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特開2023-182998ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法
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  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図1A
  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図1B
  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図2
  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図3
  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図4
  • 特開-ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182998
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 9/04 20060101AFI20231220BHJP
   H02G 9/06 20060101ALI20231220BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H02G9/04
H02G9/06
H02G1/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096335
(22)【出願日】2022-06-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222015
【氏名又は名称】株式会社ユアテック
(71)【出願人】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂勝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 栄吉
(72)【発明者】
【氏名】黄川田 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】我満 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 克昌
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 修
【テーマコード(参考)】
5G352
5G369
【Fターム(参考)】
5G352CG03
5G369AA10
5G369BA03
5G369DB07
(57)【要約】
【課題】電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制する。
【解決手段】ケーブル線路は、地中に埋設された管路と、地中に埋設され、管路に接続されたトラフと、管路およびトラフ内に連続的に布設された電力ケーブルと、を備え、電力ケーブルは、トラフ内でS字状に屈曲して布設され、電力ケーブルを除くトラフ内には、充填物が充填されている。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された管路と、
地中に埋設され、前記管路に接続されたトラフと、
前記管路および前記トラフ内に連続的に布設された電力ケーブルと、
を備え、
前記電力ケーブルは、前記トラフ内でS字状に屈曲して布設され、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内には、充填物が充填されている
ケーブル線路。
【請求項2】
前記充填物は、少なくとも砂を含む
請求項1に記載のケーブル線路。
【請求項3】
前記充填物は、モルタルを含む
請求項1または請求項2に記載のケーブル線路。
【請求項4】
前記充填物中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合は、70%以上98%以下である
請求項3に記載のケーブル線路。
【請求項5】
前記電力ケーブルは、前記トラフ内において、当該電力ケーブルの径方向に突出した突起部を有する
請求項1または請求項2に記載のケーブル線路。
【請求項6】
前記電力ケーブルは、金属シースを有しない
請求項1または請求項2に記載のケーブル線路。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のケーブル線路に布設される
電力ケーブル。
【請求項8】
地中に管路を設置する工程と、
地中にトラフを設置し、前記管路に前記トラフを接続する工程と、
前記管路および前記トラフ内に電力ケーブルを連続的に布設する工程と、
前記管路および前記トラフを地中に埋める工程と、
を備え、
前記電力ケーブルを布設する工程では、
前記電力ケーブルを、前記トラフ内でS字状に屈曲させて布設し、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内に、充填物を充填させる
