(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182993
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】樹脂判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20231220BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20231220BHJP
G01N 21/85 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N21/3563
G01N21/85 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096327
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】濱田 真吾
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB20
2G051BA04
2G051BA06
2G051CB01
2G051EB01
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB15
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059KK01
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】カーボンブラックが含有されている樹脂を精度良く判定する樹脂判定方法を提供する。
【解決手段】赤外光3が照射された選別対象物の樹脂2から受光した反射光4に基づいて、樹脂の反射又は吸収スペクトルを算出し、算出したスペクトルのうち、スペクトルの最大強度を求め、最大取得可能強度の第1閾値以上であればカーボンブラックは非含有として判定し、正規化した後に樹脂種を判定し、第1閾値未満であれば、疑似含有としてカーボンブラックが含有されている樹脂かを判定し、樹脂種を判定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光が照射された選別対象物から受光した反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルが、あらかじめ設定した、反射又は吸収スペクトルの強度を第1閾値として、前記第1閾値以上であれば、正規化して、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第1類似度を求め、あらかじめ設定した第1類似度の第2閾値以上かつ第1類似度が最も高いものを、前記選別対象物の樹脂種として判定し、
前記反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルが前記第1閾値未満であれば、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第2類似度を求め、あらかじめ設定した第2類似度の第3閾値以上かつ第2類似度が最も高いものを、前記選別対象物の樹脂種として判定する、樹脂判定方法。
【請求項2】
前記赤外光の有効波長領域は1μm以上3μm以下である、請求項1に記載の樹脂判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で、複数種類の小片が集まった選別対象における、樹脂種を判定する樹脂判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大量消費及び大量廃棄型の経済活動によって、地球温暖化又は資源の枯渇など、地球規模での環境問題が発生している。
【0003】
このような状況の中、資源循環型社会の構築に向けて、日本国内では、平成13年4月から家電リサイクル法が施行されている。家電リサイクル法により、使用済みの家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、及び衣類乾燥機など)のリサイクルが義務付けられている。これにより、使用済の家電製品は、家電リサイクル工場で破砕されて小片となった後に磁気、風力、又は振動等を利用して材種ごとに選別回収され、リサイクル材料として再資源化されている。樹脂材料においては、ポリプロピレン(以下、PPと表記。)ポリスチレン(以下、PSと表記。)、及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(以下、ABSと表記。)が家電製品に多く用いられており、特許文献1で提案されているように、樹脂の分子構造による近赤外線領域(波長範囲1~3μm)の吸光特性を利用した選別装置によって樹脂種ごとに選別回収されている。
