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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182960
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20231220BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20231220BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096263
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩隆
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA45
3J701BA50
3J701EA02
3J701EA04
3J701EA33
3J701EA54
3J701EA55
3J701FA31
3J701FA46
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】保持器に内外輪と摺動する摺動部材を組み付けて、長期にわたって使用できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】保持器は、第1環状体と、第2環状体と、複数の柱と、を備えたかご型保持器であって、転動体の公転に伴って中心軸mを中心として回転する。内輪の外周及び外輪の内周のうちいずれか一方は、摺動部材が摺動する第1案内面と第2案内面を有する。第1環状体及び第2環状体は、それぞれ少なくとも3個の摺動部材を備え、周方向に直接隣り合う任意の二つの摺動部材は、中心軸mの周りの中心角が180°より小さい角度で配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外輪軌道面を有する環状の外輪と、外周に内輪軌道面を有する環状の内輪と、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面の間に転動可能に配置された複数の転動体と、環状の保持器とを備え、
前記保持器は、第1環状体と、第2環状体と、前記第1環状体と前記第2環状体を略軸方向につなぐ複数の柱と、少なくとも3個の第1摺動部材と、少なくとも3個の第2摺動部材と、を備え、前記第1環状体と前記第2環状体と隣り合う2つの前記柱とで画定されて複数のポケットが形成され、各ポケットにそれぞれ前記転動体が組み込まれ、前記転動体の公転に伴って前記保持器が中心軸mを中心として回転する転がり軸受であって、
前記内輪の外周及び前記外輪の内周のうちいずれか一方は、前記外輪軌道面又は前記内輪軌道面の軸方向の第1の側に第1案内面を有するとともに軸方向の第2の側に第2案内面を有し、
前記少なくとも3個の第1摺動部材は、前記第1環状体の内周又は外周に固定されて前記第1案内面と摺動し、周方向に直接隣り合う任意の二つの前記第1摺動部材は、中心軸mの周りの中心角が180°より小さい角度で配置され、
前記少なくとも3個の第2摺動部材は、前記第2環状体の外周又は内周に固定されて前記第2案内面と摺動し、周方向に直接隣り合う任意の二つの前記第2摺動部材は、中心軸mの周りの中心角が180°より小さい角度で配置されたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記第1環状体は、周方向の少なくとも3か所で、1又は複数の第1貫通穴を有し、
前記第1摺動部材は、前記第1案内面と摺動する第1摺動面を備えた第1本体と、前記第1本体から突出する1又は複数の第1棒状部と、前記第1棒状部の先端部に設けた第1拡大部と、を有し、
前記第1棒状部が前記第1貫通穴の内部に収容されて、前記第1本体が前記第1貫通穴の一方の開口側で前記第1環状体に当接し、
前記第1拡大部は前記第1貫通穴の他方の開口側に露出して前記第1環状体に当接することを特徴とする請求項1に記載する転がり軸受。
【請求項3】
前記第1本体は、前記第1摺動面から窪んだ1又は複数の第1凹部と、前記第1凹部に開口する1又は複数の第2貫通穴と、を有し、
前記第1棒状部は、前記第1貫通穴の内部に収容されるとともに前記第2貫通穴の内部に連通して収容され、前記第1拡大部と反対側の端部に第1頭部を有しており、
前記第1頭部は、前記第1凹部に当接するとともに前記第1摺動面から突出しないことを特徴とする請求項2に記載する転がり軸受。
【請求項4】
前記第2環状体は、周方向の少なくとも3か所で、1又は複数の第3貫通穴を有し、
前記第2摺動部材は、前記第2案内面と摺動する第2摺動面を備えた第2本体と、前記第2本体から突出する1又は複数の第2棒状部と、前記第2棒状部の先端部に設けた第2拡大部と、を有し、
前記第2棒状部が前記第3貫通穴の内部に収容されて、前記第2本体が前記第3貫通穴の一方の開口側で前記第2環状体に当接し、
前記第2拡大部は前記第3貫通穴の他方の開口側に露出して前記第2環状体に当接することを特徴とする請求項1に記載する転がり軸受。
【請求項5】
前記第2本体は、前記第2摺動面から窪んだ1又は複数の第2凹部と、前記第2凹部に開口する1又は複数の第4貫通穴と、を有し、
前記第2棒状部は、前記第3貫通穴の内部に収容されるとともに前記第4貫通穴の内部に連通して収容され、前記第2拡大部と反対側の端部に第2頭部を有しており、
前記第2頭部は、前記第2凹部に当接するとともに前記第2摺動面から突出しないことを特徴とする請求項4に記載する転がり軸受。
【請求項6】
前記第1摺動部材は、少なくとも前記第1案内面と摺接する第1摺動面が固体潤滑剤からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載する転がり軸受。
【請求項7】
前記第2摺動部材は、少なくとも前記第2案内面と摺接する第2摺動面が固体潤滑剤からなることを特徴とする請求項1、請求項4、請求項5のうちいずれか1の請求項に記載する転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大形の転がり軸受、特に、保持器が内輪又は外輪で案内されている転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、内輪と外輪と転動体と保持器を備えている。外輪回転型の転がり軸受は内輪が静止し、外輪が内輪に対して回転する。外輪が静止した内輪に対して回転すると、転動体は、内輪の周りを公転する。このとき、転動体を保持する保持器は、転動体とともに内輪の中心軸を中心にして回転する。
