journal, 2016, Vol. 14, 1116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トマト果実は、一般的に、株当たり果実数が増えれば果実当たりの糖度が下がる傾向にあるため、トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実を高糖度化できる方法が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実を高糖度化できるトマト果実の高糖度化方法及びトマト果実の高糖度化剤を提供する。また、本開示は、トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実を高糖度化できるトマト果実の高糖度化剤を、簡便に、かつ、効率よく製造できるトマト果実の高糖度化剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法は、トマト果実の高糖度化方法は、シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物をトマトの栽培開始から第一花房の収穫期まで前記トマトに施用する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のトマト果実の高糖度化方法及びトマト果実の高糖度化剤によれば、トマト果実の収穫量を減らすことなくトマト果実を高糖度化できる。本開示のトマト果実の高糖度化剤の製造方法によれば、簡便に、かつ、効率良くトマト果実の高糖度化剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、シアノバクテリアの細胞表層を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、実施例1の改変シアノバクテリアの超薄切片の透過型電子顕微鏡観察像である。
【
図5】
図5は、実施例2の改変シアノバクテリアの超薄切片の透過型電子顕微鏡像である。
【
図7】
図7は、比較例1の改変シアノバクテリアの超薄切片の透過型電子顕微鏡像である。
【
図9】
図9は、実施例1、実施例2及び比較例1の改変シアノバクテリアの培養上清中のタンパク質量(n=3、エラーバー=SD)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
背景技術で述べたように、限られた耕作地の中で効率よく品質の高い農作物を生産するための技術が求められている。特に、トマトの高糖度化が求められるようになり、トマトの収穫量を減らすことなくトマト果実を高糖度化できる技術が求められている。また、作物生産の促進のために、施用において環境負荷の少ない天然由来の物質の活用が求められている。中でも、当該物質の製造時に化石エネルギーの消費量が少なく、より環境負荷の少ない物質が望まれている。
【0012】
トマト果実の糖度向上に関する技術として、以下の従来技術が開示されている。
【0013】
例えば、特許文献1には、植物ホルモンであるエチレン生成の基質となるアミノ酸のメチオニンと、トマト内のポリオールをグルコース及びフルクトースに還元するビタミンCとを葉面散布にてトマトに施用することで、トマトの糖度を高める方法が開示されている。当該方法を用いることにより、トマトの糖度向上だけでなく、トマトの耐病性を改善することが可能であることが報告されている。
【0014】
しかしながら、メチオニン及びビタミンCを製造するために化石燃料が消費される。
【0015】
また、例えば、非特許文献1には、SIRT(シュークロース誘導翻訳抑制)応答性uORF(上流のオープンリーディングフレーム)を含まないbZIP転写因子遺伝子のORFのみが果実特異的E8プロモーターの制御下に置かれたバイナリーベクターでトマト植物を形質転換する方法が開示されている。当該方法を用いることにより、非遺伝子組み換えトマトの果実よりも糖度が約1.5倍高いトマト果実を生産できることが報告されている。
【0016】
しかしながら、遺伝子組み換え技術に対する世界各国の法規制、並びに、遺伝子組み換え技術を植物に施用する(以下、適用する、又は、使用するともいう)ことに対する生産者及び消費者の心理的な拒否感があるため、遺伝子組み換え技術を植物に使用せずにトマト果実の高糖度化を実現できる手法が求められている。
【0017】
そこで、本発明者らは、環境負荷が低く、より安価な原料で簡便なプロセスでトマト果実の高品質化に関与する物質(以下、トマト果実の高品質化物質)を生産できる方法を見出した。
【0018】
具体的には、本発明者らは、当該物質の製造に使用する微生物として、シアノバクテリアに着目した。シアノバクテリア(藍色細菌又は藍藻とも呼ばれる)は、真正細菌の一群であり、光合成により水を分解して酸素を産生し、得たエネルギーにより空気中のCO2を固定する。シアノバクテリアは、種によっては、空気中の窒素(N2)も固定できる。このように、シアノバクテリアは、菌体の生育に必要な原料(つまり、栄養分)及びエネルギーの大部分を、空気、水、及び、光から得ることができるため、安価な原料で簡便なプロセスでシアノバクテリアを培養することができる。
【0019】
また、シアノバクテリアの特性として、生育が早く光利用効率が高いことが知られており、加えてその他の藻類種と比較して遺伝子操作が容易であるため、光合成微生物の中でもシアノバクテリアを利用した物質生産に関して活発な研究開発が行われている。例えば、シアノバクテリアを用いた物質生産の例として、エタノール、イソブタノール、アルカン類、及び、脂肪酸(特許文献2:特許第6341676号公報)等の燃料の生産が報告されている。また、生物の栄養源となる物質の生産に関する研究開発も行われている。例えば、タンパク質は生物にしか合成できないため、簡便に、かつ、効率良くタンパク質を生産する技術の開発が求められている。当該技術に用いる生物種の1つとして、光エネルギーと大気中のCO2とを利用できるシアノバクテリアの活用が期待され、活発な研究開発が行われている(非特許文献2:Jie Zhou et al., “Discovery of a super-strong promoter enable efficient production of heterologous proteins in cyanobacteria”, Scientific Reports, Nature Research, 2014, Vol.4, Article No.4500)。
【0020】
しかしながら、シアノバクテリアの細胞内で産生されたタンパク質及び菌体内代謝産物は、細胞外に分泌されにくいため、シアノバクテリアの細胞を破砕する必要がある。
【0021】
そこで、本発明者らは、シアノバクテリアの細胞壁を被覆する外膜を部分的に細胞壁から脱離させることにより、シアノバクテリアの菌体内で産生されたタンパク質及び菌体内代謝産物が菌体外に分泌されやすくなることを見出した。また、本発明者らは、遺伝子改変により外膜を細胞壁から離脱させても、改変シアノバクテリアが生命活動を維持できることも見出した。さらに、本発明者らは、改変シアノバクテリアの分泌物がトマト果実の高糖度化効果を有することも発見した。これにより、改変シアノバクテリアを培養することで、菌体内で産生されたタンパク質及び菌体内代謝産物が菌体外に漏出されるため、菌体を破砕することなく、簡便に、かつ、効率よくトマト果実の高糖度化物質を製造することができる。また、抽出などの操作が不要となることにより、当該物質の生理活性が損なわれにくくなるため、当該分泌物を含むトマト果実の高糖度化剤によれば、効果的にトマト果実の糖度を向上させることができる。さらに、トマト果実の高糖度化剤を葉が茂る時期から果実が着く時期まで改変シアノバクテリアの分泌物をトマトに施用し、果実が熟成する時期には施用しないことで、トマト果実の収穫量を減らすことなくトマト果実を高糖度化できることも見出した。
【0022】
したがって、本開示のトマト果実の高糖度化方法及びトマト果実の高糖度化剤によれば、トマト果実の収穫量を減らすことなくトマト果実を高糖度化できる。本開示のトマト果実の高糖度化剤の製造方法によれが、簡便に、かつ、効率良くトマト果実の高糖度化剤を製造することができる。
【0023】
(本開示の概要)
本開示の一態様の概要は、以下の通りである。
【0024】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法は、シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物をトマトの栽培開始から第一花房の収穫期まで前記トマトに施用する。
【0025】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、トマト果実の着果数が本格的に増え始める前、つまり第一花房の収穫期までに分泌物をトマトに施用することで、トマト果実が熟成開始する前に、トマト植物の生長を促進することができる。そのため、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、トマト植物のトマト果実の糖度を増加させることができる。トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実を高糖度化できる。
【0026】
例えば、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法は、前記分泌物を葉面散布にて前記トマトに施用してもよい。
【0027】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、改変シアノバクテリアの分泌物を葉面散布することで、光合成に必要な栄養素を葉に直接吸収させることができるため、トマト果実の収穫数を減らすことなく、効果的にトマト果実を高糖度化することができる。
【0028】
例えば、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法は、前記分泌物を前記トマトに複数回施用してもよい。
【0029】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、上記の時期に改変シアノバクテリアの分泌物をトマトに複数回施用することで、光合成に必要な栄養素が不足しにくくなるため、安定的に光合成が行われる。したがって、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、トマト果実の収穫数を減らすことなく、効果的にトマト果実を高糖度化することができる。
【0030】
例えば、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法は、前記分泌物を前記トマトに4回以上施用してもよい。
【0031】
本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、上記の時期に改変シアノバクテリアの分泌物をトマトに4回以上施用することで、光合成に必要な栄養素が不足しにくくなるため、安定的に光合成が行われる。したがって、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化方法によれば、トマト果実の収穫数を減らすことなく、効果的にトマト果実を高糖度化することができる。
【0032】
また、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化剤は、シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアの分泌物を含む。
【0033】
これにより、改変シアノバクテリアでは、細胞壁と外膜との結合(つまり、結合量及び結合力)が部分的に低減するため、外膜が細胞壁から部分的に脱離しやすくなる。そのため、改変シアノバクテリアでは、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物(つまり、菌体内産生物質)が外膜の外に(つまり、菌体の外に)漏出しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアに菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が菌体外に分泌されやすくなるため、例えば菌体を破砕するなどの、菌体内産生物質の抽出処理が不要となる。そのため、簡便に、かつ、効率良く、改変シアノバクテリアの分泌物を含むトマト果実の高糖度化剤を製造することができる。また、上記の菌体内産生物質の抽出処理が不要となるため、菌体内産生物質の生理活性の低下及び収率の低下が起こりにくくなる。そのため、改変シアノバクテリアの菌体内産生物質のうち、トマト果実の高糖度化に関与する物質(以下、トマト果実の高糖度化物質ともいう)の生理活性の低下及び収率の低下も起こりにくくなる。これにより、トマト果実の高糖度化効果が向上したトマト果実の高糖度化剤を得ることができる。したがって、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化剤は、効果的にトマト果実を高糖度化させることができる。