【0004】
この選別装置は、コンベア搬送される小片に近赤外線領域を含む光を照射し、非接触で樹脂からの反射又は吸収スペクトルを検知し、樹脂種を判定することができるため、大量の小片を選別処理することができる。
【0005】
しかしながら、小型家電又は自動車等に使用されているカーボンブラック(炭素主体の微粒子)を含む、黒色系樹脂等においては近赤外線領域の光を吸収してしまうため、反射又は吸収スペクトルが十分に得られず、選別できないことが大きな課題となっている。
【0006】
そこで、樹脂材料の再資源化に関する前記の課題を考慮した装置が特許文献1で提案されている。特許文献1に記載の技術では、
図10に示すような黒色廃プラスチックの材料識別装置101において、搬送コンベア103上を流れる黒色廃プラスチック片102に赤外線光源104を照射し、反射光を中赤外線センサ105で検知し、カーボンブラックの影響が低減される中赤外線領域(波長領域3~5μm)の反射スペクトルを取得することで、カーボンブラックが含有されていない白色樹脂だけでなく、近赤外線領域では困難であった黒色系樹脂の判定も可能にしている。
【0007】
また、近年においては、カーボンブラックが含有されていない黒色顔料が開発されており、特許文献2で提案されている。この黒色顔料は、カーボンブラックが赤外線を吸収するのに対して、赤外線を反射する特性を有しており、従来、近赤外線領域で選別が困難であった黒色系樹脂の回収が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5367145号公報
【特許文献2】特許第5932464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今後、カーボンブラックが含有されている黒色系樹脂と、カーボンブラックが含有されていない黒色系樹脂とが市場に普及されるため、市場から回収した樹脂は、カーボンブラックが含有されている黒色系樹脂と、カーボンブラックが含有されていない黒色系樹脂とが混在した状態でのリサイクルが想定される。この場合、これらの異なる黒色顔料が選別回収できずに意図せず混ざった場合、リサイクル時の色味の調整又は耐熱性などの樹脂機能に影響が生じる。そのため、カーボンブラックが含有されているかを高精度に判定する必要がある。
【0010】
しかしながら、中赤外線領域においては、カーボンブラックの含有によって樹脂からの吸収又は反射スペクトルに大きな差が生じないため、カーボンブラックが含有されているかを判定することが困難であった。また、近赤外線領域においては、カーボンブラックの含有によって樹脂からの吸収又は反射スペクトルに大きな差が生じるが、カーボンブラックが1%未満の濃度で灰色のように調色された樹脂においては、吸収又は反射スペクトルの減衰が僅かなため、白色樹脂とスペクトルが酷似しており、判定が困難であった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するもので、近赤外線領域における反射又は吸収スペクトルを用いて樹脂の判定を行う際に、カーボンブラックが含有されることによる反射光の減衰影響を利用し、カーボンブラックが含有されている樹脂を精度良く判定する樹脂判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、以下のように構成している。
【0013】
本発明の1つの態様によれば、赤外光が照射された選別対象物から受光した反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルが、あらかじめ設定した、反射又は吸収スペクトルの強度を第1閾値として、前記第1閾値以上であれば、正規化して、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第1類似度を求め、あらかじめ設定した第1類似度の第2閾値以上かつ第1類似度が最も高いものを、前記選別対象物の樹脂種として判定し、
前記反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルが前記第1閾値未満であれば、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第2類似度を求め、あらかじめ設定した第2類似度の第3閾値以上かつ第2類似度が最も高いものを、前記選別対象物の樹脂種として判定する。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の前記態様にかかる樹脂判定方法によれば、赤外光が照射された選別対象物の樹脂から受光した反射光に基づいて、樹脂の反射又は吸収スペクトルを算出し、算出したスペクトルのうち、スペクトルの最大強度を求め、最大取得可能強度の第1閾値以上であればカーボンブラックは非含有として判定し、正規化した後に樹脂種を判定し、第1閾値未満であれば、疑似含有としてカーボンブラックが含有されている樹脂かを判定し、樹脂種を判定する。この結果、対象物における反射又は吸収スペクトルを用いて樹脂の判定および選別を行う際に、カーボンブラックの含有を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における樹脂判定装置の模式図