かご型の保持器は、内輪の外周や外輪の内周と滑り接触をしながら回転することにより、保持器の自重を内輪や外輪で支持しつつ内輪及び/又は外輪の中心軸を中心にして回転するタイプのものがある。しかしながらこのタイプの保持器を大形の転がり軸受に使用すると、内輪又は外輪と保持器との滑り速度が大きくなるため、保持器、内輪及び/又は外輪は、摩耗が増大したり、滑り接触面に焼付きが生じるなどの問題が生じる恐れがある。
このような問題に対応するため、保持器は、軌道輪と異種金属である黄銅などの材料で製造されることが考えられる。しかしながら、大形の転がり軸受において、保持器全体が黄銅などの高価な材料で制作されると、保持器のコストは、増大してしまう。特許文献1に開示されている保持器は、環状の保持器を周方向に分割した複数のセグメントで構成し、各セグメントに黄銅などの摺動部材を溶接接合した後、一体に組み合わせる形式の保持器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-094626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の保持器は、摺動部材を溶接接合するときに溶接時の熱によって各セグメントにひずみが生じた場合でも、セグメントの連結部で屈曲することにより保持器の全体としてひずみの影響を小さくできる。
しかしながら、保持器本体が環状の一体物で製作されている場合、保持器は、溶接するときの熱影響によってひずんでしまい、内輪の外周や外輪の内周にはめ合わせることができなくなる恐れがある。そこで摺動部材は、保持器本体にボルトで締結されることも検討されたが、ボルトは、長期にわたって使用すると緩み、転がり軸受は、脱落したボルトをかみ込んで回転不能になる等の不具合が懸念される。
【0005】
以上のような状況に鑑み、本発明は、転がり軸受の保持器本体に摺動部材を組み付けるにあたり、溶接などの熱影響によるひずみを防止するとともにねじの緩みによる部品の脱落を防止して、組立性に優れ、長期にわたって良好な回転を維持できる転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内周に外輪軌道面を有する環状の外輪と、外周に内輪軌道面を有する環状の内輪と、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面の間に転動可能に配置された複数の転動体と、環状の保持器とを備え、前記保持器は、第1環状体と、第2環状体と、前記第1環状体と前記第2環状体を略軸方向につなぐ複数の柱と、少なくとも3個の第1摺動部材と、少なくとも3個の第2摺動部材と、を備え、前記第1環状体と前記第2環状体と隣り合う2つの前記柱とで画定されて複数のポケットが形成され、各ポケットにそれぞれ前記転動体が組み込まれ、前記転動体の公転に伴って前記保持器が中心軸mを中心として回転する転がり軸受であって、前記内輪の外周及び前記外輪の内周のうちいずれか一方は、前記外輪軌道面又は前記内輪軌道面の軸方向の第1の側に第1案内面を有するとともに軸方向の第2の側に第2案内面を有し、
前記少なくとも3個の第1摺動部材は、前記第1環状体の内周又は外周に固定されて前記第1案内面と摺動し、周方向に直接隣り合う任意の二つの前記第1摺動部材は、中心軸mの周りの中心角が180°より小さい角度で配置され、前記少なくとも3個の第2摺動部材は、前記第2環状体の外周又は内周に固定されて前記第2案内面と摺動し、周方向に直接隣り合う任意の二つの前記第2摺動部材は、中心軸mの周りの中心角が180°より小さい角度で配置されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、転がり軸受の保持器に摺動部材を組み付けるにあたり、溶接などの熱影響によるひずみを防止するとともに、ねじの緩みによる部品の脱落を防止して、組立性に優れ、長期にわたって良好な回転を維持できる転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である転がり軸受の軸方向断面図である。
図2図2(a)は、第2環状体の側から見た保持器の斜視図であり、図2(b)は、図2(a)の一部を拡大した部分拡大図である。
図3】第1環状体を含む領域を拡大した軸方向断面図である。
図4図4(a)は、保持器単体の部分側面図であり、図4(b)は、図4(a)の保持器を白抜き矢印Bの向きに見た平面図である。
図5】第2環状体を含む領域を拡大した軸方向断面図である。
図6図6(a)は、保持器単体の部分側面図であり、図6(b)は、図4(a)の保持器を白抜き矢印Dの向きに見た平面図である。
図7】他の実施形態における第2環状体を含む領域を拡大した軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態(以下、「第1実施形態」)である転がり軸受10の軸方向断面図である。転がり軸受10は、中心軸mを中心とする環状であって、図1は、径方向の一方の断面を示している。
転がり軸受10は、風力発電用設備のナセルに組み込まれて、ブレードが搭載された主軸を回転支持する用途で使用される。第1実施形態の転がり軸受10は、外輪11の外径が概ね2500ミリメートル、内輪12の内径が概ね2000ミリメートルである。なお、転がり軸受10の大きさは例示であって、本発明は、上記寸法より小径又は大径の転がり軸受においても同様に適用することができる。本発明は、特に、大形軸受、超大形軸受に適用することが好ましい。
以下の説明において、中心軸mと平行な方向は軸方向であり、中心軸mと直交する方向は径方向であり、中心軸mを中心として周回する方向は周方向である。また、図の左方は軸方向の第1の側であり、右方は軸方向の第2の側である。
【0010】
転がり軸受10は、円すいころ軸受で、外輪11と内輪12と複数の円すいころ13(転動体)と保持器14とを備えている。
【0011】
