(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182985
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】地上子検出装置
(51)【国際特許分類】
B61L 25/02 20060101AFI20231220BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20231220BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B61L25/02 H
B60L15/40 A
B61L3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096319
(22)【出願日】2022-06-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月1日にウェブサイト掲載 令和3年11月1日に論文集CD発行
(71)【出願人】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前 友章
(72)【発明者】
【氏名】奥山 豊和
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CC05
5H161AA01
5H161DD16
(57)【要約】
【課題】簡便なアルゴリズムを使用しながら、地上子検出の信頼性を高める。
【解決手段】地上子検出装置10は、1次コイル14及び2次コイル16を有し、地上子と電磁結合する車上子12と、地上子が有し得る複数の所定周波数をそれよりも小さい周波数間隔で包含する複数の周波数を含む離散周波数スペクトルの送信波を、1次コイル14へ注入する送信処理部22と、2次コイル16の受信波から離散周波数スペクトルを抽出する周波数弁別部40と、離散周波数スペクトルの周波数成分のレベルにより規定されるスペクトル波形から所定形状を抽出するスペクトル特徴抽出部52と、所定形状の有無に応じて地上子を検出する地上子検出部60とを含む。これにより、スペクトル波形に現れる共振周波数をレベルの大きさではなく波形形状によって抽出することができ、地上子検出の信頼性を高めることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路に沿って設置された、複数の所定周波数のうちの何れかの周波数を共振周波数として有する地上子を、走行中の鉄道車両から検出する地上子検出装置であって、
互いに疎結合する1次コイル及び2次コイルを有し、前記地上子に近接したときに前記地上子と電磁結合する車上子と、
前記複数の所定周波数を全て包含する複数の周波数を前記複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で含む離散周波数スペクトルの送信波を、前記1次コイルへ注入する送信処理部と、
前記2次コイルが受信する受信波から前記離散周波数スペクトルを抽出する周波数弁別部と、
該周波数弁別部により抽出された前記離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形から、所定形状を抽出するスペクトル特徴抽出部と、
前記所定形状の有無に応じて前記地上子を検出する地上子検出部と、を含むことを特徴とする地上子検出装置。
【請求項2】
前記送信処理部は、前記送信波を一定の電圧で前記1次コイルへ注入し、
前記周波数弁別部は、抽出した前記離散周波数スペクトルを、各周波数成分の受信電圧に基づいてレベル変換することを特徴とする請求項1記載の地上子検出装置。
【請求項3】
前記離散周波数スペクトルは、前記車上子と前記地上子との電磁結合時の合成インピーダンスの反共振周波数を包含する帯域幅を有することを特徴とする請求項1記載の地上子検出装置。
【請求項4】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記所定形状として、前記反共振周波数から周波数高域側へ向かって、前記車上子と前記地上子との電磁結合時の共振周波数までレベルが上昇した後、周波数高域側へ向かってレベルが下降する形状を抽出することを特徴とする請求項3記載の地上子検出装置。
【請求項5】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記スペクトル波形を、周波数高域側へ向かってレベルが上昇する正勾配線分と、周波数高域側へ向かってレベルが下降する負勾配線分と、前記正勾配線分及び前記負勾配線分の何れにも該当しない平坦線分との3種の線分のうち、任意の線分を組み合わせて折れ線状に近似することを特徴とする請求項1記載の地上子検出装置。
【請求項6】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形の各線分について、少なくとも、周波数低域側の端点である始点の周波数及びレベルと、周波数高域側の端点である終点の周波数及びレベルとを、線分1次属性群として算出することを特徴とする請求項5記載の地上子検出装置。
【請求項7】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形の各線分について、少なくとも、前記始点と前記終点とのレベル差と、前記始点と前記終点との周波数の差である帯域幅とを、線分2次属性群として算出することを特徴とする請求項6記載の地上子検出装置。
【請求項8】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から、周波数高域側へ向かって前記正勾配線分から前記負勾配線分へと変化する、及び/又は、周波数高域側へ向かって前記正勾配線分から微小帯域幅の前記平坦線分を経て前記負勾配線分へと変化する、ピーク形状を抽出することを特徴とする請求項7記載の地上子検出装置。
【請求項9】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状を構成する前記正勾配線分をピーク正勾配線分とし、前記ピーク形状を構成する前記負勾配線分をピーク負勾配線分としたときに、前記ピーク形状の各々について、少なくとも、前記ピーク正勾配線分の前記レベル差の絶対値と前記ピーク負勾配線分の前記レベル差の絶対値との合計である正規化ピークレベルと、前記ピーク正勾配線分の前記帯域幅と前記ピーク負勾配線分の前記帯域幅との合計である正規化ピーク帯域幅と、前記ピーク正勾配線分の前記終点の周波数と前記ピーク負勾配線分の前記始点の周波数との平均である正規化ピーク周波数とを、正規化ピーク1次属性群として算出し、
前記地上子検出部は、前記正規化ピーク1次属性群を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定することを特徴とする請求項8記載の地上子検出装置。
【請求項10】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状の各々について、前記正規化ピークレベルと前記正規化ピーク帯域幅との比である正規化勾配を、正規化ピーク2次属性群として算出し、
前記地上子検出部は、前記正規化勾配を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定することを特徴とする請求項9記載の地上子検出装置。
【請求項11】
前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状の各々について、前記ピーク正勾配線分の前記レベル差の絶対値と前記ピーク負勾配線分の前記レベル差の絶対値との比である正規化勾配レベル分配比を、更に前記正規化ピーク2次属性群として算出し、
前記地上子検出部は、前記正規化勾配レベル分配比を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定することを特徴とする請求項10記載の地上子検出装置。
【請求項12】
前記地上子検出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から同時に抽出された前記ピーク形状の数に応じて、前記地上子の有無を判定することを特徴とする請求項8記載の地上子検出装置。
【請求項13】
前記地上子検出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から同時に抽出された前記ピーク形状の数と、前記同時に抽出された前記ピーク形状の中から、前記正規化ピーク1次属性群及び前記正規化ピーク2次属性群を利用して判定される、前記地上子の候補としてカウントされた前記ピーク形状の数とに応じて、当該地上子検出装置の機器異常の発生及び環境異常の発生を推定することを特徴とする請求項11記載の地上子検出装置。
【請求項14】
線路に沿って設置された、複数の所定周波数のうちの何れかの周波数を共振周波数として有する地上子を、走行中の鉄道車両から検出する地上子検出方法であって、
互いに疎結合する1次コイル及び2次コイルを有し、前記地上子に近接したときに前記地上子と電磁結合する車上子を、前記鉄道車両へ設置し、
前記複数の所定周波数を全て包含する複数の周波数を前記複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で含む離散周波数スペクトルの送信波を、前記1次コイルへ注入し、
前記2次コイルが受信する受信波から前記離散周波数スペクトルを抽出し、
抽出した前記離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形から、所定形状を抽出し、
前記所定形状の有無に応じて前記地上子を検出することを特徴とする地上子検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の所定周波数のうちの何れかの周波数を共振周波数として有する地上子を、走行中の鉄道車両から検出する地上子検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道の保安性向上のために使用されている自動列車停止装置(ATS)では、線路に沿って設置された地上子を検出するために、従来、変周式のものが多く採用されている。変周式のATSでは、車上側において、車上子(二重の巻線が疎結合されたコイル)によって帰還ループを構成した発振回路が常時発振しており、地上子(コイル+コンデンサ)と車上子とが近接したときに、電磁的な結合が生じる。この際、車上側の発振周波数が、地上子で定まる共振周波数へと変化する原理(変周)を用いて、停止現示などの情報として利用するものである。このような変周式の方法は、アナログ回路を多く用いていることから、部品供給性や設計再現性などに難があり、別の方法が模索されていた。
【0003】
そこで、特許文献1の装置は、デジタル化を図るために、スペクトラム信号を車上子より送信し、地上子から反射してくる周波数をFFT解析して、地上子の共振周波数を検知している。また、特許文献2の装置は、特許文献1の装置と類似した方法を採用し、消費電力を抑制しながら地上子の検知精度を向上させるものとなっている。更に、特許文献3の装置は、地上子の共振周波数近辺でスイープさせた送信波を一定周期で繰り返し送信し、その反射を受信する方法を用いており、特許文献4の装置は、検知対象の地上子周波数に加えて、それより低域側及び高域側の地上子周波数の複素相関値を算出することで、耐ノイズ性を高めた検知を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4596819号公報
【特許文献2】特許第5951240号公報
【特許文献3】特許第3959015号公報