【
図2】従来の中赤外選別によるカーボンブラック含有樹脂の混入影響を示す模式図
【
図3】従来の近赤外選別によるカーボンブラック含有樹脂の混入影響を示す模式図
【
図4】横軸が波長で縦軸が吸収度の、従来の近赤外線領域での樹脂判定におけるスペクトルのグラフ
【
図5】本発明の実施の形態で樹脂判定装置が樹脂を判定するフローを示すフローチャート
【
図6】横軸が波長で縦軸が吸収度の、近赤外領域における樹脂サンプルのスペクトルのグラフ
【
図9】本発明の実施の形態の近赤外選別によるカーボンブラック含有樹脂の混入影響を示す模式図
【
図10】特許文献1に記載された従来の樹脂判定における装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る樹脂判定方法を実施可能な樹脂判定装置1の模式図である。
【0018】
樹脂2は、カーボンブラック(すなわち炭素主体の微粒子)を含む黒色樹脂、カーボンブラックを含まない黒色樹脂、白色樹脂、半透明色樹脂、又は灰色樹脂などの樹脂種の不明な樹脂の選別対象物である。よって、樹脂2とは、樹脂の選別対象物2を意味する。樹脂種とは、選別対象物の樹脂種を意味する。
【0019】
この樹脂2からカーボンブラックが含有されているかどうかを踏まえて樹脂種を精度良く判定する樹脂判定装置1の構成について、
図1を用いて説明する。
【0020】
樹脂判定装置1は、赤外線検出ユニット8と、デジタルデータ変換装置9と、演算処理装置10とを備えて構成されている。
【0021】
赤外線検出ユニット8は、樹脂2への赤外線の照射機能と、赤外線の照射光3の樹脂2からの反射光4を受光する機能とを備えている。赤外線は、近赤外線領域(有効波長領域1~3μm)の吸光特性を持っている。
【0022】
デジタルデータ変換装置9は、赤外線検出ユニット8によって反射光4に応じて出力された電気信号をデジタルデータへ変換する。
【0023】
演算処理装置10は、デジタルデータ変換装置9から出力されたデジタルデータに基づいて樹脂2の反射スペクトルを算出する。
【0024】
図1において、ベルトコンベア5は、一定の速度で移動しており、樹脂2を移送する移送部の一例である。このベルトコンベア5により、樹脂2が、ベルトコンベア5の長手方向沿いに、投入領域6から検出領域7まで移送される。
【0025】
また、ベルトコンベア5の検出領域7の上方には、赤外線検出ユニット8が配置されている。
【0026】
演算処理装置10は、デジタルデータ変換装置9から出力された情報を解析して、樹脂2の反射スペクトルを得るもの(すなわち反射スペクトル取得機能)である。また、演算処理装置10は、得られた反射スペクトルを判定しやすいように正規化などの処理を行うもの(すなわち正規化処理機能)である。さらに、演算処理装置10は、あらかじめ登録しておいた樹脂の反射スペクトルデータ(すなわち標本スペクトルのデータ)と検出した反射スペクトルデータとを照合し、樹脂種を判定するもの(すなわち樹脂種判定機能)である。
【0027】
ここで、演算処理装置10が、入力されたデジタルデータから反射スペクトルを算出する方法(すなわち反射スペクトル取得機能)について、簡単に説明する。反射光4に応じて赤外線検出ユニット8より光電変換された電気信号は、受光した光の強度に依存している。従って、デジタルデータ変換装置9で変換されたデジタルデータから、樹脂2からの反射光4の強度の情報を取得することが可能である。
【0028】
ここで、第1実施形態に係る樹脂種の判定方法(すなわち樹脂種判定機能)を説明する前に、従来の判定方式を用いて樹脂を選別した場合における、カーボンブラックが含有されている樹脂の混入影響について説明する。
【0029】
まず、従来例の中赤外線領域で選別した場合、カーボンブラックの含有によるスペクトルへの影響はないため、色味の異なる樹脂においても同一樹脂種であれば同じスペクトルを得ることになる。例えば、色味の異なる樹脂として、白色、半透明色、灰色(カーボンブラック含有、非含有)、又は黒色(カーボンブラック含有、非含有)が対象として搬送された場合、
図2に示すようにすべて同じ樹脂種として選別回収されるため、カーボンブラックの非含有の樹脂に、カーボンブラックが含有されている樹脂がすべて混入してしまう。
【0030】
また、従来例の近赤外線領域で選別した場合、前記と同様の色味の異なる樹脂が対象として搬送された場合、