ケーブル線路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケーブル線路、電力ケーブル、およびケーブル線路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルが布設される管路が、地中の浅い位置に設けられている場合には、地上の車両の通行に起因して管路が撓み、電力ケーブルが車両の進行方向に移動する現象が生じることがあった。このような現象は、「波乗り現象」と呼ばれている。
【0003】
これまで、上述のような波乗り現象を抑制するため、様々な態様のケーブル線路が検討されてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61-159832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
地中に埋設された管路と、
地中に埋設され、前記管路に接続されたトラフと、
前記管路および前記トラフ内に連続的に布設された電力ケーブルと、
を備え、
前記電力ケーブルは、前記トラフ内でS字状に屈曲して布設され、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内には、充填物が充填されている
ケーブル線路が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本開示の一実施形態に係るケーブル線路を示す概略水平断面図である。
図1B図1Aは、本開示の一実施形態に係るケーブル線路を示す概略鉛直断面図である。
図2図2は、トラフ内の電力ケーブルを拡大した概略水平断面図である。
図3図3は、本開示の一実施形態の変形例1に係るトラフ内の電力ケーブルを拡大した概略側面図である。
図4図4は、本開示の一実施形態の変形例2に係るケーブル線路を示す概略水平断面図である。
図5図5は、サンプル1~4のそれぞれにおいて測定した引張荷重に対する固定荷重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について説明する。
【0010】
電力会社が管轄する従来のケーブル線路では、地中の深い位置に埋設した頑強な管路内に、電力ケーブルを布設していた。このため、従来のケーブル線路では、上述した電力ケーブルの波乗り現象が生じにくかった。
【0011】
一方で、近年では、環境負荷の小さい風力発電などの再生可能エネルギーの活用が推進されてきている。
【0012】
風力発電などの電力源からの電力を伝送するケーブル線路では、土木工事のコストを低減するため、地中の浅い位置に埋設した安価な管路内に、電力ケーブルが布設されることがあった。このような管路では、上述のように、車両通行時に管路自体が撓み、ケーブルの波乗り現象が生じ易かった。ケーブルの波乗り現象が生じると、マンホール内で電力ケーブルに異常曲げが生じたり、ケーブル接続部が損傷したりするおそれがあった。
【0013】
このような場合に、管路の端部に、電力ケーブルを機械的に拘束するケーブル拘束装置を設置することが考えられる。しかしながら、ケーブル拘束装置を設置する場合では、設置スペースを確保することが困難であったり、充分な拘束が得られなったりする場合があった。
【0014】
したがって、簡単な構成により、ケーブルの波乗り現象を安定的に抑制することができるケーブル線路が求められていた。
【0015】
以下の本開示は、本開示者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0016】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0017】
[1]本開示の一態様に係るケーブル線路は、
地中に埋設された管路と、
地中に埋設され、前記管路に接続されたトラフと、
前記管路および前記トラフ内に連続的に布設された電力ケーブルと、
を備え、
前記電力ケーブルは、前記トラフ内でS字状に屈曲して布設され、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内には、充填物が充填されている。
この構成によれば、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することができる。
【0018】
[2]上記[1]に記載のケーブル線路において、
前記充填物は、少なくとも砂を含む。
この構成によれば、電力ケーブルの拘束力を向上させることができる。
【0019】
[3]上記[1]または[2]に記載のケーブル線路において、
前記充填物は、モルタルを含む。
この構成によれば、電力ケーブルの拘束力を安定的に向上させることができる。
【0020】
[4]上記[3]に記載のケーブル線路において、
前記充填物中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合は、70%以上98%以下である。
この構成によれば、電力ケーブルの損傷を抑制しつつ、電力ケーブルの拘束力を安定的に向上させることができる。
【0021】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つに記載のケーブル線路において、
前記電力ケーブルは、前記トラフ内において、当該電力ケーブルの径方向に突出した突起部を有する。