【特許文献4】特許第4879219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した特許文献1~3記載の発明は、何れも、地上子の周波数にのみ着目しているため、地上子の周波数と同一周波数のノイズまで誤って検知してしまい、信頼性に難がある。これに対し、特許文献4記載の発明は、耐ノイズ性を高めているものの、検知アルゴリズムが複雑化してしまう課題がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡便なアルゴリズムを使用しながら、地上子検出の信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)線路に沿って設置された、複数の所定周波数のうちの何れかの周波数を共振周波数として有する地上子を、走行中の鉄道車両から検出する地上子検出装置であって、互いに疎結合する1次コイル及び2次コイルを有し、前記地上子に近接したときに前記地上子と電磁結合する車上子と、前記複数の所定周波数を全て包含する複数の周波数を前記複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で含む離散周波数スペクトルの送信波を、前記1次コイルへ注入する送信処理部と、前記2次コイルが受信する受信波から前記離散周波数スペクトルを抽出する周波数弁別部と、該周波数弁別部により抽出された前記離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形から、所定形状を抽出するスペクトル特徴抽出部と、前記所定形状の有無に応じて前記地上子を検出する地上子検出部と、を含む地上子検出装置。
【0008】
本項に記載の地上子検出装置は、走行中の鉄道車両から地上子を検出するものであり、車上子、送信処理部、周波数弁別部、スペクトル特徴抽出部、及び地上子検出部を含んでいる。車上子は、互いに疎結合する1次コイル及び2次コイルを有してそれらの間で送受信を常時行っており、鉄道車両が走行しているときに、鉄道車両に取り付けられた車上子が線路近傍の地上子に近接すると、地上子と車上子とが電磁結合する。送信処理部は、離散周波数スペクトルを有する送信波を、車上子の1次コイルへと注入するものである。その送信波の離散周波数スペクトルは、検出対象の地上子が共振周波数として有している可能性のある複数の所定周波数の全てを包含する複数の周波数を、複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で含んでいる。
【0009】
1次コイルへ注入される上記のような送信波は、1次コイルと疎結合している2次コイルにより受信される。周波数弁別部は、2次コイルが受信する受信波から、送信処理部により生成されたものと同じ周波数成分を有する離散周波数スペクトルを抽出する。また、スペクトル特徴抽出部は、そのようにして周波数弁別部により抽出された離散周波数スペクトルから、それらの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形を生成し、更にそのスペクトル波形から、予め定められた所定形状を抽出する。そして、地上子検出部は、スペクトル波形から抽出される所定形状の有無に応じて、地上子を検出するものである。
【0010】
ここで、上記のように地上子と車上子とが電磁結合すると、各地上子が情報として有する複数の所定周波数のうちの何れかの周波数が、共振周波数として車上子へと伝達される。すなわち、車上子の2次コイルで受信される受信波に共振周波数が影響して、受信波に基づいて生成されるスペクトル波形に、地上子の共振周波数と同じ周波数成分のレベルが大きくなる形状が現れることになる。そこで、スペクトル特徴抽出部によってスペクトル波形から抽出する所定形状として、共振周波数でレベルが大きくなるような形状が設定されることで、その共振周波数を有する地上子に対して車上子が電磁結合したことが検出されるものである。これにより、スペクトル波形に現れる共振周波数が、レベルの大きさではなく波形の形状によって抽出されるため、単にレベルが大きいノイズの誤検出や、様々な要因による絶対レベルの変動の影響などが抑制されるものとなり、地上子検出の信頼性が高められるものである。しかも、スペクトル波形からの所定形状の抽出は、処理データの単純化などの工夫によって、比較的簡便なアルゴリズムが用いられて実現されるものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記送信処理部は、前記送信波を一定の電圧で前記1次コイルへ注入し、前記周波数弁別部は、抽出した前記離散周波数スペクトルを、各周波数成分の受信電圧に基づいてレベル変換する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、送信処理部が車上子の1次コイルへ送信波を注入する際に、一定の電圧で送信波を注入するものである。そして、周波数弁別部は、2次コイルの受信波から抽出した離散周波数スペクトルを、各周波数成分の受信電圧に基づいてレベル変換するものである。このため、スペクトル特徴抽出部は、周波数弁別部によってレベル変換された離散周波数スペクトルに基づいて生成されるスペクトル波形から、所定形状を抽出することになる。これにより、送信波には存在しなかった周波数成分間の電圧差が、地上子との電磁結合によって受信波に現れるようになり、更に所定のレベル変換操作によって電圧差が増大する。従って、そのような電圧差がレベルで反映されたスペクトル波形からの所定形状の抽出が容易になり、地上子の検出精度が向上するものである。
【0012】
(3)上記(1)項において、前記離散周波数スペクトルは、前記車上子と前記地上子との電磁結合時の合成インピーダンスの反共振周波数を包含する帯域幅を有する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、送信処理部によって生成される送信波の離散周波数スペクトルや、周波数弁別部によって抽出される離散周波数スペクトルが、車上子と地上子との電磁結合時の合成インピーダンスの反共振周波数を包含する帯域幅を有するものである。反共振周波数は、車上子と地上子との電磁結合時に、共振周波数よりも低域側にレベルが小さくなる形状で現れるため、地上子が有し得る複数の所定周波数の全てについて、共振周波数(所定周波数)よりも低域側の上記のような領域がカバーされるように、離散周波数スペクトルの帯域幅が設定される。そして、スペクトル特徴抽出部によって抽出される所定形状に、電磁結合時の反共振周波数の影響が現れた形状が含められることで、地上子とノイズとの識別がより明確になるため、地上子検出の信頼性がより高められるものである。
【0013】
(4)上記(3)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記所定形状として、前記反共振周波数から周波数高域側へ向かって、前記車上子と前記地上子との電磁結合時の共振周波数までレベルが上昇した後、周波数高域側へ向かってレベルが下降する形状を抽出する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部によってスペクトル波形から抽出される所定形状が、以下のようにより具体的に特定されるものである。すなわち、所定形状として、比較的低レベルの反共振周波数から周波数高域側へ向かって、共振周波数までレベルが上昇した後、周波数高域側へ向かってレベルが下降する形状が設定される。これにより、レベルが反共振周波数から共振周波数まで大きく上昇した後に下降するという、地上子との電磁結合時に現れる特徴的な形状が設定されるため、ノイズとの切り分けが益々容易になり、地上子がより精度よく検出されるものである。
【0014】
(5)上記(1)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記スペクトル波形を、周波数高域側へ向かってレベルが上昇する正勾配線分と、周波数高域側へ向かってレベルが下降する負勾配線分と、前記正勾配線分及び前記負勾配線分の何れにも該当しない平坦線分との3種の線分のうち、任意の線分を組み合わせて折れ線状に近似する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、離散周波数スペクトルの周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形を、3種の線分のうち任意の線分を組み合わせて折れ線状に近似するものである。それら3種の線分は、周波数高域側へ向かってレベルが上昇する正勾配線分と、周波数高域側へ向かってレベルが下降する負勾配線分と、正勾配線分及び負勾配線分の何れにも該当しない平坦線分とである。これにより、スペクトル波形がそのまま取り扱われる場合と比較して、後段で処理されるデータ量が圧縮されることになるため、後段処理のプログラム実装が容易になるものである。
【0015】
(6)上記(5)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形の各線分について、少なくとも、周波数低域側の端点である始点の周波数及びレベルと、周波数高域側の端点である終点の周波数及びレベルとを、線分1次属性群として算出する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、上記(5)項に記載したように折れ線状に近似されたスペクトル波形の各線分について、線分1次属性群を算出するものである。この線分1次属性群には、少なくとも、各線分の周波数低域側の端点である始点の周波数及びレベルと、各線分の周波数高域側の端点である終点の周波数及びレベルとが含まれている。これにより、各線分の特徴が、より処理し易いデータ群として表現されるものである。
【0016】
(7)上記(6)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形の各線分について、少なくとも、前記始点と前記終点とのレベル差と、前記始点と前記終点との周波数の差である帯域幅とを、線分2次属性群として算出する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、上記(5)項に記載したように折れ線状に近似されたスペクトル波形の各線分について、更に、上記(6)項に記載した線分1次属性群を利用して線分2次属性群を算出するものである。この線分2次属性群には、少なくとも、各線分の始点と終点とのレベル差と、各線分の始点と終点との周波数の差である帯域幅とが含まれている。これにより、各線分の特徴が、より一層処理し易いデータ群として表現されるものである。
【0017】
(8)上記(7)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から、周波数高域側へ向かって前記正勾配線分から前記負勾配線分へと変化する、及び/又は、周波数高域側へ向かって前記正勾配線分から微小帯域幅の前記平坦線分を経て前記負勾配線分へと変化する、ピーク形状を抽出する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、上記(5)項に記載したように折れ線状に近似されたスペクトル波形から、ピーク形状を抽出するものである。このピーク形状とは、周波数高域側へ向かって正勾配線分から負勾配線分へと変化する部分、及び/又は、周波数高域側へ向かって正勾配線分から微小帯域幅の平坦線分を経て負勾配線分へと変化する部分である。
【0018】
ここでの微小帯域幅の平坦線分とは、帯域幅が比較的小さい平坦線分であり、微小帯域幅の平坦線分であるか否かは、その前後の正勾配線分及び負勾配線分の帯域幅の大きさや、実験結果などが考慮されて判断される。このようなピーク形状が用いられて処理が行われることで、折れ線状に近似されたスペクトル波形の全体が取り扱われる場合と比較して、後段で処理されるデータ量が圧縮されることになるため、スペクトル特徴抽出部や地上子検出部などの処理を行うアルゴリズムの簡略化が図られ、CPUの負荷が低減されるものである。なお、スペクトル波形から抽出されるピーク形状の数は、ピーク形状に相当する部分がなければゼロであってもよく、ピーク形状に相当する部分が複数あれば複数であってもよい。
【0019】