図3に示すようにカーボンブラックが含有されていない樹脂はスペクトルの減衰がないため、カーボンブラックなしの灰色と黒色とは同一樹脂種であれば同じスペクトルを得ることになり、同一樹脂種として回収される。カーボンブラックが含有されている樹脂のうち、数%程度含まれている黒色樹脂は減衰の影響が大きいため、非回収側に回収される。一方で、1%以下のカーボンブラックが含有されている灰色においては、
図4のように白色樹脂とスペクトルが酷似するため、同じ樹脂種として選別回収され、カーボンブラックの非含有の樹脂にカーボンブラックが含有されている樹脂が混入してしまう。
【0031】
そこで、本発明者は、カーボンブラックが含有されることによる反射光の減衰影響を利用し、カーボンブラックが含有されている樹脂を精度良く判定する方法、すなわち第1実施形態に係る樹脂を高精度に判定する方法を見出した。
【0032】
次に、樹脂判定装置1を用いてカーボンブラックの含有を踏まえた樹脂判定方法について説明する。
【0033】
赤外線検出ユニット8における光源には、黒体光源又はハロゲンランプなどのようにブロードな波長領域を持つもの、もしくは判定する樹脂の吸収波長領域を有する単波長光源を2つ以上備えるものとする。また、赤外線検出ユニット8における受光素子は、上記の光源から波長ごとの反射光を受光する受光素子を備えるものとする。
【0034】
デジタルデータ変換装置9は、受光素子からのアナログデータをデジタルデータへ変換し、演算処理装置10へ送るものとする。
【0035】
演算処理装置10は、送られた受光素子からのデジタルデータ出力に基づいて、各波長の反射又は吸収強度、すなわちスペクトルを算出し、スペクトルを評価することで樹脂種の判定を行う。
【0036】
具体的な樹脂判定方法について、
図5に示すような判定フローチャートに基づいて詳細を説明する。まず、ステップS1で、演算処理装置10から得られたスペクトルより、最大取得可能強度の任意の割合例えば55%を第1閾値として、得られたスペクトルの最大強度が第1閾値以上か未満かを判定する。得られたスペクトルの最大強度が第1閾値以上の場合は、カーボンブラックが含有されていない樹脂、すなわちカーボンブラック非含有樹脂として判定されてステップS2に進む。
【0037】
次いで、ステップS2では、スペクトルを正規化する。
【0038】
次いで、ステップS3で、第1類似度の一例としてユークリッド距離によって樹脂種を判定する。すなわち、正規化したスペクトルのデータと、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第1類似度を求め、あらかじめ設定した第1類似度の第2閾値以上かつ第1類似度が最も高いものを、樹脂2の樹脂種、例えば樹脂Aと樹脂Bとして判定する。
【0039】
一方、ステップS1で、得られたスペクトルの最大強度が第1閾値未満の場合、カーボンブラックが含有されている可能性がある樹脂、すなわちカーボンブラック疑似含有樹脂として判定されてステップS4に進む。
【0040】
次いで、ステップS4では、第2類似度の一例としてユークリッド距離によって、カーボンラックが含有されている樹脂を判定する。すなわち、検出して取得したスペクトルのデータと、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータとの第2類似度を求め、あらかじめ設定した第2類似度の第3閾値以上かつ第2類似度が最も高いものを、樹脂2の樹脂種、例えばカーボンブラックを含有していない樹脂A又は樹脂Bと、カーボンブラックが含有された樹脂A’又は樹脂B’、として判定する。
【0041】
ステップS3とS4において、樹脂の判定については、あらかじめ物性が既知の樹脂から標本となるスペクトルすなわち標本スペクトルを取得しておき、判定対象の樹脂より得られたスペクトルと標本スペクトルとのユークリッド距離dを下記の式(1)によって算出し、その結果とあらかじめ設定してあるユークリッド距離の第2又は第3閾値とを比較する判定アルゴリズムにより、樹脂種を判定する。
【0042】
例えば、第1類似度をユークリッド距離でそれぞれ求め、第1類似度の第2閾値以上かつ第1類似度が最も高いものを、樹脂2の樹脂種、例えば樹脂Aと樹脂Bとして判定する。
【0043】
第2類似度をユークリッド距離でそれぞれ求め、第2類似度の第3閾値以上かつ第2類似度が最も高いものを、樹脂2の樹脂種、樹脂2の樹脂種、例えば樹脂A又は樹脂Bと、樹脂A’又は樹脂B’、として判定する。
【0044】
なお、第2閾値と第3閾値とは、あらかじめ取得した1種類以上の樹脂種のスペクトルデータ同士の類似度から正しく判定が可能な閾値にそれぞれ設定する。
【0045】
【0046】
ここで、x
i:判定対象物のスペクトル強度、x’
i:標本スペクトル強度、i:
図4などに示すような横軸(波長)の変数。
【0047】
次に、第1実施形態に係るカーボンブラックが含有されている樹脂を精度良く判定する方法について効果確認を行った実験について説明する。