この構成によれば、突起部を充填物に係止させ、電力ケーブルの拘束力をさらに向上させることができる。
【0022】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つに記載のケーブル線路において、
前記電力ケーブルは、金属シースを有しない。
この構成によれば、電力ケーブルの導体からケーブルシースまでの構成が一体として結合される。
【0023】
[7]本開示の更に他の態様に係る電力ケーブルは、
上記[1]から[6]のいずれか1つに記載のケーブル線路に布設される。
この構成によれば、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することができる。
【0024】
[8]本開示の更に他の態様に係るケーブル線路の製造方法は、
地中に管路を設置する工程と、
地中にトラフを設置し、前記管路に前記トラフを接続する工程と、
前記管路および前記トラフ内に電力ケーブルを連続的に布設する工程と、
前記管路および前記トラフを地中に埋める工程と、
を備え、
前記電力ケーブルを布設する工程では、
前記電力ケーブルを、前記トラフ内でS字状に屈曲させて布設し、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内に、充填物を充填させる。
この構成によれば、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0026】
<本開示の一実施形態>
(1)ケーブル線路
本開示の一実施形態に係るケーブル線路10の概略構成について、図1A図2を参照して説明する。なお、図1Aでは、電力ケーブル100の屈曲態様の一部が省略されている。
【0027】
図1Aおよび図1Bに示すように、本実施形態のケーブル線路10は、例えば、電力ケーブル100と、管路300と、トラフ400と、マンホール500と、を備えている。
【0028】
なお、以下において、電力ケーブル100等の「軸方向」とは、電力ケーブル100等の中心軸に沿った方向のことをいい、電力ケーブル100等の長手方向または延在方向と言い換えることができる。また、電力ケーブル100等の「径方向」とは、電力ケーブル100等の軸方向に垂直な方向のことをいい、場合によっては電力ケーブル100等の短手方向と言い換えることができる。また、「電力ケーブル100の布設方向」とは、ケーブル線路20において電力ケーブル100が布設された方向のことをいい、電力ケーブル100の延在方向と言い換えることもできる。
【0029】
[電力ケーブル]
図1Aおよび図1Bに示した電力ケーブル100は、高電圧の送電ケーブルである固体絶縁ケーブル(CVケーブル:Crosslinked polyethylene(PE) insulated Vinyl sheathed cable、XLPEケーブルともいう)として構成されている。
【0030】
電力ケーブル100は、例えば、地中ケーブルとして構成され、導体、ケーブル内部半導電層、ケーブル絶縁層、ケーブル外部半導電層、ケーブル金属遮蔽層、およびケーブルシースを、導体の中心軸から電力ケーブル100の外周に向けてこの順で有している。
【0031】
本実施形態では、電力ケーブル100は、金属シースを有していない。上述のケーブル金属遮蔽層は、例えば、金属被、又は、銅ワイヤ若しくは銅テープの巻付層などである。ケーブルシースは、樹脂を含むものである。電力ケーブル100の導体からケーブルシースまでの構成は、一体として結合されている。
【0032】
電力ケーブル100は、例えば、管路300、トラフ400およびマンホール500の内部に連続的に布設されている。
【0033】
[管路]
管路300は、例えば、地中に埋設されている。管路300は、例えば、円筒管として構成されており、例えば、樹脂を含んでいる。管路300を構成する樹脂としては、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)などが挙げられる。
【0034】
なお、管路300内には、後述の充填物が充填されていない。すなわち、管路300の空隙内に、電力ケーブル100が布設されている。
【0035】
[トラフ]
トラフ400は、例えば、地中に埋設され、管路300に接続されている。本実施形態では、トラフ400は、管路300とマンホール500との間に設けられている。
【0036】
本実施形態では、トラフ400は、枠体(符号不図示)を有している。トラフ400を構成する枠体は、例えば、いわゆるコンクリートピットである。このような堅牢な枠体により、トラフ400内の電力ケーブル100を保護することができる。
【0037】
本実施形態では、トラフ400内に充填物420が充填されている。当該トラフ400内の構成については、詳細を後述する。
【0038】
[マンホール]
マンホール500は、例えば、地中に埋設され、上述のようにトラフ400を介して管路300に接続されている。マンホール500内には、電力ケーブル100の接続部(接続箱)200が設置されている。さらに、マンホール500内では、接続部200とトラフ400との間において、例えば、電力ケーブル100が(鉛直方向に)S字状に屈曲され、いわゆるオフセット部240が形成されている。
【0039】
なお、マンホール500内には、後述の充填物が充填されていない。すなわち、マンホール500の空隙内に、電力ケーブル100およびその接続部200が設置されている。