(9)上記(8)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状を構成する前記正勾配線分をピーク正勾配線分とし、前記ピーク形状を構成する前記負勾配線分をピーク負勾配線分としたときに、前記ピーク形状の各々について、少なくとも、前記ピーク正勾配線分の前記レベル差の絶対値と前記ピーク負勾配線分の前記レベル差の絶対値との合計である正規化ピークレベルと、前記ピーク正勾配線分の前記帯域幅と前記ピーク負勾配線分の前記帯域幅との合計である正規化ピーク帯域幅と、前記ピーク正勾配線分の前記終点の周波数と前記ピーク負勾配線分の前記始点の周波数との平均である正規化ピーク周波数とを、正規化ピーク1次属性群として算出し、前記地上子検出部は、前記正規化ピーク1次属性群を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定する地上子検出装置。
【0020】
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、上記(8)項に記載したように抽出されたピーク形状の各々について、ピーク形状を構成する正勾配線分をピーク正勾配線分とし、ピーク形状を構成する負勾配線分をピーク負勾配線分としたときに、以下のような正規化ピーク1次属性群を算出するものである。すなわち、正規化ピーク1次属性群には、少なくとも、正規化ピークレベル、正規化ピーク帯域幅、及び正規化ピーク周波数が含まれており、正規化ピークレベルとは、ピーク正勾配線分のレベル差の絶対値とピーク負勾配線分のレベル差の絶対値との合計である。また、正規化ピーク帯域幅とは、ピーク正勾配線分の帯域幅とピーク負勾配線分の帯域幅との合計であり、ピーク形状に微小帯域幅の平坦線分が含まれている場合はそれも加味して算出する。更に、正規化ピーク周波数とは、ピーク正勾配線分の終点の周波数とピーク負勾配線分の始点の周波数との平均である。
【0021】
そして、地上子検出部は、上記のような各ピーク形状の正規化ピーク1次属性群を利用して、そのピーク形状が地上子を示すものであるか否か、すなわち、地上子と車上子とが電磁結合して現れたピーク形状であるか否かを判定するものである。このように、正規化ピーク1次属性群が利用されることで、車上子と地上子との間の距離によって刻々と変化する、共振周波数及び反共振周波数を含む特徴的なピーク形状が、ソフトウェアなどで容易に抽出されるものとなる。また、正規化ピーク1次属性群に含まれる属性は何れも単純な指標であるから、地上子を示すピーク形状を判定するソフトウェア処理はシンプルであり、低速なCPUなどで処理されるものとなる。
【0022】
更に、正規化ピーク1次属性群の1つである正規化ピークレベルは、正勾配線分と負勾配線分とが統合されて算出されるため、FFTなどの単純なスペクトル解析から検出された極大値のみの従来のピークレベルと比較して、大きなS/N比が得られる。これにより、耐ノイズ性に優れた信頼性の高い地上子の検出方式が実現されるものとなり、また、送信処理部で用いられる送信アンプの電力が従来方式より小さくて済むため、装置の小型化や低コスト化に寄与するものとなる。しかも、正規化ピークレベルは、正勾配線分のレベル差と負勾配線分のレベル差とが統合された相対レベルであるため、絶対レベルが相殺されており、絶対レベルの変動の要因である回路ゲイン、車上子結合度などの影響が表出しない。このため、地上子検出の信頼性がより一層向上するものである。
【0023】
(10)上記(9)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状の各々について、前記正規化ピークレベルと前記正規化ピーク帯域幅との比である正規化勾配を、正規化ピーク2次属性群として算出し、前記地上子検出部は、前記正規化勾配を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、上記(8)項に記載したように抽出されたピーク形状の各々について、更に正規化ピーク2次属性群を算出するものであり、この正規化ピーク2次属性群には、正規化ピークレベルと正規化ピーク帯域幅との比である正規化勾配が含まれている。そして、地上子検出部は、スペクトル特徴抽出部により算出された各ピーク形状の正規化勾配を利用して、そのピーク形状が地上子を示すものであるか否かを判定するものである。
【0024】
すなわち、正規化ピークレベルと正規化ピーク帯域幅との比である正規化勾配は、例えば正規化ピークレベルを正規化ピーク帯域幅で除して算出すると、地上子結合の方が単一周波数ノイズよりも小さくなる(傾きが緩い)傾向にある。このため、ノイズ周波数と地上子周波数とが同一だとしても、正規化勾配が比較されたときの上記のような大きさの関係から、単一周波数ノイズが地上子であると誤検出されることなく、これによって地上子が精度よく検出されるものとなる。
【0025】
(11)上記(10)項において、前記スペクトル特徴抽出部は、前記ピーク形状の各々について、前記ピーク正勾配線分の前記レベル差の絶対値と前記ピーク負勾配線分の前記レベル差の絶対値との比である正規化勾配レベル分配比を、更に前記正規化ピーク2次属性群として算出し、前記地上子検出部は、前記正規化勾配レベル分配比を利用して、前記ピーク形状が前記地上子を示すものであるか否かを判定する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部が、ピーク形状の各々について、正規化ピーク2次属性群として更に正規化勾配レベル分配比を算出するものである。この正規化勾配レベル分配比は、ピーク正勾配線分のレベル差の絶対値とピーク負勾配線分のレベル差の絶対値との比である。そして、地上子検出部は、スペクトル特徴抽出部により算出された各ピーク形状の正規化勾配レベル分配比を利用して、そのピーク形状が地上子を示すものであるか否かを判定するものである。
【0026】
ここで、車上子と地上子との電磁結合時には、磁束の影響により、検出するべきメインローブの前後のタイミングで、検出するべきではないサイドローブが発生する。メインローブでは反共振周波数が共振周波数よりも小さくなるピーク形状が発生するのに対し、サイドローブでは反共振周波数が共振周波数よりも大きくなるピーク形状が発生する。すなわち、メインローブのピーク形状では、反共振周波数から共振周波数までの正勾配線分のレベル差の絶対値の方が、負勾配線分のレベル差の絶対値よりも大きくなる。これに対し、サイドローブのピーク形状では、正勾配線分のレベル差の絶対値よりも、共振周波数から反共振周波数までの負勾配線分のレベル差の絶対値の方が大きくなる。このため、正規化勾配レベル分配比が利用されて、ピーク正勾配線分のレベル差の絶対値とピーク負勾配線分のレベル差の絶対値との大小が比較されることで、不要なサイドローブの検出が安定的に抑制されるものである。
【0027】
(12)上記(8)項において、前記地上子検出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から同時に抽出された前記ピーク形状の数に応じて、前記地上子の有無を判定する地上子検出装置。
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部により折れ線状に近似されたスペクトル波形から同時に抽出されたピーク形状の数に応じて、地上子検出部が地上子の有無を判定するものである。ここで、車両機器や軌道回路機器からのノイズは一般的に電源系から生じるパルスノイズが多く、短時間ではあるが広帯域な成分が生じるため、このような場合にピーク形状が同時に複数抽出される。従って、ピーク形状の数が地上子の検出に利用されることで、ノイズがより効率よく排除されることになるため、CPUの処理負荷が軽減されつつ、地上子の検出精度が高められるものである。
【0028】
(13)上記(11)項において、前記地上子検出部は、前記折れ線状に近似された前記スペクトル波形から同時に抽出された前記ピーク形状の数と、前記同時に抽出された前記ピーク形状の中から、前記正規化ピーク1次属性群及び前記正規化ピーク2次属性群を利用して判定される、前記地上子の候補としてカウントされた前記ピーク形状の数とに応じて、当該地上子検出装置の機器異常の発生及び環境異常の発生を推定する地上子検出装置。
【0029】
本項に記載の地上子検出装置は、スペクトル特徴抽出部により折れ線状に近似されたスペクトル波形から同時に抽出されたピーク形状の数と、そのように同時に抽出されたピーク形状の中から地上子の候補としてカウントされたピーク形状の数とに応じて、地上子検出部が機器異常及び環境異常を推定するものである。地上子の候補としてカウントされるピーク形状は、正規化ピーク1次属性群及び正規化ピーク2次属性群を利用して判定される。すなわち、スペクトル波形から複数のピーク形状が同時に抽出された場合は、上記(12)項に記載したようにノイズの影響である可能性が高いため、これが利用されてノイズなどの環境異常の推定が行われる。また、地上子の候補としてカウントされたピーク形状が複数ある場合は、地上子検出装置の機器異常である可能性が高いため、これが利用されて故障などの機器異常の推定が行われる。これにより、地上子の高精度な検出と共に、機器監視やノイズ監視が実現されるものである。
【0030】
(14)線路に沿って設置された、複数の所定周波数のうちの何れかの周波数を共振周波数として有する地上子を、走行中の鉄道車両から検出する地上子検出方法であって、互いに疎結合する1次コイル及び2次コイルを有し、前記地上子に近接したときに前記地上子と電磁結合する車上子を、前記鉄道車両へ設置し、前記複数の所定周波数を全て包含する複数の周波数を前記複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で含む離散周波数スペクトルの送信波を、前記1次コイルへ注入し、前記2次コイルが受信する受信波から前記離散周波数スペクトルを抽出し、抽出した前記離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形から、所定形状を抽出し、前記所定形状の有無に応じて前記地上子を検出する地上子検出方法。
本項に記載の地上子検出方法は、上記(1)項の地上子検出装置により実行されることで、上記(1)項の地上子検出装置と同様の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明は上記のような構成であるため、簡便なアルゴリズムを使用しながら、地上子検出の信頼性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施の形態に係る地上子検出装置の構成を概略的に示す配置イメージ図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る地上子検出装置の構成及び機能を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る地上子検出装置による地上子検出方法の基本概念を説明するためのスペクトル波形のイメージ図である。
【
図5】スペクトル波形を折れ線状に近似する様子を示している。
【
図6】ピーク形状を正規化する様子を示すイメージ図である。
【
図7】地上子候補となるピーク形状を判定する方法の一例を示すフロー図である。
【
図8】地上子の最終判定方法の一例を示すフロー図である。
【
図9】正規化勾配を利用して地上子とノイズとを判別する方法を説明するためのイメージ図である。
【
図10】正規化勾配レベル分配比を利用してメインローブとサイドローブとを判別する方法を説明するためのイメージ図である。
【
図11】ピーク形状の数を利用して地上子とノイズとを判別する方法を説明するためのイメージ図である。
【
図12】スペクトル波形の絶対レベルが変動する様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10の構成の一例を、地上子検出装置10が自動列車停止装置(ATS)に用いられた場合を例にして概略的に示している。図示のように、地上子検出装置10は、鉄道車両86に設置される車上装置20及び車上子12を含み、鉄道車両86が走行して線路84の近傍に設置された地上子80に対して車上子12が近接したときに、地上子80を検出するものである。
【0034】