【0034】
また、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法は、シアノバクテリアにおいて外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアを準備するステップと、前記改変シアノバクテリアにトマト果実の高糖度化に関与する分泌物を分泌させるステップと、を含む。
【0035】
これにより、改変シアノバクテリアでは、細胞壁と外膜との結合(例えば、結合量及び結合力)が部分的に低減するため、外膜が細胞壁から部分的に脱離しやすくなる。そのため、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物(以下、菌体内産生物質ともいう)が外膜の外、つまり、菌体外に漏出しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアの菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が菌体外に分泌されやすくなるため、例えば菌体を破砕するなどの、菌体内産生物質の抽出処理が不要となる。そのため、簡便に、かつ、効率良く、改変シアノバクテリアの分泌物を含むトマト果実の高糖度化剤を製造することができる。また、上記の菌体内産生物質の抽出処理が不要となるため、菌体内産生物質の生理活性の低下及び収率の低下が起こりにくくなる。そのため、改変シアノバクテリアの菌体内産生物質のうち、トマト果実の高糖度化に関与する物質(以下、トマト果実の高糖度化物質ともいう)の生理活性の低下及び収率の低下も起こりにくくなる。これにより、改変シアノバクテリアの分泌物は、トマト果実の高度化に関与する効果(以下、トマト果実の高糖度化効果ともいう)が向上する。また、上記の菌体内産生物質の抽出処理が不要となるため、菌体外に分泌された菌体内産生物質を回収した後も、改変シアノバクテリアを繰り返し使用して菌体内産生物質を産生させることができる。そのため、トマト果実の高糖度化剤の製造の度に新たな改変シアノバクテリアを準備する必要がない。したがって、本開示の一態様に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法によれば、トマト果実の高糖度化効果が向上したトマト果実の高糖度化剤を、簡便に、かつ、効率良く製造することができる。
【0036】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0037】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、材料、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0038】
また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0039】
また、以下において、数値範囲は、厳密な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば、タンパク質の量(例えば、数又は濃度等)又はその範囲を計測することなどを含む。
【0040】
また、本明細書では、菌体と細胞とは、いずれも1つのシアノバクテリアの個体を表している。
【0041】
(実施の形態)
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)アルゴリズムによって計算される。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)のウェブサイトで利用できるBLASTプログラムにてペアワイズ解析を行うことにより算出される。シアノバクテリアの遺伝子及び当該遺伝子がコードするタンパク質に関する情報は、例えば上述のNCBIデータベース及びCyanobase(http://genome.microbedb.jp/cyanobase/)において公開されている。これらのデータベースから、目的のタンパク質のアミノ酸配列及びそれらのタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を取得することができる。
【0042】
[1.トマト果実の高糖度化剤]
まず、本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤について説明する。トマト果実の高糖度化剤は、改変シアノバクテリアにより分泌された、トマト果実の高糖度化に関与する分泌物を含む。改変シアノバクテリアは、シアノバクテリア(以下、親シアノバクテリアともいう)において外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質(以下、結合関連タンパク質ともいう)の機能が抑制又は喪失されており、遺伝子組み換え技術により、結合関連タンパク質をコードする遺伝子の発現量を制御することにより得られる。そのため、当該分泌物は、改変シアノバクテリアの菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物(以下、菌体内産生物質ともいう)を含んでいる。なお、シアノバクテリア(いわゆる、親シアノバクテリア)及び改変シアノバクテリアの詳細については、後述する。
【0043】
本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤は、例えば、トマト植物の葉、茎、蕾、花、又は実の数を増加させ、茎又は幹を太くし、背丈を伸長させるトマト植物の成長促進効果によりトマト果実の収穫数を減らすことなく、トマト果実を高糖度化する効果(トマト果実の高糖度化効果)を有する。また、例えば、トマト果実の高糖度化剤は、トマト植物の成長促進に関連する種々の効果、例えば、トマト植物の疾病発生の予防、養分の吸収率の向上、又は、トマト植物の細胞内生理活性の向上などの効果を有してもよい。つまり、トマト果実の高糖度化に関与するとは、トマト植物の生長を促進することでトマト果実の収穫数を低減することなく、トマト果実を高糖度化する効果を有することである。また、トマト植物の成長促進効果は、上記のトマト植物の成長促進に関連する種々の効果により、トマト植物の成長が促進されることを含んでもよい。これにより、トマト果実の高糖度化剤は、トマト果実の収穫量を減らすことなく、トマト果実の糖度を増加させることができる。
【0044】
トマト果実の高糖度化物質は、例えば、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、若しくは、フォスファターゼ等の有機物分解酵素、アデノシン若しくはグアノシン等のDNA代謝関連物質、p-アミノ安息香酸若しくはスペルミジンなどの核酸(例えば、DNA又はRNA)合成促進に関与する細胞内分子、3-ヒドロキシ酪酸などのケトン体、又は、グルコン酸などの有機酸である。改変シアノバクテリアの分泌物は、これらのトマト果実の高糖度化物質の混合物であってもよい。
【0045】
[2.トマト果実の高糖度化剤の製造方法]
続いて、本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0046】
本実施の形態に係る植物成長促進剤の製造方法は、シアノバクテリア(つまり、親シアノバクテリア)において外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されている改変シアノバクテリアを準備するステップ(ステップS01)と、当該改変シアノバクテリアにトマト果実の高糖度化に関与する分泌物を分泌させるステップ(ステップS02)と、を含む。上述したように、改変シアノバクテリアの分泌物は、改変シアノバクテリアの菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物(つまり、菌体内産生物質)を含む。これらの菌体内産生物質には、トマト植物の高糖度化に関与する物質(つまり、トマト果実の高糖度化物質)が含まれる。トマト果実の高糖度化物質は、トマト植物の成長促進効果によりトマト果実の収穫数を減らすことなく、トマト果実を高糖度化する効果(トマト果実の高糖度化効果)を有する。
【0047】
ステップS01では、上記の改変シアノバクテリアを準備する。改変シアノバクテリアを準備するとは、改変シアノバクテリアが分泌物を分泌できる状態に改変シアノバクテリアの状態を調整することをいう。改変シアノバクテリアを準備するとは、例えば、親シアノバクテリアを遺伝子改変して改変シアノバクテリアを作製することであってもよく、改変シアノバクテリアの凍結乾燥菌体又はグリセロールストックから菌体を復元することであってもよく、ステップS02でトマト果実の高糖度化物質を分泌させ終えた改変シアノバクテリアを回収することであってもよい。
【0048】
ステップS02では、改変シアノバクテリアにトマト果実の高糖度化に関与する分泌物を分泌させる。上述したように、改変シアノバクテリアは、シアノバクテリア(つまり、親シアノバクテリア)において外膜と細胞壁との結合に関与するタンパク質の機能が抑制又は喪失されているため、外膜と細胞壁とが脱離しやすい。そのため、改変シアノバクテリアの菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が外膜の外(つまり、菌体外)に分泌されやすい。これらの菌体内産生物質には、トマト果実の高糖度化に関与する物質も含まれる。そのため、ステップS02では、改変シアノバクテリアを所定の条件で培養することにより、トマト果実の高糖度化に関与する菌体内産生物質が菌体外に分泌される。
【0049】
シアノバクテリアの培養は、一般に、BG-11培地(表2参照)を用いた液体培養又はその変法に基づいて実施することができる。そのため、改変シアノバクテリアの培養も同様に実施してもよい。また、トマト果実の高糖度化剤を製造するためのシアノバクテリアの培養期間としては、十分に菌体が増殖した条件でタンパク質及び代謝産物が高濃度に蓄積するように行える期間であればよく、例えば、1~3日間であってもよく、4~7日間であってもよい。また、培養方法は、例えば、通気攪拌培養又は振とう培養であってもよい。
【0050】
上記の条件で培養することにより、改変シアノバクテリアは、菌体内でタンパク質及び代謝産物(つまり、菌体内産生物質)を産生し、当該菌体内産生物質を培養液中に分泌する。培養液中に分泌された菌体内産生物質を回収する場合、培養液をろ過、又は遠心分離等することにより、培養液から細胞(つまり、菌体)等の固形分を除去し、培養上清を回収してもよい。本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化剤の製造方法によれば、トマト果実の高糖度化に関与する菌体内産生物質(つまり、トマト果実の高糖度化物質)を含む分泌物が改変シアノバクテリアの細胞外に分泌されるので、当該物質の回収のために細胞を破砕する必要がない。そのため、トマト果実の高糖度化物質の回収後に残った改変シアノバクテリアを繰り返し使用して、トマト果実の高糖度化剤の製造を行うことができる。
【0051】
なお、培養液中に分泌された植物成長促進物質の回収方法は、上記の例に限られず、改変シアノバクテリアを培養しながら、培養液中のトマト果実の高糖度化物質を回収してもよい。例えば、タンパク質を透過させる透過膜を用いることにより、透過膜を透過したトマト果実の高糖度化物質を回収してもよい。このように、改変シアノバクテリアを培養しながら培養液中のトマト果実の高糖度化物質を回収することができるため、培養液から改変シアノバクテリアの菌体を除去する処理が不要となる。そのため、より簡便に、かつ、効率良く植物成長促進剤を製造することができる。
【0052】
また、培養液からの菌体の回収処理及び菌体の破砕処理が不要となることにより、改変シアノバクテリアが受けるダメージ及びストレスを低減することができる。そのため、改変シアノバクテリアのトマト果実の高糖度化物質の分泌生産性が低減しにくくなり、より長く改変シアノバクテリアを使用することができる。