【0040】
(2)トラフ内の構成
図1A図2を参照し、本実施形態のトラフ400内の構成について説明する。
【0041】
図1Aおよび図1Bに示すように、電力ケーブル100は、例えば、トラフ400内でS字状に屈曲して布設されている。電力ケーブル100は、例えば、水平方向および鉛直方向のうち少なくともいずれかに対してS字に屈曲されている。なお、電力ケーブル100は、螺旋状に屈曲されていてもよい。本実施形態では、電力ケーブル100は、例えば、水平方向にS字に屈曲されている。なお、以下において、S字状の線形のうち、円弧状に屈曲された部分を「屈曲部BP」ということがある。
【0042】
さらに、本実施形態では、電力ケーブル100を除くトラフ400内には、電力ケーブル100のS字状の線形を維持するように、充填物420が充填されている。これにより、電力ケーブル100を拘束することができる。
【0043】
本実施形態では、トラフ400が枠体を有し、電力ケーブル100を除く枠体内に、充填物420が充填されている。トラフ400を構成する枠体により、トラフ400内への雨水の浸入を抑制することができる。その結果、電力ケーブル100の線形を安定的に維持することができる。
【0044】
本実施形態では、充填物420は、例えば、少なくとも砂を含んでいる。これにより、電力ケーブル100のS字状屈曲部の内側の部分などのように、複雑な線形に追従するように、充填物420を容易かつ密に充填することができる。その結果、トラフ400内で電力ケーブル100の線形を安定的に固定し、電力ケーブル100の拘束力を向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、充填物420は、例えば、モルタルを含んでいる。充填物420としてのモルタルが電力ケーブル100に直接接している。ここでいう「モルタル」とは、細骨材(砂)とセメントとを含む材料である。充填物420としてのモルタルは、トラフ400内に水を含んだ状態で充填され、その後乾燥させることにより固化される。モルタル中のセメントとしては、例えば、JIS R5210で規定される普通ポルトランドセメントが挙げられる。充填物420が上述のようにモルタルを含むことで、充填物420の崩れを抑制し、電力ケーブル100の拘束力をさらに向上させることができる。
【0046】
充填物420中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合(質量パーセント含有率)は、例えば、70%以上98%以下である。なお、ここでの割合の算出に用いられる「モルタルの質量」は、乾燥後のモルタルの質量である。砂の割合を70%以上とすることで、モルタルの過剰な拘束に起因した電力ケーブル100の損傷を抑制することができる。一方で、砂の割合を98%以下とすることで、電力ケーブル100の拘束力を安定的に向上させることができる。
【0047】
或いは、充填物420中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合は、例えば、90%以上95%以下であってもよい。砂の割合を90%以上95%以下とすることで、上述した電力ケーブル100の拘束力を安定的に向上させつつ、モルタルを含む充填物420を割れ易くすることができる。これにより、モルタルを含む充填物420を固めた後であっても、充填物420を割り、トラフ400内の電力ケーブル100を取り出すことができる。その結果、ケーブル線路20のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0048】
ここで、図2を参照し、トラフ400内の電力ケーブル100のS字状の線形による、電力ケーブル100の軸力の減少について説明する。なお、ここでいう「軸力」とは、電力ケーブル100の軸方向の移動力のことであり、波乗り力、引き込み力などと言い換えることができる。
【0049】
図2において、S字状に屈曲された電力ケーブル100の屈曲部BPは、n箇所、設けられている(ただしnは1以上の整数)。このように電力ケーブル100がS字状に屈曲された領域(以下、屈曲領域ともいう)により減少した電力ケーブル100の軸力Fsは、以下のRinfenburgの式(1)により求められる。
【0050】
Fs=Fm・exp(-μθ) ・・・(1)
【0051】
ただし、Fmは、電力ケーブル100のS字状の屈曲領域よりも右(前段)において、電力ケーブル100の軸方向に左から右に向けて電力ケーブル100を移動させる軸力である。Fsは、電力ケーブル100のS字状の屈曲領域よりも左(後段)において、電力ケーブル100の軸方向に左から右に向けて電力ケーブル100を移動させる軸力(減少後の軸力)である。μは、電力ケーブル100と充填物420との摩擦係数である。
【0052】
θnは、n番目の屈曲部BPにおける電力ケーブル100の屈曲角度(円弧の中心角)である。θは、全ての屈曲部BPにおける電力ケーブル100の屈曲角度を足し合わせた合計角度であり、以下の式で求められる。
θ=Σθn
【0053】