車上装置20は、送信処理部22、受信処理部32、及び制御部70を含み、車上子12は、互いに疎結合する1次コイル14及び2次コイル16から構成され、それらの間で常に送受信を行うものであり、変周式のATSと同一のものが用いられてよい。1次コイル14及び2次コイル16は、これに限定されるものではないが、同一の断面積及び巻数を標準としている。詳しくは後述するが、車上子12の1次コイル14には、送信処理部22で生成された送信波が注入され、2次コイル16には車上子12周囲との電磁作用が反映された電圧が現れ、その電圧が受信波として受信処理部32に取り込まれる。なお、「1次コイル」及び「2次コイル」という名称は便宜上のものであり、それらの使用方法が上記と反対になっていてもよい。
【0035】
受信処理部32は、車上子12と電磁結合した地上子80の周波数の特定を行うものである。制御部70は、車上装置20の全体の制御を担うものであって、受信処理部32によって特定された地上子80の周波数に基づいて列車制御信号を送出したり、鉄道車両86の速度情報を受信したりする。また、制御部70は、受信した速度情報に基づいて速度超過などの判定を実施してもよい。なお、車両制御部78は、地上子検出装置10を構成するものではなく、鉄道車両86の走行を制御するものであり、制御部70から送出された列車制御信号などに基づいて、鉄道車両86のブレーキ、速度制御などを実施する。
【0036】
一方、地上子検出装置10が検出対象とする地上子80は、変周式のATSで使用されているものと同じ構造であり、ループコイルをインダクタとして、ループコイルに直列接続されたコンデンサと直列共振し、その共振周波数自体を情報として有している。共振周波数は、仕様として予め設定された複数の所定周波数のうちの何れかの周波数に一致するように、コンデンサの値が選定されている。また、地上子80において、複数の所定周波数のうちの2つ以上の周波数が、切り替え可能に共振周波数として設定されるようになっていてもよい。それら複数の所定周波数(例えば
図3の上方に示されるf1~f8)の各々に対して、停止現示や速度現示などの諸情報が定義されており、その定義内容、利用される所定周波数の数、所定周波数の周波数値などは、鉄道事業者によって異なっている。
【0037】
地上子80のインダクタ(ループコイル)とコンデンサとの間には、リレー82が挿入されている。このリレー82は、通常時は開放されており、上記のような情報を鉄道車両86へ通知する場合に、リレー82が動作して接点が構成されることで、LC共振回路が有効化される。リレー82の動作制御は、前方列車在線状態などを示す、地上子80の外部からの制御入力によって実施される。例えば、前方に列車が在線しておらずブレーキ指令が不要の場合は、地上子80のコイルがリレー82で開放され、車上子12が地上子80と近接しても電磁結合は発生しないため、車上にて停止現示が認識されることはない。
【0038】
次に、
図2には、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10の機能ブロック図を示しており、この機能ブロック図に沿って、地上子検出装置10による具体的な地上子検出方法について説明する。
図1に示された送信処理部22及び車上子12が
図2にも示されており、
図2の前段処理部34、周波数弁別部40、スペクトル特徴抽出部52、及び地上子検出部60が、
図1の受信処理部32を構成するものであって、
図2の指令出力部72及び出力制御部74が、
図1の制御部70を構成するものである。なお、
図2の機能ブロック図の構成は一例であって、
図2の機能ブロックの一部が変更、削除、分割された構成や、別の機能ブロックが追加された構成であってもよい。また、各機能ブロックを具体的に構成するハードウェア及びソフトウェアの構成は、
図2を参照して下記で説明する構成に限定されるものではなく、各機能を実現できる範囲で任意の構成であってよい。
【0039】
まず、地上子検出装置10による地上子検出方法の基本概念を説明すると、地上子検出装置10では、車上子12の2次コイル16で受信した受信波から、後述するような離散周波数スペクトルを受信処理部32において抽出し、更に各周波数成分の受信電圧に基づいてレベル変換して、離散周波数スペクトルの包絡線である
図3のようなスペクトル波形SW(SW1、SW2)を得る。そしてそのようなスペクトル波形SWから、車上子12と地上子80とが電磁結合したときに共振周波数において極大値maxとなり反共振周波数において極小値minとなるような波形形状に着目して、その波形形状を含むような所定形状(ピーク形状PS)を抽出することで、地上子80及びその共振周波数を検出するものである。
【0040】
図2に戻り、送信処理部22は、波形テーブル24、D/A変換部26、及び電力増幅部28を含み、波形テーブル24は、複数の周波数が重畳した離散周波数スペクトルの送信波データを有している。その複数の周波数は、検出対象の地上子80が有し得る複数の所定周波数の全てを含むと共に、複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔で設定されている。本実施形態では、複数の所定周波数として
図3の上部に示されたf1~f8(73kHz、80kHz、85kHz、90kHz、95kHz、103kHz、120kHz、130kHz)を含むように、70kHz~139kHzの帯域で1kHz又は2kHz間隔の64波の周波数が、複数の周波数として設定される。このような波形テーブル24は、フラッシュメモリなどの各種メモリに格納される。なお、離散周波数スペクトルの帯域幅は、地上子80が有し得る共振周波数の全て(複数の所定周波数f1~f8)について、車上子12と地上子80との電磁結合時の合成インピーダンスの反共振周波数が含まれるように、特に周波数低域側に余裕を持って設定されてもよい。
【0041】
波形テーブル24から読み出された送信波データは、D/A変換部26においてデジタルデータからアナログへと変換され、更に電力増幅部28において電力が増幅された状態で、送信波として車上子12の1次コイル14へ入力される。このとき、送信波の離散周波数スペクトルの各周波数成分は、一定の電圧レベルで入力されるようになっている。
図4(a)には、そのような一定の電圧レベルで入力される、上記のような離散周波数スペクトルを有する送信波が、周波数低域側について示されており、図示の周波数帯域には複数の所定周波数f1~f8のうちf1及びf2が含まれている。なお、D/A変換部26には任意のD/Aコンバータが用いられ、電力増幅部28にはアンプなどの既知の増幅器が利用される。
【0042】
図4(a)に図示されている複数の周波数の周波数間隔Δfの大きさは、地上子80の周波数誤差Δeを含んだ共振周波数での極大値max(
図3参照)を精度よく検出することや、受信処理部32での負荷などが考慮されて、適切な値に設定される。例えばΔfは、これに限定されるものではないが、「0.5Δe≦Δf≦Δe」の関係を目安として設定される。またΔfは、離散周波数スペクトル内で同一値である必要はなく、検出対象の各地上子80の周波数誤差Δeや、複数の所定周波数f1~f8の間隔などに応じて、任意の異なる値が設定されてもよい。これらに基づいて、本実施形態では周波数間隔Δfが、上述したように1kHz又は2kHzに設定されている。
【0043】
図2に戻り、車上子12の2次コイル16は、上記のように送信波が入力される1次コイル14との電磁的疎結合の影響を含む、車上子12周囲との電磁作用が反映された受信波を受信し、その受信波が前段処理部34に取り込まれる。前段処理部34は、増幅器36及びA/D変換部38を含み、取り込まれた受信波が増幅器36において電力増幅され、更にA/D変換部38においてアナログ波形からデジタルデータへと変換される。前段処理部34で処理された受信波データは、周波数弁別部40へと送信される。なお、増幅器36にはアンプなどの任意の増幅器が利用され、A/D変換部38には任意のA/Dコンバータが用いられる。
【0044】
周波数弁別部40は、直交同期検波部42及びdB極座標変換部44を含んでいる。そして、直交同期検波部42において、同期検波(直交検波)を利用して、前段処理部34で処理された受信波データから、送信処理部22の波形テーブル24に格納されている波形データと同じ離散周波数スペクトルを抽出する。すなわち、本実施形態では、70kHz~139kHzの帯域で周波数間隔Δfが1kHz又は2kHzである、64波の周波数成分を有する離散周波数スペクトルを抽出する。このとき、各周波数成分の平均電圧レベルと位相とが得られる。直交同期検波部42において抽出された離散周波数スペクトルの各周波数成分の電圧レベルは、更にdB極座標変換部44によってdB値へと変換される。このような処理を行う周波数弁別部40は、例えばFPGAなどで実現される。なお、周波数弁別部40では、同期検波とは別のFFTなどの手法を利用して離散周波数スペクトルを抽出してもよい。
【0045】
ここで、
図4(b)及び(c)には、周波数弁別部40で処理された離散周波数スペクトルの例が示されており、
図4(b)が地上子80との結合が発生していない状態、
図4(c)が地上子80との結合が発生している状態である。なお、
図4(b)及び(c)では、一部の周波数成分の図示を省略している。
図4(b)を参照すると、周波数が大きくなるにつれてレベルが単調に直線的に増加していることが分かり、これは、非結合レベル包絡線UEに準じた単調増加特性のためである。そして、離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形SWは、非結合レベル包絡線UEに沿った、主に車上子12のコイルのインピーダンス周波数特性が主体となった形状となる。但し、非結合レベル包絡線UEやスペクトル波形SWの全体的なレベルには、静的要因(回路ゲイン、車上子12の結合度、車上子12までのケーブル)と、鉄道車両86の走行時に発生する動的要因(線路84間の金属構造物など)とが合わさって影響する。このため、非結合レベル包絡線UEやスペクトル波形SWの全体的なレベル変動は、
図4(b)に矢印で示されているように、およそ45dBにもなる。
【0046】
一方、
図4(c)を参照すると、離散周波数スペクトルの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形SWが、
図3に示したスペクトル波形SW2と類似した形状で、非結合レベル包絡線UEに準じたレベルで現れていることが分かる。すなわち、車上子12と地上子80とが電磁結合すると、等価回路上、車上子コイルと地上子コイルとの直・並列回路となり、スペクトル波形SWが図示のような特徴を持った形状となる。具体的には、地上子80の発振周波数を共振点(極大点max)として、それよりも低域側の反共振点(極小点min)を有する電圧スペクトルが発生する。このとき、車上子12と地上子80との結合が強いほど、共振点(極大点max)のレベル値は増大するが、周波数は一定のままである。これに対し、反共振点(極小点min)は、車上子12と地上子80との結合が強いほど、レベルがより小さくなると同時に低域側にシフトする。このような様子が、
図3において、スペクトル波形SW1とスペクトル波形SW2との間の矢印で示されている。
【0047】
なお、
図4(b)を参照して説明した非結合レベル包絡線UEやスペクトル波形SWの全体的なレベル変動は、
図4(c)の地上子80との結合状態でも発生し得るものである。例えば、
図3には3本の非結合レベル包絡線UEが示されており、このように非結合レベル包絡線UEのレベルが変動することで、スペクトル波形SWの全体レベルも変動する。
図3のスペクトル波形SW1、SW2は、3本のうちの真ん中の非結合レベル包絡線UEに準じたものである。更に
図12にも、最大で45dB程度のレベル変動が発生する様子が図示されている。
【0048】
図2に戻り、周波数弁別部40で処理された離散周波数スペクトルのデータは、スペクトル特徴抽出部52へ伝達される。本実施形態では、受信処理部32の一部であるスペクトル特徴抽出部52及び地上子検出部60と、制御部70の一部である指令出力部72及び出力制御部74とが、CPU50により実行されるソフトウェアで実現される。ここで、CPU50での処理時間単位は、CPU50の処理負荷などが考慮されて、周波数弁別部40までの処理時間単位より大きくてもよい。この場合は、CPU50の1回の処理時間単位の間に、周波数弁別部40で処理された複数の離散周波数スペクトルのデータが、1度に読み込まれてCPU50で処理されることになる。