外輪11は全体として中心軸mを中心とする環状である。外輪11は、クロムモリブデン鋼(JIS G4053-2016 機械構造用合金鋼鋼材 例えば、SCM430、SCM432、SCM435、SCM440、SCM445等)などの鋼材で製造される。なお、鋼種は、例示であって、ここに記載した鋼種に限定するものではない。
【0012】
外輪11は、軸受外径面15、外輪背面16、外輪正面17、外輪軌道面18を備えている。
軸受外径面15は中心軸mを中心とする円筒面である。外輪背面16は、軸受外径面15の軸方向第1の側とつながって中心軸mと直交する向きで径方向内方に延在している。外輪正面17は、軸受外径面15の軸方向第2の側とつながって中心軸mと直交する向きで径方向内方に延在している。外輪軌道面18は、円すいころ13が転動する面である。外輪軌道面18は、軸方向第1の側から軸方向第2の側に向けて拡径するテーパ面で、中心軸mを中心とする円錐面の一部である。
【0013】
内輪12は、全体として中心軸mを中心とする環状ある。内輪12は、クロムモリブデン鋼(JIS G4053-2016 機械構造用合金鋼鋼材 例えば、SCM430、SCM432、SCM435、SCM440、SCM445等)などの鋼材で製造される。なお、鋼種は例示であって、ここに記載した鋼種に限定するものではない。
【0014】
内輪12は、軸受内径面21、内輪正面22、内輪背面23を備えており、外周側に小つば24、内輪軌道面25、大つば26を備えている。
軸受内径面21は中心軸mを中心とする円筒面である。内輪正面22は、軸受内径面21の軸方向第1の側の端部とつながって中心軸mと直交する向きで径方向外方に延在し、小つば外周面24aの軸方向第1の側の端部とつながっている。内輪背面23は、軸受内径面21の軸方向第2の側の端部とつながって中心軸mと直交する向きで径方向外方に延在し、大つば外周面26aの軸方向第2の側の端部とつながっている。
【0015】
内輪軌道面25は外輪軌道面18と径方向で対向しており、円すいころ13が転動する面である。内輪軌道面25は、軸方向第2の側に向けて拡径するテーパ面で、中心軸mを中心とする円錐面の一部である。
【0016】
小つば24は、内輪軌道面25の軸方向第1の側に形成されて、円すいころ13を保持している。小つば24は、小つば外周面24a(第1案内面)ところ保持面27を備えている。小つば外周面24aは、内輪正面22の外周側端部とつながって軸方向第2の側に向けて中心軸mと平行に延在する円筒面である。小つば外周面24aの外径は、内輪軌道面25の最小径より大きい。ころ保持面27は、小つば外周面24aの軸方向第2の側の端部と、内輪軌道面25の軸方向第1の側の端部と、をつなぎ、略径方向に延在する。
【0017】
大つば26は、内輪軌道面25の軸方向第2の側に形成されて、円すいころ13を案内するとともに円すいころ13の大端面31の主に軸方向の推力を支持している。大つば26は、大つば外周面26a(第2案内面)ところ案内面32を備えている。大つば外周面26aは、内輪背面23の外周側端部とつながって軸方向第1の側に向けて中心軸mと平行に延在する円筒面である。大つば外周面26aの外径は、内輪軌道面25の最大径より大きい。ころ案内面32は、大つば外周面26aの軸方向第1の側の端部と、内輪軌道面25の軸方向第2の側の端部と、をつなぎ、略径方向に延在する。
【0018】
円すいころ13は、SUJ2などの軸受鋼で製造される。円すいころ13は、略円錐台の形状であって、小端面30、大端面31、転動面33を備えている。転動面33は、小端面30から大端面31に向けて拡径するテーパ面であって、中心軸pを中心とする円錐面の一部で形成されている。小端面30及び大端面31は、いずれも中心軸pと略直交する向きに延在する側面である。小端面30は円錐台の小底面である。大端面は円錐台の大底面である。
【0019】
図2によって保持器14の形態を説明する。図2(a)は第2環状体37の側から見た保持器14の斜視図である。図2(b)は、図2(a)の一部を拡大した部分拡大図である。保持器14は、第1環状体36と第2環状体37と複数の柱38と複数の第1摺動部材39及び複数の第2摺動部材40を備えている。保持器本体35は、第1環状体36と第2環状体37と複数の柱38とを含む。
保持器本体35は、S25Cなどの炭素鋼材を切削加工することによって一体物として製造される。複数の第1摺動部材39は、第1環状体36の内周に固定される。複数の第2摺動部材40は、第2環状体37の内周に固定される。
第1環状体36と第2環状体37はそれぞれ中心軸mを中心とする環状であって、第1環状体36の直径は第2環状体37の直径より小径である。第1環状体36と第2環状体37は、略軸方向に延在する複数の柱38でつながっている。各柱38は、中心軸mを含む平面に沿って延在しており、周方向に等しい間隔で配置されている。
【0020】
ポケット41は、第1環状体36と第2環状体37とで軸方向に挟まれて、かつ、隣り合う二つの柱38で周方向に挟まれた空間である。円すいころ13は、各ポケット41に小端面30を第1環状体36の側に向けて一つずつ組付けられる。第1実施形態の保持器14は、80個のポケット41を有する。なお、ポケット41の数は例示であって、適宜増減できる。
第1環状体36と第2環状体37との距離L1(図2(b)参照)は、円すいころ13の全長(円すいころ13の中心軸pの方向の小端面30と大端面31との距離)よりわずかに大きい。また、ポケット41を画定する柱38と柱38との接線方向の距離L2(図2(b)参照)は、この接線方向の距離L2に重なる円錐ころの距離よりわずかに大きい。このため、円すいころ13は、ポケット41の内側で中心軸pを中心として自在に回転することができる。
【0021】
各柱38は、軸方向の2か所において略径方向に突出するころ抜け止め42を有している。ころ抜け止め42は、径方向外方ほどポケット41の内側に向けて傾斜している。ポケット41を挟んで周方向で向き合う二つのころ抜け止め42、42の先端部の距離は、当該ころ抜け止め42の軸方向位置における円すいころ13の直径より小さい。このため、円すいころ13は、保持器14の径方向内側(中心軸mの側である)から保持器14に組み付けることができる。組付けられた円すいころ13は、径方向外方でころ抜け止め42と当接するので、ポケット41を通り抜けて径方向外方への脱落が防止される。