本実施形態では、トラフ400内での電力ケーブル100のS字状の屈曲領域における、Rinfenburgの式(1)で換算した摩擦係数μは、例えば、0.3以上であり、或いは0.5以上であってもよい。これにより、電力ケーブル100のS字状の屈曲領域によりも後段側における電力ケーブル100の軸力Fsを安定的に減少させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、電力ケーブル100のS字状の屈曲領域を挟んだ両側における、電力ケーブル100の軸力の減少率Fs/Fmは、例えば、0.25以下であり、或いは0.04以下であってもよい。これにより、マンホール500内の電力ケーブル100の接続部200への過剰な応力印加を抑制することができる。
【0055】
なお、Fmに対して実測したFsが曲線状に徐々に増加する場合には、Fmが25kN以下の範囲内で、Fmに対するFsの傾きが最も大きくなる点で、摩擦係数μおよび減少率Fs/Fmを求めるものとする。
【0056】
また、本実施形態では、トラフ400内でS字状に屈曲された電力ケーブル100の屈曲部BPにおける曲率半径Rは、例えば、管路300の半径よりも大きい。これにより、屈曲部BPでの電力ケーブル100の曲率半径Rを電力ケーブル100の許容曲げ半径以上としつつ、電力ケーブル100の異常曲げを安定的に抑制することができる。
【0057】
なお、トラフ400内での電力ケーブル100の屈曲部BPの数n、電力ケーブル100の布設方向における屈曲部BPの長さ、電力ケーブル100の布設方向に垂直な方向における屈曲部BPの幅は、電力ケーブル100の屈曲部BPにおける所望の合計角度θが得られるよう設定され、特に限定されるものではない。ただし、トラフ400の必要幅および必要長さを短くする観点では、トラフ400内での電力ケーブル100の屈曲部BPの数nは、例えば、2以上11以下であってもよい。電力ケーブル100の布設方向における屈曲部BPの長さは、例えば、500mm以上2000mm以下であってもよい。電力ケーブル100の直径をDとしたときに、電力ケーブル100の布設方向に垂直な方向における屈曲部BPの幅は、例えば、1D以上5D以下であってもよい。
【0058】
(3)ケーブル線路の製造方法(ケーブル布設方法)
次に、図1Aおよび図1Bを参照し、本実施形態に係るケーブル線路の製造方法について説明する。
【0059】
本実施形態のケーブル線路10の製造方法は、例えば、準備工程S10と、設置工程S20と、ケーブル布設工程S30と、埋設工程S40と、を有している。
【0060】
(S10:準備工程)
まず、ケーブル線路10を構成する電力ケーブル100、管路300、トラフ400を構成する枠体、および充填物420を準備する。充填物420がモルタルを含む場合には、充填物420としてのモルタルに、所定量の水を含ませておく。
【0061】
(S20:設置工程)
準備工程S10が完了したら、管路300、トラフ400およびマンホール500を地中に設置する。このとき、管路300にトラフ400を接続し、トラフ400を介して管路300にマンホール500を接続する。
【0062】
(S30:ケーブル布設工程)
設置工程S20が完了したら、管路300、トラフ400およびマンホール500の内部に、電力ケーブル100を連続的に布設する。
【0063】
このとき、本実施形態では、電力ケーブル100をトラフ400内でS字状に屈曲させて布設し、電力ケーブル100を除くトラフ400内に、充填物420を充填させる。充填物420がモルタルを含む場合には、充填物420としてのモルタルを乾燥させることにより固化させる。これにより、電力ケーブル100を拘束する。
【0064】
(S40:埋設工程)
ケーブル布設工程S30が完了したら、トラフ400を構成する枠体の蓋を閉めて、管路300およびトラフ400上に土砂を敷き詰める。これにより、管路300およびトラフ400を地中に埋める。
【0065】
以上により、本実施形態のケーブル線路10が製造される。
【0066】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0067】
(a)本実施形態では、電力ケーブル100は、トラフ400内でS字状に屈曲して布設されている。電力ケーブル100を除くトラフ400内には、充填物420が充填されている。これにより、電力ケーブル100の外周面の全体と充填物420との間に摩擦力を生じさせることができる。また、電力ケーブル100のS字状の屈曲部BPの内側を充填物420によって支持し、電力ケーブル100のS字状の線形を維持することができる。これらにより、電力ケーブル100を拘束することができる。その結果、電力ケーブル100の軸方向の移動、すなわち、電力ケーブル100の波乗り現象を安定的に抑制することが可能となる。
【0068】
(b)本実施形態では、電力ケーブル100のS字状の線形を利用して、トラフ400内に充填物420を充填するだけで、電力ケーブル100を拘束することができる。
【0069】
これにより、例えば、機械的なケーブル拘束装置を不要とすることができ、簡易的な構成により電力ケーブル100を拘束することができる。
【0070】
また、これにより、管路300には充填物の充填を不要とすることができる。これにより、管路全体にペントナイトを敷き詰める特許文献1の技術などと比較して、本実施形態では、作業工程を短くすることができ、部材コストの増加を抑制することができる。
【0071】