【0049】
スペクトル特徴抽出部52は、スペクトル形状認識部54とピーク正規化部56とから構成される。スペクトル形状認識部54は、周波数弁別部40から得た離散周波数スペクトルのスペクトル波形SWを、正勾配線分と負勾配線分と平坦線分との3種の線分を用いて、折れ線状に近似する。例えば
図5には、
図4(c)のスペクトル波形SWと類似した形状のスペクトル波形SWを、折れ線状のスペクトル波形SW´へと近似する様子が示されている。すなわち、正勾配線分Pとは、高域側(図中右側)へ向かってレベルが上昇する線分であり、負勾配線分Mとは、高域側へ向かってレベルが下降する線分であり、平坦線分Fとは、正勾配線分Pや負勾配線分Mに該当しない比較的水平に近い線分である。
【0050】
図5では、スペクトル波形SWが点D1~点D8の間の7本の線分で近似されており、64波の周波数成分を有する離散周波数スペクトルから規定されるスペクトル波形SWの状態と比較して、データ量が圧縮されている。なお、スペクトル波形SWの近似に用いられる線分の種類や線分の数などは、スペクトル波形SWの形状や非結合レベル包絡線UEの単調増加特性などが考慮されて決定される。また、
図5や、後述する
図6、
図9上部の図、
図10(b)及び(c)、
図11、
図12では、縦軸及び横軸の図示を省略しているが、それらは何れも、縦軸がレベル(上側へ向かって大)であり、横軸が周波数(右側へ向かって高域)である。
【0051】
また、スペクトル形状認識部54は、折れ線状のスペクトル波形SW´を構成する全ての線分(
図5の例では7本の線分)の各々について、線分1次属性群を算出する。本実施形態の線分1次属性群には、各線分の始点(周波数低域側の端点)の周波数、レベル、及び位相と、各線分の終点(周波数高域側の端点)の周波数、レベル、及び位相とが含まれている。周波数及びレベルは、各線分の始点又は終点が位置している周波数及びレベルであり、位相は、周波数弁別部40において離散周波数スペクトルを抽出する際に得られた、各線分の始点又は終点の周波数成分における位相である。例えば、
図5の左から3本目に位置する正勾配線分Pは、始点がD3で終点がD4であって、その始点D3の周波数、レベル、及び位相と、その終点D4の周波数、レベル、及び位相とが、上記のように算出される。
【0052】
更に、スペクトル形状認識部54は、折れ線状のスペクトル波形SW´を構成する全ての線分の各々について、線分1次属性群を利用して線分2次属性群を算出する。本実施形態の線分2次属性群には、レベル差、帯域幅、及び位相差が含まれており、レベル差とは、各線分の始点のレベルと終点のレベルとの差である。また、帯域幅とは、各線分の始点の周波数と終点の周波数との差であり、位相差とは、各線分の始点の位相と終点の位相との差である。例えば、
図5の右から2本目に位置する負勾配線分Mについては、終点D7のレベルから始点D6のレベルが減算されてレベル差が算出され、終点D7の周波数から始点D6の周波数が減算されて帯域幅が算出され、終点D7の位相から始点D6の位相が減算されて位相差が算出される。スペクトル形状認識部54で算出された各属性は、以降の処理などのために保持される。
【0053】
続いて、ピーク正規化部56は、スペクトル形状認識部54で折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´を読み取って、
図6に示されるようなピーク形状PSを抽出する。すなわち、ピーク形状PSとは、
図6(a)に示されるように、周波数高域側(図中右側)へ向かって正勾配線分Pから負勾配線分Mへと変化する部分である。更に、ピーク形状PSは、
図6(b)に示されるように、周波数高域側(図中右側)へ向かって正勾配線分Pから平坦線分Fを経て負勾配線分Mへと変化する部分であって、その平坦線分Fの帯域幅(図中左右方向の長さ)が比較的小さい微小帯域幅となっている部分であってもよい。なお、ピーク形状PSとは、
図3を参照して言及した所定形状の候補と見なせるものである。
【0054】
また、上記のようなピーク形状PSの抽出に先立ち、折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´に、正勾配線分Pと正勾配線分Pとの間に帯域幅が比較的小さい(微小帯域幅)平坦線分Fが含まれている部分が存在する場合は、それら2本の正勾配線分Pと平坦線分Fとを統合して1本の正勾配線分Pとして扱ってもよい。同様に、負勾配線分Mと負勾配線分Mとの間に帯域幅が比較的小さい(微小帯域幅)平坦線分Fが含まれている部分が存在する場合は、それら2本の負勾配線分Mと平坦線分Fとを統合して1本の負勾配線分Mとして扱ってもよい。
【0055】
例えば
図5の例では、左から4本目の平坦線分Fの帯域幅が比較的小さいものとして、点D3から点D6までを1本の正勾配線分Pとして統合して、点D3から点D7までをピーク形状PSとして抽出する。
図6(b)のようなピーク形状PSに含めるために微小帯域幅とする平坦線分Fの判断や、2本の正勾配線分P或いは2本の負勾配線分Mと統合するために微小帯域幅とする平坦線分Fの判断は、実験結果などに応じたパラメータを使用して行うものとする。なお、折れ線状のスペクトル波形SW´から、複数のピーク形状PSが同時に抽出されてもよく、条件が満たされなければピーク形状PSが抽出されなくてもよい。折れ線状のスペクトル波形SW´から抽出されたピーク形状PSの数は、後段の処理のために保持される。
【0056】
また、ピーク正規化部56は、折れ線状のスペクトル波形SW´から抽出された全てのピーク形状PSの各々について、正規化ピーク1次属性群を算出する。本実施形態の正規化ピーク1次属性群には、正規化ピークレベル、正規化ピーク帯域幅、正規化ピーク周波数、正規化ピーク絶対レベル、及び正規化ピーク位相差が含まれている。
図6に示されるように、正規化ピークレベルNLは、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pのレベル差の絶対値と、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mのレベル差の絶対値との合計である。
図6(a)では、理解を容易にするために、点D11から点D12までの負勾配線分Mの正負を反転(絶対値のため)して、点D11から点D12´までの負勾配線分M´として破線で示しており、点D10から点D12´までのレベルが正規化ピークレベルNLに相当する。同様に、
図6(b)では、点D17から点D18までの負勾配線分Mの正負を反転したものを、点D17から点D18´までの負勾配線分M´として破線で示しており、点D15から点D18´までのレベルが正規化ピークレベルNLに相当する。
【0057】
正規化ピーク帯域幅NBは、
図6(a)に示されるように、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pの帯域幅と、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mの帯域幅との合計である。また、ピーク形状PSに微小帯域幅の平坦線分Fが含まれる場合は、正規化ピーク帯域幅NBは、
図6(b)に示されるように、正勾配線分Pの帯域幅と平坦線分Fの帯域幅と負勾配線分Mの帯域幅との合計である。正規化ピーク周波数NFは、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pの終点の周波数と、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mの始点の周波数との平均であり、例えばそれら2つの周波数を合計して2で除した数値である。
【0058】
正規化ピーク絶対レベルNALは、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pの終点のレベルと、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mの始点のレベルとの平均であり、例えばそれら2つのレベルを合計して2で除した数値である。正規化ピーク位相差は、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pの位相差と、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mの位相差との合計である。また、
図6(b)のようにピーク形状PSに微小帯域幅の平坦線分Fが含まれる場合は、正規化ピーク位相差は、正勾配線分Pの位相差と平坦線分Fの位相差と負勾配線分Mの位相差との合計である。
【0059】
例えば
図5の例において、点D3~点D7までがピーク形状PSとして抽出された場合は、このピーク形状PSについて、上記のように正規化ピーク1次属性群の各属性を算出する。なお、正規化ピークレベルNLの算出で使用される各線分のレベル差と、正規化ピーク帯域幅NBの算出で使用される各線分の帯域幅と、正規化ピーク位相差の算出で使用される各線分の位相差とは、スペクトル形状認識部54で算出された線分2次属性群に含まれている。また、正規化ピーク周波数NFの算出で使用される、正勾配線分Pの終点の周波数及び負勾配線分Mの始点の周波数と、正規化ピーク絶対レベルNALの算出で使用される、正勾配線分Pの終点のレベル及び負勾配線分Mの始点のレベルとは、スペクトル形状認識部54で算出された線分1次属性群に含まれている。
【0060】
更に、ピーク正規化部56は、折れ線状のスペクトル波形SW´から抽出された全てのピーク形状PSの各々について、正規化ピーク2次属性群を算出する。本実施形態の正規化ピーク2次属性群には、正規化勾配及び正規化勾配レベル分配比が含まれている。正規化勾配NSは、正規化ピーク1次属性群に含まれる正規化ピークレベルNLと正規化ピーク帯域幅NBとの比であって、例えば正規化ピークレベルNLを正規化ピーク帯域幅NBで除した値が算出される(
図9の下部参照)。正規化勾配レベル分配比は、各ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pのレベル差の絶対値PL(
図10(b)及び(c)参照)と、各ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mのレベル差の絶対値ML(
図10(b)及び(c)参照)との比であって、各線分のレベル差は、スペクトル形状認識部54で算出された線分2次属性群に含まれている。例えば正規化勾配レベル分配比は、正勾配線分Pのレベル差の絶対値を、正勾配線分Pのレベル差の絶対値と負勾配線分Mのレベル差の絶対値との合計で除して算出される。
【0061】
図2を参照して、上記のようにスペクトル特徴抽出部52で算出された正規化ピーク1次属性群及び正規化ピーク2次属性群は、地上子検出部60へ伝達される。地上子検出部60は、車上子12が地上子80と電磁結合したこと、及び電磁結合した地上子80の共振周波数を検出するものであって、地上子候補判定部62及び地上子最終判定部64を含んでいる。地上子候補判定部62は、スペクトル特徴抽出部52で抽出されたピーク形状PSから、地上子80との結合が発生したことを示すピーク形状PSの候補を選定するものである。また、地上子最終判定部64は、地上子80との結合を示す候補として選定されたピーク形状PSが、本当に地上子80との結合を示すものであるか否かの最終判定と、機器異常や環境異常が発生しているか否かの推定とを行うものである。
【0062】
図7には、地上子候補判定部62の具体的な動作を示すフロー図が示され、
図8には、地上子最終判定部64の具体的な動作を示すフロー図が示されており、ここからはこれらのフロー図に沿って説明する。なお、
図7及び
図8に示すフロー図は、具体的な動作の一例を示したものであって、地上子候補判定部62及び地上子最終判定部64の動作を限定するものではない。従って、例えば地上子検出装置10の構成や状況などに応じて、