なお、保持器14及び円すいころ13が転がり軸受10に組み込まれたとき(図1参照)、円すいころ13ところ抜け止め42とは径方向に離れている。このため、転がり軸受10の回転時に、円すいころ13は保持器14によって回転を阻害されない。また、各ポケット41に円すいころ13が組付けられた状態の保持器サブアッセンブリを内輪12に組み付けるときに、円すいころ13は内輪軌道面25から径方向外方にずれた位置でころ抜け止め42と当接して保持されるので、円すいころ13は、小つば24と干渉しない。また、組付け後に、ころ抜け止め42をかしめる等により、向き合う二つの抜け止め42、42の先端部の距離をより小さくすることで、円すいころ13は、小つば24を乗り越えない。
【0022】
次に、図3図4によって、第1環状体36及び第1摺動部材39について詳細に説明する。
図3は、第1リベット45と中心軸mを含む断面で切断した軸方向断面を示している。なお、第1リベット45の組込状態を示すために、第1環状体36の断面は、図4(a)のX-Xの位置で、中心軸mと平行な平面で切断して矢印の向きに見た断面を示している。円すいころ13は、第1リベット45と中心軸mを含む断面で切断した軸方向断面を示す。図4(a)は、保持器14単体を、第1摺動部材39が組付けられている周方向位置で図3に白抜き矢印Aで示す向きに見た部分側面図である。図4(b)は、図4(a)の保持器14を径方向内方から白抜き矢印Bの向きに見た平面図である。
【0023】
第1摺動部材39は、第1本体59と、2本の第1リベット45(第1棒状部)を有しており、第1本体59が第1リベット45によって第1環状体36と強固に固定されている。第1リベット45は、JIS B1213(1995)に規定される頭部が球面の丸リベットを使用しているが、薄平リベットやなべリベットなど、その他の形式のリベットを使用してもよい。また、第1リベット45の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼、銅、黄銅、アルミニウムなど、使用条件に応じて種々選択できる。
なお、図4(a)では、左側の第1リベット45は、第1本体59に組付ける前の状態を示しており、第1リベット45は矢印Rの向きに挿入される。
【0024】
図3を参照する。第1環状体36は、第1外周面48、第1内周面49、第2内周面50、第1側面51及び第2側面52を有する。第1環状体36は柱38とつながっている。このため、第1外周面48は、柱38の外周面と連続しており、第1内周面49は、柱38の内周面と連続している。また、周方向でポケット41が形成されている位置において、第1外周面48の軸方向第2の側の端部と第1内周面49の軸方向第2の側の端部は、ポケット41の内側面でつながっている。第1外周面48及び第1内周面49は、中心軸mを中心とする円錐面の一部であり、それぞれの母線は、円すいころ13の中心軸pと略平行に延在している。
第2内周面50は、中心軸mを中心とする円筒面である。第2内周面50の内径は、小つば外周面24aの外径より大きく、第1環状体36と内輪12の小つば24との間に径方向のすきまs1が設けられている。第1側面51は、径方向に延在する面で、第1外周面48の軸方向第1の側の端部と第2内周面50の軸方向第1の側の端部をつないでいる。第2側面52は、略径方向に延在する面で、第1内周面49の軸方向第1の側の端部と第2内周面50の軸方向第2の側の端部をつないでいる。
【0025】
図4(a)に示すように、第1環状体36は、内周に第1本体59を収容するための複数の第1溝部54を有している。第1溝部54は、第2内周面50から径方向外方に向けて凹んだ溝であり、第2内周面50に沿って一様な断面形状で軸方向に延在している。第1溝部54は、第1環状体36の内周に、周方向に等しい間隔で6か所に形成されている(図2参照)。
第1溝部54は、第1溝底面54aと第1溝側面54bと第2溝側面54cとで画定される。第1溝底面54aは、中心軸mと平行な平面であるとともに、中心軸mを含んで径方向に延在する平面qと直交する平面である。第1溝側面54b及び第2溝側面54cは、平面qと平行で、平面qを挟んで互いに周方向に対向している。第1溝側面54bと平面qとの距離は、第2溝側面54cと平面qとの距離に等しい。
6か所に形成された第1溝部54の第1溝底面54aは、互いに中心軸mから等しい距離の位置に設置されている。
【0026】
第1環状体36は、各第1溝部54の位置に、互いに平行に延在する2本の第1貫通穴56、56を備えている。各第1貫通穴56の内径は、第1リベット45の軸部の直径よりわずかに大径であり、第1リベット45の傾きを抑えつつ容易に挿入することができる。各第1貫通穴56は、それぞれ第1溝底面54aと直交する向きに延在して、第1環状体36を略径方向に貫通している。2本の第1貫通穴56、56は、第1溝底面54aの中心位置に関して対称の位置に配置される。
第1貫通穴56は、第1リベット45を収容して第1本体59を第1環状体36に固定する用途で使用される。第1実施形態では2本の第1貫通穴56、56が設けられているが、第1貫通穴56の数は1であってもよく、3以上であってもよい。この場合であっても、1又は複数の第1貫通穴56は、第1本体59を均等に第1溝底面54aに押し付けることができるように、第1溝底面54aの中心位置に関して対称の位置に配置されるのが好ましい。
【0027】
第1ざぐり部57が、第1貫通穴56の第1外周面48の側の開口部に、第1外周面48から所定の深さだけ窪んで設けられている。第1ざぐり部57は、第1貫通穴56の中心軸n1を中心とする底付き円筒形状である。第1ざぐり部57の第1底面57aは、中心軸n1と直交する向きに形成されている。第1ざぐり部57の円筒部の直径は第1貫通穴56より大径であり、第1貫通穴56は第1ざぐり部57の第1底面57aに開口している。
【0028】
同じく図4によって第1本体59について説明する。第1本体59は、第1環状体36の第1溝部54に一つずつ第1リベット45で固定される。第1実施形態の転がり軸受10では第1本体59の数は6個であり、各第1本体59は、互いに同等の形状である。
第1本体59は、略直方体の形状であって、第1上平面60、第1摺動面61、周方向両側の側面である一対の周方向側面62、62及び一対の軸方向側面63、63を備えている。