(c)本実施形態では、充填物420は、少なくとも砂を含んでいる。これにより、電力ケーブル100のS字状屈曲部の内側の部分などのように、複雑な線形に追従するように、充填物420を容易かつ密に充填することができる。その結果、トラフ400内で電力ケーブル100の線形を安定的に固定し、電力ケーブル100の拘束力を向上させることができる。
【0072】
(d)本実施形態では、充填物420は、モルタルを含んでいる。これにより、電力ケーブル100のS字状の線形を維持したまま、充填物420を固めることができる。
【0073】
ここで、充填物420が砂のみからなる場合には、トラフ400内に雨水が浸入したときに、水を含んだ充填物420としての砂が徐々に崩れる可能性がある。このため、電力ケーブル100のS字状の線形が崩れてしまう。その結果、電力ケーブル100の拘束力が低下するおそれがある。
【0074】
これに対し、本実施形態では、充填物420がモルタルを含み、充填物420が固められることで、たとえトラフ400内に雨水が浸入したとしても、充填物420の崩れを抑制することができ、すなわち、電力ケーブル100のS字状の線形が崩れることを抑制することができる。その結果、電力ケーブル100の拘束力を安定的に向上させることができる。
【0075】
(e)本実施形態では、トラフ400は、管路300とマンホール500との間に設けられている。これにより、マンホール500に近い位置で、電力ケーブル100を拘束することができる。例えば、管路300の方向への電力ケーブル100の引き込み、およびマンホール500の方向への電力ケーブル100の伸び出しを抑制することができる。これにより、マンホール500内の電力ケーブル100の接続部200への応力印加を安定的に抑制することができる。
【0076】
(5)一実施形態の変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
図3および図4を参照し、それぞれ、本実施形態の変形例1および2について説明する。
【0078】
<変形例1>
図3に示すように、変形例1では、電力ケーブル100は、例えば、トラフ400内の当該電力ケーブル100の径方向に突出した突起部190を有している。突起部190は、例えば、ケーブルシースの外周を覆うように、樹脂からなるテープを巻き付けることにより形成されている。
【0079】
突起部190は、例えば、電力ケーブル100の軸方向に所定の間隔をあけて複数設けられている。突起部190の数は、例えば、1つのトラフ400内に、2以上20以下であってもよい。
【0080】
変形例1によれば、電力ケーブル100が突起部190を有することで、トラフ400内の電力ケーブル100のS字状の屈曲領域において、突起部190を充填物420に係止させることができる。これにより、電力ケーブル100の拘束力をさらに向上させることができる。
【0081】
<変形例2>
図4に示すように、変形例2では、トラフ400は、例えば、一対のマンホール500の間において、管路300の軸方向の中間位置に設けられている。
【0082】
変形例2によれば、管路300の軸方向の中間位置に設けられたトラフ400において、電力ケーブル100を拘束することができる。これにより、電力ケーブル100の拘束力をさらに向上させることができる。
【0083】
また、変形例2によれば、一対のマンホール500間にトラフ400を複数設けることができる。これにより、電力ケーブル100の拘束力をトラフ400の数だけ増加させることができる。
【0084】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0085】
上述の実施形態では、充填物420が充填物420としての砂およびモルタルが電力ケーブル100に直接接している場合について説明したが、本開示は、この場合に限られない。充填物420は、砂を詰めた砂袋であってもよい。これにより、充填物420としての砂袋をトラフ400から容易に出し入れすることができる。その結果、ケーブル線路10のメンテナンス性を向上させることができる。ただし、上述の実施形態のように充填物420としての砂などが電力ケーブル100に直接接していたほうが、電力ケーブル100への摩擦力を向上させることができる。
【実施例0086】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0087】
(1)ケーブル線路の作製
以下のサンプル1~4のケーブル線路を作製した。各ケーブル線路の管路には、トラフを接続した。電力ケーブルを、トラフ内でS字状に屈曲して布設した。サンプル1~4では、電力ケーブルを除くトラフ内に、それぞれ、以下の充填物を充填した。
【0088】
[ケーブル線路の共通仕様]
電力ケーブルの直径:66.5mm
管路の直径:125mm
トラフ内の電力ケーブルの屈曲部の曲率半径:952mm
トラフ内の電力ケーブルの屈曲部の数:4つ
電力ケーブルの布設方向における屈曲部の長さ:1125mm
電力ケーブルの布設方向に垂直な方向における屈曲部の幅:184mm
【0089】
[サンプル1のトラフ内構成]
充填物:砂袋
電力ケーブルの突起部:なし
[サンプル2のトラフ内構成]
充填物:砂のみ
電力ケーブルの突起部:なし
[サンプル3のトラフ内構成]
充填物:モルタル(砂の質量の割合:94%)
電力ケーブルの突起部:なし
[サンプル4のトラフ内構成]
充填物:モルタル(砂の質量の割合:94%)