【0053】
以上のように、本実施の形態における改変シアノバクテリアを用いることで、トマト果実の高糖度化剤を簡便に、かつ、効率よく得ることができる。
【0054】
以下、シアノバクテリア(つまり、親シアノバクテリア)及び改変シアノバクテリアについて説明する。
【0055】
[3.シアノバクテリア]
シアノバクテリアは、藍藻又は藍色細菌とも呼ばれ、クロロフィルで光エネルギーを捕集し、得たエネルギーで水を電解して酸素を発生しながら光合成をおこなう原核生物の一群である。シアノバクテリアは、多様性に富んでおり、例えば、細胞形状ではSynechocystis sp. PCC 6803のような単細胞性の種及びAnabaena sp. PCC 7120のような多細胞が連なった糸状性の種がある。生育環境についても、Thermosynechococcus elongatusのような好熱性の種、Synechococcus elongatusのような海洋性の種、Synechocystisのような淡水性の種がある。また、Microcystis aeruginosaのようにガス小胞を持ち毒素を産生する種、及び、チラコイドを持たずに原形質膜に集光アンテナであるフィコビリソームと呼ばれるタンパク質を有するGloeobacter violaceusのように、独自の特徴をもつ種も多数挙げられる。
【0056】
図2は、シアノバクテリアの細胞表層を模式的に示した図である。
図2に示されるように、シアノバクテリアの細胞表層は、内側から順に、原形質膜(内膜1ともいう)、ペプチドグリカン2、及び細胞最外層を形成する脂質膜である外膜5で構成される。ペプチドグリカン2にはグルコサミン及びマンノサミンなどで構成される糖鎖3が共有結合しており、また、これらの共有結合型の糖鎖3にはピルビン酸が結合している(非特許文献3:Jurgens and Weckesser, 1986, J. Bacteriol., 168:568-573)。本明細書では、ペプチドグリカン2と共有結合型の糖鎖3とを含めて細胞壁4と呼ぶ。また、原形質膜(つまり、内膜1)と外膜5との間隙は、ペリプラズムと呼ばれ、タンパク質の分解又は立体構造の形成、脂質又は核酸の分解、若しくは、細胞外の栄養素の取り込み等に関与する様々な酵素が存在する。
【0057】
SLHドメイン保持型外膜タンパク質(例えば、図中のSlr1841)は、脂質膜(外膜5ともいう)に埋め込まれたC末端側領域と、脂質膜から突き出したN末端側のSLHドメイン7から成り、シアノバクテリア及びグラム陰性細菌の一群であるNegativicutes綱に属する細菌において広く分布している(非特許文献4:Kojima et al., 2016, Biosci. Biotech. Biochem., 10:1954-1959)。脂質膜(つまり、外膜5)に埋め込まれた領域は、親水性物質の外膜透過を可能にするためのチャネルを形成し、一方でSLHドメイン7は細胞壁4に結合する機能をもつ(非特許文献5:Kowata et al., 2017, J. Bacteriol., 199:e00371-17)。SLHドメイン7が細胞壁4に結合するためには、ペプチドグリカン2における共有結合型の糖鎖3がピルビン酸で修飾されている必要がある(非特許文献6:Kojima et al., 2016, J. Biol. Chem., 291:20198-20209)。SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子の例としては、Synechocystis sp. PCC 6803が保持するslr1841若しくはslr1908、又はAnabaena sp. 90が保持するoprBなどが挙げられる。
【0058】
ペプチドグリカン2における共有結合型の糖鎖3のピルビン酸修飾反応を触媒する酵素(以下、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9という)は、グラム陽性菌であるBacillus anthracisにおいて同定され、CsaBと命名されている(非特許文献7:Mesnage et al., 2000, EMBO J., 19:4473-4484)。ゲノム塩基配列が公開されているシアノバクテリアにおいて、多くの種がCsaBとアミノ酸配列の同一性が30%以上となる相同タンパク質をコードする遺伝子を保持している。例としては、Synechocystis sp. PCC 6803が保持するslr0688又はSynechococcus sp. 7502が保持するsyn7502_03092などが挙げられる。
【0059】
シアノバクテリアでは、光合成により固定されたCO2は多段階の酵素反応を経て各種アミノ酸及び細胞内分子の前駆体に変換される。それらを原料として、シアノバクテリアの細胞質内でタンパク質及び代謝産物が合成される。それらのタンパク質及び代謝産物の中には、細胞質内で機能するものもあるし、細胞質からペリプラズムに輸送されてペリプラズム内で機能するものもある。しかしながら、細胞外にタンパク質及び代謝産物を積極的に分泌するケースは、現在までシアノバクテリアにおいては報告されていない。
【0060】
シアノバクテリアは、高い光合成能力を有するため、必ずしも有機物を栄養分として外から取り込む必要がない。そのため、シアノバクテリアは、
図2の有機物チャネルタンパク質8(例えば、Slr1270)のように、有機物を透過させるチャネルタンパク質を外膜5に非常にわずかにしか有していない。例えば、Synechocystis sp. PCC 6803では、有機物を透過させる有機物チャネルタンパク質8は、外膜5の総タンパク質量の約4%しか存在しない。一方、シアノバクテリアは、生育に必要な無機イオン類を高効率で細胞内に取り込むために、
図2のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6(例えば、Slr1841)のように、無機イオン類のみを透過させるイオンチャネルタンパク質を外膜5に多く有する。例えば、Synechocystis sp. PCC 6803では、無機イオンを透過させるイオンチャネルタンパク質は、外膜5の総タンパク質量の約80%を占める。
【0061】
このように、シアノバクテリアでは、外膜5におけるタンパク質などの有機物を透過させるチャネルが非常に少ないため、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物を菌体外に積極的に分泌することが難しいと考えられている。
【0062】
[4.改変シアノバクテリア]
続いて、本実施の形態における改変シアノバクテリアについて
図2を参照しながら説明する。
【0063】
本実施の形態における改変シアノバクテリアは、シアノバクテリアにおいて外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質(いわゆる、結合関連タンパク質)の機能が抑制又は喪失されている。より具体的には、例えば、改変シアノバクテリアは、シアノバクテリアにおいて外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質(つまり、結合関連タンパク質)の総量が、親株(つまり、親シアノバクテリア)における当該タンパク質の総量の30%以上70%以下に抑制されている。例えば、「結合関連タンパク質の総量が、親株における当該タンパク質の総量の30%に抑制されている」とは、親株における当該タンパク質の総量の70%が喪失し、30%が残存している状態のことを意味する。これにより、改変シアノバクテリアでは、外膜5と細胞壁4との結合(例えば、結合量及び結合力)が部分的に低減するため、外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなる。そのため、改変シアノバクテリアは、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物などの菌体内産生物質を菌体外に分泌する菌体内産生物質の分泌生産性が向上する。上述したように、菌体内産生物質には、トマト果実の高糖度化に関与する菌体内産生物質(つまり、トマト果実の高糖度化物質)が含まれる。そのため、改変シアノバクテリアは、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質を菌体外に分泌するトマト果実の高糖度化物質の分泌生産性も向上する。また、菌体を破砕してトマト果実の高糖度化物質を回収する必要がないため、トマト果実の高糖度化物質を製造した後も、改変シアノバクテリアを繰り返し使用することができる。なお、本明細書では、改変シアノバクテリアが菌体内でタンパク質及び代謝物を作り出すことを産生と言い、産生されたタンパク質及び代謝物を菌体外に分泌することを分泌生産と言う。
【0064】
外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質は、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つであってもよい。本実施の形態では、改変シアノバクテリアは、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つのタンパク質の機能が抑制又は喪失されている。例えば、改変シアノバクテリアでは、(i)SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つの機能が抑制又は喪失されてもよく、(ii)細胞壁4と結合するSLHドメイン保持型外膜タンパク質6の発現、及び、細胞壁4の表面の結合糖鎖のピルビン酸修飾反応を触媒する酵素(つまり、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9)の発現の少なくとも1つが抑制されてもよい。これにより、外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6のSLHドメイン7と細胞壁4の表面の共有結合型の糖鎖3との結合(つまり、結合量及び結合力)が低減する。そのため、これらの結合が弱まった部分において外膜5が細胞壁4から脱離しやすくなる。外膜5が細胞壁4から部分的に脱離することにより、改変シアノバクテリアの細胞内、特にペリプラズムに存在するタンパク質及び代謝産物などの菌体内産生物質が細胞の外(外膜5の外)へ漏出しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアは、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質を菌体外に分泌する分泌生産性が向上する。
【0065】
以下、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つの結合関連タンパク質の機能が抑制されることにより外膜5が部分的に細胞壁4から脱離するように改変されたシアノバクテリアについてより具体的に説明する。
【0066】
本実施の形態における改変シアノバクテリアの親微生物となる、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6の発現及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の発現の少なくとも1つを抑制する又は喪失させる前のシアノバクテリア(つまり、親シアノバクテリア)の種類は、特に制限はなく、あらゆる種類のシアノバクテリアであってもよい。例えば、親シアノバクテリアは、Synechocystis属、Synechococcus属、Anabaena属、又は、Thermosynechococcus属であってもよく、中でも、Synechocystis sp. PCC 6803、Synechococcus sp. PCC 7942、又は、Thermosynechococcus elongatus BP-1であってもよい。
【0067】
これらの親シアノバクテリアにおけるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾反応を触媒する酵素(つまり、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9)のアミノ酸配列、それらの結合関連タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、及び、当該遺伝子の染色体DNA又はプラスミド上での位置は、上述のNCBIデータベース及びCyanobaseで確認することができる。