第1上平面60は、平面視が長方形形状で第1溝底面54aと当接する平面である。第1摺動面61は、第1上平面60に対して板厚方向の反対側に形成されている。第1摺動面61は、中心軸mを中心とする円筒面の一部であって、図4(a)に示すように、中心軸mと直交する断面では周方向の中央が第1上平面60の側にわずかに凸の円弧形状となっている。第1摺動面61の曲率半径は、内輪12の小つば外周面24aの曲率半径と同等である。
【0029】
一対の周方向側面62、62は互いに平行な面であり、第1上平面60と直交している。一対の周方向側面62、62の距離は、第1溝部54の第1溝側面54bと第2溝側面54cとの距離と同等である。第1実施形態において、一対の周方向側面62、62の距離は、第1環状体36の内周の2~5%程度に設定しているが、一対の周方向側面62、62の距離は、これに限定されるものではない。第1摺動面61の面積を大きくすることによって接触面圧を低くできるので、一対の周方向側面62、62の距離は、第1本体59と内輪12とが滑り接触をするときの接触面圧や摺動速度などの使用条件に応じて、適宜変更できる。
【0030】
一対の軸方向側面63、63は、互いに平行な面であり、第1上平面60及び一対の周方向側面62と直交している。一対の軸方向側面63、63の軸方向の距離は、第1環状体36の第1側面51と第2側面52との軸方向の距離とほぼ同等に設定されている。
【0031】
第1本体59は、内輪12や外輪11と摺動したときの滑り摩擦係数が小さく、長期にわたって使用した場合であっても摩耗が少ないことが要求される。そこで、第1本体59の材料は、摺動する相手側の材料(本実施形態では鉄系である)と異なる青銅や黄銅などの金属材料や、油や樹脂を含侵させた焼結材料のほか、二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の固体潤滑剤を使用できる。なお、第1本体59は、第1本体59の全体を上記材料で製造してもよく、内輪12の小つば外周面24aと滑り接触をする第1摺動面61を含む所定の厚さの範囲のみを上記材料で製造して、その他の部分を安価な炭素鋼等で製造してもよい。
【0032】
第1本体59は、第1上平面60と直交する向きに延在して板厚の方向に貫通する2本の第2貫通穴64を備えている。第2貫通穴64の内径は、第1貫通穴56の内径と同等である。2本の第2貫通穴64は、第1環状体36に設けた2本の第1貫通穴56と対応する位置に配置されており、第1本体59を第1環状体36に組付けたときは、第1貫通穴56と第2貫通穴64とが中心軸n1を一致させて連通している。
【0033】
また、第2ざぐり部65(第1凹部)が、第2貫通穴64の第1摺動面61の側の開口部に、第1摺動面61から所定の深さだけ窪んで設けられている。第2ざぐり部65は、第2貫通穴64の中心軸n1を中心とする底付き円筒形状である。第2ざぐり部65の第2底面65aは、中心軸n1と直交する向きに形成されている。第2ざぐり部65の円筒部の直径は第2貫通穴64より大径であり、第2貫通穴64は第2ざぐり部65の第2底面65aに開口している。
【0034】
第1環状体36に第1本体59を固定するとき、第1本体59は、第1上平面60が第1溝底面54aと当接する向きで、第1溝部54に組み付けられる。第1本体59が第1貫通穴56の径方向内方の開口側で第1環状体36に当接した状態で、2本の第1リベット45は、第1本体59の第1摺動面61の側から第2貫通穴64に挿入される。
第1貫通穴56と第2貫通穴64とが中心軸を共通にして連通しているので、第1リベット45は、第1本体59から突出して第1貫通穴56の内部に収容される。第1リベット45の第1頭部45aは、第2ざぐり部65に収容される。
【0035】
第2ざぐり部65は、第1リベット45の第1頭部45aを収容できる大きさになっている。すなわち、第2ざぐり部65の円筒部の直径は、第1頭部45aの直径より大きく、第2底面65aの第1摺動面61からの中心軸n1に沿った距離が第1頭部45aの高さより大きい。第2ざぐり部65に収容された第1頭部45aは、第1摺動面61より外方に露出しない。好ましくは、第1頭部45aは、第1摺動面61から中心軸n1の方向で所定の距離だけ離れて設置されるのがよい。これにより、長期の使用により第1本体59が摩耗した場合であっても、第1頭部45aが第1摺動面61から露出することは、確実に防止できる。第1摺動面16が過剰に摩耗しない限り、第1リベット45の第1頭部45aは、第1摺動面61から露出しないので、第1頭部45aは、内輪12の小つば外周面24aに直接接触しない。小つば外周面24aの損傷や摩耗は防止され、第1リベット45と小つば外周面24aとの間で焼付きが生じることは、防止される。
【0036】
第1リベット45の第1頭部45aが、第2ざぐり部65の第2底面65aと当接すると、第1リベット45の軸部は、第1貫通穴56の径方向外方の開口側に露出する。露出した軸部をプレス等で押しつぶすと、第1リベット45の端部は、塑性変形して、中心軸n1を中心とする直径が拡大した第1拡大部58になる。第1ざぐり部57は、第1拡大部58を収容できる大きさになっている。
【0037】
第1拡大部58は、第1環状体の外面である第1ざぐり部57の第1底面57aに当接して、第1リベット45が抜け出すのを防止するので、第1本体59は、第1環状体36に確実に固定される。図2(b)は、第1環状体36の内周に第1本体59が固定された状態を示している。
なお、第1環状体36が1又は複数の第1貫通穴56を有し、第1本体59が各第1貫通穴56と連通する1又は複数の第2貫通穴64を有し、1又は複数の第1リベット45が各貫通穴56、64にそれぞれ収容されてもよい。
【0038】
図4(a)に示すように、第1本体59が第1溝部54に組付けられると、第1摺動面61は、第2内周面50より径方向内方に突出するとともに、中心軸mから小つば外周面24aの曲率半径と等しい距離の位置に配置される。これにより、6個の第1本体59の第1摺動面61は、全体として、小つば外周面24aと同等の直径を有する単一の円筒面を構成する。
【0039】
図5によって、第2環状体37及び第2摺動部材40の組込状態について説明する。図5は、第2環状体37を含む領域を拡大した図3と同様の軸方向断面図である。円すいころ13は、第2リベット45と中心軸mを含む断面で切断した軸方向断面を示す。