電力ケーブルの突起部:あり
【0090】
(2)測定
管路から電力ケーブルをチェーンブロックにより牽引し、所定の引張荷重を印加した。そのときのトラフよりも後段における固定荷重をロードセルにより測定した。
【0091】
(3)結果
図5に示すように、サンプル1~4では、固定荷重が引張荷重よりも小さくなっていた。サンプル1~4では、この順で、電力ケーブルの拘束力が向上していることが分かった。
【0092】
各サンプルにおいて、Rinfenburgの式(1)で換算した摩擦係数μ、電力ケーブルの軸力の減少率Fs/Fm(固定荷重/引張荷重)は、それぞれ、以下の通りであった。
サンプル1:μ=0.37、Fs/Fm=0.15
サンプル2:μ=0.47、Fs/Fm=0.09
サンプル3:μ=0.72、Fs/Fm=0.03
サンプル4:μ=0.82、Fs/Fm=0.02
【0093】
以上のように、サンプル1~4では、電力ケーブルの軸方向の移動を安定的に抑制することができることを確認した。
【0094】
<付記>
以下、本開示の態様を付記する。
【0095】
(付記1)
地中に埋設された管路と、
地中に埋設され、前記管路に接続されたトラフと、
前記管路および前記トラフ内に連続的に布設された電力ケーブルと、
を備え、
前記電力ケーブルは、前記トラフ内でS字状に屈曲して布設され、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内には、充填物が充填されている
ケーブル線路。
【0096】
(付記2)
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内には、前記電力ケーブルのS字状の線形を維持するように、充填物が充填されている
付記1に記載のケーブル線路。
【0097】
(付記3)
前記充填物は、少なくとも砂を含む
付記1または付記2に記載のケーブル線路。
【0098】
(付記4)
前記充填物は、モルタルを含む
付記1から付記3のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0099】
(付記5)
前記充填物中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合は、70%以上98%以下である
付記4に記載のケーブル線路。
【0100】
(付記6)
前記充填物中のモルタルの全質量に対する砂の質量の割合は、90%以上95%以下である
付記5に記載のケーブル線路。
【0101】
(付記7)
前記電力ケーブルは、前記トラフ内において、当該電力ケーブルの径方向に突出した突起部を有する
付記1から付記6のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0102】
(付記8)
前記トラフ内で前記電力ケーブルがS字状に屈曲された領域における、Rinfenburgの式で換算した摩擦係数は、0.3以上である
付記1から付記7のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0103】
(付記9)
前記トラフ内でS字状に屈曲された前記電力ケーブルの屈曲部における曲率半径は、前記管路の半径よりも大きい
付記1から付記8のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0104】
(付記10)
前記トラフは、枠体を有し、
前記電力ケーブルを除く前記枠体内に、前記充填物が充填されている
付記1から付記9のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0105】
(付記11)
前記電力ケーブルの接続部が設置されたマンホールを備え、
前記トラフは、前記管路と前記マンホールとの間に設けられている
付記1から付記10のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0106】
(付記12)
前記トラフは、前記管路の軸方向の中間位置に設けられている
付記1から付記11のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0107】
(付記13)
前記電力ケーブルは、金属シースを有しない
付記1から付記12のいずれか1つに記載のケーブル線路。
【0108】
(付記14)
付記1から付記13のいずれか1つに記載のケーブル線路に布設される
電力ケーブル。
【0109】
(付記15)
地中に管路を設置する工程と、
地中にトラフを設置し、前記管路に前記トラフを接続する工程と、
前記管路および前記トラフ内に電力ケーブルを連続的に布設する工程と、
前記管路および前記トラフを地中に埋める工程と、
を備え、
前記電力ケーブルを布設する工程では、
前記電力ケーブルを、前記トラフ内でS字状に屈曲させて布設し、
前記電力ケーブルを除く前記トラフ内に、充填物を充填させる
ケーブル線路の製造方法。
【符号の説明】
【0110】
10 ケーブル線路
100 電力ケーブル
190 突起部
200 接続部
240 オフセット部
300 管路
400 トラフ
420 充填物
500 マンホール
BP 屈曲部
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5