【0068】
なお、本実施の形態に係る改変シアノバクテリアにおいて機能が抑制又は喪失されるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9は、親シアノバクテリアが保有している限り、いずれの親シアノバクテリアのものであってもよく、それらをコードする遺伝子の存在場所(例えば、染色体DNA上又はプラスミド上)により制限されるものではない。
【0069】
例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6は、親シアノバクテリアがSynechocystis属の場合、Slr1841、Slr1908、又は、Slr0042等であってもよく、親シアノバクテリアがSynechococcus属の場合、NIES970_09470等であってもよく、親シアノバクテリアがAnabaena属の場合、Anacy_5815又はAnacy_3458等であってもよく、親シアノバクテリアがMicrocystis属の場合、A0A0F6U6F8_MICAE等であってもよく、親シアノバクテリアがCyanothece属の場合、A0A3B8XX12_9CYAN等であってもよく、親シアノバクテリアがLeptolyngbya属の場合、A0A1Q8ZE23_9CYAN等であってもよく、親シアノバクテリアがCalothrix属の場合、A0A1Z4R6U0_9CYANが挙げられ、親シアノバクテリアがNostoc属の場合、A0A1C0VG86_9NOSO等であってもよく、親シアノバクテリアがCrocosphaera属の場合、B1WRN6_CROS5等であってもよく、親シアノバクテリアがPleurocapsa属の場合、K9TAE4_9CYAN等であってもよい。
【0070】
より具体的には、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6は、例えば、Synechocystis sp. PCC 6803のSlr1841(配列番号1)、Synechococcus sp. NIES-970のNIES970_09470(配列番号2)、又は、Anabaena cylindrica PCC 7122のAnacy_3458(配列番号3)等であってもよい。また、これらのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質であってもよい。
【0071】
これにより、改変シアノバクテリアでは、例えば、(i)上記の配列番号1~3で示されるいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6又はこれらのいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質の機能が抑制若しくは喪失されていてもよく、(ii)上記の配列番号1~3で示されるいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6又はこれらのいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質の発現が抑制されていてもよい。そのため、改変シアノバクテリアでは、(i)外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6若しくはSLHドメイン保持型外膜タンパク質6と同等の機能を有するタンパク質の機能が抑制若しくは喪失される、又は、(ii)外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6若しくはSLHドメイン保持型外膜タンパク質6と同等の機能を有するタンパク質の発現量が低減する。その結果、改変シアノバクテリアでは、外膜5が細胞壁4と結合するための結合ドメイン(例えば、SLHドメイン7)が細胞壁4と結合する結合量及び結合力が低減するため、外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアでは、菌体内産生物質が菌体外に漏出しやすくなるため、菌体内で産生された植物成長促進物質も菌体外に漏出しやすくなる。
【0072】
一般に、タンパク質のアミノ酸配列が30%以上同一であれば、タンパク質の立体構造の相同性が高いため、当該タンパク質と同等の機能を有する可能性が高いと言われている。そのため、機能が抑制又は喪失されるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6としては、例えば、上記の配列番号1~3で示されるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6のいずれかのアミノ酸配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞壁4の共有結合型の糖鎖3と結合する機能を有するタンパク質又はポリペプチドであってもよい。
【0073】
また、例えば、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9は、親シアノバクテリアがSynechocystis属の場合、Slr0688等であってもよく、親シアノバクテリアがSynechococcus属の場合、Syn7502_03092又はSynpcc7942_1529等であってもよく、親シアノバクテリアがAnabaena属の場合、ANA_C20348又はAnacy_1623等であってもよく、親シアノバクテリアがMicrocystis属の場合、CsaB (NCBIのアクセスID:TRU80220)等であってもよく、親シアノバクテリアがCyanothece属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_107667006.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがSpirulina属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_026079530.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがCalothrix属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_096658142.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがNostoc属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_099068528.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがCrocosphaera属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_012361697.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがPleurocapsa属の場合、CsaB(NCBIのアクセスID:WP_036798735)等であってもよい。
【0074】
より具体的には、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9は、例えば、Synechocystis sp. PCC 6803のSlr0688(配列番号4)、Synechococcus sp. PCC 7942のSynpcc7942_1529(配列番号5)、又は、Anabaena cylindrica PCC 7122のAnacy_1623(配列番号6)等であってもよい。また、これらの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質であってもよい。
【0075】
これにより、改変シアノバクテリアでは、例えば、(i)上記の配列番号4~6で示されるいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9又はこれらのいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質の機能が抑制又は喪失されていてもよく、(ii)上記の配列番号4~6で示されるいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9又はこれらのいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9とアミノ酸配列が50%以上同一であるタンパク質の発現が抑制されていてもよい。そのため、改変シアノバクテリアでは、(i)細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9又は当該酵素と同等の機能を有するタンパク質の機能が抑制若しくは喪失される、又は、(ii)細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9又は当該酵素と同等の機能を有するタンパク質の発現量が低減する。これにより、細胞壁4の表面の共有結合型の糖鎖3がピルビン酸で修飾されにくくなるため、細胞壁4の糖鎖3が外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6のSLHドメイン7と結合する結合量及び結合力が低減する。したがって、本実施の形態に係る改変シアノバクテリアでは、細胞壁4の表面の共有結合型の糖鎖3がピルビン酸で修飾されにくくなるため、細胞壁4と外膜5との結合力が弱まり、外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアでは、菌体内産生物質が菌体外に漏出しやすくなるため、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質も菌体外に漏出しやすくなる。
【0076】
また、上述したとおり、タンパク質のアミノ酸配列が30%以上同一であれば、当該タンパク質と同等の機能を有する可能性が高いと言われている。そのため、機能が抑制又は喪失される細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9としては、例えば、上記の配列番号4~6で示される細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9のいずれかのアミノ酸配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞壁4のペプチドグリカン2の共有結合型の糖鎖3をピルビン酸で修飾する反応を触媒する機能を有するタンパク質又はポリペプチドであってもよい。
【0077】
なお、本明細書において、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6の機能を抑制する又は喪失させるとは、当該タンパク質の細胞壁4との結合能力を抑制する若しくは喪失させること、当該タンパク質の外膜5への輸送を抑制する若しくは喪失させること、又は、当該タンパク質が外膜5に埋め込まれて機能する能力を抑制する若しくは喪失させることである。
【0078】
なお、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の機能を抑制する又は喪失するとは、当該タンパク質が細胞壁4の共有結合型の糖鎖3をピルビン酸で修飾する機能を抑制する又は喪失させることである。
【0079】
これらのタンパク質の機能を抑制する又は喪失させる手段としては、タンパク質の機能の抑制又は喪失に通常使用される手段であれば特に限定されない。当該手段は、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子を欠失若しくは不活性化させること、これらの遺伝子の転写を阻害すること、これらの遺伝子の転写産物の翻訳を阻害すること、又は、これらのタンパク質を特異的に阻害する阻害剤を投与することなどであってもよい。
【0080】