図7及び
図8に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0063】
まずは
図7を参照して、地上子候補判定部62の動作について説明する。
S10(データ取得):ピーク正規化部56において抽出されたピーク形状PSの数と、各ピーク形状PSの正規化ピーク1次属性群及び正規化ピーク2次属性群とを、ピーク正規化部56から取得する。
S20(カウンタリセット):地上子80との結合が発生したことを示すピーク形状PSの候補をカウントするための地上子候補カウンタと、後述する地上子判定処理を繰り返した回数をカウントするための処理カウンタとをリセットする。ここでは、地上子候補カウンタをWCC、処理カウンタをiとして地上子候補カウンタWCCにゼロを代入し、処理カウンタiに1を代入する。
【0064】
S30(処理カウンタ判定):処理カウンタiがピーク形状PSの数以下であるか否かを判定する。その結果、処理カウンタiがピーク形状PSの数以下であると判定した場合(YES)は、後述する地上子判定処理が行われていないピーク形状PSが残っているため、S40へ移行する。また、処理カウンタiがピーク形状PSの数以下でないと判定した場合(NO)は、抽出された全てのピーク形状PSについて後述する地上子判定処理が終わっている、或いはピーク形状PSが抽出されていないため、地上子候補判定部62による処理が終了となる。
【0065】
S40(正規化ピークレベル判定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSの正規化ピークレベルNLが、予め設定された所定の範囲内の値であるか否かを判定する。ここでの所定の範囲とは、地上子80との電磁結合により発生したピーク形状PSの正規化ピークレベルNLが取り得る適切な範囲であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、正規化ピークレベルNLが所定の範囲内であると判定した場合(YES)は、地上子候補の判定を続行するためにS50へ移行し、正規化ピークレベルNLが所定の範囲内でないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
【0066】
S50(正規化ピーク帯域幅判定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSの正規化ピーク帯域幅NBが、予め設定された所定の範囲内の値であるか否かを判定する。ここでの所定の範囲とは、地上子80との電磁結合により発生したピーク形状PSの正規化ピーク帯域幅NBが取り得る適切な範囲であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、正規化ピーク帯域幅NBが所定の範囲内であると判定した場合(YES)は、地上子候補の判定を続行するためにS60へ移行し、正規化ピーク帯域幅NBが所定の範囲内でないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
【0067】
S60(正規化勾配判定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSの正規化勾配NSが、予め設定された所定の範囲内の値であるか否かを判定する。ここでの所定の範囲とは、地上子80との電磁結合により発生したピーク形状PSの正規化勾配NSが取り得る適切な範囲であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、正規化勾配NSが所定の範囲内であると判定した場合(YES)は、地上子候補の判定を続行するためにS70へ移行し、正規化勾配NSが所定の範囲内でないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
【0068】
ここで、
図9を参照すると、
図9の上部の波形には、左側にノイズが要因のピーク形状PSが図示され、右側に地上子結合によるピーク形状PSが図示されている。これによれば、ノイズによるピーク形状PSの正規化ピーク絶対レベルNALの方が、地上子結合によるピーク形状PSの正規化ピーク絶対レベルNALよりも、大きくなっていることが分かる。このように、ノイズによるピーク形状PSの方が地上子結合によるピーク形状PSよりも、レベルの絶対値が大きくなることも考えられる。そこで、
図9の下部に示されるように、双方のピーク形状PSの正規化ピークレベルNL、正規化ピーク帯域幅NB、及び正規化勾配NSを比較する。ここでの正規化勾配NSは、正規化ピークレベルNLを正規化ピーク帯域幅NBで除したものである。すると、ノイズによる正規化ピークレベルNL及び正規化ピーク帯域幅NBよりも、地上子結合による正規化ピークレベルNL及び正規化ピーク帯域幅NBの方が大きくなっている。更に、正規化勾配NSについては、ノイズの方が地上子結合よりも大きくなっており、地上子結合の方がノイズよりも傾きが緩くなっている。上記のS40、S50、S60では、このような関係を利用して、ノイズなどと地上子結合との切り分けを行なうものである。
【0069】
S70(正規化勾配レベル分配比判定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSの正規化勾配レベル分配比が、予め設定された所定の範囲内の値であるか否かを判定する。ここでの所定の範囲とは、地上子80との電磁結合により発生したピーク形状PSの正規化勾配レベル分配比が取り得る適切な範囲であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、正規化勾配レベル分配比が所定の範囲内であると判定した場合(YES)は、地上子候補の判定を続行するためにS80へ移行し、正規化勾配レベル分配比が所定の範囲内でないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
【0070】
ここで、
図10(a)を参照すると、鉄道車両86の走行に伴って車上子12が地上子80に接近するとき、それらの位置関係に応じた磁束の影響でメインローブ90及びサイドローブ92が発生する。メインローブ90は、地上子80との結合を検出するために検知すべきものであって、このときに発生するピーク形状PSは、
図10(b)に示すように、極大点maxとなる共振周波数よりも低域側に、極小点minとなる反共振周波数が位置している。このため、図示のように、正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLの方が、負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLよりも大きくなる。従って、それらの2値の比である正規化勾配レベル分配比は、「PL/(PL+ML)」により算出すると、0.5よりも大きくなる。
【0071】
一方、サイドローブ92は、メインローブ90の前後のタイミングで2回発生するが、地上子80との結合として検知すべきものではない。サイドローブ92で発生するピーク形状PSは、
図10(c)に示すように、極大点maxとなる共振周波数よりも高域側に、極小点minとなる反共振周波数が位置しており、磁束の向きの影響で、共振周波数と反共振周波数との大小関係がメインローブ90と逆になっている。このため、図示のように、正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLよりも、負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLの方が大きくなる。従って、それらの2値の比である正規化勾配レベル分配比は、「PL/(PL+ML)」により算出すると、0.5以下になる。上記のS70では、このような正規化勾配レベル分配比の特性を利用して、メインローブ90とサイドローブ92との切り分けなどを行なうものである。
【0072】
S80(正規化ピーク周波数判定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSの正規化ピーク周波数NFが、予め設定された所定の範囲内の値であるか否かを判定する。ここでの所定の範囲とは、地上子80との電磁結合により発生したピーク形状PSの正規化ピーク周波数NFが取り得る適切な範囲であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、正規化ピーク周波数NFが所定の範囲内であると判定した場合(YES)は、
図7のフロー図での地上子判定処理を全て満たしたものとしてS90へ移行し、正規化ピーク周波数NFが所定の範囲内でないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
【0073】
S90(地上子候補決定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSが地上子80との結合を示す候補であると判定し、i番目のピーク形状PSにそのようなフラグをセットする。
S100(地上子候補カウンタインクリメント):地上子候補カウンタWCCをインクリメントして1増加させる。
S110(地上子候補否定):抽出されたピーク形状PSのうち、i番目のピーク形状PSが地上子80との結合を示す候補ではないと判定する。
S120(処理カウンタインクリメント):処理カウンタiをインクリメントして1増加させる。そして、地上子判定処理の続行を判断するために上記S30へ復帰する。すなわち、検出された全てのピーク形状PSについての判定処理が終了するまで、上記S40~S120を繰り返し実行する。
【0074】
次に
図8を参照して、地上子最終判定部64の動作について説明する。
S200(ピーク形状数判定):
図7のS10で取得したピーク形状PSの数が、予め設定された所定の数以上であるか否かを判定する。ここでの所定の数とは、複数のピーク形状PSを同時に発生させるノイズと地上子結合との切り分けを行なうための適切な値であり、実験の結果などに基づいて定められるものである。そして、ピーク形状PSの数が所定の数以上であると判定した場合(YES)はS210へ移行し、ピーク形状PSの数が所定の数より小さいと判定した場合(NO)はS220へ移行する。
【0075】
ここで、
図11には、ノイズが原因と考えられる複数のピーク形状PSが例示されている。特に電源系から生じるパルスノイズは、短時間ながらも広帯域で発生する傾向にあるため、図示のように複数のピーク形状PSが同時に抽出される。その中で、例えば左から2番目のピーク形状PSのように、地上子結合時と類似した形状のピーク形状PSが得られる可能性もある。しかしながら、それと同時に他の周波数で複数のピーク形状PSが抽出された場合は、同時に抽出された全てのピーク形状PSがノイズに起因するものである確率が高く、地上子候補の排除対象と見なせる。上記のS200では、これを利用してノイズと地上子結合との切り分けを行なうものである。
【0076】
S210(地上子無し及び環境異常有り):上記S200において、ノイズが要因と考えられる数以上の複数のピーク形状PSが同時に抽出されたと判定されたため、抽出されたピーク形状PSに地上子結合を示すものはないと判定する。また、ノイズが発生しているため、環境異常有りと判定する。
S220(地上子候補カウンタ第1判定):地上子候補カウンタWCCが3以上であるか否かを判定する。そして、地上子候補カウンタWCCが3以上である場合(YES)はS230へ移行し、地上子候補カウンタWCCが2以下である場合(NO)はS260へ移行する。
【0077】
S230(地上子候補カウンタ第2判定):地上子候補カウンタWCCが3以上である状態が、長時間継続しているか否かを判定する。ここでの長時間継続とは、受信処理部32において車上子12の2次コイル16から新たな受信波を読み取り、そこから離散周波数スペクトルやピーク形状PSなどを抽出する処理を、何回か行っているにも関わらず、その間に地上子候補カウンタWCCが3以上の状態がずっと続いている状況を示している。この判定に用いられる時間(処理回数)は、実験などに基づいて設定される。そして、上記の状態が長時間継続していると判定された場合(YES)はS240へ移行し、長時間継続していないと判定された場合(NO)はS250へ移行する。なお、上記S220や本ステップS230で地上子候補カウンタWCCの判定に用いている「3」という値は一例であって、別の値であってもよい。