第2摺動部材40は、第2本体78と2本の第2リベット46(第2棒状部)を有しており、第2本体78が、第2リベット46によって第2環状体37と強固に固定される。第2摺動部材40の組込状態は、第1環状体36における第1摺動部材39の組込状態と同様であるため、共通する構成については簡単に説明する。なお、第2リベット46は第1リベット45と同様の形態である。
【0040】
第2環状体37は第2外周面67、第3外周面68、第3内周面69、第4内周面70、第3側面71及び第4側面72を備えている。
第2環状体37は柱38とつながっている。このため、第2外周面67は、柱38の外周面と連続しており、第3内周面69は、柱38の内周面と連続している。第2外周面67及び第3内周面69は、中心軸mを中心とする円錐面の一部であり、それぞれの母線は、円すいころ13の中心軸pと略平行に延在している。また、周方向でポケット41が形成されている位置において、第2外周面67の軸方向第1の側の端部と第3内周面69の軸方向第1の側の端部は、ポケット41の内側面でつながっている。
第3外周面68は、中心軸mを中心とする円筒面で、第2外周面67の軸方向第2の側の端部とつながっている。第4内周面70は、中心軸mを中心とする円筒面である。第4内周面70の内径は、大つば外周面26aの外径より大きく、第2環状体37と内輪12の大つば26との間に径方向のすきまs2が設けられている。
第3側面71は、略径方向に延在して、第3内周面69の軸方向第2の側の端部と第4内周面70の軸方向第1の側の端部をつないでいる。第4側面72は、略径方向に延在して、第3外周面68の軸方向第2の側の端部と第4内周面70の軸方向第2の側の端部を、略径方向につないでいる。なお、第3外周面68と第4側面72とは、やや大きい面取りでつながっている。
【0041】
図6(a)は、保持器14単体を、第2摺動部材40が組付けられている周方向位置で図5に白抜き矢印Cで示す向きに見た部分側面図である。図6(b)は、図6(a)の保持器14を径方向内方から白抜き矢印Dの向きに見た平面図である。
第2環状体37は、内周に第2本体78を収容するための複数の第2溝部74を有している。第2溝部74は、第2内周面50から径方向外方に向けて凹んだ溝であり、第4内周面70に沿って一様な断面形状で軸方向に延在している。第2溝部74は、第2溝底面74aと第3溝側面74b及び第4溝側面74cとで画定される。第2溝部74は、第2環状体37の内周に、周方向に等しい間隔で6か所に形成されている(図2参照)。各第2溝部74の第2溝底面74aは、互いに中心軸mから等しい距離の位置に設置されている。
【0042】
第2環状体37は、第1環状体36と同様に、各第2溝部74の位置に2本の第3貫通穴75を備えている。第3貫通穴75の内径は、第2リベット46の軸部の直径よりわずかに大径で、第2リベット46の傾きを抑えつつ容易に挿入することができる。第3貫通穴75は、第2溝底面74aと直交する向きに延在して、第2環状体37を略径方向に貫通している。第3貫通穴75は、第2リベット46の軸部を収容して第2本体78を第2環状体37に固定する用途で使用される。このため、第3貫通穴75の数は1であってもよく、3以上であってもよい。
【0043】
第3ざぐり部76が、第3貫通穴75の第3外周面68の側の開口部に、第3外周面68から所定の深さだけ窪んで設けられている。第3ざぐり部76は、第3貫通穴75の中心軸n2を中心とする底付き円筒形状である。第3ざぐり部76の第3底面76aは、中心軸n2と直交する向きに形成されている。
【0044】
第2本体78について説明する。第2本体78は、略直方体の形状であって、第2上平面79、第2摺動面80、周方向両側の側面である一対の周方向側面81、81及び一対の軸方向側面83、83を備えている。
【0045】
第2摺動面80は、中心軸mを中心とする円筒面の一部であり、図6(a)に示すように、中心軸mと直交する断面では、周方向の中央が第2上平面79に向けてわずかに凸の円弧形状となっている。第2摺動面80の曲率半径は、内輪12の大つば外周面26aの曲率半径と同等である。
一対の周方向側面81、81は互いに平行な面であり、一対の周方向側面81、81の距離は第1溝部54の第1溝側面54bと第2溝側面54cとの距離と同等である。また、一対の周方向側面81、81の距離は、第2環状体37の内周の2~5%程度に設定しているが、一対の周方向側面81、81の距離は、これに限定されるものではない。
一対の軸方向側面83、83は、互いに平行な面であり、その軸方向の距離は、第2環状体37の第3側面71と第4側面72との軸方向の距離とほぼ同等に設定されている。
また、第2本体78の材質は、第1本体45の材質で選択可能な材質から選ばれる。各部の形態は。第1本体59と同様であるため説明を省略する。
【0046】
第2本体78は、第2上平面79と直交する向きに延在して板厚の向きに貫通する2本の第4貫通穴84を備えている。第4貫通穴84の内径は、第3貫通穴75の内径と同等である。第2本体78を第2環状体37に組付けたときは、第3貫通穴75と第4貫通穴84とが中心軸を一致させて連通している。
【0047】
また、第4ざぐり部85(第2凹部)が、第4貫通穴84の第2摺動面80の側の開口部に、第2摺動面80から所定の深さだけ窪んで設けられている。第4ざぐり部85は、第4貫通穴84の中心軸n2を中心とする底付き円筒形状である。第4ざぐり部85の第4底面85aは、中心軸n2と直交する向きに形成されている。
【0048】
第2環状体37に第2本体78を固定するとき、第2本体78は、第2上平面79と第2溝底面74aとが当接する向きで、第2溝部74に組み付けられる。第2本体78が第3貫通穴75の径方向内方の開口側で第2環状体37に当接した状態で、2本の第2リベット46は、第2本体78の第2摺動面80の側から第4貫通穴84に挿入される。
第3貫通穴75と第4貫通穴84とが中心軸を共通にして連通しているので、第2リベット46は、第2本体78から突出して第3貫通穴75の内部に収容される。第2リベット46の第2頭部46aは、第4ざぐり部85に収容される。
【0049】