本実施の形態では、改変シアノバクテリアは、外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質を発現させる遺伝子が欠失又は不活性されている。これにより、改変シアノバクテリアでは、細胞壁4と外膜5との結合に関与するタンパク質の発現が抑制されるため、又は、当該タンパク質の機能が抑制若しくは喪失されるため、細胞壁4と外膜5との結合(つまり、結合量及び結合力)が部分的に低減する。その結果、改変シアノバクテリアでは、外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなるため、改変シアノバクテリアは、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物などの菌体内産生物質が外膜5の外、つまり、菌体外に漏出しやすくなる。そのため、改変シアノバクテリアは、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質を菌体外に分泌するトマト果実の高糖度化物質の分泌生産性が向上する。これにより、菌体を破砕するなどの、菌体内産生物質の抽出処理が不要となるため、菌体内産生物質の生理活性の低下及び収率の低下が起こりにくくなる。そのため、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質の生理活性の低下及び収率の低下も起こりにくくなるため、トマト果実の高糖度化効果が向上したトマト果実の高糖度化剤を製造することができる。また、上記の菌体内産生物質の抽出処理が不要となるため、当該物質を回収した後も、改変シアノバクテリアを繰り返し使用してトマト果実の高糖度化物質を産生させることができる。
【0081】
外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質を発現させる遺伝子は、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子の少なくとも1つであってもよい。改変シアノバクテリアでは、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子、及び、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子の少なくとも1つの遺伝子が欠失又は不活性化されている。そのため、改変シアノバクテリアでは、例えば、(i)SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つの発現が抑制される、又は、(ii)SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つの機能が抑制若しくは喪失される。そのため、外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6のSLHドメイン7と、細胞壁4の表面の共有結合型の糖鎖3との結合(つまり、結合量及び結合力)が低減する。これにより、外膜5と細胞壁4との結合が弱まった部分において外膜5が細胞壁4から脱離しやすくなる。その結果、改変シアノバクテリアでは、外膜5と細胞壁4との結合が低減することにより外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなるため、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が菌体外に漏出しやすくなる。これにより、改変シアノバクテリアの菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質も菌体外に漏出しやすくなる。
【0082】
本実施の形態では、シアノバクテリアにおけるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つの機能を抑制する又は喪失させるために、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子の少なくとも1つの転写を抑制してもよい。
【0083】
例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子は、親シアノバクテリアがSynechocystis属の場合、slr1841、slr1908、又は、slr0042等であってもよく、Synechococcus属の場合、nies970_09470等であってもよく、親シアノバクテリアがAnabaena属の場合、anacy_5815又はanacy_3458等であってもよく、親シアノバクテリアがMicrocystis属の場合、A0A0F6U6F8_MICAE等であってもよく、親シアノバクテリアがCyanothece属の場合、A0A3B8XX12_9CYAN等であってもよく、親シアノバクテリアがLeptolyngbya属の場合、A0A1Q8ZE23_9CYAN等であってもよく、親シアノバクテリアがCalothrix属の場合、A0A1Z4R6U0_9CYAN等であってもよく、親シアノバクテリアがNostoc属の場合、A0A1C0VG86_9NOSO等であってもよく、親シアノバクテリアがCrocosphaera属の場合、B1WRN6_CROS5等であってもよく、親シアノバクテリアがPleurocapsa属の場合、K9TAE4_9CYAN等であってもよい。これらの遺伝子の塩基配列は、上述したNCBIデータベース又はCyanobaseから入手できる。
【0084】
より具体的には、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子は、Synechocystis sp. PCC 6803のslr1841(配列番号7)、Synechococcus sp. NIES-970のnies970_09470(配列番号8)、Anabaena cylindrica PCC 7122のanacy_3458(配列番号9)、又は、これらの遺伝子とアミノ酸配列が50%以上同一である遺伝子であってもよい。
【0085】
これにより、改変シアノバクテリアでは、上記の配列番号7~9で示されるいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子又はこれらのいずれかの遺伝子の塩基配列と50%以上同一である遺伝子が欠失又は不活性化される。そのため、改変シアノバクテリアでは、(i)上記のいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6若しくはこれらのいずれかのタンパク質と同等の機能を有するタンパク質の発現が抑制される、又は、(ii)上記のいずれかのSLHドメイン保持型外膜タンパク質6若しくはこれらのいずれかのタンパク質と同等の機能を有するタンパク質の機能が抑制若しくは喪失される。その結果、改変シアノバクテリアでは、外膜5が細胞壁4と結合するための結合ドメイン(例えばSLHドメイン7)が細胞壁4と結合する結合量及び結合力が低減するため、外膜5が細胞壁4から部分的に離脱しやすくなる。これにより、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が菌体外に漏出しやすくなるため、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質も菌体外に漏出しやすくなる。
【0086】
上述したように、タンパク質のアミノ酸配列が30%以上同一であれば、当該タンパク質と同等の機能を有する可能性が高いと言われている。そのため、タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列が30%以上同一であれば、当該タンパク質と同等の機能を有するタンパク質が発現される可能性が高いと考えられる。そのため、機能が抑制又は喪失されるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子としては、例えば、上記の配列番号7~9で示されるSLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子のいずれかの塩基配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であり、かつ、細胞壁4の共有結合型の糖鎖3と結合する機能を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子であってもよい。
【0087】
また、例えば、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子は、親シアノバクテリアがSynechocystis属の場合、slr0688等であってもよく、親シアノバクテリアがSynechococcus属の場合、syn7502_03092又はsynpcc7942_1529等であってもよく、親シアノバクテリアがAnabaena属の場合、ana_C20348又はanacy_1623等であってもよく、親シアノバクテリアがMicrocystis属の場合、csaB (NCBIのアクセスID:TRU80220)等であってもよく、親シアノバクテリアがCyanothece属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_107667006.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがSpirulina属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_026079530.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがCalothrix属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_096658142.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがNostoc属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_099068528.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがCrocosphaera属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_012361697.1)等であってもよく、親シアノバクテリアがPleurocapsa属の場合、csaB(NCBIのアクセスID:WP_036798735)等であってもよい。これらの遺伝子の塩基配列は、上述したNCBIデータベース又はCyanobaseから入手できる。
【0088】
より具体的には、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子は、Synechocystis sp. PCC 6803のslr0688(配列番号10)、Synechococcus sp. PCC 7942のsynpcc7942_1529(配列番号11)、又は、Anabaena cylindrica PCC 7122のanacy_1623(配列番号12)であってもよい。また、これらの遺伝子と塩基配列が50%以上同一である遺伝子であってもよい。
【0089】
これにより、改変シアノバクテリアでは、上記の配列番号10~12で示されるいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子又はこれらのいずれかの酵素をコードする遺伝子の塩基配列と50%以上同一である遺伝子が欠失又は不活性化される。そのため、改変シアノバクテリアでは、(i)上記のいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9若しくはこれらのいずれかの酵素と同等の機能を有するタンパク質の発現が抑制される、又は、(ii)上記のいずれかの細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9若しくはこれらのいずれかの酵素と同等の機能を有するタンパク質の機能が抑制若しくは喪失される。これにより、細胞壁4の表面の共有結合型の糖鎖3がピルビン酸で修飾されにくくなるため、細胞壁4の糖鎖3が外膜5中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質6のSLHドメイン7と結合する結合量及び結合力が低減する。したがって、本実施の形態に係る改変シアノバクテリアでは、細胞壁4が外膜5と結合するための糖鎖3がピルビン酸で修飾される量が低減するため、細胞壁4と外膜5との結合力が弱まり、外膜5が細胞壁4から部分的に離脱しやすくなる。これにより、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物が菌体外に漏出しやすくなるため、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質も菌体外に漏出しやすくなる。