【0078】
S240(地上子無し及び機器異常有り):地上子候補カウンタWCCが3以上の状態が長時間継続しているため、これは地上子検出装置10の何れかの部位で故障などが発生していることが原因と推定し、機器異常が発生していると判定する。また、地上子候補カウンタWCCでのカウント結果は、機器異常によるものであり、地上子結合を示すピーク形状PSによるものではないと判断して、地上子結合はないと判定する。
S250(地上子無し及び環境異常有り):地上子候補カウンタWCCが3以上の状態が長時間継続してはいないものの、地上子結合の候補とされるピーク形状PSが3つ以上あるのは、異常であると判断する。このため、ノイズなどの環境異常が発生していると判定し、また、地上子結合は検出されていないと判定する。
【0079】
S260(地上子候補カウンタ第3判定):地上子候補カウンタWCCが2であるか否かを判定する。そして、地上子候補カウンタWCCが2である場合(YES)はS270へ移行し、地上子候補カウンタWCCが1以下である場合(NO)はS280へ移行する。
S270(地上子検出):
図7のS90において地上子結合を示す候補としてのフラグがセットされた2つのピーク形状PSのうち、正規化ピークレベルNLが大きい方のピーク形状PSを、地上子80との結合を示すものであると判定する。
【0080】
S280(地上子候補カウンタ第4判定):地上子候補カウンタWCCが1であるか否かを判定する。そして、地上子候補カウンタWCCが1である場合(YES)はS290へ移行し、地上子候補カウンタWCCが1ではない、すなわちゼロである場合(NO)はS300へ移行する。
S290(地上子検出):
図7のS90において地上子結合を示す候補としてのフラグがセットされた1つのピーク形状PSを、地上子80との結合を示すものであると判定する。
【0081】
S300(地上子無し):
図7のS90において地上子結合を示す候補としてフラグがセットされたピーク形状PSが存在しないため、地上子80は検出されなかったと判定する。
S310(情報送信):本ステップに至る1つ前のステップで判定された内容を、制御部70へ送信する。すなわち、地上子80が検出されたこと或いは検出されなかったこと、検出された場合はその地上子80の所定周波数、環境異常の有無、機器異常の有無、各ピーク形状PS(特にノイズや機器異常によるものとされたピーク形状PS)の正規化ピーク1次属性群や正規化ピーク2次属性群などを送信する。ここまでの処理により、地上子最終判定部64による処理が終了となる。
【0082】
再度
図2へと戻り、制御部70の指令出力部72は、地上子検出部60から取得した情報や速度照査などに基づいて、出力制御部74へ列車制御情報を出力する。すなわち、地上子検出部60から地上子80が検出されたことが通知された場合は、検出された地上子80の共振周波数を取得し、その共振周波数が示す情報(停止現示や速度現示など)を特定して、列車制御情報へ反映する。また、出力制御部74は、指令出力部72からの列車制御情報に基づいて、車両制御部78(
図1参照)による具体的なブレーキ制御や速度制御を行なうための制御信号を、I/F回路76へと出力する。
【0083】
なお、制御部70は、スペクトル特徴抽出部52で算出された各種の属性、すなわち、線分1次属性群、線分2次属性群、正規化ピーク1次属性群、及び正規化ピーク2次属性群に含まれる属性や、抽出されたピーク形状PSの数、地上子候補としてカウントされたピーク形状PSの数などを利用して、既存の機能の補助や高機能化などを目的とした任意の処理を行ってもよい。例えば、制御部70は、
図8のS210及びS250でノイズによるものと判定されたピーク形状PSの、正規化ピーク1次属性群及び正規化ピーク2次属性群などを利用して、ノイズの解析を行ってもよい。同様に、制御部70は、
図8のS240で機器異常が発生していると判定されたときの各種の属性を利用して、機器異常の解析を行ってもよい。
【0084】
ここで、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、
図1~
図12に示された構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、地上子検出装置10は、ATSの地上子80に限定されず、他の鉄道装置の地上子80を検出するものであってよい。また、地上子80が共振周波数として有し得る複数の所定周波数は、
図3のf1~f8に限定されるものではなく、別の周波数、より多くの周波数、より少ない周波数であってもよい。それに応じて、送信処理部22で発生する送信波の離散周波数スペクトルも、70kHz~139kHzの帯域、1kHz又は2kHzの周波数間隔、及び64波の周波数に限定されるものではなく、別の帯域、別の周波数間隔、及び別の数の周波数であってよい。更に、線分1次属性群、線分2次属性群、正規化ピーク1次属性群、及び正規化ピーク2次属性群の各々の構成は、上述したものに限定されることはなく、上述の何れかの属性が含まれない構成や、別の属性が含まれる構成であってもよい。また、各属性の算出方法が、上記と異なっていてもよい。
【0085】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、
図1及び
図2に示すように、走行中の鉄道車両86から地上子80を検出するものであって、車上子12、送信処理部22、前段処理部34、周波数弁別部40、スペクトル特徴抽出部52、及び地上子検出部60を含んでいる。車上子12は、互いに疎結合する1次コイル14及び2次コイル16を有してそれらの間で送受信を常時行っており、鉄道車両86が走行しているときに、鉄道車両86に取り付けられた車上子12が線路84近傍の地上子80に近接すると、地上子80と車上子12とが電磁結合する。送信処理部22は、離散周波数スペクトルを有する送信波を、車上子12の1次コイル14へと注入するものである。その送信波の離散周波数スペクトルは、検出対象の地上子80が共振周波数として有している可能性のある複数の所定周波数(例えば
図3のf1~f8)の全てを包含する複数の周波数を、複数の所定周波数よりも小さい周波数間隔Δf(
図4(a)参照)で含んでいる。
【0086】
1次コイル14へ注入される上記のような送信波は、1次コイル14と疎結合している2次コイル16により受信される。周波数弁別部40は、2次コイル16が受信して前段処理部34で前処理された受信波から、送信処理部22により生成されたものと同じ周波数成分を有する離散周波数スペクトルを抽出する。また、スペクトル特徴抽出部52は、そのようにして周波数弁別部40により抽出された離散周波数スペクトルから、それらの各周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形SW(
図3及び
図4参照)を生成し、更にそのスペクトル波形SWから、予め定められた所定形状を抽出する。そして、地上子検出部60は、スペクトル波形SWから抽出される所定形状の有無に応じて、地上子80を検出するものである。
【0087】
ここで、上記のように地上子80と車上子12とが電磁結合すると、各地上子80が情報として有する複数の所定周波数のうちの何れかの周波数が、共振周波数として車上子12へと伝達される。すなわち、車上子12の2次コイル16で受信される受信波に共振周波数が影響して、受信波に基づいて生成されるスペクトル波形SWに、地上子80の共振周波数と同じ周波数成分のレベルが大きくなる形状が現れることになる。そこで、スペクトル特徴抽出部52によってスペクトル波形SWから抽出する所定形状として、共振周波数でレベルが大きくなるような形状を設定することで、その共振周波数を有する地上子80に対して車上子12が電磁結合したことを検出することができる。これにより、スペクトル波形SWに現れる共振周波数を、レベルの大きさではなく波形の形状によって抽出することができるため、単にレベルが大きいノイズの誤検出や、様々な要因による絶対レベルの変動の影響(
図12参照)などを抑制することができ、地上子検出の信頼性を高めることが可能となる。しかも、スペクトル波形SWからの所定形状の抽出は、処理データの単純化などの工夫によって、比較的簡便なアルゴリズムを用いて実現することが可能なものである。
【0088】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、送信処理部22が車上子12の1次コイル14へ送信波を注入する際に、一定の電圧で送信波を注入するものである。そして、周波数弁別部40は、2次コイル16の受信波から抽出した離散周波数スペクトルを、各周波数成分の受信電圧に基づいてレベル変換するものである。このため、スペクトル特徴抽出部52は、周波数弁別部40によってレベル変換された離散周波数スペクトルに基づいて生成されるスペクトル波形から、所定形状を抽出することになる。これにより、送信波には存在しなかった周波数成分間の電圧差が、地上子80との電磁結合によって受信波に現れるようになり、更にそれを所定のレベル変換操作によって増大させることができる。従って、そのような電圧差がレベルで反映されたスペクトル波形からの所定形状の抽出が容易になり、地上子80の検出精度を向上させることができる。
【0089】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、送信処理部22によって生成される送信波の離散周波数スペクトルや、周波数弁別部40によって抽出される離散周波数スペクトルが、車上子12と地上子80との電磁結合時の合成インピーダンスの反共振周波数を包含する帯域幅を有するものである。反共振周波数は、車上子12と地上子80との電磁結合時に、共振周波数よりも低域側にレベルが小さくなる形状で現れるため、地上子80が有し得る複数の所定周波数の全てについて、共振周波数(所定周波数)よりも低域側の上記のような領域がカバーされるように、離散周波数スペクトルの帯域幅が設定される。
図3の例では、f1(73kHz)~f8(130kHz)の共振周波数に対応する反共振周波数を包含するように、帯域幅が設定される。そして、スペクトル特徴抽出部52によって抽出される所定形状に、電磁結合時の反共振周波数の影響が現れた形状を含めることで、地上子80とノイズとの識別がより明確になるため、地上子検出の信頼性をより高めることができる。
【0090】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52によってスペクトル波形SWから抽出する所定形状を、以下のようにより具体的に特定するものである。すなわち、所定形状として、
図3にピーク形状PSとして示されるような、比較的低レベルの反共振周波数から周波数高域側へ向かって、共振周波数までレベルが上昇した後、周波数高域側へ向かってレベルが下降する形状を設定する。これにより、レベルが反共振周波数から共振周波数まで大きく上昇した後に下降するという、地上子80との電磁結合時に現れる特徴的な形状を設定することができるため、ノイズとの切り分けを益々容易にすることができ、地上子80をより精度よく検出することが可能となる。
【0091】
更に、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、
図5に示すように、離散周波数スペクトルの周波数成分のレベルによって規定されるスペクトル波形SWを、3種の線分のうち任意の線分を組み合わせて折れ線状のスペクトル波形SW´へと近似するものである。それら3種の線分は、周波数高域側へ向かってレベルが上昇する正勾配線分Pと、周波数高域側へ向かってレベルが下降する負勾配線分Mと、正勾配線分P及び負勾配線分Mの何れにも該当しない平坦線分Fとである。これにより、スペクトル波形SWをそのまま取り扱う場合と比較して、後段で処理するデータ量を圧縮することができるため、後段処理のプログラム実装を容易にすることができる。