第4ざぐり部85は、第2ざぐり部65と同様に第2リベット46の第2頭部46aを収容できる大きさになっている。このため、第2摺動面80が過剰に摩耗しない限り、第4ざぐり部85に収容された第2頭部46aは、第2摺動面80より外方に露出しない。好ましくは、第2頭部46aは、第2摺動面80から中心軸n2の方向で所定の距離だけ離れて設置される。こうして、第2リベット46の第2頭部46aは、内輪12の大つば外周面26aに直接接触しない。大つば外周面26aの損傷や摩耗は防止され、第2リベット46と大つば外周面26aとの間で焼付きが生じることは、防止される。
【0050】
第2リベット46の第2頭部46aが第4ざぐり部85の第4底面85aと当接すると、第2リベット46の軸部は、第3貫通穴75の径方向外方の開口側に露出する。露出した軸部をプレス等で押しつぶすと、第2リベット46の端部は、塑性変形して、中心軸n2を中心とする直径が拡大した第2拡大部77になる。第3ざぐり部76は、第2拡大部77を収容できる大きさになっている。
【0051】
第2拡大部77は、第2環状体37の外面である第3ざぐり部76の第3底面76aに当接して、第2リベット46が抜け出すのを防止するので、第2本体78は、第2環状体37に確実に固定される。図2(b)は、第2環状体37の内周に第2本体78が固定された状態を示している。
なお、第2環状体37が1又は複数の第3貫通穴75を有し、第2本体78が各第3貫通穴75と連通する1又は複数の第4貫通穴84を有し、1又は複数の第2リベット46が各連通穴75、84にそれぞれ収容されてもよい。
【0052】
図6(a)に示すように、各第2本体78が第2溝部74に組付けられると、第2摺動面80が、第4内周面70より径方向内方に突出するとともに、中心軸mから大つば外周面26aの曲率半径と等しい距離の位置に配置される。これにより、6個の第2摺動面80は、全体として、大つば外周面26aと同等の直径を有する単一の円筒面を構成する。
【0053】
また、各摺動部材39、40は、一対の周方向側面62、62、81、81の距離を、各溝部54、74を画定する周方向両側の溝側面54b、54c、74b、74cの距離よりわずかに大きくして、周方向にしまり嵌めの状態で各溝部54、74に組付けてもよい。しまり嵌めの状態で組付けることにより、各摺動部材39、40の周方向の動きは、各環状体36、37に対して抑制されるので、リベット45、46の緩みを更に確実に防止できるからである。
【0054】
転がり軸受10の組み立て手順を説明する。
第1実施形態の保持器14は、第1環状体36の内周及び第2環状体37の内周に、それぞれ6個の摺動部材39、40が固定される。その後、各摺動部材39、40が取り付けられた保持器14は、第2環状体37の側を上にして中心軸を鉛直方向に向けて配置される。この状態で、複数の円すいころ13は、各ポケット41に一つずつ組付けられる。保持器13に複数の円すいころ13を組付けたものは、保持器サブアッセンブリである。このとき、各円すいころ13は、ころ抜け止め42に当接するように径方向外方に寄った位置に組み込まれる。しかる後、内輪12は、その中心軸を保持器サブアッセンブリの中心軸と一致する向きで軸方向に組み合わされる。円すいころ13は、小つば24を超えて内輪軌道面25に配置される。また、組付け後に、ころ抜け止め42をかしめる等により、向き合う二つの抜け止め42、42の先端部の距離をより小さくすることで、円すいころ13は、小つば24を乗り越えない。
【0055】
第1実施形態の保持器14は、第1本体59及び第2本体78が、それぞれリベット45、46を用いて第1環状体36及び第2環状体37に固定されている。このため、従来の溶接によって固定する保持器の製造方法と比較して、摺動部材39、40を保持器14本体に取り付ける工程が保持器14本体に何らの熱影響も及ぼさないため、保持器14のひずみは大幅に低減され、第1環状体36及び第2環状体37のひずみは抑制される。このため、各摺動部材39、40の摺動面61、80は、従来の保持器に比べて、より単一の円筒面を構成した状態を維持できる。
このため、保持器サブアッセンブリと内輪12とを組み合わせるときに、第1環状体36の内周は、容易に小つば24の外周に嵌め合わせられるとともに、第2環状体37の内周は、容易に大つば26の外周に嵌め合わせられる。保持器サブアッセンブリと内輪12とを組み合わせたものは、コーンアセンブリである。
【0056】
その後、外輪11が、コーンアセンブリに軸方向に組み合わされる。こうして、図1に示した転がり軸受10が完成する。転がり軸受10は、内輪軌道面25及び外輪軌道面18の間に複数の円すいころ13が転動可能に配置される。保持器14は、第1環状体36が、小つば24の径方向外方で、複数の円すいころ13の小端面30に沿って配置されるとともに、第2環状体37が、大つば26の径方向外方で、複数の円すいころ13の大端面31に沿って配置される。
【0057】
内輪12と外輪11とが相対的に回転すると、円すいころ13は、各軌道面18、25を転動し、中心軸mを中心として公転する。円すいころ13は、保持器14のポケット41に収容されているので、保持器14は、円すいころ13とともに中心軸mを中心として回転する。このとき、保持器14と内輪12とが相対的に回転するので、第1摺動部材39は小つば外周面24aと摺動し、第2摺動部材40は大つば外周面26aと摺動する。
各摺動部材39、40の摺動面61、80は、滑り摩擦係数が小さく摩耗が少ない材料で製造されているため、保持器14と内輪12との滑り接触面の摩耗や焼付きは防止され、転がり軸受10は、長期にわたって良好な回転を維持することができる。
【0058】
第1実施形態において、第1摺動部材39及び第2摺動部材40は、それぞれ第1環状体36及び第2環状体37の内周の6か所に配置されている。しかしながら、本発明は、これに限定されず、各摺動部材39、40の数がそれぞれ3以上であって、周方向に直接隣り合う二つの摺動部材39、40の中心軸mの周りの中心角が、180°より小さい角度であればよい。ここで、「周方向に直接隣り合う」は、第1環状体36においては選択した任意の二つの第1摺動部材39、39の間に他の第1摺動部材39が存在せず、第2環状体37においては選択した任意の二つの第2摺動部材40、40の間に他の第2摺動部材40が存在しない状態である。「周方向に直接隣り合う二つの摺動部材の中心軸mの周りの中心角」は、選択した任意の二つの摺動部材39、40について、他の摺動部材39、40が存在しない側での中心角である。これにより、中心軸mは、中心軸mと直交する平面内で各第1摺動部材39をつなぐ多角形の内側に配置されるとともに、中心軸mは、中心軸mと直交する平面内で各第2摺動部材40をつなぐ多角形の内側に配置される。このため、第1環状体36は、小つば24と中心軸を共通にして配置されるとともに、第2環状体37は、大つば26と中心軸mを共通にして配置される、こうして、保持器14は、外輪11及び内輪12と中心軸を共通にして回転できる。