【0048】
実験は、
図6に示すように、樹脂2の例として、白色、半透明色、灰色(カーボンブラック含有)、黒色(カーボンブラック含有)、黒色(カーボンブラック非含有)、の5サンプルを用いて行い、スペクトルを求めた。
図6の樹脂母材としてはPPを用いた場合の結果を示している。なお、灰色(カーボンブラック非含有)を除いた理由としては、黒色(カーボンブラック非含有)は差異が見られないほど一致しており、灰色(カーボンブラック非含有)は重複する為除外とした。そのため、灰色(カーボンブラック非含有)の結果については、以降に示す黒色(カーボンブラック非含有)と同一の結果として扱う。
【0049】
上記で得られた、樹脂スペクトルを用いてユークリッド距離を求め、従来の方式と本発明の実施の形態との有効性を検証した。
【0050】
(1)式の標本スペクトルについては、
図6で取得した樹脂スペクトルを標本とした。
【0051】
まず、従来方式においては、得られたスペクトルを正規化し、(1)式を用いてユークリッド距離を算出する。算出結果を
図7に示す。(1)式で算出された値は、標本スペクトルとの一致度が高くなるほど0に近づくため、灰色(カーボンブラック含有)を対象としたときの値を見ると、白色が0.40、半透明色が0.45と近い値を示している。これは、標準化することによって、
図4で示したようにスペクトルが近似するためである。この場合、実際にリサイクルで発生する樹脂のスペクトルばらつきを加味すると、白色又は半透明色と誤認識される可能性もあることから、カーボンブラックが含有されている樹脂かどうかの判定は困難である。
【0052】
次に、本発明の実施の形態のカーボンブラックの含有を踏まえた樹脂判定方法を用いて、
図5に示した判定フローチャートに基づいて算出した結果を
図8に示す。最大取得強度の第1閾値未満となったのは、半透明色と灰色(カーボンブラック含有)と黒色(カーボンブラック含有)の3つであり、灰色(カーボンブラック含有)を対象としたときの一致度すなわち類似度の値を見ると、半透明色が0.63、黒色(カーボンブラック含有)が1.25であった。従来方式の結果と比較すると、半透明色では40%値が大きく出ており、誤認識のリスクが低減したことが分かる。また、白色との誤判定リスクについては、最大強度の第1閾値で白色は第1閾値以上となり、判定候補から除外されているため、誤判定のリスクはなくなることになる。また、カーボンブラック疑似含有樹脂として判定された後のカーボンラックが含有されている樹脂を判定する際の第3閾値を0.5とすることで、誤判定なく判定が可能となり、
図9に示すようにカーボンブラックが含有されているかを精度良く判定し、カーボンブラックの非含有の樹脂を回収することができる。
【0053】
ここでは、判定アルゴリズムとして、類似度の例としてユークリッド距離を用いる方法で説明したが、そのほかに回帰分析又は相関係数等を類似度の別の例として使用するなど適宜選択され、強度判定又は樹脂判定における閾値についても同様に適宜選択される。
【0054】
また、前記では母材樹脂をPPの事例で説明したが、本発明の実施の形態の樹脂判定方法は、カーボンブラックの含有による影響のみに対応しているため、ABS又はPSなどの他の樹脂母材であっても、PPと同様にカーボンブラックの含有を精度良く判定し、カーボンブラックの非含有の樹脂を回収することができる。
【0055】
以上のように、実施の形態に係る樹脂判定方法によれば、近赤外線領域における反射又は吸収スペクトルを用いて樹脂2の判定を行う際に、カーボンブラックが含有されることによる反射光4の減衰影響を利用する。すなわち、赤外光3が照射された選別対象物の樹脂2から受光した反射光4に基づいて、樹脂2の反射又は吸収スペクトルを算出し、算出したスペクトルのうち、スペクトルの最大強度を求め、最大取得可能強度の第1閾値以上であればカーボンブラックは非含有として判定し、正規化した後に樹脂種を判定し、第1閾値未満であれば、疑似含有としてカーボンブラックが含有されている樹脂かを判定し、樹脂種を判定する。この結果、カーボンブラックが含有されている樹脂を精度良く判定することができる。
【0056】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の前記態様にかかる、樹脂判定方法は、以上のことから、カーボンブラック(炭素主体の微粒子)を含んだ黒色樹脂等においても、カーボンブラックが含有されているかどうかを迅速に判定することができるため、複数の選別対象物を迅速に選別するリサイクル工程等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 樹脂判定装置
2 樹脂
3 照射光
4 反射光
5 ベルトコンベア
6 投入領域
7 検出領域
8 赤外線検出ユニット
9 デジタルデータ変換装置
10 演算処理装置