【0090】
上述したように、タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列が30%以上同一であれば、当該タンパク質と同等の機能を有するタンパク質が発現される可能性が高いと考えられる。そのため、機能が抑制又は喪失される細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子としては、例えば、上記の配列番号10~12で示される細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子のいずれかの塩基配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、細胞壁4のペプチドグリカン2の共有結合型の糖鎖3をピルビン酸で修飾する反応を触媒する機能を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子であってもよい。
【0091】
[5.改変シアノバクテリアの製造方法]
続いて、本実施の形態における改変シアノバクテリアの製造方法について説明する。改変シアノバクテリアの製造方法は、シアノバクテリアにおいて外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質の機能を抑制又は喪失させるステップを含む。
【0092】
本実施の形態では、外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質は、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9の少なくとも1つであってもよい。
【0093】
なお、タンパク質の機能を抑制する又は喪失させる手段としては、特に限定されないが、例えば、SLHドメイン保持型外膜タンパク質6をコードする遺伝子及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素9をコードする遺伝子を欠失若しくは不活性化させること、これらの遺伝子の転写を阻害すること、これらの遺伝子の転写産物の翻訳を阻害すること、又はこれらのタンパク質を特異的に阻害する阻害剤を投与することなどであってもよい。
【0094】
上記遺伝子を欠失又は不活性化させる手段は、例えば、該当遺伝子の塩基配列上の1つ以上の塩基に対する突然変異の導入、該当塩基配列に対する他の塩基配列への置換若しくは他の塩基配列の挿入、又は、該当遺伝子の塩基配列の一部若しくは全部の削除などであってもよい。
【0095】
上記遺伝子の転写を阻害する手段は、例えば、該当遺伝子のプロモーター領域に対する変異導入、他の塩基配列への置換若しくは他の塩基配列の挿入による当該プロモーターの不活性化、又は、CRISPR干渉法(非特許文献8:Yao et al., ACS Synth. Biol., 2016, 5:207-212)等であってもよい。上記の変異導入、又は塩基配列の置換若しくは挿入の具体的な手法は、例えば、紫外線照射、部位特異的変異導入、又は、相同組換え法などであってもよい。
【0096】
また、上記遺伝子の転写産物の翻訳を阻害する手段は、例えば、RNA(Ribonucleic Acid)干渉法などであってもよい。
【0097】
以上のいずれかの手段を用いることにより、シアノバクテリアにおける外膜5と細胞壁4との結合に関与するタンパク質の機能を抑制又は喪失させて、改変シアノバクテリアを製造してもよい。
【0098】
これにより、上記の製造方法で製造された改変シアノバクテリアは、細胞壁4と外膜5との結合(つまり、結合量及び結合力)が部分的に低減するため、外膜5が細胞壁4から部分的に脱離しやすくなる。その結果、改変シアノバクテリアでは、菌体内で産生されたタンパク質及び代謝産物などの菌体内産生物質が外膜5の外に(つまり、菌体の外に)漏出しやすくなるため、トマト果実の高糖度化に関与する物質(つまり、トマト果実の高糖度化物質)も菌体外に漏出しやすくなる。したがって、本実施の形態における改変シアノバクテリアの製造方法によれば、トマト果実の高糖度化物質の分泌生産性が向上した改変シアノバクテリアを提供することができる。
【0099】
また、本実施の形態における製造方法で製造された改変シアノバクテリアでは、菌体内で産生されたトマト果実の高糖度化物質が菌体外に漏出するため、当該物質の回収のために菌体を破砕する必要がない。例えば、改変シアノバクテリアを適切な条件で培養し、次いで培養液中に分泌されたトマト果実の高糖度化物質を回収すればよいため、改変シアノバクテリアを培養しながら培養液中のトマト果実の高糖度化物質を回収することも可能である。そのため、本製造方法により得られる改変シアノバクテリアを使用すれば、効率のよい微生物学的トマト果実の高糖度化物質の生産を実施することができる。したがって、本実施の形態における改変シアノバクテリアの製造方法によれば、トマト果実の高糖度化物質を回収した後も繰り返し使用することができる利用効率の高い改変シアノバクテリアを提供することができる。
【0100】
[6.トマト果実の高糖度化方法]
本実施の形態に係るトマト果実の高糖度化方法は、上記の改変シアノバクテリアの分泌物をトマトの栽培開始から第一花房の収穫期までトマトに施用する。また、トマト果実の高糖度化方法では、当該分泌物を定期的に葉面散布してもよい。具体的には、トマトの栽培開始から第一花房の収穫期までの間に当該分泌物を4回以上葉面散布でトマトに施用してもよい。上述したように、改変シアノバクテリアの分泌物は、トマト果実の高糖度化に関与する物質を含み、当該分泌物は改変シアノバクテリアの菌体を破砕せずに回収されるため、当該分泌物に含まれるトマト果実の高糖度化に関与する物質の生理活性及び収量が低減されにくい。そのため、当該分泌物を含むトマト果実の高糖度化剤は、効果的にトマト果実の糖度を高めることができる。
【0101】
上記のトマト果実の高糖度化剤は、そのままは勿論、濃縮又は希釈して使用されてもよい。当該トマト果実の高糖度化剤のトマト植物への適用にあたっては、植物の種類、土壌の性質、及び、目的などに応じて、適宜、トマト果実の高糖度化剤の濃度、及び、適用方法を決定してもよい。トマト果実の高糖度化剤は、例えば、改変シアノバクテリアの培養液そのものであってもよく、当該培養液から改変シアノバクテリアの菌体を除去した溶液(例えば、培養上清)であってもよく、当該培養液から所望の物質を膜技術等により抽出した抽出物であってもよい。所望の物質は、土壌中の養分を分解する酵素であってもよく、土壌中の不溶物質(例えば、鉄などの金属)を可溶化する物質(例えば、キレート効果を有する物質)であってもよく、トマト植物の細胞内生理活性を向上させる物質であってもよい。また、トマト果実の高糖度化剤の植物への適用方法は、例えば、植物若しくは土壌への噴霧、潅水、葉面散布、又は、土壌若しくは水耕液との混合などであってもよい。より具体的には、植物体1個体あたり数ミリリットルを週1回又は2週間に1回程度、植物体の根元又は葉面に施用してもよい。
【実施例0102】
以下、実施例にて本開示のトマト果実の高糖度化方法、トマト果実の高糖度化剤及びその製造方法について具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0103】
以下の実施例では、シアノバクテリアの外膜を細胞壁から部分的に脱離させる方法として、SLHドメイン保持型外膜タンパク質をコードするslr1841遺伝子の発現抑制(実施例1)、及び細胞壁-ピルビン酸修飾酵素をコードするslr0688遺伝子の発現抑制(実施例2)を行い、2種類の改変シアノバクテリアを製造した。そして、これらの改変シアノバクテリアのタンパク質の分泌生産性の測定と、分泌された菌体内産生物質(ここでは、タンパク質及び細胞内代謝産物)の同定とを行った。なお、本実施例で使用したシアノバクテリア種は、Synechocystis sp. PCC 6803(以下、単に、「シアノバクテリア」と呼ぶ)である。
【0104】
(実施例1)
実施例1では、SLHドメイン保持型外膜タンパク質をコードするslr1841遺伝子の発現が抑制された改変シアノバクテリアを製造した。
【0105】
(1)slr1841遺伝子の発現が抑制されたシアノバクテリア改変株の構築
遺伝子発現抑制法として、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)干渉法を用いた。本方法では、dCas9タンパク質をコードする遺伝子(以下、dCas9遺伝子という)と、slr1841_sgRNA(single-guide Ribonucleic Acid)遺伝子とを、シアノバクテリアの染色体DNAに導入することにより、slr1841遺伝子の発現を抑制することができる。
【0106】
本方法による遺伝子発現抑制の仕組みは次の通りである。
【0107】
まず、ヌクレアーゼ活性を欠損したCas9タンパク質(dCas9)と、slr1841遺伝子の塩基配列に相補的に結合するsgRNA(slr1841_sgRNA)とが、複合体を形成する。
【0108】
次に、この複合体がシアノバクテリアの染色体DNA上のslr1841遺伝子を認識し、slr1841遺伝子と特異的に結合する。この結合が立体障害となることにより、slr1841遺伝子の転写が阻害される。その結果、シアノバクテリアのslr1841遺伝子の発現が抑制される。
【0109】
以下、上記の2つの遺伝子の各々をシアノバクテリアの染色体DNAに導入する方法を具体的に説明する。
【0110】
(1-1)dCas9遺伝子の導入
Synechocystis LY07株(以下、LY07株ともいう)(非特許文献8参照)の染色体DNAを鋳型として、dCas9遺伝子及びdCas9遺伝子の発現制御のためのオペレーター遺伝子、並びに、遺伝子導入の目印となるスペクチノマイシン耐性マーカー遺伝子を、表1に記載のプライマーpsbA1-Fw(配列番号13)及びpsbA1-Rv(配列番号14)を用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅した。なお、LY07株では、上記の3つの遺伝子が連結した状態で染色体DNA上のpsbA1遺伝子に挿入されているため、1つのDNA断片としてPCR法により増幅することができる。ここでは、得られたDNA断片を「psbA1::dCas9カセット」と表記する。In-Fusion PCRクローニング法(登録商標)を用いて、psbA1::dCas9カセットをpUC19プラスミドに挿入し、pUC19-dCas9プラスミドを得た。
【0111】
【0112】
得られたpUC19-dCas9プラスミド1μgとシアノバクテリア培養液(菌体濃度OD730=0.5程度)とを混合し、自然形質転換によりpUC19-dCas9プラスミドをシアノバクテリアの細胞内に導入した。形質転換された細胞を20 μg/mLのスペクチノマイシンを含むBG-11寒天培地上で生育させることにより、選抜した。選抜された細胞では、染色体DNA上のpsbA1遺伝子と、pUC19-dCas9プラスミド上のpsbA1上流断片領域及びpsbA1下流断片領域との間で相同組み換えが起こっている。これにより、psbA1遺伝子領域にdCas9カセットが挿入されたSynechocystis dCas9株を得た。なお、用いたBG-11培地の組成は表2の通りである。
【0113】
【0114】
(1-2)slr1841_sgRNA遺伝子の導入
CRISPR干渉法では、sgRNA遺伝子上のprotospacerと呼ばれる領域に、標的配列と相補的な約20塩基の配列を導入することにより、sgRNAが標的遺伝子に特異的に結合する。本実施例で用いたprotospacer配列は表3に示される。
【0115】
【0116】
Synechocystis LY07株では、sgRNA遺伝子(protospacer領域を除く)とカナマイシン耐性マーカー遺伝子とが連結した形で、染色体DNA上のslr2030-slr2031遺伝子に挿入されている。したがって、当該sgRNA遺伝子をPCR法により増幅する際に用いるプライマーにslr1841遺伝子(配列番号7)と相補的なprotospacer配列(配列番号21)を付与することにより、slr1841を特異的に認識するsgRNA (slr1841_sgRNA)を容易に得ることができる。
【0117】