【0059】
また、第1実施形態では、各摺動部材39、40と各環状体36、37とは、リベット45、46で結合されているので、ねじ締結の場合のように、ボルトやナットなどの構成を有していない。したがって、転がり軸受10は、ねじの緩みによる部品の脱落や、脱落した部品のかみ込み等の不具合を防止して、長期にわたって良好な回転を維持することができる。
【0060】
また、上記で説明した実施形態は例示であって、本発明は、種々の変更ができる。
本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態の転がり軸受10の各摺動部材39、40は、摺動部材の本体59、78を各環状体36、37に組付けた状態で、径方向内側からリベット45、46を挿入している一方、第2実施形態の転がり軸受10は、摺動部材の本体(以下、第3本体87)と棒状部(以下、第3棒状部88)とが一体に組み合わされている点が異なっている。
【0061】
図7は、第2実施形態の保持器14について、図5と同様の、第2環状体37の軸方向断面図を示している。第1実施形態と共通する構成については同一の番号を付している。なお、第1環状体36の態様は、第2環状体37と同様であるため、第1環状体36の説明を省略する。
【0062】
第3本体87は、第2本体78と同様の形態である。第3棒状部88は、一方の端部が、第3本体87から突出しており、当該一方の端部は、第2リベット46の軸部と同様の円柱形状である。第3棒状部88は、他方の端部がインサート成形や鋳造による鋳込みによって第3本体87と一体に成形されている。第3棒状部88の他方の端部は、例えば円柱形状や直方体形状等、一方の端部より拡大した形状となっている。これにより、第3棒状部88は、第3本体87に対して容易に傾かないよう強固に保持される。なお、第3棒状部88の他方の端部は、第2リベット46の第2頭部46aと同様の形態であってもよい。
【0063】
第2環状体37に第3本体87を固定するとき、第3棒状部88は、第3貫通穴75に挿入される。第3本体87が第3貫通穴75の径方向内方の開口側で第2環状体37に当接すると、第3棒状部88の一方の端部は、第3貫通穴75の径方向外方の開口側に露出する。露出した一方の端部をプレス等で押しつぶすと、第3棒状部88の先端部は、塑性変形して、中心軸n2を中心とする直径が拡大した第3拡大部89になる。図7は、塑性変形する前の第3棒状部88を破線で示し、第3拡大部89を実線で示している。第3拡大部89は、第2環状体37の外面である第3ざぐり部76の第3底面76aに当接して、第3棒状部88が抜け出すのを防止するので、第3本体87は、第2環状体37に確実に固定される。なお、第3本体87と第3棒状部88とは、単一の材料で一体に形成されていても良い。
【0064】
以上の説明で理解できるように、各実施形態の転がり軸受10は、内輪12又は外輪11と滑り接触をする保持器14に摺動部材を組み付けるにあたり、溶接などの熱影響によるひずみを防止するとともにねじの緩みによる部品の脱落を防止したので、保持器14の組付けが容易になるとともに長期にわたって良好な回転を維持することができる。
【0065】
各実施形態の転がり軸受10は、風力発電装置に組み込まれた転がり軸受10であった一方、本発明の転がり軸受は、この用途に限定されないアプリケーションで使用できる。本発明の転がり軸受は、例えば、鉄鋼の鋳造設備に使用される旋回座軸受や、トンネル掘削機の主軸を支持する転がり軸受などに適用してもよい。
また、本実施形態の転がり軸受10は、本発明を円すいころ軸受に適用して、保持器に組付けた摺動部材が内輪の外周と滑り接触をしている。しかしながら、本発明の転がり軸受は、この構成に限定されることなく、円筒ころ軸受や自動調心ころ軸受に使用してもよい。これらの軸受に使用する場合、転がり軸受は、摺動部材が内輪の外周と滑り接触をする構成に限定されず、転がり軸受は、摺動部材を環状体の外周側に固定して、摺動部材が外輪の内周面と滑り接触をする構成であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10:転がり軸受、11:外輪、12:内輪、13:円すいころ、14:保持器、15:軸受外径面、16:外輪背面、17:外輪正面、18:外輪軌道面、21:軸受内径面、22:内輪正面、23:内輪背面、24:小つば、24a:小つば外周面、25:内輪軌道面、26:大つば、26a:大つば外周面、27:保持面、30:小端面、31:大端面、32:ころ案内面、33:転動面、36:第1環状体、37:第2環状体、38:柱、39:第1摺動部材、40:第2摺動部材、41:ポケット、42:ころ抜け止め、45:第1リベット、45a:第1頭部、46:第2リベット、46a:第2頭部、48:第1外周面、49:第1内周面、50:第2内周面、51:第1側面、52:第2側面、54:第1溝部、54a:第1溝底面、54b:第1溝側面、54c:第2溝側面、56:第1貫通穴、57:第1ざぐり部、57a:第1底面、58:第1拡大部、59:第1本体、60:第1上平面、61:第1摺動面、62:周方向側面、63:軸方向側面、64:第2貫通穴、65:第2ざぐり部、65a:第2底面、67:第2外周面、68:第3外周面、69:第3内周面、70:第4内周面、71:第3側面、72:第4側面、74:第2溝部、74a:第2溝底面、74b:第3溝側面、74c:第4溝側面、75:第3貫通穴、76:第3ざぐり部、76a:第3底面、77:第2拡大部、78:第2本体、79:第2上平面、80:第2摺動面、81:周方向側面、82:軸方向側面、84:第4貫通穴、85:第4ざぐり部、85a:第4底面、87:第3本体、88:棒状部、89:第3拡大部
図1
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図5
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図7