【0092】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、折れ線状に近似したスペクトル波形SW´の各線分について、線分1次属性群及び線分2次属性群を算出するものである。線分1次属性群には、少なくとも、各線分の周波数低域側の端点である始点の周波数及びレベルと、各線分の周波数高域側の端点である終点の周波数及びレベルとが含まれている。また、線分2次属性群には、少なくとも、各線分の始点と終点とのレベル差と、各線分の始点と終点との周波数の差である帯域幅とが含まれている。これにより、各線分の特徴を、より処理し易いデータ群として表現することができる。
【0093】
更に、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´から、
図6に示すようなピーク形状PSを抽出するものである。このピーク形状PSとは、
図6(a)のように、周波数高域側へ向かって正勾配線分Pから負勾配線分Mへと変化する部分、及び/又は、
図6(b)のように、周波数高域側へ向かって正勾配線分Pから微小帯域幅の平坦線分Fを経て負勾配線分Mへと変化する部分である。ここでの微小帯域幅の平坦線分Fとは、帯域幅が比較的小さい平坦線分Fであり、微小帯域幅の平坦線分Fであるか否かは、その前後の正勾配線分P及び負勾配線分Mの帯域幅の大きさや、実験結果などが考慮されて判断される。このようなピーク形状PSを用いて処理を行うことで、折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´の全体を取り扱う場合と比較して、後段で処理するデータ量を圧縮することができるため、スペクトル特徴抽出部52や地上子検出部60などの処理を行うアルゴリズムの簡略化を図ることができ、CPU50の負荷を低減することが可能となる。
【0094】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、抽出されたピーク形状PSの各々について、ピーク形状PSを構成する正勾配線分Pをピーク正勾配線分Pとし、ピーク形状PSを構成する負勾配線分Mをピーク負勾配線分Mとしたときに、以下のような正規化ピーク1次属性群を算出するものである。すなわち、正規化ピーク1次属性群には、少なくとも、
図6に示すように、正規化ピークレベルNL、正規化ピーク帯域幅NB、及び正規化ピーク周波数NFが含まれており、正規化ピークレベルNLとは、ピーク正勾配線分Pのレベル差の絶対値とピーク負勾配線分Mのレベル差の絶対値との合計である。また、正規化ピーク帯域幅NBとは、ピーク正勾配線分Pの帯域幅とピーク負勾配線分Mの帯域幅との合計であり、ピーク形状PSに微小帯域幅の平坦線分Fが含まれている場合はそれも加味して算出する。更に、正規化ピーク周波数NFとは、ピーク正勾配線分Pの終点の周波数とピーク負勾配線分Mの始点の周波数との平均である。
【0095】
そして、地上子検出部60は、上記のような各ピーク形状PSの正規化ピーク1次属性群を利用して、そのピーク形状PSが地上子80を示すものであるか否か、すなわち、地上子80と車上子12とが電磁結合して現れたピーク形状PSであるか否かを判定するものである(
図7のS40、S50、S80参照)。このように、正規化ピーク1次属性群を利用することで、車上子12と地上子80との間の距離によって刻々と変化する、共振周波数及び反共振周波数を含む特徴的なピーク形状PSを、ソフトウェアなどで容易に抽出することが可能となる。また、正規化ピーク1次属性群に含まれる属性は何れも単純な指標であるから、地上子80を示すピーク形状PSを判定するソフトウェア処理はシンプルであり、低速なCPU50などで処理することができる。
【0096】
しかも、正規化ピーク1次属性群の1つである正規化ピークレベルNLを、正勾配線分Pと負勾配線分Mとを統合して算出するため、FFTなどの単純なスペクトル解析から検出された極大値のみの従来のピークレベルと比較して、大きなS/N比を得ることができる。これにより、耐ノイズ性に優れた信頼性の高い地上子80の検出方式を実現することができ、また、送信処理部22で用いる電力増幅部28の電力を従来方式より小さくすることができるため、装置の小型化や低コスト化に寄与することができる。更に、正規化ピークレベルNLは、正勾配線分Pのレベル差と負勾配線分Mのレベル差とを統合した相対レベルであるため、絶対レベルが相殺されており、絶対レベルの変動の要因である回路ゲイン、車上子結合度などの影響が表出しない(
図12参照)。このため、地上子検出の信頼性をより一層向上させることが可能となる。
【0097】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、抽出されたピーク形状PSの各々について、更に正規化ピーク2次属性群を算出するものであり、この正規化ピーク2次属性群には、正規化ピークレベルNLと正規化ピーク帯域幅NBとの比である正規化勾配NS(
図9参照)が含まれている。そして、地上子検出部60は、スペクトル特徴抽出部52により算出された各ピーク形状PSの正規化勾配NSを利用して、そのピーク形状PSが地上子80を示すものであるか否かを判定するものである(
図7のS60参照)。
【0098】
すなわち、
図9に示すように、正規化ピークレベルNLと正規化ピーク帯域幅NBとの比である正規化勾配NSは、正規化ピークレベルNLを正規化ピーク帯域幅NBで除して算出すると、地上子結合の方が単一周波数ノイズよりも小さくなる(傾きが緩い)傾向にある。このため、ノイズ周波数と地上子周波数とが同一だとしても、正規化勾配NSを比較したときの上記のような大きさの関係から、単一周波数ノイズを地上子80であると誤検出することなく、これによって地上子80を精度よく検出することができる。
【0099】
更に、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52が、ピーク形状PSの各々について、正規化ピーク2次属性群として更に正規化勾配レベル分配比を算出するものである。この正規化勾配レベル分配比は、
図10(b)及び(c)に示されるような、ピーク正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLとピーク負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLとの比である。そして、地上子検出部60は、スペクトル特徴抽出部52により算出された各ピーク形状PSの正規化勾配レベル分配比を利用して、そのピーク形状PSが地上子80を示すものであるか否かを判定するものである(
図7のS70参照)。
【0100】
ここで、車上子12と地上子80との電磁結合時には、
図10(a)に示すように、磁束の影響により、検出するべきメインローブ90の前後のタイミングで、検出するべきではないサイドローブ92が発生する。
図10(b)に示すようにメインローブ90では、反共振周波数が共振周波数よりも小さくなるピーク形状PSが発生するのに対し、
図10(c)に示すようにサイドローブ92では、反共振周波数が共振周波数よりも大きくなるピーク形状PSが発生する。すなわち、メインローブ90のピーク形状PSでは、反共振周波数から共振周波数までの正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLの方が、負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLよりも大きくなる。これに対し、サイドローブ92のピーク形状PSでは、正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLよりも、共振周波数から反共振周波数までの負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLの方が大きくなる。このため、正規化勾配レベル分配比を利用して、ピーク正勾配線分Pのレベル差の絶対値PLとピーク負勾配線分Mのレベル差の絶対値MLとの大小を比較することで、不要なサイドローブ92の検出を安定的に抑制することが可能となる。
【0101】
また、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52により折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´から同時に抽出されたピーク形状PSの数に応じて、地上子検出部60が地上子80の有無を判定するものである(
図8のS200参照)。ここで、車両機器や軌道回路機器からのノイズは一般的に電源系から生じるパルスノイズが多く、短時間ではあるが広帯域な成分が生じるため、このような場合に
図11に示すようにピーク形状PSが同時に複数抽出される。従って、ピーク形状PSの数を地上子80の検出に利用することで、ノイズをより効率よく排除することができるため、CPU50の処理負荷を軽減しつつ、地上子80の検出精度を高めることが可能となる。
【0102】
更に、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、スペクトル特徴抽出部52により折れ線状に近似されたスペクトル波形SW´から同時に抽出されたピーク形状PSの数と、そのように同時に抽出されたピーク形状PSの中から地上子80の候補としてカウントされたピーク形状PSの数とに応じて、地上子検出部60が機器異常及び環境異常を推定するものである(
図8のS200~S250参照)。地上子80の候補としてカウントされるピーク形状PSは、正規化ピーク1次属性群及び正規化ピーク2次属性群を利用して判定される(
図7のS30~S110参照)。すなわち、スペクトル波形SW´から複数のピーク形状PSが同時に抽出された場合は、上述したようにノイズの影響である可能性が高いため、これを利用してノイズなどの環境異常を推定することができる。また、地上子80の候補としてカウントされたピーク形状PSが複数ある場合は、地上子検出装置10の機器異常である可能性が高いため、これを利用して故障などの機器異常を推定することができる。これにより、地上子80の高精度な検出と共に、機器監視やノイズ監視を実現することが可能となる。
【0103】
しかも、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10は、従来の変周式のATSなどと異なり、
図2に示された周波数弁別部40以降の処理を、汎用的なデジタル回路及びソフトウェアによるデジタル信号処理をベースとして実現することができる。また、スペクトル特徴抽出部52で算出する各種の属性は、スペクトル分析で実施する一般的な指標を含むものであるため、スペクトル分析や様々な判定に使用することができ、そのためにスペクトル特徴抽出部52で実行する正規化ピーク処理は汎用性の高い技術である。更に、正規化ピーク処理によって情報量が圧縮されるため、正規化ピークのみを記録することとすれば、スペクトルでの記録よりもデータ量を低減することができ、ログ記録装置などを低コスト化することが可能となる。
なお、本発明の実施の形態に係る地上子検出方法は、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10により実行されることで、本発明の実施の形態に係る地上子検出装置10と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:地上子検出装置、12:車上子、14:1次コイル、16:2次コイル、22:送信処理部、40:周波数弁別部、52:スペクトル特徴抽出部、60:地上子検出部、80:地上子、84:線路、86:鉄道車両、f1~f8:複数の所定周波数、Δf:周波数間隔、SW(SW1、SW2):スペクトル波形、SW´:折れ線状に近似されたスペクトル波形、PS:ピーク形状、P:正勾配線分、M:負勾配線分、F:平坦線分、NL:正規化ピークレベル、NB:正規化ピーク帯域幅、NF:正規化ピーク周波数、NS:正規化勾配、PL:正勾配線分のレベル差の絶対値、ML:負勾配線分のレベル差の絶対値