まず、LY07株の染色体DNAを鋳型とし、表1に記載のプライマーslr2030-Fw(配列番号15)及びsgRNA_slr1841-Rv(配列番号16)のセット、並びに、sgRNA_slr1841-Fw(配列番号17)及びslr2031-Rv(配列番号18)のセットを用いて2つのDNA断片をPCR法により増幅した。
【0118】
続いて、上記のDNA断片の混合溶液を鋳型として、表1に記載のプライマーslr2030-Fw(配列番号15)とslr2031-Rv(配列番号18)とを用いてPCR法により増幅することにより、(i)slr2030遺伝子断片、(ii)slr1841_sgRNA、(iii)カナマイシン耐性マーカー遺伝子、(iv)slr2031遺伝子断片が順に連結したDNA断片(slr2030-2031::slr1841_sgRNA)を得た。In-Fusion PCRクローニング法(登録商標)を用いて、slr2030-2031::slr1841_sgRNAをpUC19プラスミドに挿入し、pUC19-slr1841_sgRNAプラスミドを得た。
【0119】
上記(1-1)と同様の方法でpUC19-slr1841_sgRNAプラスミドをSynechocystis dCas9株に導入し、形質転換された細胞を30μg/mLカナマイシンを含むBG-11寒天培地上で選抜した。これにより、染色体DNA上のslr2030-slr2031遺伝子にslr1841_sgRNAが挿入された形質転換体Synechocystis dCas9 slr1841_sgRNA株(以下、slr1841抑制株ともいう)を得た。
【0120】
(1-3)slr1841遺伝子の抑制
上記dCas9遺伝子及びslr1841_sgRNA遺伝子は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)の存在下で発現誘導されるようにプロモーター配列が設計されている。本実施例では、培地中に終濃度1μg/mL aTcを添加することによりslr1841遺伝子の発現を抑制した。
【0121】
(実施例2)
実施例2では、下記の手順により、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素をコードするslr0688遺伝子の発現が抑制された改変シアノバクテリアを得た。
【0122】
(2)slr0688遺伝子の発現が抑制されたシアノバクテリア改変株の構築
上記(1-2)と同様の手順により、slr0688遺伝子(配列番号4)と相補的なprotospacer配列(配列番号22)を含むsgRNA遺伝子をSynechocystis dCas9株に導入し、Synechocystis dCas9 slr0688_sgRNA株を得た。なお、表1に記載のプライマーslr2030-Fw(配列番号15)及びsgRNA_slr0688-Rv(配列番号19)のセット、並びに、sgRNA_slr0688-Fw(配列番号20)及びslr2031-Rv(配列番号18)のセットを用いたことと、(i)slr2030遺伝子断片、(ii)slr0688_sgRNA、(iii)カナマイシン耐性マーカー遺伝子、(iv)slr2031遺伝子断片が順に連結したDNA断片(slr2030-2031::slr0688_sgRNA)をIn-Fusion PCRクローニング法(登録商標)を用いて、pUC19プラスミドに挿入し、pUC19-slr0688_sgRNAプラスミドを得たこと以外は、上記(1-2)と同様の条件で行った。
【0123】
さらに、上記(1-3)と同様の手順により、slr0688遺伝子の発現を抑制した。
【0124】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の(1-1)と同様の手順により、Synechocystis dCas9株を得た。
【0125】
続いて、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた菌株について、それぞれ、細胞表層の状態の観察及びタンパク質の分泌生産性試験を行った。以下、詳細について説明する。
【0126】
(3)菌株の細胞表層の状態の観察
実施例1で得られた改変シアノバクテリアSynechocystis dCas9 slr1841_sgRNA株(つまり、slr1841抑制株)、実施例2で得られた改変シアノバクテリアSynechocystis dCas9 slr0688_sgRNA株(以下、slr0688抑制株ともいう)、及び、比較例1で得られた改変シアノバクテリアSynechocystis dCas9株(以下、Control株という)のそれぞれの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて細胞表層の状態(言い換えると、外膜構造)を観察した。
【0127】
(3-1)菌株の培養
初発菌体濃度OD730=0.05となるように、実施例1のslr1841抑制株を、1μg/mL aTcを含むBG-11培地に接種し、光量100μmol/m2/s、30℃の条件下で5日間振盪培養した。なお、実施例2のslr0688抑制株及び比較例1のControl株も実施例1と同様の条件で培養した。
【0128】
(3-2)菌株の超薄切片の作製
上記(3-1)で得られた培養液を、室温にて2,500gで10分間遠心分離し、実施例1のslr1841抑制株の細胞を回収した。次いで、細胞を-175℃の液体プロパンで急速凍結した後、2%グルタルアルデヒド及び1%タンニン酸を含むエタノール溶液を用いて-80℃で2日間固定した。固定後の細胞をエタノールにより脱水処理し、脱水した細胞を酸化プロピレンに浸透させたあと、樹脂(Quetol-651)溶液中に沈めた。その後60℃で48時間静置し、樹脂を硬化させて、細胞を樹脂で包埋した。樹脂中の細胞を、ウルトラミクロトーム(Ultracut)を用いて70nmの厚さに薄切し、超薄切片を作成した。この超薄切片を、2%酢酸ウラン及び1%クエン酸鉛溶液を用いて染色して、実施例1のslr1841抑制株の透過型電子顕微鏡の試料を準備した。なお、実施例2のslr0688抑制株及び比較例1のControl株についてもそれぞれ同様の操作を行い、透過型電子顕微鏡の試料を準備した。
【0129】
(3-3)電子顕微鏡による観察
透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-1400Plus)を用いて、加速電圧100kV下で、上記(3-2)で得られた超薄切片の観察を行った。観察結果を
図3~
図8に示す。
【0130】
まず、実施例1のslr1841抑制株について説明する。
図3は、実施例1のslr1841抑制株のTEM(Transmission Electron Microscope)像である。
図4は、
図3の破線領域Aの拡大像である。
図4の(a)は、
図3の破線領域Aの拡大TEM像であり、
図4の(b)は、
図4の(a)の拡大TEM像を描写した図である。
【0131】
図3に示されるように、実施例1のslr1841抑制株では、外膜が細胞壁から部分的に剥離し(つまり、外膜が部分的に剥がれ落ち)、かつ、外膜が部分的に撓んでいた。
【0132】
細胞表層の状態をより詳細に確認するために、破線領域Aを拡大観察したところ、
図4の(a)及び
図4の(b)に示されるように、外膜が部分的に剥がれ落ちた部分(図中の一点破線領域a1及びa2)を確認できた。また、一点破線領域a1の傍に外膜が大きく撓んだ部分を確認できた。この部分は、外膜と細胞壁との結合が弱められた部分であり、培養液が外膜からペリプラズム内に浸透したため、外膜が外側に膨張されて、撓んだと考えられる。
【0133】
続いて、実施例2のslr0688抑制株について説明する。
図5は、実施例2のslr0688抑制株のTEM像である。
図6は、
図5の破線領域Bの拡大像である。
図6の(a)は、
図5の破線領域Bの拡大TEM像であり、
図6の(b)は、
図6の(a)の拡大TEM像を描写した図である。
【0134】
図5に示されるように、実施例2のslr0688抑制株では、外膜が細胞壁から部分的に剥離し、かつ、外膜が部分的に撓んでいた。また、slr0688抑制株では、外膜が部分的に細胞壁から脱離していることが確認できた。
【0135】
細胞表層の状態をより詳細に確認するために、破線領域Bを拡大観察したところ、
図6の(a)及び
図6の(b)に示されるように、外膜が大きく撓んだ部分(図中の一点破線領域b1)、及び、外膜が部分的に剥がれ落ちた部分(図中の一点破線領域b2及びb3)を確認できた。また、一点破線領域b1、b2及びb3それぞれの近傍に外膜が細胞壁から脱離している部分を確認できた。
【0136】
続いて、比較例1のControl株について説明する。
図7は、比較例1のControl株のTEM像である。
図8は、
図7の破線領域Cの拡大像である。
図8の(a)は、
図7の破線領域Cの拡大TEM像であり、
図8の(b)は、
図8の(a)の拡大TEM像を描写した図である。
【0137】
図7に示されるように、比較例1のControl株の細胞表層は整っており、内膜、細胞壁、外膜、及びS層が順に積層された状態を保っていた。つまり、Control株では、実施例1及び2のように外膜が細胞壁から脱離した部分、外膜が細胞壁から剥離した(つまり、剥がれ落ちた)部分、及び、外膜が撓んだ部分は見られなかった。
【0138】
(4)タンパク質の分泌生産性試験
実施例1のslr1841抑制株、実施例2のslr0688抑制株、及び、比較例1のControl株をそれぞれ培養し、細胞外に分泌されたタンパク質量(以下、分泌タンパク質量ともいう)を測定した。培養液中のタンパク質量により、上記の菌株それぞれのタンパク質の分泌生産性を評価した。なお、タンパク質の分泌生産性とは、細胞内で産生されたタンパク質を細胞外に分泌することにより、タンパク質を生産する能力をいう。以下、具体的な方法について説明する。
【0139】
(4-1)菌株の培養
実施例1のslr1841抑制株を上記(3-1)と同様の方法で培養した。培養は、独立して3回行った。なお、実施例2及び比較例1の菌株についても実施例1の菌株と同様の条件で培養した。
【0140】
(4-2)細胞外に分泌されたタンパク質の定量
上記(4-1)で得られた培養液を、室温にて2,500gで10分間遠心分離し、培養上清を得た。得られた培養上清を、ポアサイズ0.22μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、実施例1のslr1841抑制株の細胞を完全に除去した。ろ過後の培養上清に含まれる総タンパク質量をBCA(Bicinchoninic Acid)法により定量した。この一連の操作を、独立して培養した3つの培養液のそれぞれについて行い、実施例1のslr1841抑制株の細胞外に分泌されたタンパク質量の平均値及び標準偏差を求めた。なお、実施例2及び比較例1の菌株についても、それぞれ、同様の条件で3つの培養液のタンパク質の定量を行い、3つの培養液中のタンパク質量の平均値及び標準偏差を求めた。
【0141】
結果を
図9に示す。
図9は、実施例1、実施例2及び比較例1の改変シアノバクテリアの培養上清中のタンパク質量(n=3、エラーバー=SD)を示すグラフである。
【0142】
図9に示されるように、実施例1のslr1841抑制株及び実施例2のslr0688抑制株のいずれも、比較例1のControl株と比較して培養上清中に分泌されたタンパク質量(mg/L)が約25倍向上していた。
【0143】
データの記載を省略するが、培養液の吸光度(730nm)を測定し、菌体乾燥重量1gあたりの分泌タンパク質量(mg protein/g cell dry weight)を算出したところ、実施例1のslr1841抑制株及び実施例2のslr0688抑制株のいずれも、菌体乾燥重量1gあたりの分泌タンパク質量(mg protein/g cell dry weight)は、比較例1のControl株と比較して、約36倍向上していた。
【0144】
また、
図9に示されるように、SLHドメイン保持型外膜タンパク質をコードする遺伝子(slr1841)の発現を抑制した実施例1のslr1841抑制株よりも、細胞壁-ピルビン酸修飾酵素をコードする遺伝子(slr0688)の発現を抑制した実施例2のslr0688抑制株の方が、培養上清中に分泌されたタンパク質量が多かった。これは、外膜中のSLHドメイン保持型外膜タンパク質(Slr1841)の数よりも細胞壁表面の共有結合型の糖鎖の数の方が多いことが関係していると考えられる。つまり、実施例2のslr0688抑制株の方が、実施例1のslr1841抑制株よりも外膜と細胞壁との結合量及び結合力がより低下したため、分泌されたタンパク質量が実施例1のslr1841抑制株よりも多くなったと考えられる。
【0145】
以上の結果より、外膜と細胞壁との結合に関連するタンパク質の機能を抑制することにより、シアノバクテリアの外膜と細胞壁との結合が部分的に弱められ、外膜が細胞壁から部分的に脱離することが確認できた。外膜と細胞壁との結合が弱まることにより、シアノバクテリアの細胞内で産生されたタンパク質が細胞外に漏出しやすくなることも確認できた。したがって、本実施の形態に係る改変シアノバクテリア及びその製造方法によれば、タンパク質の分泌生産性が大きく向上することが示された。
【0146】
(5)分泌されたタンパク質の同定
続いて、上記(4-2)で得られた培養上清中に含まれる分泌タンパク質を、LC-MS/MSにより同定した。方法を以下に説明する。
【0147】
(5-1)試料調製
培養上清の液量に対して8倍量の冷アセトンを加え、20℃で2時間静置後、20,000gで15分間遠心分離し、タンパク質の沈殿物を得た。この沈殿物に100mM Tris pH8.5、0.5%ドデカン酸ナトリウム(SDoD)を加え、密閉式超音波破砕機によってタンパク質を溶解した。タンパク質濃度1μg/mLに調整後、終濃度10mMのジチオスレイトール(DTT)を添加して50℃で30分間静置した。続いて、終濃度30mMのヨードアセトアミド(IAA)を添加し、室温(遮光)で30分間静置した。IAAの反応を止めるために、終濃度60mMのシステインを添加して室温で10分間静置した。トリプシン400ngを添加して37℃で一晩静置し、タンパク質をペプチド断片化した。5%TFA(Trifluoroacetic Acid)を加えた後、室温にて15,000gで10分間遠心分離し、上清を得た。この作業によりSDoDが除去された。C18スピンカラムを用いて脱塩後、遠心エバポレーターにより試料を乾固した。その後、3%アセトニトリル、0.1%ギ酸を加え、密閉式超音波破砕機を用いて試料を溶解した。ペプチド濃度200ng/μLになるように調製した。
【0148】
(5-2)LC-MS/MS分析
上記(5-1)で得られた試料をLC-MS/MS装置(UltiMate 3000 RSLCnano LC System) を用いて以下の条件で解析を実施した。
【0149】
試料注入量:200ng
カラム:CAPCELL CORE MP 75μm×250mm
溶媒:A溶媒は0.1%ギ酸水溶液、B溶媒は0.1%ギ酸+80%アセトニトリル
グラジエントプログラム:試料注入4分後にB溶媒8%、27分後にB溶媒44%、28分後にB溶媒80%、34分後に測定終了
【0150】
(5-3)データ解析
得られたデータは以下の条件で解析し、タンパク質及びペプチドの同定ならびに定量値の算出を行った。
【0151】
ソフトウェア:Scaffold DIA
データベース:UniProtKB/Swiss Prot database (Synechocystis sp. PCC 6803)
Fragmentation:HCD
Precursor Tolerance:8ppm
Fragment Tolerance:10ppm
Data Acquisition Type:Overlapping DIA
Peptide Length:8-70
Peptide Charge:2-8
Max Missed Cleavages:1
Fixed Modification:Carbamidomethylation
Peptide FDR:1%以下
【0152】
同定されたタンパク質のうち相対定量値が最も大きかった30種類のタンパク質のうち、明らかな酵素活性を持つと予想されるものを表4に示す。
【0153】
【0154】
これら6種類のタンパク質は、全て、実施例1のslr1841抑制株及び実施例2のslr0688抑制株の培養上清のそれぞれに含まれていた。これらのタンパク質の全てにおいて、ペリプラズム(外膜と内膜との間隙を指す)移行シグナルが保持されていた。この結果により、実施例1及び実施例2の改変株では、外膜が細胞壁から部分的に脱離することによってペリプラズム内のタンパク質が外膜の外(つまり、菌体外)に漏出しやすくなることが確認できた。したがって、本実施の形態に係る改変シアノバクテリアは、タンパク質の分泌生産性が大幅に向上していることが示された。
【0155】
(6)分泌された細胞内代謝産物の同定
(6-1)試料調製
改変シアノバクテリアの培養上清80μlに対し内部標準物質の濃度を1,000μMとなるよう調整した20μlの水溶液を加えて攪拌し、限外ろ過後、測定に供した。
【0156】
(6-2)CE(Capillary Electrophoresis)-TOFMS(Time-Of-Flight Mass Spectrometry)分析
本試験ではカチオンモード、及び、アニオンモードの測定を以下に示す条件で行った。
【0157】
[カチオンモード]
装置:Agilent CE-TOFMS system
Capillary: Fused silica capillary i.d. 50μm×80cm
測定条件:
Run buffer: Cation buffer solution (p/n: H3301-1001)
CE voltage: Positive, 30kV
MS ionization: ESI positive
MS scan range: m/z 50-1,000
[アニオンモード]
装置:Agilent CE-TOFMS system
Capillary: Fused silica capillary i.d. 50μm×80cm
測定条件:
Run buffer: Anion buffer solution (p/n: H3301-1001)
CE voltage: Positive, 30kV
MS ionization: ESI negative
MS scan range: m/z 50-1,000
【0158】
(6-3)データ処理
CE-TOFMSで検出されたピークは、自動積分ソフトウェアMasterHands(登録商標) ver.2.17.1.11を用いて、シグナル/ノイズ比3以上のピークを自動検出した。検出されたピークに対して、各代謝産物固有の質量電荷比(m/z)と泳動時間の値を元に、HMT(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(株))の代謝物質ライブラリに登録された全物質の値と照合して、改変シアノバクテリアの培養上清に含まれる代謝産物を検索した。検索のための許容誤差は、泳動時間で+/-0.5min、m/zで+/-10ppmとした。同定された各代謝産物について100μMの一点検量として濃度を算出した。同定された主要な代謝産物を表5に示す。
【0159】
【0160】
これら12種類の細胞内代謝産物は、全て、実施例1のslr1841抑制株及び実施例2のslr0688抑制株の培養上清のそれぞれに含まれていた。データは載せていないが、比較例1のControl株の培養上清には、これらの代謝産物は含まれていなかった。この結果により、実施例1及び実施例2の改変株では、外膜が細胞壁から部分的に脱離することによって細胞内代謝産物が外膜の外(つまり、菌体外)に漏出しやすくなることが確認できた。
【0161】
(7)トマト栽培試験
続いて、改変シアノバクテリアの分泌物(ここでは、改変シアノバクテリアの培養上清)のトマト果実の高糖度化効果を評価するために、以下のトマト栽培試験を実施した。なお、改変シアノバクテリアは、実施例1のslr1841抑制株及び実施例2のslr0688抑制株であり、上記の(4-1)と同様に、各菌株の培養は、独立して3回行った。つまり、実施例3及び4では、それぞれ、実施例2の改変シアノバクテリアの培養上清をトマト果実の高糖度化剤として使用した。
【0162】
(7-1)栽培方法
トマト栽培試験では、播種後50日目のミニトマト苗を、基肥(窒素:15.6 kg/10a、リン酸:11.1 kg/10a、カリウム:10.2 kg/10a)をあらかじめ施用したビニールハウス内の土壌に株間40 cm、及び、条間30 cmで定植した。定植後の管理は、脇芽をすべて切除する一本仕立てとし、高さ1.8 mの支柱パイプ以上の高さに草丈が成長したところで斜め誘引に切り替えて栽培を継続した。なお、播種後76日目に追肥(8-8-8化成肥料139 g/m2)した。
【0163】
また、果実の収穫は、第1花房の果実が成熟し色づき始めると、週に2度の頻度で行い、収穫した果実の個数および果実の重量を記録した。また、収穫した果実のおよそ10個あたり1個をランダムに抜き取り、糖度(Brix値)を測定した。そして、ミニトマト1株あたり収穫された果実の累計個数(果実数という)、果実1個当たりの平均重量及び糖度の平均値及び標準偏差(SD)を求めた(表6参照)。
【0164】
(実施例3)
実施例3では、定植後に、水で20倍に希釈したトマト果実の高糖度化剤をミニトマト1株あたり10mL、2週間に1度の頻度で葉面散布することにより施用した。具体的には、実施例3では、トマト果実の高糖度化剤の施用は、ミニトマト苗の定植(言い換えると、ミニトマトの栽培開始)から第一花房の収穫期まで計4回行った。
【0165】
(実施例4)
実施例4では、定植後に、水で希釈していないトマト果実の高糖度化剤をミニトマト1株あたり5mL、2週間に1度の頻度で株元に潅注することにより施用した。具体的には、実施例4では、トマト果実の高糖度化剤の施用は、ミニトマト苗の定植(つまり、ミニトマトの栽培開始)から第一花房の収穫期まで計4回行った。なお、実施例4では、栽培区画で播種後120日ごろから虫害が発生したため、表6には播種後122日時点の結果が示されている。
【0166】
(比較例2)
比較例2では、トマト果実の高糖度化剤の代わりに、水を使用したこと以外、実施例3と同様に行った。これはミニトマト栽培におけるごく一般的な栽培方法(言い換えると、慣行法)である。
【0167】
(比較例3)
比較例3では、水で希釈していないトマト果実の高糖度化剤を5 mLを2週間に1回の頻度で、果実収穫終了日(播種後151日)まで定期的に株元に潅注することで施用した。なお、果実収穫終了日は、第三花房の収穫期の終了日である。
【0168】
(7-2)結果
表6に示されるように、実施例3の方法で栽培されて収穫されたミニトマト1株あたりの平均果実数は、比較例2の方法(慣行法)で栽培されたミニトマトと比較して約22%増加し、平均糖度は約6%増加していた。なお、実施例3の方法で栽培されたミニトマトと比較例2の方法で栽培されたミニトマトは、果実1個当たりの平均重量がほとんど変わらなかった。
【0169】
また、実施例3と比較例3とを比べると、実施例3の方法で栽培されたミニトマト1株あたりの平均果実数は比較例3の方法で栽培されたミニトマトと同程度であったが、平均糖度が10%近く増加していた。一方、比較例3の方法で栽培されたミニトマトは、1個当たりの平均重量が実施例3の方法で栽培されたミニトマトよりも10%近く増加していたが、平均糖度は低かった。なお、比較例3の方法は、栽培通期で2週間に1回の頻度でトマト果実の高糖度化剤を定期的に株元に潅注しており、実施例2と施用期間及び施用箇所が異なる。
【0170】
また、実施例4では、トマト果実の高糖度化剤を株元に潅注する点で実施例3(葉面散布)異なるが、播種後122日時点の結果を比較すると、ミニトマト1株あたりの平均果実数は実施例3の方法で栽培されたミニトマトと同程度であり、果実1個当たりの平均重量も平均糖度も同程度であったことから、実施例3とほぼ同様の効果が見られることが確認された。なお、実施例4は、播種後122日時点の比較例1の結果と比較すると、ミニトマト1株あたりの平均果実数が33.0%増加していた。
【0171】
以上の結果から、実施例3及び実施例4の方法でミニトマトを栽培することによって、慣行法で栽培されたミニトマト(比較例2)よりもトマト果実の収穫数(果実数)が増加し、果実1個当たりの平均重量を低下させることなく、トマト果実を高糖度化することが確認された。また、実施例3及び実施例4の方法でミニトマトを栽培することによって、施用期間を区切らずに栽培通期で施用した場合(比較例3)よりもトマト果実の収穫数を減らすことなく、トマト果実を高糖度化することが確認された。
【0172】
なお、トマト果実の高糖度化方法では、実施例4の潅注よりも実施例3の葉面散布の方がより簡便に本開示のトマト果実の高糖度化剤を施用することができるため、効率的にトマト果実を高糖度化することが可能である。
【0173】
本開示によれば、改変シアノバクテリアを培養することで、簡便に、かつ、効率よくトマト果実の高糖度化剤を製造することができ、トマト果実の高糖度化剤を第一花房の収穫期まで施用することで、トマト果実の収穫数を減らすことなくトマト果実の糖度を向上させることができる。